(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
(A)本発明の第一の態様
本発明の第一の態様の粘土焼成製品の製造方法は、
(i)坏土を準備する工程と、
(ii)前記坏土に雲母を添加して、焼成製品用原料を得る工程と、
(iii)前記焼成製品用原料を成形して製品成形体を得る工程と、
(iv)前記製品成形体を乾燥する工程と、
(v)前記乾燥した製品成形体を焼成する工程と、を含む。
【0020】
(A−1)坏土準備工程(i)
坏土とは焼成製品製造用の配合粘土であり、互いに異なる複数の採掘場から採掘した数種類の原料粘土を規定の収縮率や水分量になるよう混ぜ合わせることにより得られる配合粘土である。さらに山土、砂利排土(砂利等の採取時に得られる粘土質原料)、シャモット(粘土焼成製品の不良品を砕いて得られるリサイクル材)が添加されることも多い(非特許文献2)。
【0021】
混錬機や真空土錬機等を用いてよく混ぜ合わせるのが好ましく、これにより粘土中の水分を均質に分散させ、粘土中の空気を排除することでラミネーションの発生を抑制している。
【0022】
(A−1−1)
ここにいう粘土焼成製品には、粘土原料を成形、乾燥後、1000〜1250℃程度の高温で焼成して得ることのできる任意の陶磁器製品が含まれるが、その中でも特に粘土焼成建材が本発明の好ましい対象である。
【0023】
そして、ここにいう粘土焼成建材とは、粘土を材料として1000〜1250℃程度の高温で焼成する工程を含む製造過程によって製造された粘土瓦、粘土タイル、粘土煉瓦等を指す。以下、主に粘土瓦を念頭において説明するが、粘土タイル、粘土外壁材等の他の粘土焼成建材、さらには任意の粘土焼成製品にも妥当する。
【0024】
(A−1−2)
本発明にいう坏土の化学組成としては一般には、主成分としてSiO
2が約65〜75重量%程度及びAl
2O
3が約15〜25重量%程度を占め、その他のマイナー成分として、Fe
2O
3が約2.0〜3.5重量%程度、K
2Oが約1.5〜2.5重量%程度、さらに1重量%未満のTiO
2、MgO、Na
2O,CaO等が含まれる(非特許文献1)。
【0025】
坏土の粒度分布としては、粒径2μm以下の粘土分、粒径2〜75μmのシルト分、粒径75μm以上の砂分から構成される。たとえば石州瓦坏土では平均して、粘土分が約30〜35重量%程度、シルト分が約45〜50重量%程度、砂分が約15〜20重量%程度で含まれるが、坏土の産地により多少の変動がある(非特許文献1)。
【0026】
さらに粘土分の役割としては、粘土分が結晶構造中に水分子を保有することができる微細な粒子の集合体であることから、添加する水分を調整することによって可塑性を発現し、原料を任意の形状に成形・維持するものである。さらに、高温で加熱すると周囲の鉱物と反応することで緻密な焼結体になるため、破壊強度を向上させると共に、低い透水性・耐凍害性等の必要な機能性を発現する。また、シルト分や砂分の役割としては、そこに含まれる石英や長石は骨材として機能するため、最終製品の寸法や形状の安定性に寄与するものである。
【0027】
なお、シルト分の長石でも粘土分に近い粒子径が比較的小さなものは、高温焼成すると粘土分同様に周囲の鉱物と反応し、焼結に寄与する。
【0028】
(A−1−3)
粘土分を構成する粘土の主要成分としては、カオリナイト群[典型的化学組成:Al
4Si
4O
10(OH)
8]、スメクタイト(モンモリロナイト)群[典型的化学組成:X
yAl
2(Al
ySi
4-yO
10)(OH)
8 ; Xは通常、Na、MgまたはAl]、及びイライト群[典型的化学組成:K
y(Al,Fe,Mg)
4(Al
ySi
8-y)O
20(OH)
4]、緑泥石(クロライト)群[典型的化学組成:(Mg
6-nAl
n)(Al
nSi
4-n)O
10(OH)
8]等が挙げられる。
【0029】
カオリナイト群には、カオリナイトのほか、ハロイサイト、ディッカイト、ナクライト等がある。スメクタイト(モンモリロナイト)群には、モンモリロナイト(モンモリロナイトを主成分とする粘土の総称としてベントナイト)のほか、ノントロナイト、バイデライト、ヘクライト、サポナイト等がある。イライト群には、イライトのほか、ハイドロマイカ、フェンジャイト、ブラマライト、グローコマイト、セラドナイト等がある。緑泥石群には、シャモサイト、クリノクロア、クーカイト、オルトシャモサイト、ペナンタイト、スードイト(須藤石)等がある。
【0030】
所望の可塑性や耐火度があれば粘土鉱物の種類は問わないが、一般に日本国内においてはカオリナイトを主体とする原料と緑泥石群を主成分とする原料の2種類が存在し、例えば石州瓦の場合、耐火度や成形性の観点からは、坏土中の粘土分の80〜100重量%がカオリナイトであることが好ましく、85〜95重量%であることがより好ましい。
【0031】
(A−2)焼成製品用原料調製工程(ii)
本工程において、所定量の雲母を前記坏土に添加して、焼成製品用原料を調製する。
【0032】
この工程は、前記坏土準備工程と同時に行ってもよいし、前記坏土準備工程により得られた坏土に雲母を添加して、さらに混錬機や真空土錬機等を用いてよく混ぜ合わせることによって行ってもよい。前者の場合、雲母の乾粉を配合工程で所定量混合し水分を加えて含水率を調製するか、あるいは、他の原料と同時に水
簸タンク等に投入し攪拌することで均一に混合した上で、続いてフィルタープレス等で水分を除去し含水率を調製することができる。
【0033】
(A−2−1)
ここにいう「雲母」は、層状ケイ酸塩鉱物に属する、薄い劈開片からなる板状鉱物であり、弱い化学結合と強い化学結合とが交互に周期的に繰り返されていることに起因して、高い柔軟性、弾性、靭性等を有する。
【0034】
雲母の典型的一般化学式として、
X
2Y
4~6[(Si,Al)
8O
20](OH,F)
4
と表記される場合がある。
ここで、XがK、Naのものを脆雲母、XがCaのものを普通雲母、という。
また、YはAl、Fe、Li、Mgが典型であるがVやCrの場合もあり、Yが4のものをジオクタヘドラル型雲母、Yが6のものをトリオクタヘドラル型雲母と大別しうる。
【0035】
代表的な雲母としては、白雲母[K
2Al
4(Al
2Si
6O
20)(OH)
4]、金雲母[K
2Mg
6(Al
2Si
6O
20)(OH,F)
4]、黒雲母[K
2(Mg,Fe)
6(Al
2Si
6O
20)(OH)
4]、紅雲母[K
2Li
3Al
3(Al
2Si
6O
20)(OH,F)
4]を挙げることができ、その他、バナジン雲母[K
2V
4(Al
2Si
6O
20)(OH)
4]、クロム雲母[K
2Cr
4(Al
2Si
6O
20)(OH)
4]、フッ素金雲母[K
2Mg
6(Al
2Si
6O
20)F
4]、ソーダ雲母[Na
2Al
4(Al
2Si
6O
20)(OH)
4]等を例示できる。
【0036】
もっとも、天然では白雲母、金雲母、黒雲母、絹雲母(セリサイト)が一般的である。
【0037】
(A−2−2)
雲母の含有量の下限は、前記坏土の重量を基準として,亀裂防止効果の観点から、0.1重量%、好ましくは、0.5重量%、より好ましくは1.0重量%である。他方、雲母の含有量の上限は、成形性の観点から、20重量%、好ましくは15重量%、より好ましくは12重量%、さらに好ましくは10重量%である。
【0038】
また、坏土中の粘土分に対する雲母の重量比の下限としては、亀裂防止効果の観点から0.5/100以上であることが好ましく、1.0/100以上であることがより好ましい。他方、坏土中の粘土分に対する雲母の重量比の上限としては、成形性の観点から50/100以下であることが好ましく、40/100以下であることがより好ましい。
【0039】
(A−2−3)
雲母の最大直径の個数基準平均粒径の下限は、亀裂防止効果の観点から5μm、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上である。他方、成形性の観点から、雲母の最大直径の個数基準平均粒径の上限は、500μmであり、好ましくは300μm、より好ましくは100μmである。なお、ここにいう「最大直径」とは、個々の雲母片の最大直径を意味する。
【0040】
さらに好ましくは、用いる雲母につき最大直径の最大値が所定の範囲内にあることがより好ましい。すなわち、雲母の最大直径の最大値の下限は、亀裂防止効果の観点から10μmが好ましく、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。他方、成形性の観点から、雲母の最大直径の最大値の上限は、5000μmであることが好ましく、より好ましくは2000μm、さらに好ましくは1500μm、さらにより好ましくは1000μmである。
【0041】
ここで、雲母の最大直径の個数基準平均粒径、及び最大直径の最大値は、第一義的には、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した粒度分布に基づき、粒子径の累積度数が50%、及び100%に達した粒径として、それぞれ得ることができる。
【0042】
また、製品中の雲母を製品表面から非破壊的に測定する場合など、上記レーザー回折式粒度分布測定装置による測定が困難な場合には、補助的に、電子顕微鏡等を用いて、雲母粉末を表面観察することによってスケールバーとの比較により計測することもできる。より具体的には、製品表面に釉薬等の処理がない場合、観察対象を試料表面の1cm
2の範囲とし、そこから無作為に雲母粒子を20個程度選び出し、それぞれ最大直径を計測する。製品表面に釉薬等の表面層がある場合、製品を破壊した破断面を1cm
2の範囲にわたり観察し、同様に無作為に雲母粒子を20個程度選び出し上で、最大直径を計測する。観察視野は粒径に依存し、例えば最大直径100μm程度の粒子であれば500倍の倍率とし、最大直径20μm程度の粒子であれば2000倍の倍率に調整する。
【0043】
また雲母が原料に配合されている場合でも、焼成前であればそれを水に分散し均一な懸濁液とした上で、ふるい等で適当な粒度範囲の粒子を回収し十分に乾燥させることで、上記の方法で求めることができる。さらには焼成後でも1200℃程度までの焼成条件であれば、焼成体表面の電子顕微鏡観察によって同様に計測することができる。
【0044】
なお、粘土分中にも雲母粘土鉱物が微量に含まれる場合があるが、本発明にいう「雲母」は、このような雲母粘土鉱物(最大粒径2μm以下)とは平均粒径が大きく異なることで区別できる。
【0045】
また、雲母は前記したように板状鉱物であるが、亀裂防止効果の観点から、好ましくは扁平率の個数基準平均が10以上、より好ましくは20以上である。ここで扁平率は一個の粒子の最大直径を該一個の粒子の厚みで割算して得られる値と定義する。
【0046】
なお、扁平率の個数基準平均は、最大直径の個数基準平均と同様に、例えば電子顕微鏡を用いて、雲母粉末を表面観察することによってスケールバーとの比較により計測することができる。より具体的には、製品表面に釉薬等の処理がない場合、観察対象は試料表面の1cm
2の範囲とし、そこから無作為に雲母粒子を10個程度選び出し、各粒子の最大直径及び厚みをそれぞれ計測する。製品表面に釉薬等の表面層がある場合、製品を破壊した破断面を1cm
2の範囲にわたり観察し、同様に無作為に雲母粒子を10個程度選び出した上で計測する。観察視野は粒子径に依存し、例えば最大直径100μm程度の粒子であれば500倍の倍率とし、最大直径20μm程度の粒子であれば2000倍の倍率に調整する。また厚み測定においては、観察視野は粒子の厚みに依存し、例えば1μm程度の厚みであれば2000倍の倍率に調整する。さらに、粒子の厚みを計測する際には、ステージを傾けて粒子の側面(a、b軸面)が水平面に対し90度に位置するよう移動させると良好に観察できる。
【0047】
また雲母が原料に配合されている場合でも、焼成前であればそれを水に分散し均一な懸濁液とした上で、ふるい等で適当な粒度範囲の粒子を回収し十分に乾燥させることで、さらには焼成後でも1200℃程度の焼成条件であれば、電子顕微鏡観察によって同様に測定することができる。場合によって、集束イオンイオンビーム(FIB)装置を利用し表面を削ることで、断面方向の観察が容易となる。
【0048】
上記のような寸法を有する雲母は、通常は種々の粒子径の市販品を購入することによって得ることができる。この際、雲母の粒子径として平均粒径で表現される場合と、最大粒径(規定の目開きのふるい通過品)で表される場合がある。
【0049】
なお、一般的に定義できるものではないが、単純に粉砕によって粒子径制御をおこなって得られた粉体の場合、最大直径の個数基準平均粒径に対する最大直径の最大値の大きさの比は、およそ9から22倍となる。また最大直径の個数基準平均粒径が大きい原料ほど、この値が大きくなる傾向がある。但し、異なる粒度分布をもつ粉体を混合した場合は、必ずしもこれに当てはまらない。
【0050】
(A−3)成形工程(iii)
焼成製品用原料を成形して製品成形体を得る工程である。
【0051】
典型的には、得られた焼成製品用原料を材料として、真空土錬機から最終製品の形状に応じて製品曲面のついた板状成形体を押出成形した後、一定の大きさに切断し、プレス成形により製品の形状に加工するが、必ずしもこれに限られるものではない。
【0052】
配合粘土に雲母を添加した場合、雲母によって成形体の強度等の物理的特性が変化することにより、真空土錬機内部で圧密される際に受ける残存応力の影響が小さくなると推量できる。その結果、乾燥工程で製品成形体の亀裂が発生しにくく、反りが小さくなる。
【0053】
乾燥・焼成後の製品成形体の厚みとしては、曲げ破壊強度を維持するよう範囲で種々の厚みをとることができるが、たとえば石州瓦の場合、瓦の種類によって変わるが、厚みは12〜18mm程度である。
【0054】
(A−4)乾燥工程(iv)
製品成形体を乾燥する工程である。
【0055】
一般的に製品成形体の乾燥は、温度・湿度が管理された乾燥炉中でおこなわれる。熱源は主に焼成炉の廃熱を利用した熱風により、これが均一に製品成形体にあたるよう、大型のファンによって熱風が随時撹拌されている。
【0056】
より具体的には、乾燥台車に載せられた未乾燥の製品成形体が一定の間隔で投入され、乾燥炉内を移動し乾燥終了時に出口へと向かう連続炉(トンネル炉)形式と、所定量の未乾燥の製品成形体を炉内に全量投入し、乾燥工程を経た後、終了すると全量排出するバッチ炉形式の2種類の形式がある。
【0057】
乾燥時の水の蒸発は表面から起こるため、製品成形体の周囲と内部で水の濃度勾配が生じ、これが過度な状態に至ると乾燥収縮時に亀裂やねじれを誘発する。したがって、限られた乾燥時間の中で乾燥中の製品成形体の水分濃度勾配が最小限に抑えられるような乾燥工程の設計が求められる。しかしながら設備設計上の問題、あるいは原料の変動による粘土分の多寡といった種々の原因により、理想的な乾燥条件の達成が困難な状況になる場合もある。
【0058】
本発明においては、配合粘土中に雲母が添加されていることから、理想的な乾燥からある程度逸脱した場合にも、急激な、あるいは局所的な乾燥収縮が抑制され、乾燥時の形態安定性を高めることができる。理論に束縛されるものではないが、雲母が、例えば鉄筋コンクリート中の鉄筋の役割を果たし、乾燥収縮によって発生した応力を緩和するように機能しているものと考えている。さらに、上述のとおり、乾燥工程での亀裂、さらに反りやねじれも小さくなる。
【0059】
また、製造工場内で現場の温度や湿度が適切に管理されている場合を除き、季節や天候によって周囲の温度や湿度が影響を受ける可能性がある。すなわち、湿度の高い梅雨時期と比較して、乾燥しやすい冬季に亀裂による不良が発生しやすい傾向がある。このような状況に応じて、雲母の添加量を夏季と比較して冬季に増やすことも想定される。
【0060】
(A−5)焼成工程(V)
乾燥工程を経た製品成形体を焼成する工程である。かかる焼成により、粘土粒子はメタカオリンを経てムライト+ガラスへと変化し、また長石とも反応して、セラミックスの粘土焼成製品となる。
【0061】
この工程は一般に、トンネル窯と呼ばれる100mに近いトンネルの中を一定の操車速度で製品成形体を載せた台車を移動させておこなう。入り口から徐々に温度を上げながら予熱帯を経て、石州瓦の場合、途中約1200℃近傍(1150〜1250℃)に調整された焼成帯でしっかりと焼き上げ、その後580〜620℃まで急冷し、出口に向けて徐冷していく。
【0062】
本発明においては、配合粘土中に雲母が添加されていることから、焼成時の形態安定性をも高めることができる。理論に束縛されるものではないが、雲母がもたらした、反りやねじれの原因となる土錬機内で受けた製品成形体の残存応力を減少させる効果が、焼成工程においても影響しているものによると考えている。
【0063】
(A−5−1)
粘土焼成製品として釉薬瓦(陶器瓦)を製造する場合、乾燥後で焼成前に釉薬を製品成形体に塗布する追加の工程が入る。焼成中に、塗布した釉薬により瓦の表面にガラス質や結晶質の釉薬層が形成される。焼成中に基材である粘土と融合するため、釉薬層は瓦表面に強固に結合する。
【0064】
釉薬層が耐透水性をもつために、無釉薬瓦よりも耐久性が高いといわれており、釉薬中に特定の金属成分を含めることで、着色することも可能である。
【0065】
釉薬は、典型的にはホウケイ酸フリット、長石、粘土、酸化鉄、酸化銅、酸化コバルト、二酸化マンガン等を含む組成物が使用される。
【0066】
なお、釉薬の代わりに塩を塗布して焼成した瓦である塩焼瓦も釉薬瓦に分類することができる。焚口に投入した岩塩中のナトリウムと粘土中のケイ酸アルミナとの反応により、赤褐色のケイ酸ナトリウムのガラス状被膜が形成されるためである。
【0067】
(A−5−2)
粘土焼成製品が無釉薬瓦である場合、乾燥後、釉薬を塗布せずに焼成する。
【0068】
無釉薬瓦に分類されるものとして、いぶし瓦や窯変瓦が知られている。
【0069】
前者のいぶし瓦では、焼成後、プロパンガスや水希釈灯油などを用いて瓦成形体を燻し、瓦表面に炭素膜を形成する工程が入る。
【0070】
後者の窯変瓦では、焼成工程において、窯の中に注入する酸素ガスを調整して、窯の中の環境を変えながら瓦を焼成する。酸素が多い部分では酸化焼成、酸素が不足した部分では還元焼成が行われるので、1枚の瓦の中で連続的に色調を変化させることができる。
【0071】
(A−6)
なお、特許文献2の、いわゆるセメント瓦には針状、角状或いは柱状の無機質充填材(d1)に加えて、必要に応じて他の無機質充填材(d2)を添加してもよいとされ、該無機質充填材(d2)として、珪砂、岩石粉、タルクに加えて、雲母も例示されている。しかし、その実施例をみても、無機質充填材(d2)として珪砂は使用しているものの、実際に雲母を使用した例は示されていない。また、無機質充填材(d2)のみを使用し無機質充填材(d1)を併用しない比較例では、硬化中寸法収縮率及び硬化後寸法収縮率のいずれも、かなり劣っていることから判断して、無機質充填材(d2)単独の機能として成形歪みやクラック発生の抑制をすることを記載も示唆するものでもない。また、そもそも特許文献2は。粘土瓦等の粘土焼成製品とは異なるセメント瓦を対象とするものであって、せいぜい85℃程度の硬化温度を予定するものにすぎないし(たとえば特許文献2の段落0036)、無機質充填材(d2)の含有量もかなり大きい(たとえば比較例1や2では46重量%も添加している)。さらに、特許文献2には雲母粘土鉱物の記載がみられるが(たとえば特許文献2の段落0009)、前記(A−2−3)でも説明したように、そもそも粒径が大きく異なるし、2000〜16000℃の温度で溶融されるものであるため(特許文献2の段落0010)、無機質粉体(a1)中では、もはや雲母としての板状形状も維持していないと考えられる。
【0072】
また、特許文献3には、釉薬層の表面に、雲母含有ガラスフリット溶融物層、該ガラスフリット溶融物層の上に上絵具層が形成された、陶器瓦が開示されている。しかし、特許文献3は上絵具層に発生する亀裂を抑制することが課題であり、粘土焼成製品である陶器瓦本体に発生する亀裂を対象とするものではない。
【0073】
また、特許文献4には、(A)膨潤性層状ケイ酸塩、(B)無機繊維、及び(C)薄片状または鱗片状の非膨潤性層状ケイ酸塩を含有する無機目地材が開示され、前記成分(C)の非膨潤性層状ケイ酸塩には、天然または合成の非非膨潤性雲母が例示されている。しかし、特許文献4の対象は石や煉瓦を積む場合、あるいはタイルを張る時にできる継目部分を埋める材(目地材)であって、特許文献4の実施例には雲母の使用例はない。さらに、特許文献4の比較例3と実施例1とを比較すると、比較例3は実施例1の(C)の非膨潤性層状ケイ酸塩(ミクロマイカ)を含まない点でのみ異なるところ、ひび割れ試験では共にひび割れが生じておらず(A評価、段落0040)、非膨潤性層状ケイ酸塩によるひび割れ防止効果への影響は何ら実証されていない。また、ここでいうひび割れは、高温と常温の間での加熱冷却による膨張収縮作用の反復を受けたことによるひび割れであり、本発明でいう乾燥・高温焼成条件下での亀裂やねじれとは異なるものともいえる。
【0074】
さらに、特許文献5では、アルカリ金属酸化物と、二酸化ケイ素と、特定金属酸化物とを含み、少なくとも1種の無定形結合材マトリックスを有するケイ酸塩化合物が開示され、結合材マトリックスが層状ケイ酸塩クラスの結晶性充填材を含む場合の充填材として雲母が例示されている(第7頁)。しかし、該ケイ酸塩化合物は、コンクリート製の屋根瓦の表面に、風化を回避し美的外観を与えるために塗布される塗布材にすぎず(第4頁)、粘土瓦等の粘土焼成製品とは対象が異なる。また、厚みの観点からみても、代表的な粘土焼成製品である粘土瓦の厚みは一般に10mm程度以上であるのに対して、特許文献5にいう塗膜の平均厚さは20μm〜2mm(特許文献5、請求項11)とかなり薄い。また、特許文献5の実施例のうち雲母を用いた実施例を見る限り、実施例4以外は固形分の43〜51重量%と大量に用いており、実施例4では方解石との併用のため比較的少なく用いているものの、それでも11重量%は用いており、使用量も異なっている。
【0075】
(B)本発明の第二の態様
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様の製造方法により製造することができることを特徴とする粘土焼成製品、典型的には粘土焼成建材である。
【0076】
雲母は原料粘土の主成分の代表例であるカオリナイトと比較すると耐火度が低く、石州瓦の焼成温度である1150〜1250℃においては共存する鉱物と反応し焼結効果を促進させる。このため、製品素地が内包する空隙が減少し、吸水率の減少、凍害に対する耐性向上、あるいは曲げ破壊強度の向上のうちの少なくとも一の特性が向上する。
【0077】
なお、上記それぞれの特性は、一例としてJIS A5208:粘土瓦の方法に基づいて試験できる。吸水率は110℃の恒温槽中で24時間乾燥させた製品を15〜25℃に調整した水中に24時間浸漬し、吸水前後の重量変化によって、(製品の吸水重量−製品の乾燥重量)÷(製品の乾燥重量)×100として定義する。また、凍害試験は24時間水中に浸漬させた製品を8時間以上−20℃の恒温槽中に静置し、その後水中に6時間以上浸すことによっておこなう。このサイクルを製品表面にひび割れ、剥離が発生するまで繰り返す。曲げ破壊試験では製品下部を2本の鋼鉄製丸棒で支持し、そのスパン中央部分を上部から鋼製丸棒を用いて支持棒と平行させて載荷し、破壊荷重を測定する。
【0078】
[実施例]
(試験例1)粉末試料による乾燥試験
市販ベントナイト(カサネン鉱業株式会社:島根ベントナイト)に、ベントナイト重量を基準にして、市販雲母(株式会社ヤマグチマイカ:A−51S)の、2.5量%、5重量%、7.5重量%、10重量%をそれぞれ添加し、よく混合した試料を1.5gづつ作製した。
【0079】
作製した各試料を、秤量瓶中にて40℃、95%RHの雰囲気(恒温恒湿装置中)で一晩静置した後、50℃の乾燥器中に投入し、4時間経過後の表面を観察した。
【0080】
用いた市販雲母の電顕写真を
図2に、得られた各試料の表面の様子を
図3に示す。
図3中、(a)が雲母無添加、(b)雲母2.5重量%添加、(c)雲母5重量%添加、(d)雲母7.5重量%添加の表面の様子を示す。
【0081】
この試験の結果、5重量%以上の雲母添加で乾燥による亀裂が明らかに減少した。
【0082】
なお、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラックMT3000II)により粒度分布測定をおこなったところ、用いた市販雲母粉末の個数基準平均粒径(累積頻度50%粒子径)は18μm、最大直径の最大値(累積頻度100%粒子径)は161μmであった。測定は粉末を水によく分散させた状態で、溶媒の屈折率1.333、粒子屈折率1.54、粒子球状を非球形として透過モードでおこなった。さらに、走査型電子顕微鏡(日立製作所製S−3500N)を使用し、表面観察によって同じ粉末雲母の最大直径及びその厚みを無作為に10個計測すると、この市販雲母の扁平率は70±24(標準偏差)であった。
【0083】
(試験例2)タイル状圧密成形体による乾燥試験
石州地方の粘土山から採取した原料粘土(粘土分のほとんどはカオリナイトからなり主として石英から成るシルト分及び砂分を含む)を水簸処理、すなわち原料を水に分散させ、粒子径に依存する沈降速度の違いにより、粘土分に相当する大きさの粒子を回収して、砂分を除いたものを基準粘土とした。これに市販ベントナイト(クニミネ工業株式会社:クニゲルV1)を20重量%混合し、真空土練機(株式会社石川時鐵工所製)により、比較品として、長さ12cm×幅4cm×厚さ1.5cmの成形体テストピースを作製した。
【0084】
さらに別途、同じ基準粘土75重量%、市販ベントナイト20重量%、そして市販雲母(株式会社ヤマグチマイカ:A−51S)を5重量%添加した配合粘土を作製し、真空土練機により同様に成形体テストピースを作製した。それぞれ恒温恒湿装置中にて40℃、95%RHの雰囲気で一晩静置し、その後40℃、50℃、70℃にて4時間乾燥後の亀裂の発生状況を確認した。
【0085】
図4〜
図6は試験後のタイル状圧密成形体の状態を示す。
【0086】
このうち、
図4は40℃の乾燥温度での、
図5は50℃の乾燥温度での、
図6は70℃の乾燥温度での、雲母無添加ピース(左側)と雲母添加ピース(右側)の乾燥後の状態を示す。
【0087】
5重量%の雲母を添加した場合、40℃の乾燥条件でほぼ亀裂の発生が抑制された。
【0088】
(試験例3)冬季(3月)における瓦製造実証試験
雲母無添加の石州瓦坏土(粘土分約35%、シルト分約45%、砂分約20%、粘土分の主成分はカオリナイト)、及び雲母(中国産雲母#325メッシュ通過品、輸入代理店西日本鉱業株式会社)を瓦坏土に2重量%添加した瓦用原料をそれぞれ100t(1×10
5kg)作製した。雲母は単身の粘土に加え重機を使用して簡単に混ぜ合わせた後、通常の配合粘土作製工程(ロールミル、スクリーンフィーダー、ファインローラー処理、異物除去、含水率調整等)を経て、十分に混錬し原料として使用できる状態に調製した。続いて瓦製造工程において、真空土錬機による瓦成形体の押し出し、さらにプレス機による瓦形状の成形をおこなった後、温度湿度を制御したバッチ式の乾燥炉に24時間投入した。その後、施釉しトンネル炉において一定の操車速度で予熱帯、焼成帯(1200℃近傍)、冷却帯を通過させて焼成をおこなった。このような工程で釉薬瓦を3日間で約3万5千枚作製し、乾燥工程及び焼成工程における亀裂及びねじれ発生割合を毎日確認した。亀裂発生の有無は目視により確認し、またねじれについては焼成歪検査機において、基準瓦との比較により合・不合格品を判別した。
【0089】
雲母無添加に対し雲母添加した配合粘土を使用した場合、3日間の生産で1日毎に歩留まりを集計した結果、乾燥工程と焼成工程の合計で6-9%歩留まりが改善した。
【0090】
なお、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラックMT3000II)により粒度分布測定をおこなったところ、用いた市販雲母粉末の個数基準平均粒径(累積頻度50%粒子径)は6μm、最大直径の最大値(累積頻度100%粒子径)は68μmであった。測定は粉末を水によく分散させた状態で、溶媒の屈折率1.333、粒子屈折率1.54、粒子球状を非球形として透過モードでおこなった。さらに、走査型電子顕微鏡(日立製作所製S−3500N)を使用し、同じ雲母粉末の表面観察によって最大直径及びその厚みを無作為に10個計測すると、この市販雲母の扁平率は34±26(標準偏差)であった。
【0091】
(試験例4)夏季(7月)における瓦製造実証試験
通常の石州瓦坏土(粘土分約35%、シルト分約45%、砂分約20%、粘土分の主成分はカオリナイト)及び雲母(中国産雲母#325メッシュ通過品、輸入代理店西日本鉱業株式会社)を1重量%添加した瓦用原料をそれぞれ200t(2×10
5kg)作製した。冬季と同様の工程を経て釉薬瓦を約6万5千枚作製し、亀裂発生の有無は目視により確認し、またねじれについては焼成歪検査機において、基準瓦との比較により合・不合格品を判別することによって、乾燥工程及び焼成工程における亀裂及びねじれ発生割合を毎日確認した。
【0092】
雲母無添加に対し雲母添加した配合粘土を使用した場合、5日間の生産で1日毎に歩留まりを集計した結果、乾燥工程と焼成工程の合計で3-14%歩留まりが改善した。