(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料にX線を照射したときに当該試料で回折した回折X線を、ゴニオメータ円の中心点を中心とする角度の各角度においてX線検出器によって検出することにより回折X線のX線回折角度を得るX線回折装置において、
X線通過口を備えたX線遮蔽部材を有しており、
前記X線通過口は、前記ゴニオメータ円の中心点上に設けられており、
前記X線通過口は、前記ゴニオメータ円の中心点を通過するように前記試料で回折したX線を通過させ、
前記ゴニオメータ円の中心点以外の領域を通過するように前記試料で回折したX線は前記X線遮蔽部材によって遮蔽される
ことを特徴とするX線回折装置。
前記X線遮蔽部材は、前記試料の前記X線検出器側の端面に接触して、又は前記試料の前記X線検出器側の端面の近傍に設けられることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のX線回折装置。
前記試料に対するX線の入射角を調整するω回転系、前記試料を面内回転させるφ回転系、前記X線検出器をアウトオブプレーン方向へ移動させる2θ回転系、及び前記X線検出器をインプレーン方向へ移動させる2θχ回転系を有しており、
前記ω移動系、前記φ移動系、前記2θ回転系及び前記2θχ回転系は共通の中心点であるゴニオメータ円の中心点を基点として動作する
ことを特徴とする請求項6記載のX線回折装置。
【背景技術】
【0002】
従来、X線源から放射された発散ビームを測定に使用する集中法光学系を用いたX線回折装置が知られている。このX線回折装置は集中法X線回折装置と呼ばれることがある。この集中法X線回折装置とは別に、薄膜等の試料の測定においては、試料に入射するX線の角度を一定とする目的から、平行化したX線ビームを使用することがある。この平行化したX線ビームを用いたX線回折装置、すなわち平行ビーム法X線回折装置も近年良く知られている。
【0003】
集中法X線回折装置においては、X線源及びX線検出器は同じゴニオメータ円上に配置される。また、X線源、試料及びX線検出器は焦点円上に配置される。一方、平行ビーム法X線回折装置においては、X線源及びX線検出器は同じゴニオメータ円上に配置しなくても良く、さらにX線源、試料、及び検出器は焦点円上に配置しなくても良い。
【0004】
平行ビーム法X線回折装置には、例えば、インプレーンX線回折装置や、インプレーン逆格子マッピング装置や、GI−WAXS/SAXS装置等がある。各装置は次のような装置である。なお、本明細書において「回折」は「散乱」を含むものとする。
【0005】
(インプレーンX線回折装置)
X線回折によれば、種々の物質の原子レベルにおける構造を調べることができる。さらに近年、ナノメートルのサイズスケールの薄膜の構造を調べる必要性が生じている。この必要性を実現するためにX線全反射を利用した測定が知られている。
【0006】
平坦な表面を有する試料にX線が臨界角以下の角度で入射すると、試料の表面で全反射が発生する。この角度は小さな角度であり、CuKα線を用いた場合、Siで0.22°程度、Auで0.57°程度である。
【0007】
図13(a)において、試料Sの表面SaにX線R1を臨界角近傍の低角度αで入射すると、入射角αと等しい角度αでX線が反射される。他方、試料表面Saに垂直な格子面Kで回折が生じ、その回折線が試料表面Saすれすれに出てくる。一般に、この回折現象をインプレーン回折という。このインプレーン回折をX線検出器によって検出する測定を行う装置がインプレーンX線回折装置である。
【0008】
このインプレーンX線回折装置は、例えば、特許文献1に開示されている。このインプレーンX線回折装置によれば、薄膜の表面に対して垂直な格子面からの回折を直接に測定でき、そのため表面付近の構造を直接に評価でき、その結果、試料に対して正確な評価を行うことができる。
【0009】
また、このインプレーンX線回折装置によれば、入射X線R1が試料Sの内部に侵入する深さが数nm以下のように非常に浅くなる。このため、薄膜の測定結果において基板や下地からの情報をほとんど無くすことができ、その結果、鮮明なインプレーンX線回折図形を得ることができる。
【0010】
特許文献1に開示された従来のインプレーンX線回折装置においては、試料とX線検出器との間にPSA(パラレル・スリット・アナライザ)を設け、このPSAによって回折X線の重なり合いを防止して角度分解能を実現していた。そしてこれにより、分解能の高い鮮明なX線回折図形を得ていた。しかしながら、このPSAはそれ自体がX線を多量に減衰させる傾向にあった。そのため、特許文献1に開示されたインプレーンX線回折装置においては、強度の強いインプレーン回折線を得ることが難しいという問題があった。
【0011】
(インプレーン逆格子マッピング装置)
例えば、特許文献2にインプレーン逆格子マッピング装置が開示されている。この従来のインプレーン逆格子マッピング装置を平面図で示せば、概ね
図14に示す通りである。
図14において、X線源Fから出たX線R0は入射側光学系101によって単色で平行なX線R1とされた状態で試料Sの表面Saへ小さな入射角度で入射する。
【0012】
この入射X線R1は、試料表面Saに垂直な格子面で回折し、回折X線R2となって試料表面Saに対してすれすれの方向(すなわちIn-Plane(インプレーン)方向)へ進行する。この回折X線R2は、PSA(Parallel Slit Analyzer/パラレル・スリット・アナライザ)103によって所定の回折角度のものだけが選択された後(すなわち回折X線が重なり合うことを回避した後、すなわち角度分解能を与えられた後)、X線検出器104によって受け取られる。X線検出器104は受け取ったX線の強度に対応した電気信号を出力する。
【0013】
X線検出器104は0次元X線検出器である。逆格子マッピング測定を行うにあたっては、φ軸線(すなわち試料Sを貫通し
図14の紙面を貫通する方向へ延びる線)を中心として試料Sをステップ的にφ回転(すなわち面内回転)させながら、個々のステップ角度位置においてX線検出器104を2θχ(シータ・カイ)/φスキャンさせる。
【0014】
2θχ/φスキャンとは次のような動作である。すなわち、まず、X線検出器104を初期の角度位置においた状態で回折X線の強度測定を行う。次に、φ軸線と同じ軸線である2θχ軸線を中心としてX線検出器104を少し回転(すなわち2θχ回転)させ、それに伴って試料Sをφ軸線を中心として2θχの半分だけ回転(すなわちφ回転)させた状態でX線検出器104によって回折X線の強度測定を行う。その後、2θχ回転とそれに連動したφ回転とを連続的又はステップ的に複数回実行し、各々の回転角度位置においてX線検出器104によって回折X線の強度測定を行う。
【0015】
以上により、面内回転φに関する複数のステップ角度位置と2θχ/φスキャンに関する複数の角度位置とで特定される複数の位置における回折X線の強度情報が取得される。そして、これらの強度情報を2次元座標上にプロットすることにより、インプレーン逆格子マッピング図が得られる。このインプレーン逆格子マッピング図を観察することにより、薄膜内の結晶面の構造を正確に把握できる。
【0016】
しかしながら、特許文献2に開示された従来のインプレーン逆格子マッピング装置においては、
図14において、インプレーン回折線R2の重なり合いを防止して角度分解能を実現するためにPSA(パラレル・スリット・アナライザ)103を設けていた。PSAはX線を多量に減衰させる傾向にあるので、特許文献2のインプレーン逆格子マッピング装置においては、高強度のインプレーン回折線を得ることが難しいという問題があった。
【0017】
(GI−WAXS/SAXS装置(Grazing-Incidence Wide-Angle X-Ray Scattering/Small-Angle X-Ray Scattering:低角入射X線広角散乱/X線小角散乱装置))
GI−WAXS/SAXS装置は、GI−WAXS測定及びGI−SAXS測定の両方を行うことができる装置である。GI−WAXS/SAXS装置は、例えば
図15に示すように、非常に細く絞られた細径の入射X線R1を試料Sの表面Saすれすれの低角度ωで試料Sへ入射させ、表面Saすれすれに出射した散乱X線R3をX線検出器105によって検出する。
【0018】
散乱線R3のうちの低角度領域のものを測定する装置がGI−SAXS装置である。散乱線R3のうちの高角度領域のものを測定する装置がGI−WAXS装置である。入射X線R1を細く絞るのは次の理由による。すなわち、試料上においてX線照射野が広くなると散乱X線R3が広がる。散乱X線R3が広がると異なる散乱角度の散乱X線R3が重なり合い、その結果、角度分解能が低下する。入射X線R1を細く絞るのは、散乱X線R3が広がって散乱X線R3が重なり合うことを防止して、角度分解能を高めるためである。X線検出器105は2次元X線検出器である。X線検出器105は、試料面内方向(インプレーン方向)Qxy及び法線方向(アウトオブプレーン方向)Qzに関して散乱X線強度を測定する。
【0019】
図15に示したGI−WAXS/SAXS装置においては、角度分解能が高い散乱像を得るために、入射X線R1を細い径のX線ビームに成形しなければならなかった。そのため、高強度の散乱線を得ることが難しかった。その結果、鮮明な散乱線図形を短時間で得ることが難しいという問題があった。
【0020】
(試料上にX線遮蔽板を配置したX線回折装置)
試料上にX線遮蔽板を配置したX線回折装置が特許文献3に開示されている。この公報で用いられている部材符号をそのまま用いて説明すれば、第2スリット(2)から出た入射X線はX線遮蔽板(第3スリット6)の穴(11)を通過して試料(S)へ入射する。また、第2スリット(2)から発生した寄生散乱X線はX線遮蔽板(第3スリット6)の遮蔽部によってその進行を阻止されてX線検出器7に到達しない。これにより、X線検出器(7)は寄生散乱X線によって乱されることなく測定対象である試料Sからの散乱X線だけによって露光される。
【0021】
X線遮蔽板(第3スリット6)の主たる作用は、入射X線が試料(S)に入射することを穴(11)によって許容し、他のスリットで発生した寄生散乱X線がX線検出器(7)に到達することをX線遮蔽壁部分によって防止することである。試料(S)で回折したX線のうちの特定のものをX線遮蔽板(第3スリット6)の穴(11)の所で通過させ、特定のX線以外の回折X線をX線遮蔽(第3スリット6)のX線遮蔽壁部分によって遮蔽する、という技術は特許文献3には説明されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、従来装置における上記の問題点に鑑みて成されたものであって、平行ビーム法X線回折装置において、
(1)試料で回折したX線が広がるのを防止することによってX線が互いに重なり合うことを防止し、これにより、X線検出器によって分解能の高い回折X線像を得ることができるようにすること、
(2)上記のようにX線の重なり合いを防止する場合でも強度の強い回折X線を得ることができ、これにより鮮明な回折X線像を得ることができるようにすること、
(3)上記のように分解能の高い鮮明な回折X線像を得ることを簡単な構成によって実現すること、
を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
(手段1) 本発明に係るX線回折装置は、試料にX線を照射したときに当該試料で回折した回折X線を、ゴニオメータ円の中心点を中心とする角度の各角度においてX線検出器によって検出することにより回折X線のX線回折角度を得るX線回折装置において、X線通過口を備えたX線遮蔽部材を有しており、前記X線通過口は、前記ゴニオメータ円の中心点を通過するように前記試料で回折したX線を通過させ、前記ゴニオメータ円の中心点以外の領域を通過するように前記試料で回折したX線は前記X線遮蔽部材によって遮蔽されることを特徴とする。
【0025】
このX線回折装置は平行ビーム法X線回折装置である。平行ビーム法X線回折装置は、例えば、インプレーンX線回折装置、インプレーン逆格子マッピング装置、GI−WAXS/SAXS装置である。インプレーンX線回折装置、インプレーン逆格子マッピング装置及びGI−WAXS/SAXS装置の各装置においては、X線が試料の表面すれすれの入射角度(すなわち、低い入射角度)で入射する。
【0026】
上記構成において、「X線検出器」は、位置分解能を持たない0次元X線検出器、直線上で位置分解能を有する1次元X線検出器、又は平面内で位置分解能を有する2次元X線検出器である。
【0027】
上記構成において、「前記X線通過口は、前記ゴニオメータ円の中心点を通過するように前記試料で回折したX線を通過させ」の記載において、「ゴニオメータ円の中心点を通過する」は、回折X線が中心点そのものを通過する場合及び中心点の近傍を通過する場合を含むものである。この場合の「近傍」は、求めようとしている回折像の鮮明度の高低に応じて適宜に設定される。すなわち、高い鮮明度を希望する場合は、X線通過口が、ゴニオメータ円の中心点そのもの又は極めてその近くを通過する回折X線だけを通過させるようにする。一方、低い鮮明度が許される場合は、X線通過口が、ゴニオメータ円の中心点から少し離れた領域を通過する回折X線でも通過させることができるようにする。
【0028】
(ゴニオメータ円)
上記構成において、「ゴニオメータ円」は、試料で回折したX線を検出するためにX線検出器を移動させるための円軌跡のことである。つまり、X線回折測定においてX線検出器はゴニオメータ円の中心点を中心としてゴニオメータ円に沿って回転移動する。この場合のX線検出器は、0次元X線検出器のこともあるし、1次元X線検出器のこともあるし、2次元X線検出器のこともある。
【0029】
直線上で位置分解能を有する1次元X線検出器は、X線を検出する単位であるピクセルの複数個を直線状に並べて配置することにより形成される。また、平面内で位置分解能を有する2次元X線検出器は、X線を検出する単位であるピクセルの複数個を平面的に並べて配置することにより形成される。このように1次元X線検出器及び2次元X線検出器は、複数のピクセルによって回折X線の角度情報を識別するので、複数のピクセルが存在する領域内においてはX線検出器それ自体を回転移動させることなく固定しておいても回折X線の回折角度を求めることができる。この場合には、X線検出器を移動させるための円軌跡としてのゴニオメータ円が存在しない、と解釈されるおそれがある。
【0030】
しかしながら、1次元X線検出器又は2次元X線検出器を用いた場合であって、複数のピクセルが存在する領域を外れた領域に関して回折X線の検出を行いたい場合には、1次元X線検出器又は2次元X線検出器のそれ自体を希望する領域へ移動させる必要がある。この場合には、1次元X線検出器又は2次元X線検出器を円軌跡に沿って移動させることになる。この場合の円軌跡がゴニオメータ円であり、この円軌跡の中心点がゴニオメータ円の中心点である。
【0031】
ところで、特定種類のX線回折装置においては、1次元X線検出器又は2次元X線検出器のそれ自体を希望する領域へ移動させるために、1次元X線検出器又は2次元X線検出器を回転移動ではなく直線移動させる場合がある。この場合には、X線検出器を移動させるための円軌跡としてのゴニオメータ円が存在しない、と解釈されるおそれがある。
【0032】
しかしながら、1次元X線検出器又は2次元X線検出器をこのように回転移動ではなく直線移動させる場合であっても、1次元X線検出器又は2次元X線検出器を仮想的に回転移動させることを考えることができ、従ってゴニオメータ円及びゴニオメータ円の中心点を特定することができる。
【0033】
(上記構成の本発明に係るX線回折装置の作用効果)
(i) 1次元検出器や2次元検出器などを用いた測定において、検出器の位置分解能を利用するためには、試料で回折したX線であって検出器に向かって進行するX線の幅を狭くする必要がある。一般に回折X線の幅は試料上に照射された領域の大きさの影響を受けて広がってしまうため、そのままでは分解能の高いデータを得ることは難しい。また、ゴニオメータ円の中心付近を通過していない回折X線を位置分解能のある検出器(例えば1次元X線検出器又は2次元X線検出器)で検出した場合には正しい回折角度を得ることができない。本発明では、正しい回折角度を得るためにゴニオメータ円の中心付近を通過する回折X線のみを選択すること、及び回折したX線の幅を狭くすること、の両方を行うことで検出器位置での位置分解能を向上させている。
【0034】
(ii) ゴニオメータ円の中心点又はその近傍を通過するX線だけをX線検出器へ送り込むので、試料で回折したX線が広がることを防止でき、その結果、試料で回折したX線が互いに重なり合うことを防止でき、その結果、X線検出器によって分解能の高い回折X線図形を得ることができる。
【0035】
(iii) 試料の広い領域内で回折したX線のうちゴニオメータ円の中心点近傍へ集まった回折X線をX線検出器へ送り込むので、上記(ii)のようにX線の広がりと重なり合いを防止する場合でも強度の強い回折X線を得ることができる。これにより、鮮明な回折X線図形を得ることができる。
【0036】
(iv) X線通過口を備えたX線遮蔽部材を試料の表面の近傍に配置させるだけなので、構成が非常に簡単である。
【0037】
(v) 特許文献3(特開2002−310948号公報)のX線回折装置は、特許文献3で用いている部材符号をカッコで括って示すことにすれば、試料(S)の表面上にX線遮蔽部材としての第3スリット(6)を配置することを開示している。しかしならが、第3スリット(6)は、第2スリット(2)を通過したX線を穴(11)によって通過させて試料(S)へ導くと共に、第2スリット(2)で発生する寄生散乱線を遮蔽するものであり、この第3スリット(6)は本発明のX線遮蔽部材とは全く異なった部材である。
【0038】
特許文献3では、穴(11)をゴニオメータ円の中心点の近傍に設けることが開示されていない。また、特許文献3では、試料で回折したX線のうち特定のものを穴(11)で通過させ、特定のもの以外のものを第3スリット(6)によって遮蔽する、という技術思想は説明されていない。
【0039】
本発
明において、前記X線通過口は、前記ゴニオメータ円の中心点上に設けられる。ここで、「中心点上」とは、X線通過口が中心点を覆う位置(すなわち、X線通過口が中心点を含む位置)にある場合や、X線通過口が中心点からわずかに外れるがX線検出器によって希望する角度分解能を得ることができるように中心点に近い位置にある場合、等のことである。
【0040】
X線通過口をゴニオメータ円の中心点上に設ければ、試料で回折したX線であってゴニオメータ円の中心点の近傍を通過しようとするX線をX線通過口の所で確実に通過させることができる。そして、ゴニオメータ円の中心点の近傍を通過するX線以外の回折X線はX線遮蔽部材によって確実に遮蔽できる。
【0041】
(手段
2) 本発明のさらに他の発明態様において、前記X線遮蔽部材は、前記試料の表面に接触して、又は前記試料の表面の近傍に、設けられる。ここで「近傍」とは、X線遮蔽部材が試料の表面からわずかに離れるがX線検出器によって希望する角度分解能を得ることができる範囲内でX線遮蔽部材が試料の表面からわずかに離れることを含む意味である。
【0042】
(手段
3) 本発明のさらに他の発明態様において、前記X線遮蔽部材は、前記試料の前記X線検出器側の端面に接触して、又は前記試料の前記X線検出器側の端面の近傍に、設けられる。ここで「近傍」とは、X線遮蔽部材が試料の端面からわずかに離れるがX線検出器によって希望する角度分解能を得ることができる範囲内でX線遮蔽部材が試料の端面からわずかに離れることを含む意味である。
【0043】
(手段
4) 本発明のさらに他の発明態様において、前記X線通過口は、試料と交差する方向に延びるピンホール又は試料と交差する方向に延びるスリットである。ピンホールは、円形、半円形、正方形、長方形、三角形、その他の多角形状の孔である。スリットは、長い溝状の孔である。
【0044】
(手段
5) 本発明のさらに他の発明態様において、前記試料に入射するX線は縦方向が短く横方向が長い断面形状のラインフォーカスのX線であり、当該ラインフォーカスの長手方向(すなわち横方向)は前記試料の表面と平行の方向である。
【0045】
縦方向及び横方向の両方向が短い断面形状であるポイントフォーカスのX線によって試料を照射した場合は、X線が照射される試料の面積が狭いので、試料から多くの回折X線を出すことができない。これに対し、試料をラインフォーカスのX線で照射すれば、X線が照射される試料の面積を広くすることができる。そのため、強度の強い回折X線を得ることが可能になる。
【0046】
(手段
6) 本発明のさらに他の発明態様においては、試料の表面に対して垂直な格子面で回折が生じるように、試料に対して低角度でX線を入射させる。この構成により、インプレーンX線回折測定を行うことができる。
【0047】
(手段
7) 本発明のさらに他の発明態様は、前記試料に対するX線の入射角を調整するω回転系、前記試料を面内回転させるφ回転系、前記X線検出器をアウトオブプレーン方向へ移動させる2θ回転系、及び前記X線検出器をインプレーン方向へ移動させる2θχ回転系を有しており、前記ω移動系、前記φ移動系、前記2θ回転系及び前記2θχ回転系は共通の中心点であるゴニオメータ円の中心点を基点として動作する。この発明態様によれば、インプレーン逆格子マッピング測定を行うことができる。
【発明の効果】
【0048】
(i) 1次元検出器や2次元検出器などを用いた測定において、検出器の位置分解能を利用するためには、試料で回折したX線であって検出器に向かって進行するX線の幅を狭くする必要がある。一般に回折X線の幅は試料上に照射された領域の大きさの影響を受けて広がってしまうため、そのままでは分解能の高いデータを得ることは難しい。また、ゴニオメータ円の中心付近を通過していない回折X線を位置分解能のある検出器(例えば1次元X線検出器又は2次元X線検出器)で検出した場合には正しい回折角度を得ることができない。本発明では、正しい回折角度を得るためにゴニオメータ円の中心付近を通過する回折X線のみを選択すること、及び回折したX線の幅を狭くすること、の両方を行うことで検出器位置での位置分解能を向上させている。
(ii) ゴニオメータ円の中心点又はその近傍を通過するX線だけをX線検出器へ送り込むので、試料で回折したX線が広がることを防止でき、その結果、試料で回折したX線が互いに重なり合うことを防止でき、その結果、X線検出器によって分解能の高い回折X線図形を得ることができる。
(iii) 試料の広い領域内で回折したX線のうちゴニオメータ円の中心点近傍へ集まった回折X線をX線検出器へ送り込むので、上記(ii)のようにX線の広がりと重なり合いを防止する場合でも強度の強い回折X線を得ることができる。これにより、鮮明な回折X線図形を得ることができる。
(iv) X線通過口を備えたX線遮蔽部材を試料の表面の近傍に配置させるだけなので、構成が非常に簡単である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明に係るX線回折装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、本明細書に添付した図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0051】
(X線回折装置の第1の実施形態)
図1及び
図2は本発明に係るX線回折装置の一実施形態であるインプレーン逆格子マッピング装置の一実施形態を示している。
図1はインプレーン逆格子マッピング装置の平面図であり、
図2は
図1のA−A線に従った側面図である。なお、
図2では、主要でない部分の断面構造の図示は省略している。
【0052】
インプレーン逆格子マッピング装置は、インプレーン回折測定と逆格子マッピング測定を同時に行う装置である。インプレーン回折測定及び逆格子マッピング測定は次の通りである。
【0053】
(インプレーン回折測定)
X線回折測定方法には、測定する格子面の方向によって、アウトオブプレーン(Out of Plane)測定とインプレーン(In-Plane)測定がある。アウトオブプレーン測定は、
図13(b)に示すように試料Sの表面Saに対して垂直でない格子面Kを評価する手法である。インプレーン測定は、
図13(a)に示すように試料Sの表面Saに対して垂直な格子面Kを評価する手法である。
【0054】
アウトオブプレーン測定では、例えば5°〜90°程度の角度範囲で入射X線とX線検出器とを走査し、回折X線から結晶構造の情報を得る。入射X線は試料深さ数十μmといった比較的深い領域まで侵入できるため、薄膜由来の回折X線の信号が弱い場合は
基板の信号に埋もれてしまうことがある。
【0055】
これに対し、インプレーン測定は、X線の入射角を全反射臨界角度付近(例えば0.2°〜0.5°)の小さな角度に固定して測定を行う。このため、試料へのX線の侵入深さは数十nmであり、回折X線の信号は基板の影響を受けずに高精度に検出される。
【0056】
(逆格子マッピング測定)
X線の回折条件は、一般に、格子面の方向と面間隔とによって考察できる。格子面の方向は、格子面の法線によって表すことができる。面間隔は、格子面の法線の長さが、例えば面間隔の逆数の2π倍に等しくなるようなベクトルとして設定できる。このようにして方向と長さを決めたベクトルの先端点の集合は格子点を形成する。これらの格子点によって形成される空間は、上記の通り長さの逆数の次元をもつので、「逆格子空間」と呼ばれる。また、形成された格子は「逆格子」と呼ばれる。逆格子の先端点は「逆格子点」と呼ばれる。
【0057】
逆格子マッピング測定は、結晶からの反射波の逆格子空間での強度分布を測定する方法である。そして、逆格子マッピング測定によって得られた逆格子マッピング図形は、結晶性物質の格子面間隔と結晶方位分布を2次元的に表示する。
【0058】
(インプレーン逆格子マッピング測定)
インプレーン逆格子マッピング測定によれば、インプレーン回折測定において薄膜試料の表面にX線をすれすれに入射させるので、膜厚が薄い膜からの信号を効率的に捕まえることができる。そして同時に、逆格子マッピング測定において試料の方位を少しずつ変えながら信号を集めることで、結晶方位の情報が得られる。つまり、インプレーン逆格子マッピング測定によれば、薄膜試料に関する結晶方位の情報を正確に捕えることができる。
【0059】
(インプレーン逆格子マッピング装置の構成)
図1及び
図2において、本実施形態のインプレーン逆格子マッピング装置1は、X線源Fと、入射側光学系2と、試料台3と、X線遮蔽部材としてのピンホール部材4と、2次元X線検出器5とを有している。
【0060】
X線源Fは、細長いX線焦点すなわちラインフォーカスのX線を発生するX線源である。
図1及び
図2に示すとおりX線源Fは試料Sの表面Saと平行の方向が長手方向となっている。
【0061】
入射光学系2は、例えば、X線源F側から順に、放物面多層膜ミラー8、インプレーンPSC(Parallel Slit Collimator/パラレル・スリット・コリメータ)10、長手制限スリット11、及び入射スリット12が設置されている。なお、入射光学系2は必要に応じてその他のX線光学要素の組合せによって形成される。
【0062】
放物面多層膜ミラー8は、複数の重元素層と複数の軽元素層とを交互に積層して成り、X線を反射する面が放物面となっているX線ミラーである。X線源Fから出射されたX線R0は放物面多層膜ミラー8により単色X線とされ、同時に平行X線とされる。
【0063】
インプレーンPSC10はインプレーン方向のX線の広がりを規制するPSCである。インプレーンPSC10は、基本的には、いわゆるソーラスリットと同じ構造である。具体的には、インプレーンPSC10は、
図1の紙面を貫通する方向及びX線の進行方向(Y−Y方向)へ延びる薄いX線遮蔽部材を多数枚、X−X方向(X線光路を横切る方向)へ互いに平行に並べて成るX線光学要素である。このインプレーンPSC10により、X線の長手方向の平行度が高められる。
【0064】
長手制限スリット11は、インプレーンPSC10を出たX線が縦方向(
図1の紙面と平行方向、すなわち面内方向)へ広がることを制限するスリットである。入射スリット12は、長手制限スリット11を出たX線の横方向(
図1の紙面に対して直角の方向)のビームサイズを制限するスリットである。
【0065】
試料台3の上面が試料載置面となっている。この試料載置面上に試料Sが設置されている。試料Sは必要に応じて試料台3に接着される。試料Sは基板上に薄膜が形成されて成る物質である。試料Sの基板が試料台3上に載せられている。試料Sの上面にX線が照射される。本インプレーン逆格子マッピング装置1は試料Sの薄膜に関して結晶方位と格子面間隔の情報を捕えるために行われる。
【0066】
X線遮蔽部材としてのピンホール部材4は、X線を透過させ難い材料によって形成された1枚の板材によって形成されている。ピンホール部材4の内部、本実施形態では略中央にX線通過口としてのピンホール15が形成されている。本実施形態では、ピンホール部材4は試料台3に支持されている。
【0067】
ピンホール部材4は試料台3ではなくX線検出器5によって支持することもできる。ピンホール部材4は、さらには、試料台3及びX線検出器5以外の任意の構造体によって支持することもできる。但し、試料台3は水平移動及び回転移動するものであり、ピンホール部材4はピンホール15が常に後述するゴニオメータ円の中心位置を維持することが必要である。
【0068】
図1において、入射側光学系2から出たX線R1は試料Sの表面Saのうちの斜線で示した領域を照射する。このとき、試料S内で表面Saに直角な方向に存在する結晶格子面(
図13(a)の符号K参照)で回折したX線のうちピンホール15を通過したものだけがX線検出器5へ向かう。これにより、試料S上でのX線照射野の広さに応じて回折X線R2が広がることと、異なる回折角度の回折X線R2が重なり合うことが制限される。その結果、X線検出器5によって高い角度分解能で回折X線が検出される。
【0069】
つまり、ピンホール15は試料Sから特定の角度で回折したX線のうちゴニオメータ円の中心近傍を通過したX線だけを検出器5へ供給する。他方、ゴニオメータ円の中心近傍を通過しないX線はX線遮蔽部材としてのピンホール部材4のX線遮蔽部分によって遮蔽される。これにより、回折X線の広がりと重なりを防ぐことができ、高い角度分解能の測定が可能となる。
【0070】
回折X線の広がりと重なり合いが制限された回折X線R2は、2次元X線検出器5に受け取られる。2次元X線検出器5は受け取ったX線の強度に対応した電気信号を出力する。2次元X線検出器5は、CCD(Charge Coupled Device・電荷結合素子)X線検出器、フォトンカウンティング型(光子計数型)X線検出器、等によって形成されている。
【0071】
CCD−X線検出器は複数のCCD受光素子を平面的、すなわち2次元的に並べて成るX線検出器である。CCD受光素子はX線を光に変換した後の光を検出して電気信号に変換するものであっても良いし、X線を受光して直接に電気信号に変換するものであっても良い。フォトンカウンティング型X線検出器は複数のフォトンカウンティング素子を平面的に並べて成るX線検出器である。フォトンカウンティング素子はX線を受光して直接に電気信号に変換する素子である。CCD受光素子及びフォトカウンティング素子の1つの単位はピクセルと呼ばれる。X線検出器5は、2次元X線検出器に代えて、1次元X線検出器とすることもできる。
図1においてX線検出器5の先端部に描かれている符号Cは角度のスケールを模式的に示している。
【0072】
本実施形態では
図2において、ピンホール15の底辺は試料Sの表面Saと同じ高さ位置に置かれている。ピンホール15は矢印B方向から見てスリット状でないドット形状、例えば正方形状、長方形状、円形状、半円形状、その他の任意のドット形状に形成されている。なお、ピンホール15は溝状の孔であるスリットに代えることもできる。
【0073】
図1におけるピンホール15の幅Wは、例えば、2次元X線検出器5のピクセル幅と同程度からその100倍程度の幅まで、目的に応じて決定する。X線検出器5のピクセル幅が25μmの場合には、ピンホール15の幅Wは25μm〜2.5mmとなる。但し、一般的には角度分解能とX線強度の関係からピクセル幅の10倍程度の幅Wのピンホールが用いられる。
【0074】
(駆動系)
図1及び
図2において、試料台3にω回転系16及びφ回転系17が接続されている。一方、X線検出器5に2θχ(シータ・カイ)回転系18及び2θ回転系19が接続されている。ω回転系16、φ回転系17、2θχ回転系18、及び2θ回転系19はゴニオメータ(すなわち、測角器)20を構成している。
【0075】
φ回転系17はφ軸線を中心として試料台3を回転させる。試料台3のこの回転はφ回転と呼ばれる。φ軸線は
図1の紙面を貫通する方向(すなわち
図2の上下方向)へ延びる仮想線である。φ回転は試料台3に載置された試料Sを面内回転させるための回転である。
【0076】
ω回転系16は
図1においてω軸線を中心として試料台3を回転させる。試料台3のこの回転はω回転と呼ばれる。ω軸線は、
図1の紙面と平行な軸線であり、試料Sに入射するX線R1の進行方向に直角な軸線である。ω回転は試料台3に載置された試料Sへ入射するX線R1の試料Sに対する入射角度ωを変えるための回転である。
【0077】
φ回転系17はω回転系16の上に載っている。つまり、ω回転系16が作動すると試料台3がω軸線を中心としてω回転し、それと同時にφ回転系17も試料台3と一体になって回転する。一方、φ回転系17が作動すると試料台3がφ軸線を中心としてφ回転するが、ω回転系16は移動しない。
【0078】
2θ回転系19は2θ軸線を中心としてX線検出器5を回転させる。X線検出器5のこの回転は2θ回転と呼ばれる。2θ回転はアウトオブプレーン方向への回転である。2θ軸線は、
図1の紙面と平行な軸線(
図2で紙面を横切る方向へ延びる軸線)である。2θ回転はX線検出器5を逆格子空間のQz軸方向へ回転移動させるための回転である。なお、この2θ回転はX線検出器5の位置を調整するための回転である。
【0079】
2θχ回転系18は2θχ軸線を中心としてX線検出器5を回転させる。X線検出器5のこの回転は2θχ回転と呼ばれる。2θχ回転はインプレーン方向への回転である。2θχ軸線は、
図1の紙面を貫通する方向(
図2の紙面の上下方向)へ延びる軸線である。2θχ回転はX線検出器5を逆格子空間のQx軸方向へ回転移動させるための回転である。なお、この2θχ回転はX線検出器5の位置を調整するための回転である。
【0080】
ω軸線、φ軸線、2θ軸線及び2θχ軸線は、全て、ゴニオメータ円GC1の中心点G0を通っている。すなわち、これらの軸線はゴニオメータ円GC1の中心点G0で交差している。本実施形態で用いている2次元X線検出器5において、角度測定は、ピクセルの読取り操作によって行われる。従って、ピクセルが存在する範囲内においてX線の検出を行う限りにおいては2次元X線検出器5を移動させる必要は無い。しかしながら、X線の検出を行おうとする領域がピクセルの存在領域を外れる場合には、2次元X線検出器5を希望する領域へ移動させる必要がある。そのために、本実施形態では、2次元X線検出器5は点G0を中心として回転移動できるようになっている。この2次元X線検出器5の回転移動軌跡が符号GC1で示す円であり、この円GC1の中心点が点G0である。円GC1はゴニオメータ円と呼ばれ、点G0はゴニオメータ円の中心点である。この場合、2次元X線検出器5によって計測する回折角度は中心点G0を中心としたゴニオメータ円GC1に沿った角度2θχである。
【0081】
なお、ゴニオメータ円は
図1に示すインプレーン方向(2θχ方向)に沿ったゴニオメータ円GC1に限られず、
図2に符号GC2で示すようにインプレーン方向(2θχ方向)に対して直角の方向(すなわち、アウトオブプレーン方向(2θ方向)にも考えられる。このアウトオブプレーン方向(2θ方向)のゴニオメータ円GC2の中心点も、インプレーン方向(2θχ方向)に沿ったゴニオメータ円GC1の中心点G0と同じ点である。
【0082】
本実施形態において、ピンホール部材4は、試料SのX線検出器5側の端面すなわち先端に接触若しくは密着して設けられるか、又はその端面の近傍に設けられている。そして、ピンホール15はゴニオメータ円GC1及びゴニオメータ円GC2の中心点G0上に設けられている。すなわち、ピンホール15は中心点G0を覆うように配置されている。あるいは、ピンホール15は中心点G0を含むように配置されている。
【0083】
ω軸線、φ軸線、2θ軸線及び2θχ軸線に関する各回転系16,17,19,18は、回転角度が高精度に制御可能な回転機(例えば、サーボモータ、パルスモータ)や、回転動力を伝達するウオームギヤ(ウオームとウオームホイールの組合せ)、等によって構成される。
【0084】
(インプレーン逆格子マッピング装置の動作)
図1及び
図2において試料Sを試料台3上に置く。試料Sは、例えば (Pb,La)TiO3/Pt/MgO のエピタキシャル薄膜が表面に形成された平板状物質である。試料Sの先端すなわち端面はピンホール部材4の側面に接触又は密着している。あるいは、試料Sの先端すなわち端面はピンホール部材4の側面の近傍に設けられている。次に、ω回転系16を作動させてX線入射角度ωを試料の全反射臨界角よりもわずかに小さい低角度に設定する。さらに、X線検出器5のインプレーン方向の角度を試料Sの薄膜内の結晶格子面に対応した所定角度に設定する。
【0085】
この状態でX線源FからX線を出射して、
図1の試料Sの斜線で示す領域をX線で照射する。薄膜内の格子面のうち所定の方位を向いているもので回折したX線はピンホール15を通過して2次元X線検出器であるX線検出器5に取り込まれる。ピンホール15によって回折X線R2に角度分解能が付与されているので、X線検出器5は既知のインプレーン回折角度のX線強度を検知する。このとき、2次元X線検出器5は平面的に配置された多数のピクセルによって複数の2θχ位置におけるX線強度を同時に検出する。
【0086】
1つのφステップ角度に関して以上の多数ポイントのX線強度検出を同時に検出した後、φ角度を所定のステップ幅で回転させて結晶格子面の方位を変化させる。そして、変化後の方位において再度、多数回の2θχ方向のX線強度を検出する。このX線強度の検出作業を所定の角度範囲のφステップに対して行う。2次元X線検出器5は必要に応じて中心点G0を中心としてゴニオメータ円GC1に沿って回転移動する。以上により、インプレーン逆格子マッピング測定が行われる。
【0087】
以上のようにして求めた多数の測定点におけるX線強度を公知の図形ソフトプログラムによって2次元図形化すると、
図3に示すような「2θχ対φ」のマッピング図形(すなわち、2θχ vs φ-mapping図形又は2θχ versus φ-mapping図形)が得られた。この「2θχ対φ」のマッピング図形を公知の変換ソフトプログラムによって逆格子空間座標に変換すると、
図4に示すような逆格子マッピング図形が得られた。この図形において、(3 −2 0)、(3 −1 0)、…のような数字は格子面の面指数を示している。
【0088】
図4に示す逆格子マッピング図形において、逆格子点の位置を観察することにより、試料Sの薄膜内の結晶構造を知ることができる。なお、
図3に示す回折線図形は、
図1においてX線検出器5をSC(シンチレーションカウンタ)のような0次元カウンタ(すなわち分解能を持たないカウンタ)に交換した上で、その0次元カウンタを実際に2θχスキャン移動させることによって求めることもできる。
【0089】
本実施形態においては、試料Sに密着若しくは接触したX線遮蔽部材としてのピンホール部材4、又は試料Sの近傍に設けたX線遮蔽部材としてのピンホール部材4によって回折X線R2同士の重なり合いを制限して、高い角度分解能を実現しているので、2次元X線検出器5によって各角度を正確に測定できる。2次元X線検出器5に替えて0次元X線検出器を用いた場合、直前位置にPSAを設けることによって回折X線R2に角度分解能を付与することも考えられるが、この場合にはPSAによってX線が減衰するおそれがある。これに対し、本実施形態では、試料Sの近傍にピンホール部材4を密着、接触等して設けることにより、
図1において試料Sの表面Saの広い領域(斜線で示す領域)から回折X線を取得できるので、X線検出器5へ強度の強い回折X線を供給できる。
【0090】
0次元カウンタを用いた場合は、測定時間として約13時間を必要とした。これに対し、本実施形態のインプレーン逆格子マッピング装置によれば、2次元X線検出器5によって多数のデータを一度に求めることができるので、測定時間は約1時間であった。測定条件をさらに適正化することにより、この時間はさらに15分程度までに短縮可能である。
【0091】
以上のように、本実施形態によれば、1枚の板部材であるピンホール部材4を試料台3に固着してピンホール15をゴニオメータ円GC1及びGC2の中心点G0上に設けるだけ、という非常に簡単な構成によって強度の強い回折X線を得ることができる。
【0092】
(変形例)
図1及び
図2に示した実施形態では、X線遮蔽部材としてのピンホール部材4の側面が試料Sの先端すなわち端面に接触又は密着するように、あるいはピンホール部材4の側面が試料Sの先端すなわち端面の近傍に位置するように、ピンホール部材4を試料台3に取り付けた。換言すれば、試料Sがピンホール部材4よりもX線検出器5側へ張り出すことのないように構成した。
【0093】
しかしながら、これに代えて、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、試料Sの表面Saにピンホール部材4の底面が接触又は密着するように、あるいはピンホール部材4の底面が試料Sの表面Saの近傍に位置するようにしても良い。ピンホール部材4は試料台3によって支持しても良いし、試料台3以外の部品によって支持しても良い。本変形例においては、試料Sの先端がピンホール部材4よりもX線検出器5(
図1及び
図2参照)側へ寸法δだけ張り出している。
【0094】
本変形例においても、ピンホール部材4によって回折X線の広がりと重なり合いが制限されて高い角度分解能が得られる。また、本変形例においても、試料Sの広い領域にX線を照射することによって回折X線の強度を高めることができ、その高強度の回折X線をピンホール15を通して高い効率で取り出すことができる。
【0095】
本変形例においても、ω軸線、2θ軸線、2θχ軸線及びφ軸線の交差点がゴニオメータ円GC1,GC2(
図1及び
図2参照)の中心点G0である。そして、ピンホール部材4はそのゴニオメータ円GC1,GC2の中心点G0を含む位置に設けられている。
【0096】
(X線回折装置の第2の実施形態)
図6及び
図7は本発明に係るX線回折装置の1つの実施形態であるインプレーン逆格子マッピング装置の他の実施形態を示している。
図6はインプレーン逆格子マッピング装置の平面図であり、
図7は
図6の側面図である。
図6及び
図7において、それぞれ、
図1及び
図2で示した部材及び機器と同じ部材及び機器は同じ符号で示すことにして、それらの説明は省略することにする。
【0097】
図1及び
図2に示した実施形態においては、X線通過口としてのピンホール15を備えた1枚の平らな板部材であるピンホール部材4をX線遮蔽部材として用いた。これに対し、
図6及び
図7に示す実施形態においては、X線通過口としての縦方向に長いスリット25を形成する一対の板部材24a,24bをX線遮蔽部材として用いている。板部材24a,24bはそれぞれ
図6に示すようにテーパ状に(すなわち傾斜状態で)配置されている。
【0098】
本実施形態においては、一対の板部材24a,24bによってゴニオメータ円GC1(
図6)の中心点G0上にスリット25が形成されている。そしてこのスリット25を通り抜けた回折X線だけがX線検出器5によって検出される。このため、インプレーン方向(すなわち2θχ方向)の角度分解能を生かした測定が可能である。より具体的には、φ軸線を中心とした試料Sのステップ回転と、X線検出器5のインプレーン方向(2θχ方向)に関するX線露光とを多数回繰り返すことによってインプレーン逆格子マッピングデータを短時間で取得できる。
【0099】
本実施形態において、ゴニオメータ円GC1,GC2の中心点G0からX線検出器5のX線受光窓までの距離L0はL0=150mmであり、X線検出器5のX線受光幅W0はW0=77.5mmである。また、スリット25のインプレーン方向(2θχ方向)の幅WはW=0.5mmである。一対の板部材24a,24bによって形成されるX線取込み角度βはβ=30°である。なお、このX線取込み角度βはX線検出器5のX線受光幅W0に応じて適宜に設定される。また、これらの具体的な寸法は、希望する測定条件に応じて適宜に変更できる。
【0100】
本実施形態においては、インプレーン方向(2θχ方向)の回折X線をX線検出器の走査ではなく1回の露光によって取得する。具体的には、1回の露光で角度30°分の2θχデータを取得できる。つまり、縦方向に長いスリット25によって回折X線同士の重なり合いを制限して良好な分解能を得ている。
【0101】
なお、本実施形態においてアウトオブプレーン方向の測定を行う場合は、
図7においてアウトオブプレーン方向(2θ方向)のゴニオメータ円GC2に沿った回折角度が計測される。この場合も、ゴニオメータ円GC2の中心点G0は
図6のインプレーン方向(2θχ方向)のゴニオメータ円GC1の中心点G0と同じである。
【0102】
(X線回折装置の第3の実施形態)
図8は本発明に係るX線回折装置のさらに他の実施形態であるGI−WAXS/SAXS装置(Grazing-Incidence Wide-Angle X-Ray Scattering/Small-Angle X-Ray Scattering:低角入射X線広角散乱/X線小角散乱装置)の一実施形態を示している。
【0103】
X線小角散乱法(X-ray Small-Angle Scattering)は、古くからナノメートルスケールの形状や大きさを評価する手法として知られている。また、試料表面すれすれにX線を入射し、試料表面すれすれに出射してきた(すなわち、低角度の)散乱X線を計数する手法としてGI−SAXS(Grazing-Incidence Small-Angle X-Ray Scattering/低角入射X線小角散乱)法が知られている。さらに、試料表面すれすれにX線を入射し、試料表面に対する高角度領域に出射してきた散乱X線を計数する手法としてGI−WAXS(Grazing-Incidence Wide-Angle X-Ray Scattering/低角入射X線広角散乱)法も有用な測定手法として知られている。
【0104】
GI−SAXS法は試料とX線検出器との間隔を大きく設定することによって実現できる。他方、GI−WAXS法は試料とX線検出器との間隔を小さく設定することによって実現できる。本明細書でGI−WAXS/SAXS装置と言う場合は、GI−WAXS法とGI−SAXS法の両方の測定を行うことができる装置という意味である。
【0105】
図8に示すGI−WAXS/SAXS装置31は、X線源Fと、試料台33と、X線遮蔽部材としてのピンホール部材34と、2次元X線検出器35とを有している。X線源Fは
図1及び
図2に示した実施形態で用いたX線源Fと同じラインフォーカスのX線を出射するX線源である。
【0106】
試料Sは試料台33上に載置されている。X線源Fは試料Sの表面Saすれすれの低角度ωで試料SへX線を入射させる。試料台33にはω回転系46が接続されている。ω回転系46は、試料Sに対するX線入射角ωを調整するために、試料台33をω軸線を中心として回転(すなわち、ω回転)させる。ピンホール部材34の底辺は試料Sの表面に接触又は密着している。あるいは、ピンホール部材34の底辺は試料Sの表面の近傍に設けられている。そして、ピンホール部材34の底辺の略中央にX線通過口としてのピンホール45が設けられている。
【0107】
本実施形態において、インプレーン方向の回折角度はインプレーン方向のゴニオメータ円GC1に沿って中心点G0を中心として計測される。また、アウトオブプレーン方向の回折角度はアウトオブプレーン方向のゴニオメータ円GC2に沿って中心点G0を中心として計測される。ピンホール45は、ゴニオメータ円GC1,GC2の中心点G0上、又はその近傍に設けられている。
【0108】
2次元X線検出器35には2θχ回転系48及び2θ回転系49が設けられている。2θχ回転系48は、中心点G0を通って
図8の上下方向へ延びる2θχ軸線を中心として2次元X線検出器35をゴニオメータ円GC1に沿って回転移動させる。また、2θ回転系49は、中心点G0を通って
図8の水平方向へ延びる2θ軸線を中心として2次元X線検出器35をゴニオメータ円GC2に沿って回転移動させる。
【0109】
測定を希望する領域が2次元X線検出器35のピクセル領域の範囲内である場合は、測定はX線検出器35を固定させた状態で行われる。他方、測定を希望する領域が2次元X線検出器35のピクセル領域の範囲を超えた場合には、2次元X線検出器35を必要に応じてゴニオメータ円GC1又はGC2に沿って回転移動させる。ピンホール部材34のピンホール45はゴニオメータ円GC1及びGC2の中心点G0上に配置されている。
【0110】
試料Sの表面Saすれすれの低角度ωで試料SにX線が入射すると、斜線で示す試料Sの広い面にX線が入射し、この面から試料Sの表面Saすれすれに散乱X線が出る。この散乱線のうちゴニオメータ円GC1,GC2の中心点G0の近傍を通過するものがピンホール部材34及びピンホール45によって選択されて2次元X線検出器35へ供給される。2次元X線検出器35は、試料面内方向(インプレーン方向)Qxy及び法線方向(アウトオブプレーン方向)Qzに関して散乱線強度を測定する。
【0111】
ピンホール45によって散乱X線又は回折X線が選択されるので、2次元X線検出器35に受け取られる散乱線又は回折X線の検出器上での広がりと散乱線同士又は回折X線同士の重なり合いが制限される。この結果、2次元X線検出器35上に分解能の高いX線像が得られる。
【0112】
また、斜線で示す試料Sの広い面で散乱又は回折したX線が集められて2次元X線検出器35へ送り込まれるので、2次元X線検出器35が受け取る散乱線等は強度が強い。そのため、2次元X線検出器35上に形成されるX線像は非常に鮮明である。
【0113】
本実施形態においても、1枚の板部材であるピンホール部材34を試料Sに対して接触若しくは密着して設ける、又は1枚の板部材であるピンホール部材34を試料Sの近傍に配置する、という非常に簡単な構成により、分解能の高い鮮明な回折X線像を2次元X線検出器35上に得ることができる。
【0114】
ところで、試料Sの配向性が強くなると、高次の反射(すなわち2θ又は2θχの高角度領域の反射)が見え難くなることがある。これは光学系が見込んでいる測定方位が実際の方位に対してズレることによるものである。この現象に対しては、
図9(c)に示すように、X線入射角度ωを高角度へ移動することによって適切な角度で測定を行うことにより、高次の反射を見え易くできる。このようにX線入射角度ωを高角度へ移行した場合には、GI−WAXS/SAXS測定というよりも、一般的なθ/2θ配置による測定が行われると考えられる。一般的なθ/2θ配置とは、試料から出たX線をX線検出器によって検出する角度(2θ)を、試料に対するX線の入射角度(θ)の常に2倍の大きさに維持した状態で測定を行う光学系の配置状態のことである。
【0115】
従来であれば、2次元回折像の測定を行う場合には、明瞭な逆格子点の像を得るために試料へ入射するX線をピンホールコリメータ等によって細く絞る必要があった。しかしながら、本実施形態によれば、ピンホール45及びピンホール部材35によって高い角度分解能が実現できるので、ラインフォーカスのX線を使用することが可能である。このことは、測定の効率性を高める上で非常に好ましい。
【0116】
(実施例1)
図15に示した従来のGI−WAXS装置においては、
図9(a)に示すように、2次元画像上での高角度領域に対応して試料上でのX線照射野が広がるために、回折X線が広がることになる。これを2次元画像上で見ると
図10に示すように高角度領域における回折線の広がりとなって視認される。
【0117】
これに対し、
図8に示す本実施形態のGI−WAXS/SAXS装置においては、
図9(b)に示すように、ピンホール部材34の働きにより2次元画像上での高角度領域であっても回折X線が広がることがない。さらに、
図8において試料Sの表面Saの斜線部の広い領域にX線が照射されるのでX線検出器35によって強度の強い散乱X線を検出できる。これらのため、X線検出器35の測定結果を2次元画像上で見ると
図11に示すように、高次の反射が得られていることが明確に識別できる。
【0118】
(実施例2)
図15の従来のGI−WAXS装置において、2次元X線検出器ではなく、分解能を持たない0(ゼロ)次元X線検出器であるシンチレーションカウンタを用いてペンタセン薄膜の測定を行った。この場合、シンチレーションカウンタを多数回スキャンさせて、数日間の測定時間をかけて測定を行った。その結果、
図12(a)に示すような2次元画像が得られた。
【0119】
次に、
図15に示すように、入射X線をコリメータによって細く絞り込み、分解能形成用開口としてのピンホールを備えたピンホール部材を使用しないで、同じ薄膜試料に関してGI−WAXS測定を行った。この場合、カメラ長100mmで30分程度の測定時間をかけて測定を行った。その結果、
図12(b)に示す2次元画像が得られた。この2次元画像においては、試料から出た散乱X線の強度が弱く、しかもその散乱X線に適正な角度分解能が付与されないので、回折線が広がり、回折X線同士が重なり合ってしまい、その結果、鮮明な散乱X線像が得られなかった。
【0120】
次に、
図8に示した本発明に係るGI−WAXS装置31を用いて同じ薄膜試料に関してGI−WAXS測定を行った。この場合、カメラ長を65mmとし、測定時間を30分とした。その結果、
図12(c)に示す2次元画像が得られた。本実施例においては、回折線の広がりと回折X線同士の重なり合いがピンホール部材によって適正に抑制されるので、
図12(c)に示す分解能の高いデータが得られた。つまり、
図8に示すように、ラインフォーカスのX線によって試料を広く照射して強度の強い散乱X線を発生させ、さらにピンホール部材34によって散乱X線に適正な角度分解能を付与すれば、従来であれば極めて長い時間をかけて取得していたデータを非常に短時間で得られることが分かった。
【0121】
(他の実施形態)
以上、いくつかの好ましい実施形態及び実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はそれらの実施形態等に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できるものである。
例えば、以上に説明した各実施形態ではX線源としてラインフォーカスのX線を用いたが、これに代えて、ポイントフォーカスのX線を用いることもできる。