特許第6656555号(P6656555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656555
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】金属皮膜形成品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/08 20060101AFI20200220BHJP
   B23K 26/073 20060101ALI20200220BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
   C23C24/08 B
   B23K26/073
   B32B15/04 Z
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-162702(P2016-162702)
(22)【出願日】2016年8月23日
(65)【公開番号】特開2018-31036(P2018-31036A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年5月27日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)発行者名:国立大学法人茨城大学工学部機械工学科 刊行物名:平成27年度茨城大学卒業論文発表会予稿 発行年月日:平成28年2月23日 (2)集会名:平成27年度茨城大学卒業論文発表会 開催日:平成28年2月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512136400
【氏名又は名称】株式会社 M&M研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和彦
(72)【発明者】
【氏名】前川 克廣
(72)【発明者】
【氏名】御田 護
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−127714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/08,26/00
B32B 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子と溶媒とを混合し、金属粒子分散液を作製する金属粒子分散液作製工程と、
前記金属粒子分散液を基材の表面に塗布して塗布膜を得る塗布膜形成工程と、
前記塗布膜にレーザ光を照射して前記金属粒子の焼結膜を得るレーザ光照射工程と、を有し、
前記レーザ光は、環状の集光部を有するリングビームと、前記リングビームの中心に、点状の集光部を有するスポットビームを有することを特徴とする金属皮膜形成品の製造方法。
【請求項2】
前記基材は、曲面体、多面体および球体からなることを特徴とする請求項1記載の金属皮膜形成品の製造方法。
【請求項3】
前記基材は、円柱状または中空円筒状の基材であり、
前記塗布膜形成工程において、前記基材の表面に前記金属粒子分散液を塗布し、前記円柱状または中空円筒状の基材の全周に沿って前記金属粒子分散液の塗布膜を形成し、
前記レーザ光照射工程において、前記レーザ光の前記環状の集光部が、前記円柱状または中空円筒状の基材の表面に設けられた前記塗布膜の全周に沿うように前記レーザ光を前記塗布膜に照射することを特徴とする請求項1記載の金属皮膜形成品の製造方法。
【請求項4】
前記基材は、中空円筒状の基材であり、
前記塗布膜形成工程において、前記基材の外側の表面および内側の表面に前記金属粒子分散液を塗布し、前記基材の外側の表面の全周および内側の表面の全周に沿って前記金属粒子分散液の塗布膜を形成し、
前記レーザ光照射工程は、前記レーザ光の前記環状の集光部が、前記中空円筒状の基材の外側の表面に設けられた前記塗布膜の全周に沿うように前記レーザ光を前記塗布膜に照射する工程と、前記レーザ光の前記環状の集光部が、前記中空円筒状の基材の内側の表面に設けられた前記塗布膜の全周に沿うように前記レーザ光を前記塗布膜に照射する工程と、を有することを特徴とする請求項1記載の金属皮膜形成品の製造方法。
【請求項5】
前記基材は、中空円筒状の基材であり、
前記塗布膜形成工程において、前記基材の外側の表面および内側の表面に前記金属粒子分散液を塗布し、前記基材の外側の表面の全周および内側の表面の全周に沿って前記金属粒子分散液の塗布膜を形成し、
前記レーザ光照射工程において、前記レーザ光の前記環状の集光部が、前記中空円筒状の基材の外側の表面に設けられた前記塗布膜の全周に沿うように前記レーザ光を前記塗布膜に照射し、前記レーザ光の前記点状の集光部が、前記中空円筒状の基材の内側の表面に設けられた前記塗布膜の全周に沿うように前記レーザ光を前記塗布膜に照射することを特徴とする請求項記載の金属皮膜形成品の製造方法。
【請求項6】
前記基材は、円柱状または中空円筒状の基材であり、
前記塗布膜形成工程において、前記基材の一端の外側の端面および側面に前記金属粒子分散液を塗布し、前記端面および前記側面の表面の全周に沿って前記金属粒子分散液の塗布膜を形成し、
前記レーザ光照射工程において、前記レーザ光の前記環状の集光部が、前記側面に設けられた前記塗布膜の全周に沿うように前記レーザ光を前記塗布膜に照射し、前記レーザ光の前記点状の集光部が、前記端面に設けられた前記塗布膜の全面に照射されるように前記レーザ光を前記塗布膜に照射することを特徴とする請求項記載の金属皮膜形成品の製造方法。
【請求項7】
前記金属粒子は、スズ、銅、金または銀のナノ粒子またはマイクロ粒子であることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の金属皮膜形成品の製造方法。
【請求項8】
前記基材は、ガラス、銅または銅合金であることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の金属皮膜形成品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属皮膜形成品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバコネクタ端末のハーメチックシール(はんだ接続やガラス封着による端末封止)部や、電気接点用金属端子表面への貴金属皮膜形成においては、断面形状が円形や多角形の基材の表面への部分的な金属皮膜形成が求められる。例えば、光ファイバコネクタにおいては、円筒形状のガラスファイバの端末に金膜を形成し、コバール合金などのシールリングと位置合わせし、はんだ接合や溶融ガラスにより封止される。また、電気接点用コネクタ端子では、オス端子は断面が円形のロッド形状であり、メス端子と接触する部分に、低接触抵抗の金膜を形成する。
【0003】
これら基材の表面に金属皮膜を形成するための従来技術としては、電気めっき法や化学めっき法(無電解めっき法)及び気相成膜法などがある。電気めっき法は主に導電性金属表面への成膜法であり、また化学めっき法は、金属表面や非導電性の樹脂表面へ成膜する方法として知られる。これらはいずれも湿式の成膜法である。一方、気相成膜法として実用されている方法には、蒸着やスパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)がある。湿式の電気めっき法や化学めっき法は、多くの化学薬品を使用し、また表面清浄化のために大量の水洗水を使用するため、河川などへの水質環境汚染の問題がある。気相成膜法は非湿式法であるため、上記湿式法の問題点は無いが、大型で高価な真空チャンバーを用いるなど、設備費用が嵩む問題がある。
【0004】
また、これら湿式法および化学気相法による成膜法の最大の課題は、基材への選択的な部分成膜が非常に困難なことにある。例えば、半導体デバイスにおいては、電極パッド接合部へのオンデマンド微小部めっき(必要とする箇所(微小部)にのみ、めっきすること)を行う場合、めっきマスクの形成や剥離など、成膜以外のプロセスがあり非常に高価となる。特に、気相成膜においては、部分成膜のためにメタルマスクを使用する方法があるが、マスクに付着した貴金属の回収が必要となる。また、光ファイバなどの基材がガラスの場合は、めっき表面を粗化した基板にパラジウム触媒を付着させて化学めっきを行う方法が用いられている。このような、湿式めっき法を用いた部分成膜においては、化学処理工程、洗浄工程および廃液処理工程などの各処理工程における設備(処理液、処理槽など)がそれぞれ必要となる問題もある。さらに、化学めっき法では、めっきレジスト膜からの微量の溶出物が、正常な化学めっき液反応を停止させることがあり、コストの面だけでなく、プロセス上も部分的なめっきが困難である。この他に、電気めっき法においては、基材の表面に部分的に金属皮膜を形成するためには、専用のめっきレジスト処理設備(例えば半導体プロセスにおけるフォトレジスト工程)と工程が必要となる。
【0005】
最近、上記湿式法および化学気相法による成膜法以外の成膜法として、金属ナノ粒子を用いて金属や非導電性材料の基材表面に金属皮膜を形成する方法が注目されている。この方法は、基材の表面に部分的に金属ナノ粒子インク(ペースト)を塗布してから、炉焼成やレーザ焼結法により、金属皮膜を基材上に部分的に形成する方法である。金属ナノ粒子ペーストはインクジェット印刷や、ディスペンサーによる部分塗布性に優れ、また金属の融点以下の低温で焼結できる特徴がある。特にレーザ焼結法は、炉焼成と比較して、1秒以下の時間で焼結でき、また焼結膜の膜質もボイドが少ない点で優れるなどの特徴がある。また、炉焼成法は通常230‐300℃の温度で、1時間程度加熱する必要があり、基材の酸化などの問題があるが、レーザ焼結法は、短時間で焼結が完結するために、基材の酸化が起りにくい利点がある。
【0006】
このレーザ焼結法は、金属ナノ粒子ペーストの光学特性を利用した成膜法でもある。レーザの波長には、金属ナノ粒子ペーストと基材に対して、最適な吸収率を持つ波長を選定することで、ボイドが無く、基材との密着性に優れた金属皮膜を基材上に形成することができる。照射されたレーザ光は、一部が金属ナノ粒子ペーストに吸収されるが、一部は基材まで透過して基材表面を加熱昇温することで、金ナノ粒子ペーストは基材表面から金属結晶へのバルク化を開始する。このために金属基材の場合、金属原子と金属ナノ粒子の相互熱拡散を、金属ナノ粒子のバルク化と同時に生起させ、界面での高い密着性を得ることができる。特に金属ナノ粒子に対してより吸収率が低い近赤外光の波長のレーザ光を照射することで、レーザ光を基板に吸収させて基板側から加熱、焼結を生起させ、焼結膜と基材との高い密着性を得ることができる。
【0007】
このような、乾式のレーザ焼結法によれば、電気めっきや化学めっき法のような、大型の設備が不要であり、また基材表面へのめっきマスクを形成することなく、局所的に皮膜できるため、貴金属などの使用量を低減でき、低コストで密着性の高い金属皮膜形成品を得ることができる。レーザ焼結法を用いた金属皮膜形成品の製造方法は、例えば下記特許文献1および非特許文献1に記載されている。
【0008】
特許文献1には、母材金属の表面に貴金属めっきを行う金属皮膜形成方法であって、前記母材金属の表面にレーザビームを照射して前記母材金属に形成されている不働態膜の分解除去を行う表面活性化工程、前記不働態膜の分解除去を行った前記母材金属の表面に貴金属ナノ粒子を溶媒に分散させた貴金属ナノ粒子分散液を塗布する貴金属ナノ粒子分散液塗布工程、前記母材金属の表面に塗布された前記貴金属ナノ粒子分散液にレーザビームを照射して前記貴金属ナノ粒子を焼結する貴金属ナノ粒子焼結工程を含むことを特徴とする金属皮膜形成方法である。
【0009】
また、上記特許文献1は、前記表面活性化工程の前に、前記母材金属の表面に撥液剤をコーティングする撥液剤コーティング工程を有し、前記表面活性化工程は、さらに、前記母材金属の表面にコーティングされた前記撥液剤を分解除去することにより前記貴金属ナノ粒子分散液の塗布領域を限定するものであることを特徴とする金属皮膜形成方法である。基材表面に分散剤を塗布し、その後レーザ照射によって撥水剤を部分的に除去することで、金属ナノ粒子分散液は撥水剤を除去した箇所に選択的に塗布することができ、基材への部分的な金属ナノ粒子レーザ焼結膜の形成が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5760060号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】前川克廣ら(2012). プリンテッドエレクトロニクス用レーザ焼結技術:銀ナノ粒子ペーストを用いた微細配線および機能性膜形成 エレクトロニクス実装学会誌, 15〔1〕, 96‐105.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以下に、本発明が解決しようとする課題を説明する。上述した特許文献1および非特許文献1で用いるレーザ線源は、いずれも基板に投影されるレーザビームの形状がスポットビームと呼ばれる円形のビームである。円形ビームの直径であるスポット径は、レーザの集光レンズの焦点における理論値で示される。スポットビームでは、エネルギー強度分布は、ビームの中心がよりエネルギーが高く、スポット外周に向かってエネルギーが低下するガウス分布となる。このスポットビームレーザを用いて、断面が円形や角形の基材表面に、部分的に金属ナノ粒子焼結膜を形成する場合、側面に対してレーザ光の照射を複数回に分けて実施しなければならず、その結果、焼結膜の膜厚および膜質が、焼結膜全体で均一にならないという課題があった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑み、金属粒子を含む分散液を基材の表面に塗布して塗布膜を形成し、該塗布膜にレーザ光を照射して金属粒子の焼結膜を得るレーザ焼結技術(レーザめっき技術)において、皮膜全体の膜厚および膜質が均一であり、かつ、皮膜と基材との密着性に優れた金属皮膜形成品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る金属皮膜形成品の製造方法は、上記目的を達成するため、塗布膜に照射するレーザ光として、環状の集光部を有するリングビームと、該リングビームの中心に、点状の集光部を有するスポットビームを有するレーザ光を用いる構成とした。
【0016】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば金属粒子を含む分散液を基材の表面に塗布して塗布膜を形成し、該塗布膜にレーザ光を照射して金属粒子の焼結膜を得るレーザ焼結技術において、皮膜全体の膜厚および膜質が均一であり、かつ、皮膜と基材との密着性に優れた金属皮膜形成品の製造方法および金属皮膜形成品を提供することができる。
【0018】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る金属皮膜形成品の製造方法の一例を示すフロー図である。
図2】本発明に係る金属皮膜形成品の製造方法の他の例を示すフロー図である。
図3図2のフローの一部(S21〜S23)を断面図とともに詳述するフロー図である。
図4A】リングビームの集光部とそのエネルギー密度分布を模式的に示す図である。
図4B】リングビームとスポットビームを組み合わせたビームの集光部を模式的に示す図である。
図5】塗布膜が形成された基材の一例を示す模式図である。
図6】塗布膜が形成された基材の他の例を示す模式図である。
図7】平板状基材と分散液の液滴を模式的に示す図である。
図8】本発明に係る金属皮膜形成品の一例(金属端子)を示す模式図である。
図9】実施例1におけるレーザ光の光学系を示す断面模式図である。
図10】実施例1におけるレーザ照射工程における純銅製端子(ロッド状端子)およびスズマイクロ粒子焼結膜を模式的に示す断面図である。
図11】実施例1におけるレーザ照射工程において用いる不活性ガス雰囲気セルを示す模式図である。
図12】実施例1における塗布膜形成工程後のロッド状端子を示す写真である。
図13A】実施例1におけるレーザ照射工程後のロッド状端子(基材の先端部)を示す写真である。
図13B】実施例1におけるレーザ照射工程後のロッド状端子(塗布膜の中央部)を示す写真である。
図13C】実施例1におけるレーザ照射工程後のロッド状端子(塗布膜の下部)を示す写真である。
図14図13Bの断面観察写真である。
図15】実施例2で作製した光ファイバの側面の観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0021】
[金属皮膜形成品の製造方法]
図1は本発明に係る金属皮膜形成品の製造方法の一例を示すフロー図であり、図2は本発明に係る金属皮膜形成品の製造方法の他の例を示すフロー図である。図1に示すように、本発明に係る金属皮膜形成品の製造方法は、金属粒子と溶媒を混合し、金属粒子分散液を作製する金属粒子分散液作製工程(S10)と、この金属粒子分散液を、基材の表面に塗布して、塗布膜を得る塗布膜形成工程(S11)と、塗布膜にレーザ光を照射して上記金属粒子の焼結膜を得るレーザ光照射工程(S12)とを必須の工程として有する。また、図2に示すように、塗布膜形成工程とレーザ光照射工程の間に、基材の表面に塗布した塗布膜を加熱して分散液に含まれる溶媒を乾燥除去する乾燥工程(S22)を有していても良い。以下、図2の乾燥工程を有するフロー図に沿って、各工程について詳述する。
【0022】
(1)金属粒子分散液作製工程(S20)
金属粒子分散液作製工程では、基材に形成する金属皮膜の原料となる金属粒子と、この金属粒子を分散させる溶媒を混合し、金属粒子分散液(インク)を得る。金属粒子分散液には、必要に応じて、粒子結合剤(バインダー)や粘度調整剤が更に添加されていてもよい。金属粒子としては、金属皮膜形成品の用途を考慮し、後述するレーザ光照射工程において焼結可能なものを選択することができる。具体的には、Sn(スズ)Cu(銅)、Au(金)およびAg(銀)のナノ粒子およびマイクロ粒子を用いることができる。金属ナノ粒子を用いる場合、市販されている平均粒径5〜30nm(5nm以上30nm以下)のナノ粒子を用いることができる。一般に、表面エネルギーの高い金属ナノ粒子を分散液中(溶媒中)で凝集することなく安定に保つために、金属ナノ粒子表面には、金属ナノ粒子と化学結合した有機化合物の単分子膜が形成されている。
【0023】
基材がレーザ光を吸収しないガラスファイバなどの透明な素材の場合、金属粒子として、基材の成分であるシリカでコーティングされたシリカコートナノ粒子を用いることができる。シリカの薄膜に覆われたシリカコートナノ粒子に近赤外光の波長のレーザ光を照射すると、シリカコートが破壊されてナノ粒子が焼結し、シリカコートを構成するシリカの焼結膜を介して、金属粒子焼結膜とガラスなどの基材が接合することが可能となり、高い密着性を得ることができる。
【0024】
また、金属粒子として、マイクロ粒子も用いることができる。ナノ粒子に分散剤を形成するためには特別な工夫が必要であるため、ナノ粒子を用いることは製造コストが上昇する一因となるが、マイクロ粒子には、ナノ粒子のような分散剤が不要であるため、製造コストを抑えることができる。
【0025】
さらに、マイクロ粒子を用いる場合、一回の塗布で形成可能な塗布膜の膜厚がナノ粒子を用いる場合と比較して大きいため、膜厚の大きい塗布膜を得る場合の塗布回数を低減することができ、コストを低減することができるという効果も得られる。ナノ粒子では、塗布膜厚を厚くするとレーザ照射前の乾燥において、溶剤が乾燥しきれず残るために緻密なレーザ焼結膜を得ることが困難である。これに対してマイクロ粒子では、粒子間の隙間が大きいために、乾燥が容易なことから、厚膜塗布が可能で一回の塗布で厚いレーザ焼結膜の形成が可能である。金属ナノ粒子では、一回の金属ナノ粒子インクの塗布で形成可能なレーザ焼結膜厚は0.5μm程度である。これに対して、例えば平均粒子径1μmの銅マイクロ粒子インクでは、最大20μmのレーザ焼結膜を一回の塗布で形成できる。
【0026】
マイクロ粒子の平均粒径は1〜3μmであることが好ましい。1μm未満では、上述した塗布回数の低減の効果を顕著に得ることができず、また3μmより大きいと、後述するレーザ光照射工程にて焼結させることが困難となる。
【0027】
上記金属マイクロ粒子を分散させる溶媒としては、特に限定は無いが、後述する乾燥工程の加熱処理(80〜150℃程度)において、容易に蒸発するものが好ましい。具体的には、エタノール(沸点:78.3℃)およびメタノール(沸点:64.5℃)等の有機溶媒が好ましい。
【0028】
分散液には、金属粒子および有機溶媒のほか、添加剤として粒子結合剤及び粘度調整剤を含むこともできる。これらの添加剤は、後述する乾燥工程(S22)の加熱処理で乾燥除去されるか、またはレーザ光照射工程(S23)において、完全に分解する低沸点(350℃以下)の溶媒や、低分子量(10,000以下)の有機化合物を用いることが好ましい。具体的には、粒子結合剤としてはエチルセルロース(分子量1,000〜3,000)を、粘度調整剤としてはデカノール(沸点:231℃)またはヒマシ油(沸点:313℃)を効果的に用いることができる。
【0029】
(2)塗布膜形成工程(S21)
図3図2のフローの一部(S21〜S23)を断面図とともに詳述するフロー図である。図3に示すように、作製した分散液を、基材1aに塗布して塗布膜2を形成する。塗布方法は、特に限定はなく、インクジェット法、ディップコート法およびディスペンサー法などの各種のインク塗布法を用いることができる。分散液の塗布量は、後述するレーザ光照射工程(S23)後に得られる焼結膜に必要とされる厚さに応じて決定する。また、塗布膜形成工程(S21)の前に、塗布エリアからの分散液の広がりを抑制するために、予め基材1aに撥水剤処理を施してもよい。撥水剤には、シリコーン系の離型剤のほか、フッ素系の離型剤も使用することができる。
【0030】
基材1aの形状としては、その表面の全周に沿って、後述するレーザ光照射工程で用いるリングビームを照射することが可能な形状を有するものが好適である。すなわち、リングビームの集光部の径を沿わせることが可能な表面を有する曲面体を好ましく用いることができる。このような形状を有する基材を用いるときに、本発明の効果を十分に発揮することができる。曲面体の基材として、より具体的には、円柱状(ロッド状)の基材、中空円筒状の基材(円柱状基材の内部が中空の基材)および円錐状の基材等を好ましく用いることができる。
【0031】
また、基材1aとして、四角柱などの多面体の基材を用いることもできる。多面体の基材の場合、基材表面の塗布膜の全周に沿ってリングビームを照射することはできず、基材の周に沿ってレーザが照射される部分とレーザが照射されない部分が生じるが、レーザが照射される部分からの熱伝導によって、レーザが照射されない部分の塗布膜も焼結される。この結果、上述した曲面体の基材と同様に、基材の表面に形成された塗布膜の全周において、膜厚および膜質が均一な焼結膜を得ることができる。さらに、基材1aとして球体の基材および平板状基材を用いることもできる。以下の説明では、基材1aを中空円筒状の基材とする。
【0032】
(3)乾燥工程(S22)
次に、塗布膜2を加熱して塗布膜2に含まれる溶媒を乾燥除去する。乾燥温度は、溶媒の沸点以上の温度で、分散液の沸点未満の温度(金属粒子の焼結が始まらない温度)が好ましい。乾燥温度を金属粒子の融点より高い温度(例えば、300℃以上)とすると、レーザ光照射前に分散液中の金属粒子が焼結する結果、レーザ光照射後に得られる焼結膜中にボイドが発生して緻密な焼結膜を得ることができず、この結果基材とレーザ焼結膜との密着性が低下する。
【0033】
乾燥後の塗布膜3の膜厚は、上述した塗布膜形成工程で用いる分散液の濃度、塗布する液量により調整することができる。インクの濃度が高く、塗布量が多いほど、乾燥後の塗布膜3の膜厚が大きくなる。
【0034】
(4)レーザ光照射工程(S23)
次に、塗布膜にレーザ光を照射して焼結膜を得る。本発明では、レーザ光として、環状の集光部を有する「リングビーム」を用いる。図4Aはリングビームの集光部とそのエネルギー密度分布を模式的に示す図である。図4Aに示すように、リングビームは環状の集光部80を有し、エネルギー密度はリングの外周側寄り(図4A中のA)もしくは内周側寄り(図4A中のB)にピークを持つ強度分布を有する。環状の集光部80内の同一円周内において、エネルギー密度は一定となることから、集光部80が基材表面に形成された塗布膜に沿うようにリングビームを照射すれば、塗布膜の全周において一定の強度のレーザ光を照射することができる。この結果、基材に形成された塗布膜の全周において、膜厚および膜質が均一な焼結膜を得ることができる。本発明において、焼結膜の均一な膜質とは、未焼結部がないこと、膜内部に介在するボイドが無いことおよびピンホールが無いことを意味する。
【0035】
図4Bはリングビームとスポットビームを組み合わせたビームの集光部を模式的に示す図である。図4Bに示すように、本発明では、レーザ光として、環状の集光部80を有するリングビームと、点状の集光部81を有するスポットビームを組み合わせて使用してもよい。スポットビームは、点状の集光部を有し、集光部の中央部が最も高いエネルギー密度を有する、ガウシアン分布型のエネルギー密度分布を有する点状の集光ビームである。このようなビームを用いる場合、中空円筒状の基材の外側の表面に形成された塗布膜と、内側の表面に形成された塗布膜を同時に焼結することができる。あるいは、基材の端面に形成された塗布膜と、基材の側面に形成された塗布膜を同時に焼結することができる。リングビームの出力とスポットビームの出力とは、独立して制御することができるため、基材の端面および側面の塗布膜を、それぞれ焼結するのに必要最小限の出力で焼結することが可能となる。この点について、実施例において詳述する。
【0036】
レーザ光としてリングビームではなく、スポットビームを用いる場合、曲面体、多面体および球体等の基材の表面に形成された塗布膜を焼結させるためには、基材の長さ方向に沿って複数回に渡ってレーザ光を照射(走査)する必要があるが、本発明者らは、このような場合に以下の課題を見出した。
【0037】
(1)円周方向に数回に分けてレーザを照射する必要があり、効率が悪い
(2)複数回に分けてレーザ照射したときの、境界部の膜質が異なるため、円周方向に均一な膜質が得られない
(3)複数回のレーザ照射による基材の機械的特性の変化や、酸化劣化などが起こる
(4)基材が金属の場合は、複数回のレーザ照射による金属組織変化(結晶粗大化、金属間化合物の成長など)や熱ダメージによる断線を生ずる
(5)基材が樹脂の場合は、熱ダメージによる変形や溶融断線、燃焼断線を生ずる
(6)基材がガラスや石英などの無機質の場合、溶融変形や断線を生ずる
(7)レーザビーム位置を固定して、基材を回転させて焼結する場合、基材を一回転させることでも円周方向に塗布した金属ナノ粒子膜の焼結は可能であるが、レーザ照射の開始と終了(一回転の始点と終点)の重なる点で焼結膜の不均一な点ができるので、円周方向で均一な膜は得られない。
上述したように、スポットビームを用いて曲面体、多面体および球体等の基材の全周を焼結する場合、2重にレーザ光が照射される箇所や、反対に、2重の照射を避けるようにして照射してレーザ光が照射されない箇所が生じ得る。このような事態が発生すると、基材に形成された塗布膜の全周において、膜厚および膜厚が均一な焼結膜を得ることが困難となる。
【0038】
また、基材を固定し、スポットビームを基材の一端から他端へ長手方向に沿って走査するか、または、スポットビームを固定し、基材を基材の長手方向に移動して照射する場合、スポットビームの中心部のエネルギー密度が極端に高く、周辺部のエネルギー密度が低いために、スポットビームのエネルギー密度が低い部分が照射される塗布膜を焼結させようとすると、基材のスポットビームの中心部が照射される部分が溶断する等の問題が生じる。この溶断を防ぐためには、エネルギー密度の高いガウシアン分布の中央部にフィルターを配置し、中央部のエネルギー密度を低下させるなどの工夫が必要になる。
【0039】
以上説明したように、従来のスポットビームを用いたレーザ焼結法により、曲面体、多面体および球体等の基材に部分的に金属皮膜を形成しようとすると、基材の表面の全周に対して同時にレーザ光を照射することができず、均一な膜厚および膜質を有する焼結膜を得ることができない。本発明者等は、スポットビームレーザ光を、レンズを用いてリングビームに成形することで、曲面体、多面体および球体等の基材の表面の全周を同時に焼結し、膜厚および膜質が均一なレーザ焼結膜を形成できることを見出し、本発明を完成した。リングビームを用いることで、基材の全周において均一なエネルギー密度を有するレーザ光を照射することができるため、上述したようなフィルターを配置する必要は無い。
【0040】
リングビームを得るために、図3のフローでは、基材1aへのレーザ光照射工程(S23b)の前に、スポットビーム4をリングビーム7に整形するレーザ光整形工程(ビーム整形工程)(S23a)を有している。リングビームが得られるビーム整形光学素子としては、サブマイクロメートルのピクセルに任意の位相情報を表示し、ビームを透過または反射させて波面形状を制御することができる空間光変調器などがあるが、素子が高価で、かつ高強度なレーザ光の照射で破損する恐れがある。そこで、アキシコンレンズ5と凸レンズ6から構成される光学系を用いてリングビーム7に整形することが好ましい。この光学系によって、高強度なレーザ光の照射やビーム幅の制御が可能となる。
【0041】
図5は塗布膜が形成された基材の一例を示す模式図であり、図6は塗布膜が形成された基材の他の例を示す模式図である。図5では、中空円筒状の基材1aの外側の表面に塗布膜2が形成されている。この場合、リングビーム7の集光部80の内径82と外径83の間に、基材1aの外側の表面に形成された塗布膜2が収まるよう、リングビーム7の位置、基材1aの位置および集光部80のサイズを調整する。
【0042】
リングビーム7を塗布膜2の全面に照射するために、基材1aまたはリングビーム7を移動して塗布膜2上を集光部80が走査されるようにする。基材1aとリングビーム7のどちらを移動してもよいが、基材1aを移動する方がより簡単で好ましい。基材1aの移動方向は、特に限定は無いが、塗布膜2の、基材1aの端部に重なる端部と反対側の端部(図5の10aの部分)から、塗布膜2の、基材1aの端部に重なる端部(図5の10bの部分)に向かう方向(図5の矢印の方向)とすることが好ましい。塗布膜2の塗布後に乾燥工程を有しない場合、塗布膜の端部10aから塗布膜が流れ、所望のサイズの焼結膜が得られなくなる恐れが生じるが、塗布膜2の端部10aから焼結することで、このような事態を防ぐことができる。
【0043】
図6では、中空円筒状の基材の内側の表面に塗布膜が形成されている。この場合、リングビーム7の集光部80の内径82と外径83との間に、基材1aの内側の表面に形成された塗布膜2が収まるよう、リングビーム7の位置、基材1aの位置および集光部80のサイズを調整する。このように、本発明では、円筒形状を有する基材1aの内側の表面にも、均一な膜質および膜厚を有する焼結膜を形成することができる。このように円筒形状の基材の内側に部分的に金属皮膜を形成することは、湿式法および化学気相法のよる成膜法では極めて困難である。基材1aの移動方向は、特に限定は無いが、図5の場合と同様に、塗布膜2の、基材1aの端部に重なる端部と反対側の端部10aから、基材1aの端部に重なる端部10bに向かう方向(図6の矢印方向)とすることが好ましい。
【0044】
基材が中空円筒状の部材であり、基材の外側の表面および内側の表面の両方に塗布膜を有する場合、図4Bに示すリングビームとスポットビームを組み合わせたレーザ光を用いれば、基材の外側の表面および内側の表面の塗布膜を同時に焼結することができる。すなわち、リングビームによって基材の外側の表面に形成された塗布膜を焼結し、スポットビームによって基材の内側の表面に形成された塗布膜を焼結することができる。基材の外側と内側とを同時に焼結することによって、製造時間を低減することができる。また、曲面体や多面体の基材の端面に塗布膜が形成されている場合、基材の端面に形成された塗布膜と、基材の側面に形成された塗布膜の両方を同時に焼結することができるため、製造時間を低減することができる。
【0045】
図7は平板状基材と分散液の液滴を模式的に示す図である。これまでは、中空円筒状の基材を用いた場合の効果について説明したが、以下に基材が平板状である場合の効果について説明する。図7に示すように、平板状の基材1bの表面に分散液を滴下して形成された液滴60の膜厚は、液滴60の周縁部62が中心部61よりも厚くなる。これは、中心部61より周縁部62の溶媒の乾燥が活発に起こり、分散液中の金属粒子が溶媒の乾燥が活発な周縁部に移動するためである(このような現象を、コーヒーリング現象またはコーヒーステイン現象と称される。)。本発明では、レーザ光照射工程において、レーザ光の環状の集光部が、液滴60の周縁62に重なるようにしてレーザ光を液滴60に照射することで、膜厚の厚い外周部に集中してレーザ光を照射できる。ガウシアン分布を持つスポットビームでは、中央部のエネルギー強度が高く、また外周部が低いために、外周部の完全な焼結膜が得られない。リングビームが直接照射されない中心部61は、リングビームが照射される周縁部62からの熱伝導によって焼結される。
【0046】
リングビーム7の波長は、800〜1200nmが好ましい。実用的なレーザ光源として、波長1064nmのネオジムヤグ(Nd:YAG)レーザや、波長532nmのYAGレーザの第2高調波、または波長915nmのレーザダイオード(Laser Diode;LD)レーザなどがあるが、金属粒子分散液に含まれる各々の金属粒子の光の反射、吸収および透過スペクトルデータや、基材1の光の反射および吸収スペクトルデータを考慮して選定することが好ましい。また、レーザ出力モードとして、定常波(CWレーザ)およびパルス波のどちらも使用することができるが、レーザ出力モードで焼結膜の物性が異なるので、金属粒子や基材1の種類に応じて選定することが好ましい。金属粒子としてマイクロ粒子を用いる場合、パルスレーザ光を用いることが好ましい。パルスレーザ光を用いたマイクロ粒子のレーザ焼結の詳細については、例えば、特許第5859075号に詳細に記載されている。
【0047】
上述した本発明に係る金属皮膜形成品の製造方法によれば、従来のめっきで必要であった化学処理、洗浄工程、廃液処理等が不要となり、金属皮膜の原料使用量の削減も期待できる。従来技術として、リングビームを用いた基材の溶接や熱処理については知られているが、リングビームを用いて基材上に金属皮膜(焼結膜)を形成することは、従来には無い新規な方法である。以下に、参考としてリングビームを用いた金属部材の加工に関する文献について記載する。
【0048】
参考文献1:特開2010‐194558号公報、参考文献2:特開2013‐75331号公報、参考文献3:特開2004‐291031号公報、参考文献4:特開2004‐291031号公報、参考文献5:荒谷雄(2014). はじめてのレーザ溶接(はじめての溶接シリーズ), 産報出版,84‐85.、参考文献6:レーザによる円筒形樹脂ノズルの溶着, 浜松工業技術センター研究成果事例集, 平成18年度発行(H17年度研究分), 32、参考文献7:レーザプラットフォーム協議会編(2010). レーザものづくり入門II‐装置導入からプロセス開発まで, 産報出版, 85−89.
【0049】
[金属皮膜形成品]
次に、上述した本発明に係る金属皮膜形成品の製造方法によって製造した金属皮膜形成品について説明する。図8は本発明に係る金属皮膜形成品の一例(金属端子)を示す模式図である。上述した本発明に係る金属皮膜形成品の製造法によって、図8に示す金属端子800(オス端子),801(メス端子)や、光ファイバのハーメチックシールを作製することができる。これらが有する金属皮膜9は、曲面体、多面体および球体の基材の表面に、溶融凝固組織を有する焼結膜が形成されたものであり、レーザ走査の境界部(レーザ照射を複数回実施した場合に生じる各走査間の模様)を持たない。金属皮膜が溶融凝固組織を有することおよびレーザ走査の境界部を持たないことは、顕微鏡観察によって確認することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明について、実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0051】
実施例1では、基材1cとして円柱形状の純銅端子(ロッド状端子、サイズ:φ0.8mm×25mm)を用い、基材の表面に金属皮膜としてスズ焼結膜を有する金属皮膜形成品を作製した。スズ粒子には、日本アトマイズ加工株式会社SFR−Snの錫マイクロ粒子(平均粒子径φ2.5μm)を用い、下表(表1)に示す組成のスズインク(スズペースト)を調整した。表1中、PVPは、塗布膜を均一にするための添加剤である。
【0052】
【表1】
【0053】
溶剤およびバインダーとスズマイクロ粒子との均一分散には、株式会社シンキー製撹拌機(AR−100)を使用した。この方法で調合したスズマイクロ粒子ペースト中に、アセトンおよびアルコール浸漬で順次脱脂した銅端子を浸漬し、垂直に引き上げる方法で、銅端子表面へのスズマイクロ粒子の塗布膜を形成した。銅端子の一方の端面および側面の一部に、塗布膜を形成した。塗布長さは10mmとした。その後、アズワン株式会社製の電気炉(MMF−2)を用い、80℃の温度で3分間加熱し、塗布膜中の溶剤成分を蒸発させ脱溶剤の錫マイクロ粒子膜を形成した。そして、すぐに波長1,064nmのCW(Continuous Wave Operation)Nd:YAGレーザ線源を用いたリングビームレーザにより、スズマイクロ粒子塗布膜の焼結を行った。
【0054】
図9は実施例1におけるレーザ光の光学系を示す断面模式図であり、図10はレーザ光照射工程における純銅製端子(ロッド状端子)およびスズマイクロ粒子焼結膜を模式的に示す断面図である。アキシコンレンズ5は、中央にφ1.8mmの開口部90を有し、中央部の開口部90を通ったレーザ光は、φ1.4mmのスポットビーム4となり、ロッド状端子1cの端面に照射される構成とした。このような構成によって、ロッド状端子1の端面および側面に塗布したスズマイクロ粒子塗布膜を同時に焼結することができる。本実施例では、スポットビーム径をφ1.4mmとしたが、これはφ0.8mmの純銅製端子に対して、位置合わせを容易にするためである。スポットビーム径は、アキシコンレンズ5の開口部90の径の他、凸レンズ6の焦点の調整によって変えることができる。図9に示すように、リングビームの集光部の外径は3mm、焦点部(集光部)のリングビームの長さは2mmとした。
【0055】
図9に示す光学系を用いて、レーザ走査速度4mm/s、出力30W、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス流量3L/min)の条件で焼結膜を形成した。本実施例では、ロッド状端子1cを下方に移動させる方法でリングビーム7を走査した。図11は、レーザ照射工程において用いる不活性ガス雰囲気セルを示す模式図である。図11に示すように、セル110は、不活性ガス(アルゴン等)流入部111と不活性ガス流出部112を有する。ロッド状端子1cをセル110の中央まで挿入し、セル上部に、レーザ光114を透過できる耐熱ガラス製の蓋113で密閉することで、不活性雰囲気中でレーザ光照射を行うことができる。
【0056】
図12は実施例1における塗布膜形成工程後のロッド状端子を示す写真である。また、13A〜Cは実施例1におけるレーザ照射工程後のロッド状端子を示す写真である。図13Aは、ロッド状端子1cの端面(先端部)を、図13Cはロッド状端子1cの焼結膜9aの端面側の端部と反対側の端部を、図13B図13A図13Cの間の領域の焼結膜9aを示す。また、図14図13Bの断面写真である。図12図14に示すように、本実施例では、ロッド状端子1c全周に、厚さ約30μmの均一なスズ焼結膜を得ることができた。
【0057】
得られた焼結膜に対して、アセトンを浸漬させた綿棒による摩擦試験を行ったところ、スズ焼結膜の剥離は見られなかった。また、上記スズ焼結膜と銅基板をはんだ付けし、その後引張試験を行ってはんだ付け性を評価した。はんだペーストには、千住金属工業株式会社製鉛フリーはんだペースト(S70G‐HF Type4,Sn‐Ag3.0‐Cu0.5)を使用した。引張試験の結果、引張荷重が約120Nで銅端子が破断し、はんだ接合部分には変化がみられなかった。このことから、本実施例において作製したスズ焼結膜は、良好なはんだ付け性を有することが示された。
【実施例2】
【0058】
実施例2では、基材1dとして中空円筒状の石英光ファイバ(サイズ:Φ125μm、長さ50mm)を用い、ハーメチックシールに必要な先端から6mmの長さ全周に、リングレーザビームを用いて金ナノ粒子焼結膜を形成した。金ナノ粒子インクには、ハリマ化成株式会社製金ナノ粒子ペースト(型番NPG−J、平均粒子径7nm)を用いた。石英ファイバへの金ナノ粒子ペーストの均一塗布性を得るために、0.1M/Lの塩酸水溶液(常温)に石英ファイバを10分間浸漬し、表面の均一活性化処理を行った。次に、光ファイバを金ナノ粒子ペーストに垂直に浸漬し、垂直に引き上げる方法により、ファイバ表面への金ナノ粒子ペースト塗布膜を形成した。浸漬時間は10分とした。金ナノ粒子ペーストの塗布厚さは、レーザ焼結後の金膜厚が0.2μmとなるように、専用希釈溶媒を用いてペーストの粘度を調節した。
【0059】
ハリマ化成株式会社製金ナノ粒子ペーストNPG−Jは、焼結後の膜厚残存率は10%であることから、0.2μm以上のレーザ焼結膜を得るために、3μmの塗布厚さとした。次に、レーザ焼結前に塗布膜中の余分な溶剤を除去する目的で、100℃で2分間の乾燥工程を行った。リングレーザビームによる金ナノ粒子塗布膜の焼結は、実施例1と同様の光学系を用い、下記の条件で行った。
【0060】
リングレーザビーム照射装置及び照射条件:
(1)レーザ線源;Nd:YAGレーザ照射装置
(2)焦点部リングビームの集光部外径;3mm(図9参照)、焦点部リングビーム長さ;2mm(図9参照)、中心部スポットビーム径;φ1.8mm(平凹レンズ2段、平凸レンズ2段によるリングビーム造形)
(3)照射方法;ファイバ移動速度0.5mm/s(ファイバを長手方向へ移動)
(4)レーザ出力;1.0W
(5)雰囲気;大気中
図15は実施例2で作製した光ファイバの側面の観察写真である。図に示すように、円周方向に均一な膜厚の焼結膜が得ることができた。
【実施例3】
【0061】
実施例3では、実施例1で用いた光学系のアキシコンレンズ5中央部に、スポットビーム形成のための開口部の無いレンズを用いて純銅製端子へのスズ焼結膜を形成する実験を行った。実施例3では、リングビームのみによるスズ焼結となるが、リングビーム照射部分からの熱伝導によって端面の塗布膜も焼結され、実施例1と同様に、端面および側面に均一な膜厚の錫焼結膜を形成できた。
【0062】
この理由を検証するために、スポットビームとリングビームそれぞれの出力を測定した。その結果、スポットビームは出力全体の1.3%程度であることが解った。このことから、実施例1では、実施例3と同様のスズ焼結膜形成ができたものと考えられる。スポットビームの出力が高すぎると、ロッド状端子の先端部が溶融してしまう。リングビームとスポットビームの併用による本発明の方法では、二つのビームの出力比率を変えることにより、最適な焼結膜を得ることができる。実施例1および3では、φ0.8mmの純銅端子を用いたが、より径の大きなロッド状端子の場合、スポットビームの出力を上げるために、開口部の径を広げるなどの工夫によって最適な焼結条件の選定が可能となる。
【0063】
以上、説明したように、本発明によれば、金属粒子を含む分散液を基材の表面に塗布して塗布膜を形成し、該塗布膜にレーザ光を照射して金属粒子の焼結膜を得るレーザ焼結技術において、皮膜全体の膜厚および膜質が均一であり、かつ、皮膜と基材との密着性に優れた金属皮膜形成品の製造方法および金属皮膜形成品を提供することができることが実証された。
【0064】
本発明によれば、光ファイバコネクタ端末のハーメチックシール(はんだ接続やガラス封着による端末封止)部や、電気接点用金属端子表面への貴金属被膜形成において、円柱形状、角柱形状、中空円筒状の基材の表面への部分的な金属皮膜形成が可能になる。さらに、断面が中空円筒状の内側の表面に均一な膜質のレーザ焼結膜を形成できることで、電気接点材料のメス型端子の製造も可能になる。
【0065】
また本発明の効果は、上述した物に限定されるものではなく、円柱形状、角柱形状、中空円筒状の基材の外側の表面や、中空円筒状の基材の内側の表面にレーザ焼結膜形成を必要とする、例えば半導体実装部品や、電子基板、あるいはその他の工業製品全般に適用が可能であり、これら産業分野の発展に寄与できる。
【符号の説明】
【0066】
1a,1b,1c,1d…基材、2…塗布膜、3,3a…乾燥後の塗布膜、4…スポットビーム、5…アキシコンレンズ、6…凸レンズ、60…液滴、61…液滴の中心部、62…液滴の周縁部、7…リングビーム、9,9a,9b…焼結膜、10a…塗布膜2の基材1aの端部に重なる端部と反対側の端部、10b…塗布膜2の基材1aの端部に重なる端部、10c…基材の端面に塗布された塗布膜、60…分散液の液滴、61…液滴の中心部、62…液滴の周縁部、80…リングビームの集光部、81…スポットビームの集光部、82…リングビームの内径、83…リングビームの外径、800…オス端子、801…メス端子、90…アキシコンレンズの開口部、100…金属皮膜形成品、110…セル、111…不活性ガス流入部、112…不活性ガス流出部、113…耐熱ガラス製の蓋、114…レーザ光。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図14
図15