(54)【発明の名称】吸水性繊維前駆体、吸水性不織布前駆体および吸水性不織布、ならびにこれらを含有するフェイスマスクおよび化粧水充填済みフェイスマスク、ならびにこれらの製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜3の技術はいずれも熱接着性繊維と吸水性繊維を混綿させたのちにカードウェブを形成させ、熱もしくは熱ローラーにより熱接着性繊維を溶融させて吸水性繊維と接着させるサーマルボンド加工を用いている。熱接着性繊維で接着された接着点では繊維同士の接着により毛羽の発生は起こりにくい。それ以外においては、繊維同士の交絡が少なく、毛羽が発生しやすくなってしまう。このためサーマルボンド加工を用いた不織布は、例えばフェイスマスクに利用する場合、毛羽立ちなどによって着用感が悪いといった問題点も有している。
【0008】
この点、スパンレース加工を採用できれば、水流交絡により繊維同士が絡まるために十分な強度を有し、かつ、毛羽も発生しにくい不織布を作製することが可能となるが、上述のように吸水性繊維において、かかる加工手段を採用することは困難であった。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は、フェイスマスク等に利用した際に、毛羽が少なく、着用感が優れた吸水性不織布前駆体および吸水性不織布、これらを含有するフェイスマスクおよび化粧水充填済みフェイスマスク、ならびにこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、吸水性繊維の塩型カルボキシル基量を少なくし、H型カルボキシル基量を多くすることで、吸水性能を抑制した状態とすれば、スパンレース加工が可能であることを見出した。さらにスパンレース加工後に陽イオンを発生させる化合物を作用させ、塩型カルボキシル基量を増加させることにより、不織布に吸水性能を持たせ、柔らかく、毛羽を少なくすることができ、着用感に優れたものが出来ることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明は以下の手段により達成される。
(1)
芯部分がアクリロニトリル系重合体である芯鞘構造を有し、0.1〜5.0mmol/gのH型カルボキシル基および0.5mmol/g未満の塩型カルボキシル基を有し、前記H型カルボキシル基量と前記塩型カルボキシル基量の合計が0.5mmol/g以上であり、吸水率が10〜1000質量%であり、かつ、カルボキシル基の中和度を50%に調整したときの吸水率が500〜50000質量%である吸水性繊維前駆体
を含有し、スパンレース加工構造を有することを特徴とする吸水性不織布前駆体。
(2)
吸水性繊維前駆体が架橋構造を有するものであることを特徴とする(1)に記載の吸水性
不織布前駆体。
(
3) 毛羽の数が下記の評価方法において10本以下であることを特徴とする
(1)または(2)に記載の吸水性不織布前駆体。
(評価方法)1辺10cmの正方形の範囲において、不織布表面から末端が突出しており、かつ、長さ3mm以上である毛羽の本数を目視にて測定する。同様の測定を別の任意の2箇所でも行い、全3箇所の測定結果の平均値を毛羽の数とする。
(
4) 吸水性繊維前駆体の含有率が10〜100%であることを特徴とする
(1)〜(3)のいずれかに記載の吸水性不織布前駆体。
(
5)
芯部分がアクリロニトリル系重合体である芯鞘構造を有し、かつ、0.5〜5.5mmol/gの塩型カルボキシル基を有する吸水性繊維を含有し、吸水率が500〜20000質量%であり、かつスパンレース加工構造を有することを特徴とする吸水性不織布。
(
6) 吸水性繊維の含有率が10〜100%であることを特徴とする
(5)に記載の吸水性不織布。
(
7) 吸水性繊維が架橋構造を有するものであることを特徴とする
(5)または(6)に記載の吸水性不織布。
(
8)
0.1〜5.0mmol/gのH型カルボキシル基および0.5mmol/g未満の塩型カルボキシル基を有し、前記H型カルボキシル基量と前記塩型カルボキシル基量の合計が0.5mmol/g以上であり、吸水率が10〜1000質量%であって、かつ、カルボキシル基の中和度を50%に調整したときの吸水率が500〜50000質量%である吸水性繊維前駆体を含有し、かつスパンレース加工構造を有する吸水性不織布前駆体、または
0.5〜5.5mmol/gの塩型カルボキシル基を有する吸水性繊維を含有し、吸水率が500〜20000質量%であり、かつスパンレース加工構造を有する吸水性不織布を有することを特徴とするフェイスマスク。
(
9) (
8)に記載のフェイスマスクに化粧水が充填されていることを特徴とする化粧水充填済みフェイスマスク。
(
10)
芯部分がアクリロニトリル系重合体である芯鞘構造を有し、0.1〜5.0mmol/gのH型カルボキシル基および0.5mmol/g未満の塩型カルボキシル基を有し、前記H型カルボキシル基量と前記塩型カルボキシル基量の合計が0.5mmol/g以上であり、吸水率が10〜1000質量%であって、かつ、カルボキシル基の中和度を50%に調整したときの吸水率が500〜50000質量%である吸水性繊維前駆体を含有するカードウェブをスパンレース法によって交絡させる工程を有することを特徴とする吸水性不織布前駆体の製造方法。
(
11)
0.1〜5.0mmol/gのH型カルボキシル基および0.5mmol/g未満の塩型カルボキシル基を有し、前記H型カルボキシル基量と前記塩型カルボキシル基量の合計が0.5mmol/g以上であり、吸水率が10〜1000質量%であって、かつ、カルボキシル基の中和度を50%に調整したときの吸水率が500〜50000質量%である吸水性繊維前駆体を含有するカードウェブをスパンレース法によって交絡させる工程、および、該工程を経て得られた吸水性不織布前駆体に陽イオンを発生させる化合物を作用させ、前記H型カルボキシル基の少なくとも一部を塩型カルボキシル基に変換させる工程を有することを特徴とする吸水性不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の吸水性不織布前駆体および吸水性不織布は、スパンレース加工で得られるものであるため、不織布が柔らかく、毛羽が少ないという特徴を有するものである。かかる特徴を有する本発明の吸水性不織布前駆体および吸水性不織布は、例えば、フェイスマスクとして、あるいは創傷被覆材などで利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の吸水性繊維前駆体は、0.1〜5.0mmol/gのH型カルボキシル基を有するものである。H型カルボキシル基量が0.1mmol/gに満たない場合、吸水性不織布前駆体とした後に、後述する陽イオンを発生させる化合物を作用させても、十分な吸水量を発現する吸水性不織布が得られないという問題が起こる恐れが高くなる。逆に5.0mmol/gを超えると吸水量が多くなりすぎてしまうために、スパンレース法によって不織布を形成することが困難になるという不都合が起こる。かかるH型カルボキシル基量は、0.5〜4.0mmol/gであることが好ましく、1.0〜3.5mmol/gであることがより好ましい。
【0014】
また、本発明の吸水性繊維前駆体は、0.5mmol/g未満の塩型カルボキシル基を有するものである。塩型カルボキシル基は、H型カルボキシル基に比べて格段に親水性が高いため、0.5mmol/g以上ではスパンレース法による不織布加工の際に吸水しすぎて、ゲル化してしまい、繊維同士の交絡や乾燥が困難になるという不都合が起こる。かかる塩型カルボキシル基量は、0.4mmol/g以下であることが好ましく、0.3mmol/g以下であることがより好ましい。さらに、塩型カルボキシル基を全く有さないものであってもよい。
【0015】
さらに、上述したH型カルボキシル基量と塩型カルボキシル基量の合計量は0.5mmol/g以上であり、好ましくは0.6mmol/g以上であり、より好ましくは0.7mmol/g以上である。0.5mmol/g未満の場合には、吸水性不織布前駆体とした後に、後述する陽イオンを発生させる化合物を作用させても、十分な吸水量を発現する吸水性不織布が得られないという問題が起こる恐れが高くなる。なお、かかる合計量は、上記のH型カルボキシル基量と塩型カルボキシル基量の範囲から理解されるように5.5mmol/gである。
【0016】
また、本発明の吸水性繊維前駆体は、吸水率が10〜1000質量%のものである。吸水率が10質量%に満たないと、後述するような方法で吸水性繊維に変換した際に十分な吸水量を有さない。また1000質量%を超えるとスパンレース法による不織布加工の際に吸水しすぎて、繊維同士の交絡や乾燥が困難になるという不都合が起こる。かかる吸水率は12〜700質量%あることが好ましく、15〜500質量%であることがより好ましい。
【0017】
また、本発明の吸水性繊維前駆体は、カルボキシル基の中和度を50%に調整したときの吸水率が500〜50000質量%であることを特徴とする。ここで、本発明において、カルボキシル基の中和度を50%に調整するとは、吸水性繊維前駆体の含有するカルボキシル基のうち、ナトリウム塩型カルボキシル基を50mol%とし、残りをH型カルボキシル基にすることをいう。中和度50%のときの吸水率が500質量%に満たない場合、十分な吸水性を発現する吸水性不織布が得られないという問題が起こる恐れが高くなる。逆に20000質量%を超えると吸水量が多くなりすぎてしまうために、後述するフェイスマスクなどに加工した際に装着部からずり落ちやすいなどの不具合が発生してしまう場合がある。かかる中和度を50%に調整したときの吸水率は、600〜48000質量%であることが好ましく、700〜45000質量%であることがより好ましい。
【0018】
さらに、本発明の吸水性繊維前駆体としては、その繊度が0.5〜15.0dtexであることが好ましい。繊度0.5dtex以上とすることで十分な強度が確保でき、スパンレース加工時の水流にも耐えることができて繊維の切断が生じにくい。一方、繊度が15.0dtex以下であれば、最終的に得られる吸水性不織布が皮膚に触れた際にゴワゴワした不快感をほとんど与えず、またシートの柔軟性が良好で、皮膚への密着性が良いものが得られやすい。
【0019】
さらに、本発明の吸水性繊維前駆体としては、繊維長が10〜200mmであることが好ましい。繊維長10mm以上とすることでスパンレース加工時の水流によって繊維同士が交絡しやすい。一方、繊維長が200mm以下であれば、カードウェブを作製する際のカード機を通過することが可能である。かかる繊維長は15〜170mmあることが好ましく、20〜150mmであることがより好ましい。
【0020】
上述した吸水性繊維前駆体としては、芯部分がアクリロニトリル系重合体であり、鞘部分がH型カルボキシル基を有するアクリル酸系重合体である芯鞘構造を有する繊維が代表的な例である。
【0021】
かかる芯鞘構造を有する繊維においては、鞘部分のアクリル酸系重合体のカルボキシル基がH型の状態であり、吸水性能が抑制されるため、スパンレース加工することができる。そして、後述するように、スパンレース加工の後に陽イオンを発生させる化合物を作用させ、鞘部分のH型カルボキシル基を塩型カルボキシル基とすることで、吸水性が上昇して膨潤する性能を発揮し、例えば、後述するように、化粧水を付与すれば、水分とともに十分な有効成分を安定に保持することができるようになる。
【0022】
また、芯部分はアクリロニトリル系重合体であり、該重合体は機械的強度が高いことから繊維を補強することができる。このため、吸水時において鞘部分の強度が低下しても繊維形態の保持と機械的強度を確保することができる。
【0023】
さらに、本発明の吸水性繊維前駆体としては、吸水時における繊維形態の保持と機械的強度の確保をより確実にするために、架橋構造を有するものであることが好ましい。
【0024】
上述の芯鞘構造を有する繊維は、アクリロニトリル系重合体でなる繊維(以下アクリロニトリル系繊維という)の表層部に対して、架橋導入処理と加水分解処理を施し、カルボキシル基を生成させ、次いで酸処理を施してH型カルボキシル基に変換することにより製造することができる。以下、かかる製造方法について詳しく説明する。
【0025】
まず、原料となるアクリロニトリル系繊維を構成するアクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリルを80質量%以上、好ましくは85質量%以上含む重合体が望ましい。共重合モノマーとしては塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン類:アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のエチレン系不飽和カルボン酸及びこれらの塩類:(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類:酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類:ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、P−スチレンスルホン酸等のエチレン系不飽和スルホン酸及びこれらの塩類:(メタ)アクリルアミド、シアン化ビニリデン、メタアクリロニトリル等のビニル化合物類等があげられる。かかる重合体を用いて公知の方法により、湿式紡糸等を行うことで、アクリロニトリル系繊維を得ることができる。
【0026】
次に、該アクリロニトリル系繊維にヒドラジン系化合物とアルカリ性金属化合物とを共存させた水性溶液を付着させ、加熱することによって、ヒドラジン系化合物による架橋の導入と加水分解を同時に行う。
【0027】
具体的には、ヒドラジン系化合物とアルカリ性金属化合物とを共存させた水性溶液を、前述のアクリロニトリル系繊維の乾燥質量に対する付着量が、アルカリ性金属化合物については1.0〜20.0meq/g、好ましくは2.5〜15.0meq/g、ヒドラジン系化合物については、N
2H
4純分換算で0.01〜2.0質量%、好ましくは0.05〜1.5質量%の範囲内になるように付着させた繊維を調整し、該繊維を80℃以上の温度で1〜120分間加熱、好ましくは100〜150℃の湿熱雰囲気下で5〜40分間加熱する手段を採用することが望ましい。
【0028】
ここで、乾燥繊維質量に対するヒドラジンの付着量が上記下限に満たない場合には、得られた芯鞘構造を有する繊維の吸水時のゲル強度が低くなるため、ゲルが脱落してしまう可能性がある。一方、上限を超えると、得られた芯鞘構造を有する繊維の吸水性能が不十分となる可能性がある。
【0029】
ここに使用するヒドラジン系化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硝酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン等が例示される。また、アルカリ性金属化合物とは、1.0質量%水溶液としたときのpHが7.5以上を示す物質をいい、かかる物質の例としては、Na、K、Li等のアルカリ金属の水酸化物または炭酸、酢酸、ギ酸等の有機酸のNa、K、Li等のアルカリ金属塩をあげることができる。また、水性溶液を作製する溶媒としては、工業上は水が好ましいが、アルコール、アセトン、ジメチルホルムアミド等の水混和性有機溶媒と水との混合溶媒でも良い。
【0030】
上述のようにして得られた芯鞘構造を有する繊維のカルボキシル基は、その大部分が、アルカリ性金属化合物に由来する陽イオンをカウンターイオンとする塩型カルボキシル基となっているので、さらに酸処理を行うことによって、塩型カルボキシル基をH型カルボキシル基に変換する。酸処理の方法としては、前述の芯鞘構造を有する繊維を酸性物質の水溶液に浸漬する方法や該繊維に該水溶液をシャワーする方法が挙げられる。ここで、酸性物質としては、硝酸、硫酸、塩酸、蟻酸などを挙げることができる。
【0031】
最後に、浸漬後の繊維を脱水、乾燥することにより、H型カルボキシル基に変換された芯鞘構造を有する繊維が得られる。
【0032】
本発明の吸水性不織布前駆体は、上述してきた吸水性繊維前駆体を含有するとともに、スパンレース加工構造、すなわちスパンレース法(水流交絡法)によって形成される繊維の絡み合いの状態を有する不織布であることを特徴とするものである。スパンレース加工における水流は、ニードルパンチ法のニードルのように不織布表面に大きく突き出すことが無いため、製造工程で不織布表面上に繊維が突き出されにくい。また、水流が微細で、かつその数も多いため、繊維同士の絡まりも強くなる。このため、スパンレース加工構造においては、毛羽の発生が少なくなる。
【0033】
かかる毛羽の発生については、本発明の吸水性不織布前駆体は、後述する評価方法において、好ましくは10本以下、より好ましくは8本以下、さらに好ましくは6本以下の毛羽を有するものである。毛羽の数が10本を超えると、例えば、吸水性不織布前駆体を用いて後述するような方法でフェイスマスクとしても、肌に装着した際にチクチクした不快感を与えてしまうという不都合が起こりやすくなる。また、フェイスマスクをはがした後に肌に毛羽が残りやすくなる。
【0034】
さらに、本発明の吸水性不織布前駆体は、上述した吸水性繊維前駆体の含有率が好ましくは10〜100%、より好ましくは20〜90%、さらに好ましくは30〜80%であることが望ましい。吸水性繊維前駆体を10%以上とすることで、フェイスマスクなどの用途においても、十分な含水量を得られやすくなり、実用性の点で優れたものとなるからである。
【0035】
また、本発明の吸水性不織布前駆体においては、必要に応じて、吸水性繊維前駆体以外の繊維を混用してもよい。ここで、混用することのできる繊維(以下、混用繊維ともいう)としては、パルプ、コットン、麻、シルク、およびウールなどの天然繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アクリル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどの熱可塑性ポリマーを用いた熱接着性繊維などを使用することができる。また、熱接着性繊維としては、融点の異なる2種類以上のポリマーを利用し、芯部に高融点、鞘部に低融点のポリマーを用いた芯鞘構造やサイドバイサイド構造などを使用することもできる。
【0036】
上述の混用繊維の繊度としては0.5〜3.0dtexの範囲が好ましい。0.5dtexに満たない場合には、不織布を作製する際のウェブ形成工程において、カード機での綿通過性が不良となる恐れがある。また、3.0dtexを超えると、フェイスマスク等に加工した際に、肌への密着性が乏しくなったりする懸念がある。かかる繊度は、より好ましくは、0.5〜2.7dtexの範囲である。
【0037】
また、本発明の吸水性不織布前駆体の目付けとしては、10〜100g/m
2であることが好ましい。目付け10g/m
2に満たないと不織布として十分な強度を有することができない可能性がある。また目付け100g/m
2を超えると吸水量が高くなりすぎてしまうために、不織布が重くなり、フェイスマスクとして用いた場合などに装着部よりはがれやすくなる。かかる目付けは、15〜80g/m
2であることがより好ましい。
【0038】
上述してきた本発明の吸水性不織布前駆体は、上述した吸水性繊維前駆体と、必要に応じて混用繊維を用いて、カードウェブを作製し、通常のスパンレース法で製造することができる。本発明に採用する吸水性繊維前駆体においては、塩型カルボキシル基量を少なくし、H型カルボキシル基量を多くすることで、吸水性能を抑制した状態となっているため、水流を用いても繊維のゲル化や脆化が抑えられ、スパンレース加工での不織布製造が可能となった。このようにして、スパンレース加工で製造された本発明の吸水性不織布前駆体は、熱接着点を有さずとも、十分な強度や形態安定性を有し、かつ、柔軟で毛羽の少ない不織布となる。
【0039】
また、混用繊維として熱接着性繊維を用いた場合には、スパンレース加工後に、熱ローラーもしくは熱風などで熱接着性繊維を溶融させ、繊維同士を接着させることでさらに強度や形態安定性が良く、毛羽の少ない不織布とすることも可能である。ただし、熱接着性繊維の含有率が高すぎると不織布が硬くなりすぎたり、保水量が不足したりする場合がある。このため、熱接着性繊維の含有率は、吸水性不織布前駆体に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下とする。また、上述の強度や形態安定性の向上効果を顕在化させるには、含有率を好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上とする。
【0040】
次に、本発明の吸水性不織布は、上述した吸水性不織布前駆体のH型カルボキシル基の少なくとも一部を塩型カルボキシル基に変換することにより作製することができる。変換する方法としては、吸水性不織布前駆体を陽イオンを発生させる化合物の水溶液中に浸漬させる方法や、吸水性不織布前駆体に陽イオンを発生させる化合物の水溶液やガスを吹きかける方法などが挙げられる。
【0041】
また、陽イオンを発生させる化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニアなどが挙げられる。
【0042】
かかる本発明の吸水性不織布は、変換前の吸水性不織布前駆体の構成に基づく特性を有するものであり、具体的には、0.5〜5.5mmol/gの塩型カルボキシル基を有する吸水性繊維を含有するものである。吸水性繊維の塩型カルボキシル基量が0.5mmol/gに満たない場合には十分な吸水量が得られないという問題が起こることがある。逆に5.5mmol/gを超えると吸水量が多くなってしまうために形成された不織布の形状や繊維の形状を維持することが困難であるという不都合が起こることがある。かかる塩型カルボキシル基量は、0.7〜5.0mmol/gであることが好ましく、1.0〜4.5mmol/gであることがより好ましい。
【0043】
また、本発明の吸水性不織布は、スパンレース加工構造を有することを特徴とするものである。上述したようにスパンレース加工構造においては、毛羽の発生が少なくなる。
【0044】
さらに、本発明の吸水性不織布は、吸水性繊維の含有率が好ましくは10〜100%、より好ましくは20〜90%、さらに好ましくは30〜80%である。また、吸水性繊維が芯鞘構造を有するものであることが好ましい。
【0045】
また、本発明の吸水性不織布をフェイスマスクに利用する場合などには、吸水量が低すぎると化粧水等を十分に維持できないため保湿効果が低くなり、吸水量が高すぎると装着部からずり落ちやすいなどの不具合が発生してしまう場合がある。このため、吸水性不織布の吸水率は、吸水性不織布に対して、好ましくは500〜20000質量%であり、より好ましく1000〜15000質量%である。
【0046】
上述してきた本発明の吸水性不織布前駆体および吸水性不織布は、種々の用途に利用できる可能性があり、例えばフェイスマスク、首、肩、手などに使用する美容シート、創傷被覆材、アトピー性皮膚炎などの乾燥肌を治療する貼付剤、吸水性パンツ用パッド、土壌保水シート、油水分離フィルターなどの部材として利用することができる。
【0047】
例えば、本発明の吸水性不織布前駆体を、顔を被覆するために適した形状に切り出すことで、フェイスマスクとして好適に利用できる。かかるフェイスマスクの構造としては、コストの面から本発明の吸水性不織布前駆体1枚からなる単層であっても良いが、他の不織布と積層し、2層以上の複数層で構成されていても良い。この場合、特徴の異なる不織布を積層することが好ましく、例えば、本発明の吸水性不織布前駆体を肌に触れる側に配し、その上にポリエステル不織布を積層した構造とすることで、不織布の強度が上がり、化粧水を取り込んだ湿潤状態であっても、折り曲げたり、開いたりといった取り扱いが容易となる。
【0048】
上記のようにして、本発明の吸水性不織布前駆体から作製されたフェイスマスクは、乾燥状態で販売され、消費者自身が化粧水をフェイスマスクに含浸させ、顔を被覆して使用することができる。この際、化粧水に含まれる炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウムなどのpH調整剤、ヒアルロン酸ナトリウムなどの保湿剤を含むアルカリ金属塩を有している陽イオンを発生させる化合物によって吸水性不織布前駆体のH型カルボキシル基が塩型カルボキシル基に変換され、吸水性不織布となり、後述する方法により求められる化粧水吸水率として1000質量%以上の十分な量の化粧水を保持することができるようになる。
【0049】
また、上記の乾燥状態のフェイスマスクを、例えばアルミパウチのような袋に入れた後、その袋の中に化粧水を充填し密封することで、予め化粧水を含浸させたフェイスマスクとして販売してもよい。この場合、消費者はかかる化粧水充填済みフェイスマスクを購入することで、自ら化粧水を含浸させることなく、そのまま使用することができる。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例中の部及び百分率は、断りのない限り質量基準で示す。実施例中の特性の評価方法は以下のとおりである。
【0051】
<全カルボキシル基量>
繊維試料約1gを、50mlの1mol/l塩酸水溶液に30分間浸漬する。次いで、繊維試料を、浴比1:500で水に浸漬する。15分後、浴pHが4以上であることを確認したら、乾燥させる(浴pHが4未満の場合は、再度水洗する)。次に、十分乾燥させた繊維試料約0.4gを精秤し(W1[g])、100mlの水を加え、さらに、15mlの0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液、0.4gの塩化ナトリウムおよびフェノールフタレインを添加して撹拌する。15分後、フェノールフタレインの呈色がなくなるまで0.1mol/l塩酸水溶液で滴定し、塩酸水溶液消費量(V1[ml])を求める。得られた測定値から、次式によって全カルボキシル基量を算出する。
全カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×15−0.1×V1)/W1
【0052】
<H型カルボキシル基量および塩型カルボキシル基量>
上記の全カルボキシル基量の測定方法において、最初の1mol/l塩酸水溶液への浸漬およびそれに続く水洗を実施しないこと以外は同様にして、H型カルボキシル基量を算出する。かかるH型カルボキシル基量を上記の全カルボキシル基量から差し引くことで、塩型カルボキシル基量を算出する。
【0053】
<前駆体繊維の吸水率>
試料約0.5gを純水中へ浸漬し、25℃に保ち30分間後、ナイロン濾布(200メッシュ)に包み、遠心脱水機(160G×5分、但しGは重力加速度)により繊維間の水を除去する。このようにして調整した試料の重量を測定する(W2[g])。次に該試料を80℃真空乾燥機中で恒量になるまで乾燥して重量を測定する(W3[g])。以上の測定結果から、次式によって算出する。
吸水率[%]=(W2−W3)/W3×100
【0054】
<中和度50%のときの吸水率>
試料となる繊維前駆体を、該繊維前駆体の全カルボキシル基量に対して中和度が50%となるように濃度を調整した炭酸ナトリウム水溶液中に30℃で1時間浸漬させ、取り出す。次いで、メタノールに浸漬させ、メタノールで水分を抽出することで水分を除いた後に絞り、開繊、乾燥することで中和度50%の繊維を得た。得られた繊維について、前項と同様にして吸水率を測定した。
【0055】
<芯鞘構造の確認>
試料をカチオン染料で染色処理した後、繊維断面を光学顕微鏡で観察する。芯鞘構造の場合、表層部と中心部で色の濃さや色相が異なっていることが確認できる。
【0056】
<毛羽の数>
不織布上の1辺10cmの正方形の範囲において、不織布表面から末端が突出しており、かつ、長さ3mm以上である毛羽の本数を目視にて測定する。同様の測定を別の任意の2箇所でも行い、全3箇所の測定結果の平均値を毛羽の数とする。
【0057】
<吸水性不織布の吸水率>
試料となる不織布前駆体を、表2に示す塩型カルボキシル基量となるように濃度を調整した炭酸ナトリウム水溶液中に30℃で1時間浸漬させ、取り出す。次いで、メタノールに浸漬させ、メタノールで水分を抽出することで水分を除いた後に絞り、開繊、乾燥することで吸水性不織布を得た。該不織布約0.5gを純水中へ浸漬し、25℃に保ち30分間後、ナイロン濾布(200メッシュ)に包み、遠心脱水機(160G×5分、但しGは重力加速度)により繊維間の水を除去する。このようにして調整した試料の重量を測定する(W4[g])。次に該試料を80℃真空乾燥機中で恒量になるまで乾燥して重量を測定する(W5[g])。以上の測定結果から、次式によって算出する。
吸水率[%]=(W4−W5)/W5×100
【0058】
<繊度>
試料を20℃×65%RH雰囲気下の恒温恒湿器に24時間入れておく。このようにして調湿させた繊維をJIS L 1015:2010の正量繊度A法に準じて測定する。
【0059】
<繊維長>
試料を20℃×65%RH雰囲気下の恒温恒湿器に24時間入れておく。このようにして調湿させた繊維をJIS L1015:2010の平均繊維長ステープルダイヤグラム法(A法)に準じて測定する。
【0060】
<目付け>
試料を10cm×10cmに切り出した後、105℃2時間乾燥させ、試料の重量(W6[g])を測定する。以上の結果から、次式によって算出する。
目付け[g/m
2]=W6/(0.1×0.1)
【0061】
[製造例1]
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、水洗、延伸、乾燥、捲縮付与、熱処理、カットを経て、原料となるアクリロニトリル系繊維を得た。次に、かかるアクリロニトリル系繊維にヒドラジン0.13%および水酸化ナトリウム35.0%を含む混合水溶液を付着させた後、繊維質量に対する吸液量が100%になるように絞り、106℃×15分間架橋加水分解処理を行い、水洗した。水洗後の繊維を0.1%硫酸水溶液に30℃×1時間浸漬した後、脱水し、油剤を付与し、脱水、開繊、乾燥することで、吸水性繊維前駆体Aを得た。該繊維前駆体の評価結果を表1に示す。
【0062】
[製造例2]
製造例1において、架橋加水分解処理の条件を100℃×5分間とすること以外は同様にして、吸水性繊維前駆体Bを得た。該繊維前駆体の評価結果を表1に示す。
【0063】
[製造例3]
製造例1において、架橋加水分解処理の条件を109℃×30分間とすること以外は同様にして、吸水性繊維前駆体Cを得た。該繊維前駆体の評価結果を表1に示す。
【0064】
[製造例4]
製造例1において、架橋加水分解処理の条件を109℃×10分間とすること以外は同様にして、吸水性繊維前駆体Dを得た。該繊維前駆体の評価結果を表1に示す。
【0065】
[製造例5]
製造例1における「0.1%硫酸水溶液に30℃×1時間浸漬した後の繊維」を水洗し、該繊維の全カルボキシル基量に対して0.6当量の炭酸ナトリウムを含有する水溶液を加え、30℃で1時間浸漬させる。次いで、紡績油剤を含むメタノールに浸漬することで脱水し、絞った後に、開繊、乾燥することで、製造例5の吸水性繊維前駆体Eを得た。該繊維前駆体の評価結果を表1に示す。
【0066】
[製造例6]
製造例1に示すアクリロニトリル系繊維を原料とし、水加ヒドラジン0.5質量%および水酸化ナトリウム2.0質量%を含有する水溶液中で、100℃×2時間、架橋導入処理および加水分解処理を同時に行い、8質量%硝酸水溶液で、100℃×3時間処理し、水洗、乾燥することにより、製造例6の吸水性繊維前駆体Fを得た。該繊維前駆体の評価結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
[実施例1〜4]
各吸水性繊維前駆体とアクリル繊維(繊度0.9dtex、繊維長51mm)を表2に示す含有率となるように混合してカードウェブを作製し、該カードウェブにスパンレース加工を施して各実施例の吸水性不織布前駆体を得た。得られた不織布前駆体の特性を表2に示す。
【0069】
なおスパンレース法は川之江造機株式会社製の多目的不織布製造装置を使用し、ウォータージェットのノズルは0.1mmφ×1mmピッチのものを3本使用した。3本のノズルの水圧はそれぞれ、1本目2MPa、2本目5MPa、3本目5MPaとし、表裏両面からウォータージェットを打つことで、水流交絡により不織布を得た。
【0070】
[比較例1〜2]
実施例1において、吸水性繊維前駆体Aの代わりに、吸水性繊維前駆体E、Fを用いること以外は同様にして、比較例1、2の吸水性不織布前駆体を得た。これらの不織布前駆体の評価結果を表2に示す。比較例1については、吸水性繊維前駆体Eの塩型カルボキシル基量が多いためにスパンレースの際に吸水しすぎてしまい、不織布を得ることができなかった。また、比較例2については、吸水性繊維前駆体Fの製法から架橋構造が多く導入されていると考えられ、このため吸水率の低いものとなった。
【0071】
[比較例3〜4]
各吸水性繊維前駆体と熱融着繊維(芯部分がポリプロピレン、鞘部分がポリエチレンの芯鞘繊維、繊度2.2dtex、繊維長51mm)を表2に示す含有率となるように混合してカードウェブを作製し、該カードウェブを加熱ロールを用いて160℃で加熱することによりサーマルボンド法による吸水性不織布前駆体を得た。得られた不織布前駆体の特性を表2に示す。表2に示すようにサーマルボンド法で得た不織布前駆体は、スパンレース法で得た不織布前駆体と比較し、毛羽の発生が多いものとなった。
【0072】
[比較例5]
吸水性繊維前駆体とアクリル繊維(繊度0.9dtex、繊維長51mm)を表2に示す含有率となるように混合し、カードウェブを作製して、該カードウェブをニードルパンチ法で吸水性不織布前駆体に加工した。得られた不織布前駆体の特性を表2に示す。表2に示すようにニードルパンチ法で得た不織布前駆体は、スパンレース法、サーマルボンド法で得た不織布前駆体と比較し、さらに毛羽の発生が多いものとなった。
【0073】
【表2】
【0074】
以上のように、実施例1〜4ではいずれも毛羽が少なく、良好な吸水率を示すものであった。一方、比較例1では塩型カルボキシル基量が多いためにスパンレースの際に吸水性繊維前駆体が吸水しすぎてしまい、不織布を得ることができなかった。比較例2では吸水性前駆体の架橋構造が過多であり、吸水率が不十分となった。また、比較例3、4では毛羽が多く、比較例5ではさらに毛羽が多いものとなった。
【0075】
[実施例5]
化粧水(株式会社資生堂「肌水 ナチュラルスキンローション 青ラベル」)30gに、陽イオンを発生させる化合物として、10質量%炭酸ナトリウム水溶液0.60gを加え、10分間撹拌して化粧水混合液を調整する。次に、乾燥した実施例1の吸水性不織布前駆体を約0.6gとなるようにカットして、精秤(W1[g])する。かかる不織布前駆体を前記化粧水混合液に浸漬し、室温で3日間放置することで化粧水を吸水させる。次に、化粧水を吸水させた不織布を吊り下げた状態で5分間放置することで、水滴が落ちなくなった状態とし、重量を測定する(W2[g])。得られた測定値から次式により化粧水吸水率を算出したところ、2220%であり、十分な化粧水吸水率を有するものであった。
化粧水吸水率[%]=(W2−W1)/W1×100
【0076】
[実施例6]
実施例5において、10質量%炭酸ナトリウム水溶液を加えないこと以外は同様にして、化粧水吸水率を算出したところ、1550%であった。陽イオンを発生させる化合物である炭酸ナトリウムを加えなかったことから、実施例5ほどの化粧水吸水率には達しなかったが、化粧水がもともと含有している陽イオンを発生させる化合物のみでも、化粧水吸水性能を発現できることがわかる。