【文献】
Biochemical and Biophysical Research Communications, 2006, Vol.343, pp.470-474
【文献】
J. Controlled Release, 2010, Vol.145, pp.40-48
【文献】
日本超音波医学会学術集会プログラム・講演抄録集 Japanese Journal of Medical Ultrasonics Vol.38, Supplement,(社)日本超音波医学会 千田 彰一,第38巻,S309,第S309頁下欄84-基-008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パルス波期間は、複数のバブルが凝集したクラウドを形成するための、前記クラウドを形成し得る音圧を有するクラウド形成用超音波が送信されるクラウド形成期間、及び、前記クラウド形成期間に後続する期間であって、前記クラウドに含まれる複数のバブルを圧壊させるための、前記クラウド形成用超音波の音圧よりも大きい音圧であって、前記クラウドに含まれる複数のバブルを圧壊し得る音圧を有するクラウド圧壊用超音波を送信するクラウド圧壊期間を含む、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のソノポレーション用超音波送信装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バブルに対して超音波を送信すれば、当該バブル近傍に位置する生体細胞にも超音波が照射されることになる。バブルを圧壊し得る程の音圧を有する超音波は、生体細胞に対して少なからずの音響エネルギ(これは超音波の音圧の2乗値を送信時間積分した値に比例する)を与える。生体細胞は超音波から大きな音響エネルギを受けることによってダメージを受け得る。生体細胞は、このようなダメージにより死滅することさえあると考えられる。
【0008】
ソノポレーション実施後において、生体細胞が引き続き生存し、かつ、生体細胞が目的の働きを達成できることが重要である。ソノポレーションの実施により生体細胞が損傷を受けて正常な働きを失ったり、あるいは活動を止めてしまったりしてはソノポレーションを実施する意味がない。したがって、ソノポレーションの実施にあたっては、生体細胞へ与えるダメージを低減させながら、生体細胞内へ導入物質を導入することが重要になる。
【0009】
本発明の目的は、ソノポレーションの実施にあたり、生体細胞へ与えるダメージを低減させることにある。あるいは、本発明の目的は、ソノポレーションの実施にあたり、生体細胞へ与えるダメージを低減させつつ、生体細胞内への導入物質の導入効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る超音波送信装置は、ターゲット生体細胞の周囲に存在するバブルに対してソノポレーション用の超音波を送信する超音波発生部と、前記超音波を規定する送信シーケンスを生成するシーケンス生成部と、を備え、前記送信シーケンスは、時間軸方向に並んだ複数の送信期間、及び、隣り合う2つの前記送信期間の間の期間であって前記超音波の送信を停止させる停止期間を含み、前記各送信期間は、前記時間軸方向に並んだ複数のパルス波期間、及び、隣り合う2つのパルス波期間の間の期間であって前記超音波の送信を小休止させる小休止期間を含み、前記各パルス波期間において前記バブルに対して前記超音波が送信され、
周波数に対する体積振動量を表す前記バブルの振動応答特性において、前記体積振動量が最大振動量を示す共振周波数より低い周波数領域における単位周波数当たりの前記体積振動量の変化量よりも、前記共振周波数より高い周波数領域における単位周波数当たりの前記体積振動量の変化量が大きいことに応じて、前記超音波が有する前記超音波の中心周波数を中心とする周波数帯における信号成分の前記バブルの振動への寄与量が大きくなるように、前記超音波の
中心周波数
が、前記バブルの
前記共振周波数の近傍の周波数であって、前記バブルの
前記共振周波数よりも低い周波数
に設定される、ことを特徴とする。望ましくは、前記停止期間は前記小休止期間よりも長い期間である。
【0011】
上記構成によれば、巨視的に見ると、送信期間においてソノポレーション用の超音波が送信され、その後の停止期間において超音波の送信が停止され、次の送信期間において再度超音波が送信されるというシーケンスが形成される。個々の送信期間内を微視的に見ると、送信期間全部において連続してソノポレーション用の超音波が送信されるわけではなく、パルス波期間においてのみ超音波が送信され、小休止期間においては超音波の送信が停止される。つまり、送信期間内において間欠的に超音波が送信されることになる。
【0012】
超音波は、ある程度の音圧を有していればバブルを圧壊することができる。ソノポレーション用の超音波がバブルを圧壊し得る程度の音圧を有していることを前提とすれば、バブルの圧壊は確率現象であり、圧壊に至るまでの超音波の送信期間はバブルによって区々である。しかし、ある一定の期間超音波を連続送信すれば、十分な確率においてバブルを圧壊できる。つまり、バブルを圧壊させるには当該一定の期間のみ連続して超音波を送信すれば足り、それ以上の連続送信は生体細胞に余分なダメージを与えることになり得る。したがって、本送信シーケンスにおいては、送信期間においてソノポレーション用の超音波を間欠的に送信させる、つまり超音波を連続送信する時間を短くすることで、音響エネルギを時間的に集約し、バブルを十分に圧壊させつつ、生体細胞へ与えるダメージを低減させている。
【0013】
望ましくは、前記パルス波期間は、複数のバブルが凝集したクラウドを形成するための
、前記クラウドを形成し得る音圧を有するクラウド形成用超音波が送信されるクラウド形成期間、及び、前記クラウド形成期間に後続する期間であって、前記クラウドに含まれる複数のバブルを圧壊させるための
、前記クラウド形成用超音波の音圧よりも大きい音圧であって、前記クラウドに含まれる複数のバブルを圧壊し得る音圧を有するクラウド圧壊用超音波を送信するクラウド圧壊期間を含む。
【0014】
例えばバブルを圧壊させない程度の音圧の超音波がバブルに送信されると、バブルは圧壊しないまでも体積振動する。これによりバブルから超音波が放出される。複数のバブルが放出した複数の超音波が互いに干渉し合うことにより、複数のバブル間には、secondary Bjerknes forceと呼ばれる引力あるいは斥力が生じる。このsecondary Bjerknes forceにより、複数のバブルは凝集しクラウドと呼ばれる複数のバブルの凝集体が形成される。
【0015】
パルス波期間のうち、クラウド形成期間においてクラウド形成用超音波をバブルに送信することで、複数のバブルを凝集させてクラウドを形成させる。その後、クラウド圧壊期間においてクラウド圧壊用超音波を送信することにより、形成されたクラウドに含まれる複数のバブルを一気に圧壊する。クラウドに含まれる複数のバブルを一気に圧壊させることで、個々のバブルが単独で圧壊するときよりも、より強い衝撃波、あるいはより強いマイクロストリームを生じさせることができる。これにより、細胞膜により大きな孔を開けることができ、導入効率を向上させることができる。上記処理をパルス波期間内において実行することで、生体細胞へ与えるダメージを低減させつつ、導入効率を向上させることができる。
【0017】
望ましくは、前記クラウド圧壊用超音波は、前記クラウドの共振周波数に基づいて設定される周波数を有する。
【0018】
形成されたクラウドに含まれる複数のバブルをより好適に圧壊させるためには、クラウドに含まれる複数のバブルをより大きく振動させる必要がある。クラウドはバブルの凝集体であるため、バブル単体に比して体積が大きくなっている。このために、クラウドの共振周波数はバブル単体の共振周波数よりも低くなる。したがって、形成されたクラウドの共振周波数に基づいてクラウド圧壊用超音波の周波数を定めることで、クラウドに含まれる複数のマイクロバブルをより好適に振動させて圧壊させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ソノポレーションの実施にあたり、生体細胞へ与えるダメージを低減させることができる。あるいは、本発明によれば、ソノポレーションの実施にあたり、生体細胞へ与えるダメージを低減させつつ、生体細胞内への導入物質の導入効率を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態に係る超音波送信装置について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
図1には、本実施形態に係るソノポレーション用超音波送信装置10の構成概略図が示されている。
【0023】
超音波発生器12は、電圧が加えられると歪みを生じる圧電素子を含んで構成される。圧電素子は、送信回路14から供給される電圧信号であるパルス波により振動させられ、それにより超音波18を生じさせる。超音波発生器12は、送信回路14からのパルス波の特性(電圧、周波数など)に応じた特性の超音波18を生じさせる。
【0024】
後述のように、超音波発生器12が生じさせた超音波18は、例えばシャーレなどの容器20内に収容されているターゲット生体組織においてソノポレーションを生じさせるために、容器20に対して送信される。つまり、超音波18はソノポレーション用超音波である。なお、本実施形態においては、ソノポレーション用超音波送信装置10は、in vitroにおいてソノポレーションを生じさせるが、本実施形態はin vivoにおいても適用可能であり、それが本技術の究極的な目的である。
【0025】
送信回路14は、超音波発生器12を駆動するためのパルス波を生成して超音波発生器12に供給するものであり、発振回路22、及び増幅回路24を含んで構成されている。
【0026】
発振回路22は、超音波発生器12を駆動するためのパルス波を生成する。パルス波は、例えば所定の周波数を有する正弦波あるいは方形波などである。発振回路22は、制御部16から送られる制御信号に従ったタイミングでパルス波を出力あるいは停止する。制御部16によるタイミング制御により、パルス波が出力される期間とパルス波の出力が停止する期間とが組み合わされた送信シーケンスが生成される。
【0027】
制御部16から送られる制御信号は、発振回路22から出力されるパルス波の周波数を指示する信号を含んでいる。この場合は、発振回路22は、制御部16からの制御信号が示すタイミングにおいて、制御信号が示す周波数に出力するパルス波の周波数を切り替える。これにより、送信シーケンス内の所望のタイミングにおいてパルス波の周波数が変更される。なお、この周波数切替は後に説明する変形例において用いられる。
【0028】
増幅回路24は、例えば増幅回路などであり、発振回路22が出力したパルス波の電圧振幅の変更を行う。増幅回路24は制御部16からの制御信号が示す電圧振幅へパルス波の電圧振幅を変更する。また、制御部16からの制御信号が示すタイミングにおいてパルス波の電圧振幅を変更する。これにより、送信シーケンス内の所望のタイミングにおいてパルス波の電圧振幅が変更される。この電圧振幅切替も後に説明する変形例において用いられる。
【0029】
発振回路22において生成されたパルス波は超音波発生器12に出力される。
図1においては発振回路22から出力されるパルス波は増幅回路24を介して超音波発生器12に供給されているが、発振回路22からのパルス波は、増幅回路24をバイパスして超音波発生器12へ供給されてもよい。これらパルス波の供給経路の制御も制御部16により行われる。送信シーケンスの詳細については後述する。
【0030】
制御部16は、例えばCPUやマイクロチップなどで構成され、上述の通り、発振回路22及び増幅回路24に対して、これらを制御する制御信号を送信する。制御部16は、記憶部(
図1において不図示)に記憶されたプログラムに基づいて上記各回路に対して制御信号を送信する。
【0031】
図2(a)は、容器20にマイクロバブル群28が注入される様子を示している。図示の例において、容器20には、ターゲット生体組織である1又は複数の生体細胞が培地上に収容されている。容器20にはピペット26によりマイクロバブル群28が注入される。マイクロバブル群28に含まれる各マイクロバブルは、例えば直径0.5μm〜10μm程度の気泡である。また、マイクロバブル群28と共に、ターゲット生体組織の生体細胞内へ導入したい導入物質も注入される。本実施形態では、導入物質として薬剤を用いる。
【0032】
容器20内におけるマイクロバブル群28の濃度が高い程、それらが生体細胞の近傍に位置する確率も必然的に高くなる。そのため、超音波18の送信によるマイクロバブルの圧壊によって細胞膜に孔が開く確率が上昇し、薬剤の導入効率が上昇する。しかし、過度にマイクロバブル群28の濃度を高めると、生体細胞近傍に位置するマイクロバブル群28に超音波が到達するまでに、超音波が他のマイクロバブル群28において反射あるいは減衰してしまい、生体細胞近傍に位置するマイクロバブル群28に十分な音圧の超音波が到達できない可能性が高くなる。これにより生体細胞近傍のマイクロバブル群28を圧壊できない可能性が高くなり、導入効率が低下する。したがって、容器20内におけるマイクロバブル群28の濃度は適切な値に調整される。本実施形態では、容器20内のマイクロバブル群28の濃度を10〜200μg/mlとしている。
【0033】
マイクロバブル群28及び薬剤が容器20に注入された後に、
図2(b)に示すように、ソノポレーション用超音波送信装置10によりソノポレーション用の超音波18が容器20に向けて送信される。つまり、マイクロバブル群28に対して超音波18が送信される。これにより、容器20内においてソノポレーションを生じさせる。
【0034】
図3に、ソノポレーションの様子を示す概念図が示されている。それは説明のための模式図に過ぎないものである。
図3には、細胞核40a及び細胞膜40bを有する生体細胞40と、その近傍に位置するマイクロバブル群28及び薬効物質群42が示されている。容器20内にマイクロバブル群28及び薬剤が注入されると、
図3(a)に示すように、マイクロバブル群28及び薬効物質群42は生体細胞40の近傍にも分布する。その状態においてソノポレーション用超音波送信装置10から超音波18が送信されると、超音波18は生体細胞40近傍に位置するマイクロバブル(例えばマイクロバブル28a)に到達する。すると、マイクロバブル28aは体積振動を起こし、やがて圧壊する。マイクロバブル28aが圧壊すると、マイクロバブル28aから1方向に向けて衝撃波あるいはマイクロストリームが発生する。当該衝撃波などは、生体細胞40へ向けて(
図3(a)中の矢印の方向へ向けて)生じる場合があり、その場合において当該衝撃波などによって細胞膜40bに孔44が開けられる。そうすると、
図3(b)に示すように、生体細胞40の近傍に位置する薬効物質42aは、孔44を通って生体細胞40内へ取り込まれる。そして、生体細胞40内へ取り込まれた薬効物質42aが細胞核40aと反応すると、当該生体細胞40において薬効が生じることになる。なお、細胞膜40bに空いた孔は、生体細胞40が正常に機能している限りにおいて、生体細胞40の自己修復力により塞がれる。
【0035】
以下、
図1を参照しつつ
図4〜
図10を用いて、送信回路14及び制御部16の協働により生成される送信シーケンスについて説明する。上述のように、超音波発生器12から送信される超音波18は、超音波発生器12を駆動するパルス波に応じたものとなる。すなわち、超音波18の送信及び停止のタイミングはパルス波の出力及び停止のタイミングと同期し、超音波18の音圧はパルス波の電圧振幅に応じたものとなり、また超音波18の周波数はパルス波の周波数に応じたものとなる。したがって、以下においては、主に送信回路14から超音波発生器12へ送信される電圧信号としての送信シーケンスについて説明するが、それは超音波発生器12から送信される超音波の送信シーケンスと同視できる。
【0036】
図4は、ターゲット生体組織においてソノポレーションを生じさせるための1セットの送信シーケンス全体が示されている。
図4において、横軸は時間軸を示し、縦軸は電圧を示す。
図4に示される通り、送信シーケンスは、パルス波を含む期間である送信期間T
B、及びパルス波を含まない期間、つまり超音波18の送信が停止される期間である停止期間T
Rを含んでいる。送信期間T
Bと停止期間T
Rは時間軸において交互に並んでおり、2つの送信期間T
Bの間に停止期間T
Rが配置される形となっている。本実施形態では、送信シーケンスは送信期間T
Bを3つ含み、各送信期間T
Bの間に2つの停止期間T
Rが設けられている。
【0037】
送信期間T
B及び停止期間T
Rの時間長は、数秒〜十数秒程度の比較的長い時間が設定される。本実施形態では、送信期間T
Bと停止期間T
Rの時間長は共に10秒に設定されている。したがって、送信シーケンス1セットの時間長T
Aは50秒となっている。送信期間T
B及び停止期間T
Rの時間長はそれ以外の値が設定されてもよい。また、送信期間T
B及び停止期間T
Rの時間長が同じである必要はなく、互いに異なる値が設定されてもよい。また、各送信期間T
Bの時間長を互いに異なる値としてもよく、各停止期間T
Rを互いに異なる値としてもよい。
【0038】
本送信シーケンスによれば、ソノポレーション用超音波送信装置10は、ある一定期間超音波18を送信した後、数秒〜数十秒の比較的長い期間超音波18の送信を停止し、その後超音波18の送信を再開する。これにより、薬剤の導入効率が向上することが実験で確認されている。その理由として、考えうるに、停止期間T
Rの間に生体細胞が自己修復することで死滅細胞の量が低減すること、あるいは、超音波18が送信されたことに起因してターゲット生体組織においてマイクロバブル群28の空間的分布に偏りが生じた場合に、停止期間T
Rにおいて各マイクロバブルが移動してマイクロバブル群28の空間的な分布が一様になる、つまり生体細胞近傍にマイクロバブルが位置する可能性が高くなることが挙げられる。
【0039】
次に、送信期間T
Bの詳細を説明する。
図5は、1つの送信期間T
Bの詳細を示す図である。
図5においても、横軸は時間軸を示し、縦軸は電圧を示す。送信期間T
Bは、パルス波が送信される期間、つまり超音波18が送信される期間である複数のパルス波期間T
1、及びパルス波を含まない期間、つまり超音波18の送信が小休止される期間である複数の小休止期間T
2を含んで構成されている。パルス波期間T
1と小休止期間T
2は時間軸において交互に並んでおり、2つのパルス波期間T
1の間に小休止期間T
2が配置される形となっている。したがって、本送信シーケンスにおいては、送信期間T
Bの間において連続して超音波18が送信されるわけではなく、送信期間T
B内においても、小休止を交えながら、つまり間欠的に超音波が送信される。これにより、マイクロバブルを好適に圧壊させつつ、生体細胞に与えるダメージを低減させている。以下、このことについて
図6を用いて説明する。
【0040】
図6(a)には、パルス波期間T
1及び小休止期間T
2における超音波18の波形が示されている。
図6において、横軸は時間軸を示し、縦軸は超音波の音圧を示す。
図6(a)に示されている音圧P
tは、ソノポレーション誘発の閾値、つまりマイクロバブルを圧壊するのに最低限必要な音圧とする。
【0041】
超音波18により生体細胞へ与えるダメージを低減させる1つの方法としては、超音波18によって生体細胞へ与えられる音響エネルギを低減させればよい。音響エネルギEは、超音波の音響エネルギ密度E
dと超音波の送信時間tを乗じて求められる。つまり、音響エネルギEは、
【数1】
で与えられる。音響エネルギ密度E
dは、ある特定の面を1秒間に通過するエネルギ量を示すものであり、
【数2】
で与えられる。式2において、Pは超音波の音圧、ρは音響伝搬媒質の密度、cは音速を示す。
【0042】
式1及び式2から、生体細胞が超音波18から受ける音響エネルギは、超音波18の音圧の2乗値及び送信時間に比例することが分かる。つまり、生体細胞へ与える音響エネルギを低減させるには、超音波18の音圧をできるだけ小さくし、その送信時間をできるだけ短くすればよい。
【0043】
まず、超音波18の音圧に関して説明する。超音波18はマイクロバブルを圧壊させるために送信されるものであるので、その音圧はマイクロバブルを圧壊し得る程度の音圧が必要である。つまり、その音圧を少なくともP
t以上とする必要がある。そこで、超音波18の音圧をP
t以上の音圧であってできるだけ小さい音圧とすれば、マイクロバブルを好適に圧壊しつつ、生体細胞へ与えるダメージを低減することができる。本実施形態では、誤差などを考慮し、超音波18の音圧を音圧P
tよりも少しだけ大きい音圧P
pとしている。
【0044】
次に、超音波18の送信時間に関して説明する。上述の通り、生体細胞へ与えるダメージを低減させるには、超音波18の送信時間をできるだけ短くすればよい。ここで、超音波18の送信時間をどの程度まで短くできるのかが問題となる。超音波18の音圧がP
t以上であれば、マイクロバブルの圧壊は確率現象となる。すなわち、超音波18を短時間連続送信しただけで圧壊するマイクロバブルもあれば、圧壊まで長時間の連続送信を要するマイクロバブルもある。このため、超音波をより長い時間連続送信すれば、つまりパルス波期間T
1を長くすれば、マイクロバブルの圧壊の可能性が高くなり、すなわち圧壊されるマイクロバブルの量が増大する。これにより薬剤の導入効率が上昇する。一方、上述のようにパルス波期間T
1を長くすれば、それだけ超音波18の送信時間が長くなり、生体細胞が受ける音響エネルギが増大する。つまり、薬剤の導入効率と生体細胞が受けるダメージ量はトレードオフの関係にあり、パルス波期間T
1は両者のバランスを考慮して設定される。
【0045】
超音波18の連続送信時間を数十ミリ秒程度、より詳しくは50ミリ秒程度とすることで、十分な導入効率が得られることが認められた。したがって、本実施形態では、超音波18の連続送信時間、つまりパルス波送信期間を50ミリとし、超音波18のそれ以上の連続送信を停止させるために各パルス波期間に後続して小休止期間を設けた。本実施形態では、小休止期間を450ミリ秒としている。これにより、超音波18の送信時間が低減され、送信期間T
Bにおいて生体細胞が超音波18から受ける音響エネルギが低減される。つまり、生体細胞が超音波18から受けるダメージが低減される。
【0046】
本実施形態はパルス波期間T
1を50ミリ秒とし、小休止期間T
2を450ミリ秒とした。つまり、送信期間T
Bにおける送信デューティ比を10パーセントとしたが、パルス波期間T
1の時間長あるいは送信期間T
Bにおける送信デューティ比は、薬剤の導入効率と生体細胞が受けるダメージ量とを考慮して適宜設定されて良い。なお、実験の結果により、送信期間T
Bにおける送信デューティ比は、0.1パーセントから50パーセントの間が適切であるとの知見が得られた。
【0047】
図6(a)には、パルス波期間T
1を50ミリ秒とし、小休止期間を450ミリ秒としたときに、パルス波期間T
1と小休止期間T
2の1セット分の期間において、超音波18が生体細胞へ与える音響エネルギE
1が示されている。E
1は、上述の通り超音波18の音圧P
pの2乗値及び超音波18の送信時間であるT
1の時間長に比例する値となる。
図6(a)に示されている通り、本実施形態においては、T
1とT
2の1セット期間における送信デューティ比が10パーセントとなっているから、生体細胞が超音波18から受ける音響エネルギE
1は、T
1とT
2の1セット期間ずっと連続して音圧P
pの超音波18が送信された場合に比べ10分の1となる。これは、
図6(b)に示される通り、音圧P
pのルート10分の1の音圧P
cにおいてT
1とT
2の1セット期間の間ずっと超音波が送信された場合の音響エネルギE
2と同等量のエネルギである。
【0048】
パルス波期間T
1において送信されるパルス波の周波数はマイクロバブルの共振周波数に基づいて設定される。これにより、超音波18の送信によってマイクロバブルをより大きく体積振動させることができ、好適に、つまり超音波18の音圧を不要に上げることなくマイクロバブルを圧壊できる。ここで、マイクロバブルをより好適に体積振動させるために、パルス波の周波数はマイクロバブルの共振周波数よりも少し低い値に設定される。これについて、以下
図7を用いて説明する。
【0049】
図7は、超音波の周波数特性50とマイクロバブルの振動応答特性52の関係を示すグラフである。
図7のグラフの横軸は周波数を表しており、縦軸は、超音波の周波数特性50に対しては信号強度、マイクロバブルの振動応答特性52に対しては体積振動量を表している。
図7において示されているマイクロバブルの振動応答特性52は、マイクロバブルを圧壊し得る程度の比較的大きい音圧の超音波が送信された場合における振動応答特性である。
【0050】
図7(a)又は
図7(b)に示される通り、超音波の周波数特性50は、中心周波数(これはパルス波の周波数とほぼ一致する)f
cにおいて最大信号強度を示し、その前後の周波数においては、中心周波数から離れる程信号強度が低くなっている。超音波の周波数特性50は、中心周波数を中心に対称性を有している。一方、マイクロバブルの振動応答特性52は、マイクロバブルの共振周波数f
rにおいて最大振動量を示すが、その前後の周波数における特性は非対称の特性を有している。より詳しくは、共振周波数f
rより低い周波数領域においては、周波数が共振周波数f
rから低くなるに従って比較的なだらかに体積振動量が減少していくが、共振周波数f
rより高い周波数領域においては、周波数が共振周波数f
rから高くなるに従って、低周波領域よりも急激に体積振動量が減少する。
【0051】
以上の通りであるから、
図7(a)に示すように、超音波18の中心周波数(パルス波の周波数)f
cとマイクロバブルの共振周波数f
rを一致させると、超音波18が有する周波数成分のうちの最も高い周波数領域が、マイクロバブルの振動応答特性が非常に低い周波数領域にはみ出してしまい、超音波18が有する周波数成分の一部がマイクロバブルの振動に寄与し得なくなる。本実施形態においては、
図7(b)に示すように、超音波18の中心周波数(つまりパルス波の周波数)f
cをマイクロバブルの共振周波数f
rよりも少し低い値に設定している。これにより、超音波18が有する各周波数成分のより広い範囲の周波数の成分が活用され、より好適にマイクロバブルを振動させることができる。
【0052】
以上、本実施形態によれば、送信回路14から超音波発生器12へ供給される送信シーケンスは、比較的長い時間間隔で繰り返す送信期間T
Bと停止期間T
Rを含み、さらに、その送信期間T
Bは、比較的短い時間間隔で繰り返すパルス波期間T
1と小休止期間T
2を含んでいる。つまり、送信期間T
Bの間においても超音波18が間欠送信される。これにより、生体細胞内への薬剤の十分な導入効率が得られる程度にマイクロバブルを圧壊しつつ、生体細胞へ与える音響エネルギを低減させ、生体細胞へ与えるダメージを低減させている。
【0053】
以下、本実施形態の変形例について説明する。以下の変形例は、上述した基本実施形態と比して超音波の送信シーケンスが異なるのみであるため、送信シーケンス以外の説明については省略する。変形例の送信シーケンスは、まず複数のマイクロバブルを圧壊させずに振動させ、それにより複数のマイクロバブル間に生じるsecondary Bjerknes forceにより複数のマイクロバブルを凝集させてクラウドを形成し、その後クラウドに含まれる複数のマイクロバブルを一気に圧壊させるものである。
【0054】
図8には、パルス波期間T
1に送信されるパルス波の変形例が示されている。変形例においては、パルス波期間T
1は、クラウド形成用超音波を送信するクラウド形成期間T
1a及びクラウド圧壊用超音波を送信するクラウド圧壊期間T
1bを含んでいる。
【0055】
クラウド形成用超音波は、複数のマイクロバブルを圧壊せずにそれらを振動させる必要があるため、その音圧はP
t(
図6(a)参照)未満に設定される。したがって、クラウド形成期間T
1aにおけるパルス波の電圧振幅V
sはV
tよりも小さい値が設定される。ここで、電圧振幅V
tは、音圧P
tを生じさせる電圧振幅である。クラウド形成用超音波の周波数は、マイクロバブルをより振動させるために、マイクロバブルの共振周波数に基づいて設定される。クラウド形成期間T
1aの時間長は、マイクロバブルの濃度等に応じて、複数のマイクロバブルが振動して凝集するのに十分な値が設定される。
【0056】
クラウド圧壊用超音波は、クラウドに含まれる複数のマイクロバブルを圧壊する必要があるため、その音圧はP
t以上に設定される。したがって、クラウド圧壊期間T
1bにおけるパルス波の電圧振幅V
pはV
t以上の値が設定される。本実施形態では、誤差などを考慮しつつ生体細胞に与える音響エネルギを低減させる観点から、クラウド圧壊期間T
1bにおけるパルス波の電圧振幅は、V
tよりも少しだけ大きいV
pに設定される。クラウド圧壊期間T
1bの時間長は、クラウドに含まれる複数のマイクロバブルを圧壊するのに十分な値が設定される。
【0057】
なお、
図8の例においては、クラウド形成期間T
1aに引き続いてクラウド圧壊期間T
1bが設けられているが、両期間の間に多少の間隔が開いていてもよい。ただし、当該間隔があまりに長い場合には形成したクラウドが崩れてしまう虞があるため、当該間隔はできるだけ短い方が好ましい。
【0058】
図8に示された送信シーケンスによれば、クラウド形成期間T
1aにおいてマイクロバブルにクラウド形成用超音波が送信され、これにより複数のマイクロバブルは振動し、secondary Bjerknes forceにより複数のマイクロバブルの凝集体であるクラウドが形成される。そして、クラウド圧壊期間T
1bにおいて送信されるクラウド圧壊用超音波により、クラウドに含まれる複数のマイクロバブルを一気に圧壊させる。これにより、個々のマイクロバブルが単独で圧壊するときよりも、圧壊による衝撃波などをより強くすることができる。したがって、生体細胞へより大きな孔を開けることが可能になり、薬剤の導入効率が向上される。
【0059】
変形例においても、各パルス波期間T
1に後続して小休止期間T
2が設けられている。つまり、変形例においても生体細胞へ与えるダメージは低減されており、その上で薬剤の導入効率をより向上させている。
【0060】
図9には、パルス波期間T
1に送信されるパルス波の他の変形例が示されている。
図9の例は、
図8の例同様パルス波期間T
1は、クラウド形成期間T
1a及びクラウド圧壊期間T
1bを含んでいるが、
図8の例に比してクラウド圧壊期間T
1bに送信されるパルス波の周波数が異なる。
【0061】
クラウドはマイクロバブルの凝集体であり、マイクロバブル単体よりも体積が大きくなることから、クラウドの共振周波数はマイクロバブル単体の共振周波数よりも低くなる。したがって、クラウド(に含まれる複数のマイクロバブル)をより好適に圧壊させるために、クラウド圧壊期間においてクラウドの共振周波数に基づいた周波数の超音波が送信されるのが好ましい。
【0062】
図9の例において、クラウド形成期間T
1aにおけるパルス波の周波数f
1aは、マイクロバブルの共振周波数に基づいて設定されているのに対し、クラウド圧壊期間T
1bにおけるパルス波の周波数f
1bは、クラウドの共振周波数に基づいて設定される。クラウドの共振周波数はマイクロバブル単体の共振周波数よりも低いから、f
1bはf
1aよりも小さい値が設定される。
【0063】
図9の例によれば、クラウド圧壊期間T
1bに送信されるクラウド圧壊用超音波の周波数f
1bがクラウドの共振周波数に基づいて設定されるから、クラウド圧壊用超音波の送信によってクラウドに含まれる複数のマイクロバブルをより好適に振動させ圧壊させることができる。
【0064】
なお、
図9の例においては、クラウド形成期間T
1aとクラウド圧壊期間T
1b間において、パルス波の電圧振幅と周波数の両方を変更していたが、周波数のみを変更するようにしてもよい。この場合、例えば、クラウド形成用超音波の音圧をPt以上(
図6(a)参照)とし、その周波数をマイクロバブルの共振周波数からずらした周波数とすることでマイクロバブルの体積振動量を抑え、マイクロバブルを圧壊させずに体積振動させてクラウドを形成させる。そして、クラウド圧壊用超音波は、クラウド形成用超音波の音圧を維持したまま、その周波数をクラウドの共振周波数近傍に変更することで、クラウドを大きく振動させ圧壊させるという態様を採用し得る。