【実施例】
【0059】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記の実施例に限定されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコルに基づいて使用した。
【0060】
〔実施例1〕
下記方法により、式(A)で表される化合物及び式(B)で表される化合物を製造した。
【0061】
〔1.粗抽出工程〕
(1−1)脱色処理(ステップS11)
ビーカー内の前記BP0899株の凍結乾燥菌体20.03gに対し、アセトン50mLを加え、スターラーを用いて10分撹拌した。つぎに、前記撹拌した溶液の上澄みを50mLコニカルチューブに移し、2000rpm、5分の条件で遠心分離し、得られた上清は除去し、沈殿物には、アセトン20mLを加え、前記ビーカーに戻した。この操作を、前記BP0899株の色素の色(褐色)を目視で認められなくなるまで繰り返した。そして、脱色された沈殿物を、アスピレーターを用いて恒量になるまで減圧乾燥し、脱色乾燥菌体を得た。
【0062】
(1−2)抽出処理(ステップS12)
ビーカーに入れた前記脱色乾燥菌体16gに、前記脱色乾燥菌体の濃度が75mg/mLとなるように、注射用水を加えた。つぎに、90%フェノールを前記注射用水と等量加え、ホットスターラー上で65℃〜70℃で30分撹拌し、これを初回の抽出とした。そして、前記撹拌した溶液を10℃以下になるまで冷却した後、遠心分離用チューブを用いて、15000rpm、40分、4℃の条件で遠心分離することにより、フェノール相と水相とに分離し、得られた前記水相は、50mLコニカルチューブに回収し、前記遠心分離用チューブに残ったフェノール相に、回収した水相と等量の注射用水を入れ、前記初回の抽出と同様の操作を繰り返した(2回目の抽出)。さらに、前記初回の抽出と同様の操作をもう一度繰り返した(3回目の抽出)。このようにして、3回分の抽出操作の水相450mLを回収した。
【0063】
(1−3)濾過処理(ステップS13)
前記回収した水相450mLを、分画分子量7000の透析チューブに入れ、外液を蒸留水2.5Lとし、透析を行った。外液にフェノールの吸収波長である270nmにおける光の吸収が認められなくなるまで、前記透析を22回行い、式(A)で表される化合物及び式(B)で表される化合物を含む粗抽出液である内液75mLを回収した。
【0064】
[2.精製工程]
(2−1)酵素処理(ステップS21)
まず、前記粗抽出工程で得た式(A)で表される化合物及び式(B)で表される化合物を含む粗抽出液に、0.5mg/mLのRNA分解酵素(商品名:シグマ社製のribonuclease A)と、5μg/mLのDNA分解酵素(シグマ社製のDeoxyribonuclease I)とを添加し、37℃で6時間インキュベートした。つぎに、前記粗抽出液に、200μg/mLのタンパク質分解酵素(シグマ社製のProteinase K)を添加し、50℃で4時間インキュベートした後、3000rpm、30分の条件で遠心分離した。
【0065】
(2−2)抽出処理(ステップS22)
前記酵素処理における遠心分離により得られた、沈殿画分約3mL以下と上清画分約72mLとのうち、前記沈殿画分を、分画分子量100000の限外濾過チューブに入れ、外液を蒸留水15mLとし、限外濾過を行った。得られた内液に、注射用水30mLと90%フェノール30mLとを加え、ホットスターラー上で65℃〜70℃で30分撹拌し、これを初回の抽出とした。そして、前記撹拌した溶液を10℃以下になるまで冷却した後、遠心分離用チューブを用いて、15000rpm、40分、4℃の条件で遠心分離することにより、フェノール相と水相とに分離し、得られた前記水相は、50mLコニカルチューブに回収し、前記遠心分離用チューブに残ったフェノール相に、回収した水相と等量の注射用水を入れ、前記初回の抽出と同様の操作を繰り返した(2回目の抽出)。さらに、前記初回の抽出と同様の操作をもう一度繰り返した(3回目の抽出)。このようにして、3回分の抽出操作の水相80mLを回収した。
【0066】
(2−3)濾過処理(ステップS23)
前記回収した水相を、分画分子量7000の透析チューブに入れ、外液を蒸留水1Lとし、72時間透析を行った。得られた内液を、分画分子量100000の限外濾過チューブに入れ、外液を蒸留水15mLとし、限外濾過を行った。得られた内液を凍結乾燥することにより、精製物164.53mgを得た。
【0067】
〔実施例2〕
前記精製物を、質量分析(mass spectrometry)及び核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance、NMR)に供し、その構造を特定した。
【0068】
(1)精製物の分解物の質量分析
前記精製物を以下のようにして分解し、前記精製物の分解物を調製した。まず、前記精製物を、10mg/mLの濃度となるように、0.1mol/Lの塩酸に溶解し、前記溶解液を水浴中で90分間加熱して、沈殿物と無色透明の上清とを得た。つぎに、前記沈殿物を回収し、クロロホルム抽出に供し、クロロホルム画分を回収した。前記クロロホルム画分に、38mg/mLの濃度となるように、クロロホルムを追加し、この溶解液6μLを、薄層クロマトグラフィー(TLC)に供した。なお、TLCプレートとしては、10cm×10cmのシリカゲル60F254TLCプレート(メルク社製)を、展開溶媒としては、クロロホルム:メタノール:蒸留水:トリエチルアミン=30:13:2:0.1(体積比)の溶液を使用した。そして、展開後の前記TLCプレートに、50%の硫酸を噴霧し、最も強く染まったスポットに対応するゲルをかき取り、再度前記展開溶媒に溶解した。そして、溶媒を取り除いた後に、溶媒以外の画分を回収し凍結乾燥し、これを前記精製物の分解物(以下、「分解物」という。)とした。
【0069】
前記分解物を、それぞれ、以下の処理に供し、メチルエステル化処理物、ピロリジド化処理物、加水分解メチルエステル化処理物及び加水分解ピロリジド化処理物の4種類の試料溶液を調製した。
【0070】
<メチルエステル化処理物の調製>
(I)前記分解物濃度が、30mg/mLとなるように調製したクロロホルム溶液0.1mLに、0.2mg/mL BHT(ジブチルヒドロキシトルエン) クロロホルム溶液1mLを添加し、乾固した。
(II)前記乾固物に、5%塩酸・メタノール1mLを添加し、85℃で24時間反応させた。
(III)前記反応物を放冷後、ヘキサン1mL、水0.5mLを添加し、ヘキサン相を回収した。
(IV)前記回収したヘキサン相を、窒素気流化で溶媒留去し、クロロホルム1mLに再溶解し、メチルエステル化処理物の試料溶液を得た。
【0071】
<ピロリジド化処理物の調製>
(I)前記メチルエステル化処理物の試料溶液200μLをガラス試験管に採取した。
(II)前記ガラス試験管に、ピロリジン400μL及び酢酸40μLを添加して、100℃で30分間反応させた。
(III)反応終了後、前記反応物に、ジクロロメタン2mLと5%酢酸水溶液2mLを加えて振り混ぜた後、ジクロロメタン相を回収した。
(IV)前記回収したジクロロメタン相から、窒素気流下で溶媒を除去した後、クロロホルム200μLに再溶解し、ピロリジド化処理物の試料溶液を得た。
【0072】
<加水分解メチルエステル化処理物の調製>
(I)前記分解物に対して、前記メチルエステル化処理物の調製における(I)と同様の処理を行い、乾固物を得た。
(II)前記乾固物に、0.5mol/L NaOH・メタノール1mLを添加し、50℃で1時間反応させた。
(III)前記反応物を放冷後、ヘキサン1mL、1mol/L塩酸試液0.5mLを添加し、ヘキサン相を回収した。
(IV)前記回収したヘキサン相に対して、前記メチルエステル化処理物の調製における(IV)と同様の処理を行い、加水分解メチルエステル化処理物の試料溶液を得た。
【0073】
<加水分解ピロリジド化処理物の調製>
前記加水分解メチルエステル化処理物に対して、前記ピロリジド化処理物の調製における(I)〜(IV)と同様の処理を行い、加水分解ピロリジド化処理物の試料溶液を得た。
【0074】
(1−1)メチルエステル化処理物及び加水分解メチルエステル化処理物のGC−MS
前記メチルエステル化処理物及び前記加水分解メチルエステル化処理物を、下記条件で、GC−MS(ガスクロマトグラフ−マススペクトロメトリー)分析に供した。
【0075】
<GC−MS条件>
機器:JMS−700V(日本電子(株)製)
カラム:SPB−1 30m×0.25mm 膜厚0.25μm
カラム温度:50℃(1分保持)→300℃(+8℃/分で昇温、30分保持)
注入口温度:250℃
検出器:水素炎イオン化検出器(FID) 300℃
注入量:1μL(splitless注入)
キャリアガス:ヘリウム(線速度30cm/sec、定流量モード)
検出器:MS
イオン化法:EI(Electron Ionization)
イオン化電流:300μA
イオン化エネルギー:70eV
イオン化室温度:300℃
電子加速電圧:10kV
走査範囲:m/z=35〜500(sec/scan)
【0076】
この結果を、
図10及び
図11に示す。
図10は、前記メチルエステル化処理物をGC−MS分析に供した際のマススペクトルであり、
図11は、前記加水分解メチルエステル化処理物をGC−MS分析に供した際のマススペクトルである。
図10及び
図11において、縦軸は、検出強度を示し、横軸は、検出時間(min)を示す。
【0077】
図10に示すように、前記メチルエステル化処理物から、ピーク1〜11が得られた。これらの中で、検出強度が高かったピーク1、2、4、6及び7の化合物を、それぞれ、さらに、上記と同様の条件でGC−MS分析に供した。得られたマススペクトルに対して、形状が似ているマススペクトルを有する構造物を、データベース(The NIST MassSpectral Seach Program for the NIST/EPA/NIH Mass Spectral Library)のAuto Modeによりライブラリ検索した。その結果、ピーク1、2、4及び7の化合物は、それぞれ、式(2)〜(5)の化合物と、高い類似度を示した。また、本発明者らは、ピーク6の化合物のマススペクトルが、Strittmatterら(Strittmatter W. et al (1983), Journal of Bacteriology, Vol.155, No.1, p.153-p.158, Fig2)に記載の3-oxo-tetradecanoic acid methyl esterのマススペクトルと酷似していることを発見した。このため、ピーク6の化合物は、式(6)の3-oxo-tetradecanoic acid methyl esterであると推定した。
【0078】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【0079】
また、
図11に示すように、前記加水分解メチルエステル化処理物から、ピークA〜Iが得られた。ここで、
図10のマススペクトルと
図11のマススペクトルを比較すると、
図10のピーク1、2及び4に対応するピークとして、
図11においては、それぞれ、ピークA、B及びDが確認された。これらのピークA、B及びDを、それぞれ、さらに、上記と同様の条件でGC−MS分析に供した。得られたマススペクトルに対して、形状が似ているマススペクトルを有する構造物を、前記データベースを用いて検索した。その結果、ピークA、B及びDは、それぞれ、式(7)、式(3)及び式(4)の化合物と、高い類似度を示した。
【0080】
【化7】
【0081】
なお、
図10のピーク6及び7に対応するピークは、
図11においては確認されなかったが、これは、つぎの理由によるものと思われる。すなわち、
図10は、前記分解物を加水分解せずにGC−MS分析に供した結果であるのに対し、
図11は、前記分解物を加水分解し、加水分解により分離した物質のみをGC−MS分析に供した結果である。このため、
図11において確認されるピークは、前記分解物中で加水分解されるエステル結合を有する化合物のピークであると考えられる。したがって、
図11で対応するピークが確認されなかった
図10のピーク6及び7の化合物は、加水分解されるエステル結合を有しない化合物であると推定される。
【0082】
図10及び
図11の結果をまとめて、
図10において検出強度が高かったピーク1、2、4及び7の化合物を推定すると、つぎの説明及び表4に示すとおりとなる。まず、
図10のピーク1の化合物は、前述のように、ライブラリ検索の結果、式(2)の化合物であると推定された。しかし、ピーク1の化合物が式(2)の化合物である場合、
図10におけるピーク1よりも、短い保持時間(すなわち、左側)にピークが観察されるはずであり、整合がとれない。一方、
図10のピーク1に対応する
図11のピークAの化合物は、前述のように、ライブラリ検索の結果、式(7)の化合物であると推定された。ピークAの化合物が式(7)の化合物である場合、
図11におけるピークAの結果とも整合がとれる。このため、
図10におけるピーク1の化合物は、式(7)の化合物であると推定した。つぎに、
図10におけるピーク2の化合物は、前述のように、ライブラリ検索の結果、式(3)のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)であると推定された。また、
図10のピーク2に対応する
図11のピークBの化合物も、前述のように、ライブラリ検索の結果、式(3)のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)であると推定され、
図10と
図11とで結果は一致した。このため、
図10におけるピーク2の化合物は、式(3)のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)であると推定されたが、これは、前記分解物に含まれる化合物ではなく、試料溶液の調製において添加したBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)であると推定された。そして、
図10におけるピーク4の化合物は、前述のように、ライブラリ検索の結果、式(4)の化合物であると推定された。また、
図10のピーク4に対応する
図11のピークDの化合物も、前述のように、ライブラリ検索の結果、式(4)の化合物であると推定された。このため、
図10におけるピーク4の化合物は、式(4)の化合物であると推定された。なお、式(4)の化合物の炭素間二重結合決定に関する考察は、以下の(1−2)において詳述する。さらに、
図10のピーク7の化合物は、前述のように、ライブラリ検索の結果、式(5)の化合物であると推定された。
【表4】
【0083】
(1−2)ピロリジド化処理物及び加水分解ピロリジド化処理物のGC−MS
つぎに、式(4)の化合物における炭素間二重結合位置の決定を目的に、前記ピロリジド化処理物及び前記加水分解ピロリジド化処理物を、下記条件で、GC−MS分析に供した。
【0084】
<GC−MS条件>
機器:JMS−700V(日本電子(株)製)
カラム:SPB−1 30m×0.25mm 膜厚0.25μm
カラム温度:100℃(1分保持)→300℃(+10℃/分で昇温、30分保持)
注入口温度:280℃
検出器:水素炎イオン化検出器(FID) 300℃
注入量:1μL(splitless注入)
キャリアガス:ヘリウム(線速度30cm/sec、定流量モード)
検出器:MS
イオン化法:EI
イオン化電流:300μA
イオン化エネルギー:70eV
イオン化室温度:300℃
電子加速電圧:10kV
走査範囲:m/z=35〜500(sec/scan)
【0085】
この結果を、
図12及び
図13に示す。
図12は、前記ピロリジド化処理物をGC−MS分析に供した際のマススペクトルであり、
図13は、前記加水分解ピロリジド化処理物をGC−MS分析に供した際のマススペクトルである。
図12及び
図13において、縦軸は、検出強度を示し、横軸は、時間(min)を示す。
【0086】
図12におけるピーク4及び
図13におけるピークDの化合物を、それぞれ、さらに、上記と同様の条件でGC−MS分析に供した。その結果、ピーク4の化合物からは、
図14に示すマススペクトルが得られ、ピークDの化合物からは、
図15に示すマススペクトルが得られた。
図14及び
図15において、縦軸は、検出強度を示し、横軸は、m/z値を示す。ここで、式(8)に示すように、ヒドラジンが結合した炭素から数えて、4番目と5番目の炭素間で切断された場合、分子量は140となる。このため、ヒドラジンが結合した炭素から数えて、7番目と8番目の炭素間で切断された場合、二重結合がなければ、m/z=182が検出されるはずだが、この位置に二重結合があるため、m/z=180が検出された。以上より、式(4)の化合物における炭素間二重結合は、カルボニル結合の炭素から数えて7番目と8番目の間に存在すると推定された。
【0087】
【化8】
【0088】
以上、前記(1−1)及び前記(1−2)の結果をまとめると、前記分解物中には、式(4)〜(7)の4種の化合物が含まれることが推定された。また、式(5)及び式(6)の化合物は、前述のとおり、前記分解物を加水分解により分離した物質のみをGC−MS分析したところ、
図11においてピークが確認されなかったため、エステル結合を有しない化合物であると推定された。
【0089】
(2)精製物の分解物の構造分析
前記(1)で得た分解物の濃度が、30mg/mLとなるように調製したクロロホルム溶液0.1mLから、溶媒を除去し、重DMSO600μLを添加し、5mm試験管に移し、これを試料溶液とした。
【0090】
<
1HNMR測定及び
13CNMR測定>
前記試料溶液を、下記測定条件で
1HNMR測定及び
13CNMR測定に供した。
(測定条件)
装置:UNITY INOVA 500型(バリアン社製)
観測周波数:499.8MHz(
1H核)
125.7MHz(
13C核)
溶媒:重DMSO
基準(※):溶媒:
1H核(2.49ppm)、
13C核(39.7ppm)
温度:70℃に設定
測定法:
13CNMR、DEPT、NOESY、ROESY、COSY、TOCSY、HSQC、HMBC
※ 70℃での重DMSOでのケミカルシフトの値は、Albaら(Alba S. et al(2004), Glycobiology, vol.14, No.9, p.805-p.815)に記載の値を使用した。
【0091】
<
31PNMR測定>
200μLの85%リン酸が入った3mm試験管を、前記試料溶液の入った前記5mm試験管に挿入した。この際、観測された85%リン酸由来のシグナルを0.000ppmに合わせ、その後、前記3mm試験管を抜き、前記試料溶液を、下記測定条件で
31PNMR測定に供した。
(測定条件)
装置:UNITY INOVA 500型(バリアン社製)
観測周波数:499.8MHz(
31P核)
溶媒:重DMSO
基準:85%リン酸(外部標準):0.000ppm
温度:25℃に設定
【0092】
この結果を、
図16〜
図18に示す。
図16A〜
図16Dは、
1HNMR測定のスペクトルであり、
図17A〜
図17Dは、
13CNMR測定のスペクトルであり、
図18は、
31PNMR測定のスペクトルである。
図16〜
図18において、縦軸は、検出強度を示し、横軸は、化学シフト値(ppm)を示す。
【0093】
図16〜
図18のスペクトルから、前記分解物は、前記4種の化合物とグルコサミン2分子とを含む式(9)の化合物であると推定された。式(9)において、2分子のグルコサミンに結合している前記4種の化合物は、左から順に、式(7)の化合物、式(5)の化合物、式(4)の化合物、式(7)の化合物及び式(6)の化合物である。なお、式(9)中の数字は、
図16の
1HNMR測定のスペクトルにおけるピークの数字に対応し、式(9)中のアルファベット(大文字)は、
図17の
13CNMR測定のスペクトルにおけるピークのアルファベット(大文字)に対応し、式(9)中のアルファベット(小文字)は、
図18の
31PNMR測定のスペクトルにおけるピークのアルファベット(小文字)に対応する。
【0094】
【化9】
・・・(9)
【0095】
(3)精製物の分解物の質量分析
前記分解物が、式(9)の化合物であることをさらに裏付けるべく、以下の分析を行った。
【0096】
前記(1)で得た分解物の濃度が、30mg/mLとなるように調製したクロロホルム溶液を、メタノールにより40000倍希釈した溶液を試料溶液とし、下記条件で、GC−MS分析に供した。
【0097】
<GC−MS条件>
機器:amaZon ETD (Bruker Daltonics社製)にESI interfaceを装着
測定モード:ESI−IT−MS、Negative mode
【0098】
この結果を、
図19に示す。
図19は、前記試料溶液をGC−MS分析に供した際のマススペクトルである。
図19において、縦軸は、検出強度を示し、横軸は、m/z値を示す。
図19に示すように、複数のピークが確認されたが、前記分解物の推定化合物である式(9)の化合物の分子量に最も近いピークは、m/z=1417.93のピークである。このため、m/z=1417.93が前記分解物のピークであると判断し、このピークを、さらに、同様の条件で、GC−MS/MS分析に供した。
【0099】
この結果を、
図20に示す。
図20は、
図19における、m/z=1417.93のピークの化合物を、GC−MS/MS分析に供した際のマススペクトルである。
図20において、縦軸は、検出強度を示し、横軸は、m/z値を示し、かっこ内の数値は、m/z値を示す。
【0100】
図20から、つぎのことが推定された。ピーク1の化合物は、前述のとおり、式(9)の化合物であると推定された。ピーク2の化合物は、ピーク1のm/z値(1417)からピーク2のm/z値(1229)を引いた差分値が188であることから、前記分解物から分子量が約188である式(7)の化合物が分離した化合物であると推定された。ピーク3の化合物は、ピーク1のm/z値(1417)からピーク3のm/z値(1194)を引いた差分値が223であることから、前記分解物から分子量が約223である式(4)の化合物が分離した化合物であると推定された。ピーク4の化合物は、ピーク1のm/z値(1417)からピーク4のm/z値(1042)を引いた差分値が375であることから、前記分解物から分子量が約188である式(7)の化合物が2つ分離した化合物であると推定された。このように、式(9)の化合物から式(7)の化合物又は式(4)の化合物が分離した化合物を、ピーク2〜4として確認できた。このことから、前記分解物中には、少なくとも、式(7)の化合物及び式(4)の化合物の2つは含まれていることが確認でき、前記(2)において推定した前記分解物の推定構造式(9)をさらに支持する結果が得られた。
【0101】
(4)精製物の質量分析
前記精製物を、Leoneら(Serena Leone et al, “ Structural elucidation of the core-lipid A backbone from the lipopolysaccharide of Acinetobacter radioresistens S13, an organic solvent tolerant Gram-negative bacterium”, Carbohydrate Research, April 10, 2006, Vol.341, issue.5, p.582-590)に記載の方法によりヒドラジン分解し、ヒドラジン分解物105.4mgを得た。前記ヒドラジン分解物濃度が、2.1mg/mLとなるように蒸留水に溶解し、メタノールにより200倍希釈した溶液を試料溶液とし、下記条件で、GC−MS分析に供した。
【0102】
<GC−MS条件>
機器:amaZon ETD (Bruker Daltonics社製)にelectrospray ionization (ESI) interfaceを装着
測定モード:ESI−IT−MS、Negative mode
【0103】
この結果を、
図21に示す。
図21は、前記試料溶液をGC−MS分析に供した際のマススペクトルである。
図21において、縦軸は、検出強度を示し、横軸は、m/z値を示し、かっこ中の数値は、検出されるイオンの価数を示す。
【0104】
図21に示す複数のピークのうち、最も大きなピーク(m/z=538.15)の化合物を、同様の条件で、GC−MS/MS分析に供し、
図22に示すマススペクトルを得た。さらに、
図22に示す複数のピークのうち、m/z=474.27のピークの化合物及びm/z=601.17のピークの化合物を、同様の条件で、それぞれさらに、GC−MS/MS/MS分析に供し、
図23及び
図24に示すマススペクトルを得た。さらに、
図24に示す複数のピークのうち、m/z=557.19のピークの化合物及びm/z=645.12のピークの化合物を、同様の条件で、それぞれさらに、GC−MS/MS/MS/MS分析に供し、
図25及び
図26に示すマススペクトルを得た。
図22〜
図26において、縦軸は、検出強度を示し、横軸は、m/z値を示し、かっこ中の数値は、検出されるイオンの価数を示す。
【0105】
図22〜
図26には、マススペクトルに加えて、各ピークに対応すると推定される化合物の模式図を示した。前記模式図において、Pは、式(10)の構造式を、Hexは、式(11)の構造式を、Kdoは、式(12)の構造式を、HexUは、式(13)の構造式を、HexNは、式(14)の構造式を、Fは、前記(2)で推定した4種の化合物のいずれかを示す。なお、
図22〜
図26において、Hexは、グルコース(Glc)である。
【0106】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【0107】
(5)まとめ
前記(1)〜(4)の結果をまとめると、前記精製物は、式(A)及び式(B)において、X
1及びX
2が、それぞれ、ヘキソース及びリン酸基である化合物(式(A1)で表される化合物及び式(B1)で表される化合物)を含むことが特定された。なお、前記(2)においては、式(9)に示すように、β−1,6−ジグルコサミン骨格の1位の炭素には、ヒドロキシル基が結合していると推定された。一方、前記(4)においては、
図21の模式図に示すように、β−1,6−ジグルコサミン骨格の1位の炭素には、リン酸基が結合していると推定された。これについては、つぎの理由により、後者のリン酸基が正しい構造であると特定した。すなわち、前記(2)においては、前記精製物に所定の処理を施し、前記分解物を得ているが、この過程で弱酸を用いる際、グルコサミン2分子の内の右側のグルコサミンに結合しているリン酸基が脱落し、−OH基に置き換わる頻度が高いことが一般的に知られているためである。
【0108】
(6)糖鎖部分のNMR解析
前記(4)で得たヒドラジン分解物を、4mol/LのKOHで処理し、遊離した糖鎖部分を、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Bio-Rad社製のBio-gel P4 media Extra fine <45μm(wet):#150-4128)により分画・精製した。
図28のグラフに、そのゲルろ過パターンを示す。
【0109】
図28におけるFraction No. 14-18をまとめたもの(乾燥重量4.8mg)を、500μLのD
2O(99.96% D)に溶解し、NMR測定用の試料(以下、「試料A」と言う。)とした。NMR測定は、下記条件で実施した。
(測定条件)
装置:DRX500及びADVANCE600分光器(BrukerBioSpin社製)
プローブ:cryogenic TXI probe、TXI probe及びBBO probe
プローブ温度:25℃
測定法:1D
1H、1D
1H−selective TOCSY、
1H−selective NOESY、
1H−selective ROSEY、1D
13C、1D
31P、2D
1H−
1H DQF−COSY、HOHANA、NOESY、ROESY、
1H−
13C HSQC−TOCSY、
1H−
13C HSQC−NOESY、
1H−
13C HMBC、
1H−
31P HMBC
【0110】
まず、各糖残基のアノマー位に由来するシグナル(H1)を同定し、アノマー位のシグナルを拠点として、DQF−COSY、HOHANA、
1H−
13C HSQC−TOCSYスペクトルから残基内のシグナル(グルコース残基及びグルコサミン残基の場合は、H2−H6、グルクロン酸残基の場合は、H2−H5)を同定した。この結果を、
図29及び
図30に示す。
図29は、前記試料Aを
1HNMR測定に供した際のスペクトルであり、
図30は、前記試料Aを2D DQF−COSY測定に供した際のスペクトルである。なお、
図29及び
図30において、Glcは、
図22〜
図26におけるHexに、KDOは、
図22〜
図26におけるKdoに、GlcAは、
図22〜26におけるHexUに、GlcNは、
図22〜26におけるHexNに対応し、これ以降において同様である。KDOの場合は、3位のプロトン(H3ax、H3eq)を拠点にして、KDO残基内のシグナル(H4−H8)の帰属を行った。
【0111】
糖残基間の結合については、NOESYスペクトル中で観測される糖残基間のNOEシグナル(
図31)及び
1H−
13C HMBCスペクトル中で観測される糖残基間の相関シグナルによって同定を行った。
図31は、前記試料Aを2D NOESY測定に供した際のスペクトルである。
【0112】
各糖残基の結合様式(α/β)については、
1J(C1,H1)によって、下記のとおり決定した。
1J(C1,H1)
GlcN−1 174 Hz (α)
GlcN−2 164 Hz (β)
GlcA 171 Hz (α)
Glc−1 173 Hz (α)
Glc−2 171 Hz (α)
【0113】
リン酸基の存在及び結合部位に関しては、1D
31P及び
1H−
13C HMBCにより明らかとした。この結果を、
図32に示す。
図32は、試料Aを2D
1H−
31P HMBC測定に供した際のスペクトルである。2つのリン酸基のうち、1つは、GlcN−1の1位に、もう1つは、GlcN−2の4位に結合していた。
【0114】
以上の結果から、前記試料Aの構造は、
図33の模式図に示すものと特定された。この結果から、前記(4)で得たヒドラジン分解物のヒドラジン分解前の化合物は、式(A)及び式(B)において、X
1及びX
2が、いずれも水酸基である化合物(式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物)を含むことが特定された。これらの化合物の単糖類の記号を用いた構造式は、下記のとおりである。なお、
図33には、イス型配座による糖鎖構造式を示している。
式(A2)で表される化合物
【数A2】
式(B2)で表される化合物
【数B2】
【0115】
〔実施例3〕
式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物が、抗炎症効果を有することを確認した。
【0116】
(1)被験液の調製
実施例1で得た精製物(式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物の混合物)を、2mg/mLの濃度となるように注射用水に溶解し4℃で保存した溶液を、37℃で5分加熱し、37℃、1分の条件で超音波処理した。前記超音波処理後の前記溶液10μLを、下記の組成の培養液990μLに添加して十分に混合し、前記精製物の濃度が、20000ng/mLの溶液を調製し、これを、前記培養液を用いて段階的に希釈することにより、2000ng/mL、200ng/mL、20ng/mL、2ng/mL及び0.2ng/mLである計6種類の被験液を得た。なお、前記6種類の被験液は、細胞への添加の際に2倍希釈されるため、前記精製物の終濃度は、それぞれ、10000ng/mL、1000ng/mL、100ng/mL、10ng/mL、1ng/mL及び0.1ng/mLとなる。
【0117】
[培養液の組成]
DMEM培地 500mL
ウシ胎児血清 55.5mL
ペニシリン−ストレプトマイシン−グルタミン(100×) 5.6mL
【0118】
(2)被験液の添加
ヒトTLR4遺伝子を導入したヒト胎児由来腎臓細胞(InvivoGen社製)に、前記培養液を添加し、前記細胞の濃度が、4×10
5細胞/mLとなる溶液を調製した。前記溶液を、96ウェル平底プレートに、100μLずつ(すなわち、4×10
4細胞/100μL/ウェル)となるように播種した。播種後、37℃、5%CO
2下で24時間培養した後、培養上清を除去し、新たな前記培養液を各ウェルに100μLずつ添加した。つぎに、前記被験液を各ウェルに100μLずつ添加した。前記被験液の添加後、37℃、5%CO
2下で24時間培養した。
【0119】
(3)IL−8の濃度の測定
各ウェルの培養上清を回収し、Human IL-8 ELISA MAX(登録商標) Standard(Biolegend社製)を用い、インターロイキン−8(Interleukin-8:IL−8)の濃度を測定した。
【0120】
測定結果を、
図3のグラフに示す。
図3において、縦軸は、IL−8の濃度を示し、横軸は、被験液の濃度を示す。
図3に示すように、被験液の濃度依存的に、IL−8の濃度が上昇した。ここで、IL−8の生産量は、一般的に、TLR4活性化の指標となることが知られており、また、前述のとおり、TLR4の活性化は、抗炎症作用を有するI型インターフェロンの産生を促すことが報告されている。すなわち、IL−8の濃度の上昇は、抗炎症作用の活性化を意味する。このため、これらの結果から、前記精製物(式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物の混合物)が、抗炎症作用を有することが確認された。なお、前記精製物に代えて、式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物又は式(B2)で表される化合物を用いても、同等の結果が得られた。
【0121】
〔実施例4〕
式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物が、抗炎症効果を有することを確認した。
【0122】
(1)被験液の調製
実施例3における「(1)被験液の調製」と同様にして、前記精製物の濃度が、20000ng/mLの溶液を調製し、これを、下記の組成の培養液を用いて段階的に希釈することにより、100ng/mL及び10000ng/mLである計2種類の被験液を得た。なお、前記2種類の被験液は、細胞への添加の際に100倍希釈されるため、前記精製物の終濃度は、それぞれ、1ng/mL及び100ng/mLとなる。
【0123】
[培養液の組成]
RPMI1640培地 500mL
非動化ウシ胎児血清 55.5mL
ペニシリン−ストレプトマイシン−グルタミン(100×) 5.6mL
【0124】
(2)被験液の添加
マウスマクロファージ細胞(RAW264.7、ATCC)に、前記培養液を添加し、前記細胞の濃度が、1.067×10
6細胞/mLとなる溶液を調製した。前記溶液を、6ウェルプレートに、3mLずつ(すなわち、3.2×10
6細胞/3mL/ウェル)となるように播種した。播種後、37℃、5%CO
2下で2時間培養した後、前記被験液を各ウェルに30μLずつ添加した。前記被験液の添加後、37℃、5%CO
2下で24時間培養した。つぎに、前記各ウェルの培養上清を、15mLチューブに回収した。そして、前記各ウェルに、新たな前記培養液1mLを添加し、ウェル全体に行き渡らせた後、前記15mLチューブに回収する作業を2回繰り返した。その後、前記15mLチューブに回収した前記培養液を、1000rpm、3分の条件で遠心分離した後、上清を除去し、さらに、37℃の新たな前記培養液3mLを添加して懸濁し、再度同様の条件で遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、沈殿に、37℃の新たな前記培養液2mLを添加して懸濁した。そして、前記懸濁液を、2mLずつ、新たな前記培養液1mLが予め添加してある状態の各ウェルに添加した。その後、新たな前記培養液30μLを添加した(以下、この工程を、「培養液添加工程」という。)。添加後、37℃、5%CO
2下で30分培養した後、前記各ウェルの培養上清を、15mLチューブに回収し、1000rpm、3分の条件で遠心分離し、上清をアスピレーターにより除去した。さらに、培養上清を除去した前記6ウェルプレートの各ウェルに、冷却したPBS(Phosphate buffered saline)/Phosphatase Inhibitors液3mLを添加し、ピペッティングにより細胞を剥がし、細胞懸濁液を前記15mLチューブに添加した。前記15mLチューブを、1000rpm、3分の条件で遠心分離し、上清をアスピレーターにより除去した後、前記15mLチューブに冷却した前記PBS/Phosphatase Inhibitors液0.5mLを添加して懸濁することにより、細胞懸濁液を調製した。前記細胞懸濁液から、Nuclear Extract キット(アクティブ モティフ社製)を用いて、核タンパク質を抽出した。
【0125】
(3)核内NF−κB量の測定
Trans AM NF−κB p65キット(アクティブ モティフ社製)を用いて吸光度を測定することにより、前記核タンパク質中のNF−κB量を確認した。
【0126】
確認結果を、
図4のグラフに示す。
図4において、縦軸は、吸光度を示し、横軸は、被験液の濃度を示す。
図4に示すように、吸光度が、被験液の濃度が高い程、低い値となったことから、前記核タンパク質中のNF−κB量は、被験液の濃度が高い程、少なくなることがわかった。この結果から、前記精製物により、炎症性サイトカインの一種であるNF−κBの産生が抑制される、すなわち、前記精製物(式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物の混合物)が、抗炎症効果を有することが確認された。なお、前記精製物に代えて、式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物又は式(B2)で表される化合物を用いても、同等の結果が得られた。
【0127】
〔実施例5〕
式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物が、抗炎症効果を有することを確認した。
【0128】
本例では、つぎの2点以外は、実施例4と同様にして実験を行い、吸光度を測定することにより、前記核タンパク質中のNF−κB量を確認した。すなわち、本例では、被験液として、前記精製物の濃度が、100ng/mL、10000ng/mL及び1000000ng/mLである3種類の被験液を用いた。なお、前記3種類の被験液は、細胞への添加の際に100倍希釈されるため、前記精製物の終濃度は、それぞれ、1ng/mL、100ng/mL及び10000ng/mLとなる。また、本例では、実施例3における前記培養液添加工程において、前記培養液30μLに代えて、終濃度100ng/mLのグラム陰性菌であるパントエア アグロメランス(
Pantoea agglomerans)から精製したLPS(Lipopolysaccharide, Pantoea agglomerans、自然免疫応用技研(株)製、以下、「LPSp」という。)を含む前記培養液30μLを添加した。
【0129】
確認結果を、
図5のグラフに示す。
図5において、縦軸は、吸光度を示し、横軸は、被験液の濃度を示す。
図5に示すように、吸光度が、被験液の濃度が高い程、低い値となったことから、前記核タンパク質中のNF−κB量は、被験液の濃度が高い程、少なくなることがわかった。この結果から、前記精製物により、炎症性サイトカインの一種であるNF−κBの産生が抑制される、すなわち、前記精製物(式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物の混合物)が、抗炎症効果を有することが確認された。なお、前記精製物に代えて、式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物又は式(B2)で表される化合物を用いても、同等の結果が得られた。
【0130】
〔実施例6〕
式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物が、抗炎症効果を有することを確認した。
【0131】
(1)被験液の調製
実施例3における「(1)被験液の調製」と同様にして、前記精製物の濃度が、20000ng/mLの溶液を調製し、これを、下記組成の培養液を用いて段階的に希釈することにより、2ng/mL、0.2ng/mL及び0.02ng/mLである計3種類の被験液を得た。なお、前記3種類の被験液は、細胞への添加の際に2倍希釈されるため、前記精製物の終濃度は、それぞれ、1ng/mL、0.1ng/mL及び0.01ng/mLとなる。
【0132】
[培養液の組成]
RPMI1640培地 500mL
ウシ胎児血清 55.5mL
硫酸カナマイシン 0.11mL
アンピシリンナトリウム 0.134mL
【0133】
(2)被験液の添加
マウスマクロファージ細胞(RAW264.7、ATCC)に、前記培養液を添加し、前記細胞の濃度が、4×10
5細胞/mLとなる溶液を調製した。前記溶液を、96ウェル平底プレートに、100μLずつ(すなわち、4×10
4細胞/100μL/ウェル)となるように播種した。播種後、37℃、5%CO
2下で、前記細胞がウェルの底に接着して伸展するまで2時間培養した。つぎに、前記被験液を各ウェルに100μLずつ添加した。前記被験液の添加後、37℃、5%CO
2下で24時間培養した。培養後、各ウェルの培養上清を除去し、新たに前記培養液150μLを添加し(以下、この工程を、「培養液添加工程」という。)、37℃、5%CO
2下で24時間培養した。
【0134】
(3)TNF−α濃度の測定
培養後、各ウェルの培養上清50μLを回収し、新たな96ウェル平底プレートの各ウェルへと移し、mouse TNF−α測定キット(Biolegend社製)を用いて吸光度を測定し、TNF−α濃度に換算した。
【0135】
測定結果を、
図6のグラフに示す。
図6において、縦軸は、TNF−α濃度を示し、横軸は、被験液の濃度を示す。
図6に示すように、TNF−α濃度が、被験液の濃度が高い程、低い値となったことから、TNF−αの産生は、被験液の濃度が高い程、少なくなることがわかった。この結果から、前記精製物により、炎症性サイトカインの一種であるTNF−αの産生が抑制される、すなわち、前記精製物(式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物の混合物)が、抗炎症効果を有することが確認された。なお、前記精製物に代えて、式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物又は式(B2)で表される化合物を用いても、同等の結果が得られた。
【0136】
〔実施例7〕
式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物が、抗炎症効果を有することを確認した。
【0137】
本例では、以下の2点以外は、実施例6と同様にして実験を行い、各ウェルの培養上清50μLを回収し、TNF−α濃度を測定した。すなわち、本例では、被験液として、前記精製物の濃度が、20μg/mL、2μg/mL、200ng/mL、20ng/mL及び2ng/mLである計5種類の被験液を用いた。なお、前記5種類の被験液は、細胞への添加の際に2倍希釈されるため、前記精製物の終濃度は、それぞれ、10μg/mL、1μg/mL、100ng/mL、10ng/mL及び1ng/mLとなる。また、本例では、実施例5における前記培養液添加工程において、前記培養液150μLに代えて、終濃度100ng/mLのLPSpを含む前記培養液150μLを添加した。
【0138】
測定結果を、
図7のグラフに示す。
図7において、縦軸は、TNF−α濃度を示し、横軸は、被験液の濃度を示す。
図7に示すように、TNF−α濃度が、被験液の濃度が高い程、低い値となったことから、TNF−αの産生は、被験液の濃度が高い程、少なくなることがわかった。この結果から、前記精製物により、炎症性サイトカインの一種であるTNF−αの産生が抑制される、すなわち、前記精製物(式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物の混合物)が、抗炎症効果を有することが確認された。なお、前記精製物に代えて、式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物又は式(B2)で表される化合物を用いても、同等の結果が得られた。
【0139】
〔実施例8〕
〔実施例8−1〕
式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物が、抗炎症効果を有することを確認した。
【0140】
(1)被験液の調製
実施例3における「(1)被験液の調製」と同様にして、前記精製物の濃度が、20000ng/mLの溶液を調製し、これを、下記組成の培養液を用いて段階的に希釈することにより、400ng/mL、4000ng/mL及び40000ng/mLである計3種類の被験液を得た。なお、前記3種類の被験液は、細胞への添加の際に4倍希釈されるため、前記精製物の終濃度は、それぞれ、100ng/mL、1000ng/mL及び10000ng/mLとなる。
【0141】
[培養液の組成]
RPMI1640培地 500mL
非動化ウシ胎児血清 55.5mL
ペニシリン−ストレプトマイシン−グルタミン(100×) 5.6mL
【0142】
(2)被験液の添加
ヒト末梢血単球由来細胞(THP−1、DSファーマバイオメディカル(株)製)に、前記培養液を添加し、前記細胞の濃度が、4×10
5細胞/mLとなる溶液を調製した。前記溶液を、24ウェルプレートに、500μLずつ(すなわち、2.0×10
5細胞/500μL/ウェル)となるように播種した。播種後、前記培養液250μL、又は、40μmol/LのGW9662(和光純薬工業(株)製)を含有する前記培養液250μLを、各ウェルに添加した。なお、前記GW9662は、核内受容体の一種であるPPARγ(Peroxisome proliferator-activated receptor γ)の阻害剤である。添加後、37℃、5%CO
2下で1時間培養した。その後、前記被験液を各ウェルに250μLずつ添加し、37℃、5%CO
2下で22時間培養した。培養後、各ウェルの培養上清を、2mLチューブに回収した。また、各ウェルに新たな前記培養液0.5mLを添加し、ウェル全体に行き渡らせ、前記2mLチューブに回収した。空になった各ウェルには、新たな前記培養液0.49mLを添加しておいた。前記2mLチューブに回収した前記培養液を、1000rpm、5分の条件で遠心分離し、上清を除去し、さらに、新たな前記培養液1mLを添加して懸濁し、再度同様の条件で遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、各ウェル中の0.49mLの培養液を、前記2mLチューブに添加して懸濁し、各ウェルに再び戻した。そして、各ウェルに、培養液250μL、又は、40μmol/Lの前記GW9662を含有する培養液250μLを添加し、37℃、5%CO
2下で1時間培養した。培養後、各ウェルに対して、前記LPSpの終濃度が100ng/mLとなるように、LPSpを含む培養液250μLを添加して、37℃、5%CO
2下で22時間培養した。
【0143】
(3)IL−
6の濃度の測定
培養後、各ウェルの培養上清をチューブに回収して遠心分離し、上清を1.5mLチューブに回収し、Human IL-6 ELISA MAX Deluxe(Biolegend社)を用いて吸光度を測定し、インターロイキン−6(Interleukin6:IL−6)の濃度を換算した。
【0144】
測定結果を、
図8のグラフに示す。
図8において、縦軸は、IL−6の濃度を示し、横軸は、被験液の濃度を示す。
図8に示すように、GW9662−の場合、すなわち、PPARγが阻害されていない時は、IL−6濃度が、被験液の濃度が高い程、低い値となったことから、IL−6の産生は、被験液の濃度が高い程、少なくなることがわかった。これに対して、GW9662+の場合、すなわち、PPARγが阻害されている時も、IL−6濃度が、被験液の濃度が高い程、低い値となったことから、IL−6の産生は、被験液の濃度が高い程、少なくなることがわかったものの、その減少の程度は、PPARγが阻害されていない時ほど顕著ではなかった。この結果から、前記精製物により、炎症性サイトカインの一種であるIL−6の産生が抑制される、すなわち、前記精製物(式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物の混合物)が、抗炎症効果を有することが確認された。また、前記精製物(式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物の混合物)によるIL−6の産生抑制には、PPARγが関与していることが示唆された。なお、前記精製物に代えて、式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物又は式(B2)で表される化合物を用いても、同等の結果が得られた。
【0145】
〔実施例8−2〕
式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物が、PPARγ遺伝子の発現を促進することを、理化学研究所が開発したCAGE(Cap Analysis of Gene Expression)法により確認した。
【0146】
前記THP−1細胞に、実施例8−1(2)と同様の培養液を添加し、前記細胞の濃度が、5×10
5細胞/mLとなる溶液を調製した。この溶液のPPARγ遺伝子の発現量を、前記CAGE法により測定したところ、3.97TPM(Tags Per Million)であった。前記測定後、この細胞溶液を、つぎの4群に分けた。すなわち、前記細胞溶液に終濃度1μg/mLとなるように前記精製物の溶液を添加した群(実施例8−2A)、前記細胞溶液に終濃度10μg/mLとなるように前記精製物の溶液を添加した群(実施例8−2B)、前記細胞溶液に何も添加しなかった群(比較例8−2A)、及び、前記細胞溶液に100ng/mLとなるようにLPSp溶液を添加した群(比較例8−2B)の計4群である。前記4群を3時間培養後、前記CAGE法によりPPARγ遺伝子の発現量を測定した。この結果を、
図27に示す。
図27は、PPARγ遺伝子の発現量を示すグラフである。
図27において、横軸は、培養時間を示し、縦軸は、PPARγ遺伝子の発現量(TPM)を示す。
図27に示すように、実施例8−2Aでは、3時間の間に、PPARγ遺伝子の発現量が3.97TPMから5.86TPMに大幅に増加し、実施例8−2Bでも、3時間の間に、PPARγ遺伝子の発現量が3.97TPMから5.90TPMに大幅に増加した。これに対して、比較例8−2Aでは、3時間の間に、PPARγ遺伝子の発現量が3.97TPMから3.89TPMへと僅かに減少し、比較例8−2Bでは、3時間の間に、PPARγ遺伝子の発現量が3.97TPMから4.31TPMへと増加したものの、増加の程度は顕著ではなかった。この結果から、前記精製物(式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物の混合物)が、PPARγ遺伝子の発現を促進することが確認された。なお、前記精製物に代えて、式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物又は式(B2)で表される化合物を用いても、同等の結果が得られた。
【0147】
〔実施例9〕
式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物が、肺がんに対する抗がん効果を有することを確認した。
【0148】
(1)担癌マウスの作製
ルイス肺がん由来細胞株(Lewis lung carcinoma:3LL、JCRB細胞バンクより入手)の懸濁液を、1匹当たりのがん細胞投与量が2.5×10
5cells/200μLとなるように、6週齢の雄性C57 BL/6Jマウス5匹の腹側部に皮下投与した。投与から2週間後、前記マウス1匹から腫瘍を摘出し、ディッシュ上でPBS(−)を用いて洗浄した。つぎに、洗浄した前記腫瘍を2mm角程度に細かくきざみ腫瘍断片とし、前記腫瘍断片を50mLチューブに移して、コラゲナーゼ液5mLを添加し、37℃で10分温めた。その後、前記腫瘍断片を含むコラゲナーゼ液をピペッティングすることにより、さらに細かい腫瘍断片とし、前記腫瘍断片を含むコラゲナーゼ液を別の50mLチューブに移し、氷上で冷却した。冷却後、前記腫瘍断片を含むコラゲナーゼ液にさらにコラゲナーゼ液5mLを添加し、同様の操作を、腫瘍断片を観察できなくなるまで5回繰り返した。その後、前記腫瘍断片を含むコラゲナーゼ液をセルストレイナー(メッシュサイズ70μm、BD社製)でろ過し、ろ過液を1200rpm、7分の条件で遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、沈殿に、RPMI1260培地(血清無添加)20mLを添加し、転倒混和による懸濁後、1200rpm、7分の条件で遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、沈殿に、PBS(−)を添加し2回洗浄した後、PBS(−)10mLを添加し懸濁し、がん細胞懸濁液を調製した。前記がん細胞懸濁液を、1匹当たりのがん細胞投与量が2.5×10
5cells/200μLとなるように、前記マウス12匹の腹側部に皮下投与した。投与から14日後、前記マウス10匹から腫瘍を摘出し、前述と同様の方法で、がん細胞懸濁液を調製した。前記がん細胞懸濁液を、1匹当たりのがん細胞投与量が2.5×10
5cells/50μLとなるように、前記マウス108匹の腹部皮内に投与した。投与後、各マウスの腫瘍サイズが直径5mm程度になった時点(投与後8日目)で、マウスを下記に示す6群(各群n=6)に分けた。
【0149】
【表5】
【0150】
(2)薬剤の投与
群分けした後、各群に、前記表5に示す物質を投与した。前記精製物の投与は、実施例9−1及び実施例9−2の腹腔内投与(ip)においては、マウスにおける前記精製物の摂取量が0.5mg/10mL/kgとなるように、群分け直後に1回行い、実施例9−3及び実施例9−4の自由摂取(po)の場合は、前記精製物の濃度が1μg/mLの溶液が入った給水瓶を用いて、群分け直後から開始した。なお、給水瓶は3日ごとに新しいものへと交換した。比較例9−1の生理食塩水の投与は、ipにより、マウスの生理食塩水摂取量が10mL/kgとなるように、群分け直後に1回行った。実施例9−2、実施例9−4及び参考例9−1におけるCY(シクロフォスファミド、肺がんに対する抗がん剤、和光純薬工業(株)製)の投与は、ipにより、マウスのCY摂取量が100mg/10mL/kgとなるように、群分け直後に1回行った。
【0151】
(3)腫瘍体積の計測
群分けした日を0日目として、3日目、6日目及び9日目に、ノギスを用いて腫瘍の長径及び短径を測定し、それを基に腫瘍体積を算出した。腫瘍体積の算出は、Shime ら(Shime H, et al, “ Toll-like receptor 3 signaling converts tumor-supporting myeloid cells to tumoricidal effectors”, Proc Natl Acad Sci USA, February 7, 2012, Vol.109, no.6, p.2066-2071)に記載の方法に従い、計算式:長径(mm)×短径(mm)
2×0.4=腫瘍体積(mm
3)により行った。
【0152】
計測結果を、
図9のグラフに示す。
図9において、縦軸は、腫瘍体積(mm
3)を示し、横軸は、群分けした日を0日目とした時の、群分け後の経過日数を示す。
図9に示すように、前記精製物を投与した実施例9−1及び実施例9−2では、生理食塩水を投与した比較例9−1と比較して、腫瘍体積が小さかった。このことから、前記精製物(式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物の混合物)は、肺がんに対する抗がん効果を有することが確認された。また、前記精製物に加え、CYを投与した実施例9−2及び実施例9−4では、CYのみを投与した参考例9−1と比較して、腫瘍体積が小さかった。このことから、前記精製物(式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物及び式(B2)で表される化合物の混合物)は、CYの肺がんに対する抗がん効果を増強する効果を有することが確認された。なお、前記精製物に代えて、式(A1)で表される化合物、式(B1)で表される化合物、式(A2)で表される化合物又は式(B2)で表される化合物を用いても、同等の結果が得られた。
【0153】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0154】
この出願は、2016年9月23日に出願された日本出願特願2016−186116及び2016年12月8日に出願された日本特許出願2016−238863を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。