(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6656688
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】回転式プレス型
(51)【国際特許分類】
B21D 37/08 20060101AFI20200220BHJP
B21D 37/01 20060101ALI20200220BHJP
B21D 19/08 20060101ALI20200220BHJP
B21D 19/00 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
B21D37/08
B21D37/01
B21D19/08 B
B21D19/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-523126(P2019-523126)
(86)(22)【出願日】2019年4月25日
(86)【国際出願番号】JP2019017798
【審査請求日】2019年6月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599109803
【氏名又は名称】株式会社ユアビジネス
(74)【代理人】
【識別番号】100089026
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高明
(74)【代理人】
【識別番号】100091580
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 雅文
(72)【発明者】
【氏名】木下 忠俊
【審査官】
山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4597254(JP,B2)
【文献】
特開2012−110903(JP,A)
【文献】
中国実用新案第201271695(CN,Y)
【文献】
韓国公開特許第10−2005−0030044(KR,A)
【文献】
特開2005−118788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/01、37/08
B21D 5/01
B21D 19/00、19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のワークに負角部を形成する回転型とこの回転型の外側に配置され、前記ワークに前記負角部以外の成型部を形成する固定型とを備え、
前記回転型は、前記ワークの取り外しに際して回動軸Orを中心として回動して前記固定型の内側に退避可能に形成されたプレス成形型であって、
前記回転型が載置される固定台と前記回転型との間に、前記回転型を前記回動軸Orを中心に回動可能に保持する回動ブロックを備え、
前記回動ブロックは、
前記固定台に配置され前記回動軸Orを中心とする凹状スライド面を備えた固定片と、
前記回転型に配置され前記回動軸Orを中心として前記凹状スライド面上で摺動可能な凸状スライド面を備えた移動片とから構成され、
前記凹状スライド面と前記凸状スライド面とは前記回動軸Orからの開き角度が80度以上であってかつ100度以下としたことを特徴とする回転式プレス型。
【請求項2】
板状のワークに負角部を形成する回転型とこの回転型の外側に配置され、前記ワークに前記負角部以外の成型部を形成する固定型とを備え、
前記回転型は、前記ワークの取り外しに際して回動軸Orを中心として回動して前記固定型の内側に退避可能に形成されたプレス成形型であって、
前記回転型が載置される固定台と前記回転型との間に、前記回転型を前記回動軸Orを中心に回動可能に保持する回動ブロックを備え、
前記回動ブロックは、
前記固定台に配置され前記回動軸Orを中心とする凹状スライド面を備えた固定片と、
前記回転型に配置され前記回動軸Orを中心として前記凹状スライド面上で摺動可能な凸状スライド面を備えた移動片とから構成され、
前記移動片の前記凸状スライド面が高力黄銅で形成されていることを特徴とする請求項1記載の回転式プレス型。
【請求項3】
板状のワークに負角部を形成する回転型とこの回転型の外側に配置され、前記ワークに前記負角部以外の成型部を形成する固定型とを備え、
前記回転型は、前記ワークに負角部を形成する曲刃部から前記固定型側に向けて中心軸Osを軸として形成された回転側凸状摺動面を備え、
前記固定型は前記回転側凸状摺動面に対向する位置に形成され、前記中心軸Osを軸として形成された固定側凹状摺動面を備え、
前記中心軸Osを、前記回転型の前記回動軸Orと異なる位置に設定し、前記回転型が退避方向に回動したとき前記回転側凸状摺動面と前記固定側凹状摺動面とが離間方向に移動することを特徴とする回転式プレス型。
【請求項4】
前記中心軸Osは、前記回動軸Orより前記回転型が前記ワークに負角部を形成する部位側に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の回転式プレス型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムを回転してパネル状のワークをプレス加工して負角部を形成する回転式プレス型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述した回転式プレス型として、円筒回転体をした円筒回転カムを備えるものがある。この回転型プレス型は、自動車ボディのパネルの端部に負角部を形成するため広く用いられている。
【0003】
この円筒回転カムは、一般に鋳鉄製の円筒形状部材であり、鋳鉄製のハウジングに形成した円筒形状の溝部内で回転させて使用される。この円筒回転カムの一部と他の金型との間においてパネルに負角部をプレス形成し、円筒回転カムを回転させて、ハウジングから移動して加工後のパネルを容易に取り外すことができる。
【0004】
しかし、この鋳鉄製の円筒回転カムは、製造時における加工が難しいという問題がある。特に大型の円筒回転カムはその大きな質量に起因して通常の旋盤では加工できず、特殊な工作機械が必要である。例えば両端にワークを掴むための部分を配置し、加工後に削り落とす等の複雑な処理を行う必要もある。同様にハウジングの円筒形溝部の加工も難しい。
【0005】
また、この円筒回転カムを用いたプレス形成型は、円筒形溝内において微小(例えば0.02mm程度)のクリアランスをもって回転駆動されるため、円筒回転カムに少しの歪みがあっても円滑に動作しない。通常、円筒回転カムは硬度確保のため、焼き入れ加工がなされるが、この熱処理のため歪みが発生しやすく、歪みにより回転動作ができなくなる場合がある。
【0006】
また、微小なごみによるかじりが発生する場合がある。円筒回転カムと円筒形溝部との隙間(クリアランス)は微小に設定される。このため、この部分にごみ等が入り込むとかじりが生じるのである。
【0007】
更に、この回転式プレス型により加工を行うと、円筒回転カム及びハウジングの摩耗によりがたつきが発生することがある。しかし、この回転式プレス型は調整可能な個所がないため、修正のためには円筒回転カムや円筒形溝を研摩等する他なく、修正がほとんどできない。
【0008】
また、円筒回転カムを使用した回転式プレス型は、円筒形以外の直径が変化する複雑な形状とすることが難しいという問題や、潤滑用の油溝を形成するために多くの工数を必要とする等の問題がある。
【0009】
このような課題を解決するため、出願人は以下の回転体の回動構造を提案している(特許文献1参照)。
【0010】
特許文献1には、プレス成形装置に配設される所要幅を有する回動体の回動構造であって、該回動体と、該回動体の下部に位置する本体部と、前記回動体と前記本体部とに取り付ける回動用ブロックとを備え、該回動用ブロックは、前記回動体の下部に対して取り付けられる凸型片と、前記本体部に対して取り付けられる凹型片とからなり、前記凸型片は、平坦状の取付部と凸状摺動部とを有すると共に、当該取付部と凸状摺動部とを貫通するボルト孔が複数個所に形成され、前記凹型片は、平坦状の取付部と凹状摺動部とを有すると共に、当該取付部と凹状摺動部とを貫通するボルト孔が複数個所に形成され、前記凸状摺動部と前記凹状摺動部とを摺動可能な位置に配置し、前記回動体の幅方向における両端部には、前記回動体の軸心位置に突起部を設け、該突起部に対して前記回動体の回動軌跡に対応した落下防止用押え部を配設し、前記回動体の回動に伴って前記突起部の縁部が前記落下防止用押え部に沿って移動することにより回動体反転時における落下を防止する回転体の回動構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4597254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1に記載の回転体の回動構造にあっては、回動体の中心設定が難しく、高い精度での中心位置の設定をしにくいという問題があった。即ち、回動用ブロックの凹型片と凸型片とが回転体の軸と直交する水平方向に移動してしまい、正確な位置に配置することが難しいのである。
【0013】
本発明は上述した課題に鑑みなされたものであり、高い精度で回転型の回転中心を設定することができる回転式プレス型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決する請求項1に記載の発明は、板状のワークに負角部を形成する回転型とこの回転型の外側に配置され、前記ワークに前記負角部以外の成型部を形成する固定型とを備え、前記回転型は、前記ワークの取り外しに際して回動軸Orを中心として回動して前記固定型の内側に退避可能に形成されたプレス成形型であって、前記回転型が載置される固定台と前記回転型との間に、前記回転型を前記回動軸Orを中心に回動可能に保持する回動ブロックを備え、前記回動ブロックは、前記固定台に配置され前記回動軸Orを中心とする凹状スライド面を備えた固定片と、前記回転型に配置され前記回動軸Orを中心として前記凹状スライド面上で摺動可能な凸状スライド面を備えた移動片とから構成され、前記凹状スライド面と前記凸状スライド面とは前記回動軸Orからの開き角度が80度以上100度以下としたことを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、回転型を固定型に回動可能に保持する回動ブロックにおいて、固定片の凹状スライド面と移動片の凸状スライド面の回動軸Orからの開き角度が80度以上100度以下としたので、固定片の凸状スライド面と移動片の凹状スライド面とは広い開き範囲で接触し、また凹状スライド面と凸状スライド面の深さ寸法を大きく確保できる。
【0016】
同じく請求項2に記載の発明は、
請求項1記載の発明において、板状のワークに負角部を形成する回転型とこの回転型の外側に配置され、前記ワークに前記負角部以外の成型部を形成する固定型とを備え、前記回転型は、前記ワークの取り外しに際して回動軸Orを中心として回動して前記固定型の内側に退避可能に形成されたプレス成形型であって、前記回転型が載置される固定台と前記回転型との間に、前記回転型を前記回動軸Orを中心に回動可能に保持する回動ブロックを備え、前記回動ブロックは、前記固定台に配置され前記回動軸Orを中心とする凹状スライド面を備えた固定片と、前記回転型に配置され前記回動軸Orを中心として前記凹状スライド面上で摺動可能な凸状スライド面を備えた移動片とから構成され、前記移動片の前記凸状スライド面が高力黄銅で形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、移動片の凸状スライド面を、熱処理をすることなく鋳造のままで高い強度、硬度を備える高力黄銅で形成する。よって、移動片の凸状スライド面を高い強度、硬度、優れた潤滑性を有するものとできる。
【0018】
同じく請求項3に記載の発明は、板状のワークに負角部を形成する回転型とこの回転型の外側に配置され、前記ワークに前記負角部以外の成型部を形成する固定型とを備え、前記回転型は、前記ワークに負角部を形成する曲刃部から前記固定型側に向けて中心軸Osを軸として形成された回転側凸状摺動面を備え、前記固定型は前記回転側凸状摺動面に対向する位置に形成され、前記中心軸Osを軸として形成された固定側凹状摺動面を備え、前記中心軸Osを、前記回転型の前記回動軸Orと異なる位置に設定し、前記回転型が退避方向に回動したとき前記回転側凸状摺動面と前記固定側凹状摺動面とが離間方向に移動することを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、回転型の回転側凸状摺動面と、固定型の固定側凹状摺動面の中心軸Osを、回転型の回動軸Orと異なる位置に設定し、回転型が退避方向に回動したとき前記回転側凸状摺動面と固定側凹状摺動面とが離間方向に移動する。
【0020】
同じく請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の回転式プレス型において、前記中心軸Osは、前記回動軸Orより前記回転型が前記ワークに負角部を形成する部位側に配置されていることを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、回転側凸状摺動面及び固定側凹状摺動面の中心軸Osは、回転型の回動軸Orより回転型が前記ワークに負角部を形成する部位側に配置されているので、回転型の回動に従って、回転側凸状摺動面が固定側凹状摺動面から離間する方向に移動する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る回転式プレス型によれば、高い精度で回転型の回転中心を設定することができる。
【0023】
即ち、請求項1に記載の回転式プレス型によれば、回転型を固定型に回動可能に保持する回動ブロックにおいて、固定片の凹状スライド面と移動片の凸状スライド面の回動軸Orからの開き角度が80度以上100度以下としたので、固定片の凸状スライド面と移動片の凹状スライド面とは広い開き範囲で接触し、また凹状スライド面と凸状スライド面の深さ寸法を大きく確保できる。よって、移動片は固定片に対して正確な中心位置をもって移動することができる。また外力による中心位置の移動が少なくなり、高い精度で回転型の回転中心を設定することができる。
【0024】
また、請求項2に記載の回転式プレス型によれば、移動片の凸状スライド面は、熱処理をすることなく鋳造のままで高い強度、硬度を備える高力黄銅で形成される。よって、移動片の凸状スライド面を高い強度、硬度を備え、更に潤滑性に優れたものとでき、更に、移動片の凹状スライド面の加工を高精度で行うことができる。
【0025】
また、請求項3に記載の回転式プレス型によれば、回転型の回転側凸状摺動面と、固定型の固定側凹状摺動面の中心軸Osを、回転型の回動軸Orと異なる位置に設定し、回転型が退避方向に回動したとき前記回転側凸状摺動面と固定側凹状摺動面とが離間方向に移動する。このため、ワークのプレス加工終了時において回転型の回転に際して、回転側凸状摺動面と固定側凹状摺動面とが接触することがなく、移動を円滑に行うことができる。
【0026】
更に、請求項4に記載の回転式プレス型によれば、回転側凸状摺動面及び固定側凹状摺動面の中心軸Osは、回転型の回動軸Orより回転型が前記ワークに負角部を形成する部位側に配置されているので、回転型の回動に従って、回転側凸状摺動面が固定側凹状摺動面から離間する方向に移動する。よって、ワークのプレス加工終了時において回転型の回転に際して、回転側凸状摺動面と固定側凹状摺動面とが接触することがなく、移動を円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る回転式プレス型の回転型を示すものであり、(a)は回転型の平面図、(b)は回転型の正面図、(c)は回転型の側面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る回転式プレス型の回転型を示すものであり、(a)は回転型の斜視図、(b)は(a)と異なる方向からの回転型の斜視図である。
【
図3】同回転式プレス型の回転型を示すものであり、(a)は
図2(a)、(b)と異なる方向からの回転型の斜視図、(b)は(a)及び
図2(a)、(b)と異なる方向からの回転型の斜視図である。
【
図4】同回転式プレス型の構成を示す
図2(a)中のA-A線に相当する断面図である。
【
図5】同回転式プレス型の回動ブロック及び回転型と固定型との摺動面を示す拡大断面図である。
【
図6】同回転式プレス型の回動ブロックを示すものであり、(a)は全体構造を示す斜視図、(b)は固定片を示す斜視図、(c)は移動片を示す斜視図である。
【
図7】同回転式プレス型の動作を示すものであり、(a)は下死点の状態、(b)は3度回転した状態、(c)は6度回転した状態、(d)は12度回転した状態を示す回転式プレス型の断面図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る回転式プレス型を示すものであり、(a)はプレス完了状態、(b)はワーク取出し状態における回転式プレス型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するための形態に係る回転式プレス型を図面に基づいて説明する。
【0029】
本発明の実施形態に係る回転式プレス型は、パネル状のワーク、例えば自動車のボディを構成する鋼板の端縁部をプレス加工して、負角部を形成するものである。
【0030】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態について説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る回転式プレス型の回転型を示すものであり、(a)は回転型の平面図、(b)は回転型の正面図、(c)は回転型の側面図、図2は本発明の第1実施形態に係る回転式プレス型を示すものであり、(a)は回転式プレス型の斜視図、(b)は(a)と異なる方向からの回転式プレス型の斜視図、
図3は同回転式プレス型を示すものであり、(a)は回転式プレス型の斜視図、(b)は(a)と異なる方向からの回転式プレス型の斜視図、
図4は同回転式プレス型の構成を示す
図2(a)中のA-A線に相当する断面図である。
【0031】
回転式プレス型10は、
図4及び図
5に示す様に、回転する回転型11を回動ブロック20を介して固定台31に固定し、この回転型11を回転駆動して固定型34、水平移動カム32、上下移動カム3
3でパネルPをプレス加工してパネルPに負角部Pnを形成する。回転型11はワークの端部をプレス加工するのに充分な寸法を備える。
【0032】
本実施形態に係る回転式プレス型10において、図
1〜
図3に示すように回転型11には、位置決め用のディスタンスブロック12、ストッパプレート13、17が配置される。これらのディスタンスブロック12、ストッパプレート13は必要に応じて設けられる。また、回転型11は、軸受15に打ち込み軸14で回転可能に配置され、軸受15を固定台31に固定することで、回転可能に配置される。
【0033】
ここで、ディスタンスブロック12は、カムのストローク量を定め、ストッパプレート13、17は回転型11の回動位置を規制する。これらの部材は必要に応じて配置される。
【0034】
そして、回転型11と固定台31との間には、図
1〜
図3に示すように、回転型11を固定台31上で回転可能に支持する複数、この例では3台の回動ブロック20を配置している。回動ブロック20は、回転型11の荷重を担い、回転型11は固定台31上において、自重等に起因する歪みが生じることなく回転可能に保持される。なお、回動ブロック20は必要に応じて配置する数が選択される。
【0035】
そして、回転型11は、エアシリンダ16の駆動により回動軸Orを中心として所定の角度で回転駆動される。なお、打ち込み軸14は回転型11を回動軸Orで位置決めするが、回転型11の位置を補助的に決めているものである。回転型11の稼働時において回転型11は回動ブロック20で荷重が保持されており、打ち込み軸14及び軸受15は、回転型11を反転させた状態で回転型11が回動ブロック20で保持されないとき回転型11を支持する。
【0036】
図5は同回転式プレス型の回動ブロック及び回転型と固定型との摺動面を示す拡大断面図、
図6は同回転式プレス型の回動ブロックを示すものであり、(a)は全体構造を示す斜視図、(b)は固定片を示す斜視図、(c)は移動片を示す斜視図である。
図5及び
図6に示すように、本実実施形態に係る回転式プレス型10において、回動ブロック20は、固定片21と移動片22とから形成されている。
【0037】
固定片21は鋳鉄(FC)で形成されている。
図6(b)に示すように、固定片21の上面は、回転型11の打ち込み軸14に相当する回動軸Orを軸とする下側に凹の円筒面である凹状スライド面23が形成されている。ま
た、凹状スライド面23には、固定片21を固定台31に固定するためのボルト孔24が形成されている。
【0038】
また、移動片22は、高力黄銅のブロックとして形成されている。高力黄銅は例えば銅(Cu)、亜鉛(Zn)を基本的素材とし、これにアルミニウム(Al)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)等を配合した合金であり、熱処理をすることなく鋳造のままで高い強度、硬度を備える素材である。高力黄銅は鋳鉄に比して大きな強度(例えば30倍)を備え、また潤滑性に優れる。
【0039】
本実施形態において、
図6(c)に示すように、移動片22の下面は、回動軸Orを軸とする下側に凸の円筒面である凸状スライド面25が形成されている。また、凸状スライド面25には、移動片22を回転型11に固定するためのボルト孔26が形成されている。
【0040】
固定片21は、固定台31に、移動片22は回転型11にボルトで固定される。このとき、固定片21と固定台31、移動片22と回転型11の間に調整用の薄板(シム)を配置することで、各部の取付け位置を微調整できる。この微調整は、回転式プレス型10の経年使用後における、各部の歪みや摩耗による変動を補正するため行うことができる。
【0041】
そして、
図5及び
図6に示すように、本実施形態において、固定片21の凹状スライド面23及び移動片22の凸状スライド面25を回動軸Orからの開き角度αを80度以上100度以下である90度としている。これにより、回転型11に何らかの力が加わった場合であっても、移動片22が固定片21から外れることを防止できる。また、開き角度を大きくすることで摺接面が大きくなり、単位面積あたりの加重が減り、摩擦を軽減できるより大きな力を受けることができる。
【0042】
出願人の実験によれば、固定片21の凹状スライド面23と移動片22の凸状スライド面25の回動軸Orからの開き角度αについて、60度では「××」、70度では「×」、75度では「×」、80度では「△」、85度では「○△」、90度では「○」であった。ここで、評価「××」は「まったく不可」、「×」は「不可」、「△」は「可」、「○△」は「良好」、「○」は「優良」を示している。
【0043】
この実験結果から、凹状スライド面23及び凸状スライド面25の回動軸Orからの開き角度αが80度以上であることが必要である。また、開き角度αが100度を越えると固定片21が移動片22から移動するのを防止する効果が増加しないし、材料費及び製作が高くなり現実的ではない。
【0044】
本実施形態で使用した回動ブロック20は、移動片22を高力黄銅としたため、強度が優れる他、潤滑性に優れる。このため、従来の鋳鉄製の回転型のように油溝を形成する必要がない。また、高力黄銅は正確な機械加工が可能である。
【0045】
回動ブロック20の潤滑性を向上させるため、固定片21の凹状スライド面23及び移動片22の凸状スライド面25に固体潤滑剤、例えばグラファイトを埋め込むことができる。これにより、無給油で、接触面のかじりが防止することができる。
【0046】
また、回転型11の回動軸Orの位置調整を、回動ブロック20の固定片21と固定台31との間、又は移動片22と回転型11の間に調整用薄板(シム)を介在させることで簡単に行うことができる。
【0047】
次に回転型11と、固定型34との摺接面であるスライス面Sの形状及び、回転型11の回動軸Orの位置について説明する。
【0048】
図4及び
図5に示すように、回転型11はワークであるパネルPに負角部Pnを形成する曲刃部11aに連続して回転側凸状摺動面11bが形成されている。この回転側凸状摺動面11bは固定型34側に向けて凸であり中心軸Osを軸とする半径R1の曲面である。
【0049】
また、固定型34には、この回転側凸状摺動面11bに対向して固定側凹状摺動面34aが形成されている。この固定側凹状摺動面34aは外側に向けて凹であり中心軸Osを軸とする半径R2の曲面である。実際には、回転側凸状摺動面11bと固定側凹状摺動面34aとは接触しないためR1<R2として設定される。ここでは、回転型11と固定型34との分割面をスライス面Sと称し、その軸が中心軸Os、半径がRであるとして説明する。
【0050】
このような構成において、本実施形態に係る回転式プレス型10では、中心軸Osを回転型11の回動軸Orと異なる位置、例えば回動軸Orを中心軸Osより回転型11の負角部を形成する曲刃部11a側に配置する。これより、
図5に示すように、回転型11が退避方向に回動したとき回転側凸状摺動面11bと固定側凹状摺動面34aとが離間して間隙Tを形成する。なお、
図5中では、回転側凸状摺動面11bと固定側凹状摺動面34aとの間隙Tを誇張して大きく描いている。
【0051】
このため、本実施形形態に係る回転式プレス型10では、プレス加工後、回転型11を回動してパネルPを取り外すに際して、回転側凸状摺動面11bと固定側凹状摺動面34aが離間する方向に移動するため、回転型11と固定型34との接触や摩擦が発生することなく、円滑に動作する。
【0052】
なお、この例では、R=200mmとし、回動軸Orは、中心軸Osより上側にa(例えば10mm)、左側にb(例えば10mm)だけ偏位させてた状態を示している。この位置は例えば中心軸Osと同じ高さ位置であってもよい。両者の位置関係は必要に応じて適宜変更できる。
【0053】
出願人の実験によれば、R=100mm〜R=200mm程度であれば中心軸Osの回動軸Orからの偏位量は10mm位で良好であり5mmであっても機能的に大きくは変らないことが判明している。なお、偏位量を大きくし過ぎると固定型34が薄くなることがあり、注意を要する。
【0054】
次に回転式プレス型10によりパネルPをプレスして負角部を形成した状態から回転型11を回転してパネルPを取出す動作について説明する。
図7は同回転式プレス型の動作を示すものであり、(a)は下死点の状態、(b)は3度回転した状態、(c)は6度回転した状態、(d)は12度回転した状態を示す回転式プレス型の断面図である。
【0055】
まず、
図7(a)に示すように、パネルPのプレスが完了する。そして、同図(b)、(c)、(d)に示す順に回転型11を回動させる。すると、回転型11と固定型34との間隙T(クリアランス)は(b)で0.62mm、(c)で1.25mm、(d)で2.54mmと、(b)、(c)、(d)の順に大きくなっていく。これにより、回転型11が固定型34に接触することなく円滑に移動できることがわかる。
【0056】
以上のように、本実施形態に係る回転式プレス型10によれば、固定片21の凸状スライド面25と移動片22の凹状スライド面23とは広い開き範囲で接触し、また凹状スライド面と凸状スライド面の深さ寸法を大きく確保できる。移動片は固定片に対して正確な中心位置をもって移動することができる。また外力による中心位置の移動が少ない。このため、高い精度で回転型の回転中心を設定することができる。
【0057】
更に、本実施形態に係る回転式プレス型10によれば、移動片22が高力黄銅で形成されているので、移動片22を高い強度、硬度、潤滑性に優れたものとできる。更に、移動片22の凹状スライド面の加工を高精度で行うことができ、回動ブロック20による回動を円滑に行うことができる。
【0058】
また、回転型の回転側凸状摺動面と、固定型の固定側凹状摺動面の中心軸Osを、回転型の回動軸Orと異なる位置、即ち回転型の回動軸Orより回転型11がパネルPに負角部を形成する曲刃部11a側に配置に設定し、回転型11が退避方向に回動したとき回転側凸状摺動面11bと固定側凹状摺動面34aとが離間方向に移動して間隙Tを備える状態となるので、プレス加工終了時における回転型11の回転に際して、回転側凸状摺動面11bと固定側凹状摺動面34aとが接触することがなく、回転型11の移動を円滑に行うことができる。
【0059】
なお、上記例では、移動片22全体を高力黄銅で形成するものとして説明した、移動片22の凸状スライド面25付近だけを高力黄銅で形成してもよい。また、固定片21の凹状スライド面23付近又は固定片21全体を高力黄銅で形成するようにしてもよい。
【0060】
<第2実施形態>
次に本発明の第2実施形態に係る回転式プレス型について説明する。
図8は本発明の第2実施形態に係る回転式プレス型を示すものであり、(a)はプレス完了状態、(b)はワーク取出し状態における回転式プレス型の断面図である。
【0061】
本実施形態に係る回転式プレス型40は、第1実施形態とは異なる形状のパネルPを形成するものである。このため、回転式プレス型40において、回転型41の形状、水平移動カム52、上下移動カム53、固定型54等の形状が第1実施形態とは異なるが、基本的な構成は同じである。
【0062】
本例は、回転型41に第1実施形態に係る回転式プレス型と同じ回動ブロック20を使用している。即ち、本実施形態では、回転型41と固定台51との間に回動ブロック20を配置し、回転型41が回動軸Orを軸として回動できるものとしている。
【0063】
回動ブロック20の構成は第1実施形態のものと同一である。即ち、
図8(a)に示すように、回動ブロック20は、凹状スライド面23を備える固定片21と、凸状スライド面25を備える移動片22とからなる。そして、凹状スライド面23及び凸状スライド面25の回動軸Orからの開き角を90度としてる。また、移動片22は高力黄銅で形成されている。
【0064】
更に、回転型41の回転側凸状摺動面41bと固定型54の固定側凹状摺動面44aはスライス面Sを形成し、このスライス面Sの中心軸Osは、回動軸Orと異なる位置に配置されている。即ち、R=200mmとし、回動軸Orは、中心軸Osより回転型41の負角部を形成する曲刃部41a側、即ち上側にa(例えば10mm)、右側にb(例えば10mm)だけ偏位させる。
【0065】
これにより、本実施形態に係る回転式プレス型40は、
図8(a)、(b)に示すように、第1実施形態と同様に、移動片は固定片に対して正確な中心位置をもって移動することができる。また外力による中心位置の移動が少ない。このため、高い精度で回転型の回転中心を設定することができる。
【0066】
また第2実施形態に係る回転式プレス型40によれば、
図8(b)に示すように、プレス加工終了時における回転型41の回転に際して、回転側凸状摺動面41bと固定側凹状摺動面54aとが接触することがなく、回転型41の移動を円滑に行うことができる。
【0067】
なお、上記各実施形態において、回転型は、回動ブロックにより
支持されて回動する構成としたが、いわゆるこのような回動ブロックを使用しないいわゆるスイングタイプである場合、回転側凸状摺動面と固定側凹状摺動面にスライス面Sが形成されていえれば、スライス面Sの中心軸Osを、回動軸Orと異なる位置に配置すれば、回転側凸状摺動面が固定側凹状摺動面に接触することがなくなる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る回転式プレス型は、高い精度で回転型の回転中心を設定することができるので、自動車製造業等産業上の利用可能性を備える。
【符号の説明】
【0069】
10:回転式プレス型
11:回転型
11a:負角部を形成する曲刃部
11b:回転側凸状摺動面
12:ディスタンスブロック
13:ストッパプレート
14:打ち込み軸
15:軸受
16:エアシリンダ
17:ストッパプレート
20:回動ブロック
21:固定片
22:移動片
23:凹状スライド面
24:ボルト孔
25:凸状スライド面
26:ボルト孔
31:固定台
32:水平移動カム
33:上下移動カム
34:固定型
34a:固定側凹状摺動面
40:回転式プレス型
41:回転型
41a:負角部を形成する曲刃部
41b:回転側凸状摺動面
44a:固定側凹状摺動面
51:固定台
52:水平移動カム
53:上下移動カム
54:固定型
54a:固定側凹状摺動面
Or:回動軸
Os:中心軸
P:パネル
Pn:負角部
S:スライス面
T:間隙
α:開き角度
【要約】
【課題】高い精度で回転型の回転中心を設定することができる回転式プレス型を提供する。
【解決手段】板状のワークに負角部を形成する回転型とこの回転型の外側に配置され、ワークに負角部以外の成型部を形成する固定型とを備え、回転型は、ワークの取り外しに際して回動軸Orを中心として回動して固定型の内側に退避可能に形成されたプレス成形型である。回転型が載置される固定台と回転型との間に、回転型を回動軸Orを中心に回動可能に保持する回動ブロックを備え、回動ブロックは、固定台に配置され回動軸Orを中心とする凹状スライド面を備えた固定片と、回転型に配置され回動軸Orを中心として凹状スライド面上で摺動可能な凸状スライド面を備えた移動片とから構成され、凹状スライド面と凸状スライド面とは回動軸Orからの開き角度が80度以上であってかつ100度以下とした。
【選択図】
図4