【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 会見日:平成30年5月23日 会見場所:徳島大学病院 (徳島県徳島市蔵本町2丁目50−1) 放送日:平成30年5月24日 放送番組:NHK徳島放送局 おはよう徳島 ウェブサイト掲載日:平成30年5月24日 ウェブサイトのアドレス:https://www3.nhk.or.jp/lnews/tokushima/20180524/8020001888.html
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、総務省戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)「ワイヤレス給電式医療機器の製作および臨床応用」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて実施形態を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。なお、本明細書において「備える」とは、別部材として備えるもの、一体の部材として構成するものの何れをも含む意味で使用する。
【0021】
さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための位置特定システム、位置特定装置、位置特定方法、位置特定プログラム及びコンピュータで読み取り可能な記録媒体並びに記録した機器を例示するものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0022】
本発明の実施形態1に係る医療用マイクロ波給電システムを、
図1に示す。この医療用マイクロ波給電システム1000は、部屋RMの内部配置された一以上の医療機器MDに対し、ワイヤレスで給電を行う。
図1に示す医療用マイクロ波給電システムは、給電装置200と、この給電装置200から電波で給電されて駆動される医療機器MDで構成される。医療機器MDとしては、患者に装着される携行型の医療機器、例えばパルスオキシメータやホルター心電計等が好適に挙げられる。また、据え置き型の医療機器の給電に本実施形態に係る医療用マイクロ波給電システムを用いてもよい。さらに医療機器は、人間に装着するものの他、他の動物、例えばマウス、猫、犬、サル、鳥などに装着する機器も含む意味で使用する。
【0023】
医療機器への給電方式には、遠非接触給電方式(Contactless remote method: Wireless power transmission (WPT) system in a shield box))と、近非接触給電方式(Contactless proximity method (ORS: Open-ring system))が利用できる。本実施形態では、この内前者の遠非接触給電方式を利用している。この給電方式は、パッシブRFID等と呼ばれることもある。ここでは、手術室や診察室、観察室、入院室など、医療機器を配置する部屋RMを、電磁波や電波を遮蔽する閉塞空間としている。例えば部屋の壁や床、天井を、電磁波を遮蔽、あるいは吸収する材質で構成したり、表面に電磁波吸収材や電磁波遮蔽材を塗布する等して、室外に電磁波が漏洩しないようにしている。
図1の例では、他の電波からの干渉を比較的を受けにくい帯域である2.4GHzを用いている。また、部屋RMを模した試験として、金属製の箱の内部に実施例に係る医療用マイクロ波給電システムを配置して、ワイヤレス給電の試験を行い、1〜15cmの範囲内で給電装置200から医療機器MDへの給電がなされていることを確認した。
【0024】
給電装置200は、給電アンテナ210と、給電回路220を備える。また給電装置200は、給電のための電磁波や電波を室内に送信する他、医療機器からの信号を受信する受信回路を備えてもよい。あるいは、医療機器からの信号を受信し収集する受信装置を、給電装置とは別途設けてもよい。
【0025】
医療機器MDは、給電装置200から給電される電力を受信する受電回路100を備えている。ここで、医療用マイクロ波給電システムの給電回路220と受電回路100を示す回路図を、
図2に示す。この医療用マイクロ波給電システムは、直流電源71に接続される給電回路220と、直流電源を必要とする医療機器MDに接続される受電回路100とにより構成される。給電回路220においては、給電用直流電源230から発振回路221に直流電源が供給され、発振回路221の出力が増幅回路222で増幅され、増幅回路222に接続された給電アンテナ210から電力がマイクロ波として伝送される。受電回路100においては、給電回路220の給電アンテナ210から伝送されたマイクロ波が受電アンテナ110で受信され、受電回路100で整流されて直流電源が出力され、医療機器MDに供給される。
【0026】
図2の医療用マイクロ波給電システム1000の例では、給電回路220から給電アンテナ210を介して給電された電力を、受電アンテナ110で受信し、受電回路100で変換して、負荷である医療機器MDを駆動している。なお負荷として、医療機器を駆動する二次電池を用いてもよい。この場合は、電力を二次電池に充電し、二次電池を放電させることで医療機器を駆動する。アンテナは放射ユニットを有する。
【0027】
図2に示す受電回路100は、前段ローパスフィルタ回路111と、前段整合回路112と、整流素子113と、後段整合回路114と、後段ローパスフィルタ回路115を備える。受電回路100は、レクテナ(Rectifying Antenna)回路で構成される。レクテナ回路は、マイクロ波等の電波や電磁波を直流電流に変換する回路である。このレクテナ回路は、給電回路220から給電アンテナ210を介して送信された電波を受電アンテナ110で受け、整流するための整流素子113として、ショットキーバリアダイオード(SBD)を備える。SBDは、その電極を窒化ニッケルで構成している。これにより、高温時においてもSBDの逆リーク電流を低減して、発熱を抑制することが可能となる。特に、発熱による人体や機器への影響を考慮しなければならない医療機器において、発熱量を抑制することは極めて重要であり、安全かつ安定的に医療機器へのワイヤレス給電を実現することができる。この医療用マイクロ波給電方法は、部屋RMの閉塞空間内の壁面に、給電回路220を備える給電装置200を設置する工程と、給電回路220から、ワイヤレスで給電される電力を受電回路100で受信し、電極を備えるSBDで整流する工程とを含む。
【0028】
本実施形態においては、医療器機器に無線すなわちワイヤレスで給電を行う給電システムであり、給電方式にはマイクロ波給電を用いている。ワイヤレスで電力を伝送する技術としては、主に電磁誘導型、共鳴型、電波受信型が知られている。この内電波受信型は、電波や電磁波を送電の媒体として利用する。電波受信型の送電方式においては、送電側から発信した電波を受信側のアンテナで受信し、直流電力に整流する。この方式の利点は、送電効率の低下を許容した場合、送電距離を数十m程度とでき、他の電磁誘導型や共鳴型の送電方式に比べて格段に距離を伸ばすことができることが挙げられる。一方で、電波が送電中に拡散してしまうため送電効率が低くなり、これに伴い送電可能な電力も数mW程度と微小になることがデメリットである。用途としてはRFタグやFeliCa等のICカードといった小電力での利用が一般的で、大電力での電力伝送はまだ普及していない。しかし、長距離送電が可能であるという最大の利点を生かすため、電波拡散が抑制できるGHz帯以上の周波数の高い電波を用い、さらに送受信アンテナには位相をコントロールできるフェイズドアレイアンテナを使用し電力を一点に集めることで高効率な長距離電力送電を可能にしようと研究されている。ここでは、電波受信型の中でも高効率な長距離の伝送が期待されているマイクロ波を用いて電力を伝送する。高い周波数帯の電波であるマイクロ波を用いることで、電波の拡散を抑制できる。またマイクロ波を用いることで、システム全体の大きさを小さくすることもできる。
【0029】
給電側において、電波を用いて電力給電するには、ヘテロ構造電界効果型トランジスタ(Hetero-junction Field Effect Transistor:HFET)やマグネトロンを用いた発信回路で直流電流(DC)を高周波電流に変換し、アンテナを使って電波(RF)にすることで空間に効率よく放出させる。マイクロ波帯の中では低い数GHz帯の周波数で数百W以下の小電力用の発振回路には高移動度トランジスタ(high-electron-mobility transistor:HEMT)が使われている。半導体デバイス系は小型化が可能なため集積に向いていることが特長である。90年代後半からは窒化ガリウム(GaN)を初めとしたワイドバンドギャップ半導体の研究が盛んになり、更なる高周波帯かつ数百W以上の高出力帯での応用が期待されている。一方、大きな出力や数十GHz以上の高い周波数が必要な場合には今でもマグネトロンが使われている。真空管系の利点は、大きな出力が求められる発信回路のコストを半導体より安くすることができることである。
【0030】
一方受電側では、電波を受け取るレクテナ回路と呼ばれる、アンテナに整流回路が組みこまれた回路を用いる。アンテナはRFを受信するため、表皮効果などによって損失が発生しやすくなる。また複数のアンテナの出力を組み合わせて大きな電力を取り出そうとすると各アンテナからの電流の位相を合わす必要性が生まれ設計及び製造が複雑になる。レクテナ回路はアンテナの直近に設けた整流器でRF/DC変換することで、RF伝送によって発生する損失を最低限にすることが可能とする。整流器には少数キャリア注入が引き起こす不活性効果がないSBDを使い整流することが主流である。
【0031】
レクテナ回路の整流回路方式としては、
図3に示すシングルシャント型のレクテナ回路100Aや、
図4に示すデュアルダイオード型レクテナ回路100Bが利用できる。一方、
図3に示すシングルシャント型レクテナ回路100Aでは、SBD113A、伝送線路116、および平滑用キャパシタ117を備える。
図4のデュアルダイオード型レクテナ回路100Bは、SBD113B、113C、平滑用キャパシタ117Bを備える。デュアルダイオード型レクテナ回路をプリント基板上に実現する場合には、SBDを用いることによりλ/4線路等の伝送経路が不要となるので、シングルシャント型レクテナ回路よりも小型化が可能である。
【0032】
なお給電回路220では、例えばAlGaN/GaN HFETからなるF級増幅器を用いることにより80%以上の高効率を実現することができ、この給電回路220もトランジスタチップとλ/4以下のスタブ数本で構成することができる。電力はプラスチック板を通して給電できるので、給電側、受電側共に、完全にプラスチック膜などで覆うことができ、防水、防塵のコネクタを実現することができる。
【0033】
シングルシャント型のレクテナ回路では、一のSBDで全波整流が可能である。一般にダイオードはON/OFFスイッチの働きをするため、一個つでは半波整流回路にしかならず100%の変換効率は望めないが、シングルシャント回路ではSBDを負荷に対して並列に挿入し、後段整合回路114を用い整合をとることで、高効率のRF/DC変換効率が実現可能な回路となっている。後段整合回路114は、λ/4線路等の伝送経路116や平滑用コンデンサ117で構成される。ただ、実際にはダイオードの内部パラメータの影響によって変換効率は100%にはならない。ダイオードの内部パラメータとして重要になるのは立ち上がり電圧(VJ)、ブレークダウン電圧(Vbr)、直列抵抗、逆方向リーク電流、寄生容量である。ここで、一般的なレクテナ回路の変換効率と入力電力依存性の関係を
図5のグラフに示す。レクテナ回路の最大の最大変換効率はVJ,Vbr,高調波の影響によって決まることが確認できる。直列抵抗の増加はVJに、逆方向リーク電流の増加はVbrに影響し、下駄をはかせたように変換効率を低下させる。後述する本実施例においては、5.8GHzで73%の高効率を実現した。
【0034】
次に、SBDを構成する半導体について検討する。近年、窒化ガリウム(GaN)や炭化ケイ素(SiC)を代表とするワイドバンドギャップ半導体が次世代パワーデバイス材料として注目されている。ワイドバンドギャップ半導体は、高絶縁破壊電界、高電子移動度という物性値から高耐圧、低抵抗、低容量、高温動作が可能という特長からシリコン(Si)半導体デバイスの性能を超えるデバイス材料として期待されている。ワイドバンドギャップ半導体以外にもSiデバイスの性能を上回る材料としてガリウム砒素(GaAs)がある。GaAsがヘテロ接合(異種半導体接合)を形成することを利用し開発されたHFETは、電子移動度が大きく高周波動作が可能である。このGaAsを用いたHFETデバイスは光通信や無線通信の普及に大きく貢献し、今日の情報化社会を築き上げてきた。ただ、現在では半導体の高寿命である利点と真空管程度の高出力、高周波をあわせ持ったデバイスが求められており、ワイドバンドギャップ半導体の研究開発が盛んになっている。
(窒化物半導体に対する窒化物電極の安定性)
【0035】
GaNはバンドギャップが大きいことからSi半導体では応用が困難な高温環境でも使えるデバイスとして注目されている。そのため、GaNデバイスは電気自動車の車載部品や宇宙ロケット、高温センサーなどの高温環境下での使用が想定されている。このような高温環境下で使用できる利点としては、高温環境での使用に不向きなSiデバイスなどは安定な動作を保証するために冷却装置を用意する必要があったのに対し、冷却装置を簡略化又は省略できることが挙げられる。
【0036】
しかしながら、GaNを高温環境下で用いる場合やデバイスの抵抗によって発生するジュール熱が大きい場合は、動作中にデバイス温度の変化によって電気特性の変化や劣化を引き起こす可能性がある。この問題に対しての解決策としては温度変化に安定な金属/GaN界面をもつ電極の実現が挙げられる。そこで本発明者らは、電極として、GaNとの界面での反応を従来の純金属に比較して抑制する働きがあると考えられる窒化金属を用いて、温度的に安定的な界面を開発した。
【0037】
図6A、
図6Bは、アノード電極にNi用いた最も一般的なSBDの温度変化に関する電流−電圧特性(I−V特性)であり、
図7A、
図7Bはアノード電極に窒化物である窒化チタン(TiN)を用いたSBDのI−V特性である。I−V測定では基板温度を室温(RT)→75℃→RT→125℃→RT→175℃→RTと変化させている。Ni電極を用いたSBDの順方向電気特性(RT時)が徐々に変化しているのに対し、TiNの順方向はRT時において常に同じ特性を示している。これはTiNがNiに比べ温度変化による電極の変化劣化現象を抑制する可能性を示している。また、逆方向のI−V特性に関してもTiN電極は温度に依存して逆方向リーク電流が増大する傾向を示し、Ni電極では温度変化への依存が小さいように読み取れる。これは、TiN電極の方がNi電極よりもショットキー障壁高さ(schottky barrier height:SBH)が低いことはもちろん、TiN/GaN界面がNi/GaN界面に比べ準位を作りにくく比較的、良好な界面を形成したため熱電子放出モデルに従ったものだと推測される。これらの結果から窒化物金属を用いた電極は窒化物半導体に対して熱的な安定性をもたらすのに有効であると考えられる。また、TiN電極は低いSBHから立ち上がり電圧を低減させることも可能にしている。一方で、高温環境下での使用を前提とした場合、TiN電極のリーク電流は非常に大きいため、高温でもリーク電流が低く温度変化に対して安定的な電極が求められる。
【0038】
通常のNi電極を用いたGaN系SBDは高温環境下でのデバイス動作によって電気的特性が変化することが報告されており、熱的に安定とは言えない。また、高温環境下での使用を前提とした場合、TiN電極のリーク電流は非常に大きく損失やデバイスの低寿命につながると考えられる。これに対し本実施形態に係る医療用マイクロ波給電システムでは、SBDの電極に窒化物金属である窒化ニッケルを用いることで、従来のNi電極に対して熱的に安定であり、逆方向リーク電流の小さい低損失なデバイスを実現している。
【0039】
一般的なダイオードはPN接合でダイオード特性を有するのに対して、SBDは金属と半導体との接合によって生じるショットキー障壁を利用している。SBDは、PN接合のダイオードと比較して一般に順方向電圧(VF)特性が低く、スイッチング特性が速い。ただしリーク電流(IR)が大きく、熱設計が不十分な場合は熱暴走を起こしてしまう欠点があった。これに対して本実施形態に係るSBDでは、窒化ニッケル電極を用いることで、従来のニッケル電極を用いたSBDに比べ、高温時でも逆リーク電流を小さく抑えることができ、低損失とすることが可能となる。窒化ニッケルは、Ni
xN(1≦X<5)を用いることが好ましい。Xが1より小さい電極では、特性が安定しない。またXが5以上のものは作成が困難であった。よって1≦X<5の範囲の窒化ニッケルを電極として用いることで、特性がより安定したSBDを実現できる。
【0040】
SBDは、窒化ガリウム(GaN)系ダイオードとしている。GaN系ダイオードは低損失、高耐圧という利点を有しつつ、高周波特性が優れる。またGaNは、SiCと違い、サファイア基板やSi基板といった安価な基板と格子定数が近いため、これらを成長基板として利用でき、SiCと比べコスト低減が期待できる。またGaNは、SiC程硬くないため、加工し易い利点も得られる。さらにGaN系ダイオードはGaAs等と同様にAlGaN/GaN HEFTをはじめとするヘテロ構造の高移動度のデバイスを実現できる。またGaNはバンドギャップが3.39eVと大きく、絶縁破壊電界は3.3×10
6V/cmとSiやGaAsよりも8〜10倍大きい。また電子飽和速度も、2.5×10
7cm/sと他の半導体材料と比較して大きい。高周波特性の指標の一である遮断周波数は、電子飽和速度とチャネル長で決まり、GaNは他の半導体より高い値を示すため、高周波デバイスとしても期待できる。マイクロ波無線電力伝送においても高周波動作かつ大電力を給電するためにパワーデバイス動作が求められる。そのため、GaN系ダイオードを用いることのメリットは非常に大きい。
【0041】
SBDの一例を、
図8の模式断面図に示す。このSBDは、給電回路を備える給電装置からワイヤレスで電力を受けて医療機器に給電を行う医療用受電回路に用いられる。
図8は、エアブリッジ配線構造を有するGaN系SBDの模式断面図である。このSBDは、絶縁基板11上に、必要に応じてバッファ層11Bと、アクセス層12と、活性層13を順にエピタキシャル成長させている。またバッファ層11Bとアクセス層12をエッチング等で分離させ、一方にアノード電極14を、他方にカソード電極15を、それぞれ設けている。アノード電極14は、活性層13にショットキー接触している。カソード電極15は、アクセス層12にオーミック接触している。カソード電極15のコンタクト抵抗は、低抵抗オーミック抵抗である。また各アノード電極14間は金属配線であるエアブリッジ配線16により接続されている。
図8の例ではエアブリッジ配線16は、Au/Ni/Au層の上面にAu層を形成した多層構造としている。
【0042】
絶縁基板11は、特に限定されず、必要に応じて選ぶことができるが、例えば、サファイア基板、半絶縁性SiC基板、半絶縁性GaAs基板などである。
【0043】
アクセス層12および活性層13を構成する半導体は、特に限定されないが、例えば、GaN系半導体(AlGaN、GaN、GaInNなど)、GaAs系半導体(AlGaAs、GaAsなど)、AlGaInP系半導体(AlGaInP、GaInPなど)、ZnSe系半導体(ZnMgSSe、ZnSSe、ZnCdSeなど)、ZnO系半導体、SiC系半導体などである。好適にはバンドギャップが広く高耐圧を実現できるGaN系半導体を用いる。
【0044】
アクセス層12は、アクセス抵抗の低減を図るため、好適には、ドナー濃度が十分に高い低抵抗のn
+型半導体からなる。
図8の例では、アクセス層12はn
+−GaN層としている。
【0045】
一方活性層13は、アノード電極14がショットキー接触することができるものであり、典型的にはn型半導体からなり、そのドナー濃度は所望のダイオード特性によって決まる。
図8の例では、活性層13はn
-−GaN層で構成している。
【0046】
アノード電極14は、活性層13とショットキー接触することができるショットキー金属で構成される。ショットキー金属は、活性層13を構成する半導体に応じて選択される。この例では、上述の通りアノード電極14を構成するショットキー金属を窒化ニッケルとしている。実施例においては、耐圧20V、40V、100Vの三種類のGaN系SBDのエピタキシャル構造を成長させた。ここではGaN系SBDのフォトマスクを設計し、三種類のGaN系SBDエピタキシャル構造を用いて、デバイスを試作した。
【0047】
カソード電極15は、アクセス層12とオーミック接触することができるオーミック金属からなる。オーミック金属は、アクセス層12を構成する半導体に応じて、従来公知のものの中から適宜選ばれる。
【0048】
なお
図8の例では、一のSBDを示しているが、複数のSBDを用いてもよい。例えばSBDのアレイ構造としてもよい。またマルチドット型SBDとしてもよい。さらにアノード電極を複数に分割してもよい。複数に分割された各アノード電極間は、金属配線を構成するエアブリッジ配線により接続される。一列の各アノード電極間を接続する各エアブリッジ配線はその一端で互いに接続される。分割されたアノード電極は全体としてくし形としてもよい。あるいはカソード電極を全体として細長い長方形の形状とし、カソード電極の長辺に沿ってカソード金属配線をカソード電極に電気的に接続してもよい。
【0049】
SBDを実装する受電回路の基板には、ビアホールを所定のパターンで形成することができる。これにより、放熱性を向上できる。このような基板の例を、
図19の断面図及び
図20の平面図に示す。この図に示す基板20は、板状の基材21で構成し、この基材21の上面に第一金属22を、基材21の下面に第二金属23を、それぞれ被覆している。さらに基材21には、複数のビアホール24を所定の間隔で形成している。このように単一のビアホールでなく複数のビアホール24をアレイ状に設けたことで、冷却性能を向上させている。各ビアホール24は円錐状に形成されている。好ましくは、テーパー状に形成される。円錐状やテーパー状に形成されたビアホール24は、上部の微小な領域によって寄生パラメータを低減できる。一方でビアホール24の下方の広い領域で放熱性を改善し、基板20に実装された受電回路の回路特性を向上できる。
図20の例では、ビアホール24はマトリックス状に等間隔で配置した構成を示しているが、本発明はビアホールのパターンをこの構成に限定するものでない。ビアホールの形状やアレイのパターンは、仕様等に応じて適宜変更できる。
【0050】
さらに受電回路を構成するレクテナ回路は、複数のフレキシブルアンテナを配置したフレキシブルアンテナアレイを備えることもできる。アンテナアレイは可撓性のある部材で構成できる。また湾曲乃至折曲させた部分を加えて構成してもよい。これに応じてアンテナの放射ユニットは従来の三角形状に限らず特定の形状に調整される。このように放射ユニットの形状を設計することで、電気的特性を低下させることなく湾曲部分のアンテナの放射範囲を確実に包含できる。これにより、ワーキングディスタンスと受電回路及びアンテナの傾斜角度範囲を拡大することが可能となる。
図21に、複数のフレキシブルアンテナを配置したフレキシブルアンテナアレイで受電アンテナ110Bを構成した例を示す。この図に示す受電アンテナ110Bは、円筒状の構造物STの周囲にフレキシブルアンテナアレイ118を配置している。このように円筒状や円錐状、多面体状等の等角構造物の外周にフレキシブルアンテナアレイ118を配置することで、無指向アンテナや指向性アンテナの特性を実現できるようになる。
(GaN系SBDの製造方法)
【0051】
Ni
xN電極のショットキー特性を確認するため、実施例1に係るGaN系SBDを試作してその特性を測定した。ここで実施例1に係るNi
xN電極を用いたGaN系SBDの製造方法を、
図9のフローチャートに基づいて以下説明する。
【0052】
まずGaNウエハを最初にダイサーで1cm角にカットしデバイス作製に用いた。作製開始時にまずサンプル洗浄を行う。洗浄はSPM洗浄(H2SO4:H2O2=4:1)を行い、その後アセトン,メタノール,純水を用いて十分に洗浄する。洗浄後、光学顕微鏡で20倍程度の倍率で大きな汚れがないか確認している。次にオーミック電極をn−GaN上に形成する。オーミック電極は光学露光(密着法)によってパターニングし、マグネトロンスパッタによってTi/Al/Ti/Au(50/200/40/40nm)堆積した。リフトオフの後、N
2ガス雰囲気中で850℃3分間アニールを行いオーミック電極を形成した。ここでのアニールは金属(Ti/Al:50/200nm)が半導体側に金属拡散し密着性を良くすることを狙っている。最後にショットキー電極をn−GaN上に形成する。ショットキー電極もオーミック電極と同様に光学露光によって目合わせを行いパターニングされる。パターニング後、オーミックアニールやO2プラズマアッシングによってウエハ表面に形成される可能性のある酸化物層を希塩酸(HCl)に5分間浸けることで除去する。そして上述した反応性スパッタによってN
2ガス流量を変えることでNi
xN(Ni)を100nm堆積し、そのカバー層としてAuを40nm堆積させた。また、ショットキー電極/GaN界面の接触品質と均一性を上げるために試料をN
2ガス雰囲気中で300℃10分間アニールを行った。これによ
り直径が200μmの円形ショットキー電極とそれを囲むようなオーミック電極が5μm離れたところに形成されたSBDが得られた。
(Ni
xN電極を用いたGaN系SBDの電気特性評価)
【0053】
以上のようにして得られた実施例1に係るGaN系SBDの電気特性評価について、以下説明する。実施例1では各N
2ガス流量で作製したNi
xN電極のショットキー特性評価として理想因子nと、ショットキー障壁高さ(SBH)を求め、また逆方向リーク電流から評価した。理想因子nとSBHは順方向のI−V測定(DC)から導くことができる。実施例1ではI−V測定時にはAgilent社の半導体パラメータアナライザ(4155C)を用いて測定した。各N
2ガス流量(0,1,3,5,10,15,25,40sccm)で作製した8種のNi
xN電極GaN系SBDの典型的なI−V特性を
図10に示す(測定デバイスは各20ヶ所以上測定した)。また、この順方向の対数、線形表示のI−V特性を
図11に示す。
【0054】
Ni
xN電極GaN系SBDの立ち上がり電圧はN
2ガス流量を低い(0,1,3sccm)中間(5,10,15sccm)高い(25,40sccm)と分類すると流量の増加にともない増加し、さらに増加すると低下する傾向を示した。また熱電子放出モデルを用いて順方向の対数表示の線形領域から理想因子nとSBHのN
2ガス流量依存性について求めたのが
図12になる。また理想因子nとSBHは無作為に選んだ20のデバイスのI−V特性から求めておりその平均値と標準誤差をグラフ化した。
【0055】
Ni電極SBDのn値は1.12でありSBHは1.03eVであった。これに対しn値は流量変化に対して1.04〜1.27の間に収まっており、キャリアの輸送現象が熱電子放出モデルに支配されていることが分かった。またSBHは15sccmのとき最大になりn値は1.09でありSBHは1.21eVであった。また、Ni電極SBD以外の全てのSBDにおいてSBHはNi電極SBDのSBHよりも高い値を示した。一方で高いN
2ガス流量になるにつれてn値が上昇しSBHは減少した。これはAFMやXPS,SIMS,EDSから分かるように表面粗さの増加やO,Cの混入が原因で電気特性が変化したと考えられる。次に逆方向リーク電流について評価する。逆方向リーク電流は単純にSBHに依存しているわけではなかった。しかし、N
2ガス流量が5〜15sccmにおいてNiよりも小さいリーク電流を示した。この結果は
純粋なNi
xN膜の形成が逆方向リーク電流の低減に寄与している可能性を示唆している。またXRDの結果より15sccmのときに支配的なNi
3Nの相がn値を改善しSBHを向上させ逆方向リーク電流の低減に有効な電極であると考えられる。また15sccmで作製されたNi
xN電極GaN系SBDはNiと比較してSBHが0.18eV高く、逆方向リーク電流が2桁低減させた。
(Ni
xN電極を用いたGaN系SBDのC−V特性)
【0056】
容量−電圧測定(C−V測定)を行うことで、実施例で用いたGaNウエハのn−GaN層の不純物濃度を調べると共に、本実施例で用いたNi
xN電極またはそのGaNとの界面に電荷が捕獲されるかを確認するためにC−V測定を行った。また、C−V測定からもSBHを求めI−V測定の信憑性を確認した。C−V測定にはLCRメータ(Agilent4284A)を用いて、周波数は1MHzで行った。測定した試料はNi電極SBDと逆方向リーク電流の低減に有効であったN
2ガス流量が15sccmで作製したNi
xN電極SBDの2サンプルであり、測定結果を
図13に示す。
【0057】
静電容量(V=0)を比較するとNi電極SBDは11.5pFでNi
xN電極SBDで10.2pFであった。このことはNi
xN電極の方がよりV=0のときに空乏層幅が広がっていることを示し、GaNに対してSBHの高い電極の形成を意味している。また容量が0になる電圧(立ち上がり電圧)がNi
xN電極の方が大きいことからもこのことは確認できる。またC−V測定はダブルモードで行っているが、行き(2V→−10V)と帰り(−10V→2V)においてNi,Ni
xN電極SBD共に容易に分かるヒステリシスは確認されなかった。このことは、Ni
xN電極が電気的特性においての安定的であることの1つの証拠となる。
【0058】
このC−V特性から求めた不純物分布のグラフを
図14A、
図14Bに示す。この結果はNi,Ni
xN電極のC−V測定から共に1.6×1019(cm
-3)程度のエピ構造通りの不純物濃度が確認され、また深さ方向に関してもおおよそ一定に不純物が分布していることを示す。またC−V測定から求めたSBHはNi電極SBDで1.03eV、Ni
xN電極SBDで1.19eVとなりI−V測定で導いたNi電極SBDで1.03eV、Ni
xN電極SBDで1.21eVと同等のSBHを示した。これらの結果はN
2ガス流量15sccmでNi
xN電極を成膜することで、Ni電極に比べSBHを0.17eV前後向上させ、またSBHの向上と共に逆方向リーク電流を2桁低減することを示した。
(Ni
xN電極を用いたGaNSBDの温度特性評価)
【0059】
上述の通りNi電極を用いたGaN系SBDでは、高温環境下でのデバイス動作によって電気的特性が変化することが報告されており、熱的に安定とは言えない。また、熱的に安定的であると報告されたTiN電極を用いたGaN系SBDも、高温時の逆方向リーク電流が大きく、高温環境下での使用はエネルギー損失やデバイス寿命の面で不十分である。これに対して本実施形態に係るNi
xN電極を用いたGaNSBDでは、Ni電極SBDより2桁の逆方向リーク電流低減を可能にし、かつTiNと同様に窒化金属としている。以下、Ni
xN電極SBDの温度特性の評価について説明する。
(GaN系SBDの温度特性の評価方法)
【0060】
測定試料は上述したプロセスフローと同じ手順で作製している。また、測定デバイスも直径が200μmの円形SBDを用いて測定を行った。I−V測定はAgilent社の半導体パラメータアナライザ(4155C)を用いて行った。またデバイス温度は、VBAプログラムによって制御されたシリコンラバーヒータでサンプルステージの温度を変えることで変化させた。また温度は、室温(RT)→75℃→RT→125℃→RT→175℃→RTと変化と変化させた。RTより高い温度の測定後に、再びRTでのI−V特性を測定したのは、温度上昇の変化に対してSBDの特性が変化していないかを確認するためである。
(比較例に係るNi電極SBDの温度特性)
【0061】
まず比較例に係るNi電極SBDの温度特性を
図15に、その理想因子nとSBHの温度依存性を
図16に、それぞれ示す。この内
図15は、Ni電極SBDの逆方向のI−V特性(左)と順方向の対数,線形表示のI−V特性(右)を表している。Ni電極SBDの順方向のI−V特性を見ると、4回目のRT(25℃)のとき、低い電圧においてI−V特性が変化していることが分かる。また逆方向のI−V特性を見ても、175℃時の低い電圧において大きな電流が流れている。さらに、−10V時で比較しても3,4回目のRT(25℃)時の逆方向リーク電流は、75℃のそれと同等程度流れており、逆方向リーク電流は初期に比べ大きくなっている。これらの現象はNi電極SBDの弱い劣化を示している。この劣化は、温度変化によってNi/GaN界面のNi金属とGaNのNが反応することでNi−N合金を形成させ、GaN界面にN空孔を生じさせたことが原因と思われる。次に、n値とSBHについて評価する。
図16を見ると、n値は温度の上昇と共に減少し、一方でSBHは増加している。この現象はSBHの不均一性によるものである。SBHの不均一性は、低温時に電子が低い障壁を優先的に通り流れる電流が支配的であり、高温時には電子が障壁を越えるのに十分なエネルギーを持つことで障壁を越える電流が支配的になることより生じるSBHの変化のことである。
(Ni
xN電極SBDの温度特性)
【0062】
次に実施例に係るNi
xN電極SBDの温度特性を
図17A、
図17Bに、その理想因子nとSBHの温度依存性を
図18に、それぞれ示す。この内
図17A、
図17Bは、Ni
xN電極SBDの逆方向のI−V特性(左)と順方向の対数,線形表示のI−V特性(右)のを表している。Ni
xN電極SBDの逆方向リーク電流は全ての温度においてNi電極SBDのRTでの逆方向リーク電流より小さく良好な整流特性を示した。また、全ての温度変化後で順方向I−V特性はNi電極SBDで見られたI−V特性の変化は見られず、立ち上がり電圧も温度に依存してシフトした。逆方向I−V特性に関しても全てのRTで3.6×10−10A程度の逆方向リーク電流であった。この結果はNi電極SBDで見られた温度変化による弱い劣化がNi
xN電極SBDでは抑制されたことを示している。さらに−10V時の逆方向リーク電流の温度による増加は、Ni
xN電極SBDで3.8×10−10A(RT1回目)が6.8×10−9A(175℃)となり18倍増加しているのに対し、Ni電極SBDでは6.0×10−8A(RT1回目)が3.5×10−7A(175℃)となり6倍しか増加しなかった。この結果から、SBHの不均一性はNi
xN電極を用いることで小さくできる可能性があることが判る。この考察は、SBHの上昇具合からも裏付けられる。
図18を見ると、Ni
xN電極SBDに関してもn値は温度の上昇と共に減少しSBHは増加しており、Ni電極SBD同様SBHの不均一性が確認された。しかし、温度変化によるSBHの上昇値は、Ni
xN電極では1.19eV(RT1回目)から1.25eV(175℃)になり0.06eV増加したのに対し、Ni電極では1.03eV(RT1回目)から1.13eV(175℃)になり0.10eV増加している。この増加量の違いもNi
xN電極のSBHの不均一性の抑制を示していると考えられる。これらのSBHの不均一性は、一般的に金属材料、表面形状、表面欠陥、金属堆積中のプロセスなど多くの要因によって引き起こされる。本実施例では、Ni
xN膜の堆積速度を遅くすることでRFパワーを小さくし、試料へのダメージをより小さく、またNi
xN膜を比較的均一に成膜した。このことから、Ni,Ni
xN電極SBDの両方にSBHの不均一性が確認された一番の要因は、サファイア基板とGaN材料の格子不整合による高い転位密度によるものと考えられる。これらの結果は、Ni
xN電極SBDが高温時でもNi電極SBDの逆方向リーク電流より小さい高温時において低損失なデバイスであり、かつ温度変化に対してI−V特性の変化を抑制する熱的に安定なデバイスであることを示している。
【0063】
以上の通り、SBDの電極としてNi
xN電極を用いることで、Ni電極やTiN電極よりも高温環境下で逆方向リーク電流が小さく、かつ熱的に安定的なSBDの動作が得られる。
【解決手段】医療用マイクロ波給電システム1000は、給電回路220を備える給電装置200と、給電回路220からワイヤレスで給電される電力を受信し、整流するためのショットキーバリアダイオード113を備える受電回路100とを備える。ショットキーバリアダイオード113は、その電極を窒化ニッケルで構成される。上記構成により、高温時においてもショットキーバリアダイオードの逆リーク電流を低減して、発熱を抑制することが可能となる。特に、発熱による人体や機器への影響を考慮しなければならない医療機器において、発熱量を抑制することは極めて重要であり、安全かつ安定的に医療機器へのワイヤレス給電を実現することができる。