(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の態様に係る銅ナノ粒子の製造方法は、銅イオンとクエン酸とを含み、pH10以上pH12未満の範囲に調整された第1の水溶液を用意する工程と、
アスコルビン酸を含み、pH10以上pH12未満の範囲に調整された第2の水溶液を用意する工程と、
前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを混合して、前記銅イオンを還元して銅ナノ粒子の分散液を得る工程と、
を含む。
【0017】
上記構成により、生成する銅ナノ粒子の表面にアスコルビン酸を強固に付着させることができ、低い配線抵抗を形成する銅ナノ粒子を製造することができる。
【0018】
第2の態様に係る銅ナノ粒子の製造方法は、銅イオンとクエン酸とを含み、pH10以上pH12未満の範囲に調整された第1の水溶液を用意する工程と、
還元剤と前記還元剤と異なる抗酸化物質とを含み、pH10以上pH12未満の範囲に調整された第2の水溶液を用意する工程と、
前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを混合して、前記銅イオンを還元して銅ナノ粒子の分散液を得る工程と、
を含む。
【0019】
上記構成により、生成する銅ナノ粒子の表面に抗酸化物質を強固に付着させることができ、低い配線抵抗を形成する銅ナノ粒子を製造することができる。
【0020】
第3の態様に係る銅ナノ粒子の製造方法は、上記第1又は第2の態様において、前記第1の水溶液について、前記銅イオンの生成源が粉末を水溶液に溶解させたもの、又は、銅板を溶解させたものであってもよい。
【0021】
第4の態様に係る銅ナノ粒子の製造方法は、上記第3の態様において、前記銅イオンの生成源は、塩化銅、硫酸銅、または、硝酸銅の群から選ばれてもよい。
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係る銅ナノ粒子の製造方法について、添付図面を参照しながら説明する。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る銅ナノ粒子の製造方法のフロー図である。
図1を用いて銅ナノ粒子製造フローを説明する。この銅ナノ粒子の製造方法は、以下の3つの処理を有する。
(1)銅イオンとクエン酸とを含み、pH10以上pH12未満の範囲に調整された第1の水溶液を用意する(処理1)。
(2)アスコルビン酸を含み、pH10以上pH12未満の範囲に調整された第2の水溶液を用意する(処理2)。なお、第2の水溶液におけるpH調整は、pH10以上pH12未満の範囲であればよく、第1の水溶液のpHに合わせる必要はない。
(3)第1の水溶液と第2の水溶液とを混合して、銅イオンを還元して銅ナノ粒子の分散液を得る(処理3)。
以上によって、銅ナノ粒子の分散液を得ることができる。
なお、ここでは第1の水溶液を用意する処理1を第2の水溶液を用意する処理2よりも先に記載しているが、これは便宜上であって、処理の順序を規定しているものではない。つまり、第1の水溶液を用意する処理1と第2の水溶液を用意する処理2とは、いずれを先に行ってもよく、同時に行ってもよい。
【0024】
実施の形態1に係る銅ナノ粒子の製造方法によれば、クエン酸を含むこと、及び、還元剤として抗酸化物質としても機能するアスコルビン酸を用いていることを特徴とする。さらに、第1の水溶液及び第2の水溶液をpH10以上pH12未満の範囲にpH調整することを特徴としている。これによって、銅ナノ粒子の前駆体となる銅イオンとクエン酸との錯体は、多少のpH変化によらず安定して存在する。また、より還元性の強い1価のアスコルビン酸イオンによって上記前駆体を還元することができる。さらに、上記pH範囲でナノサイズの銅ナノ粒子が得られる。さらにまた、得られる銅ナノ粒子の結晶性において、酸化銅Cu
2Oのピークが見られず、大部分が金属の銅Cuからなる銅ナノ粒子が得られるものと考えられる。
【0025】
以下に、この銅ナノ粒子の製造方法の各処理について、より詳細に説明する。
<処理1>
第1の水溶液を作成する処理1では、処理11、処理12、処理13を行う。
a)まず、純水(脱イオン水:DI(deionized water))と、2水和塩化銅(CuCl
2・2H
2O)の顆粒とを混合する(処理11)。塩化銅は飽和しない程度に混合する。なお、ここでは銅塩として塩化銅を使用したがこれに限られず、例えば、硝酸銅、硫酸銅などを用いてもよい。また、金属銅を液中で溶解させて銅イオンを得てもよい。また、純水は、脱イオン水(あるいはイオン交換水)に限られず、蒸留水、あるいは、脱イオン水について蒸留した超純水でもよい。
b)次に、上記処理11で得られた塩化銅の水溶液にクエン酸を添加し、超音波を用いて混合し、銅イオンとの錯体であるクエン酸銅化合物を生成する(処理12)。なお、混合方法は、超音波を用いた方法に限られず、通常使用される混合方法であれば使用できる。
c)次いで、NaOHを添加して、pH10以上pH12未満の範囲に調整する(処理13)。なお、pH調整におけるpH10以上pH12未満の範囲は、後述する
図2、
図3、
図4及び
図5から導かれたものである。また、ここではpH調整剤としてNaOHを使ったがこれに限られず、KOH、Ca(OH)
2などのアルカリ金属、アルカリ土類金属および水酸化物を含む化合物またはアミン系化合物を使ってもよい。
以上によって、銅イオンとクエン酸とを含み、pH10以上pH12未満の範囲に調整された第1の水溶液が得られる。
【0026】
<処理2>
第2の水溶液を作成する処理2では、処理14、処理15を行う。
d)まず、還元剤であるアスコルビン酸の水溶液を用意する(処理14)。例えば、純水に顆粒のアスコルビン酸を溶解してアスコルビン酸の水溶液を得る。
e)次に、NaOHを添加して、pH10以上pH12未満の範囲にpH調整する(処理15)。ここで、第2の水溶液のpHを第1の水溶液と同様にpH10以上pH12未満の範囲に調整するのは、その後の処理3において、第1の水溶液と第2の水溶液とを混合して銅ナノ粒子の懸濁液を得る際のpH変化を小さくしておくためである。さらに、pH調整におけるpH10以上pH12未満の範囲は、後述する
図2、
図3、
図4及び
図5から導かれたものである。なお、第2の水溶液のpHは、第1の水溶液と同じpHに調整してもよい。また、ここではpH調整剤としてNaOHを使ったがこれに限られず、KOH、Ca(OH)
2などのアルカリ金属、アルカリ土類金属および水酸化物を含む化合物またはアミン系化合物を使ってもよい。
以上によって、アスコルビン酸を含み、pH10以上pH12未満の範囲に調整された第2の水溶液が得られる。
【0027】
<処理3>
次に、銅ナノ粒子の分散液を得る処理3では、処理16、処理17を行う。さらに、固体の銅ナノ粒子を得るために処理18を行ってもよい。
f)まず、第1の水溶液と第2の水溶液とを混合する(処理16)。この場合、第1の水溶液と第2の水溶液との混合では、次の3通りのいずれの手順で行ってもよい。例えば、第1の水溶液に対して第2の水溶液を混合してもよい。また、第2の水溶液に対して第1の水溶液を混合してもよい。あるいは、別の容器について、第1の水溶液と第2の水溶液とをそれぞれ滴下して混合してもよい。還元反応を促進するためには、温度を上げることが有効である。例えば、第1の水溶液と第2の水溶液とを予め40℃以上80℃以下の温度範囲、好ましくは、50℃以上70℃以下の温度範囲に液温を維持し、その後、第1の水溶液と第2の水溶液とを混合してもよい。40℃未満では十分に反応を促進できない。一方、80℃を超えると蒸発が激しくなってしまう。これによって、40℃以上80℃以下の温度範囲、好ましくは、50℃以上70℃以下の温度範囲の混合液を得ることができる。
g)続いて、40℃以上80℃以下の温度範囲、好ましくは、50℃以上70℃以下の温度範囲を維持し、15分間以上60分間以下の時間範囲にわたって混合液を撹拌する(処理17)。15分間未満では十分な反応が行われない。60分間を超えると時間がかかりすぎ、コストが高くなる。処理17中では、錯体である[(Cu
2+)
2(C
6H
4O
7)
4−2)]および[(Cu
2+)(C
6H
4O
7)
4−]が還元剤であるアスコルビン酸と反応する。その結果、クエン酸銅化合物から銅イオンが還元されて銅原子が離れ、ある銅固体の核を中心に銅原子がその核に付着し、銅ナノ粒子が合成されていく。混合液の反応が進むと混合液の色が褐色となり、銅ナノ粒子が生成していることがわかる。反応時間は、例えば15分間以上60分間以下の時間範囲であり、大部分のクエン酸銅化合物が銅ナノ粒子になっている。
以上によって、銅ナノ粒子の分散液を得ることができる。得られた銅ナノ粒子の分散液は、そのまま銅配線の製造等に用いてもよい。あるいは、銅ナノ粒子の分散液を濃縮してペースト状にして用いてもよい。さらに、次のフィルタリング等の処理18を行って、固体の銅ナノ粒子を得てもよい。
【0028】
h)その後、フィルタリングまたは濃縮により銅ナノ粒子を混合液中から取り出し、固体の銅ナノ粒子4を得る(処理18)。
以上によって、銅ナノ粒子の分散液から、固体の銅ナノ粒子を得ることができる。
通常、処理18のフィルタリング後、銅ナノ粒子は空気中の酸素と結合しやすくなり、取り出したあと酸化しやすくなる。一方、本実施の形態1における製造方法によれば、アスコルビン酸が得られた銅ナノ粒子の全周に付着していると考えられる。このため、アスコルビン酸の抗酸化作用によって銅ナノ粒子の酸化を防止でき、持続的に維持することができると考えられる。そのため、フィルタリング直後の銅ナノ粒子の導電率は、1000μΩcm程度という低い体積抵抗率が得られる。
【0029】
この銅ナノ粒子を用いた配線形成において、アスコルビン酸の分解温度が190℃であるため、銅配線の焼結温度を190℃以上にしなければならない。そのとき特にアスコルビン酸の分解に際して、銅ナノ粒子の表面にわずかに含まれる酸素とアスコルビン酸とが反応することにより、より銅配線の抵抗率を下げる効果がある。
【0030】
<pH調整の範囲について>
以下に、処理13及び処理15において、第1の水溶液及び第2の水溶液をpH調整する範囲について検討する。
図2は、各イオンの平衡定数から算出したpHに対するクエン酸分子と銅イオン、各化合物および各錯体の濃度を示す図である。銅ナノ粒子4の前駆体であるクエン酸銅化合物から結晶性がよく、粒径の小さい銅ナノ粒子4を得るためには、可能な限り反応エネルギーの揃っている単独のイオン、錯体または化合物を前駆体とする必要がある。つまり、還元反応時にわずかなpH変化で還元対象物のイオン、錯体又は化合物の濃度が変化してしまうと、還元対象の前駆体の反応エネルギーが変化してしまう。そのため、生成する銅ナノ粒子の粒径分布が広がってしまう可能性がある。
図2から、pH6以上の領域で[(Cu
2+)
2(C
6H
4O
7)
4−2)]と[(Cu
2+)(C
6H
4O
7)
4−]の濃度が一定となることがわかる。つまり、pH6以上の領域では、多少のpH変化があっても還元対象の前駆体の濃度がほとんど変化しないので、上記条件を満たす。
さらに、pH7未満の酸性領域では、還元反応によって銅ナノ粒子が生成しても溶解してしまうため、銅ナノ粒子が安定して存在できない。そこでpH7以上のアルカリ領域が好ましい。pH7以上の水溶液中には、上記のように銅を含むイオン、錯体又は化合物としては[(Cu
2+)
2(C
6H
4O
74−)
2]と[(Cu
2+)(C
6H
4O
74−)]との2種類の錯体が広いpH範囲にわたって安定的に存在している。
【0031】
図3は、アスコルビン酸及びアスコルビン酸イオンの濃度のpH依存性を示す図である。
図3から、pH11から2価のアスコルビン酸イオンが増加し始め、それにつれて1価のアスコルビン酸イオンが減少し始める。pH12以下では1価のアスコルビン酸イオンが2価のアスコルビン酸イオンより多くなる。一方、pH12以上では2価のアスコルビン酸イオンが1価のアスコルビン酸イオンより多くなる。pH13以上では1価のアスコルビン酸イオンがなくなり、ほとんど2価のアスコルビン酸イオンとなる。つまり、1価のアスコルビン酸イオンと2価のアスコルビン酸イオンとは、およそpH12でそれぞれの濃度が逆転する。なお、1価のアスコルビン酸イオンは、2価のアスコルビン酸イオンより還元作用が強い。そこで、アスコルビン酸による還元反応時には1価のアスコルビン酸イオンが存在するpH13以下が好ましく、1価のアスコルビン酸イオンの濃度が高くなるpH12以下がより好ましい。
【0032】
図4は、NaOHでpHを調整した場合において、得られた銅ナノ粒子の平均粒径のpH依存性を示す図である。
図2及び
図3から、混合液の還元時におけるpHとしては、pH7以上pH12以下の領域が好ましい。そこで、
図4では、pH調整の範囲としてpH8からpH13の範囲について示している。
図4に示すように、反応温度が50℃の場合には、pH12で極小となる約60nmの銅ナノ粒子が得られ、pH11で約70nmの銅ナノ粒子が得られている。pH10では約500nm、pH13では約150nmの銅ナノ粒子が得られている。しかし、pH8及びpH9では、1μm以上の銅ナノ粒子しか得られていない。反応温度が70℃の場合には、pH11で極小となる約100nmの銅ナノ粒子が得られ、pH12で約120nmの銅ナノ粒子が得られている。pH10及びpH13では約300nmの銅ナノ粒子が得られている。しかし、pH8及びpH9では、1μm以上の銅ナノ粒子しか得られていない。
そこで、
図4から、ナノサイズの銅粒子を得るには、第1の水溶液と第2の水溶液の混合時のpH範囲として、pH10以上pH13以下の範囲が好ましい。
【0033】
図5は、銅ナノ粒子の結晶性のpH依存性を示す粉末X線回折図である。得られた銅ナノ粒子をエタノールに混ぜてペーストを作成し、ガラス基板に塗布した膜についてX線回折法を用いて銅ナノ粒子の状態での結晶性を確認した。
図5に示すように、pH8からpH11まではほぼ金属の銅(Cu)のX線回折パターンのみである。pH12では、金属の銅のX線回折パターンと共に、酸化銅Cu
2Oのピークがわずかに見られ、酸化銅が生じていることがわかる。さらに、pH13では、金属の銅のピーク面積に対して酸化銅のピーク面積が同程度以上であり、酸化銅の占める割合が高いと考えられる。この状態で銅ナノ粒子を焼結した場合、酸化物を含んだ配線となり、十分な導電率を得ることができないと思われる。
図5から、酸化銅Cu
2Oのピークを含まず、金属の銅Cuのみが得られるのは、pH8以上pH12未満である。
【0034】
図2、
図3、
図4、及び、
図5を考慮すると、処理13及び処理15において、第1の水溶液及び第2の水溶液をpH調整する範囲としては、pH10以上pH12未満のpH範囲が好ましい。上記pH範囲において、銅ナノ粒子の前駆体となる錯体は、多少のpH変化によらず安定して存在する。また、より還元性の強い1価のアスコルビン酸イオンによって上記前駆体を還元することができる。さらに、上記pH範囲でナノサイズの銅ナノ粒子が得られる。さらにまた、得られる銅ナノ粒子の結晶性において、酸化銅Cu
2Oのピークが見られず、大部分が金属の銅Cuからなる銅ナノ粒子が得られるものと考えられる。
【0035】
(実施例1)
実施例1に係る銅ナノ粒子の製造方法について説明する。実施例1では、実施の形態1における条件に基づいて銅ナノ粒子を製造した。
(1)銅イオン0.1mol/L、クエン酸0.6mol/Lであり、pH11に調整された第1の水溶液を作成した。
(2)また、アスコルビン酸の濃度が0.6mol/Lであり、pH11に調整された第2の水溶液を作成した。なお、ここでは、第1の水溶液をpH11と設定したので、第2の水溶液もpH11とした。
(3)第1の水溶液と第2の水溶液とをそれぞれ70℃に加熱し、混合した。その後、70℃で60分間にわたって撹拌した。
以上によって、銅ナノ粒子の分散液を得た。
その後、フィルタリングによって銅ナノ粒子を混合液中から取り出して、固体の銅ナノ粒子を得た。この銅ナノ粒子のフィルタリング直後のナノ粒子の導電率として、1000μΩcm程度という低い体積抵抗率が得られた。
さらに、フィルタリング後の銅ナノ粒子を溶媒(ブチルカルビトールアセテート)に分散させ、厚み20μmの膜をガラス上に形成した。この銅ナノ粒子を200℃の4%の水素と96%の窒素の雰囲気下で1時間焼結した。その結果得られた焼結物について、10μΩcmの体積抵抗率を得ることができた。
【0036】
実施例1における製造方法によれば、アスコルビン酸が得られた銅ナノ粒子の全周に付着していると考えられる。このため、アスコルビン酸の抗酸化作用によって銅ナノ粒子の酸化を防止でき、持続的に維持することができたと考えられる。これは、アスコルビン酸はビタミンCという名前の抗酸化作用物質で知られているが、アスコルビン酸自身が段階的に酸化されていくため、銅ナノ粒子の酸化を持続的に抑制することができると考えられる。
【0037】
(比較例1)
比較例1に係る銅ナノ粒子の製造方法について説明する。比較例1では、処理14において用いる還元剤をアスコルビン酸からヒドラジンに変更した以外は、実質的に実施例1と同様の条件で銅ナノ粒子を製造した。
アスコルビン酸のイオン濃度のpH依存性は
図3で説明した通りである。一方、ヒドラジンのイオン濃度のpH依存性は、pH8以下ではN
2H
5+が大多数であり、pH8以上ではN
2H
4が大多数となる。このため、pH8以上では還元電位が小さくなる。
また、還元剤がヒドラジンの場合の銅ナノ粒子の粒径のpH依存性は確認できなかったので、実施例1と同様のpH11で銅ナノ粒子を合成した。得られた銅ナノ粒子を200℃で焼結して得られた銅配線の抵抗率を比較すると、実施例1(還元剤:アスコルビン酸)の場合には抵抗率は10μΩcmであった。一方、比較例1(還元剤:ヒドラジン)の場合は焼結後の抵抗率は10Ωcm程度であった。つまり、実施例1と比較例1との間には抵抗率で約100万倍の差があった。
さらに、250℃の焼結の場合にも、実施例1の場合には抵抗率1000μΩcm程度であり、アスコルビン酸による抗酸化作用の効果が大きかった。また、フィルタリング直後の抵抗率を比較した場合も、実施例1(還元剤:アスコルビン酸)では、得られた銅ナノ粒子の焼結後の銅配線は、抵抗率1000μΩcm程度の導電性を確保できた。一方、比較例1(還元剤:ヒドラジン)では、得られた銅ナノ粒子の焼結後の銅配線は、4端子法ではオーバーレンジとなり抵抗率を測定できない程度の絶縁体であった。
【0038】
比較例1において、焼結後に低い導電率(高抵抗)となる理由は、以下のように考えられる。つまり、ヒドラジンは還元剤として作用するが、ヒドラジンには抗酸化特性はなく、還元後の銅ナノ粒子の表面は抗酸化物質による保護を受けていないと考えられる。このため、フィルタリング後、銅ナノ粒子は空気に暴露されて表面の酸化が進むため、低い導電率となると考えられる。
一方、実施例1では、アスコルビン酸が還元剤としての役割だけでなく、抗酸化特性を有していることが作用していると考えられる。具体的には、アスコルビン酸の3つのOH基と銅ナノ粒子を構成する銅原子との結びつきが強いため、銅ナノ粒子の表面にアスコルビン酸が付着し、焼結まで銅の酸化を抑制していると考えられる。また、特に、本発明者は、アスコルビン酸が1価のときに還元性能が高く、かつ銅との結び付きが強いため、上述のようにpH10以上pH12未満において、焼結後の導電性が最も高いことを見出した。
【0039】
今回、還元剤及び抗酸化物質としてアスコルビン酸を用いたが、アスコルビン酸は特に銅ナノ粒子と作用し、銅ナノ粒子の表面を覆い、銅の酸化を抑制する作用が格別大きいことを見出した。
【0040】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る銅ナノ粒子の製造方法は、実施の形態1に係る銅ナノ粒子の製造方法と対比すると、第2の水溶液において、還元剤と、その還元剤とは異なる抗酸化物質とを含む点で相違する。その他の点では実施の形態1と実質的に同様であるので重複する説明を省略する。具体的には、この銅ナノ粒子の製造方法は、以下の3つの処理を有する。
(1)銅イオンとクエン酸とを含み、pH10以上pH12未満の範囲に調整された第1の水溶液を用意する(処理1)。
(2)還元剤と、その還元剤とは異なる抗酸化物質とを含み、pH10以上pH12未満の範囲に調整された第2の水溶液を用意する(処理2−1)。還元剤としてはアスコルビン酸の他に、例えばヒドラジンまたは尿酸を還元剤として用いてもよい。還元剤としてヒドラジンまたは尿酸を用いる場合には、同時に、還元剤とは別に銅ナノ粒子表面に付着させる抗酸化物質を添加すればよい。抗酸化物質としては、抗酸化作用を持ち、水溶性である物質、例えばアスコルビン酸のようなビタミンC群、または、リボフラビン、チアミンなどの水溶性ビタミンB群またはフラボノイド、イソフラボン、グルタチオンなどポリフェノール類を用いてもよい。
(3)第1の水溶液と第2の水溶液とを混合して、銅イオンを還元して銅ナノ粒子の懸濁液を得る(処理3)。
以上によって、銅ナノ粒子の分散液を得ることができる。
なお、ここでは第1の水溶液を用意する処理1を第2の水溶液を用意する処理2−1よりも先に記載しているが、これは便宜上であって、処理の順序を規定しているものではない。つまり、第1の水溶液を用意する処理1と第2の水溶液を用意する処理2−1とは、いずれを先に行ってもよく、同時に行ってもよい。
【0041】
実施の形態2に係る銅ナノ粒子の製造方法によれば、還元剤と抗酸化物質との組み合わせによって、還元剤によって銅イオンが還元されて得られた銅ナノ粒子の表面に抗酸化物質が付着することによって、得られた銅ナノ粒子の酸化を抑制できる。