特許第6656882号(P6656882)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6656882誘電体磁器組成物及びこれを含む積層セラミックキャパシタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656882
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】誘電体磁器組成物及びこれを含む積層セラミックキャパシタ
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/468 20060101AFI20200220BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
   C04B35/468
   H01G4/30 515
   H01G4/30 517
   H01G4/30 201J
   H01G4/30 311Z
【請求項の数】14
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-215158(P2015-215158)
(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公開番号】特開2016-108217(P2016-108217A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2018年8月21日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0175016
(32)【優先日】2014年12月8日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ−メカニックス カンパニーリミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ヨーン、セオク ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】パーク、ユン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ドゥー ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ゼオン、ソン ジェ
(72)【発明者】
【氏名】キム、チャン フーン
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−241615(JP,A)
【文献】 特開2014−189465(JP,A)
【文献】 特表2012−508681(JP,A)
【文献】 特開2002−220280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
H01G 4/12
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と第1の内部電極及び第2の内部電極が交互に積層されたセラミック本体と、
前記セラミック本体の両端部に形成され、前記第1の内部電極及び前記第2の内部電極と電気的に連結される第1の外部電極及び第2の外部電極と、
を含み、
前記誘電体層はBaTiOで表示される第1の主成分、(Na,K)NbOで表示される第2の主成分及び(Bi,Na)TiOで表示される第3の主成分を含む母材粉末及び副成分を含む誘電体磁器組成物を含む、積層セラミックキャパシタ。
【請求項2】
前記母材粉末は、xBaTiO−y(Na,K)NbO−z(Bi,Na)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))で表示され、前記xが0.5≦x≦0.97、yが0.01≦y≦0.48及びzが0.02≦z≦0.2を満たす、請求項に記載の積層セラミックキャパシタ。
【請求項3】
前記母材粉末は、xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiOで表示される、請求項に記載の積層セラミックキャパシタ。
【請求項4】
前記誘電体磁器組成物は、前記母材粉末100モル%に対して、Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu及びZnのうち少なくとも一つを含む酸化物又は炭酸塩である0.1〜3.0モル%の第1の副成分をさらに含む、請求項からのいずれか1項に記載の積層セラミックキャパシタ。
【請求項5】
前記誘電体磁器組成物は、前記母材粉末100モル%に対して、Siを含む酸化物又はSiを含むガラス(Glass)化合物である0.2〜10.0モル%の第2の副成分をさらに含む、請求項からのいずれか1項に記載の積層セラミックキャパシタ。
【請求項6】
前記第1の主成分〜第3の主成分は固溶体の形である、請求項からのいずれか1項に記載の積層セラミックキャパシタ。
【請求項7】
誘電体層と第1の内部電極及び第2の内部電極が交互に積層されたセラミック本体と、
前記セラミック本体の両端部に形成され、前記第1の内部電極及び前記第2の内部電極と電気的に連結される第1の外部電極及び第2の外部電極と、
を含み、
前記誘電体層は誘電体磁器組成物を含み、前記誘電体磁器組成物は母材粉末を含み、前記母材粉末はキュリー温度が125℃の第1の主成分(X)、キュリー温度が450℃以上の第2の主成分(Y)及びキュリー温度が320℃以上の第3の主成分(Z)を含み、
−55℃〜175℃の範囲での静電容量変化率が+/−15%以内であり、常温での誘電率が1000以上であり、150℃で耐電圧が少なくとも50V/μmであり、常温での抵抗値が7.420E+10以上である、積層セラミックキャパシタ。
【請求項8】
前記母材粉末はxX−yY−zZ(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))で表示され、前記XとZはチタンを含み、Yはニオビウムを含む、請求項に記載の積層セラミックキャパシタ。
【請求項9】
前記xは0.5≦x≦0.97、yは0.01≦y≦0.48及びzは0.02≦z≦0.2を満たす、請求項に記載の積層セラミックキャパシタ。
【請求項10】
前記XはBaTiO、Yは(Na,K)NbO、Zは(Bi,Na)TiOである、請求項またはに記載の積層セラミックキャパシタ。
【請求項11】
BaCOとTiOを混合して第1の混合物を形成する段階と、
前記第1の混合物を900〜1000℃の範囲でか焼してBaTiOを形成する段階と、
NaO、KOとNbを混合して第2の混合物を形成する段階と、
前記第2の混合物を800〜900℃の範囲でか焼して(Na0.50.5)NbOを形成する段階と、
Bi、NaCOとTiOを混合して第3の混合物を形成する段階と、
前記第3の混合物を800〜900℃の範囲でか焼して(Bi0.5Na0.5)TiOを形成する段階と、
BaTiOと(Na0.50.5)NbO及び(Bi0.5Na0.5)TiOを混合して母材粉末を形成する段階と、
を含む、誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項12】
前記母材粉末は、xBaTiO−y(Na,K)NbO−z(Bi,Na)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))で表示され、前記xが0.5≦x≦0.97、yが0.01≦y≦0.48及びzが0.02≦z≦0.2を満たす、請求項11に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項13】
前記誘電体磁器組成物は、前記母材粉末100モル%に対して、Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu及びZnのうち少なくとも一つを含む酸化物又は炭酸塩である0.1〜3.0モル%の第1の副成分をさらに含む、請求項11または12に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項14】
前記誘電体磁器組成物は、前記母材粉末100モル%に対して、Siを含む酸化物又はSiを含むガラス(Glass)化合物である0.2〜10.0モル%の第2の副成分をさらに含む、請求項11から13のいずれか1項に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X9R温度特性及び信頼性が保証される新規の誘電体磁器組成物及びこれを含む積層セラミックキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、キャパシタ、インダクタ、圧電素子、バリスタ又はサーミスタなどのセラミック材料を用いる電子部品は、セラミック材料からなるセラミック本体、本体の内部に形成された内部電極、及び上記内部電極と接続されるようにセラミック本体の表面に設置された外部電極を備える。
【0003】
セラミック電子部品のうち積層セラミックキャパシタは、積層された複数の誘電体層、一つの誘電体層を介して対向配置される内部電極、及び上記内部電極に電気的に接続された外部電極を含む。
【0004】
積層セラミックキャパシタは、小型であり且つ高容量が保証され、実装が容易であるという長所によって、コンピューター、PDA、携帯電話などの移動通信装置の部品として広く用いられている。
【0005】
積層セラミックキャパシタは、通常、内部電極用ペーストと誘電体層用ペーストをシート法や印刷法などにより積層し同時焼成して製造される。
【0006】
従来の高容量の積層セラミックキャパシタなどに用いられる誘電体材料は、チタン酸バリウム(BaTiO)に基づく強誘電体材料であり、常温で高い誘電率を有し且つ損失率(Dissipation Factor)が比較的小さく絶縁抵抗特性に優れるという特徴がある。
【0007】
しかしながら、上記チタン酸バリウム(BaTiO)に基づく誘電体材料は、150℃までの静電容量温度特性であるX8R特性を満たして信頼性を保証するのが困難である。
【0008】
よって、150℃までの静電容量温度特性であるX8R特性を満たして信頼性を保証するための多様な研究が行われているが、150℃以上の領域での温度特性を保証する研究は十分に行われていない。
【0009】
したがって、150℃以上の領域での温度特性、即ち、175℃までの温度特性及び信頼性が保証されるX9R積層セラミックキャパシタの実現を可能にする誘電体材料に関する研究が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】韓国公開特許第1999−0075846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、X9R温度特性及び信頼性が保証される新規の誘電体磁器組成物及びこれを含む積層セラミックキャパシタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、母材粉末を含む誘電体磁器組成物であって、上記母材粉末は、BaTiOで表示される第1の主成分、(Na,K)NbOで表示される第2の主成分及び(Bi,Na)TiOで表示される第3の主成分を含む誘電体磁器組成物が提供される。
【0013】
上記母材粉末は、xBaTiO−y(Na,K)NbO−z(Bi,Na)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))で表示され、上記xが0.5≦x≦0.97、yが0.01≦y≦0.48及びzが0.02≦z≦0.2を満たし、特に、xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiOで表示されることができる。
【0014】
本発明の他の実施形態によれば、誘電体層と第1及び第2の内部電極が交互に積層されたセラミック本体と、上記セラミック本体の両端部に形成され、上記第1及び第2の内部電極と電気的に連結される第1及び第2の外部電極と、を含み、上記誘電体層は、BaTiOで表示される第1の主成分、(Na,K)NbOで表示される第2の主成分及び(Bi,Na)TiOで表示される第3の主成分を含む母材粉末及び副成分を含む誘電体磁器組成物を含む積層セラミックキャパシタが提供される。
【0015】
上記母材粉末は、xBaTiO−y(Na,K)NbO−z(Bi,Na)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))で表示され、上記xが0.5≦x≦0.97、yが0.01≦y≦0.48及びzが0.02≦z≦0.2を満たし、特に、xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiOで表示されることができる。
【0016】
本発明の他の実施形態によれば、母材粉末を含む誘電体磁器組成物であって、上記母材粉末はキュリー温度が125℃の第1の主成分(X)、キュリー温度が450℃以上の第2の主成分(Y)及びキュリー温度が320℃以上の第3の主成分(Z)を含み、上記母材粉末はxX−yY−zZ(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))で表示され、上記XとZはチタンを含み、Yはニオビウムを含む誘電体磁器組成物が提供される。
【0017】
本発明の他の実施形態によれば、誘電体層と第1及び第2の内部電極が交互に積層されたセラミック本体と、上記セラミック本体の両端部に形成され、上記第1及び第2の内部電極と電気的に連結される第1及び第2の外部電極と、を含み、上記誘電体層は誘電体磁器組成物を含み、上記誘電体磁器組成物は母材粉末を含み、上記母材粉末はキュリー温度が125℃の第1の主成分(X)、キュリー温度が450℃以上の第2の主成分(Y)及びキュリー温度が320℃以上の第3の主成分(Z)を含み、−55℃〜175℃の範囲での静電容量変化率が+/−15%以内であり、常温での誘電率が1000以上であり、150℃で耐電圧が少なくとも50V/μmであり、常温での抵抗値が7.420E+10以上である積層セラミックキャパシタが提供される。
【0018】
本発明の他の実施形態によれば、BaCOとTiOを混合して第1の混合物を形成する段階と、上記第1の混合物を900〜1000℃の範囲でか焼してBaTiOを形成する段階と、NaO、KOとNbを混合して第2の混合物を形成する段階と、上記第2の混合物を800〜900℃の範囲でか焼して(Na0.50.5)NbOを形成する段階と、Bi、NaCOとTiOを混合して第3の混合物を形成する段階と、上記第3の混合物を800〜900℃の範囲でか焼して(Bi0.5Na0.5)TiOを形成する段階と、BaTiOと(Na0.50.5)NbO及び(Bi0.5Na0.5)TiOを混合して母材粉末を形成する段階と、を含む誘電体磁器組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一実施形態によれば、母材粉末のキュリー温度が上昇し高温での誘電率が一定になる特性が実現されることにより、常温で1000以上の比較的高い誘電率を確保すると共にX9R温度特性を満たし高温での耐電圧特性が良好な誘電体磁器組成物及びこれを含む積層セラミックキャパシタを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiOで表示される母材粉末の各主成分の組成領域を示すグラフである。
図2】本発明の一実施形態による積層セラミックキャパシタを示す概略的な斜視図である。
図3図2のA−A'線に沿う積層セラミックキャパシタを示す概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。したがって、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために誇張されることがある。
【0022】
本発明は、誘電体磁器組成物に関するものであり、誘電体磁器組成物を含む電子部品には、キャパシタ、インダクタ、圧電素子、バリスタ又はサーミスタなどがある。以下では、誘電体磁器組成物及び電子部品の一例として積層セラミックキャパシタについて説明する。
【0023】
本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物は、BaTiOで表示される第1の主成分、(Na,K)NbOで表示される第2の主成分及び(Bi,Na)TiOで表示される第3の主成分を含む母材粉末、及び副成分を含む。
【0024】
本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物は、EIA(Electronic Industries Association)規格に明示されているX5R(−55℃〜85℃)、X7R(−55℃〜125℃)、X8R(−55℃〜150℃)、及びX9R(−55℃〜175℃)特性を満たすことができる。
【0025】
より詳細には、本発明の一実施形態によれば、ニッケル(Ni)を内部電極に用い、1300℃以下で上記ニッケル(Ni)が酸化されない還元雰囲気で焼成が可能な誘電体磁器組成物が提供される。
【0026】
また、これを用いた積層セラミックキャパシタを提供することにより、上記温度特性を満たすと共に優れた信頼性を実現することができる。
【0027】
以下、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物の各成分をより具体的に説明する。
【0028】
a)母材粉末
本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物は、BaTiOで表示される第1の主成分、(Na,K)NbOで表示される第2の主成分及び(Bi,Na)TiOで表示される第3の主成分を含む母材粉末を含むことができる。
【0029】
上記第1の主成分は、BaTiOで表示され、上記BaTiOは、一般の誘電体母材に用いられる材料であって、キュリー温度が約125℃の強誘電体材料であればよい。
【0030】
上記第2の主成分は、(Na,K)NbOで表示され、例えば、(Na0.50.5)NbOで表示されることができるが、これに制限されない。
【0031】
上記(Na0.50.5)NbOは、常温で強誘電特性を有し且つキュリー温度(Tc)が約450℃以上と非常に高い材料であればよい。
【0032】
上記第3の主成分は、(Bi,Na)TiOで表示され、例えば、(Bi0.5Na0.5)TiOで表示されることができるが、これに制限されない。
【0033】
上記(Bi0.5Na0.5)TiOは、常温で強誘電特性を有し且つキュリー温度(Tc)が約450℃以上と非常に高い材料であればよい。
【0034】
即ち、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物の母材粉末は、キュリー温度の低い強誘電体材料BaTiOとキュリー温度の高い強誘電体材料とを一定の比率で混合した形であればよい。
【0035】
上記のように、一定の比率でキュリー温度の低い材料とキュリー温度の高い材料とを混合して母材粉末を製作することにより、常温での誘電率が高くなり、絶縁抵抗に優れ、特に、X9R(−55℃〜175℃)温度特性を実現することができる。
【0036】
即ち、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物は、175℃の高温環境での動作を保証できる特性を示すことができる。
【0037】
本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物は、常温での誘電率が1000以上である。
【0038】
本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物の母材粉末は、BaTiOで表示される第1の主成分、(Na,K)NbOで表示される第2の主成分及び(Bi,Na)TiOで表示される第3の主成分を含むことにより、常温での誘電率を比較的高く確保すると共にX9R(−55℃〜175℃)温度特性を実現することができる。
【0039】
即ち、キュリー温度の相違する材料を混合することにより、常温での誘電率を高く確保すると共にX9R(−55℃〜175℃)温度特性を実現することができる。
【0040】
具体的には、BaTiOで表示される第1の主成分は、常温での誘電率が2000以上と高いが、キュリー温度が125℃付近であり、この温度以上では誘電率が急激に低くなることがあるため、125℃以上の温度領域ではTCC規格を満たさないという問題があった。
【0041】
これを補完する方法として、BaTiOに希土類元素を多量に添加したりCa元素を固溶させたりする方法、又は鉛(Pb)を追加することによりキュリー温度を上げる方法を試みたが、副成分が多量に添加されることにより信頼性が低下し、X8R(−55℃〜150℃)温度特性も満たさないという問題があった。
【0042】
本発明の一実施形態によれば、上記誘電体磁器組成物は、BaTiOで表示される第1の主成分に、キュリー温度(Tc)が約450℃以上と非常に高い材料である(Na,K)NbOで表示される第2の主成分及び(Bi,Na)TiOで表示される第3の主成分を含むことにより、X9R(−55℃〜175℃)温度特性を実現することができる。
【0043】
上記(Na,K)NbOで表示される第2の主成分と(Bi,Na)TiOで表示される第3の主成分は、キュリー温度(Tc)が約450℃以上と非常に高い材料であるが、常温での誘電率が1000以下と非常に低いという問題がある。
【0044】
即ち、本発明の一実施形態によれば、キュリー温度(Tc)が約450℃以上と非常に高い材料である(Na,K)NbOで表示される第2の主成分及び(Bi,Na)TiOで表示される第3の主成分と、常温での誘電率の高いBaTiOで表示される第1の主成分を含むことにより、常温での誘電率を高く確保すると共にX9R(−55℃〜175℃)温度特性を実現することができる。
【0045】
また、上記誘電体磁器組成物の母材粉末は、上述したようにキュリー温度の相違する材料を混合した形の他に固溶された形でもよい。
【0046】
上記母材粉末が互いに固溶された形の場合、上記母材粉末は、単一相の形であり、二つの材料の混合された形よりも誘電率、X9R(−55℃〜175℃)温度特性、静電容量変化率(temperature coefficient of capacitance、TCC)及び損失率などの特性に優れる。
【0047】
上記母材粉末は、xBaTiO−y(Na,K)NbO−z(Bi,Na)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))で表示され、上記xが0.5≦x≦0.97、yが0.01≦y≦0.48及びzが0.02≦z≦0.2を満たすように調節されることにより、常温での誘電率が高くなり、X9R(−55℃〜175℃)温度特性に優れる。
【0048】
即ち、上記母材粉末は、キュリー温度(Tc)は相対的に低いが常温での誘電率の高いBaTiOで表示される第1の主成分のモル比(x)が0.5≦x≦0.97を満たし、且つキュリー温度(Tc)の高い材料である(Na,K)NbOで表示される第2の主成分及び(Bi,Na)TiOで表示される第3の主成分のモル比(y、z)が0.01≦y≦0.48及び0.02≦z≦0.2を満たすように調節されることにより、上記の特性が得られる。
【0049】
上記xが0.5未満の場合は、常温での誘電率が低くなり、損失率(Dissipation Factor、DF)が高くなるという問題がある。
【0050】
上記xが0.97を超える場合は、キュリー温度が低くなるため、X9R(−55℃〜175℃)温度特性を実現することができないという問題がある。
【0051】
上記第2の主成分と第3の主成分のモル比(y、z)がそれぞれy:0.01未満、z:0.02未満の場合は、キュリー温度が低くなるため、X9R(−55℃〜175℃)温度特性を実現することができないという問題がある。
【0052】
上記第2の主成分と第3の主成分のモル比(y、z)がそれぞれy:0.48超、z:0.2超の場合は、常温での誘電率の低い材料が多量に添加されることにより、常温での誘電率が低くなり、損失率(Dissipation Factor、DF)が高くなるという問題がある。
【0053】
上記母材粉末は、特に制限されないが、平均粒径が1000nm以下であればよい。
【0054】
上記母材粉末は、xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiOで表示されることができるが、これに制限されない。
【0055】
上記第2の主成分において、上記ナトリウム(Na)とカリウム(K)は、1:1のモル比で含まれることができるが、これに制限されず、Na0.5±0.10.5±0.1の含量で含まれることができる。
【0056】
これと同様に、第3の主成分において、上記ビスマス(Bi)とナトリウム(Na)は、1:1のモル比で含まれることができるが、これに制限されず、Bi0.5±0.1Na0.5±0.1の含量で含まれることができる。
【0057】
一般に、高温での温度特性(X8R特性)を満たすためにBaTiOにCaZrO及び多量の希土類元素を添加するが、この場合は、上記高温での温度特性は実現されても、母材自体のキュリー温度が125℃であることから、高温での静電容量変化率(temperature coefficient of capacitance、TCC)を改善するには限界がある。
【0058】
また、多量の希土類元素の添加によってパイロクロア(Pyrochlore)相が生成されることから、信頼性が低下するという問題がある。
【0059】
しかしながら、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物の母材粉末は、キュリー温度が125℃のBaTiOに、キュリー温度が450℃以上と高い材料を一定の比率で混合又は固溶した形であるため、高温での温度特性(X9R特性)を満たし、高温での静電容量変化率(temperature coefficient of capacitance、TCC)特性が良好である。
【0060】
b)第1の副成分
本発明の一実施形態によれば、上記誘電体磁器組成物は、第1の副成分として、Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu及びZnのうち少なくとも一つ以上を含む酸化物又は炭酸塩をさらに含むことができる。
【0061】
上記第1の副成分であって、Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu及びZnのうち少なくとも一つ以上を含む酸化物又は炭酸塩は、上記母材粉末100モル%に対して0.1〜3.0モル%の含量で含まれることができる。
【0062】
上記第1の副成分は、誘電体磁器組成物が適用された積層セラミックキャパシタの焼成温度を低下させ高温での耐電圧特性を向上させる役割をする。
【0063】
上記第1の副成分の含量及び後述する第2の副成分の含量は、母材粉末100モル%に対して含まれる量であり、特に、各副成分に含まれる金属イオンのモル%で定義されることができる。
【0064】
上記第1の副成分の含量が0.1モル%未満の場合は、絶縁抵抗が目標値の水準で実現されないため、常温での比抵抗が低下する可能性がある。
【0065】
上記第1の副成分の含量が3.0モル%を超える場合は、常温での誘電率が1000未満と低くなるという問題がある。
【0066】
特に、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物は、母材粉末100モル%に対して0.1〜3.0モル%の含量を有する第1の副成分をさらに含むことにより、低温焼成が可能であり、高温での耐電圧特性が高くなる。
【0067】
c)第2の副成分
本発明の一実施形態によれば、上記誘電体磁器組成物は、第2の副成分として、Siを含む酸化物又はSiを含むガラス(Glass)化合物を含むことができる。
【0068】
上記誘電体磁器組成物は、上記母材粉末100モル%に対して、Siを含む酸化物又はSiを含むガラス(Glass)化合物である0.2〜10.0モル%の第2の副成分をさらに含むことができる。
【0069】
上記第2の副成分は、誘電体磁器組成物が適用された積層セラミックキャパシタの焼成温度を低下させ高温での耐電圧特性を向上させる役割をする。
【0070】
上記第2の副成分の含量が上記母材粉末100モル%に対して0.2モル%未満の場合は、焼結密度が低く絶縁抵抗が目標値の水準で実現されないため、常温での比抵抗が低下する可能性がある。
【0071】
上記第2の副成分の含量が上記母材粉末100モル%に対して10.0モル%を超える場合は、常温での誘電率が1000未満と低くなるという問題がある。
【0072】
特に、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物は、上記母材粉末100モル%に対して0.2〜10.0モル%の含量を有する第2の副成分をさらに含むことにより、低温焼成が可能であり、高温での耐電圧特性が高くなる。
【0073】
図1は、xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiOで表示される母材粉末の各主成分の組成領域を示すグラフである。
【0074】
図1を参照すると、常温での誘電率を高く確保すると共にX9R(−55℃〜175℃)温度特性を実現することができる、キュリー温度が125℃のBaTiOで表示される第1の主成分、及びキュリー温度が450℃以上の(Na,K)NbOで表示される第2の主成分及び(Bi,Na)TiOで表示される第3の主成分の組成領域を示していることが分かる。
【0075】
図1において、各地点のうちxで表示された地点は本発明の目標特性が実現されない比較例であり、それ以外の地点は本発明の目標特性が実現される実施例である。
【0076】
また、本発明の目標特性が実現される、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物に含まれる主成分の組成範囲は、陰影で表示された領域である。
【0077】
このことから、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物を適用した積層セラミックキャパシタは、高温での温度特性(X9R特性)を満たし、高温での静電容量変化率(temperature coefficient of capacitance、TCC)特性が良好であることが分かる。
【0078】
図2は、本発明の一実施形態による積層セラミックキャパシタ100を示す概略的な斜視図であり、図3は、図2のA−A'線に沿う積層セラミックキャパシタ100を示す概略的な断面図である。
【0079】
図2及び図3を参照すると、本発明の他の実施形態による積層セラミックキャパシタ100は、誘電体層111と第1及び第2の内部電極121、122が交互に積層されたセラミック本体110を有する。セラミック本体110の両端部には、セラミック本体110の内部に交互に配置された第1及び第2の内部電極121、122とそれぞれ導通する第1及び第2の外部電極131、132が形成されている。
【0080】
セラミック本体110の形状は、特に制限されないが、一般に六面体状であればよい。また、その寸法も、特に制限されないが、用途に応じて、適切な寸法、例えば、(0.6〜5.6mm)×(0.3〜5.0mm)×(0.3〜1.9mm)であればよい。
【0081】
誘電体層111の厚さは、キャパシタの容量設計に合わせて任意に変わることができる。本発明の一実施例において、焼成後の誘電体層の厚さは、1層当たり0.1μm以上であればよい。
【0082】
誘電体層の厚さが薄すぎる場合は、一つの層内に存在する結晶粒の数が少ないため、信頼性に悪影響を及ぼす。したがって、誘電体層の厚さは0.1μm以上であればよい。
【0083】
第1及び第2の内部電極121、122は、各端部がセラミック本体110の対向する両端部に交互に露出するように積層されている。
【0084】
上記第1及び第2の外部電極131、132は、セラミック本体110の両端部に形成され、交互に配置された第1及び第2の内部電極121、122の露出する端部に電気的に連結されてキャパシタ回路を構成する。
【0085】
上記第1及び第2の内部電極121、122に含有される導電性材料は、特に限定されないが、本発明の一実施形態による誘電体層の構成材料が常誘電体材料と強誘電体材料の混合又は固溶型であることから、ニッケル(Ni)であればよい。
【0086】
上記第1及び第2の内部電極121、122の厚さは、用途などに応じて適宜決まることができ、例えば、0.1〜5μm又は0.1〜2.5μmであればよい。
【0087】
上記第1及び第2の外部電極131、132に含有される導電性材料は、特に限定されないが、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、又はこれらの合金であればよい。
【0088】
上記第1及び第2の外部電極131、132の厚さは、用途などに応じて適宜決まることができ、例えば、10〜50μmであればよい。
【0089】
上記セラミック本体110を構成する誘電体層111は、本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物を含むことができる。
【0090】
上記誘電体磁器組成物は、BaTiOで表示される第1の主成分、(Na,K)NbOで表示される第2の主成分及び(Bi,Na)TiOで表示される第3の主成分を含む母材粉末を含む。
【0091】
上記母材粉末は、xBaTiO−y(Na,K)NbO−z(Bi,Na)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))で表示され、上記xが0.5≦x≦0.97、yが0.01≦y≦0.48及びzが0.02≦z≦0.2を満たし、特に、xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiOで表示されることができる。
【0092】
なお、上記誘電体磁器組成物の特徴は、上述した本発明の一実施形態による誘電体磁器組成物の特徴と同一であるため、ここではその詳細な説明は省略する。
【0093】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかしながら、これは、本発明の具体的な理解のためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0094】
原料粉末は、xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiOを主成分とし、下記のように固相法を用いて製作された。
【0095】
出発原料は、BaCO、TiO、NaO、KO、Bi、及びNbである。
【0096】
まず、BaCOとTiOをボールミルで混合し、900〜1000℃の範囲でか焼して、平均粒子サイズが300nmのBaTiO粉末を製造した。
【0097】
これと類似した方法で、TiO、NaO、KO、Bi、及びNbをボールミルで混合し、800〜900℃の範囲でか焼して、平均粒子サイズが300nmの(Na0.50.5)NbO粉末及び(Bi0.5Na0.5)TiO粉末を製造した。
【0098】
このように合成したBaTiO粉末、(Na0.50.5)NbO粉末及び(Bi0.5Na0.5)TiO粉末を下記表1に記載の組成比にそれぞれ秤量し、副成分である添加剤MnOとSiOを含むガラスフリット又は焼結助剤を下記表1及び表3に記載の組成比で添加し、主成分と副成分が含まれた原料粉末を、ジルコニアボールを混合/分散媒体として用いてエタノール/トルエン、分散剤及びバインダーと混合した後、20時間ボールミリングした。
【0099】
製造されたスラリーを、ドクターブレード(doctor blade)方式の小型のコーター(coater)を用いて厚さ5.0μm及び約10〜13μmのシートに成形した。
【0100】
上記5.0μmの厚さを有するシートにニッケル(Ni)内部電極を印刷した。
【0101】
10〜13μmの厚さを有する成形シートを25層ずつ積層して上カバー層と下カバー層を製作し、約2.0μmの厚さを有する内部電極の印刷されたシートを21層積層して活性層を製作し、この活性層を上記上カバー層と下カバー層の間に積層し加圧して圧着バーを製造した。
【0102】
上記圧着バーを、切断機を用いて3216サイズ(長さ×幅×厚さ:3.2mm×1.6mm×1.6mm)の電子部品に切断した。
【0103】
製作が終わった電子部品をか焼し、還元雰囲気(1%のH/99%のN、HO/H/N雰囲気)で1150〜1200℃の温度で2時間焼成した後、1000℃の窒素(N)雰囲気で3時間再酸化して熱処理した。
【0104】
焼成された電子部品に対して銅(Cu)ペーストを用いてターミネーション工程及び電極焼成工程を行って外部電極を形成した。
【0105】
上記のように完成されたプロト型の積層セラミックキャパシタ(Proto−type MLCC)の試験片に対し、容量、DF、絶縁抵抗、TCC及び高温150℃での電圧ステップの増加による抵抗劣化挙動などを評価した。
【0106】
積層セラミックキャパシタ(MLCC)の常温静電容量及び誘電損失は、LCR−meterを用いて1kHz、AC0.2V/μmの条件で測定された。
【0107】
静電容量と積層セラミックキャパシタ(MLCC)の誘電体層の厚さ、内部電極の面積、積層数から、積層セラミックキャパシタ(MLCC)の誘電率を計算した。
【0108】
常温絶縁抵抗(IR)は、10個ずつのサンプルを取り出してDC10V/μmを印加した状態で60秒経過した後に測定された。
【0109】
温度による静電容量の変化は、−55℃〜150℃の温度範囲で測定された。
【0110】
高温IR昇圧実験では、150℃でDC電圧を5V/μmずつ印加して電圧ステップを増加させながら抵抗劣化挙動を測定した。各段階の時間は10分であり、5秒間隔で抵抗値を測定した。
【0111】
高温IR昇圧実験から高温での耐電圧を導出した。これは、焼成後に厚さ7μmの20層の誘電体層を有する3216サイズの電子部品に対し、150℃で5V/μmのDC電圧を10分間印加し電圧ステップ(Voltage step)を継続的に増加させながら測定したときにIRが10Ω以上になる電圧を意味する。
【0112】
【表1】
【0113】
下記表2は、上記表1に記載の組成に該当するプロト型の積層セラミックキャパシタ(Proto−type MLCC)の特性を示したものである。
【0114】
【表2】
【0115】
上記表1及び表2を参照すると、比較例1〜3は、母材粉末xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))に対して、第1の副成分MnO及び第2の副成分SiOの含量がそれぞれ0.5mol%及び1.0mol%、第3の主成分(Bi0.5Na0.5)TiOの含量zが0のとき、第1の主成分の含量x及び第2の主成分の含量yの変化によるプロト型の積層セラミックキャパシタ(proto−type MLCC)の特性を示したものである。
【0116】
比較例1〜3は、xの含量が0.5〜0.99の広い範囲でX9R条件を満たすTCC(175℃)が±15%未満の特性を実現することができない。
【0117】
表1の比較例4と実施例5〜10及び比較例11は、母材粉末xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))に対して、第1の副成分MnO及び第2の副成分SiOの含量がそれぞれ0.5mol%及び1.0mol%、第3の主成分(Bi0.5Na0.5)TiOの含量zが0.02のとき、第1の主成分の含量x及び第2の主成分の含量yの変化例を示したものであり、表2は、これらの比較例及び実施例によるプロト型の積層セラミックキャパシタ(proto−type MLCC)の特性を示したものである。
【0118】
xの含量が0.45と非常に小さい場合(比較例4)は、誘電率が1000未満と小さく、xの含量が0.99と大きすぎる場合(比較例11)は、誘電率が2000以上と大きくなり、TCC(175℃)が−19.8%でX9R特性を外れる。
【0119】
xの含量が0.5〜0.97の範囲に該当する組成の場合(実施例5〜10)は、本発明の目標特性である、誘電率1000以上、TCC(175℃)±15%未満、高温での耐電圧50V/μm以上の特性を全て実現することができる。
【0120】
表1の実施例12〜14及び比較例15は、母材粉末xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))に対して、第1の副成分MnO及び第2の副成分SiOの含量がそれぞれ0.5mol%及び1.0mol%、第3の主成分(Bi0.5Na0.5)TiOの含量zが0.1のとき、第1の主成分の含量x及び第2の主成分の含量yの変化例を示したものであり、表2は、これらの実施例によるプロト型の積層セラミックキャパシタ(proto−type MLCC)の特性を示したものである。
【0121】
xの含量が0.5〜0.89の範囲の場合(実施例12〜14)は、上記本発明の目標特性を全て満たす。
【0122】
xの含量が0.90と非常に大きい場合(比較例15)は、誘電率が2117と大きくなり、TCC(175℃)が−16.7%でX9R特性を外れる。
【0123】
表1の比較例16、実施例17〜20及び比較例21は、母材粉末xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))に対して、第1の副成分MnO及び第2の副成分SiOの含量がそれぞれ0.5mol%及び1.0mol%、第3の主成分(Bi0.5Na0.5)TiOの含量zが0.2のとき、第1の主成分の含量x及び第2の主成分の含量yの変化例を示したものであり、表2は、これらの実施例によるプロト型の積層セラミックキャパシタ(proto−type MLCC)の特性を示したものである。
【0124】
xの含量が0.45と非常に小さい場合(比較例16)は、誘電率が1000未満と小さく、xの含量が0.80と大きすぎる場合(比較例22)は、誘電率が1900以上と大きくなり、TCC(175℃)が−15.9%でX9R特性を外れる。
【0125】
xの含量が0.5〜0.79の範囲の場合(実施例17〜20)は、上記本発明の目標特性を全て満たす。
【0126】
表1の比較例22〜25は、母材粉末xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))に対して、第1の副成分MnO及び第2の副成分SiOの含量がそれぞれ0.5mol%及び1.0mol%、第3の主成分(Bi0.5Na0.5)TiOの含量zが0.25のとき、第1の主成分の含量x及び第2の主成分の含量yの変化例を示したものであり、表2は、これらの実施例によるプロト型の積層セラミックキャパシタ(proto−type MLCC)の特性を示したものである。
【0127】
zが0.25と大きすぎる場合は、全て、xの含量にかかわらず、高温での耐電圧が40V/μm未満であるため、本発明の目標特性を満たさない。
【0128】
比較例11、15、21、25、26は、母材粉末xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))に対して、第1の副成分MnO及び第2の副成分SiOの含量がそれぞれ0.5mol%及び1.0mol%、第2の主成分(Na0.50.5)NbOの含量yが0のとき、第1の主成分の含量x及び第3の主成分の含量zの変化例を示したものであり、表2は、これらの実施例によるプロト型の積層セラミックキャパシタ(proto−type MLCC)の特性を示したものである。
【0129】
第2の主成分(Na0.50.5)NbOの含量yが0の場合は、全て、xの含量にかかわらず、TCC(175℃)が±15.0%を超えるため、X9R特性を満たさない。
【0130】
上記実施例及び比較例の結果を図1に示した。×で表示された地点は本発明の目標特性が実現されない比較例、それ以外の地点は本発明の目標特性が実現される実施例の組成を示す。このことから、本発明の目標特性が実現される主成分の組成範囲は陰影で表示された領域であることが分かる。
【0131】
【表3】
【0132】
下記表4は、上記表3に記載の組成に該当するプロト型の積層セラミックキャパシタ(Proto−type MLCC)の特性を示したものである。
【0133】
【表4】
【0134】
上記表3の比較例27、実施例28〜31及び比較例32は、母材粉末xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))の主成分のそれぞれの含量がx=0.89、y=0.01、z=0.10、第2の副成分SiOの含量が1.0mol%のとき、第1の副成分MnOの含量の変化による実験例を示したものであり、表4の27〜32は、これらの実験例によるプロト型の積層セラミックキャパシタ(Proto−type MLCC)の特性を示したものである。
【0135】
第1の副成分が添加されない場合(比較例27)は、絶縁抵抗が実現されないため、常温での比抵抗が6.540E+0.8Ω−cm以下と低くなり、第1の副成分MnOの含量が4.0mol%と高すぎる場合(比較例32)は、常温での誘電率が1000未満と低くなる。
【0136】
第1の副成分MnOの含量が0.1〜3.0mol%の場合(実施例28〜31)は、本発明の目標特性を満たす。
【0137】
表3の実施例33〜34及び比較例35は、第1の副成分MnOの一部をVに変更したときの実施例を示したものである。モル%を基準に、第1の副成分全体の含量が同じ場合は、Mnが単独で添加された場合とMnとVが一緒に添加された場合の特性がほぼ同じであり(実施例30及び33、又は実施例31及び34)、第1の副成分全体の含量が4モル%と多すぎる場合(比較例35)は、Mnが単独で添加された場合(比較例32)と同様に常温での誘電率が1000未満と低くなる。
【0138】
上記表3の比較例36、実施例37〜39及び比較例40は、母材粉末xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))の主成分のそれぞれの含量がx=0.89、y=0.01、z=0.10、第1の副成分MnOの含量が0.5mol%のとき、第2の副成分SiOの含量の変化による実験例を示したものであり、表2の36〜40は、これらの実験例によるプロト型の積層セラミックキャパシタ(Proto−type MLCC)の特性を示したものである。
【0139】
第2の副成分が添加されない場合(比較例36)は、焼結密度が低く絶縁抵抗が実現されないため、常温での比抵抗が7.420E+10Ω−cm以下と低くなり、第2の副成分の含量が15.0mol%と高すぎる場合(比較例40)は、常温での誘電率が1000未満と低くなる。
【0140】
第2の副成分の含量が0.2〜10.0mol%の範囲の場合(実施例37〜39)は、本発明の目標特性を満たす。
【0141】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野の通常の知識を有する者には明らかである。
[項目1]
母材粉末を含む誘電体磁器組成物であって、
母材粉末は、BaTiOで表示される第1の主成分、(Na,K)NbOで表示される第2の主成分及び(Bi,Na)TiOで表示される第3の主成分を含む、誘電体磁器組成物。
[項目2]
母材粉末は、xBaTiO−y(Na,K)NbO−z(Bi,Na)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))で表示され、xが0.5≦x≦0.97、yが0.01≦y≦0.48及びzが0.02≦z≦0.2を満たす、項目1に記載の誘電体磁器組成物。
[項目3]
母材粉末は、xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiOで表示される、項目2に記載の誘電体磁器組成物。
[項目4]
誘電体磁器組成物は、母材粉末100モル%に対して、Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu及びZnのうち少なくとも一つを含む酸化物又は炭酸塩である0.1〜3.0モル%の第1の副成分をさらに含む、項目1から3のいずれか1項に記載の誘電体磁器組成物。
[項目5]
誘電体磁器組成物は、母材粉末100モル%に対して、Siを含む酸化物又はSiを含むガラス(Glass)化合物である0.2〜10.0モル%の第2の副成分をさらに含む、項目1から4のいずれか1項に記載の誘電体磁器組成物。
[項目6]
第1の主成分〜第3の主成分は固溶体の形である、項目1から5のいずれか1項に記載の誘電体磁器組成物。
[項目7]
誘電体層と第1の内部電極及び第2の内部電極が交互に積層されたセラミック本体と、
セラミック本体の両端部に形成され、第1の内部電極及び第2の内部電極と電気的に連結される第1の外部電極及び第2の外部電極と、
を含み、
誘電体層はBaTiOで表示される第1の主成分、(Na,K)NbOで表示される第2の主成分及び(Bi,Na)TiOで表示される第3の主成分を含む母材粉末及び副成分を含む誘電体磁器組成物を含む、積層セラミックキャパシタ。
[項目8]
母材粉末は、xBaTiO−y(Na,K)NbO−z(Bi,Na)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))で表示され、xが0.5≦x≦0.97、yが0.01≦y≦0.48及びzが0.02≦z≦0.2を満たす、項目7に記載の積層セラミックキャパシタ。
[項目9]
母材粉末は、xBaTiO−y(Na0.50.5)NbO−z(Bi0.5Na0.5)TiOで表示される、項目8に記載の積層セラミックキャパシタ。
[項目10]
誘電体磁器組成物は、母材粉末100モル%に対して、Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu及びZnのうち少なくとも一つを含む酸化物又は炭酸塩である0.1〜3.0モル%の第1の副成分をさらに含む、項目7から9のいずれか1項に記載の積層セラミックキャパシタ。
[項目11]
誘電体磁器組成物は、母材粉末100モル%に対して、Siを含む酸化物又はSiを含むガラス(Glass)化合物である0.2〜10.0モル%の第2の副成分をさらに含む、項目7から10のいずれか1項に記載の積層セラミックキャパシタ。
[項目12]
第1の主成分〜第3の主成分は固溶体の形である、項目7から11のいずれか1項に記載の積層セラミックキャパシタ。
[項目13]
母材粉末を含む誘電体磁器組成物であって、
母材粉末はキュリー温度が125℃の第1の主成分(X)、キュリー温度が450℃以上の第2の主成分(Y)及びキュリー温度が320℃以上の第3の主成分(Z)を含み、母材粉末はxX−yY−zZ(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))で表示され、XとZはチタンを含み、Yはニオビウムを含む、誘電体磁器組成物。
[項目14]
xは0.5≦x≦0.97、yは0.01≦y≦0.48及びzは0.02≦z≦0.2を満たす、項目13に記載の誘電体磁器組成物。
[項目15]
XはBaTiO、Yは(Na,K)NbO、Zは(Bi,Na)TiOである、項目13または14に記載の誘電体磁器組成物。
[項目16]
誘電体磁器組成物は、母材粉末100モル%に対して、Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu及びZnのうち少なくとも一つを含む酸化物又は炭酸塩である0.1〜3.0モル%の第1の副成分をさらに含む、項目13から15のいずれか1項に記載の誘電体磁器組成物。
[項目17]
誘電体層と第1の内部電極及び第2の内部電極が交互に積層されたセラミック本体と、
セラミック本体の両端部に形成され、第1の内部電極及び第2の内部電極と電気的に連結される第1の外部電極及び第2の外部電極と、
を含み、
誘電体層は誘電体磁器組成物を含み、誘電体磁器組成物は母材粉末を含み、母材粉末はキュリー温度が125℃の第1の主成分(X)、キュリー温度が450℃以上の第2の主成分(Y)及びキュリー温度が320℃以上の第3の主成分(Z)を含み、
−55℃〜175℃の範囲での静電容量変化率が+/−15%以内であり、常温での誘電率が1000以上であり、150℃で耐電圧が少なくとも50V/μmであり、常温での抵抗値が7.420E+10以上である、積層セラミックキャパシタ。
[項目18]
母材粉末はxX−yY−zZ(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))で表示され、XとZはチタンを含み、Yはニオビウムを含む、項目17に記載の積層セラミックキャパシタ。
[項目19]
xは0.5≦x≦0.97、yは0.01≦y≦0.48及びzは0.02≦z≦0.2を満たす、項目18に記載の積層セラミックキャパシタ。
[項目20]
XはBaTiO、Yは(Na,K)NbO、Zは(Bi,Na)TiOである、項目18または19に記載の積層セラミックキャパシタ。
[項目21]
BaCOとTiOを混合して第1の混合物を形成する段階と、
第1の混合物を900〜1000℃の範囲でか焼してBaTiOを形成する段階と、
NaO、KOとNbを混合して第2の混合物を形成する段階と、
第2の混合物を800〜900℃の範囲でか焼して(Na0.50.5)NbOを形成する段階と、
Bi、NaCOとTiOを混合して第3の混合物を形成する段階と、
第3の混合物を800〜900℃の範囲でか焼して(Bi0.5Na0.5)TiOを形成する段階と、
BaTiOと(Na0.50.5)NbO及び(Bi0.5Na0.5)TiOを混合して母材粉末を形成する段階と、
を含む、誘電体磁器組成物の製造方法。
[項目22]
母材粉末は、xBaTiO−y(Na,K)NbO−z(Bi,Na)TiO(但し、x+y+z=1、x、y、zはモル(mol))で表示され、xが0.5≦x≦0.97、yが0.01≦y≦0.48及びzが0.02≦z≦0.2を満たす、項目21に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
[項目23]
誘電体磁器組成物は、母材粉末100モル%に対して、Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu及びZnのうち少なくとも一つを含む酸化物又は炭酸塩である0.1〜3.0モル%の第1の副成分をさらに含む、項目21または22に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
[項目24]
誘電体磁器組成物は、母材粉末100モル%に対して、Siを含む酸化物又はSiを含むガラス(Glass)化合物である0.2〜10.0モル%の第2の副成分をさらに含む、項目21から23のいずれか1項に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【符号の説明】
【0142】
100 積層セラミックキャパシタ
110 セラミック本体
111 誘電体層
121、122 第1及び第2の内部電極
131、132 第1及び第2の外部電極
図1
図2
図3