(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化モリブデンを5〜30重量%、酸化コバルトを1〜10重量%、リンを0.2〜3重量%、及びアルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種を0.2〜5重量%含む組成物であって、酸化モリブデン、酸化コバルト、リン、及びアルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種がアルミナ上に担持されたメタセシス反応用触媒組成物。
酸化モリブデンを5〜30重量%、酸化コバルトを1〜10重量%、リンを0.2〜3重量%、ケイ素を0.2〜3重量%、及びアルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種を0.2〜5重量%含む組成物であって、酸化モリブデン、酸化コバルト、リン、ケイ素、及びアルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種がアルミナ上に担持されたメタセシス反応用触媒組成物。
【背景技術】
【0002】
メタセシス反応は触媒の存在下に2分子のオレフィン化合物間でビニリデン基が交換する反応であり、工業的な利用例にはエチレンと2−ブテンのメタセシス反応によるプロピレンの製造などがある。
【0003】
また、より複雑なオレフィン分子にも応用され、メタセシス反応によってジオレフィン化合物からトリオレフィン化合物を製造し、難燃材の原料やエポキシ樹脂の原料とする特許も公開されている(特許文献1及び2参照)。
【0004】
メタセシス反応の触媒としては、モリブデン、タングステン、ルテニウム、レニウムなどが好適であることが知られている。触媒の形態としては、これらの金属原子に配位子を修飾して錯体として使用するもの、あるいはこれらの金属化合物をシリカやアルミナ等の担体上に担持して使用するものが知られている。一般に、錯体触媒は高価となることが多く、一方、固体触媒については、化学業界では汎用の有機化学製品の生産に適した固体触媒が多く工業的に生産されていて、安価な原料や経済的な生産設備が利用可能である。従って、固体触媒がメタセシス反応に適用できれば生産するオレフィン製品の触媒コストを低減でき有利であると期待される。
【0005】
メタセシス反応には原料や生成物の二重結合の移動や高分子量化などの副反応が存在し、メタセシス反応を工業的に実施する際には原料費を抑えるために副反応比率の低い、すなわち主反応であるメタセシス反応生成物の選択率の高い触媒を開発する必要がある。さらに、工業生産を行う際に必要な触媒量が多いと、触媒のコスト、さらに反応器のサイズが大きくなることによる設備コストが不利となるので、単位時間あたりの反応量が適度に大きいこと、すなわち反応転化率が、経済性が成り立つ程度に高いことも触媒設計の達成要件である。しかしながら、反応選択率と反応転化率はトレードオフの関係にあることが一般的であり、メタセシス触媒開発でもその両立が課題となる。
【0006】
原料がジオレフィンであり、特定の二重結合のメタセシス反応生成物を得ようとする場合は、モノオレフィンを原料とする場合より起き得る副反応は多く、よりバランスのとれた触媒が工業生産のために必要となる。
【0007】
固体触媒を用いるメタセシス技術としては、アルミナ担持モリブデン触媒が公知である(特許文献3参照)。この文献中では、流通式の反応例も示され、さらに触媒成分にコバルトも含有する触媒も使用できることが示されている。また、アルカリ金属を担持することで、反応選択率が改善されることが示されている。
【0008】
また、アルカリ金属に代えてアルカリ土類金属を特定量担持させることで触媒活性が高く、触媒寿命が長いオレフィンメタセシス用触媒が得られることが報告されている(特許文献5参照)。
【0009】
ジオレフィンのメタセシスによるトリオレフィン製造においても、アルカリ金属が担持された流通式反応例が示されている(特許文献1参照)。しかし、その反応実施例においては、異性体やヘビーオレフィンの副生を伴いながら転化率は46.4%に留まる反応成績が報告されている。また、同じ反応において、高い選択率が示されている反応例では反応粗液には原料が多く残り、転化率は高くない結果が示されている(特許文献4の実施例の比較成績参照)。
すなわち、高い選択率を持ちながら、一層高い転化率を達成できるメタセシス反応触媒の開発が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る組成物の第一の態様は、酸化モリブデン、酸化コバルト、及びアルカリ金属とアルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種を含有し、これらがアルミナ上に担持された固体状の組成物であって、さらにリンが担持されていることを特徴とする。
また、本発明に係る組成物の第二の態様は、酸化モリブデン、酸化コバルト、及びアルカリ金属とアルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種を含有し、これらがアルミナ上に担持された固体状の組成物であって、さらにリン及びケイ素が担持されていることを特徴とする。
本発明に係る組成物の第一の態様及び第二の態様を合わせて、以下、「本発明の組成物」と称する場合がある。
【0017】
本発明の組成物は、メタセシス反応の触媒として好適に使用することができる。
「メタセシス反応」とは、2分子のオレフィン化合物間でビニリデン基が交換する反応であり、特に、本発明の組成物は、ジオレフィン化合物を出発原料として、モノオレフィン化合物とトリオレフィン化合物に転換するメタセシス反応の触媒として好適に使用することができる。
本明細書において、例えば、ジオレフィン化合物を出発原料としてモノオレフィン化合物とトリオレフィン化合物に転換するメタセシス反応においては、「(反応)転化率」とは原料のジオレフィン化合物が消費された割合(%)を意味し、「(反応)選択率」とは、原料のジオレフィン化合物のうち反応で消失したジオレフィン化合物から得られる所望のトリオレフィン化合物の理論値を100%としたときの実際に得られたトリオレフィン化合物の割合(%)を意味する。
また、本明細書において「重量%」とは、本発明の組成物の全量(100重量%)に対する割合(重量%)を意味するものとする。
【0018】
本発明の組成物において、モリブデンはメタセシス反応触媒能を持つ金属であり、酸化モリブデンの形で存在させて用いることが出来る。酸化モリブデンの含有量は、6価の酸化モリブデン(MoO
3)として、触媒能の発現のため5重量%以上が好ましく、7重量%以上がより好ましい。酸化モリブデン濃度が高いと活性には飽和傾向が現れ、触媒コストも上昇するため、酸化モリブデンの含有量の上限は30重量%とすることが好ましい。
【0019】
本発明の組成物において、コバルトは助触媒として配合されるものであり、組成物中に酸化コバルトの形で存在させて用いることが出来る。酸化コバルトの含有量は、2価の酸化コバルト(CoO)として好ましくは1〜10重量%、より好ましくは1.5〜10重量%である。
【0020】
本発明の組成物において、モリブデン、コバルトに加え、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種を共存させるとメタセシス反応の選択性が改善できるので好ましい。
本発明の組成物に使用されるアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、又はセシウムを用いることが出来る。また、アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、又はバリウムを用いることが出来る。これらアルカリ金属、アルカリ土類金属の1種のみを使用しても良いし、複数を組み合わせて使用してよい。アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属としては、カリウム、ナトリウム、カルシウム、リチウム、セシウム、マグネシウム、バリウムが好ましく、カリウム、ナトリウム又はカルシウムがより好ましい。
【0021】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種の含有量は、選択性の改善を発現させるために、アルカリ金属原子及び/又はアルカリ土類金属原子として、0.2重量%以上が好ましく、0.25重量%以上がより好ましい。一方、含有量を多くするほど反応活性は低下するため、5重量%を上限とすることが好ましい。
【0022】
本発明の組成物製造において出発原料とするアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩や同水酸化物等は、製造中にその物質単独でまたは他の原料と接触して、塩分解、脱水反応、中和やイオン交換などを起こし、その結果、本発明の組成物中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属は、金属酸化物、塩基点や中和された酸点上の金属カチオン等として存在すると考えられる。
アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、本発明の組成物を作製する際の後述の混練、共沈、含浸、加熱処理、熱分解等の操作後に得られる組成物中の存在量(原子換算量)が上記含有量になるように、硝酸塩、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、塩化物、酢酸塩等の形態を出発原料として使用すればよい。またアルカリ金属原子及び/又はアルカリ土類金属原子のこれらの塩を単独で又は2以上を組み合わせて配合してもよい。
【0023】
本発明の組成物の第一態様においては、酸化モリブデン、酸化コバルト、並びにアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属に、さらにリンを含有することを特徴とする。
また、本発明の組成物の第2態様においては、酸化モリブデン、酸化コバルト、並びにアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属に、リン及びケイ素を含有することを特徴とする。
【0024】
本発明の組成物において、リン、さらにはケイ素を含有せしめることにより、メタセシス反応の転化率、選択率の改善をもたらす詳細な機構については解明されておらず、鋭意検討中ではあるが、メタセシス反応に対して不活性であるリン、ケイ素は活性金属種と何らかの相互作用を有し、その結果活性金属種のメタセシス反応の活性が増加し、転化率、選択率を改善する作用が現れる可能性があると考察している。なお、この考察は、本発明を何ら限定するものではない。
【0025】
本発明の組成物において、リンをリン原子として0.2重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、組成物中に含有させることで、メタセシス反応の転化率、選択率の改善効果が発現される。また、触媒の物理的性状に顕著な変化を及ぼさないよう、組成物中のリンは3重量%以下にとどめることが好ましい。
【0026】
本発明の組成物の製造条件が高温で酸化的な工程を含むこととリンの化学的挙動から、組成物中でリンは酸化物として存在し、あるいはモリブデン、アルミなど他の成分との複合酸化物として存在すると考えられる。
リンは、本発明の組成物を作製する際の後述の加熱処理、熱分解、還元等の操作後に得られる組成物中の存在量(原子換算量)が上記含有量になるように、リンを含む化合物を原料として用い、必要に応じてエア下で焼成する等の操作を行って本発明の組成物を得るとが出来る。
【0027】
また、本発明の組成物において、ケイ素はケイ素原子として0.2重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、組成物中に含有させることで、メタセシス反応の転化率、選択率のさらなる改善効果が発現される。また、触媒の物理的性状に顕著な変化を及ぼさないよう、組成物中のケイ素は3重量%以下にとどめることが好ましい。
ケイ素は、本発明の組成物の製造条件が高温で酸化的な工程を含むこととケイ素の化学的挙動から、組成物中でケイ素は酸化物として存在し、あるいはモリブデン、アルミなど他の成分との複合酸化物として存在すると考えられる。
ケイ素は、本発明の組成物を作製する際の後述の加熱処理、熱分解、還元等の操作後に得られる組成物中の存在量(原子換算量)が上記含有量になるように、ケイ素を含む化合物を原料として用い、必要に応じてエア下で焼成する等の操作を行って本発明の組成物を得ることが出来る。
【0028】
本発明の組成物の前記各成分は、アルミナ上に担持されていることが好ましい。使用できるアルミナとしては、γ-アルミナが好ましく、またθ-アルミナ、α-アルミナなど担体として用いられるアルミナ類も使用可能である。工業的に生産され市販されている純度のアルミナを使用することができる。
本発明中の組成物中に含有されるアルミナの重量%は、100重量%から上記の酸化モリブデン、酸化コバルト、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも1種、リン、ケイ素の合計濃度の残りとなる。
なお、本発明の組成物中には、前記成分以外に、その性質上不可避な不純物、例えば、一般的にアルミナに少量含有される鉄、ニッケル、クロム、タングステン、ガリウム、チタン、塩素、フッ素などのハロゲンなどを、本発明の効果が損なわれない範囲(例えば、5重量%未満、更に好ましくは3重量%未満)で含まれていてもよい。
【0029】
本発明の組成物のかさ比重(g/cm
3)は、好ましくは0.4〜1.3であり、好ましくは、0.5〜1.1である。組成物のかさ比重がこの範囲にあれば、低密度により惹起される単位容積あたりの触媒メタル量低下による反応器の大型化、および高密度により惹起される反応時に触媒成分が反応基質に対し有効に使われないことによる非効率化という不具合が抑制できるという利点がある。
【0030】
本発明の組成物の調製法には、石油精製で用いられるコバルト・モリブデン・アルミナ触媒(以下、「CoMo触媒」と称する場合がある)の公知の製造方法を適用できる。
例えば、あらかじめ作製したアルミナを酸化モリブデンおよび酸化コバルト、またはその前駆体とボールミルで良く混練し、さらに焼成する所謂混練法で行うことが出来る。また、あらかじめ作製したアルミナを水中に分散し、モリブデン酸コバルト、硝酸モリブデン、硝酸コバルト等を加え、生じた固形分を焼成する所謂共沈法で行うことができる。また、アルミナ担体に、焼成によって酸化モリブデンに転換される硝酸モリブデン等のモリブデン化合物、焼成によって酸化コバルトに転換される硝酸コバルト等のコバルト化合物を水溶液として含浸し、次いで焼成する所謂含浸法で行うことが出来、含浸方法としては平衡吸着法、ポアフィリング法、incipient wetness法などを適用することができる。これらの水溶液を利用するCoMo触媒の調製操作において、モリブデン化合物の溶解性や分散性を改善するため、クエン酸等の助剤の添加等の公知の方法を使用して差し支えない。
上記製法で原料として使用される酸化モリブデン、酸化コバルト、モリブデン酸コバルト、硝酸モリブデン等のモリブデン化合物、硝酸コバルト等のコバルト化合物の使用量は、特に限定されないが、これら原料が酸化モリブデン又は酸化コバルトに転換された場合に本発明の組成物中の所定の含有量の範囲になるような量で使用すればよい。
【0031】
調製工程で水分が残っている場合、乾燥を行う。乾燥中に組成物上の水溶性成分が移動して金属成分の凝集が生じる場合もあるので、乾燥を攪拌しながら行う、あるいは組成物を少量ずつ乾燥する等の方法を採ることで金属成分が分散した組成物を作製することができる。焼成は乾燥の後、例えば300℃から750℃の高温で行うことが好ましい。雰囲気は、窒素などの不活性ガスや、水素などの還元性ガスを用いて実施して問題ないが、エア雰囲気下で良好に行える。アルミナへの所定量のモリブデン、コバルトの担持は、一括で行って良いが、モリブデン、コバルトの担持量を同一または異なった比率に分割し2回以上の操作で行っても差し支えない。例示したこれらの方法以外の公開されている方法を用いてコバルト・モリブデン・アルミナ焼成物を調製しても差し支えない。
【0032】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の少なくとも1種の組成物への添加方法としては、上記の組成物の調製操作において焼成が終わったあと、更に組成物にアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の各種形態の化合物を溶解した水溶液を含浸させ、乾燥、次いで焼成を行うことで行える。例えばカリウムであれば、硝酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、酢酸カリウム等を用いることが好適である。リチウム、ナトリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、又はバリウムについても同様な各種形態の化合物を使用して、同様の操作を適用してよい。水溶液の含浸法として平衡吸着法、ポアフィリング法、incipient wetness法などを適用できる。例示したこれらの方法以外の公開されている原料、方法を用いて組成物を調製しても差し支えない。
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属水溶液と接触させたコバルト・モリブデン・アルミナ焼成物は、先に記載したと同様に乾燥、焼成を行う。
また、組成物へのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の少なくとも1種の添加は、コバルト・モリブデン・アルミナ焼成物を得る操作中に行うことも出来、すなわち混練法、含浸法、共沈法などでモリブデン、コバルトを加える工程でアルカリ金属及びアルカリ土類金属の各種形態の化合物を同時に混練や含浸することも出来る。
【0033】
上記製法で原料として使用されるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の各種形態の化合物の使用量は、特に限定されないが、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属(原子換算量)が本発明の組成物中の所定の含有量の範囲になるような量で使用すればよい。
また、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属の含有量が、最終組成物において所定の濃度範囲になるよう、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属を含有するアルミナを原料として使用しても差し支えない。
また、上記の方法を組み合わせて、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属を組成物中に導入しても差し支えない。
【0034】
リンの組成物への添加は、その推定される活性発現機構から、リンがモリブデンの近くに存在したときに効果が得られると考えられることから、リンの添加操作は組成物上にモリブデン層が形成される前か、同時に行うことが好ましい。
具体的なリンの添加方法としては、上記のコバルト・モリブデン・アルミナ焼成物を得る操作において、例えば混練法、共沈法、含浸法でアルミナにリンとしてAlPO
4等のリン化合物を加えて用いる、あるいは含浸法において水溶性モリブデン化合物とともに、リンの前駆体としてリン酸、亜リン酸、またさらにピロリン酸、メタリン酸、ポリリン酸との名称で工業的に利用されているリン化合物をそのまま、またはアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の塩、アンモニウム塩として水溶液に追加し溶解して担持する方法も適用できる。また、原料としてヘテロポリ酸であるリンモリブデン酸を、酸強度調節のためアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物、アンモニア等と併用して使用しても良い。またそれ以外の公開されている方法を用いてリンを組成物に加えても差し支えない。
上記製法で原料として使用される各種リン化合物の使用量は、特に限定されないが、リン(原子換算量)が本発明の組成物中の所定の含有量の範囲になるような量で使用すればよい。
【0035】
また、ケイ素の組成物への添加は、その推定される活性発現機構から、ケイ素がモリブデンの近くに存在したときに効果が得られると考えられることから、ケイ素の添加操作は組成物上にモリブデン層が形成される前か、同時に行うことが好ましい。
具体的なケイ素の添加方法としては、上記のコバルト・モリブデン・アルミナ焼成物を得る操作において、例えば混練法、共沈法、含浸法でアルミナにSiO
2やシリカアルミナ等を加えて用いる、あるいは含浸法において水溶性モリブデン化合物とともにケイ酸ソーダなどのケイ素化合物を溶解させる方法を適用できる。また、原料としてヘテロポリ酸であるケイモリブデン酸を、酸強度調節のためアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物、アンモニア等と併用して使用しても良い。またテトラエチルオルソシリケートのような有機ケイ素化合物を他の触媒原料と混合し、ケイ素を導入しても良い。またそれ以外の公開されている方法を用いてケイ素を触媒に加えても差し支えない。
上記製法で原料として使用される各種ケイ素化合物の使用量は、特に限定されないが、ケイ素(原子換算量)が本発明の組成物中の所定の含有量の範囲になるような量で使用すればよい。
【0036】
また、本発明の組成物成分のうち、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の担持の順序が最後でも良いことから、コバルト、モリブデン、リン(及びケイ素)をアルミナに担持した市販のCoMo触媒を利用することでも本発明を実施できる。すなわち、アルカリ金属、アルカリ土類金属以外の元素含有量が本発明の組成物の組成を満たす市販のCoMo触媒を選定し、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属成分を上記の方法で追加担持することでもメタセシス反応用触媒に適した組成物を調製することができる。
【0037】
本発明の組成物に含まれる酸化モリブデン、酸化コバルト、リン、ケイ素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、並びにその他の元素の含有量は、蛍光X線元素分析(XRF)により測定することができる。酸化モリブデン、酸化コバルトの場合は、XRFにより得られたモリブデン原子、コバルト原子の含有量(重量%)から酸化モリブデン(MoO
3)、酸化コバルト(CoO)の分子量に換算して含有量を求めることができる。
XRFは、市販の蛍光X線元素分析装置(例えば、MESA−500W型、(株)堀場製作所社製)を用いて測定することができる。
【0038】
本発明の組成物をメタセシス反応の触媒として用いる場合、本発明の組成物と反応原料であるオレフィン化合物を、液相または気相または気液共存状態で接触させて反応させることができる。
【0039】
反応には流通式反応、バッチ式反応のいずれの形式も適用できる。バッチ反応器に原料を逐次追加あるいは生成物を逐次除去するセミバッチ式を適用することもできる。製造法の経済性は一般に流通式が良いが、生産量が少ない場合などは、バッチ式、セミバッチ式も適用できる。
【0040】
メタセシス反応において触媒として使用される本発明の組成物は、固定床に保持して使用することが出来る。また、流動床などその他の公知の触媒使用法を用いることもできる。
【0041】
メタセシス反応は通常、室温から150℃の範囲で行うことができる。室温以下では反応が遅く、150℃を超えると副反応が増加し選択率が悪化して不利となる。ただし、原料であるオレフィン化合物、生成物であるオレフィン化合物が反応環境下での安定な場合はこの温度範囲に制限されない。
反応に先立って、触媒である本発明の組成物は、吸湿している場合は活性が低下しているので、加熱処理して水分を除いておくことが望ましい。加熱温度は、300℃以上、好ましくは400℃以上で、脱着水を除去するため、窒素、その他不活性ガス、エア等の流通下に行うことが好ましい。温度やガス量にもよるが10分以上行うことが好ましい。
【0042】
生成物がエチレンなどガスである場合、原料オレフィン化合物が液相であるように加圧や反応温度の低温化を行ってトリクルベッド形式で反応してエチレンなどのガス生成物を固液相から逃がせば平衡が生成物側に傾き反応を促進させることもできる。
また、流通式反応、バッチ式反応、セミバッチ反応等の形式において、窒素、その他不活性ガスを流通させ、エチレンなどのガス生成物の追出しを促進しても良い。
【0043】
反応時間は、原料オレフィン化合物の反応性により選ばれるが、通常はLHSV(空間速度)で0.1〜3hr
-1で行うことができ、0.2〜2hr
-1が好適である。
【0044】
触媒である本発明の組成物は、打錠、押し出し、転動造粒等の方法で成型して使用することもできる。押し出し成型ではノズル形状によって公知の形状を適用できる。あるいは粉末状に調製して使用しても良い。
【0045】
メタセシス反応は溶媒存在下に行うことも出来る。溶媒としては反応不活性なトルエン、キシレン、1,2,4−トリメチルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、デカンなど炭化水素を用いることができる。また、ハロゲン、イオウ、水などの触媒毒や、アクリル酸類などコーク化する物質を含まない原料や溶媒を用いることが好ましい。
【0046】
メタセシス反応に使用した触媒にコーキングが生じた場合、触媒を350℃以上に加熱しながらエアと接触させることでコークを除去することができる。酸化による触媒再生は反応器内で行うことも、反応器から抜き取ってオフサイトで行うこともできる。
【0047】
前述のように、本発明の組成物は、メタセシス反応用触媒、特に、ジオレフィン化合物からトリオレフィン化合物を得るメタセシス反応用の触媒として好適に使用することができる。
【0048】
当該好適な態様に適用できるジオレフィン化合物につき、以下に説明する。
鎖状のジオレフィン化合物としては、2つの2重結合に反応性の差があると、生成物であるトリオレフィン化合物が複雑にならないので、好ましい。具体的には、鎖状のジオレフィン化合物において、オレフィンの1つが鎖状構造の末端にあり、他のオレフィンが、鎖状構造の内部にあるものが好ましい例として挙げられる。また、同一分子内の2種の2重結合がいずれも鎖状構造の末端にあるが、2重結合に置換する官能基が異なりメタセシス反応性に差があるジオレフィンも例として挙げられる。
そのような鎖状のジオレフィン化合物の具体例としては、ピペリレン、イソプレンなどが挙げられる。
【0049】
さらに、本発明を好ましく適用できるジオレフィン化合物の他の態様として、脂環構造を有するジオレフィン化合物が挙げられる。
ジオレフィン化合物が脂環構造を有する場合、得られるトリオレフィン化合物は、そのエポキシ誘導体を高分子化した場合に得られるエポキシ樹脂が熱変形温度などの耐熱性に優れる性能を有する樹脂材料として有用であり、本発明の利用価値が高い。
【0050】
そのうち、ジオレフィン化合物が、脂環構造と非脂環構造を有し、かつ、非脂環構造の末端及び脂環構造にそれぞれ炭素−炭素二重結合を有する化合物である場合、得られるトリオレフィン化合物を原料として用いたエポキシ樹脂が耐熱性などで特に良好な性能を持つことが知られており、本発明の利用価値が高い。
特に、ジオレフィン化合物としては、以下の式で表される化合物が好ましい。
【0052】
(式中、複数のRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。)
上記式で表されるジオレフィン化合物は分子内に炭素−炭素二重結合が炭素骨格の脂環構造と非脂環構造(鎖状構造)の末端に1つずつ有し、下記反応スキームに示されるように鎖状構造の二重結合が優先的にメタセシス反応を起せば、生成するトリオレフィン化合物は分子内の脂環構造に二重結合を2個含み、当該脂環構造に二重結合がエポキシ化された化合物が重合して得られるエポキシ樹脂は耐熱性等の性能が優れているため、特に本技術の利用価値が高い。
【0054】
(式中、複数のRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。)
また、脂環部の二重結合に隣接する2個の炭素間に架橋があっても良く、その場合のジオレフィン化合物は、例えば、下記に示される化合物である。
【0056】
(式中、複数のRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、複数のR’は、同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基又はイソプロピル基を示す。)
【0057】
好適に適用できるジオレフィン化合物の具体例として、4−ビニル−1−シクロヘキセン、リモネン、4−ビニルノルボルネンなどが挙げられる。
原料とするオレフィンは、水分、アルコール、カルボニル化合物、含窒素化合物、イオウ化合物、塩素化合物等の触媒活性を低下させ得る物質の濃度が低いものを使用することが好ましい。反応中に窒素、その他不活性ガスを流通させる場合も、やはりこれら触媒活性を低下させる物質の濃度が低いガスを使用することが望ましい。
【0058】
本発明により得られるトリオレフィン化合物は、濃縮、減圧留去、蒸留、再結晶、クロマトグラフィーなどの公知の方法で単離、精製されてもよい。
【0059】
本発明のメタセシス反応用触媒を使用することにより、ジオレフィン化合物よりトリオレフィン化合物への反応転化率及び反応選択率が共に向上し、トリオレフィン化合物を経済的に製造することができる。
また、空時収量(STY)が良くなり、必要な反応器のサイズが小さくなる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
日揮触媒化成社製のリン及びケイ素を含むCoMo触媒であるLX10に、硝酸カリウムをイオン交換水に溶解して吸収させ、続いて電気炉で大気雰囲気下に100℃で3hr保持して乾燥し、さらに大気雰囲気下に550℃で10時間焼成して、メタルとして1.0重量%のカリウムを追加担持した触媒を得た。この触媒を触媒−1(組成については表1を参照)とする。
窒素導入配管、原料液仕込み配管、加熱用電気炉を備えたSUS316製流通式反応器の反応管に触媒−1を12ml充填した。
なお、反応器は円筒型で垂直に設置され、以下に説明する反応中、反応原料、反応生成物はいずれも液体または気体として触媒の存在する領域を下降流として通過させた。
反応に先立ち、触媒を充填した反応器を常圧に維持し、窒素導入配管から窒素を導入しつつ加熱・昇温し、580℃に達したら1時間温度を保持して付着水分を除去した。続いて加熱を停止して触媒温度を85℃まで降下させた後、窒素仕込を停止し、温度は85℃、圧は常圧に保持して、4−ビニル−1−シクロヘキセン(以下、VCHと称す)を6ml/hrで仕込み、反応を開始した。留出する反応生成物をコンデンサーにて冷却して反応粗液を受器に導いた。凝縮されないエチレンを含むガスは、ベントラインへ導いた。
反応粗液の留出速度が安定した後、物質収支、および物質収支中の反応粗液およびベントラインガスのガスクロマトグラフィーによる組成分析より、VCHの転化率、生成物であるビスシクロヘキセニルエチレン(以下、BCEと称す)の選択率を計算した。その結果、VCHの転化率が63.1%、BCEの選択率が94.9%の反応成績を確認した。
なお、転化率、選択率は次の式で計算した。
【0062】
【数1】
【0063】
(実施例2)
触媒としてAlfa Aesar社製のリンを含むCoMo触媒を用い、触媒以外は実施例1と同様の操作を行い、メタルとして1.1重量%のカリウムを追加担持した触媒を得た。この触媒を触媒−2(組成については表1を参照)とする。触媒−2を用いて、反応温度を125℃とした以外は、実施例1と同様の操作で反応を行った。その結果、VCHの転化率が59.7%、BCEの選択率が85.5%の反応成績を確認した。
【0064】
(比較例1)
触媒に日揮触媒化成社製のリン及びケイ素のいずれも含まないCoMo触媒であるS−3を用い、触媒以外は実施例と同様の操作を行い、メタルとして0.9重量%のカリウムを追加担持した触媒を得た。この触媒を触媒−3(組成については表1を参照)とする。触媒−3を用いて、反応温度は実施例2と同じ125℃とし、その他は実施例1と同様の操作で反応を行った。その結果、VCHの転化率が46.0%、BCEの選択率が61.6%の反応成績を確認した。
【0065】
(比較例2)
触媒に日揮触媒化成社製のリン及びケイ素のいずれも含まないCoMo触媒であるS−3を、カリウムの追加担持は行わず、そのまま反応触媒として用いた。この触媒を触媒−4(組成については表1を参照)とする。触媒−4を用いて、反応温度は実施例2と同じ125℃とし、その他は実施例1と同様の操作で反応を行った。その結果、VCHの転化率が59.7%、BCEの選択率が55.5%の反応成績を確認した。
実施例1及び2、比較例1及び2の反応成績を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
リン及びケイ素が含有された触媒を用いた場合に、好ましい転化率、選択率が得られることが明らかとなった。
【0068】
(実施例3)
触媒として日揮触媒化成社製のリン及びケイ素を含むCoMo触媒であるLX10を用い、実施例1と同様の操作を行ない、メタルとして0.7重量%のカリウムを担持した触媒を得た。この触媒を触媒−5(組成については表2を参照)とする。触媒−5を用い、反応温度も実施例1と同じ85℃で、その他操作も実施例1と同様の操作で反応を行った。その結果、VCHの転化率が69.0%、BCEの選択率が94.0%の反応成績を確認した。さらに反応を24時間継続し、その後2回目の収支を取って初回同様に反応成績を求めた。その結果、初回の反応成績が転化率69.0%、選択率94.0%であるのに対し、24時間経過後は、転化率70.2%、選択率97.8%であり、触媒活性が維持されていることを確認した。
【0069】
(実施例4及び5)
触媒として日揮触媒化成社製のリン及びケイ素を含むCoMo触媒であるLX10を用い、実施例1と同様の操作を行ない、メタルとして0.4重量%のカリウムを担持した触媒を得た。この触媒を触媒−6(組成については表2を参照)とする。触媒−6を用いて、反応温度も実施例1と同じ85℃で、その他操作も実施例1と同様の操作で反応を行った。
さらに、反応温度を20℃低い65℃としてそれ以外は実施例1と同様の操作で、前述と同じ触媒−6で反応を行った。その結果、85℃では反応成績が、VCHの転化率79.0%、BCEの選択率93.2%、65℃では、VCHの転化率55.6%、BCEの選択率98.8%であった。65℃の低温でも転化率はなお実用性のある高さであること確認された。また選択率は低温化で改善される結果であった。
【0070】
(実施例6)
触媒として日揮触媒化成社製のリン及びケイ素を含むCoMo触媒であるLX10を用い、実施例1と同様の操作を行ない、メタルとして0.2重量%のカリウムを担持した触媒を得た。この触媒を触媒−7(組成については表2を参照)とする。触媒−7を用い、反応温度も実施例1と同じ85℃で、その他操作も実施例1と同様の操作で反応を行った。その結果、転化率82.1%、選択率93.0%の反応成績を確認した。カリウムの担持量を低くした場合でも優れた転化率、選択率が達成された。
【0071】
(比較例3)
触媒として日揮触媒化成社製のリン及びケイ素を含むCoMo触媒であるLX10を、カリウムの追加担持は行わず、そのまま反応触媒として用いた。この触媒を触媒−8(組成については表2を参照)とする。触媒−8を用いて、実施例1と同様に反応操作を行った。その結果、VCHの転化率が82.9%、BCEへの選択率が73.7%の反応成績を確認した。アルカリ金属を担持しないと選択率が低下し、高選択率を得るにはアルカリ金属の担持が好ましいことが明らかとなった。
【0072】
(実施例7及び8)
触媒として日揮触媒化成社製リン及びケイ素を含むCoMo触媒であるLX10を用い、実施例1の操作中、硝酸カリウムに代えて硝酸ナトリウム又は硝酸カルシウムを使用する以外は同様の操作を行ない、それぞれメタルとしてナトリウムを0.4重量%、およびメタルとしてカルシウムを0.4重量%、担持した触媒を得た。これらの触媒を触媒−9及び10(組成については表2を参照)とする。触媒−9又は10を用い、実施例1と同様の操作で反応を行った。その結果、ナトリウム担持では、VCHの転化率が74.0%、BCEの選択率が91.8%の反応成績が得られ、カルシウム担持では、VCHの転化率が80.1%、BCEの選択率が88.0%の反応成績が得られた。カリウムに代えて、ナトリウム又はカルシウムを担持させた場合にも高い転化率と選択率が達成された。
実施例3〜8、比較例3の反応成績を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
なお、表1、2に示される「触媒組成」は、市販触媒については蛍光X線分析より、またK、Na、Caを追加担持した触媒については担持時の物質収支より求めた。
また、表1、2中、「(%)」は重量%、「tr」は小数点第3位を四捨五入して0.00であったもの、「n.d.」は未検出であったことを示す。
Rb、Cs、Baについては、全ての分析でn.d.であった。さらに、Li、BeについてはICP分析で、n.d.であった。
【0075】
(実施例9)
触媒として実施例4及び5の触媒−6(メタルとして0.4重量%のカリウムを担持)を12ml使用し、反応温度は65℃、反応原料としては5−ビニル−2−ノルボルネンを等重量のトルエン溶媒で希釈調合した液、その調合液の仕込速度は6ml/hr、その他操作は実施例1と同じ手順、条件で反応を行った。
その結果、5−ビニル−2−ノルボルネンの環外のビニル基のクロスメタセシス反応生成物であるビス(ノルボルナ−5−エン−2−イル)エチレン(以下、BNEと称す)が収率10%で粗液中に生成していることを確認した。
脂環構造としてノルボルネン構造を持つ場合にも本発明のトリオレフィン製造方法が適用することができることを確認した。