特許第6656931号(P6656931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6656931プラズマ分光分析方法およびプラズマ分光分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656931
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】プラズマ分光分析方法およびプラズマ分光分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/67 20060101AFI20200220BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20200220BHJP
   G01N 21/66 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
   G01N21/67 Z
   H05H1/24
   G01N21/66
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-3555(P2016-3555)
(22)【出願日】2016年1月12日
(65)【公開番号】特開2016-130734(P2016-130734A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2018年12月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-3795(P2015-3795)
(32)【優先日】2015年1月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】白木 裕章
(72)【発明者】
【氏名】岡井 均
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0148117(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/048308(WO,A2)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0321804(US,A1)
【文献】 特開2013−205389(JP,A)
【文献】 特表2015−506484(JP,A)
【文献】 米国特許第08559004(US,B1)
【文献】 特表2010−537211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−21/74
H05H 1/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中に浸漬した一対の電極への電圧印加により、前記一対の電極のうち前記液体試料との接触面積が小さい電極の近傍に前記液体試料中の分析対象物を濃縮する濃縮工程、および
前記一対の電極への電圧印加により、前記液体試料との接触面積が小さい電極にプラズマを発生させ、前記プラズマにより生じた前記分析対象物の発光を検出する検出工程を含むことを特徴とする、プラズマ分光分析方法。
【請求項2】
前記検出工程における前記電圧は、前記濃縮工程における前記電圧より高い電圧である、請求項1記載のプラズマ分光分析方法。
【請求項3】
前記濃縮工程における前記電圧は、1mV以上である、請求項1または請求項2に記載のプラズマ分光分析方法。
【請求項4】
前記検出工程における前記電圧は、10V以上である、請求項1から請求項3のいずれ一項に記載のプラズマ分光分析方法。
【請求項5】
前記一対の電極は、容器内に配置され、
前記容器は、透光部を含み、
前記容器の外部には、前記透光部を通して前記分析対象物の発光を受光可能な受光部が配置されている、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のプラズマ分光分析方法。
【請求項6】
前記分析対象物は、金属である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のプラズマ分光分析方法。
【請求項7】
前記金属は、アルミニウム、アンチモン、ヒ素、バリウム、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、セシウム、ガドリニウム、鉛、水銀、ニッケル、パラジウム、白金、テルル、タリウム、トリウム、スズ、タングステン、およびウランからなる群から選択された少なくとも一つの金属である、請求項6に記載のプラズマ分光分析方法。
【請求項8】
前記液体試料は、生体由来試料および環境由来試料の少なくとも一方である、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のプラズマ分光分析方法。
【請求項9】
前記生体由来試料は、尿血液毛髪を媒体に懸濁、分散、又は溶解した液体試料;唾液および爪を媒体に懸濁、分散、又は溶解した液体試料からなる群から選択された少なくとも1つである、請求項8に記載のプラズマ分光分析方法。
【請求項10】
前記環境由来試料は、食品を媒体に懸濁、分散、又は溶解した液体試料;土壌を媒体に懸濁、分散、又は溶解した液体試料;大気を媒体に分散又は溶解した液体試料;および空気を媒体に分散又は溶解した液体試料からなる群から選択された少なくとも1つである、請求項8に記載のプラズマ分光分析方法。
【請求項11】
一対の電極、容器および受光部を含み、
前記容器は、透光部を含み、
前記一対の電極は、前記容器内に配置され、
前記容器の外部には、前記一対の電極への電圧印加により発生した発光を、前記透光部を通して前記分析対象物の発光を受光可能な受光部が配置され、
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のプラズマ分光分析方法に使用することを特徴とする、プラズマ分光分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ分光分析方法およびプラズマ分光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中の分析対象物を分析する方法として、プラズマ発光を利用した分析方法が知られている。前記分析方法に関し、特許文献1には、高周波プラズマ質量分析装置を用い、試料を分析する方法が開示されている。また、特許文献2および3には、狭小部を有するプラズマ発生装置を用い、試料中でプラズマを発生させ、プラズマ発光を分析することで試料を分析する方法が開示されている。さらに、特許文献4および5には、液体の試料中でプラズマを発生させ、プラズマ発光を分析することで試料を分析する方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1の方法では、適切な前処理を行わないと、他の物質の混入により分析結果が変わるという問題があった。また、特許文献2および3の方法では、夾雑物がある試料を使用した場合、および試料の液量を減らす前処理をする際に異物等が混入した場合、前記夾雑物および前記異物が前記狭小部に詰まり測定できなくなるという問題があった。さらに、特許文献4および5の方法では、分析感度が低いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−128315号公報
【特許文献2】特開2011−180045号公報
【特許文献3】特開2012−185064号公報
【特許文献4】国際公開第2006/059808号
【特許文献5】国際公開第2011/099247号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、簡便、且つ分析感度の高いプラズマ分光分析方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記本発明の課題を解決するために、本発明のプラズマ分光分析方法(以下、「分析方法」ともいう。)は、
試料の存在下、一対の電極への電圧印加により、少なくとも一方の電極の近傍に前記試料中の分析対象物を濃縮する濃縮工程、および
前記一対の電極への電圧印加によりプラズマを発生させ、前記プラズマにより生じた前記分析対象物の発光を検出する検出工程を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明のプラズマ分光分析装置(以下、「分析装置」ともいう。)は、一対の電極、容器および受光部を含み、
前記容器は、透光部を含み、
前記一対の電極は、前記容器内に配置され、
前記容器の外部には、前記一対の電極への電圧印加により発生した発光を、前記透光部を通して前記分析対象物の発光を受光可能な受光部が配置され、
前記本発明のプラズマ分光分析方法に使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプラズマ分光分析方法は、簡便、且つ分析感度が高い。このため、本発明のプラズマ分光分析方法によれば、例えば、試料に前処理を行わず、簡便、且つ高い感度で試料を分析できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(A)は、本発明の分析装置の実施形態における分析装置の模式透視斜視図を示し、(B)は、図1(A)のI−I方向から見た模式断面図である。
図2図2は、本発明の実施例1における水銀ピーク付近のスペクトルを示すグラフである。
図3図3は、本発明の実施例1における水銀濃度と水銀ピークにおけるカウント値との相関を示すグラフである。
図4図4は、本発明の実施例2における鉛ピーク付近のスペクトルを示すグラフである。
図5図5は、本発明の実施例2における鉛濃度と鉛ピークにおけるカウント値との相関を示すグラフである。
図6図6は、本発明の実施例3におけるカドミウムピーク付近のスペクトルを示すグラフである。
図7図7(A)は、本発明の実施例4における10ppbの水銀溶液を分析した際のスペクトルを示すグラフであり、(B)は、狭小部を有した分析装置において、5ppmの水銀溶液を分析した際のスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<プラズマ分光分析方法>
本発明のプラズマ分光分析方法は、前述のように、試料の存在下、一対の電極への電圧印加により、少なくとも一方の電極の近傍に前記試料中の分析対象物を濃縮する濃縮工程、および前記一対の電極への電圧印加によりプラズマを発生させ、前記プラズマにより生じた前記分析対象物の発光を検出する検出工程を含むことを特徴とする。本発明の分析方法は、前記濃縮工程および前記検出工程を含むことが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。
【0011】
一般的に、試料中の分析対象物を効率よく分析するためには、例えば、前記試料に対して、前記試料の全体積(全液量)を濃縮によって低減する前処理を施すことで、前記試料の全体積において単位体積あたりの分析対象物量を増加させていた。しかしながら、本発明によれば、以下の理由から、前記試料の全体積を低減する前処理は不要である。すなわち、本発明の分析方法によれば、前記試料の全体積を低減させなくても、前記濃縮工程において、前記一対の電極への電圧印加により、少なくとも一方の電極の近傍に前記試料中の分析対象物を濃縮、すなわち前記電極の近傍において局所的に前記分析対象物を集積することができる。このため、続く前記検出工程において、前記分析対象物が集積した電極側にプラズマを発生させることで、局所的に高濃度となった分析対象物を効率よく分析できる。しがたって、本発明の分析方法によれば、例えば、使用する試料において前記分析対象物が低濃度の場合であっても、例えば、分析に先立ち、前記試料に対する前記前処理を行うことなく、簡便に、高い感度で前記試料を分析できる。さらに、本発明の分析方法は、少なくとも一方の電極の近傍に分析対象物を集積し、前記電極側にプラズマを発生することで、効率よい分析を可能にできるため、例えば、前記先行技術文献に記載されているように、狭小部をそなえる分析装置を必須とはしない。このため、例えば、前述のような、前記試料中の夾雑物による分析装置の詰まり等を回避でき、夾雑物による分析の影響を受け難いことから、例えば、前記夾雑物を含む試料であっても、前記夾雑物を除去する前処理等も不要である。
【0012】
本発明の分析方法において、前記試料は、例えば、検体である。前記検体は、液体の検体でもよいし、固体の検体でもよい。前記検体は、例えば、前記検体の未希釈液をそのまま液体検体として使用してもよいし、前記検体を媒体に、懸濁、分散または溶解した希釈液を液体検体として使用してもよい。前記検体が固体の場合、例えば、前記検体を前記媒体に懸濁、分散または溶解した希釈液を液体検体として使用することが好ましい。前記媒体は、特に制限されず、例えば、水、緩衝液等があげられる。前記検体は、例えば、生体由来の検体(試料)、環境由来の検体(試料)、金属、化学物質、医薬品等があげられる。前記生体由来の検体は、特に制限されず、尿、血液、毛髪、唾液、汗、爪等があげられる。前記血液検体は、例えば、赤血球、全血、血清、血漿等があげられる。前記生体は、例えば、ヒト、非ヒト動物、植物等があげられ、前記非ヒト動物は、例えば、ヒトを除く哺乳類、魚介類等があげられる。前記環境由来の検体は、特に制限されず、例えば、食品、水、土壌、大気、空気等があげられる。前記食品は、例えば、生鮮食品または加工食品等があげられる。前記水は、例えば、飲料水、地下水、河川水、海水、生活排水等があげられる。
【0013】
前記分析対象物は、特に制限されず、例えば、金属、化学物質等があげられる。前記金属は、特に制限されず、例えば、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ヒ素(As)、バリウム(Ba)、ベリリウム(Be)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、セシウム(Cs)、ガドリニウム(Gd)、鉛(Pb)、水銀(Hg)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、テルル(Te)、タリウム(Tl)、トリウム(Th)、スズ(Sn)、タングステン(W)、ウラン(U)等の金属があげられる。前記化学物質は、例えば、試薬、農薬、化粧品等があげられる。前記分析対象物は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0014】
前記分析対象物が金属の場合、前記試料は、例えば、前記検体中の金属を分離するための試薬を含んでもよい。前記試薬は、例えば、キレート剤、マスキング剤等があげられる。前記キレート剤は、例えば、ジチゾン、チオプロニン、メソ−2,3−ジメルカプトコハク酸(DMSA)、2,3−ジメルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(DMPS)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン-N,N'-ジコハク酸(EDDS)、αリポ酸等があげられる。本発明において、「マスキング」は、SH基の反応性を不活性にすることを意味し、例えば、SH基の化学修飾により行うことができる。前記マスキング剤は、例えば、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、マレイミドプロピオン酸、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸等があげられる。
【0015】
前記試料は、例えば、pHを調整した試料(以下、「pH調整試料」ともいう。)でもよい。前記pH調整試料のpHは、特に制限されない。前記試料のpHの調整方法は、特に制限されず、例えば、アルカリ性試薬、酸性試薬等のpH調整試薬が使用できる。
【0016】
前記アルカリ性試薬は、例えば、アルカリおよびその水溶液等があげられる。前記アルカリは、特に制限されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア等があげられる。前記アルカリの水溶液は、例えば、アルカリを水または緩衝液で希釈したものがあげられる。前記アルカリの水溶液において、前記アルカリの濃度は、特に制限されず、例えば、0.01〜5mol/Lである。
【0017】
前記酸性試薬は、例えば、酸およびその水溶液等があげられる。前記酸は、特に制限されず、例えば、塩酸、硫酸、酢酸、ホウ酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、硝酸等があげられる。前記酸の水溶液は、例えば、酸を水または緩衝液で希釈したものがあげられる。前記酸の水溶液において、前記酸の濃度は、特に制限されず、例えば、0.01〜5mol/Lである。
【0018】
前記電極は、特に制限されず、例えば、固体電極があげられ、具体例として、棒電極等があげられる。前記電極の材料は、特に制限されず、固形導電材料であればよく、例えば、前記分析対象物の種類に応じて、適宜決定できる。前記電極の材料は、例えば、非金属でもよいし、金属でもよいし、これらの混合物でもよい。前記電極の材料が非金属を含む場合、前記電極の材料は、例えば、1種類の非金属を含んでもよいし、2種類以上の非金属を含んでもよい。前記非金属は、例えば、炭素等があげられる。前記電極の材料が金属を含む場合、前記電極の材料は、例えば、1種類の金属を含んでもよいし、2種類以上の金属を含んでもよい。前記金属は、例えば、金、白金、銅、亜鉛、スズ、ニッケル、パラジウム、チタン、モリブデン、クロム、鉄等があげられる。前記電極の材料が2種類以上の金属を含む場合、前記電極の材料は、合金でもよい。前記合金は、例えば、真鍮、鋼、インコネル(登録商標)、ニクロム、ステンレス等があげられる。前記一対の電極は、例えば、同じ材料でもよいし、異なる材料でもよい。
【0019】
前記電極の大きさは、特に制限されず、例えば、前記試料と接液可能な大きさであればよい。前記電極が棒電極である場合、前記電極の直径は、例えば、0.02〜50mm、0.05〜5mmであり、前記電極の長さは、例えば、0.1〜200mm、0.3〜50mmである。前記一対の電極の大きさは、同じでもよいし、異なってもよい。
【0020】
前記濃縮工程は、前述のように、試料の存在下、一対の電極への電圧印加により、少なくとも一方の電極の近傍に前記試料中の分析対象物を濃縮する工程である。前記一対の電極は、例えば、前記試料に接触(接液)している。前記濃縮工程において、前記電極の近傍は、特に制限されず、例えば、後述する検出工程において、プラズマが発生する範囲があげられる。本発明において、前記電極の近傍は、例えば、電極上も含む。
【0021】
前記濃縮工程において、例えば、前記分析対象物の一部を前記電極の近傍に濃縮してもよいし、前記分析対象物の全部を前記電極の近傍に濃縮してもよい。
【0022】
前記濃縮工程では、後述する検出工程において、前記分析対象物の検出に使用する電極、すなわちプラズマが発生する電極に前記分析対象物を濃縮するように、前記電極の電荷条件を設定することが好ましい。前記電荷条件は、特に制限されず、例えば、前記分析対象物が正の電荷を有する場合、前記プラズマが発生する電極が負の電荷を有するように電荷条件を設定すればよい。また、例えば、前記分析対象物が負の電荷を有する場合、前記プラズマが発生する電極が正の電荷を有するように電荷条件を設定すればよい。
【0023】
前記分析対象物の濃縮は、例えば、電圧によって調節できる。このため、当業者であれば、前記濃縮がおきる電圧(以下、「濃縮電圧」ともいう。)を適宜設定できる。前記濃縮電圧は、例えば、1mV以上、400mV以上であり、その上限は、特に制限されない。前記濃縮電圧は、例えば、一定でもよいし、変動してもよい。また、前記濃縮電圧は、例えば、プラズマが発生しない電圧でもよい。
【0024】
前記濃縮電圧を印加する時間は、特に制限されず、前記濃縮電圧に応じて、適宜設定できる。前記濃縮電圧を印加する時間は、例えば、0.2〜40分、1〜5分である。前記一対の電極への電圧印加は、例えば、連続的に印加してもよいし、非連続的に印加してもよい。前記非連続的な印加は、例えば、パルス印加があげられる。前記電圧印加が非連続的な場合、前記濃縮電圧を印加する時間は、例えば、前記濃縮電圧を印加している時間の合計の時間でもよいし、前記濃縮電圧を印加している時間と前記濃縮電圧を印加していない時間との合計の時間でもよい。
【0025】
前記電極への電圧の印加は、電圧印加手段により行うことができる。電圧印加手段は、特に制限されず、例えば、前記電極間に電圧を印加できればよく、公知の手段として電圧器等が使用できる。前記濃縮工程において、前記電極間の電流は、例えば、0.01〜200mA、10〜60mA、10〜40mAに設定できる。
【0026】
前記検出工程は、前述のように、前記一対の電極への電圧印加によりプラズマを発生させ、前記プラズマにより生じた前記分析対象物の発光を検出する。
【0027】
前記検出工程は、前記濃縮工程と連続的に行ってもよいし、非連続的に行ってもよい。前者の場合、前記検出工程は、前記濃縮工程の終了と同時に前記検出工程を行う。後者の場合、前記検出工程は、前記濃縮工程の終了後から所定時間内に検出工程を行う。前記所定時間は、例えば、前記濃縮工程後、0.001〜1000秒、1〜10秒である。
【0028】
前記検出工程において、「プラズマを発生させる」とは、プラズマを実質的に発生させることであり、具体的には、プラズマ発光の検出において、実質的に検出可能な発光を示すプラズマの発生を意味する。具体例として、プラズマ発光の検出器により、プラズマ発光が検出可能であるといえる。
【0029】
実質的なプラズマの発生は、例えば、電圧によって調節できる。このため、当業者であれば、実質的に検出可能な発光を示すプラズマを発生させるための電圧(以下、「プラズマ電圧」ともいう。)は、適宜設定できる。前記プラズマ電圧は、例えば、10V以上、100V以上であり、その上限は、特に制限されない。前記プラズマが発生する電圧は、例えば、前記濃縮が起こる電圧に対して、相対的に高い電圧である。このため、前記プラズマ電圧は、前記濃縮電圧に対して、高い電圧であることが好ましい。前記プラズマ電圧は、例えば、一定でもよいし、変動してもよい。
【0030】
前記プラズマ電圧を印加する時間は、特に制限されず、前記プラズマ電圧に応じて、適宜設定できる。前記プラズマ電圧を印加する時間は、例えば、0.001〜0.02秒、0.001〜0.01秒である。前記一対の電極への電圧印加は、例えば、連続的に印加してもよいし、非連続的に印加してもよい。前記非連続的な印加は、例えば、パルス印加があげられる。前記電圧印加が非連続的な場合、前記プラズマ電圧を印加する時間は、例えば、1回の前記プラズマ電圧を印加している時間でもよいし、前記プラズマ電圧を印加している時間の合計の時間でもよいし、前記プラズマ電圧を印加している時間と前記プラズマ電圧を印加していない時間との合計の時間でもよい。
【0031】
前記検出工程において、前記プラズマが発生する電極は、例えば、前記一対の電極の接液面積を異なる接液面積とすることで調節できる。具体的には、一方の電極の接液面積を他方の電極に対して接液面積を小さくすることで、前者に、プラズマを発生させることができる。このため、本発明において、前記一対の電極は、前記試料との接液面積が異なる一対の電極であり、前記一対の電極のうち、前記試料との接液面積が小さい電極が、プラズマ発生により前記分析対象物を分析する電極であることが好ましい。前記一対の電極の接液面積が異なる場合、前記一対の電極の接液面積の差は、例えば、0.001〜300cm、1〜10cmである。本発明において、「接液面積」は、前記試料と接する面積を意味する。前記接液面積の調節方法は、特に制限されず、例えば、前記試料に浸漬する前記電極の長さを異なる長さにする方法、前記試料と接する電極の一部を絶縁性材料により被覆する方法等があげられる。前記絶縁性材料は、特に制限されず、例えば、樹脂、シリコーン、ガラス、紙、セラミックス、ゴム等があげられる。前記樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリレート、ポリアミド、飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリメチルペンテン(例えば、登録商標TPX)等の熱可塑性樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂ガラスエポキシ等のエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂等があげられる。前記シリコーンは、例えば、ポリジメチルシロキサン等があげられる。
【0032】
前記検出工程において、前記発生したプラズマの発光は、例えば、連続的に検出してもよいし、非連続的に検出してもよい。前記発光の検出は、例えば、発光の有無の検出、発光の強度の検出、特定の波長の検出、スペクトルの検出等があげられる。前記特定の波長の検出は、例えば、前記分析対象物が、プラズマ発光時に発する特有の波長の検出があげられる。前記発光の検出方法は、特に制限されず、例えば、CCD(Charge Coupled Device)、分光器等の公知の光学測定機器が利用できる。
【0033】
前記電極への電圧の印加は、電圧印加手段により行うことができる。電圧印加手段は、例えば、前述の説明が援用できる。前記検出工程において、前記電極間の電流は、例えば、0.01〜100000mA、50〜2000mAに設定できる。
【0034】
本発明の分析方法は、さらに、検出工程における検出結果から、前記試料中の前記分析対象物の濃度を算出する算出工程を含んでもよい。前記検出結果は、例えば、前述の発光の強度等があげられる。前記算出工程において、前記分析対象物の濃度は、例えば、検出結果、および検出結果と試料中の前記分析対象物の濃度との相関関係に基づき、算出できる。前記相関関係は、例えば、前記分析対象物の濃度が既知である標準試料について、前記本発明の分析方法により得られた検出結果と、前記標準試料の前記分析対象物の濃度とをプロットすることにより求めることができる。前記標準試料は、前記分析対象物の希釈系列が好ましい。このように算出を行うことによって、信頼性の高い定量が可能となる。
【0035】
本発明の分析方法において、前記一対の電極は、透光部を含む容器内に配置されていてもよい。この場合、前記検出工程において、前記透光部を通して前記分析対象物の発光を受光可能に配置された受光部により前記発光を検出する。前記容器、前記透光部、前記受光部等の説明は、例えば、後述する本発明の分析装置の説明を援用できる。
【0036】
<プラズマ分光分析装置>
本発明のプラズマ分光分析装置は、前述のように、一対の電極、容器および受光部を含み、前記容器は、透光部を含み、前記一対の電極は、前記容器内に配置され、前記容器の外部には、前記一対の電極への電圧印加により発生した発光を、前記透光部を通して前記分析対象物の発光を受光可能な受光部が配置され、前記本発明のプラズマ分光分析方法に使用することを特徴とする。本発明の分析装置は、前記本発明の分析方法に使用することが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の分析装置によれば、前記本発明の分析方法を簡便に実施できる。本発明の分析装置は、例えば、前記本発明の分析方法と互いの説明を援用できる。
【0037】
本発明の分析装置の一例について、図面を参照し説明する。また、図面においては、説明の便宜上、各部の構造は適宜簡略化して示す場合があり、各部の寸法比等は、実際とは異なり、模式的に示す場合がある。
【0038】
図1において、(A)は、本実施形態の分析装置の模式透視斜視図であり、(B)は、(A)において、I−I方向からみた模式断面図である。図1(A)および(B)に示すように、本実施形態の分析装置10は、一対の電極1、2、容器4、および受光部5を含み、容器4は、透光部3を含み、容器4の外部には、一対の電極1、2への電圧印加により発生した発光を、透光部3を通して前記分析対象物の発光を受光可能に配置された受光部5が配置されている。また、電極1は、容器4の底面に対して垂直方向に配置され、その先端は、透光部3と当接するように配置されている。電極2は、容器4の側面から内部に向かって配置されている。電極1は、絶縁性材料6により被覆されている。本実施形態の分析装置10において、前記分析対象物を含む試料は、例えば、容器4の筒内に、電極1、2と接するように導入される。本実施形態において、分析装置10は、縦置き型の分析装置としているが、分析装置10は、この実施形態に限定されず、例えば、横置き型の分析装置としてもよい。
【0039】
本実施形態において、電極1は、その表面の一部を絶縁性材料6により被覆されているが、絶縁性材料6は、任意の構成であり、あってもよいし、なくてもよい。また、本実施形態において、電極1、2は、容器4の異なる面に配置されているが、電極1、2の配置位置は、特に制限されず、例えば、任意の位置に配置できる。
【0040】
本実施形態において、電極1と透光部3とは接しているが、本発明はこれに限定されず、例えば、電極1が透光部3から離れて配置されてもよい。電極1と容器4の底面との距離は、特に制限されず、例えば、0〜2cm、0〜0.5cmである。
【0041】
透光部3の材料は、特に制限されず、例えば、一対の電極1、2への電圧印加により発生した発光を透光する材料であればよく、前記発光の波長に応じて、適宜設定できる。透光部3の材料は、例えば、石英ガラス、アクリル樹脂(PMMA)、ホウケイ酸ガラス、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、メチルペンテンポリマー(TPX(登録商標))等があげられる。透光部3の大きさは、特に制限されず、例えば、一対の電極1、2への電圧印加により発生した発光を透光可能な大きさであればよい。
【0042】
本実施形態において、容器4は、有底筒状であるが、容器4の形状はこれに限定されず、任意の形状としてよい。容器4の材料は、特に制限されず、例えば、アクリル樹脂(PMMA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)等があげられる。容器4の容積は、例えば、0.3〜0.5cmである。容器4が有底筒状である場合、容器4の直径は、例えば、0.4〜50cm、1〜5cmであり、その高さは、例えば、0.3〜50cm、0.7〜2cmである。
【0043】
受光部5は、特に制限されず、例えば、CCD、分光器等の公知の光学測定機器があげられる。受光部5は、例えば、分析装置10の外部に配置された前記光学測定機器に前記発光を伝送する伝送手段でもよい。前記伝送手段は、例えば、光ファイバー等の伝送路があげられる。
【0044】
容器4の製造方法は、特に制限されず、例えば、射出成型等により、成型体を製造してもよいし、プレート等の基材に凹部を形成することで製造してもよい。その他、容器4等の製造方法は、特に制限されず、例えば、リソグラフィ、切削加工等があげられる。
【実施例】
【0045】
つぎに、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例により制限されない。
【0046】
(実施例1)
本発明の分析方法により、水銀を感度よく分析できることを確認した。
【0047】
(1)プラズマ分光分析装置
前記実施形態の分析装置を準備した。具体的には、有底筒状の透明PMMA製容器(高さ15mm×直径φ10mm)を準備した。前記容器の底部の中央には、石英ガラスを配置した。前記容器内に、電極1と電極2とを配置した。前記電極1は、前記容器底面に対して垂直方向に配置した。そして、電極1の先端が、前記容器の底部の石英ガラスに当接するように配置した。電極1は、直径0.12mmの真鍮棒を使用した。電極1は、先端から0.3mmまでを露出し、その他の領域を絶縁したものを使用した。電極2は、電極1に対して垂直方向であって、前記容器の側面から内部に向かって配置した。電極2は、直径2.5mmの炭素電極棒を使用した。また、前記石英ガラスを介して、電極1の先端と対面するように光ファイバーを配置した。前記光ファイバーは、直径400μm 単芯の光ファイバーを使用した。また、前記光ファイバーは、凹面グレーティング方式の分光器(自家調製)に接続した。
【0048】
(2)プラズマ分光分析
0.3mLの0.1mol/L 硝酸水溶液に、100ppbとなるように塩化水銀を溶解し、これを水銀試料とした。つぎに、前記分析装置の前記容器の内部に、前記水銀試料を導入した。そして、電極1と電極2との間に、電極1が陰極(カソード)となり、電極2が陽極(アノード)となるよう、下記の濃縮条件で電圧を印加し、電極1の近傍に前記水銀を濃縮した。
【0049】
(濃縮条件)
印加電圧:30Vと0Vとの繰り返し
パルス幅:50μs
Duty:99%
印加時間:500ms
印加回数:1s間隔で250回
【0050】
前記濃縮直後に、さらに、電極1と電極2との間に、電極1が陽極となり、電極2が陰極となるよう、下記のプラズマ発生条件で電圧および電流を印加し、発生したプラズマ発光の各波長における発光強度(カウント値)を測定した。また、コントロール(比較例)は、前記濃縮を行わなかった以外は同様にして、発生したプラズマ発光のスペクトルを測定した。
【0051】
(プラズマ発生条件)
印加電圧:150Vと0Vとの繰り返し
パルス幅:50μs
Duty:80%
印加時間:100ms
【0052】
この結果を図2に示す。図2は、水銀ピーク付近のスペクトルを示すグラフである。図2において、横軸は、波長を示し、縦軸は、発光強度(カウント値)を示す。また、図2において、実線は、実施例の結果を示し、破線は、比較例の結果を示す。図2に示すように、実施例は、比較例に対して、水銀特有のプラズマ発光の波長である253.65nm付近において、カウント値が増加した。なお、図2においては、253.88nmにピーク(水銀ピーク)が観察されるが、これは、前記分光器の測定誤差を含むためである。これらの結果から、本発明の分析方法は、前記濃縮を行わない前記特許文献4および5の分析方法に対して、分析感度が高いことがわかった。
【0053】
(3)異なる分析対象物の濃度におけるプラズマ分光分析
0.3mLの0.1mol/L 硝酸水溶液に、所定濃度(10ppb、50ppb、100ppb)となるように塩化水銀を溶解した以外は、前記実施例1(2)と同様にして、水銀ピークのカウント値を測定した。
【0054】
この結果を図3に示す。図3は、水銀濃度と水銀ピークにおけるカウント値との相関を示すグラフである。図3において、横軸は、水銀の濃度を示し、縦軸は、発光強度(カウント値)を示す。図3に示すように、水銀の濃度依存的にカウント値が増加した。これらの結果から、本発明の分析方法によれば、幅広い濃度で分析対象物を分析可能なことがわかった。
【0055】
(実施例2)
本発明の分析方法により、尿検体中の鉛を感度よく分析できることを確認した。
【0056】
(1)プラズマ分光分析
尿検体に、100ppbとなるように鉛を溶解した。つぎに、0.2mol/L 水酸化リチウムとなるように、水酸化リチウムの粉末を添加した。そして、前記水銀試料に代えて、前記鉛試料を用いた以外は、前記実施例1(2)と同様にして、発生したプラズマ発光のスペクトルを測定した。また、コントロール(比較例)は、前記濃縮を行わなかった以外は同様にして、発生したプラズマ発光のスペクトルを測定した。
【0057】
この結果を図4に示す。図4は、鉛ピーク付近のスペクトルを示すグラフである。図4において、横軸は、波長を示し、縦軸は、発光強度(カウント値)を示す。また、図4において、実線は、実施例の結果を示し、破線は、比較例の結果を示す。図4に示すように、実施例は、比較例に対して、鉛特有のプラズマ発光の波長である368.34nm付近において、カウント値が増加した。なお、図4においては、368.52nmにピーク(鉛ピーク)が観察されるが、これは、前記分光器の測定誤差を含むためである。これらの結果から、本発明の分析方法は、前記濃縮を行わない前記特許文献4および5の分析方法に対して、分析感度が高いことがわかった。
【0058】
(2)異なる分析対象物の濃度におけるプラズマ分光分析
尿検体に、所定濃度(10ppb、50ppb、100ppb)となるように 硝酸鉛を溶解した。つぎに、0.2mol/L 水酸化リチウムとなるように、水酸化リチウムの粉末を添加した鉛試料を、前記水銀試料に代えて用いた以外は、前記実施例1(2)と同様にして、鉛ピークのカウント値を測定した。
【0059】
この結果を図5に示す。図5は、鉛濃度と鉛ピークにおけるカウント値との相関を示すグラフである。図5において、横軸は、鉛の濃度を示し、縦軸は、発光強度(カウント値)を示す。図5に示すように、鉛の濃度依存的にカウント値が増加した。これらの結果から、本発明の分析方法によれば、幅広い濃度で分析対象物を分析可能なことがわかった。また、本発明の分析方法は、夾雑物を含む試料である尿検体においても、前記分析対象物を分析可能であることがわかった。
【0060】
(実施例3)
本発明の分析方法により、カドミウムを感度よく分析できることを確認した。
【0061】
前記鉛試料に代えて、0.2mol/L 水酸化リチウム溶液に1ppmとなるようにカドミウムを溶解したカドミウム試料を用いた以外は、前記実施例2(1)と同様にして、発生したプラズマ発光のスペクトルを測定した。また、コントロール(比較例)は、前記濃縮を行わなかった以外は同様にして、発生したプラズマ発光のスペクトルを測定した。
【0062】
この結果を図6に示す。図6は、カドミウムピーク付近のスペクトルを示すグラフである。図6において、横軸は、波長を示し、縦軸は、発光強度(カウント値)を示す。また、図6において、実線は、実施例の結果を示し、破線は、比較例の結果を示す。図6に示すように、実施例は、比較例に対して、カドミウムのプラズマ発光の波長である228.80nm付近において、カウント値が増加した。なお、図6においては、228.9nmにピークが観察されるが、これは、前記分光器測定誤差を含むためである。これらの結果から、本発明の分析方法は、前記濃縮を行わない前記特許文献4および5の分析方法に対して、分析感度が高いことがわかった。
【0063】
(実施例4)
本発明の分析方法により、水銀を感度よく分析できることを確認した。
【0064】
0.3mLの0.1mol/L 硝酸水溶液に、10ppbとなるように塩化水銀を溶解し、水銀試料とした以外は、前記実施例1(2)と同様にして、発生したプラズマ発光のスペクトルを測定した。また、コントロール1(比較例1)は、前記濃縮を行わなかった以外は同様にして、発生したプラズマ発光のスペクトルを測定した。
【0065】
コントロール2(比較例2)は、0.3mLの0.1mol/L 硝酸水溶液に、5ppmとなるように水銀を溶解したものを前記水銀試料とした。また、コントロール2は、前記プラズマ分光分析装置に代えて、狭小部を有する樹脂製セル(LepiCuve、株式会社マイクロエミッション社製)および前記樹脂製セル測定用のプラズマ分光分析装置(ハンディ元素分析MH−500、株式会社マイクロエミッション社製)を用い、添付のプロトコルにしたがって、前記水銀試料において発生したプラズマ発光のスペクトルを測定した。コントロール3(比較例3)は、前記水銀試料に代えて、0.1mol/L 硝酸水溶液を用い、前記樹脂製セルおよび対応するプラズマ分光分析装置を用いた以外は、コントロール2と同様にして発生したプラズマ発光のスペクトルを測定した。
【0066】
この結果を図7に示す。図7(A)は、10ppbの水銀溶液を分析した際のスペクトルを示すグラフであり、(B)は、狭小部を有した分析装置において、5ppmの水銀溶液を分析した際のスペクトルを示すグラフである。図7(A)および(B)において、横軸は、波長を示し、縦軸は、発光強度(カウント値)を示す。また、図7(A)において、実線は、実施例の結果を示し、破線は、比較例1の結果を示す。図7(B)において、実線は、比較例2の結果を示し、破線は、比較例3の結果を示す。図7(A)に示すように、実施例は、比較例1に対して、水銀ピークにおいて、カウント値が、約900カウント増加した。また、図7(B)に示すように、比較例2は、比較例3に対して、水銀特有のプラズマ発光の波長である253.65nm付近である253.00nmにおいて、カウント値が、約500カウント増加した。なお、図7(B)においては、253.00nmにピークが観察されるが、これは、前記樹脂製セル測定用のプラズマ分光分析装置の測定誤差を含むためである。これらの結果から、本発明の分析方法は、狭小部を有する樹脂製セルを使用する方法と比較して、1/500の水銀濃度でも、約2倍のカウント値が得られることがわかった。すなわち、本発明の分析方法は、特許文献2および3の分析方法に対して、分析感度が高いことがわかった。
【0067】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をできる。
【0068】
この出願は、2015年1月13日に出願された日本出願特願2015−003795を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のプラズマ分光分析方法は、簡便、且つ分析感度が高い。このため、本発明のプラズマ分光分析方法によれば、例えば、試料に前処理を行わず、簡便、且つ高い感度で試料を分析できる。このため、本発明は、例えば、プラズマ発生を利用した元素等の分析に、極めて有用である。
【符号の説明】
【0070】
1、2 電極
3 透光部
4 容器
5 受光部
6 絶縁性材料
10 分析装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7