【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年9月17日金沢大学において開催された一般社団法人電気学会平成27年基礎・材料・共通部門大会A部門で発表
【文献】
長谷川基輝、菊地悠介、佐藤直幸、池畑隆,「ECRプラズマ作製によるCu/Cu2O型PVセルの大気曝露特性」,第62回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,2015年,p.100000000-086
【文献】
Xin Ba et al.,"New Way for CO2 Reduction under Visible Light by a Combination of a Cu Electrode and Semiconductor Thin Film: Cu2O Conduction Type and Morphology Effect",The Journal of Physical Chemistry C,2014年,Vol.118,pp.24467-24478
【文献】
L. Wang et al.,"P-n junction from solution: Cuprous oxide p-n homojunction by electrodeposition",Proceedings of 2008 33rd IEEE Photovoltaic Specialists Conference,2008年
【文献】
奈良拓馬、菊地悠介、佐藤直幸、池畑隆,「ECRプラズマ作製によるCu/Cu2O型PVセルの特性に与える水素プラズマ前処理の効果」,第62回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,2015年,p.100000000-085
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記還元工程の後で、前記水素プラズマの照射を停止し、前記銅層の温度を45℃以下まで冷却する第2冷却工程を具備することを特徴とする請求項1に記載の太陽電池の製造方法。
前記前処理工程と前記酸化工程の間に、前記水素プラズマの照射を停止し、前記銅層の温度を45℃以下まで冷却する第0冷却工程を具備することを特徴とする請求項3に記載の太陽電池の製造方法。
前記酸素プラズマ及び前記水素プラズマはECRプラズマとして生成され、前記酸化工程及び前記還元工程において、前記ECRプラズマの生成の際に用いられた磁場が前記銅層の表面と交差する方向とされたことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の太陽電池の製造方法。
【背景技術】
【0002】
太陽光を受光して発電を行う太陽電池を構成する材料として、多くの半導体材料が知られている。このうち、シリコン(単結晶、多結晶、非晶質)を用いたものは広く用いられている。特に、多結晶や非晶質のシリコンを用いた場合には、大面積の太陽電池を比較的安価に得ることができる。
【0003】
しかしながら、太陽電池を更に安価にする、あるいはより高効率とするために、シリコン以外の半導体材料(化合物)を用いた太陽電池の検討も行われている。このうち、酸化銅(亜酸化銅:Cu
2O)を用いたものは、非特許文献1に記載されるように、古くから知られている。Cu
2Oは、2eV程度の禁制帯幅をもつ直接遷移型の半導体であり、その光吸収率も高い。このため、Cu
2Oを用いた太陽電池においては、理論的には、最大でシリコンを用いた場合と遜色がない14%程度の変換効率が得られる。また、主材料となる低純度の銅は安価であり、その取り扱いも容易であるため、高い変換効率のものを安価に製造できることも期待できる。シリコンを用いた太陽電池の場合には、シリコン中に形成されたpn接合の光起電力が用いられるのに対し、Cu
2Oにおいてはpn接合の形成が容易ではないため、Cu
2Oを用いた太陽電池においては、Cu
2Oと他の金属材料との間のショットキー接合が代わりに用いられる場合が多い。この金属材料として各種のものを用いることができるが、例えばCuを用いることができ、非特許文献1においては、この組み合わせで1.8%程度の変換効率が得られており、上記の理論値に近づくことも期待される。
【0004】
また、特許文献1においては、特に太陽電池に適したCu
2O薄膜をスパッタリングを用いて成膜する技術が記載されている。このCu
2O薄膜と金属材料とを組み合わせたショットキー型、あるいはこのCu
2O薄膜と他の半導体材料を組み合わせたヘテロ接合型の太陽電池においては、より上記の上限値に近い変換効率が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る太陽電池の製造方法について説明する。
図1は、この製造方法において用いられる太陽電池製造装置1の構成を模式的に示す構成図である。この太陽電池製造装置1においては、純銅で構成された銅板である基板100に真空(減圧雰囲気)中で酸素プラズマ等が照射されることにより、その表面に酸化銅層が形成される。
【0015】
図1において、基板100は、その表面が略円筒形状の成膜チャンバ10の中心軸と垂直となるように、成膜チャンバ10の内部において中心軸上に載置される。
図1においては、この中心軸に沿った断面が示されている。成膜チャンバ10には、マイクロ波発振器20で発生した2.45GHzの周波数のマイクロ波が、TE01モードでこのマイクロ波を伝搬させる導波管21を介して入射する。成膜チャンバ10の内部は、真空ポンプ(図示せず)によって所定のベース真空度まで減圧される。マイクロ波発振器20等は大気中に載置されるため、このマイクロ波は、減圧された成膜チャンバ10の内部のプラズマ生成室11に石英窓22を介して入射する。
【0016】
プラズマ生成室11には、単位時間当たりの流量(sccm)が制御された反応ガスが導入されるような構成とされており、この導入経路等についての記載は
図1では省略されている。また、成膜チャンバ10の外周を中心軸周りで巻回するコイル23A、23B、23Cが設けられている。コイル23A、23B、23Cによって、プラズマ生成室を含む成膜チャンバ10の中心軸に沿って0.0875Tの磁場が発生する。印加されたマイクロ波とこの磁場によって、プラズマ生成室11においては、反応ガスがプラズマ(ECRプラズマ)化する。このプラズマは、プラズマ生成室11における基板100側の開口、及び更にこれよりも基板100側に設けられたオリフィス12に設けられた開口を通過することにより、高い指向性をもって基板100側に向かう。この際、磁場生成の観点から反応ガスのECRプラズマ化に直接寄与するのはプラズマ生成室11がある箇所に設けられたコイル23Aであるが、コイル23B、23Cを更に中心軸に沿って設けることにより、磁場を基板100側まで一様に形成し、磁場が基板100の表面と直交(交差)するようにすることによって、プラズマを基板100側に導き、基板100が適正にプラズマに照射されるようにすることができる。
【0017】
基板100は、成膜チャンバ10の内部において、金属で構成された基板ホルダ13の間に石英板14を介して固定されている。また、基板100をプラズマ生成室11側から覆うようにマスク15が設置され、マスク15に設けられた開口を介して基板100が前記のプラズマに照射される。マスク15よりもプラズマ生成室11側には、プラズマ照射のオン・オフを設定するためのシャッター16が設けられ、シャッター16を
図1における上下方向に移動させることにより、プラズマの基板100に対する照射のオン・オフが制御される。
【0018】
また、成膜チャンバ10及びオリフィス12は接地電位とされる。一方、基板ホルダ13と基板100は電気的に接続され、これらには、可変の直流電位Vsubが印加される。基板100の電位(バイアス電位)は、プラズマに曝されることによって発生する自己バイアスと、この直流電圧Vsubによって制御される。この際、
図1に示されるようにマスク15を基板100や基板ホルダ13等を覆うような形状とすることにより、プラズマ中の荷電粒子(電子とイオン)が基板100側にバイアス電位によって引き込まれる際にプラズマ全体の状態が影響を受けることが抑制される。
【0019】
また、上記の構成において、基板100を加熱する機能のみを有する機構(電熱式のヒータ等)は特別に設けられていないが、プラズマの照射による加熱(プラズマ加熱)によって基板100の温度は上昇する。特に、基板100と基板ホルダ13とは同電位とされるものの、これらの間には熱伝導率の低い石英板14が介されるため、基板100から基板ホルダ13への放熱効率は低くなり、プラズマ加熱の影響は顕著となる。このため、プラズマの照射中に基板100の温度を実測することが好ましいが、接触式の温度計(熱電対等)を用いた場合には、これが用いられない場合と比べて温度分布やプラズマの状態が変動するおそれがある。このため、
図1の構成においては、Cu
2Oの成膜等とは直接関係がないが、プラズマ照射時における基板100の温度を非接触でモニターするために、基板100の裏面から発する熱赤外線を成膜チャンバ10の外側から検出することができる構成とされている。成膜チャンバ10におけるプラズマ生成室11の反対側にはBaF
2で構成された赤外透過窓17が設けられ、基板ホルダ13、石英板14には、赤外透過窓17側から見て基板100の裏面を露出させるような開口が設けられている。このため、成膜チャンバ10の外側から、この熱赤外線を赤外放射計30で検出し、その強度を調べることによって、基板100の裏面の温度を測定することができる。この際、この温度測定をより正確に行うために、基板100の裏面は黒色に塗布されている。
【0020】
上記の構成において、反応ガスとしては、純酸素(酸素)と純水素(水素)の2種類が切り替えて用いられるため、上記のプラズマ(ECRプラズマ)は、酸素プラズマと水素プラズマの2種類となる。このうち、酸素プラズマはCuで構成された基板100の表面を酸化して酸化銅層とするために用いられる。一方、水素プラズマは、後述するように、基板100の表面や酸化銅層を最適化するために用いられる。
【0021】
ここで、酸素(O)は、基板100を構成する銅(Cu)と反応してこれを酸化させるが、この際に形成されるのは、亜酸化銅(Cu
2O)と酸化銅(II)CuOの2種類である。
図2は、酸素雰囲気下におけるCu−CuO−Cu
2O系の状態図である(「Constitution of Binary Alloys」、M.Hansen and Kurt Anderko、McGraw−Hill(1958年))。この図より、非特許文献1に記載されるように太陽電池の材料として好ましいCu
2Oを形成させるためには、CuOを形成させるよりも高い温度を要し、CuOを形成させずにCu
2Oのみを選択的に形成することは一般的には困難である。このため、例えば通常の熱酸化において、Cu
2Oを形成する場合には、相当量のCuOがこれに混在し、このために、その特性は劣化する。すなわち、Cu
2Oを選択的に形成して良好な太陽電池を得ることは容易ではない。
図2に示されるように、Cu
2O、CuOは、共に低圧力下においては、より低い温度で形成される。
【0022】
上記の太陽電池製造装置1においては、プラズマ照射によって基板100の温度を高めた状態で酸素プラズマ中の酸素によってCuを酸化させることができる(酸化工程)。この際、
図2の特性より、低圧化でCuを酸化することができるため、より低温でCu
2Oを含む酸化銅層を形成することができる。この際に、酸化銅層を形成した後の冷却(冷却工程)や、その後に行われる短時間の水素プラズマ照射(還元工程)によって、酸化銅層をより好ましい特性とすることができ、良好な特性の太陽電池を得ることができる。以下にこの点について説明する。
【0023】
まず、プラズマ照射の際の基板100の温度上昇について赤外放射計30によって調べた。ここで、反応ガスとして、上記の水素(H
2)、酸素(O
2)、及び参考としてアルゴン(Ar)の3種類を用いた。
図3上段は、基板100(基板ホルダ13)を介して流れるバイアス電流Isub、
図3下段は、測定された基板温度Tsubの、それぞれ基板バイアスVsub依存性を測定した結果である。ここで、横軸はVsubではなく、別途ラングミュアプローブを用いて測定されたプラズマ電位φを基準としてVsub−φとしている。Isubは、通常知られるように、Vsub−φの正側ではプラズマ中の電子に起因した電子電流を主成分とし、Vsub−φの負側ではプラズマ中の正イオンに起因したイオン電流を主成分とする。電子とイオンの質量比に起因して、正側の電子電流の絶対値は、負側のイオン電流の絶対値よりも大きくなる。
【0024】
一方、Tsubは、Vsub−φの正側で顕著に大きくなっている。これは、電子照射が基板100のプラズマ加熱に大きく寄与することを示す。また、酸素プラズマ中においては、正の酸素イオンだけでなく、中性の酸素ラジカルも形成され、水素プラズマ中においては、正の水素イオンだけでなく、中性の水素ラジカルも生成される。Vsub−φの正側では、正のイオンによる基板100の照射は抑制されるが、基板100は、高温下でこうした中性のラジカルに曝されるため、Cuと酸素ラジカルや水素ラジカルとの反応が発生する。
図3下段より、反応性の低い不活性ガスであるArが用いられた場合にはTsubは低いため、電子照射だけでなく、HやOと基板を構成するCuとの反応によってTsubが上昇する。この際、Vsubを高めることにより、Tsubを、低圧化でCu
2Oが形成される温度よりも高くすることができる。このため、酸素プラズマの照射においては酸素ラジカルによってCuを酸化する反応、あるいは水素プラズマの照射においては酸化されたCuを水素ラジカルによって還元する反応等を発生させることができる。この際、Tsubを上昇させるためには、Vsubは正側とすることが好ましい。
【0025】
実際に、上記の太陽電池製造装置1を用いて銅で構成された基板100中にCu
2O層を形成する方法(太陽電池の製造方法)について説明する。
図4は、この製造方法における基板温度Tsubの時間変化を各工程に対応して示す図である。ここに示された状態の前に、基板100を収容した成膜チャンバ10の内部は10
−4Pa台のベース真空度まで真空排気(減圧)される。
【0026】
まず、プラズマ生成室11に例えば15sccm程度の流量で水素ガス(純度99.9999%以上)を導入し、プラズマ生成室11の圧力を2.6×10
−2Pa程度、マイクロ波発振器20の出力を300Wとして、水素プラズマ(ECRプラズマ)を生成する。その後、シャッター16を開けることによって、基板100にこの水素プラズマが照射される。この際の基板バイアスVsubは0〜(+)60V程度とする。これによって、基板100の表面の自然酸化膜を除去する、あるいは基板100の表面を清浄化することができる(前処理工程)。この際、プラズマ加熱によってTsubは上昇する。
【0027】
上記の前処理工程の時間t0は、最大でも5min程度でよい。その後、シャッター16を閉じ、マイクロ波発振器20の出力を零として水素ガスの供給を停止する(0sccmとする)。これによって、基板100はプラズマ加熱されなくなるため、徐々にTsubは低下する(第0冷却工程)。前処理工程におけるプラズマ加熱で基板100の温度は上昇するが、第0冷却工程によって、基板100は冷却され、Tsubは45℃以下となる。この場合の冷却時間t01は、例えば4min程度となる。この際、前処理工程で導入された水素ガスは排気され、成膜チャンバ100内の圧力も前記のベース真空度に再び近づく。
【0028】
その後、プラズマ生成室11に例えば12.5sccm程度の流量で酸素ガス(純度99.9999%以上)を導入し、プラズマ生成室11の圧力を5.7×10
−2Pa程度、マイクロ波発振器20の出力を400Wとして、酸素プラズマ(ECRプラズマ)を生成する。その後、シャッター16を開けることによって、基板100にこの酸素プラズマが照射される。この際の基板バイアスVsubは(+)200〜400V程度と、前記の前処理工程よりも大きくする。これによって、基板100のプラズマ加熱が大きく進行すると同時に、酸素ラジカル等と基板100の表面のCuが反応し、酸化銅(Cu
2O、CuO)が含まれる酸化銅層が形成される(酸化工程)。ここで、後述するように、減圧雰囲気下での酸素プラズマの照射によって、Tsubが350℃以上でCu
2Oが形成される。酸化工程の時間t1は、上記の前処理工程と比べて長く、例えば20min程度とする。これによって形成される酸化銅層の深さは、酸素が酸化反応によって侵入する深さによって定まる。また、この酸化銅層が形成される領域は、マスク15の開口によって定まる。
【0029】
その後、シャッター16を閉じ、マイクロ波発振器20の出力を零として酸素ガスの供給を停止する(0sccmとする)。これによって、基板100は酸素プラズマに照射されなくなり、プラズマ加熱されなくなるため、徐々にTsubは低下する(第1冷却工程)。酸化工程で導入された酸素ガスは排気されるため、成膜チャンバ100内の圧力は前記のベース真空度に再び近づく。酸化工程におけるプラズマ加熱で基板100の温度は上昇するが、第1冷却工程によって、基板100は冷却され、Tsubは45℃以下となる。ただし、前記の前処理工程と比べてTsubは大きく上昇しているため、例えばTsubを室温(30℃程度)程度まで低下させるためには長時間を要し、例えば冷却工程の時間t11は45min以上と長くなる。
【0030】
その後、水素ガスを再び供給し、前処理工程と同様の条件で水素プラズマを発生させ、基板100に照射する(還元工程)。ただし、還元工程の時間t2は前記の前処理工程と比べて短く、例えば24sec程度とする。また、この場合には基板バイアスVsubは零とすることが好ましい。後述するように、還元工程によって、酸化工程によって形成された酸化銅層の状態が変化する。
【0031】
その後、シャッター16を閉じ、マイクロ波発振器20の出力を零として水素ガスの供給を停止する(0sccmとする)。これによって、基板100はプラズマ加熱されなくなるため、徐々にTsubは低下する(第2冷却工程)。第2冷却工程によって、基板100は冷却され、Tsubは45℃以下となる。ただし、還元工程におけるマイクロ波発振器20の出力は低くかつ還元工程の時間t2も酸化工程と比べて短いため、還元工程におけるTsubの上昇は小さく、第2冷却工程の時間t21はt11と比べて短い。
【0032】
第2冷却工程後、成膜チャンバ10内に乾燥窒素を導入して大気圧とし、酸化銅層が部分的に形成されることによって太陽電池として機能する基板100を取り出すことができる。この場合に形成される太陽電池200の断面構造を
図5(a)に、非特許文献1等に記載された、酸化銅層が用いられた太陽電池210の断面構造を
図5(b)に示す。上記の太陽電池200においては、基板100を構成する銅層201の表面の一部が酸化銅層202に変質している。一方、従来の太陽電池210においては、様々な方法で形成された厚い酸化銅層211の表面に、薄い銅層212が接合されている。どちらの場合においても、銅層が太陽電池における一方の電極となる。また、酸化銅層には、オーミック接触する金属(
図5において図示せず)が接続され、この金属が、太陽電池における他方の電極となる。この2つの電極を用いて太陽電池の出力が取り出される。また、どちらの場合にも、酸化銅層と銅層との間のショットキー接合が光起電力の源となり、光を吸収するのは酸化銅層である。
【0033】
ここで、太陽電池の変換効率を高めるためには、酸化銅層中で光吸収によって発生した電子正孔対がショットキー接合まで拡散によって到達することが要求される。上記の太陽電池200においては、基板100として機能する充分に厚い銅層201の表面に酸化銅層202が薄く形成される。このため、
図5(a)において左側から光を照射すれば、酸化銅層202に吸収された光によって発生した電子正孔対とショットキー接合との間の距離が短くなるため、再結合が減り変換効率を高くすることができる。
【0034】
一方、非特許文献1に記載されるような従来の太陽電池210においては、予め酸化銅層211を作製してからこれに銅層212を接合するため、酸化銅層211を、上記の銅層201に対応する程度に厚くすることが必要である。この場合、
図5(b)における左側から光を入射させた場合には、光吸収効率の大きな酸化銅層211においては、光が吸収され電子正孔対が生成されるのは、
図5(b)における左側の表面近くの領域だけである。この場合、電子正孔対とショットキー接合との間の距離が大きくなるため、高い変換効率を得ることは困難であった。一方、
図5(b)における右側から光を入射させる場合には、銅層212によって光が遮られる。このため、従来の太陽電池210においては、銅層212を充分に薄くする、銅層212をメッシュ状にする、等の方策によって銅層212中を図中右側から光が透過するようにし、酸化銅層211におけるショットキー接合付近の領域で光が吸収されるような構成とされた。しかしながら、こうした場合においても、銅層212によって遮られる光の量は大きくなり、変換効率を高くすることは困難であった。
【0035】
また、
図5(b)の太陽電池210を製造するに際して、良好なショットキー接合を得るためには、酸化銅層211の表面を最適化(例えば充分な洗浄処理)を行ってから銅層212をこれに接合する作業が必要となる。このため、この処理が不充分の場合には、欠陥密度が増し変換効率が大きく劣化する。
【0036】
これに対して、
図5(a)の太陽電池200においては、酸化銅層202の形成によってショットキー接合は内部に自動的に形成されるため、こうした特別な処理は不要であり、太陽電池200の特性は、銅層201と酸化銅層202の特性あるいはその形成条件によって定まる。このため、良好なショットキー接合を安定して得ることができる。
【0037】
すなわち、上記の製造方法に示されたように、水素プラズマ照射により欠陥密度が抑えられた厚い銅層201の表面に、銅層201が改変されて形成された酸化銅層202が薄く形成された場合には、太陽電池として特に高い変換効率を得ることができる。
【0038】
ここで、
図6(a)は、上記のように前処理工程、第0冷却工程、酸化工程、第1冷却工程、還元工程、第2冷却工程を行って得られた上記の太陽電池200における光照射時のJ−V特性を示し、
図6(b)は、上記の工程のうち還元工程及び第2冷却工程を行わなかった場合における同様のJ−V特性を示す。この結果より、どちらにおいても整流特性が認められるため、酸化銅層202と銅層201の間でショットキー接合が形成されていることは明らかである。しかしながら、
図6(a)の特性と
図6(b)の特性では、ダイオードの順方向と逆方向の向きが逆転している。これは、
図6(a)においてはn型の酸化銅層202(Cu
2O)が形成され、
図6(b)においては、p型の酸化銅層202(Cu
2O)が形成されていることに対応する。また、
図6(a)においては、光照射時において太陽電池における開放端電圧Voc=−0.295V、短絡電流密度Jsc=1.03mA/cm
2が得られたのに対し、
図6(b)においては、光照射時においてもVoc、Jsc共に有意な値は得られなかった。すなわち、
図6(a)の場合には太陽電池として機能しているが、
図6(b)の場合には太陽電池として機能していなかった。
【0039】
ここで、Cuの仕事関数が4.7eV程度であることと、p型Cu
2Oの仕事関数が4.9eV程度、n型Cu
2Oの仕事関数が3.59eV程度であることを用いると、ショットキー障壁の内蔵電位は、Cu/p型Cu
2Oにおいては0.2V程度、Cu/n型Cu
2Oにおいては−1.11Vとなる。太陽電池の開放端電圧はこの内蔵電位に対応するため、酸化銅層202を構成するCu
2Oとしては、より大きな内蔵電位(ショットキー障壁)が得られるn型が好ましい。このため、
図6(a)においては、n型のCu
2Oが形成されていることにより、太陽電池としての特性が得られたと考えられる。ただし、この場合においても、酸化銅202は、理想的なn型Cu
2O単結晶で一様に形成されている場合とは異なるために、Vocの絶対値は上記の1.11Vよりは小さくなっている。
【0040】
一般的に、欠陥が多いCuの酸化によって形成されるCu
2Oは欠陥密度が高く、この結晶欠陥に起因してp型となりやすいことが知られている。このため、
図6(b)に示されたように、還元工程を行わない場合において形成される酸化銅層202はp型となる。一方、還元工程を行った
図6(a)の場合には、酸化銅層202が還元されることによってp型からn型に変換したと考えられる。この際、CuOも一部は還元によって除去されたと考えられる。
【0041】
図7に、タフピッチ銅の板を酸素雰囲気(大気圧)、1050℃の温度で通常の熱酸化をした場合(上段)、同様のタフピッチ銅を上記の太陽電池製造装置1を用いて上記の酸化工程(Tsub=400℃)によって酸化した場合(中段)、酸化前のタフピッチ銅(下段)、のそれぞれのX線回折特性を示す。Tsubが400℃の場合でも、通常の高温(1050℃)での熱酸化の場合と同様に、Cu
2Oが形成されていることが確認できる。すなわち、
図1の太陽電池製造装置1を用いて酸化工程、還元工程を行うことによって、太陽電池に適したn型Cu
2Oを低温で容易に形成することができる。
【0042】
すなわち、上記の酸化工程とその後の還元工程等を組み合わせることにより、Cu/n型Cu
2Oを用い、
図5(a)に示された構造の太陽電池を容易に製造することができる。特に、上記のような基板100は低純度の安価な銅板を使用することができ、上記の製造方法においては安価な水素ガス、酸素ガスのみが原料として用いられる。このため、上記の製造方法によって、上記の太陽電池を安価に製造することができる。
【0043】
次に、冷却工程(第1冷却工程)の効果について説明する。
図4における第1冷却工程の時間t11を変えて、
図6(a)の特性におけるVoc、Jscを調べた結果を
図8に示す。ここで、前処理工程において、t0は0〜5minの範囲、圧力は2.6×10
−2Pa、マイクロ波発振器20の出力は300W、Vsubは0〜60Vの範囲、t01は4minとし、酸化工程において、t1は20min、圧力は5.7×10
−2Pa、マイクロ波発振器20の出力は200〜400Wの範囲、Vsubは200〜400Vの範囲とした。この際、t11が増大するに従って第1冷却工程終了時における基板100の温度Tsubは低下するため、t11の代わりに第1冷却工程の終了時におけるTsubを用いて
図8の特性を書き直した結果を
図9に示す。
【0044】
この結果より、t11を長くとりTsubを室温近くまで冷却してから還元工程を開始した方が、より大きなVoc、Jscが得られる、すなわち、より良好な特性の太陽電池を得ることができる。具体的には、Tsubが45℃以下となるまで、t11は45min以上とすることが好ましい。この原因としては、Tsubが高いうちに還元工程を行うと、より深く水素が侵入し、基板100において銅の水素脆化が発生することによって銅層201、あるいはその上の酸化銅層202に結晶欠陥が多く発生するためと考えられる。
【0045】
図4における還元工程を長時間行った(t2を大きくした)場合にも、Tsubが上昇する、あるいはより深くまで水素が侵入するため、t2は短いことが好ましい。具体的には、t2は10〜100secの範囲が好ましく、還元工程の間にTsubが45℃を超えないようにすることが特に好ましい。
【0046】
また、太陽電池特性に対する、酸化工程における基板バイアスVsub依存性を調べた。これは、基板100を照射する電子のエネルギー依存性に対応する。ここで、パラメータは、
図8、9に示されたデータと同様の範囲とし、Vsubは200〜400Vの範囲である。
図10は、この際のVoc(a)、Jsc(b)、電力密度W(=Voc×Jsc)(c)のVsub依存性である。また、酸化工程における基板100の温度Tsubの最高値はVsubが高くなるに従って高くなるため、
図11は、
図10と同様のデータにおいて、実測されたTsubの最大値に横軸を変換した結果である。
【0047】
図10、11の結果より、酸化工程におけるVsubを高め、酸素プラズマ中の電子の照射エネルギーを高めることによって、Voc、Jsc、Wが上昇し、太陽電池として好ましい特性が得られる。これは、Vsubを高めることによって、基板100の表面の酸化が進み、酸化銅層202が厚く形成されたためと考えられる。Vsubを最大の400VとしてTsubを最大とした場合においても、表面の荒れは発生せず、酸化銅層は、Cu
2Oに対応した紫色であった。また、
図11より、Tsubが350℃以上で特にこれらの特性が向上するため、Tsubが350℃以上で、太陽電池に適したn型Cu
2Oが形成される。すなわち、Tsubが350℃以上となるように酸化工程を行うことが好ましい。
【0048】
図12は、上記の一条件で作製された太陽電池に対して、電力密度Wの入射光強度依存性を測定した結果である。入射光としては、ハロゲン光を用いており、5000CPS付近が標準的な太陽光強度に対応し、これを超えてもWは飽和せずに上昇する。このため、これを用いて集光型の太陽電池を構成することができる。
【0049】
以上のように、
図1の太陽電池製造装置1を用い、
図4に示された各工程を実行することにより、
図5(a)に示された構造の太陽電池を安価に製造することができる。ただし、例えば基板100の表面が充分に清浄で欠陥密度が極めて低い場合等、基板100の表面の状態によっては、前処理工程は不要である。
【0050】
また、
図1の太陽電池製造装置1においては、酸素プラズマ、水素プラズマを生成するためにECRプラズマ源が用いられたが、同様に酸化銅層を形成できる限りにおいて、他のプラズマ源を用いることもできる。ただし、磁場を用いて低圧力で高密度プラズマを生成させることができ、磁場方向に高い電子温度(電子エネルギー)により酸素分子の解離を促進し同時に高密度の酸素原子ラジカルが得られ,かつ,プラズマ電子による局所的な衝撃加熱の効果が大きいECRプラズマ源を用いることが特に好ましい。また、t0、t01、t1、t11、t2、t21、及び,これらの時間におけるTsubをコンビナトリアル法を用いて最適化することにより、変換効率の更なる向上が望める。
【0051】
更に、銅層201を銅ホイル、あるいは、可視光が透過できる銅薄膜に置き換えても本装置で太陽電池を作製できる。この場合においては、多接合太陽電池の最上部に接合することも可能となるため、総合変換効率の更なる向上に寄与できる。