(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の回路においては、基準信号が複数のPLL回路を用いて逓倍されるのでジッタが発生する。これに対して、後段の回路に入力される基準クロックのジッタは、逓倍クロックのジッタよりも小さい。したがって、基準クロックと逓倍クロックとをアナログ/デジタル変換回路等の他の回路に入力すると、基準クロックと逓倍クロックとの間のジッタの大きさの差により、セットアップ時間及びホールド時間が満たされないという問題が生じていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、複数のクロック間のジッタの大きさの差を低減させることができるクロック発生回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、基準クロックを逓倍することにより、基準クロックの周波数に対してN倍(Nは2以上の整数)の周波数の逓倍クロックを発生する逓倍部と、前記逓倍クロックをN分周することにより、前記基準クロックの周波数と同一の周波数の分周クロックを発生する分周部と、前記逓倍クロック及び前記分周クロックを出力する出力部と、を有するクロック発生回路を提供する。
【0007】
前記逓倍部は、例えば、互いに直列に接続された複数の逓倍回路を有する。
【0008】
また、前記クロック発生回路は、前記基準クロックを発生する恒温槽型水晶発振器(OCXO:Oven Controlled Oscillator)をさらに有してもよい。
【0009】
本発明の第2の態様においては、基準クロックを逓倍することにより、基準クロックの周波数に対してN倍(Nは2以上の整数)の周波数の逓倍クロックを発生する逓倍部と、前記逓倍クロックをN分周することにより、前記基準クロックの周波数と同一の周波数の分周クロックを発生する分周部と、前記逓倍クロック及び前記分周クロックに基づいて、前記逓倍クロックの周波数と前記分周クロックの周波数との間の周波数の信号をアナログ/デジタル変換するアナログ/デジタル変換器と、を有する信号処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数のクロック間のジッタの大きさの差を低減させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本実施形態の概要]
図1は、本実施形態に係る信号処理装置Sの構成を示す図である。信号処理装置Sは、クロック発生回路1と、信号源2と、アナログ/デジタル変換器3と、デジタル回路4とを有する。クロック発生回路1は、内蔵する基準クロック源が発生する基準クロック(22.5MHz)に基づいて、基準クロックよりも高い周波数の逓倍クロックDEV_CLK(3.6GHz)と、逓倍クロックを分周して生成された、基準クロックと同じ周波数の分周クロックSYSREF_CLK(22.5MHz)とを出力する。クロック発生回路1が出力する逓倍クロック及び分周クロックは、アナログ/デジタル変換器3に入力される。
【0013】
信号源2は、高周波信号を発生する。信号源2が発生する高周波信号の周波数は、分周クロックの周波数よりも高く、逓倍クロックの周波数よりも低く、例えば2GHzのRF(Radio Frequency)信号である。信号源2が出力するRF信号は、アナログ/デジタル変換器3に入力される。
【0014】
アナログ/デジタル変換器3は、信号源2から入力されるRF信号を、クロック発生回路1から入力される分周クロック及び逓倍クロックに基づいてデジタル信号に変換し、JESD204Bの規格に基づくタイミングで出力する。アナログ/デジタル変換器3から出力されるデジタル信号は、デジタル回路4に入力される。
デジタル回路4は、例えばFPGAであり、入力されたデジタル信号に基づいて、各種の処理を実行する。
【0015】
図2は、分周クロックと逓倍クロックとの関係を示す図である。JESD204B規格においては、DEV_CLKとSYSREF_CLKとの間のタイミング関係(セットアップ時間及びホールド時間)が定められており、DEV_CLKとSYSREF_CLKとの間のジッタが大きいと、規格を満たすことができない。セットアップ時間は、
図2においてtsで示されている時間であり、SYSREF_CLKの立ち上がりタイミングからDEV_CLKの立ち上がりタイミングまでの時間である。ホールド時間は、
図2においてthで示されており、DEV_CLKの立ち上がりタイミングからSYSREF_CLKの立ち上がりタイミングまでの時間である。
【0016】
DEV_CLKが3.6GHzである場合、周期は278psである。JESD204B規格においては、セットアップ時間ts及びホールド時間thは60ps以上であることが要求される。したがって、DEV_CLKとSYSREF_CLKとの間のジッタマージンは、278ps−60ps−60ps=158psとなる。クロック発生回路1は、温度変動も考慮して、ジッタマージン158psを確保するクロックを出力する。
【0017】
[クロック発生回路1の構成]
図3は、本実施形態のクロック発生回路1の構成を示す図である。
クロック発生回路1は、発振器11と、分配器12と、逓倍部13と、分配器14と、増幅器15と、増幅器16と、分周器17と、増幅器18と、出力端子19(19a,19b)とを有する。
【0018】
発振器11は、基準クロックを発生して分配器12に入力する。本実施形態における基準クロックの周波数は、22.5MHzである。発振器11は、ジッタが少ない恒温槽型水晶発振器であることが望ましい。
【0019】
分配器12は、発振器11から入力された基準クロックを逓倍部13に中継する。
逓倍部13は、分配器12から入力された基準クロックを、基準クロックの周波数22.5MHzの160倍の周波数3.6GHzに逓倍して、逓倍クロックを出力する。
【0020】
逓倍部13は、基準クロックの周波数に対してN倍(Nは2以上の整数)の周波数の逓倍クロックを発生する。逓倍部13は、複数の増幅器及び逓倍回路を有する。具体的には、逓倍部13は、順次、直列に接続された増幅器131、逓倍回路132、増幅器133、逓倍回路134、増幅器135、逓倍回路136、増幅器137、逓倍回路138、増幅器139及び逓倍回路140を有する。
【0021】
増幅器131、増幅器133、増幅器135、増幅器137及び増幅器139は、基準クロックの電圧範囲において、入力電圧と出力電圧との関係がほぼ線形になる特性を有する。これらの増幅器がこのような線形性を有することで、ジッタを抑制することができる。
【0022】
逓倍回路132は、112.5MHzのクロックを出力する。逓倍回路134は、450.0MHzのクロックを出力する。逓倍回路136は、900.0MHzのクロックを出力する。逓倍回路138は、1.8GHzのクロックを出力する。逓倍回路140は、3.6GHzのクロックを出力する。
【0023】
逓倍回路140が出力した逓倍クロックは、分配器14に入力される。分配器14は、入力された逓倍クロックを、増幅器15と増幅器16とに分配する。増幅器15は、逓倍クロックを増幅してDEV_CLKを出力端子19aから出力する。
【0024】
増幅器16は、逓倍回路140から入力された逓倍クロックを増幅して、増幅後の逓倍クロックを分周器17に入力する。増幅器16は、逓倍クロックの電圧範囲において、入力電圧と出力電圧との関係がほぼ線形になる特性を有する。
【0025】
分周器17は、増幅器16から入力される逓倍クロックを160分周することにより、22.5MHzのクロックを生成する。分周器17は、生成したクロックを増幅器18に入力する。増幅器18は、分周器17から入力されたクロックを増幅してSYSREF_CLKを出力端子19bから出力する。増幅器18は、増幅器15と同一の温度特性を有することが望ましい。
【0026】
図3に示す構成において、分配器12、逓倍部13及び分配器14の構成の温度変動の影響は、DEV_CLKの生成においてもSYSREF_CLKの生成においても共通している。したがって、分配器12、逓倍部13及び分配器14の温度特性により、発振器11から入力された基準クロックと分配器14から出力される逓倍クロックとの間にジッタが存在するとしても、DEV_CLKとSYSREF_CLKとの間のジッタに影響しない。その結果、クロック発生回路1は、温度変動に影響されにくい低ジッタのDEV_CLKとSYSREF_CLKとを出力することができる。
【0027】
[ジッタ変動量の比較]
(本実施形態)
図3に示す本実施形態のクロック発生回路1における増幅器15、増幅器16、分周器17及び増幅器18の温度変動量をそれぞれσ1、σ2、σ3、σ4とすると、DEV_CLKとSYSREF_CLKとの間のトータルジッタ量(RMS)は、以下の式により表される。
ジッタ量(RMS)=√{(σ1)
2+(σ2)
2+(σ3)
2+(σ4)
2}
【0028】
ここで、増幅器及び分周器の一つあたりのジッタ温度変動量を6ps(RMS)と仮定すると、トータルジッタ量は、12psとなる。RMSジッタからピーク・トゥ・ピーク(p−p)ジッタに換算するために、JEDEC規格(JESD65B)を適用し、±3.719σを最大変動量と考えると、ジッタ量(p−p)は、89.26psとなる。
【0029】
(比較例1)
図4は、比較例1のクロック発生回路10の構成を示す図である。クロック発生回路10においては、分配器12が、発振器11から入力された22.5MHzの基準クロックを逓倍部13と増幅器18とに分配する。出力端子19bからは、増幅器18を介してSYSREF_CLKが出力される。したがって、逓倍部13を構成する各増幅器及び逓倍器の温度変動量が、DEV_CLKとSYSREF_CLKとの間のジッタに影響する。クロック発生回路10におけるDEV_CLKとSYSREF_CLKとの間のトータルジッタ量(RMS)は、以下の式により表される。
ジッタ量(RMS)=√{(σ1)
2+(σ2)
2+・・・+(σ12)
2}
【0030】
ここで、増幅器、逓倍器及び分周器の一つあたりのジッタ温度変動量を6ps(RMS)と仮定すると、トータルジッタ量は、20.52psとなる。この値をピーク・トゥ・ピーク(p−p)ジッタに換算すると、ジッタ量(p−p)は152.63psとなる。
図3に示したクロック発生回路1のジッタ量(p−p)と
図4に示したクロック発生回路10のジッタ量(p−p)とを比較すると、クロック発生回路1の構成によれば、ジッタ変動量が約40%改善されるという効果があることが確認できた。
【0031】
DEV_CLKとSYSREF_CLKとの間のJESD204Bの規格におけるジッタマージンは158psであったので、
図4に示したクロック発生回路10においては、ほとんどマージンがなく、システムを構成することが困難であった。しかし、本実施形態に係るクロック発生回路1においては、十分なマージンを確保できることがわかる。
【0032】
(比較例2)
図5は、比較例2のクロック発生回路30の構成を示す図である。クロック発生回路30は、発振器31と、分配器32と、増幅器33と、増幅器34と、分周器35と、増幅器36とを有する。
【0033】
発振器31は、3.6GHzの基準クロックを発生して、発生した基準クロックを分配器32に入力する。分配器32は、入力された基準クロックを、増幅器33と、増幅器34とに分配する。増幅器33は、分配器32から入力された基準クロックを増幅してDEV_CLKとして出力端子19aから出力する。
【0034】
増幅器34は、分配器32から入力された基準クロックを増幅して分周器35に入力する。分周器35は、増幅器34から入力された基準クロックを160分周して、22.5MHzのクロックを生成し、生成したクロックを増幅器36に入力する。増幅器36は、分周器35から入力されたクロックを増幅してSYSREF_CLKとして出力端子19bから出力する。
【0035】
クロック発生回路30は、クロック発生回路1及びクロック発生回路10が有していた逓倍回路を有しないので、クロック発生回路1及びクロック発生回路10の逓倍回路において生じていたジッタが発生しない。しかし、クロック発生回路30においては、基準クロックの周波数が3.6GHzと高い周波数であるために、発振器31として恒温槽型水晶発振器を使用することが困難である。したがって、温度変動の影響を受けやすく、温度変動が発生する環境下でジッタ量が小さいDEV_CLK及びSYSREF_CLKを出力することができない。
【0036】
[本実施形態のクロック発生回路1による効果]
以上説明したように、本実施形態のクロック発生回路1は、基準クロックを逓倍することにより、基準クロックの周波数に対してN倍の周波数の逓倍クロックDEV_CLKを発生する逓倍部13と、逓倍クロックをN分周することにより、基準クロックの周波数と同一の周波数の分周クロックSYSREF_CLKを発生する分周器17とを有する。クロック発生回路1がこのような構成を有することで、クロック発生回路1は、DEV_CLKとSYSREF_CLKとの間のジッタ量を十分に小さくすることができ、JESD204B規格において要求されるタイミング条件に対するマージンを大きくすることができる。
【0037】
また、クロック発生回路1が上記の構成を有することにより、逓倍部13において発生するジッタが、DEV_CLKとSYSREF_CLKとの間のジッタ量の大きさに影響しない。したがって、逓倍部13は、複数の逓倍回路を多段接続することができるので、逓倍数を柔軟に設定することが可能である。
【0038】
また、クロック発生回路1が上記の構成を有することにより、発振器11が発生する基準クロックの周波数を低くすることができるので、発振器11として恒温槽型水晶発振器を使用することができる。その結果、クロック発生回路1は、温度変動が発生しても安定したDEV_CLK及びSYSREF_CLKを出力することができる。
【0039】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
例えば、上記の説明においては、クロック発生回路1が発生したDEV_CLK及びSYSREF_CLKをアナログ/デジタル変換器3に入力する例を示したが、クロック発生回路1は、DEV_CLK及びSYSREF_CLKを他の回路に入力してもよい。