(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記推定角周波数は、前記交流電力が伝達される前記コンバータ部の電流経路で検出された電流値に基づいて計算される請求項1〜請求項6の何れか一項に記載の射出成形機。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態の射出成形機の一部を示す構成図である。
【0013】
本発明の実施の形態の射出成形機100は、コンバータ部120と、DCリンク130と、インバータ部140と、モータ150と、制御部160とを備えている。コンバータ部120と制御部160とを組み合わせた構成が、本発明に係るコンバータの一例に相当する。射出成形機100は、力率改善機能と回生機能とを有するコンバータ部120により、力率の向上と省エネルギー化とが図られている。電源110は、例えば、工場設備などの、射出成形機100の外部に設けられた交流電源である。
【0014】
モータ150は、射出成形機100で使用されるモータであって、モータ150の減速時に回生電力が発生するものである。モータ150の具体例としては、型開閉用サーボモータが挙げられる。型開閉用サーボモータは、型締め装置を駆動し、可動プラテンを開閉することができる。可動プラテンの開閉によって、金型を閉じる型閉工程、金型を開く型開工程、金型を締め付ける型締め工程が行われる。
【0015】
モータ150は、射出用サーボモータでもよいし、エジェクタ用サーボモータでもよい。射出用サーボモータは、その作動によって、加熱シリンダ内のスクリュを前進移動させることができる。スクリュの前進移動によって、スクリュ前方に溜まった溶融材料を金型キャビティ内に射出する射出工程が行われる。エジェクタ用モータは、その作動によって、エジェクタ軸を移動させることができる。エジェクタ軸の移動によって、成形品を金型から押し出す成形品突き出し工程が行われる。また、モータ150は、互いに並列に接続された複数のモータでもよい。
【0016】
インバータ部140は、コンバータ部120からDCリンク130を介して供給される直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力によりモータ150を駆動する。具体的には、インバータ部140は、コンバータ部120から出力されDCリンク130を介して供給される直流電流を、三相交流電流に変換する。また、インバータ部140は、モータ150によって発生した交流の回生電力を直流の回生電力に変換し、変換した直流の回生電力をDCリンク130およびコンバータ部120に供給する。具体的には、インバータ部140は、モータ150から供給される三相交流電流を、直流電流に変換する。インバータ部140は、例えば6個のパワートランジスタで構成される三相ブリッジ回路を含むものであるとよい。
【0017】
DCリンク130は、コンバータ部120の直流出力側とインバータ部140の直流入力側との間に設けられた直流電力の経路であって、一対の直流電源ライン131と、平滑コンデンサ132とを備えている。直流電源ライン131は、コンバータ部120とインバータ部140と平滑コンデンサ132との間を流れる直流電流の伝達経路である。平滑コンデンサ132は、直流電源ライン131の直流電圧を平滑させるキャパシタである。平滑コンデンサ132の具体例としては、電解コンデンサが挙げられる。DCリンク130のDCリンク電圧Vdcは、平滑コンデンサ132の両端電圧に相当する。
【0018】
コンバータ部120は、力率改善機能と回生機能とを有し、交流電力から直流電力への変換或いは直流電力から交流電力への変換を行う。具体的には、モータ150の力行時、コンバータ部120は電源110から供給される交流電力を直流電力へ変換し、この直流電力をDCリンク130を介してインバータ部140へ送る。一方、モータ150の回生時、コンバータ部120はDCリンク130を介してインバータ部140から戻される直流の回生電力を交流の回生電力に変換し、この回生電力を電源110へ戻す。これらの電力変換の処理は、コンバータ部120の力率を目標力率(例えば「1」)に合わせる制御を伴って行われる。具体的には、コンバータ部120は、電源110から入力する電流の波形、或いは回生時に電源110へ出力する電流の波形が、電源110の交流電圧に位相を合せた正弦波になるように制御される。
【0019】
コンバータ部120は、ヒューズ121と、LCフィルタ122と、電流センサ123と、ブリッジ回路124と、電源ライン125とを有している。
【0020】
ヒューズ121は、電源ライン125の各相に直列に挿入されている。ヒューズ121が溶断することによって、電源ライン125に過電流が流れることを防止できる。
【0021】
LCフィルタ122は、電源ライン125に流れる電流の高調波成分を抑制する。LCフィルタ122は、例えば、U、V、Wの各相に直列に挿入された複数のリアクトルの間にコンデンサ(キャパシタ)が接続されて構成される。LCフィルタ122は、例えば各相に一端が接続された複数のコンデンサが中性点で共通接続されるY結線構成を有している。なお、LCフィルタ122は、
図1の構成に限られず、例えば、各相間にコンデンサが挿入されるΔ結線構成でもよいし、各相に直列にリアクトルのみが挿入される構成でもよい。
【0022】
電流センサ123は、電源ライン125に流れる交流電流の電流値を検出する。電流センサ123は、三相の電源ライン125のうち二相の電源ラインで検出される各電流値に応じた検出信号を出力し、例えば、U相で検出されるU相電流IufbおよびV相で検出されるV相電流Ivfbに応じた各検出信号を出力する。
【0023】
ブリッジ回路124は、モータ150の力行時、電源ライン125に流れる交流電流を直流電流に変換し、変換した直流電流をDCリンク130に供給する。一方、ブリッジ回路124は、モータ150の回生時、DCリンク130から供給される直流電流を交流電流に変換し、変換した交流電流を電源ライン125に供給する。ブリッジ回路124は、例えば図示のように、6個のパワートランジスタを整流素子として含む三相ブリッジ回路を含み、制御部160の制御により各パワートランジスタがオン/オフされることで、上述した変換の処理を行う。
【0024】
電源ライン125は、電源110とブリッジ回路124との間を接続する電力ラインであって、ブリッジ回路124から供給される交流電力が伝達する。電源ライン125は、例えば、U、V、Wの三相の電流経路から構成されている。
【0025】
なお、コンバータ部120の力行時の電流経路と回生時の電流経路は共通しているが、コンバータ部120の力行時の電流経路と回生時の電流経路とは別個に設けられ、これらが並列された構成としてもよい。この場合、ヒューズは両方の電流経路に挿入される。また、力行時と回生時との両方で力率改善を行う場合には、両方の電流経路にトランジスタによるブリッジ回路が挿入される。
【0026】
制御部160は、例えば、マイクロコンピュータを中心に構成された演算制御回路である。制御部160は、例えば、CPU、制御プログラムを格納するROM等の補助記憶装置、演算結果等を格納するRAM等の読み書き可能な主記憶装置、タイマ、カウンタ、入力インターフェース、出力インターフェースを有している。
【0027】
制御部160は、コンバータ部120の力率を目標力率(例えば「1」)に近づけるように、具体的には、電源ライン125に流れる交流電流の波形が、電源110の交流電圧の位相に同期した正弦波になるように、ブリッジ回路124を制御する。より具体的には、コンバータ部120はPWM(Pulse Width Modulation)方式で駆動される。すなわち、制御部160は、PWM信号生成部165によって生成されるPWM信号によってブリッジ回路124を制御する。
【0028】
制御部160は、ブリッジ回路124を動作させる構成として、電圧位相検出部161と、積分器161bと、d−q変換部162と、電圧制御部163と、電流制御部164と、PWM信号生成部165とを有している。また、制御部160は、コンバータ部120の状態変化を監視するための構成として、角周波数推定部170と、ズレ計算部としての減算器180とを有している。
【0029】
d−q変換部162は、電流センサ123によって検出されたU相電流IufbおよびV相電流Ivfbをd−q変換することによって、d−q変換結果であるd軸成分の電流値Idfbおよびq軸成分の電流値Iqfbを出力する。なお、電流センサ123は、W相電流Iwfbを検出し、d−q変換部162は、W相電流Iwfb(
図2)を加えてd−q変換してもよい。
【0030】
電圧制御部163は、所定の電圧指令値UcmdとDCリンク130で検出されたDCリンク電圧Vdcとの誤差に基づいて、この誤差をゼロに収束させるように、d軸成分の電流指令値Id_refを生成する。電圧指令値Ucmdは、例えば一定の電圧値に設定される。電圧指令値Ucmdは、上位のコントローラから供給されるようにしてもよいし、制御部160が生成するようにしてもよい。モータ150の力行時には、DCリンク電圧Vdcが電圧指令値Ucmdに対して正負の一方に振れることが多くなる。これにより、電流指令値Id_refが正の値となってインバータ部140へ電流が出力される。モータ150の回生時には、DCリンク電圧Vdcが電圧指令値Ucmdに対して逆方に振れることが多くなる。これにより、電流指令値Id_refが負の値となってインバータ部140からコンバータ部120へ電流が戻される。
【0031】
電流制御部164は、d−q変換部162から供給されるd軸成分の電流値Idfbおよびq軸成分の電流値Iqfbと、電圧制御部163から供給される電流指令値Id_refとを入力する。そして、これらに基づいて、電流制御部164は、d軸成分の電圧指令値v
dcとq軸成分の電圧指令値v
qcとを生成する。q軸成分の電流指令値Iq_refは、力率が「1」になるようにゼロに設定される。電流制御部164の詳細は後述する。
【0032】
電圧位相検出部161は、電源ライン125の各相の電圧位相を検出することによって交流電圧の角周波数ωを出力する。
【0033】
積分器161bは、電圧位相検出部161から出力された角周波数ωの値を時間で積分し、電源110の位相角θを出力する。
【0034】
PWM信号生成部165は、積分器161bから送られた位相角θと、電流制御部164から供給されるd−q軸の電圧指令値v
dc、v
qcとに基づいて、ブリッジ回路124内のパワートランジスタのゲートを駆動する3相のPWM信号を生成する。
【0035】
図2は、電流制御部の詳細を示す構成図である。
【0036】
電流制御部164は、d軸成分の演算を行うPI演算器641、乗算器643、および加算器645と、q軸成分の演算を行うPI演算器642、乗算器644、および加減算器646とを備える。
【0037】
PI演算器641は、検出されたd軸成分の電流値Idfbと電流指令値Id_refとの差をゼロに近づけるため、この差に比例ゲイン演算と積分演算とを行って演算結果v
dc_PIを出力する。
【0038】
乗算器643は、検出されたq軸成分の電流値Iqfbに値”ωL”を乗算して加算器645へ出力する。値”ωL”は、電圧位相検出部161により検出された電源110の各相電圧の角周波数”ω”と、電源ライン125の各相に設けられたリアクトルのインダクタンス値”L”とを乗算した値である。
【0039】
加算器645は、PI演算器641の出力と乗算器643の出力と参照電圧値Vdとを加算して、d軸成分の最終的な電圧指令値v
dを生成する。参照電圧値Vdは、電源110の電圧をd−q変換したd軸成分の電圧を示し、電源110の電圧実効値に該当する。
【0040】
他方のPI演算器642は、検出されたq軸成分の電流値Iqfbと電流指令値Iq_refとの差をゼロに近づけるために、この差に比例ゲイン演算と積分演算とを行って、演算結果v
qc_PIを出力する。
【0041】
乗算器643は、検出されたd軸成分の電流値Idfbに値”ωL”を乗算して加算器645へ出力する。値”ωL”は上記の説明の通りである。
【0042】
加減算器646は、PI演算器642の出力と参照電圧値Vqとを加算し、この加算の結果から乗算器644の出力を減算して、q軸成分の最終的な電圧指令値v
qを生成する。参照電圧値Vqは、電源110の電圧をd−q変換したq軸成分の電圧を示し、この実施の形態ではゼロとなる。
【0043】
PWM信号生成部165は、
図2に示すように、UVW変換部651と、PWMコンバータ652とを有する。UVW変換部651は、積分器161bから入力された電源110の位相角θに応じて電圧指令値v
dc、v
qcをU、V、Wの各相の電圧指令値に変換する。PWMコンバータ652は、U、V、Wの各相の電圧指令値に応じてブリッジ回路124のパワートランジスタのゲートを駆動するPWM信号を生成する。
【0044】
続いて、制御部160によるコンバータ部120の駆動制御処理について説明する。
【0045】
先ず、コンバータ部120の電源ライン125の電圧方程式は、次式(1)のように表わされる。この式は、電源ライン125のU、V、Wの三相の入力電圧(Vu、Vv、Vw)、電流(i
u、i
v、i
w)の変化によるLCフィルタ122の電圧降下、および電源ライン125の出力電圧(v
u、v
v、v
w)の各瞬時値の関係を、d−q変換したものである。
【0046】
【数1】
ここで、RはLCフィルタ122の各相のリアクトルの抵抗値、LはLCフィルタ122の各相のインダクタンス値、ωは電源110の角周波数である。また、v
d、v
qはブリッジ回路124へ供給される三相の出力電圧v
u、v
v、v
wをd−q変換した値を示す。i
d、i
qは三相の電源ライン125の電流値i
u、i
v、i
wをd−q変換した値を示す。Vdは電源110から入力される電圧をd−q変換したd軸成分を示す。Vdは電源110の電圧の実効値と同値である。理論上のd−q軸は、電源110の角周波数と合致しているため、右辺第4項のq軸成分の電圧値(実効値Vq)はゼロとなっている。
【0047】
式(1)の電圧方程式において、容量成分による電圧降下の項が省略されているのは、LCフィルタ122のコンデンサが電源周波数帯域で非常に小さなインピーダンスしか持たず無視できることによる。
【0048】
また、式(1)において、リアクトルの抵抗成分RはインピーダンスωLに比べて非常に小さい。また、d軸およびq軸の電流成分の変化量は他項に比べて非常に小さい。このため、式(1)の右辺第1項と右辺第2項とは無視できる。よって、電源ライン125の電圧方程式は、次式(2)のように表わすことができる。
【数2】
【0049】
一方、電流制御部164は、式(2)に従って、電流指令値Id_ref、Iq_refを電圧指令値v
dc、v
qcに変換する。電流制御部164の各入出力値を、
図2の回路に従って加減算すると、次式(3)のようになる。
【数3】
ここで、Idfb、Iqfbは、電源ライン125から検出された電流Iufb、Ivfbをd−q変換した値、v
dc_PI、v
qc_PIはPI演算器641、642の出力、ωは電圧位相検出部161により検出された電源110の角周波数である。また、右辺第3項の{Vd、0}は、電流制御部164の外部から与えられる参照電圧である。
【0050】
式(3)において、検出された電流値Idfb、Iqfbが、実際の電流値i
d、i
qと同値となり、出力電圧v
d、v
qが電圧指令値v
dc、v
qcと同値となったとする。この条件で、式(3)と式(2)とを比較すると、PI演算器641、642の出力v
dc_PI、v
qc_PIがゼロであるときに、両式が一致することがわかる。
【0051】
PI演算器641、642は、PI(比例・積分)演算により、電流指令値Id_ref、Iq_refに追従して、出力v
dc_PI、v
qc_PIが速やかにゼロに収束するように演算を行う。出力v
dc_PI、v
qc_PIがゼロとなれば、電流制御部164が出力する電圧指令値v
dc、v
qcは、電圧方程式(2)の出力電圧v
d、v
qに合致した値となる。電圧指令値v
dc、v
qcは、PWM信号生成部165へ出力され、PWM信号生成部165は、電圧指令値v
dc、v
qcを満たすようにブリッジ回路124を駆動する。
【0052】
このような制御処理により、検出された電流値Idfb、Iqfbが速やかに電流指令値Id_ref、Iq_refに収束するようなコンバータ部120の駆動が実現する。電流指令値Iq_refがゼロに設定されていることで、力率が目標力率「1」になるようにコンバータ部120が動作する。
【0053】
続いて、制御部160の角周波数推定部170と減算器180について説明する。
【0054】
角周波数推定部170は、電流制御部164の制御信号から電源110の推定角周波数ω
Sを演算する。角周波数推定部170は、演算器171と、比例増幅器172と、加算器173と、積分器174とを有する。
【0055】
演算器171は、電流制御部164のPI演算器641、642の出力v
dc_PI、v
qc_PIから、推定角周波数ω
Sの変化量Δθを演算する。この演算方法の詳細は後述する。
【0056】
比例増幅器172は、角周波数推定部170の動作周波数に基づいて、変化量Δθを角周波数の単位に換算する比例演算を行って、推定角周波数の補正量Δω
Sを出力する。
【0057】
加算器173は、1回の演算ステップ前に保持された補正前の推定角周波数ω
S*に、補正量Δω
Sを加算して補正後の推定角周波数ω
Sを計算する。補正後の推定角周波数ω
Sは、後段へ出力される一方、次の演算ステップの補正前の推定角周波数ω
S*として保持される。
【0058】
積分器174は、推定角周波数ω
Sを時間で積分して、推定される位相角θ
Sを計算する。
【0059】
減算器180は、電圧位相検出部161が検出した電源110の角周波数ωと、角周波数推定部170の推定角周波数ω
SとのズレΔωを算出し、これを外部の上位のコントローラ等へ出力する。
【0060】
続いて、演算器171の演算処理の内容について説明する。
【0061】
上述した式(1)、(2)の電圧方程式を、制御部160の値を用いて表すと、次式(4)、(5)のようになる。
【0063】
制御部160が推定したd軸およびq軸の位相角は、電源110の実際のd軸およびq軸の位相角と僅かな差が生じる。このため、式(4)、(5)の右辺最後の項は、位相角の差Δθを反映した入力電圧を表わしている。
【0064】
ここで、式(5)をΔθについてまとめると、次式(6)が得られる。また、式(6)を式(3)に従って出力v
dc_PI、v
qc_PIを用いて表すと、続く式(7)が得られる。
【0066】
制御部160は、電源110のd軸およびq軸の位相角が実際値と一致するように制御することから、位相角の差Δθは、推定角周波数ω
Sの変化量を表わす値となる。
【0067】
演算器171は、式(7)に従って、PI演算器641、642の出力v
dc_PI、v
qc_PIと、電源110の電圧実効値Vdとを用いて、推定角周波数ω
Sの変化量Δθを計算する。具体的には、演算器171は、ルックアップテーブルを用いることで、式(7)の演算を行うことができる。
【0068】
制御部160は、電源110の角周波数ωに対して高速で動作するので、推定角周波数ω
Sの変化量Δθは十分に小さくなる。この条件を、式(6)、(7)に適応すると、次式(8)、(9)のように表わすことができる。
【数6】
【0069】
よって、演算器171は、式(7)の代わりに、式(9)を用いて推定角周波数ω
Sの変化量Δθを計算するようにしてもよい。この場合、ルックアップテーブルを用いずに、より簡単な回路の構成で演算を行うことができる。
【0070】
図3は、実施の形態のコンバータを用いた応用例を示す図である。
図4は、回路異常が発生した際の推定角周波数ω
SのズレΔωを時系列に示したグラフの一例である
【0071】
減算器180が計算した推定角周波数ω
Sと実際値ωとのズレΔωは、コンバータ部120の様々な状態変化を監視する用途に利用できる。例えば、
図3のように、減算器180は、計算したズレΔωを、コンバータ部120の電源ライン125の断線を判断する断線判断部181と、力率の低下を判断する力率低下判断部182とへ出力する構成としてもよい。断線判断部181は、本発明に係る異常判断部の一例に相当する。断線判断部181と力率低下判断部182とは上位のコントローラに含まれる構成としても、制御部160に含まれる構成としてもよい。
【0072】
図4の前半部に示すように、コンバータ部120が標準的な動作をしていれば、ズレΔωはゼロの近傍を推移する。一方、コンバータ部120では、例えば、電源ライン125の断線、或いは、素子破壊によるLCフィルタ122の一部の抵抗増大など、潜在的に回路異常が生じる可能性を有している。このようにコンバータ部120に回路異常が生じると、
図4の後半部に示すように、ズレΔωが大きくなって、閾値th1、th2を超えることになる。
【0073】
断線判断部181は、例えばズレΔωに基づいて電源ライン125の断線の有り又は無しを判断する。具体的には、断線判断部181は、ズレΔωと第1閾値th1および第2閾値th2とを比較して、ズレΔωが第1閾値th1を上回るか、第2閾値th2を下回るかした場合に、電源ライン125の断線と判断すればよい。また、第1閾値th1から第2閾値th2までを基準範囲として、断線判断部181は、ズレΔωが所定期間、基準範囲を外れた場合に、断線と判断するようにしてもよい。
【0074】
力率低下判断部182は、ズレΔωに基づいてコンバータ部120の力率低下の有り又は無しを判断する。具体的には、力率低下判断部182は、ズレΔωと図示略の第3閾値th3および第4閾値th4とを比較して、ズレΔωが第3閾値th3を上回るか、第4閾値th4を下回るかした場合に、力率低下と判断すればよい。なお、第3閾値th3から第4閾値th4を基準範囲として、断線判断部181は、所定期間、ズレΔωが基準範囲を外れた場合に、力率低下と判断するようにしてもよい。
【0075】
このような制御処理によって、上位のコントローラは、電源ライン125の断線或いはコンバータ部120の力率低下などの状態変化が生じたときに、これを速やかに検出して、例えば、コンバータ部120に供給されている電源110を切断したり、射出成形機100の異常が波及する部位を停止させたりするなど、異常に対処することができる。
【0076】
以上のように、この実施の形態の射出成形機100およびコンバータによれば、角周波数推定部170と減算器180が推定角周波数ω
Sと実際値ωとのズレΔωを計算する。コンバータ部120に断線または力率低下などの状態変化が生じた場合、ズレΔωの値はこのような状態変化を反映して速やかに変化する。このため、制御部160に接続された上位コントローラは、計算されたズレΔωの値を用いて、コンバータ部120の状態変化を速やかに判定することができる。さらに、角周波数推定部170と減算器180とはフィルタ回路を要さない簡単な回路構成により実現できる。よって、ズレΔωの演算機能は容易に制御部160へ追加できる。
【0077】
さらに、この実施の形態の射出成形機100およびコンバータによれば、コンバータ部120がPWM方式で駆動される。よって、コンバータ部120を駆動制御するための制御値を流用して、ズレΔωの計算を簡単に行うことができる。具体的には、電流制御部164のPI演算器641、642の出力v
dc_PI、v
qc_PIを流用して、推定角周波数ω
Sを簡単に求めることができる。
【0078】
また、この実施の形態の射出成形機100およびコンバータによれば、電源110の電圧位相の検出から求められる電源110の角周波数ωと推定角周波数ω
Sとの差を、推定角周波数ω
SのズレΔωとして計算する。よって、簡単な構成でズレΔωを計算し、コンバータ部120の状態変化を正確に判定することができる。
【0079】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限られるものではない。例えば、上記実施の形態では、電源の角周波数ωから推定角周波数ω
Sを減算してズレΔωを求めている。しかしながら、電源110の位相角θとブリッジ回路124を駆動する位相角とは同期するように制御されることから、推定角周波数ω
Sのズレは位相角θのズレとなって表れる。従って、位相角θ、θ
Sの差を推定角周波数ω
SのズレΔωとして求めてもよい。
【0080】
また、コンバータ部の制御方式は、PWM方式に限られず、例えばPAM(Pulse Amplitude Modulation)方式としてもよい。さらに、本発明に係る射出成形機において、モータの種類は上述の種類に制限されることはなく、様々な種類のモータを適用してもよい。また、本発明に係るコンバータは、交流電力と直流電力とを変換するものであれば、どのような装置に適用されてもよい。