(54)【発明の名称】リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位が化学修飾されたリグノセルロース誘導体、それを含む繊維、繊維集合体、それらを含有する組成物及び成形体
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、委託期間:平成25年9月6日から平成28年3月31日まで、開発項目「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/研究 開発項目2 木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発/高機能リグノセルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【文献】
CELLULOSE CHEMISTRY AND TECHNOLOGY,2007年,Vol.41, No.7-8,p.363-369
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明のリグノセルロース誘導体を詳しく説明する。
【0047】
(1)α位修飾リグノセルロース誘導体
本発明のα位修飾リグノセルロース誘導体は、
化学修飾されたリグノセルロース誘導体であって、
リグノセルロースに含まれるリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位が、
一般式(1):R
1COO- ・・・(1)
で表されるアシルオキシ基、
一般式(2):R
2O- ・・・(2)
で表されるオキシ基、及び
一般式(3):R
3S- ・・・(3)
で表されるチオ基
からなる群から選ばれる少なくとも一種の特性基で修飾されている。
【0048】
即ち、このα位修飾リグノセルロース誘導体は、リグニン、セルロース及びヘミセルロースを含むリグノセルロース中のリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位水酸基が、上記式(1)〜(3)からなる群から選ばれる少なくとも一種の特性基で置換された化学構造を有するものである。
【0049】
上記式(1)〜(3)中、R
1〜R
3は、同一又は異なって、夫々、置換基を有しても良い、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキジエニル基、シクロアルキジエニル基、アルキトリエニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、ヘテロアリールアルキル基、複素環基(ヘテロシクリル基)、複素環アルキル基(ヘテロシクリルアルキル基)又は水素原子を示す(但し、R
2及びR
3は水素原子、エチニル基ではない)。
【0050】
本発明のリグノセルロース誘導体は、植物繊維と同様に、軽量であり、強度を有し、低線熱膨張係数を有すると共に、熱可塑性を発現できる。
【0051】
以下に本明細書において使用される用語を説明する。
【0052】
リグノセルロースは、植物の細胞壁を構成する、複合炭化水素高分子であり、主に多糖類のセルロース、ヘミセルロースと芳香族高分子であるリグニンから構成されていることが知られている。
【0053】
参照例1:Review Article Conversion of Lignocellulosic Biomass to Nanocellulose: Structure and Chemical Process H. V. Lee, S. B. A. Hamid, and S. K. Zain, Scientific World Journal Volume 2014、Article ID 631013, 20 pages, http://dx.doi.org/10.1155/2014/631013
参照例2:New lignocellulose pretreatments using cellulose solvents: a review, Noppadon Sathitsuksanoh, Anthe George and Y-H Percival Zhang, J Chem Technol Biotechnol 2013; 88: 169-180
本明細書で使用される「リグノセルロース」の用語は、植物中に天然に存在する化学構造のリグノセルロース又は/及びリグノセルロース混合物、人工的に改変されたリグノセルロース又は/及びリグノセルロース混合物を意味する。前記混合物は、例えば、天然の植物から得られる、木材、これを機械的又は/及び化学的に処理して得られる種々のパルプ中に含まれる化学構造のリグノセルロース又は/及びリグノセルロース混合物である。
【0054】
本明細書にいうリグノセルロースは、天然に存在する化学構造のリグノセルロースに限定されるものではなく、また、リグノセルロース中のリグニン含有量も限定されるものではない。本明細書にいうリグノセルロースには、後述するリグノセルロース原料に含まれるいかなる化学構造のいかなる分子量のリグノセルロースとその混合物が包含される。
【0055】
本明細書で使用される「リグノセルロース誘導体」の用語は、本明細書にいう上記のリグノセルロースから化学的に導かれる高分子物質であって、単一化学構造の物質に限定されず、リグノセルロースが化学変性された種々の化学構造、分子量の高分子化合物の混合物も包含する。
【0056】
(1-1)リグノセルロースの原料
リグノセルロース誘導体の原料には、リグノセルロースを含有する繊維又はリグノセルロースを含有する繊維集合体を使用することができる。リグノセルロースを含有する繊維集合体には、植物由来パルプ、木粉、木片等の他、あらゆる形状のリグノセルロースを含有する繊維集合体が含まれる。
【0057】
本発明のリグノセルロース誘導体の製造には、植物由来素材等のリグノセルロースが含まれている植物性原料を使用することができる。植物性原料として、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ等の植物由来素材、バガス、藁、ビート絞りかす等の農産物残廃物等を用いることができる。それらリグノセルロースが含まれている植物性原料を、片状、紛状、繊維状等の形状にして使用することができる。これらの原料は、本発明のリグノセルロース誘導体の製造に適している。
【0058】
本発明のリグノセルロース誘導体の製造原料の代表的な例はパルプである。パルプは、木材等の植物由来素材を化学的又は/及び機械的に処理してそこに含まれる繊維を取り出したものである。これは、植物由来素材の化学的、生化学的処理の程度によりヘミセルロース及びリグニンの含有量は低くなり、セルロースを主成分とする繊維となる。パルプは本発明にいう「植物繊維集合体」の内の一つである。
【0059】
パルプ製造用の木材としては、例えば、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ、アカシア等を用いることができる。リグノセルロース誘導体の製造には、例えば、古紙、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌、コピー用紙等の古紙を用いることもできる。
【0060】
リグノセルロース誘導体の原料として、一種の植物繊維又は二種以上の植物繊維を組み合わせて用いることもできる。
【0061】
パルプは、植物性原料を機械パルプ化法、化学パルプ化法又は機械パルプ化法と化学パルプ化法との組み合わせにより処理して、得ることができる。機械パルプ化法は、リグニンを残したまま、グラインダーやリファイナー等の機械力によりパルプ化する方法である。化学パルプ化法は、薬品を使用して、リグニンの含有量を調整することによりによりパルプ化する方法である。
【0062】
機械パルプ(MP)としては、砕木パルプ(GP)、リファイナーGP(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、晒化学サーモメカニカルパルプ(BCTMP)等を用いることができる。
【0063】
機械パルプ化法と化学パルプ化法との組み合わせで製造されたパルプとしては、ケミメカニカルパルプ(CMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)等を用いることができる。セミケミカルパルプ(SCP)としては、亜硫酸塩法、冷ソーダ法、クラフト法、ソーダ法等で製造されたパルプを用いることができる。
【0064】
化学パルプ(CP)としては、亜硫酸パルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)、クラフトパルプ(KP)、溶解用クラフトパルプ(DKP)等を用いることができる。
【0065】
機械パルプ、化学パルプ等のパルプを主成分とする、脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプも用いることができる。
【0066】
本発明のリグノセルロース誘導体の原料として、これらのパルプの中でも、繊維が高い強度を示すという理由から、針葉樹を原料としたパルプを用いることが好ましい。また、植物原料のパルプ化法には、植物原料中のリグニンが完全には除去されず、パルプ中でリグニンが適度に存在するパルプ化法であれば制限なく適用できる。
【0067】
例えば、植物原料を機械的にパルプ化する機械パルプ化法が好ましい。リグノセルロース誘導体の製造に用いるパルプとしては、砕木パルプ(GP)、リファイナーGP(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の機械パルプ(MP)を用いることが好ましい。
【0068】
本発明のリグノセルロース誘導体、これを含む繊維及び繊維集合体の製造原料として使用されるリグノセルロース、リグノセルロース繊維又はこの繊維集合体におけるリグニンの含有率は、これら原料中に化学修飾が可能な程度のリグニンを含んでいればよく、その含有量には限定がない。
【0069】
リグニンの含有率は、得られるリグノセルロース誘導体を含む繊維、繊維集合体の強度、熱可塑性、熱安定性等の点から、1〜40重量%程度が好ましく、3〜35重量%程度がより好ましく、5〜35重量%程度が更に好ましい。リグニン含有量の測定は、Klason法により測定することができる。
【0070】
本発明α位修飾リグノセルロース誘導体とリグノセルロース二重修飾体におけるリグニン成分の含有率は、その製造原料、例えば、パルプ中のリグニンをこれらリグノセルロース誘導体の製造工程で除去しない場合、原料パルプにおけるリグニン含有率とほぼ同じとなる。
【0071】
(1-2)繊維又は繊維集合体
本明細書で使用される用語「繊維」は、細い糸状の物質を意味し、生物体を組織する構造のうち細い糸状のもの、それを生物体から取り出したもの、又はそれを物理的に又は化学的に処理した糸状のものも意味する。
【0072】
本明細書で使用される「繊維集合体」とは、上記でいう繊維が集合したものを意味し、パルプ、木粉、木片等、並びにこれらを物理的に又は/及び化学的に処理したものが繊維集合体に包含される。
【0073】
本発明のリグノセルロース誘導体の製造に用いられる原料はリグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体であることが好ましい。リグノセルロース誘導体は繊維又は繊維集合体の形状であることが好ましい。
【0074】
本発明のリグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体は、好ましくはこれらをミクロフィブリル化(後述)した状態で、圧縮することで成形体を作製することができる(圧縮成形体)。
【0075】
本明細書では、本発明のリグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体を圧縮して得た成形体を「圧縮成形体」といい、特に加熱下で圧縮して得た成形体を「熱圧成形体という。
【0076】
(1-3)ミクロフィブリル化(解繊処理)
本発明では、リグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体がミクロフィブリル化されていることが、これの成形性の観点から、好ましい。
【0077】
本明細書では、ミクロフィブリル化リグノセルロースを「MFLC」、ミクロフィブリル化リグノセルロース誘導体を「MFLC誘導体」と略記することもある。
【0078】
植物の細胞壁は主として、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンからなる成分(即ち、リグノセルロース)から構成されている。
【0079】
植物細胞壁の微細構造では、通常、約40本のセルロース分子が、水素結合で結合し、通常、幅4〜5nm程度のセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)を形成し、セルロースミクロフィブリルが数個集まってセルロース微繊維(セルロースミクロフィブリル束)を形成している。
【0080】
そして、ヘミセルロースはセルロースミクロフィブリル同士の間隙やセルロースミクロフィブリルの周囲に存在し、リグニンはセルロースミクロフィブリル同士の間隙に充填された状態で存在していることが知られている。
【0081】
パルプ(植物繊維)等のリグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体を解繊することにより、ミクロフィブリル化リグノセルロース(MFLC)を調製することができる。解繊方法としては、例えば、リグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体の水懸濁液又はスラリーを、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機、ビーズミル等による機械的な摩砕又は叩解することにより解繊する方法が使用できる。多軸混練機としては、二軸混練機が好ましい。
【0082】
必要に応じて、上記の解繊方法を組み合わせて処理することができる。これらの解繊処理の方法としては、例えば、特開2009-19200号公報に記載された解繊方法等を用いることができる。
【0083】
ミクロフィブリル化リグノセルロース(MFLC)は、リグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体(例えば、パルプ、木材、木粉、木片等の材料)の繊維をナノサイズレベルまで解きほぐした(解繊処理した)ものである。
【0084】
MFLC繊維の繊維径(繊維幅)の平均値は4〜200nm程度が好ましく、繊維長の平均値は5μm程度以上が好ましい。MFLC繊維の繊維径の平均値は、4〜150nm程度がより好ましく、4〜100nm程度が更に好ましい。MFLCの繊維径の平均値(平均繊維径)及び繊維長の平均値(平均繊維長)は、電子顕微鏡の視野内のMFLCの少なくとも50本以上について測定した時の平均値である。
【0085】
MFLCの比表面積は、70〜300m
2/g程度が好ましく、70〜250m
2/g程度がより好ましく、100〜200m
2/g程度が更に好ましい。MFLCの比表面積を高くすることで、マトリクス材料(後述)に対する接触面積を大きくすることができ、MFLC及びマトリクス材料を含む組成物の強度を向上させることができる。また、MFLCは組成物のマトリクス材料中で凝集せず、成形体の強度を向上させることができる。
【0086】
MFLCは、高比表面積(70〜300m
2/g程度)であり、鋼鉄と比較して軽量であり且つ高強度である。MFLCは、ガラスと比較して熱変形が小さい(低熱膨張)。MFLCは、高強度且つ低熱膨張であり、持続型資源材料として有用な素材である。MFLCとマトリクス材料等の高分子材料とを組み合わせて高強度及び低熱膨張とする複合材料を作製することが可能である。
【0087】
本発明のミクロフィブリル化リグノセルロース誘導体(MFLC誘導体)は、上記のMFLCを後述の方法により化学修飾するか、又は化学修飾されたMFLC繊維又は化学修飾されたMFLC繊維集合体を、例えば特開2009-19200号公報に記載された解繊方法で解繊して得ることができる。
【0088】
またマトリクス材料(後述)との複合体を作成するときは、マトリクス材料とリグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体とを混練して、マトリクス内でこれをミクロフィブリル化することもできる。
【0089】
MFLC誘導体繊維の繊維径(繊維幅)の平均値も、MFLCと同様に、4〜200nm程度が好ましく、繊維長の平均値は5μm程度以上が好ましい。MFLC誘導体の繊維径の平均値は、4〜150nm程度がより好ましく、4〜100nm程度が更に好ましい。MFLCの繊維径の平均値(平均繊維径)及び繊維長の平均値(平均繊維長)は、電子顕微鏡の視野内のMFLCの少なくとも50本以上について測定した時の平均値として求めることができる。
【0090】
MFLC誘導体の製造にMFLCを使用した場合、MFLC誘導体の繊維径(繊維幅)の平均値は、フィブリル化工程を実施しない限りMFLCのそれと略同じとなる。
【0091】
(1-4)リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位(リグニンα位)
リグノセルロース中のリグニンはセルロース又はヘミセルロースと複合体を形成していると考えられている。リグニンには多様な分子間の結合様式があるが、その基本単位は
図1に示すフェニルプロパン単位を基本骨格とするものである。
【0092】
リグニンの中で最も多く存在するものが2-(2-メトキシフェノキシ)-1-(3-メトキシ-4オキシフェニル)-1,3-プロパンジオール(
図1の化学式中、R
1=R
2=H)を基本単位とするβ-0-4型結合体(
図2)である。この結合様式はリグニン全体の50〜70%を占めており、工業的なリグニンの分解工程においてはこの結合を優先的に切断する処理方法が採用されている。
【0093】
参照:http://www.jst.go.jp/pr/announce/20150109/、Plant Biotechnol J. 2015 Jan 8. doi: 10.1111/pbi.12316. [Epub ahead of print]
リグノセルロース中のリグニンはフェニルプロパン単位を基本骨格にしている。
【0094】
本発明のα位修飾リグノセルロース誘導体は、
化学修飾されたリグノセルロース誘導体であって、
リグノセルロースに含まれるリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位(即ち、ベンジル位)の炭素原子が修飾されたものである。リグノセルロースに含まれるリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位(以下「リグニンα位」とも記す)にはヒドロキシ基(-OH)が存在しているが、本発明のリグノセルロース誘導体中のリグニンα位には、
一般式(1):R
1COO- ・・・(1)
で表されるアシルオキシ基、
一般式(2):R
2O- ・・・(2)
で表されるオキシ基、及び
一般式(3):R
3S- ・・・(3)
で表されるチオ基
からなる群から選ばれる少なくとも一種の特性基を有する。
【0095】
上記式(1)〜(3)中、R
1〜R
3は、同一又は異なって、夫々、置換基を有しても良い、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキジエニル基、シクロアルキジエニル基、アルキトリエニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、ヘテロアリールアルキル基、複素環基(ヘテロシクリル基)、複素環アルキル基(ヘテロシクリルアルキル基)又は水素原子を示す(但し、R
2及びR
3は水素原子、エチニル基ではない)。
【0096】
本発明のリグノセルロース誘導体は、そのリグニンα位に上記一般式(1)、(2)又は(3)で示される基を有することが特徴である。本発明のリグノセルロース誘導体の製造方法は後述する。本発明のリグノセルロース誘導体の製造方法(後述)において、リグニンα位の特性基は、原料のリグノセルロース中のリグニンα位のヒドロキシ基が上記一般式(1)、(2)又は(3)で示される基で置換されたものと推定されるが、正確な反応機構の解明はしておらず今のところ不明である。
【0097】
上記式(1)〜(3)中のR
1〜R
3は、同一又は異なって、夫々、置換基を有しても良い、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキジエニル基、シクロアルキジエニル基、アルキトリエニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、ヘテロアリールアルキル基、複素環基(ヘテロシクリル基)、複素環アルキル基(ヘテロシクリルアルキル基)又は水素原子を示す(但し、R
2及びR
3は水素原子、エチニル基ではない)。
【0098】
前記アルキル基、アルケニル基、アルキジエニル基、アルキトリエニル基は、直鎖状若しくは分岐鎖状であっても良い。
【0099】
式(1)〜(3)中のR
1〜R
3がアルキル基の場合、置換基を有しても良く、C1-C17のアルキル基が好ましい。特に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ピバル基(tert-ブチル基、(CH
3)
3C-)、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、ウンデカニル基、トリデカニル基、ペンタデカニル基、ヘプタデカニル基(CH
3(CH
2)
16-)が好ましい。
【0100】
式(1)〜(3)中のR
1〜R
3がシクロアルキル基の場合、置換基を有しても良く、C4-C8のシクロアルキル基が好ましい。シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等がある。
【0101】
式(1)〜(3)中のR
1〜R
3がアルケニル基の場合、置換基を有しても良く、C2-C17のアルケニル基が好ましい。一般式は C
nH
2n-1- であり、ビニル基 (CH
2=CH-) のように不飽和炭素原子上にあっても、アリル基 (CH
2=CHCH
2-)のように飽和炭素原子上にあってもよい。その他、プロペニル基、イソプロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチルアリル基、2-ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基等がある。
【0102】
式(1)〜(3)中のR
1〜R
3がアルキニル基の場合、C2-C8のアルキニル基(但し、R
2及びR
3は夫々、エチニル基(HC≡C-)ではない)が好ましい。これらの中で2-プロピニル基が特に好ましい。
【0103】
式(1)〜(3)中のR
1〜R
3がシクロアルケニル基の場合、置換基を有しても良く、C4-C8のシクロアルケニル基が好ましい。シクロブテニル基、2-シクロペンテン-1-イル基、2-シクロヘキセン-1-イル基、3-シクロヘキセン-1-イル基等がある。
【0104】
式(1)〜(3)中のR
1〜R
3がアルキジエニル基の場合、置換基を有しても良く、C4-C17のアルキジエニル基が好ましい。1,3-ブタジエニル基(CH
2=CH-CH=CH-)等がある。
【0105】
式(1)〜(3)中のR
1〜R
3がシクロアルキジエニル基の場合、置換基を有しても良く、C4-C8のシクロアルキジエニル基が好ましい。シクロペンタジエニル基等がある。
【0106】
式(1)〜(3)中のR
1〜R
3がアルキトリエニル基の場合、置換基を有しても良く、C6-C17のアルキトリエニル基が好ましい。ヘキサトリエニル基(CH
2=CH−CH=CH−CH=CH-)、ヘプタトリエニル基、オクタトリエニル基等がある。
【0107】
式(1)〜(3)中のR
1〜R
3がアリール基の場合、置換基を有しても良く、特にフェニル基(C
6H
5-)が好ましい。
【0108】
式(1)〜(3)中のR
1〜R
3がアラルキル基の場合、置換基を有しても良く、ベンジル基(フェニルメチル基、C
6H
5CH
2-)等のアリール基置換低級アルキル基が好ましい。
【0109】
本明細書で使用する「低級」は「炭素数が1〜5である」ことを示す。
【0110】
例えば「低級アルキル基」とは、炭素数が1〜5のアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基等の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基である。
【0111】
式(1)〜(3)中のR
1〜R
3がヘテロアリール基の場合、置換基を有しても良く、ピリジル基、低級アルキル基置換ピリジル基、チエニル基、低級アルキル基置換チエニル基、インドリル基、又は低級アルキル基置換インドリル基が好ましい。
【0112】
式(1)〜(3)中のR
1〜R
3が有しても良い置換基として、低級アルキル基が好ましい。
【0113】
一般式(1):R1COO- ・・・(1)
本発明のリグノセルロース誘導体のリグニンα位は、特に
一般式(1):R
1COO- ・・・(1)
で表されるアシルオキシ基(R
1は前記と同じ)を有することが好ましい。
【0114】
一般式(1)で表されるアシルオキシ基は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ペラルゴン酸、デカン酸(カプリン酸)、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸及びアラキジン酸から選ばれる飽和脂肪酸;
フェノキシ酢酸、3-フェノキシプロピオン酸、4-フェノキシ酪酸、5-フェノキシ吉草酸から選ばれる芳香族置換飽和脂肪酸;
アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる不飽和カルボン酸;
クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸及びリシノール酸から選ばれるモノ不飽和脂肪酸;
ソルビン酸、リノール酸及びエイコサジエン酸から選ばれるジ不飽和脂肪酸;
リノレン酸、ピノレン酸及びエレオステアリン酸から選ばれるトリ不飽和脂肪酸;
ステアリドン酸及びアラキドン酸から選ばれるテトラ不飽和脂肪酸;
ボセオペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれるペンタ不飽和脂肪酸;ドコサヘキサエン酸及びニシン酸から選ばれるヘキサ不飽和脂肪酸;
安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシベンゼンカルボン酸)、ケイ皮酸(3-フェニルプロパ-2-エン酸)から選ばれる芳香族カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸及びマレイン酸から選ばれるジカルボン酸;
グリシン、β-アラニン及びε-アミノカプロン酸(6-アミノヘキサン酸)から選ばれるアミノ酸;
マレイミド化合物:
【0118】
からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物のカルボキシル基から水素原子を除去した残基であることが好ましい。
【0119】
一般式(1)で表されるアシルオキシ基は、特に、酢酸、プロピオン酸、ピバル酸、カプリン酸(デカン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸から選ばれる飽和脂肪酸;
フェノキシ酢酸、3-フェノキシプロピオン酸から選ばれる芳香族置換飽和脂肪酸、安息香酸及びフタル酸から選ばれる芳香族カルボン酸;
クロトン酸、アクリル酸及びメタクリル酸、オレイン酸、リノール酸から選ばれる不飽和カルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物のカルボキシ基から水素原子を除去した残基であることが好ましい。
【0120】
一般式(2):R2O- ・・・(2)
前記一般式(2)で表されるオキシ基は、リグノセルロースのリグニンα位で反応させて本発明のα位修飾リグノセルロース誘導体を製造する際の反応性の観点から立体障害の少ないものが好ましい。そのオキシ基は、メタノール、エタノール、炭素数3〜12の直鎖アルコール、イソプロパノール、イソブタノール、シクロオキサノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、フェノール、4-メチルフェノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、グリコール酸低級アルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物のヒドロキシ基から水素原子を除去した残基が好ましい。
【0121】
一般式(3):R3S- ・・・(3)
前記一般式(3)で表されるチオ基もリグノセルロースのリグニンα位で反応させて本発明のα位修飾リグノセルロース誘導体を製造する際の反応性の観点から、立体障害の少ないものが好ましい。
【0122】
そのチオ基は、メタンチオール、エタンチオール、炭素数3〜12の直鎖アルカンチオール、イソプロパンチオール、イソブタンチオール、2-プロペン-1-チオール、シクロヘキサンチオール、ベンジルメルカプタン、シクロヘキサンメタンチオール、チオフェノールからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物のチオール基から水素原子を除去した残基が好ましい。
【0123】
(1-5)リグニンα位修飾度(便宜上、α位置換度又はDSαともいう)
本発明のリグノセルロース誘導体に含まれるリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位(即ち、リグニンα位)は、前記一般式(1)〜(3)からなる群から選ばれる少なくとも一種の特性基を有する。
【0124】
これら特性基によりリグニンα位が修飾されている程度を、α位修飾度(便宜上、置換度又はDSα)と記す。α位修飾度(DSα)は、後記の実施例の項で定義される通りである。α位修飾度は、FT-IR、NMR等の各種分析方法により測定することができる。
【0125】
α位修飾度の最大値は、使用するリグノセルロース中のリグニン量に依存するが、0.5程度となる。
【0126】
一般式(1)〜(3)からなる群から選ばれる少なくとも一種の置換基により置換されたα位修飾度は、0.01〜0.5程度が好ましく、0.06〜0.4程度が更に好ましい。α位修飾度を0.01〜0.5程度に設定することによって、反応時間及び使用試薬量を少なくして、リグノセルロース誘導体の熱安定性向上という効果が得られる。
【0127】
本発明のリグノセルロース誘導体は、特にリグニンα位に、特定の修飾基を有することから、汎用のプラスチックと同様に、加熱すると軟化して成形し易くなり、冷やすと再び固くなる性質(熱可塑性)を持ち、良好な加工性を発現できる。
【0128】
(2)リグノセルロース二重修飾体
α位修飾リグノセルロース誘導体中のセルロース、ヘミセルロース中の水酸基が修飾された誘導体をリグノセルロース二重修飾体とよぶ。
【0129】
本発明のリグノセルロース二重修飾体は、化学修飾されたリグノセルロース誘導体であって、(A)前記リグノセルロースのリグニンα位の修飾に加え、
(B)
α位修飾リグノセルロース誘導体を構成しているセルロース及びヘミセルロースの少なくとも一種中に存在する水酸基(即ち、α位修飾リグノセルロース誘導体の糖鎖水酸基)が、飽和脂肪酸、不飽和カルボン酸、モノ不飽和脂肪酸、ジ不飽和脂肪酸、トリ不飽和脂肪酸、テトラ不飽和脂肪酸、ペンタ不飽和脂肪酸、ヘキサ不飽和脂肪酸、芳香族カルボン酸、ジカルボン酸、アミノ酸、
マレイミド化合物:
【0133】
からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物のカルボキシ基から水素原子を除去した残基によって置換されていることが好ましい。
【0134】
飽和脂肪酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヘキサン酸 (カプロン酸)、ヘプタン酸 (エナント酸)、オクタン酸 (カプリル酸)、ペラルゴン酸、デカン酸 (カプリン酸)、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸及びアラキジン酸等が好ましい。
【0135】
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等が好ましい。
【0136】
モノ不飽和脂肪酸としては、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リシノール酸等が好ましい。
【0137】
ジ不飽和脂肪酸としては、ソルビン酸、リノール酸、エイコサジエン酸等が好ましい。
【0138】
トリ不飽和脂肪酸としては、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸等が好ましい。
【0139】
テトラ不飽和脂肪酸としては、ステアリドン酸及びアラキドン酸から選ばれる等が好ましい。
【0140】
ペンタ不飽和脂肪酸としては、ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸等が好ましい。
【0141】
ヘキサ不飽和脂肪酸としては、ドコサヘキサエン酸、ニシン酸等が好ましい。
【0142】
芳香族カルボン酸としては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシベンゼンカルボン酸)、ケイ皮酸(3-フェニルプロパ-2-エン酸)等が好ましい。
【0143】
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等が好ましい。
【0144】
アミノ酸としては、グリシン、β-アラニン、ε-アミノカプロン酸(6-アミノヘキサン酸)等が好ましい。
【0145】
前記リグノセルロース二重修飾体を含む繊維又は繊維集合体(リグノセルロース含有材料)を圧縮することで成形体を得ることができる。これを、リグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体の圧縮成形体と記す。
【0146】
(3)α位修飾リグノセルロース誘導体の製造方法
本発明のα位修飾リグノセルロース誘導体は、前記リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位に、前記一般式(1)で表されるアシルオキシ基、一般式(2)で表されるオキシ基、及び一般式(3)で表されるチオ基からなる群から選ばれる少なくとも一種の特性基を有する。
【0147】
本発明の(A)リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位が、
一般式(1):R
1COO- ・・・(1)
で表されるアシルオキシ基、
一般式(2):R
2O- ・・・(2)
で表されるオキシ基、及び
一般式(3):R
3S- ・・・(3)
で表されるチオ基
からなる群から選ばれる少なくとも一種の特性基で修飾されているリグノセルロース誘導体の製造方法は、
(a)亜塩素酸塩又はルイス酸の存在下に、
リグノセルロースと
一般式(1’):R
1COOH ・・・(1’)
で表されるカルボン酸、
一般式(2’):R
2OH ・・・(2’)
で表されるアルコール、及び、
一般式(3’):R
3SH ・・・(3’)
で表されるチオールからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とする。
【0148】
前記式(1)〜(3)及び式(1’)〜(3’)中、R
1〜R
3は、同一又は異なって、夫々、置換基を有しても良い、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキジエニル基、シクロアルキジエニル基、アルキトリエニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、ヘテロアリールアルキル基、複素環基(ヘテロシクリル基)、複素環アルキル基(ヘテロシクリルアルキル基)又は水素原子を示す。但し、R
2及びR
3は水素原子、エチニル基ではない。
【0149】
α位修飾リグノセルロース誘導体は、リグノセルロースを含む原料を使用し、そのリグノセルロースのリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位(即ち、ベンジル位、リグニンα位ともいう)を選択的に修飾することにより、製造することができる。
【0150】
つまり、リグノセルロースのリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位を、前記一般式(1)で表されるアシルオキシ基、一般式(2)で表されるオキシ基、及び一般式(3)で表されるチオ基からなる群から選ばれる少なくとも一種の特性基で選択的に修飾することにより、製造することができる。
【0151】
本発明の製造方法において、本発明のリグノセルロース誘導体のリグニンα位の特性基は、原料のリグノセルロース中のリグニンα位のヒドロキシ基が上記一般式(1)、(2)又は(3)で示される基で置換されたものと推定されるが、その生成機構は今のところ不明である。本発明のリグノセルロース誘導体は、そのリグニンα位に上記一般式(1)、(2)又は(3)で示される基を有することが機器分析(HSQC-NMR等)で確認される。
【0152】
例えば、原料の針葉樹由来砕木パルプ(NGP)のリグニンα位をアセチルオキシ基で修飾した本発明のリグノセルロース誘導体のHSQC-NMRのスペクトルを原料のそれと比較すると、本発明のリグノセルロース誘導体では、元来原料に存在していたHα/Cα=4.9/71.8 ppmのシグナル(
図4参照)が減少し、6.1/74.7 ppmに新たにアセチルオキシ基に基づくHα/Cαのシグナルが出現する(
図5参照)。これにより、リグニンのα位への反応の進行を確認される。
【0153】
また、IR分析では、原料リグノセルロースには1730cm
-1付近にアセチルオキシ基のカルボニル基(C=O)の伸縮振動に基づく吸収ピークは存在しないが、リグニンα位をアセチルオキシ基で修飾すると、1730cm
-1にアセチルオキシ基のカルボニル基(C=O)の伸縮振動に基づく吸収ピークが出現する(
図3参照)。
【0154】
リグノセルロースを含む原料として、リグノセルロースを含む植物繊維(パルプ)、つまり、リグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体を使用することが好ましい。繊維集合体としては、植物由来パルプ、木粉、木片等が好ましい。その他、あらゆる形状のリグノセルロースを含む繊維集合体を使用することができる。リグノセルロースは、天然に存在するリグノセルロースに限定されず、リグノセルロースの含有量も限定されない。
【0155】
リグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体は、少なくとも、リグニン、セルロース及びへミセルロースを含有しているものがリグノセルロース誘導体の原料として使用できる。リグニンは、前述した通り、それ構成するフェニルプロパン単位のα位(即ち、ベンジル位)に水酸基を有している。
【0156】
従って、機械的又は/及び化学的に処理されたパルプも、リグニン部分構造を含むものであれば、リグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体であるので、これを本発明のα位修飾リグノセルロース誘導体の原料として使用することができる。
【0157】
α位修飾リグノセルロースは、次のa法又はb法で製造することができる。
【0158】
α位修飾リグノセルロースは、亜塩素酸塩の存在下(a法)で、又はルイス酸の存在下(b法)で、リグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体(リグノセルロース含有原料)と、リグニンα位の修飾に使用される化合物(以下、これら化合物を「修飾剤」と総称する)とを、反応させることによって製造することができる。修飾剤として、具体的には、下記一般式(1’)〜(3’)で表されるカルボン酸、アルコール及びチオール(メルカプタン)を用いることが好ましい。
【0159】
リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位を、
前記一般式(1):R
1COO- ・・・(1)
で表されるアシルオキシ基で修飾するためには、修飾剤として、
一般式(1’):R
1COOH・・・(1’)
で表されるカルボン酸を用いる。
【0160】
リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位を、
前記一般式(2):R
2O- ・・・(2)
で表されるオキシ基で修飾するためには、修飾剤として、
一般式(2’):R
2OH ・・・(2’)
で表されるアルコールを用いる。
【0161】
リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位を、
前記一般式(3):R
3S- ・・・(3)
で表されるチオ基で修飾するためには、修飾剤として、
一般式(3’):R
3SH ・・・(3’)
で表されるチオールを用いる。
【0162】
一般式(1)〜(3)で表される修飾基中、及び一般式(1’)〜(3’)で表される修飾剤中、R
1〜R
3は、前記と同じであり、同一又は異なって、夫々、置換基を有しても良い、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキジエニル基、シクロアルキジエニル基、アルキトリエニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、ヘテロアリールアルキル基、又は複素環基(ヘテロシクリル基)、複素環アルキル基(ヘテロシクリルアルキル基)又は水素原子を示す(但し、R
2及びR
3は水素原子、エチニル基ではない)。
【0163】
(3-1)a法:亜塩素酸塩を用いるα位修飾リグノセルロース誘導体の製造方法
a法では、亜塩素酸塩の存在下で、リグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体と前記修飾剤とを反応させることによって、α位修飾リグノセルロース誘導体を製造することができる。
【0164】
この反応は、リグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体を溶媒に懸濁して、修飾剤を溶解又は分散して攪拌しながら行うことが好ましい。
【0165】
亜塩素酸塩としては、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸リチウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩や、亜塩素酸マグネシウム、亜塩素酸バリウム、亜塩素酸カルシウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩を使用することが好ましい。亜塩素酸塩としては、溶媒中での安定性及び反応への適用性が良好であるという理由から、亜塩素酸アルカリ金属塩を使用することが好ましく、亜塩素酸ナトリウムを使用することはより好ましい。
【0166】
溶媒としては、前記亜塩素酸塩を溶解させる溶媒を使用することができる。溶媒としては、水と水溶性非プロトン性溶媒との混合溶媒を使用することが好ましい。例えば、水とN-メチルピロリドン(NMP)との混合溶媒、水とN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)との混合溶媒、水とジオキサンとの混合溶媒等を使用することが好ましい。
【0167】
亜塩素酸塩の使用量は、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位(リグニンα位)に対する修飾剤の反応性及び目的とする修飾程度に合わせて、適宜調整することができる。亜塩素酸塩の使用量は、原料である繊維又は繊維集合体に含まれるリグノセルロース中のリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位の水酸基に対して、0.1〜1.0当量程度が好ましい。亜塩素酸塩の使用量は、0.3〜0.6当量程度がより好ましい。
【0168】
上記一般式(1’)〜(3’)で表されるカルボン酸、アルコール、チオール等の修飾剤の使用量は、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位に対する修飾剤の反応性及び目的とする修飾程度に合わせて、適宜調整することができる。修飾剤の使用量は、原料である繊維又は繊維集合体に含まれるリグノセルロース中のリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位の水酸基に対して、0.05〜300当量程度が好ましい。修飾剤の使用量は、0.1〜100当量程度がより好ましい。
【0169】
修飾剤として使用する上記一般式(1’)で表されるカルボン酸が、常温で液体のもの(例えば酢酸)はそれ自体を溶媒としても使用することができる。この場合、修飾剤はリグノセルロース中のリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位の水酸基に対し大過剰量を使用することになるが、特に問題はない。
【0170】
反応温度及び反応時間は、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位に対する修飾剤の反応性と目的とする修飾程度に合わせて、適宜調整することができる。反応温度は、室温〜溶媒の沸点の範囲に調整することが好ましい。反応時間は、1時間〜24時間程度が好ましい。
【0171】
(3-2)b法:ルイス酸を用いるα位修飾リグノセルロースの誘導体の製造方法
b法では、ルイス酸の存在下で、リグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体と、前記修飾剤とを反応させることによって、α位修飾リグノセルロースを製造することができる。
【0172】
反応では、前記修飾剤(カルボン酸,アルコール、チオール等)が常温で液体の成分である場合、これら修飾剤を溶媒として使用することができる。反応は、これら修飾剤の溶媒にリグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体を懸濁して、撹拌しながら行うことが好ましい。
【0173】
反応では、前記修飾剤が常温で固体の成分である場合、クロロホルム、ジクロロメタン等の非求核性溶媒を使用することが好ましい。反応は、これら溶媒にリグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体を懸濁して、修飾剤を溶解又は分散して撹拌しながら反応を行うことが好ましい。
【0174】
ルイス酸としては、三フッ化ホウ素エーテル錯体(BF
3-Et
2O)、三フッ化ホウ素アセトニトリル錯体(BF
3・CH
3CN)、三フッ化ホウ素酢酸錯体(BF
3(CH
3COOH)
2)等の水に安定なルイス酸を使用することが好ましい。また、トリフルオロメタンスルホン酸イッテルビウム(III)水和物(C
3F
9O
9S
3Yb・xH
2O)等のトリフルオロメタンスルホン酸金属塩等を使用することが好ましい。
【0175】
ルイス酸の使用量は、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位に対する修飾剤の反応性及び目的とする修飾程度に合わせて、適宜調整することができる。ルイス酸の使用量は、原料である繊維又は繊維集合体に含まれるリグノセルロース中のリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位の水酸基に対して、0.14〜1当量程度が好ましい。ルイス酸の使用量は、0.2〜0.5当量程度がより好ましい。
【0176】
上記一般式(1’)〜(3’)で表されるカルボン酸、アルコール、チオール等の修飾剤の使用量は、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位に対する修飾剤の反応性及び目的とする修飾程度に合わせて、適宜調整することができる。修飾剤の使用量は、原料である繊維又は繊維集合体に含まれるリグノセルロース中のリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位の水酸基に対して、6〜20当量程度が好ましい。修飾剤の使用量は、8〜18当量程度がより好ましい。
【0177】
反応温度及び反応時間は、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位に対する修飾剤の反応性と目的とする修飾程度に合わせて、適宜調整することができる。反応温度は、室温〜溶媒の沸点の範囲に調整することが好ましい。反応時間は、1時間〜2週間程度が好ましい。
【0178】
(3-3)α位修飾リグノセルロース誘導体の製造方法の特徴
本発明のα位修飾リグノセルロースの製造方法(a法及びb法)は、次の点で従来のアシル化法とは異なる。
【0179】
従来、リグノセルロース含有原料に対して、塩基存在下で、酸クロライド又は酸無水物を反応させていた。これを、従来のアシル化法という。従来のアシル化法では、リグノセルロース中の1級水酸基、2級水酸基、リグニンのα位(即ち、ベンジル位)の水酸基の順にアシル化反応が進行する。そのため、従来のアシル化法では、多糖類(リグノセルロース中のセルロース、ヘミセルロース)及びリグニンの1級水酸基への反応が同時に進行する。
【0180】
本発明の(a法及びb法)では、リグノセルロース中のリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位(即ち、ベンジル位)の水酸基に対して、選択的な反応が可能である。そのため、本発明のa法又はb法の反応を行った後で、従来のアシル化反応を行うと、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位(即ち、ベンジル位)の水酸基、リグノセルロース中の1級水酸基、2級水酸基の順で反応させることが可能である。
【0181】
即ち、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位(即ち、ベンジル位)のみに選択的に反応が進行することで、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位(即ち、ベンジル位)を先に修飾することが可能となる。
【0182】
本発明のa法及びb法により得られるα位修飾リグノセルロース誘導体(反応生成物)は、リグノセルロース含有原料を従来のアシル化反応で反応させることにより得られる反応生成物とは異なる。
【0183】
本発明のa法及びb法によりα位修飾リグノセルロース誘導体を得た後に、a法及びb法に用いた修飾剤と異なる修飾基を有するアシル化剤を用いて通常のアシル化反応を行うことによって、リグノセルロース中のリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位(リグニンα位、即ち、ベンジル位)の修飾基に加え、この修飾基とは異なる修飾基でリグノセルロース多糖類(リグノセルロース中のセルロース、ヘミセルロース)が修飾された、リグノセルロース誘導体(リグノ修飾二重修飾体)を製造することも可能になる。
【0184】
(3-4)α位修飾リグノセルロース誘導体のα位修飾度
(DSαと表記する。便宜上置換度ということもある)
前記修飾剤を用いることにより、リグノセルロースに含まれるリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位は、一般式(1)〜(3)からなる群から選ばれる少なくとも一種の修飾基を有する。一般式(1)〜(3)からなる群から選ばれる少なくとも一種の修飾基により修飾されたα位修飾度(DSαと表記する。便宜上置換度ということもある)は、0.01〜0.5程度が好ましく、0.06〜0.45程度が更に好ましい。α位修飾度(DSα)の最大値は、使用するリグノセルロース中のリグニン量に依存するが0.5程度である。
【0185】
α位修飾度を0.01〜0.5程度に設定することによって、反応時間及び使用試薬量を最小にして、本発明リグノセルロース誘導体の熱安定性が向上するという効果が得られる。また、本発明のα位修飾リグノセルロース誘導体、リグノセルロース二重修飾体中のセルロース領域の結晶化度を、原料リグノセルロース中の結晶化度と同程度に保つことができる。
【0186】
(4)リグノセルロース二重修飾体
(
α位修飾リグノセルロース誘導体中のセルロース及びヘミセルロースの少なくとも一種に存在する水酸基がアシル化されたリグノセルロース誘導体)
リグノセルロースは、リグニンに加えて、セルロース及びヘミセルロースを含む。
【0187】
本発明の化学修飾されたリグノセルロース誘導体は、更にα位修飾リグノセルロース誘導体に含まれる、セルロース及びヘミセルロースの少なくとも一種中の水酸基(α位修飾リグノセルロースの糖鎖水酸基)が、アシル化されていることが好ましい。
【0188】
つまり、リグニンα位の水酸基以外の水酸基であって、元来、リグノセルロース中に存在していた水酸基、例えば、セルロースの水酸基、ヘミセルロースの水酸基等をアシル化することが好ましい。この追加のアシル化反応により、前記a法又はb法で得られたα位修飾リグノセルロース誘導体は、熱安定性及び熱可塑性が更に向上する。
【0189】
本発明の(A)リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位が、
一般式(1):R
1COO- ・・・(1)
で表されるアシルオキシ基、
一般式(2):R
2O- ・・・(2)
で表されるオキシ基、及び
一般式(3):R
3S- ・・・(3)
で表されるチオ基
からなる群から選ばれる少なくとも一種の特性基で修飾されており、更に、
(B)セルロース及びヘミセルロースの少なくとも一種中に存在する水酸基が、
一般式(1):R
1COO- ・・・(1)
で表されるアシルオキシ基で置換されている、リグノセルロース誘導体の製造方法は、
(a)亜塩素酸塩又はルイス酸の存在下に、
リグノセルロースと
一般式(1’):R
1COOH ・・・(1’)
で表されるカルボン酸、
一般式(2’):R
2OH ・・・(2’)
で表されるアルコール、及び、
一般式(3’):R
3SH ・・・(3’)
で表されるチオールからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物とを反応させて、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位が、前記一般式(1)で表されるアシルオキシ基、一般式(2)で表されるオキシ基、及び一般式(3)で表されるチオ基からなる群から選ばれる少なくとも一種の特性基で修飾されているリグノセルロース誘導体を製造する工程、及び、
(b)上記の(a)工程で得られたリグノセルロース誘導体と
一般式(1’):R
1COOH ・・・(1’)
で表されるカルボン酸の酸塩化物又は酸無水物とを反応させて、セルロース及びヘミセルロースの少なくとも一種中に存在する水酸基が、前記一般式(1)で表されるアシルオキシ基で置換されているリグノセルロース誘導体を製造する工程
を含むことを特徴とする。
【0190】
前記式(1)〜(3)及び式(1’)〜(3’)中、R
1〜R
3は、同一又は異なって、夫々、置換基を有しても良い、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキジエニル基、シクロアルキジエニル基、アルキトリエニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、ヘテロアリールアルキル基、複素環基(ヘテロシクリル基)、複素環アルキル基(ヘテロシクリルアルキル基)又は水素原子を示す。但し、R
2及びR
3は水素原子、エチニル基ではない。
【0192】
上記(b)工程はアシル化反応であるので、その反応機構から考えて、その生成物のリグノセルロース誘導体は、セルロース及びヘミセルロース中に存在する「水酸基の水素原子がアシル基(カルボン酸からヒドロキシ基を除去した残基)で置換された誘導体」であると考えられるが、本明細書では、便宜上、アシル化反応で得られるリグノセルロース誘導体を「水酸基がアシルオキシ基で置換された誘導体」と表記することもある。
【0193】
この(b)工程のアシル化反応は、上記の(a)工程で得られたα位修飾リグノセルロース誘導体を膨潤させることのできる無水非プロトン性極性溶媒に懸濁して、塩基の存在下に、
一般式(1’):R
1COOH (1’)
で表されるカルボン酸の酸塩化物(R
1-C(=O)-Cl)又は酸無水物((R
1-CO-O-CO-R
1)を反応させることにより行うことができる。
【0194】
上記(b)工程のアシル化反応で使用する式(1’)で表されるカルボン酸の酸塩化物又は酸無水物中、R
1は、置換基を有しても良い、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキルジエニル基、シクロアルキルジエニル基、アルキルトリエニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、ヘテロアリールアルキル基、ヘテロシクリル基、ヘテロシクリルアルキル基又は水素原子を示す。
【0195】
(b)工程のアシル化反応で使用する式(1’)で表されるカルボン酸の酸塩化物又は酸無水物中、R
1がアルキル基の場合、置換基を有しても良く、前述のリグニンα位のリグニンα位のヒドロキシ基が前述の一般式(1)で示される基で置換された場合と同じように、C1-C17のアルキル基が好ましい。
【0196】
同様に、前記R
1がシクロアルキル基の場合、置換基を有しても良く、C4-C8のシクロアルキル基が好ましい。
【0197】
同様に、前記R
1がアルケニル基の場合、置換基を有しても良く、C2-C17のアルケニル基が好ましい。
【0198】
同様に、前記R
1がアルキニル基の場合、C2-C8のアルキニル基が好ましい。
【0199】
同様に、前記R
1がシクロアルケニル基の場合、置換基を有しても良く、C4-C8のシクロアルケニル基が好ましい。
【0200】
同様に、前記R
1がアルキジエニル基の場合、置換基を有しても良く、C4-C17のアルキジエニル基が好ましい。
【0201】
同様に、前記R
1がシクロアルキジエニル基の場合、置換基を有しても良く、C4-C8のシクロアルキジエニル基が好ましい。
【0202】
同様に、前記R
1がアルキトリエニル基の場合、置換基を有しても良く、C6-C17のアルキトリエニル基が好ましい。
【0203】
同様に、前記R
1がアリール基の場合、置換基を有しても良く、特にフェニル基(C
6H
5-)が好ましい。
【0204】
同様に、前記R
1がアラルキル基の場合、置換基を有しても良く、ベンジル基(フェニルメチル基、C
6H
5CH
2-)等のアリール基置換低級アルキル基が好ましい。
【0205】
同様に、前記R
1がヘテロアリール基の場合、置換基を有しても良く、ピリジル基、低級アルキル基置換ピリジル基、チエニル基、低級アルキル基置換チエニル基、インドリル基、又は低級アルキル基置換インドリル基が好ましい。
【0206】
式(1)中のR
1が有しても良い置換基として、低級アルキル基が好ましい。
【0207】
前記アシル化反応で、α位修飾リグノセルロース誘導体を膨潤させることのできる無水非プロトン性極性溶媒としては、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等が好ましい。
【0208】
前記アシル化反応で用いる塩基としては、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が好ましい。
【0209】
前記(b)工程のアシル化反応で用いるカルボン酸無水物又はカルボン酸塩化物(一般式(1’)で表されるカルボン酸の酸無水物又は酸塩化物)としては、飽和脂肪酸、不飽和カルボン酸、モノ不飽和脂肪酸、ジ不飽和脂肪酸、トリ不飽和脂肪酸、テトラ不飽和脂肪酸、ペンタ不飽和脂肪酸、ヘキサ不飽和脂肪酸、芳香族カルボン酸、ジカルボン酸、アミノ酸(N-保護アミノ酸)、
マレイミド化合物:
【0213】
からなる群から選ばれる少なくとも一種のカルボン酸の酸無水物又は酸塩化物が好ましい。
【0214】
(b)工程のアシル化反応では、無水酢酸、アセチルクロライド、オクタノイルクロライド等を用いることが好ましい。
【0215】
このアシル化反応は、例えば、室温〜100℃で撹拌しながら行うことが好ましい。
【0216】
上記方法で製造される、本発明のリグノセルロース二重修飾体中の、セルロース及びヘミセルロースの少なくとも一種に存在する水酸基(以下「二重修飾体の糖鎖水酸基」とも記す)は、飽和脂肪酸、不飽和カルボン酸、モノ不飽和脂肪酸、ジ不飽和脂肪酸、トリ不飽和脂肪酸、テトラ不飽和脂肪酸、ペンタ不飽和脂肪酸、ヘキサ不飽和脂肪酸、芳香族カルボン酸、ジカルボン酸、
マレイミド化合物:
【0220】
からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物のカルボキシル基から水素原子を除去した残基によって置換されていることが好ましい。
【0221】
リグノセルロース二重修飾体の糖鎖水酸基のアシル化度
(DSOHと表記する。置換度又は修飾度ということもある)
本発明α位修飾リグノセルロース誘導体のアシル化反応によって得られる本発明リグノセルロース二重修飾体の糖鎖水酸基におけるアシル化度(修飾度、DS
OH)は、0.05〜2程度が好ましく、0.1〜1.7程度がより好ましく、0.15〜1.5程度が更に好ましい。置換度(DS
OH)の最大値は、原料に使用するリグノセルロースのリグニン含量に依存するが、2.5程度である。
【0222】
置換度(DS
OH)を0.05〜2程度に設定することによって、反応時間及び使用試薬量を最小にして、最大の効果が得られる。α位修飾リグノ修飾体の糖鎖水酸基のアシル化反応により得られたリグノセルロース二重修飾体は、熱安定性及び熱可塑性が更に向上する。
【0223】
置換度(DS
OH)は、元素分析、中和滴定法、FT-IR、二次元NMR(
1H及び
13C-NMR)等の各種分析方法により分析することができる。
【0224】
本発明のリグノセルロース二重修飾体を含む繊維又は繊維集合体は、植物繊維と同様に、軽量であり、強度を有し、低線熱膨張係数を有する。
【0225】
本発明のリグノセルロース二重修飾体を含む繊維又は繊維集合体を圧縮することで成形体を作製すること(圧縮成形体)が可能である。
【0226】
(5)成形体の調製(本発明リグノセルロース誘導体の圧縮成形体)
本発明のリグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体を圧縮することで、成形体を容易に調製することができる。これを、リグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体の圧縮成形体とも記す。
【0227】
本明細書では「α位修飾リグノセルロース誘導体又は/及びリグノセルロース二重修飾体」を総称して「リグノセルロース誘導体」とも記す。
【0228】
その繊維又は繊維集合体は、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位に、前記アシルオキシ基、オキシ基、チオ基等を有するリグノセルロース誘導体(α位修飾リグノセルロース誘導体)又は/及びα位修飾リグノセルロース誘導体の糖鎖水酸基がアシル化されたリグノセルロース誘導体(リグノセルロース二重修飾体)を含む。
【0229】
成形の前に、均一な成形面を得るために、リグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体を必要に応じて粉砕してから加熱下に圧縮成形する。粉砕の一つの方法として、例えば、リグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体にエタノール等の、好ましくは沸点が100℃以下の溶媒を添加して、ミキサー等で攪拌し、固形分濃度を調整した懸濁液を得る。次いで、この懸濁液を、濾過等の手段により、溶媒を除去し、乾燥して成形用の材料を得てもよい。
【0230】
成形温度は、リグノセルロース誘導体の熱分解を避けるために、150〜200℃程度の温度で、通常の熱可塑性樹脂の圧縮圧で成形を行うことが好ましい。
【0231】
(6)リグノセルロース誘導体含有繊維又は繊維集合体とマトリクス材料とを含む組成物 本発明のリグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体は、マトリクス材料(後述)と複合して複合組成物とし、強度に優れる成形体とすることもできる。この組成物は、リグノセルロース誘導体を含む繊維(フィブリル化しナノ繊維としたものを含む)若しくはこの繊維集合体とマトリクス材料との混合物、又は、リグノセルロース誘導体を含む繊維(フィブリル化しナノ繊維としたものを含む)若しくはこの繊維集合体組成物にマトリクス材料を含浸させたものであってもよい。
【0232】
高分子樹脂などのマトリクス材料と化学修飾セルロース繊維(例えば化学修飾セルロースナノファイバー)とを複合化することによって強度に優れる複合体が得られることは既に知られている。
【0233】
本発明のリグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体は、公知の化学修飾セルロース繊維に比べ、植物原料(例えば木材)からの製造工程が少なく、そして収率(重量基準の収率)は高い。そのため、公知の化学修飾セルロース繊維に比べて単位重量当たり低いコストで製造することが可能であることが期待できる。
【0234】
また、リグノセルロース含有繊維又は繊維集合体とマトリクス材料とを含む組成物は、従来の化学修飾セルロース繊維を含む組成物よりも容易にかつ低いコストでの製造可能性が期待できる。
【0235】
(6-1)マトリクス材料
マトリクス材料とは、繊維、繊維塊又は繊維集合体(例えば、不織布)間の空隙を充填する高分子化合物又はそのモノマー若しくはオリゴマーなどの高分子の前駆体を意味する。マトリクス材料の無機高分子としては、ガラス、シリケート材料、チタネート材料等のセラミックス等並びにセメントを使用することができる。マトリクス材料の無機高分子は例えばアルコラートの脱水縮合反応により形成することができる。
【0236】
マトリクス材料の有機高分子としては、天然高分子、合成高分子、ゴム成分等を使用することができる。
【0237】
天然高分子としては、天然ゴム、再生セルロース系高分子、例えばセロハン、トリアセチルセルロース等の天然由来高分子及びこれを化学的に加工された高分子が挙げられる。合成高分子としては、合成ゴム、ビニル系樹脂、重縮合系樹脂、重付加系樹脂、付加縮合系樹脂、開環重合系樹脂等が挙げられる。
【0238】
ビニル系樹脂としては、ポリオレフィン、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等の汎用樹脂や、ビニル重合によって得られるエンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック等が挙げられる。これらは、各樹脂内において、構成される各単量体の単独重合体や共重合体であっても良い。
【0239】
ポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、スチレン、ブタジエン、ブテン、イソプレン、クロロプレン、イソブチレン、イソプレン等の単独重合体又は共重合体、あるいはノルボルネン骨格を有する環状ポリオレフィン等が挙げられる。
【0240】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
【0241】
酢酸ビニル系樹脂とは、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルの加水分解体であるポリビニルアルコール、酢酸ビニルに、ホルムアルデヒドやn-ブチルアルデヒドを反応させたポリビニルアセタール、ポリビニルアルコールやブチルアルデヒド等を反応させたポリビニルブチラール等が挙げられる。
【0242】
フッ素樹脂としては、テトラクロロエチレン、ヘキフロロプロピレン、クロロトリフロロエチレン、フッ化ビリニデン、フッ化ビニル、ペルフルオロアルキルビニルエーテル等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
【0243】
(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。なお、この明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。
【0244】
ここで、(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸又はメタクリル酸が挙げられる。また、(メタ)アクリロニトリルとしては、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルが挙げられる。
【0245】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等が挙げられる。
【0246】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0247】
シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0248】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル等が挙げられる。
【0249】
(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-t-オクチル(メタ)アクリルアミド等のN置換(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0250】
重縮合系樹脂としては、アミド系樹脂やポリカーボネート等が挙げられる。
【0251】
アミド系樹脂としては、6,6-ナイロン、6-ナイロン、11-ナイロン、12-ナイロン、4,6-ナイロン、6,10-ナイロン、6,12-ナイロン等の脂肪族アミド系樹脂や、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンと塩化テレフタロイルや塩化イソフタロイル等の芳香族ジカルボン酸又はその誘導体からなる芳香族ポリアミド等が挙げられる。
【0252】
ポリカーボネートとは、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類と、ホスゲン又はフェニルジカーボネートとの反応物をいう。
【0253】
重付加系樹脂としては、エステル系樹脂、Uポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルエーテルケトン、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン等が挙げられる。
【0254】
エステル系樹脂としては、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、不飽和ポリエステル等が挙げられる。
【0255】
芳香族ポリエステルとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等の後述するジオール類とテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸との共重合体が挙げられる。
【0256】
脂肪族ポリエステルとしては、後述するジオール類とコハク酸、吉草酸等の脂肪族ジカルボン酸との共重合体や、グリコール酸や乳酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体又は共重合体、後述するジオール類、脂肪族ジカルボン酸及び上記ヒドロキシカルボン酸の共重合体等が挙げられる。
【0257】
不飽和ポリエステルとしては、後述するジオール類、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、及び必要に応じてスチレン等のビニル単量体との共重合体が挙げられる。
【0258】
Uポリマーとしては、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類、テレフタル酸及びイソフタル酸等からなる共重合体が挙げられる。
【0259】
液晶ポリマーとしては、p-ヒドロキシ安息香酸と、テレフタル酸、p,p’-ジオキシジフェノール、p-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸、ポリテレフタル酸エチレン等との共重合体をいう。
【0260】
ポリエーテルケトンとしては、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンや4,4’-ジヒドロベンゾフェノン等の単独重合体や共重合体が挙げられる。
【0261】
ポリエーテルエーテルケトンとしては、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとハイドロキノン等の共重合体が挙げられる。
【0262】
アルキド樹脂としては、ステアリン酸、パルチミン酸等の高級脂肪酸と無水フタル酸等の二塩基酸、及びグリセリン等のポリオール等からなる共重合体が挙げられる。
【0263】
ポリスルホンとしては、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンやビスフェノールA等の共重合体が挙げられる。
【0264】
ポリフェニルレンスルフィドとしては、p-ジクロロベンゼンや硫化ナトリウム等の共重合体が挙げられる。
【0265】
ポリエーテルスルホンとしては、4-クロロ-4’-ヒドロキシジフェニルスルホンの重合体が挙げられる。
【0266】
ポリイミド系樹脂としては、無水ポリメリト酸や4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等の共重合体であるピロメリト酸型ポリイミド、無水塩化トリメリト酸やp-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンや、後述するジイソシアネート化合物等からなる共重合体であるトリメリト酸型ポリイミド、ビフェニルテトラカルボン酸、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミン等からなるビフェニル型ポリイミド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸や4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等からなるベンゾフェノン型ポリイミド、ビスマレイイミドや4,4’-ジアミノジフェニルメタン等からなるビスマレイイミド型ポリイミド等が挙げられる。
【0267】
重付加系樹脂としては、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0268】
ウレタン樹脂は、ジイソシアネート類とジオール類との共重合体である。
【0269】
ジイソシアネート類としては、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0270】
また、ジオール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等の比較的低分子量のジオールや、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。
【0271】
付加縮合系樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
【0272】
フェノール樹脂としては、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、フェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
【0273】
尿素樹脂やメラミン樹脂は、ホルムアルデヒドや尿素、メラミン等の共重合体である。
【0274】
開環重合系樹脂としては、ポリアルキレンオキシド、ポリアセタール、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0275】
ポリアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
【0276】
ポリアセタールとしては、トリオキサン、ホルムアルデヒド、エチレンオキシド等の共重合体が挙げられる。
【0277】
エポキシ樹脂とは、エチレングリコール等の多価アルコールとエピクロロヒドリンとからなる脂肪族系エポキシ樹脂、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとからなる脂肪族系エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0278】
ゴム成分としては、ジエン系ゴム成分のものが挙げられ、具体的には、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロプレンゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エポキシ化天然ゴム(ENR)等の改質天然ゴム、水素化天然ゴム、脱タンパク天然ゴム等が挙げられる。
【0279】
また、ジエン系ゴム成分以外のゴム成分としては、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。ブレンドする場合のブレンド比においても、各種用途に応じて適宜配合すればよい。
【0280】
これらのマトリクス材料は、一種単独で用いても良く、二種以上を混合して用いても良い。
【0281】
(6-2)その他の成分
本発明の組成物は、前記リグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体及びマトリクス材料に加え、例えば、相溶化剤;界面活性剤(上記以外のもの);でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等の添加剤を配合してもよい。任意の添加剤の含有割合としては、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されてもよい。
【0282】
(6-3)繊維又は繊維集合体とマトリクス材料とを含む組成物の組成
本発明の前記リグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体とマトリクス材料とを含有する組成物中のリグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体の含有割合は、0.01〜99.99重量%程度が好ましく、0.05〜99.95重量%程度より好ましく、0.1〜99.9重量%程度が更に好ましい。
【0283】
本発明の前記リグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体は、セルロース繊維に比べて熱可塑性であるので、少量の熱可塑性マトリクス材料を加えても加熱成形が可能である。
【0284】
本発明のリグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体は、植物繊維と同様に、軽量であり、強度を有し、低線熱膨張係数を有する。組成物がそのリグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体を含むことにより、組成物は熱可塑性を発現できる。
【0285】
組成物がリグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体を含んでも、組成物は汎用のプラスチックと同様に、加熱すると軟化して成形し易くなり、冷やすと再び固くなる性質(熱可塑性)を持ち、良好な加工性を発現できる。
【0286】
(7) リグノセルロース誘導体含有繊維又は繊維集合体とマトリクス材料とを含む組成物の製造方法
本発明の組成物は、本発明のリグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体と前記マトリクス材料とを混合することにより、又は前記リグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体にマトリクス材料を含浸させることにより作製することができる。
【0287】
更に、その組成物を成形することにより成形体を作製することができる。これを、組成物からなる成形体と記す。
【0288】
リグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体とマトリクス材料とを混合して組成物を作製する場合、混練機等を用いて、リグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体とマトリクス材料とを混練し、本発明リグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体とマトリクス材料とを複合化すると、混練中に本発明リグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体のフィブリル化が進行し、繊維とマトリクス材料の均一な混合組成物を容易に得られるので、好ましい。
【0289】
マトリクス材料に対して、リグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体の添加量は前記の通りである。
【0290】
本発明リグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体とマトリクス材料とを混合する場合、両成分を室温下で加熱せずに混合しても良く、加熱して混合しても良い。加熱する場合、混合する温度は、使用するマトリクス材料に合わせて調整することができる。
【0291】
混合温度は、40℃程度以上が好ましく、50℃程度以上がより好ましく、60℃程度以上が更に好ましい。混合温度を40℃程度以上に設定することにより、リグノセルロースを含む繊維又は繊維集合体とマトリクス材料とを均一に混合することができる。
【0292】
混合方法として、ベンチロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー等の混練機により混練する方法、攪拌羽により混合する方法、公転・自転方式の攪拌機により混合する方法等により、混合することが好ましい。
【0293】
組成物が本発明のリグノセルロース誘導体を含む繊維又は繊維集合体を含むことにより、組成物は熱可塑性を発現できる。組成物は汎用のプラスチックと同様に、加熱すると軟化して成形し易くなり、冷やすと再び固くなる性質(熱可塑性)を持ち、良好な加工性を発現できる。
【0294】
(8)リグノセルロース含有繊維又は繊維集合体とマトリクス材料とを含む組成物の成形体(成型体)
前記の組成物を用いて、成形体(成型体)を製造することができる。これを、組成物からなる成形体と記す。成形体の形状としては、フイルム状、シート状、板状、ペレット状、粉末状、立体構造など各種形状等の各種形状の成形体が挙げられる。成形方法として、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等を用いることができる。
【0295】
成形体(成型体)は、植物繊維を含むマトリクス成形物(成型物)が使用される繊維強化プラスチック分野に加え、熱可塑性及び機械強度(引張り強度等)が要求される分野にも使用できる。
【0296】
自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、構造材等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等;携帯電話等の移動通信機器等の筺体、構造材、内部部品等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品等の筺体、構造材、内部部品等;建築材;文具等の事務機器等、容器、コンテナー等として有効に使用することができる。
【0297】
本発明のリグノセルロース誘導体は、リグノセルロースのリグニンα位が修飾されていることが特徴である。本発明のリグノセルロース誘導体は、植物繊維と同様に、軽量であり、強度を有し、低線熱膨張係数を有すると共に、熱可塑性を発現できる。
【0298】
本発明のリグノセルロース誘導体は、それ自体熱可塑性があるが、マトリクス材料と混合または含浸して用いても汎用のプラスチックと同様に、加熱すると軟化して成形し易くなり、冷やすと再び固くなる性質(熱可塑性)を持ち、良好な加工性を発現できる。
【実施例】
【0299】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0300】
実施例において、パルプ、リグノセルロース、修飾リグノセルロース中のリグニン、セルロース、ヘミセルロースなどの成分含量の%は、特記しない限り重量%を示す。また、分散液または溶液中の各成分の濃度の%は、特記しない限り重量%を示す。
【0301】
実施例中で化学官能基の略号、溶媒の略号及び試薬の略称を使用することがある。例えば、Octはオクタノイル基を表し、Acはアセチル基を表す。
【0302】
(1)リグノセルロース含有材料の調製方法
下記のリグノセルロースを含む繊維集合体(リグノセルロース含有材料)を調製した。
【0303】
(1-1)NGP
針葉樹由来の砕木パルプである。リグニン含量は30重量%程度であり、固形分率(固形分重量/全重量)は19.8重量%程度である。平均繊維径は29.0μm、平均繊維長は0.67mm程度である。
【0304】
(1-2)LTMP
広葉樹由来のサーモメカニカルパルプである。リグニン含量は17.5重量%程度であり、固形分率(固形分重量/全重量)は79.4重量%程度である。平均繊維径は29.2μm、平均繊維長は1.5mm程度である。
【0305】
(1-3)BM-NCTMP
針葉樹由来のケミカルサーモメカニカルパルプ(NCTMP、リグニン含量:27重量%)に水を加えて、固形分濃度が1.0重量%のパルプスラリーを調製した。このパルプスラリーを、アイメックス株式会社製のビーズミルを用いて、以下の条件にて2回解繊処理を行った。
【0306】
解繊条件
ビーズ:ジルコニアビーズ(直径:1mm)
ビーズ充填率:70%
回転数:2000rpm
吐出量:600mL/min
得られたリグノセルロースを含む繊維集合体を、「針葉樹由来のケミカルサーモメカニカルパルプをビーズミルにより解繊した繊維(BM-NCTMP)」と言う。
BM-NCTMPの平均繊維径は20.8μm程度、平均繊維長は0.39mm程度であった。固形分率(固形分重量/全重量)は10.3重量%程度であった。
【0307】
(1-4)BM-NGP
針葉樹由来の砕木パルプ(NGP、リグニン含量:30重量%)に水を加えて、固形分濃度1.0重量%のパルプスラリーを調製した。このパルプスラリーを、アイメックス株式会社製のビーズミルを用いて、上記(1-3)と同様の条件にて解繊処理を行った。
【0308】
得られたリグノセルロースを含む繊維集合体を、「針葉樹由来の砕木パルプをビーズミルにより解繊した繊維(BM-NGP)」と言う。BM-NGPの平均繊維径は20.1μm程度、平均繊維長は0.28mm程度であった。固形分率(固形分重量/全重量)は17.5重量%程度であった。
【0309】
(2)リグノセルロース含有材料の測定方法
(2-1)各成分の含量の定量方法
リグノセルロースを含む繊維集合体に含まれるリグニン、セルロース及びヘミセルロースを以下の方法で定量した。
【0310】
(i)リグニンの定量方法(クラーソン法)
ガラスファイバーろ紙(GA55)を105℃オーブンで恒量になるまで乾燥させ、デシケータ内で放冷後、計量した。105℃で絶乾させたリグノセルロース(試料約0.2g)を精秤し、50mL容ビーカーに入れた。72%濃硫酸3mL加え、内容物が均一になるようにガラス棒で適宜押しつぶしながら、30℃の温水に1時間放置した。
【0311】
次いで、内容物に蒸留水84gを加え定量的に三角フラスコに移した後、オートクレーブ中で120℃、1時間反応させた。放冷後、内容物をガラスファイバーろ紙で濾過し、200mLの蒸留水で洗浄した。105℃オーブンで恒量になるまで乾燥させ計量した。
【0312】
(ii)セルロース及びへミセルロースの定量方法(糖分析)
リグノセルロース含有材料をオーブンデシケータ中に入れ、真空ポンプで減圧しながら50℃で3時間乾燥させた。乾燥試料約30mgを精秤し、耐圧試験管に入れた後に内部標準としてフコース(0.1g/mL)を200μL加えた。メスピペットを用いて72%濃硫酸0.3mLを加え、ガラス棒で押して均一にし、30℃のウォーターバスで1時間反応させた。
【0313】
1時間後、蒸留水8.4mLを加え、オートクレーブ中で120℃、1時間反応させた。放冷後、超純水を添加し適宜希釈した。希釈後の溶液をサーモフィッシャーサイエンティフィック社製イオンクロマトグラフ分析に供し、試料に含まれていた糖成分を分析した。
【0314】
(2-2)セルロース繊維の繊維径及び繊維長の測定方法
メッツォ社製のカヤーニ繊維長測定器を用いて測定した。
【0315】
(3)リグノセルロースリグニンα位の構造解析と修飾度の測定方法及び定量方法
(3-1)核磁気共鳴(NMR)分光法による構造解析
使用機種:Bruker社製の800MHz NMR装置
既往の方法(Kim,H. and Ralph,K., Org.Biomol.Chem., 2010, 576-591)に従い、測定試料を調製した。調製した試料について、HSQC-NMR測定を行った。実際には、サンプル(200mg)を、一晩真空乾燥し、その後ボールミル装置(フリッチュ製遊星型ボールミルP-6、容器12mL、ジルコニア製)、ボール50個(ボール径5mm、ジルコニア製)を用いて、試料を粉砕した。粉砕条件は、20分間粉砕、10分間放冷の操作を5回繰り返した。
【0316】
得られた粉砕試料(60mg)をNMRサンプルチューブに加えて、そこにDMSO-d/Pyridine-d(=4/1)混合溶液(0.5mL)を加えて、試料を膨潤させた。これをHSQC-NMR測定に供し、得られたHSQC-NMRスペクトルから構造解析を行った。
【0317】
リグノセルロース(原料)中のリグニンα位が修飾されると、修飾された基に基づく固有のシグナルが出現する。
【0318】
例えば、リグノセルロースのリグニンα位がアセトキシ基で修飾されると原料に存在していたHα/Cα=4.9/71.8 ppmのシグナルが減少し、6.1/74.7 ppmに新たにアセチルオキシ基に基づくHα/Cαのシグナルが出現する。
【0319】
一方、リグノセルロースのリグニンα位が、例えば、エトキシ基で修飾されると、4.5/80ppm付近にシグナルが出現する。
【0320】
(3-2)赤外線(IR)吸収スペクトルによる水酸基修飾の確認と修飾度の定量方法
使用機種:メトラー・トレド社製のフーリエ変換型赤外分光光度計(FT-IR)
リグノセルロース中のリグニンα位がアシルオキシ基で修飾されると、アシルオキシC=Oの伸縮振動に基づく特性吸収ピークが1730cm
-1付近に出現する。IRスペクトルの1686cm
-1から1778cm
-1までの面積を計算し、以下の式(検量線)よりリグニンα位の修飾度(DSα)を算出した。
【0321】
DSα= 0.0113x-0.0122
x=(α位修飾後の1686cm
-1から1778cm
-1までの面積)
−(α位修飾前の1686cm
-1から1778cm
-1までの面積)
上記の式(検量線)は、リグニンα位のエステル基を加水分解して定量し、この値とFT-IRスペクトルにおける1686cm
-1から1778cm
-1までの面積値から求めた。
【0322】
〔詳細は、下記(i)〜(iii)参照〕
(i)脱エステル化
アシルオキシ基で修飾された試料に含まれる溶媒をターシャリブタノールに置換後、液体窒素で予備凍結し、凍結乾燥機で乾燥させた。凍結乾燥後の試料を五酸化二リンを入れた真空乾燥機を用いてさらに50℃で2時間乾燥させた。
【0323】
乾燥試料200mgを量り取りエタノール15mL、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液10mLを夫々ホールピペットを用いて加え、70℃のウォーターバスで30分間攪拌した。その後、室温で2日間攪拌した。
【0324】
(ii)逆滴定
上記の脱エステル化後の溶液を0.2Nの塩酸水溶液で滴定することにより、脱エステル化で消費された水酸化ナトリウムの量を計算し、導入されていた特性基量(アシル基量)を求め、これからリグニンα位の修飾度(DSα)を下記の式に従い求めた。
【0325】
DSα=(A×F)/(W−(A×F))×(M/F)
W:エステル化後のサンプルの乾燥重量(g)
A:脱エステル化反応で消費された水酸化ナトリウム量(mol)
M:リグノセルロース繰り返し単位の平均化学式量
F:導入されていた特性基の化学式量
M(リグノセルロースの平均分子量)は、下式により求めた。
【0326】
M=162×(x/100)+162×(y/100)+196×(z/100)
上記式のx、y、z及び、162、196の数値は以下の意味を有する。
【0327】
162:セルロース中のグルコースの繰り返し単位の化学式量
x:原料(リグノセルロース)中のセルロース含量(重量%)
162:ヘミセルロース中の多糖の繰り返し単位の化学式量(ヘミセルロースは多種の単糖の構成単位からなっているが、この構成単位の化学式量の殆どはグルコースのそれと同じである)
y:原料(リグノセルロース)中のヘミセルロース含量(重量%)
196:リグニンの繰り返し単位〔1-(3-メトキシ-4オキシフェニル)-1,3-プロパンジオール。これは、
図1におけるR
1=R
2=Hの化学式:2-(2-メトキシフェノキシ)-1-(3-メトキシ-4オキシフェニル)-1,3-プロパンジオール)の部分構造に相当する〕の化学式量
z:原料(リグノセルロース)中のリグニン含量(重量%)
【0328】
(iii)検量線の算出
逆滴定で求めたDSαをFT-IRスペクトルにおける1686cm
-1から1778cm
-1までの面積に対してプロットし、検量線を算出した。
【0329】
(iv)二重修飾リグノセルロース誘導体中の、ヘミセルロース水酸基及びセルロース水酸基のアシル化度(以下「DSOH」、「水酸基置換度」又は「水酸基修飾度」とも記す)の測定
本発明では、リグニンα位がアシルオキシ基で修飾されているα位修飾リグノセルロースに通常のアシル化反応を行うと、α位修飾リグノセルロース誘導体中のセルロース及びヘミセルロースに存在する水酸基がアシル化され、二重修飾リグノセルロースが得られる。
【0330】
この場合、IR吸収スペクトルにおいて、新たに生じたアシル基のC=Oの伸縮振動に基づく特性吸収ピークも1730cm
-1付近に出現し、リグニンα位のアシルオキシ基のC=Oの伸縮振動に基づく特性吸収ピークと重なる。即ち、1730cm
-1付近の吸収ピークが高くなる。
【0331】
従って、以下の式(検量線)より水酸基修飾度(DS
OH)を求めることができる。
【0332】
DS
OH= 0.0113x-0.0122
x=(水酸基修飾後の1686cm
-1から1778cm
-1までの面積)
−(α位修飾後の1686cm
-1から1778cm
-1までの面積)
全修飾度(DS
total、リグニンα位修飾度と糖鎖水酸基の修飾度の合計)は、以下の式で求めることができる。
【0333】
DS
total=DSα+DS
OH
(4)α位修飾リグノセルロース誘導体の繊維の熱安定性試験
使用機種:TA Instruments社製のTGAQ50装置
乾燥試料(約5.0mg)を、次の方法でTGA測定に供した。その試料を、窒素雰囲気下(ガス流量100 mL/min)で、110℃から600℃(昇温速度10℃/min)の範囲で測定した。試料の重量減少曲線及び微分曲線を得た。
【0334】
重量減少曲線から120℃の重量を100重量%としたときの1%重量減少温度(1%loss温度)を、微分曲線からピークトップ温度(peak top温度)を算出した。
【0335】
(5)熱圧成形体の外観評価
(5-1)熱圧成形体の調製
前記リグノセルロース誘導体を含む繊維集合体(リグノセルロース誘導体含有材料)を圧縮することで成形体を得、この成形体の外観評価を以下の基準に従い、行った。
【0336】
(5-2)透明性(密着性)
透明性の評価基準は次の通りである。
【0337】
◎:得られた熱圧成形体の全体が透明である。
○:部分的に密着していない部分がある。
×:密着していない。
【0338】
(5-3)着色評価
着色性の評価基準は次の通りである。
【0339】
前記透明性の評価が×のものは評価、着色評価をしていない。
【0340】
【表1】
【0341】
(6)熱圧成形体の物性評価
(6-1)線熱膨張率
熱圧成形体を長さ35mm、幅約5mmにカッターを用いてカットし試料とした。試料をSIIナノテクノロジー社製の熱機械分析機EXSTER TMA/SS6100にセットし窒素雰囲気下で120℃、30分間乾燥させた後、10℃まで急冷した。
【0342】
次いで130℃まで5℃/minで昇温し、引張モードで測定を行った。20℃から100℃の平均線膨張率を線熱膨張率(CTE)とした。
【0343】
(6-2)強度試験(曲げ強度)
熱圧成形体を長さ30mm、幅5mmにカッターを用いてカットした。電気機械式万能試験機(インストロン社製3365ツインコラム卓上型試験システム)を用いて、支点間距離20mm、曲げ速度5mm/minにて3点曲げ試験を行った。
【0344】
(6-3)貯蔵弾性率
熱圧成形体を長さ35mm、幅5mmにカッターを用いてカットした。動的粘弾性測定装置(SIIナノテクノロジー社製EXSTER DMS6100)を用いて、引張モードで測定を行った。スパン20mm、周波数sin波1Hz、温度範囲20℃〜300℃、昇温速度2℃/分の条件にて、25℃における貯蔵弾性率(E')を測定した。
【0345】
(7)実施例
実施例1a:α位修飾リグノセルロース誘導体(a法:亜塩素酸塩)
実施例1a-1
リグノセルロース含有材料(リグノセルロースを含む繊維集合体)のリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位(即ち、リグノセルロースのリグニンα位)に、亜塩素酸塩を用いて、アシルオキシ基を導入した実施例である。
【0346】
300mLガラス製容器に、含水BM-NCTMP48.6g(絶乾重量5g)を入れ、酢酸118.1g(アシルオキシ基を導入する飽和脂肪酸)を添加し、固形分濃度(絶乾重量換算のBM-NCTMPの濃度)を3重量%に調整した。
【0347】
次いで、この試料に亜塩素酸ナトリウム0.293g(リグノセルロース中に含有するリグニンの全水酸基量(mol)に対して0.47当量)を加えて、80℃で15時間攪拌し、反応させた。反応後、その試料をエタノール及び水で順次洗浄して、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位に、アシルオキシ基(アセチルオキシ基)を導入したリグノセルロース誘導体を含む繊維集合体を得た。このリグノセルロース誘導体を含む繊維集合体は含水である。
【0348】
この様に、α位修飾リグノセルロース誘導体を含む繊維集合体(絶乾重量5.0g)を得ることができた。この修飾されたリグノセルロースのα位修飾度(DSα)は0.20であった。
【0349】
実施例1a-2〜1a-11
表2に示す通り、リグノセルロース含有材料、カルボン酸及び水又はNMPを用いて、固形分濃度(絶乾重量換算での原料濃度)が5重量%の試料を調製した。
【0350】
表2に示す反応条件(試薬配合量、反応時間、反応温度等)で、前記実施例1a-1と同様の操作で、α位修飾リグノセルロース誘導体を調製した。α位修飾リグノセルロース誘導体のα位置修飾度(DSα)を表2に示した。
【0351】
表2の説明
※1:固形分濃度が3重量%になるように過剰量の酢酸を添加
※2:リグノセルロース中に含有するリグニンの全水酸基量(mol)に対して0.1当量添加
※3:リグノセルロース中に含有するリグニンの全水酸基量(mol)に対して10当量添加
※4:リグノセルロース中に含有するリグニンの全水酸基量(mol)に対して5当量添加
※5:リグノセルロース中に含有するリグニンの全水酸基量(mol)に対して0.47当量添加
※6:リグノセルロース中に含有するリグニンの全水酸基量(mol)に対して2.0当量添加
※7:リグノセルロース中に含有するリグニンの全水酸基量(mol)に対して20当量添加
※8:溶媒として水の替わりにN-メチルピロリドン(NMP)を使用した。
【0352】
【表2】
【0353】
実施例1b:α位修飾リグノセルロース(b法:ルイス酸存在下での反応)
実施例1b-1
リグノセルロース含有材料(リグノセルロースを含む繊維集合体)のリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位に、ルイス酸を用いて、アシルオキシ基を導入した実施例である。
【0354】
酢酸(20mL、アシルオキシ基を導入する飽和脂肪酸)に、凍結乾燥NGP(100mg)を懸濁した。この懸濁液にBF
3-Et
2O(10μL)を加えて、室温で一週間撹拌した。その後、この試料を吸引濾過し、洗浄することでリグニンα位がアセチルオキシ基で修飾された本発明のα位修飾リグノセルロース誘導体(α位アセチルオキシNGP、98.mg)を得た。
【0355】
使用した原料(NGP)のHSQC-NMRスペクトルを
図4に、α位がアセチルオキシ基で修飾された本発明のリグノセルロース誘導体のHSQC-NMRスペクトルを
図5に示す。
【0356】
本発明のこのα位修飾リグノセルロース誘導体では、元来原料に存在していたHα/Cα=4.9/71.8 ppmのシグナル(
図4参照)が減少し、6.1/74.7 ppmに新たにアセチルオキシ基に基づくHα/Cαのシグナルが出現した(
図5参照)。これにより、リグニンのα位への修飾が確認された。
【0357】
実施例1b-2
プロピオン酸(20mL)に、凍結乾燥NGP(100 mg)を懸濁した。この懸濁液にBF
3-Et
2O(10μL)を加えて、室温で一週間撹拌した。その後、この試料を吸引濾過し、洗浄することでリグニンα位がプロピオニルオキシ基で修飾された本発明のリグノセルロース誘導体(αプロピオニルオキシNGP96.0mg)を得た。
【0358】
実施例1b-3
クロロホルム(20mL)に、凍結乾燥NGP(100 mg)を懸濁した。この懸濁液にフェノキシ酢酸(454.2 mg)を加えて、更にBF
3-Et
2O(10μL)を加えて反応を開始した。この試料を室温で一週間撹拌した後、吸引濾過し、洗浄することで本発明のα位修飾リグノセルロース誘導体(リグニンα位にフェノキシアセチルオキシ基を有するNGP(95.0mg)を得た。
【0359】
実施例1b-4
リグノセルロース含有材料(リグノセルロースを含む繊維集合体:NGP)のリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位(即ち、リグノセルロースのリグニンα位)に、ルイス酸を用いて、メトキシ基(メチルアルコールの化学式からから水素原子を除去した残基)を導入した例である。
【0360】
凍結乾燥NGP(201.5 mg)をメタノール(10 mL)に加えて、撹拌した。その懸濁液にBF
3-Et
2O 100μLを加えて、室温で反応を開始した。反応開始から42、90.5時間後にBF
3-Et
2O 100μLを夫々追加した。反応開始から17、39、61.5、87.5、160、184時間後毎に反応懸濁液を0.25 mLとり、濾過、エタノール洗浄、乾燥させた。その一部がαメトキシ化されたNGP(5mg)を取り、これをTGA分析に供し、1%重量減少温度を測定することで反応の進行を追跡した。216時間後、濾過、メタノールで洗浄、乾燥することで本発明のαメトキシリグノセルロース誘導体を含むNGP(150.8 mg)を得た。
【0361】
実施例1b-5
リグノセルロース含有材料(リグノセルロースを含む繊維集合体)のリグノセルロースα位に、ルイス酸を用いて、エトキシ基(エチルアルコールの化学式からから水素原子を除去した残基)を導入した例である。
【0362】
凍結乾燥NGP(206.5 mg)をエタノール(40 mL)に加えて、撹拌した。その懸濁液にBF
3-Et
2O 20μLを加えて、室温で反応を開始した。反応開始から8日後、反応懸濁液を、濾過、エタノール洗浄、乾燥させた。そして、リグノセルロースのリグニンα位にエトキシ基を有するリグノセルロース誘導体(本発明のαエトキシリグノセルロース誘導体)を含むNGPを得た。
【0363】
本発明のαエトキシリグノセルロース誘導体のHSQC-NMRスペクトルを
図6に示す。
【0364】
本発明のαエトキシリグノセルロース誘導体では、4.5/80ppm付近に新たにエトキシ基に基づくHα/Cαのシグナルが出現した(
図6参照)。これにより、リグニンα位への修飾が確認された。4.5/80ppm付近にシグナルが出現した。これはモデル化合物のデータと一致する。
【0365】
実施例1b-6
凍結乾燥NGP(57.9 mg)をジオキサン(2mL)に加えて、撹拌した。その懸濁液にドデカンチオール(1mL)を加えて撹拌した。その後、BF
3-Et
2O 80μLを加えて、50℃で反応を開始した。反応開始から3時間後、反応懸濁液にエタノールを加えて反応を停止し、濾過、エタノール洗浄、乾燥させた。そして、リグノセルロースのリグニンα位にドデシルチオ基を有するリグノセルロース誘導体を含むNGP(57.5 mg)を得た。
【0366】
本発明のαドデシルチオエーテル誘導体のFT-IRスペクトルにおいて2924cm
-1および2852cm
-1 のピーク強度が増加したことから、長鎖アルキル基の導入が確認できた。さらに、元素分析結果より、C:49.91%、H:7.91%、N:0.33%、S:1.20%、Sが導入されている事からもチオールの導入が確認された。
【0367】
実施例1b-7
凍結乾燥NGP(60.0 mg)をグリコール酸メチル (2mL)に加えて撹拌した。その懸濁液にBF
3-Et
2O 10μLを加え、40℃で反応を開始した。反応開始から20時間後、反応懸濁液にエタノールを加えて反応を停止し、濾過、エタノール洗浄、乾燥し、リグノセルロースのリグニンα位にグリコール酸メチルの化学式からから水素原子を除去した残基を導入したリグノセルロース誘導体を得た(63 mg)。
【0368】
実施例1b-8
凍結乾燥NGP(113.1 mg)をジオキサン(4mL)に加えて、撹拌した。その懸濁液にテトラヒドロフルフリルアルコール(2mL)を加えて撹拌した。その後、BF
3-Et
2O 160μLを加えて、50℃で反応を開始した。反応開始から3時間後、反応懸濁液にエタノールを加えて反応を停止し、濾過、エタノール洗浄、乾燥させた。そして、リグノセルロースのリグニンα位にテトラヒドロフルフリルエーテル基(テトラヒドロフルフリルオキシ基)を有するリグノセルロース誘導体を含むNGP(107.2 mg)を得た。
【0369】
本発明のリグノセルロース誘導体のFT-IRスペクトルにおいて871cm
-1にショルダーピークがみられたことから、テトラヒドロフルフリルエーテル基(テトラヒドロフルフリルオキシ基)の導入が確認できた。
【0370】
実施例1b-9
NGP(2000 mg) に、イソプロピルアルコール(IPA)200gを加えて、攪拌した。次いで、この試料を吸引ろ過した。この操作を3回繰り返し、溶媒置換により、試料の脱水を行った。
【0371】
その後、IPA (64.7mL)を加えて撹拌した。その懸濁液にBF
3-Et
2O 0.33mLを加えて、40℃で反応を開始した。反応開始から20時間後、反応懸濁液にエタノールを加えて反応を停止し、濾過、エタノール洗浄、乾燥し、リグノセルロースのリグニンα位にイソプロピルアルコールの化学式からから水素原子を除去した残基を導入したリグノセルロース誘導体を得た(2084 mg)。
【0372】
実施例1b-10
NGP(5000 mg) に、イソプロピルアルコール(IPA)500gを加えて、攪拌した。次いで、この試料を吸引ろ過した。この操作を3回繰り返し、溶媒置換により、試料の脱水を行った。
【0373】
その後、IPA (166.7mL)を加えて撹拌した。その懸濁液にBF
3-Et
2O 0.33mLを加えて、40℃で反応を開始した。反応開始から20時間後、反応懸濁液にエタノールを加えて反応を停止し、濾過、エタノール洗浄、乾燥し、リグノセルロースのリグニンα位にイソプロピルアルコールの化学式からから水素原子を除去した残基を導入したリグノセルロース誘導体を得た(5720 mg)。
【0374】
実施例1b-11
凍結乾燥NGP(4000 mg)をドデカノール (160mL)に加えて撹拌した。その懸濁にBF
3-Et
2O 3.0 mLを加えて、40℃で反応を開始した。反応開始から20時間後、反応懸濁液にエタノールを加えて反応を停止し、濾過、エタノール洗浄、乾燥し、リグノセルロースのリグニンα位にドデカノールの化学式からから水素原子を除去した残基を導入したリグノセルロース誘導体を得た(4840 mg)。
【0375】
実施例1b-12
NGP(5000 mg) に、エタノール 500gを加えて、攪拌した。次いで、この試料を吸引ろ過した。この操作を3回繰り返し、溶媒置換により、試料の脱水を行った。
【0376】
その後、エタノール (205.1mL)を加えて撹拌した。その懸濁液にBF
3-Et
2O 0.83mLを加えて、40℃で反応を開始した。反応開始から20時間後、反応懸濁液を濾過、エタノール洗浄、乾燥し、リグノセルロースのリグニンα位にエタノールの化学式からから水素原子を除去した残基を導入したリグノセルロース誘導体を得た(5310 mg)。
【0377】
比較例1b
比較例1b-1
無水NMP(50mL)に、凍結乾燥NGP(200mg)を加えて一晩撹拌した。その懸濁液にピリジン(309μL、3.839mmol)及びアセチルクロライド(227μL、3.199mmol)を加えて反応を開始した。反応開始から10分後、反応懸濁液に、エタノールを加えて、反応を停止した。この試料を吸引濾過及びエタノール洗浄することで、NGPのリグノセルロース中の水酸基がアセチル化されたNGP(189.5mg)を得た。得られたアセチル化NGPをTGA分析に供した。
【0378】
実施例と比較例との違いは次の通りである。実施例は、リグニンのα位(ベンジル位)に選択的に反応したことをHSQC-NMRスペクトルによる構造解析で確認した。一方、比較例では、リグノセルロース中の多糖類水酸基及びリグノセルロース中のリグニンα位(ベンジル位)以外の水酸基が優先的に反応してアセチル化されたことを確認した。
【0379】
TGA分析結果等の、実施例1bと比較例1bの試験結果を表3に示した。
【0380】
この表には記載してないが、原料NGPの1%重量減少温度(1%loss温度)は、209℃であった。このことから、リグノセルロースのリグニンα位が修飾されると、1%重量減少温度(1%loss温度)は上昇することがわかる。即ち、リグニンα位が修飾されると、熱分解が開始する温度は高くなることから、リグノセルロースの熱安定性が改善されることがわかる。
【0381】
【表3】
【0382】
実施例2a:α位修飾リグノセルロース誘導体(a法で製造)の糖鎖の水酸基の修飾 (リグノセルロース二重修飾体の製造)
実施例2a-1
前記実施例1a-1で、リグノセルロース含有材料のリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位に、亜塩素酸塩を用いて、アシルオキシ基を導入した。
【0383】
そのα位修飾リグノセルロース誘導体を含むリグノセルロース含有材料において、α位修飾リグノセルロース誘導体に含まれる、セルロース及びヘミセルロースの少なくとも一種中に存在する水酸基(即ち、α修飾リグノセルロース誘導体中の糖鎖水酸基)がオクタノイル化された実施例である。
【0384】
リグニンα位にアシルオキシ基を有するリグノセルロース誘導体(実施例1a-1)4g(絶乾重量)に、N-メチルピロリドン(NMP)350gを加えて、攪拌した。次いで、この試料を吸引ろ過した。この操作を3回繰り返し、溶媒置換により、試料の脱水を行った。
【0385】
300mLガラス製容器に、その脱水後の試料を入れ、NMPを添加し、固形分濃度を3重量%に調整した。次いで、この試料にピリジン1.67g(全水酸基量(mol)に対して0.33当量に相当する量)、オクタノイルクロライド3.11g(全水酸基量(mol)に対して0.3当量に相当する量)を加え、50℃で2時間攪拌し、反応させた。
【0386】
反応後、その試料をアセトン、エタノール及び水で順次洗浄し、α位がアシルオキシ基で修飾されかつ糖鎖がオクタノイル化された生成物(即ち、本発明のリグノセルロース二重修飾体)4.35g(絶乾重量)を得た。このリグノセルロース二重修飾体の水酸基置換度(DS
OH)、即ち、オクタノイル化の程度は0.19であった。
【0387】
実施例2a-2〜2a-14
表4に示す反応条件(試薬配合量、反応時間、反応温度等)で、前記実施例2a-1と同様の操作で、α位にアシルオキシ基を有するリグノセルロースのアシル化反応を行った。反応後の水酸基置換度を表4に示した。
【0388】
比較例2a-1〜2a-4
α位にアシルオキシ基を有するリグノセルロースの代わりに、リグノセルロース含有材料(α位が修飾されていないリグノセルロースを含む繊維集合体)を用いた。
【0389】
表4に示す反応条件(試薬配合量、反応時間、反応温度等)で、前記実施例2a-1と同様の操作で、リグノセルロース含有材料のアシル化反応を行った。反応後の水酸基置換度を表4に示した。
【0390】
表4の説明
※1:全水酸基量(mol)に対して0.33当量添加
※2:全水酸基量(mol)に対して1.65当量添加
※3:全水酸基量(mol)に対して1.5当量添加
※4:全水酸基量(mol)に対して0.3当量添加
【0391】
【表4】
【0392】
実施例2b:α位修飾リグノセルロース(b法で製造)の糖鎖の水酸基の修飾
(本発明リグノセルロース二重修飾体の製造)
実施例2b-1
前記実施例1b-1で、リグノセルロース含有材料のリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位に、ルイス酸を用いて、アシルオキシ基を導入した。
【0393】
そのα位修飾リグノセルロース誘導体を含むリグノセルロース含有材料において、α位修飾リグノセルロース誘導体に含まれる、セルロース及びヘミセルロースの少なくとも一種中に存在する水酸基(即ち、α位修飾リグノセルロース誘導体中の糖鎖水酸基)がアセチル化された実施例である。
【0394】
実施例1b-1で作製した、リグニンα位にアシルオキシ基を有するNGP(DSα=0.26)の73.5mgを無水NMP(35mL)に一晩分散させた。次いで、この懸濁液にピリジン(860μL、10.7mmol)及びアセチルクロライド(630μL、8.89mmol)を加え、反応を開始した。
【0395】
反応開始から1時間後、反応懸濁液に、エタノールを滴下し反応を停止した。この試料を吸引濾過及びエタノール洗浄することで、NGP中のリグニンα位がアシルオキシ基で修飾され、かつ、このリグニンα位修飾物中の糖鎖水酸基がアセチル化(水酸基置換度DS
OH=0.79)されたNGP、即ち、本発明のリグノセルロース二重修飾体(68.0mg)を得た。
【0396】
リグニンα位修飾度(DSα)0.26 と水酸基置換度(DS
OH)0.79の和(DS
total)は1.05である。得られた本発明のリグノセルロース二重修飾体をTGA分析に供した。
【0397】
TGA分析の結果を表5にまとめた。
【0398】
実施例2b-2
リグニンα位にアシルオキシ基を有するリグノセルロース誘導体(実施例1b-9)1.3g(絶乾重量)に、N-メチルピロリドン(NMP)130gを加えて、攪拌した。次いで、この試料を吸引ろ過した。この操作を3回繰り返し、溶媒置換により、試料の脱水を行った。
【0399】
100mLガラス製容器に、その脱水後の試料を入れ、NMPを添加し、固形分濃度を3重量%に調整した。次いで、この試料に炭酸カリウム2.94g(全水酸基量(mol)に対して1.1当量に相当する量)、無水酢酸1.83ml(全水酸基量(mol)に対して1.0当量に相当する量)を加え、80℃で20時間攪拌し、反応させた。
【0400】
反応後、その試料をアセトン、エタノール及び水で順次洗浄し、α位がアシルオキシ基で修飾されかつ糖鎖がアセチル化された生成物(即ち、本発明のリグノセルロース二重修飾体)1.7g(絶乾重量)を得た。このリグノセルロース二重修飾体の水酸基置換度(DS
OH)、即ち、アセチル化の程度は1.1であった。
【0401】
リグニンα位修飾度(DSα)0.14 と水酸基置換度(DS
OH)1.1の和((DS
total)は、1.24である。得られた本発明のリグノセルロース二重修飾体をTGA分析に供した。TGA分析の結果を表5にまとめた。
実施例2b-3
リグニンα位にアシルオキシ基を有するリグノセルロース誘導体(実施例1b-10)3.0g(絶乾重量)に、N-メチルピロリドン(NMP)300gを加えて、攪拌した。次いで、この試料を吸引ろ過した。この操作を3回繰り返し、溶媒置換により、試料の脱水を行った。
【0402】
200mLガラス製容器に、その脱水後の試料を入れ、NMPを添加し、固形分濃度を3重量%に調整した。次いで、この試料に炭酸カリウム4.35g(全水酸基量(mol)に対して0.77当量に相当する量)、無水酢酸2.7ml(全水酸基量(mol)に対して0.7当量に相当する量)を加え、80℃で20時間攪拌し、反応させた。反応後、その試料をアセトン、エタノール及び水で順次洗浄し、α位がアシルオキシ基で修飾されかつ糖鎖がアセチル化された生成物(即ち、本発明のリグノセルロース二重修飾体)3.7g(絶乾重量)を得た。
【0403】
このリグノセルロース二重修飾体の水酸基置換度(DS
OH)、即ち、アセチル化の程度は1.0であった。リグニンα位修飾度(DSα)0.43と水酸基置換度(DS
OH)1.0の和(DS
total)は1.43である。
【0404】
得られた本発明のリグノセルロース二重修飾体をTGA分析に供した。TGA分析の結果を表5にまとめた。
【0405】
比較例2b
比較例2b-1
実施例2-1のリグノセルロース二重修飾体の熱安定性と、通常のアシル化反応で調整したNGPとを比較した。全水酸基あたりの修飾度(Total Ds)が、実施例2b-1の修飾度(Total Ds)と同程度のアセチル化NGPを以下の通り調整した。
【0406】
無水NMP(50mL)に、凍結乾燥NGP(100mg)を加えて一晩撹拌した。その懸濁液にピリジン(916μL、7.583mmol)及びアセチルクロライド(449μL、6.319mmol)を加えて反応を開始した。反応開始から6時間後、反応懸濁液に、エタノールを加えて、反応を停止した。この試料を吸引濾過し、エタノール洗浄することでアセチル化NGPを得た。得られたAc化GPをTGA分析及びHSQC-NMR分析に供した。
【0407】
実施例2b-1と比較例2b-1との違いの一つは、両者のリグニンα位の水酸基のアセチル化度である。実施例2b-1では、ほとんどのα位の水酸基でアセチル化が進行している。
【0408】
一方、比較例2b-1では、リグニンのα位の水酸基に比べて、リグニンα位以外のリグニン水酸基、セルロース及びヘミセルロースの糖鎖に存在する水酸基のアセチル化が優先している。比較例2b-1では、リグニンα位の水酸基が未反応で残存している。
【0409】
この様なことから、実施例2b-1と比較例2b-1とでは、両者の生成物は異なるものである。
【0410】
実施例2b-1の生成物は、熱重量分析(TGA)から求めた1%重量減少温度(1%loss温度)及びピークトップ温度が、比較例2b-1の生成物のそれらよりも高く、熱安定性に優れる。
【0411】
【表5】
【0412】
実施例3:α位修飾リグノセルロース誘導体のアシル化物(リグノセルロース二重修飾体)の熱圧成形体
実施例3-1
前記実施例1a-1で、リグノセルロース含有材料中のリグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位(リグニンα位)を、亜塩素酸塩を用いて、アシルオキシ基で修飾した。
【0413】
前記実施例2a-1で、そのα位修飾リグノセルロース誘導体に含まれる、セルロース及びヘミセルロースの少なくとも一種中に存在する水酸基(即ち、α位修飾リグノセルロース誘導体中の糖鎖水酸基)をオクタノイル化し、本発明のリグノセルロース二重修飾体を得た(実施例2a-1)。そのリグノセルロース二重修飾体を以下の通り熱圧成形させることにより、熱圧成形体を得た。
【0414】
実施例2a-1のリグノセルロース二重修飾体1.5g(絶乾重量)に、エタノールを添加して、ミキサーで30秒間攪拌し、固形分濃度を1重量%に調整した。次いで、この試料を、No.4の濾紙を用いて吸引濾過を行い、半径3.8cmの円形試料を得た。
【0415】
圧縮成形機(新藤金属工業所社製、NF-37)を用いて、その円形試料を、室温で3MPaで約1分間圧縮した後、40℃のオーブンで乾燥させた。乾燥された試料を、離型剤を塗布した厚さ5mm、200mm四方の金属板に挟み、圧縮成形機を用いて170℃で8分間軽く密着させて予熱した後、50MPaで10分間熱圧成形を行った。10分後、ヒーター電源を切り冷却水を流し50℃以下まで冷却して、作成された熱圧成形体を取り出した。
【0416】
上記の熱圧成形体の外観評価及び物性評価を表6に示した。
【0417】
実施例3-2〜3-15
上記実施例3-1と同様の操作で、前記実施例2a-2〜2a-13、実施例2b-2、2b-3に記載のリグノセルロース二重修飾体を、上記実施例3-1と同様の操作で表6の条件下に熱圧成形を行った。得られた熱圧成形体の外観評価及び物性評価を表6に示した。
【0418】
比較例3-1〜3-6
リグノセルロース二重修飾体の代わりに、比較例2a-1〜2a-4のリグノセルロース誘導体(リグニンα位に修飾がなく、セルロース、ヘミセルロース中の水酸基がアシル化された誘導体からなる材料を用いて、前記実施例3-1と同様の操作で、表6の成形温度で熱圧成形を行った。得られた比較例の熱圧成形体の外観評価及び物性評価も表6中に示した。
【0419】
比較例3-1〜3-6で表される通り、リグニンα位が修飾されていないリグノセルロース誘導体からなる材料を用いると、実施例に記載の成形温度では密着性(透明性)を有した熱圧成形体を得ることができなかった。
【0420】
実施例3-1〜3-15で表される通り、本発明のリグノセルロース二重修飾体からなる材料を用いると、その材料の熱可塑性は向上し、着色を抑えた低線熱膨張率の熱圧成形体を得ることができた。またその熱可塑性は、リグノセルロースのリグニンα位に導入する官能基の種類又は官能基の導入量によって制御することが可能であった。
【0421】
本発明のリグノセルロース誘導体は、リグニンα位(リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα位)に特性基(修飾基)を有することが特徴であり、植物繊維と同様に、軽量であり、強度を有し、低線熱膨張係数を有すると共に、熱可塑性を発現できる。
【0422】
本発明のリグノセルロース誘導体、特に本発明のリグノセルロース二重修飾体は、汎用のプラスチックと同様に、加熱すると軟化して成形し易くなり、冷やすと再び固くなる性質(熱可塑性)を持ち、良好な加工性を発現できる。
【0423】
表6の説明
※1:成分比率は使用原料中の成分(リグニン、セルロース、ヘミセルロース)の含有量と第4表記載のTotal DS(α位の修飾度+水酸基の置換度)から計算で求めた。
【0424】
【表6】
【0425】
実施例4:α位修飾リグノセルロース誘導体のアシル化物(リグノセルロース二重修飾体)とマトリクス材料とを含む樹脂組成物及びその成形体
実施例4-1 リグノセルロース二重修飾体の調製
実施例2a-1と同様の操作で、α位がアセチルオキシ基、糖鎖の水酸基がミリストイル基で修飾されたリグノセルロース二重修飾体を調製し、この水洗物(水懸濁液)を得た。
【0426】
このリグノセルロース二重修飾体を乾燥後、修飾度を測定したところ、リグニンα位修飾度(DSα)は0.20(アセチルオキシ基で修飾)であり、糖鎖水酸基修飾度(DS
OH)は0.57(ミリストイル基で修飾)であった。
【0427】
実施例4-2
上記リグノセルロース二重修飾体の水懸濁液に、マトリクス材料の1つであるナイロン6(PA6)と略記することもある)を加え、トリミックス((株)井上製作所製)にて混合し、減圧下攪拌しながら乾燥した。得られた混合物を下記の条件で混練し、造粒して、本発明のリグノセルロース誘導体とマトリクス材料とを含む樹脂組成物を得た。
【0428】
この組成物中のリグノセルロース誘導体含有率(未修飾リグノセルロース換算の含有率は、10質量%である。
【0429】
・混練装置:テクノベル社製「TWX-15型」
・混練条件:温度=215℃
【0430】
本発明樹脂組成物成形体の製造
上記で得られた樹脂組成物を下記の射出成形条件で、射出成形しダンベル型の樹脂成形体(強度試験用試験片、厚さ1mm)を得た。
【0431】
・射出成形機:日精樹脂社製「NP7型」
・成形条件:成形温度=220℃
【0432】
強度試験
得られた試験片について、電気機械式万能試験機(インストロン社製)を用い、試験速度を1.5mm/分として弾性率及び引張強度を測定した(ロードセル5kN)。
【0433】
その際、支点間距離を4.5cmとした。
【0434】
対象試験片(PA6成形体)ついても同様に調製しその弾性率及び引張強度を測定した。
【0435】
測定結果は、以下の通りであった。
【0436】
本発明品成形体:引張弾性率2.5GPa、引張強度59MPa
対象PA6成形体:引張弾性率1.7GPa、引張強度42MPa
本発明リグノセルロー誘導体を含有する成形体は、PA6成形体に比べて、引張弾性率では約1.5倍、引張強度では約1.4倍の値を示した。