特許第6656962号(P6656962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656962
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】焼成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/38 20060101AFI20200220BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20200220BHJP
   G21F 9/32 20060101ALI20200220BHJP
   C04B 7/36 20060101ALI20200220BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
   C04B7/38
   G21F9/28 Z
   G21F9/32 Z
   C04B7/36
   C04B22/08 Z
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-49098(P2016-49098)
(22)【出願日】2016年3月14日
(65)【公開番号】特開2017-165591(P2017-165591A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】本間 健一
(72)【発明者】
【氏名】田中 宜久
(72)【発明者】
【氏名】片岡 誠
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−076690(JP,A)
【文献】 特開2014−130051(JP,A)
【文献】 特開2014−106017(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/068800(WO,A1)
【文献】 特開2013−122440(JP,A)
【文献】 特開2013−082604(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/068643(WO,A1)
【文献】 特開2013−122449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 − 32/02
G21F 9/28
G21F 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性セシウムで汚染された処理対象物を加熱して、放射性セシウムの濃度が低減された焼成物を製造するための方法であって、
上記放射性セシウムで汚染された処理対象物中の放射性セシウム濃度を測定するセシウム濃度測定工程と、
上記セシウム濃度測定工程で放射性セシウム濃度を測定済みの処理対象物を、成分調整せずにまたは成分調整して、加熱対象物を得た後に、上記加熱対象物を加熱して、上記処理対象物中の放射性セシウムを揮発させ、焼成物を得る加熱工程、を含み、
上記セシウム濃度測定工程後に、上記放射性セシウム濃度が、20万Bq/kg以上である場合、上記加熱工程において、下記(a)の方法を選択し、
上記放射性セシウム濃度が、3万Bq/kg以上、20万Bq/kg未満である場合、上記加熱工程において、下記(a)〜(d)の方法のいずれか一つを選択し、
上記放射性セシウム濃度が、3万Bq/kg未満である場合、上記加熱工程において、下記(b)〜(f)の方法のいずれか一つを選択することで、
上記焼成物の用途を、セメントクリンカ、土工資材、及びセメント混和材のいずれかに定めることを特徴とする焼成物の製造方法。
(a)CaO、MgO、及びSiOの下記式(1)で表される質量比が2.7を超え、ケイ酸率(S.M.)が1.3を超え、かつ、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.0以下となるように、上記加熱対象物を調製した後、1,400〜1,550℃で加熱して、セメントクリンカとして用いるための焼成物を得る方法
質量比=((CaO+1.39×MgO)/SiO) ・・・(1)
(式中、CaO、MgO、及びSiOは、各々、カルシウムの酸化物換算の質量、マグネシウムの酸化物換算の質量、珪素の酸化物換算の質量を表す。)
(b)CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.8〜2.7であり、ケイ酸率(S.M.)が2.0を超え、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.5以下であり、かつ、加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合が0.3質量%以上となるように、上記加熱対象物を調製した後、1,250〜1,450℃で加熱して、土工資材として用いるための焼成物を得る方法
(c)CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が2.2を超え、2.7以下であり、ケイ酸率(S.M.)が2.0を超え、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.5以下であり、かつ、加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合が0.3質量%未満となるように、上記加熱対象物を調製した後、1,250〜1,450℃で加熱して、土工資材として用いるための焼成物を得る方法
(d)CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.8〜2.2であり、ケイ酸率(S.M.)が2.0を超え、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.5以下であり、かつ、加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合が0.3質量%未満となるように、上記加熱対象物を調製した後、1,250〜1,450℃で加熱して、セメント混和材として用いるための焼成物を得る方法
(e)CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.0〜1.8であり、ケイ酸率(S.M.)が2.3を超え、かつ、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.5以下となるように、上記加熱対象物を調製した後、1,200〜1,400℃で加熱して、土工資材として用いるための焼成物を得る方法
(f)CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.0〜1.8となるように、上記加熱対象物を調製した後、1,200〜1,400℃で加熱して焼成物を得て、次いで、該焼成物を、ブレーン比表面積が2,800〜4,200cm/gとなるように粉砕して、セメント混和材として用いるための焼成物を得る方法
【請求項2】
上記方法(a)において、ケイ酸率(S.M.)が1.3を超え、1.6以下の場合、上記式(1)で表される質量比が3.0〜3.7であり、ケイ酸率(S.M.)が1.6を超え、2.0以下の場合、上記式(1)で表される質量比が2.8〜3.5であり、ケイ酸率(S.M.)が2.0を超える場合、上記式(1)で表される質量比が2.7を超え、3.3以下であるように、上記加熱対象物を調製する、請求項に記載の焼成物の製造方法。
【請求項3】
上記加熱工程において、上記加熱対象物が、上記処理対象物に加えて、CaO源及びMgO源の少なくともいずれか一方を含み、上記CaO源及びMgO源の少なくともいずれか一方の種類及び上記処理対象物に対する配合割合を定めることで、上記加熱対象物を調製する、請求項1又は2に記載の焼成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の焼成物の製造方法によってセメントクリンカを得た後、該セメントクリンカを粉砕し、得られたセメントクリンカの粉砕物と石膏を混合してセメントを得る、セメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウムで汚染された処理対象物を原料として用いて、無害な焼成物を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の大きな事故によって外部の環境中に放出された放射性セシウムが、廃棄物又は土壌中に含まれている場合があるという問題が起きている。放射性セシウム(セシウム137)は、半減期が30年であり、長期間に亘って人体に悪影響を与えうるため、廃棄物等からの放射性セシウムを除去して処理することが求められている。
放射性セシウムに汚染された廃棄物等に添加材を添加して、廃棄物等の化学組成を調整した後、加熱処理することによって、放射性セシウムを揮発させ、加熱処理後の焼成物中の放射性セシウム濃度を低減させた後、該焼成物を各種資材として利用する技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、放射性セシウムで汚染された廃棄物、及び、CaO源及び/又はMgO源を1,200〜1,350℃で加熱して、上記廃棄物中の放射性セシウムを揮発させ、焼成物を得る加熱工程を含む焼成物の製造方法であって、上記加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの各々の質量が、特定の式を満たすように、上記廃棄物、CaO源及びMgO源の各々の種類及び配合割合を定めることを特徴とする焼成物の製造方法が記載されている。
また、特許文献1には、得られた焼成物を、セメント混和材、骨材、又は土工資材として使用することが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、放射性セシウムで汚染された廃棄物、CaO源及び/又はMgO源、塩化物、並びに、P源及び/又はNaO源を1,250〜1,450℃で加熱して、上記廃棄物中の放射性セシウムを揮発させ、焼成物を得る加熱工程を含む焼成物の製造方法であって、上記加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの各々の質量が、特定の式を満たし、塩素と、セシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が0.6〜2.0を満たすように、上記廃棄物、CaO源及びMgO源、塩化物の各々の種類及び配合割合を定め、かつ、加熱工程後に得られる焼成物100質量%中の割合として、Pの割合が0.3質量%以上、又はNaOの割合が1.0質量%以上であり、かつ、NaOの割合が5.0質量%以下となるように、上記P源及びNaO源の各々の種類及び配合割合を定める焼成物の製造方法が記載されている。
また、特許文献2には、得られた焼成物を、骨材、又は土工資材として使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5159971号公報
【特許文献2】特開2014−106017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放射性セシウムで汚染された廃棄物等は、廃棄物等中の放射性セシウム濃度が、8,000Bq/kgをわずかに超える程度である比較的濃度の低いものから、数百万〜数十億Bq/kgである濃度の高いものまで幅広く存在する。このため、廃棄物等中の放射性セシウム濃度をクリアランスレベル以下にするために必要な放射性セシウムの揮発率は、処理対象である廃棄物等の放射性セシウム濃度によって異なる。
また、放射性セシウムで汚染された廃棄物等の減容化技術として、放射性セシウムで汚染された廃棄物等を分級処理することで、放射性セシウムをほとんど含まない部分(例えば、土壌中の石等)を取り除く技術が知られている。分級処理によって得られたものの用途としては、骨材、盛土材、路盤材等が挙げられる。
上述した加熱処理や分級処理によって、放射性セシウムで汚染された廃棄物等を処理する際に、廃棄物等の放射性セシウム濃度や得られる焼成物の需要を考慮して、適切な処理を行わなければ、放射性セシウム濃度の低減が不十分となったり、特定の用途の焼成物が過剰に製造されて、供給過多となる場合が考えられる。
そこで、本発明の目的は、放射性セシウムで汚染された処理対象物中の放射性セシウム濃度および焼成物の用途に合わせて、適切な加熱処理を行って、放射性セシウム濃度が低減された焼成物を得ることができる焼成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、放射性セシウムで汚染された処理対象物中の放射性セシウム濃度を測定するセシウム濃度測定工程と、放射性セシウム濃度を測定済みの処理対象物を、成分調整せずにまたは成分調整して、加熱対象物を得た後に、加熱対象物を加熱して放射性セシウムを揮発させ、焼成物を得る加熱工程、を含み、処理対象物中の放射性セシウム濃度によって焼成物の用途を定め、加熱工程において焼成物の用途に応じて加熱対象物を調製する焼成物の製造方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[8]を提供するものである。
【0007】
[1] 放射性セシウムで汚染された処理対象物を加熱して、放射性セシウムの濃度が低減された焼成物を製造するための方法であって、上記放射性セシウムで汚染された処理対象物中の放射性セシウム濃度を測定するセシウム濃度測定工程と、上記セシウム濃度測定工程で放射性セシウム濃度を測定済みの処理対象物を、成分調整せずにまたは成分調整して、加熱対象物を得た後に、上記加熱対象物を加熱して、上記処理対象物中の放射性セシウムを揮発させ、焼成物を得る加熱工程、を含み、上記セシウム濃度測定工程後に、上記放射性セシウム濃度によって、上記焼成物の用途を、少なくともセメントクリンカの用途及び土工資材の用途を含む複数の用途の中から選択して定め、上記焼成物の用途をセメントクリンカに定めた場合、上記加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの下記式(1)で表される質量比が2.7を超えるように、上記加熱対象物を調製した後、加熱して、上記セメントクリンカとして用いるための焼成物を得て、上記焼成物の用途を土工資材(例えば、骨材、盛土剤、路盤材、埋め戻し材、防犯用の砂利等)に定めた場合、上記加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの下記式(1)で表される質量比が1.0〜2.7となるように、上記加熱対象物を調製した後、加熱して、上記土工資材として用いるための焼成物を得ることを特徴とする焼成物の製造方法。
質量比=((CaO+1.39×MgO)/SiO) ・・・(1)
(式中、CaO、MgO、及びSiOは、各々、カルシウムの酸化物換算の質量、マグネシウムの酸化物換算の質量、珪素の酸化物換算の質量を表す。)
[2] 上記複数の用途の中からの用途の選択は、上記放射性セシウム濃度が特定の値以上である場合には、セメントクリンカの用途に定め、上記放射性セシウム濃度が特定の値未満である場合には、土工資材の用途に定めるものである前記[1]に記載の焼成物の製造方法。
[3] 上記焼成物の複数の用途として、上記セメントクリンカの用途及び土工資材の用途に加えて、セメント混和材(換言すると、セメント、水、骨材以外の材料であって、モルタルまたはコンクリートの配合の計算において、その使用量が考慮される程度に大きな使用量で用いられる材料)の用途が含まれており、上記焼成物の用途をセメント混和材に定めた場合、上記加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.0〜2.2となるように、上記加熱対象物を調製した後、加熱して、上記セメント混和材として用いるための焼成物を得る前記[1]に記載の焼成物の製造方法。
[4] 上記複数の用途の中からの用途の選択は、上記放射性セシウム濃度が特定の値以上である場合には、セメントクリンカの用途に定め、上記放射性セシウム濃度が特定の値未満である場合には、土工資材及びセメント混和材のいずれか一方または両方の用途に定めるものである前記[3]に記載の焼成物の製造方法。
【0008】
[5] 上記セシウム濃度測定工程後に、上記放射性セシウム濃度が、20万Bq/kg以上である場合、上記加熱工程において、下記(a)の方法を選択し、上記放射性セシウム濃度が、3万Bq/kg以上、20万Bq/kg未満である場合、上記加熱工程において、下記(a)〜(d)の方法のいずれか一つを選択し、上記放射性セシウム濃度が、3万Bq/kg未満である場合、上記加熱工程において、下記(b)〜(f)の方法のいずれか一つを選択することで、上記焼成物の用途を、セメントクリンカ、土工資材、及びセメント混和材のいずれかに定める前記[3]又は[4]に記載の焼成物の製造方法。
(a)CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が2.7を超え、ケイ酸率(S.M.)が1.3を超え、かつ、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.0以下となるように、上記加熱対象物を調製した後、1,400〜1,550℃で加熱して、セメントクリンカとして用いるための焼成物を得る方法
(b)CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.8〜2.7であり、ケイ酸率(S.M.)が2.0を超え、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.5以下であり、かつ、加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合が0.3質量%以上となるように、上記加熱対象物を調製した後、1,250〜1,450℃で加熱して、土工資材として用いるための焼成物を得る方法
(c)CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が2.2を超え、2.7以下であり、ケイ酸率(S.M.)が2.0を超え、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.5以下であり、かつ、加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合が0.3質量%未満となるように、上記加熱対象物を調製した後、1,250〜1,450℃で加熱して、土工資材として用いるための焼成物を得る方法
(d)CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.8〜2.2であり、ケイ酸率(S.M.)が2.0を超え、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.5以下であり、かつ、加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合が0.3質量%未満となるように、上記加熱対象物を調製した後、1,250〜1,450℃で加熱して、セメント混和材として用いるための焼成物を得る方法
(e)CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.0〜1.8であり、ケイ酸率(S.M.)が2.3を超え、かつ、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.5以下となるように、上記加熱対象物を調製した後、1,200〜1,400℃で加熱して、土工資材として用いるための焼成物を得る方法
(f)CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.0〜1.8となるように、上記加熱対象物を調製した後、1,200〜1,400℃で加熱して焼成物を得て、次いで、該焼成物を、ブレーン比表面積が2,800〜4,200cm/gとなるように粉砕して、セメント混和材として用いるための焼成物を得る方法
【0009】
[6] 上記方法(a)において、ケイ酸率(S.M.)が1.3を超え、1.6以下の場合、上記式(1)で表される質量比が3.0〜3.7であり、ケイ酸率(S.M.)が1.6を超え、2.0以下の場合、上記式(1)で表される質量比が2.8〜3.5であり、ケイ酸率(S.M.)が2.0を超える場合、上記式(1)で表される質量比が2.7を超え、3.3以下であるように、上記加熱対象物を調製する、前記[5]に記載の焼成物の製造方法。
[7] 上記加熱工程において、上記加熱対象物が、上記処理対象物に加えて、CaO源及びMgO源の少なくともいずれか一方を含み、上記CaO源及びMgO源の少なくともいずれか一方の種類及び上記処理対象物に対する配合割合を定めることで、上記加熱対象物を調製する、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の焼成物の製造方法。
[8] 前記[1]〜[7]のいずれかに記載の焼成物の製造方法によってセメントクリンカを得た後、該セメントクリンカを粉砕し、得られたセメントクリンカの粉砕物と石膏を混合してセメントを得る、セメントの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の焼成物の製造方法によれば、放射性セシウムで汚染された処理対象物の放射性セシウム濃度および焼成物の用途に合わせて、適切な加熱処理を行って放射性セシウム濃度が低減された焼成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の焼成物の製造方法は、放射性セシウムで汚染された処理対象物を加熱して、放射性セシウムの濃度が低減された焼成物を製造するための方法であって、放射性セシウムで汚染された処理対象物中の放射性セシウム濃度を測定するセシウム濃度測定工程と、セシウム濃度測定工程で放射性セシウム濃度を測定済みの処理対象物を、成分調整せずにまたは成分調整して、加熱対象物を得た後に、該加熱対象物を加熱して、処理対象物中の放射性セシウムを揮発させ、焼成物を得る加熱工程、を含み、セシウム濃度測定工程後に、放射性セシウム濃度によって、焼成物の用途を、少なくともセメントクリンカの用途及び土工資材の用途を含む複数の用途の中から選択して定め、焼成物の用途をセメントクリンカに定めた場合、加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの下記式(1)で表される質量比が2.7を超えるように、加熱対象物を調製した後、加熱して、セメントクリンカとして用いるための焼成物を得て、焼成物の用途を土工資材に定めた場合、加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの下記式(1)で表される質量比が1.0〜2.7となるように、加熱対象物を調製した後、加熱して、土工資材として用いるための焼成物を得る焼成物の製造方法である。
質量比=((CaO+1.39×MgO)/SiO) ・・・(1)
(式中、CaO、MgO、及びSiOは、各々、カルシウムの酸化物換算の質量、マグネシウムの酸化物換算の質量、珪素の酸化物換算の質量を表す。)
以下、各工程について詳細に説明する。
【0012】
[セシウム濃度測定工程]
本工程は、放射性セシウムで汚染された処理対象物中の放射性セシウム濃度を測定する工程である。
本発明において、放射性セシウムとは、セシウムの放射性同位体であるセシウム134及びセシウム137を意味する。これらの放射性セシウムは、原子力発電所の事故によって外部の環境中に放出される放射性物質であり、半減期がそれぞれ約2年と約30年のものである。
放射性セシウムで汚染された処理対象物としては、例えば、土壌(分級処理汚泥も含む)や、下水汚泥乾粉、下水汚泥焼却灰、都市ごみ焼却灰、ごみ由来の溶融スラグ、貝殻、草木等の一般廃棄物や、剪定枝葉、バーク、堆肥、稲わら、牧草、米ぬか等の農林業系廃棄物や、下水汚泥、下水スラグ、浄水汚泥、建設汚泥等の産業廃棄物や、がれき、汚染水処理汚泥等の災害廃棄物であって、放射性セシウムを含むもの等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、放射性セシウムで汚染された土壌等を分級処理することによって、放射性セシウムをほとんど含まない部分(例えば、砂、石)を予め取り除いて得られる、放射性セシウムが濃縮されたもの(中間処理物)も、本発明における「放射性セシウムで汚染された処理対象物」の概念に含まれるものとする。
【0013】
放射性セシウムで汚染された処理対象物中の放射性セシウム濃度の測定方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ゲルマニウム半導体検出器やNaIシンチレーション検出器を用いた測定方法等が挙げられる。
【0014】
[加熱工程]
本工程は、セシウム濃度測定工程で放射性セシウム濃度を測定済みの処理対象物を、成分調整せずにまたは成分調整して、加熱対象物を得た後に、加熱対象物を加熱して、処理対象物中の放射性セシウムを揮発させ、焼成物を得る工程である。
本発明では、処理対象物中の放射性セシウム濃度によって、焼成物の用途を少なくともセメントクリンカの用途及び土工資材の用途を含む複数の用途の中から選択して定め、放射性セシウム濃度および焼成物の用途に合った適切な加熱処理が行われる。
なお、得られた焼成物は、各種用途に合わせて、そのままあるいは粉砕して用いられる。
具体的には、焼成物の用途をセメントクリンカに定めた場合、加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの下記式(1)で表される質量比が2.7を超えるように、加熱対象物を調製した後、加熱して、セメントクリンカとして用いるための焼成物を得ることができる。
焼成物の用途をセメントクリンカに定めた場合、加熱温度は、好ましくは1,400〜1,550℃、より好ましくは1,420〜1,500℃である。
質量比=((CaO+1.39×MgO)/SiO) ・・・(1)
(式中、CaO、MgO、及びSiOは、各々、カルシウムの酸化物換算の質量、マグネシウムの酸化物換算の質量、珪素の酸化物換算の質量を表す。)
なお、CaOの1モルの質量は、MgOの1.39モルの質量に相当することから、上記式(1)において、MgOの質量に1.39を乗じている。
【0015】
また、焼成物の用途を土工資材に定めた場合、加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの下記式(1)で表される質量比が1.0〜2.7となるように、加熱対象物を調製した後、加熱して、土工資材として用いるための焼成物を得ることができる。
焼成物の用途を土工資材に定めた場合、加熱温度は、好ましくは1,200〜1,450℃、より好ましくは1,250〜1,420℃である。
【0016】
焼成物の複数の用途として、セメントクリンカの用途及び土工資材の用途に加えて、セメント混和材の用途を含んでいてもよい。
焼成物の用途をセメント混和材に定めた場合、加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.0〜2.2となるように、加熱対象物を調製した後、加熱して、上記セメント混和材として用いるための焼成物を得ることができる。
焼成物の用途をセメント混和材に定めた場合、加熱温度は、好ましくは1,200〜1,450℃、より好ましくは1,250〜1,420℃である。
【0017】
焼成物の、複数の用途の中からの用途の選択は、処理対象物中の放射性セシウム濃度が特定の値以上である場合には、セメントクリンカの用途に定め、処理対象物中の放射性セシウム濃度が特定の値未満である場合には、土工資材及びセメント混和材のいずれか一方または両方の用途に定めることが好ましい。
用途の選択の指標となる特定の値は、処理対象物中の放射性セシウムの濃度や、焼成物の需要等を考慮して適宜定めればよい。
【0018】
また、処理対象物中の放射性セシウム濃度および焼成物の用途によって、加熱処理の条件をより細かく定めてもよい。加熱処理の条件をより細かく定めることで、より適切に処理対象物を処理することができる。
例えば、処理対象物中の放射性セシウム濃度が20万Bq/kg以上である場合、本工程において、下記(a)の方法を選択し、得られる焼成物の用途を、セメントクリンカに定めることができる。
処理対象物中の放射性セシウム濃度が、3万Bq/kg以上、20万Bq/kg未満である場合、本工程において、下記(a)〜(d)の方法のいずれか一つを選択することで、得られる焼成物の用途を、セメントクリンカ、土工資材、及びセメント混和材のいずれかに定めることができる。
処理対象物中の放射性セシウム濃度が、3万Bq/kg未満である場合、本工程において、下記(b)〜(f)の方法のいずれか一つを選択することで、得られる焼成物の用途を、土工資材、及びセメント混和材のいずれかに定めることができる。
【0019】
(1)方法(a)
方法(a)は、CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が2.7を超え、ケイ酸率(S.M.)が1.3を超え、かつ、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.0以下となるように、加熱対象物を調製した後、1,400〜1,550℃で加熱して、セメントクリンカとして用いるための焼成物を得る方法である。
上記式(1)で表される質量比が2.7を超えると、得られる焼成物をセメントクリンカとして、より好適に利用することができる。
また、処理対象物中の放射性セシウム濃度が20万Bq/kg以上である場合において、該質量比が2.7以下であると、放射性セシウムの揮発率が小さくなり、得られる焼成物中の放射性セシウム濃度を十分に低減することができなくなる場合がある。該質量比の上限は、特に限定されないが、得られるセメントクリンカの物性の観点から、好ましくは3.7以下である。なお、取扱いが困難となり、また得られる焼成物中の放射性セシウム濃度を十分に低減することができなくなる場合があるため、処理対象物中の放射性セシウム濃度は好ましくは1億Bq/kg以下である。
【0020】
ケイ酸率(S.M.)が1.3以下であると、加熱中に液相が形成されやすくなり、放射性セシウムが該液相に取り込まれることで放射性セシウムが揮発しにくくなる。
ここで、ケイ酸率とは、SiO2とAl23及びFe23との質量比(SiO2/(Al23+Fe23))である。
また、より品質に優れたセメントクリンカを得る観点から、ケイ酸率の数値に応じて、上記式(1)で表される質量比が特定の数値範囲となるように、加熱対象物を調製してもよい。
【0021】
具体的には、ケイ酸率が1.3を超え、1.6以下の場合、上記式(1)で表される質量比が3.0〜3.7となるように、加熱対象物を調製することが好ましい。該比が3.0以上であれば、得られるセメントクリンカを用いたセメント中のエーライト(3CaO・SiO2)量が多くなり、セメントクリンカの強度発現性がより向上する。該比が3.7以下であれば、遊離石灰の残存量が少なくなり、得られるセメントクリンカを用いたセメントの品質がより向上する。
ケイ酸率が1.6を超え、2.0以下の場合、上記式(1)で表される質量比が2.8〜3.5となるように、加熱対象物を調製することが好ましい。該比が2.8以上であれば、得られるセメントクリンカを用いたセメント中のエーライト量が多くなり、セメントクリンカの強度発現性がより向上する。該比が3.5以下であれば、遊離石灰の残存量が少なくなり、得られるセメントクリンカを用いたセメントの品質がより向上する。
ケイ酸率が2.0を超える場合、上記式(1)で表される質量比が2.7を超え、3.3以下となるように、加熱対象物を調製することが好ましい。該比が2.7を超えれば、得られるセメントクリンカを用いたセメント中のエーライト量が多くなり、セメントクリンカの強度発現性がより向上する。該比が3.3以下であれば、遊離石灰の残存量が少なくなり、得られるセメントクリンカを用いたセメントの品質がより向上する。
【0022】
塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))は、1.0以下、好ましくは0.1〜0.8である。該比が1.0を超える場合、得られる焼成物中に塩素が残留するため、セメントクリンカとして利用し難くなる。該比が0.1以上であれば、放射性セシウムの揮発率がより大きくなる。
【0023】
加熱温度は、1,400〜1,550℃、好ましくは1,420〜1,500℃である。該温度が1,400℃未満であると、未反応のCaOが大量に生成してしまい、セメントクリンカの品質が悪化する。また、放射性セシウムの揮発率が小さくなる。該温度が1,550℃を超えると、液相が形成されることで放射性セシウムが液相中に取り込まれて揮発しにくくなることに加え、焼成物が熔融して硬くなり、粉砕し難くなるので、セメントクリンカとして利用し難くなる。
【0024】
セメントクリンカ(方法(a)で得られる焼成物)中の遊離石灰(フリーライム)の含有率は、該セメントクリンカを用いたセメントの流動性および強度発現性の観点から、好ましくは0.2〜1.5質量%、より好ましくは0.4〜1.0質量%である。
また、セメントクリンカ中の全アルカリ(NaO+0.658×KO)の含有率は、該セメントクリンカを用いたコンクリートのアルカリ骨材反応を抑制する観点から、好ましくは0.75質量%以下、より好ましくは0.65質量%以下である。
また、セメントクリンカ中の塩素量は、該セメントクリンカを用いた鉄筋コンクリートの錆び防止の観点から、好ましくは1,000mg/kg以下、より好ましくは500mg/kg以下、特に好ましくは350mg以下である。
なお、セメントクリンカを用いたセメントの流動性、強度発現性向上の観点から、焼成物を得た後、急冷することが好ましい。
【0025】
(2)方法(b)
方法(b)は、CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.8〜2.7であり、ケイ酸率(S.M.)が2.0を超え、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.5以下であり、かつ、加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合が0.3質量%以上となるように、加熱対象物を調製した後、1,250〜1,450℃で加熱して、土工資材として用いるための焼成物を得る方法である。
上記式(1)で表される質量比が1.8未満であると、放射性セシウムの揮発率が小さくなり、得られる焼成物中の放射性セシウム濃度を十分に低減することができなくなる。該質量比が2.7を超えると、保管時等に焼成物が固化してしまう場合がある。
【0026】
ケイ酸率(S.M.)が2.0以下であると、加熱中に液相が形成されやすくなり、放射性セシウムが該液相に取り込まれることで放射性セシウムが揮発しにくくなる。
塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))は、1.5以下、好ましくは0.2〜1.0である。該比が1.5を超える場合、得られる焼成物中に塩素が残留するため、コンクリート用骨材として利用し難くなる。該比が0.2以上であれば、放射性セシウムの揮発率がより大きくなる。
加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合は、0.3質量%以上、好ましくは0.4〜20.0質量%、より好ましくは0.5〜15.0質量%である。
CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.8〜2.7であり、かつ、得られる焼成物中のPの量が0.3質量%未満である場合、焼成物を冷却する際に焼成物が粉状化する現象(ダスティング)が生じる場合がある。焼成物が粉状化すると、該焼成物を土工資材として用いることができなくなる。
【0027】
加熱温度は、1,250〜1,450℃、好ましくは1,300〜1,420℃である。該温度が1,250℃未満であると、放射性セシウムの揮発率が小さくなる。該温度が1450℃を超えると、液相が形成されることで放射性セシウムが液相中に取り込まれて揮発しにくくなる。
土工資材(方法(b)で得られる焼成物)中の遊離石灰(フリーライム)の含有率は、土工資材の寸法安定性の観点から、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
なお、土工資材の具体的な用途としては、例えば、骨材(コンクリート用の粗骨材や細骨材、アスファルト用骨材)、盛土材、路盤材、埋め戻し材、防犯用の砂利等が挙げられる。
【0028】
(3)方法(c)
方法(c)は、CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が2.2を超え、2.7以下であり、ケイ酸率(S.M.)が2.0を超え、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.5以下であり、かつ、加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合が0.3質量%未満となるように、加熱対象物を調製した後、1,250〜1,450℃で加熱して、土工資材として用いるための焼成物を得る方法である。
上記式(1)で表される質量比が2.2以下であると、焼成物を冷却する際に焼成物が粉状化する現象(ダスティング)が生じるため、該焼成物を土工資材として用いることができなくなる。該質量比が2.7を超えると、保管時等に焼成物が固化してしまう場合がある。
【0029】
ケイ酸率(S.M.)が2.0以下であると、加熱中に液相が形成されやすくなり、放射性セシウムが該液相に取り込まれることで放射性セシウムが揮発しにくくなる。
塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))は、1.5以下、好ましくは0.2〜1.0である。該比が1.5を超える場合、得られる焼成物中に塩素が残留するため、コンクリート用骨材として利用し難くなる。該比が0.2以上であれば、放射性セシウムの揮発率がより大きくなる。
加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合は、0.3質量%未満、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。該割合が0.3質量%未満であり、かつ、CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が2.2を超え、2.7以下である場合、焼成物を冷却する際に焼成物が粉状化する現象(ダスティング)が生じないため、該焼成物を土工資材として用いることができる。
【0030】
加熱温度は、1,250〜1,450℃、好ましくは1,300〜1,420℃である。該温度が1,250℃未満であると、放射性セシウムの揮発率が小さくなる。該温度が1,450℃を超えると、液相が形成されることで放射性セシウムが液相中に取り込まれて揮発しにくくなる。
土工資材(方法(c)で得られる焼成物)中の遊離石灰(フリーライム)の含有率は、土工資材の寸法安定性の観点から、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0031】
(4)方法(d)
方法(d)は、CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.8〜2.2であり、ケイ酸率(S.M.)が2.0を超え、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.5以下であり、かつ、加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合が0.3質量%未満となるように、加熱対象物を調製した後、1,250〜1,450℃で加熱して、セメント混和材として用いるための焼成物を得る方法である。
上記式(1)で表される質量比が1.8未満であると、放射性セシウムの揮発率が小さくなり、得られる焼成物中の放射性セシウム濃度を十分に低減することができなくなる。該質量比が2.2を超えると、焼成物を冷却する際に焼成物が粉状化する現象(ダスティング)が生じないため、得られる焼成物をセメント混和材として使用するためには、粉砕する必要がでてくる。
【0032】
ケイ酸率(S.M.)が2.0以下であると、加熱中に液相が形成されやすくなり、放射性セシウムが該液相に取り込まれることで放射性セシウムが揮発しにくくなる。
塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))は、1.5以下、好ましくは0.2〜1.0である。該比が1.5を超える場合、得られる焼成物中に塩素が残留するため、セメント混和材として利用し難くなる。該比が0.2以上であれば、放射性セシウムの揮発率がより大きくなる。
【0033】
加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合は、0.3質量%未満、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.8〜2.2であり、かつ、加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合が0.3質量%未満であれば、焼成物を冷却する際に焼成物が粉状化する現象(ダスティング)が生じるため、粉砕による粒度調整を行わなくても、セメント混和材を得ることができる。
なお、セメント混和材の、好ましいブレーン比表面積は2,800〜4,200cm/gである。
【0034】
加熱温度は、1,250〜1,450℃、好ましくは1,300〜1,420℃である。該温度が1,250℃未満であると、放射性セシウムの揮発率が小さくなる。該温度が1,450℃を超えると、液相が形成されることで放射性セシウムが液相中に取り込まれて揮発しにくくなる。
方法(d)または後述する方法(f)によって得られたセメント混和材をセメントに混合することで、中性化抑制、長期強度発現性の向上、水和熱低減等の効果を得ることができる。
【0035】
(5)方法(e)
方法(e)は、CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.0〜1.8であり、ケイ酸率(S.M.)が2.3を超え、かつ、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))が1.5以下となるように、加熱対象物を調製した後、1,200〜1,400℃で加熱して、土工資材として用いるための焼成物を得る方法である。
上記式(1)で表される質量比が1.0未満であると、放射性セシウムの揮発率が小さくなり、得られる焼成物中の放射性セシウム濃度を十分に低減することができなくなる。また、得られる焼成物の砒素、フッ素等の重金属類の溶出量が環境基準値を超える場合がある。該質量比が1.8を超えると、加熱対象物の調製に用いられるCaO源等の量、および、加熱後に得られる焼成物の量が多くなる。また、加熱における燃料等のコストが高くなる。
【0036】
ケイ酸率(S.M.)が2.3以下であると、加熱中に液相が形成されやすくなり、放射性セシウムが該液相に取り込まれることで放射性セシウムが揮発しにくくなる。
塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))は、1.5以下、好ましくは0.2〜1.0である。該比が1.5を超える場合、得られる焼成物中に塩素が残留するため、コンクリート用骨材として利用し難くなる。該比が0.2以上であれば、放射性セシウムの揮発率がより大きくなる。
【0037】
加熱温度は、1,200〜1,400℃、好ましくは1,250〜1,350℃である。該温度が1,200℃未満であると、放射性セシウムの揮発率が小さくなる。該温度が1,400℃を超えると、液相が形成されることで放射性セシウムが液相中に取り込まれて揮発しにくくなる。
土工資材(方法(e)で得られる焼成物)中の遊離石灰(フリーライム)の含有率は、土工資材の寸法安定性の観点から、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0038】
(6)方法(f)
方法(f)は、CaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が1.0〜1.8となるように、加熱対象物を調製した後、1,200〜1,400℃で加熱して焼成物を得て、次いで、該焼成物を、ブレーン比表面積が2,800〜4,200cm/gとなるように粉砕して、セメント混和材として用いるための焼成物を得る方法である。
上記式(1)で表される質量比が1.0未満であると、放射性セシウムの揮発率が小さくなり、得られる焼成物中の放射性セシウム濃度を十分に低減することができなくなる。また、得られる焼成物の砒素、フッ素等の重金属類の溶出量が環境基準値を超える場合がある。該質量比が1.8を超えると、加熱対象物の調製に用いられるCaO源等の量、および、加熱後に得られる焼成物の量が多くなる。また、加熱における燃料等のコストが高くなる。
【0039】
加熱温度は、1,200〜1,400℃、好ましくは1,250〜1,350℃である。該温度が1,200℃未満であると、放射性セシウムの揮発率が小さくなる。該温度が1,400℃を超えると、液相が形成されることで放射性セシウムが液相中に取り込まれて揮発しにくくなる。
得られた該焼成物を、ブレーン比表面積が2,800〜4,200cm/gとなるように粉砕することで、セメント混和材を得ることができる。
【0040】
方法(a)〜(f)における、加熱対象物の調製は、処理対象物のCaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が、各方法の実施に求められる数値範囲内であれば、処理対象物を成分調整せずに、各方法の実施に求められる数値範囲内でなければ、処理対象物を成分調整することで行われる。
処理対象物の成分調整は、成分調整後の処理対象物(加熱対象物)が、処理対象物に加えて、CaO源及びMgO源の少なくともいずれか一方を含み、成分調整後の処理対象物(加熱対象物)のCaO、MgO、及びSiOの上記式(1)で表される質量比が、各方法の実施に求められる数値範囲内となるように、CaO源及びMgO源の少なくともいずれか一方の種類及び上記処理対象物に対する配合割合を定めることで行われる。
【0041】
CaO源としては、例えば炭酸カルシウム、石灰石、生石灰、消石灰、石灰石、ドロマイト、高炉スラグ等が挙げられる。MgO源としては、例えば炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、蛇紋岩、フェロニッケル合金スラグ等が挙げられる。
これらの例示物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上述した放射性セシウムで汚染された処理対象物のうち、CaOまたはMgOを含有する処理対象物を、CaO源またはMgO源として使用することもできる。放射性セシウムで汚染された処理対象物をCaO源またはMgO源として使用することで、放射性セシウムで汚染された処理対象物のさらなる減容化を図ることができる。
CaO源及びMgO源は、少なくともいずれか一方を用いればよいが、放射性セシウムの揮発性の観点からCaO源のみを混合することが好ましい。
成分調整は、加熱工程の前に、処理対象物と、CaO源及びMgO源の少なくともいずれか一方を混合することで行ってもよく、加熱工程において、処理対象物と、CaO源及びMgO源の少なくともいずれか一方を、別々に投入することで行ってもよい。
【0042】
また、処理対象物の成分調整において、CaO源及びMgO源の他に、さらにSiO源を使用してもよい。SiO源を用いた成分調整は、上述したCaO源及びMgO源の少なくともいずれか一方の種類及び上記処理対象物に対する配合割合を定める方法と同様である。SiO源としては珪石、珪砂、鋳物砂等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
また、処理対象物の成分調整において、放射性セシウムの揮発を促進し、かつ得られる焼成物を減容化する目的で、成分調整後の処理対象物(加熱対象物)が、塩化物を含むようにしてもよい。
塩化物としては、例えば、塩化カルシウム(CaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)等が挙げられる。中でも塩化揮発の促進の観点から塩化カルシウムが好ましい。
成分調整は、加熱工程の前に、処理対象物と塩化物を混合することで行ってもよく、加熱工程において、処理対象物と塩化物を別々に投入することで行ってもよい。
【0044】
方法(b)〜(d)においては、原料となる処理対象物のP含有量に合わせて選択すればよい。
また、方法(b)において、加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合を0.3質量%以上にする目的で、成分調整後の処理対象物(加熱対象物)が、P源を含むようにしてもよい。
源としては、例えば、リン鉱石;リン酸カルシウム等の試薬;下水汚泥及び下水汚泥焼却灰;牛糞、鶏糞、豚糞等の堆肥;稲わら、牧草等の焼却灰;都市ゴミ焼却灰等が挙げられる。また、上述した放射性セシウムで汚染された処理対象物のうち、リンを含有する処理対象物(例えば、放射性セシウムを含む下水汚泥、下水汚泥焼却灰等)を、P源として使用することもできる。放射性セシウムで汚染された処理対象物をP源として使用することで、放射性セシウムで汚染された処理対象物のさらなる減容化を図ることができる。
成分調整は、加熱工程の前に、処理対象物とP源を混合することで行ってもよく、加熱工程において、処理対象物とP源を別々に投入することで行ってもよい。
【0045】
加熱工程における加熱時間は、放射性セシウムの十分な揮発量を得る観点から、好ましくは10分間以上、より好ましくは30分間以上である。加熱時間の上限は特に限定されないが、好ましくは180分間以下、より好ましくは120分間以下である。加熱時間が180分間以下であると、コストが低くなり経済的である。
ロータリーキルン等、原料が転動する場合には、ガスと放射性セシウムとの接触率が大きくなり、熱伝導率も良くなるため、静置した条件よりも短い焼成時間で、高い揮発率を得ることができる。
加熱手段としては、ロータリーキルン、ストーカ炉、電気炉等が挙げられる。
中でも、ロータリーキルンは、処理効率が高く、放射性セシウムの揮発に適する加熱温度及び加熱対象物の滞留時間を容易に与えることができるので、好ましい。
【0046】
また、放射性セシウムで汚染された処理対象物にクロム等の重金属類が含まれている場合、得られる焼成物の六価クロム等の重金属類の溶出量が環境基準値を超える場合がある。特に、CaO、MgO、及びSiOに関する上記式(1)で表される質量比が小さくなると、重金属類の溶出量が大きくなる傾向にある。
このような焼成物を、土工資材等として使用した場合(特に、盛土材、路盤材、または埋め戻し材として用いる場合)、焼成物中に含まれる重金属類が溶出して、水質汚染、土壌汚染等を引き起こす可能性がある。
そこで、加熱工程において、加熱を還元雰囲気下で行ってもよい。還元雰囲気下で加熱することで、クロム等の重金属類の溶出量を抑えることができる。
【0047】
また、得られる焼成物の重金属類の溶出量を環境基準値以下にするために、加熱工程によって得られた焼成物と溶出防止剤を混合してもよい。
溶出防止剤としては、例えば、硫酸鉄(II)等の還元剤や、酸化マグネシウム等の吸着剤が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
加熱工程後に、得られた焼成物を冷却する方法としては、例えば、エアクエンチングクーラー、ロータリークーラー等を用いる方法が挙げられる。
冷却する際に、焼成物が粉状化するセメント混和材を製造する場合(方法(d))、ロータリークーラーを用いることが好ましい。また、γ型CS(ビーライト)を生成させて、より粉状化しやすくする観点から、冷却速度を遅くすることがより好ましい。例えば、ロータリークーラーにおける滞留時間を長くする、あるいは充填率を上げる等することで、冷却速度を遅くすることができる。
セメントクリンカを製造する場合(方法(a))、急冷を行うことが好ましい。
【0049】
排ガス中の揮発した放射性セシウムは、冷却されて固体になった後、バグフィルター、ヘパフィルター、電気集塵機、サイクロン等を用いて回収することができる。中でも、最終的に排出される排ガス中にダストが含まれないようにする観点から、バグフィルター、ヘパフィルターを用いることが好ましい。
回収した放射性セシウムは、必要に応じて水洗、吸着、ブリケットマシン等の造粒機、プレス機等の加圧成型機による圧縮などによるさらなる減容化処理を行った後、コンクリート製の容器などに密閉して保管することができる。これにより、放射性物質を含む廃棄物を外部に漏出させずに、減容化した状態で保管することができる。
【0050】
本発明の焼成物の製造方法では、処理対象物の放射性セシウム濃度や、セメントクリンカ等の需要を考慮して、得られる焼成物の用途を、セメントクリンカ、土工資材、及びセメント混和材のいずれかに定めればよい。
例えば、上記式(1)で表される質量比が高くなるほど、放射性セシウムの除去率をより高くできることから、処理が必要とされる放射性セシウムで汚染された複数の処理対象物のうち、放射性セシウム濃度が高い処理対象物の焼成物の用途を、加熱工程において上記式(1)で表される質量比を高くすることができるセメントクリンカに定めればよい。
この際に、所望の量の焼成物(セメントクリンカとして用いるための焼成物)を得ることができるまで、複数の処理対象物のうち、放射性セシウム濃度の高い処理対象物から順番に、焼成物の用途をセメントクリンカに定め、所望の量の焼成物(セメントクリンカとして用いるための焼成物)を得た後は、残余の処理対象物(焼成物の用途をセメントクリンカに定めた処理対象物と比較して、放射性セシウムの濃度が、同じあるいは低い処理対象物)の焼成物の用途を、土工資材とセメント混和材のいずれか一方または両方に定めればよい。
残余の処理対象物の焼成物の用途を、土工資材とセメント混和材のいずれか一方または両方に定めた場合、得られる焼成物中の放射性セシウム濃度を目的とする濃度まで低減する観点から、各処理対象物の放射性セシウム濃度によって、上記式(1)で表される質量比の調整を適宜行ってもよい。具体的には、放射性セシウム濃度が高い場合、上記式(1)で表される質量比を高く(例えば、1.8〜2.7)し、放射性セシウム濃度が低い場合、上記式(1)で表される質量比を低く(例えば、1.0〜1.8)にすればよい。
【0051】
また、処理が必要とされる放射性セシウムで汚染された処理対象物のうち、放射性セシウム濃度の高い(例えば、20万Bq/kg以上)処理対象物は、上記式(1)で表される質量比がより高くなり、放射性セシウムの除去率をより高くすることができる観点から、得られる焼成物の用途を、セメントクリンカに定めることが好ましい。
被災地の復興用の資材として、セメントが大量に必要とされる場合等において、放射性セシウム濃度の高い処理対象物がない、あるいは、少ない場合は、放射性セシウム濃度の低い(例えば、3万Bq/kg以上、20万Bq/kg未満)処理対象物から得られる焼成物の用途を、セメントクリンカに定めてもよい。
処理が必要とされる放射性セシウムで汚染された処理対象物のうち、放射性セシウム濃度の低い(例えば、3万Bq/kg未満)処理対象物から得られる焼成物の用途は、土工資材、及びセメント混和材のいずれかに定めればよい。
【0052】
放射性セシウムで汚染された処理対象物を原料とする焼成物の利用促進の観点から、コンクリートに用いられるセメントクリンカ、骨材(土工資材)、及びセメント混和材のいずれもが放射性セシウムで汚染された処理対象物を原料とするものであるコンクリートが求められている。本発明によれば、放射性セシウムで汚染された処理対象物を原料とする、セメントクリンカ、骨材(土工資材)、またはセメント混和材を容易に得ることができる。
また、得られた焼成物は、その用途に応じて、適宜粉砕して粒度調整してもよい。
粉砕方法は特に限定されず、例えば、ボールミル、OKミル等を用いて、通常の方法で粉砕すればよい。
【0053】
本発明の焼成物の製造方法によってセメントクリンカを得た後、該セメントクリンカを粉砕し、得られたセメントクリンカの粉砕物と石膏を混合してセメントを製造してもよい。
石膏としては、例えば、二水石膏、半水石膏、無水石膏等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
石膏の量は、セメント中の全SO3量が、好ましくは1.0〜3.5質量%となる量である。該量が1.0質量%以上であれば、コンクリートの硬化前の使用可能時間(良好な流動性を保ちうる時間)が増大する。該量が3.5質量%以下であれば、セメントの強度発現性が向上する。
セメントクリンカは粉砕した後、石膏と混合してもよく、セメントクリンカと石膏を混合した後、同時に粉砕してもよい。粉砕は、セメントの流動性、強度発現性、及びコストの観点から、セメントクリンカと石膏の粉砕物のブレーン比表面積が、2,800〜4,200cm/gとなるように行うことが好ましい。
また、必要に応じて、セメント混和材として、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、石灰石微粉末等を混合してもよい。
【0054】
放射性セシウムで汚染された処理対象物を原料とする焼成物の利用促進の観点から、本発明の焼成物の製造方法によって得られた、セメントクリンカを含むセメント、コンクリート用骨材、及びセメント混和材を用いてコンクリートを製造してもよい。
また、本発明の焼成物の製造方法によって得られたセメントクリンカを含むセメントと、放射性セシウムで汚染された廃棄物等を分級処理することで得られた骨材等を用いてコンクリートを製造してもよい。
さらに、本発明の焼成物の製造方法によって得られたセメントクリンカを含むセメントと、無水石膏、高炉スラグ等を混合して、固化材として利用してもよい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
市販粘土を塩化セシウム水溶液に投入して、1時間攪拌した後、1日静置した。静置後の粘土を遠心分離することで固形分を回収した後、回収された固形分を水に投入することで、水溶性セシウムを水に溶解させた。溶解後、遠心分離によって固形分を回収することで、水溶性セシウムを除去した。次いで、ボールミルを用いて、200μm残分が5質量%になるよう粉砕した。得られた粉砕物を硝酸、フッ化水素酸、及び過塩素酸の混合液に入れて分解した後、ICP−MSを用いて粉砕物のセシウム(CS)含有量を測定した。その結果、粉砕物のセシウム含有量は202mg/kgであった。
粉砕物に、石灰石粉末及び塩化カルシウム粉末を添加して、上記式(1)で表される質量比、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))、及びケイ酸率(S.M.)が表1に示す数値となるように成分調整を行った。
【0056】
成分調整後の粉砕物(加熱対象物)を、内径450mm、長さ8,340mmのキルンを用いて、加熱温度1,450℃、キルン滞留時間2時間で加熱して焼成物(セメントクリンカ)を得た。
得られた焼成物を硝酸、フッ化水素酸、及び過塩素酸の混合液に入れて分解した後、ICP−MSを用いて焼成物のセシウム含有量を測定した結果、検出限界値(0.01mg/kg)以下であった。
また、焼成物を硝酸で分解した後、電位差滴定法を用いて焼成物のCl含有量を測定した。
また、焼成物の遊離石灰を、エチレングリコールで抽出した後、抽出液を酢酸アンモニウム−エタノール溶液で滴定する方法によって、焼成物の遊離石灰含有率を測定した。
【0057】
粉砕物のセシウム含有量と焼成物のセシウム含有量から算出したセシウムの除去率は99.995質量%以上であった。該除去率は、放射性セシウムの濃度が200万Bq/kgの処理対象物を、同じ条件で加熱した場合、加熱後の焼成物の放射性セシウム濃度が100Bq/kg以下になることを意味している。
【0058】
得られた焼成物(セメントクリンカ)に、セメント中のSO量が2.0質量%となる量の石炭火力発電所副産石膏を加えた後、ボールミルを用いて、ブレーン比表面積が3,300cm/gとなるように粉砕してセメントを得た。得られたセメントについて「JIS R 5201」に準拠した方法で、材齢3日、7日、28日におけるモルタル圧縮強さ、及び、凝結時間を測定した。その結果、モルタル圧縮強さは、材齢3日:34.2N/mm、材齢7日:46.7N/mm、材齢28日:59.5N/mmであり、凝結時間は、始発:1時間27分、終結:2時間12分であった。
【0059】
[実施例2]
粉砕物に、石灰石粉末、塩化カルシウム粉末、リン酸石灰粉末を添加して、上記式(1)で表される質量比、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))、ケイ酸率(S.M.)、及び加熱後に得られる焼成物100質量%中のPの割合が、表1に示す値となるように成分調整を行い、加熱温度を1,380℃にした以外は実施例1と同様にして、焼成物(骨材)を得た。
実施例1と同様にして、焼成物のセシウム含有量、Cl含有量、及び遊離石灰含有率を測定した。なお、遊離石灰含有率は検出限界値以下であった。
粉砕物のセシウム含有量と焼成物のセシウム含有量から算出したセシウムの除去率は99.960質量%であった。該除去率は、放射性セシウムの濃度が20万Bq/kgの処理対象物を、同じ条件で加熱した場合、加熱後の焼成物の放射性セシウム濃度が79Bq/kgになることを意味している。
【0060】
焼成物の単位容積質量を「JIS A 1104」に準拠して測定した。その結果、単位実績質量は1.56kg/リットルであった。
焼成物を、目開き5mmの篩によって分級して、目開き5mmの篩に残った焼成物について、「JIS A 1110」に準拠して、吸水率および密度を測定した。その結果、吸水率は1.68%、絶乾密度は2.72cm/g、表乾密度は2.77cm/gであった。
【0061】
[実施例3]
粉砕物に、石灰石粉末、塩化カルシウム粉末を添加して、上記式(1)で表される質量比、塩素とセシウム及びカリウムとのモル比(Cl/(Cs+K))、及びケイ酸率(S.M.)が、表1に示す値となるように成分調整を行い、加熱温度を1,380℃にした以外は実施例1と同様にして、焼成物(セメント混和材)を得た。なお、得られた焼成物100質量%中のPの割合は0.1質量%であった。
得られた焼成物は、冷却時に粉状化し、ブレーン比表面積が2,800cm/gである粉状のものとなった。
実施例1と同様にして、焼成物のセシウム含有量、Cl含有量、及び遊離石灰含有率を測定した。
粉砕物のセシウム含有量と焼成物のセシウム含有量から算出したセシウムの除去率は99.955質量%であった。該除去率は、放射性セシウムの濃度が20万Bq/kgの処理対象物を、同じ条件で加熱した場合、加熱後の焼成物の放射性セシウム濃度が89Bq/kgになることを意味している。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1〜3より、上記式(1)で表される質量比がより高いほど、放射性セシウムの除去率が高くなることがわかる。
実施例1〜3より、放射性セシウムの濃度が高い処理対象物(例えば、200万Bq/kg)について、実施例1の加熱方法によれば、放射性セシウム濃度が十分に低減された(100Bq/kg以下)セメントクリンカを得ることができる。また、放射性セシウムの濃度が低い処理対象物(例えば、20万Bq/kg)について、実施例2の加熱方法によれば、放射性セシウム濃度が十分に低減された(79Bq/kg)骨材を得ることができる。また、放射性セシウムの濃度が低い処理対象物(例えば、20万Bq/kg)について、実施例3の加熱方法によれば、粉砕を行わなくても、放射性セシウム濃度が十分に低減された(89Bq/kg)セメント混和材を得ることができる。
なお、焼成物の用途によっては、放射性セシウム濃度が100Bq/kg以下である焼成物が求められるとは限らない。例えば、土工資材等の用途に使用した後に、焼成物が厚み30cm程度の遮蔽物によって被覆される場合、焼成物中の放射性セシウム濃度が300Bq/kg程度であっても悪影響が少ないため、利用できる可能性がある。このため、求められている焼成物中の放射性セシウム濃度の上限値に応じて、焼成物の用途および加熱工程における詳細な成分調整や加熱条件等を定めればよい。
このように、放射性セシウム濃度の大きさや焼成物の用途に応じて、適切な加熱処理を行うことで、放射性セシウム濃度が十分に低減された各種焼成物(セメントクリンカ、土工資材、セメント混和材)を得ることができる。