(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656996
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】咽喉マイクロホン
(51)【国際特許分類】
H04R 17/02 20060101AFI20200220BHJP
H04R 1/00 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
H04R17/02
H04R1/00 327
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-75560(P2016-75560)
(22)【出願日】2016年4月5日
(65)【公開番号】特開2017-188759(P2017-188759A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100083404
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100166752
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 典子
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】
大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−153364(JP,A)
【文献】
特開平03−295430(JP,A)
【文献】
特開2005−117536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00
H04R 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
咽喉部に押し付けられ、上記咽喉部で生ずる振動を音声信号に変換する振動−電気変換器を有する咽喉マイクロホンにおいて、
ハウジングと、2つの圧電素子をその分極方向を向かい合わせとして組み合わせたボルト締めランジェバン振動子と、上記咽喉部に対する接触子とを備え、
上記ハウジングは、底部と対向する面が開口部とされた有底筒状体からなり、上記ボルト締めランジェバン振動子は、上記各圧電素子の分極方向を上記ハウジングの軸方向と一致させて第1弾性支持手段を介して上記ハウジング内に収納されており、上記接触子は、第2弾性支持手段を介して上記ハウジングの開口部側に支持されており、
上記咽喉部への未装着時には、上記ボルト締めランジェバン振動子、上記接触子ともに自由に振動し得る状態にあり、
上記咽喉部への装着時には、上記ボルト締めランジェバン振動子が上記接触子と上記ハウジングの底部との間に挟まれて上記咽喉部で生ずる振動が圧縮力として加えられる状態となり、上記ボルト締めランジェバン振動子より上記圧縮力の大きさに応じた電圧が出力されることを特徴とする咽喉マイクロホン。
【請求項2】
上記ハウジングに、人体に対する保持部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の咽喉マイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の咽喉部で生ずる振動を音声信号として出力する咽喉マイクロホンに関し、さらに詳しく言えば、未装着時に外部から加えられる振動による雑音発生を防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロホンで音声を収音する際、通常のコンデンサマイクロホンやダイナミックマイクロホンでは送話が困難な高騒音下、例えば航空機の修理工場やトンネル内での工事現場等では、咽喉部の振動を検出する咽喉マイクロホンが用いられている。
【0003】
咽喉マイクロホンでは、その振動検出部(ピックアップ)に圧電素子からなる振動−電気変換器を用い、咽喉部に押し付けて使用される。
【0004】
その場合、手で押し付ける方法では片手が塞がれて不便であることから、両手が自由な状態で送話できるようにするため、多くの場合、C字状のネックバンドを用いて振動検出部を咽喉部に押し付けるようにしている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、振動検出部は、その構造上、いかなる振動も拾うため、例えば咽喉マイクロホンを着脱する際や振動検出部を触手したときに、その振動により不快な雑音が発生することがある。
【0006】
そこで、特許文献2には、咽喉部で生ずる振動を音声信号に変換する本来の振動−電気変換器を第1振動−電気変換器として、これとは別に、ネックバンド等の保持部材に加えられる機械的振動(雑音源振動)を検出する第2振動−電気変換器を備えるとともに、第1振動−電気変換器の出力段にVOX回路を接続し、第2振動−電気変換器の出力によりVOX回路を制御して、第1振動−電気変換器の音声出力レベルを所定に減衰もしくは0レベルのオフ状態にすることが提案されている。
【0007】
これによれば、咽喉マイクロホンの着脱時の触手によりネックバンド等に加えられる機械的振動が第2振動−電気変換器により雑音として検出され、その検出信号によりVOX回路が制御され、第1振動−電気変換器の音声出力レベルが所定に減衰もしくは0レベルのオフ状態にされるため、咽喉部以外の外部から加えられる振動による雑音発生を防止することができる。
【0008】
しかしながら、上記特許文献2による咽喉マイクロホンでは、咽喉部の振動を検出する本来の第1振動−電気変換器とは別に、振動雑音を検出する第2振動−電気変換器とVOX回路とを必要するため、その分、コストアップになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−117536号公報
【特許文献2】特開2013−153364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の課題は、振動雑音検出用の振動−電気変換器や音声信号出力制御用のVOX回路等を不要とし、単一の振動−電気変換器で振動雑音を拾わないようにした咽喉マイクロホンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、保持部材を介して咽喉部に押し付けられ、上記咽喉部で生ずる振動を音声信号に変換する振動−電気変換器を有する咽喉マイクロホンにおいて、
ハウジングと、2つの圧電素子をその分極方向を向かい合わせとして組み合わせたボルト締めランジェバン振動子と、上記咽喉部に対する接触子とを備え、上記ハウジングは、底部と対向する面が開口部とされた有底筒状体からなり、上記ボルト締めランジェバン振動子は、上記各圧電素子の分極方向を上記ハウジングの軸方向と一致させて第1弾性支持手段を介して上記ハウジング内に収納されており、上記接触子は、第2弾性支持手段を介して上記ハウジングの開口部側に支持されており、
上記咽喉部に未装着時には、上記ボルト締めランジェバン振動子、上記接触子ともに自由に振動し得る状態にあり、上記咽喉部への装着時には、上記ボルト締めランジェバン振動子が上記接触子と上記ハウジングの底部との間に挟まれて上記咽喉部で生ずる振動が圧縮力として加えられる状態となり、上記ボルト締めランジェバン振動子より上記圧縮力の大きさに応じた電圧が出力されることを特徴としている。
【0012】
本発明において、上記ハウジングには人体に対する保持部材が取り付けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
ボルト締めランジェバン振動子は、2つの圧電素子が分極方向を向かい合わせとして機械的に結合されていることから、加振されても圧縮力が加えられないかぎり発電せず、圧縮力が加えられたときにのみ発電する。本発明は、このようなボルト締めランジェバン振動子を用いたことにより、振動雑音検出用の振動−電気変換器や音声信号出力制御用のVOX回路等の雑音対策部品を不要として、振動雑音を発生させることなく咽喉部で生ずる振動を音声信号に変換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る咽喉マイクロホンをネックバンドに取り付けた状態で示す模式図。
【
図2】人体の咽喉部に対する上記咽喉マイクロホンの(a)未装着状態を示す断面図、(b)装着状態を示す断面図。
【
図3】ボルト締めランジェバン振動子を示す分解断面図。
【
図4】上記ボルト締めランジェバン振動子の要部を模式的に示す分解斜視図。
【
図5】上記ボルト締めランジェバン振動子の弾性支持手段を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、
図1ないし
図5を参照して、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
まず、
図1に示すように、この実施形態に係る咽喉マイクロホン1は、ほぼC字状で好ましくはバネ弾性を有する人体に対する保持部材としてのネックバンド2の一端部に取り付けられた状態で、図示しない人体の咽喉部に装着して使用される。
【0017】
ネックバンド2は、図示しない人体の首部の周りに装着されるほぼC字状に形成された弾性を有する線材(丸棒材や帯板材を含む)からなる。その材質は、金属もしくは合成樹脂のいずれであってもよいが、首部に直接触れることから、肌触りのよい装飾が施されていることが好ましい。なお、ネックバンドに代えて、ヘッドセットのマイクロホン支持アームが用いられてもよい。
【0018】
図2および
図3を参照して、この咽喉マイクロホン1は、基本的な構成として、ハウジング10と、咽喉部で生ずる振動を音声信号に変換する振動−電気変換器としてのボルト締めランジェバン振動子20と、咽喉部に対する接触子30とを備えている。
【0019】
ハウジング10は有底筒状体からなり、底部10aと対向する面が開口面10bとされている。ハウジング10は、円筒体、角筒体のいずれであってもよい。また、ハウジング10の材質も金属,合成樹脂、木材等、任意に選択されてよい。
【0020】
ボルト締めランジェバン振動子20には、第1および第2の2つの圧電素子21,22と、同じく第1および第2の2つの金属ブロック23,24と、これらの各部材を一体的に連結する締付ボルト25とが含まれている。
【0021】
図4を併せて参照して、第1圧電素子21と第2圧電素子22は、同径で所定の同じ厚さを有する円板状に形成されている。第1圧電素子21と第2圧電素子22は、厚さ方向に分極されているが、ボルト締めランジェバン振動子20では、その分極方向を向かい合わせとして組み合わされる。
【0022】
この実施形態では、正極同士を向かい合わせている。第1圧電素子21と第2圧電素子22の中央部分には、それぞれ、締付ボルト25が挿通されるボルト挿通孔21a,22aが穿設されている。
【0023】
第1圧電素子21と第2圧電素子22の間には、正極電極としての第1電極板26が挟まれている。第1電極板26は、圧電素子21,22とほぼ同径の円板体からなり、その周縁の一部に引出電極26bを備えている。
【0024】
第1圧電素子21の負極面側(
図3において上面側)には、負極電極としての第2電極板27が配置され、また、第2圧電素子22の負極面側(
図3において下面側)には、負極電極としての第3電極板28が配置されている。
【0025】
第2電極板27と第3電極板28は、第1電極板26と同じく、圧電素子21,22とほぼ同径の円板体からなり、それぞれ、その周縁の一部に引出電極27b,28bを備えている。
【0026】
各電極板26,27,28の中央部分には、それぞれ、締付ボルト25が挿通されるボルト挿通孔26a,27a,28aが穿設されている。各電極板26,27,28には、りん青銅やベリリウム青銅等の銅電極もしくは銀電極が好ましく採用される。各電極板26,27,28は、圧電素子21,22より小径であってもよい。
【0027】
図4に示すように、ボルト締めランジェバン振動子20は、一対の出力端子Ta,Tbを備えている。この実施形態において、出力端子Taがプラス側で出力端子Tbがマイナス側であり、プラス側の出力端子Taには、第1電極板26の引出電極26bが接続され、マイナス側の出力端子Tbには、第2電極板27と第3電極板28の引出電極27b,28bが接続される。なお、
図2には簡略のために第1,第2圧電素子21,22のみを示しているが、実際には
図4の構成を備えている。
【0028】
第1金属ブロック23と第2金属ブロック24は、ジュラルミン等の機械的損失が小さく比較的柔らかい金属材であることが好ましい。第1金属ブロック23は、第1圧電素子21の負極面側に配置され、第2金属ブロック24は、第2圧電素子21の負極面側に配置されている。
【0029】
第1金属ブロック23には、締付ボルト25が挿通されるボルト挿通孔23aが穿設されている。ボルト挿通孔23aは、その上端側に締付ボルト25の頭部25aが収納される拡径された凹部23bを備えている。
【0030】
これに対して、第2金属ブロック24には、締付ボルト25の相手となる雌ネジ孔24aが設けられている。締付ボルト25は、ステンレス等の硬い金属材であることが好ましく、締付ボルト25を第1金属ブロック23側から差し込んで第2金属ブロック24の雌ネジ孔24aに螺合して強く締め付けることにより、ボルト締めランジェバン振動子20が作製される。なお、金属ブロック23,24の代わりに、硬質合成樹脂ブロックが用いられてもよい。
【0031】
ボルト締めランジェバン振動子20は、各圧電素子21,22の分極方向をハウジングの軸方向と一致させた状態でゴム材等からなる第1弾性支持手段29を介してハウジング10内に収納されている。
【0032】
この実施形態において、第1弾性支持手段29は、
図5に示すように、帽子のブリム(brim)のように環状に形成された上下一対の支持メンバー29a,29bを有し、ボルト締めランジェバン振動子20は、これら支持メンバー29a,29bによってハウジング10内でその底部10aから浮いた状態で支持されている。
【0033】
接触子30は、ハウジング10の開口面10b側にゴム材等からなる第2弾性支持手段31を介してハウジング10の軸方向に移動可能に支持されている。なお、第2弾性支持手段31には、上記第1弾性支持手段29が備えている一方の支持メンバー、例えば上部側の支持メンバー29aと同形状のものが用いられてよい。
【0034】
接触子30は、咽喉部へ装着していない未装着の無負荷時には、
図2(a)に示すように、第2弾性支持手段31によりボルト締めランジェバン振動子20とは非接触状態に支持される。接触子30は、金属材、合成樹脂材のいずれであってもよいが、質量が小さい方がよい。また、第1,第2弾性支持手段29,31は、例えば車輪のスポーク状に形成されてもよい。
【0035】
ボルト締めランジェバン振動子20は、上記のように、第1圧電素子21と第2圧電素子22とが分極方向を向かい合わせとして締付ボルト25により一体的に結合されていることから、加振されても圧縮力が加えられないかぎり発電せず、圧縮力が加えられたときにのみ発電する。
【0036】
したがって、
図2(a)に示す咽喉部へ装着していない未装着の無負荷時に、咽喉マイクロホン1に対して例えばネックバンド2を伝わって振動が加えられ、ハウジング10内でボルト締めランジェバン振動子20が振動しても、その振動により雑音は発生しない。
【0037】
これに対して、咽喉マイクロホン1が咽喉部に装着されると、咽喉部は接触子30に密着してこれを押圧する。この押圧により、接触子30は第2弾性支持手段31が変形してボルト締めランジェバン振動子20側に移動する。さらに移動すると、第1金属ブロック23に当接してこれを押圧する。
【0038】
この押圧により、ボルト締めランジェバン振動子20は第1弾性支持手段29が変形してハウジングの底部10a側に移動して底部10aに当接する。その結果、
図2(b)に示すように、接触子30がハウジング10内に押し込められ、ボルト締めランジェバン振動子20が接触子30とハウジング10の底部10aとの間に挟まれて咽喉部で生ずる振動が圧縮力として加えられる状態となる。
【0039】
これにより、咽喉部で生ずる振動の強弱に応じた圧縮力がボルト締めランジェバン振動子20に加えられ、ボルト締めランジェバン振動子20の発電機能により、その出力端子Ta,Tbから咽喉部で生ずる振動の強弱に応じた電圧が音声信号として出力される。
【0040】
このように、本発明によれば、ボルト締めランジェバン振動子を用いたことにより、振動雑音検出用の振動−電気変換器や音声信号出力制御用のVOX回路等の雑音対策部品を不要として、振動雑音を発生させることなく咽喉部で生ずる振動を音声信号に変換することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 咽喉マイクロホン
2 ネックバンド(保持部材)
10 ハウジング
10a ハウジングの底部
10b ハウジングの開口部
20 ボルト締めランジェバン振動子
21 第1圧電素子
22 第2圧電素子
23 第1金属ブロック
24 第2金属ブロック
25 締付ボルト
26 第1電極板(正極側)
27 第2電極板(負極側)
28 第3電極板(負極側)
29 第1弾性支持手段
30 接触子
31 第2弾性支持手段