(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記構成のメタルシール構造では、これを構成する各部分(雄ネジ、雌ネジ、テーパ面など)の寸法精度のばらつきに起因して、閉塞部材の先端がパイプ本体のテーパ面の全周にわたって均一に当接せず、シール性が低下する事態が懸念される。このため、メタルシール構造を採用する場合には、閉塞部材及びパイプ本体の寸法精度をより高くする必要があり、製造に係る工数やコストが増加してしまうという問題点があった。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、閉塞部材とパイプ本体との間のシール性が低下する事態を抑制可能なフューエルデリバリパイプの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフューエルデリバリパイプの製造方法は、開口部を備えた燃料流通路を有する金属製のパイプ本体を備えるフューエルデリバリパイプの製造方法であって、前記開口部を通じて前記パイプ本体に対して金属製の閉塞部材を圧入することで前記燃料流通路を塞ぐ圧入工程と、前記圧入工程の後に行われ、前記パイプ本体における前記開口部を構成する壁部の少なくとも一部を前記パイプ本体の内方に屈曲させるパイプ本体加工工程と、を備え、前記圧入工程では、前記パイプ本体及び前記閉塞部材のうち少なくともいずれか一方を弾性変形させつつ、前記閉塞部材を圧入することに特徴を有する。
【0007】
上記構成によれば、圧入工程では、パイプ本体及び閉塞部材のうち少なくともいずれか一方を弾性変形させつつ閉塞部材を圧入する。このため、閉塞部材を、パイプ本体の内面に押圧された状態で保持することができ、いずれか一方の部材を塑性変形させて圧入する方法と比べて、閉塞部材とパイプ本体との間のシール性をより高くすることができる。また、閉塞部材がパイプ本体の内面に押圧された状態であるから、閉塞部材とパイプ本体との間に生じる摩擦力をより高くすることができ、燃料流通路に燃料が供給された際の圧力によって閉塞部材が変位する事態を抑制することができる。さらに、パイプ本体加工工程では、開口部を構成する壁部の少なくとも一部をパイプ本体の径方向内側に屈曲させる。このため、閉塞部材がパイプ本体から抜ける事態をより確実に抑制することができる。以上のことから、本発明では、閉塞部材とパイプ本体との間のシール性が低下する事態を抑制することができる。
【0008】
また、前記パイプ本体加工工程では、前記パイプ本体における前記壁部を前記パイプ本体の全周に亘って内方に屈曲させるものとすることができる。このようにすれば、閉塞部材の抜け止めをより確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、閉塞部材とパイプ本体との間のシール性が低下する事態を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態を
図1から
図6によって説明する。
図1は、本実施形態の燃料供給装置10を備える自動車の構成を示す斜視図である。燃料供給装置10は、自動車14の車体15に装備され、燃料タンク16からエンジン17に燃料を供給するものとされ、燃料供給ポンプ11と、フィルタ12と、圧力調整装置13と、燃料移送管P1と、燃料供給管P2と、燃料帰還管P3と、フューエルデリバリパイプ20(以下「デリバリパイプ20」という)と、を備えている。
【0012】
燃料供給ポンプ11は、燃料タンク16内部の燃料を加圧する。加圧された燃料は、燃料移送管P1によって燃料タンク16からエンジン17へと移送される。移送された燃料は、フィルタ12によって濾過され、圧力調整装置13を介して燃料供給管P2に送られる。燃料供給管P2に供給される際の燃料の圧力は、圧力調整装置13によって調整される。燃料供給管P2に送られた燃料の一部は、燃料供給管P2に接続されるデリバリパイプ20によってエンジン17へ供給され、残りの燃料は、燃料帰還管P3を通って燃料タンク16へと戻される。ここで、燃料とは、ガソリン、高濃度アルコール含有燃料、又はガソリンとアルコールとの混合燃料を広く含む。また、アルコールは、例えば、メタノール、エタノール、ブタノールおよびプロパノールが利用可能である。
【0013】
次に、デリバリパイプ20の構成について説明する。デリバリパイプ20は、
図2に示すように、主管であるパイプ本体30と、パイプ本体30の一端部に装着される閉塞部材50と、パイプ本体30の外周面に設けられたインジェクタ取付部21と、を備えている。パイプ本体30は、例えば金属製(スチール、ステンレス、アルミ、銅など)とされ、
図2に示すように、直線状に伸びる管状部材とされる。
【0014】
パイプ本体30の内部には、断面視円形状の燃料流通路35が形成されている。燃料流通路35は、パイプ本体30の長手方向に沿って延びている。パイプ本体30の長手方向における一端部には、燃料供給管P2に接続されるインレット31が形成されている。インレット31を経由して、燃料供給ポンプ11からの燃料が燃料流通路35内に導入される構成となっている。
【0015】
インジェクタ取付部21は、連通孔21Aを有する円筒状をなしており、パイプ本体30の長手方向に沿って複数設けられている。連通孔21Aは、燃料流通路35の軸に対して直交する方向に貫通されており、各連通孔21Aは、燃料流通路35とそれぞれ連通されている。インジェクタ取付部21には、インジェクタ22が取り付けられる。これにより、燃料流通路35の燃料が各連通孔21Aを通じて各インジェクタ22に供給される構成となっている。
【0016】
燃料流通路35は、パイプ本体30の長手方向における他端側(インレット31と反対側)が開口部36とされる。なお、燃料流通路35の他端部40は、燃料流通路35の中央部37に比して狭い径で設定されている。閉塞部材50は、例えば、金属製(スチール、ステンレス、アルミ、銅など)とされ、円柱状をなしている。閉塞部材50は、開口部36を通じて他端部40に圧入されることで燃料流通路35の端部を塞ぐ構成となっている。なお、このような閉塞部材50は、プラグやキャップと呼ばれる場合もある。
【0017】
パイプ本体30において、開口部36を構成する壁部38(パイプ本体30の長手方向における端部)は、開口端に向かうにつれて、パイプ本体30の内方に向かう形で屈曲されている。これにより、パイプ本体30の開口部36の直径D1は、
図3に示すように、圧入後の閉塞部材50の直径D5より小さい値で設定されている。このため、他端部40に圧入された閉塞部材50が抜け止めされている。
【0018】
次に、デリバリパイプ20の製造方法について説明する。デリバリパイプ20は、パイプ本体30及び閉塞部材50を、それぞれ製造した後、互いに組み付けることで完成する。パイプ本体30及び閉塞部材50は、それぞれ公知の技術(鋳造など)によって製造可能であるため、ここでは、パイプ本体30に対する閉塞部材50の組付工程について詳しく説明する。パイプ本体30に対する閉塞部材50の組付工程は、パイプ本体30に対して閉塞部材50を圧入する圧入工程と、圧入工程の後に実行され、パイプ本体30の他端部を加工することで、閉塞部材50の抜け止めをするパイプ本体加工工程と、を含む。
【0019】
(圧入工程)
圧入工程では、
図4に示すように、圧入装置(図示せず)の押圧部18によって閉塞部材50を押圧し、開口部36を通じてパイプ本体30における燃料流通路35の他端部40に圧入する。これにより、燃料流通路35の他端部40が閉塞部材50によって塞がれる。閉塞部材50を他端部40に対して圧入する前の状態では、閉塞部材50の直径D2は、他端部40の直径D3に比べて、わずかに大きい値で設定されている。圧入時には、閉塞部材50の外周面が、パイプ本体30の内周面に対して押し当てられ、閉塞部材50及びパイプ本体30が変形する。この時、本実施形態では、閉塞部材50及びパイプ本体30を弾性変形させるように圧入する。つまり、閉塞部材50及びパイプ本体30を塑性変形させないように圧入する。具体的には、圧入の際にパイプ本体30の内周面、及び閉塞部材50の外周面に作用する接触応力Pが、パイプ本体30の降伏点、及び閉塞部材50の降伏点を超えないような条件でパイプ本体30及び閉塞部材50のパラメータ(材質や寸法、詳しくは後述)を設定する。なお、圧入時には閉塞部材50及びパイプ本体30のうちいずれか一方のみが変形する構成であってもよい。
【0020】
パイプ本体30及び閉塞部材50の接触応力P(圧入した際の面圧)は、円筒部材において圧入を行う際の接触応力に係る式によって算出することができ、具体的には、以下の(1)式によって算出することができる。
【0021】
接触応力P=δ/(2*R2*(A+B))・・・(1)式
【0022】
(1)式におけるδは、パイプ本体30と閉塞部材50についての直径に係る圧入代であり、δ=D2−D3である(
図4参照)。また、R2は、圧入前の閉塞部材50の半径である。また、(1)式におけるA、Bは、それぞれ以下の(2)式、(3)式によって算出することができる。
【0023】
A=((R1^2+R2^2)/(R2^2−R1^2)−ν1)/E1・・・(2)式
B=((R2^2+R3^2)/(R3^2−R2^2)+ν2)/E2・・・(3)式
【0024】
(2)式におけるR1は、閉塞部材50の内径を2で割った値である。本実施形態では、閉塞部材50は、中実状の部材であるから、R1=0である。また、ν1は、閉塞部材50のポアソン比であり、E1は、閉塞部材50の縦弾性係数である。(3)式におけるR3は、圧入前のパイプ本体30の半径である(
図4参照)。つまり、R3は、圧入前のパイプ本体30の外径(外側の直径)を2で割った値である。また、ν2は、パイプ本体30のポアソン比であり、E2は、パイプ本体30の縦弾性係数である。
【0025】
本実施形態では、上記(1)式〜(3)式の各パラメータ(より詳しくは各寸法や材質)を適宜設定することで、接触応力Pがパイプ本体30及び閉塞部材50の降伏点を超えない値となるように設定する。つまり、本実施形態では、パイプ本体30に対する閉塞部材50の圧入に伴って、パイプ本体30の内周面(及び閉塞部材50の外周面)が変形するものの、その変形が、(塑性領域でなく)弾性領域内で起こるようにする。このため、圧入された閉塞部材50の外周面はパイプ本体30の内周面によって常に弾性的に押圧された状態となっている。
【0026】
また、本実施形態では、圧入された閉塞部材50の抜け荷重W1が、デリバリパイプ20使用時の燃料流通路35の内圧によって作用する閉塞部材50への荷重W2よりも大きくなるように設定されている。閉塞部材50の抜け荷重W1は、次の式(4)によって算出することができる。
【0027】
抜け荷重W1=P*2*R2*π*L*μ・・・(4)式
【0028】
(4)式におけるπは円周率であり、Lは、圧入長さ(閉塞部材50とパイプ本体30の接触部分の軸方向における長さ、
図3参照)である。また、μは、閉塞部材50とパイプ本体30との間の摩擦係数である。
【0029】
(パイプ本体加工工程)
パイプ本体加工工程では、パイプ本体30における壁部38に対してロールかしめを行う。具体的には、回動可能な保持部材(図示せず、例えばチャックなど)によって保持されたパイプ本体30を、中心軸を回動中心として回動させつつ、
図5に示すように、パイプ本体30を構成する壁部38に対してローラ19を押し当てる。これにより、壁部38(パイプ本体30の端部)が全周に亘ってパイプ本体30の径方向内側に屈曲される。これにより、
図3に示すように、壁部38が縮径変形され、開口部36の直径D1が圧入後の閉塞部材50の直径D5よりも小さくなる。これにより、パイプ本体30に対する閉塞部材50の組付が完了する。
【0030】
次に、上述した接触応力P及び抜け荷重W1の算出について、具体的な数値を例示して説明する。接触応力P及び抜け荷重W1の算出に係る数値の一例を
図6に示す。なお、
図6に示す各数値は一例であり、各数値に限定されるものではない。なお、以下の説明では、パイプ本体30の材質が、S55(炭素鋼)であり、ビッカーズ硬さHVが230である場合を例示し、閉塞部材50の材質がSUJ2(高炭素クロム軸受鋼)である場合を例示するが、材質はこれに限定されない。なお、
図6に示すδMIN及びδMAXは、それぞれ圧入代δの一例である。
【0031】
図6に示す数値を(1)式に代入すると、δがδMINである場合には、接触応力Pは約213.6MPaとなり、δがδMAXである場合には、接触応力Pは約534.1MPaとなる。ここで、上記材質である場合のパイプ本体30の降伏点は、約550MPaである。このため、
図6に示す数値では、接触応力Pがパイプ本体30の降伏点を超えることがなく、圧入時には、パイプ本体30の塑性変形が生じない。
【0032】
また、
図6に示す数値を用いて抜け荷重W1を算出すると、δがδMINである場合には、抜け荷重W1は約4695.6Nとなり、δがδMAXである場合には、抜け荷重W1は約11738.9Nとなる。一方、デリバリパイプ20の燃料流通路35に燃料が供給された際の内圧をPAとした場合、内圧PAによって閉塞部材50に作用する荷重W2は、次の式(5)によって算出することができる。
【0033】
W2=π*R2^2*PA・・・(5)式
仮に、内圧PAが50MPaである場合には、W2は、約3927Nとなる。このため、
図6に示す数値では、閉塞部材50に作用する荷重W2が、抜け荷重W1を超えることがない。言い換えると、圧入された閉塞部材50が荷重W2によって変位することがない。
【0034】
次に、本実施形態の効果について説明する。本実施形態によれば、圧入工程では、パイプ本体30を弾性変形させつつ閉塞部材50を圧入する。このため、閉塞部材50を、パイプ本体30の内面に押圧された状態で保持することができ、パイプ本体30を塑性変形させて圧入する方法と比べて、閉塞部材50とパイプ本体30との間のシール性をより高くすることができる。また、閉塞部材50がパイプ本体30の内面に押圧された状態であるから、閉塞部材50とパイプ本体30との間に生じる摩擦力をより高くすることができ、燃料流通路35に燃料が供給された際の圧力によって閉塞部材50が変位する事態を抑制することができる。さらに、パイプ本体加工工程では、開口部36を構成する壁部38をパイプ本体30の径方向内側に屈曲させる。このため、閉塞部材50がパイプ本体30から抜ける事態をより確実に抑制することができる。以上のことから、本実施形態では、閉塞部材50とパイプ本体30との間のシール性が低下する事態を抑制することができる。
【0035】
また、本実施形態では、圧入された閉塞部材50の抜け荷重W1が、デリバリパイプ20使用時の燃料流通路35の内圧によって閉塞部材50に作用する荷重W2より大きくなるように設定されている。これにより、デリバリパイプ20使用時に燃料流通路35に供給された燃料の内圧によって閉塞部材50が変位する事態を抑制することができる。
【0036】
また、パイプ本体加工工程では、パイプ本体30における壁部38をパイプ本体30の全周に亘って内方(径方向内側)に屈曲させる。このようにすれば、閉塞部材50の抜け止めをより確実に行うことができる。
【0037】
また、本実施形態では、閉塞部材50がパイプ本体30の内部に完全に収容されており、閉塞部材50に外力が作用する事態を抑制することができる。また、閉塞部材50とパイプ本体30との接触面(シール面)に傷などが生じるとシール性が低下する事態が懸念される。この点、本実施形態では、シール面がパイプ本体30の内周面(内側に向く面)であるから、メタルシール構造のようなシール面がテーパ面(パイプ本体30の開口側に向く面)である構成と比べて傷が付き難く好適である。
【0038】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、閉塞部材として、燃料流通路を塞ぐためのキャップを例示したが、これに限定されない。例えば、閉塞部材として、パイプ本体30の燃料流通路と他部品とを接続するための接続部材などを例示することができる。このような接続部材に適用する際には、閉塞部材は、燃料を通過させるために中空状をなしていてもよい。つまり、閉塞部材は、燃料流通路を部分的に塞ぐものであってもよい。
(2)上記実施形態では、閉塞部材として円柱状をなすものを例示したが、これに限定されない。例えば、
図7の変形例に示すように、閉塞部材150が球状をなしていてもよい。
(3)上記実施形態では、パイプ本体加工工程において、ロールかしめを行いパイプ本体30の壁部38を全周に亘って屈曲されるものを例示したが、これに限定されない。例えば、パイプ本体30の壁部38の周方向における一部を内方に屈曲させることで、閉塞部材50の抜け止めを行ってもよい。