特許第6657051号(P6657051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6657051接点部材およびそれを備える押釦スイッチ用部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6657051
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】接点部材およびそれを備える押釦スイッチ用部材
(51)【国際特許分類】
   H01H 1/06 20060101AFI20200220BHJP
   H01H 13/52 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
   H01H1/06 K
   H01H13/52 F
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-207728(P2016-207728)
(22)【出願日】2016年10月24日
(65)【公開番号】特開2018-73467(P2018-73467A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(72)【発明者】
【氏名】横山 和房
(72)【発明者】
【氏名】小松 博登
【審査官】 北岡 信恭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−185956(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/082420(WO,A1)
【文献】 実開昭57−109532(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 1/06− 1/66
H01H 11/00−11/06
H01H 13/00−13/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム状弾性体の一方の面に、複数本の金属線を編み込んだ形態の金網を露出させるように埋設した接点部材であって、
前記金網は、互いに交差する複数方向の前記金属線から成り、前記複数方向の内の少なくとも一方向の前記金属線の少なくともその表面が貴金属にて形成され、前記少なくとも一方向以外の方向の前記金属線が非貴金属にて形成されている接点部材。
【請求項2】
前記金網は、前記複数方向の前記金属線を前記ゴム状弾性体から露出していることを特徴とする請求項1に記載の接点部材。
【請求項3】
前記金網は、二方向の前記金属線を編んで構成され、
前記二方向の前記金属線がともに露出するように前記ゴム状弾性体に埋設されており、
前記ゴム状弾性体から露出する数の点で、少なくともその表面が貴金属にて形成されている一方向の前記金属線の方が、非貴金属にて形成されている他方向の前記金属線よりも多い請求項2に記載の接点部材。
【請求項4】
前記金網は、二方向の前記金属線を編んで構成され、
前記二方向の前記金属線がともに露出するように前記ゴム状弾性体に埋設されており、
前記ゴム状弾性体から前記金属線が露出する高さは、その露出している前記金属線の直径よりも小さい請求項2または請求項3に記載の接点部材。
【請求項5】
前記ゴム状弾性体の前記金網と反対側の面に、1または複数個の突出部を備える請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の接点部材。
【請求項6】
前記突出部の表面が曲面である請求項5に記載の接点部材。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の接点部材を備える押釦スイッチ用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接点部材およびそれを備える押釦スイッチ用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
押釦スイッチ用部材において、回路基板上の接点に対して弾性的に接離可能な接点部材として、金属製の薄板、あるいはめっきを施した金属板をシリコーンゴムに貼り付けたものが従来から知られている。また、その他の形態の接点部材として、金属製の薄板に孔をあけたもの、シリコーンゴムに金網を貼り付けたもの、さらにはその金網に金網とは異種の金属をめっきしたものも、従来から知られている(特許文献1〜4を参照)。
【0003】
図8は、従来から公知の各接点部材の平面図および断面図(8A,8B,8C,8D)を示す。(8A)の接点部材50は、P−P線断面図に示すように、円板状のシリコーンゴム51の片面に、ニッケルやSUS等の金属製の板52を貼り付けた構成を有する。(8B)の接点部材60は、Q−Q線断面図に示すように、円板状のシリコーンゴム61の片面に、ニッケルやSUS等の金属製の板62を貼り付け、その表面に金等のめっき層63を備えた構成を有する。(8C)の接点部材70は、R−R線断面図に示すように、円板状のシリコーンゴム71の片面に、ニッケルやSUS等の金属製の網(金網)72を貼り付けた構成を有する。(8D)の接点部材80は、S−S線断面図に示すように、円板状のシリコーンゴム81の片面に、予め金等のめっきを施した金網82を貼り付けた構成を有する。めっき層83は、金網82のほぼ全表面を覆っている。
【0004】
(8A)および(8B)に示す接点部材50,60は、低抵抗で導電性に優れた部材である。しかし、回路基板上の接点に接触する面が平面であるため、異物の介在に弱いという問題がある。この問題を解決するため、従来から、(8C)および(8D)に示す接点部材70,80のように、回路基板上の接点に接触する面を金網72,82として、異物が介在したとしても接点と接触可能な凹凸面を形成する手法が採用されている。また、金網72,82に代えて、孔をあけた金属板を備えることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62−054433号公報
【特許文献2】特開2004−342539号公報
【特許文献3】特開2012−185956号公報
【特許文献4】特開2014−240058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の従来から公知の接点部材およびそれらを備えた押釦スイッチ用部材には、次のような点が求められている。第1の要求は、ニッケルやSUS等の金属の露出を低減して高い耐食性を実現すると共に、使用中に接点部材が異常をきたさないようにして、接点としての信頼性を高めることである。第2の要求は、パンチングやエッチングにて金属板に孔をあけることなく、また、貴金属の使用量を低減して、低コスト化を図ることである。
【0007】
本発明は、上記の各要求を満足すること、すなわち、高信頼性および低コストの接点部材およびそれを備える押釦スイッチ用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために、鋭意、開発を行ってきた結果、金網の一部をゴムに埋設した構成であって、当該金網を構成する二方向の金属線の内の一方向の金属線の少なくともその表面を貴金属にて形成し、他方向の金属線を貴金属以外の金属で形成した接点部材を完成した。本発明の課題解決手段は、具体的には、次のとおりである。
【0009】
上記目的を達成するための一実施の形態に係る接点部材は、ゴム状弾性体の一方の面に、複数本の金属線を編み込んだ形態の金網を露出させるように埋設した接点部材であって、金網は、互いに交差する複数方向の金属線から成り、複数方向の内の少なくとも一方向の金属線の少なくともその表面が貴金属にて形成され、当該少なくとも一方向以外の方向の金属線が非貴金属にて形成されている。
【0010】
別の実施の形態に係る接点部材では、さらに、金網は、複数方向の金属線をゴム状弾性体から露出していても良い。
【0011】
別の実施の形態に係る接点部材では、さらに、金網は、二方向の金属線を編んで構成され、二方向の金属線がともに露出するようにゴム状弾性体に埋設されており、ゴム状弾性体から露出する数の点で、少なくともその表面が貴金属にて形成されている一方向の金属線の方が、非貴金属にて形成されている他方向の金属線よりも多くても良い。
【0012】
別の実施の形態に係る接点部材では、また、金網は、二方向の金属線を編んで構成され、二方向の金属線がともに露出するようにゴム状弾性体に埋設されており、ゴム状弾性体から金属線が露出する高さは、その露出している金属線の直径よりも小さくても良い。
【0013】
別の実施の形態に係る接点部材では、また、ゴム状弾性体の金網と反対側の面に、1または複数個の突出部を備えても良い。
【0014】
別の実施の形態に係る接点部材では、さらに、突出部の表面が曲面であっても良い。
【0015】
上記目的を達成するための一実施の形態に係る押釦スイッチ用部材は、上述のいずれかに記載の接点部材を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高信頼性および低コストの接点部材およびそれを備える押釦スイッチ用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施形態に係る押釦スイッチ用部材を回路基板上に配置した状況の縦断面図を示す。
図2図2は、図1の押釦スイッチ用部材に接続される接点部材に用いられる金網を示し、(2A)は金網の平面図を、(2B)は(2A)のA−A線断面図を、それぞれ示す。
図3図3は、図1の押釦スイッチ用部材に接続される接点部材の第1実施形態を示し、(3A)は接点部材の基板側接点との対向する面を、(3B)は(3A)のB−B線断面図を、それぞれ示す。
図4図4は、図3の金網を構成する一方向の金属線のみの断面視(4A)と、もう一方の金属線のみの断面視(4B)とをそれぞれ示す。
図5図5は、図1の押釦スイッチ用部材に接続される接点部材の第2実施形態を示し、(5A)は接点部材の基板側接点との対向する面を、(5B)は(5A)のC−C線断面図を、それぞれ示す。
図6図6は、図1の押釦スイッチ用部材に接続される接点部材の第3実施形態を示し、(6A)は接点部材の金網と反対側の面を、(6B)は(6A)のD−D線断面図を、それぞれ示す。
図7図7は、本発明の各実施形態に係る接点部材の好適な製造方法の一例のフローを示す。
図8図8は、従来から公知の各接点部材の平面図および断面図(8A,8B,8C,8D)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
<1.押釦スイッチ用部材>
図1は、本発明の実施形態に係る押釦スイッチ用部材を回路基板上に配置した状況の縦断面図を示す。
【0020】
図1に示すように、押釦スイッチ用部材1は、回路基板2上に配置され、回路基板2の方向(図1の下方向)及びその逆方向(図1の上方向)に弾性的に往復可動する部材である。押釦スイッチ用部材1は、好ましくは、略直方体若しくは略円柱形状のキートップ3と、キートップ3の径方向外側にスカート形状に接続されるドーム部4と、ドーム部4よりも上記径方向外側に接続されていて回路基板2に固定されるフランジ部5とを備える。キートップ3は、回路基板2と対向する下面に、回路基板2の方向に突出する下方突出部6を備える。回路基板2は、下方突出部6と対向する位置に、互いに非接触状態の複数の基板側接点7,8を備える。一方、下方突出部6は、その先端であって基板側接点7,8と接続可能な位置に、導電性材料からなる部位を備えた接点部材10を接続している。
【0021】
キートップ3の上方から押圧していないときには、接点部材10と基板側接点7,8とは非接触状態を維持している。キートップ3の上から押圧していき、その押圧がある閾値を超えたときには、ドーム部4が急激に変形(座屈)して、接点部材10が基板側接点7,8に接触する。この接触によって、基板側接点7から接点部材10を通じて基板側接点8へと通電経路が形成されるので、スイッチがON(若しくはOFF)となる。キートップ3への押圧を解除すると、ドーム部4は自身の弾性力によって元の形状に戻るため、キートップ3は上昇する。この結果、接点部材10は、基板側接点7,8と離れる。
【0022】
押釦スイッチ用部材1は、この実施形態では、ゴム材料にて一体成形された部材である。しかし、押釦スイッチ用部材1は、ゴム材料にて一体成形された部材ではなく、少なくともドーム部4のみをゴム材料で形成されていれば、如何なる材料で構成されていても良い。押釦スイッチ用部材1を構成するゴム材料としては、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの複合物等を用いるのが好ましい。上記材料の候補の内では、特に、シリコーンゴムが好ましい。
【0023】
<2.接点部材>
2.1 第1実施形態
図2は、図1の押釦スイッチ用部材に接続される接点部材に用いられる金網を示し、(2A)は金網の平面図を、(2B)は(2A)のA−A線断面図を、それぞれ示す。図3は、図1の押釦スイッチ用部材に接続される接点部材の第1実施形態を示し、(3A)は接点部材の基板側接点との対向する面を、(3B)は(3A)のB−B線断面図を、それぞれ示す。
【0024】
図2には、図3の接点部材10に用いられる金網12よりも大面積の大判金網9が示されている。後述するように、接点部材10は、大判金網9をゴムシートに貼り付けて加硫後に、所望の大きさに打ち抜いて作製される。大判金網9は、いわゆる金網12を多数作製するための材料である。
【0025】
大判金網9は、互いに交差する二方向の金属線22,23から成り、それら二方向の内の一方向の金属線22の少なくともその表面を貴金属にて形成した網である。なお、大判金網9は、三方向以上の金属線から成るものでも良い。その場合、三方向以上の内の少なくとも一方向の金属線の少なくともその表面は貴金属にて形成され、残りの方向の金属線は非貴金属にて形成されている。金属線22は、少なくともその表面を貴金属にて形成すれば足りるので、例えば、非貴金属(例えば銅)から成る金属線の表面に、ニッケルのコート層を形成して、ニッケルのコート層の上から金等の貴金属のコート層を形成したものでも良い。なお、図2および図2以降の平面図では、貴金属のみで金属線22を形成した例を示しており、貴金属のみにて形成された金属線22を黒塗りで示している。一方、図2および図2以降の平面図では、貴金属以外の金属で形成された金属線23は、グレーで示されている。金属線22の少なくともその表面は、貴金属、すなわち、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)またはオスミウム(Os)の一種若しくは複数から成る。金属線23は、上記貴金属以外の導電性の金属から成り、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、タングステン(W)、ステンレススチール(SUS)のいずれ一種あるいはそれらの任意の合金から好適に成り、一例としては、銅製若しくは銅製の芯材にニッケルのめっき層を形成したものからより好適に成る。このように、金属線22,23の内の一方の金属線(この実施形態では、金属線22)の少なくともその表面を貴金属から構成し、他方の金属線(この実施形態では、金属線23)については貴金属を使用せずに非貴金属から構成することによって、接点としての高信頼性を実現し、かつ低コストにて接点部材10を構成できる。
【0026】
図3に示す接点部材10は、略円板形状のゴム状弾性体11と、金網12とを備える。金網12は、ゴム状弾性体11の一方の面に、金属線22,23を編み込んだ形態を有する。金属線22と金属線23とは同じ直径であっても、あるいは異なる直径であっても良い。より好ましくは、貴金属製の金属線22の直径は、非貴金属から成る金属線23の直径よりも大きい。金属線22の直径を金属線23の直径よりも大きくすることによって、許容電流を大きくし、あるいは基板側接点7,8との接触面積の拡大を期待でき、接触安定性を図ることができる。金網12は、その一部をゴム状弾性体11から露出させるように、ゴム状弾性体11に埋設されている。金網12は、図2に示すような互いに交差する二方向の金属線22,23から成る大判金網9の一部である。好適な金網12としては、平織り、綾織りあるいは平畳織りの金網を例示できる。なお、本願において、「交差」とは、直角に交わる位置関係のみならず、直角以外の角度で交わる関係も含むように解釈される。
【0027】
平織りの場合には、一方の金属線(ここでは「緯線」ともいう)22の張力と、もう一方の金属線(ここでは「経線」ともいう)23の張力とがほぼ同一であることが望ましい。緯線22が非貴金属製の金属線に非常に薄い金等の貴金属のコート層を施したものである場合には、金等の貴金属のコート後の緯線22の直径と非貴金属製の経線23の直径とをほぼ同一にすれば良い。一方、緯線22が先の例に比べて非常に厚い金等の貴金属のコート層を施した金属線である場合には、金等の貴金属のコート後の緯線22の直径と非貴金属製の経線23の直径とをほぼ同一にすると、金等の貴金属の厚いコート層を有する緯線22の方が、経線23に比べて低張力になってしまう。このため、金等の貴金属のコート前の段階で、緯線22の直径と経線23の直径とをほぼ同一にするのが好ましい。この結果、金等の貴金属のコート層を形成した緯線22の直径の方が経線23の直径よりも大きくなる。
【0028】
平畳織りの場合には、緯線22と経線23との張力に差をつけることで金網12が成立する。この実施形態では、少なくとも表層が金等の貴金属の緯線22を、経線23に比べて低張力とし、緯線22が基板側接点7,8への押圧時に確実に基板側接点7,8に接触するようにするのが好ましい。緯線22が金等の貴金属の薄いコート層を形成したものであれば、金等の貴金属のコート後の緯線22の直径を、経線23の直径に比べて同一若しくは小さくすることで、緯線22と経線23との張力差を実現できる。一方、緯線22に金等の貴金属の厚いコート層を形成した場合には、緯線22と経線23との張力差を実現するために、金等の貴金属のコート前の段階の緯線22の直径を経線23の直径に比べて同一若しくは小さくしておけば、金等の貴金属のコート後の緯線22の直径を経線23の直径よりも大きくすることができる。これは、金等の貴金属のコート層が緯線22の張力の増大にほとんど寄与せず、専ら、コート前の緯線22の太さで張力が決まるからである。なお、これ以後では、「緯線22」および「経線23」という表現を行わず、それぞれ「金属線22」および「金属線23」という表現を用いる。
【0029】
図3に示すように、第1実施形態に係る金網12は、ゴム状弾性体11から金属線22,23を両方とも露出させている。この状態から金網12をゴム状弾性体11に埋め込む状態にすると、金網12とゴム状弾性体11との接着力は、より強固になる。しかし、ゴム状弾性体11から露出する金属線22,23の領域が少なくなるので、電気接点としての機能はより低くなる。逆に、図3の状態から金網12をゴム状弾性体11から上方に露出する状態にすると、金網12とゴム状弾性体11との接着力は、より弱くなる。しかし、ゴム状弾性体11から露出する金属線22,23の領域が多くなるので、電気接点としての機能はより高くなる。
【0030】
金網12とゴム状弾性体11との接着力を高くし、かつ金網12の電気接点としての高い機能を発揮させるには、両方の金属線22,23がゴム状弾性体11から露出し、かつ金属線22が金属線23よりも平面視にてより広い面積にて露出している方が好ましい。金網12は、好ましくは、ゴム状弾性体11上の接着層などを介在せずに、直接、ゴム状弾性体11に付けられている。接着層などを介在させないことにより、金網12がゴム状弾性体11から剥離するリスクをより低減できるので、押釦スイッチ用部材1の品質をより高めることができる。また、接着層を形成する工程を省くことにより、押釦スイッチ用部材1の低コスト化を図ることもできる。
【0031】
また、金網12とゴム状弾性体11との接着力を高くし、かつ金網12の電気接点としての高い機能を発揮させる別の観点としては、ゴム状弾性体11から突出している金属線22の頂点数と金属線23の頂点数との比率を挙げることができる。金属線22および金属線23の内のより少ない一方(当該一方は金属線23の方がより好ましい)の頂点数をP1、もう一方の頂点数をP2とすると、100(%)×P1/P2を10%以上90%以下とするのが好ましく、20%以上70%以下とするのがより好ましく、30%以上50%以下とするのがさらに好ましい。100(%)×P1/P2をこのような範囲とすると、ゴム状弾性体11と金属線22,23との接着面積の増加および嵌合効果の増大によって接着力の確保と、基板側接点7,8と接触する金属線22,23の増加による信頼性の確保とを図ることができる。
【0032】
図4は、図3の金網を構成する一方向の金属線のみの断面視(4A)と、もう一方の金属線のみの断面視(4B)とをそれぞれ示す。よって、(4A)では、金属線22と絡み合う金属線23は描かれていない。同様に、(4B)では、金属線23と絡み合う金属線22は描かれていない。また、図4においてのみ、金属線22および金属線23の長さ方向を明示する必要から、X方向、Y方向およびZ方向を示す。
【0033】
上述のような金属線22,23の各露出面積、および金属線22,23の露出頂点数の観点に代えて、あるいは当該観点に加えて、次のような金属線22,23の露出高さによって、金網12とゴム状弾性体11との接着力を高くする機能と、金網12の電気接点としての高い性能を発揮させる機能との調和を図ることができる。図4に示すように、この実施形態では、金属線22がゴム状弾性体11の上に露出する高さ(L1)は、金属線23がゴム状弾性体11の上に露出する高さ(L2)に対して同一若しくは大きい(L2≦L1)。L1は、金属線22の直径(D22)の5%以上80%以下であるのが好ましく、20%以上60%以下であるのがさらに好ましい。また、L2は、金属線23の直径(D23)の0%より大きく50%以下であるのが好ましく、3%以上30%以下であるのがさらに好ましい。なお、L2は、金属線23の直径(D23)の0%、すなわち金属線23がゴム状弾性体11から露出していない状態でも良い。
【0034】
2.2 第2実施形態
図5は、図1の押釦スイッチ用部材に接続される接点部材の第2実施形態を示し、(5A)は接点部材の基板側接点との対向する面を、(5B)は(5A)のC−C線断面図を、それぞれ示す。
【0035】
第2実施形態に係る接点部材10aにおいて、第1実施形態に係る接点部材10と共通する構成については、同一の符号を付して、その説明を第1実施形態における説明に代えて、省略する。
【0036】
第2実施形態に係る接点部材10aは、金網12のゴム状弾性体11中への埋設する深さが第1実施形態に比して深い。この実施形態では、金網12を形成する金属線22(貴金属から成る金属線)のみがゴム状弾性体11から露出している。金属線23は、ゴム状弾性体11中に完全に埋設している。かかる点以外の構造および材料は、第1実施形態と共通する。なお、金属線23のみがゴム状弾性体11から露出していても良い。このような状態にすると、第1実施形態の状態よりも、金網12とゴム状弾性体11との接着力がより高くなる。
【0037】
2.3 第3実施形態
図6は、図1の押釦スイッチ用部材に接続される接点部材の第3実施形態を示し、(6A)は接点部材の金網と反対側の面を、(6B)は(6A)のD−D線断面図を、それぞれ示す。
【0038】
第3実施形態に係る接点部材10bにおいて、上述の各実施形態に係る接点部材10,10aと共通する構成については、同一の符号を付して、その説明を上述の各実施形態における説明に代えて、省略する。
【0039】
第3実施形態に係る接点部材10bは、ゴム状弾性体11の金網12と反対側の面に複数個の突出部40を備える点を除き、第1実施形態に係る接点部材10と共通する。突出部40は、この実施形態では、その表面を曲面とするのが好ましい。突出部40は、接点部材10bの金網12と反対側の面が別の接点部材10bと張り付くのを防止する機能を有する。突出部40を設けないと、接点部材10bの金網12と反対側の面が別の接点部材10bの金網12側またはその反対側の面のいずれかの面と張り付き、2枚の接点部材10b,10bが容易に分離しなくなる可能性がある。この結果、押釦スイッチ用部材1に2枚の接点部材10b,10bが重なった状態で製品化されてしまうリスクがある。その後、2枚の接点部材10b,10bの内の1枚が外れたときには、ストローク(キートップ3を押し込んだときの距離)が1枚の接点部材10bの厚みだけ増加する不具合が生じる。突出部40は、上記の張り付きを防止する機能を有するため、上記不具合が生じる可能性を低減する。
【0040】
また、突出部40を形成した面と、金網12の形成面との表面状態の差別化もできるので、接点部材10bを成形用金型の内部に配置する際に、誤って、本来の積層面と逆の面を上にして配置するリスクも低減できる。
【0041】
突出部40の形成は、接点部材10bを備える押釦スイッチ用部材1の高信頼化を図ると共に、下記理由により低コスト化にも寄与する。接点部材10b同士の張り付きを防止するための別の方法として、突出部40を形成する面に紫外線を照射して、粘着性を低減する方法も考えられる。しかし、紫外線照射という工程を製造工程に含めると、接点部材10bの低コスト化に逆行する。金型成形時に、突出部40を形成する方が、紫外線照射工程を入れる場合と比して低コスト化につながる。
【0042】
接点部材10bの直径を3mmとした場合、突出部40は、3個〜20個、好ましくは4個〜15個、特に好ましくは6個〜12個形成される。突出部40の形状は、好ましくは略半球形状である。突出部40は、複数個の一部が、完全体の一部を欠く形状であっても良いが、少なくとも3個は完全体であるのが好ましい。また、突出部40は、一定の間隔で離間させて、ゴム状弾性体11の一方の面全体に規則的に並べて配置されるのが望ましい。突出部40の配置形態としては、例えば、正方配置あるいは千鳥配置が好適である。突出部40を規則正しく配置すると、下方突出部6への接着の際に、水平に接着しやすい。
【0043】
突出部40の底面積の直径の範囲は、好ましくはφ0.1mm〜2.0mm、より好ましくはφ0.2mm〜1.0mm、さらに好ましくはφ0.4mm〜0.6mmである。また、突出部40の高さは、好ましくは0.01mm〜1.0mm、より好ましくは0.03mm〜0.50mm、さらに好ましくは0.05mm〜0.15mmである。突出部40を上記の大きさの範囲にすると、接点部材10b同士の張り付きをより低減できる。
【0044】
<3.接点部材の製造方法>
次に、上述の各種接点部材10,10a,10b(以後、「10等」という。)の製造工程の一例について説明する。
【0045】
図7は、本発明の各実施形態に係る接点部材の好適な製造方法の一例のフローを示す。
【0046】
まず、シリコーンゴム等のコンパウンドの計量および素練りを行う(S101)。これと併行して、架橋剤の計量を行う(S102)。計量後の架橋剤を素練り後のコンパウンドに混練する(S103)。架橋剤は、1種でも2種以上でも良い。また、着色材を計量し(S104)、S103を経たコンパウンドに着色材を混練する(S105)。なお、着色材は、例えば、顔料および/または染料を含む。
【0047】
また、フィラーの計量(S201)、助剤の計量(S202)およびシランカップリング剤の計量(S203)を行い、計量後のフィラー、助剤およびシランカップリング剤を混合する(S204)。当該混合されたものを、S107を経たコンパウンドと混練する(S301)。なお、フィラー、助剤およびシランカップリング剤は、必須ではなく、少なくとも1つを添加しなくとも良い。続いて、S301を経たコンパウンドをシート状に成形し、適正な大きさにカットする(S302)。
【0048】
次に、金属線22と金属線23をそれぞれ複数本用意して、金網12を作製する(S400)。次に、金網12をシート成形体に貼り合わせ、裁断する(S401)。続いて、金型内に、金網12を貼り合わせたシート成形体を入れて成形を行う。当該成形において、金型を加熱して金型内のシート成形体の一次加硫を行う(S402)。次に、金型を開いて、金型から取り出した成形物を加熱して二次加硫を行う(S403)。最後に、直径約3mmの大きさに打ち抜き、接点部材10等を完成する(S404)。
【0049】
<4.その他の実施形態>
以上、本発明の好適な各実施形態について説明したが、本発明は、上記各実施形態に限定されず、種々変形を施した形態にて実施可能である。
【0050】
例えば、金網12は、互いに交差する複数方向の金属線22,23から成るものであれば、金属線を如何なる手法で編んだ接点であっても良い。また、図7のフロー中のS402〜S403の各工程に代えて、次のような各工程を実施しても良い。例えば、S401に続いて、ピンチロールによるラミネート処理工程によりシート成形体に金網12の一部を埋設する(S402a)。続いて、熱風乾燥機に投入して、非加圧の状態で一次加硫を行い(S402b)、保護フィルム(片面離型処理PET)を剥がした後(S402c)、二次加硫を行う(S403a)。その後、図7のフローと同様、直径約3mmの大きさに打ち抜き、接点部材10等を完成する(S404)。また、突出部40は、略半球状の部材であって、その表面が曲面である方が好ましいが、かかる形状の部材に限定されるものではなく、例えば、先端を平面とする略直方体の突出部でも良い。また、突出部40の形状は、円錐形状でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、押釦スイッチを備える機器に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1・・・押釦スイッチ用部材、10,10a,10b・・・接点部材、11・・・ゴム状弾性体、12・・・金網、22,23・・・金属線、40・・・突出部。
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