特許第6657070号(P6657070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6657070ポリアルキレンオキシド吉草酸ヘモグロビン接合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6657070
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】ポリアルキレンオキシド吉草酸ヘモグロビン接合体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/805 20060101AFI20200220BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 33/06 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 11/16 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200220BHJP
   A61K 38/42 20060101ALI20200220BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20200220BHJP
【FI】
   C07K14/805
   A61P1/16
   A61P7/06
   A61P17/02
   A61P9/10
   A61P39/02
   A61P11/00
   A61P9/04
   A61P9/00
   A61P33/06
   A61P15/00
   A61P31/04
   A61P7/00
   A61P27/02
   A61P15/08
   A61P25/28
   A61P1/04
   A61P9/10 103
   A61P11/16
   A61P35/00
   A61K38/42
   A61K47/60
【請求項の数】16
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-503422(P2016-503422)
(86)(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公表番号】特表2016-521258(P2016-521258A)
(43)【公表日】2016年7月21日
(86)【国際出願番号】US2014030569
(87)【国際公開番号】WO2014145755
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年3月15日
(31)【優先権主張番号】61/801,016
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518109653
【氏名又は名称】ウィリアム・シンドラー
【氏名又は名称原語表記】William Schindler
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(72)【発明者】
【氏名】アショク・マラバリ
(72)【発明者】
【氏名】グネル・ムクルトチャン
(72)【発明者】
【氏名】キム・ディ・バンデグリフ
【審査官】 斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−529531(JP,A)
【文献】 特表2005−515225(JP,A)
【文献】 特表2006−514652(JP,A)
【文献】 特表平05−504133(JP,A)
【文献】 Mero, A. et al.,Covalent Conjugation of Poly(EthyleneGlycol) to Proteins and Peptides:Strategies and Methods,Methods in molecular biology,2011年,Vol.751,P.95-129
【文献】 Suo, X. et al.,Solid phase pegylation of hemoglobin,Artif. Cells Blood Substit. Biotechnol.,2009年,Vol. 37,pp. 147-155
【文献】 Chatterjee, R. et al.,Isolation and characterization of a new hemoglobin derivative crosslinked between the a chains (Lysine99a1→Lysine 99a2),J. Biol. Chem.,1986年,Vol. 261,pp. 9929-9937
【文献】 Guarnone, R. et al.,Performance characteristics of Hemox-Analyzer for assessment of the hemoglobin dissociation curve,Haematologica,1995年,Vol. 80,pp. 426-430
【文献】 Vandegriff, K. D. et al.,MP4, a new nonvasoactive PEG-Hb conjugate,Transfusion,2003年,Vol. 43,pp. 509-516
【文献】 土田 英俊 ほか,人工血液へのアプローチ,人工臓器,1990年,Vol. 19,pp. 1552-1558
【文献】 Rohlfs, R. J. et al.,Arterial blood pressure responses to cell-free hemoglobin solutions and the reaction with nitric oxide,J. Biol. Chem.,Vol. 273,1998年,pp. 12128-12134
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)〜(iii)のうちのいずれかのポリアルキレンオキシド(PAO)ヘモグロビン接合体:
(i)37℃且つpH7.4で測定したときに約2〜約10mmHgに亘るP50を有する、PAOヘモグロビン接合体であって、該PAOは、ヘモグロビン分子上のアミノ酸側鎖にアミノ反応性部分を介して共有結合されており、該アミノ反応性部分は、−C(O)−(CH−によってPAOに連結され、該ヘモグロビンは、分子内架橋される前記PAOヘモグロビン接合体;
(ii)下記の構造を有するPAOヘモグロビン接合体:
【化1】
[ここで、
Hbはヘモグロビンであり、
Nはヘモグロビンのアミノ基であり、
Lはリンカーの−C(O)−(CH−であり、
Xは末端基であり、
mはヘモグロビンに接合された活性化型PEGポリマーの平均数であり、四量体当たり平均約6〜約10のPAO分子であり、そして
nは約4,000〜約6,000ダルトンの平均分子量を有するPEGにおけるオキシエチレン単位の平均数である];あるいは
(iii)ヘモグロビンを少なくとも一つのPAOポリマーと反応させることを含んでなる方法により調製された、PAOヘモグロビン接合体であって、該PAOポリマーは次の構造を有する前記接合体:
【化2】
[ここで、Rはスクシンイミジルまたはp−ニトロフェニルであり、Lはリンカーの−C(O)−(CH−であり、Xは末端基であり、そしてnは約4,000〜約6,000ダルトンの平均分子量を有するPEGにおけるオキシエチレン単位の平均数である]。
【請求項2】
Xが、ヒドロキシ、アリールオキシ、またはC〜C20アルコキシである、請求項1に記載のヘモグロビン接合体。
【請求項3】
前記ヘモグロビンが、β,β−分子内架橋されている、請求項1または2に記載のヘモグロビン接合体。
【請求項4】
フマル酸ビス(3,5−ジブロモサリチル)が、前記ヘモグロビン分子の二つのβ82リジン残基において架橋されている、請求項3に記載のヘモグロビン接合体。
【請求項5】
前記ヘモグロビンが、請求項1の項目(ii)または(iii)に記載のPAOヘモグロビン接合体である場合にα,α−分子内架橋され、前記ヘモグロビンのP50が約20〜30mmHgである、請求項1または2に記載のヘモグロビン接合体。
【請求項6】
酸素、一酸化炭素、または一酸化窒素にリガンド結合される、請求項1〜5のいずれか1項に記載のヘモグロビン接合体。
【請求項7】
脱酸素化されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載のヘモグロビン接合体。
【請求項8】
Rが、スクシンイミジルであり、Xが、メトキシであり、前記ヘモグロビン接合体が、四量体当たり平均約8〜約9のPAO分子を有し、P50が、約7mmHgであり、前記PAOが、ポリエチレングリコール(PEG)であり、前記PEGが、約5,000ダルトンの平均分子量を有する、請求項1に記載のヘモグロビン接合体。
【請求項9】
前記PAOがポリエチレングリコール(PEG)である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のヘモグロビン接合体であって、下記のうちのいずれかの接合体:
前記PAOポリマーのアミノ反応性部分が、前記ヘモグロビンのリジン残基のε−アミノ部分、前記ヘモグロビンの末端バリン残基のα−アミノ部分、またはこれらの組合せから選択される前記ヘモグロビンのアミノ部分に接合されている前記接合体;
前記PAOポリマーのアミノ反応性部分が、ヘモグロビンα−サブユニットまたはβ−サブユニットにおける末端バリン残基のα−アミノ部分に接合されている前記接合体;
前記PAOポリマーのアミノ反応性部分が、ヘモグロビンα−サブユニットまたはβ−サブユニットのリジン残基のε−アミノ部分に接合されている前記接合体;あるいは
前記PAOポリマーのアミノ反応性部分が、ヘモグロビンα−サブユニットまたはβ−サブユニットのリジン残基のε−アミノ部分に接合されており、前記リジン残基が、リジン−7、リジン−11、リジン−16、リジン−40、リジン−56、リジン−60、リジン−61、リジン−90、リジン−99、リジン−127、リジン−139及びこれらの組合せからなる群から選択されるヒトヘモグロビンα−サブユニットのリジン残基のいずれかであるか、または前記リジン残基が、リジン−8、リジン−17、リジン−59、リジン−61、リジン−65、リジン−66、リジン−82、リジン−95、リジン−120、リジン−132、リジン−144及びこれらの組合せからなる群から選択されるヒトヘモグロビンβ−サブユニットのリジン残基である前記接合体。
【請求項10】
N−エチルマレイミドが、前記ヘモグロビンのβ93システイン残基に接合されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載のヘモグロビン接合体。
【請求項11】
前記ヘモグロビン接合体が、前記PAOポリマーが、前記ヘモグロビンのチオール基またはβ93システイン残基を介して接合され且つ下記の構造を有する以外は同一であるヘモグロビン接合体と比較して、−20℃で36月または周囲温度で少なくとも18月保存したときにより大きな安定性を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載のヘモグロビン接合体:
【化3】
[ここで、Xは末端基であり、そしてnは約4,000〜約6,000ダルトンの平均分子量を有するPEGにおけるオキシエチレン単位の平均数である]。
【請求項12】
前記ヘモグロビンが組換え体である、請求項1〜11のいずれか1項に記載のヘモグロビン接合体。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のヘモグロビン接合体及び医薬的に許容可能な担体を含有してなる医薬組成物。
【請求項14】
下記のうちのいずれかの請求項13に記載の医薬組成物:
血液と同張性(normo-oncotic)である医薬組成物;
血液と比較して高張性(hyperoncotic)である医薬組成物;
急性肝不全、β地中海貧血症、火傷、慢性重症四肢虚血(chronic critical limb ischemia)、二酸化炭素またはシアン化物中毒、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、鬱血性心不全、低酸素症、マラリア、臓器虚血、抹消血管疾患、ポルフィリン症、妊娠における子癇前症、敗血症、鎌形赤血球病、網膜症、眼内症状、精巣捻転症、外傷、ショック、外傷性脳障害、潰瘍、血管痙攣、またはこれらの組合せの治療において使用するための医薬組成物;
前記臓器虚血が、急性腸管虚血(腸軸捻症)、急性腸管虚血(塞栓症)、心原性ショック、急性血管性臓器虚血、発作、心筋梗塞、または重篤な心臓虚血を含んでなる前記医薬組成物;
非外傷性出血性ショック、病院到着前の外傷、外傷性出血性ショック、急性肺損傷、成人呼吸困難症候群、外傷性脳損傷、発作、固形腫瘍癌、臓器退廃(ex-vivo)、臓器退廃(レシピエントにおいて)、重篤な敗血症、敗血症ショック、心筋梗塞、心虚血、心原性ショック、急性心不全、肺塞栓症、またはこれらの組合せの治療において使用するための前記医薬組成物;
血管形成術に対する補助療法として、形成外科のための補助療法として、または補助人工心臓を移植する際の補助療法として;血液代用剤、心保護剤、冷凍保存剤、血液透析補助剤、腫瘍治療剤、臓器保存剤、性能強化剤、手術補助剤、または創傷治癒剤として;撮像において;肺機能を改善するため;またはそれらの組合せにおいて使用するためのものである前記医薬組成物;あるいは
血液喪失の獣医学的治療のための医薬組成物であって、前記血液喪失が、傷害、溶血性貧血、感染性貧血、細菌感染、第IV因子断片化、脾機能亢進及び脾腫大、家禽における出血性症候群、再生不良性貧血、形成不全性貧血、突発性免疫性溶血症状、鉄欠乏症、同種免疫溶血性貧血、微小血管性溶血性貧血、寄生、もしくは外科麻酔に誘導された脳損傷によるものである前記医薬組成物。
【請求項15】
下記のうちのいずれかの請求項13または14に記載の医薬組成物:
急性肝不全、β地中海貧血症、火傷、慢性重症四肢虚血(chronic critical limb ischemia)、二酸化炭素またはシアン化物中毒、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、鬱血性心不全、低酸素症、マラリア、臓器虚血、抹消血管疾患、ポルフィリン症、妊娠における子癇前症、敗血症、鎌形赤血球病、網膜症、眼内症状、精巣捻転症、外傷、ショック、外傷性脳障害、潰瘍、血管痙攣、またはこれらの組合せの治療における使用のための医薬組成物;
臓器虚血の治療における使用のための医薬組成物であって、前記臓器虚血が、急性腸管虚血(腸軸捻症)、急性腸管虚血(塞栓症)、心原性ショック、急性血管性臓器虚血、発作、心筋梗塞、または重篤な心臓虚血を含んでなる、医薬組成物;
非外傷性出血性ショック、病院到着前の外傷、外傷性週血性ショック、急性肺損傷、成人呼吸困難症候群、外傷性脳損傷、発作、固形腫瘍癌、臓器退廃(ex-vivo)、臓器退廃(レシピエントにおいて)、重篤な敗血症、敗血症ショック、心筋梗塞、心虚血、心原性ショック、急性心不全、肺塞栓症、またはこれらの組合せの治療における使用のための医薬組成物;
血管形成術に対する補助療法として、形成外科のための補助療法として、または補助人工心臓を移植する際の補助療法として;血液代用剤、心保護剤、冷凍保存剤、血液透析補助剤、腫瘍治療剤、臓器保存剤、性能強化剤、手術補助剤、または創傷治癒剤として;撮像において;肺機能を改善するため;またはそれらの組合せに使用するための医薬組成物;
血管形成術に対する補助療法として、胸部大動脈修復に対する補助療法として、心肺バイパス術に対する補助療法として、または心肺バイパスのためのプライミング溶液として使用するための医薬組成物;あるいは
傷害、溶血性貧血、感染性貧血、細菌感染、第IV因子断片化、脾機能亢進及び脾腫大、家禽における出血性症候群、再生不良性貧血、形成不全性貧血、突発性免疫性溶血症状、鉄欠乏症、同種免疫溶血性貧血、微小血管性溶血性貧血、寄生、もしくは外科麻酔に誘導された脳損傷による血液喪失の獣医学的治療における使用のための医薬組成物。
【請求項16】
酸素、一酸化窒素、一酸化炭素またはそれらの混合物を組織へと送達し、微小血管系中で亜硝酸塩を一酸化窒素(NO)へと還元するための請求項13または14に記載の医薬組成物であって、投与後、前記ヘモグロビンが、脱リガンドされ、前記微小血管系において亜硝酸塩を一酸化窒素に変換するものである、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ポリアルキレンオキシド(PAO)ヘモグロビン接合体に関する。より詳細には、本発明は改善された安定性を有するPAOヘモグロビン接合体、該接合体を含有する医薬組成物、及び該接合体を合成する方法及びこれを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘモグロビンに基づく酸素担体(「HBOC」)は、長年に亘って血管収縮に関連付けられており、これはヘムによる一酸化窒素(NO)の除去に帰せられてきた。安定化されたヘモグロビン(Hb)のような、酸素療法剤として有用な酸素輸送体(時には「酸素輸送血漿増量剤」と称される)は、一酸化窒素を除去して血管収縮及び高血圧を生じるので、限定された薬効しかもたないことが示されてきた。血管収縮を生じるこれら酸素輸送溶液の性向は、動物及び人間において高血圧として現れる可能性がある。HBOCの血管収縮効果の基礎をなす機構は十分には理解されていないが、ヘム鉄が、強力な血管拡張因子である内因性NOと迅速且つ不可逆的に結合し、それによって血管収縮を生じ得ることが示唆されてきた。
【0003】
修飾された細胞フリーのHbを含有する製品は最も有望であったにもかかわらず、今日までの酸素輸送体は、一部はこれら血管収縮効果の故に、酸素療法剤(OTA)としては全く成功していなかった。フマル酸ビス−ジブロモサリチル(ααHb)を用いてα鎖の間で架橋されたヒトHbが、赤血球代用剤モデルとして合衆国陸軍によって開発されたが、それは肺及び全身の血管抵抗性に重篤な増大を示した後に断念された(Hess,J.et al.,1991,Blood 78:356A)。この製品の商業化バージョンもまた、期待外れの第III相臨床試験後に断念された(Winslow,R.M.,2000,Vox Sang 79:1−20)。
【0004】
HbのNO結合活性を克服する試みにおいて、二つの分子的アプローチが進展された。第一のアプローチでは、低減されたNO結合親和性をもった組換えヘモグロビンを創製する試みにおいては、遠位ヘムポケットの部位特異的突然変異誘発が用いられた(Eich,R.F.et al.,1996,Biochem.35:6976-83)。第二のアプローチでは、化学修飾アプローチが用いられ、ここでは血管空間から間隙空間へのHbの血管外遊走を低減し、または可能であれば完全に阻止する試みにおいて、Hbのサイズがオリゴマー化によって高められた(Hess,J.R.et al.,1978,J.Appl.Physiol.74:1769−78;Muldoon,S.M. et al.,1996,J.Lab.Clin.Med.128:579−83;Macdonald,V.W. et al.,1994,Biotechnology 22:565−75;Furchgott,R.,1984,Ann.Rev.Pharmacol.24:175−97; 及び Kilbourne,R.et al.,1994,Biochem.Biophys.Res.Commun.199:155−62)。
【0005】
事実、NOについての会合結合率が低減された組換えHbが製造されており、これはトップロードラット(top−load rat)実験において高血圧性がより少ない((Doherty,D.H.et al.1998,Nature Biotechnology 16:672−676 及び Lemon,D.D.et al.1996,Biotech 24:378)。しかし、研究により、NO結合はHbの血管活性のための唯一の説明ではないであろうことが示唆されている。ポリエチレングリコール(PEG)で修飾されたもののように一定の大きなHb分子は、それらのNO会合率が重篤な高血圧性ααHbのそれと同一であったとしても、実際には血管収縮を伴わないことが分かっている(Rohlfs,R.J.et al.1998,J Biol.Chem.273:12128−12134)。更に、PEG−Hbは、出血の前に交換輸液として与えられた時に、出血の結果を防止する上で異常に効果的であることが分かった(Winslow,R.M.et al.1998,J.Appl.Physiol.85:993−1003)。
【0006】
PEGのHbへの接合は、その抗原性を減少させ、またその循環半減期を延長させる。しかし、PEG接合反応は、Hb四量体のαβ二量体サブユニットへの解離をもたらし、40,000ダルトン(「Da」)未満のHbモノマー単位のPEG接合体を受けている交換輸液されたラットにおいて、重篤なヘモグロビン尿症を生じることが報告されている(Iwashita and Ajisaka Organ−Directed Toxicity:Chem.Indicies Mech.,Proc.Symp.,Brown et al.1981,Eds.Pergamon,Oxford,England pgs 97−101)。α及びε−アミノ基においてHbに連結された約10コピーのPEG−5,000鎖を担持した84,000ダルトンを超える分子量のポリアルキレンオキシド(「PAO」)を接合されたHbが、エンゾン社(Enzon,Inc.)により調製された(U.S.Pat.No.5,650,388)。この置換の程度は、動物においてヘモグロビン尿症を伴う臨床的に有意な腎毒性を回避するものとして記載された。しかし、この接合反応は不均一な接合集団をもたらし、またカラムクロマトグラフィーにより除去しなければならない他の望ましくない反応体を含んでいた。
【0007】
PEG接合は、典型的には、活性化されたPEG部分と生体分子表面の官能基との反応を介して行われる。最も普通の官能基は、リジンのアミノ基、ヒスチジン残基のイミダゾール基、及びタンパク質のN末端;システイン残基のチオール基;及びセリン、スレオニン及びチロシン残基の水酸基、並びにタンパク質のC末端である。PEGは、通常は水酸基末端を、温和な水性環境でこれら官能基と反応できる反応性部分へと変換することによって活性化される。治療的バイオ医薬の接合のために使用される最も普通のモノ官能性PEGの一つは、メトキシ−PEG(「mPEG−OH」)であり、これは唯一の官能基(即ち、ヒドロキシル)を有しており、従って二官能性PEGに付随する架橋及び凝集の問題を最小化する。しかし、mPEG−OHは、高分子量の二官能性PEG(即ち「PEGジオール」)で汚染されることが多く、これはその製造プロセスに起因して、10〜15%に亘り得るものである(Dust J.M.et al.1990,Macromolecule 23:3742−3746)。この二官能性PEGジオールは、望ましいモノ官能性PEGのサイズの約2倍である。該汚染の問題は、PEGの分子量が増大するにつれて更に悪化する。FDAは製造プロセスにおける高レベルの再現性及び最終薬物製品の品質を要求しているので、mPEG−OHの純度は、PEG化されたバイオ治療剤の製造にとって本質的に重要である。
【0008】
HbのPAOへの接合は、酸素付加状態及び脱酸素状態の両方で行われてきた。U.S.Pat.No.6,844,317は、得られるPEG−Hb接合体の酸素親和性を高めるために、接合の前にHbを大気と平衡化することによって、酸素付加された状態または「R」状態においてHbを接合させことを記載している。他のものは、酸素親和性を低下させ、構造安定性を増大させて、Hbが化学修飾、ダイアフィルトレーション及び/または滅菌濾過及び低音殺菌の物理的ストレスに耐えることを可能にするために、接合に先立って脱酸素化工程を行うことを記載している(U.S.Pat.No.5,234,903)。Hbの分子架橋のためには、α鎖のリジン99を架橋剤に露出させるために、修飾の前にHbを脱酸素化することが必要とされ得ることが示唆されている(U.S.Pat.No.5,234,903)。
【0009】
PEGとの接合前に2−イミノチオランを用いたHbのチオール化速度論が、アカルヤ等によって研究されたAcharya et al.(U.S.Pat.No.7,501,499)。イミノチオランの濃度を、四量体一つ当たり平均5個の外来性チオールを導入する10倍から、30倍に増加させるとHb上の外来性チオールの数が約2倍になることが観察された。しかし、PEG接合後に見られるサイズの増大は、チオールの数が倍化するにも拘わらず、ほんの僅かにしか過ぎなかった。これにより、Hbの表面を覆う20倍モル過剰のマレイミジルPEG−5000の存在下での少ない反応性チオールとの接合反応は、より多くの反応性チオールでのHbの更なる修飾に抵抗する立体障害をもたらすことが示唆された。結局、修飾Hbの望ましい接合度(即ち、Hb分子当たり6±1のPEG)を達成するために、アカルヤ等(Acharya etal.)は、8〜15モル過剰のイミノチオランでHbをチオール化し、このチオール化されたHbを16〜30倍モル過剰のマレイミジルPEG−5000と反応させた。しかしながら、大スケールの製造におけるこれら高モル過剰の反応体濃度は、HBOCを調整するためのコストを顕著に増大させ、また最終製品の不均一さを増大させる。更に、このような高モル過剰のマレイミジルPEG−5000はまた、多数の望ましくない副反応体の産生を伴ってより不均一な製品を生じる。
【0010】
以前の研究において、表面を修飾されたヘモグロビンの分子サイズは腎臓によるクリアランスを回避し、また望ましい循環半減期を達成するために十分に大きくなければならないことが観察された。ブルーメンスタイン、J等(Blumenstein,J.et al.)は、これは84,000ダルトン(「Da」)以上の分子量で達成できると決定した(“Blood Substitutes and Plasma Expanders,”Alan R.Liss,editors,New York,N.Y.,pages 205−212(1978))。その研究において、著者等は、可変分子量のデキストランをHbに接合した。彼等は、Hb(64,000Daの分子量をもつ)及びデキストラン(20,000Daの分子量を有する)の接合体は、「循環系からゆっくりと除去され、また腎臓からは殆ど除去されなかった」と報告した。更に、分子量を84,000Da超に増大させても、これらのクリアランス曲線は有意に変化されないことが観察された。分子内架橋は、四量体ヘモグロビン単位のサブユニットを化学的に結合させて、腎臓により早期に排泄される二量体の形成を防止する。(例えば、U.S.Pat.No.5,296,465参照)
【0011】
ポリアルキレンオキシドをヘモグロビンに結合するためには、先ず、ポリマーの末端基を「活性化」(即ち、反応性官能基に変換する)して、「活性化されたポリアルキレンオキシド」を形成しなければならない。過去においては、PEG−OHを用いてPEG−ハロゲン化物、メチルスルホン酸エステル、パラトルエンスルホン酸エステルが調製され、次いで水性アンモニア(ホフマン反応)、アジ化ナトリウムまたはカリウムフタルイミド(ガブリエル試薬)を用いた求核置換反応を行うことによりPEGアミンに変換された。PEG−ハロゲン化物とアンモニアとの反応は、直接的にはPEG−アミン(「PEG−NH」)を形成し(Zalipsky et al.Eur.Polym.J.1983,19:1177−1183参照)、次いで、これは幾つかの生物学的に活性な化合物上に存在する−COOH基への接合のために用いることができるであろう。
【0012】
より最近では、PEG−NHは中間体として用いられており、−COOH以外の基を結合するために官能化することができる。例えば、PEG−NHはマレイミドのようなスルフヒドリル−活性化基を含むように修飾することができる。U.S.pat.6,828,401に開示された反応においては、mPEGマレイミド(即ち、マレイミドが付加されたメトキシ−PEGまたはmPEG)が、ジクロロメタン(有機溶媒)中において、mPEG−OHを塩化p−トルエンスルホニル(トシル化剤)及びトリエチレンアミン(「TEA」、塩基触媒)と反応されて、mPEG−トシレートを生成させることにより調製される。次いで、この化合物は28%水性アンモニアと反応され、次いで、N,N−ジメチルアセタミド(「DMAC」)及びN−シクロヘキシルピロリドン(「CHP」)の有機溶媒混合物中で無水マレイン酸と反応されて、マレアミン酸化合物(maleamic acid compound)が製造される。この化合物は、次いでジクロロメタン及びジメチルホルムアミド(「DMF」)の有機溶媒混合物中において、ジエチルアニリン(「DEA」)またはジイソプロピルエチルアミン(「DIEA」)のような塩基触媒の存在下に、トリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニルと反応されて、mPEG−マレイミドが製造される。しかしながら、この活性化されたPEGを得るための多重工程且つ多重試薬の方法は、厄介で且つ時間を要する。
【0013】
ここでは、スクシンイミジル−吉草酸で活性化されたPEG(SVA−PEG)を用いてPEG−ヘモグロビン接合体を調製する方法が開示され、該SVA−PEGは、特定の条件下でヘモグロビンのアミン基に結合して、安定で均一なPEG−ヘモグロビン接合体を形成する。
【発明の概要】
【0014】
本発明の一つの態様は、37℃及びpH7.4で測定したときに約2〜約30mmHgに亘るP50を有するPAOヘモグロビン接合体に向けられている。該PAOは、ヘモグロビン分子上のアミノ酸側鎖のアミノ反応性部分を介して共有結合される。該アミノ反応性部分は、−C(O)−(CH−によってPAOに連結され、ここでのpは1〜約20の整数である。該ヘモグロビンは、任意に分子内架橋される。
【0015】
本発明のもう一つの態様は、下記の構造を有するPAOヘモグロビン接合体に向けられている:
【化1】
ここで、Hbはヘモグロビンであり、Lはリンカーの−C(O)−(CH−であり、Nはヘモグロビンのアミノ基であり、Xは末端基であり、mはヘモグロビンに接合された活性化型PEGポリマーの平均数であり、nは約2,000〜20,000ダルトンの平均分子量を有するPEGにおけるオキシエチレン単位の平均数であり、pは1〜20の整数である。
【0016】
本発明の更にもう一つの態様は、ヘモグロビンを少なくとも一つのPAOポリマーと反応させることを含んでなる方法により調製された、PAOヘモグロビン接合体に向けられている。該PAOポリマーは次の構造を有する:
【化2】
ここで、Rはアミノ反応性部分であり、Lはリンカーの−C(O)−(CH−であり、Xは末端基であり、nは約2,000〜20,000ダルトンの平均分子量を有するPEGにおけるオキシエチレン単位の平均数であり、pは1〜20の整数である。
【0017】
本発明の更にもう一つの態様は、上記ヘモグロビン接合体の何れかと、医薬的に許容可能な担体を含有してなる医薬組成物に向けられている。該組成物は、急性肝不全、β地中海貧血症、火傷、慢性重症四肢虚血(chronic critical limb ischemia)、二酸化炭素またはシアン化物中毒、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、鬱血性心不全、低酸素症、マラリア、臓器虚血、抹消血管疾患、ポルフィリン症、妊娠における子癇前症、敗血症、鎌形赤血球病、網膜症、眼内症状、精巣捻転症、外傷、ショック、外傷性脳障害、潰瘍、血管痙攣、またはこれらの組合せの治療用であることができる。この組成物はまた、血管形成術に対する補助療法として、形成外科のための補助療法として、または補助人工心臓を移植する際の補助療法として;血液代用剤、心保護剤、冷凍保存剤、血液透析補助剤、腫瘍治療剤、臓器保存剤、性能強化剤、手術補助剤、または創傷治癒剤として;撮像において;肺機能を改善するため;またはそれらの組合せにおいて使用するためのものであることができる。該組成物はまた、血液喪失の獣医学的治療であって、該血液喪失が傷害、溶血性貧血、感染性貧血、細菌感染、第IV因子断片化、脾機能亢進及び脾腫大、家禽における出血性症候群、再生不良性貧血、形成不全性貧血、突発性免疫性溶血症状、鉄欠乏症、同種免疫溶血性貧血、微小血管性溶血性貧血、寄生、もしくは外科麻酔に誘導された脳損傷、またはそれらの組合せについての治療のためであることもできる。
【0018】
本発明の更にもう一つの態様は、斯かるヘモグロビン接合体または医薬組成物を、それを必要とする被験者に投与することを含んでなる治療方法に向けられている。該方法は、上記で述べた何れか1以上の状態の治療のためのものである。
【0019】
本発明のもう一つの態様は、酸素、一酸化窒素、一酸化炭素またはそれらの混合物を組織に送達し、微小血管系において亜硝酸塩を一酸化窒素(NO)に還元する方法に向けられている。該方法は、上記で述べたヘモグロビン接合体または医薬組成物の何れかを、それを必要としている被験者に投与することを含んでなるものである。投与に続いて、ヘモグロビン中における非リガンド結合のヘムが、微小血管系において亜硝酸塩を一酸化窒素に変換する。
【0020】
本発明の更にもう一つの態様は、ヘモグロビン接合体を調製する方法であって、ヘモグロビンを下記の構造を有するPAOポリマーと反応させることを含んでなる方法に向けられている:
【化3】
ここで、Rはアミノ反応性部分であり、Lはリンカーの−C(O)−(CH−であり、Xは末端基であり、nは約2,000〜20,000ダルトンの平均分子量を有するPEGにおけるオキシエチレン単位の平均数であり、pは1〜20の整数である。
【0021】
他の目的及び特徴は、部分的には以下で明らかになるであろうし、また一部は以下で指摘されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、吉草酸メトキシPEGスクシンイミジル(mPEG−SVA)を出発材料として用いて、アミンPEG化ヘモグロビンを調製する例示的方法のフローチャートを描いており、ここでのR、R及びRはヘモグロビン主鎖の一部分である。
図2図2は、(1)炭酸p−ニトロフェニル−PEG(NPC−PEG)、(2)炭酸スクシンイミジル−PEG(SC−PEG)、(3)マレイミド−PEG(Mal−PEG)、及び(4)吉草酸スクシンイミジル−PEG(SVA−PEG)についての化学構造及び結合長を描いており、ここでの矢印は、活性基からPEG骨格への距離を示している。
図3図3は、Mal−PEG(上段)、SVA−PEG(中段)及びSC−PEG(下段)について、ヘモグロビンとの連結系とPEG骨格との間の距離を描いている。
図4図4は、MP4(赤)及びストローマフリーヘモグロビン(SFH)(緑)と比較したときの、非解離条件下でのSVA−PEG−Hb(青)のサイズ排除クロマトグラフィー(LC)を描いている。
図5図5は、40℃で1月までの加速保存条件下でのMP4CO(上段)と比較したときの、高塩濃度の解離条件下(0.9M MgCl)でのSVA−PEG−Hb(SP4CO、下段)のサイズ排除クロマトグラム(LC)である。
図6図6は、32℃で9日間の加速保存条件下でのNPC−PEG−Hb(NP4CO、上段)と比較したときの、高塩濃度の解離条件下におけるSVA−PEG−Hb(SP4CO、下段)のLCである。
【0023】
図面の全体を通して、対応する参照文字は対応する部分を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のポリアルキレンオキシドヘモグロビン接合体、及びその医薬組成物は、解離条件下でLCにより観察される高分子量成分の形成に対する、またはヘモグロビンからのPAOの分離に対する長期及び短期の保存安定性に関して、既知の酸素付加型または非酸素付加型のヘモグロビン治療剤に比較して向上した安定性を示す。それらはまた、既知の酸素付加型または非酸素付加型のヘモグロビン治療剤よりも均一性が高い。これらの接合体はまた、既知のヘモグロビン治療剤を製造するために必要な反応時間と比較して短い反応時間で、温和な条件下において簡単な一段階反応で製造することができる。
【0025】
如何なる特定の理論にも拘束されるものではないが、ヘモグロビンとPAOの間の吉草酸リンカーは向上した安定性を生じると思われる。吉草酸リンカーの結果として、PAOとヘモグロビン分子への連結系との間の距離は、炭酸p−ニトロフェニル−PEG(NPC−PEG)、炭酸スクシンイミジル−PEG(SC−PEG)、及びマレイミド−PEG(MalPEG)のような他の通常のリンカーのそれよりも大きい。このヘモグロビン連結系からPAOまでの約8.8Åのより大きな距離が、PAO−ヘモグロビン結合を安定化させるように思える。
【0026】
本発明は、37℃且つpH7.4で測定したときに、約2〜約30mmHgに亘るP50をもったPAOヘモグロビン接合体に向けられている。該PAOは、アミン反応性部分を介して、ヘモグロビン分子上のアミノ酸側鎖に共有結合される。該アミノ反応性部分は、−C(O)−(CH−によってPAOに連結され、ここでのpは1〜約20、好ましくは1〜約12、より好ましくは1〜約8、2〜約6の整数であり、最も好ましくは、pは4である。
【0027】
ヘモグロビンは、任意に分子内架橋される。より詳細に言えば、該ヘモグロビンは、当該技術において既知の慣用方法により、β,β−分子内架橋またはα,α−分子内架橋されることができる。
【0028】
ヘモグロビンがβ,β−分子内架橋されるとき、PAOヘモグロビン接合体のP50は、好ましくは約2〜15mmHg、より好ましくは約2〜10mmHg、最も好ましくは約7mmHgである。
【0029】
ヘモグロビンがα,α−分子内架橋されるとき、PAOヘモグロビン接合体のP50は、好ましくは約20〜30mmHgである。
【0030】
より詳細には、当該PAOヘモグロビン接合体は下記の構造を有する:
【化4】
ここで、Hbはヘモグロビンであり、Nはヘモグロビンのアミノ基であり、Lはリンカーの−C(O)−(CH−であり、Xは末端基であり、mはヘモグロビンに接合された活性化型PEGポリマーの平均数であり、nは約2,000〜20,000ダルトンの平均分子量を有するPEGにおけるオキシエチレン単位の平均数であり、pは1〜20の整数である。好ましくは、前記平均分子量は約3,000〜約10,000ダルトン、より好ましくは約4,000〜約6,000ダルトン、最も好ましくは約5,000ダルトンである。好ましくは、m、即ち、ヘモグロビンに接合された活性化型PEGポリマーの数は、ヘモグロビン四量体当たり平均で約6〜約10の範囲であり、好ましくは約7または8である。前記リンカー−C(O)−(CH−におけるエチレン単位の数pは、好ましくは1〜約12の整数、より好ましくは1〜約8、2〜約6、最も好ましくは、pは4である。好ましいPAOヘモグロビン接合体は下記の構造を有し:
【化5】
ここで、Hb、N、X、m、及びnは上記で定義した通りである。
【0031】
本発明のPAOヘモグロビン接合体は、ヘモグロビンを少なくとも一つのPAOポリマーと反応させることを含んでなる方法によって調製することができる。該PAOポリマーは下記の構造を有する:
【化6】
ここで、Rはアミノ反応性部分であり、Lはリンカーの−C(O)−(CH−であり、Xは末端基であり、nは約2,000〜20,000ダルトンの平均分子量を有するPEGにおけるオキシエチレン単位の平均数であり、pは1〜20の整数である。好ましくは前記返金分子量は約3,000〜約10,000ダルトンであり、より好ましくは約4,000〜約6,000ダルトンであり、最も好ましくは約5,000ダルトンである。リンカーの−C(O)−(CH−におけるエチレン単位の数pは、好ましくは1〜約12の整数であり、より好ましくは1〜約8、2〜約6、最も好ましくは、pは4である。好ましいPAOポリマーは下記の構造を有する:
【化7】
ここで、R、X、及びnは上記で定義した通りである。
【0032】
Xは、PAOの末端基であり、ヒドロキシ、ベンジロキシのようなアリーロキシ、またはC〜C20アルコキシ、より好ましくはC〜C10アルコキシ基、更により好ましくはメトキシまたはエトキシのようなC〜Cアルコキシ基である。好ましくは、Xはメトキシである。
【0033】
Rは、スクシンイミジルまたはp−ニトロフェニルのような、ヘモグロビンのアミノ残基と反応する何れかのアミノ反応性部分であることができる。好ましくは、Rはスクシンイミジルである。
【0034】
種々のHbが、本発明と共に利用されてよい。このHbは、ヒト、ウシ、ブタ、またはウマのヘモグロビンのように、動物供給源から入手してよい。ヒトHbが好ましい。Hbは天然起源から得ることができ、または組換え体(例えば、既知の組換え技術により製造されたもの)であることができる。
【0035】
本発明のヘモグロビンは、約2〜約20mmHg、好ましくは約2〜約10mmHgに亘り、更に好ましくは7mmHgの高い酸素親和性を有することができる。
【0036】
ヘモグロビンは、二量体への解離を防止して腎臓によるクリアランスを回避し、循環半減期を延長するために、分子内架橋されることができる。Hbを分子内架橋するために、種々の方法が当該技術において知られている。化学的架橋剤には、グルタルアルデヒド(U.S.Pat.No.7,005,414)、ポリアルデヒド(U.S.Pat.No.4,857,636)、ジアスピリン(U.S.Pat.No.4,529,719)、ピリドキシル−5´−ホスフェート(U.S.Pat.No.4,529,719)、トリメソイルトリス(メチルホスフェート)(U.S.Pat.No.5,250,665)、ジアルキン(アジドリンカーを有するヘモグロビンとの反応について:例えば、Foot et al.,Chem.Commun.2009,7315−7317;Yang et al.,Chem.Commun.2010,46:7557−7559参照)が含まれ、またヘモグロビンは組換えにより架橋することができる。
【0037】
B,β−DBBFで架橋されたHbは、以前に文献(Walder,Biochem,1979:Vol 18(20):4265−70)に記載されたように、赤血球濃厚液パックから調製されたストロマフリーのヘモグロビンと、フマル酸ビス(3,5−ジブロモサリチル)(DBBF)との反応によって調製できる。例えば、ホウ酸緩衝液(pH〜8.5)中の酸素付加されたSFHを、約2〜8℃において約16時間、2倍モル過剰のDBBFと反応させることができる。
【0038】
本発明のヘモグロビンを接合することにおいて使用するためのポリエチレンオキシドには、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及びポリエチレン/ポリプロピレンオキシド共重合体が含まれるが、これらに限定されない。PAOは、約2,000〜約20,000、好ましくは約3,000〜約10,000、より好ましくは4,000から約6,000、最も好ましくは約5,000の分子量を有している。Hbの表面を修飾するために現在用いられる最も普通のPAOは、PEGであり、これはその医薬的許容度及び商業的入手可能性のためである。PEGは、Hbに接合されるPEGの数及びサイズに基づいて望ましい分子量を達成するために、分子内のエチレンオキシドの反復サブユニット(即ち、−CHCHO−)の数に基づいて種々の分子量で入手可能である。
【0039】
PAOポリマーの一方または両方の末端基は、反応性官能基に変換される(「活性化される」)。例えば、PEG−OHはPEG−ハロゲン化物、メシレート、またはトシレートを調製するために使用されてきており、次いで、これは水性アンモニア(Zalipsky,S.et al.,1983,Eur.Polym.J.19:1177−1183)、アジ化ナトリウム、またはカリウムフタル酸イミドとの求核置換反応を行うことにより、PEG−アミン(「PEG−NH」)に変換される。次いで、この活性化されたPEGは、PEGアミン基(−「NH」)とヘムタンパク質のカルボキシ基(「−COOH」)との反応を介して、ヘムタンパク質に接合させることができる。
【0040】
官能基を含んだ多くの分子が商業的に入手可能であり、他の分子の付加によるタンパク質の修飾を可能にしている。ポリエチレングリコールのようなこれらの分子は、通常はそれらの末端において、そこに一以上の官能基を付加することによって活性化される。ここで用いるように、PAOは、それをスクシンイミジル基または「スクシンイミド」を含むように修飾することによって活性化される。スクシンイミドは、式CNOを有する環状イミドであり、これはタンパク質配列内のリジン及び末端バリン中の遊離アミンに対して反応性である。これに比較して、マレイミドは式H(CO)NHの環状不飽和イミドであり、これはシステイン残基中の遊離スルフヒドリルに対して反応性であり、また程度は小さいが、リジン及びヒスチッジン残基中の遊離アミンとも反応することができる。マレイミドはスルフヒドリル基と直接反応して共有結合を形成するのに対して、スクシンイミドは、吉草酸の活性なエステルから安定な脱離基を形成する。
【0041】
活性化されたPAOは、アミン反応部分をPAOに連結するスペーサを含んでいる。このスペーサは、好ましくは二価の吉草酸イオンである。このような活性化されたPAOは商業的に入手可能であり、例えば、吉草酸メトキシポリ(エチレングリコール)スクシンイミジル(mPEG−SVA)が含まれる((Laysan Bio,Inc.,Arab,AL)。このような官能性PEGは、既知の方法を使用して、ヘモグロビンのリジン残基または末端バリン残基のような表面アミノ酸ン側鎖に接合されることができる。
【0042】
PAOへの接合のために、アミン反応性化学を使用して修飾され得るヒトHbのアミノ酸残基側鎖の非限定的な例は、下記の表1に提示されている。
表1-アミン反応性化学及び修飾可能部位
【表1】
【0043】
PAO−Hbの分子量は、接合反応によって調節できる。接合プロセスのための反応体の分子量を増大させると、一般に、Hbに結合されるPEG分子の数は増大する。好ましくは、Hbに対して約8倍〜約20倍モル過剰の活性化されたPAOが、この接合反応に用いられる。より好ましくは、Hbに対して10倍モル過剰の、mPEG−SVAのような活性化されたPAOが用いられる。
【0044】
ヘモグロビンは、Hb−PAO接合体の酸素親和性を増大させるために、ヘモグロビンがその酸素付加された状態にあるときに活性化されたポリアルキレンオキシドと接合される。
【0045】
ヘモグロビンはまた、酸素付加された状態で接合されたものに比較して酸素親和性を低くするように、それが脱酸素化状態にあるときに、活性化されたポリアルキレンオキシドと接合されることができる。
【0046】
SVA−PEG化されたヘモグロビンは、1段階のmPEG−SVA接合反応を使用して、比較的短い反応時間で調製することができる。一実施形態において、出発材料のmPEG−SVA及びヘモグロビンは、約5〜約15℃の温度において、約7〜約8.5のpHで約1〜約2時間反応される。PAOポリマーは、ヘモグロビン濃度に対して約8倍〜約20倍モル過剰、好ましくは10倍モル過剰の濃度で存在する。
【0047】
mPEG−Malを用いたヘモグロビンのPEG化に比較したとき、次の利点が達成される:1)mPEG−Malを用いたヘモグロビンの反応部位の数を増やすのに、別途のチオール化反応の必要性がない:2)得られた接合体はより均一であり、これはアミド結合がより安定であり、及び/または残りのイミノチオラン由来の不純物がないことから生じると思われる;3)この反応はより効率的であり、従って反応時間を低減する;4)ヘモグロビン中の本来のβ93システイン部分が保存され、これはヘムの安定性を高める;5)吉草酸リンケージはより安定であり、これはスクシンイミド基とPEGポリマーの間の距離が3.5オングストロームから8.8オングストロームに増大することから生じると思われる。
【0048】
本発明のヘモグロビン接合体は、酸素付加形態または脱酸素化形態であることができ、COまたはNOにリガンド結合することができ、またはこれら四つの形態の2以上を含む混合物であることができる。HbOは、非酸素付加型ヘモグロビンを、空気、純粋なOガス、またはO/窒素ガス混合物と平衡化させることによって調製される。
【0049】
脱酸素化は、当該技術で知られた何れかの方法により行うことができる。一つの単純な方法は、ヘモグロビン溶液を窒素、アルゴンまたはヘリウムのような不活性ガスに露出させることである。脱酸素化が比較的均一であることを保証するために、このプロセスにおいてHb溶液が循環される。脱酸素化が望ましいレベルを達成することのモニタリングは、Co−オキシメータ682(インスツルメント・ラボラトリーズ社)を使用することによって行われてよい。もし、部分的な再酸素付加が望ましいならば、脱酸素化されたHbを酸素、または空気のような酸素を含むガス混合物に露出させればよい。
【0050】
分子状酸素を別のガスで置き換えるガス交換は、ポリプロピレンまたは酢酸セルロース膜のようなガス透過性膜を介して達成されてよい。例えば、公開されたU.S.特許出願No.2006/0234915を参照されたい。これらの膜を利用した商業的に入手可能なガス交換装置には、ヘキスト−セラネーゼ社(ダラス、TX)から提供されるセルガード(商標:Celgard)ポリプロピレン微細孔中空ファイバー装置、またはアメリカン・ラボラトリーズ社(イーストライム、CT)から提供されるセルファーム(商標;Cell−Pharm)中空ファイバー酸素付加器が含まれる。ヘキスト−セラネーゼ社のセルガード(商標:Celgard)装置においては、システムを5〜20psiの窒素でパージしながら、酸素付加されたHbが10〜100mL/分/ftでポリプロピレン微細孔中空フィルターを通される。該Hbは、デオキシHbの望ましいパーセンテージを達成するために、一般には約5〜30分間循環される。脱酸素化されたHbを製造するためのもう一つの方法は、Hb溶液を、アスコルビン酸ナトリウム、ナトリウムジチオレート、及び亜硫酸水素ナトリウムのような化学的還元剤に露出させることを含んでいる。Hbは、還元剤の濃度、反応時間及び温度を調節することによって、部分的に脱酸素化される。或いは、Hbを実質的に脱酸素化するように、還元剤を使用してよい。例えば、Hbは、抗酸化剤を添加する前に約1時間、100mM濃度の亜硫酸水素ナトリウムに露出させることができる。
【0051】
Hbは、オキシヘモグロビンを形成するための何れか既知の方法を使用して、単純にはOをCOで置換することにより、COにリガンド結合させることができる。これは一般に、ヘモグロビンがOの代わりにCOにリガンド結合するに至るように、CO源をヘモグロビンの溶液に導入することを含んでいる(K.D.Vandegriff,et al.,Biochem.J.382:183−189(2004))。ヘモグロビンは、酸素に対してよりもCOに対してより高い親和性を有しているので、最初にヘモグロビンを脱酸素化する必要はない。従って、CO−Hb複合体を形成する最も便利な方法は、ヘモグロビンの溶液に100%のガス状COを導入することによるものである。
【0052】
HbNOは、脱酸素化されたヘモグロビンを一酸化窒素ガスと反応させることによって、またはCO−HbをNOガスに露出させてCOをNOと交換させることによって調製することができる。HbNOはまた、脱酸素化されたヘモグロビン、PROLI・NONOate(商標;即ち、1−(ヒドロキシ−NNO−アゾキシ)−L−プロリン・二ナトリウム塩;ケイマン・ケミカル社、アナーバー、ミシガン)のような小さなNO−ドナー分子と反応させることによって製造することもできる。
【0053】
遊離基ではなくNOがグロビン鎖のアミノ酸側鎖基に結合するヘモグロビンは、ここに定義したNO−Hb複合体ではないことに留意すべきである。何故なら、このような化合物は、酸素の代わりに、リガンドとしての二原子分子(非イオン性)NOをヘムポケットの中に含んでいないからである。例えば、ニトロシルヘモグロビンは、本来のヘモグロビンが、遊離スルフヒドリル基を結合する条件下でNOドナーに露出されるときに形成される(U.S.Pat.No.6,627,738)。このようなニトロシルヘモグロビンは、それでもなお酸素を担持するが、本発明NO−Hb複合体は担持しない。更に、上記で述べたように、修飾されたヘモグロビンがスルフヒドリル部分に向けられた反応により形成されるとき、これらの部分はもはやNO結合のために利用可能ではない。
【0054】
本発明のPAO−Hb接合体は、水性希釈剤のような非経口投与のための医薬的に許容可能な担体中に、PAO−Hbを含有する医薬組成物として処方することができる。担体中のPAO―Hb接合体の濃度は、適用に応じて変化することができる。好ましくは,PAO−Hb接合体の濃度は、約0.1g/dL〜約10g/dL、より好ましくは約2.0g/dL〜約8.0g/dLに亘り、最も好ましくは約4.0〜約6.0g/dLに亘る。ヘモグロビンの適切な濃度の選択は、最終ヘモグロビン製品のコロイド浸透圧(膠質)特性に依存する。好ましくは、本発明の組成物は、全血に比較して等張圧、または血漿に比較して高張性である。該ヘモグロビン濃度は、各適応症について望ましい膠質浸透圧を得るために調節することができる。
【0055】
当該組成物が非経口用として処方されるとき、該溶液は一般に、全血と等張性で、且つ酸素、COまたはNOを可逆性の担持及び送達するヘモグロビンの性質を維持する生理学的適合性の電解質担体を含んでいる。
【0056】
前記医薬的に許容可能な担体は、水性希釈剤であることができる。該水性希釈剤は、アルブミンのようなタンパク質の水溶液、糖タンパク質の水溶液、多糖類の水溶液、またはそれらの組合せのような、コロイドの水溶液または非酸素担持成分の水溶液を含むことができる。該水性希釈剤は細胞フリーの水溶液を含んでなることができる。
【0057】
適切な水性希釈剤には、生理的塩水、塩水−グルコース混合物、リンゲル氏溶液、乳酸加リンゲル氏溶液、ロッケ−リンゲル氏溶液、クレブス−リンゲル氏溶液、ハルトマン氏バランス塩水、へパリン加クエン酸ナトリウム−クエン酸−ブドウ糖溶液、酢酸溶液、多電解質溶液(例えば、ディアフィールド、ILのパクスターインターナショナル社から提供される、プラズマライト[商標]またはプラズマライト−A[商標])、ラクトビオン酸溶液、ポリマー血漿代用剤、例えばポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール−エチレンオキシド−ポリエチレングリコール縮合物、またはそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0058】
当該組成物は、更に、医薬的に許容可能な充填剤、塩類、及び号体技術において周知の他の材料を含むことができ、その選択は、投与形態、治療される状態、当業者の決定に従って達成されるべき特別な目的、及び斯かる添加剤の特性に依存する。例えば、当該組成物は、生理学的緩衝剤、炭水化物(例えばグルコース、マンニトール、またはソルビトール)、アルコールまたはポリアルコール、医薬的に許容可能な塩(例えば、塩化ナトリウムもしくはカリウム)、表面活性剤(例えばポリソルベート80)、抗酸化剤、抗菌剤、膠質浸透圧剤(例えばアルブミン、またはポリエチレングリコール)、または還元剤(例えばアスコルビン酸、グルタチオン、またはN−アセチルシステイン)を含むことができる。
【0059】
当該医薬組成物は、少なくとも約2センチポアズ(cP)の粘度を有する。より詳細には、該粘度は約2〜約5cP、特に約2.5〜約4.5cPの範囲である。
【0060】
投与における合併症を回避するために、当該医薬組成物は高純度(即ち、ストロマ、リン脂質及びパイロジェンを含まない)であり、LAL(カブトガニ変形細胞溶解物;limulus amebocyte lysate)試験で測定したときに0.25EU/mL以下のエンドトキシンレベルを有し、また8%未満のメトヘモグロビンを有する。
【0061】
医薬組成物は、皮下、静脈内、もしくは筋肉内注射のように非経口的に、または大容量非経口的溶液として投与することができる。該組成物はまた、胃管栄養法により投与することもできる。
【0062】
治療剤としてのヘモグロビン接合体の典型的な投与量は、患者の体重1キログラム当たり、約1〜約15,000ミリグラムのヘモグロビンであることができる。例えば、酸素治療剤として使用するとき、投与量は100〜7500mg/kg患者体重、より好ましくは500〜5000mg/kg患者体重、最も好ましくは700〜3000mg/kg患者体重の範囲であろう。こうして、ヒト患者についての典型的な投与量は、1グラム〜1000グラム超であろう。個々の単位を数多く投与することによって、必要な有効量に到達できるであろから、各投与形態の個々の投与量に含まれる活性成分の単位含量は、それ自身が有効量を構成する必要はないことが理解されるであろう。投与量の選択は、利用される投与形態、治療される状態、及び当業者の決定に従って達成されるべき特定の目的に依存する。
【0063】
当該PAO−Hb接合体及び医薬的組成物は、酸素、CO及び/またはNOを被験者に送達するために使用することができる。酸素、一酸化窒素、一酸化炭素またはその混合物を組織に送達し、また亜硝酸塩を還元して微細血管構造内で更なる内因性一酸化窒素(NO)を産生する方法は、前記ヘモグロビン接合体または組成物を、それを必要としている被験者に投与することを含んでおり、ここでの投与に続き、ヘモグロビンは前記微細血管構造中で脱リガンド化されて、亜硝酸を一酸化窒素に変換する。
【0064】
本発明のヘモグロビン接合体及びその組成物は、急性肝不全、β地中海貧血症、火傷、慢性重症四肢虚血(chronic critical limb ischemia)、二酸化炭素またはシアン化物中毒、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(例えば急性悪化)、鬱血性心不全(例えば急性心不全、慢性心不全)、低酸素症(例えば肺水腫、抑圧解除病のためを含む高度の使用)、マラリア(例えば脳マラリア[熱帯熱閉塞事象])、臓器虚血(急性腸虚血)(念転症)、急性腸虚血(塞栓症)心原性ショック、急性血管性臓器虚血、発作(CAT走査前)、発作(CAT走査後)、心筋梗塞/重篤な心虚血、抹消血管疾患、ポルフィリン症、妊娠における子癇前症、敗血症、鎌形赤血球病(例えば一過性虚血発作、脾壊死巣分離、肝壊死巣分離、持続勃起症)、網膜症/眼内症状(中心網膜動脈閉塞、中心静脈閉塞)、精巣捻転症、外傷/ショック(例えば外傷性出血性ショック、非外傷性ショック、病院到着前/現場での使用[軍隊/救急]、外傷性脳障害/爆発)、潰瘍、血管痙攣を治療するため;血管形成術に対する補助療法として、形成外科(皮弁)(例えば急性治療または慢性治療)のための補助療法として、または補助人工心臓を移植する際の補助療法として;血液代用剤(急性血液喪失、エホバの証人、血液適合が困難な患者、希少な血液群、再生不良性貧血、鎌形赤血球貧血、周術期管理、急性溶血性貧血(毒素)、または他の難治性貧血)、心保護剤、冷凍保存剤、血液透析補助剤、腫瘍治療剤(例えば放射線治療または化学療法に対する補助療法、固形腫瘍)、臓器保存剤(例えばex vivo、ドナーにおいて、レシピエントにおいて)、性能強化剤(例えば市民/競技者、軍人)、手術補助剤(例えば心肺バイパス[プライミング]、心肺バイパス[調節]、肺虚血、術前身体調節、大動脈破裂、胸部大動脈の置換[切開または動脈瘤])または創傷治癒剤として;撮像(X線または磁気共鳴撮像(MRI))において;肺機能を改善するため(例えば急性肺障害、慢性肺障害、一過性のウイルス性肺炎、新生児呼吸障害症候群);またはそれらの組合せにおいて使用することができる。このような使用は、当該接合体または組成物を、それを必要としている被験者に投与することを含んでいる。
【0065】
更に、本発明のヘモグロビン及び組成物は、非外傷性出血性ショック、病院到着前の外傷、外傷性出血性ショック、急性肺損傷、成人呼吸困難症候群、外傷性脳損傷、発作、固形腫瘍癌、臓器退廃(ex−vivo)、臓器退廃(レシピエントにおいて)、重篤な敗血症/敗血症ショック、心筋梗塞/心虚血、心原性ショック、急性心不全、肺塞栓症、手術による種々の状態(例えば、血管形成術に対する補助療法、胸部大動脈修復に対する補助療法、心肺バイパスに対する補助療法、心肺バイパスのためのプライミング溶液)またはこれらの組合せを治療するために用いることができる。
【0066】
本発明のヘモグロビン及び組成物が有用である多くの臨床的環境には、次のものが含まれる。
【0067】
外傷: 全血の急性喪失は、皮膚及び腸を含む優先度の低い臓器から血液を向けさせながら喪失した血液用量を置換するために、間質空間及び細胞内空間からの体液移動を生じる可能性がある。臓器から血液を駆逐することは、これらの臓器におけるOレベルを低下させ、ときには排除し、進行的な組織死をもたらす。主要なゴールは、冒された組織に酸素付加することである。この外傷は、病院到達前である可能性があり、または外傷性出血性ショックまたは外傷性脳損傷を生じる可能性がある。
【0068】
虚血:当該接合体及びその組成物はまた、赤血球または他の多くの酸素治療剤が浸透できない領域へと、酸素、CO、及び/またはNOを送達するために使用することができる。これらの領域には、赤血球細胞流に対する障害物の下流に位置する組織領域、例えば血栓、鎌形赤血球閉塞部、動脈閉塞部、欠陥形成バルーン、外科的器具の下流領域、及び酸素欠乏または低酸素状態に罹患している何れかの組織を含むことができる。例えば発作、出現発作、一過性虚血性発作、心筋スタンニング及び冬眠心筋、急性または不安定の狭心症、出現狭心症、及び梗塞等を含む全てのタイプの組織虚血を治療することができる。特に、虚血をもたらす状態には、急性心不全、心原生ショック、心筋梗塞/心虚血、発作、肺塞栓、非外傷性出血性ショック、または脳血管外傷が含まれる。
【0069】
血液希釈:この出願において、当該治療剤は、除去された自家血液のOレベルを元に戻す(または代用する)ために投与される。これは、手術の最中及び手術後の必要な輸血のために、取り出された自家血液の使用を可能にする。術前血液除去を必要とするこのような手術の一つは、心肺バイパス処置であろう。
【0070】
敗血症/敗血症ショック:敗血症において、幾人かの患者は、大量輸液療法及び血管収縮剤での治療にも拘わらず、高血圧になる可能性がある。この場合、一酸化窒素(NO)の過剰産生が血圧低下をもたらす。従って、ヘモグロビンは高いアビディティーでNOに結合するので、これら患者の治療のための望ましい薬剤である。
【0071】
低酸素症:患者が、肺炎または膵臓炎によって生じた急性肺障害を有するときは低酸素症が観察され、本発明のヘモグロビンまたは組成物を与え手冒された組織を酸素付加することによって緩和することができる。
【0072】
癌:固形腫瘍塊の低酸素内部コアにOを送達することにより、放射線療法及び化学療法に対するその感受性が増大される。腫瘍の微細血管系は他の組織のそれとは異なるので、Oレベルを増大することによる鋭敏化は、低酸素コア内でOが抜き取られることを必要とする。換言すれば、その後の放射線療法及び化学療法に対する腫瘍の最適な鋭敏化を保証するためには、早期のOの抜き取り、Oレベルの増大を防止するためにP50は非常に低くあるべきであろう。
【0073】
手術:本発明のヘモグロビン及び組成物は、種々の外科処置の際に使用することができる。例えば、それは血管形成術、胸部大動脈修復に対する補助療法として、心肺バイパス処置の際に、または心肺プライミング溶液として使用することができる。
【0074】
臓器灌流:臓器がex vivoで、または臓器提供レシピエントにおいて維持されるときには、維持O含量が構造的及び細胞的一体性の保存を補助し、梗塞形成を最小化する。当該ヘモグロビン及び組成物は、このような臓器のための酸素要求性を持続することができる。
【0075】
当該ヘモグロビン及びその組成物はまた、家畜(例えば家畜及び伴侶動物、イヌ、ネコ、ウマ、トリ、爬虫類)のような非ヒトにも使用できる。本発明は、損傷、溶血性貧血等による失血に罹患している家畜及び野生動物の救急治療に有用性を見出だすことが想定される。獣医学的用途には、傷害、溶血性貧血、感染性貧血、細菌感染、第IV因子断片化、脾機能亢進及び脾腫大、家禽における出血性症候群、再生不良性貧血、形成不全性貧血、突発性免疫性溶血症状、鉄欠乏症、同種免疫溶血性貧血、微小血管性溶血性貧血、寄生、もしくは外科麻酔に誘導された脳損傷が含まれる。
【0076】
定義
この開示において「一つの」「不定冠詞(aまたはan)」の用語が用いられるとき、別途に指示しない限り、それらは「少なくとも一つ」または「1以上」を意味する。
【0077】
ここで用いる「活性化されたポリアルキレンオキシド」または「活性化されたPAO」とは、少なくとも一つの官能基を有するPAO分子を言う。官能基は、PAOと接合されるべき分子上の遊離アミン、スルフヒドリル基またはカルボキシル基と反応する反応性部分である。例えば、遊離スルフヒドリルと反応する一つのこのような官能基は、マレイミド基である。遊離アミンと反応する官能基は、スクシンイミド基である。
【0078】
「デオキシヘモグロビン」または「リガンド非結合のヘモグロビン」とは、外因性リガンドがヘムに結合されていない何れかのヘモグロビンを意味する。
【0079】
「ヘモグロビン」または「Hb」は、一般的に、酸素を輸送するヘムタンパク質を言う。ヒトにおいて、Hbの各分子は四つのサブユニット、即ち、二つのα鎖サブユニット、及び二つのβ鎖サブユニットを有しており、これらは四量体構造に配置されている。各サブユニットはまた、鉄含有中心である一つのヘム基を含んでおり、これは第二鉄(Fe2+)においてリガンドであるO、NOまたはCOを結合する。従って、各Hb分子は4以下のリガンド分子を結合することができ、それぞれHbO2-、HbNO、またはHbCOのリガンド結合された化合物を形成する。加えて、当該ヘモグロビンはO、NO及びCOの混合物でリガンド結合されてよい。
【0080】
「ヘモグロビンに基づく酸素担体」(HBOC)とは、酸素を輸送するが、一酸化炭素及び一酸化窒素のような他の分子状ガスを搬送するためにも有用であるヘモグロビンを言う。
【0081】
「高い酸素親和性」とは、ストロマフリーのヘモグロビン(SFH)よりも大きい酸素親和性を示すように修飾されているヘモグロビンを言う。従って、「高い酸素親和性」のHbは、37℃及びpH7.4で即手したときに15mmHgのP50を有するSFHよりも低いP50を有する。
【0082】
「リガンド結合されたヘモグロビン」とは、外因性のリガンドがヘムに結合されているヘモグロビンを意味する。通常の好ましいリガンドには、酸素、一酸化炭素、及び一酸化窒素が含まれる。
【0083】
「MalPEG」とは、マレイミジルポリエチレングリコールを指称するものであり、リンカーを介してポリエチレングリコールに結合されたマレイミジル部分を含んでいる。
【0084】
「MalPEG−Hb」とは、マレイミジルで活性化されたPEGが接合されているHbを言う。接合は、好ましくはMalPEGをHb上のチオール基(及びある程度はアミノ基に)と反応させることにより行われ、MalPEG−Hbが形成される。チオール基は、Hbのアミノ酸配列に存在するシステイン残基、例えβCys93における二つの本来的なチオール中に見られ、またチオール基を含むように表面アミノ基を修飾することにより導入することもできる。MP4(Sangart,Inc.社)として知られる例示的なMalPEG−Hbは、以下の式を有している:
【化8】
ここで、Hbはヘモグロビンであり;Sはヘモグロビン上のチオール基であり;nは5,000ダルトンのポリアルキレンオキシドポリマーにおけるオキシエチレン単位の数であり;mはヘモグロビンに接合されたマレイミジル活性化されたポリアルキレンオキシドポリマーの平均数であり、7〜8である。
【0085】
「メトヘモグロビン」または「metHb」とは、第二鉄状態の鉄を含んだHbの酸化型を言う。MetHbは、酸素またはCOの担体としては機能しない。ここで用いる「メトヘモグロビン%」の用語は、全Hbに対する酸化型Hbのパーセンテージを言う。
【0086】
「メトキシ−PEG」または「mPEG−OH」とは、ヒドロキシ末端の水素がメチル(−CH)基で置換されているPEGを言う。
【0087】
「修飾型ヘモグロビン」または「修飾型Hb」とは、分子内架橋及び分子間架橋、重合、接合のような化学反応、及び/または組換え技術により、Hbがもはやその「本来の」状態ではないように変更されているHbを言う。ここで用いるとき、「ヘモグロビン」または「Hb」の用語は、別途指示しない限り、本来の未修飾型Hb及び修飾型Hbの両方を言う。
【0088】
「亜硝酸レダクターゼ活性」または「NRA」とは、亜硝酸塩を一酸化窒素に還元するヘモグロビンまたはヘモグロビンに基づくタンパク質の能力である。「最大亜硝酸塩レダクターゼ活性」とは、ヘモグロビンまたはヘモグロビンに基づくタンパク質が亜硝酸塩を一酸化窒素に還元できる最大速度である。「初期亜硝酸塩レダクターゼ活性」とは、亜硝酸塩が完全にデオキシ化されたタンパク質に加えられたときに、ヘモグロビンまたはヘモグロビンに基づくタンパク質が亜硝酸塩を一酸化窒素に還元する初期速度である。
【0089】
「非オキシ型」の用語は、ヘムタンパク質またはヘモグロビンが非リガンド結合型、脱酸素化状態にあること、またはNOもしくはCOのようなO以外のガスとリガンド結合されることを意味する。
【0090】
「酸素親和性」とは、Hbのような酸素担体が分子状酸素を結合するアビディティーを言う。この特徴は酸素平衡曲線によって定義されるが、これはHb分子の酸素の飽和度(Y軸)をこれは酸素分圧(X軸)に関連付ける。この曲線の位置は「P50」値によって示されるが、これは酸素担体が酸素で半分飽和される酸素の分圧であり、酸素親和性と逆比例する。従って、P50が低いほど酸素親和性は高い。全血(及び全血の成分、例えば赤血球及びHb)の酸素親和性は、当該技術で知られた種々の方法によって測定できる(例えば、Winslow,R.M.etal.,J.Biol.Chem.1977,252:2331−37参照)。酸素親和性はまた、商業的に入手可能なHEMOX(商標)分析機(TCSサイエンティフィック・コーポレーション社、New Hope、PA)を使用して決定されてよい(例えば、Vandegriff and Shrager in「Methods in Enzymology」(Everse et al., eds.)232:460(1994));及びVandegriff,et al.,Anal.Biochem.256(1):107−116(1998)参照)。
【0091】
ここで用いる「酸素治療剤」の用語は、分子状酸素に結合して、それを必要としている細胞/組織/器官へと輸送することができるヘムタンパク質を言う。CO−またはNO−リガンド結合したヘムタンパク質の形態で投与されると、COまたはNOがヘム部分から放出されたときに、該ヘム基は分子状酸素に結合してこれを搬送するために自由になる。
【0092】
「ポリエチレングリコール」または「PEG」は、一般化学式H(OCHCHOHのポリマーを意味し、ここでの「n」は4以上、好ましくは約45〜約500、より好ましくは約70〜約250、最も好ましくは約90〜約140、または約115である。該ポリマーは置換もしくは非置換であることができ、末端ヒドロキシ基は、メトキシまたはカルボキシのような従来の異なる末端基で置き換えることができる。PEGは、多くの供給源から商業的に入手可能である(例えば、Carbowax(商標;Dow Chemical,Midland,MI)、Poly−G(登録商標;Arch Chemicals,Norwalk,CT)、及びSolbase)。
【0093】
「ポリエチレングリコールが接合したヘモグロビン」、「PEG−Hb接合体」または「PEG−Hb」とは、少なくとも一つのPEGが共有結合されたHbを言う。
【0094】
「溶液」とは、液体混合物を言い、「水溶液」の用語は、幾らかの水を含み且つ1以上の他の液体物質を含有し得るもので、多成分溶液を形成する溶液を言う。
【0095】
「ストロマフリーのヘモグロビン」または「SFH」とは、赤血球細胞膜が除去されているHbを言う。
【0096】
「表面修飾されたヘモグロビン」とは、化学基、通常はデキストランまたはポリアルキレンオキシドのようなポリマーが結合されているヘモグロビンを言う。「表面修飾された酸素付加したヘモグロビン」の用語は、表面修飾されるときに「R」状態にあるHbを言う。
【0097】
[末端活性]とは、ヘムタンパク質またはヘモグロビンの反応性基と反応できる部分で官能化されるPAOのパーセンテージの示度である。「100%末端活性」とは、接合反応に使用されるPAOのモル過剰が、全てのPAOがヘムタンパク質またはヘモグロビンの反応性基と反応できる部分を有することに基づいて表わされることを示している。例えば、もし利用可能なMal−PEGが80%末端活性を有していて、PEGの80%がMalで官能化され、Mal−PEGがヘモグロビンに対して20倍モル過剰で使用されるならば、このモル比は、100%末端活性に基づき、ヘモグロビンに対して16倍モル過剰のMal−PEGと表わすことができる。
【0098】
「チオール化」とは、分子上のスルフヒドリル基の数を増大させるプロセスを言う。例えば、タンパク質を2−イミノチオラン(「2−IT」)と反応させることは、タンパク質の表面上の遊離アミンをスルフヒドリル基に変換する。これらのスルフヒドリル基は、次いでマレイミドのようなチオール反応性部分との反応に利用可能である。
【0099】
「非リガンド結合型ヘモグロビン」とは、酸素、一酸化炭素または一酸化窒素のような分子状ガスにリガンド結合されない少なくとも一つのヘム部分を含んだ、何れかのヘモグロビンを言う。このように、一つのヘム部分だけでも分子状ガスにリガンド結合されなければ、該ヘモグロビンは「非リガンド結合型」とみなされる。
【0100】
ここで用いる「SVA−PEG−Hb」の用語は、mPEG−SVAが接合されているHbを言う。
本発明を詳細に説明するに当たり、添付の請求項で定義される、本発明の趣旨から逸脱することなく、変形および変更が可能であることが明らかであろう。
【実施例】
【0101】
本発明を更に例示するために、以下の非限定的な実施例が提供される。
実施例1-SVA−PEG−Hbの調製
【0102】
赤血球濃厚液パック(「RBC」)が、地域血液バンクであるニューヨーク血液センターまたはアメリカ赤十字のような、商業的供給源から取得された。この材料は、採取時から45日以内に得られる。全ての単位はウイルス感染についてスクリーニングされ、また使用前に核酸試験を受ける。非白血球除去(Non−leukodepleted)のプールされたユニットを、膜濾過により白血球除去(leukodeplete)して白血球を除去する。濃厚RBCを滅菌管にプールし、更に処理するまで2〜15℃で保存する。その容積を記録し、市販のコオキシメーター(co−oximeter)、または他の当該技術分野で認められた方法を用いて、Hb濃度を決定する。
【0103】
RBCを、0.45-μmの接線流濾過を使用して6容積の0.9%塩化ナトリウムで洗浄し、続いて円濃度を低下させることにより細胞溶解を行う。Hb抽出は、同じ膜を用いて行う。細胞戦場を分析して、アルブミンについてのスペクトル分析により血漿成分の除去を確認する。該溶解液は、Hbを精製するために、冷却中の0.16-μm膜を通して処理される。この精製されたHbは滅菌において採取され、パイロジェンを除去され、次いでウイルスを除去するために限外濾過される。溶媒/洗剤処理、ナノ濾過、及び陰イオンQ膜精製を含む更なるウイルス低減工程が行われてよい。この方法における全ての工程は、2〜15℃で行われる。
【0104】
溶解液からのHbは、30-kD膜を使用して、乳酸リンゲル液(「RL」)または燐酸緩衝塩水(「PBS」、pH7.4)の中に交換される。このHbは1.1〜1.5mM(四量体で)に濃縮される。10〜12容量のRLまたはPBSが、溶媒交換のために使用される。このプロセスは、2〜15℃において行われる。RLまたはPBS中で調製されたこの溶液のpHは、チオール化の前に8.0に調節される。Hbは、0.45または0.2-μmのディスポーザブル濾過カプセルを通して滅菌濾過され、化学修飾反応が行われる前に、4±2℃で保存される。
【0105】
PEG接合:mPEG−SVA(Laysan Bio,Inc.,Arab,AL)が、出発四量体Hb濃度に対して、100%末端活性に基づき10倍モル過剰のmPEG−SVAを用いてSFHに接合された。このHbは、Hbを酸素付加するために、最初、空気と平衡化される。RL(pH7.0〜8.5)、PBSまたは何れか同様の緩衝液中の約1mMのHbが、同じ緩衝液中の10mMのmPEG−SVAと合体された。この混合物を、10±5℃において約2時間連続的に撹拌した。
【0106】
得られたPEG−Hb接合体を、70-kD膜(即ち、<10透析容量濾過)を通して処理し、未反応の試薬を除去した。このプロセスは、540nm及び217nmにおいて、サイズ排除液体クロマトグラフィー(「LC」)によりモニターされた。濃度は4g/dLHbに調節され、またpHは6.0〜7.8、または7.0±1.0の範囲に調節された。
【0107】
PEG−Hb接合体は、0.2-μmの滅菌ディスポーザブルカプセルを通して滅菌濾過され、4±2℃において、パイロジェン除去された滅菌容器の中に採取された。このPEG−Hb接合体をRL中で4.4g/dLに希釈し、またpHを7.4±0.2に調節し、次いで滅菌濾過し(0.2μm)、一定分量でエンドトキシンを含まない滅菌容器中に収容した。
【0108】
最終のPEG化ヘモグロビン接合体(「SVA−PEG−Hb」または「SP4」)は、表1に示した性質を有していた。
表1:PEG−ββ−Hbの性質
【表2】
【0109】
SVA−PEG−Hbの構造は、標準の方法を介して更に確認された。
実施例2-SVA−PEG−Hbの安定性試験
【0110】
実施例1のSVA−PEG−Hbを、MalPEG−Hb(MP4として既知)及びSFHに比較したものとして、非解離のサイズ排除クロマトグラフィー(LC)を介して分析した。これらの結果、図4に描かれている。この図は、SVA−PEG−HbがMP4よりも更に均一な製品であることを示唆している。
【0111】
図5は、40℃で1月以下での加速保存条件下でのCOにリガンド結合されたMP4の形態(MP4CO、上段)に比較したときの、COにリガンド結合されたSVA−PEG−Hb(SP4CO、下段)の高塩濃度解離条件(0.9MのMgCl)下でのLC分析である。このクロマトグラムは、このような加速安定性試験において、SP4COが、MP4COの場合よりも大きな安定性を保持したことを示している。
【0112】
図6は、32℃で9日間の加速保存条件下においてCOにリガンド結合されたNPC−PEG−Hb(NP4CO、上段)に比較したときの、COにリガンド結合されたSVA−PEG−Hb(SP4CO、下段)の高塩濃度解離条件(0.9MのMgCl)下でのLC分析である。このクロマトグラムは、このような加速安定性試験において、SP4COが、NP4COの場合よりも大きな安定性を保持したことを示している。左方シフトするピークを示しているこのクロマトグラムは、高塩の独活の乖離条件下でのLCによって、SP4COに比較し、NP4COに観察されたより高分子量の成分の形成を示している。
【0113】
本発明またはその好ましい実施形態の要素を導入するときに、冠詞である不定冠詞(「a」)、不定冠詞(「an」)、定冠詞(「the」)及び前記の語(「said」)は、一以上の要素が存在することを意味するものである。「含んでなる」「包含する」及び「有する」の用語は包括的であることを意図しており、また列記された要素以外の追加の要素が存在してよいことを意味する。
【0114】
上記の観点から、本発明の幾つかの目的が達成され、また他の有利な結果が達成されたこと分かるであろう。
【0115】
上記の組成物及び方法において、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更がなさ得るであろうから、上記説明に含まれた全ての事項及び添付の図面に示された全ての事項は例示的なものであり、限定的なものではないと解釈されるべきであることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6