特許第6657209号(P6657209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6657209
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】パニセイン化合物、その組成物及び使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/12 20060101AFI20200220BHJP
   A61K 31/085 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20200220BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200220BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20200220BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20200220BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20200220BHJP
   A61K 31/4188 20060101ALI20200220BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20200220BHJP
   A61K 31/4164 20060101ALI20200220BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
   A61K31/12
   A61K31/085
   A61P35/00
   A61P35/02
   A61P35/04
   A61P43/00 111
   A61P43/00 121
   A61K31/282
   A61K31/704
   A61K31/519
   A61K31/4188
   A61K31/513
   A61K31/4164
   A61K31/337
【請求項の数】13
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2017-522884(P2017-522884)
(86)(22)【出願日】2015年10月26日
(65)【公表番号】特表2017-532359(P2017-532359A)
(43)【公表日】2017年11月2日
(86)【国際出願番号】EP2015074771
(87)【国際公開番号】WO2016066594
(87)【国際公開日】20160506
【審査請求日】2018年10月1日
(31)【優先権主張番号】14306710.6
(32)【優先日】2014年10月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】512163369
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ニース・ソフィア・アンティポリス
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE NICE SOPHIA ANTIPOLIS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ムス−ヴェトー,イザベル
(72)【発明者】
【氏名】トマ,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】トリバラ,マリー−オード
(72)【発明者】
【氏名】アズーレ,ステファン
【審査官】 今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−509430(JP,A)
【文献】 特表2013−545793(JP,A)
【文献】 Journal of Natural Products,1993年 4月,Vol.56, No.4,pp.527-533
【文献】 Tetrahedron,1994年,Vol.50, No.27,pp.8153-8160
【文献】 Journal of the National Cancer Institute,1991年 6月 5日,Vol.83, No.11,ppp.757-766
【文献】 Cancer Biology & Therapy,2007年 9月,Vol.6, No.9,pp.1355-1357
【文献】 Molecular Cancer Therapeutics,2013年11月18日,Vol.13, No.1,pp.16-26
【文献】 International Journal of Oncology,2009年,Vol.34,pp.1045-1050
【文献】 The American Journal of Pathology,2007年 1月,Vol.170, No.1
【文献】 Oncotarget,2015年 6月 1日,Vol.6, No.26,pp.22282-22297
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 31/00−31/80
A61K 33/00−33/44
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Patched受容体薬物排出活性をインビトロ又はエクスビボで低下させる又は阻害するための、パニセイン化合物の使用であって、
パニセイン化合物が、式(I):
【化1】

[式中、
− Rは、H、C−Cアルキル、C−Cアミノアルキル、C−Cヒドロキシアルキル、C−Cハロゲノアルキル又は−ORであり、
− Rは、H又はC−Cアルキルであり、
− Rは、C−Cアルキル、−CHOR、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)NHR又は−CHNHRであり、
− 各Rは、独立して、−H又はC−Cアルキルであり、
− Rは、
【化2】

[式中、
− 結合(1)及び(2)は、互いに独立して、単結合又は二重結合であり、かつ、結合(1)及び(2)は、同時に二重結合ではなく、
− Rは、結合(1)が単結合である場合に存在、存在する場合、Rは、−H又は−ORを表し、そして
− 存在する場合、各Rは、独立して、H又はC−Cアルキルである]
である]
で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩である、使用。
【請求項2】

【化3】

[存在する場合、各R及びRは、独立して、請求項1で定義されたとおりであり、好ましくは、Rは、Hであり、そしてRは、H又はOHである]
からなる群より選択される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
式(I)の化合物が、以下の特徴:
i. Rは、H、C−Cアルキル又は−ORであり、及び/又は
ii. Rは、H又はC−Cアルキルであり、及び/又は
iii. Rは、C−Cアルキル、−CHOR又は−C(=O)Rであり、及び/又は
iv. 各Rは、独立して、−H又はC−Cアルキル、好ましくは、C−Cアルキルである、
の1つ又はいくつかを含む、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
式(I)の化合物が、パニセインC、パニセインB3及びパニセインAヒドロキノンより選択される、請求項1〜のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
前記薬物が化学療法薬である、請求項1〜のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
少なくとも1つの化学療法薬と組み合わせて使用するための、請求項1〜4のいずれか一項に定義されるパニセイン化合物を含む、医薬組成物であって、対象におけるガンの処置に使用するための、ガン転移の予防に使用するための、及び/又はガン再発の予防に使用するための医薬組成物であって、当該ガン細胞がPatched受容体を発現する、医薬組成物。
【請求項7】
ガンが、メラノーマ、乳ガン、甲状腺ガン、前立腺ガン、結腸ガン、直腸ガン、食道ガン、胃ガン、卵巣ガン、肺ガン、膵臓ガン、神経膠腫、副腎皮質癌腫、小児固形悪性腫瘍、白血病、多発性骨髄腫及び肉腫からなる群より選択される、請求項記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1つの化学療法薬が、シスプラチン、ドキソルビシン、メトトレキサート、テモゾロマイド、5−FU、ダカルバジン、ドセタキセル及びベムラフェニブからなる群より選択される、請求項6又は7記載の医薬組成物。
【請求項9】
対象が哺乳動物、好ましくはヒトである、請求項のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項10】
対象がガンに罹患し、かつ化学療法に対して耐性のヒトである、請求項記載の医薬組成物。
【請求項11】
同時に、別々に又は逐次的に使用されるべき、請求項1〜4のいずれか一項に定義される少なくとも1つのパニセイン化合物及び少なくとも1つの化学療法薬を含む、組成物であって、対象におけるガンの処置に使用するための、ガン転移の予防に使用するための、及び/又はガン再発の予防に使用するための組成物であって、当該ガン細胞がPatched受容体を発現する、組成物
【請求項12】
別個の容器に入った、請求項1〜4のいずれか一項に定義される少なくとも1つのパニセイン化合物及び少なくとも1つの化学療法薬を含む、キットであって、対象におけるガンの処置に使用するための、ガン転移の予防に使用するための、及び/又はガン再発の予防に使用するためのキットであって、当該ガン細胞がPatched受容体を発現する、キット
【請求項13】
請求項11記載の組成物を調製するための、請求項12記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、医薬及びガン処置の分野に関する。
【0002】
本発明は、より具体的には、Patched受容体薬物排出活性、特に化学療法薬排出活性及び化学療法耐性をインビトロ又はエクスビボで低下させる又は阻害するための、パニセイン(panicein)又はその誘導体若しくは類似体の使用に関する。
【0003】
本開示は、特に、それを必要とする対象においてガン治療を可能にする又はガン処置の効率を向上させるための、医薬組成物の調製用のそのような化合物の使用に更に関する。実際、本発明の化合物は、対象においてガンを処置するために、ガン転移を予防するために、及び/又はガン再発を予防するために、少なくとも1つの化学療法薬と組み合わせて有利に使用され得る。
【0004】
本発明はまた、対象において、ガン、ガン転移及び/又はガン再発を予防又は処置するための方法を開示する。本発明は更に、本発明による組成物を調製するために及び/又は本明細書に記載の方法を実施するために適したキットを提供する。
【背景技術】
【0005】
世界中で毎年800万人がガンで死亡している。ガンは、米国及びヨーロッパにおいて死因第2位である。多くの固形腫瘍では、手術及び第一選択化学療法による癌腫の縮小にもかかわらず、患者の死を引き起こす薬物に対する耐性が発生する。化学療法剤に対する耐性に関するこの現象は、現実の公衆衛生上の問題である。
【0006】
ヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達経路は、細胞分化及び増殖を制御する。それは、胚発生の間、そして成人期において、幹細胞恒常性及び組織再生における重要な役割を果たす。しかし、Hhシグナル伝達は、ガンの発生、進行及び転移にも関与している。実際に、Hhシグナル伝達の異常な活性化は、多くの高悪性度のガン、例えば、乳ガン、肺ガン、結腸直腸ガン、卵巣ガン、膵臓ガン、メラノーマ又は多発性骨髄腫において(Varjosalo and Taipale 2008; Scales and de Sauvage, 2009)、特に、化学療法剤に対して耐性を示す細胞(例えばガン幹細胞又は腫瘍始原細胞)において同定されている。近年、Yueら(2014)は、Hhシグナル伝達が、肺扁平上皮癌腫(SCC)の再発、転移及び化学療法に対する耐性に関与することを示した。いくつかの研究は、Hhシグナル伝達受容体Smoothened(Smo)をアンタゴナイズすることが、腫瘍形成及び腫瘍進行を妨げる方法を提供し得ることを示している。Hh経路において最も一般的に使用されるアンタゴニストは、植物アルカロイドシクロパミンである(Taipale et al. 2000)。Genentechは、Hh経路に関して長い間続いている研究プロジェクトを有しており、基底細胞癌腫処置のための新薬を同定した。ビスモデギブは、Smoを標的とすることによってHhシグナル伝達を選択的に阻害するように設計された、ファースト・イン・クラスの治験中の経口医薬である(Garber, 2008 Scales and de Sauvage, 2009)。いくつかのガンの増殖のためにはソニックヘッジホッグ(Shh)のようなHhモルフォゲンの自己分泌発現が必要であること(Dahmane et al., 1997; Karhadkar et al., 2004)、及び間質細胞由来Shhはまた、腫瘍中のHh経路を活性化できること(Becher et al., 2008)が報告されている。1つのShh特異的モノクローナル抗体(5E1)は、小細胞肺癌腫を含むいくつかの腫瘍の増殖を阻止することが示されている(Watkins et al., 2003)。Hh経路のアンタゴニストは、過剰活動性Hh経路自体を有する腫瘍を標的とすることに加えて、Hhリガンドを用いる腫瘍を成長させて血管新生を誘導すること(Pola et al., 2001; Nagase et al., 2008)又は腫瘍増殖を支持する他のタイプの間質細胞を動員することに影響を及ぼし得る。成人はHh経路の阻害に耐えることができるため(Berman et al., 2002; Kimura et al., 2008)、Hhシグナル伝達を特異的に遮断することは、異常なHh経路活性化に起因する様々なガンのための有効な処置を提供する。しかし、Hh経路の一過性阻害が有する骨成長への重大な影響のために、髄芽腫のような小児腫瘍の全身処置は実現可能ではない(Kimura et al., 2008)。
【0007】
2つの異なる遺伝子(Patched 1及びPatched 2)は、Hhモルフォゲン受容体であるショウジョウバエ(Drosophila)Patchedの相同体をコードする。Patched 2を欠損したマウスは生存可能であるが、脱毛症及び表皮形成不全を発症し、かつPatched 1における1つの変異誘発遺伝子の存在下で腫瘍発生率を増加させる。次にPatched 1の損失は、Hh経路の完全な活性化をもたらし、このことはPatched 1がショウジョウバエPatchedの機能的オルソログであることを示唆している(Varjosalo and Taipale, 2008)。Patched 1(Patchedという)は、その発現がHh経路の活性化により誘導され、多くのガン:肺、乳房、皮膚の基底細胞、前立腺、結腸、脳(Scales and de Sauvage, 2009; Blotta et al., 2012; Jeng et al., 2014)及び骨髄性白血病(Zhao et al., 2009; Queiroz et al., 2010)において過剰発現される。最近の研究は、Patchedが胃ガン及び甲状腺ガンの早期マーカーであることを示唆している(Saze Z et al., 2012; Xu X et al., 2012)。既に記載されているように、いくつかのガンでは、モルフォゲンHhは、ガン細胞自身によって過剰産生され、その受容体であるPatchedと相互作用することによってHhシグナル伝達を活性化する。2007年にNakamura及び共同研究者らは、Hhとの相互作用に関与するPatchedの細胞外ドメインの1つに対する抗体の使用が膵臓ガン細胞の増殖を阻害することを示した。2012年に、彼らは、Patchedとの相互作用に関与するHh由来の3つのペプチドが、2つの膵臓ガン細胞株の増殖を抑制し、インビトロ及びインビボの両方で転写因子Gli1の発現を減少させ得ることを示した(Nakamura et al., 2012)。
【0008】
発明者らは、Hh受容体Patchedが薬剤排出活性を有し、かつ化学療法剤に対するガン細胞の耐性に寄与し得ることを発見した(Bidet et al., 2012; 特許文献1)。実際、彼らは、酵母中で発現させたヒトPatchedタンパク質が、多くの転移性ガンを処置するために使用される様々な化学療法剤(ドキソルビシン、メトトレキサート、テモゾロミド、5−FU)に対する耐性を付与し、かつドキソルビシンを排出させることを示した。この酵母モデルは、線維芽細胞(Hh経路の研究のためによく使用される)並びにメラノーマ及び白血病細胞株のようなPatchedを過剰発現するヒトガン細胞株にまで拡張されている。これらの細胞は、Patched内部移行及び分解を誘導するPatchedリガンドHhの存在下でより少ないドキソルビシンを放出(排出)する。これらの様々な細胞株を用いて実施した生存率試験は、Hhの存在がドキソルビシンの細胞毒性を増加させることを示した。これらの結果は、Hh受容体Patchedがガン細胞の化学療法剤に対する耐性現象に関与する可能性があり、Patchedを抗ガン治療の新しい標的として提案することが可能であることを示唆している(特許文献1)(図1)。
【0009】
現在、利用可能なPatchedのアンタゴニストはない。したがって、Patched受容体の薬剤排出活性を阻害することができ、ガン治療に使用し得る化合物が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2012/080630号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
発明者らは、ここで、ガン細胞からの薬剤排出、特に化学療法剤排出を防止するための活性分子を提供する。これらの分子は、Patched薬剤排出活性を阻害することによって、医師がガン細胞の増殖を防止又は制御する(好ましくは、低下させる)ことを可能にする。これらは、有利には、Patchedを発現する任意のガンに対する化学療法処置の有効性を増加させることを可能にする。発明者らは、本明細書において、これらの分子が、更に転移及び/又はガン再発のリスク低下を可能にすることを示す。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明は、Patched受容体薬剤排出活性をインビトロ又はエクスビボで低下させる又は阻害するための、パニセイン化合物又はその誘導体若しくは類似体の使用に関する。
【0013】
特定の実施態様において、パニセイン化合物は、式(I):
【化1】

[式中、
− Rは、H、C−Cアルキル、C−Cアミノアルキル、C−Cヒドロキシアルキル、C−Cハロゲノアルキル又は−ORを表し、
− Rは、H又はC−Cアルキルであり、
− Rは、C−Cアルキル、−CHOR、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)NHR又は−CHNHRを表し、
− 各Rは、独立して、−H又はC−Cアルキルであり、
− Rは、下記:
【化2】

[式中、
− 結合(1)及び(2)は、互いに独立して、単結合又は二重結合であり、好ましくは、結合(1)及び(2)は、同時に二重結合ではなく、
− Rは、結合(1)が単結合である場合に存在する。存在する場合、Rは、−H又は−ORを表し、そして
− 存在する場合、各Rは、独立して、H又はC−Cアルキルである]からなる群より選択される]で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩である。
【0014】
特に好ましい実施態様において、式(I)の化合物は、パニセインC、パニセインB3、パニセインB2及びパニセインAヒドロキノンより選択される。
【0015】
また本明細書において、対象におけるガンの処置に使用するための、ガン転移の予防に使用するための、及び/又はガン再発の予防に使用するための、少なくとも1つの化学療法薬と組み合わせて使用するためのパニセイン化合物が記載されている。
【0016】
本発明の別の目的は、典型的には、対象におけるガンの処置に使用するための、ガン転移の予防に使用するための、及び/又はガン再発の予防に使用するための、同時に、別々に又は逐次的に使用される、少なくとも1つのパニセイン化合物及び好ましくは少なくとも1つの化学療法薬を含む組成物である。
【0017】
また本明細書において、別個の容器に入った少なくとも1つのパニセイン化合物及び少なくとも1つの化学療法薬を含むキット、並びに典型的には本発明による組成物を調製するための該キットの使用も記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1Patched:ガン処置のための新しい処置標的 Patchedの化学療法剤排出活性の模式図。Dxr:ドキソルビシン、CSC:ガン幹細胞
図2-1】ムラサキカイメンムコサ抽出物は、ドキソルビシンに対するヒトPatched発現酵母の耐性を阻害する A.ムラサキカイメンムコサ海綿体。B.ムラサキカイメンムコサメタノール画分は、ドキソルビシンに対するPatched発現酵母の耐性を阻害する物質を含有する。hPtcを発現する酵母の出芽酵母(S.cerevisiae)を、DMSOに溶解したムラサキカイメンムコサ粗抽出物のメタノール画分10μg/mLの存在下、及び10μMのドキソルビシン(dxr)の存在下又は非存在下で、96ウェルプレート中で増殖させた。酵母の増殖を600nmでの吸光度で測定し、示された結果は3回の独立した実験の平均である。C.ムラサキカイメンムコサメタノール画分の精製プロファイル。分取フェニル−ヘキシルHPLCカラムを、下記条件で使用した:勾配を(47 H2O:53 ACN:0.1 TFA)で開始し(0 H2O:100 ACN:0.1 TFA)とする、流速:10.0mL/分、注入量:100mg/mLで75μL。
図2-2】D.ムラサキカイメンムコサメタノール画分から精製した5つの化合物は、hPtc−発現酵母のdxrに対する耐性を強力に阻害する。DMSOに溶解した精製化合物(10μg/mLで)を、10μM dxrを含有するか又は含有しない増殖培地に添加した。酵母の増殖は、600nmでの吸光度によって測定した。
図3化合物P2(パニセインC)、P3(パニセインB3)、P4(パニセインB2)及びP5(パニセインAヒドロキノン)の構造。
図4Patchedタンパク質を過剰発現するメラノーマ細胞。 A.3つの異なるメラノーマ細胞株(MDA−MB−435、MeWo及びA375)由来の全抽出物に対するウサギ抗Patched抗体(1/1000)を用いたウエスタンブロッティング。Patchedは、150KDaであると予想される。βチューブリンを添加コントロールとして使用した。B.Patched抗体(1/200)及びローダミン抗ウサギ抗体を用いるMeWo及びA375の免疫標識。Patched標識(赤色)を、可視光線でDAPI(青色)及び細胞の画像に重ねた。ローダミン−抗ウサギ抗体単独では、これらの細胞上にシグナルを一切示さなかった(図示せず)。
図5パニセインは、メラノーマ細胞に対するドキソルビシン細胞毒性を増加させる。 60%〜70%コンフルエントに達するように、細胞を完全DMEM培地中、96ウェルプレートで増殖させた。次いで培地を除去し、10μM(又はEC50測定のための増加濃度)のパニセイン又はコントロールとしてのDMSOを含有する完全DMEM培地 100μL/ウェルと交換した。2時間後、ドキソルビシンを含有する完全DMEM培地 100μLを、半分のウェルに加えて、MDA−MB−435及びMeWoについては2μMの最終濃度、A375については1.5μMの最終濃度を得た。24時間後に細胞生存率を測定した。化合物P2、P3、P4及びP5の細胞生存率への効果、並びに化合物P5の用量応答を、MDA−MB−435()、MeWo()及びA375()について示す。D.パニセインによるdxr細胞毒性の増強が示されている。少なくとも3つの独立した実験の平均(+/−sem)を報告する。
図6パニセインは、ドキソルビシン排出を阻害する。 A.化合物P5は、メラノーマ細胞MeWo及びA375からのドキソルビシン排出を阻害する。細胞をカバーガラス上で増殖させ、10μMのドキソルビシンと共に37℃で2時間インキュベートし、リン酸緩衝液(pH7.4)で迅速に濯いだ。各細胞株の1つのカバーガラスを、ドキソルビシンの負荷コントロールのために直ちに固定した。その他のカバーガラスを、DMSO又は10μMの化合物P5を補充した緩衝液と共に穏やかに振とうしながら30分間インキュベートし、直ちに固定した。ドキソルビシン細胞内蛍光を落射蛍光によって可視化し、各条件について3つの異なるフィールドの30個以上の細胞についてImage Jソフトウェアを用いて分析した。P<0.05(**:P<0.005、***:P<0.0005)で有意性に達するスチューデントt検定を用いて結果を分析した。B.パニセインは、Patched−発現酵母からのドキソルビシン排出を阻害する。野生型Patchedを発現する酵母(hPtc、黒色)、変異体Patched G509VD513Y(hPtcVXXXY、灰色)を発現する酵母及びコントロール酵母(白色)を、5mMの2−デオキシ−D−グルコース及び10μMのdxrを補充した緩衝液中で4℃にて2時間インキュベートした。遠心分離及び上清除去の後、1つの試料を負荷コントロールのために直ちに固定し、その他の試料をDMSO又は10μMのパニセインを補充した5mMの2−デオキシ−D−グルコースを含有する緩衝液中に、25℃で10分間穏やかに振とうしながら再懸濁した。遠心分離及び上清除去の後、試料を固定し、落射蛍光顕微鏡観察のためにカバーガラス上に置いた。dxr細胞内蛍光の定量化は、各条件について3つの異なるフィールドの30個以上の酵母についてImage Jソフトウェアを用いて行った。P<0.05(*)で有意性に達するスチューデントt検定を用いて結果を分析した。
図7パニセインAヒドロキノンは、Patched構造モデルにおいてドキソルビシン結合部位の近くに強力なドッキングクラスターを示す。 Patched構造のモデル化は、大腸菌(Escherichia coli)のRNDファミリー由来の主要多剤排出トランスポーターであるAcrBの結晶構造に基づいて行われており、Murakamiら(Nature 2006)によりドキソルビシンの有り及び無しで記載されている。AcrB−薬物複合体は、3つのプロトマーからなる。dxrは、3つのプロトマーのうちの1つのペリプラズムドメインに見出された。Patchedのモデル構造へのパニセインAヒドロキノンのドッキングは、dxr結合部位に近いクラスターでの結合に対する強い蓋然性を示している。
図8-1】パニセインは、他の化学療法剤に対する耐性を阻害する。 最終濃度10μMでパニセインを、2mMのダカルバジン()、50μMのシスプラチン()、
図8-2】又は10μMのベムラフェニブ(C)を含有する酵母増殖培地に添加した。hPtc発現酵母の増殖を600nmでの吸光度で測定した。(D)ニュートラルレッドを用いた生存率試験は、パニセインAヒドロキノン(10μM)が、A375メラノーマ細胞に対するベムラフェニブの細胞毒性を強力に増加させることを示している。
図9メラノーマにおけるPatchedの発現。 (a)Patchedタンパク質は、様々なガンで発現する(組織でのIHC、Human Protein Atlasウェブサイトから抽出したデータ)。(b)154個のメラノーマ試料におけるPatched mRNA(ONCOMINEウェブサイトから抽出したデータ)。
図10-1】パニセインAヒドロキノンは、アポトーシス性メラノーマ細胞の数を強力に増加させる DMSO、パニセイン及び/又はdxrでの処理の24時間後に細胞をサンプリングし、アネキシンV及びDAPI共染色によりアポトーシスを測定した。早期アポトーシスの細胞は、アネキシンV陽性及びDAPI陰性であり、後期アポトーシスの細胞は、アネキシンV及びDAPI二重陽性である。
図10-2】ヒストグラムは、3つの独立した実験からの後期アポトーシスにおける細胞の平均パーセンテージ(+/−SEM)を表し、P<0.05(*)(**:P<0.005)で有意性に達するスチューデントt検定を用いて分析された。
図11パニセインAヒドロキノンは、Patchedタンパク質の発現又は安定性には影響しない。 10μMのパニセインAヒドロキノン(P5)又はDMSOでの処理の24時間後のMEWO及びA375細胞からの全抽出物に対するウエスタンブロッティング。
図12-1】この図は、メラノーマ細胞(A)及び酵母(B)の蛍光画像を用いて、図6と同じ実験を報告する。A.化合物P5は、メラノーマ細胞MeWo及びA375からのドキソルビシン排出を阻害する。細胞をカバースガラス上で増殖させ、10μMのドキソルビシンと共に37℃で2時間インキュベートし、リン酸緩衝液(pH7.4)で迅速に濯いだ。各細胞株の1つのカバーガラスを、ドキソルビシンの負荷コントロールのために直ちに固定した。その他のカバーガラスを、DMSO又は10μMの化合物P5を補充した緩衝液と共に穏やかに振とうしながら30分間インキュベートし、直ちに固定した。dxr細胞内蛍光を落射蛍光によって可視化し(左部分)、各条件について3つの異なるフィールドの30個以上の細胞についてImage Jソフトウェアを用いて分析した。P<0.05(**:P<0.005、***:P<0.0005)で有意性に達するスチューデントt検定を用いて結果を分析した(右部分)。
図12-2】B.パニセインは、Patched−発現酵母からのドキソルビシン排出を阻害する。野生型Patched(hPtc、黒色)を発現する酵母、変異体Patched G509VD513Y(hPtcVXXXY、灰色)を発現する酵母及びコントロール酵母(白色)を、5mMの2−デオキシ−D−グルコース及び10μMのdxrを補充した緩衝液中で4℃にて2時間インキュベートした。遠心分離及び上清除去の後、1つの試料を負荷コントロールのために直ちに固定し、その他の試料をDMSO又は10μMのパニセインを補充した5mMの2−デオキシ−D−グルコースを含有する緩衝液中に25℃で10分間穏やかに振とうしながら再懸濁した。遠心分離及び上清除去の後、試料を固定し、落射蛍光顕微鏡観察のためにカバーガラス上に置いた(左部分)。dxr細胞内蛍光の定量化は、各条件について3つの異なるフィールドの30以上の酵母についてImage Jソフトウェアを用いて行った。P<0.05(*)で有意性に達するスチューデントt検定を用いて結果を分析した(右部分)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[発明の詳細な説明]
発明者らは、再発ガンの臨床管理に使用される化学療法剤であるドキソルビシンのような薬物の排出にPatched受容体が関与していることを示し、Patchedがガン細胞の化学療法耐性に寄与し得ることを示唆した(Bidet et al. 2012、国際公開第2012/080630号)。彼らは、Patched薬物排出活性を阻害することができる分子を同定するための革新的な試験を開発した。第1の試験は、ドキソルビシン含有培地でヒトPatchedを過剰発現する酵母の増殖を阻害する分子の能力に基づいた。次に活性分子は、以下を増加させるそれらの能力について試験された:1)Patchedを過剰発現するガン細胞株に対するドキソルビシン細胞毒性、2)いくつかのメラノーマ細胞株に対するドキソルビシンの細胞毒性効果、及び3)Patchedを発現する様々なガン細胞株に対する化学療法薬細胞毒性。該分子はまた、ヒトメラノーマ細胞を移植されたマウス並びに乳ガンの再発及び転移のマウスモデルにおいて、腫瘍処置及び転移発生の予防について試験される。
【0020】
これに関連して、本発明者らは、海洋性海綿動物から抽出された特定の化合物、特にパニセインが、Patched過剰発現酵母におけるドキソルビシン、ダカルバジン及びシスプラチンのような化学療法剤の排出を阻害することができ、それにより酵母の増殖が阻害されることを示した。本発明者らは更に、本発明のパニセイン化合物が、ドキソルビシンに対するPatched発現メラノーマ細胞株の感受性を有意に増加させることを示した。以下の実施例で十分に示されるように、Patched発現メラノーマ細胞株に対するドキソルビシンの細胞毒性は、ドキソルビシンがパニセインC、パニセインB3、パニセインB2又はパニセインAヒドロキノンのようなパニセインと組み合わせて使用された場合に有意に増加した。
【0021】
注目すべきことに、試験されたパニセインは、20μMまでの濃度で単独で(すなわち、いかなる化学療法剤も存在しないで)使用された場合、メラノーマ細胞に対して有意な細胞毒性を示さなかった。
【0022】
発明者らの知見によれば、Patched受容体を阻害し、Patched受容体発現ガン細胞に対するドキソルビシンのような化学療法剤の細胞毒性を増強するパニセインの能力は、先行技術において記載も示唆もされていなかった。
【0023】
したがって、本発明の第1の目的は、Patched受容体薬物排出活性をインビトロ又はエクスビボで低下させる又は阻害するパニセイン化合物又はその誘導体及び類似体の使用に関する。
【0024】
本明細書で使用する場合、パニセイン化合物(本明細書では「パニセイン」とも呼ばれる)は、セスキテルペノイド(sesquiterpenoid)キノン及び対応するキノールを指す。パニセインは、特に、海洋性海綿動物、特に地中海(Mediterranean)海洋性海綿動物のような海洋生物から抽出される。例えば、パニセインC、パニセインB3、パニセインB2及びパニセインAヒドロキノンのようなパニセインは、ムラサキカイメンムコサ(Haliclona mucosa)のようなムラサキカイメン属(Haliclona)に属する地中海海洋性海綿動物から単離され得る。パニセインの単離に用いる目的の別の海洋性海綿動物は、例えばナミイソカイメン(Halichondria panacea)である。海洋性海綿動物からパニセイン及び関連化合物を抽出する方法は、Casapulloら(1973)などに記載されており、その開示は、参照により本明細書中に援用される。
【0025】
本明細書で使用する場合、類似体又は誘導体は、セスキテルペノイドキノン又はセスキテルペノイドキノールから誘導される化学構造を有する化合物を包含する。特定の実施態様において、パニセインの類似体又は誘導体は、天然のパニセインの立体異性体を指し得るか、或いは1つ又はいくつかの化学的修飾のために天然のパニセインとは異なる化合物を指し得る。化学的修飾は、非限定的に、化学的置換基の導入、或いは、別の基(特に生物学的等価基(すなわち、類似の物理的又は化学的特性を有する)による)による又はパニセインの特性(例えば、生物活性、溶解性、薬物動態学的特性又は細胞標的指向化)を増強又は改善する化学基による、化学基の置換を含む。本明細書で使用する場合、類似体及び誘導体は、非限定的に、パニセインの立体異性体、プロドラッグ及び代謝産物を含む。
【0026】
より具体的な実施態様において、本発明は、Patched受容体薬物排出活性をインビトロ又はエスビボで低下させる又は阻害するための、式(I):
【化3】

[式中、
− Rは、H、C−Cアルキル、C−Cアミノアルキル、C−Cヒドロキシアルキル、C−Cハロゲノアルキル又は−ORであり、
− Rは、H又はC−Cアルキルであり、
− Rは、C−Cアルキル、−CHOR、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)NHR又は−CHNHRであり、
− 各Rは、独立して、−H又はC−Cアルキルであり、
− Rは:
− 式(IIa)で示される基:
【化4】

− 式(IIb)で示される基:
【化5】

− 式(IIc)で示される基:
【化6】

[式中、
− 結合(1)及び(2)は、互いに独立して、単結合又は二重結合であり、好ましくは、結合(1)及び(2)は、同時に二重結合ではなく、
− Rは、結合(1)が単結合である場合に存在する。存在する場合、Rは、−H又は−ORを表す。好ましくは、存在する場合、Rは、−H又はOHであり、そして
− 存在する場合、各Rは、独立して、H又はC−Cアルキルであり、好ましくは、各Rは、H又はCHのようなC−Cアルキルである]からなる群より選択される]で示される化合物又はその薬学的に許容し得る塩の使用に関する。
【0027】
結合(1)が二重結合である場合、Rが存在しないことは言うまでもない。
【0028】
本明細書で使用する場合、用語「薬学的に許容し得る」は、しっかりした医学的判断の範囲内で、対象における組織との接触に適しているか、又は対象に投与され得、妥当なベネフィット/リスク比に見合った過剰な毒性又は他の合併症を伴わない、組成物、化合物、塩などを指す。例えば、薬学的に許容し得る塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、塩化物塩、アンモニウム塩、酢酸塩などを包含する。
【0029】
本明細書で使用する場合、C−Cアルキルは、1〜6個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状のアルキル基を包含する。好ましいC−Cアルキル基は、メチル、エチル、プロピル及びイソプロピルのようなC−Cアルキルである。特に好ましいアルキル基は、メチルである。
【0030】
「ヒドロキシアルキル」は、式−A−OH(式中、Aは、アルキレン基を表す)の基を指す。
【0031】
「アミノアルキル」は、式−A−NH(式中、Aは、アルキレン基を表す)の基を指す。
【0032】
「ハロゲノアルキル」は、式−A−Hal(式中、Aは、アルキレン基を表し、そしてHalは、Cl、Br、I又はFのようなハロゲンを表す)の基を指す。
【0033】
本明細書で使用する場合、「ヒドロキシアルキル」、「アミノアルキル」及び「ハロゲノアルキル」は、1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜3個の炭素原子を含む。
【0034】
特定の実施態様において、結合(1)は、単結合であり、そして結合(2)は、二重結合である。別の実施態様において、結合(1)は、二重結合であり、そして結合(2)は、単結合である。
【0035】
いくつかの実施態様において、式(I)の化合物は、以下の特徴の1つ又はいくつかを含む:
i. Rは、H、C−Cアルキル又は−ORであり、及び/又は
ii. Rは、H又はC−Cアルキルであり、及び/又は
iii. Rは、C−Cアルキル、−CHOR又は−C(=O)Rであり、及び/又は
iv. 各Rは、独立して、−H、又はC−Cアルキル、好ましくは、C−Cアルキルである。
【0036】
特定の実施態様において、本発明の化合物は、上記に列挙した特徴の全てを含む。
【0037】
いくつかの他の実施態様において、式(I)の化合物は、以下の特徴の1つ又はいくつか(1、2又は3つ)を含む:
(i) Rは、H又はOHであり、及び/又は
(ii) Rは、H又はCHであり、及び/又は
(iii) Rは、−CH又は−C(=O)Hである。
【0038】
いくつかの代替の又は追加の実施態様において、式(I)の化合物は、Rが下記:
【化7】

[R及びRは、先で定義されたとおりである。好ましくは、Rは、H又はOHである。好ましくは、各Rは、Hである]からなる群より選択されるような化合物である。
【0039】
いくつかの他の実施態様において、式(I)の化合物は、Rが下記:
【化8】

[式中、Rは、先で定義されたとおりである]からなる群より選択されるような化合物である。
【0040】
特定の態様において、式(I)の化合物は、Rが下記:
【化9】

で示されるような化合物であり得る。
【0041】
いくつかの特定の実施態様において、式(I)の化合物は天然のパニセインであり、これは、該化合物が生物から、特に海洋性海綿動物から、例えば抽出によって得ることができることを意味する。好ましくは、式(I)の化合物は、下記の表(I)に示されるパニセイン、その薬学的に許容し得る塩、代謝物及びプロドラッグ並びにその立体異性体より選択される。
【0042】
【表1】
【0043】
いくつかの実施態様において、式(I)の化合物は、パニセインAヒドロキノン、パニセインB3、パニセインC、パニセインG、パニセインA、パニセインB1、パニセインB2及びパニセインCの中より選択される。
【0044】
いくつかの特定の実施態様において、式(I)の化合物は、パニセインD、パニセインE、パニセインF1及びパニセインA2と異なる。
【0045】
本発明のいくつかの好ましい実施態様において、式(I)の化合物は、下記:
【化10】

及びその薬学的に許容し得る塩からなる群より選択される。
【0046】
本発明の別の好ましい実施態様において、式(I)の化合物は、パニセインAヒドロキノン、パニセインC、パニセインB3及びパニセインB2の誘導体又は類似体、好ましくは、パニセインAヒドロキノンの誘導体又は類似体である。
【0047】
パニセインAヒドロキノンの好ましい誘導体又は類似体は、パニセインAキノンである。
【0048】
本発明の化合物は、抽出、半合成又は全合成のような当業者に周知の方法によって得ることができる。例えば、海洋性海綿動物からパニセイン及び関連化合物を抽出する方法は、Casapulloら(1973)及びZubiaら(1994)などに記載されており、その開示は、参照により本明細書中に援用される。パニセインはまた、化学合成により調製され得る。例えば、Davisら(2005)は、パニセインAの全合成について記載している。パニセインの類似体又は誘導体は、従来の化学反応を用いて抽出によって得られたパニセインから、全合成によって、又は半合成によって得ることができる。
【0049】
更なる態様において、本発明は、Patched受容体薬物排出活性をインビトロ又はエクスビボで低下させる又は阻害するための、少なくとも1つのパニセイン化合物又はその誘導体を含む抽出物の使用に関する。いくつかの実施態様において、該抽出物は、いくつかのパニセインを含み得る。例えば、該抽出物は、2、3、4、5、6又はそれ以上の別個のパニセインを含み得る。
【0050】
好ましい抽出物は、ムラサキカイメンムコサ又はナミイソカイメンのような海洋性海綿動物から得られる。本発明のパニセイン又は抽出物を得るための目的の他の海洋性海綿動物は、非限定的に、Ircinia variabilis、Agelas oroides、Cymbaxinella damicornis、Aplysina cavernicola、Haliclona fulva、Crambe crambe、Haliclona sarai、Acanthella acuta及びCrambe taillieziを包含する。
【0051】
特定の抽出物は、少なくとも10μg/mLの、本発明によるパニセイン又はそのようなパニセインの混合物を含む。また、そのような抽出物の精製画分も本発明に包含される。特定の抽出物は、少なくとも10μg/mLのパニセインの最終濃度、例えば15又は20μg/mLを含むメタノール性抽出物である。
【0052】
本発明はまた、化学療法剤に対するガンの感受性を増加させるための、少なくとも1つの式(I)の化合物又はその薬学的に許容し得る塩の使用に関する。
【0053】
本発明の更なる目的は、化学療法剤についてガンの耐性を低下させるための、少なくとも1つの式(I)の化合物又はその薬学的に許容し得る塩の使用である。
【0054】
また、対象におけるガンの処置に使用するための、ガン転移の予防に使用するための、及び/又はガン再発の予防に使用するための、少なくとも1つの化学療法薬と組み合わせて使用するための、本発明による式(I)の化合物(又はその薬学的に許容し得る塩)、又は本発明による少なくとも2つの式(I)の化合物(又はその薬学的に許容し得る塩)を含む組成物が記載されている。
【0055】
用語「対象」は、任意の対象を指し、典型的には患者、特に、化学療法及び/又は放射線療法のようなガンの処置を受けている対象、或いはガンの発生のリスクを有する、又はリスクを有すると疑われる対象を示す。
【0056】
対象は、好ましくは哺乳動物、更により好ましくはヒト、例えば、ガンを罹患しており、かつ化学療法に対して耐性のあるヒトである。
【0057】
対象は、典型的にはガン患者、好ましくは腫瘍細胞がPatched受容体を発現する患者、及び/又は、間質細胞及び/又は腫瘍細胞がヘッジホッグ(Hh)タンパク質を発現する患者であり、該患者は好ましくは化学療法に対して耐性である。
【0058】
対象は、完全な従来の処置プロトコルの一部、例えば全処置プロトコルの少なくとも1サイクル、例えば2サイクルの全処置プロトコルに曝され得る。
【0059】
ガンは、腫瘍細胞又はガン細胞がPatched受容体を発現又は過剰発現する限り、任意の種類のガン又は新生物であり得る。典型的なガンは、第一選択化学療法に対して耐性のガンである。
【0060】
Patched受容体を発現若しくは過剰発現するか、又はHh経路の異常発現を有するガンは、例えば、メラノーマ(Cretnick et al. 2009)、乳ガン(Smith et al. 2014, Jeng ks et al. 2013)、甲状腺ガン(Hinterseher al. 2014, Xu H. et al. 2012)、前立腺ガン(Kim et al. 2011, Chung et al. 2010)、結腸ガン(Wang et al. 2013, Xu M. et al. 2012)、直腸ガン(Qualtrough et al. 2004)、食道ガン(Zhu W. et al. 2011)、胃ガン(Lee SJ et al. 2013)、卵巣ガン(Sabol et al. 2012)、肺ガン(Li et al. 2012, Gialmanidis et al. 2009)、膵臓ガン(Ma et al. 2014, Nakamura et al. 2012)、神経膠腫(Yu et al. 2014)、副腎皮質癌腫(Mus-Veteau et al.、未公開データ)、小児固形悪性腫瘍(例えば、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、腎芽細胞腫又は肝芽腫)(Oue et al. 2010)、また、非固形ガン(例えば、リンパ性白血病又は骨髄性白血病のような白血病)(Cea et al. 2013)、多発性骨髄腫(Blotta et al. 2012)及び骨肉腫のような肉腫(Lo et al. 2014)より選択される。図9に示す蛋白質構造データバンク(Protein data bank)及びOncomineのデータを参照のこと。このガンは転移性ガンであってもなくてもよい。
【0061】
本発明の特定の実施態様において、化学療法剤は、例えば、アントラサイクリン、抗腫瘍抗生物質、アルキル化剤、代謝拮抗剤、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、紡錘体毒のような抗有糸分裂剤、DNA挿入剤、タキサン、アルキル化剤、プラチナベースの成分、特異的キナーゼ阻害剤、ホルモン、サイトカイン、抗血管新生剤、抗体(特にモノクローナル抗体)及びTLR(Toll様受容体)−3リガンドより選択される、薬剤である。
【0062】
いくつかの化学療法剤を含むことができる処置は、予防される又は処置される具体的なガンに応じて、ガン専門医によって選択される。
【0063】
抗腫瘍抗生物質は、例えば、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、マイトマイシンC又はミトキサントロンを含む;
【0064】
アルキル化剤は、例えば、ダカルバジン、ブスルファン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、メクロレタミン、オキサリプラチン、ウラムスチン又はテモゾロミドを含む;
【0065】
代謝拮抗剤の例は、アザチオプリン、カペシタビン、シタラビン、フロクスウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、メトトレキサート、フルオロウラシル(5−FU)又はペメトレキセドである;
【0066】
植物アルカロイドは、例えば、ビンブラスチン又はビンクリスチン(ビノレルビン)を含む;
【0067】
トポイソメラーゼ阻害剤は、例えば、イリノテカン、トポテカン又はエトポシドを含む;
【0068】
紡錘体毒は、例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン及びビノレルビンより選択される;
【0069】
タキサンは、例えば、ドセタキセル、ラロタキセル、カバジタキセル、パクリタキセル(PG−パクリタキセル及びDHA−パクリタキセル)、オルタタキセル、テセタキセル及びタキソプレシンより選択される;
【0070】
プラチナベースの成分の例は、CDDP及びOXPである;
【0071】
具体的なキナーゼ阻害剤の例は、例えば、BRAFキナーゼ阻害剤(例えば、ベムラフェニブ)である;
【0072】
タモキシフェン及び抗アロマターゼ薬は、典型的には、ホルモン療法との関連で使用される。
【0073】
免疫療法との関連で使用可能なサイトカインの例は、IL−2(インターロイキン−2)及びIFN(インターフェロン)α(IFNa)である;
【0074】
抗CD20(汎B細胞抗原)又は抗Her2/Neu(ヒト上皮増殖因子受容体−2/NEU)は、モノクローナル抗体の例である。
【0075】
好ましい実施態様において、化学療法薬又は化学療法剤は、シスプラチン、ドキソルビシン、メトトレキサート、テモゾロミド、5−FU、ダカルバジン及びベムラフェニブより選択される。
【0076】
本発明の特定の実施態様において:
− パニセインAヒドロキノンは、シスプラチン、ドキソルビシン、ダカルバジン又はベムラフェニブの少なくとも1つと組み合わせて使用され、
− パニセインCは、シスプラチン、ドキソルビシン、ダカルバジン又はベムラフェニブの少なくとも1つと組み合わせて使用され、
− パニセインB3は、シスプラチン、ドキソルビシン、ダカルバジン又はベムラフェニブの少なくとも1つと組み合わせて使用され、そして
− パニセインB2は、シスプラチン、ドキソルビシン、ダカルバジン又はベムラフェニブの少なくとも1つと組み合わせて使用され、
− シスプラチンは、パニセインAヒドロキノン、パニセインC、パニセインB3及びパニセインB2の少なくとも1つと組み合わせて使用され、
− ドキソルビシンは、パニセインAヒドロキノン、パニセインC、パニセインB3及びパニセインB2の少なくとも1つと組み合わせて使用され、
− ダカラバジンは、パニセインAヒドロキノン、パニセインC、パニセインB3及びパニセインB2の少なくとも1つと組み合わせて使用され、そして
− ベムラフェニブは、パニセインAヒドロキノン、パニセインC、パニセインB3及びパニセインB2の少なくとも1つと組み合わせて使用される。
【0077】
特定のメラノーマは、ダカルバジン(DTIC);シスプラチン;B−Raf阻害剤(PLX4032又はベムラフェニブ);ソラフェニブ及び/又はテモゾロミド;電気化学療法;又はTNFアルファ、特に高用量のTNFアルファによる分離式肢灌流を用いて従来法で処置されるメラノーマである。特定の実施態様において、メラノーマは、前述の細胞毒性における通常療法に耐性のメラノーマである(Jahnke et al. 2014)。
【0078】
特定の乳ガンは、アントラサイクリン、タキサン、ハーセプチン、抗PARP(ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ)、抗PI3K(ホスホイノシチド3−キナーゼ)、mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mammalian Target of Rapamycin))阻害剤、ナベルビン、ゲムシタビン、抗エストロゲン剤、抗アロマターゼ剤、及び/又はTLR−3リガンドを用いて従来法で処置される乳ガンである。特定の実施態様において、乳ガンは、前述した細胞毒性における通常療法に耐性の乳ガンである(Fonseca et al. 2014)。
【0079】
特定の甲状腺ガンは、放射性ヨウ素又はチロシンキナーゼ阻害剤、好ましくはRET阻害剤で処置される甲状腺ガンである。特定の実施態様において、甲状腺ガンは、前述した細胞毒性における通常療法に耐性の甲状腺ガンである(Ma et al. 2014)。
【0080】
特定の前立腺ガンは、タキサン用いて従来法で処置される前立腺ガンである。特定の実施態様において、前立腺ガンは、タキサンに耐性の前立腺ガンである(Parks et al. 2014)。
【0081】
特定の結腸ガンは、OXP及び/又は5−フルオロウラシル(5 FU)とフォリン酸との組み合わせを用いて従来法で処置される結腸ガンである。特定の実施態様において、結腸ガンは、前述した細胞毒性における通常療法に耐性の結腸ガンである(Kolosenko et al. 2014)。
【0082】
特定の転移性大腸ガンは、5 FU及びOXP又はイリノテカンを用いて従来法で処置される転移性大腸ガンである。
【0083】
特定の直腸ガンは、CDDP及び/又は5 FUを用いて従来法で処置される直腸ガンである。特定の実施態様において、直腸ガンは、前述した細胞毒性における通常療法に耐性の直腸癌腫である(Fan et al. 2013)。
【0084】
特定の食道ガンは、CDDPを用いて処置される食道ガン、典型的にはCDDPに耐性の食道ガンである。
【0085】
特定の肺ガンは、プラチナ(platine)又はペメトレキセド(Alimta(登録商標))を用いて従来法で処置される肺ガンである。
【0086】
特定の初期段階の非小細胞肺ガン(NSCLC)は、CDDP及び/又はエトポシドを用いて、或いはタキサン及びアバスチン[抗VEGF(血管内皮増殖因子)抗体]を用いて従来法で処置されるNSCLCである。
【0087】
特定の実施態様において、肺ガンは、前述の細胞毒性における通常療法に耐性のNSCLCである(Cheng and Chen 2014)。
【0088】
特定の骨肉腫は、アントラサイクリン、イマチニブ(Gleevec(登録商標))を用いて従来法で処置される。特定の実施態様において、骨肉腫は、前述の細胞毒性における通常療法に耐性の骨肉腫である(Duan et al. 2014)。
【0089】
特定の神経芽細胞腫は、アントラサイクリン又はアルキル化剤を用いて、特に自家骨髄移植又は幹細胞移植に関連して従来法で処置される神経芽細胞腫である。特定の実施態様において、神経芽細胞腫は、アントラサイクリン又はアルキル化剤に耐性である。
【0090】
特定の白血病は、アザシチジンを用いて従来法で処置されるリンパ性白血病又は骨髄性白血病である。特定の実施態様において、白血病は、細胞毒性における通常療法に耐性である(Lehmann-Che et al. 2014)。
【0091】
特定の急性リンパ性白血病は、アントラサイクリン、ビンブラスチン及び/又はビンクリスチンで処置される急性リンパ性白血病、典型的にはアントラサイクリン、ビンブラスチン及び/又はビンクリスチンに耐性の急性リンパ性白血病である。
【0092】
特定の多発性骨髄腫は、アントラサイクリン、ボルテゾミブ、レブリミド、サリドマイド及び/又はアルキル化剤を用いて、特に自家骨髄又は幹細胞移植に関連して従来法で処置される悪性血液疾患である。特定の実施態様において、多発性骨髄腫は、前述の細胞毒性における通常療法に耐性の多発性骨髄腫である(Blotta et al. 2012)。
【0093】
特定の神経膠腫は、テモゾロミド、プロカルバジン、イオムスチン又はメトトレキサートを用いて従来法で処置される、頻発し、かつ破壊的な成人の原発性悪性脳腫瘍である。特定の実施態様において、神経膠腫は、前述の細胞毒性における通常療法に耐性の神経膠腫である。
【0094】
特定のグリア芽細胞腫は、テモゾロミドを用いて従来法で処置されるグリア芽細胞腫である。特定の実施態様において、グリア芽細胞腫は、細胞毒性における通常療法に耐性である(Wu et al. 2014)。
【0095】
特定の副腎皮質癌腫は、化学療法剤(エトポシド、ドキソルビシン及びシスプラチン)と抗アドレナリン作用物質(ミトナン)との組み合わせを用いて従来法で処置される稀な細胞癌腫である。特定の実施態様において、副腎皮質癌腫は、細胞毒性における通常療法に耐性である。
【0096】
特定の膵臓ガンは、ゲムシタビンを用いて従来法で処置される膵臓ガンである。特定の実施態様において、膵臓ガンは、前述の細胞毒性における通常療法に耐性である(Zhu et al. 2012)。
【0097】
特定の卵巣ガンは、シスプラチンのようなプラチナベースの化学療法を用いて従来法で処置される卵巣ガンである。特定の実施態様において、卵巣ガンはプラチナベースの化学療法に耐性である(He et al. 2014)。
【0098】
本開示は更に、医薬組成物又は医薬を調製するための、先で定義したとおりの本発明の化合物(開示された実施態様のいずれかを含む)の使用に関し、該組成物は、それを必要とする対象においてガン処置又はガン治療の効率を向上させることを可能にする。本発明の化合物は、特に、対象においてガンを処置するために、ガン転移を予防するために、及び/又はガン再発を予防するために、少なくとも1つの化学療法薬又は任意の他の処置上活性な化合物と組み合わせて有利に使用することができる。
【0099】
したがって、好ましい医薬組成物は、組み合わせ製剤として、ガンの処置において使用される少なくとも1つの薬物、典型的には本明細書に記載の少なくとも1つの化学療法薬、又は任意の他の処置上活性な化合物を、該ガンの処置において、同時、別々又は逐次の使用のために含む。
【0100】
その他の処置上活性な化合物は、例えば、スタチン、Smoothened受容体のアンタゴニスト及びGLI1転写因子のアンタゴニストから選択され得る。
【0101】
(i)ガンを予防又は処置する方法、(ii)化学療法剤に対するガンの感受性を増加させる方法、及び(iii)化学療法剤においてガンの耐性を低下させる方法であって、該方法の各々が、それを必要とする対象に、有効量の、開示された実施態様のいずれかを含む先に定義されたとおりの少なくとも1つの式(I)の化合物又は先に定義されたとおりの医薬組成物を、好ましくは、本明細書に記載されているようなガンの予防又は処置において古典的に使用される化学療法薬と一緒に(併用製剤として)投与することを含む方法も本明細書に記載されている。
【0102】
別の特定の実施態様において、前記方法は更に、ガン又はガン処置における副作用を予防又は処置するための、有効量の別の処置上活性な化合物を投与することを含む。
【0103】
「処置」とは、ガンの治癒的処置を意味する。治癒的処置は、ガンを完全に処置(治癒)する又は部分的に処置する(腫瘍増殖の安定化、遅延又は退行を誘導する)処置として定義される。
【0104】
本明細書で使用する場合、「処置有効量又は用量」とは、対象、好ましくはヒトにおいて、ガンを予防、除去、遅らせるか、或いは、該疾患によって引き起こされる又は関連する1つ若しくはいくつかの症状又は障害を減少させるか遅延させる、本発明の化合物の量を指す。本発明の化合物及びその医薬組成物の、有効量、より一般的には投薬レジメンは、当業者によって決定及び適応され得る。有効量は、従来の技術の使用によって、及び類似の状況下で得られた結果を観察することによって、決定され得る。本発明の化合物の処置有効用量は、処置又は予防される疾患、その重大さ、投与経路、関与する任意の併用療法、患者の年齢、体重、全身の医学的状態、病歴などに応じて変化する。
【0105】
典型的には、患者に投与される化合物の量は、ヒト患者の場合、体重1kgあたり約0.01〜500mgの範囲であり得る。特定の実施態様において、本発明による医薬組成物は、0.01mg/kg〜300mg/kgの本発明の化合物、例えば25〜300mg/kgを含む。
【0106】
特定の態様において、本発明の化合物は、非経口経路、経口経路又は静脈内(IV)注射によって対象に投与され得る。本発明の化合物又はナノ粒子は、対象に毎日(例えば、1日に1、2、3、4、5、6又は7回)、数日間連続して(例えば2〜10日連続して、好ましくは、3〜6日連続して)投与され得る。該処置は、1、2、3、4、5、6若しくは7週間、又は2週間若しくは3週間ごとに、或いは1、2若しくは3ヶ月ごとに繰り返され得る。或いは、2回の処置サイクルの間に休止期間(例えば1、2、3、4又は5週間)を有してもよい数回の処置サイクルが行われ得る。本発明の化合物又はナノ粒子は、例えば、1週間に1回、2週間に1回又は1ヶ月に1回の単回投与として投与され得る。処置は、1年に1回又は1年に数回繰り返され得る。用量は、当業者によって決定され得る適切な間隔で投与される。選択される量は、投与経路、投与期間、投与時間、選択された式(I)の化合物の排出速度、或いは該化合物と組み合わせて使用される様々な製品の排出速度、患者の年齢、体重及び身体状態並びに患者の病歴、並びに医薬において公知の任意の他の情報を含む多数の要因に依存する。
【0107】
投与経路は、経口又は非経口、典型的には直腸、舌下、鼻腔内、腹腔内(IP)、静脈内(IV)、動脈内(IA)、筋肉内(IM)、小脳内、髄腔内、腫瘍内及び/又は皮内であり得る。医薬組成物は、上記経路の1つ又はいくつかに適応される。医薬組成物は、好ましくは、適切な無菌溶液の注射により若しくは静脈内注入により、又は消化管を介して液体若しくは固体の投与形態で投与される。
【0108】
医薬組成物は、薬学的に適合する溶媒中の溶液として、又は適切な薬学的溶媒若しくはビヒクル中のゲル、油、エマルション、懸濁液若しくは分散液として、或いは当該技術分野において公知の方法で固体のビヒクルを含有するピル、錠剤、カプセル剤、散剤、坐剤などとして、可能であれば持続放出及び/又は遅延放出を付与する剤形若しくはデバイスを介して、製剤化され得る。このタイプの製剤では、セルロース、脂質、炭酸塩又はデンプンのような剤が有利に使用される。
【0109】
製剤(液体及び/又は注射用及び/又は固体)中で使用され得る剤又はビヒクルは、賦形剤又は不活性ビヒクル、すなわち薬学的に不活性及び非毒性のビヒクルである。
【0110】
薬学的使用に適合し、かつ当業者に公知の、例えば、生理食塩の、生理学的な、等張の及び/又は緩衝化された溶液が挙げられ得る。組成物は、分散剤、可溶化剤、安定剤、防腐剤などより選択される1つ以上の剤又はビヒクルを含み得る。
【0111】
特定の例は、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、シクロデキストリン、ポリソルベート80、マンニトール、ゼラチン、ラクトース、リポソーム、植物又は動物油、アラビアゴムなどである。好ましくは、植物油が使用される。
【0112】
経口投与に適した本発明の製剤は、各々が所定量の活性成分を含有する、カプセル剤、サッシェ剤(sachets)、錠剤又はロゼンジ剤(lozenges)として別個の単位の剤形で;散剤又は顆粒の剤形で;水性液剤又は非水性液剤中の溶液又は懸濁液の剤形で;或いは水中油型エマルション又は油中水型エマルションの剤形であり得る。
【0113】
非経口投与に適した製剤は、好都合には、好ましくはレシピエントの血液と等張である活性成分の無菌油性又は水性製剤を含む。またこのような製剤はすべて、他の薬学的に適合性があり、かつ非毒性の補助剤、例えば、安定化剤、抗酸化剤、結合剤、着色剤、乳化剤又は香味物質を含むことができる。
【0114】
したがって、本発明の製剤は、薬学的に許容し得る担体及び含まれてもよい他の処置成分と共に、活性成分を含む。担体は、該製剤のその他の成分と適合し、そのレシピエントに有害ではないという意味で「許容可能」でなければならない。医薬組成物は、有利には、適切な無菌溶液の注射若しくは静脈内注入によって、又は消化管を経由する経口投与として適用される。これらの化学療法剤の大部分を安全かつ有効に投与するための方法は、当業者に公知である。加えて、それらの投与は標準的な文献に記載されている。
【0115】
本発明の別の目的は、別個の容器に入った本発明による少なくとも1つの式(I)の化合物及び好ましくは少なくとも1つの化学療法薬を含むキットである。キットは更に、本明細書に記載の方法のいずれかを実施するための、例えば、対象においてガンを予防又は処置するため、ガン転移を予防又は処置するため、及び/又はガン再発を予防又は処置するための、本発明による組成物を調製するための説明書を含むことができる。
【0116】
特定の実施態様において、本発明は、本明細書に記載の組成物を調製するための本発明によるキットの使用に関する。
【0117】
別の特定の実施態様において、キットは、本明細書に記載の方法のいずれかを、特に、対象においてガンを処置するための、ガン転移を予防するための、及び/又はガン再発を予防するための方法を実施するのに適している。
【0118】
本発明の更なる態様及び利点は、以下の実験の部で開示されるが、これは例示に過ぎないとみなされるべきである。
【実施例】
【0119】
生物学的材料
ムラサキカイメンムコサの標本は、2013年2月〜5月に、ラード ド ヴィルフランシュ−シュル−メール(the rade de Villefranche-sur-Mer)(フランス)の人目につかない洞穴又は洞窟で20又は40mの深さの範囲で潜水用呼吸装置(SCUBA diving)を使用して手で収集し、使用するまで凍結した。
【0120】
ヒトメラノーマ細胞株MEWO及びA375は、ATCCから購入したもので、MDA−MB−435は、C. Vandierから入手し、それは元々ATCCから購入したものである。3つの細胞株を、10%FBS、100U/mLペニシリン及び100mg/mLストレプトマイシンを補充したDMEM培地中で、5%CO/95%空気の水を飽和させた(water-saturated)雰囲気中、37℃で増殖させた。
【0121】
K699サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)酵母株(R. Arkowitzより親切に寄贈されたMata、ura3及びleu 2−3)を、pYEP−hPtc−MAP(ヒトPatched過剰発現)、pYEP−mMyo−MAP(コントロ−ル)又はpYEP−hPtcG509VD513Y−MAP(変異Patched発現)発現ベクターで形質転換し、600nmでのODが5〜7になるまで、記載されている(Bidet et al. 2011)ように18℃で増殖させた。
【0122】
スクリーニング試験1:ドキソルビシンに対するPatched発現酵母の耐性への海綿体抽出物の効果。
ヒトPatchedを発現するサッカロマイセス・セレビシエを、最小培地(ロイシン不含の、グルコースとアミノ酸との混合物2%を補充)10mL中で30℃にて増殖させた。対数期(OD600=5〜7)が得られたとき、酵母を同じ培地中でOD600=1〜2まで前培養した。次いで酵母を、96ウェルプレート中、グルコース2%を含有する富栄養培地で希釈した。メタノール画分又は精製画分(最終濃度10μg/mL)をすべてのウェルに添加し、ドキソルビシン(最終濃度10μM)を半分のウェルに添加した。プレートをシェーカー(マイクロタイタープレートシェーカーSSL5 Stuart)上、1250rpmで18℃にてインキュベートし、600nmでの吸光度を約72時間記録した。
【0123】
スクリーニング試験2:ドキソルビシンの細胞毒性に対する海綿体画分の効果。
メラノーマ細胞MDA−MB−435、Mewo及びA375を、96ウェルプレートに播種し、60%〜70%コンフルエンスに達するまで、DMEM完全培地で48時間増殖させた。次いで、培地を除去し、既定濃度の関心ある化合物又はコントロールとしてDMSOを含有するDMEM完全培地100μL/ウェルと交換した。2時間後、ドキソルビシンを含有するDMEM完全培地100μLを半分のウェルに添加して、2μMドキソルビシンを得た。プレートを5%CO2/95%空気の水を飽和させた雰囲気下で37℃にてインキュベートした。24時間後、マイクロプレートを、100μL/ウェル(wells)のニュートラルレッド(NR)溶液(DMEM中50μg/mL)と共に37℃で3時間インキュベートした。PBSで4℃にて急速洗浄した後、マイクロプレートを、吸い取り紙の上で穏やかに数回タップした。細胞を、1%酢酸、49%HO、50%エタノールを含有する100μLの溶液で、700rpmで3分間ボルテックスして可溶化し、600nmでの吸光度を測定した。Regressiソフトウェアを用いてEC50を計算した。
【0124】
タンパク質の定量化
タンパク質濃度は、Bio-Radキットを使用してBradford法によって決定した。
【0125】
SDS−PAGE及びウエスタンブロッティング
メラノーマ細胞由来の全抽出物を調製した。試料を8%SDS−PAGEで分離し、標準的な技術を用いてニトロセルロース膜(Amersham)にトランスファーした。ブロッキング緩衝液(20mmol/L トリス−HCl pH7.5、450mmol/L NaCl、0.1%Tween-20及び4%脱脂乳)中で室温にて1時間後、ニトロセルロース膜を、ウサギ抗Patched抗血清(Ab130.6 1:1000 M. Ruatからの寛大な贈り物、又はAbcamからのAb39266 1/1000)及びモノクローナルマウス抗βチューブリン抗体(Sigma;1/1000)と共に4℃で一晩インキュベートした。3回洗浄した後、膜を、西洋ワサビペルオキシダーゼに結合した抗マウス(1:5000)又は抗ウサギ(1:3000)免疫グロブリン(Dako)と共に45分間インキュベートした。検出は、Las3000(Fuji)でECLキット(Millipore)を用いて行った。
【0126】
薬剤排出の測定
メラノーマ細胞において:メラノーマ細胞にドキソルビシンを取り込ませるために、プロトコルはBidetら(2012)のものを適用した。細胞を12ウェルプレート中のカバーガラス上に播種し、80%コンフルエンスまで増殖させた。カバーガラスを、生理緩衝液(140mM NaCl、5mM KCl、1mM CaCl2、1mM MgSO4、5mMグルコース、20mM HEPES、pH7.4)中のドキソルビシン(10μM)と共に37℃で2時間インキュベートし、リン酸緩衝液(pH7.4)で迅速に濯いだ。各細胞株の1つのカバーガラスを直ちに、ドキソルビシンの負荷コントロールのために4%パラホルムアルデヒド(Sigma)で10分間固定した。その他のカバーガラスを、DMSO又は10μMのパニセインを補充した生理的緩衝液と共に37℃で穏やかに振盪しながら30分間インキュベートし、直ちに4%パラホルムアルデヒドで固定した。カバーガラスを、対物レンズ40×及びAlexa 594プローブ用のフィルターを使用する落射蛍光顕微鏡によって観察した。ドキソルビシンの細胞内蛍光の定量化は、各条件について3つの異なるフィールドの30個以上の細胞についてImage Jソフトウェアを用いて行った。P<0.05で有意性に達するスチューデントt検定を用いて結果を分析した。
【0127】
酵母において:Patched(hPtc)を発現する酵母、変異体Patched(hPtcG509VD513Y)を発現する酵母又はコントロール酵母を、冷水で洗浄し、5mMの2−デオキシ−D−グルコースを補充したHepes−NaOH緩衝液(pH7.0)にOD600が10になるように再懸濁し、10μMのドキソルビシンと共に低温室中4℃で2時間、光から保護された回転ホイール上でインキュベートした。酵母を遠心分離し、上清を除去した。1つの試料を、ドキソルビシン添加コントロールのために4%パラホルムアルデヒドで直ちに固定した。その他の試料を、DMSO又は10μMのパニセインを補充した5mMの2−デオキシ−D−グルコースを含有するHepes−NaOH緩衝液(pH7.0)に再懸濁し、光から保護されたBenchmark Multi-therm shakeで穏やかに振盪しながら20℃で10分間インキュベートした。試料を18,000gで1分間遠心分離し、上清を除去し、酵母を4%パラホルムアルデヒドで固定した。10μLの各試料をカバーガラス上に置き、対物レンズ63×及びAlexa 594用のフィルターを使用する落射蛍光顕微鏡によって観察した。ドキソルビシンの細胞内蛍光の定量化は、各条件について3つの異なるフィールドの30個以上の細胞についてImage Jソフトウェアを用いて行った。P<0.05で有意性に達するスチューデントt検定を用いて結果を分析した。
【0128】
結果
ムラサキカイメンムコサメタノール画分は、ドキソルビシン対するPatched発現酵母の耐性を阻害する物質を含有する。
発明者らは、96ウェルプレート中、既述(Bidet et al., 2011, 2012)のように、形質膜にヒトPatchedを発現する酵母の出芽酵母を培養した。ムラサキカイメンムコサ粗抽出物のメタノール画分を調製し、10mg/mLでDMSOに溶解し、ドキソルビシン(dxr)を補充した、又は補充していない酵母培地に10μg/mLの最終濃度で添加した。既に報告されている(Bidet et al., 2012)ように、ヒトPatchedは、広範囲のガンを処置するために使用されるアルキル化剤であるdxrによる増殖阻害に対する耐性を付与する(図2B)。ムラサキカイメンムコサ由来のメタノール画分は、それ単独(dxrの非存在)で酵母の増殖に対する影響が小さく、dxrの存在下ではhPtc発現酵母の増殖を有意に阻害する(図2B)。このことは、ムラサキカイメンムコサ由来のメタノール画分が、Patched過剰発現酵母のdxrに対する耐性を阻害できる化合物を含有していることを示唆している。
【0129】
次いで、ムラサキカイメンムコサ由来のメタノール画分を、分取C18逆相HPLCにより精製して、9種類の化合物(P1〜P9)を得た(図2C)。精製画分を、dxrの存在下又は非存在下で酵母増殖培地に添加した(図2D)。これらの画分のうちの5つは、Patched発現酵母のdxrに対する耐性を強力に阻害することができた:P2、P3、P5、P6及びP7。酵母増殖に対するP4及びP9の効果はより低かった。
【0130】
1 H NMRスペクトルは、これらの化合物のうちの4つの同定を可能にし、それらの純度を確認した。これらの化合物は、パニセインファミリーのメンバーである:パニセイン−C(P2)、パニセイン−B3(P3)、パニセイン−B2(P4)及びパニセイン−A−ヒドロキノン(P5)(図3)。
【0131】
ムラサキカイメンムコサから精製したパニセインは、メラノーマ細胞に対するドキソルビシンの細胞毒性を増加させる。
ムラサキカイメンムコサ抽出物から精製したパニセインのdxr細胞毒性に対する効果を評価するために、3つのメラノーマ細胞株を選択した。MDA−MB−435細胞は、M14メラノーマ細胞株に由来し、ガン転移を研究するために使用される(Rae et al., 2007)。メラノーマ転移部位(リンパ節組織)に由来するMeWo細胞株及びヒト悪性メラノーマに由来するA375細胞株は、そして、BRAF V600E変異を有する。これらの3つの細胞株は、ウエスタンブロッティング(図4A)及びPatched抗体を用いる免疫蛍光標識(図4B)によって示されるように、Patchedタンパク質を過剰発現し、かつ転移能を有することが公知である。
【0132】
細胞生存率測定前に、細胞をパニセイン、及びdxr有り又無しで24時間処理した(図5)。結果は、化合物P2、P3及びP4が、dxrによって誘導されるMDA−MB−435及びMeWoに対する細胞死亡率を約2倍増加させるが、A375に対しては効果を及ぼさないことを示す。P5は、MDA−MB−435及びMeWoに対するdxr細胞毒性を約5〜8倍、そしてA375に対するdxr細胞毒性を2倍増加させる。P5は、MDA−MB−435、MeWo及びA375細胞について、それぞれ9.3μM、5μM及び22.5μMで50%のdxr細胞毒性増強を誘導する。アネキシンV及びDAPI標識は、化合物P5が早期アポトーシスを増加させることを示している(図10)。
【0133】
パニセインAヒドロキノン又はDMSOで24時間処理したMEWO又はA375細胞について実施したウェスタンブロット分析は、パニセインAヒドロキノンが、これらの細胞におけるPatched発現又は分解に効果がないことを示した(図11)。
【0134】
パニセインはドキソルビシン排出を阻害する。
カバーガラス上で増殖させたメラノーマ細胞にdxrを添加し、固定(添加コントロール用)し、又はDMSO(排出コントロール)若しくはパニセインを含有する排出緩衝液と共にインキュベートしてから固定し、細胞イメージングを用いて分析した(図6A及び12A)。細胞におけるdxr蛍光強度は、実験によって少なくとも30細胞について定量化され、かつ、「健常な」ケラチノサイトHaCaTとは対照的に、化合物P5の存在が、A375及びMeWo細胞中へのdxrを有意に(約25%)増加させたことを示している。これらの結果は、パニセインAヒドロキノンがメラノーマ細胞からのドキソルビシン排出を阻害することを示唆している。
【0135】
パニセインがPatched阻害によりdxr排出を阻害するかどうかを確かめるために、発明者らは、ヒトPatchedを過剰発現する酵母及びコントロール酵母におけるdxr排出を比較した。dxrを添加した後、酵母を遠心分離し、dxr添加コントロール(LC)のために固定し、又は排出測定のためにDMSO若しくはパニセインを補充した緩衝液中に再懸濁した。20℃で10分後、酵母を回収して固定し、カバーガラス上に置いた。ATP結合カセット(ABC)トランスポーターを阻害するために、添加及び排出の間に、緩衝液に2−デオキシ−D−グルコースを加えた。少なくとも30個の酵母のdxr蛍光強度を各実験について測定した。図6A及び12Aは、3つの独立した実験の平均蛍光強度を示す。Patchedのdxr排出活性によって、コントロール緩衝液(DMSO含有)中、排出後のhPtc発現酵母で測定したdxr蛍光は、コントロール酵母で測定したものより有意に低かった(Bidet et al., 2012)。排出中に化合物P4及びP5と共にインキュベートしたhPtc発現酵母は、コントロール酵母とは対照的に有意に高いdxr蛍光量を示し(図6B及び12B並びに表2)、このことは、これらの化合物がPatchedのdxr排出活性を有意に阻害できることを示唆している。これは、Patched変異体VXXXYを過剰発現する酵母を用いて確認された。Patchedは、その推定第4膜貫通セグメントにモチーフGXXXD(ニーマン・ピック(Niemann-Pick)疾患タンパク質(NPC1)において高度に保存されている)及びAcrBのようなRNDファミリーの多くの細菌性MDRトランスポーターを保持する(Bidet et al., 2012)。hPtcVXXXYは、509位のグリシンがバリンによって置き換えられ、513位のアスパラギン酸がチロシンによって置き換えられた二重変異を有する。hPtcVXXXYを過剰発現する酵母は、野生型hPtcを過剰発現する酵母よりもdrxによる増殖阻害に対する耐性が低い(Bidet et al., 2012)。先の観察によれば、変異体タンパク質hPtcVXXXYを発現する酵母は、野生型hPtcを発現する酵母よりも、排出後に有意に多くのdxrを含んでいた(図6B)。hPtcVXXXY酵母におけるdxrの量は、コントロール酵母におけるdxrの量と同等であり、hPtcがdxrを細胞外に輸送することを確信させる。野生型hPtcを発現する酵母とは反対に、hPtcVXXXYを発現する酵母では、排出緩衝液中のパニセインの存在は、dxr含量を増加させなかった(図6B及び12B、表2)。これらの結果は、パニセインがPatchedのdxr排出活性を阻害するという仮説を支持する。
【0136】
【表2】
【0137】
パニセインAヒドロキノンは、AcrB構造及びPatched構造モデルの両方でドキソルビシン結合部位の近くに強力なドッキングクラスターを示す。
Murakamiら(2006)によって、大腸菌におけるRNDファミリー由来の主要多剤排出トランスポーターであるAcrBの結晶構造が、ドキソルビシンの有り及び無しで記載された。AcrB−薬物複合体は、3つのプロトマーからなり、それらの各々は、輸送サイクルの3つの機能状態のうちの1つに対応する異なるコンフォメーションを有する。結合した基質は、3つのプロトマーのうちの1つのペリプラズムドメインに見出された。大量の結合ポケットは芳香族であり、マルチサイト結合を可能にする。
【0138】
Isabelle Broutin(Laboratoire de Cristallographie et RMN Biologiques, UMR 8015 CNRS, Faculte de Pharmacie Paris V France)は、化合物P2及びP5のAcrB−dxr構造へのドッキングを行った。この分析は、多くのクラスターにおけるP2結合について低い蓋然性を示し、より興味深いことに、dxr結合部位に近いクラスターにおけるP5の結合の高い蓋然性を示す。次いでIsabelle Broutinは、AcrB構造からPatchedの構造のモデルを実現化し、化合物P2とP5とのドッキングを実施して、AcrB構造上のドッキングに関して報告された結果と同じ結果を得た(図7)。
【0139】
この分析は、パニセインAヒドロキノンがPatchedのdxr結合部位の近くに結合し、dxr結合を阻止し得ることを示している。これは、パニセインAヒドロキノンの存在下で観察されたdxr排出の阻害とよく一致している。
【0140】
パニセインはまた、Patched過剰発現によって酵母に付与されたダカルバジン及びシスプラチンに対する耐性を阻害する。
酵母中のヒトPatchedの発現は、ダカルバジン又はシスプラチンのようなメラノーマを処置するために現在使用されている他の化学療法剤の存在下で増殖する能力を、これらの酵母に付与する。発明者らの結果は、増殖培地中の化合物P2、P3又はP5の存在が、ダカルバジン、シスプラチン及びベムラフェニブに対する酵母の耐性を阻害することを示す(図8)。
【0141】
結論
本発明者らの結果は、地中海海綿体ムラサキカイメンムコサから精製したいくつかのパニセイン、特にパニセインAヒドロキノンがインビトロでメラノーマ細胞に対するドキソルビシン細胞毒性を増強できることを初めて示す。排出測定は、パニセインがPatchedのdxr排出活性を阻害することを強力に示唆している。この仮説は、パニセインAヒドロキノンがdxr結合部位の近くで結合する高い蓋然性を有することを示している、大腸菌多剤輸送体AcrBの構造及びPatchedの構造モデルで実現されたドッキングによって支持される。これは、パニセインAヒドロキノンのPatchedへの結合がdxr排出を阻止することを示す。これらの結果はまた、パニセインが、ダカルバジン、シスプラチン及びベムラフェニブのようなメラノーマを処置するために現在使用されている他の化学療法剤に対するPatchedによって付与された耐性を阻害できることを示す。
【0142】
参考文献
【表3】




図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10-1】
図10-2】
図11
図12-1】
図12-2】