【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のために、第1の態様において、本発明は、1種以上の合金元素が存在するチタン基合金であって、以下の条件:
【数1】
を満たし、
Mo
eqが、モリブデン当量として表される合金中のβ安定化元素の重量含有率を示し、
ただし、
【数2】
であり、式中、
【数3】
が、元素iの価電子の数であり、x
iが、合金中の元素iのモル分率であり、合計が、合金中に存在するすべての元素を合わせるようになされており、Boが、チタンと合金元素との共有結合の平均結合次数を示し、Mdが、チタンと合金元素との共有結合に対応するd軌道の平均エネルギー準位をeVで示す、
チタン基合金を提供する。
【0007】
「チタン基合金」という用語は、チタンが合金の母材を構成すること、すなわち、合金が50%以上、例えば60%以上、例えば70%以上、例えば80%以上の重量含有率のチタンを含むことを意味すると理解すべきである。
【0008】
量Mo
eqは、次式:
Mo
eq=ΣMo
iz
i
によって与えられ、
式中、z
iが、合金中の合金元素iの重量分率であり、Mo
iが、Moのベータ安定化係数で割った合金元素iのベータ安定化係数の比に相当し、重量分率の合計が、合金中に存在する合金元素のすべてを合算したものである。したがって、合計は、合金中に存在し得るベータ安定化合金元素とアルファ安定化合金元素との両方に関連しており、これらの合金元素は、負の係数Mo
iを示す。
【0009】
各合金元素については、量Mo
iおよび/またはe
i/a
iが表にされている。以下の表1は、合金元素のいくつかの例についてのこれらの量の値を示す。
【0010】
【表1】
【0011】
Boは、チタンと合金元素との共有結合の平均凝集力を定量化する。より正確には、量Boは、次のように計算される:
Bo=ΣBo
ix
i
式中、x
iが、合金中の元素iのモル分率を示し、合計が、合金中に存在する元素のすべてを合算したものである。下記の表2において、様々な合金元素のBo
iの値が、表にして与えられている。Mdは、チタンと合金元素との相互作用から生じた共有結合に対応するd軌道の平均エネルギー準位を示す。より正確には、量Mdは、次のように計算される:
Md=ΣMd
ix
i
式中、x
iが、合金中の元素iのモル分率を示し、合計が、合金中に存在するすべての元素を合算したものである。下記の表2において、様々な合金元素の値Md
iが、表にして与えられている。
【0012】
【表2】
【0013】
パラメータ
【数4】
、Mo
eq、BoおよびMdは、文献によって公知である。特に、様々な刊行物が、パラメータBoおよびMdをどのように計算するかについて記述している。この論題については、例えば、Abdel−Hadyらによる刊行物「General approach to phase stability and elastic properties of β−type Ti−alloys using electronic parameters」Scripta Materialia 55(2006)pp.477−480、Marteleurらによる刊行物「On the design of new β−metastable titanium alloys with improved work hardening rate thanks to simultaneous TRIP and TWIP effects」、Scripta Materialia 66(2012),pp.749−752およびSunらによる刊行物「Investigation of early stage deformation mechanisms in a metastable β−titanium alloy showing combined twinning−induced plasticity and transformation−induced plasticity effects」、Acta Materialia 61(2013),pp.6406−6417を参照されたい。
【0014】
特に指定がない限り、下記に使用されている合金の化学式において、化学元素の前にある数は、合金中の当該元素の重量含有率%である。例えば、Ti−8.5Cr−1.5Al合金は、8.5%の重量含有率のCrおよび1.5%の重量含有率のAlを含むチタン基合金である。
【0015】
有利なことに、本発明の合金は、度合いの大きな加工硬化、大きな破断荷重、良好な延性をもたらす。上述したパラメータ範囲の選択により、合金を硬化させ、変形モードを活性化することが可能になり、これらの変形モードが、双晶形成機構と、β相をα相に変態させるための機構との関与により、高度の延性を達成できるようにする。
【0016】
本発明の合金においては、双晶誘起塑性(twinning−induced plasticity:TWIP)効果と、変態誘起塑性(transformation−induced plasticity:TRIP)効果とが複合し、有利に活性化される。本発明の結果として、マルテンサイト変態機構と双晶形成機構およびすべり機構とを同時に活性化できるようにする上記パラメータに基づいて規定された、特定の合金を選択することになる。
【0017】
特に、本発明の合金は、これらの現象の活性化により、特に高い(500メガパスカル(MPa)超の)弾性限界を維持しながら、約40%の延性を示すことができる。このような性能は、公知のチタン合金の性能に比較して技術的な進歩となる。
【0018】
一実施形態において、合金は、次に列記するものから選択される少なくとも1種の合金元素を含むことができる:Cr、Al、SnおよびV。
【0019】
一実施形態において、合金は、合金元素としてCrおよびAlを含むことができる。
【0020】
一実施形態において、合金は、合金元素としてCrおよびSnを含むことができる。
【0021】
一実施形態において、合金は、合金元素としてVおよびAlを含むことができる。
【0022】
合金は、二元合金または三元合金であってもよい。好ましくは、合金は、Ti−Cr−Al三元合金またはTi−Cr−Sn三元合金に存する。合金は、Ti−V−Al三元合金を構成することもできる。合金は、四元合金、例えばTi−10V−4Cr−1Al合金であってもよい。
【0023】
一実施形態において、合金は、合金元素としてCrおよびAlを含み、合金中のCrの重量含有率は、6%から9%までの範囲、例えば7%から9%までの範囲であり得、合金中のAlの重量含有率は、1%から3%までの範囲であり得る。
【0024】
特に、合金は、次の化学式:Ti−xCr−yAlを有することができ、式中、xが、6から9までの範囲であり、実際に7から9までの範囲であり、yが、1から3までの範囲である。
【0025】
一実施形態において、合金は、合金元素としてCrおよびSnを含み、合金中のCrの重量含有率は6%から9%までの範囲、例えば7%から9%までの範囲であり得、合金中のSnの重量含有率は、1%から5%までの範囲であり得る。
【0026】
特に、合金は、次の化学式:Ti−x’Cr−zSnを有することができ、式中、x’が、6から9までの範囲であり、または実際に7から9までの範囲であり、zが、1から5までの範囲である。
【0027】
特に、本発明の合金は、次の化学式のいずれか1つを有することができる:
Ti−8.5Cr−1.5Al、
Ti−8.5Cr−1.5Sn、
Ti−7.5Cr−1Al、
Ti−7.5Cr−2Al、
Ti−9.5Cr−2Al、
Ti−7Cr−2Snおよび
Ti−13V−2.5Al。
【0028】
一実施形態において、合金中のCrの重量含有率は、7%から9%までの範囲であり得る。
【0029】
本発明は、チタン基合金を含む、タービンエンジン部品であって、合金が、
合金中のCrの重量含有率が、6%から9%までの範囲であり、合金中のAlの重量含有率が、1%から3%までの範囲である、Ti−Cr−Al三元合金または
合金中のCrの重量含有率が、6%から9%までの範囲であり、合金中のSnの重量含有率が、1%から5%までの範囲である、Ti−Cr−Sn三元合金である、タービンエンジン部品をさらに提供する。
【0030】
好ましくは、部品は、タービンエンジンケーシング、例えばタービンエンジン保持ケーシングである。
【0031】
部品は、上記に定義の合金から製造されていてもよい。
【0032】
本発明は、上記に定義の部品を含む、タービンエンジンをさらに提供する。
【0033】
本発明の他の特徴および利点が、非限定的な実施例として与えられた本発明の特定の実施形態に関する下記の記述と添付の図面を参照すれば、明らかになる。