特許第6657240号(P6657240)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6657240チタン基合金を含むタービンエンジン部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6657240
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】チタン基合金を含むタービンエンジン部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20200220BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20200220BHJP
   F01D 25/24 20060101ALI20200220BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20200220BHJP
   C22F 1/18 20060101ALN20200220BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20200220BHJP
【FI】
   C22C14/00 Z
   F01D25/00 L
   F01D25/24 N
   F02C7/00 C
   F02C7/00 E
   !C22F1/18 H
   !C22F1/00 601
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 651B
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 692A
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-542344(P2017-542344)
(86)(22)【出願日】2015年10月28日
(65)【公表番号】特表2018-501409(P2018-501409A)
(43)【公表日】2018年1月18日
(86)【国際出願番号】FR2015052899
(87)【国際公開番号】WO2016066955
(87)【国際公開日】20160506
【審査請求日】2018年9月27日
(31)【優先権主張番号】1460497
(32)【優先日】2014年10月31日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516227272
【氏名又は名称】サフラン・エアクラフト・エンジンズ
(73)【特許権者】
【識別番号】517153077
【氏名又は名称】ティメ・サボワ
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】517153103
【氏名又は名称】エコール・ナショナル・スーぺリウール・ドゥ・シミ・パリ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペルテイエ,ベアトリス
(72)【発明者】
【氏名】ブロジェク,セドリック
(72)【発明者】
【氏名】ミレー,イボン
(72)【発明者】
【氏名】プリマ,フレデリク
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−021507(JP,A)
【文献】 特開平01−111835(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第108677060(CN,A)
【文献】 特開昭62−050435(JP,A)
【文献】 特表2015−523468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
C22F 1/18
F01D 25/00 − 25/30
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン基合金を含む、タービンエンジン部品であって、合金が、
合金中のCrの重量含有率が、6%から9%までの範囲であり、合金中のAlの重量含有率が、1%から3%までの範囲である、Ti−Cr−Al三元合金または
合金中のCrの重量含有率が、6%から9%までの範囲であり、合金中のSnの重量含有率が、1%から5%までの範囲である、Ti−Cr−Sn三元合金
である、タービンエンジン部品。
【請求項2】
合金中のCrの重量含有率が、7%から9%までの範囲であることを特徴とする、請求項1記載の部品。
【請求項3】
タービンエンジンケーシングを構成することを特徴とする、請求項1または2に記載の部品。
【請求項4】
タービンエンジン保持ケーシングを構成することを特徴とする、請求項3に記載の部品。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載の部品を含む、タービンエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された機械的特性を示す新規なチタン合金に関する。
【背景技術】
【0002】
市販のチタン合金は、周囲温度で加工硬化をほとんどまたは全く示さないことが可能であり、さらに、比較的低い(平均で10%から15%までの)延性を示す場合もある。この種の挙動は、機械的強度に関して良好な特性を達成可能にするチタン合金の硬化用として公知の技法に伴うものであるが、この良好な特性の達成と引き換えに、材料の変形可能な度合いが制限され、結果として延性が低下する可能性がある。
【0003】
したがって、公知のチタン合金は、例えば摂取または部品の破断に備えて物品を保管しておく必要性があるケーシング等、可能性として多大な変形を受けることもあり得るが、良好な静的特性を維持した状態のままであることが可能な部品の製造に適した材料にならない。この結果、特定の公知のチタン合金は、チタン合金より格段に重い鋼が好まれるこの種の用途向けとして却下されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Abdel−Hadyら、「General approach to phase stability and elastic properties of β−type Ti−alloys using electronic parameters」Scripta Materialia 55(2006)pp.477−480
【非特許文献2】Marteleurら、「On the design of new β−metastable titanium alloys with improved work hardening rate thanks to simultaneous TRIP and TWIP effects」、Scripta Materialia 66(2012),pp.749−752
【非特許文献3】Sunら、「Investigation of early stage deformation mechanisms in a metastable β−titanium alloy showing combined twinning−induced plasticity and transformation−induced plasticity effects」、Acta Materialia 61(2013),pp.6406−6417
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、加工硬化と延性の両方を高い水準で示す、新規なチタン合金をもたらす必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のために、第1の態様において、本発明は、1種以上の合金元素が存在するチタン基合金であって、以下の条件:
【数1】
を満たし、
Moeqが、モリブデン当量として表される合金中のβ安定化元素の重量含有率を示し、
ただし、
【数2】
であり、式中、
【数3】
が、元素iの価電子の数であり、xが、合金中の元素iのモル分率であり、合計が、合金中に存在するすべての元素を合わせるようになされており、Boが、チタンと合金元素との共有結合の平均結合次数を示し、Mdが、チタンと合金元素との共有結合に対応するd軌道の平均エネルギー準位をeVで示す、
チタン基合金を提供する。
【0007】
「チタン基合金」という用語は、チタンが合金の母材を構成すること、すなわち、合金が50%以上、例えば60%以上、例えば70%以上、例えば80%以上の重量含有率のチタンを含むことを意味すると理解すべきである。
【0008】
量Moeqは、次式:
Moeq=ΣMo
によって与えられ、
式中、zが、合金中の合金元素iの重量分率であり、Moが、Moのベータ安定化係数で割った合金元素iのベータ安定化係数の比に相当し、重量分率の合計が、合金中に存在する合金元素のすべてを合算したものである。したがって、合計は、合金中に存在し得るベータ安定化合金元素とアルファ安定化合金元素との両方に関連しており、これらの合金元素は、負の係数Moを示す。
【0009】
各合金元素については、量Moおよび/またはe/aが表にされている。以下の表1は、合金元素のいくつかの例についてのこれらの量の値を示す。
【0010】
【表1】
【0011】
Boは、チタンと合金元素との共有結合の平均凝集力を定量化する。より正確には、量Boは、次のように計算される:
Bo=ΣBo
式中、xが、合金中の元素iのモル分率を示し、合計が、合金中に存在する元素のすべてを合算したものである。下記の表2において、様々な合金元素のBoの値が、表にして与えられている。Mdは、チタンと合金元素との相互作用から生じた共有結合に対応するd軌道の平均エネルギー準位を示す。より正確には、量Mdは、次のように計算される:
Md=ΣMd
式中、xが、合金中の元素iのモル分率を示し、合計が、合金中に存在するすべての元素を合算したものである。下記の表2において、様々な合金元素の値Mdが、表にして与えられている。
【0012】
【表2】
【0013】
パラメータ
【数4】
、Moeq、BoおよびMdは、文献によって公知である。特に、様々な刊行物が、パラメータBoおよびMdをどのように計算するかについて記述している。この論題については、例えば、Abdel−Hadyらによる刊行物「General approach to phase stability and elastic properties of β−type Ti−alloys using electronic parameters」Scripta Materialia 55(2006)pp.477−480、Marteleurらによる刊行物「On the design of new β−metastable titanium alloys with improved work hardening rate thanks to simultaneous TRIP and TWIP effects」、Scripta Materialia 66(2012),pp.749−752およびSunらによる刊行物「Investigation of early stage deformation mechanisms in a metastable β−titanium alloy showing combined twinning−induced plasticity and transformation−induced plasticity effects」、Acta Materialia 61(2013),pp.6406−6417を参照されたい。
【0014】
特に指定がない限り、下記に使用されている合金の化学式において、化学元素の前にある数は、合金中の当該元素の重量含有率%である。例えば、Ti−8.5Cr−1.5Al合金は、8.5%の重量含有率のCrおよび1.5%の重量含有率のAlを含むチタン基合金である。
【0015】
有利なことに、本発明の合金は、度合いの大きな加工硬化、大きな破断荷重、良好な延性をもたらす。上述したパラメータ範囲の選択により、合金を硬化させ、変形モードを活性化することが可能になり、これらの変形モードが、双晶形成機構と、β相をα相に変態させるための機構との関与により、高度の延性を達成できるようにする。
【0016】
本発明の合金においては、双晶誘起塑性(twinning−induced plasticity:TWIP)効果と、変態誘起塑性(transformation−induced plasticity:TRIP)効果とが複合し、有利に活性化される。本発明の結果として、マルテンサイト変態機構と双晶形成機構およびすべり機構とを同時に活性化できるようにする上記パラメータに基づいて規定された、特定の合金を選択することになる。
【0017】
特に、本発明の合金は、これらの現象の活性化により、特に高い(500メガパスカル(MPa)超の)弾性限界を維持しながら、約40%の延性を示すことができる。このような性能は、公知のチタン合金の性能に比較して技術的な進歩となる。
【0018】
一実施形態において、合金は、次に列記するものから選択される少なくとも1種の合金元素を含むことができる:Cr、Al、SnおよびV。
【0019】
一実施形態において、合金は、合金元素としてCrおよびAlを含むことができる。
【0020】
一実施形態において、合金は、合金元素としてCrおよびSnを含むことができる。
【0021】
一実施形態において、合金は、合金元素としてVおよびAlを含むことができる。
【0022】
合金は、二元合金または三元合金であってもよい。好ましくは、合金は、Ti−Cr−Al三元合金またはTi−Cr−Sn三元合金に存する。合金は、Ti−V−Al三元合金を構成することもできる。合金は、四元合金、例えばTi−10V−4Cr−1Al合金であってもよい。
【0023】
一実施形態において、合金は、合金元素としてCrおよびAlを含み、合金中のCrの重量含有率は、6%から9%までの範囲、例えば7%から9%までの範囲であり得、合金中のAlの重量含有率は、1%から3%までの範囲であり得る。
【0024】
特に、合金は、次の化学式:Ti−xCr−yAlを有することができ、式中、xが、6から9までの範囲であり、実際に7から9までの範囲であり、yが、1から3までの範囲である。
【0025】
一実施形態において、合金は、合金元素としてCrおよびSnを含み、合金中のCrの重量含有率は6%から9%までの範囲、例えば7%から9%までの範囲であり得、合金中のSnの重量含有率は、1%から5%までの範囲であり得る。
【0026】
特に、合金は、次の化学式:Ti−x’Cr−zSnを有することができ、式中、x’が、6から9までの範囲であり、または実際に7から9までの範囲であり、zが、1から5までの範囲である。
【0027】
特に、本発明の合金は、次の化学式のいずれか1つを有することができる:
Ti−8.5Cr−1.5Al、
Ti−8.5Cr−1.5Sn、
Ti−7.5Cr−1Al、
Ti−7.5Cr−2Al、
Ti−9.5Cr−2Al、
Ti−7Cr−2Snおよび
Ti−13V−2.5Al。
【0028】
一実施形態において、合金中のCrの重量含有率は、7%から9%までの範囲であり得る。
【0029】
本発明は、チタン基合金を含む、タービンエンジン部品であって、合金が、
合金中のCrの重量含有率が、6%から9%までの範囲であり、合金中のAlの重量含有率が、1%から3%までの範囲である、Ti−Cr−Al三元合金または
合金中のCrの重量含有率が、6%から9%までの範囲であり、合金中のSnの重量含有率が、1%から5%までの範囲である、Ti−Cr−Sn三元合金である、タービンエンジン部品をさらに提供する。
【0030】
好ましくは、部品は、タービンエンジンケーシング、例えばタービンエンジン保持ケーシングである。
【0031】
部品は、上記に定義の合金から製造されていてもよい。
【0032】
本発明は、上記に定義の部品を含む、タービンエンジンをさらに提供する。
【0033】
本発明の他の特徴および利点が、非限定的な実施例として与えられた本発明の特定の実施形態に関する下記の記述と添付の図面を参照すれば、明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の例示的な合金の位置付けを示す、電子図である。
図2】本発明の例示的な合金の位置付けを示す、電子図である。
図3】本発明のTi−8.5Cr−1.5Al合金においてβ相がα’’相に変態する現象が起きた、「TRIP」効果を示す。
図4A】本発明のTi−8.5Cr−1.5Sn合金における双晶形成現象を示す、写真である。
図4B】本発明のTi−8.5Cr−1.5Sn合金における双晶形成現象を示す、写真である。
図5】本発明の合金の牽引試験の結果を示す、図である。
図6】本発明の合金の牽引試験の結果を示す、図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1および図2は、チタン合金が位置付けられている電子図である。これらの電子図は、合金が応力を受けたときに起きる変形機構を示している。
【0036】
Boは、図1および図2の電子図の縦軸に、上方に向かってプロットされている。上記のように、Boは、チタンと合金元素との共有結合の平均凝集力を定量化する。
【0037】
Mdは、図1および図2の電子図の横軸に沿ってプロットされている。上記のように、Mdは、チタンと合金元素との相互作用から生じた共有結合に対応するd軌道の平均エネルギー準位を明示する。
【0038】
図1および図2に提示された電子図は、すべり、双晶形成および応力誘起マルテンサイト(stress induced martensitic:SIM)変態という相異なる変形機構の発生に対応する、様々な領域を示している。
【0039】
示されているように、本発明の様々な例示的合金は、図1および図2の電子図において、双晶形成現象の活性化に対応する区域中で位置付けされている。例えば、本発明の合金は、
【数5】
を有することが可能である。
【0040】
図3は、本発明の合金中においてβ相から得られたα’’相(応力を加えたときにβ相をα’’相に変態させる機構の活性化)を示す、写真である。このような相変態の活性化は、高い延性を得るために有利である。図4Aおよび図4Bは、本発明の合金において達成される双晶形成現象の活性化を示しており、この双晶形成現象も同様に、高い延性の達成に寄与する。
【0041】
図5は、Ti−8.5Cr−1.5Al合金について得られた牽引試験の結果を示している。この合金の場合、e/a=4.129およびMoeq=12.1である。この合金は、約40%の高い延性、1150MPaの破壊荷重を示しており、高い弾性限界を維持している。Moeq=13.6およびe/a=4.16であるTi−8.5Cr−1.5Sn合金の場合も、同様の結果が得られた(図6を参照)。牽引試験は、周囲温度において、50ミリメートル(mm)の長さ、0.5mmの厚さおよび5mmの幅を有する試験片を10−3−1の速度で変形させて実施された。
【0042】

Ti−8.5Cr−1.5Al合金のインゴットを、スポンジ様のチタン元素、クロム粒子およびアルミニウム粉末を圧縮し、次いでアーク溶解技法を用いて製造した。圧縮された混合物においては、次の重量含有率を採用した:90重量%のTi、8.5重量%のCrおよび1.5重量%のAl。次いで、0.5mmの厚さを有するシートを得るためにインゴットを変形させた。シートを、ベータ領域中において900℃で熱処理し、続いて急冷した。牽引試験用の平らな小片をシートから切り出し、図5に関して上述した牽引試験のときに使用した。
【0043】
「含む/含有する」という用語は、「少なくとも1つを含む/含む」と理解すべきである。
【0044】
「・・・から・・・までの範囲である」という用語は、境界を含むものとして理解すべきである。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6