【文献】
European neuropsychopharmacology,2006年 9月,Vol.16, Suppl.4,S305, P.2.b.008
【文献】
Dialogues in Clinical Neuroscience,2008年,Vol.10, No.3,p.329-336
【文献】
Current Pharmaceutical Design,2006年,Vol.12,No.20,p.2473-2486
【文献】
Naunyn-Schmiedeberg's Arch Pharmacol,2008年,Vol.376,p.351-361
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書に包含される開示において、式Iの化合物は、うつ病および/またはうつ病の1以上の症状を治療するために有用な特性を有することが示されている。従って、うつ病のさまざまな側面を治療する方法および組成物が、本明細書に包含される。
【0016】
本開示の目的は、ヒト対象においてうつ病の少なくとも1つの症状を治療または軽減する方法であって、式(I)の化合物または医薬として許容されるこの塩、水和物もしくは溶媒和物を含む組成物の治療有効量を、これを必要とする対象に投与するステップを含む方法を提供することである。さらに本開示の目的は、ヒト対象においてうつ病の少なくとも1つの症状を治療または軽減するための組成物であって、式(I)の化合物または医薬として許容されるこの塩、水和物もしくは溶媒和物を含み、これを必要とする対象に投与するステップを含む組成物を提供することである。本開示のさらなる目的は、ヒト対象を含む対象において少なくとも1つの睡眠の障害またはパラメータを治療または改善する組成物および方法であって、式(I)の化合物または医薬として許容されるこの塩、水和物もしくは溶媒和物を含む組成物の治療有効量を、これを必要とする対象に投与するステップを含む組成物および方法を提供することである。
【0017】
本明細書にこの全体が参照により組み込まれる米国特許第6,720,320号は、5−HT
1A受容体に対する選択的親和性および拮抗活性ならびに5−HT再取り込み阻害活性を有するフェノキシプロピルアミン化合物および誘導体を開示している。当該特許に開示の特定の化合物は、速効性の抗うつ活性をさらに実証している。このような化合物は、5−HT
1A受容体に対する拮抗活性および/または5−HT再取り込みの阻害により、治療的および/または予防的に処置可能な疾患の治療に有用であり得る。しかし、具体的な誘導体の特定の特性および特徴は、米国特許第6,720,320号には開示されなかった。特に、米国特許第6,720,320号は、経口投与の場合の記載のフェノキシプロピルアミン化合物の一般的一日量が、0.5−10mg/kg、好ましくは1−5mg/kgであることを述べている。選択された障害の有効な治療は、ほぼ0.001mg/kgの経口用量により行うことができることが本発明において予期せず観察された。
【0018】
本明細書に包含される開示の目的に関して、「気分障害」という用語は、精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)、第5版、2000年(「DSM−IV−TR」)において気分障害として定義される病態を包含するものとして理解され、この内容は参照により本明細書に組み込まれる。より具体的には、本明細書に包含される開示に従って治療される気分障害としては、抑うつ症状、例えば、抑うつ気分、興味と喜びの喪失、食欲不振、睡眠障害、精神運動の変化、疲労、無価値感、集中力の低下または死について考えることなどの2つ以上の発症を伴う気分障害が挙げられ、この症状は通常長期にわたって示される。ある実施形態において、式Iの化合物は、大うつ病エピソード(Major Depressive Episode)を伴うとしてDSM−IV−TRにおいて定義される病態、即ち、即ち、2週の期間に、治療される個体が、抑うつ気分または興味もしくは喜びの喪失のいずれかを示し、上記のリストから少なくとも4つのさらなるうつ症状を伴う病態を治療するために使用される。このような病態の例としては、大うつ病性障害、I型双極性障害およびII型双極性障害が挙げられる。別の実施形態において、治療される病態は、必ずしも大うつ病エピソード(Major Depressive Episode)のレベルまで上がらないうつ症状、例えば気分変調性障害、特定不能うつ病性障害(Depressive Disorder Not Otherwise Specified)、気分循環性障害、特定不能双極性障害(Bipolar Disorder Not Otherwise Specified)、一般的身体疾患による気分障害(Mood Disorder Due to a General Medical Condition)および物質誘発性気分障害(Substance−Induced Mood Disorder)などにより特徴付けられる。別の実施形態において、式Iの化合物は、定義された障害としてDSM−IV−TRにより特徴付けられていない孤立した大うつ病エピソード(Major Depressive Episode)、例えば、出産後のうつ病および気分障害として形式的に分類されない精神状態を伴ううつ症状、例えば、統合失調感情障害(Schizoaffective Disorder)または季節性情動障害(Seasonal Affective Disorder)を治療するために使用可能である。さらに別の実施形態において、式Iの化合物は、2つ以上のうつ症状を経験する個体を治療するために使用可能であり、これらの病態は、大うつ病エピソード(Major Depressive Episode)としてDSM−IV−TRにより特徴付けられない。上記の実施形態はそれぞれ、「うつ病関連気分障害」という用語の中に包含されると理解されるべきである。
【0019】
うつ病を治療するための化合物および方法
ある実施形態において、ヒト対象においてうつ病の少なくとも1つの症状を治療または軽減するための組成物であって、これを必要とするヒト対象に、式(I)の化合物
【0020】
【化1】
[式中、式の各記号は下記を意味し、実線および点線により表される結合は、二重結合または単結合を表し、
Xは、水素原子、ヒドロキシ基、C
1−C
8アルコキシ基、アシルオキシ基またはオキソ基であり、
R
1は、下記の式:
【0021】
【化2】
{式中、
R
5は、場合により置換されたアリール基または場合により置換された芳香族複素環基であり、
Zは、存在しないかまたは−CH
2−であり、および
R
6は、水素原子、ヒドロキシ基、アセトアミド基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基またはC
1−C
8アルコキシ基である。}
の基であり、
R
3は、水素原子、C
1−C
18アルキル基またはハロゲン原子であり、
Vは−O−であり、
Wは存在せず、
R
7は、C
1−C
4ヒドロキシアルキル基、アシル基、場合により置換された飽和もしくは不飽和の複素環基、場合により置換された縮合複素環基、C
1−C
4アルキルスルホニル基または式−Q−R
9、
{式中、
Qは−C(=O)−、−C(=S)−、−CH
2−または−S(=O)
2−であり、および、
R
9は、下記の式
【0023】
【化4】
または−NH−NH−R
15、
(式中、R
10およびR
11は、それぞれ独立して、水素原子、C
1−C
18アルキル基、場合により置換されたアリール基、場合により置換されたアラルキル基またはアルコキシ基であり、R
12は、水素原子、場合により置換されたアリール基、C
1−C
18アルキル基、C
1−C
8アルコキシ基またはアシル基であり、およびR
15は、水素原子、フェニル基、C
1−C
4アルキル基、C
1−C
2ハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、C
2−C
4アルケニル基、C
1−C
4ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルオキシカルボニル基、場合により置換されたアミノ基、アセトアミド基、カルボキシル基、
アシル基、場合により置換されたアルキルオキシ基、アルキルチオ基またはシアノ基である。)の基である。}であり、
Ra、RbおよびRcは、それぞれ独立して、水素原子、C
1−C
18アルキル基、ヒドロキシ基、C
1−C
8アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、ニトロ基またはアミノ基である]、
この光学活性化合物、医薬として許容されるこの塩もしくはこの水和物;
または医薬として許容されるこの塩、水和物もしくは溶媒和物を含む治療有効量の組成物を投与することを含み、
式(I)の化合物が、組成物中に対象体重に対して0.01mg/kgから0.2mg/kgの間で存在する、組成物が提供される。
【0024】
ある実施形態において、式(I)の化合物は、0.1mgから10mgの間で組成物中に存在する。
【0025】
他の実施形態において、本明細書の他の場所で詳細に述べるように、式Iの化合物の投薬量および投薬レジメンは、治療される対象の健康および病態ならびに治療の所望の結果に基づき最適化され得る。
【0026】
「受容体」という用語は、本明細書において使用する場合、シグナル伝達分子の1種以上が特異的に相互作用可能な分子を意味する。例えば、5−HT
1A受容体は5−HT受容体のサブタイプであり、これは神経伝達物質セロトニン(「5−ヒドロキシトリプタミン」)と結合する。
【0027】
「対象」という用語は、哺乳動物、例えば、限定するものではないが、ヒト、マウス、ラット、他のげっ歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマまたは霊長類を含む任意の動物を指す。
【0028】
「治療すること(treating)」(および対応する用語の「治療する(treat)」および「治療(treatment)」)という用語は、対象の緩和的、回復的および防止的(「予防的」)治療を含む。「緩和治療」という用語は、病態の治癒ではなく、対象において病態の影響または強度を和らげるまたは軽減する治療を指す。「防止的治療」という用語(および対応する用語の「予防的治療」)は対象において病態の発症を防止する治療を指す。「回復治療」(「治癒的」)という用語は、対象において病態の進行を停止させ、病態の病理的兆候を軽減させ、または病態を完全に排除する治療を指す。治療は、研究者、医師、獣医師または臨床医などの個人により求められる組織、系または対象の生物学的もしくは医学的応答を引き起こす、治療有効量の化合物、塩もしくは組成物を用いて実施可能である。「治療」という用語は、治療される個体により経験されるすべての症状の完全な寛解のみを含むものではなく、既存のうつ症状の1以上の緩和ならびにうつ症状になりやすい、またはうつ症状を発症していると思われる個体、例えば、慢性または再発性のうつ病である個体への、式Iの化合物の早期投与によるうつ症状の発症の予防もまた含むとも理解されるべきである。本発明の方法は、うつ病関連性気分障害の症状を示す任意の哺乳動物の治療、例えば、ネコ、イヌ、ウサギ、ウマなどの哺乳動物の治療に使用可能であるが、好ましい実施形態において、本方法はヒトの治療に使用される。好ましくは、治療される個体は、大うつ病エピソード、より好ましくは大うつ病性障害(Major Depressive Disorder)に伴う病態を有すると診断されている個体である。
【0029】
本明細書に包含される開示の一態様において、式Iの化合物は、うつ病および/またはうつ病の1以上の症状の治療に有用な特性を有することが示されている。
【0030】
別の態様において、式Iの化合物は、うつ病の治療用の1以上の化合物を現在受けている対象におけるうつ病の治療の増強に有用である。
【0031】
ある実施形態において、式Iの化合物は、式II:
【0032】
【化5】
に示される化合物、(S)−1−(4−(3,4−ジクロロフェニル)ピペリジノ)−3−(2−(5−メチル−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル)ベンゾ(b )フラン−4−イルオキシ)−2−プロパノール塩酸塩を含む。
【0033】
一態様において、式IIの化合物(本明細書においてSON−117またはWf−516とも称される。)は、5−HTT、5−HT
1Aおよび5−HT
2A受容体結合に対して高い親和性を有する。SON−117を使用する電気生理学的研究は、SON−117の効果の順番はシナプス前性であった(即ち、5−HT
1A>5−HTT>5−HT
2A>シナプス後性5−HT
1A)ことを実証した。
【0034】
本発明の一態様において、式Iの化合物は、5−HT
1に対して0.05nmol/L未満、0.1nmol/L未満、0.5nmol/L未満、1.0nmol/L未満、1.5nmol/L未満、2.0nmol/L未満、2.5nmol/L未満または5nmol/L未満のK
i値で受容体結合プロファイルを有し得る。本発明の一態様において、式Iの化合物は、ドーパミントランスポータ(DAT)に対して0.05nmol/L未満、0.1nmol/L未満、0.5nmol/L未満、1.0nmol/L未満、1.5nmol/L、未満、2.0nmol/L未満、2.5nmol/L未満または5nmol/L未満のK
i値で受容体結合プロファイルを有し得る。当業者により理解されるように、異なる生物または種に由来する同じ受容体に対してアッセイした場合、式Iの化合物に対する結合親和性は変動し得る。
【0035】
うつ病に関連する症状
一実施形態において、対象においてうつ病に伴う病態または障害の少なくとも1つの症状を治療する方法であって、これを必要とする対象に、上記のような治療有効量の式(I)の化合物または医薬として許容される塩を投与するステップを含む方法が提供される。
一実施形態において、該化合物が式IIに示す化合物である方法が提供される。
【0036】
睡眠障害の治療
ある実施形態において、うつ病に苦しむ対象において睡眠障害の少なくとも1つの側面を治療する方法であって、これを必要とする対象に、上記のような治療有効量の式Iの化合物または医薬として許容される塩を投与するステップを含み、睡眠の少なくとも1つの側面が治療される方法が提供される。ある実施形態において、睡眠障害の少なくとも1つの側面が治療される。別の実施形態において、睡眠の少なくとも1つの側面またはパラメータが、患者において改善される。ある実施形態において、睡眠が、うつ病患者において改善される。ある実施形態において、うつ病の少なくとも1つの症状が、このような様式で治療される対象において、睡眠の改善と併せて改善または治療される。
【0037】
一態様において、睡眠の少なくとも1つの障害またはパラメータの崩壊が、うつ病に関連しているしかし、睡眠の障害または冒されたパラメータがどのように起こったかに関わらず、本開示が、睡眠の少なくとも1つの障害またはパラメータの治療を提供することが理解されるものと思われる。言い換えれば、うつ病と関連しない睡眠障害もまた、本明細書に包含される開示に従って治療可能である。
【0038】
ある実施形態において、ヒト対象を含む対象において睡眠の少なくとも1つの障害またはパラメータを治療または改善する組成物であって、これらを必要とする対象に、式(I)の化合物
【0039】
【化6】
[式中、式の各記号は下記を意味し、実線および点線により表される結合は二重結合または単結合を示し、
Xは、水素原子、ヒドロキシ基、C
1−C
8アルコキシ基、アシルオキシ基またはオキソ基であり、
R
1は、下記の式
【0040】
【化7】
{式中、R
5は場合により置換されたアリール基または場合により置換された芳香族複素環基であり、
Zは存在しないかまたは−CH
2−であり、および
R
6は、水素原子、ヒドロキシ基、アセトアミド基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基またはC
1−C
8アルコキシ基である。}の基であり、
R
3は、水素原子、C
1−C
18アルキル基またはハロゲン原子であり、
Vは−O−であり、
Wは存在せず、
R
7は、C
1−C
4ヒドロキシアルキル基、アシル基、場合により置換された飽和もしくは不飽和の複素環基、場合により置換された縮合複素環基、C
1−C
4アルキルスルホニル基または式−Q−R
9
{式中、
Qは、−C(=O)−、−C(=S)−、−CH
2−または−S(=O)
2−であり、および
R
9は、下記の式
【0042】
【化9】
または−NH−NH−R
15
(式中、R
10およびR
11は、それぞれ独立して、水素原子、C
1−C
18アルキル基、場合により置換されたアリール基、場合により置換されたアラルキル基またはアルコキシ基であり、R
12は、水素原子、場合により置換されたアリール基、C
1−C
18アルキル基、C
1−C
8アルコキシ基またはアシル基であり、およびR
15は、水素原子、フェニル基、C
1−C
4アルキル基、C
1−C
2ハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、C
2−C
4アルケニル基、C
1−C
4ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルオキシカルボニル基、場合により置換されたアミノ基、アセトアミド基、カルボキシル基、アシル基、場合により置換されたアルキルオキシ基、アルキルチオ基またはシアノ基である。)の基である。}であり、
Ra、RbおよびRcは、それぞれ独立して、水素原子、C
1−C
18アルキル基、ヒドロキシ基、C
1−C
8アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、ニトロ基またはアミノ基である]、
この光学活性化合物、医薬として許容されるこの塩もしくはこの水和物;
または医薬として許容されるこの塩、水和物もしくは溶媒和物を含む治療有効量の組成物を投与することを含み、
式(I)の化合物が、組成物中に、0.01mg/kgから0.2mg/kgの間で存在する、組成物が提供される。
【0043】
ある実施形態において、式(I)の化合物は、0.1mgから10mgの間で組成物中に存在する。
【0044】
ある実施形態において、式Iの化合物は、式IIに示された化合物である。
【0045】
ある実施形態において、式Iの化合物を用いて睡眠障害を治療される対象は、さらにうつ病も患っている。
【0046】
ある実施形態において、うつ病に苦しんでいない患者において睡眠が改善される。一態様において、睡眠の少なくとも1つの障害またはパラメータが、治療および/または改善される。一態様において、睡眠の少なくとも1つの態様を改善する方法であって、これを必要とする対象に、上記のような治療有効量の式(I)の化合物または医薬として許容される塩を投与するステップを含む方法が提供される。ある実施形態において、式Iの化合物は、式IIに示された化合物である。
【0047】
一実施形態において、うつ病に苦しむ患者において睡眠障害を治療する方法が提供される。一実施形態において、別の医薬有効成分、例えば抗うつ薬化合物による治療の中断後の患者において、睡眠障害を治療する方法が提供される。一実施形態において、医薬有効成分(例えば、抗うつ薬化合物)と組み合わせて、睡眠障害を治療する方法が提供される。
【0048】
限定するものではないが、入眠潜時、持続的睡眠までの潜時、睡眠期間または睡眠期間の1以上の区分にわたる徐波睡眠の分布、睡眠全体の連続性および睡眠構築パラメータを含む、睡眠のさまざまな側面が治療可能である。一態様において、化合物がSON−117である場合、1mgの低用量であっても、徐波睡眠(SWS)が増加される。一態様において、化合物がSON−117である場合、3mgおよび7.5mgの低用量であっても、REM活動およびREM密度が増加される。これらの効果は、他のモノアミン作動性抗うつ薬、例えば、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)またはセロトニン−ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)の効果と比較して異なり、予想外である。
【0049】
認知機能障害は、思考、集中、アイデアを練ること、判断および記憶の能力を減少させる。ある実施形態において、認知機能障害を治療もしくは軽減する、または認知を改善する方法であって、これを必要とする対象に、本明細書に記載の治療有効量の式(I)の化合物または医薬として許容される塩を投与するステップを含む方法が提供される。一実施形態において、認知機能障害を誘発せずにうつ病を治療する方法が提供される。一実施形態において、別の医薬有効成分、例えば抗うつ薬化合物による治療の中断後の患者において、うつ病を治療し、認知を回復、強化および改善する方法が提供される。一実施形態において、認知障害性医薬有効成分(例えば、認知障害性抗うつ薬化合物)と組み合わせて、認知機能障害を引き起こさずに、もしくは増強せずにうつ病を治療する、またはこのような患者において認知を改善、強化もしくは回復するための方法が提供される。ある実施形態において、本明細書に記載のSON−117の投与により、うつ病を患う人々において認知の喪失はない。別の実施形態において、うつ病を患う人々に存在する認知機能障害は、本明細書に記載のSON−117の投与により治療または軽減される。ある実施形態において、式Iの化合物は、式IIに示される化合物である。本明細書の開示に基づき理解されるように、睡眠パラメータの改変は、認知を改善し得る。限定されない例としては、SWSの改善および/または増加が認知を改善する。一態様において、認知一般が改善される。別の態様において、とりわけ記憶固定、実行機能、言語記憶および言語流暢性を含む認知の1以上の態様が改善される。ある実施形態において、認知は、正常な認知が対象において回復される点まで、対象において改善される。別の実施形態において、認知は、対象における認知レベルが強化されるように、対象において正常な認知の点を超えて改善される。
【0050】
ある実施形態において、認知は、うつ病に苦しんでいる対象において改善される。別の実施形態において、認知は、うつ病に苦しんでいない対象において改善される。
【0051】
他の障害の治療
ある実施形態において、本明細書に包含される組成物を使用して高齢者を治療する方法が提供される。一実施形態において、高齢対象は、アルツハイマー病予備軍の病態または状態を有する。高齢対象は、一実施形態において、パーキンソン病予備軍の病態または状態を有する。
【0052】
ある実施形態において、本明細書に包含される組成物を使用して高齢者を治療する方法は、うつ病の治療を含み、場合により、本明細書の他の場所で詳細に述べる1以上のさらなる治療薬の同時投与を含んでよい。ある実施形態において、本明細書に包含される組成物を使用して高齢者を治療する方法は、うつ病の治療を含み、場合により、限定するものではないが、シタロプラム、エスシタロプラム、セルトラリン、ブプロプリオン、ミルタザピン、モクロベミド、ベンラファキシン、デシプラミンおよびノルトリプチリンなどの1以上のさらなる治療薬の同時投与を含んでよい。
【0053】
ある実施形態において、与えられる抗うつ薬の効果またはうつ病これ自体により性機能不全(例えば、無オルガスム症および遅発射精など)の増大を患う患者は、本明細書に記載のSON−117を投薬された後で、機能障害の減少または機能障害の改善さえ起こり得る。
【0054】
一実施形態において、性機能不全を引き起こさずに、または増大させずにうつ病を治療する方法が提供される。一実施形態において、患者において性機能不全を引き起こさずに、または増大させずに、医薬有効成分(例えば、抗うつ薬化合物)と組み合わせてうつ病を治療する方法が提供される。
【0055】
剤形および量
ある実施形態において、本明細書の他の場所で詳細に述べるように、対象に投与された低用量の式IIの化合物が、うつ病の治療に驚くべき有効性を提供することが見出されている。一態様において、睡眠障害が、低用量の式IIの化合物を投与された対象において予想外に治療される。別の態様において、認知が、低用量の式IIの化合物を投与された対象において予想外に治療される。ある実施形態において、式Iの化合物は、0.01mg/kg未満の用量で対象に投与される。ある実施形態において、該化合物は、0.01mg/kg未満の用量で非経口投与される。ある実施形態において、該化合物は、式IIの化合物である。ある実施形態において、式Iの化合物は、0.5mg/kg未満の用量で対象に投与される。ある実施形態において、該化合物は0.5mg/kg未満の用量で経口投与される。ある実施形態において、該化合物は式IIの化合物である。
【0056】
ある実施形態において、式Iの化合物(例えば、式IIの化合物)の活性の発現は迅速であり、当分野において公知の従来の抗うつ薬より非常に迅速に起こることがさらに見出されている。
【0057】
ある実施形態において、本明細書に包含される用量は、対象の体重に基づき組成物として投与可能である。ある実施形態において、用量は、対象の単位体重ごとに(例えば、mgの式Iの化合物/対象の体重1kg)投与することができる。ある実施形態において、本明細書に包含される用量は、対象の体重に関係なく、用量の重量にだけ基づき(例えば、mgの式Iの化合物/対象への投与用量)、組成物として投与可能である。ある実施形態において、用量は、剤形中の式Iの化合物の重量に基づき決定される。別の実施形態において、用量は、剤形を含む組成物のすべての成分の合計重量に基づき決定される。
【0058】
ある実施形態において、本明細書に記載の任意の目的のための化合物の投与は、本明細書に記載の任意の形態または組み合わせで、1ngから100μg、5ngから75μg、10ngから50μg、25ngから40μg、50ngから30μg、75ngから20μg、100ngから10μg、250ngから5μg、500ngから200μg、750ngから100μg、1μgから75μg、5μgから50μgまたは10μgから40μgの間の用量で、式Iの化合物または医薬として許容されるこれらの塩を投与することを含み得る。限定されない例としては、本明細書の他の場所で詳細に述べるように、例えば、10μgから40μgの用量は、10μg/対象の体重1kgから40μg/対象の体重1kgの投薬範囲を表し、対象に投与される10μgから対象に投与される40μgまでの投薬範囲もまた表すことができる。
【0059】
ある実施形態において、本明細書に記載の任意の目的のための化合物の投与は、本明細書に記載の任意の形態または組み合わせで、1ngから1g、5ngから1g、10ngから1g、25ngから1g、50ngから1g、75ngから1g、100ngから750mg、500ngから500mg、10μgから200mg、15μgから190mg、25μgから180mg、50μgから170mg、75μgから160mg、100μgから150mg、250μgから140mg、400μgから130mgの間、500μgから128mg、600μgから100mg、750μgから75mg、900μgから50mgの間の用量で、または0.1mgから64mgの間の用量で、式Iの化合物または医薬として許容されるこれらの塩を投与することを含み得る。
【0060】
ある実施形態において、本明細書に記載の任意の目的のための化合物の投与は、本明細書に記載の任意の形態または組み合わせで、0.01から1.0mg、0.05から0.75mg、0.08から0.6mg、0.01から0.2mg、0.05mgから0.15mg、0.08から0.12mg、0.4から0.6mg、0.45から0.55mgの間の用量または0.48から0.52mgの間の用量で、式Iの化合物またはこれらの医薬として許容される塩を投与することを含み得る。
【0061】
ある実施形態において、式Iの化合物または医薬として許容されるこの塩は、本明細書に包含される組成物および方法に従って、約1000mg以下、約500mg以下、約200mg以下、約150mg以下、約100mg以下、約50mg以下、約40mg以下、約30mg以下、約20mg以下、約10mg以下、約9mg以下、約8mg以下、約7mg以下、約6mg以下、約5mg以下、約4mg以下、約3mg以下、約2mg以下、約1mg以下、約0.9mg以下、約0.8mg以下、約0.7mg以下、約0.6mg以下、約0.5mg以下、約0.4mg以下、約0.3mg以下、約0.2mg以下、約0.1mg以下、約0.09mg以下、約0.08mg以下、約0.07mg以下、約0.06mg以下、約0.05mg以下、約0.04mg以下、約0.03mg以下、約0.02mg以下、約0.01mg以下、約0.009mg以下、約0.008mg以下、約0.007mg以下、約0.006mg以下、約0.005mg以下、約0.004mg以下、約0.003mg以下、約0.002mg以下、約0.001mg以下または約0.0005mg以下の用量で、対象に投与することができる。
【0062】
ある実施形態において、式Iの化合物または医薬として許容されるこの塩は、本明細書に包含される組成物および方法に従って、約1g、約500mg以上、約200mg以上、約150mg以上、約100mg以上、約50mg以上、約40mg以上、約30mg以上、約20mg以上、約10mg以上、約9mg以上、約8mg以上、約7mg以上、約6mg以上、約5mg以上、約4mg以上、約3mg以上、約2mg以上、約1mg以上、約0.9mg以上、約0.8mg以上、約0.7mg以上、約0.6mg以上、約0.5mg以上、約0.4mg以上、約0.3mg以上、約0.2mg以上、約0.1mg以上、約0.09mg以上、約0.08mg以上、約0.07mg以上、約0.06mg以上、約0.05mg以上、約0.04mg以上、約0.03mg以上、約0.02mg以上、約0.01mg以上、約0.009mg以上、約0.008mg以上、約0.007mg以上、約0.006mg以上、約0.005mg以上、約0.004mg以上、約0.003mg以上、約0.002mg以上、約0.001mg以上または約0.0005mg以上の用量で、対象に投与することができる。
【0063】
ある実施形態において、式Iの化合物または医薬として許容されるこの塩は、本明細書に包含される組成物および方法に従って、前述の用量範囲のいずれかを組み合わせた用量で、対象に投与することができる。限定されない例として、ある実施形態において、式Iの化合物または医薬として許容されるこれらの塩は、本明細書に包含される組成物および方法に従って、約0.1mg以上および約0.5mg以下の用量で対象に投与することができる。
【0064】
ある実施形態において、式Iの化合物または医薬として許容されるこの塩は、本明細書に包含される組成物および方法に従って、約1000mg、約500mg、約200mg、約150mg、約100mg、約50mg、約40mg、約30mg、約20mg、約10mg、約9mg、約8mg、約7mg、約6mg、約5mg、約4mg、約3mg、約2mg、約1mg、約0.9mg、約0.8mg、約0.7mg、約0.6mg、約0.5mg、約0.4mg、約0.3mg、約0.2mg、約0.1mg、約0.09mg、約0.08mg、約0.07mg、約0.06mg、約0.05mg、約0.04mg、約0.03mg、約0.02mg、約0.01mg、約0.009mg、約0.008mg、約0.007mg、約0.006mg、約0.005mg、約0.004mg、約0.003mg、約0.002mg、約0.001mgまたは約0.0005mgの用量で対象に投与することができる。
【0065】
ある実施形態において、式Iの化合物または医薬として許容されるこの塩は、本明細書に包含される組成物および方法に従って、1000mg、500mg、200mg、150mg、100mg、50mg、40mg、30mg、20mg、10mg、9mg、8mg、7mg、6mg、5mg、4mg、3mg、2mg、1.9mg、1.8mg、1.7mg、1.6mg、1.5mg、1.4mg、1.3mg、1.2mg、1.1mg、1mg、0.9mg、0.8mg、0.7mg、0.6mg、0.5mg、0.4mg、0.3mg、0.2mg、0.1mg、0.09mg、0.08mg、0.07mg、0.06mg、0.05mg、0.04mg、0.03mg、0.02mg、0.01mg、0.009mg、0.008mg、0.007mg、0.006mg、0.005mg、0.004mg、0.003mg、0.002mg、0.001mgまたは0.0005mgの用量で対象に投与することができる。
【0066】
ある実施形態において、式Iの化合物または医薬として許容されるこの塩は、本明細書に包含される組成物および方法に従って、約1000mg/kg、約500mg/kg、約200mg/kg、約150mg/kg、約100mg/kg、約50mg/kg、約40mg/kg、約30mg/kg、約20mg/kg、約10mg/kg、約9mg/kg、約8mg/kg、約7mg/kg、約6mg/kg、約5mg/kg、約4mg/kg、約3mg/kg、約2mg/kg、約1.9mg/kg、約1.8mg/kg、約1.7mg/kg、約1.6mg/kg、約1.5mg/kg、約1.4mg/kg、約1.3mg/kg、約1.2mg/kg、約1.1mg/kg、約1mg/kg、約0.9mg/kg、約0.8mg/kg、約0.7mg/kg、約0.6mg/kg、約0.5mg/kg、約0.4mg/kg、約0.3mg/kg、約0.2mg/kg、約0.1mg/kg、約0.09mg/kg、約0.08mg/kg、約0.07mg/kg、約0.06mg、約0.05mg、約0.04mg、約0.03mg/kg、約0.02mg、約0.01mg、約0.009mg、約0.008mg、約0.007mg、約0.006mg/kg、約0.005mg/kg、約0.004mg/kg、約0.003mg/kg、約0.002mg/kg、約0.0019mg/kg、約0.0018mg/kg、約0.0017mg/kg、約0.0016mg/kg、約0.0015mg/kg、約0.0014mg/kg、約0.0013mg/kg、約0.0012mg/kg、約0.0011mg/kg、約0.001mg/kg、約0.0005mg/kgまたは前述の投薬量から決定可能な任意の範囲(例えば、約0.0013mg/kgから約0.0016mg/kgまたは約0.001mg/kgから約0.002mg/kg)の用量で対象に投与することができる。
【0067】
一態様において、式Iの化合物の投与の方法は、所定のレベルまでの化合物の漸増法を含んでよい。一実施形態において、化合物は指定のレベル(例えば、0.05mg b.i.d.、0.1mg b.i.d.、0.2mg b.i.d.、0.4mg b.i.d.、0.6mg b.i.d.、0.8mg b.i.d.、1mg b.i.d.、2mg b.i.d.、4mg b.i.d.、8mg b.i.d.、16mg b.i.d.、32mg b.i.d.、64mg b.i.d.)で使用される。一実施形態において、化合物は指定のレベル(例えば、約0.05mg b.i.d.、約0.1mg b.i.d.、約0.2mg b.i.d.、約0.4mg b.i.d.、約0.6mg b.i.d.、約0.8mg b.i.d.、約1mg b.i.d.、約2mg b.i.d.、約4mg b.i.d.、約8mg b.i.d.、約16mg b.i.d.、32mg b.i.d.、64mg b.i.d.)で使用される。一実施形態において、化合物は所定の投薬量まで漸増される(例えば、0.1mg b.i.d.、0.2mg b.i.d.、0.4mg b.i.d.、0.6mg b.i.d.、0.8mg b.i.d.、1mg b.i.d.、2mg b.i.d.、4mg b.i.d.、8mg b.i.d.、16mg b.i.d.、32mg b.i.d.、64mg b.i.d.などまで漸増)。一実施形態において、化合物は所定の投薬量まで漸増される(例えば、約0.1mg b.i.d.、約0.2mg b.i.d.、約0.4mg b.i.d.、約0.6mg b.i.d.、約0.8mg b.i.d.、約1mg b.i.d.、約2mg b.i.d.、約4mg b.i.d.、約8mg b.i.d.、約16mg b.i.d.、約32mg b.i.d.、約64mg b.i.d.などまで漸増)。ある実施形態において、化合物は、投薬量が本明細書の他の場所に記載された場合、所定の投薬量まで漸増される。
【0068】
ある実施形態において、式Iの化合物を、化合物の所望の血漿濃度に基づき、対象に使用および/または投与することができる。ある実施形態において、対象に投与される化合物の投薬量は、対象において約10ng/mlの式Iの化合物の血漿濃度を得るために必要とされる投薬量を同定することによって決定される。ある実施形態において、対象に投与される化合物の投薬量は、対象において約1ng/ml、約2ng/ml、約3ng/ml、約4ng/ml、約5ng/ml、約6ng/ml、約7ng/ml、約8ng/ml、約9ng/ml、約10ng/ml、約12ng/ml、約14ng/ml、約16ng/ml、約18ng/ml、約20ng/ml、約25ng/ml、約30ng/ml、約35ng/ml、約40ng/ml、約45ng/mlまたは約50ng/mlの式Iの化合物の血漿濃度を得るために必要とされる投薬量を同定することによって決定される。
【0069】
用量は、週1回の用量、1日1回の用量、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回またはそれ以上の頻度として投与することができる。ある実施形態において、投与頻度は1日1回から5回の間であってよい。別の実施形態において、投与頻度は1日2回から4回の間であってよい。別の実施形態において、投与頻度は1日少なくとも3回であってよい。別の実施形態において、投与頻度は1日2回であってよい。別の実施形態において、投与頻度は1日1回であってよい。別の実施形態において、投与頻度は1日1回より少ない頻度であってよい。他の実施形態において、投与頻度は、2日ごとに1回または3日ごとに1回または4日ごとに1回または5日ごとに1回または6日ごとに1回であってよい。
別の実施形態において、投与頻度は、1週に1回であってよい。別の実施形態において、投与頻度は、治療処置が必要とされるかまたは所望される場合に、要求に応じることができる。対象がさらなる用量および/または連続する用量を必要とするかどうかを決定する方法は、本明細書に包含される開示に基づき理解されるものと思われる。選択された投薬頻度が、有効成分の投薬量の調整を必要とし得ることもまた理解されるものと思われる。
有効成分の選択された投薬量が、投薬頻度の調整を必要とし得ることもまた、本明細書に包含される開示に基づき理解されるものと思われる。本明細書に包含される開示は、当分野の技術と組み合わせて、当業者が、式Iの化合物の投薬量および式Iの化合物の投与頻度の両方を最適化して、これを必要とする対象においてうつ病を治療することを可能にすると思われる。
【0070】
投薬量および投薬レジメンの上記の実施形態に加えて、対象のうつ病の重症度を含む、うつ病を治療される対象の身体的および精神的健康を考慮して、必要に応じて、投薬量および投薬レジメンの両方が検討され、それぞれ調整されることは、当業者によりさらに理解されるものと思われる。
【0071】
本発明に従った治療投薬のために、式Iの化合物は、この遊離の塩基の形態で用いることができるが、医薬として許容される塩、通常塩酸塩の形態で使用されることが好ましい。
【0072】
ある実施形態において、医薬として許容される酸との式Iの化合物の別の塩、例えば、限定するものではないが、パルミチン酸、臭化水素酸、リン酸、酢酸、フマル酸、マレイン酸、サリチル酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸およびp−トルエンスルホン酸を含む、官能性の遊離の塩基および酸に由来する塩もまた、治療投与に利用可能である。
【0073】
本明細書に記載の式Iの化合物またはこの医薬として許容される誘導体のすべての溶媒和物ならびに限定するものではないが、別の結晶形態、非晶質形態および多形体を含むすべての別の物理的形態もまた、本発明の範囲内であり、本明細における式Iの化合物に対するすべて言及は、医薬として許容されるこのすべての塩およびすべての溶媒和物および別の物理的形態を含む。
【0074】
治療投与のために、式Iの化合物または医薬として許容されるこれらの塩、例えば式IIの化合物は、純粋形態で投与することができるが、体内で有効なレベルの有効成分を提供する、任意の適切な医薬として許容される有効な組成物に製剤化されることが好ましい。
【0075】
化合物または組成物に関して本明細書において使用される「医薬として許容される」という用語は、化合物または組成物のバイオアベイラビリティを促進または強化するために、対象において化合物の溶解度または利用可能性を増加または強化可能な化合物または組成物の形態を指す。一態様において、本明細書の開示は、本明細書において具体化された化合物および組成物の医薬として許容される水和物、溶媒和物、立体異性体または非晶質固体もまた包含する。例えば、「医薬として許容される塩」という用語は、化合物および/または組成物の溶解およびバイオアベイラビリティを促進するために、患者の胃腸管の胃液中での該化合物の溶解度を上昇させるために提示される、本明細書の組成物の1以上の塩形態を表す。ある実施形態において、医薬として許容される塩は、医薬として許容される無機または有機の塩基および酸に由来する塩を含む。適切な塩としては、医薬分野において周知の多数の他の酸の中でも、カリウムおよびナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属に由来する塩およびアンモニウム塩が挙げられる。ナトリウムおよびカリウム塩は、本開示により包含される組成物を含有する、カルボン酸および遊離の酸性リン酸塩の中和塩が特に好ましい。「塩」という用語は、本開示により包含される化合物の使用と調和する任意の塩を意味するものである。化合物が、うつ病の治療を含む医薬的兆候に使用される場合、「塩」という用語は、治療薬としての化合物の使用に調和する医薬として許容される塩を意味するものである。
【0076】
本明細書において使用する場合、「医薬として許容される誘導体」または「誘導体」という用語は、患者に投与することにより、本化合物または本化合物の活性代謝産物を直接または間接的に提供する、任意の医薬として許容されるプロドラッグ形態(例えば、エステルまたはエーテルまたは他のプロドラッグ基)を表す。
【0077】
上記のように、組成物は、組成物中の化合物の医薬として許容される塩を含む。他の実施形態において、前述の化合物の医薬として許容される酸付加塩を調製するために使用される酸は、非毒性酸付加塩、即ち、薬学的に許容される陰イオンを含有する塩を形成する酸、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、ニトレート、スルフェート、ビスルフェート、ホスフェート、酸性ホスフェート、アセテート、ラクテート、シトレート、酸性シトレート、タータレート、ビタータレート、スクシネート、マレート、フマレート、グルコネート、サッカラート、ベンゾエート、メタンスルホネート,エタンスルホネート、ベンゼンスルホネート、p−トルエンスルホネートおよびパモエート[即ち、1,1’−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3ナフトエート)]塩などである。
【0078】
ある実施形態において、組成物は本化合物の塩基付加塩を含む。天然には酸性である本化合物の医薬として許容される塩基塩を調製するために試薬として使用できる化学塩基は、このような化合物と共に非毒性塩基塩を形成する化学塩基である。このような非毒性塩基塩としては、限定するものではないが、このような薬学的に許容される陽イオン、例えば、アルカリ金属陽イオン(例えば、カリウムおよびナトリウム)およびアルカリ土類金属陽イオン(例えば、カルシウムおよびマグネシウム)に由来する塩基塩、アンモニウムもしくは水溶性アミン付加塩、例えばN−メチルグルカミン(メグルミン)ならびに低級アルカノールアンモニウムおよび医薬として許容される有機アミンの他の塩基塩などが挙げられる。
【0079】
本明細書において使用する場合、医薬として許容される塩または複合体という用語は、親化合物の所望の生物活性を保有し、望ましくない毒物学的効果がもしあれば、最小で示す塩または複合体(例えば、溶媒和物、多形体)を指す。このような塩の限定されない例としては、(a)無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸など)と共に形成された酸付加塩および有機酸、例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パモ酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸およびポリガラクツロン酸と共に形成された塩;(b)多価金属陽イオン、例えば、亜鉛、カルシウム、ビスマス、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、銅、コバルト、ニッケル、カドミウム、ナトリウム、カリウムなどと共に形成された塩基付加塩またはN,N−ジベンジルエチレン−ジアミン、アンモニウムまたはエチレンジアミンから形成された有機陽イオンと共に形成された塩基付加塩;または(c)(a)および(b)の組み合わせ、例えば亜鉛タンニン酸塩などが挙げられる。
【0080】
化合物の修飾は、活性種の溶解度、バイオアベイラビリティおよび代謝速度に影響を与えることができ、従って、活性種の送達にわたる調節を提供できる。さらに、修飾は、化合物の抗うつ活性に影響を与えることができ、ある場合において、親化合物を超えて活性を上昇させる。このことは、誘導体を調製し、本明細書に包含される方法に従ってこの抗うつ活性を試験するか、または当業者に公知の他の方法により容易に評価可能である。
【0081】
ある実施形態において、組成物は、1以上の医薬として許容される担体を使用して従来の様式で製剤化でき、徐放性製剤で投与することもできる。これらの医薬組成物に使用可能な医薬として許容される担体としては、限定するものではないが、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、ホスフェートなどの緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分的グリセリド混合物、水、塩または電解質、例えば、硫酸プロラミン(prolamine sulfate)、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂が挙げられる。
【0082】
本明細書に包含される組成物は、経口投与することができる。他の実施形態において、組成物は非経口的に、吸入スプレー、局所、直腸内、鼻腔内、口腔内、膣内により、または埋め込みリザーバ―を介して投与することができる。「非経口」という用語は、本明細書において使用する場合、皮下、経皮、静脈内、筋肉内、関節内、関節滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、肝臓内、病変内および頭蓋内の注射もしくは注入技術を含む。当業者には理解されるように、本明細書に包含される実施形態を考慮して、1または複数の有効成分(例えば、式Iの化合物)の投薬量は、選択された投与経路に基づき増減して調節することができる。さらに、任意の選択された剤形のための有効成分の投薬量を最適化することは、本明細書に記載の方法または当分野において公知の方法を使用して、抗うつ薬化合物の有効性を評価することによって達成することができる。
【0083】
本明細書において具体化される医薬組成物は、限定するものではないが、カプセル、錠剤、水性懸濁液または水溶液を含む任意の経口的に許容される剤形で経口投与することができる。経口使用のための錠剤の場合、一般的に使用される担体としてはラクトースまたはコーンスターチが挙げられる。ある実施形態において、潤沢剤、例えばステアリン酸マグネシウムがさらに加えられる。カプセル形態の経口投与のために有用な賦形剤としては、ラクトースおよび/または乾燥コーンスターチが、2つの限定されない例として挙げられる。水性懸濁液が経口使用に必要となる場合、有効成分は、乳化剤および懸濁剤と組み合わされる。所望であれば、特定の甘味剤、香味剤または着色剤もまた添加されてよい。
【0084】
本開示により包含される医薬組成物は、鼻腔内エアロゾルまたは吸入により投与することもできる。このような組成物は、医薬製剤の分野において周知の技術に従って調製され、生理食塩水中の溶液として、ベンジルアルコールまたは他の適切な保存料、バイオアベイラビリティを強化するための吸収促進剤、フルオロカーボンおよび/または他の従来の可溶化剤または分散剤を用いて調製することができる。
【0085】
ある実施形態において、式Iの化合物または医薬として許容されるこの塩は、任意の他の医薬品とは独立して投与される。
【0086】
化合物の同時投与
別の実施形態において、式Iの化合物または医薬として許容されるこの塩は、1以上の他の医薬品と併せて投与される。このような他の医薬品は、当分野において公知の形態および投薬量で投与または同時投与することができ、または代替的には、式Iの化合物の投与に関して上で記載したように投与または同時投与することができる。
【0087】
「同時投与」または「併用療法」という用語は、少なくとも2種の化合物が、うつ病または本明細書に記載の別の疾患の状態もしくは病態を治療するために同時に使用される療法を説明するために使用される。ある実施形態において、少なくとも2種の化合物が有効量で、うつ病または本明細書に記載の別の疾患の状態もしくは病態を治療するために同時に使用される。別の実施形態において、少なくとも2種の化合物が、有効量を含む組み合わせで、うつ病または本明細書に記載の別の疾患の状態もしくは病態を治療するために同時に使用される。ある実施形態において、少なくとも2種の化合物による治療の結果は、直接相加的であるか、または2種の化合物別々により得られた結果より低い程度に相加的であるかのいずれかで、各化合物を別々に使用して得られる治療結果の相加的であり得る。ある実施形態において、少なくとも2種の化合物による治療の結果は、さまざまな程度に相乗的であり得る。ある実施形態において、少なくとも2種の化合物による治療の結果は、各化合物を別々に使用して得られる治療結果より低くなり得る。一態様において、本明細書に包含される組成物による治療の結果は、1種の化合物に関しては、治療結果は、化合物により個々に得られた結果より低いが、組成物中の他の化合物に関する治療結果は、個々に得られた治療結果とほぼ同じである。一態様において、少なくとも2種の化合物に関する治療の結果は、化合物より個々に得られる結果より低いが、一方、組成物の他の化合物は個々に得られる治療の結果とほぼ同じである。一態様において、組成物中のすべての化合物に関する治療の結果は、化合物により別々に得られる結果より低い。
【0088】
同時投与という用語は、2種の活性化合物を患者に同時に投与することを包含するが、必ずしも化合物が患者に同時に投与される必要はなく、有効量の個別の化合物が患者内に同時に存在するものである。
【0089】
式Iの化合物、例えば式IIに示される化合物または任意のこのような化合物の医薬として許容される塩は、少なくとも1種の他の治療薬と組み合わせて有利に投与され、うつ病の任意の症状の任意の組み合わせの治療および/またはうつ病これ自体の治療の改善を提供することができる。本発明の治療の組み合わせ、使用および方法は、十分応答できなかった、または他の公知の治療に耐性である患者の治療において有利性をさらに提供することができる。ある実施形態において、少なくとも1種の他の治療薬は、式Iの化合物ではない。ある実施形態において、少なくとも1種の他の治療薬は式Iの化合物であり、組成物中に含まれる他の式Iの化合物とは異なる。ある実施形態において、式IIの化合物は、少なくとも1種の他の式Iの化合物と同時投与され、この少なくとも1種の他の式Iの化合物は式IIではない。ある実施形態において、式IIの化合物は、少なくとも1種の他の化合物と同時投与され、この少なくとも1種の他の化合物は式Iの化合物ではない。
【0090】
ある実施形態において、式Iの化合物は、少なくとも1種の抗うつ薬による治療をすでに受けた患者に投与され、うつ病の陰性症状の任意の組み合わせの治療またはうつ病これ自体の治療の改善を提供することができる。
【0091】
ある実施形態において、本明細書に示される化合物は、1以上の非定型抗精神病薬と同時投与可能である。非定型抗精神病薬の例としては、限定するものではないが、フルフェナジン、リスペリドン、オランザピン、クロザピン、クエチアピン、ジプラシドン、アリピプラゾール、セルチンドール(seritindole)、ゾテピンおよびペロスピロンが挙げられる。本明細書に包含される併用療法に有用な抗うつ薬の例としては、限定するものではないが、フルオキセチン、シタロプラム、エスシタロプラム、ベンラファキシン、デュロキセチン、ブプロピオンが挙げられる。
【0092】
ある実施形態において、本明細書に示される化合物は、1以上の抗不安薬と同時投与可能である。一実施形態において、本明細書に示される化合物は、プロプラノロールと同時投与される。一態様において、同時投与される化合物は、本明細書に包含される化合物の活性の発現を強化することができる。ある実施形態において、ベータ−ブロッカーは、本明細書に包含される化合物と同時投与され、本明細書に包含される化合物の活性の発現が強化される。
【0093】
本明細書に記載の方法および投薬量は、本明細書の式Iおよび式IIの化合物の使用の方法および投薬量に適用可能である。
【実施例】
【0094】
本明細書に包含される実施形態を、下記の実施例と関連して記載する。これらの実施形態は、単に例示目的で提供され、本明細書に包含される開示は、これらの実施例に限定されると解釈すべきでは決してなく、むしろ、本明細書に提供された教示の結果として判明するありとあらゆる変形を包含すると解釈すべきである。
【0095】
[
実施例1]
健康なボランティアにおける睡眠パラメータに対するSON−117の効果
この研究において、抗うつ活性の予測となる特定の薬力学的睡眠パラメータをモニターし、測定した。陽性対照薬(エスシタロプラム、セレクサ)は、想定通りに挙動した。SON−117の3種の用量を試験した(1mg、3mg、7.5mg)。各用量は、エスシタロプラムおよびプラセボとは異なる薬力学的プロファイルを示した。さらに、SON−117の最も低い用量(1mg)は、2種のより高い用量のSON−117とは異なるプロファイルを実証した。ある実施形態において、SON−117は睡眠に影響を与えた。ある実施形態において、SON−117はREM睡眠に影響を与えた。
【0096】
いずれの特定の理論にも縛られることを望むものではないが、(他の考えられる作用様式の中で)考えられる1つの作用様式は、より高い用量のSON−117が、および/または低用量のSON−117が調節しない受容体と接触する、および/または影響を与えることと思われる。
【0097】
[
実施例2]
睡眠ポリグラフ
44人の対象を睡眠研究において試験し、23人の対象に1mgから7.5mgまでの量のSON−117を投薬し;12人にはプラセボを与え、ならびに8人にはエスシタロプラムを20mgの用量で与えた。睡眠を、消音された、快適に家具が整えられた個別の寝室において記録した。就寝時間の間、対象は横になり、明かりは消される。睡眠ポリグラフのモンタージュは、4つのEEGチャンネル(C3A2、O1A2、C4A1およびO2A1)、左右両側の電気眼球図および2つのおとがい下筋電図から構成された。さまざまな睡眠パラメータは、Rechtschaffen and Kales(1968)基準に従って、30秒のエポックの記録の視察スコアリングからHypnosのソフトウェアにより導いた。睡眠連続性パラメータは、入眠と睡眠維持両方の変数を含む。REM睡眠パラメータを含む睡眠構築パラメータは、記録期間中のさまざまな睡眠段階の継時変化についての概要を提供する、さまざまな睡眠段階および睡眠プロファイル変数の持続期間および割合を実証する段階分布変数を含む。すべての夜間睡眠EEGスペクトル分析を、高速フーリエ変換アルゴリズムを用いてC3−A2微分について実施した。エポックの長さはサンプリングレート256Hzにおいて2秒であり、打ち切り誤差は、ハニング窓を適用することによって減少させた。REM睡眠およびノンREM睡眠などの特定の期間内の出力密度の分析を可能にするために、30秒エポックそれぞれの睡眠の視察スコアを出力密度と同調させた。
【0098】
本研究は、エスシタロプラムにより誘導される効果と同等の、SON−117の睡眠EEGパラメータに対する効果を見出せなかった。睡眠連続性および睡眠構築パラメータは、本研究において試験された3種の用量により大きな影響は受けなかった。しかし、この薬剤が、反復投薬および2種の最も高い投薬量、特に(7.5mg)により、REM睡眠促進効果ならびにREM密度/活動に対する効果を有し得る兆候が存在した。さらに、最も低い用量(1mg)は、徐波睡眠(SWS)を、1日目および14日目に3分夜の第2期において増加することができた。SWSについてのこれらの結果は、リーズ睡眠評価質問票(Leeds Sleep Evaluation Questionnaire)(LSEQ)により寝つきが1mgのSON−117により容易であると評価されたという事実およびLSEQによる睡眠の質の改善が見出されたという事実により強化される。
これらの睡眠に対する自覚効果が、1mgのSON−117の単回投与後に観察され、最後の観察時点、即ち、投薬中断後16日目まで持続した。REM睡眠を含む睡眠EEGパラメータに対する投薬の中断の形跡は存在しなかった。
【0099】
[
実施例3]
SON−117により治療されたラットにおける神経伝達物質の測定
本研究の目的は、微小透析を使用して、前頭前野皮質におけるドーパミンおよびこの代謝産物、セロトニンおよびこの代謝産物(5−HIAA)およびノルエピネフリンのレベルについて、ラットにおけるSON−117の3種の異なる用量の腹腔内(I.P.)投与の効果を評価することである。
【0100】
32匹の成体の雄Wistarラットを全研究に使用した(8匹の動物の4群を、研究のために計画した、表1)。
【0101】
【表1】
【0102】
実験手順は、実験動物の管理と使用のための欧州ガイドライン(European guidelines for the care and use of laboratory animals)(Council Directive 86/609/EEC)に従って実施した。各取り組みは、動物の苦痛を最小にし、実験に使用される動物の数は減少させるように実施した。動物の馴化は、少なくとも5日続けた。受け取り時、動物はケージにおいて集団で飼育された。食餌および水は、動物のための維持食(RM1、SDS Dietex)として提供され、食餌および水のディスペンサーに毎日分配された。
【0103】
外科手術を、約300gの重さのラットに、実験開始時に実施した。ラットケタミン(50mg/kg)およびキシラジン(15mg/kg)を用いて筋肉内投与により麻酔をかけた。動物を、イヤーバー(ear bars)と切歯バー(incisor bar)との間を−3.3mmに一定に設定して、頭を平坦にした位置で定位固定装置に配置した。動物を、局所麻酔薬(キシロカイン1%、Astra Zeneca)および鎮痛薬(Temgesic、Schering Plough社製、0.05mg/kg、皮下注射)により処置した。ランセットを用いて対軸方向の正中切開を行い、頭蓋背表面を露出した。「定位ゼロ」を、PaxinosおよびWatsonのアトラス(1986)に従って、前項により定義した。ドリルで頭蓋に穴をあけ、髄膜に滅菌針を突き刺し、CMA12のガイドカニューレを埋め込み、その後透析プローブを入れた。
【0104】
前頭から前頭前野皮質にガイドカニューレを埋め込むために使用される座標は、前後3.7mm、中外0.8mmおよび背腹−2mm(プローブの先端は−5mmにあった。)であった。ガイドカニューレを2つの装着されているステンレススチールのねじ(外径1.88mm)で頭蓋に固定した。歯科用セメントの適用を加えた。プラスチックカラーにより、各動物をCMA120覚醒動物系のスイベル・アセンブリ(Swivel assembly)に繋いだ。外科手術後、ラットを個別のケージにおいて飼育し、実験前に最短でも3−5日回復させた。ラットを手に取り、少なくとも毎日10分間プラスチックボウルに入れ、動物を透析のためのこれらの新しい環境に慣れさせた。生理食塩水のI.P.投与も毎日実施した。
【0105】
透析プローブ(CMA12/3mm、膜、20kDカットオフ、Carnegie Medicine、Stockholm、Sweden)を慎重に洗浄し、その後ガイドカニューレに挿入した。洗浄は、人工髄液(aCSF)媒体(NaCl 147mM、KCl 2.7mM、CaCl
2 1.2mM、MgCl
2 0.85mM)を用いて室温において実施した。その後、透析系を20℃において潅流速度1μl/分でCarnegieポンプ(CMA100)を用いて平衡させた。微小透析に使用されるすべてのカテーテル(FEP管、内部体積1.2μl/10cmおよびチューブアダプター)を、同じ条件で処理した。
【0106】
aCSF溶液が透析プローブを通る流れは、全実験の間に1μl/分の一定速度で維持された。aCSFで還流される透析プローブは、ドーパミン、DOPAC、5−HIAA、ノルエピネフリン(norepinephrin)およびセロトニンに関しては10
−4MならびにHVAに関しては10
−3Mで化合物溶液を含有するバイアルに配置された。透析液は、すべての被験神経伝達物質のインビトロ回収の平均を計算するために、30分の間に3つの異なるプローブから収集した。収集された分画(30μl)を、直ちにドライアイスに移し、輸送まで凍結(−80℃)保存した。インビトロ回収の百分率は、プローブから回収された神経伝達物質の濃度と母溶液中の濃度との比率である。
【0107】
正しく調整されたプローブをガイドカニューレに挿入し、プラスチックカラーを使用して、CMA120スイベル・アセンブリを動物に固定した。aCSFが透析プローブを通る流れは、全実験の間に1μl/分の速度で維持された。最初の3つの分画(2時間に相当する。)を廃棄して、実質妨害の影響を避け、確実にほぼ正確な定常レベルに到達するようにした。その後、分画を8.5時間にわたって収集し、この間動物はおとなしくしていた。透析液は、オートサンプラー(微小分画コレクターCMA140;Carnegie Medicin)により自動的に収集され、分析まで−80℃において保存された。
詳細には、基本条件の1.5時間後(3種の基本透析液T
−1h30−T
−1h、T−
1h−T
−30min、T
−30min−T
0)、次いで動物にSON−117またはシタロプラムをI.P.投与した。その後aCSFによる潅流を7時間維持した。透析液(30μl)を300μlのバイアルに収集し、ドライアイスに移し、その後分析まで凍結保存(−80℃)した。凍結試料を分析のためにパートナーに輸送した。微小透析研究の終わりに、透析範囲を可視化するために、カラーインクを含むPBSをプローブの間に還流させた。
【0108】
微小透析研究において作成されたデータは、SON−117が、カテコールアミン、特に5−HTおよびDAの細胞外放出を誘導するという強力な証拠、一般的に使用されるモノアミン作動性抗うつ薬に関して提唱される古典的作用機序と一致する発見を提供している。しかし、微小透析研究におけるこのような神経伝達物質の調節は、CMSモデルにおいて有効性を提供する用量よりはるかに高い用量において観察される。例えば、CMSモデルにおけるスクロース摂取の即効正常化が、0.001mg/kg程度の低用量において観察されたが、一方、微小透析研究は、0.3mg/kgにおいて神経伝達物質放出のわずかな攪乱だけを示した。この発見は予想外であり、他のモノアミン作動性抗うつ薬とは異なる、気分障害を治療するためのSON−117のMoAを支持しており、このため、気分に対する有益な効果は、この効果がカテコールアミンの放出および再取り込阻害単独によっては駆動されないという点で、カテコールアミンの細胞外放出を誘導する用量範囲と同じ用量範囲内である。
【0109】
カテコールアミンアッセイ:ドーパミン、DOPAC、HVA、5−HIAA、5−HT、およびノルエピネフリン(norepinephrin)の濃度を、HPLCと電気化学検出とにより各試料に関して決定した。この系は、ポンプ(LC−10 AD;Shimadzu)、冷却された自動噴射器(Famos;Dionex)、逆相Hypersil RP18カラム(Aquasil、150×1mm、3μm;ThermoHypersil)および電流測定セル(VT−03、Antec)を装備した電気化学検出器(Decade、Antec)から構成される。クロマトグラムを収集して、積分器(CLAS VP、Shimadzu)により処理した。移動相は、リン酸ナトリウムバッファー(50mM NaH
2PO
4)、1−オクタンスルホン酸(1.7mM)、Na
2EDTA(200μM)および5%のアセトニトリルで構成され、DA代謝産物に関してはpH3ならびにドーパミンおよびセロトニンに関してはpH4であった。移動相は、ポンプにより流速60μl/min
−1で送達された。電気化学セルの酸化電位は+650mVであった。6μlの体積を噴射し、各決定のための実行時間は35分であった。
【0110】
5−HIAAレベルもまた測定した。さらなる統計分析を各実験群に対して実施し、各神経伝達物質または代謝産物に関して、一元配置反復測定ANOVA(one−way repeated measure ANOVA)により試験した。
【0111】
結果の下記の提示は、3つの項からなっている。表2は、回収試験において得られた結果を提示している。この表および
図4から27は、各処理群に関して、対応する処理のIP投与前後の、透析液試料中で測定された各神経伝達物質またはこれらの代謝産物の個別のレベルおよび平均レベルを詳細に記載している。最後に、
図28から33は、T0からT7hまでのさまざまな実験群における各神経伝達物質または代謝産物の皮質レベルのグラフ表示である。
【0112】
【表2】
【0113】
インビトロ回収試験(表1)の間に収集された試料を、ドーパミン、HVA、DOPAC、ノルエピネフリン、5−HIAAおよび5−HTの濃度(投薬溶液および透析液において測定)に関して分析した。表2において、各神経伝達物質または代謝産物に関する3つの独立したアッセイは再現性があり、神経伝達物質または代謝産物に関するインビトロ回収の平均値の計算が可能であることが示されている。
【0114】
結果は、各実験群の8匹の動物に関して得られた値の平均±SEMとして表し、ドーパミンおよび代謝産物(DOPAC、HVA)、ノルエピネフリン(NE)、5−HIAAならびにセロトニンに関する対応する平均基底値の百分率として表す。5−HIAA、5−HTの代謝産物を、同じHPLCの実行において分析し、結果に加えた。
【0115】
表3、4、5、6、7および8は、シタロプラム10mg/kgのI.P処置群における透析液中のノルエピネフリン、DOPAC、ドーパミン、5−HIAA、HVAおよび5−HTの濃度を(それぞれの基底値に対する%で)提示している。
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
【0118】
【表5】
【0119】
【表6】
【0120】
【表7】
【0121】
【表8】
【0122】
シタロプラムのI.P.投与は、投与後0.5時間から7時間までに前頭前野皮質においてNE濃度の有意で安定したわずかな低下(72%)を誘導した。DOPACに関しては、シタロプラム(10mg/kg)の投与後、統計的有意差は観察されなかった。シタロプラム(10mg/kg)のI.P.投与は、ドーパミンレベルをT1.5時間から2.5時間に上昇を誘導する傾向があった(255%)。この上昇は有意ではなかった。シタロプラム(10mg/kg)のIP投与は、この投与後0.5時間および1時間で、前頭前野皮質において5−HIAA濃度の有意でわずかな上昇を誘導し(113%)、その後、投与後2時間から7時間に有意で安定した低下を誘導した。HVAに関しては、シタロプラム(10mg/kg)の投与後、統計的有意差は見出されなかった。シタロプラム(10mg/kg)のIP投与は、この投与後1時間から2時間までに、前頭前野皮質において5−HT濃度の有意な上昇を誘導(219%)し、その後、この投与後6時間から7時間までに5−HTレベルの有意でわずかな低下を誘導した。
【0123】
表9、10、11、12、13および14は、SON−117 0.1mg/kgのI.P処置群における透析液中のノルエピネフリン(norepinephrin)、DOPAC、ドーパミン、5−HIAA、HVAおよび5−HTの濃度を(それぞれの基底値に対する%で)提示している。NEに関しては、SON−117(0.1mg/kg)の注射前平均値と注射後のレベルとの間に統計的有意差は見出されなかった。SON−117(0.1mg/kg)のI.P.投与は、1.5時間から2.5時間までおよび4.5時間から7時間までにDOPACレベルのわずかな上昇を誘導する傾向があった。この上昇は統計的に有意ではなかった。SON−117(0.1mg/kg)のI.P.投与は、T1.5時間および2.5時間(287%)および4.5時間から7時間(353%)にドーパミンレベルの上昇を誘導する傾向があった。この上昇は統計的に有意ではなかった。5−HIAAに関しては、SON−117(0.1mg/kg)の投与前平均値と、I.P.投与後の透析液レベルとの間に統計的有意差は見出されなかった。HVAに関しては、SON−117(0.1mg/kg)の投与前平均値と、I.P.投与後の透析液レベルとの間に統計的有意差は見出されなかった。SON−117(0.1mg/kg)のIP投与は、2.5時間(368%)および4.5時間から7時間(350%)にセロトニンレベルの上昇を誘導する傾向があった。この上昇は統計的に有意ではなかった。
【0124】
【表9】
【0125】
【表10】
【0126】
【表11】
【0127】
【表12】
【0128】
【表13】
【0129】
【表14】
【0130】
表15、16、17、18、19および20は、SON−117 0.3mg/kgのI.P.処置群における透析液中のノルエピネフリン、DOPAC、ドーパミン、5−HIAA、HVAおよび5−HTの濃度を(それぞれの基底値に対する%で)提示している。SON−117(0.3mg/kg)のI.P.投与は、この投与後3.5時間(117%)および4.5時間から7時間まで(128%)で前頭前野皮質においてNE濃度の有意でわずかな上昇を誘導した。DOPACに関しては、投与前平均値と、SON−117(0.3mg/kg)のIP投与後の透析液レベルとの間に統計的有意差は見出されなかった。SON−117(0.3mg/kg)のI.P.投与は、5.5時間から7時間までにドーパミンレベルの上昇(298%)を誘導する傾向があった。この上昇は統計的に有意ではなかった。SON−117(0.3mg/kg)のIP投与は、この投与後3.5時間および4.5時間から7時間までに、前頭前野皮質において5−HIAAの有意で安定したわずかな低下を誘導した。HVAに関しては、投与前平均値と、SON−117(0.3mg/kg)のIP投与後の透析液レベルとの間に統計的有意差は見出されなかった。5−HTに関しては、投与前平均値と、SON−117(0.3mg/kg)のIP投与後の透析液レベルとの間に統計的有意差は見出されなかった。
【0131】
【表15】
【0132】
【表16】
【0133】
【表17】
【0134】
【表18】
【0135】
【表19】
【0136】
【表20】
【0137】
表21、22、23、24、25および26は、SON−117 3mg/kgのIP処置群における透析液中のノルエピネフリン、DOPAC、ドーパミン、5−HIAA、HVAおよび5−HTの濃度を(それぞれの基底値に対する%で)提示している。NEに関しては、投与前平均値と、SON−117(3mg/kg)のIP投与後の透析液レベルとの間に統計的有意差は見出されなかった。DOPACに関しては、投与前平均値と、SON−117(3mg/kg)のIP投与後の透析液レベルとの間に統計的有意差は見出されなかった。SON−117(3mg/kg)のIP投与は、ドーパミンレベルのわずかな上昇を、1.5時間(169%)および6時間から7時間まで(最大167%)において誘導する傾向があり、この上昇は統計的に有意ではなかった。SON−117(3mg/kg)のIP投与は、この投与後2時間から7時間まで(最大72%)に、前頭前野皮質において5−HIAAの有意で安定した低下を誘導した。SON−117(3mg/kg)のIP投与は、この投与後3.5時間(114%)に、前頭前野皮質においてHVAの有意でわずかな上昇を誘導した。SON−117(3mg/kg)のIP投与は、この投与後2時間から3時間まで(最大175%)および5.5時間から7時間まで(272%)に、前頭前野皮質において5−HTの有意な上昇を誘導した。
【0138】
【表21】
【0139】
【表22】
【0140】
【表23】
【0141】
【表24】
【0142】
【表25】
【0143】
【表26】
【0144】
網羅的解析を実施して、3種の濃度(0.1、0.3および1mg/kg)でIP投与されたSON−117の効果を、ラットの前頭前野皮質におけるカテコールアミン放出について、10mg/kgでI.P.投与されたシタロプラムと比較した。
【0145】
NEに関して、網羅的二元配置ANOVA分析により、(1)シタロプラムにより処置された群とSON−117により0.1mg/kgで処置された群との間には、サンプリング時間4.5時間および7時間において有意差がある。化合物の投与後、4.5時間および7時間において、NEのレベルは、シタロプラム処置群と比較してSON−117(0.1mg/kg)群においてより高かった;(2)シタロプラムにより処置された群とSON−117により0.3mg/kgで処置された群との間には、サンプリング時間3.5時間、4時間、4.5時間、5時間、5.5時間、6時間および7時間において有意差があった。化合物の投与後これらのサンプリング時点において、NEのレベルは、シタロプラム処置群と比較してSON−117(0.3mg/kg)群においてより高かった;ならびに(3)シタロプラムにより処置された群とSON−117により3mg/kgで処置された群との間には、サンプリング時間1.5時間および3.5時間において有意差があった。化合物の投与後これらの2つのサンプリング時点において、NEのレベルは、シタロプラム処置群と比較してSON−117(3mg/kg)群においてより高かった、ことが明らかにされた。
【0146】
DOPACに関して、網羅的二元配置ANOVAにより、シタロプラム処理群と、時間の関数でSON−117により被験の三種の用量で処理された群との間に有意差はないことが明らかにされた。しかし、本発明者らは、SON−117 0.1mg/kgにより2時間および4.5時間から7時間までにおいてDOPACの放出が増加する傾向を観察している。
【0147】
ドーパミンに関して、網羅的二元配置ANOVA分析により、シタロプラム処理群とSON−117により被験の三種の用量で処理された群との間に、時間の関数で有意差はないことが明らかにされた。しかし、本発明者らは、SON−117の2種の用量(0.1および0.3mg/kg)において5.5時間から放出が増加する傾向を観察している。
【0148】
5−HIAAに関して、網羅的二元配置ANOVA分析により、:(1)シタロプラム処理群と、SON−117により0.1mg/kgで処理された群との間に、サンプリング時間0.5時間、4.5、5時間および6.5時間において有意差がある。化合物の投与後0.5時間において、5−HIAAのレベルは、シタロプラム処置群と比較してSON−117群(0.1mg/kg)群においてより低かった。反対に、化合物の投与後4.5時間、5時間、6.5時間において、5−HIAAのレベルは、シタロプラム処置群と比較してSON−117群(0.1mg/kg)群においてより高かった;(2)シタロプラム処理群とSON−117により0.3mg/kgで処理された群との間に時間の関数で有意差はない;ならびに(3)シタロプラムにより処理された群とSON−117により3mg/kgで処理された群との間に、サンプリング時間3時間および3.5時間において有意差がある。化合物の投与後2つの時点において、5−HIAAのレベルは、シタロプラム処置群と比較してSON−117群(3mg/kg)群においてより高かったことが明らかにされた。
【0149】
HVAに関して、網羅的二元配置ANOVA分析により、シタロプラムにより処理された群とSON−117により被験の3種の用量で処理された群との間に、時間の関数で有意差はないことが明らかにされた。
【0150】
5−HTに関して、網羅的二元配置ANOVA分析により、(1)シタロプラムにより処理された群とSON−117により0.1mg/kgで処理された群との間に、サンプリング時間2.5時間および4.5および5.5時間において有意差がある。ドーパミンの放出の連続増加の傾向が、4.5時間から7時間に観察されている。化合物の投与後これらのサンプリング時点において、5−HTのレベルは、シタロプラム処理群と比較してSON−117群(0.1mg/kg)群においてより高かった。SON−117 0.1mg/kgにより2.5時間において観察された最大の増加は369%であり、シタロプラムによる1時間における最大増加である218%と比較された。4.5時間から7時間までに、5−HTの放出の増加上昇が、349%から249%の間に含まれるレベルに維持される;(2)シタロプラムにより処理された群とSON−117により0.3mg/kgで処理された群との間に、サンプリング時間1時間において有意差がある。5−HTのレベルは、シタロプラム処理群と比較してSON−117群においてわずかに低かった;ならびに(3)シタロプラム処理群とSON−117により3mg/kgで処理された群との間に、サンプリング時間1時間および5時間および7時間において有意差がある。化合物の投与後1時間において、5−HTのレベルは、シタロプラム処理群と比較してSON−117群(3mg/kg)群においてわずかに低かった。反対に、化合物の投与後5時間および7時間において、5−HTのレベルは、シタロプラム処理群と比較してSON−117群(3mg/kg)群において高かった。ドーパミンの放出の連続増加傾向が、5時間から観察されている。5時間において観察された最大の増加が272%である(シタロプラムにより観察された218%の最大増加より優れている。)。183%の増加が、SON−117の投与後7時間においてもまだ存在した。
【0151】
本実験の目的は、一つには、SON−117の3種の用量(0.1、0.3および3mg/kg)のIP投与後に、NE、ドーパミンおよびこの代謝産物(DOPACおよびHVA)ならびにセロトニンおよびこの代謝産物の5−HIAAの変動をラットの前頭前野皮質において評価することである。一つには、本プロジェクトの目的は、SON−117により誘導されるこれらの変動を、参照化合物であるシタロプラムの効果と比較することでもあった。
【0152】
本研究は、シタロプラム(10mg/kg;IP)の投与が、この投与後1および2時間の間に前頭前野皮質において5−HTのレベルの上昇および6および7時間の間に5−HTレベルの低下を誘導可能なことを示した。5−HTのこれらの変動は5−HIAAの変動を伴い、5−HIAAレベルの最初の一次的上昇が観察され、次いで代謝産物の濃度の低下が観察された。ドーパミンに関して、シタロプラムの投与は、ラットの前頭前野皮質において神経伝達物質およびこの代謝産物のDOPAC、HVAのレベルに影響を与えなかった。ドーパミンに関して、シタロプラム群の動物間の応答の不均一は、シタロプラムの投与後に観察されたドーパミンレベルの上昇が統計的に有意でなかった理由を説明していると思われる。最後に、シタロプラム(10mg/kg IP)は、シタロプラムのIP投与後に測定されたNEのレベルの有意で安定したわずかな低下を誘導した。
【0153】
SON−117は被験の3種の用量で、さまざまなサンプリング時間においてNEの放出増加を誘導した。この増加は、投与後3.5時間からより顕著であった。しかし、増加は依然として中程度のままであり、投与後7時間に最大の129%であった。ドーパミンに関して、投与後後期(0.1mg/kgにおいて5時間から、および0.3mg/kgにおいて5.5時間から)に0.1および0.3mg/kgにおいて放出の増加傾向が現れた。0.1および3mg/kgの2種の用量において、SON−117は、5−HTの放出を有意に増加させた。興味深いことに、増加はシタロプラムにより観察された増加より優れていた(観察された最大が369%対218%)。さらに、SON−117により観察された増加は、4.5時間から7時間まで維持された。ドーパミンの代謝産物(DOPACおよびHVA)および5−HTの代謝産物(5−HIAA)に関して、効果はあまり著しくなかった。にもかかわらず、DOPAC放出に対するSON−117の0.1mg/kgにおける効果は、ドーパミンで観察される効果と非常に近く(2時間および4時間から7時間までにおける増加)、5−HIAAのレベルは、SON−117 0.1mg/kgの投与後後期にもまた調節された。
【0154】
本研究は、SON−117のIP投与後の、ドーパミン、5−HT、ノルエピネフリンならびに代謝産物のDOPAC、HVAおよび5−HIAAの放出に対する効果を探索するための最初の研究である。投与後T0から7時間の大きな時間枠を網羅し、主にドーパミンおよび5−HTに対するSON−117の驚くべき効果を示したが、これらの効果は、シタロプラムにより観察される効果より優れていた。さらに、SON−117の効果はこの時間内に維持されることが示され、投与後7時間以上における時間のSON−117の活性の役割を示唆した。
【0155】
[
実施例4]
SON−117を使用した、ラットにおける慢性ストレスモデル
雄Wistarラット(Charles River、Germany)を、実験開始の1ヶ月前に実験室に連れて来た。下記以外、動物は単独で飼育され、食餌および水は自由に摂取でき、一定の温度(22±2℃)および湿度(50±5%)の条件下で、12時間の明/暗サイクルに維持された。
【0156】
実験室および飼育条件への馴化の2週間後、動物をまず、1%スクロース溶液を消費するように訓練し、訓練は、14時間の食餌および水の剥奪後スクロースをホームケージにおいて提示し、スクロースの摂取を、事前に秤量してあるスクロース溶液含有ボトルを試験の終わりに秤量することにより測定する、9回の1時間のベースライン試験からなった。その後、全実験を通して週に1回の間隔で、同様の条件下でスクロースの消費をモニターした。
【0157】
最終のベースライン試験におけるこれらのスクロース摂取に基づき、動物を2つの対応群に分けた。動物の1つの群を慢性軽度ストレス手順に、連続8週間の期間供した。各週のストレス管理体制は、2ピリオドの食餌または水の剥奪、2ピリオドの45°ケージ傾斜、2ピリオドの間欠照明(明かりを2時間ごとに点けたり消したりする。)、2ピリオドのケージ汚染(おがくずの寝床に250mlの水)、1ピリオドの2匹一緒の飼育、2ピリオドの低強度のストロボスコープ照明(150フラッシュ/分)ならびに3ピリオドのストレスなし、で構成された。すべてのストレス因子は10−14時間の持続期間であり、個別的および連続的に昼夜適用された。対照動物は別の部屋で飼育され、ストレスを与えられた動物との接触はなかった。対照動物は各スクロース試験の前14時間食餌および水を奪われたが、これ以外は、食餌および水は、ホームケージの中で自由に利用可能であった。
【0158】
最初の2週間のストレス後のこれらのスクロース摂取に基づき、ストレス群および対照群の両方を、対応サブグループ(n=8)にさらに分割し、続く5週間の間にビヒクル(0.5%ヒドロキシプロピルメチルセルロース、1ml/kg)、SON−117(0.001、0.01、0.1および1mg/kg)または参照処置としてイミプラミン(10mg/kg)の腹腔内注射を1日1回与えた。薬剤は、だいたい10:00AMに投与し、毎週のスクロース試験は、最終の薬剤注射後24時間に実施した。5週の全処置の終了後、1回の追加のスクロース試験を、離脱の1週間後に実施した。ストレスは、処置および離脱のピリオドを通して継続した。
【0159】
投与および離脱ピリオドの完了後、すべての対照動物およびストレス動物をオープンフィールド(直径100cm、高さ35cm)に配置し、2つの同一の物体(壁面を白く塗装された、直径7cm、高さ11cmの円筒形)を、どちらかの物体の探索の15秒が完了するために必要な時間探索させた。1時間後に実施された保持試行のために、事前に提示された物体の1つを新奇な物体と取り換えた(壁面を黒く塗装された、幅5cm、高さ14cmのプリズム型)。ラットをオープンフィールドに5分間戻し、各物体の探索(即ち、物体に近接して座り、この物体を嗅いだり、または触ったりすること)の持続時間を熟練した観察者により別々に測定した。データを、下記の式に従って計算した:[新奇物体の探索時間÷新奇および見慣れた物体の探索時間×100]。CMSおよびNORデータを、3つの対象因子(ストレス/対照、薬剤処置および連続スクロース試験における摂取)間の偏差の多重分析により分析した。フィッシャーのLSD検定を、平均のpost−hoc比較に使用した。
【0160】
研究の結果は以下の通りである。慢性の軽度ストレスは、1%スクロース溶液の消費の段階的減少を引き起こした。最終のベースライン試験において、すべての動物がおよそ13gのスクロース溶液を飲んだ。最初の2週間のストレス後、摂取は対照において同様のレベルのままであったが、ストレス動物においてはおよそ8gに低下し[F(1,94)=169.289;p<0.001]、ビヒクルを投与された対照動物とストレス動物との間のこのような差は、残りの実験に関しても同様のレベルに維持された(下記の図を参照されたい。)。
【0161】
図1は、対照(白い記号)および慢性軽度ストレスに曝された動物(黒い記号)における1%スクロース溶液の消費に対する、ビヒクル(1ml/kg、IP)およびイミプラミン(10mg/kg、IP)による慢性処置の効果を例示している。処置は初回ストレスの2週間後に開始した。値は、平均±SEMである。ビヒクル投与と比較した場合、イミプラミンは、対照動物におけるスクロースの摂取に対して有意な効果は有さず[処置効果:F(1,84)=1.379;NS]、ストレス動物においてスクロースの消費は徐々に増加し、有意な処置効果[F(1,84)=66.044;p<0.001]および処置×週の相互作用[F(5.84)=7.397;p<0.001]をもたらした。0週のスコアと比較して、イミプラミンを投与されたストレス動物におけるスクロース摂取の増加は、処置の4週後に統計的に有意に達した(p=0.038)。この効果は、これ以降強化され、処置の停止後1週間維持された。***−p<0.001;ビヒクルまたは薬剤により処置された対照群との比較、#−p<0.0、##−p<0.01;0週における薬剤処置されたストレス群との比較。
【0162】
図2は、対照(白い記号)および慢性軽度ストレスに曝された動物(黒い記号)における1%スクロース溶液の消費に対する、ビヒクル(1ml/kg、IP)およびSON−117(0.001、0.01、0.1および1mg/kg、IP)による慢性処置の効果を例示している。処置はストレスの2週間後に開始した。値は、平均±SEMである。
ビヒクル投与と比較した場合、SON−117(全用量)は、対照動物においてスクロースの摂取に対して有意な効果は有さず[処置効果:F(4,210)=1.174;NS]、ストレス群において非常に有意な処置効果[F(4,210)=20.964;p<0.001]および処置×週の相互作用[F(20,210)=11.679;p=0.039]を引き起こした。ビヒクル注射と比較した場合、SON−117の4種すべての用量は、ストレス動物において有意な効果を引き起こした[0.001mg:F(1,84)=95.974;p<0.001、0.01mg:F(1,84)=18.571;p<0.001、0.1mg:F(1,84)=33.659;p<0.001、1mg:F(1,84)=51.768;p<0.001]。しかし、0週のスコアと比較した場合、この効果は0.001および0.01mg/kgの用量の投与後だけが統計的有意性に到達した。これらの用量により処置されたストレス動物におけるスクロース消費のこれらの増加は、投与の第1週後にすでに有意性に到達した(それぞれ、p<0.013およびp<0.031)。処置停止後1週、0.001mg/kgの効果は維持されたが、1mg/kgの効果は無効になった。*−p<0.05、**−p<0.01、***−p<0.001;ビヒクルまたは薬剤により処置された対照群との比較。#−p<0.05、##−p<0.01;0週における薬剤処置されたストレス群との比較。
【0163】
図3は、新奇物体認識試験における対照動物(白い記号)およびストレス動物(黒い記号)の挙動に対する、ビヒクル(1ml/kg、IP)、イミプラミン(10mg/kg、IP)およびSON−117(0.001、0.01、0.1および1mg/kg、IP)による慢性処置の効果を例示している。試験は、処置からの離脱1週後に実施した。
値は、平均±SEMである。CMS手順は認識指数を低下させ、有意なグループ効果をもたらした[F(1,14)=22.441;p<0.001]。イミプラミンは、対照群において認識指数を低下させ[F(1,14)=12.101;p<0.01]、CMS誘導性欠損に対して無効であった[F(1,14)=0.287;NS]。SON−117(全用量)は、対照群において認識指数に対して有意な効果は有さず[F(4,35)=0.346;NS]、ストレス群において有意な処置効果を引き起こした[F(4,35)=2.686、p<0.05]。ストレス動物において、低用量の0.001、0.01および0.1mg/kgで投与されたSON−117は、認識指数を、ビヒクルまたは薬剤により処置された対照動物のレベルまで回復させたが、一方、最も高い用量の1mg/kgは、新奇物体認識においてCMS誘導性欠損に対して無効であった。*−p<0.05、***−p<0.001;ビヒクルまたは薬剤により処置された対照群との比較。#−p<0.05、##−p<0.01;ビヒクル処置された対照群またはストレス群との比較。
【0164】
ストレス手順を開始する前(ベースライン)、対照およびストレスをかけられる動物は、同等の体重を有し(それぞれ、320および316g)、ストレスの最初の2週(0週)後、ストレス動物は、対照より少しだけ小さかった(それぞれ、336および352g)。ビヒクル処置動物と比較した場合、イミプラミンもSON−117も体重に対する有意な効果は少しも有さず、対照[IMI:F1,14)=3.554;NS、SON−117:F(4,35)=1.184;NS]およびストレス[IMI:F1,14)=0.879;NS、SON−117:F(4,35)=2.623;p=0.051;NS]であった。
【0165】
この研究の結果は、CMS手順が1%スクロース溶液の消費の実質的減少を引き起こし、この欠損が、イミプラミンによる慢性処置により十分逆転できることを示す以前のデータと一致する。この効果の大きさおよびこの発現は、この抗うつ薬による他のCMS研究において観察されたものと同様であった。SON−117は、うつ病のCMSモデルにおいて活性であると思われ、この化合物は対照において効果を有さず、ストレス動物においてスクロース摂取を強化した。SON−117の最も活性な用量(0.001および1.0mg/kg)の作用の大きさは、イミプラミンの作用の大きさと同様であり、処置ピリオドの終わりまでに、これらの用量により処置されたストレス動物におけるスクロース消費はストレス前のレベルに回復した。これらの用量の作用の発現は、イミプラミンによる作用の発現より明らかに速く、スクロース摂取の強化は、イミプラミンにより必要とされる4週と比較して、投与の第1週にすでに統計的有意性に到達した。さらに、本明細書に記載のSON−117による処置は、イミプラミンにより観察される認知機能障害を伴わなかった。他の2種の用量である0.01および0.1mg/kgは、イミプラミンより有効性が低かったが、摂取は、ビヒクル処置されたストレス動物と比較して有意に増加し、ビヒクル処置されたストレス動物は、ビヒクル処置された対照動物およびストレス前の値と比較して抑制されたままであった。最も高い用量である1mg/kgを除いて、CMSモデルにおけるSON−117の活性は、処置からの離脱後1週間維持された。新奇物体認識試験において見出されたように、SON−117はまた、ストレス動物を作業記憶におけるCMS誘導性欠損から防ぐことができる。興味深いことに、この効果は、処置からの離脱後、これらのスクロース消費の強化を維持した動物においてのみ観察された。
【0166】
[
実施例5]
SON−117およびSON−117代謝産物の薬物動態分析
SON−117およびSON−117代謝産物M1:
【0167】
【化10】
を、薬物動態研究において検査した。
【0168】
図34は、SON−117の投薬後1日目における、時間の関数としてのSON−117の血漿濃度を例示している。
図35は、SON−117の投薬後14日目における、時間の関数としてのSON−117の血漿濃度を例示している。これらのデータは、SON−117のC
maxおよびAUCの用量比例性増加を実証する。
【0169】
図36は、SON−117の投薬後1日目における、時間の関数としてのSON−117のM1代謝産物の血漿濃度を例示している。
図37は、SON−117の投薬後14日目における、時間の関数としてのSON−117のM1代謝産物の血漿濃度を例示している。これらのデータは、SON−117のM1代謝産物のC
maxおよびAUCの用量比例性増加を実証する。
【0170】
本発明を特定の好ましい実施形態を参照することにより本明細書に記載してきた。しかし、これに関する特定の変形が、本明細書に記述の開示に基づき当業者には明らかになると思われ、本発明は、これらに限定されるものと考えられるべきではない。
【0171】
本発明の記述の少なくとも幾つかを単純化して、本発明の明確な理解に関連する要素に焦点を合わせてきて、明瞭にする目的のために、当業者が理解すると思われる他の要素を排除したが、これらもまた本発明の一部を含み得ることは理解されるべきである。しかし、このような要素は当分野において周知であり、これらが必ずしも本発明のより良い理解を容易にするとは限らないので、このような要素の記述は本明細書に提供されない。
【0172】
さらに、本方法が、本明細書に記述のステップの特定の順序に頼らない範囲で、ステップの特定の順序は、特許請求の範囲に限定されると解釈するべきではない。本発明の方法に対象とされた特許請求の範囲は、これらステップが記載の順番で実行されることに限定されるべきではなく、当業者は、これらのステップが変更可能であり、本発明の精神および範囲内にあり続けることを容易に理解可能である。
【0173】
限定するものではないが、米国特許第6,720,320号を含む、本明細書に引用された特許、特許出願および参考文献は、これらの全体が記載されたかのように参照により十分および完全に組み込まれる。