特許第6657483号(P6657483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6657483
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】ボタン
(51)【国際特許分類】
   A44B 17/00 20060101AFI20200220BHJP
【FI】
   A44B17/00
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-524571(P2019-524571)
(86)(22)【出願日】2017年6月12日
(86)【国際出願番号】JP2017021669
(87)【国際公開番号】WO2018229835
(87)【国際公開日】20181220
【審査請求日】2019年6月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
(72)【発明者】
【氏名】田中 映
(72)【発明者】
【氏名】菅野 孝太
(72)【発明者】
【氏名】中渡瀬 良平
【審査官】 長尾 裕貴
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭57−40306(JP,U)
【文献】 特開2007−221870(JP,A)
【文献】 実開昭60−83313(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 17/00
B29C 45/00−45/24
45/46−45/63
45/70−45/72
45/74−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボタン本体(11)の中央に貫通孔(13)を有する射出成型された樹脂製のボタン(10、10a、10b、10c)であって、
前記ボタン本体(11)における成型金型のゲートに対応するゲート位置(17)とボタン本体(11)の中心(O)とを結ぶ仮想直線(L)によって左右に分けられるボタン本体(11)の左半部(11L)と右半部(11R)とにおいて、ボタン本体(11)の外側面(11a)に対し一つ又は複数の凹部(21、22、23、24、25、26、27、28、29)又は凸部(31、32)を非対称に設けたことを特徴とするボタン。
【請求項2】
前記ボタン本体(11)はウェルドライン(16、16a、16b、16c)を有し、前記ウェルドライン(16、16a、16b、16c)は前記ボタン本体(11)の少なくとも外側面(11a)に非直線状に現れる請求項1に記載のボタン。
【請求項3】
前記ウェルドライン(16、16a、16b、16c)は前記ボタン本体(11)の内側面(11b)に非直線状に現れる請求項2に記載のボタン。
【請求項4】
前記ウェルドライン(16、16a、16b、16c)は前記ボタン本体(11)の前記貫通孔(13)を規定する周面において非直線状に現れる請求項2に記載のボタン。
【請求項5】
前記ボタン本体(11)の外側面(11a)に現れるウェルドライン(16、16a、16c)は少なくとも部分的にジグザグ状である請求項2に記載のボタン。
【請求項6】
前記左半部(11L)と右半部(11R)は体積が異なる請求項1〜5のいずれか1項に記載のボタン。
【請求項7】
前記左半部(11L)は、前記中心(O)を中心とする周方向に円弧状に延びるか又は円弧状に並ぶ一つ又は複数の左円弧凹部(21、22、23、24)又は左円弧凸部を含み、前記右半部(11R)は、前記周方向に円弧状に延びるか又は円弧状に並ぶ一つ又は複数の右円弧凹部(25、26)又は右円弧凸部(31、32)を含み、前記左円弧凹部(21、22、23、24)又は左円弧凸部と前記右円弧凹部(25、26)又は右円弧凸部(31、32)とは半径方向にずれている請求項1〜6のいずれか1項に記載のボタン。
【請求項8】
前記左半部(11L)は、前記中心(O)を中心とする周方向に円弧状に延びるか又は円弧状に並ぶ一つ又は複数の左円弧凹部(28)又は左円弧凸部を含み、前記右半部(11R)は、前記周方向に円弧状に延びるか又は円弧状に並ぶ一つ又は複数の右円弧凹部(29)又は右円弧凸部を含み、前記左円弧凹部(28)又は左円弧凸部と前記右円弧凹部(29)又は右円弧凸部とは、半径方向において同じ位置にありかつ前記周方向において長さが異なる請求項1〜6のいずれか1項に記載のボタン。
【請求項9】
前記左半部(11L)又は右半部(11R)は、前記中心(O)を中心とする周方向に円弧状に延びるか又は円弧状に並ぶ一つ又は複数の第1の円弧凹部(21、23)又は第1の円弧凸部(31)と、前記第1の円弧凹部又は第1の円弧凸部に対し半径方向に間隔(41、42)を空けて設けた、前記周方向に円弧状に延びるか又は円弧状に並ぶ一つ又は複数の第2の円弧凹部(22、24)又は第2の円弧凸部(32)とを含む請求項1〜6のいずれか1項に記載のボタン。
【請求項10】
前記左半部(11L)及び右半部(11R)の一方の外側面(11a)にのみ、一つ又は複数の凹部(27)又は凸部を設けた請求項1〜4のいずれか1項に記載のボタン。
【請求項11】
前記ボタン(10、10a、10b、10c)は雌スナップボタン(10、10a、10b、10c)であり、前記ボタン本体(11)は前記雌スナップボタン(10、10a、10b、10c)の底部(11)であり、前記底部(11)の半径方向外側端から突出する周側部(12)を含む請求項1に記載のボタン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボタン、特に射出成型される樹脂製の雌スナップボタン等のボタンに関する。
【背景技術】
【0002】
雄スナップボタンと着脱される合成樹脂製の雌スナップボタン(以下、本明細書中、単に「雌スナップ」という。)は衣服、鞄等に多用されており、例えば特開2003−310310号公報に開示される。図10及び図11は、従来の雌スナップ110の斜視図及び底面図であり、図12図11のD−D線断面図である。以下、上方とは図12の紙面に対して上側、下方とは図12の紙面に対して下側、上下方向とは図12の雌スナップ110の厚さ方向のことを言う。雌スナップ110は、略円板状の底部111と、底部111の半径方向外側端から上方に突出する周側部112とを備える。底部111の中央には、ボタン取付部材120(図4参照)のピン122を通すための貫通孔113が設けられる。底部111上でかつ周側部112の半径方向内側の空間114は、図示しない雄スナップの係合突起を着脱自在に受け入れる受入部114である。周側部112の半径方向内側面の上端部には半径方向内側に膨らむ膨出部115が設けられる。この膨出部115は、雄スナップの係合突起を受入部114に出し入れする時に半径方向外側に一時的に撓む。
【0003】
上記の雌スナップ110を衣服等の生地に取り付ける際、ボタン取付機の上方ダイに雌スナップ110を保持させ、下方ダイにボタン取付部材120を載置し、雌スナップ110とボタン取付部材120の間に生地1(図4参照)を配置した後、上方ダイを下方ダイに向けて降下させる。これにより、ボタン取付部材120のピン122が生地1を上方に貫通し、次いでピン122が雌スナップ110の貫通孔113を通った後、上方ダイのパンチによって雌スナップ110の底部111上で潰れるように加締められる(図4参照)。これにより、雌スナップ110が生地に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−310310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の射出成型された合成樹脂製の雌スナップ110では、生地1への取付時においてボタン取付部材120のピン122が雌スナップ110の貫通孔113を通る際、雌スナップ110の底部111に割れが生じる場合があった。本発明者等がこの雌スナップ110が割れる現象を注意深く観察した結果、以下の点が分かった。上記雌スナップ110は、成型金型のキャビティ内にキャビティ側部のゲートと呼ばれる射出口から溶けた樹脂材料を射出することにより成型される。キャビティの中央には貫通孔113を形成するためのコア(ピン)が存在する。ゲートから射出された樹脂材料はコアにより一旦材料の流れが左右に分けられ、コアを回り込んだ後に再度合流する。この樹脂材料が合流した部分は、成型品である雌スナップ110の底部111の外表面である外側面、内側面、及び貫通孔113を規定する周面においてウェルドライン116として現れる。図11に底部111の外側面に現れたウェルドライン116が、図12に貫通孔113を規定する周面に現れたウェルドライン116がそれぞれ示される。また、雌スナップ110におけるゲートに対応する部分にはゲート位置117(図11参照)がわずかに残る。従来品のウェルドライン116は、ゲート位置117と雌スナップ110の中心とを通る仮想直線に実質的に沿う直線として現れる。また、ウェルドライン116は底部111の厚さ方向(上下方向)においても直線状となり、貫通孔113を規定する周面に上下方向に沿う直線状のウェルドライン116(図12参照)として現れる。また、図示はしないが図12の断面と平行な断面においてもウェルドライン116は上下方向に沿う直線として現れる。材料の合流地点であるウェルドライン116は雌スナップ110の底部111において強度が低い部分である。そのため、雌スナップ110の生地への取付時にボタン取付部材120のピン122が生地1を引き連れて貫通孔113に入ると、貫通孔113がピン122が引き連れた生地によって半径方向外側に広がるように力を受け、この力により直線状のウェルドライン116に沿って割れが生じていた。
【0006】
本発明は上記問題的に鑑みてなされたものであり、その目的は、生地への取付時に割れが生じないか又は生じ難い射出成型された樹脂製のボタンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願発明によれば、ボタン本体の中央に貫通孔を有する射出成型された樹脂製のボタンであって、前記ボタン本体における成型金型のゲートに対応するゲート位置とボタン本体の中心とを結ぶ仮想直線によって左右に分けられるボタン本体の左半部と右半部とにおいて、ボタン本体の外側面に対し一つ又は複数の凹部又は凸部を非対称に設けたことを特徴とするボタンが提供される。上記「ボタン本体の外側面」とは、ボタンが生地に取り付けられる時、ボタン本体における生地に接する側の面をいい、図3の参照番号11aで示す底部11の下面である。また、以下に述べる左右円弧凹部又は左右円弧凸部及び第1及び第2の円弧凹部又は円弧凸部は、前記凹部又は凸部の例である。
【0008】
本発明の一実施形態において、前記ボタン本体はウェルドラインを有し、前記ウェルドラインは前記ボタン本体の少なくとも外側面に非直線状に現れる。また、本発明の一実施形態において、前記ウェルドラインは前記ボタン本体の内側面に非直線状に現れる。更に、本発明の一実施形態において、前記ウェルドラインは前記ボタン本体の前記貫通孔を規定する周面において非直線状に現れる。本発明の一実施形態において、前記外側面に現れるウェルドラインは少なくとも部分的にジグザグ状である。
【0009】
本発明では、ボタン本体のゲート位置(ボタン本体の周側面にわずかに残る、成型金型のゲートに対応するゲート痕)と中心とを結ぶ仮想直線によって左右に分けられるボタン本体の左半部と右半部とにおいてボタン本体の外側面に対し一つ又は複数の凹部又は凸部を非対称に設ける。このような凹部又は凸部は、成型金型のキャビティ面における凸部又は凹部によって成型される。成型時においてゲートから射出された溶けた樹脂材料は、キャビティの中央に存在する貫通孔成型用のコアにより、材料の流れが左右、すなわち、ゲートとキャビティ(コア)の中心とを結ぶ仮想直線によって分けられるキャビティの左半部と右半部とに分けられ、これらがコアを回り込んだ後に再度合流する。この左右に分かれた材料流は、成型金型のキャビティ面における凸部又は凹部がキャビティの左半部と右半部とで非対称に設けられているため、左右の分流に対する抵抗や分流速度がキャビティの左半部と右半部とで異なり、左右の材料流の合流地点であるウェルドラインが従来のように上記仮想直線に沿う直線状にはならず、非直線状(図2の参照番号16等参照)のウェルドラインとしてボタン本体の外側面を含む外表面に現れる。なお、ウェルドラインはボタン本体の厚さ方向(図3における上下方向)においても非直線状となる(図3の参照番号16参照)。これにより、ウェルドラインの長さが、ボタン本体の外側面や内側面等において従来品のウェルドライン116と比べて長くなり、左右の材料が合流して接合する部分の面積が拡大するため、両者の接合強度が高まる。これにより、ボタンの生地への取付時にウェルドラインに沿うボタン本体の割れをなくすか低減することが可能となる。ボタン本体の左半部及び右半部に設ける凹部又は凸部は左右非対称であれば、数、形状、配列等に特に限定されないが、ウェルドラインがジグザグ状となるように凹凸を設けることが好ましい。これにより、ボタンの生地への取付時にボタン取付部材のピンが貫通孔に引き連れた生地によって貫通孔が半径方向外側に広がるように力を受けても、ウェルドラインから割れを発生させるような作用を低下させることができる。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記左半部と右半部は体積が異なる。左半部と右半部とは、凹部及び凸部の数、形状、配列等が左右非対称であれば体積が同じであってもよいが、体積が異なるように凹部及び凸部を設定することにより、ウェルドラインの長さを伸ばすことを助長することができる。前記左半部と右半部とで体積が異なることは、例えば、ボタンを、ゲート位置と中心とを結ぶ上述した仮想直線から左右に分割して、前記左半部のみと前記右半部のみの重量をそれぞれ測定すれることにより判別することが可能である。つまり、前記左半部と前記右半部の重量が等しければ体積が等しく、前記左半部と前記右半部の重量が異なれば、重い側の体積が大きく、軽い側の体積が小さいということになる。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記左半部は、前記中心を中心とする周方向に円弧状に延びるか又は円弧状に並ぶ一つ又は複数の左円弧凹部又は左円弧凸部を含み、前記右半部は、前記周方向に円弧状に延びるか又は円弧状に並ぶ一つ又は複数の右円弧凹部又は右円弧凸部を含み、前記左円弧凹部又は左円弧凸部と前記右円弧凹部又は右円弧凸部とは半径方向にずれている。左右円弧凹部(凸部)が半径方向においてずれた位置にあることにより、成型時に左右に分かれる材料流の合流地点が半径方向において左右にばらつくため、ウェルドラインがジグザグ状になり易く、ウェルドラインの伸長が助長される。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記左半部は、前記中心を中心とする周方向に円弧状に延びるか又は円弧状に並ぶ一つ又は複数の左円弧凹部又は左円弧凸部を含み、前記右半部は、前記周方向に円弧状に延びるか又は円弧状に並ぶ一つ又は複数の右円弧凹部又は右円弧凸部を含み、前記左円弧凹部又は左円弧凸部と前記右円弧凹部又は右円弧凸部とは、半径方向において同じ位置にありかつ前記周方向において長さが異なる。左右円弧凹部(凸部)が半径方向において同じ位置であっても周方向において長さが異なる場合、成型時に左右に分かれる材料流の合流地点が半径方向において左右にばらつき易くなるため、成型時に左右に分かれる材料流の合流地点が、左右円弧凹部(凸部)が存在する同じ半径方向位置においてセンターラインである仮想直線に対し左右にずれ、ウェルドラインの伸長を助長する。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記左半部又は右半部は、前記中心を中心とする周方向に円弧状に延びるか又は円弧状に並ぶ一つ又は複数の第1の円弧凹部又は第1の円弧凸部と、前記第1の円弧凹部又は第1の円弧凸部に対し半径方向に間隔を空けて設けた、前記周方向に円弧状に延びるか又は円弧状に並ぶ一つ又は複数の第2の円弧凹部又は第2の円弧凸部とを含む。このように左半部又は右半部において、第1の円弧凹部(凸部)と第2円弧凹部(凸部)とを半径方向において間隔を空けて設けることにより、成型時に左右に分かれる材料流の一方(第1及び第2の円弧凹部(凸部)及び間隔を設けた側)の分流に対し、半径方向において抵抗や流速を変えることができ、これにより前記一方の分流が他方の分流と合流する地点を半径方向において左右にばらつかせることができる。そのため、ウェルドラインがジグザグ状になり易くなり、ウェルドラインの伸長が助長される。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記左半部及び右半部の一方の外側面にのみ、一つ又は複数の凹部又は凸部を設けられる。これによっても、成型時に左右に分かれる材料流の合流地点を仮想直線からずらして、ウェルドラインを伸長させることが可能である。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記ボタンは雌スナップボタンであり、前記ボタン本体は前記雌スナップボタンの底部であり、前記底部の半径方向外側端から突出する周側部を含む。
【0016】
本発明におけるボタンを成す樹脂としては、例えば、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂、UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)、ポリエチレン(PE)等の熱硬化性樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリウレタン(PUR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂、アクリル樹脂(PMMA)等の熱可塑性樹脂等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、ボタン本体のゲート位置と中心とを結ぶ仮想直線によって分けられる左半部と右半部とにおいて、ボタン本体の外側面に対する凹部又は凸部を非対称に設けることにより、成型時において金型のゲートからキャビティ内に射出された溶けた樹脂材料が、中央のコアにより左右に分流し、コアを回り込んだ後に再度合流して生じるウェルドラインを非直線状にすることができる。これにより、ウェルドラインの長さが、従来品のウェルドラインと比べて長くなり、左右の材料が合流して接合する部分の面積が拡大するため、両者の接合強度が高まり、生地への取付時にウェルドラインに沿うボタン本体の割れをなくすか低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る雌スナップの斜視図である。
図2図2は、図1の雌スナップの底面図である。
図3図3は、図2のA−A線断面図である。
図4図4は、雌スナップをボタン取付部材により生地に取り付けた状態を示す断面図である。
図5図5は、本発明の第2実施形態に係る雌スナップの底面図である。
図6図6は、本発明の第3実施形態に係る雌スナップの底面図である。
図7図7は、図6のB−B線断面図である。
図8図8は、本発明の第4実施形態に係る雌スナップの底面図である。
図9図9は、図8のC−C線断面図である。
図10図10は、従来の雌スナップの斜視図である。
図11図11は、図10の雌スナップの底面図である。
図12図12は、図11のD−D線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のいくつかの実施形態を図面を参照しつつ説明するが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではなく、当業者は、例示した実施形態に対し特許請求の範囲及び均等の範囲内で適宜変更等を行うことができる。図1及び2は、本発明の一実施形態に係るボタンである雌スナップ10の斜視図及び底面図である。図3図2のA−A線断面図である。以下、上方とは図3の紙面に対して上側、下方とは図3の紙面に対して下側、上下方向とは図3の雌スナップボタンの厚さ方向のことを言う。雌スナップ10は合成樹脂製の射出成型品であり、ボタン本体としてのほぼ円板状の底部11と、底部11の半径方向外側端部から上方に突出する周側部12とを備える。底部11の中央には、生地1(図4参照)への取付時にボタン取付部材120のピン122を通すための貫通孔13が設けられる。雌スナップ10における底部11上でかつ周側部12の半径方向内側の空間14は、図示しない雄スナップの係合突起を着脱自在に受け入れる受入部14である。周側部12の半径方向内側面の上端部には半径方向内側に膨らむ膨出部15が設けられる。この膨出部15は、雄スナップの係合突起を受入部14に出し入れする時に半径方向外側に一時的に撓む。図1〜3の参照番号18は周側部12の半径方向外側面における底部11との境界に設けられた半径方向外側にわずかに突出する環状縁部18である。底部11の下面(特許請求の範囲中の外側面)11aは、環状縁部18から半径方向内側へと次第に低下した後に水平となる。これにより、底部11の下面11aは下方にわずかに凸となると言える。
【0020】
雌スナップ10の底部11には、非直線状のウェルドライン16(図2及び3参照)が外表面、すなわち、底部11の下面11a及び上面11bと貫通孔13を規定する周面に現れる。また、周側部12には、雌スナップ10の成型時に使用された金型(図示せず)のゲート(射出口)に対応する部分に痕がわずかに残り、これがゲート位置17である。ゲート位置17は図2おいて頂点に位置する。雌スナップ10の底部11は、ゲート位置17と雌スナップ10の中心Oとを結ぶ仮想直線Lにより左半部11Lと右半部11Rとに仮想的に分けられる。本実施形態において、底部11の下面11a上のウェルドライン16は、貫通孔13側の半径方向内側端から半径方向外側へと、仮想直線Lを右から左、次いで左から右にジグザグ状となった後、仮想直線Lにほぼ沿って延び、その後、左方の左半部11Lに入り込んで半径方向外側端に至る。ウェルドライン16は底部11の上下方向においても非直線状となり、図3に貫通孔13を規定する周面に現れた、上下方向にジグザグなウェルドライン16が示される。図示はしないが、底部11の上面11bに現れるウェルドライン16は下面11aに現れるウェルドライン16と異なる。
【0021】
底部11の左半部11Lには、中心Oを中心とする周方向に円弧状に延びる第1の左円弧凹部21と、第1の左円弧凹部21の半径方向外側に間隔41を空けて、前記周方向に円弧状に延びる第2の左円弧凹部22とが設けられる。本実施形態において、第1及び第2の左円弧凹部21、22それぞれの半径方向に沿う幅は同じであり、第1及び第2の左円弧凹部21、22それぞれの下面11aからの窪み程度もほぼ同じである。底部11の右半部11Rには、前記周方向に円弧状に延びる第1の右円弧凸部31と、第1の右円弧凸部31の半径方向外側に間隔42を空けて、前記周方向に円弧状に延びる第2の右円弧凸部32とが設けられる。第1及び第2の左円弧凹部21、22及び第1及び第2の右円弧凸部31、32は周方向において約170度延びている。本実施形態において、第2の右円弧凸部32の半径方向に沿う幅は第1の右円弧凸部31の半径方向に沿う幅の約2倍である。また、第1及び第2の右円弧凸部31、32それぞれの下面11aからの突出程度はほぼ同じである。更に、第1の右円弧凸部31は、半径方向において第1の左円弧凹部21と第2の左円弧凹部22との間の位置に設けられる。換言すれば、第1の右円弧凸部31は、第1及び第2の左円弧凹部21、22と半径方向においてずれている。第2の右円弧凸部32は、半径方向において第2の左円弧凹部21の外側に設けられる。以上のように、雌スナップ10は、底部11の左半部11Lと右半部11Rとで、下面11aに対する凹部及び凸部である第1及び第2の左円弧凹部21、22及び第1及び第2の右円弧凸部31、32が左右非対称に形成される。本実施形態において、第1及び第2の左円弧凹部21、22を有する左半部11Lの体積は、第1及び第2の右円弧凸部31、32を有する右半部11Rの体積よりも小さくなる。
【0022】
以上の例のように、左半部11Lに凹部(21、22)を、右半部11Rに凸部(31、32)を設け、更に凹部(21、22)と凸部(31、32)を半径方向にずらして配置したり、各凸部(31、32)の半径方向の幅を変えることにより、雌スナップ10の成型時における樹脂材料の左右の分流が合流して生じるウェルドライン16をジグザグ状に伸長させることができる。また、第1の左円弧凹部21と第2の左円弧凹部22とは底部11の半径方向に間隔41を空けて配置され、同様に、第1の右円弧凸部31と第2の右円弧凸部32も前記半径方向に間隔42を空けて配置される。このような間隔41、42を設けることも、ウェルドライン16のジグザグ状の左右の振れ幅を大きくしてウェルドライン16を伸長させるのに役立つ。本実施形態では、左半部11Lの間隔41の半径方向幅を、この間隔41と半径方向において対応する位置にある右半部11Rの第1の右円弧凸部31の半径方向幅よりも大きくしている。この点もウェルドライン16の伸長を助長すると考えられる。右半部11Rの間隔42は、半径方向において対応する左半部11Lの第2の左円弧凹部21とほぼ同じ半径方向幅を有する。このように間隔41、42の底部半径方向の幅を、その間隔41、42に半径方向において対応する相手側半部の凸部又は凹部の底部半径方向の幅よりも大きく、又は等しくすることが望ましい。
【0023】
上述した第1及び第2の左円弧凹部21、22は、雌スナップ10の成型用の金型(図示せず)のキャビティ面に設けた凸部により成型され、第1及び第2の右円弧凸部31、32は前記キャビティ面の凹部により成型される。このように金型のキャビティに左右非対称な凹凸が設けられるため、図2等に示す非直線状のウェルドライン16が生じる。すなわち、雌スナップ10の成型時において、金型のゲートからキャビティ内に射出された溶けた樹脂材料は、貫通孔に対応する中央のコアにより一旦左右(ゲートとキャビティ(コア)の中心とを結ぶ仮想直線によって分けられるキャビティの左半部と右半部)に分流し、コアを回り込んだ後に再度合流するが、左右の分流に対する抵抗や分流速度がキャビティの左半部と右半部とで異なり、合流地点が直線状にならず、これにより部分的にジグザグ状のウェルドライン16が生じる。これにより、雌スナップ10の生地1への取付時に底部11がウェルドライン16に沿って割れるようなことがなくなるか低減する。
【0024】
図4は、雌スナップ10をボタン取付部材120により生地1に取り付けた状態を示す断面図である。ボタン取付部材120は、ほぼ円板状のベース121と、ベース121の中央から突出するピン122とを備える。ボタン取付機により雌スナップ10を生地1に取り付ける際、ボタン取付部材120のピン122が生地1を上方に貫通し、次いで雌スナップ10の貫通孔13を通った後、図示しないパンチで潰されるように加締められる。これにより、雌スナップ10が生地1に固定される。ボタン取付部材120のピン122が雌スナップ10の貫通孔13に生地1を引き連れて入るため、貫通孔13が広がるように力を受け、これが底部11において比較的強度が低いウェルドライン16に沿って割れが生じる原因と考えられる。本実施形態では上記した左右非対称の凹凸により、樹脂材料の合流地点であるウェルドライン16を意図的にジグザグ状に伸長することにより、材料の合流地点の接合強度を高め、上述した割れをなくしたり、低減することができる。図4に示すように、雌スナップ10は生地1に、底部11の下面11aが対向するように取り付けられる。そのため、底部11の下面11aに設けた凹部(凸部)は生地1に取り付けられた後に使用者に見られることがなくなる。他方、底部11の上面11bは生地1への取付後も使用者から見える。よって、非直線状で任意のウェルドライン16を形成するに当たり、底部11の下面11aに対して設ける凹部(凸部)は美観を考慮しない形状とすることが可能である。
【0025】
図5は、本発明の第2実施形態に係るボタンとしての雌スナップ10aを示す底面図である。雌スナップ10aは、以下に述べる凹部23、24、25、26を除き雌スナップ10と共通するため、凹部23、24、25、26以外は雌スナップ10と同じ参照番号を付して説明を省略する。雌スナップ10aは、底部11の下面11aに対し次のように凹部が設けられる。底部11の左半部11Lは、中心Oを中心とする周方向に円弧状に並ぶ四つの第1の左凹部(一つの左円弧凹部)23と、第1の左凹部23よりも半径方向外側に間隔をおいて前記周方向に円弧状に並ぶ四つの第2の左凹部(一つの左円弧凹部)24とを有する。各第1の左凹部23は角の取れた四角形状又は台形状である。各第2の左凹部24は角の取れた四角形状であり、各第1の左凹部23の約2倍の大きさである。また、底部11の右半部11Rは、前記周方向に円弧状に並ぶ四つの第1の右凹部(一つの右円弧凹部)25と、第1の右凹部25よりも半径方向外側に間隔をおいて前記周方向に円弧状に並ぶ四つの第2の右凹部(一つの右円弧凹部)26とを有する。各第1の右凹部25は角の取れた四角形状である。各第2の右凹部26は角の取れた四角形状又は台形状であり、各第1の右凹部25の約2倍の大きさである。更に、第1の右凹部25は、半径方向において第1の左凹部23と第2の左凹部24との間に設けられ、また、第2の右凹部26は半径方向において第2の左凹部24の外側に設けられ。更にまた、第1の右凹部25は第1の左凹部23よりも大きく、第2の右凹部26は第2の左凹部24よりも大きい。雌スナップ10aにおいて左半部11Lの体積は右半部11Rの体積よりも大きい。以上のような凹部23、24、25、26に対応する凸部をキャビティに有する金型により成型した雌スナップ10aの底部11の下面11aには、図5に示すジグザグ状のウェルドライン16aが生じた。このウェルドライン16aは、半径方向内側端がほぼ仮想直線L上にあり、この端から半径方向外側へと左半部11Lに入った後、右方へ向かって仮想直線Lを超えて右半部11Rに入り、次いで左方へ向かって仮想直線Lを超えて再び左半部11Lに入り、次いで右方へ向かって仮想直線Lを超えて再度右半部11Rに入った後、半径方向外側端へと延びる。雌スナップ10aでも生地への取付時に底部11がウェルドライン16aに沿って割れるようなことがほぼなくなった。
【0026】
さらに第2実施形態の雌スナップ10aでは、底部11の左半部11Lに形成された四つの第1の左凹部23それぞれの間に底部11の下面11aを規定する、凹凸のない三つの平坦部が存在し、各平坦部は左凹部23に比べて樹脂材料が多く集まっている箇所と言える。すなわち、四つの第1の左凹部23が設けられた領域において、樹脂材料が多い箇所(平坦部)も周方向に沿って円弧状に並ぶ。第2の左凹部24、及び第1及び第2の右凹部25、26についても円弧状に並んだ各凹部の間には凹部よりも樹脂材料が多い箇所(平坦部)が形成され、第2の左凹部24及び第1及び第2の右凹部25、26それぞれにおいて、樹脂材料が多い箇所(平坦部)も周方向に沿って円弧状に並ぶ。このように、底部11には凹部よりも樹脂材料が多い箇所も円弧状に並ぶことになる。これにより、ウェルドライン16aを非直線状としつ、かつ雌スナップ10の強度も確保することが可能となる。
【0027】
図6は、本発明の第3実施形態に係る雌スナップ10bの底面図であり、図7図6のB−B線断面図である。雌スナップ10bについて雄スナップ10と共通する部分については雄スナップ10と同じ参照番号を付して説明を省略する。雌スナップ10bは、底部11の右半部11Rの下面11aにのみ周方向に円弧状に延びる一つの凹部27を有する。凹部27は、周方向に約170度延びている。すなわち、左半部11Lには凹凸は設けられていない。このように凹部27を右半部11Rにのみ設けたことにより、雌スナップ10bの底部11の下面11aには次のようなウェルドライン16bが生じた。すなわち、図6を参照して、ウェルドライン16bは、貫通孔13側において仮想直線Lにほぼ一致する左右中間点から半径方向外側へと右半部11Rに次第に入り込み、半径方向ほぼ中間点から更に半径方向外側へと左方の仮想直線L側へと次第に戻り、底部11の半径方向外側端においてほぼ仮想直線Lに一致する。すなわち、ウェルドライン16bは凹部27が存在する右半部11Rに入り込むように生じる。ウェルドライン16bはジグザグ部分を含まない湾曲した線であり、非直線状である。このようなウェルドライン16bも生地1への取付時における雌スナップ10bの割れを防ぐ役割を果たすことができる。
【0028】
図8は、本発明の第4実施形態に係る雌スナップ10cの底面図であり、図9図8のC−C線断面図である。雌スナップ10cについて雄スナップ10と共通する部分については雄スナップ10と同じ参照番号を付して説明を省略する。雌スナップ10cは、底部11の左半部11Lの下面11aに周方向に延びる左円弧凹部28を有し、また、右半部11Rの下面11aに周方向に延びる右円弧凹部29を有する。左円弧凹部28は、左半部11Lの図8の紙面上側半部において周方向に約40度延びている。右円弧凹部29は、右半部11Rにおいて周方向に約170度延びている。左円弧凹部28は周方向における長さが右円弧凹部29のほぼ半分である。また、左円弧凹部28と右円弧凹部29とは半径方向において同じ位置にある。更に、左円弧凹部28は右円弧凹部29よりも半径方向幅がわずかに大きい。このように半径方向位置が同じで周方向長さ異なる左右円弧凹部28、29を設けたことにより、雌スナップ10cの底部11の下面11aには次のようなジグザグ状のウェルドライン16cが生じた。すなわち、図8を参照して、ウェルドライン16cは、貫通孔13側において仮想直線Lにほぼ一致する左右中間点から半径方向外側へと左半部11Lに入り込んだ後、右側に向きを変え、右側の仮想直線Lへと向かい、仮想直線Lを越えて右半部11Rに入り込み、次いで左側に向きを変え、底部11の半径方向外側端においてほぼ仮想直線Lに一致する。
ウェルドライン16cは、左右円弧凹部28、29が存在する半径方向位置において右半部11Rへと入り込んでいる。このようなウェルドライン16cも生地1への取付時における雌スナップ10cの割れをなくすか低減することができる。
【符号の説明】
【0029】
10、10a、10b、10c 雌スナップボタン(ボタン)
11 底部(ボタン本体)
11a 底部の下面(外側面)
11b 底部の上面(内側面)
12 周側部
13 貫通孔
14 受入部
15 膨出部
16、16a、16b、16c ウェルドライン
17 ゲート位置
21、23 第1の左円弧凹部(凹部)
22、24 第2の左円弧凹部(凹部)
25 第1の右円弧凹部(凹部)
26 第2の右円弧凹部(凹部)
27 凹部
28 左円弧凹部(凹部)
29 右円弧凹部(凹部)
31 第1の右円弧凸部(凸部)
32 第2の右円弧凸部(凸部)
L 仮想直線
O 中心
図1
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