特許第6657492号(P6657492)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6657492
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】記録用紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/36 20060101AFI20200220BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20200220BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
   D21H19/36 A
   B41J2/01
   B41M5/52
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-567385(P2019-567385)
(86)(22)【出願日】2019年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2019007213
【審査請求日】2019年12月5日
(31)【優先権主張番号】特願2018-64177(P2018-64177)
(32)【優先日】2018年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(72)【発明者】
【氏名】登坂 昌也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 義雄
(72)【発明者】
【氏名】豊田 望美
(72)【発明者】
【氏名】松村 明子
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−158295(JP,A)
【文献】 特開2010−229574(JP,A)
【文献】 特開2003−127525(JP,A)
【文献】 特開2010−173286(JP,A)
【文献】 特開2015−13373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B−D21J
B41J2/01
B41M5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙の少なくとも片方の面に、無機顔料及びバインダーを含有する記録層を有する記録用紙の製造方法であって、
凝固法で前記記録層をキャスト塗工層に形成し、
前記無機顔料は、該無機顔料100重量%に対し、40重量%以上65重量%以下のカオリンと35重量%以上60重量%以下の重質炭酸カルシウムを含み、前記カオリンと前記重質炭酸カルシウムの合計が90重量%以上であり、
前記バインダーが少なくともスチレンブタジエンラテックス及びカゼインを含有し、
前記無機顔料100重量部に対し、前記スチレンブタジエンラテックスが15重量部以上25重量部以下、かつ前記カゼインが3重量部以上12重量部以下であり、
57.5重量%のエチレングリコールモノエチルエーテル及び42.5重量%のホルムアルデヒドの混合溶液を、前記記録層に滴下してから5秒後の接触角が20度以上40度以下、
前記記録層の75度鏡面光沢度が80〜100%であることを特徴とする記録用紙の製造方法。
【請求項3】
前記記録層のJIS P8155:2010に規定される平滑度(王研法)が4000秒以上である請求項1記載の記録用紙の製造方法。
【請求項4】
前記記録層のJIS P8117:2009に規定される透気抵抗度(王研式試験機法)が3000秒以上12000秒以下である請求項1または3記載の記録用紙の製造方法。
【請求項5】
前記記録層が更にポリエチレン系離型剤を含有する請求項1、3、4のいずれか一項に記載の記録用紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャスト塗工層を有する記録用紙に関し、インクジェット記録用紙、特に産業用インクジェット記録用紙として好適に使用することができる記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、表面光沢の高い塗工紙としては、表面に顔料を塗工し、さらに、必要に応じてカレンダー処理を施した塗工紙、あるいは湿潤状態にある塗工層を鏡面仕上げした加熱ドラム(キャストドラム)の表面に圧着、乾燥させて、光沢仕上げするキャスト塗工紙等が知られる。中でもキャスト塗工紙は、カレンダー仕上げした塗工紙と比較して、より高い表面光沢を有すると共に、より優れた表面平滑性を有するため、オフセット印刷やレタープレス(凸版印刷方式の一種)等の一般印刷用塗工紙として広く用いられている。
さらに、キャスト塗工紙をインクジェット記録用紙に用いた技術も開発されている(特許文献1〜3)。
【0003】
インクジェット記録方式は、インクの液滴を微細なノズルから記録用紙上に吐出し、付着させることによってドットを形成して記録を行う方式であるが、近年、インクジェットプリンター、インク、更に記録媒体等の技術的進歩によって、記録の高速化、静音化、印字品質の高い画像の形成が容易となってきており、多方面で使われている。
特に、商業印刷等の分野においては、デジタル情報を製版することなく高速に印刷し、小ロット多品種、可変情報印刷を扱うことが可能なため、オンデマンド印刷において、オフセット印刷やレタープレスに代わる印刷、記録方式として導入されつつある。
【0004】
そのため、キャスト塗工紙には、従来のオフセット印刷やレタープレス等の一般印刷適性に加え、インクジェット記録適性、特に産業用インクジェット記録適性も要求されるようになってきている。
ここで、商業印刷等の分野において使用される産業用インクジェットプリンターは、短時間で大量に印刷可能であることが求められるため、家庭用のインクジェットプリンターに比べると解像度が低く、インクの打ち込み量が大幅に少ない。また、乾燥装置を有するものも存在する。
そのため、産業用インクジェットプリンターに使用される記録用紙では、家庭用のインクジェットプリンターに使用される記録用紙よりも、要求されるインク吸収性が少なくて済むが、良好な画質を得るためには、打ち込まれたインクが適度に広がること(一定のドット径を有すること)が重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−132730号公報
【特許文献2】特開2010−234789号公報
【特許文献3】特開2012−213924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の従来のキャスト塗工紙は、軽質炭酸カルシウムを主体として使用し、塗工層中の空隙量を増加させる構成であるため、インクの打ち込み量が少ない産業用インクジェットプリンターで記録すると、インクが塗工層の空隙に入り込んでしまい表層に残る量が特に少なくなるため、印字濃度が劣る。また、インクの広がりも不足するため、印字部に白く抜けた筋(バンディング)が発生するという問題があった。
【0007】
また、家庭用のインクジェットプリンターでの使用を想定している特許文献2に記載のキャストインクジェット用紙も、嵩高な顔料であるシリカを主体として使用し、塗工層中の空隙量を増加させる構成であるため、産業用インクジェットプリンターで記録するとインクの広がりが不足するため、バンディングが発生するという問題があった。更に、顔料としてシリカを使用しているため、オフセット印刷やレタープレス等の一般印刷適性としては塗工層の強度が不十分であり、一般印刷適性が劣る。
【0008】
産業用(水性インク)インクジェットプリンターでの使用を想定している特許文献3に記載のキャストインクジェット用紙は、インクジェット記録適性、特に産業用インクジェット記録適性には優れるが、引用文献2と同様に顔料としてシリカを使用しているため、一般印刷適性が劣る。
【0009】
そこで本発明は、オフセット印刷やレタープレス等の一般印刷適性に加え、インクジェット記録適性、特に産業用インクジェット記録適性も有する記録用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の構成を用いることにより、本発明の目的を達成することを可能にした。
すなわち、本発明の記録用紙は、基紙の少なくとも片方の面に、無機顔料及びバインダーを含有する記録層を有する記録用紙であって、前記記録層がキャスト塗工層であり、前記無機顔料は、該無機顔料100重量%に対し、40重量%以上65重量%以下のカオリンと35重量%以上60重量%以下の重質炭酸カルシウムを含み、前記カオリンと前記重質炭酸カルシウムの合計が90重量%以上であり、前記バインダーが少なくともスチレンブタジエンラテックスを含有し、前記無機顔料100重量部に対し、前記スチレンブタジエンラテックスが15重量部以上25重量部以下であり、57.5重量%のエチレングリコールモノエチルエーテル及び42.5重量%のホルムアルデヒドの混合溶液を、前記記録層に滴下してから5秒後の接触角が20度以上40度以下、であることを特徴とする。
【0011】
本発明の記録用紙において、前記記録層の75度鏡面光沢度が80〜100%であることが好ましい。
本発明の記録用紙において、前記記録層のJIS P8155:2010に規定される平滑度(王研法)が4000秒以上であることが好ましい。
本発明の記録用紙において、前記記録層のJIS P8117:2009に規定される透気抵抗度(王研式試験機法)が3000秒以上12000秒以下であることが好ましい。
本発明の記録用紙において、前記記録層が更にポリエチレン系離型剤を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、オフセット印刷やレタープレス等の一般印刷適性に加え、インクジェット記録適性、特に産業用インクジェット記録適性も有する記録用紙を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の記録用紙は、記録層の無機顔料として所定割合のカオリンと重質炭酸カルシウムを含むと共に、さらにバインダーとして所定割合のスチレンブタジエンラテックス(以下、「SBL」ともいう)を含み、後述する接触角を規定する。
無機顔料における重質炭酸カルシウムは、軽質炭酸カルシウムに比べ、キャスト塗工層からなる記録層に(産業用)インクジェットプリンターで記録する際に必要な程度の空隙を確保させ、(産業用)インクジェット記録において表層にインクを留める効果がある。
又、SBLも(産業用)インクジェット記録においてインクが記録層の内部に浸透することを抑制し、表層にインクを留める効果がある。更に、SBLはオフセット印刷やレタープレス等の一般印刷適性を確保する。一般印刷ではインキを印刷対象に接触させて転写させるため、印刷対象には一定の表面強度が必要である。また、SBLは印刷部分の光沢度を高くする効果も有する。また、キャストドラムの表面に圧着、乾燥させて、光沢仕上げする際に、キャストドラムからの離型性(剥離性)が優れる。
又、SBLは記録層の内部方向へのインクの浸透を抑える効果があるので、SBLを増やすと記録層の平面方向(表面に沿う方向)にインクが広がる傾向がある。
【0014】
しかしながら、一般にキャスト塗工紙は表面の撥水性が高いため、インクが記録層の内部に浸透することを抑制し過ぎ、表層に過剰なインクを留めると、乾燥、固化後のインクが表層で粒状になり、記録画像の精細性が低下する。更に、インクの乾燥不良の原因にもなる。また、表層にインクを留めても平面方向に広がりすぎると、意図しないインクの混合が発生して、やはり乾燥、固化後のインクが表層で粒状になり、記録画像の精細性が低下することがある。
そこで、接触角を規定することで、(産業用)インクジェット記録において発色性が向上し、バンディング(筋抜け)及びビーディング(粒状感)の発生を抑制することができる。
【0015】
バンディング(筋抜け)は、記録層でインクが広がらない等の理由で、本来印字部の部位に印字されない白い部分ができて、白く抜けた筋状となる印字不良である。
ビーディング(粒状感)は、(i)インクが粒状の状態で乾燥、固化した状態となる印字不良と、(ii) 画像ムラ又は乾燥不良、をともにいう。(i)は、インクが記録層の内部方向に浸透しない状態で、かつ平面方向にも広がらないと発生しやすくなり、インクが記録層の内部方向に浸透し難くても、平面方向に広がれば粒状にはなりにくい。
一方、平面方向にインクが広がり過ぎると、特に混色部分でインクが重なって画像にムラが発生したり乾燥不良を起こしやすくなり、これが(ii)の印字不良となる。
そして、(i)はインクの接触角が高すぎて発生し、(ii)はインクの接触角が低すぎて発生するので、接触角の上限と下限を規定する必要がある。
【0016】
(無機顔料)
記録層の無機顔料100重量%に対し、40重量%以上65重量%以下のカオリンと35重量%以上60重量%以下の重質炭酸カルシウムを含み、カオリンと重質炭酸カルシウムの合計が90重量%以上である。
カオリンは記録層の平滑度を向上させ、白紙光沢度を向上させる効果を有するが、内部の空隙が小さく、また、平板状であり密な記録層を形成しやすいため、カオリンの配合量が多いと記録層の空隙が減少して、(産業用)インクジェット記録において上記したビーディング(粒状感)が発生しやすくなる。
【0017】
一方、重質炭酸カルシウムはカオリンよりも内部の空隙が大きいため、(産業用)インクジェット記録においてビーディングの発生を抑制する効果を有するが、重質炭酸カルシウムの配合量が多いと記録層の空隙が過剰となり、インクが広がり難くなると共に紙の中に浸透しやすくなり、上記したバンディング(筋抜け)が発生しやすくなる。また、印字濃度も低下する。更に、記録層の平滑度が低下して白紙光沢度が低下する傾向が見られる。
本発明では、カオリンと重質炭酸カルシウムを上記の比率で配合することにより、良好な品質を得ることが可能となる。
【0018】
重質炭酸カルシウムの割合が35重量%未満である場合、またはカオリンの割合が65重量%を超える場合は、記録層の空隙が過少となり、(産業用)インクジェット記録においてビーディングが発生する。
【0019】
一方、重質炭酸カルシウムの割合が60重量%を超える場合、またはカオリンの割合が40重量%未満である場合は、記録層の空隙が過剰となり、インクが広がり難くなると共に紙の中に浸透しやすくなり、バンディングが発生すると共に印字濃度も低下する。
【0020】
なお、記録層の無機顔料としては、他の顔料として、シリカ、タルク、アルミナ等を併用してもよいが、カオリンと重質炭酸カルシウムの合計が90重量%未満の場合、即ち他の顔料を10重量%以上併用した場合は、(産業用)インクジェット記録においてインクが広がり難くなってバンディングが発生する、一般印刷用途として記録層の強度が不十分となる、インキ着肉性が劣る等の問題が発生する。また、記録層の平滑度が低下するため、白紙光沢度が低下する傾向が見られる。
【0021】
(バインダー)
記録層は、バインダーとして少なくともスチレンブタジエンラテックスを含有し、無機顔料100重量部に対し、SBLが15重量部以上25重量部以下である。
SBLの割合が15重量未満の場合は、(産業用)インクジェットプリンターで記録する際にバンディングが発生する。また、一般印刷用途としては記録層の強度が不十分となり、一般印刷適性が劣る。また、SBLの割合が25重量部を超える場合は、(産業用)インクジェットプリンターで記録する際にビーディングが発生する。また、一般印刷用途としては、インクの乾燥性が劣ってセットオフが発生し、一般印刷適性が劣る。
【0022】
(接触角)
57.5重量%のエチレングリコールモノエチルエーテル及び42.5重量%のホルムアルデヒドの混合溶液を記録層に滴下してから5秒後の接触角が20度以上40度以下である。
接触角が20度未満であると、インクの広がりが過大となり、混色のベタ部などで意図しないインクの混合が発生して、乾燥、固化後のインクが表層で粒状になり、精細な画像が得られない。このため、(産業用)インクジェット記録におけるビーディング(粒状感)が劣る。
接触角が40度を超えると、インクの広がりが過小となり、ドットとドットの間に隙間ができるため、(産業用)インクジェット記録におけるバンディング(筋抜け)が劣る。また、印字濃度の低下などの問題も発生する。
【0023】
なお、「57.5重量%のエチレングリコールモノエチルエーテル及び42.5重量%のホルムアルデヒドの混合溶液」とは、JIS−K6768:1999に規定される、ぬれ試験方法にて、表面張力36.0mN/mを示す、ぬれ試薬の組成である。(産業用)インクジェットプリンターに使用されるインクと同程度の表面張力を有するぬれ試薬を使用することにより、記録時のインクの挙動を確認している。
【0024】
(離型剤)
本発明では、記録層用塗工液を塗工して記録層を設けた後に、記録層の表面が湿潤状態にある間に、鏡面仕上げした加熱ドラム(キャストドラム)の表面に圧着、乾燥させて、キャスト処理する。その際、乾燥後の記録層がキャストドラムからスムーズに剥離するように、キャスト処理前の記録層に離型剤を含有させることが好ましい。
【0025】
離型剤は、一般に使用される各種公知の離型剤から適宜選択して用いることができるが、水をはじく特性(撥水性)の高いものが一般的であることから、キャスト塗工紙の記録層の接触角は他の塗工紙等よりも高くなる傾向が見られる。そこで、離型効果を維持しながら撥水性を比較的抑えられるポリエチレン系離型剤を使用することにより、記録層の接触角を20度以上40度以下に管理することが容易となる。これに対し、高級脂肪酸カルシウム、パラフィン系、ステアリン酸亜鉛、特殊界面活性剤、カルナバワックス、エチレンビスステアリン酸アマイドなどの離型剤を用いると、接触角が40度を超えやすくなる。なお、離型剤を用いない場合が最も接触角が低くなる。
なお、離型剤は組成により天然ワックス、半合成ワックス、合成ワックスに分類され、ポリエチレン系離型剤はポリエチレンをホモポリマーとする合成ワックスに属する。
【0026】
ポリエチレン系離型剤の具体例としては、メイカテックスHPシリーズ(明成化学社)、ノプコートPEM−17、SNコート287(サンノプコ社)、ポリロンL−618(中京油脂社)などが挙げられる。
【0027】
上記接触角の測定方法は、57.5重量%のエチレングリコールモノエチルエーテル及び42.5重量%のホルムアルデヒドの混合溶液を用い、該混合溶液を記録層に滴下してから5秒後の接触角を接触角測定装置(DAT1100 FIBRO System AB製)により測定する。
【0028】
(その他のバインダー)
記録層がSBL以外のバインダーを含んでもよい。その他のバインダーとしては、無機顔料と基紙とを十分接着し、用紙間のブロッキングを起こさないものであれば特に限定されるものではない。
このようなバインダーとしては、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、ジアセトン変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、アマイド変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、ブチラール変性ポリビニルアルコール、オレフィン変性ポリビニルアルコール、ニトリル変性ポリビニルアルコール、ピロリドン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、末端アルキル変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類;ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アセチルセルロースなどのセルロースエーテル及びその誘導体;澱粉、酵素変性澱粉、熱化学変性澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉(例えば、ヒドロキシエチル化澱粉など)、カチオン化澱粉などの澱粉類;ポリアクリルアミド、カチオン性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリルアミド、両性ポリアクリルアミドなどのポリアクリルアミド類;ポリエステルポリウレタン系樹脂、ポリエーテルポリウレタン系樹脂、ポリウレタン系アイオノマー樹脂などのウレタン系樹脂;(メタ)アクリル酸及び、(メタ)アクリル酸と共重合可能な単量体成分(オレフィンを除く)からなるアクリル系樹脂;ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステル、アラビヤゴム、ポリビニルブチラール、ポリスチロース及びそれらの共重合体、シリコーン樹脂、石油樹脂、テルペン樹脂、ケトン樹脂、クマロン樹脂などを例示することができる。
本発明の効果を損なわない範囲で、これらのバインダーは単独で又は2種以上混合して使用してもよい。
【0029】
本発明では、記録層の光沢度を向上させつつ、(産業用)インクジェットプリンターで記録する際に必要な程度の空隙を確保する点から、後述する如く凝固法によるキャスト法で記録層を設けることが好ましい。そのため、その他のバインダーとして凝固法に適したタンパク質類を使用することが好ましく、カゼインを使用することがより好ましい。
本発明では、無機顔料100重量部に対し、カゼインが3重量部以上12重量部以下であると、操業性が良好となり、白紙光沢度も良好であるため好ましい。
【0030】
記録層には、上記した無機顔料、バインダー、離型剤の他にも、必要に応じて、色相を調整するための染料、顔料の分散剤、防腐剤、消泡剤、pH調整剤等の各種助剤を適宜選択して使用することができる。
【0031】
基紙は、公知の原紙の中から適宜選択して使用することができる。原紙の具体例としては、酸性紙、中性紙、古紙配合紙等を挙げることができる。
【0032】
記録層の塗工方式は、一般の顔料塗工紙の製造に用いられる塗工方式であれば良く、例えば、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、コンマコーター等公知の塗工方法の中から適宜選択することができる。
記録層の塗工量(乾燥塗工量)は、好ましくは片面当たり10〜40g/m2 、より好ましくは15〜30g/m2 であり、塗工層の乾燥膜厚は5〜30μmであることが好ましい。
【0033】
また、必要に応じて、基紙と記録層の間に、前記した無機顔料及びバインダーを主成分とする下塗り層を設けてもよい。
下塗り層の塗工方式は、前記した一般の顔料塗工紙の製造に用いられる塗工方式の中から適宜選択することができる。
下塗り層の塗工量(乾燥塗工量)は、好ましくは片面当たり5〜30g/m2 、より好ましくは10〜20g/m2 である。
【0034】
キャスト処理前の記録層を乾燥してキャスト塗工層を形成する方法としては、高光沢度で空隙量を所定の範囲に調整することから、記録層が湿潤状態にあるうちに加熱された鏡面仕上げ面に圧着して乾燥させるキャスト法のうち、凝固法によるキャスト法を使用することが好ましい。
【0035】
凝固法における凝固液に用いる凝固剤としては、例えば蟻酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、塩酸、硫酸等とカリウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、鉛、マグネシウム、カドミウム、アルミニウム等の各種金属との塩、即ち、硫酸カリウム、クエン酸カリウム、硼砂、硼酸等が使用されるが、本発明においては蟻酸塩を使用することが好ましく、蟻酸カルシウムを使用することがより好ましい。
【0036】
加熱された鏡面仕上げ面とは、通常100℃に加熱され、鏡面仕上げ加工された円筒状のドラムのことをいい、これを用いることによって、キャスト塗工層である記録層表面の75度鏡面光沢度を容易かつ安定して80〜100%とすることできる。
【0037】
記録層のJIS P8155:2010に規定される平滑度(王研法)が4000秒以上であると好ましい。
平滑度(王研法)は、インクの広がり方に影響する因子である。平滑度(王研法)が4000秒未満(表面が凸凹)であるとインクが広がり難くなり、バンディングが発生すると共に、均一なドット径が得られなくなり、画像の精細性が低下する場合がある。
平滑度(王研法)の上限は限定されないが、例えば8000秒である。
【0038】
記録層のJIS P8117:2009に規定される透気抵抗度(王研式試験機法)が3000秒以上12000秒以下であると好ましい。
透気抵抗度(王研式試験機法)は、インクの浸透に影響する因子である。透気抵抗度(王研式試験機法)が3000秒未満であるとインクが記録層の内部に浸透して印字濃度が低くなり、バンディングも発生する場合がある。一方、透気抵抗度が12000秒を超えると、インクの紙への浸透が少なくなり、インクが粒状に溢れてビーディングが発生する場合がある。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。また、「部」及び「%」は、特に明示しない限り重量部及び重量%を示す。
なお、実施例及び比較例で得られた記録用紙に対して行った試験・測定方法、及び評価基準は次の通りである。
【0040】
(1)白紙光沢度
JIS P8142:2005に準じた方法により測定した。
(2)平滑度
JIS P8155:2010に準じた方法(王研法)により測定した。
(3)透気抵抗度
JIS P8117:2009に準じた方法(王研式試験機法)により測定した。
(4)接触角
上述の方法により測定した。
【0041】
(5)表面強度(ドライピック)
記録層に、RI印刷機を用いて下記条件でインキを印刷し乾燥させた後、紙のピッキングと、ロールへの紙粉付着(裏取りにて確認)の状態を目視で以下の基準で評価した。評価が○、△であれば実用上問題がない。
インキ種類:SMXタックグレード黒(タック:20)
インキ量:0.4ml
使用ロール:ゴムロール
○:紙のピッキング、ロールへの紙粉付着共になし。
△:紙のピッキングまたはロールへの紙粉付着が若干ある。
×:紙のピッキングまたはロールへの紙粉付着が多い。
【0042】
(6)インキ着肉性
記録層に、RI印刷機を用いて下記条件でインキを印刷し乾燥させ、23℃/50%RHの環境下で24時間静置した後、印刷部の濃度(ブラック)を反射濃度計(GretagMacbeth RD−19I)で測定した。
インキ種類:TOYOインキ TK NEX MZ 墨
インキ量:0.3ml
使用ロール:ゴムロール
インキ着肉性を以下の基準で評価した。評価が○、△であれば、実用上問題がない。
○:印刷部の濃度(ブラック)が2.3以上
△:印刷部の濃度(ブラック)が2.1以上2.3未満
×:印刷部の濃度(ブラック)が2.1未満
【0043】
(7)セットオフ
記録層に、RI印刷機を用いて下記条件でインキを印刷し、印刷してから1分後、または5分後に一般コート紙(A2コート紙)と貼り合せて、RI印刷機でニップし、23℃、50%RHの環境下で1日静置した後、転移したインキの濃度(ブラック)を反射濃度計(GretagMacbeth RD−19I)で測定した。セットオフを以下の基準で評価した。評価が○、△であれば、実用上問題がない。
インキ種類:TOYOインキ TK NEX MZ 墨
インキ量:0.4ml
使用ロール:ゴムロール
○:1分後の濃度が0.1未満
△:1分後の濃度が0.1以上0.3未満、且つ、5分後の濃度が0.1未満
×:1分後の濃度が0.3以上または5分後の濃度が0.1以上
【0044】
(8)産業用インクジェット記録適性
記録層に、セイコーエプソン社製のカラーインクジェトプリンターPX−045A(印刷条件:普通紙、はやい)でインクジェット印字し、以下を評価した。なお、家庭用のインクジェットプリンターで印刷条件を普通紙、はやいモードに設定することにより、産業用インクジェットプリンターの解像度とインクの打ち込み量と同程度となる。
<印字濃度>
シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックについて各ベタ画像を印字し、23℃、50%RH環境下で24時間静置した後に、各画像部の印字濃度を反射濃度計(GretagMacbeth RD−19I)で測定した。
4色の印字濃度の合計値を以下の基準で評価した。評価が○、△であれば、実用上問題がない。
○:4色の印字濃度の合計値が7.0以上
△:4色の印字濃度の合計値が6.0以上7.0未満
×:4色の印字濃度の合計値が6.0未満
【0045】
<バンディング>
ブラックのベタ画像(縦5cm×横5cm)を印字し、23℃、50%RH環境下で24時間静置した後に、以下の基準で評価した。評価が○、△であれば、実用上問題がない。
○:白く抜けている箇所が無く、綺麗な黒のベタ画像である。
△:白く抜けている筋が若干ある。
×:白く抜けている筋が目立つ。
【0046】
<ビーディング>
グリーンのベタ画像(縦5cm×横5cm)を印字し、23℃、50%RH環境下で24時間静置した後に、以下の基準で評価した。評価が○、△であれば、実用上問題がない。
○:インクの粒状感や滲みが無く、綺麗な緑のベタ画像である。
△:若干インクの粒が見える。
×:インクの粒状感が目立つ。
【0047】
<実施例1>
パルプ原料としてCSF420mlの広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)100部を使用し、パルプ100部に対して、重質炭酸カルシウム10部、アルキルケテンダイマー0.2部及び硫酸アルミニウム0.5部を配合した紙料を長網抄造機で抄造した後、カレンダー処理を施して、坪量80g/m2の基紙を得た。
【0048】
下記配合からなる配合物をそれぞれ攪拌分散して、記録層用塗工液及び凝固液とした。
<記録層用塗工液>
カオリン(エンゲルハルド社製、製品名:ウルトラホワイト90) 50.0部
重質炭酸カルシウム(三共製粉社製、製品名:エスカロン2000) 50.0部
バインダー(スチレンブタジエンラテックス、JSR社製、
製品名:JSR0617) 20.0部
バインダー(カゼイン、ニュージーランド産、
製品名:ラクチックカゼイン) 6.0部
離型剤(ポリエチレン系、サンノプコ社製、製品名:SNコート 287) 4.0部
界面活性剤(サンノプコ社製、製品名:SNウェット964) 0.1部
【0049】
<凝固液>
蟻酸カルシウム 10.0部
水 90.0部
【0050】
次いで、上記基紙の片面に、上記記録層用塗工液を固形分で塗工量20g/m2となるようにしてロールコーターを用いて塗工した後、凝固液を塗工して凝固処理した。
【0051】
次いで、得られた記録層が湿潤状態にあるうちに、110℃に加熱されたキャストドラムの鏡面に圧着して乾燥してキャスト塗工層とし、記録用紙を得た。
【0052】
実施例2は、バインダーとしてSBLの配合割合を表1、表2のように変えたこと以外は、実施例1と同様にして記録用紙を得た。
実施例3は、バインダーとしてSBLとポリビニルアルコール(クラレ社製、製品名:PVA117)、カゼインを表1、表2の割合で用いたこと以外は、実施例1と同様にして記録用紙を得た。
実施例4は、バインダーとしてSBLの配合割合を表1、表2のように変えたこと以外は、実施例1と同様にして記録用紙を得た。
実施例5は、無機顔料としてカオリンと重質炭酸カルシウムの配合割合を表1、表2のように変えたこと以外は、実施例1と同様にして記録用紙を得た。
実施例6は、記録層の離型剤としてポリエチレン系(実施例1と同一)と高級脂肪酸カルシウム系(サンノプコ社製、商品名:SNコート246)を表1、表2の割合で用いたこと以外は、実施例1と同様にして記録用紙を得た。
【0053】
実施例7は、記録層用塗工液を固形分で塗工量12g/m2となるようにしてロールコーターを用いて塗工した以外は、実施例1と同様にして記録用紙を得た。
実施例8は、記録層用塗工液を固形分で塗工量35g/m2となるようにしてロールコーターを用いて塗工した以外は、実施例1と同様にして記録用紙を得た。
【0054】
比較例1は、無機顔料として重質炭酸カルシウムの代わりに軽質炭酸カルシウム(白石工業製、製品名:ユニバー70)を用いてカオリンと軽質炭酸カルシウムの配合割合を表1、表2のように変えたこと以外は、実施例1と同様にして記録用紙を得た。
【0055】
比較例2、3は、無機顔料としてカオリンと重質炭酸カルシウムの配合割合を表1、表2のように変えたこと以外は、実施例1と同様にして記録用紙を得た。
比較例4、5は、バインダーとしてSBLの配合割合を表1、表2のように変えたこと以外は、実施例1と同様にして記録用紙を得た。
【0056】
比較例6は、記録層の離型剤として高級脂肪酸カルシウム系を表1、表2の割合で用いたこと以外は、実施例1と同様にして記録用紙を得た。
比較例7は、記録層の離型剤としてポリエチレン系を表1、表2の割合で用いたこと以外は、実施例1と同様にして記録用紙を得た。
【0057】
比較例8は、無機顔料としてカオリン、重質炭酸カルシウムとシリカ(日本アエロジル社製、商品名:アエロジル300)を表1、表2の割合で用いたこと以外は、実施例1と同様にして記録用紙を得た。
【0058】
得られた記録用紙の白紙光沢度、接触角、平滑度、透気抵抗度は表1、表2に示した通りであり、一般印刷用紙として使用した場合に得られた印刷適性、及び産業用インクジェット用記録用紙として使用した場合に得られた記録適性は表1、表2に示した通りである。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表1、表2から明らかなように、記録層の無機顔料として所定割合のカオリンと重質炭酸カルシウムを含むと共に、さらにバインダーとして所定割合のSBLを含み、接触角を規定した各実施例の場合、オフセット印刷やレタープレス等の一般印刷適性を確保すると共に、産業用インクジェット記録において発色性(印字濃度)が向上し、バンディング(筋抜け)及びビーディング(粒状感)の発生を抑制することができた。
【0062】
なお、平滑度(王研法)が4000秒未満、透気抵抗度(王研式試験機法)が3000秒未満の実施例3の場合、他の実施例に比べて、産業用インクジェット適性(印字濃度、バンディング、ビーディング)がやや劣ったが実用上問題はない。
【0063】
記録層が重質炭酸カルシウムを含まない比較例1の場合、産業用インクジェット記録における印字濃度が劣り、バンディング(筋抜け)も低下した。
これは、記録層の空隙が増えたために表層にインクを留める効果が低減したと考えられる。
記録層の重質炭酸カルシウムの割合が35重量%未満、カオリンの割合が65重量%を超えた比較例2の場合、産業用インクジェット記録においてビーディング(粒状感)が発生した。
これは、記録層の空隙が減少したため、インクが記録層の内部方向に浸透しない状態で、かつ平面方向にも広がらない状態となったものと考えられる。
【0064】
記録層の重質炭酸カルシウムの割合が60重量%を超え、カオリンの割合が40重量%未満である比較例3の場合、バンディングが発生した。これは、記録層の空隙が増えてインクが紙の中に浸透しやすくなり、更に平滑度が低くインクが広がり難くなったためと考えられる。
【0065】
記録層の無機顔料100重量部に対し、SBLが15重量部未満の比較例4の場合、産業用インクジェットプリンターで記録する際にバンディングが発生した。また、一般印刷適性としては記録層の強度が不十分となった。
【0066】
記録層の無機顔料100重量部に対し、SBLが25重量部を超えた比較例5の場合、産業用インクジェットプリンターで記録する際にビーディングが発生した。また、一般印刷適性としては、インクの乾燥性が劣ってセットオフが発生した。
【0067】
記録層の接触角が40度を超えた比較例6の場合、バンディングが発生した。
記録層の接触角が20度未満の比較例7の場合、ビーディングが発生した。
【0068】
記録層の無機顔料100重量%に対し、カオリンと重質炭酸カルシウムの合計が90重量%未満の比較例8の場合、一般印刷適性としては記録層の強度が不十分であり、インキ着肉性も劣った。
【要約】
【課題】オフセット印刷やレタープレス等の一般印刷適性に加え、インクジェット記録適性、特に産業用インクジェット記録適性も有する記録用紙を提供する。
【解決手段】基紙の少なくとも片方の面に、無機顔料及びバインダーを含有する記録層を有する記録用紙であって、記録層がキャスト塗工層であり、無機顔料は、該無機顔料100重量%に対し、40重量%以上65重量%以下のカオリンと35重量%以上60重量%以下の重質炭酸カルシウムを含み、カオリンと重質炭酸カルシウムの合計が90重量%以上であり、バインダーが少なくともスチレンブタジエンラテックスを含有し、無機顔料100重量部に対し、スチレンブタジエンラテックスが15重量部以上25重量部以下であり、57.5重量%のエチレングリコールモノエチルエーテル及び42.5重量%のホルムアルデヒドの混合溶液を、記録層に滴下してから5秒後の接触角が20度以上40度以下である。
【選択図】なし