(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記等電位線調節電極の先端部から前記ノズルまでの間に現れる等電位曲線が、前記等電位線調節電極の先端部よりも後方側に湾曲しないように、前記等電位線調節電極の先端部が平面若しくは前記ノズル側から外側に向かって後方側に傾斜する形状に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の静電噴霧装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
なお、特に断りがない場合、「先(端)」や「前(方)」等の表現は、各部材等において液体の噴霧方向側を表し、「後(端)」や「後(方)」等の表現は、各部材等において液体の噴霧方向と反対側を表すものとする。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る第1実施形態の静電噴霧装置10の全体構成を示す断面図である。
図1に示すように、静電噴霧装置10は、ノズル22を有する液体噴霧部20と、等電位線調節電極30と、液体噴霧部20と液体噴霧部20に対する異極となる異極部40との間に電圧を印加する電圧印加手段(電圧電源)50と、を備える。
【0012】
(液体噴霧部)
図2は、液体噴霧部20と等電位線調節電極30とを分解した分解断面図である。
図2に示すように、液体噴霧部20は、液体の供給される液体供給口21aを有する液体流路21bが形成された絶縁材料からなる胴体部21と、貫通孔が胴体部21の液体流路21bに連通するように胴体部21の先端に設けられるノズル22と、胴体部21の液体流路21b内及びノズル22の貫通孔内に配置される導電材料からなる心棒23と、を備えている。
【0013】
胴体部21には、心棒23を後端側に取り出すために、液体流路21bと連通した孔部21cが設けられ、その孔部21c内には、心棒23との間の隙間をシールして液体が漏れないようにするシール部材24が設けられている。
なお、本実施形態では、シール部材24としてOリングを用いているが、Oリングに限らず、シールが可能なものであればよい。
【0014】
そして、孔部21cを通じて胴体部21の後端側に位置する心棒23の後端には、絶縁材料からなる摘み部23aが設けられているとともに、摘み部23aのほぼ中央を貫通するように設けられた導電材料からなる電気配線接続部23bが設けられている。
【0015】
図1に示すように、電気配線接続部23bには、電圧印加手段50からの電気配線が接続される。
そして、
図2に示すように、電気配線接続部23bが心棒23に接触するようにされることで心棒23と電気配線接続部23bとが電気的に接続されている。
【0016】
また、胴体部21の後端開口部21dの内周面には、摘み部23aを螺合接続するための雌ネジ構造21eが設けられ、一方、摘み部23aの先端外周面には、雄ネジ構造23cが設けられている。
【0017】
したがって、胴体部21の後端開口部21dの雌ネジ構造21eに摘み部23aの先端外周面の雄ネジ構造23cを螺合させることで心棒23が取外し可能に胴体部21に取付けられている。
また、摘み部23aの螺合量を調節することで心棒23を前後方向に移動させることができ、心棒23の先端面23dの位置を前後方向に調節できるようになっている。
【0018】
ここで、一般に、静電噴霧装置の液体を噴霧するノズルは、液体が流れる貫通孔の直径が小さい微細な液体流路とされる。
これは、液体が流れ出るノズル先端の開口直径が大きいと、安定した液体の霧化状態が得られなくなるためと推察される。
例えば、一般には、ノズル先端の開口直径は0.1mm未満とされている。
【0019】
このため、液体が乾燥したりすると直ぐに、ノズル先端の開口部が目詰まりするが、開口直径が小さいため、この目詰まりを解消することが難しいという問題がある。
【0020】
しかしながら、理由については、後ほど説明するが、心棒23を用いるようにすることで、従来に比較して、ノズル先端の開口径を大きな開口直径としても良好な霧化ができることを見出し、このため、本実施形態のノズル22の先端の開口部22bの開口直径は0.2mmの大きな開口直径にできている。
この結果、目詰まりが発生する頻度を大幅に低減することができるようになっている。
【0021】
なお、ノズル22の開口部22bの開口直径は0.2mmに限定されるものではなく、心棒23を用いる形態においては、開口直径は1mm程度であっても問題はない。
【0022】
ノズル22の開口部22bの開口直径は、目詰まりが起きにくく、また、目詰まりが起きても清掃ができることを考慮すると、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、さらに0.2mmより大きくすることが好ましい。
【0023】
一方、ノズル22の開口部22bの開口直径は、霧化の安定性を考慮すると、1.0mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましく、さらに0.5mm以下とすることが好ましい。
【0024】
また、本実施形態では、上述のように、心棒23を前後方向に移動させることができるため、目詰まりが起きても心棒23を移動させることで目詰まりの解消を行うことができる。
さらに、ノズル22の貫通孔の内径も心棒23を配置できる程度に大きくできているため、心棒23を取り外して洗浄液を大量に流して洗浄することも可能になっている。
【0025】
図3は、液体噴霧部20の先端側を拡大した拡大図であり、
図3(a)は、心棒23の先端面23dが後方に位置する場合であり、
図3(b)は、
図3(a)の状態よりも心棒23の先端面23dが前方に位置する場合である。
【0026】
図3(a)に示すようにノズル22は、開口部22b側に向かってテーパ状に内径が小さくなるテーパ角度がαであるテーパ状内径部(範囲A参照)を有しており、心棒23は、先端面23dに向かって外径が小さくなるテーパ角度がβであるテーパ形状部(範囲B参照)を有している。
【0027】
そして、ノズル22のテーパ状内径部のテーパ角度αが、心棒23のテーパ形状部のテーパ角度βよりも大きくされている。
また、心棒23の先端面23dの直径は、ノズル22の開口部22bの開口直径よりも小さい直径とされているが、心棒23のテーパ形状部は、後端側に向かって徐々に直径が大きくなり、ノズル22の開口部22bの開口直径よりも直径の大きい部分を有するように形成されている。
【0028】
上記のように、ノズル22及び心棒23の先端側を形成することによって、
図3(a)及び(b)を見比べるとわかるように、心棒23を前後方向に移動させることでノズル22と心棒23とで形成される隙間の幅を調節できるようになり、ノズル22の開口部22bから出る液体の量を調節することができる。
【0029】
また、
図3(b)で示す状態よりも、さらに、心棒23を前方側に動かすことで、心棒23がノズル22の内周面に当接し、ノズル22の開口部22bを閉塞することが可能である。
したがって、液体を噴霧しない状態において、ノズル22の開口部22bを心棒23で閉塞させ、ノズル22内の液体が乾燥することを防止することが可能であり、ノズル22の目詰まりを抑制できる。
【0030】
(等電位線調節電極)
図2に示すように、等電位線調節電極30は、雌ネジ構造が設けられたネジ孔31aを有している。
そして、等電位線調節電極30は、液体噴霧部20のノズル22上に装着された後、等電位線調節電極30のネジ孔31aに固定ネジ31を螺合させてノズル22の外周を固定ネジ31で押圧するように固定ネジ31を締め付けることでノズル22に固定される。
【0031】
このようにして、等電位線調節電極30は、
図4に示すように、液体噴霧部20のノズル22の先端外周近傍に配置されるように取り付けられている。
より具体的には、本実施形態では、等電位線調節電極30は、
図1に示すように、ノズル22の先端外周縁22aよりも後方に配置されるようにノズル22の外周に固定されている。
【0032】
そして、上述したように、等電位線調節電極30は、固定ネジ31によって固定されるようになっているので固定ネジ31を緩めることでノズル22に沿うように移動させることができ、ノズル22に沿った前後方向の配置位置の調整が可能になっている。
【0033】
なお、本実施形態では、等電位線調節電極30をノズル22に固定する場合を示しているが、固定自体は液体噴霧部20の胴体部21に対して行うようにしても良く、アーム構造などで等電位線調節電極30がノズル22の先端外周近傍に配置されるようになっていれば良い。
【0034】
そして、等電位線調節電極30は導電材料からなり、
図1に示すように、電圧印加手段50から電気配線接続部23bに接続される電気配線から分岐された電気配線が接続されている。
したがって、等電位線調節電極30は、液体噴霧部20(本例では、心棒23)と同電位になっている。
【0035】
(異極部40)
本実施形態では、異極部40に被塗物を用いた場合を示しており、心棒23に接続されるのと反対側の電気配線が被塗物に接続されることで被塗物自体が液体噴霧部20に対する異極となるようにされている。
また、異極部40となる被塗物は、アース手段80でアースされるようになっている。
このアース手段80は必須の要件ではないが、被塗物のようなものの場合、作業者が触れたりすることがあり得るので安全面の観点で設けることが好ましい。
【0036】
なお、本実施形態では、被塗物を異極部40とするために被塗物に電圧印加手段50からの電気配線を接続している場合を示しているが、被塗物を異極部40とするために、直接、電気配線を接続する必要はない。
【0037】
例えば、被塗物が搬送装置などによって、塗料などの液体を塗布する位置に搬送されるような場合には、電圧印加手段50からの電気配線を搬送装置の被塗物が載置される載置部に接続されているようにして、載置部を介して被塗物が電圧印加手段50に電気的に接続されるようにしても良い。
【0038】
次に、上記のような構成を有する第1実施形態の静電噴霧装置10を用いて液体を噴霧する状態について説明を行いながら、さらに第1実施形態の静電噴霧装置10の構成などについて詳細な説明を行う。
図5は、等電位線調節電極30を設けていない状態の液体を噴霧するノズル22の先端側だけを図示した側面図である。
【0039】
図5では、ノズル22の中心軸をZ軸として示し、このZ軸に直交する1つの軸をX軸として示しており、このZ軸に沿ったX軸方向の断面に電圧を印加したときの現れる等電位曲線58の状態を合わせて図示している。
つまり、
図5は、ノズル22の中心軸を含む平面上での等電位曲線58の状態を示す図である。
また、
図6は、等電位線調節電極30を設けていない状態で液体噴霧部20から液体を噴霧している状態を示した図である。
【0040】
図5に示すように、電圧を印加すると、ノズル22を取り巻くように等電位曲線58が現れる。
そして、等電位曲線58の接線に直交する方向に向けてノズル22から出る液体が静電気力で引っ張られるが、このときに、心棒23の先端面23d及びノズル22の先端外周縁22aへの表面張力や粘度による付着力に対して、液体を引っ張る静電気力が釣り合うことで、ノズル22の先端側に供給された液体が、
図6に示すように、その先端で円錐形の形状となるテーラコーン60の状態となる。
【0041】
このテーラコーン60は、電場の作用によって、液体中で正/負電荷の分離が起こり、過剰電荷で帯電したノズル22先端のメニスカスが変形して円錐状となって形成されているものである。
そして、テーラコーン60の先端から静電気力によって液体が真直ぐに引っ張られ、その後静電爆発する。
【0042】
この静電爆発に至るまでの前方側への引っ張り力は噴霧される液体の慣性力となり、さらに、静電爆発時の広がり力(反発力)や等電位曲線58の接線と直交する方向からの静電気力による引っ張り力などの相互作用の結果として液体は前方側に噴霧される。
【0043】
そして、この噴霧される液体、つまり、ノズル22から離脱して液体粒子となった液体は、離脱前の状態に比べ、空気に触れる面積が飛躍的に大きくなるため溶媒の気化が促進され、その溶媒の気化に伴って帯電している電子間の距離が近づき、静電反発(静電爆発)が発生して小さい粒径の液体粒子に分裂し、この分裂が起こると、さらに、分裂前に比べ空気に触れる表面積が増えることになるため、溶媒の気化が促進されるため、再び、静電爆発して小さい粒径の液体粒子に分裂し、このような静電爆発が繰り返されることで液体が霧化される。
【0044】
なお、液体の供給は、噴霧により消費されることで液体噴霧部20から失われる分の液体が順次供給されていれば良く、ノズル22の開口部22b(より正確には、開口部22bと心棒23との間の隙間)から液体が噴射するような圧力で圧送供給される必要はなく、液体が勢いよく噴射される状態の場合、かえって霧化ができなくなるようなことが起こる。
【0045】
ここで、本実施形態では、ノズル22内に心棒23を設けるようにしている。
仮に、従来の静電噴霧装置のように、この心棒23を設けないものとすると、液体が付着できる部分は、ノズル22の先端外周縁22aだけとなる。
【0046】
そして、このような状態でノズル22の開口部22bの開口直径を大きくすると、液体の付着できる部分が、ノズル22の先端外周縁22aだけのため、例えば、ノズル22の上下左右に液体がふらついたりし易く、きれいなテーラコーン60が形成できなくなったり、また、テーラコーン60自体が維持できなくなるため、ノズル22から離脱する液体粒子の安定性(粒子の大きさ、数、及び、帯電状態などの安定性)が得られなくなり、結果、液体の安定した霧化ができなくなるものと推察される。
【0047】
一方、本実施形態では、ノズル22内に心棒23を配置して、ノズル22の先端外周縁22aだけでなく、心棒23の先端面23dとの間でも液体は付着する。
したがって、ノズル22の開口部22bの開口直径が大きくても、開口部22bの中央部に液体が付着できる心棒23の先端面23dが存在するため、安定したテーラコーン60を形成することができ、液体の安定した霧化ができるようになっているものと考えられる。
【0048】
なお、心棒23の先端面23dがノズル22の先端外周縁22a(つまり、ノズル22の開口部22bの先端面)から前方に出過ぎるとノズル22から出る液体に電場が作用し難くなり、一方、心棒23の先端面23dがノズル22の開口部22bの先端面から後方に引っ込み過ぎると、開口部22bの中央部に液体が付着できる部分が存在しないのと同じ状態となる。
【0049】
このことから、心棒23の先端面23dの位置は、液体を噴霧する状態において、ノズル22の開口部22bの先端面を基準にして、心棒23の中心軸に沿った前後方向で、ノズル22の先端の開口部22bの開口直径の10倍以内に位置することが好適であり、より好ましくは5倍以内に位置することが好適であり、さらに、好ましくは3倍以内に位置することが好適である。
【0050】
例えば、本実施形態では、ノズル22の開口部22bの開口直径が0.2mmであり、静電気力を考慮しない場合、ノズル22の開口部22bから出た液体は、ノズル22の先端で直径が約0.2mmの半球状となるように出てくる。
【0051】
そして、このノズル22の先端に出てきた液体に電場(静電気力)が作用して円錐状のテーラコーン60が形成できるように、心棒23の先端は、この液体の近くに存在することが良く、このためノズル22の開口部22bの先端面から前方(出る方向)に2mm以内に位置するようにするのが好適であり、一方、液体の付着に作用するように、心棒23の先端がノズル22の開口部22bの先端面から後方(引っ込む方向)に2mm以内に位置するようにするのが好適である。
【0052】
上記のように、心棒23を設けることによって、ノズル22の開口部22bの開口直径を大きくしても安定した液体の霧化が行える。
このため、ノズル22の開口部22bの開口直径を目詰まりが抑制できるような大きな開口直径にすることができる。
また、ノズル22の開口部22bの開口直径を大きくできるため機械加工でノズル22が製作できる。
【0053】
なお、本実施形態では、心棒23の先端が先端面23dとして平坦な平面としている場合を示しているが、必ずしも、心棒23の先端が平坦な平面である必要はなく、安定したテーラコーン60の形成に寄与すれば良いので、例えば、心棒23の先端はR形状のように、前方側に向かって突出する曲面になっていても良い。
【0054】
ところで、
図5を見るとわかるように、電圧の印加によってノズル22を取り巻くように現れる等電位曲線58は、ノズル22を中心として円を描くように現れている。
静電気力の引っ張り力は、この等電位曲線58に接線を引いた時にこの接線に直交する方向に働くことを考えると、離脱する液体を基準に等電位曲線58の接線と直交する方向は前方向だけでなく、斜め方向や横方向など、いろんな方向があり得るため、離脱する液体は、いろんな方向から静電気力による引っ張りを受けており、この静電気力と慣性力や静電爆発力(反発力)などとの兼ね合いで前方側の広い範囲に噴霧されることになる。
【0055】
そこで、本実施形態では、液体の塗布に応じた液体の広がり状態に合わせるために、等電位曲線58の状態を調節する導電材料で形成されて液体噴霧部20(本例では心棒23)と同電位とされる、等電位線調節電極30を設けている。
【0056】
図7は、
図5と同様に、液体を噴霧するノズル22の先端側だけを示した側面図であるが、さらに、等電位線調節電極30が設けられ、その状態における等電位曲線58の状態を合わせて示した図になっている。
なお、
図7のZ軸及びX軸は、
図5に示したのと同様である。
つまり、
図7もノズル22の中心軸を含む平面上での等電位曲線58を示した図になっている。
【0057】
図7を見るとわかるように、等電位線調節電極30が設けられることで、
図5に示した等電位線調節電極30が配置されていない状態のときにノズル22の前方側近傍に現れるノズル22の中心軸を含む平面上での等電位曲線58の状態よりも緩やかな湾曲を描く等電位曲線58の状態となり、等電位曲線58が前方側に向かって平行に並ぶ状態に近づくことがわかる。
なお、ノズル22の前方側近傍とは、ノズル22の中心軸を基準に中心軸に直交する方向で150mm以内又は100mm以内程度であって、ノズル22の前方150mm以内又は100mm以内程度のノズル22の先端から前方の円柱状の範囲を超えない範囲である。
【0058】
このような
図7に示す等電位曲線58の状態となると、離脱する液体を基準に等電位曲線58の接線と直交する方向は、主に前方向となるため液体の離脱時や離脱後の静電爆発などによる液体の広がりはあるものの、等電位線調節電極30が設けられていない状態と比較すれば、広がり難くなる。
この結果、
図8に示すように、噴霧される液体は、あまり広がらずに噴霧されることになる。
【0059】
なお、等電位線調節電極30がノズル22から後方に離れすぎた位置に配置されたりすると、その等電位曲線58を調節する作用が低下するため、等電位線調節電極30は、等電位線調節電極30が配置されていない状態のときにノズル22の前方側に現れる等電位曲線58の状態よりも緩やかな湾曲を描く等電位曲線58の状態とすることができるノズル22の先端外周近傍に配置できるようにされる必要がある。
【0060】
また、
図4に、液体噴霧部20の斜視図を示すが、
図4に示すように、本実施形態では、等電位線調節電極30の先端部30aが平面で構成されており、このようにすることで、
図7に示したように、等電位線調節電極30の先端部30aからノズル22までの間に現れる等電位曲線58が、等電位線調節電極30の先端部30aよりも後方側に湾曲しないようになる。
【0061】
例えば、この等電位線調節電極30の先端部30aの平面部分を無くし、前方に開口するような筒状の等電位線調節電極のようにすると、ノズル22の近傍では、等電位曲線58が後方側に凹む凹みが出やすくなると考えられる。
【0062】
そうすると、ノズル22の近傍に急激な等電位曲線58の変化が存在することになるため、液体が静電爆発して離脱する離脱点の位置にもよると考えられるが、液体の広がりを抑える効果が不安定になる可能性がある。
【0063】
このことから、本実施形態のように、等電位線調節電極30の先端部30aからノズル22までの間に現れる等電位曲線58が、等電位線調節電極30の先端部30aよりも後方側に湾曲しないようにするのがより好ましいと考えられる。
【0064】
なお、
図9に示す第1実施形態の等電位線調節電極30のように、ノズル22側から外側に向かって後方側に傾斜する形状に形成されている場合には、急激な凹みとなる等電位曲線58は現れないと推察されるため、
図4に示す等電位線調節電極30と同様にノズル22近傍での急激な変化の少ない等電位曲線58が形成できるものと思われる。
【0065】
一方、ノズル22の前方側に現れる等電位曲線58が、どの程度緩やかな湾曲状態となるか、つまり、等電位曲線58が前方側に向かって平行に並ぶ状態に近づくかは、等電位線調節電極30の前後方向の位置や大きさによって変わる。
【0066】
このことから、液体の塗布に求められる適切な液体の広がりにするために、例えば、等電位線調節電極30をノズル22に沿って位置が変更できるようになっていることが好ましく、また、等電位線調節電極30の先端部30aの大きさを変えた異なる緩やかな湾曲を描く等電位曲線58を形成するための少なくとも1個以上の交換用の等電位線調節電極30を準備しておいて、等電位線調節電極30を交換することで、等電位曲線58の湾曲の状態を変更することが可能であるようにしておくのが好適である。
【0067】
そして、上記のような構成の等電位線調節電極30であれば、従来の収束ガードリングと異なり、ターゲットとノズル22との間に配置する必要がなく、また、ノズル22の先端外周近傍に配置できるものであることから、液体噴霧部20に取付ける構成とすることができ、被塗物に液体を塗布する場合に液体噴霧部20を動かしても、複雑な構成とすることなく、その液体噴霧部20と共に移動する構成とできるとともに、被塗物と液体噴霧部20との間に位置するものでもないので、作業の邪魔になることもない。
【0068】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態の静電噴霧装置10について説明する。
第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、塗料などの液体を塗布する場合に、液体の噴霧パターンとして楕円形とすることが求められる場合があることから、液体の噴霧パターンを楕円形とすることができる等電位線調節電極30を備える点であり、それ以外の構成は第1実施形態と同様である。
以下では、主にこの異なる点について説明を行い、同様の点については説明を割愛する場合がある。
【0069】
図10は、第2実施形態の静電噴霧装置10の液体噴霧部20を示した斜視図である。
図10では、
図5と同様に、ノズル22の中心軸をZ軸として示し、このZ軸に直交する1つの軸をX軸として示しており、さらに、このZ軸とX軸の両方に直交する軸をY軸として示している。
【0070】
図10に示すように、第2実施形態の等電位線調節電極30は、X軸方向の先端部30aの平面の幅に対して、Y軸方向の先端部30aの平面の幅が狭くなるようになっている。
【0071】
図11は、ノズル22の先端近傍の側面図であり、
図11(a)はノズル22の中心軸であるZ軸に沿ったY軸方向を見る側面図であり、
図11(b)はノズル22の中心軸であるZ軸に沿ったX軸方向を見る側面図になっている。
【0072】
また、
図11(a)ではZ軸に沿ったY軸方向の断面に電圧を印加したときの現れる等電位曲線58の状態を合わせて図示しており、
図11(b)ではZ軸に沿ったX軸方向の断面に電圧を印加したときの現れる等電位曲線58の状態を合わせて図示している。
【0073】
図11(a)及び(b)を見比べるとわかるように、
図11(b)では電圧を印加したときに現れる等電位曲線58の状態が、第1実施形態と同様に、等電位線調節電極30が配置されていないときに比べ、かなり緩やかな湾曲を描く等電位曲線58の状態(等電位曲線58が平行に近づく状態)になっている。
【0074】
一方、
図11(a)では等電位曲線58の状態が、等電位線調節電極30が配置されていないときに比べれば、緩やかな湾曲を描く等電位曲線58の状態(等電位曲線58が平行に近づく状態)になるものの、依然として、大きく湾曲した等電位曲線58の状態になっている。
【0075】
つまり、第2実施形態の等電位線調節電極30は、Z軸に沿ったY軸方向の断面で見たノズル22の前方側に現れる等電位曲線58と、Z軸に沿ったX軸方向の断面で見たノズル22の前方側に現れる等電位曲線58のうちの一方の等電位曲線58(本例では、X軸方向の等電位曲線58)の方が他方の等電位曲線58(本例ではY軸方向の等電位曲線58)よりも緩やかな湾曲を描くように等電位曲線58の状態を調節するようになっている。
【0076】
このため、
図11(b)に示すX軸方向では液体の広がりが小さく、一方、
図11(a)に示すY軸方向では液体の広がりを大きくなることになり、
図10に示す液体噴霧部20から噴霧される液体は、
図10に示すY軸方向に長軸を有し、X軸方向に短軸を有するような楕円形状の噴霧パターンとして前方側に噴霧される。
【0077】
ところで、
図10に示す等電位線調節電極30をZ軸に対する回転方向に90°回転させてX軸に沿った先端部30aの平面の幅が狭くなるようにすれば、噴霧される液体の楕円バターンも90°回転した状態になる。
【0078】
このことから、等電位線調節電極30がZ軸に対する回転方向の位置が調節できるようになっていれば、被塗物の液体を塗布する面などの形状に合わせるように噴霧する楕円パターンの状態をZ軸に対する回転方向に変更することが可能となる。
このため、等電位線調節電極30はZ軸に対する回転方向の位置が調節できるようになっていることが好適である。
【0079】
(第3実施形態)
図12は、本発明に係る第3実施形態の静電噴霧装置10の全体構成を示す断面図である。
第1実施形態とは、静電噴霧装置10が、等電位線調節電極30よりも液体噴霧方向の前方側に配置され、ノズル22の先端を正面に見る正面視で、外側に位置する異極部40となる電極70が、さらに設けられている点が主に異なり、その他は、第1実施形態と同様である。
【0080】
図12に示すように、電極70には、心棒23に接続されるのと反対側の電気配線が接続されており、電極70が液体噴霧部20に対する異極である異極部40となるようになっている。
電極70もアース手段80でアースされるようになっており、被塗物(異極部40)と同電位(0(v))になっている。
この場合、ノズル22に近い電極70の方が、上述したノズル22の先端からの液体の離脱・霧化に寄与する電極となる。
なお、本実施形態の場合、被塗物(異極部40)は液体の離脱・霧化にほとんど寄与しないが完全に寄与しないわけではない。
【0081】
本実施形態では、電極70は、絶縁材料からなる電極ホルダ71を介してノズル22の外周に固定されるようにしているが、電極ホルダ71はノズル22に対して固定されることに限定されるものではなく、胴体部21に対して固定されていても良い。
そして、電極70の電位と液体噴霧部20(より具体的には心棒23)の電位との電位差によって発生する静電気力によって、液体はノズル22の先端から脱離・霧化する。
【0082】
電極70は、この噴霧される霧化液体が塗布されないように、外側に配置されており、また、この噴霧された直後の液体は、液体粒子の大きさが大きく慣性力が大きいので電極70に静電気力で引き寄せられるゾーンを超えて飛行し、多くは、被塗物(異極部40)側に主に静電気力で引き寄せられて塗着する。
【0083】
一方、電極70の近くを通る液体の中には、電極70に静電気力で引き寄せられて電極70に塗着するものや、通り過ぎた後に静電気力により電極70に引き寄せられて塗着するようなるようなものもあり、そのような塗着が起こると電極70を洗浄しなければならなくなったりする。
【0084】
しかしながら、本実施形態では、等電位線調節電極30によって、噴霧される液体の霧化状態を所定の状態、つまり、電極70に液体が塗着しない程度に、液体の噴霧状態が小さい広がりとなる状態とすることができるので、電極70への液体の塗着を抑制することができる。
【0085】
また、等電位線調節電極30は、液体噴霧部20(心棒23)と同電位であるため、液体噴霧部20(心棒23)に対する異極となっていないため、第1実施形態の場合、被塗物(異極部40)がないと液体の噴霧ができないが、第3実施形態の場合、被塗物(異極部40)がなくても電極70が異極部40となるため液体の噴霧を行うことができる。
【0086】
ここで、液体の噴霧開始直後は、液体の霧化(液体の噴霧量や粒子径など)が安定しない場合があるため、このような霧化が安定していない状態で被塗物への液体の塗布を行うと塗布ムラの原因などとなる場合がある。
このため、被塗物への液体の塗布は、噴霧開始直後を避けて、霧化が安定してから行うのが好適である。
【0087】
しかしながら、被塗物(異極部40)を液体噴霧部20の極に対する異極として、被塗物(異極部40)と液体噴霧部20だけで液体の霧化を行うような構成の場合、霧化液体の塗布が行われる位置に被塗物(異極部40)が位置する状態でしか液体の噴霧開始が行えないので、上述のような噴霧開始直後の液体の被塗物への塗布を避けることができない。
【0088】
その点、本実施形態の場合、被塗物に液体を塗布するために、液体が塗布される位置に被塗物を位置させる前の段階から、液体噴霧部20と電極70との間の電位差で発生する静電気力によって、液体の帯電及び脱離を行い、液体が噴霧されている状態にできるので、霧化が安定してから液体を塗布する位置に被塗物を配置するようにして液体の塗布を行うことが可能である。
したがって、本実施形態の静電噴霧装置10であれば、被塗物に対する液体の塗布ムラを抑制することができる。
【0089】
また、被塗物が搬送装置で順次自動搬送されながら、被塗物に液体の塗布を行う場合にも、被塗物が無くても噴霧状態を維持できるため、塗布ムラの少ない液体の連続塗布を行うことができる。
【0090】
なお、本実施形態の電極70は、円形のリング状とされているが、電極70は、これに限らず、多角形のリング状及び円弧状のようなものであっても良い。
【0091】
(第4実施形態)
次に、
図13及び
図14を参照しながら、第4実施形態の静電噴霧装置10について説明する。
【0092】
第4実施形態でも基本的な構成は、第1実施形態や第2実施形態と同じであり、液体噴霧部20に設けられる等電位線調節電極30が異なる点だけが相違する点であるため、以下では、主に、等電位線調節電極30について説明し、その他の部分については説明を割愛する場合がある。
【0093】
これまでの実施形態では、等電位線調節電極30は、等電位線調節電極30が配置されていない状態のときにノズル22の前方側に現れる等電位曲線58の状態に対し、等電位曲線58の全部をより緩やかな湾曲を描く等電位曲線58の状態とする形状とされている場合について示してきた。
【0094】
なお、等電位曲線58の全部とは、ノズル22の前方の無限遠に至る全部という意味ではなく、ノズル22から液体が離脱するときに、その離脱する液体の離脱方向を主に左右する範囲のノズル22の前方側近傍に現れる等電位曲線58に対する全部という意味である。
【0095】
例えば、第1実施形態の等電位線調節電極30は、ノズル22の前方側近傍に現れる等電位曲線58の全部を、ほぼ均一に、より緩やかな湾曲を描く等電位曲線58とする形状に形成されたものであった。
【0096】
また、第2実施形態の等電位線調節電極30でも、X軸方向とY軸方向とで緩やかな湾曲を描く状態が異なっているものの、等電位線調節電極30が配置される前の状態と比較すれば、やはり、全部をより緩やかな湾曲を描く等電位曲線58とする形状に形成されたものであった。
【0097】
しかしながら、等電位線調節電極30は、ノズル22の前方側近傍に現れる等電位曲線58の全部をより緩やかな湾曲を描く等電位曲線58とする形状に形成されるものに限定される必要はない。
【0098】
例えば、
図13に示すように、等電位線調節電極30を扇形の形状(本例ではほぼ120°の扇形としている)として、この扇状の電極部分がノズル22の上側に位置するように配置すれば、ノズル22の前方側近傍に現れる等電位曲線58(図示せず)は、この扇形の電極部分の範囲だけ等電位線調節電極30が配置される前の状態よりも緩やかな湾曲を描く状態となる。
【0099】
一方、この扇形の電極部分の位置しないノズル22の下側のほぼ240°の範囲では、ノズル22の前方側近傍に現れる等電位曲線58(図示せず)は、等電位線調節電極30が配置される前の状態とほぼ同じ状態を保つことになる。
なお、本実施形態でも先端部30aは平面に形成されているが、緩やかに後方側に向かって傾斜するようになっていても良い。
【0100】
そうすると、ノズル22の上側のほぼ120°の範囲において、ノズル22の前方側近傍に現れる等電位曲線58(図示せず)の部分は、緩やかな湾曲を描く状態になるため、
図14に示すように、ノズル22の上側の約120°の範囲では、離脱する液体はあまり広がらずに前方側に向かって離脱する。
【0101】
一方で、ノズル22の下側のほぼ240°の範囲では、等電位線調節電極30が配置される前のように、等電位曲線58(図示せず)は強く湾曲した状態のままであるため、離脱する液体はその等電位曲線58(図示せず)の湾曲に従って広く広がるように離脱する。
【0102】
このように、等電位線調節電極30は、等電位線調節電極30が配置されていない状態のときにノズル22の前方側近傍に現れる等電位曲線58(図示せず)の状態に対し、等電位曲線58の一部をより緩やかな湾曲を描く等電位曲線58の状態とする形状とされたものであってもよい。
【0103】
以上、具体的な実施形態に基づいて本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良を実施しても良い。
例えば、第3実施形態では、電圧印加手段50から被塗物(異極部40)に接続される電気配線を直接分岐することで電極70に電気配線を設ける場合を示したが、電極70への電気配線の接続は、可変抵抗などを介して電極70が被塗物(異極部40)と異なる電位を有するようにされていても、液体噴霧部20(心棒23)に対して異極となるようにされていれば問題はない。
【0104】
このように、本発明は、具体的な実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良を施したものも本発明の技術的範囲に含まれるものであり、そのことは、当業者にとって特許請求の範囲の記載から明らかである。