(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態に係る電極材料及び電極材料の製造方法並びに本発明の実施形態に係る電極材料を有する真空インタラプタについて、図面を参照して詳細に説明する。なお、実施形態の説明において、特に断りがない限り、メディアン径d50及び体積相対粒子量は、レーザー回折式粒度分布測定装置(シーラス社:シーラス1090L)により測定された値を示す。また、粉末の粒子径の上限(または、下限)が定められている場合は、粒子径の上限値(または、下限値)の目開きを有する篩により分級された粉末であることを示す。
【0023】
発明者らは、本発明に先だって、重量比でCr>Moの割合でMoとCrを含有するMoCr固溶体粉末と、Cu粉末とを用いて焼結法により電極材料を作製した(例えば、特願2015−93765)。この電極材料は、Cu基材中にMoCr合金が微細分散した組織を有し、従来のCuCr電極材料と比べて優れた耐電圧性能、及び耐溶着性能を有する電極材料であった。また、重量比でCr>Moの割合でMoとCrを含有するMoCr固溶体粉末を用いると、重量比でCr<Moの割合でMoとCrを含有するMoCr固溶体粉末を用いた場合と比較して、耐溶着性能が高い電極材料となった。
【0024】
真空遮断器において電極の開閉動作を行う操作機構を小型化するためには、さらに耐溶着性能を向上させて電極材料が溶着した際の引き剥がし力を低減させることが望ましい。そのためには、Cu粉末とMoCr固溶体粉末の混合粉末に低融点金属を添加することが考えられる(例えば、特許文献3)。しかしながら、低融点金属を加えた場合、電極材料の充填率が下がるため、電極接点と電極棒のロウ付け性が不良となるおそれがある。
【0025】
上記事情に基づいて発明者らは鋭意検討を行い、本発明の完成に至ったものである。本発明は、Cu−Cr−耐熱元素(Mo,W,V等)−低融点金属(Te,Bi等)電極材料の組成制御技術に係る発明であって、低融点金属粉末のメディアン径を限定することにより、従来の低融点金属を含有する電極材料と比較して、電極材料の充填率を向上させ、電極材料のロウ付け性を向上させるものである。本発明の電極材料は、耐電圧性能及び耐溶着性能に優れ、ロウ付け性に優れた電極材料である。よって、本発明の電極材料を真空インタラプタの電極接点として用いることで、真空インタラプタ及び真空遮断器の小型化が可能となる。
【0026】
耐熱元素は、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ベリリウム(Be)、ハフニウム(Hf)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、ロジウム(Rh)及びルテニウム(Ru)等の元素から選択される元素を単独若しくは組み合わせて用いることができる。特に、Cr粒子を微細化する効果が顕著であるMo、W、Ta、Nb、V、Zrを用いることが好ましい。耐熱元素を粉末として用いる場合、耐熱元素粉末のメディアン径d50を、例えば、10μm以下とすることで、電極材料にCrを含有する粒子(耐熱元素とCrの固溶体を含む)を微細化して均一に分散させることができる。耐熱元素は、電極材料に対して1.99〜29.99重量%、より好ましくは1.99〜10.00重量%含有させることで、機械強度や加工性を損なうことなく、電極材料の耐電圧性能及び電流遮断性能を向上させることができる。なお、電極材料に含まれる低融点金属量は、微量であるので、低融点金属粉末が混合される粉末に含有される耐熱元素の含有量を電極材料に含まれる耐熱元素の含有量とみなすことができる(Cr及びCuも同様である)。
【0027】
低融点金属は、例えば、テルル(Te)、ビスマス(Bi)、セレン(Se)、アンチモン(Sb)等の元素から選択される元素を単独若しくは組み合わせて用いることができる。低融点金属は、電極材料(耐熱元素、Cr、Cuの合計重量)に対して0.05〜0.30重量%含有させることで、電極材料の耐溶着性能を向上させることができる。低融点金属を粉末として用いる場合、低融点金属粉末のメディアン径d50は、5μm以上40μm以下、より好ましくは5μm以上11μm以下とすることで、電極材料の充填率が向上する。
【0028】
クロム(Cr)は、電極材料に対して4.99〜47.98重量%、より好ましくは4.99〜15.99重量%含有させることで、機械強度や加工性を損なうことなく、電極材料の耐電圧性能及び電流遮断性能を向上させることができる。Cr粉末を用いる場合、Cr粉末のメディアン径d50は、耐熱元素の粉末のメディアン径よりも大きければ特に限定されない。例えば、メディアン径が80μm以下のCr粉末が用いられる。
【0029】
銅(Cu)は、電極材料に対して39.88〜89.96重量%、より好ましくは79.76〜89.96重量%含有させることで、耐電圧性能や電流遮断性能を損なうことなく、電極材料の接触抵抗を低減することができる。Cu粉末のメディアン径d50は、例えば、100μm以下とすることで、耐熱元素とCrの固溶体粉末とCu粉末とを均一に混合することができる。なお、焼結法により作製される電極材料では、耐熱元素とCrの固溶体粉末に混合するCu粉末の量を調整することにより、Cuの重量比を任意に設定することができる。したがって、電極材料に対して添加される耐熱元素、低融点金属、Cr及びCuの合計は、100重量%を超えることはない。
【0030】
本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法について、
図1のフローを参照して詳細に説明する。なお、実施形態の説明では、耐熱元素としてMoを例示し、低融点金属としてTeを例示して説明するが、他の耐熱元素及び低融点金属の粉末を用いた場合も同様である。
【0031】
Mo−Cr混合工程S1では、耐熱元素粉末(例えば、Mo粉末)とCr粉末を混合する。Mo粉末とCr粉末は、Cr粉末の重量がMo粉末の重量より多くなるように混合する。例えば、重量比率でMo/Cr=1/4〜1/1(Mo:Cr=1:1は含まず)の範囲で、Mo粉末とCr粉末とを混合する。
【0032】
焼成工程S2では、Mo粉末とCr粉末の混合粉末の焼成を行う。焼成工程S2では、例えば、混合粉末の成形体を、真空雰囲気中で900〜1200℃の温度で1〜10時間保持してMoCr焼結体を得る。混合粉末におけるCr粉末の重量がMo粉末の重量より多い場合、焼成後にMoと固溶体を形成しないCrが残存することとなる。よって、焼成工程S2では、MoへCrが固相拡散したMoCr合金と残存したCr粒子とを含有する多孔体(MoCr焼結体)が得られる。
【0033】
粉砕・分級工程S3では、焼成工程S2で得られたMoCr焼結体をボールミル等で粉砕する。MoCr焼結体を粉砕して得られるMoCr粉末は、例えば、目開き200μm、より好ましくは、目開き90μmの篩で分級し、粒子径の大きい粒を取り除く。特願2015−93763号明細書に詳述しているが、Cu粉末に混合するMoCr粉末を、200μm以下、より好ましくは、粒子径90μm以下の粒子の体積相対粒子量が90%以上となるように調整することで、鱗片状MoCr(Cr)粒子を除去し、耐電圧性能、耐溶着性能に優れた電極材料を製造することができる。なお、粉砕・分級工程S3における粉砕時間は、例えば、MoCr焼結体1kgあたり2時間で行う。粉砕後のMoCr粉末の平均粒子径は、Mo粉末とCr粉末の配合比によって異なることとなる。
【0034】
Cu混合工程S4では、粉砕・分級工程S3で得られたMoCr粉末と、低融点金属粉末(例えば、Te粉末)及びCu粉末との混合を行う。
【0035】
プレス成形工程S5は、Cu混合工程S4で得られた混合粉末の成形を行う。プレス金型成形にて成形体を作製すると、成形体を焼結後加工が不要であり、そのまま電極(電極接点)とすることができる。
【0036】
本焼結工程S6は、プレス成形工程S5で得られた成形体を焼結し、電極材料を作製する。本焼結工程S6では、例えば、非酸化性雰囲気中(水素雰囲気や真空雰囲気等)で、Cuの融点(1083℃)以下の温度で成形体の焼結を行う。本焼結工程S6の焼結時間は、焼結温度に合わせて適宜設定される。例えば、焼結時間は、2時間以上に設定される。
【0037】
なお、本発明の実施形態に係る電極材料を用いて真空インタラプタを構成することができる。
図2に示すように、本発明の実施形態に係る電極材料を有する真空インタラプタ1は、真空容器2と、固定電極3と、可動電極4と、主シールド10と、を有する。
【0038】
真空容器2は、絶縁筒5の両開口端部が、固定側端板6及び可動側端板7でそれぞれ封止されることで構成される。
【0039】
固定電極3は、固定側端板6を貫通した状態で固定される。固定電極3の一端は、真空容器2内で、可動電極4の一端と対向するように固定されており、固定電極3の可動電極4と対向する端部には、本発明の実施形態に係る電極材料である電極接点8が設けられる。電極接点8は、固定電極3の端部にロウ材(例えば、Ag−Cu系ロウ材)により接合される。
【0040】
可動電極4は、可動側端板7に設けられる。可動電極4は、固定電極3と同軸上に設けられる。可動電極4は、図示省略の開閉手段により軸方向に移動させられ、固定電極3と可動電極4の開閉が行われる。可動電極4の固定電極3と対向する端部には、電極接点8が設けられる。電極接点8は、可動電極4の端部にロウ材により接合される。なお、可動電極4と可動側端板7との間には、ベローズ9が設けられ、真空容器2内を真空に保ったまま可動電極4を上下させ、固定電極3と可動電極4の開閉が行われる。
【0041】
主シールド10は、固定電極3の電極接点8と可動電極4の電極接点8との接触部を覆うように設けられ、固定電極3と可動電極4との間で発生するアークから絶縁筒5を保護する。
【0042】
[実施例1]
実施例1の電極材料を
図1のフローにしたがって作製した。実施例1の電極材料は、
図3に示すように、原料粉末であるメディアン径48μmのTe粉末を分級して、メディアン径を9μmとしたTe粉末を用いて作製した電極材料である。なお、実施例1の電極材料に作製するにあたり、メディアン径が10μm以下のMo粉末、メディアン径が80μm以下のテルミットCr粉末、及びメディアン径が100μm以下のCu粉末を用いた(他の実施例、比較例及び参考例も同じ粉末を用いた)。
【0043】
まず、MoとCrの混合比率を重量比率でMo:Cr=1:4となるようにMo粉末とCr粉末とを混合した。混合終了後、得られた混合粉末をアルミナ容器に移し、真空炉で1150℃−6時間焼結を行った。焼結して得られた反応生成物である多孔体を粉砕・分級して90μmアンダーの粉末を得た。
【0044】
このMoCr粉砕粉末と、Te粉末と、Cu粉末を、重量比率で、Cu:MoCr:Te=80:20:0.1の割合で混合し、V型混合機を用いて均一になるまで十分に混合した。混合終了後、混合粉末を加圧成形し成形体とし、この成形体をCuの融点よりも低い温度で焼結して電極材料を作製した。
【0045】
図4に実施例1の電極材料の断面顕微鏡写真を示す。また、表1に実施例1の電極材料の諸特性を示す。表1における充填率は、焼結体の密度を実測し、(実測密度/理論密度)×100(%)で算出した。耐電圧性能の評価は、各電極材料を真空インタラプタの電極(電極接点)として、50%フラッシオーバ電圧を計測して行った。なお、参考例1の耐電圧性能は、比較例1の電極材料を基準(基準値1.0)とした相対値を示している。また、耐溶着性能は、短時間耐電流(STC)試験を行い、電極間が溶着するか否かで評価を行った(以下、耐溶着性能の試験という)。ロウ付け性は、Ag−Cu系ロウ材で電極材料とCu製リードとのロウ付けを行い、フィレットが形成されたか否か、及びロウ付けした電極材料をハンマーで叩いて電極材料がリードから脱落しないか否かの2点で評価を行った。
【0047】
表1に示すように、実施例1の電極材料では、ロウ材のフィレットが確認され、ロウ付け性は良好であった。ロウ材の体積は、120cm
3であり、電極材料におけるロウ付け部面積は2.9cm
2であった(実施例2,3、参考例1、比較例1も同様である)。
【0048】
[実施例2]
実施例2の電極材料は、原料となるTe粉末を分級して、メディアン径を11μmとしたTe粉末を使用したこと以外は、実施例1の電極材料と同様の方法で作製した電極材料である。つまり、実施例2の電極材料を
図1のフローにしたがって作成した。表1に示すように、実施例2の電極材料のロウ付け性を確認した結果、ロウ材のフィレットが確認され、ロウ付け性は良好であった。
【0049】
[実施例3]
実施例3の電極材料は、原料となるTe粉末を分級して、メディアン径を37μmとしたTe粉末を使用したこと以外は、実施例1の電極材料と同様の方法で作製した電極材料である。つまり、実施例3の電極材料を
図1のフローにしたがって作成した。表1に示すように、実施例3の電極材料のロウ付け性を確認した結果、ロウ材のフィレットは確認できなかったものの、電極がリードから剥がれることなくロウ付けできた。
【0050】
[比較例1]
比較例1の電極材料は、耐熱元素を含有しない電極材料である。比較例1の電極材料を作製するにあたり、
図3に示すようなメディアン径が48μmのTe粉末を用いた。
【0051】
比較例1の電極材料を
図5に示すフローにしたがって作製した。
【0052】
まず、Cu粉末とCr粉末及びTe粉末を、重量比率でCu:Cr:Te=80:20:0.05としてV型混合機を用いて均一になるまで十分に混合した。混合終了後、混合粉末を加圧成型して成形体とし、この成形体を、Cuの融点よりも低い温度で焼結して比較例1の電極材料を作製した。表1に示すように、ロウ材のフィレットが確認され、ロウ付け性は良好であった。
【0053】
[参考例1]
参考例1の電極材料は、Cu混合工程S4で混合するTe粉末のメディアン径が異なること以外は、実施例1と同様の方法で作成した電極材料である。つまり、参考例1の電極材料は、メディアン径が48μmのTe粉末を用い、
図1に示すフローにしたがって作製した電極材料である。
【0054】
図6に参考例1の電極材料の断面写真を示す。また、表1に示すように、参考例1の電極材料のロウ付け性を確認した結果、ロウ材のフィレットが形成されず、ロウ付け性は悪く、リードから電極が剥がれた。
【0055】
参考例1の電極材料は、比較例1の電極材料(すなわち、現状のCuCrTe電極材料)よりも優れた耐電圧性能と耐溶着性能を有するものの、充填率とブリネル硬度が低下した。これは、参考例1の電極材料では、焼結工程におけるMoとCrの拡散反応、及びTeの揮発によって内部空孔がCuCrTe電極に比べて多くなることによるものと考えられる。このように電極材料の内部空孔が増加すると、Ag−Cu系ロウ材成分であるAgが電極の内部空孔に吸われてしまうためロウ付けができなくなるものと考えられる。
【0056】
これに対して、実施例1−3の電極材料は、
図4の顕微鏡写真から明らかなように、Teが揮発した後に発生する空孔が小さくなっている。このように、内部空孔が小さくなったことで充填率とブリネル硬度が比較例1の電極材料と同程度まで向上した。その結果、Ag−Cu系ロウ材によるロウ付けが可能となった。実施例1−3の電極材料は、耐電圧試験及び耐溶着試験を実施していないが、参考例1の電極材料と比較して充填率とブリネル硬度が上昇していることから、参考例1の電極材料を上回る耐電圧性能及び耐溶着性能を有しているものと考えられる。
【0057】
[低融点金属の添加量の検討]
次に、低融点金属の添加量を変えた電極材料を作成し、電極材料の特性評価を行った。なお、参考例2乃至参考例16の電極材料及び比較例2乃至比較例5の電極材料の作製において、メディアン径48μmのTe粉末を用いた。したがって、各電極材料のロウ付け性は良好でないものと考えられる。そこで、各電極材料を真空インタラプタに搭載するにあたり、ロウ付け温度の高いCu−Mn−Niロウ材とCu−Agロウ材を合わせてロウ付けを行った。このように充填密度の低い電極材料であってもロウ材を工夫することで、ロウ付けを行うことができる。しかしながら、複数のロウ材を用いるとロウ材配置の順番ミスやロウ材の入れ間違い等が発生するおそれがあり、量産化には適用することが困難となるおそれがある。
【0058】
[参考例2乃至参考例5]
参考例2乃至参考例5の電極材料は、メディアン径48μmのTe粉末を用いたこと、及び電極材料に含有させるTeの重量が異なること以外は、実施例1と同じ方法により作製した電極材料である。よって、実施例1の電極材料の製造方法と同じ製造工程については説明を省略する。参考例2乃至参考例5の電極材料は、同じ組成を有し、同じ方法により作製された電極材料であり、耐溶着性能の試験における圧接力が異なる試料である。なお、圧接力は、最も圧接力の小さい試料(すなわち、後述の参考例6)の圧接力(αN)を基準値とした相対値で示す。
【0059】
図1のフローにしたがって、参考例2乃至参考例5の電極材料を作製した。Cu混合工程S4では、Cu粉末と、MoCr粉砕粉末と、Te粉末と、を重量比率で、Cu:MoCr:Te=80:20:0.05の割合で混合し、V型混合機を用いて均一になるまで十分に混合した。混合終了後、成形体を作製し、Cuの融点よりも低い温度で焼結して参考例2乃至参考例5の電極材料を得た。
【0060】
参考例2の電極材料を固定電極及び可動電極として搭載した真空インタラプタを真空遮断器に取り付けた。そして、真空インタラプタの電極間に作用させる圧接力をα+20Nとして耐溶着性能の試験を行った。同様に、参考例3乃至参考例5の電極材料を真空インタラプタの固定電極及び可動電極にそれぞれ搭載した。そして、真空インタラプタの電極間に作用させる圧接力をα+64N(参考例3)、α+87N(参考例4)、α+131N(参考例5)に変化させ真空遮断器に対して耐溶着性能の試験を行った。表2に、参考例2乃至5の耐電圧性能及び耐溶着性能の試験結果を示す。なお、参考例2乃至16及び比較例2乃至6の耐電圧性能は、比較例1の電極材料を基準(基準値1.0)とした相対値を示している。
【0062】
表2に示すように、参考例2乃至参考例5のいずれの電極材料においても溶着せず、参考例2乃至参考例5は、耐溶着性能に優れた電極材料であることがわかる。
【0063】
[参考例6乃至参考例11]
参考例6乃至参考例11の電極材料は、Cu混合工程S4におけるCu粉末とMoCr粉砕粉末とTe粉末の混合比率が異なること以外は、参考例2の電極材料と同様の方法で作製した電極材料である。よって、異なる部分について詳細に説明する。参考例6乃至参考例11の電極材料は、同じ組成を有し、同じ方法により作製された電極材料であり、耐溶着性能の試験における圧接力が異なる試料である。
【0064】
図1のフローにしたがって参考例6乃至参考例11の電極材料を作製した。Cu混合工程S4では、Cu粉末と、MoCr粉砕粉末と、Te粉末を、重量比率で、Cu:MoCr:Te=80:20:0.1の割合で混合した。
【0065】
参考例2の電極材料と同様に、参考例6乃至参考例11の電極材料を真空インタラプタの固定電極及び可動電極にそれぞれ搭載した。そして、真空インタラプタを真空遮断器に取り付け、真空インタラプタの電極間に作用させる圧接力を、αN(参考例6)、α+20N(参考例7)、α+44N(参考例8)、α+64N(参考例9)、α+87N(参考例10)、α+131N(参考例11)と変え、耐溶着性能の試験を行った。表2に示すようにすべての圧接力において電極は溶着しなかった。
【0066】
[参考例12乃至参考例16]
参考例12乃至参考例16の電極材料は、Cu混合工程S4におけるCu粉末とMoCr粉砕粉末とTe粉末の混合比率が異なること以外は、参考例2の電極材料と同様の方法で作製した電極材料である。よって、異なる部分について詳細に説明する。参考例12乃至参考例16の電極材料は、同じ組成を有し、同じ方法により作製された電極材料であり、耐溶着性能の試験における圧接力が異なる試料である。
【0067】
図1のフローにしたがって参考例12乃至参考例16の電極材料を作製した。Cu混合工程S4では、Cu粉末と、MoCr粉砕粉末と、Te粉末を、重量比率で、Cu:MoCr:Te=80:20:0.3の割合で混合した。
【0068】
参考例2の電極材料と同様に、参考例12乃至参考例16の電極材料を真空インタラプタの固定電極及び可動電極にそれぞれ搭載した。そして、真空インタラプタを真空遮断器に取り付け、真空インタラプタの電極間に作用させる圧接力を、α+20N(参考例12)、α+44N(参考例13)、α+64N(参考例14)、α+87N(参考例15)、α+131N(参考例16)と変え、耐溶着性能の試験を行った。
【0069】
表2に示すように、圧接力がα+20N、α+44N、α+87Nのとき、電極間で溶着した。一方、圧接力がα+64N、α+131Nのとき、電極間は溶着しなかった。なお、圧接力がα+44Nのとき、溶着した電極を引き剥がす力は2450N必要であった。
【0070】
[比較例2乃至比較例5]
比較例2乃至比較例5に係る電極材料は、耐熱元素(Mo)を含有しない電極材料である。比較例2乃至比較例5の電極材料は、比較例1の電極材料と同じ組成を有し、同じ方法により作製された電極材料であり、耐溶着性能の試験における圧接力が異なる試料である。
【0071】
図5のフローにしたがって比較例2乃至比較例5の電極材料を作製した。
【0072】
Cu:Cr:Te=80:20:0.05の重量比で、Cr粉末と、Te粉末と、Cu粉末と、を混合し、V型混合機を用いて均一になるまで十分に混合した。混合終了後、成形体を作製し、Cuの融点よりも低い温度で焼結して比較例2乃至比較例5の電極材料を得た。
【0073】
参考例2の電極材料と同様に、比較例2乃至比較例5の電極材料を真空インタラプタの固定電極及び可動電極にそれぞれ搭載した。そして、真空インタラプタを真空遮断器に取り付け、真空インタラプタの電極間に作用させる圧接力を、α+44N(比較例2)、α+64N(比較例3)、α+87N(比較例4)、α+131N(比較例5)と変え、耐溶着性能の試験を行った。
【0074】
表2に示すように、比較例2乃至比較例4の電極材料において、電極間が溶着し、比較例5の電極材料では電極間は溶着しなかった。なお、圧接力が一番小さいα+44Nのとき、溶着した電極を引き剥がす力は2016N必要であった。
【0075】
[比較例6]
比較例6に係る電極材料は、低融点金属(例えば、Te)を含有しない以外、参考例2と同様の方法により作成した電極材料である。したがって、
図1に示した参考例2の電極材料の製造工程と同様の製造工程については同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0076】
図7のフローにしたがって比較例6の電極材料を作製した。
【0077】
Cu混合工程S7では、粉砕・分級工程S3で得られたMoCr固溶体粉末とCu粉末とを、重量比率で、Cu:MoCr=4:1の割合で混合し、V型混合機を用いて均一になるまで十分に混合した。混合終了後、成形体を作製し、Cuの融点よりも低い温度で焼結して比較例6の電極材料を得た。
【0078】
参考例2の電極材料と同様に、比較例6の電極材料を真空インタラプタの固定電極及び可動電極にそれぞれ搭載した。そして、真空インタラプタを真空遮断器に取り付け、真空インタラプタの電極間に作用させる圧接力をα+194Nとし、耐溶着性能の試験を行った。表2に示すように、電極間で溶着し、溶着した電極を引き剥がす力は4080Nであった。
【0079】
表2から明らかなように、参考例2乃至参考例16及び比較例6の電極材料は、MoCr合金の微細分散組織をCu相中に形成することにより、現状の電極材料である比較例2乃至比較例5の電極材料と比べて耐電圧性能が向上した。
【0080】
しかしながら、比較例6の電極材料は、優れた耐電圧性能を有しているが、耐溶着性能が低く、高い圧接力にも拘らず電極間で溶着した。つまり、比較例6の電極材料は、溶着した電極を引き剥がす力が高いため真空インタラプタを組み込む真空遮断器の大型化が必要となり、製造コストが増加するおそれがある。
【0081】
そこで、参考例2から参考例11の電極材料のように、電極材料に低融点金属であるTeを添加すると、耐電圧性能を損なうことなく比較例6の電極材料と比較して耐溶着性能を向上させることができる。これは、電極材料に低融点金属を添加すると、Cu−Cr粒界及びCu−MoCr粒界に空孔が発生することで粒界の結合強度が低下し、電極材料の耐溶着性能が向上しているものと考えられる。ただし、参考例12から参考例16の電極材料のように、電極材料におけるTeの添加量が増加すると、電極材料の耐電圧性能が低下するおそれがある。これは、低融点金属の添加量の増加にしたがって電極材料中の空孔の発生が多くなり、著しい電極材料の密度低下を引き起こすことに起因するものと考えられる。電極材料の密度が低下することで、電極材料の耐電圧性能が低下し、接触抵抗が増大することとなる。ゆえに、電極材料に添加する低融点金属は、電極材料に対して0.3重量%以下とすることで、耐電圧性能や電流遮断性能を低下させることなく、耐溶着性能に優れた電極材料を得ることができるものと考えられる。
【0082】
このように、CuCrMo電極材料に微量の低融点金属(例えば、Cu、Cr、Moの合計重量に対して0.05〜0.3重量%のTe)を添加することで、電極材料の耐溶着性能を向上させることができる。
【0083】
しかしながら、粒界に空孔が発生することで粒界の結合強度が低下するものの、電極材料の充填率の低下を招くおそれある。例えば、表1の参考例1の電極材料では、充填率が89.2%である。このように、電極材料の充填率が低下すると、電極材料のロウ付け性が低下するおそれがある。
【0084】
これに対して、実施例1乃至実施例3の電極材料のように、メディアン径を5μm以上40μm以下に調整したTe粉末を用いることで、CrMo合金の微細分散組織を形成したCuCrMoTe電極の焼成工程で発生する気孔を小さくすることができ、電極材料の硬度及び充填率を向上させることができる。
【0085】
すなわち、本発明の実施形態に係る電極材料及び電極材料の製造方法によれば、メディアン径を5μm以上40μm以下とした低融点金属粉末を用いることで、電極材料の耐電圧性能及び電流遮断性能を低下させることなく、耐溶着性能及びロウ付け性に優れた電極材料を得ることができる。その結果、従来の低融点金属粉末を使用した電極材料では実現できなかったAg−Cu系ロウ材でロウ付けができるようになった。また、ロウ付け性が優れることで、量産における製造コストの削減と歩留りが向上する。
【0086】
さらに、本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法によれば、充填率が90%以上、ブリネル硬度が50以上の電極材料を得ることができる。このような密度及び硬度が高い電極材料は、耐電圧性能に優れ、電極損耗量が少ない電極材料となる。
【0087】
また、本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法によれば、充填率が高い電極材料を製造することができる。この電極材料は、MoCr微細分散組織を有することによる優れた耐電圧性能と、現状のCu−Cr電極よりも高い耐溶着性能を有することで、真空インタラプタの小型化が可能となる。つまり、本発明の電極材料を、例えば、真空インタラプタ(VI)の固定電極及び可動電極の少なくとも一方に設けることで、真空インタラプタの電極接点の耐電圧性能が向上する。電極接点の耐電圧性能が向上すると、従来の真空インタラプタよりも開閉時の可動側電極と固定側電極のギャップが短くでき、さらに、電極と絶縁筒とのギャップも短くすることが可能であることから、真空インタラプタの構造を小さくすることが可能となる。また、電極材料の耐溶着性能が向上することで、真空遮断器の開閉動作を行う操作機構を小型化することができ、真空遮断器の小型化に貢献する。
【0088】
以上、実施形態の説明では、本発明の好ましい態様を示して説明したが、本発明の電極材料の製造方法や電極材料は、実施形態に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲において適宜設計変更が可能であり、設計変更された形態も本発明の技術範囲に属する。
【0089】
例えば、MoCr固溶体粉末は、Mo粉末とCr粉末を仮焼結したものを粉砕・分級して製造されたものに限定されず、重量比でCr>Moの割合でMoとCrを含有するMoCr固溶体粉末を用いることができる。また、MoCr固溶体粉末は、例えば、累積50%で80μm以下の粉末を用いることで、耐電圧性能に優れた電極材料を製造することができる。