(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0011】
高圧側圧力に応じて、高圧側から低圧側に流体を流通させる調圧弁であって、前記流体の流入口と、前記流体の流出口と、前記流入口を閉じる方向に付勢する付勢手段を備えた弁体と、を有し、前記流体が第1の圧力以上で前記弁体が前記流入口を開放し、前記流体の速度の上昇に応じて前記流体の圧力が上昇し、前記流体が第2の圧力を超えると前記弁体が前記流出口を閉塞する、又は、前記流出口を狭隘にする、ことを特徴とする調圧弁。
【0012】
このような調圧弁によれば、比較的圧力が低い領域では従来の調圧弁と同等に作用して流入口側の圧力をほぼ一定に保つことができるが、圧力が所定値よりも高くなると、流出口の面積を小さくすることによって圧力を増大させることができる。したがって、当該調圧弁をオイルダンパーに適用することにより、高い圧力が作用した場合に減衰力を増大させ、地震等の振動の大きさに応じて適切な減衰力を発揮させることが可能となる。
【0013】
かかる調圧弁であって、前記弁体は、前記低圧側に向かって前記流出口に挿入する閉塞手段を備える、ことが望ましい。
【0014】
このような調圧弁によれば、弁体自体が流出口を閉塞する手段を有することにより、所定の大きさよりも大きな圧力が作用した場合に、弁体の動作に伴って自動的に流出口が閉塞される、又は流出口の面積が狭隘にされる。これにより、複雑な制御を行うことなく、流出口を閉塞させる動作を安定的に実現することができる。
【0015】
かかる調圧弁であって、前記閉塞手段は、前記弁体が前記流入口側から前記流出口側へ移動するのに連動して、前記流入口側から前記前記流出口側へ移動可能な軸部材であり、前記軸部材の前記流出口側の端部が前記流出口に挿入される、ことが望ましい。
【0016】
このような調圧弁によれば、所定の大きさよりも大きな圧力が作用した場合に、当該圧力の作用によって弁体が移動するのに応じた単純な動作で調圧弁の流出口を閉塞させることができる。また、弁体に軸部材が設けられるだけであるため、構造がシンプルであり、製造コストも低く抑えることができる。
【0017】
かかる調圧弁であって、前記弁体は、前記高圧側に向かって前記流入口に挿入される先細りのテーパーを備える、先細りのテーパーを備える、ことが望ましい。
【0018】
このような調圧弁によれば、テーパーを備えた弁体が流入口側に付勢され、流入口に挿入されることにより、流入口と弁体との間に隙間が生じにくくなる。したがって、流入口に作用する圧力が所定の大きさに達するまでは、該流入口をしっかりと閉塞させ流体を漏れにくくすることができる。
【0019】
また、上記のいずれかに記載の調圧弁を有する、ことを特徴とするオイルダンパーが明らかとなる。
【0020】
このようなオイルダンパーによれば、地震の揺れの大きさに応じて適切な減衰力を発生させ、また、設計地震動を上回るような地震が発生した場合には、より大きな減衰力を発生させることができる。また、このような機能は、上述のような調圧弁を設けるだけで実現することができるため、複雑な機構や制御が不要であり、低コストなオイルダンパーを提供することができる。
【0021】
かかるオイルダンパーであって、前記流体が満たされた容器と、前記調圧弁が設けられたピストンと、を備え、前記容器は、前記ピストンによって第1圧力室と第2圧力室とに区分されており、前記流体は前記調圧弁を介して前記第1圧力室と前記第2圧力室との間を移動可能であり、前記ピストンが前記第1圧力室と前記第2圧力室との間を移動する際の速度が、前記第1の圧力に対応する速度以上となったときに、前記弁体が前記流入口を開放し、前記ピストンが前記第1圧力室と前記第2圧力室との間を移動する際の速度が、前記第2の圧力に対応する速度を超えたときに、前記弁体が前記流出口を閉塞する、又は、前記流出口を狭隘にする、ことが望ましい。
【0022】
このようなオイルダンパーによれば、ピストンの移動速度が所定の速度よりも早くなった場合に、調圧弁の流出口を閉塞させる等によって減衰係数を増大させ、大きな減衰力を発生させることができる。例えば、当該オイルダンパーを免震構造物に配置した状態で、設計地震動を上回るような大きな地震が発生した場合、一時的に大きな減衰力を発生させることにより、構造物が擁壁と衝突する等を抑制することができる。したがって、シンプルな構造であり、かつ、より安全性の高いオイルダンパーを提供することができる。
【0023】
===実施形態===
<調圧弁10について>
はじめに、本実施形態に係る調圧弁10の構成について説明する。
図1は、調圧弁10の概略構造図である。
【0024】
調圧弁10は、低圧時には従来の調圧弁と同様に作動するが、高圧時には流体の流出口を狭隘にすることで流体の流れを制限する高圧時遮断型の調圧弁である。詳細は、後述するが、このような調圧弁10をオイルダンパー等の減衰装置に適用すれば、例えば所定の大きさ以上の震度の地震が発生した場合等、所定の条件で減衰係数を上昇させ、大きな減衰力を発揮することが可能となる。本実施形態の調圧弁10は、本体11と、流入口12と、流出口13と、弁体15と、弾性体16と、支持部材17と、閉塞部材19とを有する。また、説明の便宜のため、
図1に示されるように軸方向を定義する。
【0025】
本体11は、調圧弁10の外装をなす部材であり、例えば筒状に形成され、内部に油等の流体(作動流体)が流通する流路を有する。本体11の軸方向の一端側には、外部の流体を本体11の内部に流入させる流入口12が設けられている。この流入口12は、調圧弁10の弁座としての機能を有し、無負荷状態においては弁体15によって閉塞されている。本体11の軸方向の他端側には、本体11の内部に流入した流体を流出させる流出口13が設けられている。調圧弁10を使用する際には、流入口12が高圧側に配置され、流出口13が低圧側に配置される。そして、流入口12及び流出口13が開いているときには、流入口12側(高圧側)から本体11の内部に流体が流入し、流出口13側(低圧側)へ当該液体を流通させる。
【0026】
弁体15は、本体11の内部において軸方向に移動可能に支持されている。
図1の例では、弁体15の流入口12と当接する部分が先細りのテーパー状に形成されている。このような先細りのテーパーを備えた弁体15が流入口12側(高圧側)に付勢され流入口12に挿入されることにより、流入口12と弁体15との間に隙間が生じにくくなり、流入口12に作用する圧力Pが所定の大きさ(後述する第1の圧力P1)に達するまでは、該流入口12をしっかりと閉塞させ流体を漏れにくくすることができる。但し、弁体15の流入口12は必ずしもテーパー状でなくても良い。
【0027】
弾性体16は、流入口12を閉じる方向に弁体15を付勢する付勢手段であり、例えば、
図1のようなコイルばねを使用することができる。支持部材17は、弾性体16を支持する部材であり、
図1では弾性体16の軸方向端部(流出口13側の端部)を支持しつつ、本体11内部の流体の流路を塞がないように配置されている。弾性体16の弾性係数や支持部材17の軸方向の配置を調整することにより、流入口12が開く際の圧力の大きさや、流入口12が開いた後の流体の流量を調整することができる。
【0028】
閉塞部材19は、本体11の内部において弁体15によって軸方向に移動可能に支持され、所定の条件で流出口13を閉塞させる閉塞手段である。閉塞部材19は、流出口13の形状とほぼ同一の外形を有する軸状に形成されており、弁体15の軸方向の移動に連動して軸方向に移動する。すなわち、圧力の上昇に応じて弁体15が流入口12側から流出口13側に移動すると、閉塞部材19も流入口12側から流出口13側に移動する。そして、圧力が所定の大きさまで上昇すると、閉塞部材19の軸方向の流出口13側端部が流出口13に挿入される。これにより、閉塞部材19の軸方向の流出口13側端部によって流出口13が閉塞される、若しくは、流出口13の面積が狭隘になる。本実施形態では、閉塞部材19が弁体15と一体的に形成されているので、部品数が少なくなり、メンテナンス等の負担も小さい。但し、閉塞部材19と弁体15とがそれぞれ異なる部材として構成されていても良い。
【0029】
図2A〜
図2Cは、調圧弁10の基本的な動作について具体的に説明する図である。
図2Aは、調圧弁10が作動する前の状態を表している。流入口12(高圧側)において弁体15に作用する流体の圧力Pが弾性体16の付勢力(ばねの反発力)よりも小さい場合、弾性体16によって弁体15が流入口12に付勢され、流入口12が閉じているため、調圧弁10は流体を流通させない。すなわち、調圧弁10は作動していない。
【0030】
図2Bは、流入口12が開放され、流体が流入口12から流出口13へ流通したときの状態を表している。調圧弁10の流入口12における圧力Pが徐々に増加して所定の圧力P1(第1の圧力とする)に達すると、第1の圧力P1と弾性体16のばね反発力とが釣りあうようになる。そして、圧力Pがさらに増加し、第1の圧力P1よりも大きくなると弁体15に作用する圧力Pが弾性体16による付勢力を上回り、流入口12が開放される。その結果、
図2Bのように、流体が流入口12から本体11の内部に流入し、流出口13まで流れて外部に流出するようになる。流体の圧力Pが第1の圧力P1からさらに増加していくと、弾性体16の撓みが徐々に大きくなり、それに伴い弁体15及び閉塞部材19が軸方向の流出口13側へ移動していく。この動作は、流体の圧力Pがさらに上昇し、所定の圧力P2(後述する第2の圧力)に到達するまで継続する(P1<P≦P2)。
【0031】
図2Cは、流出口13が閉鎖されたときの状態を表している。調圧弁10の流入口12における圧力Pがさらに増加して所定の圧力P2(第2の圧力とする)に達すると、閉塞部材19の軸方向の流出口13側端部が流出口13に挿入され、流出口13を閉塞、若しくは面積が狭隘になる。この状態では、本体11の内部に流入した液体が流出口13から外部に流出しにくくなるため、圧力Pが第2の圧力P2よりも大きくなると(P2<P)流体の流れは停止若しくは制限される。
【0032】
<調圧弁10を用いたオイルダンパー>
本実施形態に係る調圧弁10の適用例として、調圧弁10を用いたオイルダンパー100について説明する。
図3は、免震建物においてオイルダンパー100が設置された状態を表す概念図である。
【0033】
図3に示される免震建物は、上部構造体1及び下部構造体3(免震建物の基礎に相当)を有し、上部構造体1と下部構造体3との縦方向(垂直方向)の間には、アイソレーター200が設置され、上部構造体1と下部構造体3(免震建物の擁壁に相当)との横方向(水平方向)の間には、オイルダンパー100が設置されている。アイソレーター200は上部構造体1を支持しつつ、地震発生時には上部構造体1を水平方向に移動させることで、地震による揺れの影響が上部構造体1に作用しにくいようにする。
図3の例では、アイソレーター200として、ゴムと鋼板を交互に積み重ねた積層ゴムタイプのアイソレーターが示されているが、この他にも、転がり支承や滑り支承等を利用したアイソレーターであっても良い。オイルダンパー100は、
図3において水平方向の減衰力を発生させることにより、地震発生時にアイソレーター200によって水平方向に移動する上部構造体1の揺れを減衰させる。なお、
図3ではオイルダンパー100が上部構造体1と下部構造体3との横方向の間に配置される例について示しているが、オイルダンパー100の配置はこの限りではない。例えば、上部構造体1の下方(2つのアイソレーター200の間)にオイルダンパー100が配置され、免震建物に対して水平方向の減衰力を作用させるようにしても良い。
【0034】
図4は、オイルダンパー100の概略構造図である。オイルダンパー100は、シリンダー110と、ピストン120と、ロッド130と、ジョイント150とを有する。
【0035】
シリンダー110は、略中空円筒状の容器であり、内部には所定の作動流体が封入されている。本実施形態においてシリンダー110の内部には作動油等の粘性流体(作動流体)が満たされている。シリンダー110の内部はピストン120によって2つの領域に仕切られている。
図4においては、ピストン120を挟んで左側の領域を第1圧力室111とし、右側の領域を第2圧力室112とする。
【0036】
ピストン120はシリンダー110の内部においてロッド130に固定された状態でシリンダー110の軸方向(
図4において横方向)に移動可能に配置されている。ピストン120には所定の条件で作動する複数の調圧弁が設けられており、シリンダー110内に満たされた作動流体は、これらの調圧弁を通過することで第1圧力室111と第2圧力室112との間を移動することができる。本実施形態のピストン120は、第1調圧弁121と第2調圧弁122と第3調圧弁123とを各々複数ずつ備えている。オイルダンパー100の作動時における各調圧弁121〜123の動作については後で説明する。
図4の例では、調圧弁121〜123が各々2個ずつ配置されており、同種の調圧弁は流入口と流出口とがそれぞれ逆向きになるように配置されている。例えば、2つの第1調圧弁121のうち一方は流入口が第1圧力室111側になるように配置されており、他方は流入口が第2圧力室112側になるように配置されている。これにより、ピストン120が左右に移動するのに伴って、作動流体は、2つの調圧弁のうちいずれか一方を通過して第1圧力室111と第2圧力室112との間を行き来することができるようになる。なお、調圧弁121〜123の数量は
図4のように2個に限られるものではなく、オイルダンパー100の使用条件に応じて適宜変更可能である。
【0037】
ロッド130は、シリンダー110を軸方向(
図4において横方向)に貫通しつつ、ピストン120と一体的に横方向に移動可能に配置されている。ロッド130の一端側(
図4では左側端)はジョイント150を介して上部構造体1に接続され、ロッド130の他端側(
図4では右側端)は自由端となっている。ジョイント150は所謂ユニバーサルジョイントであり、オイルダンパー100を上部構造体1及び下部構造体3とそれぞれ角度変更可能に接続する。
【0038】
地震が発生時に作用する横方向の振動によって上部構造体1と下部構造体3との横方向(水平方向)の間隔が広がったり狭くなったりするのに応じて、ジョイント150及びロッド130を介してピストン120がシリンダー110の内部を横方向(左右)に移動する。このとき、ピストン120に設けられた調圧弁121〜123を通過する作動油によって生じる圧力損失等により減衰力が発生し、当該横方向の揺れを減衰させることができる。
【0039】
続いて、第1調圧弁121〜第3調圧弁123についてそれぞれ説明する。オイルダンパー100では、第2調圧弁122として
図1で説明した調圧弁10が用いられる。したがって、第2調圧弁122の構造や動作は上述の調圧弁10と同様である。一方、第1調圧弁121及び第3調圧弁123としては、従来型の調圧弁50が用いられる。
【0040】
図5は、従来型の調圧弁50の概略構造図である。調圧弁50は、本体51と、流入口52と、流出口53と、弁体55と、弾性体56と、支持部材57と、を有する。各部の機能及び構成は、それぞれ調圧弁10の本体11〜支持部材17と略同様である。一方、調圧弁50には、調圧弁10の閉塞部材19に相当する部材が設けられていない。したがって、調圧弁50の動作は、
図2A〜
図2Cで説明した調圧弁10の動作とは異なる。具体的には、ある圧力において流入口52が開いて流体が流通した後、圧力が上昇しても流出口53は閉塞されず、一旦、流入口52が開かれるとそれ以降は、
図5のように流体が流れ続ける。すなわち、従来型の調圧弁50では、圧力が上昇した場合であっても
図2Cのような状態は生じない。
【0041】
本実施形態で、第1調圧弁121として使用される従来型の調圧弁50と、第3調圧弁123として使用される従来型の調圧弁50とでは、弾性体56のばね定数や支持部材57の配置が変更されており、作動条件が異なる。詳細は後述するが、第1調圧弁121は、第2調圧弁122が作動を開始する第1の圧力P1よりも低い圧力で作動する。一方、第3調圧弁123は、第2調圧弁122の流出口(流出口13)が閉塞する第2の圧力P2よりも高い圧力で作動し、リリーフ弁として機能する。
【0042】
図6は、オイルダンパー100の作動特性について説明する図である。
図6の横軸は、ピストン120の移動速度(速度V)を表している。免震建物において、オイルダンパー100が
図3及び
図4のように設置されている場合、ピストン120の移動速度は上部構造体1が横方向に振動する際の速度に比例する値である。
図6の縦軸は、ピストン120が作動流体(作動油)に与える圧力の大きさを表している。この圧力はオイルダンパー100によって発生する減衰力に比例する値である。
【0043】
平常時において、オイルダンパー100に外部からの力が作用していないときには、ピストン120がシリンダー110内の所定の位置で停止しており、該ピストン120に設けられた第1調圧弁121〜第3調圧弁123の流入口12,52はいずれも閉塞されている。したがって、シリンダー110内の作動流体は第1圧力室111と第2圧力室112と間を移動していない。
【0044】
この状態で地震等が発生し、オイルダンパー100に外部からの力(振動)が作用すると、ピストン120が横方向に移動しようとする。例えば、
図4でピストン120に対して横方向左側へ向かう力が作用した場合、ピストン120は左側へ移動しようとするため第1圧力室111内の作動流体が圧縮され、圧力が高くなる。そして、第1圧力室111内の作動流体が所定の圧力P0に達すると、第1調圧弁121の流入口52が開放され、作動流体が第1調圧弁121を通過して第2圧力室112へ移動可能となる。これにより、ピストン120は横方向の左側へ移動を開始する。
【0045】
図6のC1で示される領域は、第1調圧弁121〜第3調圧弁123のうち第1調圧弁121のみが作動している状態について表している。第1調圧弁121は、圧力P0において流入口52が開いた後は、流入口52から流出口53へ作動流体を流し続け、作動流体の流量に応じた圧力損失を発生させる。したがって、ピストン120の移動速度(速度V)が上昇すると、圧力Pも増加する。すなわち、地震等による振動が大きくなると、オイルダンパー100の変形速度(免震建物の免震層に生じる相対変形速度)が上昇するのに応じて、オイルダンパー100によって生じる減衰力も大きくなる。なお、当該C1の領域では、速度Vの増加に応じて圧力P(減衰力)がほぼ一次関数的に増加するように設定されている。これにより、ピストン120の移動速度が比較的遅い領域(すなわち地震による振動が比較的小さい領域)でも大きな減衰力を発生することが可能となり、かつ、減衰力の増加率が大きくなりすぎたり小さくなりすぎたりすることが抑制される。つまり、地震による揺れが小さな場合であっても、オイルダンパー100の減衰機能を安定して発揮することができる。
【0046】
第1調圧弁121が作動した状態でさらにピストン120の移動速度(速度V)が上昇し、所定の速度V1に達すると、第2調圧弁122(調圧弁10)の流入口12が開いて、当該流入口12から流出口13へ作動流体が流れるようになる。すなわち、第2調圧弁122の流入口12(高圧側)に速度V1に対応した圧力P1(上述した第1の圧力P1に相当)以上の力が作用することにより、
図2Bで説明したように第2調圧弁122が作動流体を流通させるようになる。
【0047】
図6のC2で示される領域は、第1調圧弁121に加えて、第2調圧弁122が作動している状態について表している。第1調圧弁121のみが作動している場合と比較して作動流体の流路面積が大きくなり、該作動流体が第1圧力室と第2圧力室との間を流れやすくなるため、速度Vの増加に応じた圧力Pの増加率はC1の領域における増加率よりも低くなる。言い換えると、圧力Pが上昇しにくくなる。仮に、C2の領域における圧力Pの増加率がC1の領域における圧力Pの増加率と同等であるとすると、ピストン120の移動速度が速度V1よりもさらに上昇した場合、圧力Pが必要以上に大きくなりすぎて実際にダンパーとしての機能を発揮することができなくなったり、オイルダンパー100自体が破壊されてしまったりするおそれがある。これに対して、C2の領域における圧力Pの増加率を低くすることにより、速度Vが高くなった場合であっても、圧力Pが過大になることを抑制することができる。つまり、地震による揺れが大きな場合であっても、オイルダンパー100は適切な大きさの減衰力を発生し続けることができる。
【0048】
さらにピストン120の移動速度が上昇し、所定の速度V2に達すると、第2調圧弁122の流出口13が閉塞する若しくは狭隘になり、作動流体が流出しにくくなる。すなわち、第2調圧弁121の流入口12に速度V2に対応した圧力P2(上述した第2の圧力P2に相当)以上の力が作用することにより、
図2Cで説明したように作動流体が第2調圧弁122を流れにくくなる。
【0049】
図6のC3で示される領域では、第2調圧弁122において作動流体の流れがほぼ遮断されることにより、第1調圧弁121のみが作動している状態について表している。この状態は、C1の状態と同様であり、ピストン120の移動速度Vが上昇するのに応じて、圧力Pも大きく増加する。すなわち、オイルダンパー100の変形速度が所定の大きさ以上になると、より大きな減衰力を発生することができるようになる。
【0050】
オイルダンパー100では、調圧弁10を用いてこのような動作範囲(
図6のC3で示される領域)を設けることにより、設計地震動を上回るような地震が発生した場合であっても、免震建物の安全を保ちやすくなる。例えば、設計地震動を上回るような大きな地震が発生した場合、免震層の相対移動量(
図3において水平向きの変形量)が急激に増大し、上部構造体1が下部構造体3(擁壁)に衝突してしまうおそれがある。これに対して、ピストン120の移動速度(速度V)が当該衝突を引き起こすほど大きくなった場合には、一時的に大きな減衰力を発生させるようにすることで、上部構造体1と下部構造体3とが衝突することを抑制することができる。
【0051】
但し、上部構造体1と下部構造体3とが衝突する直前に急激に減衰力を増大させると、上部構造体1の応答加速度が過大となり、かえって危険を生じる場合がある。そこで、本実施形態のオイルダンパー100では、上部構造体1と下部構造体3とが衝突する速度の最低値よりも低い速度V2において流出口13が閉塞する若しくは狭隘になるように第2調圧弁122を調整している。これにより、ピストン120の移動速度がV2以上になった時点で(すなわち、第2調圧弁122に作用する圧力がP2以上になると)減衰力が増大し、下部構造体3と衝突する前に上部構造体1の振動を減衰させることができる。つまり、地震による揺れがより大きくなり、オイルダンパー100の変形速度が高くなった場合であっても、適切な減衰力を発生して免震建物の破損を防ぎつつ、免震建物の応答加速度が過大になることを抑制することができる。
【0052】
そして、ピストン120の移動速度(速度V)がさらに上昇して所定の速度V3に達すると、第3調圧弁123の流入口52が開いて、作動流体が流れるようになる。上述したように、第3調圧弁123はリリーフ弁としての機能を有し、速度V3に対応する圧力P3が作用すると作動するように設定されている。したがって、
図6のC4の領域で示されるように、ピストン120の移動速度がV3よりも大きくなる領域では圧力Pの上昇が抑えられ、設定圧力以上の過度な大きさの圧力が作用しにくくなるようにしている。これにより、オイルダンパー100を安全に使用することができる。
【0053】
<比較例>
ここで、比較例として、従来のオイルダンパー300について簡単に説明する。
図7は、比較例のオイルダンパー300の概略構造図である。
図8は、比較例のオイルダンパー300の作動特性について説明する図である。
【0054】
オイルダンパー300は、シリンダー310と、ピストン320と、ロッド330と、ジョイント350とを有する。ピストン320以外の各部の構成は、オイルダンパー100と略同様であるため説明を省略する。ピストン320は、第1調圧弁321と第2調圧弁322とを各々複数ずつ備えている。比較例のオイルダンパー300では、第1調圧弁321及び第2調圧弁322として、
図5で説明した従来型の調圧弁50が用いられており、
図1で説明した本実施形態の調圧弁10は用いられていない。すなわち、比較例のオイルダンパー300の第1調圧弁321及び第2調圧弁322は、本実施形態のオイルダンパー100の第1調圧弁121及び第3調圧弁123にそれぞれ相当する。そして、比較例のオイルダンパー300には本実施形態のオイルダンパー100における第2調圧弁122(調圧弁10)に相当する調圧弁が備えられていない。
【0055】
比較例のオイルダンパー300を
図3に示されるような免震建物に設置した場合、所定の圧力P0において流入口52が開き、第1調圧弁321が作動してピストン320が移動を開始する。そして、
図8のC1cの領域では、ピストン320の移動速度(速度V)の上昇に応じて圧力Pが上昇する。当該C1cの領域におけるオイルダンパー300の動作は、
図6のC1で示される本実施形態のオイルダンパー100の動作と同様である。
【0056】
この状態から、ピストン320の移動速度が上昇して所定の速度V1cに達すると、第2調圧弁122の流入口52が開いて、作動流体が流れるようになる。第2調圧弁122はリリーフ弁として機能するため、
図8のC2cの領域では、速度Vが上昇しても圧力Pは一定に保たれやすくなる。したがって、大きな揺れの地震が発生して、ピストン320の移動速度が速くなった場合であっても、
図8のP1c以上の大きさの圧力が確保されるため、オイルダンパー300はある程度の大きさの減衰力を発生することができる。
【0057】
一方、オイルダンパー300では、本実施形態の調圧弁10に相当する調圧弁が設けられていないので、
図6のC3のような動作を行うことができない。すなわち、設計地震動を上回るような地震が発生した場合に減衰力を上昇させることができない。その結果、免震層の相対移動量の増大を十分に抑えることができず、上部構造体1が下部構造体3(擁壁)に衝突してしまう可能性が高くなる。つまり、大きな地震が発生したときに、当該地震の揺れの大きさに対して適切な大きさの減衰力を発揮することができない場合がある。
【0058】
これに対して、本実施形態のオイルダンパー100であれば、高圧時に流体の流出口が閉塞する若しくは狭隘になる調圧弁10を用いることにより、地震の揺れの大きさに応じて適切な減衰力を発生させ、また、設計地震動を上回るような地震が発生した場合には、より大きな減衰力を発生させることができる。また、調圧弁10を備える以外は従来のオイルダンパー300とほぼ同様の構成であり、複雑な制御機構等も不要であるため、構造がシンプルで製造コストも低く抑えることができる。
【0059】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。