(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6657712
(24)【登録日】2020年2月10日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】炭素繊維及び炭素繊維シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/728 20120101AFI20200220BHJP
D04H 3/002 20120101ALI20200220BHJP
D04H 3/007 20120101ALI20200220BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
D04H1/728
D04H3/002
D04H3/007
H01M4/88 C
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-190817(P2015-190817)
(22)【出願日】2015年9月29日
(65)【公開番号】特開2017-66539(P2017-66539A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】草野瑛司
(72)【発明者】
【氏名】川真田友紀
(72)【発明者】
【氏名】矢口忠平
(72)【発明者】
【氏名】藤野謙一
【審査官】
相田 元
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−132832(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/183668(WO,A1)
【文献】
特開2004−111341(JP,A)
【文献】
特開2012−067432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
D01F 1/00− 6/96
D01F 9/00− 9/04
D01F 9/08− 9/32
H01M 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする不融化工程を含まない炭素繊維または炭素繊維シートの製造方法。
(a)炭素繊維または炭素繊維シートの原料となる水溶性高分子化合物と有機スルホン酸を、水溶性高分子化合物に対する有機スルホン酸を、0.1wt%〜10.0wt%の比率で、溶解した水溶液を調整する工程
(b)上記水溶液液を紡糸し、繊維または繊維シートを得る工程
(c)上記繊維または繊維シートを不活性ガス雰囲気中、500℃〜2600℃の温度にて加熱処理する工程
【請求項2】
更に下記の(d)の工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維または炭素繊維シートの製造方法。
(d)前記(c)工程で得られた繊維または繊維シートを不活性ガス雰囲気中、2200℃〜3200℃での再加熱処理する工程
【請求項3】
前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドンである事を特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の炭素繊維または炭素繊維シートの製造方法。
【請求項4】
前記有機スルホン酸が、メタンスルホン酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素繊維または炭素繊維シートの製造方法。
【請求項5】
前記繊維または繊維シートが、エレクトロスピニング法により得られることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の炭素繊維または炭素繊維シートの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法で製造された炭素繊維を用いることを特徴とする織物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で製造された炭素繊維または炭素繊維シートを用いることを特徴とする複合材料。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で製造された炭素繊維または炭素繊維シートを用いることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒に有機スルホン酸を用いた炭素繊維及び炭素繊維シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は比強度、比弾性率に優れているため、スポーツやレジャー用品から宇宙航空用途まで幅広く利用されつつある。このような構造材として炭素繊維を用いる場合、炭素繊維のトウを製織して得られた織物に熱硬化性樹脂を含浸して得られるプリプレグを成型、硬化させた炭素繊維強化プラスチックとして用いる方法が一般的である。
【0003】
これまでポリビニルアルコール(PVA)などの水溶性高分子化合物を用いた炭素繊維が種々検討されている。PVAは230℃付近に融点を持ち、炭化に必要な温度条件下では樹脂の一部または全部が溶融し、その形態を保つことが困難である事から、PVAを主体とする炭素繊維は大きく、1)PVAを紡糸し繊維を得る工程、2)200℃程度の条件下で前記繊維を不融化する工程、3)500℃〜2600℃程度の条件下で炭化する工程を経ることによって製造されている。また、更に高弾性率の炭素繊維を製造するために、2200℃〜3200℃での再加熱処理を含む場合もある。
【0004】
すなわち、従来におけるPVA系炭素繊維の製造においては前記の不融化処理が必須である事を前提として種々検討されており、特許文献1および2では炭素化過程での熱安定性を向上させて、炭化収率を向上させる目的でPVA系樹脂にヨウ素処理等のハロゲン処理を施し不融化処理を行う方法が提案されている。また特許文献3にはハロゲン処理に加えてアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一種の金属塩を共存させることで、処理時間を短縮できる技術が提案されている。さらに特許文献4にはポリビニルアルコールを溶解した水溶液中に架橋剤を添加する事で、炭化収率を向上する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−128407
【特許文献2】特開2004−339627
【特許文献3】特開2009−249238
【特許文献4】特開2012−067432
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この不融化処理は、炭素繊維の製造工程を煩雑にし、エネルギー消費量が大きい為製造コストを増大させる一因にもなっている。
【0007】
そこで、本発明は、炭素繊維の原料となる有機繊維を含有する繊維または繊維シートを加熱処理して炭素繊維または炭素繊維シートを得る製造方法において、不融化工程を省略しても炭素繊維の溶融・融着を抑制できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]〜[8]の発明を提供する。
[1] 下記の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする不融化工程を含まない炭素繊維または炭素繊維シートの製造方法。
(a)炭素繊維または炭素繊維シートの原料となる水溶性高分子化合物と有機スルホン酸を溶解した水溶液を調製する工程
(b)上記水溶液を紡糸し、繊維または繊維シートを得る工程
(c)上記繊維または繊維シートを不活性ガス雰囲気中、500℃〜2600℃の温度にて加熱処理する工程
[2] 更に下記の(d)の工程を含むことを特徴とする[1]に記載の炭素繊維または炭素繊維シートの製造方法。
(d)前記(c)工程で得られた繊維または繊維シートを不活性ガス雰囲気中、2200℃〜3200℃での再加熱処理する工程
[3] 前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドンである事を特徴とする[1]〜[2]のいずれかに記載の炭素繊維または炭素繊維シートの製造方法。
[4] 前記有機スルホン酸が、メタンスルホン酸であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の炭素繊維または炭素繊維シートの製造方法。
[5] 前記水溶性高分子化合物に対する有機スルホン酸の比率が0.1wt%〜10.0wt%であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の炭素繊維または炭素繊維シートの製造方法。
[6] 前記繊維または繊維シートが、エレクトロスピニング法により得られることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の炭素繊維または炭素繊維シートの製造方法。
[7] [1]〜[6]のいずれか一項に記載の方法で製造された炭素繊維を用いることを特徴とする織物。
[8] [1]〜[7]のいずれか一項に記載の方法で製造された炭素繊維または炭素繊維シートを用いることを特徴とする複合材料。
[9] [1]〜[7]のいずれか一項に記載の方法で製造された炭素繊維または炭素繊維シートを用いることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭素繊維の原料となる有機繊維を含有する繊維または繊維シートを加熱処理して得られる炭素繊維または炭素繊維シートの製造方法において、不融化工程を省略しても炭素繊維の溶融・融着を抑制できる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例1の炭素繊維シート表面の電子顕微鏡画像である。
【
図2】本発明の比較例1の炭素繊維シート表面の電子顕微鏡画像である。
【
図3】本発明の比較例3の炭素繊維シート表面の電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の炭素繊維または炭素繊維シートの製造方法は、水溶性高分子化合物と有機スルホン酸を含有する溶液を原料として得られる繊維または繊維シートを、不活性ガス雰囲気中、500℃〜2600℃の温度にて加熱処理することを特徴とする。特に、200℃程度の条件下で繊維または繊維シートを不融化する工程を行わないことが本発明の大きな特徴である。なお、得られた炭素繊維または炭素繊維シートを、2200℃〜3200℃での再加熱処理することも可能である。
【0012】
(水溶性高分子)
本発明における水溶性高分子化合物は、繊維化が可能な材料であれば特に限定されず、例えばポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、コラーゲン、澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上混合して用いても良く、水溶性を阻害しない範囲で変性されていてもよい。
【0013】
これら材料の中でも、水溶液からの紡糸が比較的容易なポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドンが好ましく、ポリビニルアルコールがさらに好適である。
【0014】
また繊維形成を阻害しない範囲で前記水溶性高分子化合物を溶解した水溶液中に有機・無機材料を混合しても良く、その形態については粒状、繊維状などの固形材料や水溶液中で混和する材料などを適宜使用することが出来る。例えば無機化合物を分散した水溶液を原料として繊維化する事で、加熱処理後の炭素繊維中に無機化合物を担持させ消臭や抗菌などの機能性を付与する事が可能であり、また水溶液中に界面活性剤や導電助剤を添加する事で紡糸工程における繊維形成性を向上させることができる。
【0015】
(有機スルホン酸)
本発明において、前記水溶性高分子化合物の水溶液に混合する有機系スルホン酸としては、炭素骨格にスルホ基(1つであっても複数であってもよい)が結合した有機化合物であればいずれであってもよく、脂肪族系、芳香族系の種々のスルホ基を有する化合物が利用可能であるが、取扱いの観点から低分子であることが好ましい。
【0016】
有機スルホン酸の具体例として、例えばR−SO3H(式中、Rは炭素原子数1〜20の直鎖/分岐鎖アルキル基、炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、または、炭素原子数6〜20のアリ−ル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリ−ル基はそれぞれアルキル基、水酸基、ハロゲン基で置換されていても良い。)で表される化合物が挙げられる。例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、1−ヘキサンスルホン酸、ビニルスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、カンファ―スルホン酸などが挙げられる。 このうちメタンスルホン酸を選択することが好ましい。また、有機系スルホン酸は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0017】
本発明において、有機スルホン酸を混合することで、不融化処理が不要となる理由は明らかではないが、水溶性高分子化合物と有機スルホン酸を混合した溶液から紡糸した繊維シートを加熱処理することにより、有機スルホン酸が脱水触媒として作用し、分子内及び分子間における水酸基等の脱水反応を促進し、化合物の耐熱性向上及び脱水反応以外の熱分解反応の抑制に寄与すると考えられる。このため、通常の熱分解に伴う炭化水素系のガスの発生および水溶性高分子化合物中の炭素成分の減少が抑制されることが起因すると推測される。
【0018】
本発明の炭素繊維または炭素繊維シートの製造方法において、前記有機系スルホン酸の添加量は非水溶性高分子化合物100重量部に対して0.1wt%〜10.0wt%であることが好ましく、0.1wt%〜5.0wt%がより好ましい。
【0019】
(繊維および繊維シートの製造:紡糸工程)
本発明における繊維とは1本のフィラメントからなる単糸および複数本の単糸を撚って得られる撚糸を含む。また撚糸の内には短繊維をより合わせて成るスパン糸および、長繊維を撚り合わせて成るフィラメント糸を含む。本発明における繊維を製造する方法は特に限定されず、溶液を原料とする公知の紡糸方法を適宜選択する事ができ、具体的には紡糸金口より溶液を噴出させ熱風にて溶媒を除去する乾式紡糸法および紡糸金口より凝固液中に溶液を導き繊維化する湿式紡糸法を用いる事ができる。得られた繊維にカッティング等の処理を施し任意の長さに切断して用いてもよい。
【0020】
本発明における繊維シートとは多数の繊維を薄く広い板状に加工したものを言い、織物や編み物、不織布を含む。不織布の製造方法は特に限定されないが、適当な長さに切断された前述の繊維を原料とし乾式法または湿式法などを用いて繊維シートを得る方法や、エレクトロスピニング法などを用いて溶液から直接繊維シートを得る方法が例示できる。さらに不織布を得た後に繊維同士を結合させる目的でレジンボンド、サーマルボンド、スパンレース、ニードルパンチ等による処理を加えてもよい。
【0021】
特に、サブミクロンオーダーの繊維径を有するエレクトロスピニング法においては、繊維シートを構成する繊維の直径が極端に細いため、熱処理による繊維の断裂や焼失が起こりやすいが、本発明を適用する事で繊維を構成する炭素の残存量を多く保つことができ、結果として熱処理前後で繊維およびシートの形状が保持された炭素繊維シートを製造する事ができる。
【0022】
エレクトロスピニング法は、周知の手段によって行うことができ、具体的には、紡糸溶液を充填したノズルと基板(コレクターともいう)の間に電圧を印加した状態で、ノズルから紡糸溶液を吐出させて、基板上に繊維を回収する。
【0023】
ノズルから紡糸溶液を吐出させる基板としては金属板などの電極コレクターをそのまま用いてもよいが、ノズルとコレクターとの間に紙等の非導電性の材料を置いて基板とすることもできる。このような基板としては、特に限定は無く、その形状にも特に限定は無いが、柔軟性を持つシート状であることが好ましい。柔軟性を持つことにより、基板とこの基板上に形成された繊維構造体から成る繊維複合体で、対象を被覆した場合に、この繊維複合体が対象の凹凸に沿って対象に密着することが可能になる。本発明においては、このような基板として、紙、不織布、プラスチックフィルムなどが好適に用いられる。
【0024】
エレクトロスピニング法を行う条件は、特に限定されず、紡糸溶液の種類や得られるナノファイバーの用途等に応じて適宜調整すればよい。本発明の方法における一般的な条件としては、例えば、印加電圧は5〜30kV、吐出速度は0.01〜1.00mL/分、ノズルと基板の間の垂直距離は100〜200mmとすることができ、ノズルは15〜25Gの径のものを使用することができる。紡糸環境は、特段厳密に制御を行わなくてもよいが、相対湿度10〜50%、温度を10〜25℃とすることが好ましい。
【0025】
この方法により、直径5nm〜50μmの繊維を得ることができる。また、紡糸条件の設定・調整により、平均長が200〜300nmのナノ繊維を得ることができる。
【0026】
(炭化処理)
本発明においては、水溶性高分子化合物と有機スルホン酸を有機溶剤に溶解した混合液から紡糸した繊維または繊維シートを加熱処理(炭素化)する。炭素化は不活性ガス雰囲気中で行う。不活性ガスとしてはアルゴン、窒素等が例示される。
【0027】
本発明において、水溶性高分子化合物と有機系スルホン酸の混合水溶液から紡糸した繊維または繊維シートを不活性ガス雰囲気中、500℃〜2600℃の温度にて加熱処理することが好ましいく、より好ましくは500℃〜1000℃である。この加熱処理条件とすることにより、繊維形態が維持された炭素繊維織物を得ることができる。加熱処理温度が500℃未満であると炭素繊維の炭素含有量が80%以下で炭素化が不十分であり、一方2600℃を超えても炭化状態はもはや殆ど変化しない。また、炭素化処理は連続的に行われても、バッチ状態で行われても良い。
【0028】
また、水溶性高分子化合物と有機スルホン酸を有機溶剤に溶解した混合液から紡糸した繊維または繊維シートを不活性ガス雰囲気中、500℃〜2600℃の温度にて加熱処理後に、さらに不活性ガス雰囲気中、2200℃〜3200℃で再加熱処理(グラファイト化工程)することが可能である。再加熱処理温度が2200℃未満であるとグラファイト化(結晶化)の進行が殆ど起こらず、一方3200℃を超えても、もはやグラファイト化の程度は殆ど変わらなくなる。
【0029】
以下に具体的な炭化方法を記載する。
まず、前記の紡糸行程を経て形成された繊維または繊維シートをその形態を維持した状態で電気炉を用いて窒素又はアルゴン雰囲気下、500℃〜2600℃で加熱処理する。この際、熱処理時間は熱処理温度にもよるが、好ましくは0.5〜1時間である。また、室温から所定熱処理温度までの昇温時間は3〜8℃/分が好ましい。加熱処理工程において管状炉や電気炉等の不活性ガス雰囲気にした高温炉を使用できるが、この場合、不活性ガスの排気管に活性炭素のような吸着材を充填し、スルホン酸から発生する少量の硫黄系のガスの脱硫処理を行うことが好ましい。
【0030】
再加熱処理工程(グラファイト化工程)として、好ましくは上記工程で熱処理した繊維または繊維シートを、一旦室温まで戻した後、不活性ガス雰囲気中、2200℃〜3200℃の温度で再加熱処理する。これにより、最初の形態が維持された状態でグラファイト化した炭素繊維または炭素繊維からなるシートを得ることができる。本発明において、再加熱処理の際に、繊維の軸方向に張力を加えてに延伸させることによりグラファイト結晶を効率よく配向させることができるため、炭素繊維の強度が向上する。
【実施例】
【0031】
次に本発明を実施例及び比較例より更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定され
るものではない。
【0032】
<実施例1>
(紡糸工程)
容量200mlのガラス製ビーカーに蒸留水90gを採取し、市販のPVA(クラレ製、PVA117)10gを加え、80℃に加温しながらスターラーを用いて24時間撹拌しPVAが完全に溶解したPVA溶液100gを作製した。該PVA溶液を常温になるまで静置した後、市販のメタンスルホン酸(和光純薬製)0.1gを加え、スターラーを用いて常温で1時間撹拌する事で紡糸用溶液を作製した。
【0033】
該紡糸用溶液を、先端に18Gノンベベルシリンジ針を装着した10mlシリンジを用いて5ml採取し、エレクトロスピニング装置(カトーテック製、NEUナノファイバーエレクトロスピニングユニット)を用いて、ノズル―コレクター距離10cm、印加電圧10kV、溶液送り速度15μl/min、ドラム回転速度10rpm条件にて、2時間紡糸することで、ドラム上に繊維シートを作製した。紡糸時における装置内の温度は25℃、湿度は40%RHであった。
【0034】
(炭化工程)
上記紡糸工程で得られた繊維シートをドラムから剥離し縦11cm横9cmにカットした後、該繊維シートの上下を縦11cm横9cm厚さ0.1cmの炭素製プレート2枚を用いて挟み卓上真空ガス置換炉(デンケン・ハイデンタル製、KDF−75)に入れ炉内の圧力を500Pa以下まで減圧した後、窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下で800℃まで5℃/minで昇温した。800℃で1時間保持した後、炉内で24時間自然冷却させ、炭素繊維シートを得た。該炭素繊維シートを電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、Minicope TM−1000)で観察したところ、熱処理前の繊維形状を維持していた。電子顕微鏡画像を
図1に示す。
【0035】
<比較例1>
メタンスルホン酸を加えない以外は、実施例1と同様の方法にて炭素繊維シートを作製した。炭化工程後の炭素繊維シートは炭化工程前の繊維形状を保持しておらず、繊維の一部が溶融・融着し膜化していた。電子顕微鏡画像を
図2に示す。
【0036】
<比較例2>
メタンスルホン酸に替えて、PVA溶液に硫酸0.5gを加えた以外は実施例1と同様の方法にて紡糸用溶液を作製した。該紡糸用溶液を用いて実施例1と同様の方法で紡糸を試みたが、シリンジから繊維が吐出されず、繊維シートを得る事ができなかった。
【0037】
<比較例3>
メタンスルホン酸に替えて、PVA溶液に硫酸0.1gを加えた以外は実施例1と同様の方法にて炭素繊維シートを作製した。炭化工程後の炭素繊維シートは炭化工程前の繊維形状を保持しておらず、繊維の一部が溶融・融着していた。電子顕微鏡画像を
図3に示す。