(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されるように、チャックハンド等を用いてワークを搬送する場合には、ワークの把持に長い時間を要するため、多数のワークを次々と搬送するには効率が悪い。また、搬送するワークの寸法が変化した場合に、安定にワークを搬送するためには、ワークの寸法に合わせて、チャックハンドの型替えや段替えを行う必要があるのに加え、搬送工程の前後におけるワークの把持および放出の際に用いる制御プログラムに変更を加える必要が生じる場合がある。これらは、ワークの搬送効率を低下させる大きな要因となる。特に、ワークがリング状等の貫通孔を有する形状である場合には、その形状を利用して、効率的な搬送方法を考案する余地があると考えられる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、貫通孔を有する対象物を、対象物の形状や寸法によらず、効率的に、安定して搬送することができる搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明にかかる搬送装置は、基部と、前記基部に基端を固定された串状の保持部材と、前記基部の姿勢および配置の変更を駆動する駆動部と、前記保持部材の軸に沿って進退可能に設けられ、前進時に、前記保持部材に掛けられた貫通孔を有する対象物に、前記保持部材の基端側から接触し、前記対象物に前記保持部材の基端側から先端側に向かう力を加えることができる押し出し部材と、を有するものである。
【0007】
ここで、前記搬送装置は、脱落防止位置と、解除位置との間を移動可能な脱落防止部材をさらに有し、前記脱落防止部材は、前記脱落防止位置においては、前記保持部材に掛けられた前記対象物の、前記保持部材の先端側に向いた部位と接触することで、前記対象物が前記保持部材の先端から脱落するのを妨げ、前記解除位置においては、前記保持部材に対する前記対象物の掛け外しを妨げない状態となるとよい。
【0008】
この場合に、前記押し出し部材は、前記対象物に接触する部位に傾斜面を有し、前記傾斜面は、前記保持部材の軸に交差する方向に沿って、前記脱落防止位置において前記脱落防止部材が配置された方向に近づくほど、前記保持部材の先端側に向かう傾斜を有するとよい。
【0009】
前記基部の前記保持部材が固定されている面には、遮熱材が設けられているとよい。
【発明の効果】
【0010】
上記発明にかかる搬送装置においては、貫通孔を有する対象物を保持部材に掛け、保持部材が固定された基部の姿勢および配置を駆動部によって変更することで、対象物を効率的に搬送することができる。貫通孔を利用して対象物を保持部材で保持することで、対象物の外径や貫通孔の内径等、対象物の形状が変化しても、保持部材を貫通孔に挿通できるかぎり、保持部材をはじめとする搬送装置の各部の形状や各部に対する制御方法を変更することなく、安定して対象物の搬送を行うことができる。また、複数の対象物を同時に搬送する際、押し出し部材によって、対象物に保持部材の基端側から先端側に向かう力を加え、対象物同士を密着させておけば、対象物同士の衝突によって対象物に損傷が発生する事態を抑制し、安定に搬送を行うことができる。さらに、対象物を高温状態で搬送する場合に、対象物同士を密着させておくことで、対象物の放冷を抑えることができる。押し出し部材は、対象物を搬送した後に、保持部材から対象物を外すのにも利用することができる。
【0011】
ここで、搬送装置が、脱落防止位置と、解除位置との間を移動可能な脱落防止部材をさらに有し、脱落防止部材が、脱落防止位置において、保持部材に掛けられた対象物の、保持部材の先端側に向いた部位と接触することで、対象物が保持部材の先端から脱落するのを妨げ、解除位置において、保持部材に対する対象物の掛け外しを妨げない状態となる場合には、脱落防止部材を解除位置にした状態で対象物を保持部材に掛けた後で、脱落防止部材を脱落防止位置に移動させ、さらに押し出し部材で対象物を脱落防止部材に向かって押し出してから搬送を行うことで、対象物を、脱落保持部材と押し出し部材の間で挟み込んだ状態で保持することができる。その結果、高速で搬送を行う場合や、保持部材の先端側が基端側より下を向くような姿勢を搬送中にとる場合にも、対象物を保持部材から脱落させることなく安定に搬送を行うことができる。これにより、自由度の高い搬送が可能となる。
【0012】
この場合に、押し出し部材が、対象物に接触する部位に傾斜面を有し、傾斜面が、保持部材の軸に交差する方向に沿って、脱落防止位置において脱落防止部材が配置された方向に近づくほど、保持部材の先端側に向かう傾斜を有する構成によれば、保持部材に対象物を掛けて、脱落防止部材を脱落防止位置に配置し、押し出し部材によって対象物を保持部材の先端側に押し出した際に、対象物の脱落防止部材に近い部位が先に脱落防止部材に押し付けられた状態で、脱落防止部材から遠い部位が、保持部材に沿って同じ位置まで達する。これにより、脱落防止部材から遠い部位が先に保持部材の先端側に押し出されて、対象物の姿勢が大きく傾斜し、対象物の保持状態が不安定化する事態が抑制される。
【0013】
基部の保持部材が固定されている面に、遮熱材が設けられている場合には、対象物が高温である場合にも、対象物から駆動部に輻射熱が伝達されるのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態にかかる搬送装置について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
[熱処理システムの概要]
まず、
図4を参照しながら、本発明の一実施形態にかかる搬送装置1を含んで構成される熱処理システム100について簡単に説明する。
【0017】
熱処理システム100においては、熱間鍛造を受けた高温の状態のワーク(対象物)Wを搬送し、焼ならし等の熱処理に供する。対象とするワークWは、貫通孔W1を有していれば、どのような形状を有していてもかまわないが、ここでは円筒状(リング状)のワークWを扱う。
【0018】
図4に示すように、本熱処理システム100は、ワークWの移動経路に沿って上流から、供給装置30、受け渡し装置40、本発明の一実施形態にかかる搬送装置1、熱処理炉50、搬出装置60、集積部70を備えている。供給装置30は、図示しない鍛造装置にて熱間鍛造を受けたワークWを、矢印a1で示すように、1つずつ順に供給する。受け渡し装置40においては、供給装置30から供給された5個のワークWを、矢印a2で示すように、1つずつ、受け渡し用串部材41に掛ける。そして、受け渡し用串部材41は、矢印a3で示す位置の移動を経たうえで、第一受け渡し工程p1において、5個を1単位として、ワークWを搬送装置1に受け渡す。なお、受け渡し装置40において、受け渡し用串部材41が、供給装置30からワークWを受け取った位置から移動したうえで、搬送装置1にワークWを受け渡すように構成しているのは、搬送装置1と受け渡し装置40の間の空間的干渉を避けるためである。
【0019】
熱処理炉50は、炉の中心軸に対して放射状に、略水平に突出した複数の炉内串部材51を有しており、中心軸の周りに炉内串部材51を回転させながら(回転r)、炉内串部材51に掛けたワークWに対して、焼ならし等の熱処理を実施する。搬送装置1は、熱処理炉50に設けられた搬入口52からワークWを5個1組で搬入し、第二受け渡し工程p2において、炉内串部材51に移動させる。炉内串部材51に掛けられたワークWは、搬出口53に相当する位置まで回転する間に熱処理を受け、第三受け渡し工程p3において、5個1組のまま、搬出装置60に移される。搬出装置60は、受け取ったワークWを、熱処理炉50の搬出口53から搬出する。そして、搬出装置60は、第四受け渡し工程p4において、搬出したワークWを、軸を略鉛直にして集積部70に集積する。集積部70に集積されたワークWは、ワークWを囲む円周上に立設された3個の集積用チャック71によって外周から押さえて保持される。ワークWは、その後、冷却等の処理を受ける。
【0020】
[搬送装置の構成]
次に、本発明の一実施形態にかかる搬送装置1の構成について、主に
図1を参照しながら説明する。
【0021】
本搬送装置1は、各部材を支持する基材として、基部11を有する。基部11は、棒材を略箱状に形成した枠部11bと、枠部11bの先端に設けた板状の支持板11aを有する。基部11は、駆動部としてのロボットアーム12に取り付けられており、ロボットアーム12によって、基部11の姿勢および配置を自由に変更することができる。支持板11aの表面は、ワークWからの輻射熱がロボットアーム12に伝達され、影響を与えるのを防止する観点から、金属箔よりなる遮熱材によって被覆されている。
【0022】
基部11の支持板11aには、中央部に、串状の保持部材14が設けられている。保持部材14は、軸を支持板11aの面に垂直にして、基端を支持板11aに固定されている。保持部材14の長さは、ワークWの厚さ(貫通孔W1の軸に沿った方向の寸法)の5倍以上とされ、少なくとも5個のワークWを掛けることができる。保持部材14の外径は、少なくともワークWの貫通孔W1の内径よりも小さく設定され、さらに、受け渡し装置40の受け渡し用串部材41および炉内串部材51と、それぞれ同時にワークWの貫通孔W1に挿入できる太さに設定されることが好ましい。保持部材14は、少なくとも、搬送対象である熱間鍛造後のワークWの温度において、変形や変質を実質的に受けない程度の耐熱性を有する材料よりなることが好ましい。
【0023】
以下、本明細書において、保持部材14の軸に沿って基端側から先端側に向かう方向を+x方向とする。そして、x軸方向に直交し、ロボットアーム12が設けられた側に向かう方向を+z方向とする。x軸とy軸に直交する方向をy軸とする。
【0024】
本搬送装置1においてはさらに、保持部材14と軸を平行しにして、支柱16が設けられている。支柱16は、保持部材14から+z方向に離れた位置に設けられ、保持部材14の先端近傍まで延びている。保持部材14と支柱16の間の距離は、少なくとも支柱16を保持部材14に対して上方に配置した状態で、保持部材14に掛けたワークWが支柱16に接触しないように、つまりワークWの貫通孔W1の端縁から外縁までの距離よりも長くなるように定められている。支柱16は、基部11に固定された回転式エアシリンダ18により、軸回転可能である。
【0025】
支柱16の先端には、細長い板片として形成された脱落防止部材17が、長軸方向の一端において固定されている。回転式エアシリンダ18によって支柱16を軸回転させることで、脱落防止部材17は、
図1(a)中に実線で示した脱落防止位置と、点線で示した解除位置との間を移動可能となっている。脱落防止位置においては、脱落防止部材17は、長軸を−z方向に向け、先端を保持部材14に面した位置に配置する。解除位置においては、脱落防止部材17は、脱落防止位置から90°回動し、長軸をy方向に向けた状態となる。
【0026】
保持部材14をワークWの貫通孔W1に挿通し、ワークWを保持部材14に掛けようとする場合に、あるいは保持部材14に掛けたワークWを保持部材14から外そうとする場合に、脱落防止部材17を解除位置に配置しておけば、脱落防止部材17がワークWに接触してワークWの掛け外しを妨げることはない。一方、保持部材14にワークWを掛けた状態で脱落防止部材17を脱落防止位置に配置すれば、保持部材14の先端と脱落防止部材17の間に、ワークWが通過可能な空隙が残らない状態となる。これにより、ワークWが保持部材14の先端から脱落しようとしても、ワークWの+x側に向いた面に脱落防止部材17が接触することで、ワークWの脱落が阻止される。脱落防止部材17の保持部材14の基端側に向いた面には、ワークWとの間の摩擦抵抗を高めるために、滑り止め加工が施されている。
【0027】
さらに、保持部材14の基端側には、板状のプッシャ(押し出し部材)15が設けられている。プッシャ15は、基部11に固定されたシリンダ13に駆動されて、保持部材14とは独立に、保持部材14の軸に沿って、±x方向に進退運動可能である。プッシャ15は、保持部材14よりも長いストロークを有し、保持部材14の先端よりも前方まで前進可能である。プッシャ15は、+x方向に向いた面に、傾斜面15aを有している。傾斜面15aは、z軸方向に沿った直線的な傾斜を有しており、支柱16および脱落防止位置にある脱落防止部材17に近づく方向である+z方向に向かって、保持部材14の先端側の+x方向へとせり出している。
【0028】
保持部材14にワークWを掛けた状態で、プッシャ15を+x方向に前進させると、ワークWの−x側の面にプッシャ15の傾斜面15aを接触させることができる。そして、ワークWに対して、+x方向に向かう力を加えることができる。さらに、脱落防止部材17を脱落防止位置に配置した状態で、プッシャ15を前進させると、脱落防止部材17に向かってワークWを押し付け、プッシャ15と脱落防止部材17との間にワークWを挟み込んで保持することができる。
【0029】
[搬送装置におけるワークの受け取り]
ここで、受け渡し装置40の受け渡し用串部材41から、搬送装置1がワークWを受け取る工程である第一受け渡し工程p1について、主に
図2を参照しながら説明する。
図4を参照しながら説明したように、第一受け渡し工程p1においては、5個のワークWを掛けた受け渡し装置40の受け渡し用串部材41から、その5個のワークWが一度に搬送装置1の保持部材14に移動される。
【0030】
第一受け渡し工程p1では、最初に、受け渡し装置40の受け渡し用串部材41に5個のワークWが掛けられた状態から、
図2(a)のように、受け渡し用串部材41の先端面に、搬送装置1の保持部材14の先端面が突き合わせられる。この時、保持部材14は、受け渡し用串部材41よりも低い位置に配置される。保持部材14の姿勢および配置の制御は、ロボットアーム12によって行われる。この間、搬送装置1においては、支柱16が保持部材14およびワーク41よりも上方に配置されるように、基部11の姿勢および配置が選択されている。また、脱落防止部材17は、解除位置に配置され、ワークWと接触しない状態となっている。
【0031】
この状態で、
図2(a)中に示すように、受け渡し装置40において受け渡し用串部材41の基端側に設けられた受け渡し用プッシャ42によって、受け渡し用串部材41の最も基端側に位置するワークWに対して、受け渡し用串部材41の先端側、つまり保持部材14の基端側に向かう力f1を、受け渡し用串部材41および保持部材14の軸に沿って印加する。力f1は、全てのワークWに伝達される。これにより、5個のワークWは、保持部材14の基端側に運動する。全てのワークWの貫通孔W1に保持部材14が貫通した状態において、ロボットアーム12によって、保持部材14を基部11ごと基端方向(−x方向)に移動させる。これにより、
図2(b)のように5個のワークWが搬送装置1の保持部材14に掛かった状態となる。この状態においては、ワークWの間に、不可避的に間隙が生じている可能性がある。
【0032】
次に、
図2(c)に示すように、支柱16を回転させ、脱落防止部材17を脱落防止位置に配置する。そして、プッシャ15を保持部材14の先端側に向かって前進させる。これにより、保持部材14の先端側に向かう力f2が、保持部材14の最も基端側に配置されたワークWに印加され、各ワークWに伝達される。その結果、ワークWの間に生じていた空隙が解消され、各ワークWが密着された状態で、ワークWの列が脱落防止部材17に押し付けられる。これにより、ワークWを搬送装置1で保持するための準備が完了する。
【0033】
そして、
図2(c)のようにワークWを脱落防止部材17とプッシャ15の間に挟み込んだ状態のままで、ロボットアーム12によって、ワークWを熱処理炉50の搬入口52の位置まで移動させる。搬送中、プッシャ15は、保持部材14の先端側に向かう力f2を印加した状態のままで維持される。
【0034】
[搬送装置からのワークの受け渡し]
次に、搬送装置1から熱処理炉50の炉内串部材51へとワークWを受け渡す工程である第三受け渡し工程p3について、主に
図3を参照しながら説明する。
【0035】
図2(c)に示す状態でワークWを保持した搬送装置1は、搬入口52から熱処理炉50の内部に進入する。この際、炉内串部材51は、熱処理炉50の中心軸から搬入口52に向かう方向に軸を向けて略水平に配置されている。そして、保持部材14の軸は、この炉内串部材51の軸と平行に配置される。この状態で、ワークWを保持した搬送装置1の位置をロボットアーム12によって制御することで、
図3(a)に示すように、炉内串部材51の先端面に、搬送装置1の保持部材14の先端面が突き合わせられる。この時、保持部材14は、炉内串部材51よりも高い位置に配置される。
【0036】
次に、プッシャ15からワークWに印加していた力f2を一旦解除するとともに、
図3(b)に示すように、脱落防止部材17を解除位置に移動させる。そして、プッシャ15を保持部材14の先端側に前進させ、保持部材14の最も基端側に位置するワークWに対して、保持部材14の先端側、つまり炉内串部材51の基端側に向かう力f3を、保持部材14および炉内串部材51の軸に沿って印加する。力f3は全てのワークWに伝達され、5個のワークWが、保持部材14を脱して、炉内串部材51に移動する。これにより、5個のワークWが炉内串部材51に掛かった状態となる。
【0037】
この状態で、
図3(c)に示すように、さらにプッシャ15を前進させて、炉内串部材51に掛けられたワークWに炉内串部材51の基端側に向かう力f4を印加する。力f4は各ワークWに伝達され、各ワークWが、炉内串部材51の基端側に向かって移動する。炉内串部材51の基端部には、炉の内壁面55との間にT字型の当接部材54が設けられており、プッシャ15が保持部材14の軸よりも長いストロークを有することにより、各ワークWは、プッシャ15によって、当接部材54に押し付けられることになる。搬送装置1は、搬入口52から脱出し、受け渡し装置40からの次のワークWの受け取りに備える。
【0038】
[搬送装置による搬送の効率および安定性等の効果]
本実施形態にかかる搬送装置1は、上記の構成を有することにより、以下のような作用効果を有する。
【0039】
本搬送装置1においては、保持部材14が、軸から突出したストッパ部等を有さない単純な串状の部材として構成されていることで、貫通孔W1さえ有していれば、形状や寸法によらず、種々のワークWを保持部材14に掛けて搬送することができる。ワークWの形状や寸法が変わっても、各構成部材の形状や配置の調整、制御プログラムの変更等の操作を行う必要もない。また、本搬送装置1においては、ワークWを保持部材14の軸に沿って基端側または先端側にスライドさせるような操作を行うだけで、保持部材14に対するワークWの掛け外しを行うことができる。
図2(a)や
図3(a)に示すように、保持部材14と他の串状部材(41,51)との間でワークWを受け渡す際に、保持部材と他の串状部材(41,51)の先端面を突き合わせた状態で、ワークWをスライドさせれば、保持部材と他の串状部材(41,51)の間で、ワークWを簡便に受け渡すことができる。特に、受け取り側の串状部材(
図2(a)では保持部材14、
図3(a)では炉内串部材51)を、受け渡し側の串状部材(
図2(a)では受け渡し用串部材41、
図3(a)では保持部材14)よりも低い位置に配置して相互の先端面を突き合わせることで、ワークWを滑らかに移動させることができる。ワークWのスライドの操作は、ワークWを外す際には、搬送装置1のプッシャ15でワークWを保持部材14から押し出すことにより、ワークWを掛ける際には、受け渡し装置40の受け渡し用プッシャ42等、外部のプッシャでワークWを保持部材14に押し込むことにより、簡便かつ高速に行うことができる。各プッシャ15,42での押し出しおよび押し込みの操作は、ワークWの移動が止まるところまで行えばよいので、押し出し/押し込みを行う距離や印加する力についても、ワークWの形状や寸法に応じて調整を行う必要がない。これらの結果、本搬送装置1においては、貫通孔W1を有するワークWを、その形状や寸法によらず、効率的に搬送することができ、さらには、熱処理システム100の運転を効率的に行うことができる。
【0040】
さらに、本搬送装置1においては、保持部材14に掛けられたワークWに対して保持部材14の先端側に向かう力を加えることができるプッシャ15を備えていることで、
図2(c)のように、複数のワークWの間に不可避的に生じる間隙を解消することができる。複数(上記では5個)のワークWを同時に保持部材14に掛けて搬送するに際し、ワークWの間に間隙が存在すると、搬送中に、隣接するワークWの間で衝突が生じ、ワークWの表面に傷等の損傷が発生する可能性がある。これに対し、間隙を解消し、ワークW同士を密着させてから搬送を行うことで、ワークWの姿勢を安定化させ、ワークW間の衝突を避けた状態で、ワークWを搬送することができる。さらに、ワークWが熱間鍛造直後の金属材である場合に、ワークWを相互に密着させることで、搬送中におけるワークWの放冷を小さく抑えることができる。
【0041】
このように、プッシャ15は、搬送前のワークW間の空隙の解消、脱落防止部材17との協働による搬送中のワークWの保持、搬送後のワークWの移動および押し付けに兼用することができ、これらの各機能に特化した部材を設ける場合に比べ、搬送装置1全体を簡素に形成することができる。なお、上記の実施形態では、搬送中もプッシャ15からワークWに保持部材14の先端側に向かう力f2を印加した状態が維持されたが、搬送前に一度力f2を印加してワークW間の間隙を解消してしまえば、その位置でプッシャ15を停止させ、力f2を加えない状態で搬送を行ってもよい。ただし、プッシャ15を停止させる機構を省略し、力f2を印加した状態を維持する形態の方が、シリンダ13の構成を簡素に済ませることができる。
【0042】
本搬送装置1においては、プッシャ15に加えて脱落防止部材17を備えることで、プッシャ15と脱落防止部材17との間にワークWを挟み込んで保持することができる。これにより、搬送を高速で行い、ワークWに遠心力が印加される場合や、保持部材14の先端側が基端側よりも下がるような配置を搬送中にとる場合にも、ワークWを保持部材14の先端から脱落させることなく安定に搬送することができる。さらに、本搬送装置1においては、プッシャ15が保持部材14の軸上に設けられ、かつ約90°回動する脱落防止部材が保持部材14と平行な支柱16の先端に設けられているという簡素な構成でワークWの安定保持を実現しているため、搬送装置1全体として、保持部材14の軸(x軸)に垂直な断面の面積が小さくて済む。これにより、熱処理炉50の搬入口52を小さい開口面積で形成することができ、熱処理炉50の熱効率を高く維持することができる。なお、遠心力が問題になるほど高速とならないように、また保持部材14を略水平に維持したまま搬送を行う場合には、脱落防止部材17は必ずしも設けなくてもよい。脱落防止部材17を設けない場合には、プッシャ15からワークWに印加する力f2を、ワークWが保持部材14から脱落しない程度に調整して、搬送を行えばよい。
【0043】
上記の形態では、プッシャ15のワークWと接触する面が傾斜面15aとなっている。もしこの面が、傾斜を有さない保持部材14の軸に垂直な面であったとすれば、
図2(c)のように、ワークWの上方にある脱落防止部材17を脱落防止位置に配置して、プッシャ15を前進させた際に、プッシャ15が面の全域において略均一な力をワークWに加えることになる。これにより、ワークWにおいて、貫通孔W1の内壁が保持部材14と接触していない下側の部位が、貫通孔W1の内壁が保持部材14と接触しており保持部材14との間に摩擦抵抗を有する上側の部位よりも、早く保持部材14の先端側に移動する可能性がある。すると、ワークWの姿勢が不安定となり、大きく傾いてしまうこともある。その結果、脱落防止部材17とプッシャ15の間でワークWを安定に保持できないことになる。これに対し、プッシャ15のワークWと接触する面に、脱落防止部材17が設けられた位置に近づく上方の部位が、保持部材14の先端側にせり出した傾斜を形成しておくことで、ワークWの上側の部位が、下側の部位に比べて、優先的にプッシャ15で押し出され、脱落防止部材17が設けられた位置まで先に到達する。そして、ワークWの上側の部位が脱落防止部材17に押し付けられた状態で、下側の部位が、脱落防止部材17の軸(x軸方向)に沿って同じ位置まで達することになる。これにより、プッシャ15での押し出し中にワークWの姿勢が不安定化しにくく、脱落防止部材17との間で、ワークWを、相互間の間隙を解消した状態で安定して保持することができる。
【0044】
[搬出装置の構成]
最後に、上記熱処理システム100で用いられる搬出装置60の構成について、概略を説明する。搬出装置60としても、熱処理炉50へワークWを搬入するのに用いられる上記で説明した搬送装置1と同じ構成を有するものを用いてもよい。しかし、搬出したワークWを、軸を略鉛直にして集積部70に集積するためには、熱処理炉50から軸を水平にした状態で受け取ったワークWに対して、姿勢を大きく変化させ、軸を鉛直に向ける必要がある。上記の搬送装置1においては、脱落防止部材17を備えているとはいえ、保持部材14の先端側を鉛直方向下方に向けるほどの大きな姿勢変化を行うと、ワークWの保持が不安定化するおそれがある。そこで、このような姿勢変化を行っても、ワークWを安定に保持して搬送することができる搬出装置60として、
図5のようなものを挙げることができる。
【0045】
図5に示した搬出装置60は、各部材を支持する基材として、基部61を有する。基部61は、駆動部としてのロボットアーム62に取り付けられており、ロボットアーム62によって、基部61の姿勢および配置を自由に変更することができる。以下で、搬出装置60の構造を説明するにあたり、基部61の面に直交し、基部61から遠ざかる方向を+x方向として、x’,y’,z’の各方向を
図5のように定義する。
【0046】
基部61には、4本の長尺状のアーム部材63が設けられている。4本のアーム部材63は、同じ長さを有し、それぞれ、y’軸およびz’軸に平行な辺を有する矩形の頂点に基端を有して、+x’方向に向かって延びている。アーム部材63の長さは、ワークWの厚さの5倍以上とされ、少なくとも5個のワークWをアーム部材63の軸に沿って並べることができる。4本のアーム部材63は、それぞれ±z’方向に可動であり、基端から全体で移動することができる。具体的には、
図5で示す位置を原位置として、4本のうち+z’側に位置する2本の上方アーム部材63aは、原位置から−z’方向に向かって移動することができ、4本のうち−z’側に位置する2本の下方アーム部材63bは、原位置から+z’方向に向かって移動することができる。各アーム部材13の移動は、基部61に設けられたシリンダ(不図示)によって駆動される。
【0047】
4本のアーム部材63の先端には、それぞれ板片よりなる爪部材64が固定されている。各爪部材64は、アーム部材63の軸から、z’方向内側に向かって突出して設けられている。つまり、+z’側に位置する上方アーム部材63aにおいては、爪部材64が−z’方向に突出し、−z’側に位置する下方アーム部材63bにおいては、爪部材64が+z’方向に突出している。
【0048】
本搬出装置60にはさらに、板状の押さえ部材65が設けられている。押さえ部材65は、板面をy’z’平面に平行にして、原位置にある4本のアーム部材63がなす矩形の中央に当たる位置に配置されている。押さえ部材65の寸法は、各アーム部材63の可動範囲の全域において、いずれのアーム部材63とも接触しないように、また、想定されるワークWを前方に配置した状態で、そのワークWの端面に接触可能なように設定されている。押さえ部材65は、結合部材66を介して、基部61に固定されたシリンダ67に結合されており、シリンダ67に駆動されて、±x’方向に進退運動可能である。
【0049】
本搬出装置60において、ワークWを搬送するに際し、アーム部材63の軸(x’軸方向)を略水平に配置し、各アーム部材63を原位置とするとともに、押さえ部材65を十分に−x’方向に後退させた状態で、円筒状のワークWを押さえ部材65の前方(+x’側)に配置する。この際、ワークWは、円筒の軸をx’軸方向に向けて配置しておく。そして、上方アーム部材63aを−z’方向に移動させるとともに、下方アーム部材63bを+z’方向に移動させることで、4本のアーム部材63のそれぞれを、ワークWの側面(両端面に挟まれた円柱状の面)に接触させる。さらに、
図6のように、押さえ部材65を前進させることで、ワークWの後側の面に、前方に向かう力(f’1)を印加し、アーム部材63の前方に設けられた爪部材64に対して、ワークWを押し付ける。爪部材64は、ワークWの端面に前方から接触する。このようにして、4本のアーム部材63と爪部材64、押さえ部材65によってワークWを保持することができる。そして、ロボットアーム62によって基部61の姿勢および配置の変化を駆動することで、ワークWを搬送することができる。搬送中も、押さえ部材65は、前方に向かう力をワークWに印加し続け、ワークWを爪部材64に対して押し付けた状態を維持する。
【0050】
熱処理炉50の中に設けられた炉内串部材51から、搬出装置60がワークWを受け取る工程である第三受け渡し工程p3においては、最初に、搬出装置60が搬出口53から熱処理炉50に進入し、原位置とした上方アーム部材63aをワークWの上方に、同じく原位置とした下方アーム部材63bをワークWの下方に配置した状態で、炉内串部材51の基端側に前進する。そして、爪部材64を内壁面55に当接させる。この状態で、押さえ部材65を前進させ、ワークWをT字型の当接部材54に押し付けて当接させる。当接部材54は、搬出装置60の爪部材64よりも大きな厚みを有しており、この時にワークWと内壁面55の間に、爪部材64が進入可能な空隙が形成される。ワークWを当接部材54に押し付けるためにワークWに印加した力は、この後、ワークWの搬送中も印加された状態に維持される。
【0051】
次に、上方アーム部材63aを下方に移動させるとともに、下方アーム部材63bを上方に移動させ、ワークWの側面を、上下からアーム部材63によって挟み込む。この状態から、基部61に支持されたアーム部材63を、ロボットアーム62によって運動させ、炉内串部材51から離す。この際、4本の爪部材64は、当接部材23に当接したワークWと内壁面55の間に形成された空隙に進入する。このようにして、5個のワークWが、4本のアーム部材63に囲まれ、押さえ部材65と爪部材64の間に挟み込まれて、
図6のように保持された状態で、搬送される。
【0052】
熱処理炉50を脱出した搬出装置60は、略水平であったアーム部材63を略鉛直にし、爪部材64を押さえ部材65に対して重力方向下方に配置した状態とする。そして、第四受け渡し工程p4において、ワークWを、軸を略鉛直にして集積部70に集積するために、ワークWの外径よりも外側に開いておいた3個の集積用チャック71に囲まれた領域に、ワークWの端面の位置を合わせた状態で、保持したワークWを下降させる。そして、押さえ部材65に印加していた、ワークWを爪部材64に押し付ける力を解除するとともに、各アーム部材63を原位置に復帰させる。一方で、3個の集積用チャック71をワークWの中心軸に向かって近づけ、ワークWの外周に押し付ける。
【0053】
この搬出装置60においては、アーム部材63におよび爪部材64に加えて、押さえ部材65を有することで、炉内串部材51の基端側にワークWを押し付けて、強制的にワークWを整列させ、しかも、その整列状態を維持したままでワークWを搬送することができる。このようにワークWを整列させたうえで、アーム部材63でワークWを側面から挟み込むことの効果に加え、その挟み込みと交差する方向に押さえ部材65からワークWに力を及ぼし、爪部材64に押し付けることの効果により、ワークWを安定に保持することができる。特に、搬送中にも、押さえ部材65からワークWに対して力f’1を印加し続けることで、集積部70にワークWを移動させるために、爪部材64の側が下側に向くような大きな姿勢変更を行っても、ワークWを強固に保持した状態を安定に維持することができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。