(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
クラスタ分析処理部は、ウォード法または最遠隣法にて、デンドログラムを作成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電力系統事故原因推定装置。
前記出力部は、系統情報管理システム、樹木管理システム、落雷情報システムのうち少なくともいずれか一つからの情報を、前記事故原因集約部で集約された集約結果に加味して出力することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電力系統事故原因推定装置。
【背景技術】
【0002】
例えば、配電系統で事故が発生した場合には事故点を探査して事故原因を究明し、事故を除去することが行われているが、目に見えない場所の事故点や故障機材を特定することは困難である。送電が停止されている場合は事故探査装置を用いて事故点を探すことができるが、事故後すぐに事故が復帰し送電が継続している場合は事故探査装置を用いることができず巡視での探査となる。そのため、事故点を発見することが非常に困難となる。
【0003】
そこで、配電系統における事故時の零相電流波形(以下、事故波形という)は,事故原因や事故機器により変化することが知られているので、事故波形の波形解析による事故原因や事故機器の特定が行われている。
【0004】
事故波形を分類し事故原因を推定するものとして、人の目で事故波形を判断し3種類の波形(三角波、方形波、針状波)へ分類し(ステップ1)、事故電流(零相電流)の高調波含有率(総合歪率)を算出し(ステップ2)、事故電流に伴って発生する零相電圧の実効値から求まる推定事故原因とを重ね合わせて事故原因を推定する(ステップ3)ようにしたものがある(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、故障電流波形(零相電流波形)の位相面軌跡を描き、位相面軌跡の形状から波形を分類し事故原因を推定するようにしたものがある(非特許文献2参照)。位相面軌跡図は、零相電流波形の微分値を縦軸とし零相電流の値を横軸としてプロットした点により構成され、プロットされた点が64分割された領域(グラフのマス目)のどの領域に、何点存在するかカウントし、特定の領域(A、Bの領域)の中に全体の何%の点が集まっているかで、波形の形状を判別し分類し事故の原因を推定するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1のものでは、人の目で事故波形を判断し分類するので事故波形の分類結果が使用者に依存してしまう。また、事故電流の高調波含有率は高調波歪率の合計をもとに判定を行うため、どの周波数帯の成分が多いかという分析を行うことができない。
【0008】
非特許文献2のものでは、零相電流波形の微分値を縦軸とし零相電流の値を横軸としてプロットした点が特定の領域の中に全体の何%の点が集まっているかで、事故波形の形状を判別するものであるので、特定の領域以外の領域のプロット点を判定に利用していない。そのため、特定の領域以外の領域のプロット点の情報は失われている。
【0009】
また、非特許文献1、2のものでは、事故原因の判定の閾値は経験則に基づいて設定しているが、適切な閾値を予め設定する必要がある。また、ニューラルネットワーク等を活用することも考えられるが、その場合には、事前に適切な学習が必要となる。
【0010】
さらに、非特許文献1、2のものでは、一つ事故波形に対し推定される事故原因は1つとなってしまう。例えば、事故原因(樹木接触、鳥獣接触、碍子破損etc)が異なっても、事故発生状況によっては同一の事故波形となることがあるので、事故原因を一つに絞ると混乱を招く恐れがある。実際には、事故原因を100%推定することは困難であり、○○の事故の可能性△△%、××の事故の可能性□□%という推定が望ましい。
【0011】
本発明の目的は、可能性が高く発生頻度の高い事故から順に百分率で事故原因を推定できる電力系統事故原因推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明に係る電力系統事故原因推定装置は、系統事故時の零相電流波形の正負の反転及び時間の要素を除去した前記零相電流波形の波形スペクトルを求める波形スペクトル演算部と、過去の系統事故時の前記零相電流波形の波形スペクトルをその事故原因とともに予め記憶しておく過去データ記憶部と、前記波形スペクトル演算部で得られた解析対象の零相電流波形の波形スペクトルを前記過去データ記憶部に記憶された波形スペクトルに加えてクラスタ分析を行うクラスタ分析処理部と、前記解析対象の零相電流波形の波形スペクトルが前記クラスタ分析処理部でどのクラスタに分類されたかを判定しそのクラスタに属する過去の系統事故時の事故原因を基に事故原因を集約する事故原因集約部と、前記事故集約部で集約された集約結果を出力する出力部とを備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明に係る電力系統事故原因推定装置は、請求項1の発明において、波形スペクトル演算部は、
正規化後の零相電流の傾きである前記零相電流波形の微分値を縦軸とし
正規化後の零相電流の波高値である零相電流値を横軸とした位相面に前記零相電流波形の微分値をプロットして軌跡を求める位相面軌跡解析を用いて前記零相電流波形の波形スペクトルを求めることを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明に係る電力系統事故原因推定装置は、請求項1の発明において、波形スペクトル演算部は、FFT解析を用いて前記零相電流波形の波形スペクトルを求めることを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明に係る電力系統事故原因推定装置は、請求項1乃至3のいずれか1項の発明において、クラスタ分析処理部は、ウォード法または最遠隣法にて、デンドログラムを作成することを特徴とする。
【0016】
請求項5の発明に係る電力系統事故原因推定装置は、請求項1乃至4のいずれか1項の発明において、前記出力部は、系統情報管理システム、樹木管理システム、落雷情報システムのうち少なくともいずれか一つからの情報を、前記事故原因集約部で集約された集約結果に加味して出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、系統事故時の零相電流波形の正負の反転及び時間の要素を除去した零相電流波形の波形スペクトルを求め、解析対象の零相電流波形の波形スペクトルを過去の系統事故時の零相電流波形の波形スペクトルに加えてクラスタ分析を行い、解析対象の零相電流波形の波形スペクトルがどのクラスタに分類されたかを判定し、そのクラスタに属する過去の系統事故時の事故原因を基に系統事故時の事故原因を集約するので、可能性が高く発生頻度の高い事故から順に百分率で事故原因を推定できる。
【0018】
請求項2の発明によれば、
正規化後の零相電流の傾きである零相電流波形の微分値を縦軸とし
正規化後の零相電流の波高値である零相電流値を横軸とした位相面に零相電流波形の微分値をプロットして軌跡を求める位相面軌跡解析を用いてフィルタ処理し、すべての領域のデータを利用して波形スペクトルを求めるので、すべての領域のデータを利用した解析が可能となるため情報の欠落が少ない。
【0019】
請求項3の発明によれば、零相電流波形をFFT解析を用いてフィルタ
処理し波形スペクトルを求めるので、任意の周波数帯毎に区切った解析が可能となる。
【0020】
請求項4の発明によれば、ウォード法または最遠隣法にてデンドログラムを作成するので、零相電流波形の波形スペクトルデータを均等に分類しやすい。
【0021】
請求項5の発明によれば、系統情報管理システム、樹木管理システム、落雷情報システムのうち少なくともいずれか一つからの情報を事故原因の判定に加味するので、事故原因の推定の精度が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る電力系統事故原因推定装置の構成図である。電力系統事故原因推定装置は、例えばコンピュータで構成され、入力装置11、演算装置12、記憶装置13、出力装置14を有する。入力装置11はキーボードやマウスなどの演算装置12に指令やデータを入力するものである。
【0024】
系統監視装置15は配電系統の電流や電圧を測定・記録し配電系統を監視するものであり、系統監視装置15で測定・記録された配電系統の事故時の零相電流波形(事故波形)は演算部12の入力部16を介して波形スペクトル演算部17に入力される。
【0025】
波形スペクトル演算部17は、クラスタ分析処理部18でクラスタ分析を行うにあたって、クラスタに分類する上で利用しない系統事故時の零相電流波形の特徴量(零相電流波形の正負の反転及び時間の要素)を除去し、波形を分析する上で必要となる波形の傾きなどの特徴量を残した波形スペクトルを演算する。
【0026】
クラスタ分析処理部18は、波形スペクトル演算部17で演算された解析対象の零相電流波形の波形スペクトルを記憶装置13の過去データ記憶部19に記憶された波形スペクトルに加えてクラスタ分析を行う。過去データ記憶部19には、過去の系統事故時の零相電流波形の波形スペクトルがその事故原因とともに予め記憶されている。すなわち、複数の既知の波形スペクトルが既知の事故原因とともに記憶されている。事故原因としては、例えば、樹木接触、機器絶縁破壊、接地帯接触、鳥獣接触、ケーブル絶縁破壊、変圧器損傷、他物接触、営巣材、開閉器浸水、碍子破損、碍子汚損、雷事故などがある。
【0027】
事故原因集約部20は、解析対象の零相電流波形の波形スペクトルがクラスタ分析処理部18でどのクラスタに分類されたかを判定し、そのクラスタに属する過去の系統事故時の事故原因を基に解析対象の系統事故の事故原因を集約する。例えば、そのクラスタに異なる種類の複数の事故原因がある場合、○○の事故の可能性△△%、××の事故の可能性□□%という形式で事故原因の集約をする。出力部21は、事故原因集約部20で集約された集約結果を出力装置14に出力する。出力装置は、表示装置、プリンタ、記録媒体などである。
【0028】
図2は、クラスタ分析処理部18でクラスタ分析を行うにあたって、クラスタに分類する上で利用しない系統事故時の零相電流波形(事故波形)の特徴量(事故波形の正負の反転及び時間の要素)の説明図である。
図2(a)〜
図2(c)の波形は事故波形の形状という観点からは同一波形であるが、統計分析では異なる波形として分類される。
図2(a)の波形を基準とした場合、
図2(b)の波形は波形の正負を反転したもの、
図2(c)の波形は時間軸をずらしたものである。いずれの波形も波形の形状の評価という観点からは同一分類とすべき波形である。
【0029】
しかし、統計分析では、
図2(a)〜
図2(c)の波形は各々が異なる特徴を持つ波形として分類される。すなわち、波形が同一であっても時間要素や波形の正負の反転の要素が異なると別の波形として分類されるので、時間要素や波形の正負の反転のばらつきにより多くの波形が存在することになり統計分析のデータとして適さない。
【0030】
系統事故時の零相電流波形を考えた場合、事故原因が同じである場合は類似の事故波形が発生するが、事故の発生した際の電流位相や検出器の設置位置によって検出器により測定される事故波形の時間軸がずれ、また、波形の正負の反転は反転するからである。そこで、本発明の第1実施形態では、時間要素や波形の正負の反転の要素が異なる波形であっても波形の形状が同一である波形は、同一の波形として分類するために、時間要素や波形の正負の反転の要素による差異を取り除く処理(フィルタリング)を行う。
【0031】
図3は、系統事故時の零相電流波形の一例を示すグラフである。縦軸は正規化後の零相電流I0の振幅、横軸は時間である。このような零相電流波形に対して、波形スペクトル演算部17は、零相電流波形の正負の反転及び時間の要素を除去するフィルタ処理を行い、波形を分析する上で必要となる波形の傾きなどの特徴量を残した波形スペクトルを演算する。
【0032】
まず、波形スペクトル演算部17が位相面軌跡解析を用いて零相電流波形の波形スペクトルを求める場合について説明する。位相面軌跡解析では、
図3に示した系統事故時の零相電流波形の位相面軌跡を求め、位相面軌跡から波形スペクトルを求める。
【0033】
図4は、位相面軌跡解析による零相電流波形の位相面軌跡図及び波形スペクトル図であり、
図4(a)は位相面軌跡図、
図4(b)は波形スペクトル図である。
図4(a)の位相面軌跡図において、縦軸は正規化後の零相電流I0の傾き、横軸は正規化後の零相電流I0の波高値である。位相面軌跡図は、
図4では64個の升目に区分されて領域が形成され各々の領域にセル番号No.が付されている。たとえば、右端の下端から同じ行の左端までがNo.1〜No.8、次の行の右端から同じ列の左端までがNo.9〜No.16、以下、順次、上端の行までセル番号No.が付されている。上端の右端から同じ列の左端まではNo.57〜No.64である。
【0034】
図4(a)の位相面軌跡図は、正規化後の零相電流I0の傾き(零相電流波形の微分値)を縦軸とし、正規化後の零相電流I0の波高値(零相電流値)を横軸とした位相面に、各零相電流値における零相電流波形の微分値をプロットして軌跡が求められる。そして、各領域No.1〜No.64にプロットした点の数をプロット数としてカウントし、
図4(b)に示す波形スペクトルを求める。
【0035】
図4(b)の波形スペクトル図において、縦軸は零相電流波形の微分値のプロット数、横軸は領域のセル番号No.である。波形スペクトル図は、各領域No.での零相電流波形の微分値のプロット数の棒グラフで示される。この棒グラフには零相電流波形の正負の反転及び時間の要素は含まれないので、この波形スペクトルのデータに対してクラスタ分析を行う。このように、すべての領域No.1〜No.64の波形スペクトルのデータを利用した解析が可能となるため情報の欠落が少ない。
【0036】
クラスタ分析は、異なる性質のものが混ざりあっている集団(対象)の中から互いに似たものを集めてクラスタ(集落)を作り対象を分類するものである。本発明の第1実施形態では、クラスタの要素は波形スペクトルを表現したデータである。クラスタを作るには、各要素間の距離が必要となる。波形スペクトルを表現したデータ(要素)間の距離、すなわち、A要素とB要素との間の距離は以下のように算出する。
【0037】
いま、A要素の各領域No.1〜No.64でのプロット数を(a1〜a64)とし、B要素の各領域No.1〜No.64でのプロット数を(b1〜b64)とすると、AB間距離は(1)式で示される。
【0038】
AB間距離=√{(a1−b1)
2+(a2−b2)
2+…+(a64−b64)
2} …(1)
図5は、過去データ記憶部19に記憶された波形スペクトルの一例を示す波形スペクトル図である。前述したように、過去データ記憶部19には、過去の系統事故時の零相電流波形の波形スペクトルがその事故原因とともに予め記憶されている。例えば、
図5(a)の波形スペクトルはその波形スペクトルデータとともに故障原因Z1、
図5(b)の波形スペクトルはその波形スペクトルデータとともに故障原因Z2、
図5(c)の波形スペクトルはその波形スペクトルデータとともに故障原因Z3として記憶されている。
図5では、3個の波形スペクトルデータしか示していないが、過去データ記憶部19には、過去の系統事故時の波形スペクトルが複数の既知の波形スペクトルとして既知の事故原因とともに記憶されている。
【0039】
クラスタ分析処理部18は、波形スペクトル演算部17で演算された解析対象の零相電流波形の波形スペクトルを過去データ記憶部19に記憶された波形スペクトルに加えてクラスタ分析を行う。クラスタ分析は、ウォード法によりクラスタをグルーピングしてデンドログラムを作成する。ウォード法は、結合前の二つのクラスタの各要素とそれぞれの重心までの距離の自乗和の合計と、結合後の重心までの双方のすべての要素からの距離の自乗和との差分をクラスタ間の距離とし、得られたクラスタ間の距離のうち最も短いクラスタ間の距離のクラスタをグルーピングしてデンドログラムを作成するものであり、波形スペクトルデータを均等に分類しやすい。また、ウォード法に代えて、二つのクラスタの要素の全ての組合せの中で最も遠いものをクラスタ間の距離とし、得られたクラスタ間の距離のうち最も短いクラスタ間の距離のクラスタをグルーピングする最遠隣法を用いてもよい、
図6は、クラスタ分析処理部18で作成されたデンドログラムの一例を示す樹形図である。デンドログラムは、クラスタ分析において各要素がクラスタにまとめられていくさまを表したものである。前述したように、各要素は波形スペクトルを表現したデータであり、
図6では、過去データ記憶部19に記憶された波形スペクトルに解析対象の零相電流波形の波形スペクトルを加えてクラスタ分析が行われた結果を示している。
【0040】
図6に示すように、全部で82個の波形スペクトルがあり、81個の波形スペクトルは過去データ記憶部19に記憶された波形スペクトルである。
図6では、解析対象の波形スペクトルを矢印で指し示している。すなわち、左から46番目の波形スペクトルが解析対象の波形スペクトルである。クラスタの分類の基準線を点線で示す。基準線を点線の位置に定めると、9個のクラスタに分類され、解析対象の波形スペクトルは左から3番目のクラスタK3に分類される。
【0041】
事故原因集約部20は、解析対象の波形スペクトルがクラスタ分析処理部18でどのクラスタに分類されたかを判定する。
図6の場合には、解析対象の波形スペクトルはクラスタK3に分類されたと判定し、そのクラスタK3に属する過去の系統事故時の波形スペクトルの事故原因を抽出する。クラスタK3に属する過去の系統事故時の波形スペクトルは、左から47番目〜53番目までの波形スペクトルであるので、左から47番目〜53番目までの8個の波形スペクトルの事故原因を抽出する。そして、抽出した事故原因を集約する。
【0042】
例えば、事故原因Z1が5個、事故原因Z2が2個、その他の事故原因Ziが1個である場合、事故原因Z1である可能性が62.5%、事故原因Z2である可能性が25%、事故原因Ziである可能性が12.5%と事故原因を集約する。そして、上位から順番に並べる。出力部21は事故原因集約部20で集約された集約結果を出力装置14に出力する。
【0043】
以上の説明では、波形スペクトル演算部17は位相面軌跡解析を用いて零相電流波形の波形スペクトルを求める場合について説明したが、FFT解析を用いて零相電流波形の波形スペクトルを求めるようにしてもよい。
図7はFFT解析による零相電流波形の波形スペクトル図であり、縦軸は正規化後の零相電流I0の振幅、横軸は周波数である。波形スペクトル演算部17は、
図3に示した零相電流波形に対して、位相面軌跡解析の場合と同様に、零相電流波形の正負の反転及び時間の要素を除去するフィルタ処理を行い、波形を分析する上で必要となる周波数分布などの特徴量を残した
図7に示す波形スペクトルを演算する。波形の傾きは波形を折れ線グラフへ変換することで得られる。この場合は、任意の周波数帯毎に区切った解析が可能となる。
【0044】
このように、本発明の第1実施形態では、解析対象の事故波形について位相面軌跡図の解析結果またはFTT解析結果を基に、時間要素や波形の正負の反転の要素を除去した波形スペクトルを作成し、過去の系統事故時の波形スペクトルに解析対象の波形スペクトルを加えてクラスタ分析を適用し波形分類を行う。そして、解析対象の波形スペクトルと同一分類に含まれる過去の系統事故時の波形スペクトルの事故原因について、百分率で故障原因を集約し上位から順に並べる。
【0045】
これにより、可能性が高く発生頻度の高い事故から順に百分率で事故原因を推定できる。すなわち、統計的に分析するため、経験則によらず使用者によって事故原因の推定結果が変化することがなく、また、過去の系統事故時の波形スペクトルと事故原因とのデータさえあれば、事前の分析は不要であり閾値等も設定する必要がない。
【0046】
ここで、本発明の第1実施形態において、時間要素や波形の正負の反転の要素を除去した波形スペクトルを作成するのは、元の波形のままでは、時間断面や波形の符号がばらついているため統計分析を適用できないからである。なお、時間要素や波形の正負の反転の要素を除去せずに、クラスタ分析を行った結果、最大で5つのクラスタ(分類)に分類されたが、時間要素(波形のピークがどの時間断面に現れるか)によってクラスタが分かれ、波形の形状の特徴にもとづく分類は困難であった。
【0047】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
図8は本発明の第2実施形態に係る電力系統事故原因推定装置の構成図である。この第2の実施形態は、
図1に示した第1実施形態に対し、系統情報管理システム22、樹木管理システム23、落雷情報システム24からの情報を入力する管理情報入力部25を追加して設け、出力部21は、事故原因集約部20で集約された集約結果に対して系統情報管理システム22、樹木管理システム23、落雷情報システム24からの情報を加味して故障原因を出力装置14に出力するようにしたものである。
【0048】
例えば、故障原因「ケーブル絶縁破壊」が得られたが、系統情報管理システム22からその系統はケーブルが敷設されていない架空線の系統であるとの情報を入力したときは、ケーブルが敷設されていない架空線の系統であるのに故障原因「ケーブル絶縁破壊」はあり得ないので、その故障原因推定結果は廃棄する。また、故障原因「樹木接触」が得られたが、樹木管理システム23からその系統の樹木は伐採したばかりであるとの情報を入力したときは、「樹木接触」の確率は低いので、その故障原因推定結果を廃棄するか、または重み係数を掛けて事故原因の集約結果を補正する。また、落雷情報システム24から落雷情報を入力したときは、故障原因として「雷事故」の確率が高いので、重み係数を掛けて事故原因の集約結果を補正する。以上の説明では、管理情報入力部25は、系統情報管理システム22、樹木管理システム23、落雷情報システム24からの情報を入力するようにしたが、これらのうち、いずれか一つを入力するようにしても良い。
【0049】
このように、本発明の第2実施形態では、系統情報管理システム22、樹木管理システム23、落雷情報システム24などの情報を読み込み、故障原因の集約結果に反映させるので、事故原因の推定の精度が向上する。
【0050】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。