(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記閾値決定部は、前記成分推定部が算出した前記可溶性有機成分の割合が前記第3の領域にある場合、前記閾値を前記第2の領域にある場合よりも大きな値に前記閾値を補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、例えば車両に搭載されるディーゼルエンジンの排気は、大気汚染の原因となる微粒子(Particulate Matter;以下、PMという)を含んでいる。このため、ディーゼルエンジンが搭載された自動車には、排気を浄化する排気浄化装置が備えられている(特許文献1参照)。かかる排気浄化装置は、ディーゼルエンジンの排気中からPMを除去し、PM除去後のクリーンガスを大気中に放出している。
【0003】
PMは、煤(カーボン)と可溶性有機成分(Soluble Organic Fraction;以下、SOFという)を主成分とする粒子状物質の総称である。SOFは、燃料(軽油)やエンジンオイルの燃え残りで構成される多成分物質であり、高温では蒸気(気体)であるが、温度が低下すると煤の表面に付着して煤を大きくする性質がある。
【0004】
排気浄化装置は、排気を浄化するための排気フィルタ(例えば、ディーゼルパティキュレートフィルタ)を備えて構成され、排気フィルタで排気からPMを捕集し、排気中のPMを除去する。排気フィルタは、例えば炭化ケイ素やコージライトなどを素材とした多孔質セラミックからなるウォールフロー型のフィルタとして構成され、排気通路に配置される。
【0005】
排気フィルタでPMを捕集し続けると、いずれは排気フィルタに目詰まりが生じ、排気圧の増大によって燃費を低下させるおそれがある。したがって、捕集したPMは、排気フィルタから適宜取り除かなければならない。
【0006】
排気浄化装置は、例えば、エンジンが所定条件(所定時間や所定速度など)で継続して運転され、所定量のPMが排気フィルタに捕集された場合、排気温度を所定時間(20分から30分間程度)に亘って連続してPMの燃焼温度(300℃から600℃程度)まで上昇させる。これにより、排気フィルタに捕集されたPMを燃焼させて排気フィルタから除去し、PMを適正に捕集することが可能な状態に排気フィルタを再生する。このような再生を繰り返すことで、排気フィルタの継続使用が可能となる。
【0007】
特許文献1には、排気フィルタに加え、酸化触媒が排気フィルタの上流の排気通路に設けられた排気浄化装置が開示されている。酸化触媒を設けることで、排気フィルタに流入する前に、排気からある程度のSOFが捕集(酸化除去)されている。このように、排気フィルタに達するSOFの量は、酸化触媒で捕集されるSOFの量や酸化触媒から脱離されるSOFの量に応じて、換言すれば酸化触媒の状態に応じて変動する。このため、特許文献1に開示された排気浄化装置では、酸化触媒によるSOFの捕集具合を加味して、排気フィルタの再生処理開始のタイミングを制御している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る排気浄化装置について、
図1から
図4を参照して説明する。本実施形態の排気浄化装置は、内燃機関、例えば車両に搭載されたディーゼルエンジンの排気を浄化する装置である。車両は、自家用の乗用自動車、あるいはトラックやバスなどの事業用自動車のいずれであってもよく、用途や車種は特に問わない。また、ディーゼルエンジンが搭載された車両のみならず、車両としては、例えばガソリンエンジンが搭載された自動車やハイブリッド自動車であっても構わない。
【0020】
図1は、本実施形態の排気浄化装置1の概略構成を示すブロック図である。
図1に示すように、排気浄化装置1は、エンジン2の燃焼室21から排出される排気を浄化する構成となっている。
【0021】
エンジン2の燃焼室21には、吸気弁22を開いて吸気通路3から吸気が吸入される。燃焼室21への吸気量は、吸気絞り弁23の開閉によって調整される。次いで、加熱圧縮された吸気にインジェクタ24から燃料(軽油)が噴射されると、燃料が発火し、空気と燃料を含む混合気が燃焼室21で燃焼する。混合気の燃焼により、燃焼室21内でピストン25が往復運動し、このエネルギーがピストン25に連結されたクランクシャフト26の回転運動に変換されて出力される。燃焼後の混合気(排気)は、排気弁27を開いて燃焼室21から排気通路4を通して排出され、排気浄化装置1で浄化された後に大気中へ放出される。
【0022】
エンジン2は、排気通路4から分岐して排気を燃焼室21へ循環させる排気循環路5を有している。循環気(以下、EGRガスという)は、排気循環路5に設けられたEGRクーラやターボチャージャ(いずれも図示省略)などを経由し、EGR弁6の開閉によって吸気通路3の最下流などに導入される。
【0023】
排気浄化装置1は、本体部10と、酸化触媒12と、排気フィルタ(例えば、ディーゼルパティキュレートフィルタ)13を備えている。本体部10は、排気を通流させる通気路11を内部に有する略筒状の構造体であり、燃焼室21と繋がる排気通路4の途中もしくは終端に配置され、排気通路4の一部を構成している。酸化触媒12と排気フィルタ13は、燃焼室21から排出された排気に含まれる微粒子(PM)を除去して排気を浄化するための部材であり、酸化触媒12を排気の流れの上流側(
図1においては、左側)、排気フィルタ13を下流側(同、右側)に位置付けてそれぞれ通気路11に配置されている。PMは、粒子状物質の総称であるが、本実施形態では便宜上、煤(カーボン)と可溶性有機成分(SOF)の2つを成分として構成されているものとして扱う。したがって、PM、煤、SOFのうちの2つの量が推定できれば、残りの1つの推定量を算出することができる。
【0024】
酸化触媒12は、排気中に含まれる炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)を酸化除去するとともに、一酸化窒素(NO)を酸化して二酸化窒素(NO
2)を生成させる。また、酸化触媒12は、PMに含まれるSOF、具体的には燃焼室21で燃焼されなかった燃料(軽油)やエンジンオイルの燃え残りを酸化させて除去する。したがって、排気浄化装置1に流入した排気は、通気路11において酸化触媒12と接することでPMに含まれるSOFの量が減少し、排気フィルタ13へ向けて流れていく。その際、SOFの酸化反応で生じる反応熱によって排気の温度が上昇する(後述する第1状態の排気EG1よりも第2状態の排気EG2の方が高温となる)。
【0025】
排気フィルタ13は、排気(本実施形態では、燃焼室21から排出された後、酸化触媒12でSOF量が減少した排気)に含まれるPMを捕集して除去する。排気フィルタ13の構成は特に限定されないが、例えば炭化ケイ素やコージライトなどを素材とした多孔質セラミックからなるウォールフロー型のフィルタとして構成することができる。排気フィルタ13の排気との接触部位は、酸化触媒でコーティングされている。したがって、排気浄化装置1の通気路11で酸化触媒12と接した排気は、排気フィルタ13を通過することでPMが酸化除去および捕集され、浄化された状態で排気浄化装置1から流出される。ただし、捕集されたPMが排気フィルタ13に堆積していくため、排気フィルタ13に目詰まりが生じて排気圧が徐々に増大していく。このため、捕集されたPMを適宜燃焼させて排気フィルタ13から取り除き、PMを適正に捕集することが可能な状態に排気フィルタ13を再生させねばならない。なお、酸化触媒12における酸化反応により生成されたNO
2による酸化反応によっても、捕集されたPMは、一部が燃焼して排気フィルタ13から取り除かれる。
【0026】
排気浄化装置1は、排気フィルタ13の再生を制御する制御部7を備えている。制御部7は、CPU、メモリ、入出力回路などを備えたマイクロコンピュータとして構成されている。制御部7は、各種データを入出力回路により読み込み、メモリから読み出したプログラムを用いてCPUで演算処理し、処理結果に基づいて所定の制御を行う。制御部7は、例えばエンジンコントロールユニット(ECU)に含めて構成すればよいが、ECUとは別途に構成してもよい。
【0027】
図1に示すように、制御部7は、具体的な制御を実行するため、昇温制御部71、捕集量推定部72、成分推定部73、および閾値決定部74を備えている。これらの昇温制御部71、捕集量推定部72、成分推定部73、および閾値決定部74は、例えばプログラムとしてメモリに格納されている。なお、かかるプログラムをクラウド上に格納し、制御部7をクラウドと適宜通信させて所望のプログラムを利用可能とする構成であってもよい。この場合、制御部7は、クラウドとの通信モジュールなどを備えた構成とする。
【0028】
排気フィルタ13の再生にあたって、昇温制御部71は、排気フィルタ13を通過する排気の温度を上昇させる昇温制御を実施する。排気温度の上昇により、排気フィルタ13に捕集されたPMが燃焼して除去される。再生させる排気フィルタ13は、PMが捕集されて堆積した状態となっており、捕集量推定部72は、排気フィルタ13が捕集したPMの捕集量を推定する。PMの燃焼態様は、PMの成分によって異なるため、成分推定部73は、排気フィルタ13が捕集したPMの成分を推定する。具体的には、成分推定部73は、PMに含まれるSOFの割合を推定する。閾値決定部74は、昇温制御部71が実施する排気温度の昇温制御を開始するための閾値を定める。
【0029】
昇温制御部71は、捕集量推定部72で推定したPMの捕集量が、閾値決定部74で定めた閾値を超えた際に排気温度の昇温制御を開始する。その際、閾値決定部74は、成分推定部73が推定したPMの成分に応じて、定めた閾値を補正する。
【0030】
また、排気浄化装置1は、排気通路4を流れる排気の温度を測定する温度測定部8を備えている。本実施形態において、排気浄化装置1には、2つの温度センサ8a,8bが温度測定部8として備えられている。第1の温度センサ8aは、排気通路4の酸化触媒12の上流(具体的には、通気路11よりも上流)で排気の温度を測定している。第2の温度センサ8bは、排気通路4の酸化触媒12の下流かつ排気フィルタ13の上流(すなわち、通気路11における酸化触媒12と排気フィルタ13の間)で排気の温度を測定している。さらに、排気浄化装置1は、排気フィルタ13の上流側と下流側での排気の差圧を測定する差圧測定部(一例として、差圧センサ)9を備えている。温度センサ8a,8bで測定された温度データ、および差圧センサ9で測定された差圧データは、例えば通信ケーブルなどを介して制御部7に送られる。
【0031】
図2および
図3には、排気浄化装置1における排気フィルタ13の再生制御のフローを示す。以下、排気フィルタ13の再生制御の具体例およびその作用について、
図2および
図3に示すフローに従って説明する。
【0032】
排気浄化装置1は、例えばエンジン2が所定条件(所定時間や所定速度など)で継続して運転され、排気フィルタ13の再生開始要件を満たした場合、排気フィルタ13の再生を実施する。本実施形態では、排気フィルタ13が捕集したPMの捕集量(以下、PM捕集量という)が所定の閾値を超えているか否かを昇温制御部71で判定している。PM捕集量は、捕集量推定部72により推定される。かかる閾値は、閾値決定部74により定められる。
【0033】
図2は、PM捕集量を推定する処理の流れの一例を示すフロー図である。
図2に示すように、捕集量推定部72は、燃焼室21から排出されて酸化触媒12と接する前の排気(
図1において矢印EG1で示す。以下、第1状態の排気EG1という)に含まれるPM量とSOF量を、エンジン2の回転数とトルクとの関係を示す既知のマップ(図示省略)を参照してそれぞれ推定する(S201)。推定されたPM量からSOF量を減ずることで、第1状態の排気EG1に含まれる煤の推定量が算出される。この場合、捕集量推定部72は、例えばエンジン回転数センサなどが検出した回転数データを読み込み、かかるマップを参照して第1状態の排気EG1に含まれるPM量とSOF量をそれぞれ推定する。かかるマップは、制御部7のメモリ、あるいはクラウド上に格納されている。
【0034】
酸化触媒12における排気のSOF浄化率は、酸化触媒12と接する排気の温度によって推定することができる。このため、捕集量推定部72では、第1状態の排気EG1の温度により、酸化触媒12における第1状態の排気EG1のSOF浄化率を推定する(S202)。制御部7のメモリ、あるいはクラウド上には、第1状態の排気EG1の温度と、酸化触媒12における第1状態の排気EG1のSOF浄化率との関係を示す既知のマップ(図示省略)が格納されている。第1状態の排気EG1の温度は、第1の温度センサ8aで測定されている。
【0035】
そして、推定した浄化率を用いて、第1状態の排気EG1が酸化触媒12と接して浄化された排気(
図1において矢印EG2で示す。以下、第2状態の排気EG2という)のPM量およびSOF量を、捕集量推定部72においてそれぞれ推定する(S203)。
【0036】
例えば、測定された第1状態の排気EG1の温度に対する酸化触媒12のSOF浄化率(酸化触媒12での酸化反応により除去されるSOFの割合)をα1とすれば、第1状態の排気EG1に含まれるSOF量(X)のうちのX*α1が、酸化触媒12によって酸化除去される。したがって、X*(1−α1)のSOFが除去されずに残存し、第2状態の排気EG2に含まれていることになる。すなわち、第2状態の排気EG2に含まれているSOF量は、X*(1−α1)と算出できる。
【0037】
一方、第1状態の排気EG1が酸化触媒12で浄化された後であっても、第2状態の排気EG2に含まれている煤の量は変わらない。したがって、この煤量に第2状態の排気EG2のSOF量を加えることで、第2状態の排気EG2に含まれているPMの量を算出できる。
【0038】
排気フィルタ13における排気のSOF浄化率は、排気フィルタ13を通過する排気の温度によって推定することができる。このため、捕集量推定部72では、第2状態の排気EG2の温度により、排気フィルタ13における第2状態の排気EG2のSOF浄化率を推定する(S204)。制御部7のメモリ、あるいはクラウド上には、第2状態の排気EG2の温度と、排気フィルタ13における第2状態の排気EG2のSOF浄化率との関係を示す既知のマップ(図示省略)が格納されている。第2状態の排気EG2の温度は、第2の温度センサ8bで測定されている。
【0039】
そして、推定した浄化率を用いて、排気フィルタ13に捕集されたPMの量(PM捕集量)、およびPM捕集量に占めるSOFの量(以下、SOF捕集量という)を、捕集量推定部72においてそれぞれ推定する(S205)。
【0040】
例えば、測定された第2状態の排気EG2の温度に対する排気フィルタ13のSOF浄化率(排気フィルタ13での酸化反応により除去されるSOFの割合)をα2とすれば、第2状態の排気EG2に含まれるSOF量(X*(1−α1))のうちのX*(1−α1)*α2が、排気フィルタ13によって酸化除去される。すなわち、X*(1−α1)*α2のSOFが排気フィルタ13で酸化除去されるので、排気フィルタ13におけるSOF捕集量は、X*(1−α1)*(1−α2)と算出できる。
【0041】
第2状態の排気EG2が排気フィルタ13を通過することで、第2状態の排気EG2に含まれる煤はすべて排気フィルタ13で捕集されたものと推定できる。したがって、この煤量(つまり、第1状態の排気EG1に含まれていた煤の量)にSOF捕集量を加えることで、排気フィルタ13のPM捕集量を算出する。
【0042】
すでにPM捕集量およびSOF捕集量が算出されている場合、捕集量推定部72は、これらの既算出値に新たに算出した値をそれぞれ加えて積算し、その積算値を、現時点におけるPM捕集量およびSOF捕集量として推定する。PM捕集量およびSOF捕集量が既算出されていない(つまり、これらが初期値である)場合、捕集量推定部72は、新たに算出した値を、現時点におけるPM捕集量およびSOF捕集量として推定する。
【0043】
なお、本実施形態では、温度センサ8a,8bの温度データを用いてPM捕集量およびSOF捕集量を推定しているが、推定方法はこれに限定されない。例えば、差圧センサ9で測定した排気フィルタ13の上流側と下流側での排気の差圧データを用いて、PM捕集量を推定してもよい。あるいは、車両の走行距離やPM捕集量を直接検出するセンサなどを用いて、PM捕集量を推定しても構わない。
【0044】
そして、捕集量推定部72で推定されたPM捕集量に基づいて、排気フィルタ13の再生を実施するか否かが昇温制御部71により判断される。
図3は、排気フィルタ13の再生を実施する際の処理(再生開始の要否判断とその後の処理)の流れを示すフロー図である。
図3に示すように、昇温制御部71は、PM捕集量が最小閾値を超えているか否かを判定する(S301)。
【0045】
PM捕集量が最小閾値を超えていない場合、排気フィルタ13の再生は実施されず、所定時間経過後にS201からの制御を行ってPM捕集量を再度推定し、S301の判定が行われる。
【0046】
これに対し、PM捕集量が最小閾値を超えた場合、PM捕集量のPMに含まれるSOFの割合(以下、SOF割合という)の推定を行う(S302)。この場合、昇温制御部71は、成分推定部73にSOF割合を推定させる。成分推定部73は、捕集量推定部72が推定したPM捕集量およびSOF捕集量を取得し、SOF割合を算出する。例えば、SOF割合は、PM捕集量に占めるSOF捕集量の割合として算出される。
【0047】
SOF割合が推定された後、SOF割合に応じて閾値の補正を行う(S303)。この場合、昇温制御部71は、閾値決定部74に閾値を補正させる。閾値決定部74は、成分推定部73が推定したSOF割合に応じて閾値を補正する。本実施形態では、SOF割合と、排気フィルタ13の再生開始までに許容されるPM捕集量(以下、許容PM捕集量という)との関係に基づいて、閾値の補正を行う。このため、制御部7のメモリには、かかる関係を示すマップが格納されている。なお、例えばかかるマップをクラウド上に格納し、通信モジュールを介して閾値決定部74をクラウドと適宜通信させてこのマップを利用可能とする構成であってもよい。
【0048】
閾値決定部74は、成分推定部73で推定されたSOF割合に対する許容PM捕集量をマップから取得し、取得した許容PM捕集量の値に閾値を補正する。その際、取得した許容PM捕集量の値が閾値と異なっていれば、閾値を取得した許容PM捕集量の値に変更する。双方の値が一致している場合、閾値は変更しなくともよいが、変更しても構わない。
【0049】
閾値が補正された後、補正後の閾値に基づいて排気フィルタ13の再生開始の要否が判定される。具体的には、捕集量推定部72で推定されたPM捕集量が、閾値決定部74で補正された閾値を超えているか否かを、昇温制御部71が判定する(S304)。
【0050】
PM捕集量が閾値(許容PM捕集量)を超えていない、つまりPM捕集量が閾値以下である場合、昇温制御部71は、排気フィルタ13の再生を実施しない。この場合、所定時間経過後にS201からの制御を行ってPM捕集量を再度推定し、S301の判定が行われる。
【0051】
これに対し、PM捕集量が閾値(許容PM捕集量)を超えている場合、昇温制御部71は、排気フィルタ13に捕集されたPMが燃焼可能な温度(以下、PM燃焼可能温度という)まで、排気フィルタ13を通過する排気(第2状態の排気EG2)の温度を上昇させる(S305)。その際、昇温制御部71は、第2の温度センサ8bで測定された温度データを読み込み、第2状態の排気EG2の温度がPM燃焼可能温度まで達していることを確認する。例えば、SOFの燃焼温度は300℃から400℃程度、Cの燃焼温度は600℃程度であるので、PMの燃焼可能温度は300℃から600℃程度となる。
【0052】
第2状態の排気EG2の温度を上昇させるためには、例えば、燃料のポスト噴射や吸気絞りなどを行えばよい。この場合、昇温制御部71は、インジェクタ4や吸気絞り弁23などの動作を制御することで、通気路11への燃料の送り量や燃焼室21への吸気量などを適宜調整する。また例えば、昇温制御部71は、EGR弁6などの動作を制御し、EGRガスを適宜導入して酸素濃度の調整を行う。
【0053】
これらの制御は、排気フィルタ13に捕集されたPMが完全に燃焼され、排気フィルタ13から除去されるまで所定時間(例えば20分から30分間程度)に亘って継続される(S306)。昇温制御部71は、例えば、差圧センサ9で測定した排気フィルタ13の上流側と下流側での排気の差圧データを用いて、排気フィルタ13からPMが除去されたか否かを判定する。差圧センサ9で測定された差圧が所定の基準値よりも小さければ、排気フィルタ13に目詰まりが生じておらず、圧損もないものとして、排気フィルタ13からPMが除去されたと判定できる。
【0054】
PM燃焼可能温度での所定時間の燃焼後、排気フィルタ13に捕集されたPMが除去されると、昇温制御部71は、第2状態の排気EG2の温度制御を停止させ、第2状態の排気EG2の温度をもとの温度へ戻す(S307)。例えば、インジェクタ4や吸気絞り弁23、EGR弁6などの動作を制御し、燃料のポスト噴射や吸気絞りを停止させるとともに、EGRガスの導入を再開させる。これにより、第2状態の排気EG2の温度は、次第に上昇前(排気フィルタ13の再生開始前)の状態まで低下する。
【0055】
また、昇温制御部71は、PM捕集量およびSOF捕集量を初期値にリセット(例えば、パラメータをゼロクリア)する(S308)。併せて、PM(SOFおよび煤)の燃焼時間を初期値にリセット(例えば、タイマーをゼロクリア)する。
【0056】
一方、PM燃焼可能温度での所定時間の燃焼後、排気フィルタ13に捕集されたPMが除去されていない場合(S306)、昇温制御部71は、排気フィルタ13からPMが除去されるまで、S305の昇温制御を繰り返す。
【0057】
このように、本実施形態によれば、排気フィルタ13を再生(具体的には、排気の温度を上昇)させるまでの許容PM捕集量(昇温制御を開始する閾値)は、従来のようには一定ではなく、PM捕集量に占めるSOF割合に応じてその閾値を補正することができる。
【0058】
図4には、このような閾値の補正を行うために本実施形態で用いるマップの一例を示す。かかるマップは、SOF割合と、該SOF割合に対応する排気フィルタ13の再生開始までに許容されるPM捕集量(許容PM捕集量)との関係を示している。許容PM捕集量は、補正後の閾値に相当し、この補正後の閾値に基づいて排気の昇温制御が行われる。
【0059】
図4に示すように、排気フィルタ13に捕集されたPMの成分に相当するSOFの割合(成分推定部73で推定されたSOF割合)は、3つの領域S1,S2,S3に大別される。これら3つの領域S1,S2,S3は、第1のSOF割合(以下、第1の割合という)、および第1の割合より大きい第2のSOF割合(以下、第2の割合という)を境界として区分けされている。第1の領域S1は、SOF割合が第1の割合以上かつ第2の割合以下の領域である。第2の領域S2は、SOF割合が第1の割合未満の領域である。第3の領域S3は、SOF割合が第2の割合より大きい領域である。
【0060】
本実施形態では、3つの領域S1,S2,S3において、排気フィルタ13に捕集されたPMに含まれるSOFの割合(PMの成分)を次のように想定している。第1の領域S1は、PM中に煤とSOFとが混在している領域、第2の領域S2は、PMが煤でほぼ占められている(SOFがほぼ存在していない)領域、そして第3の領域S3は、PMがSOFでほぼ占められている(煤がほぼ存在していない)領域にそれぞれ相当する。
【0061】
第2の領域S2もしくは第3の領域S3において、PMは、煤もしくはSOFのいずれかでほぼ占められているため、煤とSOFとが混在している第1の領域S1と比べて均質であり、急激に(着火温度に達した後、一気に)燃焼しやすい。また、単成分である煤でほぼ占められている第2の領域S2のPMは、多成分であるSOFでほぼ占められている第3の領域S3のPMよりもさらに急激に燃焼しやすい。つまり、第2の領域S2のPMと比べた場合には、第3の領域S3のPMは緩やかに燃焼する。
【0062】
このため、
図4に実線で示すように、排気の温度を上昇(排気フィルタ13の再生を開始)させるための許容PM捕集量は、SOF割合が第1の領域S1にある場合に、第2の領域S2および第3の領域S3にある場合よりも大きい。したがって、閾値決定部74は、成分推定部73が推定したSOF割合が第1の領域S1にある場合、第2の領域S2および第3の領域S3にある場合よりも大きな値に、昇温制御を開始する閾値を補正する。すなわち、SOF割合が第1の領域S1にある場合に補正後の閾値は最大となり、許容PM捕集量が最も大きくなる。
【0063】
また、許容PM捕集量は、SOF割合が第3の領域S3にある場合に、第2の領域S2にある場合よりも大きい。したがって、閾値決定部74は、成分推定部73が推定したSOF割合が第3の領域S3にある場合、第2の領域S2にある場合よりも大きな値に、昇温制御を開始する閾値を補正する。すなわち、SOF割合が第2の領域S2にある場合に補正後の閾値は最小となり、許容PM捕集量が最も小さくなる。
【0064】
このように、本実施形態では、PM捕集量に占めるSOF割合に応じて、つまりPMの成分による燃焼特性を考慮して、排気フィルタ13を再生させる際に昇温制御を開始する閾値を補正することができる。
【0065】
従来においては、排気フィルタに捕集されたPMのSOFの割合、つまりPMの成分に関わらず、PMの捕集量が一定の閾値(
図4に示す破線)を超えた時に排気フィルタの再生(排気温度の上昇などによるPMの燃焼)が行われていた。これに対し、本実施形態では、PM捕集量に占めるSOF割合に応じて、つまりPMの成分による燃焼特性を考慮して、排気フィルタ13を再生させる際に昇温制御を開始する閾値を補正することができる。したがって、より柔軟に排気フィルタ13の再生を行うことができる。
【0066】
例えば
図4に示すように、本実施形態では、SOF割合が第1の領域S1よりも第3の領域S3、さらに第3の領域S3よりも第2の領域S2にある場合、排気フィルタ13の再生開始までに許容されるPM捕集量(許容PM捕集量)に余裕を持たせることができる。このため、特にSOF割合が第1の状態S1(煤とSOFが混在している状態)および第3の状態S3(PMがSOFでほぼ占められている状態)となっている場合、従来よりも昇温制御を開始する閾値を大幅に上げることができる。したがって本実施形態によれば、従来よりも許容PM捕集量(昇温制御を開始する閾値)に余裕を持たせて、排気フィルタ13の再生を開始させることができる。すなわち、排気フィルタ13の再生を開始させるまでの時間(再生間隔)を従来よりも延ばすことができる。
【0067】
このように本実施形態によれば、再生の実施タイミングをPMの成分(SOF割合)を考慮して最適化することができるので、排気フィルタ13の再生回数の低減や総再生時間の短縮を図ることが可能となる。この結果、エンジン2の燃費改善や燃費向上にも寄与することができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。このような新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。