(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記正常稼働データ、前記回帰式、及び前記第1ステップで算出した前記回帰係数の確率分布を表す値に基づいて、各前記第1計測時点における前記診断項目の予測値の確率分布を表す値を算出する第4ステップと、
前記正常稼働データ及び前記第4ステップで算出した前記診断項目の予測値の確率分布を表す値に基づいて、各前記第1計測時点における前記診断項目の異常度である第2異常度を算出する第5ステップと、を更に含み、
前記第3ステップでは、前記第1異常度及び前記第2異常度に基づいて前記診断項目の異常判定を行う、請求項1又は2記載の異常診断方法。
診断対象システムに関する複数の計測項目のデータに基づいて前記診断対象システムの異常を診断する異常診断方法をコンピュータに実行させる異常診断プログラムであって、
前記診断対象システムが正常に稼働している時間帯における複数の第1計測時点において取得された前記計測項目のデータである正常稼働データに基づいて、目的変数が前記計測項目のうちの一の診断項目であり、説明変数が他の前記計測項目である回帰式の回帰係数の確率分布を表す値を算出する第1ステップと、
前記回帰式、前記第1ステップで算出した前記回帰係数の確率分布を表す値、及び診断の対象となる時間帯における複数の第2計測時点において取得された前記計測項目のデータである診断対象データに基づいて、前記第2計測時点における前記診断項目の予測値の確率分布を表す値を算出する第2ステップと、
前記診断対象データ及び前記第2ステップで算出した前記診断項目の予測値の確率分布を表す値に基づいて前記第2計測時点における前記診断項目の異常度である第1異常度を算出し、前記第1異常度に基づいて前記診断項目の異常判定を行う第3ステップと、を前記コンピュータに実行させ、
前記第3ステップでは、前記第2計測時点について、前記診断項目の計測値と前記診断項目の予測値の確率分布における平均値との差分を当該確率分布の標準偏差で除した値を前記第1異常度として算出する、異常診断プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0016】
図1に示される異常診断装置1は、診断対象となるシステムである診断対象システムの異常を診断する装置である。診断対象システムとしては、例えば、ガスタービン、航空エンジン、又は真空炉等の機械システムが挙げられる。このような診断対象システムには、システムの動作状況を確認するために、システムに関する複数の計測項目を計測するための複数のセンサが取り付けられている。計測項目には、例えば、温度、圧力、又は回転数等が含まれる。異常診断装置1は、これらの計測項目のデータに基づいて診断対象システムの異常を診断する。
【0017】
異常診断装置1は、入力装置2及び出力装置3と通信可能に接続される。入力装置2は、例えば、キーボード、マウス、操作ボタン、又はタッチパネル等により構成され、異常診断装置1のユーザが異常診断装置1に対して操作を加える場合等に用いられる。入力装置2には、例えば、後述する正常稼働データD1、診断対象データD2、及び設定パラメータD3等が外部から入力される。入力装置2は、入力されたデータを異常診断装置1に送信する。出力装置3は、例えばディスプレイ等により構成され、異常診断装置1による診断結果を表示(出力)する。なお、異常診断装置1が入力装置2及び出力装置3を含んで構成されてもよい。
【0018】
異常診断装置1は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)10と、記憶装置20と、を備えている。記憶装置20は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ、又はハードディスク装置等のデータの読み書きが可能な記録媒体によって構成される。記憶装置20は、例えば、正常稼働データD1、診断対象データD2、設定パラメータD3、算出データD4、診断結果データD5、及び異常診断プログラムP等を記憶している。
【0019】
正常稼働データD1は、診断対象システムが正常に稼働している第1時間帯における複数の第1計測時点において取得された計測項目のデータである。診断対象データD2は、診断の対象となる第2時間帯における複数の第2計測時点において取得された計測項目のデータである。第1時間帯の長さと第2時間帯の長さとは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。第1計測時点の間隔及び第2計測時点の間隔は、任意に設定されてよい。設定パラメータD3は、後述の処理に用いられる複数のパラメータを含む。設定パラメータD3としては、例えば、いずれも後述される基底関数、超パラメータの最大値、擬似逆行列の算出に関する閾値、収束判定の閾値、収束計算の実行回数の上限値、異常判定の閾値、及び全体異常度の重み係数等が挙げられる。算出データD4は、後述の処理において算出される複数の変数の値を含む。診断結果データD5は、後述の処理により得られる診断結果を含む。異常診断プログラムPは、後述の処理を実行するためのプログラムである。
【0020】
CPU10は、機能的には、入力部11と、第1算出部12と、第2算出部13と、異常判定部14と、出力部15と、を備えている。CPU10が記憶装置20に記憶されている異常診断プログラムPを読み出して実行することにより、入力部11、第1算出部12、第2算出部13、異常判定部14、及び出力部15の各機能が実現される。異常診断プログラムPの具体的な構成については後述する。
【0021】
入力部11は、入力装置2から送信された正常稼働データD1、診断対象データD2、及び設定パラメータD3を受信し、記憶装置20に記憶する。
【0022】
第1算出部12は、正常稼働データD1に基づいて、目的変数が計測項目のうちの一の診断項目であり、説明変数が他の計測項目である回帰式の回帰係数の確率分布を表す値を算出する。確率分布を表す値とは、例えば、確率分布の平均若しくは分散等の統計量、又は各確率変数についての確率の値等である。本実施形態では、第1算出部12は、計測項目のそれぞれが診断項目とされた場合について、説明変数が残りの計測項目の全てである回帰式の回帰係数の確率分布を表す値を算出する。
【0023】
第1算出部12による回帰係数の確率分布を表す値の算出について更に説明する。正常稼働データD1は、
【数1】
と表される。すなわち、正常稼働データD1には、N個の正常稼働データセット{x}が含まれる。正常稼働データセット{x}は、同一の第1計測時点において取得された各計測項目であるD個の要素{x
1,x
2,…,x
i,…,x
D}を有する列ベクトルである。ここで、要素番号iは、1〜Dの整数値を取り得る変数である。
【0024】
下記式(2)に示されるように、診断項目x
iが目的変数であり、他の計測項目{z
i}が説明変数である回帰式が設定される。計測項目{z
i}は、(D−1)個の要素{x
1,…,x
i−1,x
i+1,…,x
D}を有する列ベクトルである。基底関数{Φ(z
i)}は、回帰式の形状を表す関数であり、M個の要素{Φ
1(z
i),…,Φ
M(z
i)}を有する列ベクトルである。基底関数{Φ(z
i)}は、設定パラメータD3として記憶装置20に予め記憶されている。基底関数{Φ(z
i)}、すなわち回帰式の形状は、診断項目x
iごとに設定されてよく、各診断項目x
iに共通であってもよい。回帰式は、任意の形状であってよい。回帰式は、例えば、目的変数が説明変数と回帰係数の線形結合により得られる線形式であってよいし、二次式等を含む非線形な式であってもよい。回帰係数{w}は、回帰式の回帰係数であるM個の要素{w
1,…,w
M}を有する列ベクトルである。回帰係数{w}は、診断項目x
iごとに設定される。精度βは、回帰係数{w}の確率分布を表す値の算出に用いられる変数である。精度βは、診断項目x
iごとに設定される。式(2)では、誤差εが、平均が0で標準偏差が精度βの逆数である正規分布に従うと仮定されている。なお、誤差εは、正規分布に従うと仮定されなくてもよい。
【数2】
【0025】
診断項目x
iの予測値の確率分布は、下記式(3)により表される。
【数3】
正常稼働データD1
【数4】
について、
【数5】
【数6】
【数7】
とすると、正常稼働データD1に関する尤度関数は、下記式(8)により表される。
【数8】
【0026】
異常診断装置1では、下記参考文献1に記載されたスパースベイジアン学習(SBL:SparseBayesian Learning)により、回帰係数{w}の確率分布を表す値が算出される。SBLは、回帰係数の確率分布が正規分布に従うと仮定した場合の回帰係数の確率分布を表す値を算出する手法である。SBLでは、回帰係数{w}に対して事前分布
【数9】
が設定される。ここで、行列{A}は、下記式(10)により表される。
【数10】
上記式(9)に示されるように、回帰係数{w}の確率分布は、正規分布の形式で表わされる。超パラメータ{α}は、回帰係数{w}の確率分布に関して設定されたパラメータであるM個の要素{α
1,…,α
M}を有する列ベクトルである。超パラメータ{α}は、回帰係数{w}ごとに設定される。
(参考文献1)Michael E. Tipping, “Sparse Bayesian Learning and the Relevance Vector Machine,” Journal of Machine Learning Research 1 (2001) 211-244
【0027】
回帰係数{w}の事後分布は、ベイズの定理により、
【数11】
となる。回帰係数{w}の事後分布の平均{m}は、下記式(12)により表され、分散{Σ}は、下記式(13)により表される。平均{m}は、M個の要素を有する列ベクトル、分散{Σ}は、M行M列の行列である。回帰係数{w}の事後分布は、平均{m}及び分散{Σ}により表される。すなわち、この例では、回帰係数{w}の確率分布を表す値は、平均{m}及び分散{Σ}である。
【数12】
【数13】
【0028】
第1算出部12は、正常稼働データD1に基づいて、回帰係数{w}に関する畳み込み積分
【数14】
を最大化する超パラメータ{α}及び精度βを算出する。第1算出部12は、算出した超パラメータ{α}及び精度βを用いて平均{m}及び分散{Σ}を算出する。第1算出部12は、算出した超パラメータ{α}、精度β、平均{m}、及び分散{Σ}を算出データD4として記憶装置20に記憶させる。
【0029】
上記式(12)により表される畳み込み積分を最大化する超パラメータ{α}及び精度βを算出するアルゴリズムを説明する。このアルゴリズムのインプットは、正常稼働データD1、基底関数{Φ(z
i)}及び超パラメータの最大値α
maxである。この超パラメータの最大値α
maxは、設定パラメータD3として記憶装置20に予め記憶されている。最大値α
maxは、例えば10
8程度の値に設定されてよい。アウトプットは、各診断項目x
iについての超パラメータ{α}、精度β、平均{m}、及び分散{Σ}である。以下では、1つの診断項目x
iについての超パラメータ{α}、精度β、平均{m}、及び分散{Σ}を算出する処理を説明するが、他の診断項目についても同様に算出される。
【0030】
まず、第1算出部12は、行列{A}及び精度βを初期化する(ステップS1)。続いて、第1算出部12は、基底関数{Φ(z
i)}を用いて、
【数15】
を算出する(ステップS2)。続いて、第1算出部12は、平均{m}及び分散{Σ}を上記式(12)及び式(13)により算出する(ステップS3)。ここで、分散Σの算出に際して逆行列計算が必要になる。この逆行列計算は、擬似逆行列で代用されてよい。擬似逆行列の算出に関する閾値は、設定パラメータD3として記憶装置20に予め記憶されている。続いて、第1算出部12は、超パラメータ{α}及び精度βを所定の更新式により算出(更新)する(ステップS4)。超パラメータ{α}及び精度βの更新式(算出式)としては、例えば下記参考文献1に記載されたものが用いられてよい。
(参考文献1)Michael E. Tipping, “SparseBayesian Learning and the Relevance Vector Machine,” Journal ofMachine Learning Research 1 (2001) 211-244
【0031】
続いて、第1算出部12は、超パラメータ{α}及び精度βの収束判定を行う(ステップS5)。具体的には、第1算出部12は、更新前の超パラメータ{α}の値と更新後の超パラメータ{α}の値との差の絶対値が所定の閾値よりも小さく、且つ更新前の精度βと更新後の精度βとの差の絶対値が所定の閾値よりも小さいか否かを判定する。これらの閾値は、設定パラメータD3として記憶装置20に予め記憶されている。第1算出部12は、判定の結果、超パラメータ{α}及び精度βのいずれかが収束していないと判定した場合(ステップS5でNO)、ステップS2に戻る。一方、第1算出部12は、超パラメータ{α}及び精度βの両方が収束したと判定した場合(ステップS5でYES)、現在の超パラメータ{α}及び精度βにより平均{m}及び分散{Σ}を算出する(ステップS6)。以上の処理により、診断項目x
iについての超パラメータ{α}、精度β、平均{m}、及び分散{Σ}が算出される。なお、上記収束計算の繰り返し回数が実行回数の上限値に達した場合には、収束計算が停止されてよい。この上限値は、設定パラメータD3として記憶装置20に予め記憶されている。
【0032】
図2及び
図3を参照して、回帰係数{w}の確率分布を表す値の算出について更に説明する。
図2に示されるように、超パラメータα
iが大きいほど、当該超パラメータα
iに対応する回帰係数w
iの事後分布が値0の近傍により集中する。回帰係数w
iが値0に近づくほど、当該回帰係数w
iに対応する基底関数Φ
i(z
i)が回帰式に及ぼす影響が小さくなる。
図3(b)では、計測項目w
i(2)に対応する基底関数Φ
i(z
i(2))が回帰式に及ぼす影響が、
図3(a)の場合の当該影響よりも小さくなっている。上述したようなアルゴリズムでは、最適な超パラメータ{α}の値は、上記式(14)の畳み込み積分を最大化する超パラメータ{α}である。上記式(14)の畳み込み積分を超パラメータα
iの関数とみなしたとき、上記式(14)は入力データである上記式(4)の値に応じて、単調増加関数又は極大値を1つだけ持つ関数となる。上記式(14)が単調増加関数である場合、最適な超パラメータα
iは無限大になるので、超パラメータ{α}の算出過程において、超パラメータα
iが大きくなり易い。これにより、後述する診断項目x
iの予測値の確率分布を表す値の算出の際に、当該超パラメータα
iに対応する基底関数Φ
i(z
i)についての計算が簡易化される。その結果、診断項目x
iの予測値の確率分布を表す値の算出に要する時間が低減される。
【0033】
第2算出部13は、上記回帰式、第1算出部12により算出された回帰係数{w}の確率分布を表す値、及び診断対象データD2に基づいて、各第2計測時点における各診断項目x
iの予測値の確率分布を表す値を算出する。具体的には、第2算出部13は、診断対象データD2
【数16】
の各第2計測時点tにおける各診断項目x
iの予測値の確率分布を表す値を、下記式(17)により算出する。第2算出部13は、算出した予測値の確率分布を表す値を算出データD4として記憶装置20に記憶させる。
【数17】
診断項目x
iの予測値の確率分布の予測平均μは、下記式(18)により表され、予測分散σ
2は、下記式(19)により表される。各診断項目x
iの予測値の確率分布は、予測平均μ及び予測分散σ
2により表される。すなわち、この例では、回帰係数{w}の確率分布を表す値は、予測平均μ及び予測分散σ
2である。
【数18】
【数19】
【0034】
異常判定部14は、診断対象データD2及び第2算出部13により算出された各診断項目x
iの予測値の確率分布を表す値に基づいて、各第2計測時点tにおける診断項目x
iの異常度である第1異常度d
iを算出する。具体的には、異常判定部14は、各第2計測時点tにおける各診断項目x
iの第1異常度d
iを、下記式(20)により算出する。すなわち、本実施形態では、異常判定部14は、各第2計測時点tについて、診断項目x
iの計測値と予測平均μとの差分を当該確率分布の予測標準偏差σで除した値を第1異常度d
iとして算出する。異常判定部14は、算出した第1異常度d
iを算出データD4として記憶装置20に記憶させる。
【数20】
【0035】
異常判定部14は、第1異常度d
iに基づいて各第2計測時点tにおける診断項目x
iの異常判定を行う。異常判定部14は、例えば、各第2計測時点tおける第1異常度d
iが所定の閾値(例えば、値3)よりも大きいか否かを判定する。一の第2計測時点tにおいて第1異常度d
iが当該閾値よりも大きいと判定した場合、当該第2計測時点tにおいて診断項目x
iに異常が発生していたと判定する。一方、第1異常度d
iが当該閾値以下であると判定した場合、当該第2計測時点tにおいて診断項目x
iに異常が発生していなかったと判定する。この異常判定に用いられる閾値は、設定パラメータD3として記憶装置20に予め記憶されている。異常判定部14は、異常判定の結果を診断結果データD5として記憶装置20に記憶させる。
【0036】
異常判定部14は、第1異常度d
iに基づいて各第2計測時点tにおける全体異常度を算出する。一の第2計測時点tにおける全体異常度は、例えば、当該第2計測時点tにおける各診断項目x
iの重み付き和である。この算出に用いられる重み係数は、設定パラメータD3として記憶装置20に予め記憶されている。重み係数は、例えば使用者によって設定される。異常判定部14は、全体異常度を診断結果データD5として記憶装置20に記憶させる。
【0037】
異常判定部14は、第1異常度d
iに基づいて、異常箇所を特定するための情報を算出(生成)する。この異常箇所の特定情報は、例えば、各第2計測時点tにおいて第1異常度d
iが最も大きかった診断項目x
iと、当該診断項目x
iの第1異常度d
iとを示す情報である。異常箇所の特定情報は、各第2計測時点tにおいて第1異常度d
iが大きかった順に並べられた複数の診断項目x
iと、当該診断項目x
iの第1異常度d
iとを示す情報であってもよい。
【0038】
図4を参照して、第1異常度d
iについて更に説明する。
図4に示されるように、第1異常度d
iは、診断項目x
iの計測値が予測平均μから予測標準偏差σの何倍離れているかを表す。
図4では、一例として、予測平均μを示す線分、及び予測平均μから予測標準偏差σの3倍離れた線分が示されている。異常診断装置1では、診断項目x
iの予測値の確率分布における予測標準偏差σが小さい場合に、診断項目x
iの計測値と予測平均μとの差分の大きさが第1異常度d
iに鋭敏に反映される。その結果、診断項目x
iの予測に関するばらつきの大きさが第1異常度d
iに反映されるので、診断項目x
iの異常判定における精度を向上することができる。
【0039】
出力部15は、算出データD4及び診断結果データD5を出力する出力手段として機能する。出力部15は、記憶装置20から算出データD4及び診断結果データD5を読み出し、出力装置3に送信する。出力装置3は、出力部15から算出データD4及び診断結果データD5を受信すると、受信した算出データD4及び診断結果データD5を診断結果として出力する。
【0040】
次に、
図5〜
図8を参照して、異常診断装置1が行う異常診断方法の一例を説明する。
図5に示されるように、この異常診断方法では、まず、第1算出部12が第1算出処理を実行する(ステップS11、第1ステップ)。続いて、第2算出部13が第2算出処理を実行する(ステップS12、第2ステップ)。続いて、異常判定部14が異常判定処理を実行する(ステップS13、第3ステップ)。続いて、出力部15が出力処理を実行する(ステップS14)。これらステップS11〜S14の処理は、任意のタイミングで実行されてよく、診断対象システムの停止中及び稼働中のいずれに実施されてもよい。
【0041】
図6を参照して第1算出処理(学習フェーズ)を説明する。まず、第1算出部12は、記憶装置20から正常稼働データD1を読み込む(ステップS21)。続いて、第1算出部12は、第1算出部12は、正常稼働データD1の前処理を行う(ステップS22)。具体的には、第1算出部12は、外れ値除去処理及び正規化処理を行う。外れ値除去処理では、第1算出部12は、例えば、予め設定された範囲から計測値が外れている計測項目のデータが除去する。この範囲は、設定パラメータD3として記憶装置20に予め記憶されていてよい。正規化処理では、第1算出部12は、例えば、各第1計測時点における各計測項目の計測値を、平均が値0で分散が値1となるように正規化する。このとき、第1算出部12は、正常稼働データD1の平均及び分散を設定パラメータD3として記憶装置20に記憶させてよい。続いて、第1算出部12は、各診断項目x
iについて、回帰式の回帰係数{w}の確率分布を表す値を算出する(ステップS23)。続いて、第1算出部12は、算出した回帰係数{w}の確率分布を表す値を算出データD4として記憶装置20に記憶させる(ステップS24)。
【0042】
図7を参照して第2算出処理(診断フェーズ)を説明する。まず、第2算出部13は、診断対象データD2及び第1算出部12により算出された回帰係数{w}の確率分布を表す値を記憶装置20から読み込む(ステップS31)。続いて、第2算出部13は、診断対象データD2の前処理を行う(ステップS31)。具体的には、第2算出部13は、外れ値除去処理及び正規化処理を行う。外れ値除去処理では、第2算出部13は、予め設定された範囲から計測値が外れている計測項目のデータを除去する。この範囲は、例えば、上述したステップS22の範囲と同一である。正規化処理では、上記ステップS22において記憶装置20に記憶された平均及び分散が用いられる。続いて、第2算出部13は、各診断項目x
iについて、各第2計測時点tにおける各診断項目x
iの予測値の確率分布を表す値を算出する(ステップS33)。続いて、第2算出部13は、算出した予測値の確率分布を表す値を算出データD4として記憶装置20に記憶させる(ステップS34)。
【0043】
図8を参照して異常判定処理(異常判定フェーズ)を説明する。まず、異常判定部14は、診断対象データD2及び第2算出部13により算出された各診断項目x
iの予測値の確率分布を表す値を記憶装置20から読み込む(ステップS41)。続いて、異常判定部14は、各第2計測時点tにおける各診断項目x
iの第1異常度d
iを算出する(ステップS42)。続いて、異常判定部14は、第1異常度d
iに基づいて各第2計測時点tにおける各診断項目x
iの異常判定を行う(ステップS43)。続いて、異常判定部14は、全体異常度を算出する(ステップS44)。続いて、異常判定部14は、異常箇所の特定情報を算出する(ステップS45)。続いて、異常判定部14は、第1異常度d
i、異常判定の結果、全体異常度、及び異常箇所の特定情報を診断結果データD5として記憶装置20に記憶させる。
【0044】
出力処理では、出力部15は、記憶装置20から診断結果データD5を読み出し、出力装置3に送信する(ステップS14)。
【0045】
次に、
図9を参照しながら、コンピュータを異常診断装置1として機能させるための異常診断プログラムPを説明する。
【0046】
異常診断プログラムPは、メインモジュールP10、入力モジュールP11、第1算出モジュールP12、第2算出モジュールP13、異常判定モジュールP14、及び出力モジュールP15を備える。メインモジュールP10は、異常診断に係る処理を統括的に制御する部分である。入力モジュールP11、第1算出モジュールP12、第2算出モジュールP13、異常判定モジュールP14、及び出力モジュールP15を実行することにより実現される機能はそれぞれ、上記各実施形態における入力部11、第1算出部12、第2算出部13、異常判定部14、及び出力部15の機能と同様である。すなわち、異常診断プログラムPは、第1算出処理、第2算出処理、異常判定処理、及び出力処理をコンピュータに実行させる。
【0047】
異常診断プログラムPは、CD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD−ROM(DigitalVersatile Disk Read Only Memory)、又は半導体メモリ等の有形の記録媒体に固定的に記録された状態で提供されてよい。あるいは、異常診断プログラムPは、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0048】
以上説明した本実施形態の異常診断方法、異常診断装置1、及び異常診断プログラムPでは、診断の対象となる第2時間帯の各第2計測時点tにおける診断項目x
iの異常度である第1異常度d
iが算出される。これにより、診断の対象となる第2時間帯に各診断項目x
iに異常が生じていたかどうかを判定することができる。また、第1異常度d
iは、各第2計測時点tにおける各診断項目x
iの予測値の確率分布を表す値に基づいて算出される。これにより、計測値と予測値の確率分布との比較に基づいて異常判定を行うことができるので、異常判定を容易に行うことが可能となる。また、診断項目x
iごとに第1異常度d
iが算出される。これにより、上記実施形態のように複数の診断項目x
iが設定されている場合でも、異常箇所の特定を容易に行うことが可能となる。このように、本実施形態の異常診断方法、異常診断装置1、及び異常診断プログラムPでは、異常判定の容易化及び異常箇所の特定の容易化が図られている。
【0049】
上述したように、上記特許文献1に記載された方法において異常度として用いられるMD値は、全ての計測項目のデータが混合されて得られる値である。そのため、異常度の意味が使用者にとって直感的に分かり難い。これに対して、本実施形態の異常診断方法、異常診断装置1、及び異常診断プログラムPでは、第1異常度d
iは計測値と予測値の確率分布との比較に基づくので、第1異常度d
iが使用者に呈示されることにより、使用者は、計測値と予測値との間の乖離の大きさを直感的に把握することが可能となる。例えば、上述したように、本実施形態では、第1異常度d
iは、診断項目x
iの計測値が予測平均μから予測標準偏差σの何倍離れているかが表す。そのため、第1異常度d
iが使用者に呈示されることにより、使用者は、計測値と予測値との間の乖離の大きさを直感的に把握することができる。なお、例えば、診断項目x
iの予測値の確率分布と計測値とを使用者に呈示することによっても、使用者は、計測値と予測値との間の乖離の大きさを直感的に把握することができる。
【0050】
第1算出処理では、回帰係数{w}の確率分布が正規分布に従うと仮定した場合の回帰係数{w}の確率分布を表す値が算出され、第2算出処理では、回帰係数{w}の確率分布が正規分布に従うと仮定した場合の各第2計測時点tにおける各診断項目x
iの予測値の確率分布を表す値が算出される。これにより、各第2計測時点tにおける各診断項目x
iの予測値の確率分布を表す値の算出に要する時間を低減することができる。更に、診断項目x
iの予測値の確率分布を表す値の算出過程において当該確率分布の予測平均μ及び予測標準偏差σが算出されるので、第1異常度d
iの算出が容易化される。
【0051】
異常判定処理では、各第2計測時点tについて、各診断項目x
iの計測値と各診断項目x
iの予測値の確率分布における予測平均μとの差分を当該確率分布の予測標準偏差σで除した値が第1異常度d
iとして算出される。これにより、診断項目x
iの予測値の確率分布における予測標準偏差σが小さい場合に、計測値と予測平均μとの差分の大きさが第1異常度d
iに鋭敏に反映される。その結果、予測標準偏差σの大きさ、すなわち診断項目x
iの予測に関するばらつきの大きさが第1異常度d
iに反映されるので、診断項目x
iの異常判定における精度を向上することができる。
【0052】
本実施形態の異常診断方法、異常診断装置1、及び異常診断プログラムPでは、第1異常度d
iが使用者に呈示されることにより、使用者は、各第2計測時点tにおける各診断項目x
iの異常の程度を把握することができる。異常判定の結果が使用者に呈示されることにより、使用者は、各第2計測時点tにおける各診断項目x
iの異常の有無を把握することができる。全体異常度が使用者に呈示されることにより、使用者は、各第2計測時点tにおける診断対象システム全体の異常の程度を把握することができる。また、全体異常度が呈示されることにより、使用者が監視すべき異常度の数を減らすことができる。また、使用者は、重み係数を調整することにより、重点的に監視すべき診断項目x
iと監視の優先度が低い診断項目x
iとを選択することができる。異常箇所の特定情報が使用者に呈示されることにより、使用者は、診断対象システムのどの箇所において第1異常度d
iが高くなっていたかを把握することができる。また、異常箇所の特定情報が使用者に呈示されることにより、使用者は、異常が発生している場合に、異常箇所を特定することができる。
【0053】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られない。上記実施形態において、第1算出部12は、正常稼働データD1、回帰式、及びステップS23で算出した回帰係数{w}の確率分布を表す値に基づいて、各第1計測時点における各診断項目x
iの予測値の確率分布を表す値を算出してもよい(第4ステップ)。この算出は、ステップS33の算出と同様に行うことができる。第4ステップは、例えばステップS23の後に実行される。第1算出部12は、正常稼働データD1、及び第4ステップで算出した各診断項目x
iの予測値の確率分布を表す値に基づいて、各第1計測時点における診断項目x
iの異常度である第2異常度e
iを算出してもよい(第5ステップ)。この算出は、ステップS42の算出と同様に行うことができる。第5ステップは、第4ステップの後に実行される。ステップS24では、第1算出部12は、上述した処理に加えて、算出した予測値の確率分布を表す値及び第2異常度e
iを算出データD4として記憶装置20に記憶させてよい。ステップS43では、異常判定部14は、第1異常度d
i及び第2異常度e
iに基づいて各第2計測時点tにおける各診断項目x
iの異常判定を行ってもよい。異常判定部14は、例えば、各第1計測時点における診断項目x
iの異常度である第2異常度e
iの平均及び分散に基づいて、第1異常度d
iの異常判定に用いる閾値を決定してもよい。これにより、第1異常度d
iだけでなく、診断対象システムが正常に稼働している第1時間帯の各第1計測時点における診断項目x
iの異常度である第2異常度e
iにも基づいて各診断項目x
iの異常判定が行われる。その結果、診断項目x
iの異常判定における精度を一層向上することができる。
【0054】
回帰式は、目的変数が計測項目のうちの一の診断項目であり、説明変数が他の計測項目の一部であるものであってもよい。例えば、相関が無いことが既知である計測項目については、説明変数から除外されてもよい。すなわち、説明変数は、他の計測項目の少なくとも1つであればよい。上記実施形態では、計測項目の全てが診断項目とされたが、計測項目の一部が診断項目とされてもよい。つまり、診断項目とされない計測項目が存在してもよい。診断項目とされる計測項目は、例えば使用者によって選択されてよい。診断項目は、1つであってもよい。第2計測時点は、1つの時点であってもよい。
【0055】
回帰係数{w}の確率分布の算出にSBLが用いられなくてもよい。つまり、回帰係数の確率分布が正規分布に従うと仮定した場合の回帰係数の確率分布を表す値及び予測値の確率分布を表す値が算出されなくてもよい。この場合、例えば、マルコフ連鎖モンテカルロ法等により回帰係数の確率分布を表す値及び予測値の確率分布を表す値が数値的に算出されてもよい。この場合、回帰係数の確率分布を表す値及び予測値の確率分布を表す値は、各確率変数についての確率の値であってよい。また、回帰係数の確率分布を表す値及び予測値の確率分布を表す値は、平均、分散、及び各確率変数についての確率の値に限られず、確率分布を表現する他の統計量等であってもよい。また、第1異常度d
iは、例えば、予測値の確率分布の代表値(例えば、平均値、最頻値、又は中央値等)と計測値との差分を定数倍したものであってよい。第1異常度d
iは、診断項目x
iの計測値と予測平均μとの差分を定数倍したものであってもよい。第1異常度d
iに基づいて診断項目x
iの異常判定が行われればよく、第1異常度d
iは使用者に呈示されなくてもよい。また、全体異常度は算出されなくてもよく、異常箇所の特定情報は算出されなくてもよい。
【0056】
基底関数は、カーネル法を用いてカーネル関数として設定されてもよい。この場合、カーネル関数は、線形カーネル、多項式カーネル、又はガウシアンカーネル等であってよい。SBLにおいて基底関数としてカーネル関数が設定される場合の学習法は、関連ベクトルマシン(Relevance Vector Machines:RVMs)と呼ばれる場合がある。