特許第6658523号(P6658523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6658523エステルの製造方法、及びエステルの製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6658523
(24)【登録日】2020年2月10日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】エステルの製造方法、及びエステルの製造装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/36 20060101AFI20200220BHJP
   C07C 68/00 20200101ALI20200220BHJP
   C07C 69/36 20060101ALI20200220BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20200220BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200220BHJP
【FI】
   C07C67/36
   C07C68/00 A
   C07C69/36
   C07C69/96 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】16
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2016-531470(P2016-531470)
(86)(22)【出願日】2015年7月3日
(86)【国際出願番号】JP2015069258
(87)【国際公開番号】WO2016002927
(87)【国際公開日】20160107
【審査請求日】2018年6月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-138881(P2014-138881)
(32)【優先日】2014年7月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】井伊 宏文
(72)【発明者】
【氏名】福井 裕也
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀二
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−091484(JP,A)
【文献】 相吉 英太郎,自動制御ハンドブック,株式会社 オーム社,第1版
【文献】 大志万 繼影,技術ノート(公害ガス分析計), OYO BUTURI,中門 留一 社団法人応用物理学会,第42巻
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/36
C07C 68/00
C07C 69/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素と亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを第1反応器に導入し、触媒の存在下で反応させて、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを得る工程と、
前記第2ガスを吸収液と接触させて、前記エステルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る工程と、
前記非凝縮ガス及び酸素ガスを混合して得られた混合ガスとアルコールとを第2反応器に導入して、亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第3ガスを得る工程と、
前記凝縮液を蒸留して前記エステルを得る工程と、
前記第3ガスと一酸化炭素とを混合して前記第1ガスを得る工程と、
前記第2反応器の底部から排出される、水と硝酸とアルコールとを含有する塔底液と、前記非凝縮ガスと、を第3反応器に供給して亜硝酸エステルを含む第4ガスを生成させ、前記第4ガスを前記第2反応器に供給する工程と、
前記第1ガス及び/又は前記第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定し、該濃度に基づいて、前記第3反応器に供給する前記非凝縮ガスの量を調整する工程、並びに、前記濃度に基づいて、前記第3反応器に供給する硝酸の量を調整する工程の少なくとも一方の工程と、を有する、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルの製造方法。
【請求項2】
一酸化炭素と亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを第1反応器に導入し、触媒の存在下で反応させて、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを得る工程と、
前記第2ガスを吸収液と接触させて、前記エステルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る工程と、
前記非凝縮ガス及び酸素ガスを混合して得られた混合ガスとアルコールとを第2反応器に導入して、亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第3ガスを得る工程と、
前記凝縮液を蒸留して前記エステルを得る工程と、
前記第3ガスと一酸化炭素とを混合して前記第1ガスを得る工程と、
前記第1ガス及び/又は前記第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を非分散赤外線分析によって測定し、該濃度に基づいて、前記非凝縮ガスに混合する一酸化窒素の量を調整する工程と、を有し、
前記非分散赤外線分析では、前記第1ガス及び/又は前記第3ガスを流通させる測定セルと、アンモニアが封入された検出器と、を備える赤外線分析計を用いる、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルの製造方法。
【請求項3】
前記第1ガス及び/又は前記第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を、非分散赤外線分析によって測定する、請求項に記載のエステルの製造方法。
【請求項4】
前記非分散赤外線分析では、前記第1ガス及び/又は前記第3ガスを流通させる測定セルと、アンモニアが封入された検出器と、を備える赤外線分析計を用いる、請求項3に記載のエステルの製造方法。
【請求項5】
前記第1ガス及び/又は前記第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を測定し、該濃度に基づいて、前記非凝縮ガスに混合する前記酸素ガスの量を調整する工程を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のエステルの製造方法。
【請求項6】
前記第1ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を、前記第1ガス全体を基準として、5〜25体積%に維持する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のエステルの製造方法。
【請求項7】
前記第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を、前記第3ガス全体を基準として、5〜30体積%に維持する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のエステルの製造方法。
【請求項8】
一酸化炭素と亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを、触媒の存在下で反応させて、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを得る第1反応器と、
前記第2ガスと吸収液とを接触させて、前記エステルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとに分離する吸収塔と、
前記非凝縮ガス及び酸素ガスを含む混合ガスとアルコールとを導入して、亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第3ガスを得る第2反応器と、
前記凝縮液を蒸留して前記エステルを得る蒸留塔と、
前記第3ガスと一酸化炭素とを合流させて第1ガスを得る合流部と、
前記第2反応器の底部から排出される、水と硝酸とアルコールとを含有する塔底液と、前記非凝縮ガスと、から亜硝酸エステルを含む第4ガスを生成させ、前記第4ガスを前記第2反応器に供給する第3反応器と、
前記第1ガス及び/又は前記第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定する第1測定部と、
前記濃度に基づいて、前記第3反応器に供給する前記非凝縮ガスの量を調整する第1流量調整部、及び、前記第3反応器への硝酸の供給量を調整する第2流量調整部の少なくとも一方と、を備える、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルの製造装置。
【請求項9】
一酸化炭素と亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを、触媒の存在下で反応させて、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを得る第1反応器と、
前記第2ガスと吸収液とを接触させて、前記エステルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとに分離する吸収塔と、
前記非凝縮ガス及び酸素ガスを含む混合ガスとアルコールとを導入して、亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第3ガスを生成する第2反応器と、
前記凝縮液を蒸留して前記エステルを得る蒸留塔と、
前記第3ガスと一酸化炭素とを合流させて第1ガスを得る合流部と、
前記第1ガス及び/又は前記第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定する第1測定部と、
前記濃度に基づいて、前記非凝縮ガスに混合する一酸化窒素の量を調整する第3流量調整部と、を備え
前記第1測定部は非分散赤外線分析計を備え、
前記非分散赤外線分析計は、前記第1ガス及び/又は第3ガスを流通させる測定セルと、アンモニアが封入された検出器を備える、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルの製造装置。
【請求項10】
前記第1ガスにおける前記亜硝酸エステルの濃度が、前記第1ガス全体を基準として、5〜25体積%となるように、前記第1流量調整部及び前記第2流量調整部の少なくとも一方を制御する制御部を有する、請求項8に記載のエステルの製造装置。
【請求項11】
前記第3ガスにおける前記亜硝酸エステルの濃度が、前記第3ガス全体を基準として、5〜30体積%となるように、前記第1流量調整部及び前記第2流量調整部の少なくとも一方を制御する制御部を有する、請求項8又は10に記載のエステルの製造装置。
【請求項12】
前記第1ガスにおける前記亜硝酸エステルの濃度が、前記第1ガス全体を基準として、5〜25体積%となるように、前記第3流量調整部を制御する制御部を有する、請求項9に記載のエステルの製造装置。
【請求項13】
前記第3ガスにおける前記亜硝酸エステルの濃度が、前記第3ガス全体を基準として、5〜30体積%となるように、前記第3流量調整部を制御する制御部を有する、請求項9又は12に記載のエステルの製造装置。
【請求項14】
前記第1測定部は非分散赤外線分析計を備える、請求項8、10及び11のいずれか一項に記載のエステルの製造装置。
【請求項15】
前記非分散赤外線分析計は、前記第1ガス及び/又は第3ガスを流通させる測定セルと、アンモニアが封入された検出器を備える、請求項14に記載のエステルの製造装置。
【請求項16】
前記第1ガス及び/又は前記第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を測定する第2測定部と、
前記濃度に基づいて、前記非凝縮ガスに混合する前記酸素ガスの量を調整する第4流量調整部と、を備える、請求項8〜15のいずれか一項に記載のエステルの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エステルの製造方法、及びエステルの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸エステルは、芳香族ポリカーボネート及び医農薬等の合成原料として有用な化合物である。シュウ酸エステルも、グリコール類、染料中間体、及び医薬などの合成原料として有用な化合物である。従来から、これらの化合物を連続的に量産するための方法が提案されている。
【0003】
炭酸エステルを連続的に製造するプロセスとしては、白金族金属系固体触媒の存在下、一酸化炭素と亜硝酸エステルとを用い、気相反応によって合成を行うプロセスが知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなプロセスでは、炭酸エステルを、以下の反応式(i)によって得ることができる。
CO+2RONO → ROC(=O)OR+2NO (i)
【0004】
式(i)の反応で得られるNOは、反応塔(再生塔)において、下記の式(ii)によってアルコールと反応して、亜硝酸エステルを生成する。この反応で得られた亜硝酸エステルを再利用するとともに、一酸化炭素を新たに供給することによって、炭酸エステルを連続的に製造することができる。シュウ酸エステルも、同様のプロセスで連続的に製造することができる(例えば、特許文献2参照)。このように、炭酸エステル及びシュウ酸エステルは、亜硝酸エステル等の窒素分を循環して製造される。
2NO+1/2O+2ROH → 2RONO+HO (ii)
【0005】
上述のようなプロセスでは、反応塔において式(iii)の反応も進行する。このような反応で生成したHNOは、反応塔の底部より抜き出される。特許文献3では、このようにして生成したHNOを硝酸濃縮塔に導入して、硝酸の有効利用を図り、窒素分の損失を低減することが提案されている。
NO+3/4O+1/2HO → HNO (iii)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−323470号公報
【特許文献2】特開平11−279116号公報
【特許文献3】国際公開公報2013/150840号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の特許文献に記載された製造方法では、亜硝酸エステルを再生しながら触媒反応によって、所望の化合物を製造している。このような製造方法では、スケールアップによって大量生産することが可能であるが、安定的に効率よく製造を継続する技術を確立することが求められる。これは、連続的な製造が一旦途切れてしまうと、装置の運転開始操作及び運転停止操作など煩雑な操作が必要になるうえに、運転停止に伴う機会損失が大きくなってしまうためである。
【0008】
安定的に製造を継続するためには、反応器の触媒の活性を維持しつつ安定的に運転を継続することが求められる。このような触媒を用いる反応では、反応する成分の濃度が過小になると反応速度が小さくなり、目的生成物の生産量が低下する。例えば、原料中の亜硝酸エステルの濃度が過小になると、目的生成物である炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルの生産量が低下してしまう。一方、亜硝酸エステルの濃度が過大になると、運転の安全性が損なわれることが懸念される。このため、反応器に供給される原料の組成の変動を抑制することが求められる。
【0009】
そこで、本発明は、一つの側面において、安定的に炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルを製造することが可能な製造方法を提供することを目的とする。また、本発明では、別の側面において、安定的に炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルを製造することが可能な製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一つの側面において、
一酸化炭素と亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを第1反応器に導入し、触媒の存在下で反応させて、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを得る工程と、
前記第2ガスを吸収液と接触させて、前記エステルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る工程と、
前記非凝縮ガス及び酸素ガスを混合して得られた混合ガスとアルコールとを第2反応器に導入して、亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第3ガスを得る工程と、
前記凝縮液を蒸留して前記エステルを得る工程と、
前記第3ガスと一酸化炭素とを混合して前記第1ガスを得る工程と、
前記第2反応器の底部から排出される、水と硝酸とアルコールとを含有する塔底液と、前記非凝縮ガスと、を第3反応器に供給して亜硝酸エステルを含む第4ガスを生成させ、前記第4ガスを前記第2反応器に供給する工程と、
前記第1ガス及び/又は前記第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定し、該濃度に基づいて、前記第3反応器に供給する前記非凝縮ガスの量を調整する工程、並びに、上記濃度に基づいて、前記第3反応器に供給する硝酸の量を調整する工程の少なくとも一方の工程と、を有する、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルの製造方法を提供する。
【0011】
上述の製造方法では、一酸化窒素及び亜硝酸エステルを含有する第3ガスと一酸化炭素とを混合して得られる第1ガスから、第1反応器の触媒を用いて、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを得る工程を有している。そして、第1ガス及び/又は第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定し、該濃度に基づいて、第3反応器に供給する非凝縮ガスの量を調整する工程、及び、上記濃度に基づいて、前記第3反応器に供給する硝酸の量を調整する工程の少なくとも一方の工程を有している。この工程によって、第3反応器における亜硝酸エステルの生成量を調整することができる。その結果、第1ガス及び/又は第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度変動を十分に低減することができる。したがって、第1反応器における反応速度の低下を抑制して、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を効率的に生成することができる。また、第1ガス及び第3ガス中の亜硝酸エステルの濃度が過大となることが抑制され、安全性を向上することができる。
【0012】
本発明は、別の側面において、
一酸化炭素と亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを第1反応器に導入し、触媒の存在下で反応させて、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを得る工程と、
前記第2ガスを吸収液と接触させて、前記エステルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る工程と、
前記非凝縮ガス及び酸素ガスを混合して得られた混合ガスとアルコールとを第2反応器に導入して、亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第3ガスを得る工程と、
前記凝縮液を蒸留して前記エステルを得る工程と、
前記第3ガスと一酸化炭素とを混合して前記第1ガスを得る工程と、
前記第1ガス及び/又は前記第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定し、該濃度に基づいて、前記非凝縮ガスに混合する一酸化窒素の量を調整する工程と、を有する、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルの製造方法を提供する。
【0013】
上述の製造方法では、一酸化窒素及び亜硝酸エステルを含有する第3ガスと一酸化炭素とを混合して得られる第1ガスから、第1反応器の触媒を用いて、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方と一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成させている。このとき、第1ガス及び/又は第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定し、該濃度に基づいて非凝縮ガスに混合する一酸化窒素の量を調整している。これによって、第2反応器における亜硝酸エステルの生成量を調整することができる。その結果、第1ガス及び/又は第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度変動を十分に低減することができる。したがって、第1反応器における反応速度の低下を抑制して、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を効率的に生成することができる。また、第1ガス及び第3ガス中の亜硝酸エステルの濃度が過大となることが抑制され、安全性を向上することができる。
【0014】
幾つかの実施形態においては、第1ガス及び/又は第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を、非分散赤外線分析によって測定してもよい。非分散赤外線分析であれば、ガスクロマトグラフ分析等の他の分析方法に比べて、迅速に亜硝酸エステルの濃度を測定することができる。これによって、第3反応器に供給する非凝縮ガスの量の調整、及び/又は、非凝縮ガスに混合する一酸化窒素の供給量の調整を迅速に行うことができる。したがって、第1ガスにおける亜硝酸エステルの濃度の変動を一層低減することができる。
【0015】
非分散赤外線分析では、第1ガス及び/又は第3ガスを流通させる測定セルと、アンモニアが封入された検出器と、を備える赤外線分析計を用いて、第1ガス及び/又は第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定してもよい。アンモニアは、亜硝酸エステルの赤外線吸収ピークの波数域と同じ波数域に、吸収ピークを有する。そして、アンモニアは、亜硝酸エステルよりも安全性に優れる。したがって、アンモニアが封入された検出器を用いることによって、安全性を高めつつ亜硝酸エステルの濃度を高い精度で測定することができる。
【0016】
幾つかの実施形態においては、第1ガス及び/又は第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を測定し、該濃度に基づいて、非凝縮ガスに混合する酸素ガスの量を調整する工程を有していてもよい。一酸化窒素は、第1反応器の触媒の活性に悪影響を及ぼさないことから、第1ガス及び第3ガス中には、一酸化窒素を酸素ガスよりも高い濃度で存在させることができる。このため、第1ガス及び第3ガスにおける一酸化窒素の濃度は、(分子状)酸素の濃度よりも精度よく検知することができる。そして、第1ガス及び第3ガスにおける一酸化窒素の濃度と酸素の濃度とには密接な関係がある。このため、一酸化窒素の濃度を測定することによって、第1ガス及び第3ガスにおける酸素濃度を直接測定しなくても、第1ガスにおける酸素濃度を精度よく監視することができる。これによって、酸素ガスによる触媒の活性低下及び劣化を一層抑制することができる。
【0017】
上述の製造方法では、第1ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を、第1ガス全体を基準として、例えば5〜25体積%に維持してもよい。これによって、安全性を十分に高めつつ、触媒の活性を十分に活用して炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を効率的に製造することができる。
【0018】
上述の製造方法では、第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を、第3ガス全体を基準として、5〜30体積%に維持してもよい。これによって、安全性を十分に高めつつ、触媒の活性を十分に活用して炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を効率的に製造することができる。
【0019】
本発明は、さらに別の側面において、
一酸化炭素と亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを、触媒の存在下で反応させて、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを得る第1反応器と、
前記第2ガスと吸収液とを接触させて、前記エステルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとに分離する吸収塔と、
前記非凝縮ガス及び酸素ガスを含む混合ガスとアルコールとを導入して、亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第3ガスを得る第2反応器と、
前記凝縮液を蒸留して前記エステルを得る蒸留塔と、
前記第3ガスと一酸化炭素とを合流させて第1ガスを得る合流部と、
前記第2反応器の底部から排出される、水と硝酸とアルコールとを含有する塔底液と、前記非凝縮ガスと、から亜硝酸エステルを含む第4ガスを生成させ、前記第4ガスを前記第2反応器に供給する第3反応器と、
前記第1ガス及び/又は前記第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定する第1測定部と、
前記濃度に基づいて、前記第3反応器に供給する前記非凝縮ガスの量を調整する第1流量調整部、及び、前記第3反応器への硝酸の供給量を調整する第2流量調整部の少なくとも一方と、を備える、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルの製造装置を提供する。
【0020】
上述の製造装置では、触媒を有する第1反応器を備える。第1反応器では、一酸化窒素及び亜硝酸エステルを含有する第3ガスと一酸化炭素とを合流させて得られる第1ガスから、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方と一酸化窒素とを含有する第2ガスを得る。そして、上述の製造装置は、第1ガス及び/又は第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定する第1測定部と、該濃度に基づいて、第3反応器に供給する非凝縮ガスの量を調整する第1流量調整部、及び第3反応器への硝酸の供給量を調整する第2流量調整部の少なくとも一方とを備えている。
【0021】
これによって、第3反応器における亜硝酸エステルの生成量を調整することができる。その結果、第1ガス及び/又は第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度変動を十分に低減することができる。したがって、第1反応器における反応速度の低下を抑制して、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を効率的に生成することができる。また、第1ガス及び第3ガス中の亜硝酸エステルの濃度が過大となることが抑制され、安全性を向上することができる。
【0022】
本発明は、さらに別の側面において、
一酸化炭素と亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを、触媒の存在下で反応させて、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを得る第1反応器と、
前記第2ガスと吸収液とを接触させて、前記エステルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとに分離する吸収塔と、
前記非凝縮ガス及び酸素ガスを含む混合ガスとアルコールとを導入して、亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第3ガスを生成する第2反応器と、
前記凝縮液を蒸留して前記エステルを得る蒸留塔と、
前記第3ガスと一酸化炭素とを合流させて第1ガスを得る合流部と、
前記第1ガス及び/又は前記第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定する第1測定部と、
前記濃度に基づいて、前記非凝縮ガスに混合する一酸化窒素の量を調整する第3流量調整部と、を備える、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルの製造装置を提供する。
【0023】
上述の製造装置では、触媒を有する第1反応器を備える。第1反応器では、一酸化窒素及び亜硝酸エステルを含有する第3ガスと一酸化炭素とを合流させて得られる第1ガスから、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方と一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成する。そして、第1ガス及び/又は第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定する第1測定部と、該濃度に基づいて非凝縮ガスに混合する一酸化窒素の量を調整する第1流量調整部とを備えている。これによって、第2反応器における亜硝酸エステルの生成量を調整することができる。その結果、第1ガス及び/又は第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度変動を十分に低減することができる。したがって、第1反応器における反応速度の低下を抑制して、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を効率的に生成することができる。また、第1ガス及び第3ガス中の亜硝酸エステルの濃度が過大となることが抑制され、安全性を向上することができる。
【0024】
幾つかの実施形態では、第1ガスにおける亜硝酸エステルの濃度が、第1ガス全体を基準として、5〜25体積%となるように、第1流量調整部、第2流量調整部及び第3流量調整部から選ばれる少なくとも一つを制御する制御部を有していてもよい。これによって、安全性を十分に高めつつ、触媒の活性を十分に活用して炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を効率的に製造することができる。また、別の幾つかの実施形態では、第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度が、第3ガス全体を基準として、5〜30体積%となるように、第1流量調整部、第2流量調整部及び第3流量調整部から選ばれる少なくとも一つを制御する制御部を有していてもよい。これによって、安全性を十分に高めつつ、触媒の活性を十分に活用して炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を効率的に製造することができる。
【0025】
第1測定部は非分散赤外線分析計であってもよい。非分散赤外線分析計は、ガスクロマトグラフ分析計等の他の分析計に比べて、迅速に亜硝酸エステルの濃度を測定することができる。非分散赤外線分析計を用いて亜硝酸エステルの濃度を測定することによって、流量調整部による調整を迅速に行うことができる。したがって、第1ガスにおける亜硝酸エステルの濃度の変動を一層低減することができる。
【0026】
上記非分散赤外線分析計は、第1ガス及び/又は第3ガスを流通させる測定セルと、アンモニアが封入された検出器を備えており、測定セル中の第1ガス及び/又は第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定できるように構成されていてもよい。アンモニアは、測定対象である亜硝酸エステルよりも安全性に優れる。アンモニアは、亜硝酸エステルの赤外線吸収ピークの波数域と同じ波数域に、吸収ピークを有する。したがって、アンモニアが封入された検出器を用いることによって、安全性を高めつつ亜硝酸エステルの濃度を高い精度で測定することができる。
【0027】
幾つかの実施形態では、第1ガス及び/又は第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を測定する第2測定部と、該濃度に基づいて、非凝縮ガスに混合する酸素ガスの量を調整する第4流量調整部と、を備えていてもよい。一酸化窒素は、第1反応器の触媒の活性に悪影響を及ぼさないことから、第1ガス及び第3ガス中には、一酸化窒素を酸素よりも高い濃度で存在させることができる。このため、第1ガス及び第3ガスにおける一酸化窒素の濃度は、酸素ガスの濃度よりも精度よく測定することができる。そして、第1ガス及び第3ガスにおける一酸化窒素の濃度と(分子状)酸素の濃度とには密接な関係がある。このため、一酸化窒素の濃度を測定する第2測定部を備えることによって、第1ガス及び第3ガスにおける酸素濃度を直接測定しなくても、第1ガスにおける酸素濃度を精度よく監視することができる。これによって、酸素ガスによる触媒の活性低下及び劣化を一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、一つの側面において、安定的に炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルを製造することが可能な製造方法を提供することができる。また、本発明は、別の側面において、安定的に炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルを製造することが可能な製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、一実施形態に係るエステルの製造装置を模式的に示す図である。
図2図2は、図1の実施形態に適用される非凝縮ガスの流量の調整方法を示すフローチャートである。
図3図3は、制御部のハードウェア構成図である。
図4図4は、一実施形態で用いられる非分散赤外線分析計の一例を示す図である。
図5図5は、アンモニアの吸収スペクトルを示す図である。
図6図6は、亜硝酸エステルの吸収スペクトルを示す図である。
図7図7は、一酸化窒素の吸収スペクトルを示す図である。
図8図8は、一酸化炭素の吸収スペクトルを示す図である。
図9図9は、一実施形態に適用される酸素ガスの流量の調整方法を示すフローチャートである。
図10図10は、別の実施形態に係るエステルの製造装置を模式的に示す図である。
図11図11は、図10の実施形態に適用される硝酸の流量の調整方法を示すフローチャートである。
図12図12は、さらに別の実施形態に係るエステルの製造装置を模式的に示す図である。
図13図13は、図12の実施形態に適用される非凝縮ガス及び硝酸の流量の調整方法を示すフローチャートである。
図14図14は、さらに別の実施形態に係るエステルの製造装置を模式的に示す図である。
図15図15は、図14の実施形態に適用される一酸化窒素の流量の調整方法を示すフローチャートである。
図16図16は、さらに別の実施形態に係るエステルの製造装置を模式的に示す図である。
図17図17は、一実施形態に係るエステルの製造装置における第3反応器の変形例を模式的に示す図である。
図18図18は、一実施形態に係るエステルの製造装置における第3反応器の別の変形例を模式的に示す図である。
図19図19は、一実施形態に係るエステルの製造装置の第3反応器のさらに別の変形例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、場合により図面を参照して、本発明の幾つかの実施形態を説明する。ただし、以下の幾つかの実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0031】
図1は、炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルを含むエステルの製造装置の一実施形態を模式的に示す図である。製造装置100は、一酸化炭素と亜硝酸エステルとを反応させて、炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルと一酸化窒素とを生成する触媒を有し、一酸化炭素と亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第1ガスから炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成する第1反応器10と、第2ガスと炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルを吸収する吸収液とを接触させて、炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとに分離する吸収塔20と、非凝縮ガス及び酸素ガスの混合ガスとアルコールとを導入し、一酸化窒素、酸素及びアルコールを反応させて、亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第3ガスを生成する第2反応器30と、第3ガスと一酸化炭素とを合流させて第1ガスを得る合流部55と、を備える。
【0032】
合流部55で得られた第1ガスは、第1反応器10に供給される。このように、製造装置100は、原料であるCOを連続的に供給しながら、窒素成分を循環させて、目的生成物である炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルを含むエステルを連続的に製造する。NO及び亜硝酸エステル等の窒素成分は、製造装置100内を循環しながら再利用される。第2反応器30の底部から排出される塔底液には、水の他に、硝酸及びアルコール等が含まれている。そこで、製造装置100は、第2反応器30の底部から供給される、水と硝酸とアルコールとを含有する塔底液と、非凝縮ガスと、から亜硝酸エステルを生成する第3反応器70を備える。なお、本明細書における「エステル」は、炭酸エステル、シュウ酸エステル、又は、炭酸エステルとシュウ酸エステルの混合物を含む。
【0033】
製造装置100は、第1ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定する第1測定部40と、第3反応器70に供給する非凝縮ガスの供給量を調整する第1流量調整部72と、第1測定部40での測定結果に基づいて、第1流量調整部72での調整の要否を判断し、必要に応じて第1流量調整部72で非凝縮ガスの流量を調整するように構成される制御部50を備える。また、製造装置100は、第1ガスにおける一酸化窒素の濃度を測定する第2測定部42と、非凝縮ガスに混合する酸素ガスの量を調整する第4流量調整部21と、第2測定部42での測定結果に基づいて、第4流量調整部21での調整の要否を判断し、必要に応じて第4流量調整部21で酸素ガスの量を調整するように構成される制御部52を備える。
【0034】
第1反応器10は、一酸化炭素と亜硝酸エステルとを反応させて、炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルと一酸化窒素を生成させる触媒を有する。このような炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステル製造用の触媒としては、例えば、白金族金属又はその化合物が担体に担持されている固体触媒が挙げられる。固体触媒における白金族金属やその化合物の担持量は、担体に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜2重量%である。担体としては、活性炭、アルミナ(γ―アルミナ等)、ゼオライト、モレキュラーシーブ、スピネル(リチウムアルミネートスピネル等)等の不活性担体が挙げられる。白金族金属又はその化合物は、含浸法や蒸発乾固法等の公知の方法を用いて担体に担持される。
【0035】
白金族金属又はその化合物としては、例えば、白金金属、パラジウム金属、ロジウム金属、イリジウム金属などが挙げられる。白金族金属の化合物としては、これらの金属の無機酸塩(硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等)、ハロゲン化物(塩化物、臭化物等)、有機酸塩(酢酸塩、シュウ酸塩、安息香酸塩等)、錯体(テトラクロロパラジウム酸リチウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム等)などが挙げられる。これらの中でも、塩化パラジウム又はパラジウムの塩素含有錯体が好ましい。担体への白金族金属やその化合物の担持量としては、0.01〜10重量%が好ましく、0.2〜2重量%がより好ましい。
【0036】
炭酸エステル製造用触媒には、白金族金属又はその化合物の他に、銅、鉄、ビスマスやこれらの化合物を含有させることができる。これらの中でも、塩化物(塩化第一銅、塩化第二銅、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化ビスマス等)が好ましい。担体へのこれらの担持量は、「白金族金属又はその化合物」:「銅、鉄、ビスマス又はこれらの化合物」(金属原子のモル比)として、1:0.1〜1:50が好ましく、1:1〜1:10がより好ましい。
【0037】
シュウ酸エステル製造用触媒には、白金族金属又はその化合物の他に、鉄又はその化合物を含有させることができる。鉄やその化合物としては、具体的には、金属鉄、鉄(II)化合物(硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、塩化第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、乳酸第一鉄、水酸化第一鉄等)、鉄(III)化合物(硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄アンモニウム、乳酸第二鉄、水酸化第二鉄、クエン酸第二鉄等)が挙げられる。担体への鉄又はその化合物の担持量としては、「白金族金属又はその化合物」:「鉄又はその化合物」(金属原子のモル比)として、10000:1〜1:4が好ましく、5000:1〜1:3がより好ましい。
【0038】
触媒の調製法は特に限定されず、例えば、白金族金属化合物を、含浸法又は蒸発乾固法などの公知の方法によって担体に担持させ、次いで、その担体を乾燥して調製することができる。
【0039】
炭酸エステルを製造する場合、炭酸エステル製造用触媒を有する第1反応器10に、一酸化炭素と亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを導入する。これによって、下記式(1)に示す気相反応が進行する。式(1)中、Rはアルキル基を示す。Rは、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
【0040】
CO+2RONO → ROC(=O)OR+2NO (1)
【0041】
シュウ酸エステルを製造する場合、シュウ酸エステル製造用触媒を有する第1反応器10に、一酸化炭素と亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを導入する。これによって、下記式(2)に示す気相反応が進行する。式(2)中、Rはアルキル基を示す。Rは、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
【0042】
2CO+2RONO → (RCO+2NO (2)
【0043】
第1ガスにおける亜硝酸エステルの含有量は、第1ガス全体を基準として、例えば5〜25体積%であってもよく、10〜25体積%、又は10〜20体積%であってもよい。本明細書における体積%は、標準状態(25℃、100kPa)における体積比率を示す。
【0044】
第1ガスにおける一酸化窒素の含有量は、第1ガス全体を基準として、例えば1〜20体積%である。第1ガスにおける一酸化炭素の含有量は、第1ガス全体を基準として、例えば10〜40体積%である。第1ガスは、一酸化炭素、亜硝酸エステル及び一酸化窒素とともに、不活性ガスを含有していてもよい。
【0045】
本実施形態では、第1反応器10を3つ備えている。本実施形態のように、第1反応器10を複数備えてもよいし、別の幾つかの実施形態では、第1反応器が一つであってもよい。本実施形態のように第1反応器10を複数備えることによって、炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルの生産量を増加することができる。複数の第1反応器10は、同時に用いて炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルの生産量を増やしてもよい。複数の第1反応器10は、同時ではなく交互又は順番に用いて、第1反応器の触媒交換又はメンテナンス時に、炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルの製造装置100の運転を継続して行えるようにしてもよい。
【0046】
上記式(1)及び/又は式(2)に示す反応によって、第1反応器10では、炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルと一酸化窒素とを含有する第2ガスが生成する。第2ガスにおける炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルの濃度は、第2ガス全体を基準として、例えば1〜50体積%である。第2ガスにおける一酸化窒素の濃度は、第2ガス全体を基準として、例えば1〜20体積%である。第2ガスは、未反応の一酸化炭素を含んでもよい。第2ガスにおける一酸化炭素の濃度は、例えば、1〜20体積%である。
【0047】
第1反応器10で生成した第2ガスは、流路12を通って吸収塔20に導入される。吸収塔20は、気液接触が可能なものであればよく、例えば、シーブトレイ、泡鐘トレイ、又はバルブトレイ等の棚段式、ポールリング又はラシッヒリング等の不規則充填材、或いはシート状若しくはガーゼ状の板又はこれらを合わせた複合板等の規則充填材が充填されている充填塔式の吸収塔が挙げられる。
【0048】
第1反応器10から流路12を経由して吸収塔20の下部に導入された第2ガスは、流路19から吸収塔20の上部に導入される炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステル吸収用吸収液(以下、単に「吸収液」という)と向流接触する。このようにして、第2ガスと吸収液とを気液接触させて、第2ガスに含まれる炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルの少なくとも一部が吸収液に吸収される。これによって、炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルと吸収液とを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとが得られる。
【0049】
吸収塔20で用いられる吸収液としては、例えば炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルのアルキル基と同一のアルキル基を有するアルコール、炭酸エステル、及びシュウ酸エステルなどが挙げられる。
【0050】
吸収塔20への吸収液の供給量は第2ガスにおける炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルに対して、質量基準で例えば1〜30%である。アルコールとしては、メタノール又はエタノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコールが挙げられる。回収の容易性の観点から、第1反応器10に一酸化炭素とともに導入される亜硝酸エステルと同一のアルキル基を有するアルコールが好ましい。
【0051】
吸収塔20で得られた、吸収液と炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルとを含有する凝縮液は、吸収塔20の底部に連結された流路14から抜き出される。凝縮液は、流路14を通って蒸留塔60に導入される。蒸留塔60では、沸点差によって、吸収液と炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルとに分離される。吸収液としてメタノール又はエタノールなどの低沸点のアルコールを用いた場合、蒸留塔60の塔頂部に連結された流路62からはアルコールが排出される。また、蒸留塔60の底部に連結された流路64からは炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルが排出される。流路64の下流側に、蒸留塔をさらに設けて、炭酸エステルとシュウ酸エステルとを、沸点差によって分離してもよい。また、蒸留塔60にさらに流路を連結して、吸収液と、炭酸エステルと、シュウ酸エステルとを同時に分離してもよい。
【0052】
炭酸エステルのうち炭酸ジメチルは、メタノールと共沸点において共沸混合物を生じる。この場合、単なる蒸留操作で各成分を分離することは困難である。したがって、加圧蒸留を行ったり、他成分を添加したりすることによって、共沸が生じるのを抑制して炭酸ジメチルを単離することができる。
【0053】
一方、吸収塔20で得られた、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスは、吸収塔20の上部に連結された流路13から抜き出されて、流路13を第2反応器30に向かって流通する。非凝縮ガスは、一酸化炭素を含有していてもよい。流路13には、上流側から、非凝縮ガスを第3反応器70に供給する流路76、及び、酸素ガスを導入する流路22がこの順で連結されている。
【0054】
流路22から供給される酸素ガスは、非凝縮ガスと混合されて混合ガスとなる。非凝縮ガスと酸素ガスとを含む混合ガスは、流路13を通って第2反応器30に導入される。流路22には、流路13への酸素ガスの導入量を調整するための第4流量調整部21が設けられる。第4流量調整部21としては、例えば流量調整弁を用いることができる。流量調整弁の開度を調整することによって、混合ガスにおける酸素ガスの割合を調整することができる。
【0055】
流路13を通過した混合ガスを第2反応器30の下方から導入すると、第2反応器30の上方に連結された流路16から導入されるアルコール(ROH)と向流接触して、以下の式(3)で表される反応が進行する。この反応によって、亜硝酸エステル(RONO)が生成する。式(3)中、Rはアルキル基を示す。Rは、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。製造装置100全体で見たときに、第2反応器30及び第3反応器70は、亜硝酸エステルを再生する機能を有する。
【0056】
第2反応器30では、式(4)で表される副反応が進行してもよい。設備全体の効率性を向上する観点から、式(4)よりも式(3)を促進することが好ましい。混合ガスにおける一酸化窒素と酸素との混合割合は、混合ガスに含まれる一酸化窒素1モルに対して0.08〜0.2モルの割合とすることが好ましい。このような割合となるように酸素ガスと非凝縮ガスとを混合することによって、未反応の酸素ガスが第1反応器10に流入すること、及び式(4)の反応が進行することを抑制することができる。また、これとともに、式(3)を促進することができる。これによって亜硝酸エステルを効率よく再生することができる。
【0057】
2NO+1/2O+2ROH→ 2RONO+HO (3)
NO+3/4O+1/2HO→ HNO (4)
【0058】
流路16から導入されるアルコールは、製造装置100で製造する炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルを構成するアルキル基を有するアルコールを用いる。そのようなアルコールとしては、メタノール又はエタノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコールが好ましい。式(3)の反応を十分に進行させる観点から、第2反応器30へのアルコールの供給量は、混合ガスに含まれる一酸化窒素の供給量に対して、モル比で0.5〜1.5とすることが好ましい。
【0059】
第2反応器30における反応温度は、流路16から導入されるアルコールの種類に応じて適宜設定することができる。アルコールとしてメタノールを用いる場合、反応温度は例えば0〜80℃、反応圧力は例えば0.1〜1MPa、気液接触の時間は例えば0.5〜30秒間である。
【0060】
第2反応器30の上部から抜き出される第3ガスは、式(3)で生成した亜硝酸エステルの他に、一酸化窒素、並びに一酸化二窒素及び二酸化炭素などの微量成分を含有する。これらの微量成分は、オフガスとして、流路11から分岐する流路17によって、適宜系外に排出することができる。
【0061】
第3ガスにおける亜硝酸エステルの含有量は、第3ガス全体を基準として、例えば5〜30体積%であってもよく、15〜30体積%であってもよい。亜硝酸エステルの含有量が5体積%未満であると、第1反応器10において上記(1)式の反応が十分に進行せず、炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルの収率が低下する傾向にある。一方、亜硝酸エステルの含有量が30体積%を超えると、安全性が低下する傾向にある。
【0062】
第3ガスにおける一酸化窒素の含有量は、第3ガス全体を基準として、例えば1〜25体積%である。第3ガスは、一酸化炭素、亜硝酸エステル及び一酸化窒素とともに、不活性ガスを含有していてもよい。
【0063】
第2反応器30の底部に連結された流路74からは、式(3)及び式(4)で示される反応で生成した水及び硝酸、並びに未反応のアルコールを含む塔底液が抜き出される。この塔底液は流路74を流通して、第3反応器70に供給される。第3反応器70には、流路76を流通して、非凝縮ガスが供給される。
【0064】
第3反応器70では、非凝縮ガスと塔底液とが接触して、例えば式(5)及び(6)に表される反応が進行し、亜硝酸エステルを生成する。すなわち、塔底液に含まれる硝酸及びアルコールと、非凝縮ガスに含まれる一酸化炭素及び/又は一酸化窒素とが反応し、亜硝酸エステルが生成する。なお、式(5)及び(6)中、Rはアルキル基を示す。
HNO+2NO+3ROH → 3RONO+2HO (5)
HNO+CO+ROH → RONO+HO+CO (6)
【0065】
上述の反応によって、第3反応器70の上部からは、亜硝酸エステルを含有する第4ガスが排出される。第4ガスにおける亜硝酸エステルの濃度は、例えば1〜25体積%である。第4ガスは、流路71を流通して、流路13を流通する非凝縮ガスと合流した後、第2反応器30に供給される。
【0066】
第3反応器70で生成した亜硝酸エステルは、第2反応器30において生成した亜硝酸エステルとともに、第2反応器30の上部から排出される第3ガスに含まれる。上記式(3)では、一酸化窒素1molから亜硝酸エステルが1mol得られるのに対し、上記式(5)では、一酸化窒素1molから亜硝酸エステルが1.5mol得られる。したがって、第3反応器70への非凝縮ガスの供給量を増やすことによって、第1ガス及び第3ガス中の亜硝酸エステルの濃度を高くすることができる。そこで、第1ガス及び第3ガス中の亜硝酸エステルの濃度が高くなり過ぎた場合には、第3反応器70への非凝縮ガスの供給量を減らすことによって、第1ガス及び第3ガス中の亜硝酸エステルの濃度を低減することができる。
【0067】
第1ガス及び第3ガス中の亜硝酸エステルの濃度は、第3反応器70の運転条件を変えることによっても調整することができる。例えば、第3反応器70において塔底液と非凝縮ガスとの混合条件を変更することによって、式(5)及び式(6)による亜硝酸エステルの生成量を調整することができる。混合条件は、例えば、第3反応器70の撹拌速度、塔底液の循環量、第3反応器70における反応温度等を調節することによって変更することができる。
【0068】
流路71を流通する第4ガスと非凝縮ガスとの合流位置は、特に制限されない。ただし、図1に示すように、第3反応器70からの第4ガスを、酸素ガスよりも上流側で非凝縮ガスに合流させることによって、第2反応器30における反応を一層効率よく進行させることができる。
【0069】
第2反応器30の塔底液の一部又は全部は、流路74に連結された流路92、冷却器90及び流路94をこの順に流通して、第2反応器30に戻してもよい。これによって、第2反応器30の反応温度を容易に制御することができる。第2反応器30の温度は、10〜60℃であってもよい。流路94を流通する液は、第2反応器30の中間部に戻されることが好ましい。
【0070】
第3反応器70の底部には、反応液抜き出し用の流路81が接続されている。第3反応器70で得られる、水、アルコール及び硝酸等を含有する反応液は、流路81を流通して、硝酸濃縮塔80に供給される。硝酸濃縮塔80では、反応液が加熱される。硝酸濃縮塔80の塔頂部に接続された流路84からは、水及びアルコールの一部又は全部が、留出液として得られる。硝酸濃縮塔80の底部に接続された流路82からは、硝酸が濃縮された濃縮液が得られる。硝酸濃縮塔80では、硝酸濃縮塔80の底部に滞留する濃縮液中のアルコール濃度を、例えば、4.0重量%未満に制御してもよい。これによって、硝酸濃縮塔80の底部で硝酸とアルコールとが反応して、硝酸エステルが生成することを抑制することができる。安全性の観点から、装置内で蓄積する硝酸エステルの量は低減することが好ましい。
【0071】
硝酸濃縮塔80内の圧力は、特に制限されず、大気圧未満であってもよい。大気圧未満の圧力下で反応液を濃縮することにより、濃縮液中のアルコール濃度を一層低くすることができる。硝酸濃縮塔80内の圧力は、例えば、6〜70kPaであってもよく、10〜50kPaであってもよい。硝酸濃縮塔80内の底部の温度は、例えば30〜90℃であってもよく、40〜85℃であってもよい。硝酸濃縮塔80の底部の温度を下げることで硝酸エステルの生成を抑制することができる。
【0072】
留出液は、硝酸濃縮塔80の上部に接続された流路84から抜き出される。流路84から抜き出された留出液を蒸留して分離されるアルコールを再利用することも可能である。再利用されるアルコールは、必要に応じてアルコール用タンクに一時的に貯蔵し、第2反応器30の上部に接続された流路16などから第2反応器30に供給することができる。
【0073】
硝酸濃縮塔80で濃縮された濃縮液の一部は、流路82及び流路82に接続された流路73を流通して、第3反応器70に供給される。濃縮液の一部は、流路85を流通させて廃液として排出してもよい。硝酸濃縮塔80には、規則充填物や不規則充填物等の充填材を充填し、蒸留の理論段数を増やしてもよい。硝酸濃縮塔80の理論段数は1以上であってもよく、5以上であってもよい。
【0074】
製造装置100は、第3反応器70からの反応液から低沸点分を留去して、硝酸分を濃縮する硝酸濃縮塔80を備えている。これによって、硝酸分を有効に活用することが可能となり、廃液処理される硝酸分の量を十分に低減することができる。したがって、原料として用いられる硝酸又は一酸化窒素を十分に低減することができる。
【0075】
第2反応器30の塔頂部から排出される第3ガスは、塔頂部に接続された流路11を、第1反応器10に向かって流通する。流路11は、一酸化炭素を供給する流路18との合流部55を有する。合流部55において、第3ガスと一酸化炭素が混合される。合流部55の下流側の流路11には、第1ガス中の亜硝酸エステルの濃度を測定する第1測定部40と、一酸化窒素の濃度を測定する第2測定部42が設けられている。
【0076】
第1測定部40で測定された亜硝酸エステルの濃度に関する濃度情報は、第1測定部40から制御部50に入力される。制御部50は、第1測定部40からの濃度情報に基づいて、第3反応器70に供給する非凝縮ガスの流量の制御処理を行う。制御部50は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及び入出力インターフェイスなどを備える。制御部50には、第1ガスの亜硝酸エステルの濃度情報に応じて第1流量調整部72への出力を設定するための関数が記憶されていてもよい。
【0077】
図2は、製造装置100に適用される非凝縮ガスの流量の調整方法を示すフローチャートである。図1の第1測定部40では、流路11における第1ガスの亜硝酸エステルの濃度を測定する。制御部50では、第1測定部40からの濃度情報に基づいて、第1ガス中における亜硝酸エステルの濃度が目標の範囲内であるか否かを判断する。このときの亜硝酸エステルの濃度の目標範囲は、第1ガス全体を基準として、5〜25体積%であってもよい。第1測定部40で測定された第1ガス中の亜硝酸エステルの濃度が目標範囲内にあるときは、制御部50は、第1流量調整部72による流量調整を行わなくてもよい。
【0078】
一方、第1測定部40で測定された第1ガス中の亜硝酸エステルの濃度が目標の範囲外であるときは、制御部50は、亜硝酸エステルの濃度を、目標の範囲内とするために第1流量調整部72の流量設定を変更する。例えば、第1流量調整部72が流量調整弁の場合、制御部50は流量調整弁の目標開度を設定する。例えば、制御部50は、その目標開度に関する制御信号を第1流量調整部72に送信する。制御部50は、このように、第1流量調整部72を自動制御するように構成されていてもよい。
【0079】
第1流量調整部72が流量調整弁である場合、当該流量調整弁は、電動モータなどからなるアクチュエータを備えており、アクチュエータによって弁の開度を変えることができる。流量調整弁では、制御部50からの制御信号に基づいてアクチュエータが駆動して弁の開度が調整される。このように、流量調整弁は、第3反応器70への非凝縮ガスの流量を調整する。このようにして、第1ガス及び第3ガス中における亜硝酸エステルの濃度を制御することができる。
【0080】
第3反応器70に供給される非凝縮ガスの流量を調整方法は、上述の態様に限定されるものではない。例えば、流路13と流路76との分岐点よりも下流側の流路13に、流量調整部を設けて、第3反応器70に供給される非凝縮ガスの量を調整してもよい。このときの流量調整部は、第1流量調整部72と同様の構成とすることができる。
【0081】
図3は、制御部50のハードウェア構成図である。図3に示すように、制御部50は、物理的には、CPU31、ROM32及びRAM33等の主記憶装置、キーボード及びマウス等の入力デバイス34、ディスプレイ等の出力デバイス35、第1測定部40及び第1流量調整部72とデータの送受信を行うためのネットワークカード等の通信モジュール36、ハードディスク等の補助記憶装置37等を含む通常のコンピュータシステムとして構成することができる。
【0082】
制御部50の信号処理及び制御機能は、CPU31、ROM32、RAM33等のハードウェア上に所定のコンピュータソフトウェアを読み込ませることにより、CPU31の制御の下で入力デバイス34、出力デバイス35、通信モジュール36を動作させると共に、ROM32、RAM33、及び補助記憶装置37におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。ROM32、RAM33、又は補助記憶装置37には、第1測定部40から入力される電気的な信号に基づいて、亜硝酸エステルの濃度を算出するデータ及び関数が記憶されていてもよい。
【0083】
第1測定部40としては、ガスクロマトグラフィー法、質量分析法、赤外分光法、オゾンを用いた化学発光法、又はザルツマン試薬を用いた吸光度法等による通常のオンライン分析計を用いることができ、これらのうちの2つ以上を組み合わせてもよい。これらの分析計のうち、非分散赤外線分析計(NDIR)を用いることによって、高い精度で迅速に亜硝酸エステルの濃度を測定することができる。
【0084】
図4は、本実施形態で用いられる非分散赤外線分析計の一例を示す図である。非分散赤外線分析計40は、赤外線を照射する一対の光源43,43と測定対象である第1ガスが流通する測定セル44と、測定セル44と並んで配置され、アルゴンガスなどの不活性ガスが封入された比較セル47を備える。測定セル44及び比較セル47の一端には、光源43からの赤外線が透過する透過窓48が設けられている。測定セル44及び比較セル47は、それぞれの透過窓48が、光源43,43と対向するように配置されている。
【0085】
測定セル44及び比較セル47のそれぞれの他端には、測定セル44内及び比較セル47内を通過した赤外線が透過する透過窓49が設けられている。測定セル44内及び比較セル47内を通過した赤外線は、透過窓49を通過し、透過窓49に対向するように配置される検出器51に入射する。なお、透過窓49と検出器51の間には、光チョッパ45及び光学フィルタ46が設けられている。光チョッパ45によって、測定セル44及び比較セル47を通過した赤外線が、断続的に検出器51に入射する。光学フィルタ46によって、所定の波数範囲の赤外線が、検出器51に入射する。
【0086】
光学フィルタ46は特定の波数範囲の赤外線を吸収する。亜硝酸エステルの赤外吸収帯が検出される波数を含む赤外線が、検出器51に入射するように光学フィルタ46を選定する。検出器51に、亜硝酸エステルとは異なるガス(検出用ガス)を封入する場合、亜硝酸エステルの赤外吸収帯の波数の少なくとも一部と、検出用ガスの赤外吸収帯の波数の少なくとも一部と、を含む波数の赤外線が、検出器51に入射されるように光学フィルタ46を選定する。これによって、検出器51に入射される赤外線の波数範囲において、亜硝酸エステルと検出用ガスの双方が赤外吸収帯を有する。なお、赤外吸収帯とは、赤外線を吸収する波数範囲をいう。
【0087】
検出器51は、コンデンサマイクロフォン検出器である。検出器51の内部空間は、中央部付近に設けられた薄膜53によって隔てられている。これによって、検出器51には第1室54aと第2室54bとが形成されている。一方の光源43,測定セル44及び第1室54aは、この順番で直列に並んで配置されている。これと並行して、他方の光源43,比較セル47及び第2室54bは、この順番で直列に並んで配置されている。
【0088】
薄膜53としては、ポリイミドなどの絶縁性高分子膜の上に、スパッタリングによって金属製の導電膜が形成されたものを用いることができる。第1室54aには、測定セル44を通過した赤外線が入射する。第2室54bには、比較セル47を通過した赤外線が入射する。検出器51は、第1室54aと第2室54bとの温度差に基づいて、亜硝酸エステルの検出が可能なように構成される。
【0089】
第1室54a及び第2室54bには、同一のガスが封入される。封入されるガス(検出用ガス)としては、測定対象である亜硝酸エステルを封入してもよい。ただし、安全性を一層向上させる観点から、亜硝酸エステルと吸収ピークの波数域と同じ波数域において吸収ピークを有するとともに、亜硝酸エステルよりも安全性が高く、且つ第1ガス(第3ガス)に含有されていない成分からなる検出用ガスを封入することが好ましい。このような検出用ガスとして、アンモニアを用いることができる。
【0090】
アンモニアを用いる場合、検出器51に入射する赤外線の波数範囲は、光学フィルタ46によって、例えば940〜1080cm−1としてもよい。上記波数範囲において、亜硝酸エステルは、N−Oの伸縮振動等に起因する吸収ピークを有する。一方、アンモニアはNH変角振動に起因する吸収ピークを有する。このように、亜硝酸エステルとアンモニアは、上記波数範囲において吸収ピークを有するうえに、第1ガスに含まれる他の成分(CO,NO)が、上記波数範囲において吸収ピークを殆ど有しない。したがって、亜硝酸エステルの濃度を高い精度で測定することができる。
【0091】
図5は、アンモニアの赤外線吸収スペクトルを示す図である。図6は、亜硝酸エステルの吸収スペクトルを示す図である。図5,6の対比から分かるように、アンモニア及び亜硝酸エステルは、940〜1080cm−1に加えて、780〜860cm−1、及び1650〜1700cm−1の波数範囲にも、吸収ピークを有する。したがって、アンモニアを用いる場合、検出器51に入射する赤外線の波数範囲は、780〜860cm−1、又は1650〜1700cm−1であってもよい。そして、第1ガスに含まれる他の成分(CO,NO)が、上記波数範囲において吸収ピークを殆ど有しない。したがって、亜硝酸エステルの濃度を高い精度で測定することができる。なお、940〜1080cm−1の波数範囲は、概ね926〜1064nmの波長範囲に相当する。780〜860cm−1の波数範囲は、概ね1163〜1282nmの波長範囲に相当する。1650〜1700cm−1の波数範囲は、概ね588〜606nmの波長範囲に相当する。
【0092】
図4に示すように、第1室54aには、固定電極56が、薄膜53の導電膜と対向するように設置されている。固定電極56には、リード線57が接続されている。リード線57は、信号処理部58に接続されている。信号処理部58は、例えば信号処理回路である。第1室54a内のアンモニアの温度と第2室54b内のアンモニアの温度とに差異が生じると、固定電極56と薄膜53との間の距離が変動する。これによって、信号処理部58に電気的な信号が出力される。このような信号を信号処理部58で処理することによって、亜硝酸エステルの濃度を測定することができる。亜硝酸エステルの濃度の算出は、信号処理部58からの電気的な信号に基づいて、制御部50において行ってもよい。
【0093】
非分散赤外線分析計40によって、亜硝酸エステルの濃度を測定する方法を説明する。亜硝酸エステルを含み、アンモニアを含有しない第1ガス(又は第3ガス)は、測定セル44の一端側に設けられたガス入口44aから測定セル44内に導入される。第1ガスは、測定セル内を、図4の上方から下方に移動し、測定セル44の他端側に設けられたガス出口44bから排出される。測定セル44内の第1ガスに含まれる亜硝酸エステルは、光源43から測定セル44内に入射した赤外線のうち所定の波数範囲(L1)の赤外線を吸収する。その後、赤外線は、光チョッパ45及び光学フィルタ46を通過して、検出器51の第1室54aに入射される。ここで、第1室54aに封入されたアンモニアは、所定波数の赤外線を吸収して温度上昇する。このときの温度上昇を△T1とする。
【0094】
一方、比較セル47に収容された不活性ガスは、亜硝酸エステルの吸収ピークの波数域と同等の波数域に吸収ピークを有しない。このため、光源43から入射した赤外線は、波数範囲L1の赤外線が吸収されることなく、波数範囲L1を含む赤外線が検出器51の第2室54bに入射する。ここで、第2室54bに封入されたアンモニアは、波数範囲L1を含む赤外線を吸収して温度上昇する。このときの温度上昇を△T2とする。第2室54bには、比較セル47を通過する際に波数範囲L1の赤外線が吸収されていない赤外線が入射される。このため、第2室54bに封入されたアンモニアの温度上昇△T2は、第1室54aに封入されたアンモニアの温度上昇△T1よりも大きくなる。すなわち、△T1<△T2の関係が成立する。
【0095】
この温度差(△T2−△T1)によって、固定電極56と薄膜53との間の距離が変動し、電気的な信号が発信される。この信号は、リード線57を介して信号処理部58に入力される。信号処理部58では、電気的な信号を処理して、アンモニア濃度が出力される。なお、測定対象の成分(亜硝酸エステル)と、検出器51に封入された成分(アンモニア)は異なる。したがって、一層正確な亜硝酸エステルの濃度を求めるために、検出器51で検出される測定値の補正を行ってもよい。例えば、予め、同一濃度のアンモニアと亜硝酸エステルのそれぞれの波数範囲L1における吸収ピークの積分値の大きさの比率(補正係数=アンモニアの吸収ピークの積分値/亜硝酸エステルの吸収ピークの積分値)を求めておく。この補正係数と検出器51で検出された測定値とを用いて、一層正確な亜硝酸エステルの濃度を求めることができる。このような補正は、計算プログラム等を用いて信号処理部58で行ってもよいし、制御部50又は別の計算機等で行ってもよい。
【0096】
第1測定部40として、検出器にアンモニアが封入された非分散赤外線分析計を用いることによって、安全性を十分に向上させつつ、高い精度で迅速に亜硝酸エステルの濃度を測定することができる。非分散赤外線分析計は、図3の態様に限定されるものではない。例えば、検出器は、赤外線量の変化に対応して生じるガス(アンモニア)の移動を検出することによって濃度を測定するフローセンサ型の検出器であってもよい。また、検出器51とは別の補償用検出器を、測定セル44及び比較セル47と検出器51との間、又は、検出器51の測定セル44及び比較セル47側とは逆側に備えていてもよい。このような補償用検出器には、亜硝酸エステルの赤外線吸収帯に吸収ピークを殆ど有しないガスを封入したものを用いることができる。補償用検出器を用いて、例えばゼロドリフト補正を行うことによって、長期間に亘って、十分に高い精度で亜硝酸エステルの濃度を測定することができる。
【0097】
図7は、一酸化窒素の赤外線吸収スペクトルを示す図である。図8は、一酸化炭素の赤外線吸収スペクトルを示す図である。一酸化窒素及び一酸化炭素は、亜硝酸エステルの吸収ピークのうち、例えば780〜860cm−1、940〜1080cm−1、及び1650〜1700cm−1付近に吸収ピークを殆ど有しない。したがって、第1ガスが一酸化窒素及び一酸化炭素を含んでいても、測定に用いる赤外線の波数範囲を適切に選択することによって、第1ガスにおける亜硝酸メチルの濃度を高い精度で測定することができる。
【0098】
製造装置100は、第1ガス又は第3ガスにおける一酸化窒素及び一酸化炭素等の濃度を測定するために、第1測定部40と同様の測定部をさらに備えることができる。例えば、図1の合流部55の下流側には、一酸化窒素の濃度を検出する第2測定部42が設けられている。第2測定部42で測定された一酸化窒素の濃度に応じて、第2測定部42から一酸化窒素の濃度に関する情報が制御部52に入力される。一酸化窒素及び一酸化炭素は、図7及び図8に示すような赤外線吸収スペクトルを示す。したがって、一酸化窒素及び一酸化炭素の濃度は赤外分光法によって求めてもよい。ただし、赤外分光法に限定されない。
【0099】
制御部52は、第2測定部42からの一酸化窒素の濃度に関する情報に基づいて、非凝縮ガスに混合する酸素ガスの量の制御処理を行うものであり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及び入出力インターフェイスなどを備える。制御部52には、第1ガスの一酸化窒素の濃度情報に応じて第4流量調整部21を調整するための関数が記憶されていてもよい。
【0100】
図9は、製造装置100に適用される酸素ガスの流量の調整方法を示すフローチャートである。図1の第2測定部42では、流路11における第1ガスの一酸化窒素の濃度を測定する。制御部52では、第2測定部42からの一酸化窒素の濃度情報に基づいて、第1ガス中における一酸化窒素の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断する。このときの一酸化窒素の濃度の目標範囲としては、一酸化窒素と亜硝酸エステルの合計に対して、例えば5〜50体積%であってもよく、15〜40体積%であってもよい。また、一酸化窒素の濃度の目標範囲としては、第1ガス全体に対して、例えば1〜10体積%であってもよく、3〜8体積%であってもよい。
【0101】
一方、制御部52は、第2測定部42で測定された第1ガス中の一酸化窒素の濃度が目標の範囲外であるときは、一酸化窒素の濃度を目標範囲内とするために第4流量調整部21の流量設定を変更する。第4流量調整部21が流量調整弁である場合は、目標開度(すなわち、目標となる酸素ガスの流量)を設定する。例えば、制御部52は、その目標開度に関する制御信号を第4流量調整部21に送信する。このようにして、制御部52は、第4流量調整部21を自動制御するように構成されていてもよい。
【0102】
制御部52は、図3に示すとおり、制御部50と同様の構成にすることができる。これによって、制御部50と同様の信号処理及び制御を行うことができる。ROM32、RAM33、又は補助記憶装置37には、第2測定部42から入力される電気的な信号に基づいて、一酸化窒素の濃度を算出するデータ及び関数が記憶されていてもよい。
【0103】
第2測定部42において、第1ガス中の一酸化窒素の濃度を測定することにより、第2反応器30の反応効率及び第1ガス中の酸素濃度を推定及び管理することできる。すなわち、第1ガス中における一酸化窒素の濃度が高い場合は、第2反応器30において酸素が十分消費される傾向にある。このため、第1反応器10における触媒活性への悪影響を十分に低減することができる。一方、第1ガス中における一酸化窒素の濃度が低い場合は、第2反応器30における未反応の酸素が増える傾向にある。このため、第1反応器10における触媒活性に悪影響を与える可能性がある。
【0104】
したがって、第1ガス中の一酸化窒素の濃度を所定の範囲に維持することによって、第1反応器10における触媒の活性低下を十分に抑制することができる。また、第1ガスにおける一酸化窒素の上限値を設定し、この上限値を上回らないように、第4流量調整部21で酸素ガスの供給量を調整することによって、炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルを高い生産効率で製造することができる。第1ガスにおける、亜硝酸エステルの濃度の目標範囲は、一酸化窒素と亜硝酸エステルの合計に対して、例えば50〜95体積%であってもよく、60〜85体積%であってもよい。
【0105】
第1測定部40及び第2測定部42において亜硝酸エステル及び一酸化窒素の両方の濃度を測定し、これらの測定結果に基づいて、第1流量調整部72及び第4流量調整部21で流量を調整することによって、亜硝酸エステルの濃度のみを測定して第1流量調整部72のみで流量を調整する場合に比べて、一層安定して炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルを製造することができる。
【0106】
製造装置100では、第1測定部40及び第2測定部42を、合流部55の下流側、すなわち、第1ガスが流通する流路に設けているが、これに限定されない。例えば、別の幾つかの実施形態では、第1測定部40は、合流部55の上流側、すなわち第3ガス中の亜硝酸エステル及び一酸化窒素の濃度を検出するものであってもよい。
【0107】
図10は、炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルの製造装置の別の実施形態を模式的に示す図である。図10の製造装置101は、硝酸がストックされる硝酸用タンク77、硝酸用タンク77と第3反応器70とを連結する流路78、及び、流路78に設けられ、第3反応器70への硝酸の供給量を調整する第2流量調整部79を備える。また、製造装置101は、第1測定部40で測定された亜硝酸エステルの濃度に基づいて、第2流量調整部79での調整の要否を判断し、必要に応じて第2流量調整部79で硝酸の流量を調整するように構成される制御部50を備える。
【0108】
すなわち、製造装置101は、第1流量調整部72の代わりに、硝酸用タンク77、流路78及び第2流量調整部79を備える点、並びに、制御部50が第2流量調整部79を制御するように構成されている点で、製造装置100と異なっている。制御部50は、製造装置100における第1流量調整部72による流量制御と同様にして、第2流量調整部79の流量制御を行う。製造装置101のその他の部分は、製造装置100と同様の構成を備える。
【0109】
図11は、製造装置101に適用される硝酸の流量の調整方法を示すフローチャートである。第1測定部40において、第1ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定する。制御部50では、第1測定部40で測定された亜硝酸エステルの濃度が目標の範囲内であるか否かを判断する。第1測定部40で測定された第1ガス中の亜硝酸エステルの濃度が目標範囲内にあるときは、第2流量調整部79による流量調整を行わなくてもよい。
【0110】
一方、第1測定部40で測定された第1ガス中の亜硝酸エステルの濃度が目標の範囲外であるときは、制御部50は、亜硝酸エステルの濃度を、目標の範囲内とするために第2流量調整部79の流量設定を変更する。第2流量調整部79が流量調整弁である場合、当該流量調整弁は、電動モータなどからなるアクチュエータを備えており、アクチュエータによって弁の開度を変えることができる。流量調整弁では、制御部50からの制御信号に基づいてアクチュエータが駆動して弁の開度が調整される。このように、第2流量調整部79は、第3反応器70に供給する硝酸の量を調整する。
【0111】
例えば、第3反応器70において硝酸が不足し、第1測定部40で測定される亜硝酸エステルの濃度が低下傾向にある場合、又は亜硝酸エステルの濃度が下限値に到達した場合には、制御部50は第2流量調整部79を調整して、第3反応器70への硝酸の供給量を増加する。これによって、上記式(5)及び式(6)の反応が促進されて亜硝酸エステルの生成量が増加し、第1ガス及び第3ガス中の亜硝酸エステルの濃度を増加することができる。
【0112】
一方、第1測定部40で測定される亜硝酸エステルの濃度が上昇傾向にある場合、又は上限値に到達した場合には、制御部50は第2流量調整部79を調整して、第3反応器70への硝酸の供給量を低減する。これによって、上記式(5)及び式(6)の反応が抑制されて亜硝酸エステルの生成量が減少し、第1ガス及び第3ガス中の亜硝酸エステルの濃度を低減することができる。このようにして、第1ガス及び第3ガス中における亜硝酸エステルの濃度を制御することができる。
【0113】
図12は、炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルの製造装置のさらに別の実施形態を模式的に示す図である。図12の製造装置102は、図10の製造装置101と同様に、硝酸がストックされる硝酸用タンク77、硝酸用タンク77と第3反応器70とを連結する流路78、及び、流路78に設けられ、第3反応器70に供給する硝酸の量を調整する第2流量調整部79を備える。また、製造装置102は、図1の製造装置100と同様に、第3反応器70に供給する非凝縮ガスの量を調整する第1流量調整部72を備える。
【0114】
製造装置102は、第1測定部40での測定結果に基づいて、第1流量調整部72及び/又は第2流量調整部79での調整の要否を判断し、必要に応じて、第1流量調整部72及び/又は第2流量調整部79によって、非凝縮ガス及び/又は硝酸の供給量を調整するように構成される制御部50を備える。すなわち、製造装置102は、第1流量調整部72を備える点、及び、制御部50が第2流量調整部79のみならず第1流量調整部72も制御するように構成されている点で、製造装置101と異なっている。製造装置102のその他の部分は、製造装置100,101と同様の構成を備える。
【0115】
製造装置102は、第1ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定する第1測定部40と、第3反応器70に供給する非凝縮ガスの量を調整する第1流量調整部72と、第3反応器70に供給する硝酸の量を調整する第2流量調整部79と、第1測定部40で測定された亜硝酸エステルの濃度に基づいて、第1流量調整部72及び/又は第2流量調整部79での調整の要否を判断し、必要に応じて、第1流量調整部72で非凝縮ガスの流量、及び/又は第2流量調整部79で硝酸の流量を調整するように構成される制御部50を備える。制御部50は、製造装置100における第1流量調整部72による流量制御、及び製造装置101における第2流量調整部79による流量制御と同様にして、第1流量調整部72及び第2流量調整部79の流量制御を行う。
【0116】
図13は、製造装置102に適用される硝酸の流量の調整方法を示すフローチャートである。第1測定部40において、第1ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定する。制御部50では、第1ガスにおける亜硝酸エステルの濃度が目標の範囲内であるか否かを判断する。第1測定部40で測定された第1ガス中の亜硝酸エステルの濃度が目標範囲内にあるときは、第1流量調整部72及び第2流量調整部79による流量調整を行わなくてもよい。
【0117】
一方、第1測定部40で測定された第1ガス中の亜硝酸エステルの濃度が目標の範囲外であるときは、制御部50は、亜硝酸エステルの濃度を、目標の範囲内とするために第1流量調整部72及び第2流量調整部79の流量設定を変更する。これによって、第3反応器70に供給する非凝縮ガス及び硝酸の量を調整する。第1流量調整部72及び第2流量調整部79による流量調整は、図13に示すように、第1流量調整部72による非凝縮ガスの流量調整、及び、第2流量調整部79による硝酸の流量調整の順番で行ってもよいし、その逆の順番で行ってもよい。また、非凝縮ガスと硝酸の流量調整を同時に行ってもよいし、どちらか一方のみを、制御部50が選択して行ってもよい。このようにして、第1ガス及び第3ガス中における亜硝酸エステルの濃度を制御することができる。
【0118】
図14は、炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルの製造装置のさらに別の実施形態を模式的に示す図である。図14の製造装置200は、第3反応器及び硝酸濃縮塔を有しない点、及び、一酸化窒素を供給する流路24、及び一酸化窒素の供給量を調整する第3流量調整部26を備える点で、図1の製造装置100と異なっている。製造装置200は、第3反応器を有しないことから、第2反応器30の塔底液は、流路15によって、図示しない回収設備又は廃棄設備に送られる。塔底液は、水、硝酸、及びアルコールを含有する。これらの成分は、必要に応じて下流側に設けられる回収設備によって処理して再使用してもよい。
【0119】
このように、第2反応器30の塔底液を製造装置200の外部に排出する場合には、一酸化窒素を供給する。一酸化窒素の供給は、流路13に接続された流路24を用いて行うことができる。流路24には、一酸化窒素の供給量を調整する第3流量調整部26が設けられている。第1測定部40及び制御部50の機能及び構成は、上記実施形態に係る製造装置100と同様であってよい。例えば、制御部50は、第1測定部40からの亜硝酸エステルの濃度に関する濃度情報に基づいて、一酸化窒素の供給量を設定する。第3流量調整部26は、制御部50からの制御信号に基づいて、一酸化窒素の供給量を調整する。第3流量調整部26としては、例えば流量調整弁が挙げられる。流量調整弁の場合は、弁の開度を変更することによって、一酸化窒素の供給量を調整することができる。
【0120】
図15は、製造装置200に適用される一酸化窒素の流量の調整方法を示すフローチャートである。第1測定部40において、第1ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を測定する。制御部50では、第1測定部40からの濃度情報に基づいて、第1ガス中における亜硝酸エステルの濃度が目標の範囲内であるか否かを判断する。第1測定部40で測定された第1ガス中の亜硝酸エステルの濃度が目標範囲内にあるときは、第3流量調整部26による流量調整を行わなくてもよい。
【0121】
一方、第1測定部40で測定された第1ガス中の亜硝酸エステルの濃度が目標の範囲外であるときは、制御部50は、亜硝酸エステルの濃度を、目標の範囲内とするために第3流量調整部26の流量設定を変更する。このようにして、第3流量調整部26は、流路13に供給する一酸化窒素の量を調整する。
【0122】
第3流量調整部26で流量が調整された一酸化窒素は、流路13を流通する非凝縮ガスに混合される。一酸化窒素の供給量を増やすと、下記式(7)及び式(8)の化学反応が進行する。これによって、第1ガス及び第3ガスに含まれる酸素濃度が減少し、亜硝酸エステルの量が増加する。なお、式(8)中、Rはアルキル基を示す。
【0123】
2NO+1/2O → N (7)
+2ROH → 2RONO + HO (8)
【0124】
第3流量調整部26において、一酸化窒素の供給量を調整することによって、第1ガス及び第3ガスにおける酸素と亜硝酸エステルの濃度を調整することができる。例えば、第1測定部40において、亜硝酸エステルの濃度が増加傾向にある場合、又は上限値を超えそうな場合、制御部50からの制御信号に基づいて、第3流量調整部26は一酸化窒素の供給量を減少又は停止させる。このような操作によって、第1ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を低減することができる。このとき、上記操作とともに第4流量調整部21によって酸素の供給量を低減してもよい。これによって、第1ガス及び第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を円滑に下げることができる。
【0125】
一方、第1ガス及び第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度が減少傾向にある場合、又は、下限値を下回りそうな場合、第3流量調整部26によって一酸化窒素の供給量を増加する。このとき、これとともに、第4流量調整部21によって酸素の供給量を増加してもよい。これによって、第1ガス及び第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を円滑に上げることができる。
【0126】
このような構成を備える製造装置200は、安全性に優れており、第1反応器10における反応速度の低下を十分に抑制することができる。したがって、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を安定的に生産することができる。
【0127】
製造装置200のその他の構成は、製造装置100と同様である。なお、一酸化窒素を供給する位置は、流路13に限定されるものではなく、例えば流路12に供給してもよいし、第2反応器30に直接供給してもよい。
【0128】
図16は、炭酸エステル及び/又はシュウ酸エステルの製造装置のさらに別の実施形態を模式的に示す図である。図16の製造装置300は、合流部55の上流側に第1測定部40及び第2測定部42が設けられている点、及び、第3反応器70からの第4ガスを、流路75を流通させて第2反応器30の中間部に供給している点で相違する。これらの点以外の構成は、製造装置100と同様である。
【0129】
図16のように、第1測定部40及び第2測定部42を合流部55の上流側に設けることによって、第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度及び一酸化窒素の濃度を測定することができる。制御部50は、第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度が例えば5〜30体積%となるように、第1流量調整部72を制御してもよい。制御部52は、第3ガスにおける一酸化窒素の濃度が所定の範囲となるように、第4流量調整部21を制御してもよい。図16のように、第3反応器70からの第4ガスを、流路75を経由して第2反応器30の中間部に供給することによって、亜硝酸エステルを一層効率よく生成することができる。このような構成を備える製造装置300は、安全性に優れており、第1反応器10における反応速度の低下を十分に抑制することができる。したがって、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を安定的に生産することができる。
【0130】
本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、例えば、第1測定部40及び/又は第2測定部42は、合流部55の上流側と下流側の両方に設けてもよい。この場合、例えば、制御部50,52は、第1ガスと第3ガスの両方の測定値に基づいて、第1流量調整部72、第2流量調整部79及び第4流量調整部21を制御するように構成されてもよい。また、制御部50,52は、それぞれ別々の機能を有するものであるが、ハード的には一体的に構成されていてもよい。
【0131】
第1ガス及び/又は第3ガスに含まれる一酸化窒素の濃度を測定する第2測定部42、制御部52及び第4流量調整部21は設けなくてもよい。また、製造装置100,101,102,300のように、第3反応器70及び硝酸濃縮塔80を備えていても、製造装置200のように、一酸化窒素を供給する流路24、及びその供給量を調整する第3流量調整部26を備えていてもよい。この場合、制御部50は、第3流量調整部26、第1流量調整部72及び第2流量調整部79の少なくとも一つを選択して、又は全てを同時に流量制御するように構成されていてもよい。また、第3反応器70は、上述の態様に制限されない。
【0132】
図17は、上述の各実施形態に係る製造装置における第3反応器70の変形例を示す図である。図17の第3反応器70aはバブリング槽である。第3反応器70aには、第2反応器30の塔底液が流路74から供給され、非凝縮ガスが流路76から供給される。第3反応器70aでは、塔底部に滞留する塔底液中に非凝縮ガスを供給してバブリングを行う。第3反応器70aに所定時間滞留した塔底液は、底部から排出された後、流路81によって、硝酸濃縮塔80に供給される。
【0133】
第3反応器70aの底部から排出される塔底液の一部を、ポンプ86等を用いて循環させてもよい。塔底液の循環流量を増やすと、上記式(5)及び式(6)の反応が促進され、亜硝酸エステルの生成量が増加する。これによって、第1ガス及び第3ガス中の亜硝酸エステルの濃度を増加させることができる。第3反応器70aの上部から排出される、亜硝酸エステルを含有する第4ガスは、流路71又は流路75を流通した後、第2反応器30に供給される。
【0134】
図18は、上述の各実施形態に係る製造装置における第3反応器70の別の変形例を示す図である。図18の第3反応器70bは撹拌槽である。第3反応器70bには、第2反応器30の塔底液が流路74から供給され、非凝縮ガスが流路76から供給される。第3反応器70bは、回転軸と該回転軸の先端に取り付けられた羽根とを有する撹拌機91を備える。撹拌機91は、回転軸を中心に回転することによって、第3反応器70b中の塔底液と非凝縮ガスとを混合する。非凝縮ガスを、第3反応器70bの底部に滞留する塔底液中に導入して、バブリングを行ってもよい。
【0135】
撹拌機91による撹拌速度を大きくすると、上記式(5)及び式(6)の反応が促進され、亜硝酸エステルの生成量が増加する。これによって、第1ガス及び第3ガス中の亜硝酸エステルの濃度を増加させることができる。第3反応器70bの上部から排出される、亜硝酸エステルを含有する第4ガスは、流路71又は流路75を流通した後、第2反応器30に供給される。
【0136】
図19は、上述の各実施形態に係る製造装置における第3反応器70のさらに別の変形例を示す図である。図19の第3反応器70cは循環塔である。第3反応器70cには、第2反応器30の塔底液が流路74から供給され、非凝縮ガスが流路76から供給される。第3反応器70cの底部からは、流路81によって塔底液が排出される。排出される塔底液の一部は、ポンプ86等を用いて第3反応器70cの上部に循環される。第3反応器70cの上部から循環供給される塔底液は、流路76を流通して第3反応器70cの下部に供給される非凝縮ガスと向流接触する。
【0137】
塔底液の循環流量を増やすと、上記式(5)及び式(6)の反応が促進され、亜硝酸エステルの生成量が増加する。これによって、第1ガス及び第3ガス中の亜硝酸エステルの濃度を増加させることができる。第3反応器70cの上部から排出される、亜硝酸エステルを含有する第4ガスは、流路71又は流路75を流通した後、第2反応器30に供給される。第3反応器70cの内部には充填物を充填して、流下する塔底液と上昇する非凝縮ガスとの接触面積を増やしてもよい。非凝縮ガスを、第3反応器70cの底部に滞留する塔底液中に導入して、バブリングを行ってもよい。
【0138】
上述の各実施形態において、炭酸エステルは、例えば炭酸ジアルキルである。炭酸ジアルキル分子中の2つのアルキル基は、同一でも異なっていてもよい。炭酸ジアルキルとしては、例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピル、炭酸ジブチル、炭酸ジペンチル、炭酸ジヘキシル、炭酸ジヘプチル、炭酸ジオクチル、炭酸ジノニル、炭酸エチルメチル、及び炭酸エチルプロピル等が挙げられる。
【0139】
炭酸ジアルキルの中でも、エステル交換反応の反応速度及び副生成するアルキルアルコールの除去のしやすさの観点から、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する炭酸ジアルキルが好ましく、炭酸ジメチル又は炭酸ジエチルがより好ましい。
【0140】
炭酸エステルは、炭酸ジアリールであってもよい。炭酸ジアリールは、例えば、シュウ酸ジアルキルとフェノール等のフェノール化合物とを触媒存在下で反応させてシュウ酸ジアリールを生成する工程と、シュウ酸ジアリールを触媒存在下で脱カルボニル反応させて炭酸ジアリールと一酸化炭素を生成させる工程と、炭酸ジアリールと一酸化炭素とを分離して炭酸ジアリールを回収する工程と、を有する製造方法によって、製造することができる。各工程で用いる触媒は公知のものを用いることができる。
【0141】
亜硝酸エステルは、炭酸エステル及びシュウ酸エステルに対応するものであり、例えば亜硝酸アルキルである。亜硝酸アルキルとしては、例えば、亜硝酸メチル、亜硝酸エチル、亜硝酸プロピル、亜硝酸イソプロピル、亜硝酸ブチル、亜硝酸ペンチル、亜硝酸ヘキシル、亜硝酸ヘプチル、亜硝酸オクチル、及び亜硝酸ノニル等が挙げられる。
【0142】
上述の各実施形態において、シュウ酸エステルは、例えばシュウ酸ジアルキルである。シュウ酸ジアルキル分子中の2つのアルキル基は、同一でも、異なっていてもよい。シュウ酸ジアルキルとしては、例えば、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジプロピル、シュウ酸ジイソプロピル、シュウ酸ジブチル、シュウ酸ジペンチル、シュウ酸ジヘキシル、シュウ酸ジヘプチル、シュウ酸ジオクチル、シュウ酸ジノニル、シュウ酸エチルメチル、シュウ酸エチルプロピル等が挙げられる。シュウ酸ジアルキルの中でも、エステル交換反応の反応速度及び副生成するアルキルアルコールの除去しやすさの観点から、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するシュウ酸ジアルキルが好ましく、シュウ酸ジメチル又はシュウ酸ジエチルがより好ましい。
【0143】
シュウ酸エステルは、シュウ酸ジアリールであってもよい。シュウ酸ジアリールは、例えば、シュウ酸ジアルキルとフェノール等のフェノール化合物とを触媒存在下で反応させてシュウ酸ジアリールを生成する工程を有する製造方法によって、製造することができる。当該工程で用いる触媒は公知のものを用いることができる。
【0144】
炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルの製造方法の実施形態を以下に説明する。本実施形態の製造方法は、例えば、製造装置100,300を用いて行うことができる。この製造方法は、次の工程を有する。
【0145】
(a)一酸化炭素と亜硝酸エステルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを第1反応器10に導入し、触媒の存在下で反応させて、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方と一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成させる第1工程
(b)吸収塔20において、第2ガスと吸収液とを接触させて、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る第2工程
(c)非凝縮ガス及び酸素ガスを混合して得られた混合ガスとアルコールとを第2反応器30に導入し、一酸化窒素、酸素及びアルコールを反応させて、一酸化窒素とともに亜硝酸エステルを含有する第3ガスを得る第3工程
(d)蒸留塔60において、凝縮液を蒸留し、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を得る第4工程
(e)第3ガスと一酸化炭素を混合して第1ガスを得る第5工程
(f)第2反応器30の底部から排出される、水と硝酸とアルコールとを含有する塔底液と、非凝縮ガスとを第3反応器70に供給して、亜硝酸エステルを生成させ、亜硝酸エステルを第2反応器に供給する第6工程
(g)第1測定部40において第1ガス及び/又は第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を検出し、該濃度に基づいて、第3反応器70に供給する非凝縮ガスの量を調整する第7工程
(h)第1ガス及び/又は第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を検出し、該濃度に基づいて、非凝縮ガスに混合する酸素の量を調整する第8工程
【0146】
上述の第1工程〜第8工程は、繰り返し行うことができる。また、それぞれの工程は、その順番どおりに行わなくてもよく、同時に行うことができる。それぞれの工程は、上述の製造装置100,300の説明内容に基づいて行うことができる。
【0147】
別の幾つかの実施形態に係る製造方法では、上記第8工程に代えて、以下の第9工程を有する。すなわち、この製造方法は、第1工程〜第7工程と、第9工程とを有する。
(i)第1ガス及び/又は第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を検出し、該濃度に基づいて、第3反応器70に供給する硝酸の量を調整する第9工程
【0148】
上述の第9工程は、第1工程〜第7工程と併せて、繰り返し行うことができる。また、それぞれの工程は、その順番どおりに行わなくてもよく、同時に行うことができる。この第9工程は、製造装置101を用いて行うことが可能であり、製造装置101の説明に内容に基づいて行うことができる。この場合、硝酸用タンク77から硝酸を第3反応器70に供給する工程を有していてもよい。この工程も製造装置101の説明内容に基づいて行うことができる。
【0149】
さらに別の幾つかの実施形態に係る製造方法では、上記第8工程に代えて、以下の第10工程を有する。すなわち、この製造方法は、第1工程〜第7工程と、第10工程とを有する。
(j)第1ガス及び/又は第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を検出し、該濃度に基づいて、非凝縮ガスに混合する酸素の供給量を調整する工程、及び第1ガス及び/又は第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を検出し、該濃度に基づいて、第3反応器70に供給する硝酸の供給量を調整する工程、の少なくとも一方の工程を有する第10工程
【0150】
上述の第10工程は、第1工程〜第7工程と併せて、繰り返し行うことができる。また、それぞれの工程は、その順番どおりに行わなくてもよく、同時に行うことができる。この第10工程は、製造装置102を用いて行うことが可能であり、製造装置102の説明に内容に基づいて行うことができる。
【0151】
さらに別の幾つかの実施形態に係る製造方法では、上述の第6工程、第7工程及び第8工程に代えて、以下の第11工程を有する。この製造方法は、第1工程〜第5工程と、第11工程とを有しており、例えば製造装置200を用いて行うことができる。
【0152】
(h)第1ガス及び/又は第3ガスにおける亜硝酸エステルの濃度を検出し、該濃度に基づいて、非凝縮ガスに混合する一酸化窒素の供給量を調整する第11工程
【0153】
上述の第11工程は、第1工程〜第5工程と併せて、繰り返し行うことができる。また、それぞれの工程は、その順番どおりに行わなくてもよく、同時に行うことができる。それぞれの工程は、上述の製造装置100,101,102,200,300の説明内容に基づいて行うことができる。
【0154】
上述の各実施形態に係る製造方法は、亜硝酸エステルの濃度変動を抑制して高い安全性を維持しつつ、第1反応器10における反応速度の低下を十分に抑制することができる。したがって、炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を安定的に生産することができる。
【0155】
以上、本発明の幾つかの実施形態を説明したが、本発明が上述の実施形態に限定されないことはいうまでもない。例えば、炭酸エステル及びシュウ酸エステルのどちらか一方のみからなるエステルを製造してもよい。また、第1ガス中における一酸化炭素と亜硝酸エステルとの含有割合を調整するとともに第1反応器10における触媒を選択することによって、炭酸エステルとシュウ酸エステルとを同時に製造して、炭酸エステルとシュウ酸エステルからなるエステルを得てもよい。
【0156】
上述の各実施形態では制御部50,52が、第1流量調整部72、第2流量調整部79、第3流量調整部26及び第4流量調整部21を自動制御しているが、制御部50,52を設けずに、第1測定部40及び第2測定部42の測定結果をみながら手動で各流量調整部を調整してもよい。
【0157】
製造装置100,101,102,200,300は、第2反応器30を複数備えていてもよい。この場合、複数の第2反応器30のそれぞれの下流側に、第1測定部40及び第2測定部42を設けてもよい。第2反応器30を複数備えることによって、一方の第2反応器30を用いて運転を継続しながら、他方の第2反応器30を停止してメンテナンスを行うこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本開示によれば、安定的に炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方含むエステルを製造することが可能な製造方法を提供することができる。また、安定的に炭酸エステル及びシュウ酸エステルの少なくとも一方を含むエステルを製造することが可能な製造装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0159】
10…第1反応器、55…合流部、20…吸収塔、21…第4流量調整部、26…第3流量調整部、30…第2反応器、31…CPU,32…ROM,33…RAM,34…入力デバイス、35…出力デバイス、36…通信モジュール、37…補助記憶装置、40…第1測定部(非分散赤外線分析計)、42…第2測定部、43…光源、44…測定セル、45…光チョッパ、46…光学フィルタ、47…比較セル、48,49…透過窓、50,52…制御部、51…検出器、53…薄膜、54a…第1室、54b…第2室、56…固定電極、57…リード線、58…信号処理部、60…蒸留塔、70,70a,70b,70c…第3反応器、72…第1流量調整部、77…硝酸用タンク、79…第2流量調整部、80…硝酸濃縮塔、86…ポンプ、90…冷却器、91…撹拌機、100,101,102,200,300…製造装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19