特許第6658797号(P6658797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6658797
(24)【登録日】2020年2月10日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ用光学素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20200220BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20200220BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20200220BHJP
   G02B 26/10 20060101ALN20200220BHJP
【FI】
   G02B27/01
   G02B3/00 A
   G02B5/18
   !G02B26/10 C
   !G02B26/10 104Z
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-99848(P2018-99848)
(22)【出願日】2018年5月24日
(62)【分割の表示】特願2016-503883(P2016-503883)の分割
【原出願日】2014年2月21日
(65)【公開番号】特開2018-163359(P2018-163359A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2018年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100134599
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 卓治
(72)【発明者】
【氏名】野本 貴之
【審査官】 山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/114502(WO,A1)
【文献】 特開2012−237968(JP,A)
【文献】 特開2012−208440(JP,A)
【文献】 特開2013−127489(JP,A)
【文献】 特開2014−235268(JP,A)
【文献】 特開2015−025977(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0231719(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 3/00,5/18,27/01
G03B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源より入射するレーザ光を拡散する光学素子であって、
マイクロレンズアレイ又は回折格子を備え、
前記マイクロレンズアレイ又は回折格子のピッチpは、前記レーザ光の入射開口数をNAinc、前記レーザ光の波長をλとすると、
【数1】
を満足することを特徴とするヘッドアップディスプレイ用光学素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザプロジェクタの光学スクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドアップディスプレイ(以下、「HUD」とも記す。)は、液晶ディスプレイの画面やレーザプロジェクタで投影されたスクリーン上の画像(実像)を、運転者の視界前方に置かれたコンバイナと呼ばれるハーフミラーによって虚像として運転者に視認させる装置である。これにより運転者は前方を見たまま視線を下げることなく計器類やナビゲーション情報等を景色に重畳した状態で視認することができる。
【0003】
レーザプロジェクタを用いたHUDでは、光源からのレーザ光を光学スクリーンに投射して、運転者に虚像として視認させる画像を生成する。レーザプロジェクタを用いたHUDの光学スクリーンに関連する先行技術として特許文献1、2が挙げられる。
【0004】
特許文献1は、光学スクリーンを構成する光学素子が曲面を有する複数の光学素子部を備え、光学素子により拡散された光束の回折幅が視認者の瞳孔径以下となるように光学素子部のピッチを設定する手法を記載している。
【0005】
特許文献2は、スペックルノイズがレンズの縁により発生するものと考え、レンズの縁にレーザ光が当たらないように、レーザ光の径よりもレンズピッチを大きくする手法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−64985号公報
【特許文献2】特許5075595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、光学素子を構成する光学素子部のピッチの設定において、光学素子に入射するレーザ光の入射NA(開口数)を考慮していない。また、ピッチの設定において視認者の瞳孔径を基準としているが、視認者の位置の変化、特に前後方向の位置の変化により見え方が変わってしまうという課題を有する。
【0008】
特許文献2では、レンズの縁にレーザ光が当たらないようにしているため、レンズ全体を有効に利用できていないという課題を有する。
【0009】
本発明が解決しようとする課題としては、上記のものが例として挙げられる。本発明は、どのような視点位置でも虚像全体を確実に見ることが可能な光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項に記載の発明は、レーザ光源より入射するレーザ光を拡散する光学素子であって、マイクロレンズアレイ又は回折格子を備え、前記マイクロレンズアレイ又は回折格子のピッチは、前記レーザ光の入射開口数をNAinc、前記レーザ光の波長をλとすると、
【数1】
を満足することを特徴とするヘッドアップディスプレイ用光学素子である
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例に係るHUDの概略構成を示す。
図2】光学スクリーン上にレーザ光をスキャンする様子を模式的に示す。
図3】レンズピッチ、及び、レーザ光の入射NAを説明する図である。
図4】光学スクリーンからの射出光の様子を説明する図である。
図5】レンズアレイと回折光分布との関係を示す。
図6】レーザ光の入射NAと回折光の関係を示す。
図7】実施例による回折光の分布を示す。
図8】所望の射出光を得るための他の条件を説明する図である。
図9】反射型の光学スクリーンの構成を示す。
図10】回折格子を用いた光学スクリーンの構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好適な実施形態は、レーザ光源より入射するレーザ光を拡散する光学素子であって、マイクロレンズアレイ又は回折格子を備え、前記マイクロレンズアレイ又は回折格子のピッチは、前記レーザ光の入射開口数及び前記レーザ光の波長に基づき、前記光学素子から射出する回折光の分布が均一となるように設定されている。
【0013】
上記の光学素子は、例えば光学スクリーンとして使用され、レーザ光源から入射するレーザ光を拡散して出力する。光学素子は、マイクロレンズアレイ又は回折格子を備え、そのピッチは、前記レーザ光の入射開口数及び前記レーザ光の波長に基づき、前記光学素子から射出する回折光の分布が均一となるように設定されている。これにより、視点位置に拘わらず、また、後段に配置される光学系に依存せず、光学素子からの射出光の光量分布を均一とすることができる。
【0014】
上記の光学素子の一態様では、前記光学素子はマイクロレンズアレイ又は回折格子であり、前記マイクロレンズアレイ又は回折格子に照射された前記レーザ光のスポット径に基づき、前記マイクロレンズアレイ又は回折格子のピッチが前記スポット径以下の大きさである。これにより、所望の仕様に設計されたマイクロレンズ自体の性能を発揮することができる。
【0015】
好適な例では、前記ピッチをp、前記入射開口数をNAinc、前記波長をλとすると、前記ピッチpは、
【0016】
【数1】
【0017】
を満足する。
【0018】
また、他の好適な例では、前記レーザ光は赤色、緑色、青色の3色のレーザ光を含み、前記ピッチをp、前記入射開口数をNAinc、前記赤色のレーザ光の波長をλRED、前記青色のレーザ光の波長をλBLUEとすると、前記ピッチpは、
【0019】
【数2】
【0020】
を満足する。
【0021】
本発明の他の好適な実施形態では、ヘッドアップディスプレイは、レーザ光源と、上記の光学素子により構成され、前記レーザ光源から射出したレーザ光を照射する光学スクリーンと、前記光学スクリーンから射出されたレーザ光を反射するコンバイナと、を備える。
【実施例】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0023】
[実施例]
図1は、本発明の実施例に係るHUDの構成を示す。HUDは、レーザプロジェクタ10と、コンバイナ5と、を備える。運転者に視認させるべき画像を構成するレーザ光がレーザプロジェクタ10から射出され、凹面鏡であるコンバイナ5により反射され、運転者の視点に到達する。これにより、運転者がその画像を虚像として視認する。
【0024】
レーザプロジェクタ10は、レーザ光源11と、光学スクリーン12と、MEMSミラー13とを備える。レーザ光源11は、R(赤)、G(緑)、B(青)の3色のレーザ光源を備え、運転者に視認させるべき画像に対応するRGBのレーザ光Lを射出する。図3(a)に示すように、光学スクリーン12は、複数のマイクロレンズ(以下、単に「レンズ」とも呼ぶ。)12xを配列したレンズアレイにより構成される。
【0025】
図2は、レーザ光Lを光学スクリーン12上にスキャンする様子を示す。レーザ光源11から射出されたレーザ光Lは、MEMSミラー13により光学スクリーン12上でスキャンされる。これにより、運転者に視認させるべき画像が光学スクリーン12上に描画される。
【0026】
本実施例では、どんな視点位置であっても、運転者が虚像全体を確実に見ることができるようにするため、光学スクリーン12を構成するレンズアレイのレンズピッチpを、レンズアレイ上に集光するレーザ光(入射光)の入射NA(開口数)と、レーザ光の波長とに基づいて定める点に特徴を有する。具体的には、光学スクリーン12を構成するレンズアレイのレンズピッチpを、以下の式(1)を満足するように決定する。
【0027】
【数3】
【0028】
ここで、レンズピッチpは、図3(a)に示すように、レンズアレイを構成する複数のレンズ12xのうち、隣接するレンズ12xの中心間の距離pとして定義される。また、入射NAは、図3(b)に示すように、光学スクリーン12に入射する入射光Lの広がりを示す角θを用いて「入射NA=sinθ」と与えられる。
【0029】
以下、式(1)について説明する。図4(a)は、理想的な光学スクリーンを用いた場合の射出光を示す。理想的な光学スクリーンは入射光を均一に拡散させるため、射出光においては1画素分のレーザスポットが均等に広がる。よって、どの視点位置でも入射光による画像を同じように見ることができる。
【0030】
図4(b)は、光学スクリーンとしてレンズアレイを用いた場合の射出光を示す。レンズアレイを使用すると、レンズアレイを構成するマイクロレンズの周期構造により回折が生じ、射出光が均等に広がらない。そのため、視点位置によって、画像が見えるときと見えないときとがある。
【0031】
図5(a)はレンズアレイのレンズピッチpを示し、図5(b)はレンズアレイから射出する回折光の分布を示す。グレーティング法則により、レンズアレイから射出する回折光の間隔はレンズ周期に依存する。例えば、図5(a)に示すレンズピッチpのレンズアレイを用いた場合、回折光の間隔は(2/√3)・(λ/p)となる。
【0032】
一方、スカラー回折理論により、個々の回折光の大きさは、入射光の入射NAで決まる。具体的に、図6(a)に示すように入射NAが大きいときは、回折光の大きさ(角度θ)は大きくなる。また、図6(b)に示すように入射NAが小さいときは、回折光の大きさ(角度θ’)は小さくなる。
【0033】
以上より、図7に示すように、入射NAを大きくして回折光の隙間を埋めれば、回折光がほぼ均一に分布した射出光が得られる。即ち、回折光の大きさが回折光の間隔以上となる条件で、即ち以下の式(2)の関係が成立するときに、射出光の光量(輝度)分布が均一な、ほぼ理想的な光学スクリーンを得ることができる。
【0034】
【数4】
【0035】
また、射出光においては図8(b)に示すような射出NAも重要な設計要素である。射出NAが小さすぎると視点範囲が狭くなり、大きすぎると虚像の輝度が足りなくなる。システムの仕様に合った射出NAを得るためには、さらに以下の条件(A)が求められる。
【0036】
(A)入射光のスポットはレンズ単体の径より大きい必要がある。これは、入射光を個々のレンズの全面に入射させないと、レンズ単体の性能を十分に発揮できないからである。よって、図8(a)に示すように、入射光Lの直径をレンズ12xの直径よりも大きくする。ここで、レーザ光のスポット径としてエアリーディスクの直径(r=1.22λ/NA)を利用すると、以下の式(3)が成立することが必要である。
【0037】
【数5】
【0038】
以上の式(2)、(3)より、式(1)が成立するときに、射出光の光量分布が均一となり、かつ、所望の射出NAを得ることができる。
【0039】
【数6】
【0040】
なお、式(1)にはレーザ波長のパラメータが含まれている。レーザ光源11からのレーザ光をRGBのカラーのレーザ光とする場合、レーザ波長は赤>緑>青の関係を有するので、以下の式(4)が得られる。ここで、λREDは赤色レーザ光の波長であり、λBLUEは青色レーザ光の波長である。
【0041】
【数7】
【0042】
次に、上記の式(4)を満足する数値例を検討する。一例として、レーザ光の入射NA=0.003とする。式(4)の赤色レーザ光の波長λRED=0.638nmとすると、レンズピッチp≧約123μmとなる。また、式(4)の青色レーザ波長λBLUE=0.450nmとすると、レンズピッチp≦約183μmとなる。よって、射出光を均一にするための光学スクリーン12のレンズピッチp=123〜183μmとなる。
【0043】
以上のように、上記の式(1)又は(4)を満足するようにレンズピッチpを設定することにより、視点位置に拘わらず、また、光学スクリーン12の後段に配置される光学系(例えばコンバイナなど)に依存せず、光学スクリーン12からの射出光の光量分布を均一にすることができる。
【0044】
なお、回折光は理想的には隙間なく並ぶのが良いが、実際には隣接する回折光の間に隙間があるか、又は、隣接する回折光の一部が相互に重なることになり、このような隙間又は重なりの部分は厳密には均一ではない。しかし、人間の眼は点ではなく、ある程度の広がりを持って対象物を視認するので、このような微小な隙間や重なりは視覚上平均されて認識されるため、実際には人間の眼には均一に見えることになる。本発明では、この意味で回折光は均一であるとしている。
【0045】
(変形例)
上記の実施例では、光学スクリーン12を透過型に構成しているが、光学スクリーン12を反射型に構成してもよい。図9は、反射型の光学スクリーン12Rの例を示す。反射型の光学スクリーン12Rは、透過型の光学スクリーン12のレンズアレイの曲面上に反射膜12aを形成して作製される。レンズアレイに入射したレーザ光は、レンズアレイ上の反射膜12aにより反射される。光学スクリーンを反射型にすることにより、HUD内の部品配置の自由度を高めることができる。
【0046】
また、上記の光学スクリーン12では、レンズアレイを構成する個々のレンズ12xが六角形であるが、本発明の適用はこれには限られない。即ち、個々のレンズ12xを四角形や他の多角形としてもよい。
【0047】
また、上記の光学スクリーン12では、レンズアレイの全ての方向のピッチが同じでなくてもよい。例えば、レンズ12xが縦又は横方向につぶれた形状の六角形であっても、縦方向のレンズピッチと横方向のレンズピッチの両方が式(1)、(4)を満足すれば、射出光の光量分布を均一にすることができる。また、隣接するレンズ12xの間に間隔があっても構わない。
【0048】
[他の実施例]
上記の実施例では、光学スクリーン12をレンズアレイにより構成しているが、本発明の適用はこれには限定されない。光学スクリーンは周期配列を有すればよく、例えば回折格子を用いてもよい。図10は、回折格子を用いた光学スクリーン22の構成を示す。図10(a)は光学スクリーン22の斜視図であり、図10(b)は光学スクリーン22の平面図である。回折格子を用いた光学スクリーン22も入射光を回折して射出する。この際、上述した式(1)、(4)を満足するように格子ピッチpを設定することにより、レンズアレイの実施例と同様に、射出光の光量分布を均一にすることができる。
【符号の説明】
【0049】
5 コンバイナ
10 レーザプロジェクタ
11 レーザ光源
12、22 光学スクリーン
12x マイクロレンズ
13 MEMSミラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10