【実施例】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0023】
[実施例]
図1は、本発明の実施例に係るHUDの構成を示す。HUDは、レーザプロジェクタ10と、コンバイナ5と、を備える。運転者に視認させるべき画像を構成するレーザ光がレーザプロジェクタ10から射出され、凹面鏡であるコンバイナ5により反射され、運転者の視点に到達する。これにより、運転者がその画像を虚像として視認する。
【0024】
レーザプロジェクタ10は、レーザ光源11と、光学スクリーン12と、MEMSミラー13とを備える。レーザ光源11は、R(赤)、G(緑)、B(青)の3色のレーザ光源を備え、運転者に視認させるべき画像に対応するRGBのレーザ光Lを射出する。
図3(a)に示すように、光学スクリーン12は、複数のマイクロレンズ(以下、単に「レンズ」とも呼ぶ。)12xを配列したレンズアレイにより構成される。
【0025】
図2は、レーザ光Lを光学スクリーン12上にスキャンする様子を示す。レーザ光源11から射出されたレーザ光Lは、MEMSミラー13により光学スクリーン12上でスキャンされる。これにより、運転者に視認させるべき画像が光学スクリーン12上に描画される。
【0026】
本実施例では、どんな視点位置であっても、運転者が虚像全体を確実に見ることができるようにするため、光学スクリーン12を構成するレンズアレイのレンズピッチpを、レンズアレイ上に集光するレーザ光(入射光)の入射NA(開口数)と、レーザ光の波長とに基づいて定める点に特徴を有する。具体的には、光学スクリーン12を構成するレンズアレイのレンズピッチpを、以下の式(1)を満足するように決定する。
【0027】
【数3】
【0028】
ここで、レンズピッチpは、
図3(a)に示すように、レンズアレイを構成する複数のレンズ12xのうち、隣接するレンズ12xの中心間の距離pとして定義される。また、入射NAは、
図3(b)に示すように、光学スクリーン12に入射する入射光Lの広がりを示す角θを用いて「入射NA=sinθ」と与えられる。
【0029】
以下、式(1)について説明する。
図4(a)は、理想的な光学スクリーンを用いた場合の射出光を示す。理想的な光学スクリーンは入射光を均一に拡散させるため、射出光においては1画素分のレーザスポットが均等に広がる。よって、どの視点位置でも入射光による画像を同じように見ることができる。
【0030】
図4(b)は、光学スクリーンとしてレンズアレイを用いた場合の射出光を示す。レンズアレイを使用すると、レンズアレイを構成するマイクロレンズの周期構造により回折が生じ、射出光が均等に広がらない。そのため、視点位置によって、画像が見えるときと見えないときとがある。
【0031】
図5(a)はレンズアレイのレンズピッチpを示し、
図5(b)はレンズアレイから射出する回折光の分布を示す。グレーティング法則により、レンズアレイから射出する回折光の間隔はレンズ周期に依存する。例えば、
図5(a)に示すレンズピッチpのレンズアレイを用いた場合、回折光の間隔は(2/√3)・(λ/p)となる。
【0032】
一方、スカラー回折理論により、個々の回折光の大きさは、入射光の入射NAで決まる。具体的に、
図6(a)に示すように入射NAが大きいときは、回折光の大きさ(角度θ)は大きくなる。また、
図6(b)に示すように入射NAが小さいときは、回折光の大きさ(角度θ’)は小さくなる。
【0033】
以上より、
図7に示すように、入射NAを大きくして回折光の隙間を埋めれば、回折光がほぼ均一に分布した射出光が得られる。即ち、回折光の大きさが回折光の間隔以上となる条件で、即ち以下の式(2)の関係が成立するときに、射出光の光量(輝度)分布が均一な、ほぼ理想的な光学スクリーンを得ることができる。
【0034】
【数4】
【0035】
また、射出光においては
図8(b)に示すような射出NAも重要な設計要素である。射出NAが小さすぎると視点範囲が狭くなり、大きすぎると虚像の輝度が足りなくなる。システムの仕様に合った射出NAを得るためには、さらに以下の条件(A)が求められる。
【0036】
(A)入射光のスポットはレンズ単体の径より大きい必要がある。これは、入射光を個々のレンズの全面に入射させないと、レンズ単体の性能を十分に発揮できないからである。よって、
図8(a)に示すように、入射光Lの直径をレンズ12xの直径よりも大きくする。ここで、レーザ光のスポット径としてエアリーディスクの直径(r=1.22λ/NA)を利用すると、以下の式(3)が成立することが必要である。
【0037】
【数5】
【0038】
以上の式(2)、(3)より、式(1)が成立するときに、射出光の光量分布が均一となり、かつ、所望の射出NAを得ることができる。
【0039】
【数6】
【0040】
なお、式(1)にはレーザ波長のパラメータが含まれている。レーザ光源11からのレーザ光をRGBのカラーのレーザ光とする場合、レーザ波長は赤>緑>青の関係を有するので、以下の式(4)が得られる。ここで、λ
REDは赤色レーザ光の波長であり、λ
BLUEは青色レーザ光の波長である。
【0041】
【数7】
【0042】
次に、上記の式(4)を満足する数値例を検討する。一例として、レーザ光の入射NA=0.003とする。式(4)の赤色レーザ光の波長λ
RED=0.638nmとすると、レンズピッチp≧約123μmとなる。また、式(4)の青色レーザ波長λ
BLUE=0.450nmとすると、レンズピッチp≦約183μmとなる。よって、射出光を均一にするための光学スクリーン12のレンズピッチp=123〜183μmとなる。
【0043】
以上のように、上記の式(1)又は(4)を満足するようにレンズピッチpを設定することにより、視点位置に拘わらず、また、光学スクリーン12の後段に配置される光学系(例えばコンバイナなど)に依存せず、光学スクリーン12からの射出光の光量分布を均一にすることができる。
【0044】
なお、回折光は理想的には隙間なく並ぶのが良いが、実際には隣接する回折光の間に隙間があるか、又は、隣接する回折光の一部が相互に重なることになり、このような隙間又は重なりの部分は厳密には均一ではない。しかし、人間の眼は点ではなく、ある程度の広がりを持って対象物を視認するので、このような微小な隙間や重なりは視覚上平均されて認識されるため、実際には人間の眼には均一に見えることになる。本発明では、この意味で回折光は均一であるとしている。
【0045】
(変形例)
上記の実施例では、光学スクリーン12を透過型に構成しているが、光学スクリーン12を反射型に構成してもよい。
図9は、反射型の光学スクリーン12Rの例を示す。反射型の光学スクリーン12Rは、透過型の光学スクリーン12のレンズアレイの曲面上に反射膜12aを形成して作製される。レンズアレイに入射したレーザ光は、レンズアレイ上の反射膜12aにより反射される。光学スクリーンを反射型にすることにより、HUD内の部品配置の自由度を高めることができる。
【0046】
また、上記の光学スクリーン12では、レンズアレイを構成する個々のレンズ12xが六角形であるが、本発明の適用はこれには限られない。即ち、個々のレンズ12xを四角形や他の多角形としてもよい。
【0047】
また、上記の光学スクリーン12では、レンズアレイの全ての方向のピッチが同じでなくてもよい。例えば、レンズ12xが縦又は横方向につぶれた形状の六角形であっても、縦方向のレンズピッチと横方向のレンズピッチの両方が式(1)、(4)を満足すれば、射出光の光量分布を均一にすることができる。また、隣接するレンズ12xの間に間隔があっても構わない。
【0048】
[他の実施例]
上記の実施例では、光学スクリーン12をレンズアレイにより構成しているが、本発明の適用はこれには限定されない。光学スクリーンは周期配列を有すればよく、例えば回折格子を用いてもよい。
図10は、回折格子を用いた光学スクリーン22の構成を示す。
図10(a)は光学スクリーン22の斜視図であり、
図10(b)は光学スクリーン22の平面図である。回折格子を用いた光学スクリーン22も入射光を回折して射出する。この際、上述した式(1)、(4)を満足するように格子ピッチpを設定することにより、レンズアレイの実施例と同様に、射出光の光量分布を均一にすることができる。