(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記支柱の前記取り付け面への一体的な取り付けは、コの字状またはUの字状の取り付け部材を用いて行われており、前記支柱が前記取り付け部材の両端部の間に配置された状態で、前記取り付け部材の前記両端部が前記プレキャストコンクリートパネルの前記取り付け面に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の堤体部材。
前記支柱は断面H形の鋼材であり、また、前記プレキャストコンクリートパネルの前記取り付け面にはボルトが埋め込まれており、前記支柱は前記ボルトによって前記取り付け面に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の堤体部材。
前記固定部材の前記平板部は鋼板からなるベースプレートであり、該ベースプレートは前記支柱の下端部に溶接されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の堤体部材。
前記プレキャストコンクリートパネルは、長手方向両端部に、段差を介して厚さが薄くなっている段差部が設けられており、該段差部の段差面は、前記プレキャストコンクリートパネルの厚さ方向中央部付近に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の堤体部材。
前記堤体部材のうち、上下に隣り合って配置された前記堤体部材の前記支柱同士は、下に配置された前記支柱の上端部に取り付けられた鋼板からなるトッププレートと、上に配置された前記支柱の下端部に取り付けられた鋼板からなるベースプレートとが、突き合わされて配置されて連結されていることを特徴とする請求項12に記載の嵩上げ堤体。
前記配置工程で配置される前記堤体部材は請求項5または6に記載の複数の堤体部材であって、隣り合う前記堤体部材の前記プレキャストコンクリートパネルの前記段差部同士を組み合わせることを特徴とする請求項14に記載の嵩上げ堤体の施工方法。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0031】
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る堤体部材10および嵩上げ堤体50を示す斜視図であり、
図2は、
図1のA部(堤体部材10のプレキャストコンクリートパネル12の端部および支柱14)を拡大して示す拡大斜視図であり、
図3は、
図1のA部を上方から見た状態を拡大して示す拡大平面図である。
【0032】
本第1実施形態に係る堤体部材10は、
図1に示すように、プレキャストコンクリートパネル12と、支柱14と、ベースプレート16と、を備えてなる。
【0033】
また、本第1実施形態に係る嵩上げ堤体50は、
図1に示すように、既存堤体52と、既存堤体52の天端52Aの上に、既存堤体52の法線方向(以下、単に「法線方向」と記すことがある。)に連なって設けられた堤体部材10と、を有してなり、堤体部材10を複数備えて構成されている。本第1実施形態に係る嵩上げ堤体50においては、隣り合うプレキャストコンクリートパネル12同士の間に、必要に応じて止水目地材(図示せず)を設けてもよい。
【0035】
(1−1)プレキャストコンクリートパネル12
プレキャストコンクリートパネル12は、プレキャストコンクリート製の板状体であり、細長い平板状の直方体である。その標準的な大きさは、法線方向の幅が5m程度、高さが1.0〜1.5m程度、厚さが250〜300mm程度であるが、設計条件によって適宜に変更することが可能である。ただし、
図1に示すように、プレキャストコンクリートパネル12の全体、支柱14の全体およびベースプレート16の全体を、既存堤体52の天端52Aの上に配置することが必要であるため、プレキャストコンクリートパネル12の厚さを、天端52Aの法線直角方向の幅よりも小さくすることが必要である。
【0036】
また、プレキャストコンクリートパネル12の内部には、通常の堤体の壁部と同様に、面内方向に縦横に鉄筋が配置されているとともに厚さ方向にも鉄筋が配置されている(図示は省略する。)。
【0037】
プレキャストコンクリートパネル12を既存堤体52の天端52A上に配置する際には、プレキャストコンクリートパネル12の厚さ方向に対向する面のうち、一方の面を水域に面するように配置する(水域に面する面を外面12Aと称することとする。)。
【0038】
プレキャストコンクリートパネル12は、原則として工場で製作する。工場で製作することにより、プレキャストコンクリートパネル12の品質を、安定的に高品質に保つことができる。
【0039】
(1−2)支柱14およびベースプレート16
支柱14は、プレキャストコンクリートパネル12の厚さ方向に対向する面のうち、外面12Aとは反対側の面である取り付け面12Bに取り付けられており、支柱14は、既存堤体52の天端52Aの上に配置されたプレキャストコンクリートパネル12の位置を固定する役割を有する。取り付け面12Bは、水域とは反対側に向いた面(陸側に向いた面)である。
【0040】
支柱14は、角筒状の鋼製の角パイプであり、その高さは、プレキャストコンクリートパネル12の高さと同程度である。また、支柱14の水平断面の外形は正方形であり、水平断面の外形(正方形)の1辺の長さは75〜150mm程度が標準的である。また、支柱14を構成する角パイプの厚さは3〜6mm程度が標準的である。
【0041】
また、支柱14として、断面H形の鋼材を用いることも可能である。この場合、支柱14を構成する断面H形の鋼材のフランジおよびウェブの水平断面における長さは75〜150mm程度が標準的である。また、支柱14を構成する断面H形の鋼材のフランジおよびウェブの厚さは7〜10mm程度が標準的である。
【0042】
支柱14として断面H形の鋼材を用いる場合、例えば、後述する第5実施形態における支柱74、94および中間支柱84(
図12参照)のように、支柱14は、プレキャストコンクリートパネル12の取り付け面12Bに埋め込まれたボルトによって、プレキャストコンクリートパネル12に取り付けるようにしてもよい。
【0043】
図2に示すように、支柱14の下端部には、平板状の鋼板であるベースプレート16が溶接で取り付けられている。ベースプレート16の厚さは16〜25mm程度が標準的である。ベースプレート16の大きさは、
図3に示すように、支柱14の水平断面の大きさよりも大きく、ベースプレート16の辺16A、16Bの長さは、支柱14の水平断面の同方向の長さよりも10cm程度大きくなっており、ベースプレート16の辺16Cの長さは、支柱14の水平断面の同方向の長さよりも20cm程度大きくなっている。
【0044】
ベースプレート16には、支柱14の水平断面からはみ出した部位に、アンカー18が挿通する貫通孔(図示せず)が複数設けられている。
図2に示すように、アンカー18は、既存堤体52の天端52Aに取り付けられており、ベースプレート16の貫通孔を挿通したアンカー18の上端部(ベースプレート16の上面よりも上方に突出した部位)にはナット18Aが取り付けられており、ナット18Aを締め込むことによって、ベースプレート16がアンカー18を介して既存堤体52の天端52Aに固定される。したがって、ベースプレート16は、既存堤体52の天端52Aに固定される固定部材である。また、ベースプレート16が既存堤体52の天端52Aに固定されることで、ベースプレート16の上面に下端部が溶接された支柱14は、既存堤体52の天端52Aに固定されて、既存堤体52の天端52A上に立設される。
【0045】
アンカー18は、既存堤体52の天端52Aに十分に固定できるタイプであれば、使用可能なタイプは特には限定されず、金属系アンカーや接着系アンカー等を使用することができる。
【0046】
プレキャストコンクリートパネル12の取り付け面12Bへの支柱14の取り付けは、コの字状の形状である角バンド14Aを用いて行う。具体的には、
図2に示すように、コの字状の形状である角バンド14Aの内側に支柱14が位置するように(支柱14が角バンド14Aの両端部の間に配されるように)、角バンド14Aを、支柱14の高さ方向に複数配置して、角バンド14Aの両端部を取り付け面12Bにボルト14Bで取り付けて行う。また、取り付け面12Bへの支柱14の取り付けの際には、ベースプレート16の下面がプレキャストコンクリートパネル12の下端面と同一の高さ位置となるように、支柱14の位置を調整して取り付ける。このため、ベースプレート16の下面とプレキャストコンクリートパネル12の下端面とは同一面に形成されている。
【0047】
1つのプレキャストコンクリートパネル12に取り付ける支柱14の数は、想定される外力やプレキャストコンクリートパネル12の厚さ等に応じて適宜に設定してよいが、プレキャストコンクリートパネル12の法線方向の両端部付近に取り付けて、1つのプレキャストコンクリートパネル12について2本の支柱14を取り付けることが標準的である。
【0048】
プレキャストコンクリートパネル12の取り付け面12Bへの支柱14の取り付けは、現場搬入前に予め行っておく。このようにすることにより、現地での嵩上げ工事における主たる作業を、既存堤体52の天端52A上への堤体部材10の配置作業(クレーンを用いて行う配置作業)、既存堤体52の天端52Aへのアンカー18の取り付け作業、およびベースプレート16の貫通孔を挿通したアンカー18の上端部(ベースプレート16の上面よりも上方に突出した部位)にナット18Aを取り付けて締め込む作業のみにすることができる。
【0049】
なお、既存堤体52の天端52Aの法線直角方向の幅が小さく、ベースプレート16の法線直角方向の幅を小さくする必要がある場合は、
図4(支柱14、ベースプレート16およびその周辺領域を上方から見た拡大平面図)に示すように、ベースプレート16の辺16D、16Eの長さを、支柱14の水平断面の同方向の長さと同程度にしてもよい。
【0050】
また、本第1実施形態に係る堤体部材10においては、支柱14として、角筒状の鋼製の角パイプを用いたが、本発明に係る堤体部材において用いることができる支柱の形状はこれに限定されるわけではなく、例えば、前述したように、断面H形の鋼材を用いてもよく、また、円筒状の鋼製のパイプを用いてもよく、中実な角柱状または円柱状の鋼製部材を用いてもよい。
【0051】
支柱14に代えて、円筒状の鋼製のパイプまたは円柱状の鋼製部材を支柱に用いる場合は、角バンド14Aに代えて、当該支柱の形状に合うUボルト(図示せず)を用いて、当該支柱を、プレキャストコンクリートパネル12の取り付け面12Bへ取り付ける。
【0052】
(1−3)嵩上げ堤体の施工方法
第1実施形態に係る堤体部材10を既存堤体52の天端52A上に設置して、嵩上げ堤体50を構築する嵩上げ堤体の施工方法について、ステップに分けて説明する。
【0053】
<ステップS1>
工場においてプレキャストコンクリートパネル12を作製する。また、支柱14の下端部に溶接でベースプレート16を取り付ける。
【0054】
そして、プレキャストコンクリートパネル12の取り付け面12Bへ、支柱14(下端部にベースプレート16が取り付けられた支柱14)を、角バンド14Aを用いて取り付けて、堤体部材10を作製する。
【0055】
以上のステップS1は、堤体部材10を現地へ搬入する前に予め行う作業である。
【0056】
<ステップS2>
ステップS1で作製した堤体部材10を現地へ搬入する。
【0057】
<ステップS3>
現地へ搬入した堤体部材10をクレーン(図示せず)で吊り上げて、既存堤体52の天端52A上の所定の位置に堤体部材10を配置する。
【0058】
堤体部材10にはすでに支柱14が取り付けられており、また、堤体部材10においては、ベースプレート16の下面がプレキャストコンクリートパネル12の下端面と同一の高さ位置となるように、支柱14が取り付け面12Bへ取り付けられており、プレキャストコンクリートパネル12の下端面よりも下方に突出した部位はないので、堤体部材10を吊り上げる際には、プレキャストコンクリートパネル12の下端面が、既存堤体52の天端52Aよりも高くなるように吊り上げさえすれば、既存堤体52の天端52A上に堤体部材10を配置することができる。
【0059】
一方、プレキャストコンクリートパネル12と支柱14とを、別々の状態で現地に搬入し、既存堤体52の天端52A上に配置されたプレキャストコンクリートパネル12を仮固定しないようにする場合、支柱14を既存堤体52の天端52Aに先に固定することが必要になるので、プレキャストコンクリートパネル12を既存堤体52の天端52A上に配置する際には、プレキャストコンクリートパネル12の下端面が支柱14の上端よりも高くなるように、プレキャストコンクリートパネル12を、クレーンで吊り上げることが必要となり、工事可能な現場は、おのずとそのような吊り上げ高さが許容できる現場や、高く吊り上げるための大型のクレーンを搬入できる現場になるという制約が生じる。
【0060】
<ステップS4>
既存堤体52の天端52A上の所定の位置に堤体部材10を配置した後、ベースプレート16のアンカー用の貫通孔を挿通するようにアンカー18を、既存堤体52の天端52Aに取り付ける。そして、アンカー18の上端部にナット18Aを取り付けて締め込んで、ベースプレート16を既存堤体52の天端52A上に固定する。
【0061】
以上のように施工することにより、本第1実施形態に係る嵩上げ堤体50を構築することができる。なお、隣り合うプレキャストコンクリートパネル12同士の間に、必要に応じて止水目地材(図示せず)を設けてもよい。
【0062】
(2)第2実施形態
図5は、本発明の第2実施形態に係る堤体部材20および嵩上げ堤体60を示す斜視図であり、
図6は、
図5のB部(堤体部材20のプレキャストコンクリートパネル22の端部および支柱24)を拡大して示す拡大斜視図である。
【0063】
第1実施形態に係る堤体部材10においては、支柱14がプレキャストコンクリートパネル12の外部に配置されており、支柱14は、プレキャストコンクリートパネル12の取り付け面12Bへ角バンド14Aによって取り付けられているが、本第2実施形態に係る堤体部材20においては、支柱24がプレキャストコンクリートパネル22の内部に埋め込まれている。支柱24がプレキャストコンクリートパネル22の内部に埋め込まれている点およびこれに付随して変更した点以外は、本第2実施形態に係る堤体部材20および嵩上げ堤体60は、第1実施形態に係る堤体部材10および嵩上げ堤体50と同様であるので、本第2実施形態に係る堤体部材20および嵩上げ堤体60の部材および部位のうち、第1実施形態に係る堤体部材10および嵩上げ堤体50の部材および部位と同一の部材および部位には同一の符号を用い、説明は原則として省略する。
【0064】
本第2実施形態に係る堤体部材20は、
図5に示すように、プレキャストコンクリートパネル22と、支柱24と、ベースプレート26と、補強プレート28とを備えてなる。
【0065】
また、本第2実施形態に係る嵩上げ堤体60は、既存堤体52と、既存堤体52の天端52Aの上に、既存堤体52の法線方向に連なって設けられた堤体部材20と、を有してなり、堤体部材20を複数備えて構成されている。本第2実施形態に係る嵩上げ堤体60において、隣り合うプレキャストコンクリートパネル22同士の間に、必要に応じて止水目地材(図示せず)を設けてもよい。
【0067】
(2−1)プレキャストコンクリートパネル22
本第2実施形態に係る堤体部材20のプレキャストコンクリートパネル22は、
図5に示すように、その内部に支柱24が埋め込まれており、それに伴って、ベースプレート26の一部および補強プレート28の一部がプレキャストコンクリートパネル22に組み込まれて一体化している。ベースプレート26の下面の高さ位置は、プレキャストコンクリートパネル22の下端面の高さ位置と一致しており、ベースプレート26の下面とプレキャストコンクリートパネル22の下端面とは同一面に形成されている。
【0068】
プレキャストコンクリートパネル22は、プレキャストコンクリート製の板状体であり、細長い平板状の直方体である。その標準的な大きさは、法線方向の幅が5m程度、高さが1.0〜1.5m程度、厚さが250〜300mm程度であるが、設計条件によって適宜に変更することが可能である。ただし、
図5に示すように、プレキャストコンクリートパネル22の全体およびベースプレート26の全体を、既存堤体52の天端52Aの上に配置することが必要であるため、プレキャストコンクリートパネル22の厚さを、天端52Aの法線直角方向の幅よりも小さくすることが必要である。
【0069】
1つのプレキャストコンクリートパネル22に設ける支柱24の数は、想定される外力やプレキャストコンクリートパネル22の厚さ等に応じて適宜に設定してよいが、プレキャストコンクリートパネル22の法線方向の両端部付近に設けて、1つのプレキャストコンクリートパネル22について2本の支柱24を設けることが標準的である。
【0070】
また、プレキャストコンクリートパネル22の内部には、通常の堤体の壁部と同様に、面内方向に縦横に鉄筋が配置されているとともに厚さ方向にも鉄筋が配置されている(図示は省略する。)。
【0071】
プレキャストコンクリートパネル22を既存堤体52の天端52A上に配置する際には、プレキャストコンクリートパネル22の厚さ方向に対向する面のうち、一方の面を水域に面するように配置する(水域に面する面を外面22Aと称することとする。)。
【0072】
プレキャストコンクリートパネル22は、原則として工場で製作する。工場で製作することにより、プレキャストコンクリートパネル22の品質を、安定的に高品質に保つことができる。
【0073】
(2−2)支柱24、ベースプレート26および補強プレート28
支柱24は、プレキャストコンクリートパネル22の内部に配置されて埋め込まれており、その下端はベースプレート26の上面に溶接で取り付けられており、また、
図6に示すように、支柱24とベースプレート26との間には2枚の補強プレート28が溶接で取り付けられている。支柱24は、既存堤体52の天端52A上に配置されたプレキャストコンクリートパネル22の位置を固定する役割を有する。
【0074】
支柱24は、角筒状の鋼製の角パイプであり、その高さは、プレキャストコンクリートパネル22の高さよりも10cm程度低い高さである。また、支柱24の水平断面の外形は正方形であり、水平断面の外形(正方形)の1辺の長さは75〜150mm程度が標準的である。また、支柱24を構成する角パイプの厚さは3〜6mm程度が標準的である。
【0075】
また、支柱24として、断面H形の鋼材を用いることも可能である。この場合、支柱24を構成する断面H形の鋼材のフランジおよびウェブの水平断面における長さは75〜150mm程度が標準的である。また、支柱24を構成する断面H形の鋼材のフランジおよびウェブの厚さは7〜10mm程度が標準的である。
【0076】
図6に示すように、支柱24の下端部には、平板状の鋼板であるベースプレート26が溶接で取り付けられている。ベースプレート26の大きさは、
図7(支柱24、ベースプレート26およびその周辺領域を上方から見た拡大平面図)に示すように、支柱24の水平断面の大きさよりも大きく、ベースプレート26の辺26A、26Bの長さは、プレキャストコンクリートパネル22から陸側に20cm程度はみ出す長さであり、40〜60cm程度の長さである。ベースプレート26の辺26Cの長さは、支柱24の水平断面の同方向の長さよりも20cm程度大きくなっており、30〜35cm程度の長さである。
【0077】
ベースプレート26には、プレキャストコンクリートパネル22からはみ出した部位に、アンカー18が挿通する貫通孔(図示せず)が複数設けられている。
図6に示すように、アンカー18は、既存堤体52の天端52Aに取り付けられており、ベースプレート26の貫通孔を挿通したアンカー18の上端部(ベースプレート26の上面よりも上方に突出した部位)にはナット18Aが取り付けられており、ナット18Aを締め込むことによって、ベースプレート26がアンカー18を介して既存堤体52の天端52Aに固定される。したがって、ベースプレート26は、既存堤体52の天端52Aに固定される固定部材である。また、ベースプレート26が既存堤体52の天端52Aに固定されることで、ベースプレート26の上面に下端部が溶接された支柱24は、既存堤体52の天端52Aに固定されて、既存堤体52の天端52A上に立設される。
【0078】
補強プレート28は、支柱24とベースプレート26との間に溶接で取り付けられた三角形状の鋼板であり、2枚設けられており、支柱24に加わる外力がアンカー18および既存堤体52に確実に伝達されるように、支柱24とベースプレート26との間を補強する役割を有する。本第2実施形態に係る堤体部材20においては、
図6および
図7に示すように、支柱24とアンカー18との間の法線直角方向の距離がある程度あるため、ベースプレート26の強度および剛性だけでは、支柱24に加わる外力がアンカー18および既存堤体52に十分には伝達されないことが危惧される。この危惧を解消するために、本第2実施形態では補強プレート28を設けている。
【0079】
なお、本第2実施形態に係る堤体部材20においては、支柱24として、角筒状の鋼製の角パイプを用いたが、本発明に係る堤体部材において用いることができる支柱の形状はこれに限定されるわけではなく、例えば、前述したように、断面H形の鋼材を用いてもよく、また、円筒状の鋼製のパイプを用いてもよく、中実な角柱状または円柱状の鋼製部材を用いてもよい。
【0080】
(2−3)嵩上げ堤体の施工方法
第2実施形態に係る堤体部材20を既存堤体52の天端52A上に設置して、嵩上げ堤体60を構築する嵩上げ堤体の施工方法は、「(1−3)嵩上げ堤体の施工方法」で説明した嵩上げ堤体の施工方法と同様であるので、説明は省略する。
【0081】
(3)第3実施形態
図8は、本発明の第3実施形態に係る堤体部材30、31および嵩上げ堤体62を示す斜視図であり、
図9は、プレキャストコンクリートパネル32の段差部32Aおよび組み合わせ部32Bの水平断面を示す拡大断面図である。
【0082】
第1実施形態に係る堤体部材10においては、プレキャストコンクリートパネル12は細長い平板状の直方体であったが、本第3実施形態に係る堤体部材30、31においては、プレキャストコンクリートパネル32の法線方向の両端部に段差部32Aが設けられている。そして、本第3実施形態に係る嵩上げ堤体62においては、隣り合うプレキャストコンクリートパネル32同士は、お互いの段差部32A同士が組み合わされて配置されており、組み合わせ部32Bが形成されている。
【0083】
前記の点およびこれに付随して変更した点以外は、本第3実施形態に係る堤体部材30、31および嵩上げ堤体62は、第1実施形態に係る堤体部材10および嵩上げ堤体50と同様であるので、本第3実施形態に係る堤体部材30、31および嵩上げ堤体62の部材および部位のうち、第1実施形態に係る堤体部材10および嵩上げ堤体50の部材および部位と対応する部材および部位には同一の符号を用い、説明は原則として省略する。
【0084】
なお、
図8に示すように、堤体部材30は、プレキャストコンクリートパネル32の厚さ方向に対向する面のうち、2つの段差部32Aが設けられている側の面が、支柱14が取り付けられる取り付け面32Cとなっている堤体部材であり、堤体部材31は、プレキャストコンクリートパネル32の厚さ方向に対向する面のうち、段差部32Aが設けられていない側の面が、支柱14が取り付けられる取り付け面32Dとなっている堤体部材である。
【0085】
(3−1)プレキャストコンクリートパネル32
プレキャストコンクリートパネル32は、プレキャストコンクリート製の板状体であり、細長い平板状の略直方体であるが、前述したように、法線方向の両端部に段差部32Aが設けられている。
【0086】
そして、法線方向の両端部に設けられる段差部32Aは、プレキャストコンクリートパネル32の厚さ方向の一方の面に設けられており、プレキャストコンクリートパネル32の厚さ方向の一方の面に2つの段差部32Aが設けられている。
【0087】
段差部32Aの法線方向の幅は30cm程度であり、また、段差部32Aの段差面32A1は、プレキャストコンクリートパネル32の法線方向から見て、プレキャストコンクリートパネル32の厚さ方向中央部付近に形成されているが、段差部32Aの深さは、プレキャストコンクリートパネル32の厚さの半分の長さよりも少し深くする。このようにすることで、組み合わせ部32Bにおいて、段差面32A1同士の間に止水目地材42を配置しても、隣り合うプレキャストコンクリートパネル32の厚さ方向に対向する面同士の位置を揃えることができ、景観的に好ましい。
【0088】
段差部32Aがないとすると、プレキャストコンクリートパネル32の標準的な大きさは、法線方向の幅が5m程度、高さが1.0〜1.5m程度、厚さが250〜300mm程度であるが、設計条件によって適宜に変更することが可能である。ただし、
図8に示すように、プレキャストコンクリートパネル32の全体、支柱14の全体およびベースプレート16の全体を、既存堤体52の天端52Aの上に配置することが必要であるため、プレキャストコンクリートパネル32の厚さ(段差部32A以外の部位の厚さ)を、天端52Aの法線直角方向の幅よりも小さくすることが必要である。
【0089】
また、プレキャストコンクリートパネル32の内部には、通常の堤体の壁部と同様に、面内方向に縦横に鉄筋が配置されているとともに厚さ方向にも鉄筋が配置されている。
【0090】
プレキャストコンクリートパネル32は、原則として工場で製作する。工場で製作することにより、プレキャストコンクリートパネル32の品質を、安定的に高品質に保つことができる。
【0091】
なお、本第3実施形態では、段差部32Aは、厚さ方向に1段の段差で構成しているが、階段状に厚さが薄くなるように複数段の段差で構成してもよい。
【0092】
(3−2)プレキャストコンクリートパネル32の段差部32Aおよび組み合わせ部32Bの構造についての詳細
図9に示すように、プレキャストコンクリートパネル32の段差部32A以外の部位は、鉛直鉄筋34および水平鉄筋36が厚さ方向に2段に設けられているが、段差部32Aにおいては、鉛直鉄筋34が厚さ方向に1段しか設けられていない。また、段差部32Aの厚さは、プレキャストコンクリートパネル32の段差部32A以外の部位の厚さの半分よりも小さくなっている。
【0093】
このため、段差部32Aの強度が不足することが懸念される。
【0094】
そこで、本第3実施形態においては、
図9に示すように、段差部32Aを鋼コンクリート合成構造にすることで、強度を補っている。具体的には、段差部32Aの段差面32A1(組み合わせ部32Bにおいて、段差部32A同士の対向する面)に、鋼板38を設けるとともに、鋼板38の一方の面に溶接で取り付けたスタッド40を段差部32Aに埋め込んで、段差部32Aを鋼コンクリート合成構造にしている。
【0095】
また、本第3実施形態においては、
図9に示すように、組み合わせ部32Bにおいて、対向する鋼板38同士の間に止水目地材42を2箇所に配置しており、良好な止水性能を確保している。止水目地材42としては、具体的には例えば、耐候性に優れるゴム部材等を用いることができる。なお、現場での作業量を減らす観点から、止水目地材42は、組み合わせ部32Bに配置される対向する鋼板38のどちらかに、現場搬入前に予め取り付けておくことが好ましい。また、本第3実施形態においては、1つの組み合わせ部32Bについて止水目地材42を2箇所に配置したが、所定の性能が得られるのであれば、1つの組み合わせ部32Bについて止水目地材42を1箇所だけに配置するようにしてもよく、また3箇所以上に配置するようにしてもよい。
【0096】
鋼板38の厚さは、段差部32Aに加わる想定外力に基づく設計計算等により定めることができるが、標準的には6〜8mm程度である。
【0097】
鋼板38は外気に接するので、鋼板38の材質は、防食性能の観点から、ステンレス鋼であることが好ましい。鋼板38にステンレス鋼を用いる場合には、スタッド40の材質もステンレス鋼にすることが好ましい。鋼板38およびスタッド40に用いる具体的なステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS316L等を挙げることができる。
【0098】
鋼板38に通常の鋼板を用いる場合には、鋼板38の表面(外気と接する表面)に防食被覆を施しておくことが好ましい。用いる防食被覆は特には限定されず、所定の性能が得られるものであれば使用可能である。使用可能な防食被覆としては、具体的には、塗装や重防食被覆等を挙げることができる。また、鋼板38の表面(外気と接する表面)に耐食性金属をメッキや溶射等により被覆して、所定の防食性能を確保するようにしてもよい。
【0099】
スタッド40は、鋼板38を段差部32Aと強固に一体化させる役割を有する。スタッド40の直径および長さは、段差部32Aに加わる想定外力に基づく設計計算等により定めることができるが、標準的には直径は10mmまたは13mmであり、直径が10mmのとき、長さは50〜60mmが標準的であり、直径が13mmのときも、長さは50〜60mmが標準的である。
【0100】
スタッド40として用いることができるスタッドの種類は、特には限定されず、所定の性能が得られるものであれば使用可能であるが、具体的には例えば、頭付きスタッドを好適に用いることができる。
【0101】
(3−3)嵩上げ堤体の施工方法
第3実施形態に係る堤体部材30、31を既存堤体52の天端52A上に設置する場合、
図8に示すように、堤体部材30と堤体部材31とを法線方向に交互に設置する。その設置の際には、まず、堤体部材30を所定の間隔(堤体部材31を配置するための間隔)を開けて設置し、その後、堤体部材30同士の間の間隔に、堤体部材31を設置する。この順番で設置することにより、後に設置する堤体部材31を設置する際にも、堤体部材31のプレキャストコンクリートパネル32の下端面が、既存堤体52の天端52Aよりも高くなるように吊り上げるだけで、既存堤体52の天端52A上に堤体部材31を配置することができる。
【0102】
前記のこと以外は、嵩上げ堤体62を構築する嵩上げ堤体の施工方法は、「(1−3)嵩上げ堤体の施工方法」で説明した嵩上げ堤体の施工方法と同様である。
【0103】
(4)第4実施形態
図10は、本発明の第4実施形態に係る堤体部材44および嵩上げ堤体64を示す斜視図である。
【0104】
第3実施形態に係る堤体部材30、31においては、法線方向両端部の段差部32Aは、プレキャストコンクリートパネル32の厚さ方向の一方の面に設けられているが、
図10に示すように、本第4実施形態に係る堤体部材44においては、プレキャストコンクリートパネル46の法線方向両端部の段差部46Aは、プレキャストコンクリートパネル46の厚さ方向の両方の面に1つずつ設けられている。
【0105】
前記の点およびこれに付随して変更した点以外は、本第4実施形態に係る堤体部材44および嵩上げ堤体64は、第3実施形態に係る堤体部材30、31および嵩上げ堤体62と同様であるので、本第4実施形態に係る堤体部材44および嵩上げ堤体64の部材および部位のうち、第3実施形態に係る堤体部材30、31および嵩上げ堤体62の部材および部位と対応する部材および部位には同一の符号を用い、説明は原則として省略する。
【0106】
なお、本第4実施形態に係る嵩上げ堤体64においても、第3実施形態に係る嵩上げ堤体62と同様、隣り合うプレキャストコンクリートパネル同士の段差部同士が組み合わされて組み合わせ部が形成されている。具体的には、本第4実施形態に係る嵩上げ堤体64においては、段差部46A同士が組み合わされるように堤体部材44が配置されており、組み合わせ部46Bが形成されている。
【0107】
(4−1)プレキャストコンクリートパネル46
本第4実施形態に係る堤体部材44のプレキャストコンクリートパネル46は、前述したように、法線方向両端部の段差部46Aが、プレキャストコンクリートパネル46の厚さ方向の両方の面に1つずつ設けられている点で、第3実施形態に係る堤体部材30、31のプレキャストコンクリートパネル32と異なっており、この点のみがプレキャストコンクリートパネル32との相違点であるので、プレキャストコンクリートパネル46についての説明は省略する。
【0108】
(4−2)プレキャストコンクリートパネル46の段差部46Aおよび組み合わせ部46Bの構造についての詳細
本第4実施形態における段差部46Aは、第3実施形態における段差部32Aと同様の鋼コンクリート合成構造となっているので、本第4実施形態における段差部46Aの構造の詳細についての説明は省略する。
【0109】
また、本第4実施形態における組み合わせ部46Bにおける止水構造は、第3実施形態における組み合わせ部32Bにおける止水構造と同様の止水構造となっているので、説明は省略する。
【0110】
(4−3)嵩上げ堤体の施工方法
第4実施形態に係る堤体部材44を既存堤体52の天端52A上に設置して、嵩上げ堤体64を構築する嵩上げ堤体の施工方法は、第3実施形態に係る嵩上げ堤体の施工方法と異なる点があるので、この点について説明する。
【0111】
第3実施形態に係る嵩上げ堤体の施工方法では、前述したように、まず、堤体部材30を所定の間隔(堤体部材31を配置するための間隔)を開けて設置し、その後、堤体部材30同士の間の間隔に、堤体部材31を設置する。したがって、第3実施形態に係る嵩上げ堤体の施工方法では、片押しで堤体部材30、31を設置するわけではない。
【0112】
これに対し、本第4実施形態においては、プレキャストコンクリートパネル46の法線方向両端部の段差部46Aは、プレキャストコンクリートパネル46の厚さ方向の両方の面に1つずつ設けられているので、
図10から明らかなように、既存堤体52の天端52A上に先に設置した堤体部材44の上端位置よりも高い位置まで、次に設置する堤体部材44を吊り上げなくても、堤体部材44のプレキャストコンクリートパネル46の下端面が、既存堤体52の天端52Aよりも高くなるように吊り上げるだけで、堤体部材44を片押しで設置することができる。
【0113】
(5)第5実施形態
(5−1)構成
図11は、本発明の第5実施形態に係る嵩上げ堤体70を示す斜視図であり、
図12は、嵩上げ堤体70の一部を拡大して示す拡大斜視図である。
【0114】
第1〜第4実施形態においては、既存堤体52上に堤体部材を一段のみ設置したが、本第5実施形態では、堤体部材を二段に積み重ねて設置している。第1実施形態に係る堤体部材10および嵩上げ堤体50の部材および部位と対応する部材および部位には同一の符号を用い、説明は原則として省略する。また、第1実施形態に係る堤体部材10および嵩上げ堤体50の部材および部位と同一名称の部材および部位については、異なる符号を付していても、機能や役割等は基本的に同様であるので、原則として説明は簡略な説明に止める。
【0115】
本第5実施形態に係る嵩上げ堤体70は、
図11に示すように、既存堤体52と、既存堤体52の天端52Aの上に、既存堤体52の法線方向に連なって設けられた一段目の堤体部材72および二段目の堤体部材92と、を有してなり、堤体部材72、92を複数備えて構成されている。
【0116】
堤体部材72は、既存堤体52の天端52Aの上に設けられた一段目の堤体部材であり、プレキャストコンクリートパネル12と、支柱74と、ベースプレート76と、トッププレート78と、方杖80と、方杖用ベースプレート82と、中間支柱84と、中間支柱用ベースプレート86と、中間支柱方杖88と、中間支柱方杖用ベースプレート90と、を備えてなる。
【0117】
堤体部材92は、一段目の堤体部材72の上に設けられる二段目の堤体部材であり、プレキャストコンクリートパネル12と、支柱94と、ベースプレート96と、を備えてなる。
【0118】
支柱74は、断面H形の鋼材であり、既存堤体52の天端52Aの上に配置されたプレキャストコンクリートパネル12の位置を固定する役割を有し、プレキャストコンクリートパネル12の両端部付近にそれぞれ設けられている。支柱74は、プレキャストコンクリートパネル12の取り付け面12Bに埋め込まれたボルト74Aによって、プレキャストコンクリートパネル12に取り付けられている。ボルト74Aは、支柱74のフランジ74X(プレキャストコンクリートパネル12の取り付け面12B側のフランジ)に設けられた貫通孔(図示せず)を挿通しており、ナット74Bを締め込むことで、支柱74はプレキャストコンクリートパネル12に取り付けられている。
【0119】
支柱74の下端部には、平板状の鋼板であるベースプレート76が溶接で取り付けられている。ベースプレート76の厚さは16〜25mm程度が標準的である。本第5実施形態に係る嵩上げ堤体70においては、堤体部材を二段に積み重ねるため、一段目の堤体部材である堤体部材72の支柱74のベースプレート76は、二段目の堤体部材である堤体部材92の支柱94のベースプレート96よりも厚くなる場合がある。
【0120】
ベースプレート76は、アンカー76Aを介して既存堤体52の天端52Aに固定されている。具体的には、ベースプレート76の貫通孔(図示せず)を挿通したアンカー76Aの上端部(ベースプレート76の上面よりも上方に突出した部位)にはナット76Bが取り付けられており、ナット76Bを締め込むことによって、ベースプレート76がアンカー76Aを介して既存堤体52の天端52Aに固定される。ベースプレート76が既存堤体52の天端52Aに固定されることで、ベースプレート76の上面に下端部が溶接された支柱74は、既存堤体52の天端52Aに固定されて、既存堤体52の天端52A上に立設される。
【0121】
支柱74の上端部には、平板状の鋼板であるトッププレート78が溶接で取り付けられている。トッププレート78の厚さは16〜25mm程度が標準的である。トッププレート78は、二段目の堤体部材である堤体部材92の支柱94のベースプレート96と連結するための部位であり、トッププレート78の上面とベースプレート96の下面を突き合せて配置して、ボルト96Aおよびナット96Bで連結する。詳細には、トッププレート78およびベースプレート96には、対応する位置に、ボルト96Aの軸部が挿通する貫通孔(図示せず)が設けられており、該貫通孔を軸部が挿通するようにボルト96Aを差し込み、該貫通孔を挿通したボルト96Aの軸部にナット96Bを取り付けて締め込むことで、トッププレート78およびベースプレート96は、ボルト96Aおよびナット96Bを介して連結される。
【0122】
方杖80は、支柱74を補助的に支持して、支柱74だけでは不足する支持力を補う役割を有する。方杖80の上端部は、
図12に示すように、支柱74のフランジ74Y(プレキャストコンクリートパネル12から遠い側のフランジ)に斜めに溶接されている。また、方杖80の下端部には、
図12に示すように、方杖用ベースプレート82が斜めに溶接されている。
【0123】
方杖用ベースプレート82は、アンカー82Aを介して既存堤体52の天端52Aに固定されている。具体的には、方杖用ベースプレート82の貫通孔(図示せず)を挿通したアンカー82Aの上端部(方杖用ベースプレート82の上面よりも上方に突出した部位)にはナット82Bが取り付けられており、ナット82Bを締め込むことによって、方杖用ベースプレート82がアンカー82Aを介して既存堤体52の天端52Aに固定される。方杖用ベースプレート82が既存堤体52の天端52Aに固定されることで、支柱74は、方杖80によって補助的に支持されて、支柱74だけでは不足する支持力が補われる。
【0124】
中間支柱84は、断面H形の鋼材であり、既存堤体52の天端52Aの上に配置されたプレキャストコンクリートパネル12の位置を補助的に固定する役割(プレキャストコンクリートパネル12の両端部付近にそれぞれ設けられた支柱74のみでは支持力が不足する場合に、その不足した支持力を補う役割)を有し、プレキャストコンクリートパネル12の中央部付近に設けられている。中間支柱84は、プレキャストコンクリートパネル12の取り付け面12Bに埋め込まれたボルト84Aおよびナット84Bによって、プレキャストコンクリートパネル12に取り付けられている。
【0125】
中間支柱84の下端部には、平板状の鋼板である中間支柱用ベースプレート86が溶接で取り付けられている。中間支柱用ベースプレート86の厚さは16〜25mm程度が標準的である。中間支柱用ベースプレート86は、アンカー86Aおよびナット86Bによって既存堤体52の天端52Aに固定されている。
【0126】
中間支柱方杖88は、中間支柱84を補助的に支持して、中間支柱84だけでは不足する支持力を補う役割を有する。中間支柱方杖88の上端部が、中間支柱84に溶接で取り付けられており、中間支柱方杖88の下端部には、中間支柱方杖用ベースプレート90が溶接で取り付けられている。中間支柱方杖用ベースプレート90は、アンカー90Aおよびナット90Bによって既存堤体52の天端52Aに固定されている。
【0127】
支柱94は、断面H形の鋼材であり、一段目の堤体部材72の上に設けられる二段目の堤体部材92のプレキャストコンクリートパネル12の位置を固定する役割を有し、該プレキャストコンクリートパネル12の両端部付近にそれぞれ設けられている。支柱94は、プレキャストコンクリートパネル12の取り付け面12Bに埋め込まれたボルト94Aおよびナット94Bによって、プレキャストコンクリートパネル12に取り付けられている。支柱94の下端部には、平板状の鋼板であるベースプレート96が溶接で取り付けられている。ベースプレート96の厚さは16〜25mm程度が標準的である。前述したように、ベースプレート96は、トッププレート78と突き合せて配置して、ボルト96Aおよびナット96Bで連結される。
【0128】
支柱94は、二段目の堤体部材92のプレキャストコンクリートパネル12のみの位置を固定する役割を有するので、安全性が確認できれば、一段目の堤体部材72の支柱74よりも断面剛性の小さい支柱にしてもよい。また、安全性が確認できれば、二段目の堤体部材92のベースプレート96は、一段目の堤体部材72のベースプレート76よりも、厚さを薄くしてもよい。
【0129】
本第5実施形態では、支柱74、94として、断面H形の鋼材を用いたが、他の断面形状の鋼材も使用可能であり、例えば、角筒状や丸筒状のパイプや中実な円柱状や角柱状の鋼材を使用することも可能である。
【0130】
また、方杖80およびその関連部材(方杖用ベースプレート82)は、設計計算で安全が確認できれば省略してもよく、また、中間支柱84およびその関連部材(中間支柱用ベースプレート86、中間支柱方杖88、中間支柱方杖用ベースプレート90)も、設計計算で安全が確認できれば省略してもよい。
【0131】
また、本第5実施形態では、プレキャストコンクリートパネルとして、法線方向両端部に段差部のないプレキャストコンクリートパネル12を用いたが、法線方向両端部に段差部のあるプレキャストコンクリートパネル32、46を用いてもよい。
【0132】
(5−2)嵩上げ堤体の施工方法
本第5実施形態では、堤体部材を二段に積み重ねて設置しているが、一段目の堤体部材72を既存堤体52の天端52Aの上に設置した後、同一工事期間内に続けて、二段目の堤体部材92を一段目の堤体部材72の上に設置してもよいし、あるいは、一段目の堤体部材72を既存堤体52の天端52Aの上に設置した状態でしばらく供用して、必要に応じて、その後に二段目の堤体部材92を設置するようにして2段の嵩上げを行ってもよい。一段目の嵩上げの後、しばらく供用してから二段目の嵩上げを行う可能性が高い場合には、二段の嵩上げを行うことを前提として、一段目の堤体部材を設計し、二段の嵩上げに耐えるような堤体部材(例えば、本第5実施形態の一段目の堤体部材72)を一段目の堤体部材として設置するのがよい。
【0133】
一段の嵩上げのみで十分と判断して、二段の嵩上げに耐えない堤体部材92(ここでは、説明の都合上、堤体部材92が二段の嵩上げに耐えない堤体部材であるとする。)を既存堤体52の天端52Aの上に設置した場合において、その後に二段目の嵩上げを行う場合には、堤体部材92を既存堤体52の天端52Aの上からいったん取り外し、二段の嵩上げに耐える堤体部材72を既存堤体52の天端52Aの上に設置し、その堤体部材72の上に堤体部材92を設置するようにする。
【0134】
(6)補足
以上説明した第1〜第5実施形態に係る堤体部材は、いずれも、既存堤体52上に設置しており、嵩上げ堤体の一部を構成する嵩上げ用の部材として用いるものとして記載しているが、設置場所は既存堤体上に限定されるわけではなく、新規の堤体を構成する堤体部材として、基礎構造や地盤面に設置してもよい。
【課題】将来の嵩上げを考慮に入れて設計されていない通常の堤体に対しても適用可能な堤体部材および該堤体部材を用いてなる嵩上げ堤体ならびにその嵩上げをする際の嵩上げ堤体の施工方法を提供する。
【解決手段】板状の直方体形状であるプレキャストコンクリートパネル12と、プレキャストコンクリートパネル12の厚さ方向に対向するいずれか一方の面である取り付け面12Bに一体的に取り付けられた支柱14と、支柱14の長さ方向下端部に、支柱14の長さ方向と直交する方向にフランジ状に張り出すように取り付けられた平板部を有する固定部材16と、を有してなり、固定部材16の前記平板部の下面とプレキャストコンクリートパネル12の下端面とは同一面に形成されている。