特許第6658982号(P6658982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6658982トンネル磁気抵抗効果素子、磁気メモリ、及び内蔵型メモリ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6658982
(24)【登録日】2020年2月10日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】トンネル磁気抵抗効果素子、磁気メモリ、及び内蔵型メモリ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/8239 20060101AFI20200220BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20200220BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20200220BHJP
   H01L 43/12 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
   H01L27/105 447
   H01L43/08 Z
   H01L43/12
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-544077(P2019-544077)
(86)(22)【出願日】2017年10月16日
(86)【国際出願番号】JP2017037420
(87)【国際公開番号】WO2019077663
(87)【国際公開日】20190425
【審査請求日】2019年8月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智生
【審査官】 宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−508971(JP,A)
【文献】 特開2015−038998(JP,A)
【文献】 特開2014−207469(JP,A)
【文献】 特開2012−019163(JP,A)
【文献】 特開2015−201515(JP,A)
【文献】 特開2009−094244(JP,A)
【文献】 特開2008−186861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/8239
H01L 27/105
H01L 43/08
H01L 43/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照層と、トンネルバリア層と、垂直磁化誘起層と、前記トンネルバリア層と前記垂直磁化誘起層との間に積層方向に積層された磁化自由層と、
を備え、
前記垂直磁化誘起層は、前記磁化自由層に前記積層方向に沿った方向の磁気異方性を付与し、
前記磁化自由層は、前記トンネルバリア層の幅及び前記垂直磁化誘起層の幅のいずれよりも小さい幅を有し、
前記トンネルバリア層及び前記垂直磁化誘起層は、それぞれMgO又は一般式:AB(式中、AはMg及びZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、Bは、Al、Ga及びInからなる群より選択される少なくとも一種の元素である)で表されるスピネル構造を有する酸化物材料からなり、
前記トンネルバリア層及び前記垂直磁化誘起層は、前記一般式:ABで表されるスピネル構造を有する酸化物材料からなり、前記スピネル構造のAサイト及びBサイトの少なくとも一方が、複数の元素によって占められている、トンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記トンネルバリア層及び前記垂直磁化誘起層は、前記一般式:ABで表されるスピネル構造を有する酸化物材料からなり、前記スピネル構造のAサイト及びBサイトの少なくとも一方が、複数の元素によって占められている、請求項に記載のトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
参照層と、トンネルバリア層と、垂直磁化誘起層と、前記トンネルバリア層と前記垂直磁化誘起層との間に積層方向に積層された磁化自由層と、
を備え、
前記垂直磁化誘起層は、前記磁化自由層に前記積層方向に沿った方向の磁気異方性を付与し、
前記磁化自由層は、前記トンネルバリア層の幅及び前記垂直磁化誘起層の幅のいずれよりも小さい幅を有し、
前記トンネルバリア層及び前記垂直磁化誘起層は、それぞれMgO又は一般式:AB(式中、AはMg及びZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、Bは、Al、Ga及びInからなる群より選択される少なくとも一種の元素である)で表されるスピネル構造を有する酸化物材料からなり、
前記トンネルバリア層及び前記垂直磁化誘起層は、前記一般式:ABで表されるスピネル構造を有する酸化物材料からなり、前記スピネル構造のAサイト及びBサイトのそれぞれが、複数の元素によって占められている、トンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記トンネルバリア層及び前記垂直磁化誘起層は、前記一般式:ABで表されるスピネル構造を有する酸化物材料からなり、前記スピネル構造のAサイト及びBサイトのそれぞれが、複数の元素によって占められている、請求項に記載のトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
参照層と、トンネルバリア層と、垂直磁化誘起層と、前記トンネルバリア層と前記垂直磁化誘起層との間に積層方向に積層された磁化自由層と、
を備え、
前記垂直磁化誘起層は、前記磁化自由層に前記積層方向に沿った方向の磁気異方性を付与し、
前記磁化自由層は、前記トンネルバリア層の幅及び前記垂直磁化誘起層の幅のいずれよりも小さい幅を有し、
前記垂直磁化誘起層上に設けられたマスク層を更に備え、
前記マスク層は、前記磁化自由層の幅より小さい幅を有し、原子番号72番以上の重金属を含む、トンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記垂直磁化誘起層上に設けられたマスク層を更に備え、
前記マスク層は、前記磁化自由層の幅より小さい幅を有し、原子番号72番以上の重金属を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載のトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載のトンネル磁気抵抗効果素子を記憶素子として備える磁気メモリ。
【請求項8】
請求項に記載の磁気メモリを備える内蔵型メモリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル磁気抵抗効果素子、磁気メモリ、及び内蔵型メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
磁化固定層としての参照層、非磁性スペーサ層、及び磁化自由層をこの順に積層させた構成を有する巨大磁気抵抗効果(GMR)素子、及びトンネル磁気抵抗効果(TMR)素子等の磁気抵抗効果素子が知られている。これらのうち、非磁性スペーサ層として絶縁層(トンネルバリア層)を用いたTMR素子は、非磁性スペーサ層として導電層を用いたGMR素子と比較して、一般的に素子抵抗が高いものの、高い磁気抵抗(MR)比を実現できる。そのため、TMR素子は、磁気センサ、磁気ヘッド、及び磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(MRAM)等に利用される素子として注目されている(例えば、下記特許文献1及び2)。
【0003】
TMR素子の磁化自由層の磁化方向を反転させる方法として、磁化自由層にスピン偏極電流を流し、電子スピンから磁化自由層にスピントランスファートルク(spin transfer torque, STT)を作用させる「スピン注入磁化反転」と呼ばれる技術が知られている。例えばMRAMにこの技術を適用することによって、磁化自由層の磁化方向を反転させるための磁界発生用の配線が不要になる等の理由により、メモリセルを小さくでき、高集積化が可能となる。一般的に、STTによる磁化反転技術を用いたMRAMのことは“STT−MRAM”と呼ばれている。
【0004】
また、MRAM等においてさらに高集積化を図るために、垂直磁気異方性を有するTMR素子を利用することが検討されている(例えば、下記特許文献3〜5)。このようなTMR素子は、参照層の磁化方向が、垂直方向(素子の積層方向、即ち、各層の面内方向と直交する方向)に沿って固定されており、磁化自由層の磁化容易軸も垂直方向に沿っている。これにより、スピン注入磁化反転に必要な電流を小さくすることができるため、TMR素子を選択するための選択トランジスタを小さくすることができる。その結果、面内磁気異方性を有するTMR素子を利用した場合と比較して、垂直磁気異方性を有するTMR素子を利用した場合の方がメモリセルを小さくできるため、高集積化が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5586028号公報
【特許文献2】特許第5988019号公報
【特許文献3】米国特許第8921961号明細書
【特許文献4】米国特許第8860156号明細書
【特許文献5】米国特許第9006704号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高集積のSTT−MRAMを実現するためには、垂直磁気異方性を有するTMR素子(垂直磁化型のTMR素子)を利用した上で、スピン注入磁化反転に必要な反転電流を下げることによって、選択トランジスタの小型化を図ることが重要である。垂直磁化型のTMR素子を実現するためには、磁化自由層の磁化容易軸を垂直方向に向かせる必要がある。しかし、磁化自由層は層状であるため、形状磁気異方性は、磁化自由層の磁化容易軸を面内方向に向かせるように働く。そのため、何らかの方法によって、磁化自由層に垂直方向に磁気異方性を付与する必要がある。
【0007】
磁化自由層に垂直磁気異方性を誘起させるための一つの方法として、界面磁気異方性を用いて磁化自由層に垂直磁化を誘起する方法がある。これは、磁化自由層と、それに接する層との界面におけるスピン・軌道相互作用を、磁化自由層の形状磁気異方性よりも高くすることによって、磁化自由層に垂直磁化異方性を付与して磁化の向きを垂直方向に向ける方法である。トンネルバリア層を、このような界面磁気異方性を磁化自由層に付与する材料で構成することによって、磁化自由層の膜厚を十分薄く(例えば1nm程度)すると、トンネルバリア層に接した磁化自由層の磁化方向を垂直方向に向けることができる。さらに、磁化自由層のトンネルバリア層と接する面とは反対側の面に、上述のような界面磁気異方性を磁化自由層に付与する層(垂直磁化誘起層)を積層すると、さらに磁化自由層の垂直磁化異方性が強くなる。その結果、磁化自由層がより厚い場合(例えば2nm程度)であっても、磁化自由層の磁化方向を垂直方向に向けることができる。このような垂直磁化誘起層は、例えばMgOやMgAl(非磁性スピネル材料)等の酸化物材料等で構成することができる。
【0008】
しかしながら、垂直磁化誘起層は、酸化物等の抵抗率の高い材料で構成されているため、TMR素子の抵抗が高くなる。そのため、スピン注入磁化反転の際に磁化自由層に流れるスピン偏極電流が減少してしまう。その結果、磁化自由層の磁化反転が起きにくくなってしまうため、磁化反転を生じさせるのに必要な電流(反転電流)が大きくなってしまうという問題点があった。反転電流が大きくなると、TMR素子を利用したデバイスの消費電力が増加したり、信頼性が低下したりといった問題が生じ得る。
【0009】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、反転電流の小さなTMR素子を提供することを目的とする。また、このTMR素子を備える磁気メモリ、及び当該磁気メモリを備える内蔵型メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するため、本発明の一態様に係るTMR素子(トンネル磁気抵抗効果素子)は、参照層と、トンネルバリア層と、垂直磁化誘起層と、トンネルバリア層と垂直磁化誘起層との間に積層方向に積層された磁化自由層と、を備え、垂直磁化誘起層は、磁化自由層に積層方向に沿った方向の磁気異方性を付与し、磁化自由層は、トンネルバリア層の幅及び垂直磁化誘起層の幅のいずれよりも小さい幅を有する。
【0011】
本発明の一態様に係るTMR素子によれば、磁化自由層は、トンネルバリア層の幅及び垂直磁化誘起層の幅のいずれよりも小さい幅を有するので、磁化自由層におけるスピン偏極電流の電流密度が高くなる。電流密度が高くなるので、少ないスピン偏極電流によって磁化自由層での磁化反転が可能となる。本発明の一実施形態に係るTMR素子は、反転電流を小さくすることができる。
【0012】
さらに、本発明の一態様に係るTMR素子において、磁化自由層の最小幅は、トンネルバリア層の最大幅又は垂直磁化誘起層の最大幅よりも4nm以上小さくなることができる。これにより、磁化自由層におけるスピン偏極電流の電流密度が高くなり、磁化自由層の磁化方向を反転させるための反転電流が小さくなる。
【0013】
さらに、本発明の一態様に係るTMR素子において、トンネルバリア層、磁化自由層及び垂直磁化誘起層の側面を覆う側壁部を更に備え、側壁部は、絶縁材料を含むことができる。これにより、絶縁材料を含む側壁部がトンネルバリア層、磁化自由層及び垂直磁化誘起層の側面を覆い、トンネルバリア層と垂直磁化誘起層との間のリーク電流が抑制される。
【0014】
さらに、本発明の一態様に係るTMR素子において、絶縁材料は、窒化物材料を含むことができる。これにより、側壁部が窒化物材料で構成されるため、例えば、トンネルバリア層及び/又は垂直磁化誘起層に含まれる酸素原子が側壁部に移動することを抑制することができる。
【0015】
さらに、本発明の一態様に係るTMR素子において、トンネルバリア層及び垂直磁化誘起層は、それぞれMgO又は一般式:AB(式中、AはMg及びZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、Bは、Al、Ga及びInからなる群より選択される少なくとも一種の元素である)で表されるスピネル構造を有する酸化物材料からなることができる。これにより、これらの材料は磁化自由層に特に有効に積層方向に沿った方向の磁気異方性を付与できるため、磁化自由層の磁化容易軸の方向を特に安定して垂直方向にすることができる。
【0016】
さらに、本発明の一態様に係るTMR素子において、トンネルバリア層及び垂直磁化誘起層は、一般式:ABで表されるスピネル構造を有する酸化物材料からなり、スピネル構造のAサイト及びBサイトの少なくとも一方が、複数の元素によって占められていることができる。これにより、トンネルバリア層と磁化自由層の界面における歪、及び、垂直磁化誘起層と磁化自由層の界面における歪を容易に抑制することができる。さらに、トンネルバリア層及び垂直磁化誘起層の抵抗値を容易に制御することができる。
【0017】
さらに、本発明の一態様に係るTMR素子において、トンネルバリア層及び垂直磁化誘起層は、上記一般式:ABで表されるスピネル構造を有する酸化物材料からなり、スピネル構造のAサイト及びBサイトのそれぞれが、複数の元素によって占められていることができる。これにより、トンネルバリア層と磁化自由層の界面における歪、及び、垂直磁化誘起層と磁化自由層の界面における歪をより容易に抑制することができる。さらに、トンネルバリア層及び垂直磁化誘起層の抵抗値をより容易に制御することができる。
【0018】
さらに、本発明の一態様に係るTMR素子は、垂直磁化誘起層上に設けられたマスク層を更に備え、マスク層は、磁化自由層の幅より小さい幅を有し、原子番号72番以上の重金属を含むことができる。これにより、マスク層が磁化自由層の幅より小さい幅を有するので、側壁部が設けられるときに、マスク層による磁化自由層へのシャドウ効果が低減されて、側壁部が磁化自由層の側面の外側に設けられ易くなる。また、マスク層が原子番号72番以上の重金属を含むので、マスク層のエッチングが抑制される。
【0019】
また、本発明の一態様に係る磁気メモリは、上述のいずれかのTMR素子を記憶素子として備える。
【0020】
また、本発明の一態様に係る内蔵型メモリは、上述の磁気メモリを備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、反転電流の小さなTMR素子が提供される。また、このTMR素子を備える磁気メモリ、及び当該磁気メモリを備える内蔵型メモリが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態のTMR素子を備えるMRAMの平面断面図である。
図2】実施形態に係るMRAMの縦断面の模式図である。
図3】実施形態のMRAMの電気接続を示す図である。
図4】実施形態のMRAMのTMR素子近傍の断面図である。
図5図4の領域Vを拡大して示す図である。
図6】TMR素子の製造方法の具体例を説明するための断面を示す図である。
図7】TMR素子の製造方法の具体例を説明するための断面を示す図である。
図8】TMR素子の製造方法の具体例を説明するための断面を示す図である。
図9】TMR素子の製造方法の具体例を説明するための断面を示す図である。
図10】TMR素子の製造方法の具体例を説明するための断面を示す図である。
図11】TMR素子の製造方法の具体例を説明するための断面を示す図である。
図12】TMR素子の製造方法の具体例を説明するための断面を示す図である。
図13】TMR素子の製造方法の具体例を説明するための断面を示す図である。
図14】TMR素子の製造方法の具体例を説明するための断面を示す図である。
図15】TMR素子の製造方法の具体例を説明するための断面を示す図である。
図16】実施形態の変形例に係るMRAMの縦断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、各図面において、可能な場合には同一要素には同一符号を用いる。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0024】
図1は、本実施形態に係る垂直磁化型のTMR素子(トンネル磁気抵抗効果素子)を備える磁気メモリ(Magnetoresistive Random Access Memory, MRAM)の平面断面図であり、図2は、本実施形態に係るMRAMの縦断面の模式図である。図1は、図2のMRAM100のI−I線に沿った断面に対応している。なお、図1及びそれ以降の図には、必要に応じて直交座標系Rを示している。
【0025】
図1に示すように、本実施形態のMRAM100は、XY平面内にアレイ状(図1では5列5行)に配置された複数のTMR素子1を有する。複数のTMR素子1は、それぞれMRAM100の記憶素子として機能する。TMR素子1は、詳細は後述するように、積層部STと、積層部STを埋め込む側壁部17とを有する。また、図2に示すように、MRAM100は、半導体基板50と、トランジスタアレイ60と、ビア配線部25と、層間絶縁層27と、ワード線WLと、側壁部17を含むTMR素子アレイ70と、上部配線ULと、上部配線ULの上面を覆う絶縁体80と、を備える。なお、図1及び図2において、ワード線WLを除き、上部配線ULとトランジスタアレイ60とを接続する他の電気配線の図示は省略されている。
【0026】
トランジスタアレイ60は、半導体基板50のXY平面に沿って延びる主面上に設けられている。MRAM100は、複数のTMR素子1をそれぞれ駆動するための、アレイ状に設けられた複数のトランジスタT(図3参照)を有する。複数のビア配線部25及び複数のワード線WLが、トランジスタアレイ60上に設けられている。各ビア配線部25は、トランジスタアレイ60の複数のトランジスタTの一つと、TMR素子アレイ70の複数のTMR素子1とを電気的に接続している。複数のビア配線部25及び複数のワード線WLは、層間絶縁層27内に埋め込まれており、層間絶縁層27によって互いに絶縁されている。
【0027】
図3は、本実施形態のMRAMの電気接続を示す図である。図3では、TMR素子アレイ70の複数のTMR素子1のうち、5個のTMR素子1に関連する電気接続のみを示している。
【0028】
図3に示すように、各TMR素子1の一端は、各トランジスタTのドレインDに電気的に接続され、各TMR素子1の他端は、ビット線BLに電気的に接続されている。ビット線BLは、上部配線UL(図2参照)に含まれている。各トランジスタTのゲートは、各ワード線WLに電気的に接続され、各トランジスタTのソースSは、ソース線SLに電気的に接続されている。各トランジスタTは、MRAM100の記憶素子として機能し、1つのトランジスタTと、それに電気的に接続された1つのトランジスタTが、1つのメモリセルを構成する。
【0029】
MRAM100のメモリセルへのデータの書き込み時には、書き込み対象のTMR素子1に対応するワード線WLに選択電圧を印加し、そのTMR素子1をオンにした状態で、書き込むデータ(「1」又は「0」)に対応した極性の電流がそのTMR素子1を流れるように、ビット線BLとソース線SL間に電圧を印加する。この際の印加電圧の大きさは、そのTMR素子1の磁化自由層7(図4参照)に後述のようなスピン注入磁化反転を生じさせ得る大きさに設定する。これにより、そのTMR素子1の磁化自由層7(図4参照)の磁化方向を書き込むデータに対応した方向に設定する。
【0030】
MRAM100のメモリセルのデータの読み出し時には、読み出し対象のTMR素子1に対応するワード線WLに選択電圧を印加し、そのTMR素子1をオンにした状態で、ビット線BLとソース線SL間に書き込み時よりも小さい電圧を印加する。これにより、そのTMR素子1を経由してビット線BLとソース線SL間に、そのTMR素子1に記憶されているデータに応じた大きさの電流が流れるため、その電流値を検出することによってデータの読み出しを行う。
【0031】
続いて、本実施形態のTMR素子1のより詳細な構成について説明する。図4は、本実施形態のMRAMのTMR素子近傍の断面図である。図4は、図2に示すMRAM100の縦断面のうち、一つのTMR素子1近傍の断面を示している。図5は、図4の領域Vを拡大して示す図である。
【0032】
図4及び図5に示すように、TMR素子1の積層部STは、ビア配線部25上に設けられた下地層21上に設けられている。ビア配線部25は、導電性の材料で構成されており、例えば、Cu等の金属で構成されている。下地層21は、導電性の材料からなり、例えば導電性酸化物、導電性窒化物、導電性酸窒化物、又はシリサイドで構成されている。そのため、本実施形態のTMR素子1の一端である参照層3の下面は、下地層21及びビア配線部25を介してトランジスタTのドレインD(図3参照)に電気的に接続されている。
【0033】
下地層21は、積層部STの各層、特に後述のトンネルバリア層の平坦性を向上させるために設けられているため、下地層21の上面の平坦性は、ビア配線部25の上面の平坦性よりも高くなっている。下地層21の上面は、高い平坦性を有してXY平面に沿って延びており、その上面に積層部STが形成されている。ビア配線部25及び下地層21は、層間絶縁層27に埋め込まれており、層間絶縁層27によって、他のTMR素子1に電気的に接続されたビア配線部及び下地層から電気的に絶縁されている。
【0034】
TMR素子1は、積層部STと、積層部STの各層の側面を覆う絶縁材料からなる側壁部17とを備える。積層部STは、積層方向であるZ軸方向に積層された複数の層で構成されている。具体的には、積層部STは、磁化固定層として機能する参照層3、トンネルバリア層5、磁化自由層7、垂直磁化誘起層9、及びマスク層15がこの順に積層されて構成されている。そのため、トンネルバリア層5は、参照層3と磁化自由層7との間にZ軸方向に積層されており、垂直磁化誘起層9は、磁化自由層7のトンネルバリア層5側とは反対側に積層されている。
【0035】
積層部STは、トンネルバリア層5、磁化自由層7、及び垂直磁化誘起層9の外側に窪み10を有する。積層部STでは、参照層3とトンネルバリア層5との境界B4からトンネルバリア層5と磁化自由層7との境界B6に向かうに従って、トンネルバリア層5の側面5cは、例えば、トンネルバリア層5の幅W5が単調に減少するような傾斜を有することができる。トンネルバリア層5は、例えば、境界B4における最大幅WM5から境界B6における最小幅WN5までの範囲のいずれかの大きさの幅W5を有することができる。トンネルバリア層5の最大幅WM5は、境界B4における参照層3の幅WA3に一致又は近似し、トンネルバリア層5の最小幅WN5は、境界B6における磁化自由層7の幅WB7に一致又は近似することができる。磁化自由層7は、トンネルバリア層5の幅W5よりも小さい幅W7を有する。
【0036】
また、積層部STでは、マスク層15と垂直磁化誘起層9との境界B10から垂直磁化誘起層9と磁化自由層7との境界B8に向かうに従って、垂直磁化誘起層9の側面9cは、例えば、垂直磁化誘起層9の幅W9が単調に減少するような傾斜を有することができる。垂直磁化誘起層9は、例えば、境界B10における最大幅WM9から境界B8における最小幅WN9までの範囲のいずれかの大きさの幅W9を有することができる。垂直磁化誘起層9の最大幅WM9は、境界B10におけるマスク層15の幅WB15に一致又は近似し、垂直磁化誘起層9の最小幅WN9は、境界B6における磁化自由層7の幅WA7に一致又は近似することができる。磁化自由層7は、垂直磁化誘起層9の幅W9よりも小さい幅W7を有する。
【0037】
TMR素子1では、磁化自由層7は、トンネルバリア層5の幅W5及び垂直磁化誘起層9の幅W9のいずれよりも小さい幅を有するので、磁化自由層7におけるスピン偏極電流の電流密度が高くなる。電流密度が高くなるので、少ないスピン偏極電流によって磁化自由層7での磁化反転が可能となる。TMR素子1は、反転電流を小さくすることができる。
【0038】
本実施形態では、磁化自由層7の幅W7は、参照層3の幅WB3又はマスク層15の幅WB15よりも、4nm以上小さくなることができる。このため、磁化自由層7の最小幅WN7は、垂直磁化誘起層9の最大幅WM9又はトンネルバリア層5の最大幅WM5よりも4nm以上小さくなることができる。これにより、磁化自由層7におけるスピン偏極電流の電流密度が高くなり、磁化自由層7の磁化方向を反転させるための反転電流が小さくなる。
【0039】
なお、トンネルバリア層5及び垂直磁化誘起層9において、側面5c及び側面9cは、それぞれ、トンネルバリア層5の幅W5及び垂直磁化誘起層9の幅W9が単調に変化する直線的な傾斜を有することができるが、側面5c及び側面9cは、このような直線的な傾斜以外の傾斜を有していてもよい。例えば、側面5c及び側面9cは、曲線的な傾斜を有していてもよく、それらの側面上に突起や窪みを有してもよい。
【0040】
参照層3は、Co、Co-Fe合金、Co-Fe-B合金等の強磁性材料で構成されている。参照層3の磁化方向は、Z軸方向に沿った方向に実質的に固定されている。参照層3のZ軸方向の厚さは、例えば3nm以上、10nm以下とすることができる。また、参照層3は、各磁性層の磁化方向が垂直方向となるように、例えばCo/PtやCo/Niなどの多層膜が繰り返し積層された構造を有することができる。
【0041】
さらに、参照層3は、RuやIrなどの薄膜を介したRKKY相互作用を用いて、参照層3内で生じる磁界を相殺する構造を有することができる。この構造は、合成反強磁性(Synthetic Anti-Ferromagnet、SAF)構造、即ち、強磁性材料で構成される2つの強磁性層と、当該2つの強磁性層の間に積層された非磁性層を有し、当該非磁性層を介して当該2つの強磁性層の磁化方向がRKKY相互作用に基づく交換結合によって互いに反平行に結合している構造である。
【0042】
トンネルバリア層5は、絶縁材料で構成されている。トンネルバリア層5は、後述の垂直磁化誘起層9と同様の原理に基づき、磁化自由層7に垂直磁気異方性を誘起するように構成されていることが好ましい。磁化自由層7の垂直磁化がより安定し、磁化自由層7の膜厚を厚くすることが可能となるためである。磁化自由層7に垂直磁気異方性を誘起し得るトンネルバリア層5を構成する材料としては、例えば、MgO、ZnO、GaO又は一般式:AB(式中、AはMg及びZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、Bは、Al、Ga及びInからなる群より選択される少なくとも一種の元素である)で表されるスピネル構造を有する酸化物材料等の酸化物材料を挙げることができる。
【0043】
ただし、トンネルバリア層5は、磁化自由層7に垂直磁気異方性を誘起しないように構成されていてもよい。この場合、トンネルバリア層5は、Cu、Ag等の非磁性金属材料やSi、Ge等の半導体材料で構成することができる。
【0044】
トンネルバリア層5は、参照層3及び磁化自由層7間に電圧が印加された際、Z軸方向に沿ってトンネルバリア層5にトンネル電流が流れる程度にZ軸方向の厚さが薄い。トンネルバリア層5のZ軸方向の厚さは、例えば、1nm以上、3nm以下とすることができる。
【0045】
また、本実施形態では、トンネルバリア層5は、磁化自由層7のうち、磁化自由層7とトンネルバリア層5との界面近傍の領域に、Z軸方向に沿った磁気異方性(垂直磁気異方性)を誘起する材料で構成されている。これにより、後述の垂直磁化誘起層9と共に、磁化自由層7にZ軸に沿った方向(垂直方向)の磁気異方性を付与する。ただし、垂直磁化誘起層9の働き等によって磁化自由層7の磁化容易軸を十分に安定してZ軸に沿った方向に向けることができれば、トンネルバリア層5は、磁化自由層7に垂直磁気異方性を誘起しない材料で構成されていてもよい。
【0046】
磁化自由層7は、Fe、Co-Fe、Co-Fe-B及び強磁性のホイスラー合金等の強磁性材料で構成される。磁化自由層7の磁化方向は、実質的に固定されていない。
【0047】
垂直磁化誘起層9は、例えば、MgO、ZnO、Ga又は一般式:AB(式中、AはMg及びZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、Bは、Al、Ga及びInからなる群より選択される少なくとも一種の元素である)で表されるスピネル構造を有する酸化物材料で構成されている。
【0048】
垂直磁化誘起層9は、トンネルバリア層5よりも、XY面内の単位面積当たりのZ軸方向に沿った抵抗値が小さくなるように構成されていることが好ましい。特に、垂直磁化誘起層9が絶縁材料で構成されている場合、垂直磁化誘起層9のZ軸方向の厚さは、トンネルバリア層5のZ軸方向の厚さよりも薄いことが好ましい。
【0049】
垂直磁化誘起層9は、磁化自由層7のうち、磁化自由層7と垂直磁化誘起層9との界面近傍の領域に、スピン・軌道相互作用に基づいて、Z軸に沿った方向の磁気異方性(垂直磁気異方性)を誘起する材料で構成されている。これにより、上述のトンネルバリア層5と共に、磁化自由層7にZ軸に沿った方向(垂直方向)の磁気異方性を付与する。
【0050】
磁化自由層7のZ軸方向に沿った厚さは、上述のようなトンネルバリア層5及び垂直磁化誘起層9の磁気異方性を付与する機能によって、磁化自由層7の磁化容易軸が安定してZ軸に沿った方向となる程度に薄い。当該厚さは、例えば1nm以上、3nm以下とすることができる。
【0051】
TMR素子1は、垂直磁化誘起層9上に設けられたマスク層15を更に備えることができる。マスク層15の側面15cは、積層方向に沿って垂直磁化誘起層9から離れるに従って、マスク層15の幅W15が小さくなるような傾斜を有することができる。マスク層15と垂直磁化誘起層9との境界B10において、マスク層15は、垂直磁化誘起層9の最大幅WM9に一致又は近似する幅W15を有し、この幅W15は、次第に減少することができる。これにより、マスク層15が磁化自由層7の幅W7より小さい幅W15を有し、側壁部17が設けられるときに、マスク層15による磁化自由層7へのシャドウ効果が低減されて、側壁部17が磁化自由層7の側面7cの外側に設けられ易くなる。側壁部17が、窪み10内にも設けられ易くなる。
【0052】
マスク層15は、導電性の材料で構成されており、例えばTa、Ru、W、TaN、TiN、CuN等の金属で構成されている。そして、本実施形態のTMR素子1の他端であるマスク層15の上面は、ビット線BL(図3参照)に電気的に接続されている。マスク層15は、原子番号72番以上の重金属(例えば、W又はTaといった重金属を含むことができる。マスク層が原子番号72番以上の重金属を含むので、マスク層のエッチングが抑制される。マスク層15を用いたエッチング工程を含む製造方法によって、上述のような構成のTMR素子1を容易に製造することができる。
【0053】
側壁部17は、トンネルバリア層5、磁化自由層7及び垂直磁化誘起層9の側面を覆うことができる。これにより、側壁部17は、TMR素子1のトンネルバリア層5、磁化自由層7及び垂直磁化誘起層9と、他のTMR素子のトンネルバリア層、磁化自由層及び垂直磁化誘起層とを電気的に絶縁している。側壁部17は、積層部STの全ての側面、すなわち、参照層3、トンネルバリア層5、磁化自由層7、垂直磁化誘起層9、及びマスク層15の側面を覆ってもよい。この場合、側壁部17は、TMR素子1の積層部STと、他のTMR素子の積層部とを電気的に絶縁している。側壁部17は、参照層3、トンネルバリア層5、磁化自由層7、垂直磁化誘起層9、及びマスク層15の側面の全てに接していてもよく、これらの側面の一部には接していなくてもよい。側壁部17は、絶縁材料で構成され、例えば、SiN等の窒化物材料や、SiON等の酸窒化物材料で構成されている。
【0054】
上述のように磁化自由層7の磁化容易軸はZ軸に沿った方向に設定されており、参照層3の磁化方向はZ軸方向に沿った方向に実質的に固定されているため、磁化自由層7が外部磁場やSTTの影響を実質的に受けていないときには、参照層3の磁化方向と磁化自由層7の磁化方向は、平行又は反平行となる。これらが平行な状態の積層部STと反平行な状態の積層部STは、互いにZ軸方向に沿った電気抵抗値が異なるため、これらの2つの状態が、MRAM100のメモリセルのデータである「1」及び「0」にそれぞれ対応している。
【0055】
磁化自由層7の磁化方向の反転(即ち、MRAM100においては、メモリセルへのデータの書き込み)は、スピン注入磁化反転によって行われる。具体的には、磁化自由層7の磁化方向を、参照層3の磁化方向と反平行の状態から平行な状態に反転させる場合、磁化自由層7から参照層3に向かう方向にトンネルバリア層5内にトンネル電流が流れるように(即ち、スピン偏極電子が参照層3から磁化自由層7に向かって移動するように)、積層部STのZ軸方向の一端と他端間に電圧を印加する。これにより、磁化自由層7は、その磁化方向が参照層3の磁化方向と反平行の状態から平行な状態に向かって回転する方向のスピントランスファートルクをスピン偏極電子から受ける。当該電圧の大きさを、スピン注入磁化反転が起きる閾値以上にすることにより、磁化自由層7の磁化方向が反転する。
【0056】
反対に、磁化自由層7の磁化方向を、参照層3の磁化方向と平行の状態から反平行な状態に反転させる場合、参照層3から磁化自由層7に向かう方向にトンネルバリア層5内にトンネル電流が流れるように(即ち、スピン偏極電子が磁化自由層7から参照層3に向かって移動するように)、積層部STのZ軸方向の一端と他端間に電圧を印加する。これにより、磁化自由層7は、その磁化方向が参照層3の磁化方向と平行の状態から反平行な状態に向かって回転する方向のスピントランスファートルクをスピン偏極電子から受ける。当該電圧の大きさを、スピン注入磁化反転が起きる閾値以上にすることにより、磁化自由層7の磁化方向が反転する。
【0057】
さらに、上述のような本実施形態に係るTMR素子1において、トンネルバリア層5及び垂直磁化誘起層9の少なくとも一方は、酸化物材料で構成され、かつ、側壁部17は、窒化物材料で構成されていることが好ましい。これにより、側壁部17が窒化物材料で構成されるため、酸化物材料で構成されるトンネルバリア層5及び/又は垂直磁化誘起層9の酸素原子が側壁部17に移動することを抑制することができる。
【0058】
さらに、上述のような本実施形態に係るTMR素子1において、トンネルバリア層5及び垂直磁化誘起層9は、それぞれMgO又は一般式:AB(式中、AはMg及びZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、Bは、Al、Ga及びInからなる群より選択される少なくとも一種の元素である)で表されるスピネル構造を有する酸化物材料からなることが好ましい。これにより、これらの材料は磁化自由層7に特に有効にZ軸方向に沿った方向の磁気異方性を付与できるため、磁化自由層7の磁化容易軸の方向を特に安定して垂直方向にすることができる。
【0059】
さらに、本実施形態に係るTMR素子1において、トンネルバリア層5及び垂直磁化誘起層9は、上述の一般式:ABで表されるスピネル構造を有する酸化物材料からなり、スピネル構造のAサイト及びBサイトの少なくとも一方が、複数の元素によって占められていることが好ましく、スピネル構造のAサイト及びBサイトのそれぞれが、複数の元素によって占められていることがより好ましい。これにより、トンネルバリア層5と磁化自由層7の界面における歪、及び、垂直磁化誘起層9と磁化自由層7の界面における歪を容易に抑制することができる。さらに、トンネルバリア層5及び垂直磁化誘起層9の抵抗値を容易に制御することができる。
【0060】
そのような本実施形態のTMR素子の製造方法の具体例について説明する。図6図14は、本実施形態のTMR素子の製造方法の具体例を説明するための断面を示す図であり、上述の図4に示すTMR素子1近傍の断面に対応している。
【0061】
具体例の製造方法においては、まず、図6に示すように、トランジスタアレイ60上の前面に下部層間絶縁層27aを形成した後に、下部層間絶縁層27a上に開口を有するレジスト41を形成する。下部層間絶縁層27aは、層間絶縁層27と同様の材料からなる。レジスト41の開口は、後述のビア配線部25を形成する領域に対応している。
【0062】
続いて、図7に示すように、レジスト41をマスクとして用いて下部層間絶縁層27aを、例えば反応性イオンエッチング(RIE)法等のドライエッチング法でエッチングし、その後レジスト41を除去することによって、下部層間絶縁層27aにトランジスタアレイ60に至る深さの開口を形成する。
【0063】
次に、図8に示すように、下部層間絶縁層27aの開口を埋め込むように、Cu等の金属からなるビア配線部25を形成した後に、ビア配線部25と下部層間絶縁層27a上に導電性の材料からなる下地層21を形成する。ビア配線部25の形成前に、下部層間絶縁層27aの開口の側面にTa等の導電性材料からなる下地層を形成してもよい。
【0064】
次に、図9に示すように、下地層21上にレジスト43を形成する。レジスト43は、ビア配線部25の全体及び下部層間絶縁層27aの一部の垂直方向上方に形成されており、後述の上部層間絶縁層27bが形成される領域の垂直方向上方には形成されていない。
【0065】
続いて、図10に示すように、レジスト43をマスクとして用いて下地層21をRIE法等のドライエッチング法で選択的にエッチングし、当該エッチングされた領域に上部層間絶縁層27bを形成し、その後レジスト43を除去する。その後、下地層21と上部層間絶縁層27bの表面を、化学機械研磨(CMP)等によって研磨して平坦化する。これにより、下地層21の上面の平坦性は、ビア配線部25の上面の平坦性よりも高くなる。上部層間絶縁層27bは、層間絶縁層27と同様の材料からなり、下部層間絶縁層27aと上部層間絶縁層27bとで、層間絶縁層27を構成する。
【0066】
次に、図11に示すように、下地層21及び層間絶縁層27上の全面に参照層3、トンネルバリア層5、磁化自由層7、垂直磁化誘起層9、及びマスク層15をこの順に形成した後に、マスク層15の表面の一部にレジスト51を形成する。レジスト51は、ビア配線部25の垂直方向上方及び下地層21の一部の垂直方向上方に形成されている。なお、必要に応じて、下地層21及び層間絶縁層27と、参照層3との間において、下地層21及び層間絶縁層27上の全面を覆うTa等の導電材料からなるシード層を形成してもよい。
【0067】
続いて、図12に示すように、レジスト51をマスクとして用いてRIE法等のドライエッチング法でマスク層15を選択的にエッチングし、垂直磁化誘起層9の表面を露出させる。
【0068】
次に、図13に示すように、レジスト51を除去した後に、レジスト51をマスクとして用いてRIE法等のドライエッチング法で垂直磁化誘起層9、磁化自由層7、トンネルバリア層5、及び参照層3をエッチングし、下地層21及び層間絶縁層27が露出したところでエッチングを止める。
【0069】
続いて、図14に示すように、イオンビームエッチング(IBE)法等のドライエッチング法で磁化自由層7の側面をエッチングする。このIBE法では、アルゴン、クリプトン又はキセノンといった希ガスのイオンビームを磁化自由層7の側面に向けて照射する。イオンビームの照射方向は、例えば、磁化自由層7の面内方向と10〜25度の角度を有する。本実施形態では、磁化自由層7の側面に向けてイオンビームを照射するが、イオンビームの幅は磁化自由層7の厚さよりも大きいので、垂直磁化誘起層9及びトンネルバリア層5の側面もエッチングされる。この結果、垂直磁化誘起層9及びトンネルバリア層5の幅が、共に磁化自由層7に近づくに従って小さくなることができる。磁化自由層7の硬度は、例えば、垂直磁化誘起層9及びトンネルバリア層5の硬度より低い。マスク層15は、原子番号72番以上の重金属を含むので、マスク層15のエッチングが抑制される。
【0070】
次に、図15に示すように、積層部STを埋め込むように下地層21及び層間絶縁層27上に側壁部17を形成する。マスク層15は、マスク層15が磁化自由層7の幅W7より小さい幅W15を有するので、側壁部17が設けられるときに、マスク層15による磁化自由層7へのシャドウ効果が低減されて、側壁部17が磁化自由層7の側面7cの外側に設けられ易くなる。本具体例では、マスク層15及び側壁部17上に上部電極層31を更に形成することによって、TMR素子1が完成する。
【0071】
図16は、本実施形態の変形例に係るMRAMの縦断面の模式図である。本変形例に係るMRAM100aは、プロセッサー90をさらに備える点において、上述の本実施形態の基本態様のMRAM100と異なる。MRAM100aにおいて、プロセッサー90の回路作成の工程に組み込まれる形で、MRAM部分も作成されているため、プロセッサー90とMRAM100aのMRAM部分とは統合されている。そのため、MRAM100aは、内蔵型メモリとなる。これにより、プロセッサー90とMRAM部分とのデータのやり取りが高速化される。また、プロセッサー90の上部にMRAM部分が設置されるため、デバイス全体の集積度を高くすることができる。
【符号の説明】
【0072】
1…TMR素子、3…参照層、5…トンネルバリア層、7…磁化自由層、9…垂直磁化誘起層、15…マスク層、17…側壁部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16