特許第6659425号(P6659425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6659425トウ開繊体製造装置及びトウ開繊体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6659425
(24)【登録日】2020年2月10日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】トウ開繊体製造装置及びトウ開繊体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02J 1/18 20060101AFI20200220BHJP
   D02J 1/22 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
   D02J1/18 Z
   D02J1/22 H
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-66966(P2016-66966)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-179641(P2017-179641A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 慧子
(72)【発明者】
【氏名】重松 雅人
(72)【発明者】
【氏名】永田 真悟
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−239437(JP,A)
【文献】 特開2007−031865(JP,A)
【文献】 特開昭58−220838(JP,A)
【文献】 特開平11−221068(JP,A)
【文献】 特開2000−083641(JP,A)
【文献】 特開2004−244794(JP,A)
【文献】 特開2010−270420(JP,A)
【文献】 特開2008−240233(JP,A)
【文献】 特開平01−139837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00−3/48
D02J1/00−13/00
A61F13/15−13/84
A61L15/16−15/64
D06B1/00−23/30
D06C3/00−29/00
D06G1/00−5/00
D06H1/00−7/24
D06J1/00−1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される長繊維のトウを内部に流通させながら、前記トウの表面に液状の添着剤を添着する添着装置と、
前記添着装置よりも前記トウの搬送方向の下流側に配置され、前記トウを周面に巻き付けながら前記下流側に搬送する第1搬送ロールと、
前記第1搬送ロールの軸方向において、開口寸法が前記第1搬送ロールと前記トウとの接触開始位置での前記トウの寸法よりも小さいトウ導入口を有し、前記第1搬送ロールよりも前記下流側に配置されて前記トウ導入口から導入される前記トウを気体で開繊する開繊装置と、を備える、吸収性物品に用いられるトウ開繊体を製造するトウ開繊体製造装置。
【請求項2】
前記開繊装置は、前記トウが開繊される開繊室が内部に形成された筒状のノズル部と、前記開繊室に向けて前記下流側に前記気体を導入する気体導入部と、を有する、請求項1に記載のトウ開繊体製造装置。
【請求項3】
前記搬送方向における前記第1搬送ロールと前記添着装置との間で前記第1搬送ロールと平行に配置され且つ前記第1搬送ロールの前記トウと接する方向とは反対側の方向から前記トウと接する第2搬送ロールを更に備え、
前記軸方向から見て、前記トウが前記第1搬送ロールと前記第2搬送ロールとの周面に蛇行して巻き付けられながら前記下流側に搬送される、請求項1又は2に記載のトウ開繊体製造装置。
【請求項4】
前記搬送方向における前記添着装置と前記第1搬送ロールとの間に配置され、前記トウを周面に巻き付けながら前記下流側に搬送する第3搬送ロールと、
前記搬送方向における前記第1搬送ロールと前記開繊装置との間に配置され、前記トウを周面に巻き付けながら前記下流側に搬送する第4搬送ロールと、を更に備え、
前記第1搬送ロールが、ダンサロールである、請求項1又は2に記載のトウ開繊体製造装置。
【請求項5】
前記添着装置よりも前記上流側に配置されて前記トウを開繊する複数の開繊ロール対を更に備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載のトウ開繊体製造装置。
【請求項6】
前記添着装置は、前記内部に前記トウが流通される筐体と、前記筐体の前記内部に配置されて前記トウに向けて前記添着剤を噴霧する少なくとも1つの噴霧部と、を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のトウ開繊体製造装置。
【請求項7】
添着装置を用いて、搬送される長繊維のトウを前記添着装置の内部に流通させながら、前記トウの表面に液状の添着剤を添着し、
前記添着装置の前記トウの搬送方向の下流側に配置された第1搬送ロールを用いて、前記トウを前記第1搬送ロールの周面に巻き付けながら前記下流側に搬送し、
前記第1搬送ロールの軸方向において、開口寸法が前記第1搬送ロールと前記トウとの接触開始位置での前記トウの寸法よりも小さいトウ導入口を有し、前記第1搬送ロールよりも前記下流側に配置された開繊装置を用いて、前記トウ導入口から導入される前記トウを気体で開繊する、吸収性物品に用いられるトウ開繊体の製造方法。
【請求項8】
前記トウが開繊される開繊室が内部に形成された筒状のノズル部と、前記開繊室に向けて前記搬送方向に前記気体を導入する気体導入部とを有する前記開繊装置を用いて、前記トウを前記気体で開繊する、請求項7に記載のトウ開繊体の製造方法。
【請求項9】
前記搬送方向における前記第1搬送ロールと前記添着装置との間で前記第1搬送ロールと平行に配置され且つ前記第1搬送ロールの前記トウと接する方向とは反対側の方向から前記トウと接する第2搬送ロールを用いて、前記軸方向から見て、前記トウを前記第2搬送ロールと前記第1搬送ロールとの周面に蛇行させて巻き付けながら前記下流側に搬送する、請求項7又は8に記載のトウ開繊体の製造方法。
【請求項10】
前記第1搬送ロールが、ダンサロールであり、
前記搬送方向における前記添着装置と前記第1搬送ロールとの間に配置された第3搬送ロールの周面に前記トウを巻き付けながら前記下流側に搬送し、
前記搬送方向における前記第1搬送ロールと前記開繊装置との間に配置された第4搬送ロールの周面に前記トウを巻き付けながら前記下流側に搬送する、請求項7又は8に記載のトウ開繊体の製造方法。
【請求項11】
前記添着装置よりも前記上流側に配置された複数の開繊ロール対を用いて、前記トウを開繊する、請求項7〜10のいずれか1項に記載のトウ開繊体の製造方法。
【請求項12】
前記内部に前記トウが流通される筐体と、前記筐体の前記内部に配置されて前記トウに向けて前記添着剤を噴霧する少なくとも1つの噴霧部とを有する前記添着装置を用いて、前記トウの前記表面に前記添着剤を噴霧する、請求項7〜11のいずれか1項に記載のトウ開繊体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トウ開繊体製造装置及びトウ開繊体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙おむつ等の吸収体や衛生用品等の繊維物品の材料として、セルロースアセテート等の長繊維のトウを開繊したトウ開繊体が用いられている。トウ開繊体は、例えば開繊装置により、捲縮されたトウを搬送しながら気体で開繊して製造される。捲縮装置としては、特許文献1に開示されるように、搬送されるベール状のトウの幅方向において、トウの幅寸法よりも小さい開口寸法を有するトウ導入口にトウを導入し、トウの繊維同士を効率よく絡ませながらトウを嵩高に開繊する開繊装置が知られている。
【0003】
トウ開繊体を製造する場合、開繊装置よりもトウの搬送方向の上流側に配置された添着装置により、トウの表面にトウの繊維の状態や特性を変化させる液状の添着剤を添着し、トウを開繊装置により開繊することで、内部に添着剤が分散されたトウ開繊体を製造することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−221960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、搬送されるトウの搬送方向と直交する一方向において、開繊装置のトウ導入口の開口寸法がトウの寸法よりも小さい場合、開繊装置の前記上流側の位置で、トウが開繊装置に引き込まれるときにトウに作用する張力により、トウが前記一方向に圧縮されてトウの形態が崩れることがある。このため、開繊装置の前記上流側の位置で添着装置によりトウの表面に添着剤を添着する場合、添着剤がトウの表面に不均一に付着され、内部に均一に添着剤が分散されたトウ開繊体の製造が困難になるおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、トウの搬送方向と直交する一方向において、トウ導入口の開口寸法がトウの寸法よりも小さい開繊装置を用いて添着装置により表面に添着剤を添着したトウを気体で開繊する場合、内部に均一に添着剤が分散されたトウ開繊体を安定して製造可能にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るトウ開繊体製造装置は、搬送される長繊維のトウを内部に流通させながら、前記トウの表面に液状の添着剤を添着する添着装置と、前記添着装置よりも前記トウの搬送方向の下流側に配置され、前記トウを周面に巻き付けながら前記下流側に搬送する第1搬送ロールと、前記第1搬送ロールの軸方向において、開口寸法が前記第1搬送ロールと前記トウとの接触開始位置での前記トウの寸法よりも小さいトウ導入口を有し、前記第1搬送ロールよりも前記下流側に配置されて前記トウ導入口から導入される前記トウを気体で開繊する開繊装置と、を備える。
【0008】
上記構成によれば、トウが第1搬送ロールの周面に巻き付けられながら前記下流側に搬送されるので、第1搬送ロールの下流側の位置でトウが開繊装置に引き込まれるときにトウに作用する張力が第1搬送ロールの前記上流側の位置のトウに及ぶのが、トウと第1搬送ロールの周面との接触部分により緩和される。このため、前記軸方向において、開繊装置のトウ導入口の開口寸法が、トウと第1搬送ロールとの接触開始位置でのトウの寸法よりも小さい場合でも、トウが開繊装置に引き込まれるときにトウに作用する張力により添着装置の内部を流通されるトウが前記軸方向に圧縮されるのが防止され、添着装置の内部を流通されるトウの形態を崩れにくくすることができる。よって、添着装置によりトウの表面に添着剤を均一に添着すると共に、開繊装置によりトウの繊維同士を効率よく絡ませながらトウを嵩高に開繊し、内部に均一に添着剤が分散されたトウ開繊体を安定して製造できる。
【0009】
前記開繊装置は、前記トウが開繊される開繊室が内部に形成された筒状のノズル部と、前記開繊室に向けて前記下流側に前記気体を導入する気体導入部と、を有してもよい。
【0010】
これにより、気体導入部より開繊室に向けて下流側に導入された気体を用いて、筒状のノズル部の内部の開繊室において、添着装置により添着剤が添着されたトウを効率よく嵩高に開繊できる。
【0011】
前記搬送方向における前記第1搬送ロールと前記添着装置との間で前記第1搬送ロールと平行に配置され且つ前記第1搬送ロールの前記トウと接する方向とは反対側の方向から前記トウと接する第2搬送ロールを更に備え、前記軸方向から見て、前記トウが前記第1搬送ロールと前記第2搬送ロールとの周面に蛇行して巻き付けられながら前記下流側に搬送されてもよい。
【0012】
このように、前記軸方向から見て、トウが第1搬送ロールと第2搬送ロールとの周面に蛇行して巻き付けられながら前記下流側に搬送されることにより、トウが開繊装置に引き込まれるときにトウに作用する張力が、第1搬送ロールの前記上流側の位置のトウに及ぶのが更に緩和されるので、添着装置の内部に流通されるトウが前記軸方向に圧縮されるのを一層防止できる。
【0013】
前記搬送方向における前記添着装置と前記第1搬送ロールとの間に配置され、前記トウを周面に巻き付けながら前記下流側に搬送する第3搬送ロールと、前記搬送方向における前記第1搬送ロールと前記開繊装置との間に配置され、前記トウを周面に巻き付けながら前記下流側に搬送する第4搬送ロールと、を更に備え、前記第1搬送ロールが、ダンサロールであってもよい。
【0014】
このように、ダンサロールである第1搬送ロールの上流側に第3搬送ロール、下流側に第4搬送ロールをそれぞれ配置し、第3搬送ロールと第4搬送ロールとの周面にトウを巻き付けながら第1搬送ロールによりトウに張力を付与することで、トウが開繊装置に引き込まれるときにトウに作用する張力が、添着装置の内部を流通されるトウに一層良好に及びにくくすることができ、添着装置によりトウの表面に添着剤を均一に添着できる。
【0015】
前記添着装置よりも前記上流側に配置されて前記トウを開繊する複数の開繊ロール対を更に備えてもよい。このように、複数の開繊ロール対により良好に開繊されたトウに対して、添着装置によりトウの表面に添着剤を均一に添着できる。
【0016】
前記添着装置は、前記内部に前記トウが流通される筐体と、前記筐体の前記内部に配置されて前記トウに向けて前記添着剤を噴霧する少なくとも1つの噴霧部と、を有してもよい。
【0017】
これにより、筐体の内部に配置した噴霧部を用いて、筐体の内部を流通するトウの表面に連続的に効率よく添着剤を添着でき、トウ開繊体の製造効率を向上できる。
【0018】
本発明の別の態様に係るトウ開繊体の製造方法は、添着装置を用いて、搬送される長繊維のトウを前記添着装置の内部に流通させながら、前記トウの表面に液状の添着剤を添着し、前記添着装置の前記トウの搬送方向の下流側に配置された第1搬送ロールを用いて、前記トウを前記第1搬送ロールの周面に巻き付けながら前記下流側に搬送し、前記第1搬送ロールの軸方向において、開口寸法が前記第1搬送ロールと前記トウとの接触開始位置での前記トウの寸法よりも小さいトウ導入口を有し、前記第1搬送ロールよりも前記下流側に配置された開繊装置を用いて、前記トウ導入口から導入される前記トウを気体で開繊する。
【0019】
前記トウが開繊される開繊室が内部に形成された筒状のノズル部と、前記開繊室に向けて前記搬送方向に前記気体を導入する気体導入部とを有する前記開繊装置を用いて、前記トウを前記気体で開繊してもよい。
【0020】
前記搬送方向における前記第1搬送ロールと前記添着装置との間で前記第1搬送ロールと平行に配置され且つ前記第1搬送ロールの前記トウと接する方向とは反対側の方向から前記トウと接する第2搬送ロールを用いて、前記軸方向から見て、前記トウを前記第2搬送ロールと前記第1搬送ロールとの周面に蛇行させて巻き付けながら前記下流側に搬送してもよい。
【0021】
前記第1搬送ロールが、ダンサロールであり、前記搬送方向における前記添着装置と前記第1搬送ロールとの間に配置された第3搬送ロールの周面に前記トウを巻き付けながら前記下流側に搬送し、前記搬送方向における前記第1搬送ロールと前記開繊装置との間に配置された第4搬送ロールの周面に前記トウを巻き付けながら前記下流側に搬送してもよい。
【0022】
前記添着装置よりも前記上流側に配置された複数の開繊ロール対を用いて、前記トウを開繊してもよい。
【0023】
前記内部に前記トウが流通される筐体と、前記筐体の前記内部に配置されて前記トウに向けて前記添着剤を噴霧する少なくとも1つの噴霧部とを有する前記添着装置を用いて、前記トウの前記表面に前記添着剤を噴霧してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、トウの搬送方向と直交する一方向において、トウ導入口の開口寸法がトウの寸法よりも小さい開繊装置を用いて添着装置により表面に添着剤を添着したトウを気体で開繊する場合、内部に均一に添着剤が分散されたトウ開繊体を安定して製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態に係るトウ開繊体製造装置の全体図である。
図2図1の添着装置と搬送ロール装置とのトウバンドの搬送方向と直交する方向から見た鉛直断面図である。
図3図1の第1搬送ロールの軸方向から見た鉛直断面図である。
図4図1の開繊装置のトウバンドの搬送方向と直交する方向から見た鉛直断面図である。
図5図1の開繊装置の上流側から見た正面図である。
図6図1の添着装置の鉛直方向から見下ろした水平断面図である。
図7】皺が発生したトウバンドの鉛直方向から見下ろした上面図である。
図8】第2実施形態に係る添着装置と搬送ロール装置とのトウバンドの搬送方向と直交する方向から見た鉛直断面図である。
図9】実施例のトウ開繊体の上面を模式的に示す上面図である。
図10】比較例のトウ開繊体の上面を模式的に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、各実施形態について、各図を参照して説明する。以下に示す上流側と下流側とは、トウ開繊体製造装置1の搬送路30におけるトウバンド60の搬送方向Pの上流側と下流側とを順に指す。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るトウ開繊体製造装置1(以下、単に製造装置1と称する。)の全体図である。製造装置1は、トウバンド60の搬送路30の上流側から下流側に向けて、第1拡幅装置2、ガイド3、第2拡幅装置4、開繊ロール装置5、添着装置6、搬送ロール装置7、及び開繊装置8を備える。
【0028】
第1拡幅装置2の下方には、梱包箱50が載置される。梱包箱50には、捲縮された長繊維のトウからなるベール状のトウバンド60が、折り畳まれて梱包されている。トウバンド60の繊維は、ここでは長繊維のセルロースアセテート繊維であるが、これ以外の繊維(例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、及びポリアミドのうちの少なくともいずれかの繊維)でもよい。一例として、製造装置1では、トウバンド60の幅方向が水平に保たれながら、トウバンド60が搬送方向Pに搬送される。
【0029】
第1拡幅装置2は、梱包箱50から上方に繰り出されるトウバンド60に向けて空気等の気体を吹き付け、トウバンド60を搬送方向Pと直交する一方向(ここではトウバンド60の幅方向)に拡幅する。ガイド3は、第1拡幅装置2を通過したトウバンド60を、搬送路30に沿って第2拡幅装置4に案内する。第1拡幅装置2とガイド3とは、製造装置1の筐体から上方に延設された不図示のアーム(ブーム)にそれぞれ支持される。第2拡幅装置4は、第1拡幅装置2と同様の構成を有し、トウバンド60を前記一方向に拡幅する。第1拡幅装置2と第2拡幅装置4とは、バンディングジェット装置とも称する。
【0030】
開繊ロール装置5は、上流側に配置された第1開繊ロール対9と、下流側に配置された第2開繊ロール対10とを有する。第1開繊ロール対9は、一対のロール11、12を有する。第2開繊ロール対10は、一対のロール13、14を有する。第2開繊ロール対10は、第1開繊ロール対9の周速度よりも早い周速度で回転駆動される。第2拡幅装置4を通過したトウバンド60は、一対のロール11、12の間に挿通され、且つ、一対のロール13、14の間に挿通される。第1開繊ロール対9と第2開繊ロール対10とは、トウバンド60に少なくとも搬送方向Pに張力を付与し、トウバンド60をその張力が及ぶ方向に開繊(機械開繊)する。
【0031】
なお、製造装置1が備える開繊ロール対の数は、複数対であればよく、3対以上でもよい。また、一対のロール11、12のうち一方のロールと、一対のロール13、14のうち一方のロールとの少なくともいずれかには、トウバンド60を前記一方向に開繊するための溝部を周方向に螺旋状に形成してもよい。
【0032】
添着装置6は、搬送路30で最も下流側に配置された開繊ロール対(ここでは開繊ロール対10)の下流側に配置されている。添着装置6は、開繊ロール装置5を通過して搬送されるトウバンド60を内部に流通させながら、トウバンド60の表面に液状の所定の添着剤40(図2参照)を噴霧する。これにより添着装置6は、トウバンド60の表面に添着剤40を添着する。ここでは一例として、添着装置6は、添着剤40の添着量が、添着剤40を添着されたトウバンド60の0.2重量%以上2重量%以下の範囲の値となるように、トウバンド60に添着剤40を添着する。添着装置6は、搬送方向Pと前記一方向とに延びる筐体15を有する。
【0033】
搬送ロール装置7は、添着装置6を通過したトウバンド60を開繊装置8に向けて搬送すると共に、添着装置6と開繊装置8との間の搬送路30で、トウバンド60に作用する張力を調整する。搬送ロール装置7は、第1搬送ロール16と第2搬送ロール17とを有する。各搬送ロール16、17は、添着装置6よりも下流側に配置され、トウバンド60を周面に巻き付けながら下流側に搬送する。第1搬送ロール16は、添着装置6の出口15bに配置されている。第2搬送ロール17は、搬送方向Pの第1搬送ロール16と添着装置6との間で、第1搬送ロール16と平行に配置されている。ここでは、各搬送ロール16、17は、軸方向を水平に保たれて配置されている。第2搬送ロール17は、第1搬送ロール16の上方に配置されている。
【0034】
一例として、第1搬送ロール16と第2搬送ロール17とは、Sラップフィードロールである。第2搬送ロール17は、第1搬送ロール16とは逆方向に回転され、第1搬送ロール16のトウバンド60と接する方向とは反対側の方向からトウバンド60と接する。第1搬送ロール16の軸方向(以下、単に軸方向と称する。)から見て、トウバンド60は、第1搬送ロール16と第2搬送ロール17との周面に蛇行しながら巻き付けられている。なお、第1搬送ロール16と第2搬送ロール17との少なくともいずれかは、トウバンド60を前記軸方向(前記一方向)に拡幅するエキスパンダロールであってもよい。
【0035】
開繊装置8は、搬送ロール装置7の下流側に配置され、気体でトウバンド60を開繊する。これにより開繊装置8は、トウバンド60を開繊装置8の通過前に比べて嵩高くなるように調整する。開繊装置8は、互いに組み合わされた外筒18及び内筒19を有する。トウバンド60が開繊装置8を通過することにより、トウ開繊体61が得られる。
【0036】
添着剤40は、本実施形態では、トウバンド60の繊維を処理して繊維の特性を変化させる液体(処理液)である。前記液体としては、例えば、柔軟性、界面活性、抗菌性のうちの少なくともいずれかの特性をトウ開繊体61の表面の繊維に付与する液体や、トウ開繊体61の表面の繊維を着色する着色液を挙げることができる。ここでは前記液体は、セルロースアセテート繊維に親水性を持たせる液体であり、一例として、親水性のエマルションである。前記液体としては、具体的にはHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値16以上の親水性液体が好ましい。より具体的には、前記液体としては、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、及びモノステアリン酸ポリエチレングリコール等が例示できるが、これに限定されない。
【0037】
HLB値は、親水基を持たない物質をHLB=0とし、親油基を持たず親水基のみを持つ物質をHBL=20とした場合において、0から20までの数値範囲を20等分した値により表される。従って、親油性と親水性を併せ持っている乳化剤のHBL値は、0より大きく且つ20より小さい範囲の間の値をとる。乳化剤は、親油性に対して親水性が大きいほどHLB値も大きく、水に溶け易い性質となり、親油性に対して親水性が小さいほどHLB値も小さく、水に溶けにくい性質となる。前記液体は、好ましくは、o/w型エマルションである。
【0038】
HLB値を求める方法は、例えば、エステル系の界面活性剤について、鹸化価をS、界面活性剤を構成する脂肪酸の酸価をAとし、HLB値を20(1−S/A)で定義するアトラス法でも良い。また、HBL値が既知の物質について、高速液体クロマトグラフィーで保持時間を数点測定した結果を用いて、各測定点により近似曲線を求めた上で所望する物質の保持時間から決定する方法でも良い。なお、前記液体のHLB値が、13以上16以下程度の範囲の値である場合、前記液体は、水に透明に溶解し、o/w型エマルションの乳化剤として使用される。前記液体のHLB値が、16よりも大きく19以下程度の範囲の値である場合、前記液体は、水に透明に溶解し、可溶化剤として使用される。本実施形態では、前記液体として、o/w型エマルションの乳化剤及び可溶化剤の何れも用いることができる。
【0039】
ここで、セルロースアセテートは、セルロースの3個の置換基の一部がセルロースエステルに置き換わることで、親水性と親油性との両方の性質を有し、置換度等により、その性質の傾向が変わる。一般的なセルロースアセテート繊維の置換度は、約2.5程度であるが、これは、セルロースアセテートを溶解する溶媒としてアセトンを用いる場合に、アセトンに可溶な置換度の範囲として設定されたことによる。このようなセルロースアセテート繊維は、紡糸工程中の摩擦等による破断を防ぐために繊維油剤エマルションを塗布されて親油性となる場合がある。繊維油剤エマルションは、例えば、特開2007−77525号公報に記載されるように、5重量%のエマルション濃度で測定した850nmの光線の全光線透過度が30%以上であることが好ましい。繊維油剤エマルションをセルロースアセテート繊維の糸条に添着することにより、トウ開繊体61の製造工程でセルロースアセテート繊維が機器類との接触摩耗により損傷して生じる品質低下や、摩耗により切断された繊維片による作業環境の悪化を著しく抑制できると共に、紡糸工程でセルロースアセテート繊維と紡糸ガイドとが接触摩擦する際の摩擦力を減少させ、セルロースアセテート繊維がゴディーロールと接触して切れる頻度を顕著に減少できる。
【0040】
セルロースアセテート繊維のトウバンド60により構成されるトウ開繊体61を用いて吸収性物品を製造する場合、トウ開繊体61には、繊維油剤エマルションと前記液体とが両方添着されていてもよい。トウ開繊体61は、例えば、親水性が高い方が液拡散性を向上でき、トウ開繊体61の広範囲な領域に尿や血液等の体液を拡散させることができるので用途的に有利である。前記液体によりトウ開繊体61の繊維を親水化することで、セルロースアセテート繊維の本来の特性である液透過性を維持しつつ、トウ開繊体61の吸水特性、特に、液拡散性及び液保持性(濡れ特性)を改善できる。これにより、前記各特性をバランスよく備えるトウ開繊体61を得ることができる。
【0041】
図2は、図1の添着装置6と搬送ロール装置7との搬送方向Pと直交する方向から見た鉛直断面図である。図2に示すように、添着装置6の筐体15には、内部空間15cが形成されている。筐体15は、上流側に入口15aを有し、下流側に出口15bを有する。入口15aと出口15bとは、開繊ロール装置5により開繊されたトウバンド60が、その状態が維持されたまま通過可能なサイズに形成されている。
【0042】
添着装置6は、内部空間15cに配置されてトウバンド60に向けて液体の添着剤40を噴霧する少なくとも1つの噴霧部を有する。具体的に添着装置6は、筐体15の内部空間15cに設けられた一対の噴霧部20、21を有する。噴霧部20は、内部空間15cの上方において、鉛直方向下方にノズル口20aを向けて配置されている。噴霧部21は、内部空間15cの下方において、鉛直方向上方にノズル口21aを向けて配置されている。ノズル口20a、21aは、筐体15の内部空間15cにおいて、前記一方向に延びている。これにより一例として、噴霧部20、21は、搬送されるトウバンド60の表面に向けて、前記一方向に一様に添着剤40を噴霧する。
【0043】
噴霧部20、21は、一例として、鉛直方向にトウバンド60を挟んで対向する位置に設けられている。噴霧部20、21は、チューブ22、23と接続されている。噴霧部20、21には、添着装置6の外部から、チューブ22、23を介して添着剤40が供給される。
【0044】
筐体15の内部空間15cには、筐体15の上部から下方に向けて延びる案内部材15dと、筐体15の下部から上方に向けて延びる案内部材15eとが設けられている。案内部材15d、15eは、搬送されるトウバンド60を入口15aから出口15bに向けて案内すると共に、噴霧部20、21がトウバンドの表面に添着剤40を噴霧するときのトウバンド60の姿勢を安定させる。搬送方向Pと直交する添着装置6の鉛直断面(以下、単に鉛直断面と称する。)において、トウバンド60は、入口15aから出口15bに直線状に向かう方向Lに延びている。筐体15の下部には、噴霧部20、21から噴霧された添着剤40の一部を排出するダクト部24が設けられている。
【0045】
なお、添着装置6は、噴霧部20、21の代りに、トウバンド60に添着剤40を添着するための回転ブラシ、回転ロール、又は回転ディスクの少なくともいずれかを有していてもよい。
【0046】
搬送ロール装置7の第1搬送ロール16は、一例として、添着装置6の出口15bと重なる位置で且つ方向Lに延びるトウバンド60の上面と周面が接する位置に軸支されている。搬送ロール装置7の第2搬送ロール17は、一例として、前記軸方向と直交する方向に第1搬送ロール16と離隔する位置で且つトウバンド60の下面と周面が接する位置に軸支されている。
【0047】
図3は、図1の第1搬送ロール16の前記軸方向から見た鉛直断面図である。ここでは一例として、第1搬送ロール16の抱き角度θを示している。図3に示すように、前記軸方向から見て、第1搬送ロール16とトウバンド60との接触開始位置p1及び第1搬送ロール16の軸心Oを通る直線r1と、第1搬送ロール16からトウバンド60が離隔する位置p2及び第1搬送ロール16の軸心Oを通る直線r2との間の角度として定義される抱き角度θは、適宜設定が可能である。抱き角度θは、一例として、30°以上210°以下の範囲の値が望ましく、60°以上150°以下の範囲の値がさらに望ましく、90°以上120°以下の範囲の値が一層望ましい。なお、図示しないが、第2搬送ロール17の抱き角度は、一例として、抱き角度θと同様に設定されている。抱き角度θと第2搬送ロール17の抱き角度とは、同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0048】
図4は、図1の開繊装置8の搬送方向Pと直交する方向から見た鉛直断面図である。図5は、図1の開繊装置8の上流側から見た正面図である。図6は、図1の添着装置6の鉛直方向から見下ろした水平断面図である。図4〜6に示すように、開繊装置8の外筒18は、本体部18aとノズル部18bとを有する。本体部18aは、搬送方向Pに延びる筒状に形成され、気体が流通する内部空間25を有する。ノズル部18bは、本体部18aの下流端部から下流側に延びる筒状(ここでは円筒状)に形成され、内部に開繊室26を有する。開繊室26は、気体によりトウバンド60を搬送方向Pに搬送しながら開繊するために用いられる。
【0049】
本体部18aの側面には、気体を内部空間25に導入する気体導入部18cが設けられる。気体導入部18cには、内部空間25と連通する開口18dが設けられる。開口18dは、不図示のコンプレッサに接続され、開口18dを通じて、外部から内部空間25に向けて気体が導入される。気体は、一例として空気であり、トウバンド60を搬送方向Pに搬送すると共に開繊するために用いられる。本体部18aの上流端部には、開口18eが設けられる。開口18eには、内筒19が挿入される。ノズル部18bの流路断面形状は、一例として円形であるが、これに限定されない。ノズル部18bの流路断面形状は、完全な円形でなくてもよく、楕円形でもよいし、矩形状や多角形状でもよい。
【0050】
内筒19は、トウ導入部19aとトウ流通部19bとを有する。トウ導入部19aは、漏斗状に形成され、上流側から下流側に向けて、内径が縮径されている。トウ導入部19aには、トウ導入口19a1が形成されている。トウ導入口19a1には、トウバンド60が開繊室26に向けて導入される。前記軸方向(前記一方向)において、トウ導入口19a1は、その開口寸法Dが、接触開始位置p1でのトウバンド60の寸法Wよりも小さく設定されている。トウ導入口19a1の周縁形状は、一例として円形であるが、これに限定されない。トウ導入口19a1の周縁形状は、完全な円形でなくてもよく、楕円形でもよい。
【0051】
トウ流通部19bは、トウ導入部19aの下流端部から下流側に延びる筒状に形成され、内部にトウバンド60が流通する流通空間27を有する。トウ流通部19bの下流側に位置する先端部19cは、上流側から下流側に向けて先細りとなるテーパー状に形成されている。トウ導入部19aの前部とトウ流通部19bとは、本体部18aの開口18eから本体部18aの内部空間25に挿入されている。
【0052】
先端部19cの外周面と対向する本体部18aの内周面は、先端部19cの外周面と離隔した状態を保ちながら、上流側から下流側に向けて縮径されている。これにより、先端部19cの外周面と本体部18aの内周面との間には、ジェット流路28が設けられている。ジェット流路28は、環状断面を有し、気体導入部18cから内部空間25に導入された気体を、開繊室26に向けて搬送方向Pにジェット状に噴出させる。
【0053】
開繊装置8では、トウバンド60が、トウ導入部19aのトウ導入口19a1から流通空間27を流通して開繊室26に搬送されると共に、気体導入部18cの開口18dから導入された気体が、ジェット流路28を流通して開繊室26の流路断面の全周の位置から搬送方向Pに開繊室26内に噴出され、トウバンド60と混合される。開繊室26において、トウバンド60は、ジェット状の気体によって搬送方向Pに搬送されると共に繊維同士を絡ませながら開繊される。これにより、開繊装置8を通過して得られるトウ開繊体61は、開繊装置8を通過する前のトウバンド60に比べて嵩高となる。トウ開繊体61は、開繊装置8により、一例として上下方向を厚み方向とする形状に成型されるが、これに限定されない。
【0054】
ここで開繊装置8では、気体導入部18cの開口18dからジェット流路28に導入される気体の勢いによって、開口寸法Dが寸法Wよりも小さいトウ導入口19a1にトウバンド60が引き込まれる。このため、搬送ロール装置7を通過したトウバンド60には、前記軸方向に圧縮されるように張力が作用する。
【0055】
図7は、皺35が発生したトウバンド60の鉛直方向から見下ろした上面図である。図7に示すように、製造装置が搬送ロール装置7を備えていない場合、トウバンド60が、前記軸方向に圧縮されることで、添着装置6の内部を流通するトウバンド60の表面に搬送方向Pに延びる複数の皺35が発生することがある。この状態でトウバンド60の表面に添着剤40を噴霧すると、トウバンド60の表面に露出した皺35の山部には、添着剤40が付着するが、トウバンド60の内部に入り込んだ皺35の谷部には、添着剤40が付着しにくくなる。これにより、トウバンド60の表面に不均一に添着剤40が添着され、開繊装置8を通過したトウ開繊体の内部に添着剤40が局在するおそれがある。
【0056】
これに対して製造装置1では、トウバンド60が第1搬送ロール16の周面に巻き付けられながら下流側に搬送されるので、第1搬送ロール16の下流側の位置でトウバンド60が開繊装置8に引き込まれるときにトウバンド60に作用する張力が第1搬送ロール16の上流側の位置のトウバンド60に及ぶのが、トウバンド60と第1搬送ロール16の周面との接触部分により緩和される。このため、トウ導入口19a1の開口寸法Dが、接触開始位置p1でのトウバンド60の寸法Wよりも小さい場合でも、トウバンド60が開繊装置8に引き込まれるときにトウバンド60に作用する張力により添着装置6の内部を流通されるトウバンド60が前記軸方向に圧縮されるのが防止され、添着装置6の内部を流通されるトウバンド60の形態を崩れにくくすることができる。よって、添着装置6によりトウバンド60の表面に添着剤40を均一に添着すると共に、開繊装置8によりトウバンド60の繊維同士を効率よく絡ませながらトウバンド60を嵩高に開繊し、内部に均一に添着剤40が分散されたトウ開繊体61を安定して製造できる。
【0057】
また、第1搬送ロール16と第2搬送ロール17とは、ニップロール対のようにトウバンド60の表面を各搬送ロール16、17の周面同士で押圧しないので、開繊ロール装置5により開繊されたトウバンド60を押し潰すおそれを減らせる。
【0058】
また、開繊装置8は、開繊室26が内部に形成された円筒状のノズル部18bと、開繊室26に向けて下流側に気体を導入する気体導入部18cとを有しているので、気体導入部18cより開繊室26に向けて下流側に導入された気体を用いて、開繊室26において、添着装置6により添着剤40が添着されたトウバンド60を効率よく嵩高に開繊できる。
【0059】
また、前記軸方向から見て、トウバンド60が第1搬送ロール16と第2搬送ロール17との周面に蛇行して巻き付けられながら下流側に搬送されることにより、トウバンド60が開繊装置8に引き込まれるときにトウバンド60に作用する張力が、第1搬送ロール16の上流側の位置のトウバンド60に及ぶのが更に緩和されるので、添着装置6の内部空間15cに流通されるトウバンド60が前記軸方向に圧縮されるのを一層防止できる。
【0060】
また、製造装置1は、添着装置6よりも上流側に配置されてトウバンド60を開繊する複数の開繊ロール対9、10を更に備えているので、複数の開繊ロール対9、10により良好に開繊されたトウバンド60に対して、添着装置6により、トウバンド60の表面に添着剤40を均一に添着できる。
【0061】
また、添着装置6が、トウバンド60を流通させる内部空間15cが形成された筐体15と、内部空間15c内に配置されてトウバンド60に向けて添着剤40を噴霧する少なくとも1つの噴霧部20、21とを有しているので、噴霧部20、21を用いて、内部空間15cを流通するトウバンド60の表面に連続的に効率よく添着剤40を添着でき、トウ開繊体61の製造効率を向上できる。以下、第2実施形態について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0062】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態に係る添着装置6と搬送ロール装置107とのトウバンド60の搬送方向と直交する方向から見た鉛直断面図である。図8に示すように、搬送ロール装置107は、第1搬送ロール132、第3搬送ロール131、及び第4搬送ロール133を有する。
【0063】
第1搬送ロール132は、ダンサロールであって、一例として、図示しない付勢装置により下方に付勢されている。第3搬送ロール131は、搬送方向Pにおける添着装置6と第1搬送ロール132との間に配置され、トウバンド60を周面に巻き付けながらトウバンド60を下流側に搬送する。第4搬送ロール133は、搬送方向Pにおける第1搬送ロール132と開繊装置8との間に配置され、トウバンド60を周面に巻き付けながらトウバンド60を下流側に搬送する。なお、第1搬送ロール132は、自重により下方に付勢されていてもよい。
【0064】
このように、ダンサロールである第1搬送ロール132の上流側に第3搬送ロール131、下流側に第4搬送ロール133をそれぞれ配置し、第3搬送ロール131と第4搬送ロール133との周面にトウバンド60を巻き付けながら第1搬送ロール132によりトウバンド60に張力を付与することで、第1搬送ロール132の下流側の位置でトウバンド60に作用する張力が、添着装置6の内部空間15cを流通されるトウバンド60に一層良好に及びにくくすることができ、添着装置6によりトウバンド60の表面に添着剤40を均一に添着できる。
【0065】
(確認実験)
添着剤40に着色液を用い、第1実施形態の製造装置1により、トウ開繊体61を実施例として得た。添着剤40に着色液を用い、搬送ロール装置を備えないトウ開繊体製造装置により、トウ開繊体161を比較例として得た。実施例及び比較例のトウ開繊体製造装置の構成は、搬送ロール装置の有無以外は同様とした。実施例のトウ開繊体61と比較例のトウ開繊体161との各上面を目視により確認し、トウ開繊体61、161の上面全体に占める着色領域の面積の割合を、トウ開繊体61、161に対する添着剤40の添着割合(%)として算出した。この結果を表1に示す。図9は、実施例のトウ開繊体61の上面を模式的に示す上面図である。図10は、比較例のトウ開繊体161の上面を模式的に示す上面図である。
【0066】
【表1】
【0067】
表1及び図9に示すように、実施例では、トウ開繊体61の上面全体の92%の領域を着色領域61aが占めていた。着色領域61aは、トウ開繊体61の上面のほぼ全体に分布していた。表1及び図10に示すように、比較例では、トウ開繊体161の上面全体の39%の領域を着色領域161aが占めていた。着色領域161aは、トウ開繊体161の上面の一部に局在していた。
【0068】
このような結果が得られた原因の一つとして、比較例では、トウバンド60が開繊装置8に引き込まれるときにトウバンド60に作用する張力が、添着装置6の内部を流通するトウバンド60に及んだことで、トウバンド60の表面に皺35が生じ、トウバンド60の表面に添着剤40が不均一に添着されて、表面及び内部に添着剤40が局在したトウ開繊体161が得られたものと考えられる。
【0069】
これに対して実施例では、トウバンド60が開繊装置8に引き込まれるときにトウバンド60に作用する張力が添着装置6の内部を流通する際のトウバンド60に及ぶのが、搬送ロール装置7により防止されたことで、トウバンド60の表面に添着剤40が均一に添着されて、表面及び内部に均一に添着剤40が分散されたトウ開繊体61が得られたものと考えられる。
【0070】
本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成及び方法を変更、追加、又は削除できる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように本発明によれば、トウの搬送方向と直交する一方向において、トウ導入口の開口寸法がトウの寸法よりも小さい開繊装置を用いて添着装置により表面に添着剤を添着したトウを気体で開繊する場合、内部に均一に添着剤が分散されたトウ開繊体を安定して製造できる優れた効果を有する。従って、この効果の意義を発揮できるトウ開繊体製造装置及びトウ開繊体の製造方法として、広く適用すると有益である。
【符号の説明】
【0072】
D トウ導入口の開口寸法
P 搬送方向
W トウバンドの寸法(トウの寸法)
1 トウ開繊体製造装置
6 添着装置
8 開繊装置
9、10 開繊ロール対
15 筐体
15c 内部空間
16、132 第1搬送ロール
17 第2搬送ロール
18b ノズル部
18c 気体導入部
19a1 トウ導入口
20、21 噴霧部
26 開繊室
40 添着剤
60 トウバンド(トウ)
61 トウ開繊体
131 第3搬送ロール
133 第4搬送ロール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10