(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6659619
(24)【登録日】2020年2月10日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】滑動促進部がエネルギー吸収層に配置されたヘルメット
(51)【国際特許分類】
A42B 3/04 20060101AFI20200220BHJP
【FI】
A42B3/04
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-97419(P2017-97419)
(22)【出願日】2017年5月16日
(62)【分割の表示】特願2016-167357(P2016-167357)の分割
【原出願日】2011年5月3日
(65)【公開番号】特開2017-160589(P2017-160589A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2017年5月16日
【審判番号】不服2019-4526(P2019-4526/J1)
【審判請求日】2019年4月5日
(31)【優先権主張番号】61/333,817
(32)【優先日】2010年5月12日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】1050458-7
(32)【優先日】2010年5月7日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】512287849
【氏名又は名称】エムアイピーエス エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハルディン、ペーター
【合議体】
【審判長】
久保 克彦
【審判官】
井上 茂夫
【審判官】
佐々木 正章
(56)【参考文献】
【文献】
特開平2001−295129(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3131987(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3106274(JP,U)
【文献】
特開2006−312798(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0250340(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A42B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー吸収層(2)と、
着用者の頭部の上に装着するために設けられた布又は網の帽子(3)であって、前記帽子(3)は、少なくとも1つの固定部材(4)によって、前記エネルギー吸収層(2)に固定されている、布又は網の帽子(3)と、
滑動促進部(5)であって、前記滑動促進部(5)は、前記帽子(3)に固定されているか、又は、前記帽子(3)は、前記滑動促進部(5)として作用するように適合されており、前記滑動促進部(5)は、衝撃の間に、前記エネルギー吸収層(2)と前記帽子(3)との間の滑動を可能にするように構成されている、滑動促進部(5)と
を含むヘルメット。
【請求項2】
前記ヘルメットが、前記エネルギー吸収層(2)の外側に配置されている外側シェル(1)をさらに含む、請求項1に記載のヘルメット。
【請求項3】
前記帽子(3)が、前記固定部材(4)によって、前記外側シェル(1)に固定されている、請求項2に記載のヘルメット。
【請求項4】
前記固定部材(4)が、弾性的に、半弾性的に、又は塑性的に変形することによって、エネルギー及び力を吸収することができる、請求項3に記載のヘルメット。
【請求項5】
前記固定部材(4)が、第1の部分(8)及び第2の部分(9)を有する少なくとも1つのサスペンション部材(4)を含み、前記サスペンション部材(4)の前記第1の部分(8)は、前記帽子(3)に固定されるように適合されており、前記サスペンション部材(4)の前記第2の部分(9)は、前記エネルギー吸収層(2)に固定されるように適合されている、請求項3又は4に記載のヘルメット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、外側シェルがある、又はないエネルギー吸収層と、エネルギー吸収層の内側に設けられた滑動促進部とを含むヘルメットに関する。
【背景技術】
【0002】
頭蓋骨及び脳の傷害を防止又は低減するために、多くの活動でヘルメットが必要とされる。多くのヘルメットは、堅い外側シェルからなり、プラスチック又は複合材料、及びライナーと称されるエネルギー吸収層から製作されることが多い。今日、保護ヘルメットは、とりわけ、規定荷重において脳の重心で発生し得る最大加速度に関する特定の法的要件を満たすように設計されなければならない。通常、ヘルメットを装備したダミー・スカルとして知られるものが、頭部に向かって半径方向の打撃を受ける試験が実施される。これによって、頭蓋骨に対する半径方向の打撃の場合には良好なエネルギー吸収能力を有する最新のヘルメットがもたらされたが、他の荷重方向に対するエネルギー吸収は最適化されていない。
【0003】
半径方向の衝撃の場合、頭部は、並進運動において加速され、結果として直線的な加速を生じることになる。並進方向の加速は、頭蓋骨の骨折、及び/又は、脳の組織の圧力傷害若しくは擦り傷を引き起こす可能性がある。しかし、傷害の統計によれば、純粋な半径方向の衝撃は稀である。
【0004】
一方、純粋な角加速度を頭部にもたらす純粋な接線方向の衝突も稀である。
【0005】
多くの通常のタイプの衝撃は、斜め方向の衝撃であり、斜め方向の衝撃は、頭部に同時に作用する半径方向の力と接線方向の力との組み合わせであり、例えば、脳震とうを引き起こす。斜め方向の衝撃は、脳の並進方向の加速及び回転方向の加速の両方を引き起こす。回転加速は、脳を頭蓋骨の中で回転させ、脳を頭蓋骨に接続する体の部位、及び脳を脳自身に接続する体の部位にも傷害を発生させる。
【0006】
回転傷害の実例は、一方では、硬膜下血腫、SDH、血管破裂の引き起こす出血であり、他方では、びまん性軸索損傷、DAIであり、それは、脳組織の中の高度の剪断変形の結果として神経線維が過度に引き延ばされるものとして簡単に述べることができる。継続時間、振幅、及び増加率などのような回転力の特性に応じて、SDH若しくはDAIのいずれかが発生し、又は、これらの組み合わせを被る。一般的に言えば、SDHは、短い期間の場合、且つ振幅が大きい場合に発生するが、DAIは、より長く、且つ、より広範囲の加速度荷重の場合に発生する。頭蓋骨及び脳のための良好な保護を提供することを可能にするために、これらの現象が考慮されることが重要である。
【0007】
頭部は、頭皮、堅い頭蓋骨、及び、その下の脳脊髄液を使用して、これらの力を減衰させようと試みる自然の保護システムを有する。衝撃の間、頭皮及び脳脊髄液は、頭蓋骨全体にわたって圧縮及び滑動することの両方によって、回転方向の緩衝装置として作用する。今日使用される多くのヘルメットは、回転傷害に対する保護を提供していない。
【0008】
例えば、自転車、乗馬、及びスキーのヘルメットの重要な特徴は、通気性が良く、空気力学的な形状を有するということである。最新の自転車ヘルメットは、通常、モールド成形プロセスの間に薄い硬質シェルを組み込むことによって製造されたインモールド・シェルのタイプである。この技術によって、堅いシェルのヘルメットよりも複雑な形状が可能になり、また、より大きな通気孔の形成も可能になる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
エネルギー吸収層と、エネルギー吸収層の内側に設けられた滑動促進部とを含むヘルメットが開示される。
【0010】
一実施形態によれば、ヘルメットは、着用者の頭部にヘルメットを取り付けるための取り付けデバイスを含む。取り付けデバイスは、頭部又は頭蓋骨の上部部分と少なくとも部分的に接触することを目的としている。さらに、着用者の頭部の上部部分への取り付けのサイズ及び程度を調節するための締め付け手段を有することも可能である。あご紐などは、本実施形態のヘルメットによれば、取り付けデバイスではない。
【0011】
滑動促進部が、エネルギー吸収層と取り付けデバイスとの間に滑動機能を提供するために、取り付けデバイス及び/又はエネルギー吸収層の内側に固定されることが可能である。
【0012】
外側シェルが、エネルギー吸収層の外側に設けられていることが好ましい。これに従って設計されたヘルメットは、インモールド技術を使用して製造されることが可能であるが、例えば、オートバイのヘルメットなどのような堅いシェルタイプのヘルメットなど、全てのタイプのヘルメットにおいて開示された知識を使用することが可能である。
【0013】
さらに別の実施形態によれば、取り付けデバイスが、少なくとも1つの固定部材によって、エネルギー吸収層及び/又は外側シェルに固定されており、固定部材は、弾性的に、半弾性的に、又は塑性的に変形することによって、エネルギー及び力を吸収するように適合されることが可能である。衝撃の間、エネルギー吸収層は、エネルギー吸収層を圧縮することによって衝撃吸収装置として作用し、外側シェルが使用される場合は、衝撃エネルギーをシェル全体に発散させることになる。滑動促進部は、取り付けデバイスとエネルギー吸収層との間の滑動を可能にすることとなり、そうでなければ脳に伝達される回転エネルギーを吸収するための制御された方法を可能にする。回転エネルギーは、摩擦熱、エネルギー吸収層の変形、又は、少なくとも1つの固定部材の変形若しくは変位によって、吸収されることが可能である。吸収された回転エネルギーは、脳に影響を与える回転加速度の量を低減し、したがって、頭蓋骨の中の脳の回転を低減することになる。
【0014】
固定部材は、第1及び第2の部分を有する少なくとも1つのサスペンション部材を含むことが可能である。サスペンション部材の第1の部分は、エネルギー吸収層に固定されるように適合されることが可能であり、サスペンション部材の第2の部分は、取り付けデバイスに固定されるように適合されることが可能である。
【0015】
滑動促進部は、ヘルメットに機能(滑動機能)を与え、多くの異なる形で提供されることが可能である。例えば、滑動促進部は、低摩擦材料であり、低摩擦材料は、エネルギー吸収層に面する取り付けデバイスの表面の上で、取り付けデバイスの上に設けられているか、若しくは取り付けデバイスと一体化されており、及び/又は、取り付けデバイスに面するエネルギー吸収層の内側表面の上に設けられているか、若しくは内側表面と一体化されている。
【0016】
滑動促進部を含むヘルメットを製造する方法が、さらに提供される。本方法は、型を提供するステップと、型の中にエネルギー吸収層を提供するステップと、エネルギー吸収層に接触する滑動促進部を提供するステップとを含む。一実施形態によれば、本方法は、少なくとも1つの固定部材を使用して、シェル、エネルギー吸収層、及び滑動促進部のうちの少なくとも1つに取り付けデバイスを固定するステップをさらに含むことが可能である。
【0017】
滑動促進部は、任意の方向への滑動運動の可能性を提供する。それは、特定の軸線の周りの運動に制限されない。
【0018】
任意の実施形態、又は実施形態の任意の部分、及び、任意の方法、又は方法の任意の部分が、任意の態様に組み合わされることが可能であるということに留意されたい。
【0019】
ここで、添付の図面を参照して、実例によって、本発明が説明される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態によるヘルメットを断面で示す図である。
【
図2】着用者の頭部に設置されたときの、一実施形態によるヘルメットを断面で示す図である。
【
図3】正面の衝撃を受けるときの着用者の頭部に設置されたヘルメットを示す図である。
【
図4】正面の衝撃を受けるときの着用者の頭部に設置されたヘルメットを示す図である。
【
図5】取り付けデバイスをさらに詳細に示す図である。
【
図6】固定部材の代替的な実施形態を示す図である。
【
図7】固定部材の代替的な実施形態を示す図である。
【
図8】固定部材の代替的な実施形態を示す図である。
【
図9】固定部材の代替的な実施形態を示す図である。
【
図10】固定部材の代替的な実施形態を示す図である。
【
図11】固定部材の代替的な実施形態を示す図である。
【
図12】固定部材の代替的な実施形態を示す図である。
【
図13】固定部材の代替的な実施形態を示す図である。
【
図14】固定部材の代替的な実施形態を示す図である。
【
図15】固定部材の代替的な実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態の詳細な説明が提供される。図は、単に説明のためだけのものであり、決して範囲を制限することはないということが認識されることになる。したがって、「上」又は「下」などのような方向の参照は、単に図の中に示された方向を参照しているだけである。
【0022】
保護ヘルメットの一実施形態は、エネルギー吸収層と、エネルギー吸収層の内側に設けられた滑動促進部とを含む。一実施形態によれば、自転車に適したインモールド・ヘルメットが提供される。ヘルメットは、ポリカーボネート、ABS、PVC、ガラス繊維、アラミド繊維、Twaron、炭素繊維、又は、Kevlarなどのようなポリマー材料から製作された、好ましくは薄い、外側の硬質シェルを含む。また、外側シェルを除外することも考えられる。シェルの内側には、エネルギー吸収層が設けられおり、それは、例えば、EPS(発砲ポリスチレン)、EPP(発砲ポリプロピレン)、EPU(発砲ポリウレタン)、又は、蜂の巣状の他の構造体などのようなポリマー発泡材料であることが可能である。滑動促進部は、エネルギー吸収層の内側に設けられ、エネルギー吸収層に対して滑動するように適合されており、又は、着用者の頭部にヘルメットを取り付けるために設けられた取り付けデバイスに対して滑動するように適合されている。取り付けデバイスは、衝撃エネルギー及び衝撃力を吸収するように適合された固定部材によって、エネルギー吸収層及び/又はシェルに固定されている。
【0023】
滑動促進部は、低摩擦係数を有する材料であることが可能であり、又は、低摩擦材料で被覆されることが可能である。考えられる材料の実例は、PIFE、ABS、PVC、PC、Nylon、布材料である。材料の構造によって、例えば、繊維構造を有する材料によって、滑動が可能になり、繊維が互いに滑動するようになっているということがさらに考えられる。
【0024】
衝撃の間、エネルギー吸収層は、エネルギー吸収層を圧縮することによって衝撃吸収装置として作用し、外側シェルが使用される場合は、衝撃エネルギーをエネルギー吸収層全体に発散させることになる。滑動促進部は、取り付けデバイスとエネルギー吸収層との間の滑動を可能にすることとなり、そうでなければ脳に伝達される回転エネルギーを吸収するための制御された方法を可能にする。回転エネルギーは、摩擦熱、エネルギー吸収層の変形、又は、少なくとも1つの固定部材の変形若しくは変位によって、吸収されることが可能である。吸収された回転エネルギーは、脳に影響を与える回転加速度の量を低減し、したがって、頭蓋骨の中の脳の回転を低減することになる。硬膜下血腫、SDH、血管破裂、脳震とう、及びDAIなどのような回転傷害のリスクが、それによって低減される。
【0025】
図1は、一実施形態実施形態によるヘルメットを示しており、ヘルメットはエネルギー吸収層2を含む。エネルギー吸収層2の外側表面1は、エネルギー吸収層2と同一の材料から提供されることが可能であり、又は、外側表面1は、エネルギー吸収層2とは異なる材料から製作された硬質シェル1であることも可能であるということも考えられる。滑動促進部5が、着用者の頭部にヘルメットを取り付けるために設けられた取り付けデバイス3に関連してエネルギー吸収層2の内側に提供されている。
図1に示されている実施形態によれば、滑動促進部5は、エネルギー吸収層2に固定されているか、又はエネルギー吸収層2と一体化されている。しかし、エネルギー吸収層2と取り付けデバイス3との間に滑動機能を提供する同一の目的のために、滑動促進部5が、取り付けデバイス3の上に設けられるか、又は取り付けデバイス3と一体化されるということが同様に考えられる。
図1のヘルメットは、ヘルメットを通る空気の流れを可能にする複数の通気孔17を有している。
【0026】
取り付けデバイス3は、4つの固定部材4a、4b、4c、及び4dによって、エネルギー吸収層2及び/又は外側シェル1に固定されており、固定部材4a、4b、4c、及び4dは、弾性的に、半弾性的に、又は塑性的に変形することによって、エネルギーを吸収するように適合されている。また、エネルギーは、熱を発生させる摩擦、及び/若しくは取り付けデバイスの変形、又はヘルメットの任意の他の部品を通して、吸収されることも可能である。
図1に示されている実施形態によれば、4つの固定部材4a、4b、4c、及び4dは、第1及び第2の部分8、9を有するサスペンション部材4a、4b、4c、4dであり、サスペンション部材4a、4b、4c、4dの第1の部分8は、取り付けデバイス3に固定されるように適合されており、サスペンション部材4a、4b、4c、4dの第2の部分9は、エネルギー吸収層2に固定されるように適合されている。
【0027】
滑動促進部5は、低摩擦材料であることが可能であり、示されている実施形態では、それは、エネルギー吸収層2に面する取り付けデバイス3の外側に設けられている。しかし、他の実施形態では、滑動促進部5が、エネルギー吸収層2の内側に設けられるということも同様に考えられる。低摩擦材料は、ΡIFΕ、PFA、FEP、PE、及びUHMWPEなどのようなワキシー・ポリマー(waxy polymer)、又は、潤滑剤を注入されることが可能な粉末材料であることが可能である。この低摩擦材料は、滑動促進部又はエネルギー吸収層のいずれか一方に、又は、滑動促進部及びエネルギー吸収層の両方に適用されることが可能であり、いくつかの実施形態では、エネルギー吸収層自身が、滑動促進部として作用するように適合されており、低摩擦材料を含むことが可能である。
【0028】
取り付けデバイスは、PC、ABS、PVC、若しくはPIFEなどのような弾性の若しくは半弾性のポリマー材料から製作されるか、又は、綿布などのような天然繊維材料から製作されることが可能である。例えば、布又は網の帽子が、取り付けデバイスを形成していることが可能である。帽子には、低摩擦材料の継ぎ当て布のような滑動促進部が設けられることが可能である。いくつかの実施形態では、取り付けデバイス自身が、滑動促進部として作用するように適合されており、低摩擦材料を含むことが可能である。
図1は、特定の着用者のためにヘッド・バンドの直径を調節するための調節デバイス6をさらに開示している。他の実施形態では、ヘッド・バンドは、弾性ヘッド・バンドであることが可能であり、その場合、調節デバイス6は、除外されることが可能である。
【0029】
図2は、着用者の頭部に設置されたときの、
図1のヘルメットと同様のヘルメットの実施形態を示している。しかし、
図2では、取り付けデバイス3は、2つの固定部材4a、4bだけによってエネルギー吸収層に固定されており、エネルギー及び力を、弾性的に、半弾性的に、又は塑性的に吸収するように適合されている。
図2の実施形態は、エネルギー吸収層2とは異なる材料から製作された堅い外側シェル1を含む。
【0030】
図3は、正面斜め方向の衝撃Iを受けるときの、
図2の実施形態によるヘルメットを示しており、衝撃Iは、ヘルメットに回転力を発生させ、エネルギー吸収層2を取り付けデバイス3に関連して滑動させる。取り付けデバイス3は、固定部材4a、4bによってエネルギー吸収層2に固定されている。固定部材は、弾性的に又は半弾性的に変形することによって回転力を吸収する。
【0031】
図4は、正面斜め方向の衝撃Iを受けるときの、
図2の実施形態によるヘルメットを示しており、衝撃Iは、ヘルメットに回転力を発生させ、エネルギー吸収層2を取り付けデバイス3に関連して滑動させる。取り付けデバイス3は、破壊する固定部材4a、4bによってエネルギー吸収層に固定されており、固定部材4a、4bは、塑性的に変形することによって回転エネルギーを吸収し、したがって、衝撃後に取り換えられる必要がある。
図3及び
図4の実施形態の組み合わせが、非常に考えられる。すなわち、固定部材の一部分が、破壊し、エネルギーを塑性的に吸収すると同時に、固定部材の別の部分は、変形し、弾性的に力を吸収する。組み合わせの実施形態では、塑性的に変形する部分だけが、衝撃後に取り換えられる必要があるということが考えられる。
【0032】
図5の上側部分は、実施形態による取り付けデバイス3の外側を示しており、取り付けデバイス3は、着用者の頭部を取り囲むように適合されたヘッド・バンド3aと、着用者の額から着用者の後頭部に延びており、ヘッド・バンド3aに取り付けられている背腹方向のバンド3bと、着用者の頭部の側面左側から、着用者の頭部の側面右側へ延びており、ヘッド・バンド3aに取り付けられている側面方向のバンド3cとを含む。取り付けデバイス3の部品又は部分は、滑動促進部を備えることが可能である。示されている実施形態では、取り付けデバイスの材料は、それ自身、滑動促進部として機能することが可能である。また、低摩擦材料が追加された取り付けデバイス3を提供することも考えられる。
【0033】
図5は、取り付けデバイス3に固定された4つの固定部材4a、4b、4c、4dをさらに示している。他の実施形態では、取り付けデバイス3は、ヘッド・バンド3aだけであることが可能であり、又は、着用者の頭部の上側部分を全体的に覆うように適合された全体的な帽子であることが可能であり、又は、着用者の頭部の上に装着するための取り付けデバイスとして機能する任意の他のデザインであることが可能である。
【0034】
図5の下側部分は、取り付けデバイス3の内側を示しており、特定の着用者のためにヘッド・バンド3aの直径を調節するための調節デバイス6を開示している。他の実施形態では、ヘッド・バンド3aは、弾性のヘッド・バンドであることが可能であり、その場合、調節デバイス6は、除外されることが可能である。
【0035】
図6は、固定部材4の代替的な実施形態を示しており、固定部材4の第1の部分8は、取り付けデバイス3に固定されており、固定部材4の第2の部分9は、接着剤によってエネルギー吸収層2に固定されている。固定部材4は、弾性的に、半弾性的に、又は塑性的に変形することによって、衝撃エネルギー及び衝撃力を吸収するように適合されている。
【0036】
図7は、固定部材4の代替的な実施形態を示しており、固定部材4の第1の部分8は、取り付けデバイス3に固定されており、固定デバイス4の第2の部分9は、エネルギー吸収層2の材料に進入する機械的な固定エレメント10によって、エネルギー吸収層2に固定されている。
【0037】
図8は、固定部材4の代替的な実施形態を示しており、固定部材4の第1の部分8は、取り付けデバイス3に固定されており、固定デバイス4の第2の部分9は、例えば、エネルギー吸収層材料2の内側に固定デバイスをモールド成形することによって、エネルギー吸収層2の内側に固定されている。
【0038】
図9は、固定部材4を、断面図及びA−A図で示している。この実施形態によれば、取り付けデバイス3は、固定部材4によってエネルギー吸収層2に取り付けられており、固定部材4は、第2の部分9が、弾性的な、半弾性的な、又は塑性的な変形に適合された雌型部品12の中に設置されており、第1の部分8が、取り付けデバイス3に接続されている。雌型部品12は、フランジ13を含んでおり、フランジ13は、固定部材4によって十分に大きな歪みの条件下に置かれると、弾性的に、半弾性的に、又は塑性的に曲がる又は変形するように適合されており、第2の部分9が、雌型部品12から離れることができるようになっている。
【0039】
図10は、固定部材4の代替的な実施形態を示しており、固定部材4の第1の部分8は、取り付けデバイス3に固定されており、固定デバイス4の第2の部分9は、エネルギー吸収層2を通り抜けてシェル1の内側に固定されている。このことは、例えば、エネルギー吸収層材料2の内側に固定デバイス4をモールド成形することによって行うことができる。また、ヘルメットの外側からシェル1の中の孔を通して固定デバイス4を設置するということも考えられる(図示せず)。
【0040】
図11は、実施形態を示しており、取り付けデバイス3が、その周辺部において、膜又はシーリング発泡体24によって、エネルギー吸収層2に固定されており、それは、弾性であるか、又は、塑性変形に適合されていることが可能である。
【0041】
図12は、実施形態を示しており、取り付けデバイス3が、機械的な固定エレメントによって、エネルギー吸収層2に取り付けられており、機械的な固定エレメントは、自動ロック式のタイ・ストラップ4のものと同様に、自動ロック機能を備えた機械的な係合部材29を含む。
【0042】
図13は、実施形態を示しており、固定する部材は、サンドイッチ布などのような相互接続サンドイッチ層27であり、相互接続サンドイッチ層27は、弾性的に、半弾性的に、又は塑性的に変形可能な繊維を含むことが可能であり、繊維は、取り付けデバイス3をエネルギー吸収層2に接続し、剪断力が適用されると剪断破壊するように適合されており、したがって、相互接続サンドイッチ層27は、回転エネルギー又は回転力を吸収することが可能である。
【0043】
図14は、実施形態を示しており、固定する部材は、磁気的な固定する部材30を含んでおり、固定する部材30は、ハイパーマグネットなどのような、引き付ける力を備える2つの磁石を含むことが可能であり、又は、1つの部品が磁石を含み、1つの部品が、鉄などのような磁気的に引き付け力のある材料を含む。
【0044】
図15は、実施形態を示しており、固定する部材は、弾性雄型部品28及び/又は弾性雌型部品12によって再取り付け可能であり、弾性雄型部品28及び/又は弾性雌型部品12は、取り外し可能に接続(いわゆるスナップ固定)されており、衝撃の発生により十分に大きな歪みがヘルメットの上に引き起こされると雄型部品28が雌型部品12から取り外されるようになっており、雄型部品28は、雌型部品12の中に再挿入され、機能性を取り戻すことが可能である。また、固定する部材を十分に大きな歪みにおいて取り外し可能とすることなく、また再取り付け可能とすることなく、固定する部材をスナップ固定するということも考えられる。
【0045】
本明細書に開示されている実施形態では、エネルギー吸収層と取り付けデバイスとの間の距離は、本発明の概念から離れることなく、ほとんどない状態からある実質的な距離まで変わることが可能である。
【0046】
本明細書に開示されている実施形態では、固定部材が超弾性であり、その材料が弾性的にエネルギーを吸収し、同時に、完全に機能しなくなることなく、部分的に塑性的に変形するということがさらに一層考えられる。
【0047】
複数の固定部材を含む実施形態では、固定部材のうちの1つが、十分に大きな歪みの条件下に置かれると塑性的に変形するように適合された主固定部材であり、一方、付加的な固定部材は、純粋に弾性変形のために適合されているということがさらに一層考えられる。
【0048】
図16は、滑動促進部(MIPS)を有することによるヘルメットを使用して実施された試験から得られた表であり、取り付けデバイスとエネルギー吸収層との間に滑動層のない通常のヘルメット(オリジナル)と関連している。試験は、水平方向に移動する鋼板に衝撃を与えるダミー・ヘッドが装備された自由落下によって実施された。斜め方向の衝撃は、並進方向の加速と回転方向の加速との組み合わせを結果として生じ、それは、一般の試験方法よりも現実的であり、一般の試験方法では、ヘルメットが、水平方向の衝撃表面に対して純粋に垂直方向の衝撃を与えるように落下させる。最大10m/s(36km/h)の速度が、水平方向及び垂直方向の両方に実現されることが可能である。ダミー・ヘッドの中に、並進加速度及び全ての軸線周りの回転加速度を計測するために搭載された9個の加速度計のシステムがある。現在の試験では、ヘルメットは、0.7メートルから落下させる。これは、3.7m/sの垂直方向の速度を引き起こす。水平方向の速度は6.7m/sが選択され、7.7m/s(27.7km/h)の衝撃速度及び29度の衝撃角度を結果として生じた。
【0049】
試験は、頭部に伝達される並進加速度の低減と、頭部に伝達される回転加速度の大幅な低減と、頭部の回転速度の大幅な低減とを開示する。
【0050】
図17は、時間とともに回転加速度のグラフを示しており、滑動促進部(MIPS_350;MIPS_352)を有するヘルメットが、取り付けデバイスとダミー・ヘッドとの間に滑動層のない通常のヘルメット(Org_349;Org_351)に関連して示されている。
【0051】
図18は、時間とともに並進加速度のグラフを示しており、滑動促進部(MIPS_350;MIPS_352)を有するヘルメットが、取り付けデバイスとダミー・ヘッドとの間に滑動層のない通常のヘルメット(Org_349;Org_351)に関連して示されている。
【0052】
任意の実施形態、又は実施形態の任意の部分、及び、任意の方法、又は方法の任意の部分が、任意の態様に組み合わされることが可能であるということに留意されたい。本明細書の全ての実例は、一般的な説明の一部分として理解されるべきであり、したがって、一般論として任意の態様に組み合わせることが可能である。