【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。なお、実施例2においては、実施例1で説明する構成部材と同じ構成部材及び同様な機能を有する構成部材には、実施例1と同じ符号を付すとともに説明を省略する。
【0023】
〔実施例1〕
図1は、本発明の実施例1に係るダンパ1Aを示す概略図であり、
図2はダンパ1Aを示す平面図であり、
図3、4は、ダンパ1Aを示す断面図であり、
図5は、ダンパ1Aが変形した様子を示す断面図である。尚、本実施例における板厚方向、径方向、及び、周方向は、
図1〜4に示す通りとする。
【0024】
ダンパ1Aは、例えばフェノール樹脂を含浸させた布によって全体が板状に形成され、開口Oを有する開口部2と、開口部2の周囲に形成されたコルゲーション部3と、コルゲーション部3の周囲に形成された平坦部4Aと、平坦部4Aの周囲に形成された貼付部5と、を備え、図示しないスピーカ装置に搭載される。
【0025】
開口部2は、平面視円形状の開口Oの周囲に形成され、円筒状の内壁21が図示しないスピーカ装置のボイスコイルボビンに貼り付けられるようになっている。
【0026】
コルゲーション部3は、
図3に断面して示すように、径方向に並設された複数(本実施例ではそれぞれ3個)の波形状の凹凸31によって構成され、開口部2を囲う円環状に形成されている。
【0027】
平坦部4Aは、貼付部5とは異なる板厚方向高さにおいて貼付部5と略平行に延びる複数(本実施形態では16個)の平坦面40Aと、平坦面40A同士を接続する接続部43と、平坦面40Aを径方向から挟む二箇所に設けられる立ち上がり部44と、を備える。
【0028】
複数の平坦面40Aは、
図3(A)に断面して示すように貼付部5よりも板厚方向の一方側(上側)に配された8個の第1平坦面41と、
図3(B)に断面して示すように貼付部5よりも板厚方向の他方側(下側)に配された8個の第2平坦面42と、を有し、第1平坦面41と第2平坦面42とが周方向に交互に並設されている。また、複数の平坦面40Aは、開口Oの中心を通るとともに板厚方向に平行な軸を対称軸として、8回対称の回転対称性を有する。即ち、この対称軸を中心にダンパ1A全体を45°の倍数だけ回転させると、複数の平坦面40Aが回転前の形状に重なる。
【0029】
接続部43は、周方向に隣り合う第1平坦面41と第2平坦面42との間に設けられ、周方向に沿った断面図である
図4に示すように、周方向に傾斜しつつ板厚方向に延びる一対の傾斜部431と、一対の傾斜部431の間に設けられるとともに周方向に延びる中間部432と、を有して第1平坦面41と第2平坦面42とを接続する。中間部432は、板厚方向において貼付部5と略同一高さ(二点鎖線で示す位置)に配されている。尚、接続部43は、周方向に傾斜せずに板厚方向に延びて第1平坦面41と第2平坦面42とを接続してもよいし、中間部432が省略されてもよい。
【0030】
立ち上がり部44は、平坦面40Aとコルゲーション部3との間、及び、平坦面40Aと貼付部5との間に設けられる。第1平坦面41を径方向から挟む立ち上がり部44は、
図3(A)に示すように、コルゲーション部3及び貼付部5から径方向に傾斜しつつ上方に延び、第2平坦面42を径方向から挟む立ち上がり部44は、
図3(B)に示すように、コルゲーション部3及び貼付部5から径方向に傾斜しつつ下方に延びる。このように、立ち上がり部44が設けられることで、平坦面40Aが貼付部5とは板厚方向高さが異なる平面上に設けられる。尚、立ち上がり部44は、傾斜せずに板厚方向に沿って延びる形状であってもよい。
【0031】
貼付部5は、径方向及び周方向に沿って延びて平坦に形成され、
図1における下側の面が貼付面としてスピーカ装置のフレームに貼り付けられる。即ち、ダンパ1Aは、上側の面を音放射側としてスピーカ装置に設けられる。
【0032】
以下、
図5を参照してダンパ1Aが変形する様子について説明する。
図5は、
図3(A)と同じ位置で断面したダンパ1Aの一部を示す。尚、ダンパ1Aは、
図3(B)と同じ位置においても以下と同様に変形する。
【0033】
ボイスコイルボビンの振幅が小さい場合、
図5に実線で示すように、ダンパ1Aのコルゲーション部3は、波形状の凹凸31の高さが小さくなり、凹凸31を構成する凹部と凸部とのそれぞれの間隔が長くなるように伸び変形する。また、ダンパ1Aの平坦部4Aは、立ち上がり部44と平坦面40Aとの成す角度が変わるように変形する。一方、平坦面40Aは、コルゲーション部3と比較して変形及び撓み変形しにくい。
【0034】
ボイスコイルボビンの振幅が大きい場合、コルゲーション部3の伸び変形量が充分に大きくなると、コルゲーション部3がそれ以上変形しにくくなる。一方、平坦部4Aは、平坦面40Aと貼付部5との成す角度が変わるように変形し、立ち上がり部44と平坦面40Aとの成す角度が変わるように変形する。一方、平坦面40Aは、ほぼ元の形状に保たれる。このようにコルゲーション部3が変形しにくくなるとともに平坦面40Aが変形しにくいことで、過大な入力信号によってボイスコイルボビンが振動しても、ダンパ1A全体の過剰な変形が抑制され、振動系の振幅を小さくすることができる。
【0035】
一方、平坦部がなく開口部と貼付部との間の全体に亘ってコルゲーション部が形成される従来のダンパでは、過大な入力信号によってボイスコイルボビンが振動すると、ダンパ全体が大きく伸び変形する。その結果、振動系の振幅が大きくなりすぎて振動系が損傷してしまう可能性がある。
【0036】
また、このような従来のダンパにおいて貼付部近傍のコルゲーション部を省略し、この部分に貼付部と同一平面上で(板厚方向において同じ高さで)延びる平坦面を形成した場合、過大な入力信号によってボイスコイルボビンが振動すると、実施例1のダンパ1Aと同様にこのダンパの過剰な変形を抑制することができるものの、平坦面と貼付部との境界に力が集中し、ダンパがこの境界付近で破断してしまう可能性がある。
【0037】
上記の構成により、ダンパ1Aが平坦面40Aを有していることで、過大な入力信号による振動系の過大な変形が抑制され、振動系の損傷を抑制することができる。また、平坦面40Aは、通常の入力信号よるコルゲーション部3の変形をほとんど妨げないことから、入力信号の大きさに対する音圧を確保することができ、スピーカ装置の効率を向上させることができる。
【0038】
また、平坦面40Aが貼付部5と異なる板厚方向高さにおいて延びることで、ボイスコイルボビンが振動する際に立ち上がり部44が変形し、ダンパ1Aが平坦面40Aと貼付部5との境界付近で破断してしまうことを抑制することができる。
【0039】
さらに、第1平坦面41が貼付部5の一方側に配されるとともに第2平坦面42が貼付部5の他方側に配されることで、ダンパ1Aの音放射側への変形しやすさと、その反対側への変形しやすさと、が同じになり、歪などの音響特性を良好に保つことができる。
【0040】
また、複数の平坦面40Aが回転対称性を有することで、ボイスコイルボビンを板厚方向に振動させた際に、ボイスコイルボビンからダンパ1Aに対して加わる力が対称軸に対して対称になり、ダンパが部分的に過剰に変形することを抑制することができる。
【0041】
以下、実施例1のダンパ1Aと、従来例のダンパ100と、比較例のダンパ200と、における外力に対する変位について、実験結果に基づいて説明する。ここで、従来例のダンパ100とは、本実施例のダンパ1Aと内径(開口部径)及び外径が等しく、開口部と貼付部との間の全体に亘ってコルゲーション部が形成されたものである。また、比較例のダンパ200とは、従来例のダンパ100と略同一形状を有するとともに従来例のダンパ100よりも変形しにくい素材で構成されたものである。
【0042】
ここで、ダンパ1Aは材質を綿または混紡等とし、ダンパ100、200は材質を化学繊維等(比較例のダンパ200の方が従来例のダンパ100よりも硬度が大きい化学繊維で構成される)として、それぞれ全体が円形に形成されるものであって、各部の寸法を表1に示す。尚、厚さとは、貼付部等の平坦な部分におけるダンパの板厚寸法であって、各ダンパ1B、100、200は全体が略均一な厚さを有するものとする。
【0043】
【表1】
【0044】
これらの各ダンパ1A、100、200のそれぞれについて、
図6に示すような変位測定手段300によって外力に対する変位を測定した。即ち、各ダンパ1A、100、200の一端をそれぞれ変位測定手段300に接続するとともに他端を固定し、変位測定手段300に上下方向(板厚方向)の外力を加え、この変位測定手段300の変位の大きさを測定した。即ち、変位測定手段300をボイスコイルボビンと同様に振動させた際の変位測定手段300の変位を測定した。この結果を
図7に示す。尚、
図7に示す変位は、
図6中上方への外力を加えた際の変位と下方への外力を加えた際の変位との平均値である。
【0045】
従来例のダンパ100及び比較例のダンパ200では、変位が外力に略比例する。従来例のダンパ100では、傾きが大きく、外力が小さくても変位を確保することができるものの、外力が大きい領域において変位が大きくなりすぎてしまう。一方、比較例のダンパ200では、傾きが小さく、外力が大きい領域において変位を小さくすることができるものの、外力が小さい領域において変位が小さくなりすぎてしまう。これらに対し、本実施例のダンパ1Aは従来例に比べてより柔軟な素材が用いされており、このダンパ1Aを示す曲線は、外力が小さい領域においては大きな傾きを有するとともに、15N付近において折れ曲がり、これよりも外力が大きい領域においては小さな傾きを有する。本実施例(および後述する実施例2)のダンパ1A(1B)では、外力が大きい場合に上下方向の変位が小さいことから、従来例に比べてより柔軟な素材を用いることができる。
【0046】
ダンパ1Aは、外力が小さい場合には従来例や比較例のダンパ100、200に比べて変位が大きく、外力が大きい場合には従来例のダンパ100に比べて変位を小さくすることができる。従って、ダンパ1Aを搭載したスピーカ装置は、従来例や比較例のダンパ100、200を搭載したスピーカ装置に比べて効率が良い。また、従来例のダンパ100を搭載したスピーカ装置に比べて振動系が破損しにくい。
【0047】
実施例1では、ダンパ1Aが、1つの開口を有する開口部2と、この開口部2の周囲に形成されるとともに少なくとも1個の凹凸が径方向に並んだコルゲーション部3と、このコルゲーション部3の周囲に形成されるとともに平坦面40Aを有した平坦部4Aと、この平坦部4Aの周囲に形成された貼付部5と、を備え、平坦部4Aが、貼付部5とは異なる板厚方向高さにおいて貼付部5と略平行に延びる第1平坦面41と、第1平坦面41と平行に形成され板厚方向において異なる高さに配された第2平坦面42と、の2つ高さに配された平坦面のみを有するものについて記載したが、平坦部は、第1平坦面41および第2平坦面42とは異なる高さを有する別の平坦面をさらに有していてもよい。
【0048】
〔実施例2〕
実施例2に係るダンパ1Bは、
図8に示すように、開口Oを有する開口部2と、凹凸31を有するコルゲーション部3と、1つの平坦面40Bを備える平坦部4Bと、貼付部5と、を備える。
【0049】
平坦部4Bは、全体が円環状に形成された平坦面40Bと、平坦面40Bを径方向から挟んで設けられる立ち上がり部44と、を備え、平坦面40Bは、
図9に断面して示すように、貼付部5よりも板厚方向の一方側(上側)に配される。
【0050】
上記の構成により、前記実施例1と同様に、過大な入力信号による振動系の損傷を抑制するとともに、スピーカ装置の効率を向上させることができる。
【0051】
さらに、平坦部4Bが1つの平坦面40Bを有することで、前記実施例1のように複数の平坦面40を有する平坦部4Aと比較して、構成を簡単化することができる。
【0052】
なお、本発明は、前記実施例1、2に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0053】
例えば、前記実施例1では、複数の平坦面40が、貼付部5よりも板厚方向の一方側に設けられた第1平坦面41と他方側に設けられた第2平坦面42とを有するものとしたが、複数の平坦面は、板厚方向において互いに異なる高さに配された3種類以上の平坦面を有していてもよい。また、複数の平坦面は、貼付部と異なる板厚方向高さにおいて貼付部と略平行に延びていればよく、例えば全て貼付部よりも一方側又は他方側に設けられていてもよい。
【0054】
また、前記実施例1では、16個の平坦面40(8個の第1平坦面41及び8個の第2平坦面42)が8回の回転対称性を有するものとしたが、複数の平坦面が2回以上の回転対称性を有していれば、前記実施例1と同様の効果を奏することができる。また、例えば平坦部が充分に変形しにくく形成されてダンパの部分的な変形が抑制されていれば、複数の平坦面が非対称に形成されていてもよい。
【0055】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。