(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リピーター機構(通常単に「リピーター」と呼ばれる)の目的は、任意のときにプッシャーを押すことによってなされるユーザー(又は着用者)の要求に応じて、そのときに計時器の針が示している時刻をストライクすることである。
【0003】
リピーターは、時計の非常に精巧な複雑機構である。リピーターは、以前は暗いところで時刻をわかるようにするものであったが、現在では高価又は非常に高値な携行式時計に備えられるものである。
【0004】
リピーターにはいくつかのタイプがある。「Les Montres Compliquees (複雑腕時計へのガイド)」(Ed. Simonin, fifth edition, 2013)という書籍において、著者のF. Lecoultreは、5つのタイプをリストしており、(最も一般的な)以下の2つのタイプについては特別に扱っている。
― 時の他、すべての分を鳴動させるミニッツリピーター
― 時の他、0分からのクオーター(15分)の数、そして次に、残りの分を鳴動させるクオーターリピーター
【0005】
前記タイプにかかわらず、ミニッツリピーターは伝統的に以下のものを有する。
― 少なくとも1つの時スネール
― 時くちばし部を担持しており、
− 時くちばし部が時スネールから角度的に離れている待機位置と、
− 時くちばし部が時スネールと接触する「読み取り」位置
の間を時軸のまわりに回転可能にマウントされる少なくとも1つの時ラック
― 時ラックをその読み取り位置に戻す時ばね
― 時ラックに連結しており時ラックをその待機位置に戻すストライク用バレル
である。
【0006】
ユーザーによる作用がないと、時ラックはその待機位置にある。
【0007】
プッシャーが変位すると、ストライク用バレルが強制的に回転させられ、時ラック自体が、ばねに対抗するようにして読み取り位置に動く。
【0008】
プッシャーに対する圧力を放つと、時ラックがその待機位置に戻る。その途において、時ラックは、時ラックによってその2つの位置(読み取り位置、待機位置)の間をトラベルした角距離に比例する、スネール上で「読み取られた」時間の数と等しい回数ゴングをストライクするハンマーと(直接又は間接的に)係合する。
【0009】
いわゆる古典的なリピーター機構において、前記のF. Lecoultreの文献(68〜69ページと
図9、プレート17)にて説明されているように、時ラックに対するバレルの連結は、レバーとチェーンによって達成される。
【0010】
現代のリピーターでは、同様に前記のF. Lecoultreの文献(73〜74ページ)にて説明されているように、この連結は、リピート用ラックと車列によって置き換えられている。反対側にある以下の2つのばねが設けられる。すなわち、時ラックを待機位置へと駆動するメインばねと、時ラックを読み取り位置へと駆動する時ばねである。メインばねを巻くことによってユーザーがバレルを発動させると、時ラックをその読み取り位置に戻す時ばねがリリースされる。バレルをリリースすると、反対に、時が鳴らされている間に、メインばねをリリースし、このメインばねは、(時ばねに対抗するように)時ラックをその待機位置に戻す。
【0011】
最近、Breguetの腕時計モデル7087の「Tradition」に取り付けられている新しいリピーター機構が提案されている。これには、車列の代わりに、チェーントランスミッションがある。
【0012】
このトランスミッションは、前記の古典的なリピーター機構のチェーンと混同すべきではない。別の方法で動作するからである。
【0013】
より詳細には、このリピーターにおいて、バレルは、以下のものを有する。
− バレルアーバー
− バレルドラム
− 内側端がバレルアーバーと一体化されており外側端がバレルドラムと一体化されているメインばね
− バレルアーバーに回転可能に連結しておりチェーンが巻かれるプーリー
【0014】
チェーンは、近位端がプーリーに、遠位端が時ラックに、フックされている。プッシャーに対するユーザーによる作用がないと、メインばねは、チェーンを張り、このことによって、時ラックをその待機位置に保持する。プッシャーに対するユーザーによる作用によって、バレルアーバーの強制的な回転が発生する。これがチェーンをリリースし、したがって、時ラックをリリースする。この時ラックは、その読み取り位置に時ばねによって戻される。
【0015】
ユーザーがプッシャーをリリースすると、時ばねが時ラックに与える抵抗性トルクよりも大きな駆動トルクをバレルアーバーに与えるメインばねは、時ラックをその待機位置に戻す。その途において、時がストライクされる。
【0016】
クオーターと分の読み取り(と鳴動)は、同じ原理に従い、クオータースネール(又は分スネール)とクオーターラック(又は分ラック)が、読み取り位置でクオータースネール(又は分スネール)と接触することができるクオーターくちばし部(又は分くちばし部)を担持している。
【0017】
この機構は、コンパクトさとアセンブリーの点から有利である。実際に、バレルと時ラックの間の機械的な接続を形成するチェーンによって、これらの部品を互いから遠ざけるように配置することができる。したがって、ケースミドル部内の時ラックの位置にかかわらず、バレルをプッシャーの非常に近くに配置することができ、このことによって、複雑な中間車やレバーを用いる必要性をなくすことができ、このことは、携行式時計の信頼性に貢献する。
【0018】
しかし、この機構のストライク機能において、鳴動の周波数がわずかに変化することには留意すべきである。これらの変化を部分的にオフセットするレギュレーターをこの機構に設けることが知られている。しかし、正確な測定によって、レギュレーターにもかかわらず、鳴動の周波数が完全には一定とならないことがわかっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、第1の目的は、チェーン式リピーター機構において、リピーター鳴動における周波数変動をさらに最小化することである。
【0020】
第2の目的は、より詳細には、チェーンに与えられる力の変化を最小化することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
このために、第1に、ストライク計時器のためのリピーター機構を提案する。これは、
時スネールと、
時くちばし部を担持しており、前記時くちばし部が前記時スネールから角度的に離れている待機位置と前記時くちばし部が前記時スネールと接触する「読み取り」位置の間を時軸のまわりに回転可能にマウントされている時ラックと、
前記時ラックをその読み取り位置に戻す時ばねと、
プーリーの軸のまわりに回転可能にマウントされ前記軸のまわりにスパイラル状に延在する周部カムパスを定めるプーリーと、
前記プーリーに部分的に巻かれることができ、近位端が前記プーリーに遠位端が前記時ラックにフックされるチェーンと、及び
おり前記プーリーが前記チェーンを介して前記時ラックをその待機位置まで引くようにする戻しばねと
を有する。
【0022】
カムパスによって、バレルアーバー上のメインばねによって発生する駆動トルクの変化をオフセットすることができ、これによって、プーリーによってチェーンに発生する牽引力の変化を最小化することができる。このことによって、ストライク機能の間の鳴動が非常に規則的な周波数となる。
【0023】
単独で又は組み合わさって、様々な付加的な特徴がある。
【0024】
したがって、例えば、プーリーとチェーンは一緒に、カムパス上で、バレルアーバーへの距離がチェーンが巻かれるにしたがって小さくなるような接点を形成する。この場合、カムパスは、メインばねによって発生する駆動トルクの減少をオフセットさせることができる。
【0025】
接点からバレルアーバーまでの距離の変化は、好ましくは、5〜20%の間の割合である。
【0026】
チェーンの巻きの関数としてのプーリーの軸までの距離の変化は、好ましくは、線形的である。
【0027】
特定の実施形態によると、リピーター機構は、
プーリーの軸と一致するバレル軸を形成しているバレルアーバーと、
バレルドラムと、及び
内側端が前記バレルアーバーと一体化されており外側端が前記バレルドラムと一体化されている前記戻しばねと
を有するストライク用バレルを有し、前記プーリーが前記戻しばねに回転可能に連結している。
【0028】
第2に、上記のようなリピーター機構が取り付けられた、携行式時計のような計時器を提案する。
【0029】
図面を参照しながら1つの実施形態についての以下の説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点を理解することができるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、この場合は携行式時計1である、計時器を部分的に示している。携行式時計1は、内部空間3を形成しているケースミドル部2を有する。図示した例において、携行式時計1は、手首に着用されるように設計されており、そのケースミドル部2は、この目的のために、突き出るホーン4を有しており、このホーン4に腕輪(図示せず)が取り付けられるように意図されている。
【0032】
携行式時計1は、少なくとも時と分を示すように設計されている計時器用ムーブメントを有する。ムーブメントは、ケースミドル部2によって形成される内部空間3内に収容されそこに固定されるように意図されたメインプレートを有する。
【0033】
ムーブメントには、いくつかのサブアセンブリーにグループ化された様々な機能的部品もある。時、分、そして、秒(該当する場合)の表示以外の機能をサブアセンブリーが有している場合、そのサブアセンブリーは「複雑機構」と呼ばれる。
【0034】
したがって、図示した計時器(すなわち、携行式時計1)は、ストライク機構を有しており、現在時刻をストライクする目的で、リピーター機構を有している。このリピーター機構は、「リピーター複雑機構」とも呼ばれ、又は単に「リピーター」5と呼ばれる。
【0035】
リピーター5は、第1に、少なくとも1つの時スネール6を有する。このスネール6は、軸A1上に回転可能にマウントされる。このスネール6は、全体として見ると、スパイラル状であり、そのリム上に、軸A1までの距離が徐々に小さくなっている一連の12の角区画がある。
【0036】
時スネール6は、12の尖っている歯がある時スター7と回転可能に一体化されている。
【0037】
図2に示している例において、リピーター5は、さらに、軸A2のまわりに回転可能にマウントされたクオータースネール8を有する。クオータースネール8には、滑らかな連結面によって分離されている4つの角区画があり、軸A2までの距離が徐々に小さくなっている。
【0038】
また、リピーター5は、クオータースネール8と回転可能に一体化された分スネール9を有しており、この分スネール9は、クオータースネール8の連結面の延長にて延在している、滑らかな連結面によって分離された、ノッチが形成されたエッジがある4つのアームを有する。
【0039】
クオータースネール8は、そのリムの近くに、フィンガーを担持している。このフィンガーは、各回転ごとに、時スター7の歯と噛み合って、1時間の進行に対応する12分の1回転の分、時スター7を回転させる。
【0040】
リピーター5は、第2に、軸A3のまわりに回転可能にマウントされており時くちばし部11を担持している時ラック10を有する。
【0041】
時ラック10は、待機位置と読み取り位置の間を軸A3のまわりに回転可能にマウントされる。
− 待機位置(
図5にて実線で示している)においては、時くちばし部11が時スネール6から角度的に離れている。
− 「読み取り」位置(
図5にて点線で示している)においては、時くちばし部11が時スネール6と接触する。
【0042】
図2及び
図3に示しているように、時ラック10には、トランスミッション車列14を介してレギュレーターデバイス(又はレギュレーター)13と連結している歯付き区画12がある。図示した例において、レギュレーター13は、ステーター16内において回転可能にマウントされたローター15を有する。
【0043】
レギュレーター13は、好ましくは、磁気的なものである。この場合、レギュレーター13は、ステーター16内において回転可能にマウントされたローター15を有する。ローター15は、ローター15にマウントされた可動な強磁性の慣性ブロックに与えられる遠心力と、ステーター16内に収容されたいくつかのペアの磁石によって発生する交番磁場によって誘導される渦電流によって慣性ブロックにおいて発生した逆起電力との間のバランスによってセットされる最大の回転速度を有する。
【0044】
時ラック10には、12の突き出ている歯がある時ラック歯列18が形成された外側アーム17がある。時ラック10がその読み取り位置からその待機位置に戻ると、時ラック歯列18は、時ハンマー(図示せず)を発動させる。この時ハンマーは、所定の音響周波数に合わせられた時ゴングをストライクする。これは、可能性としては、携行式時計1の構造的部分(例えば、ケースミドル部2)によって増幅される。時ハンマーは、時ラック10がその読み取り位置からその待機位置まで戻ったときにこの時ハンマーを発動させた時ラック歯列18の歯数と等しい回数(1〜12の数)時ゴングをストライクする。
【0045】
リピーター5は、第4に、時ラック10をその読み取り位置に戻す時ばね19を有する。図示した例において、時ばね19は、スパイラル状のばねである。この時ばね19は、好ましいことに、内側端20によって時ラック10に、また、外側端21によってメインプレートと一体的なアーバーに固定されている。
【0046】
リピーター5は、
図2に示している例において、クオーターくちばし部23を担持しているクオーターラック22を有する。このクオーターラック22は、以下の待機位置と「読み取り」位置の間を軸A3のまわりに回転可能にマウントされる。
− 待機位置においては、クオーターくちばし部23がクオータースネール8から角度的に離れている。
− 「読み取り」位置においては、クオーターくちばし部23がクオータースネール8と接触する。
【0047】
リピーターは、さらに、
図2に示した例において、分くちばし部25を担持している分ラック24を有する。この分ラック24は、以下の待機位置と「読み取り」位置の間を軸A3のまわりに回転可能にマウントされる。
− 待機位置においては、分くちばし部25が分スネール9から角度的に離れている。
− 「読み取り」位置においては、分くちばし部25が分スネール9と接触する。
【0048】
リピーターは、さらに、
図2に示した例において、分くちばし部25を担持している分ラック24を有している。この分ラック24は、以下の待機位置と「読み取り」位置の間を軸A3のまわりに回転可能にマウントされる。
− 待機位置においては、分くちばし部25が分スネール9から角度的に離れている。
− 「読み取り」位置においては、分くちばし部25が分スネール9と接触する。
【0049】
リピーター5は、さらに、クオーターラック22をその読み取り位置に戻すクオーターばね26と、及び分ラック24をその読み取り位置に戻す分ばね27とを有する。
【0050】
分ラック24には、外側アーム28上に、14の突き出ている歯がある分ラック歯列29が形成されている。分ラック24がその読み取り位置からその待機位置に戻ると、分ラック歯列29は、分ハンマー(図示せず)を発動させる。これは、時ゴングの音響周波数とは異なる所定の音響周波数(例えば、ピッチがより低いもの)に合わせられた分ゴングをストライクする。分ハンマーは、分ラック24がその読み取り位置からその待機位置まで戻ったときにこの分ハンマーを発動させた分ラック歯列29の歯数と等しい回数(1〜14の数)、分ゴングをストライクする。
【0051】
クオーターラック22には、外側アーム30上に、3系統の突き出ている歯列があるクオーターラック歯列31が形成されている。クオーターラック22がその読み取り位置からその待機位置に戻ると、クオーターラック歯列31は、時ハンマーと分ハンマーをほとんど同時に発動させて、近い2つの音のシーケンスを発生させる。時ハンマーと分ハンマーは、クオーターラック22がその読み取り位置からその待機位置まで戻ったときに、対応するハンマーを発動させたクオーターラック歯列31の歯列の系統の数と等しい回数(0〜3の数)、対応するゴングをストライクする。
【0052】
図2に示しているように、同じ軸A3上にて回転可能にマウントされた時ラック10、クオーターラック22及び分ラック24は、互いに対して角度的に間隔が空いており、これによって、軸A3のまわりのそれらの一体的な回転の間に、分、クオーター、時間の順で順次的に読み取りが行われる。しかし、ストライク機能は、時、クオーター、分の逆の順で行われる。
【0053】
リピーター5は、第5に、ストライク用バレル32を有する。
【0054】
ストライク用バレル32は、軸A4のまわりに回転可能にマウントされる。ストライク用バレル32は、以下を含むいくつかの部品を有するサブアセンブリーである。
− バレルアーバー33
− バレルドラム34
− 内側端36がバレルアーバー33と一体化されており外側端37がバレルドラム34と一体化されているメインばね35
− 周部カムパス39を形成しているプーリー38
【0055】
バレルアーバー33とバレルドラム34は両方とも、バレル軸A4のまわりに回転可能にマウントされる。
【0056】
プーリー38は、バレルアーバー33に回転可能に連結される。プーリー38は、ここではバレル軸A4と一致している回転軸のまわりに回転するようにマウントされる。
【0057】
リピーター5は、第6に、プーリー38に、より詳細には、カムパス39に、部分的に巻かれることができるチェーン40を有する。チェーン40は、近位端41がプーリー38に、また、遠位端42が時ラック10にフックされる。
【0058】
チェーン40には、互いに連接している複数のリンク43がある。チェーン40の近位端41に位置しているリンク43は、プーリー38と一体的なピン44に固定される。チェーン40の遠位端42に位置しているリンク43は、時ラック10の外側アーム17と一体的なピン45に固定される。
【0059】
図2〜5に示している実施形態によると、リピーター5には、中間ベアリング46があり、この上をチェーン40が、ストライク用バレル32と時ラック10の間を動く。この中間ベアリング46は、好ましくは、ローリングベアリング(例えば、ボールベアリング)の形態である。
【0060】
図2〜4に示しているように、バレルドラム34は、そのエッジ上に、非対称の歯列がある歯付きリュウズ47を担持しており、リピーター5は、歯付きリュウズ47と噛み合うロック用歯止めを有しており、これによって、バレルドラム34がチェーン40の巻きの戻し方向に回転することを防ぐ。
【0061】
図4に示しているように、リピーター5は、第7に、リピート用ラック49とストライク用車列51を有する。
− 前記リピート用ラック49は、固定されたリピート用ラック軸A5のまわりに回転可能にマウントされており、歯付き区画50が形成されている。
− ストライク用車列51は、一方では、リピート用ラック49と、他方では、バレルアーバー33と、噛み合っている。
【0062】
リピート用ラック49は、フック形である。リピート用ラック49には、ボア穴52が形成されており、これによって、リピート用ラック49がその軸A5上にマウントされる。ボア穴52の両側にて、リピート用ラック49には、端部にてボタン54(図示した例において、このボタン54は、レバー53の端部に形成された穴に押し込まれる付加的部品である)を担持しているレバー53と、歯付き区画50が形成された曲がりアーム55とがある。
【0063】
リピート用ラック49は、その軸A5のまわりに、待機位置(
図4)と完全に巻かれた位置の間を回転可能にマウントされる。
【0064】
図4に示している実施形態によると、ストライク用車列51は、リピート用ラック49と噛み合う入力ピニオン56と、及びバレルアーバー33と回転可能に一体化された出力ピニオン57とを有する。
【0065】
図示した例において、ストライク用車列51は、さらに、入力ピニオン56と回転可能に一体化されており出力ピニオン57と噛み合っているトランスミッションピニオン58(
図4にて部分的に切り取られている)を有する。
【0066】
同様に
図4に示しているように、リピート用ラック49に対して、好ましくは、歯付き区画50の自由端において、端止め59が設けられる。この端止め59は、ここでは付加的な押し込まれる部品の形態であり、これは、リピート用ラック49の完全に巻かれた位置において、入力ピニオン56に対して固定される。したがって、この入力ピニオン56は、前記ラックに対するトラベル端の止めを形成している。
【0067】
図1に示しているように、携行式時計1には、プッシャー60が設けられている。このプッシャー60は、非発動位置と発動位置の間をケースミドル部2に対して並進運動するようにマウントされる。
− 非発動位置においては、プッシャー60がリピート用ラック49に駆動トルクを与えない
― 発動位置においては、プッシャー60がボタン54を介してリピート用ラック49に対して推進力(
図4の左下及び
図5の右下にて白い矢印で示した)を与える。この推進力は、ストライク用車列51を介してバレルアーバー33を回転駆動する駆動トルクを発生させる。
【0068】
リピーター5は、フィンガー押しプッシャー60によって発動される。プッシャー60は、ボタン54を押し戻し、これは、レバー53を介して、リピート用ラック49をその軸A5のまわりに回転させる。リピート用ラック49は、その歯付き区画50の噛み合いを介して、入力ピニオン56を回転駆動する。この回転は、入力ピニオン56と一体化されているトランスミッションピニオン58によって出力ピニオン57に伝達され、この出力ピニオン57は、回転するにしたがって、バレルアーバー33を、それと一体化されたプーリー38と一緒に(
図5における矢印F1の方向に)駆動する。リピート用ラック49とこれが駆動する部品は、メインばね35によって与えられる戻しトルクに対抗するようにして回転することを強いられ、このメインばね35は、その内側端36がバレルアーバー33とともに回転し、その外側端37が歯付きリュウズ47と噛み合う歯止め48によってロックされるバレルドラム34とともに不動のままである。したがって、リピート用ラック49の回転にはメインばね35を巻く効果があることは明らかである。
【0069】
遠位端側42にて時ラック10によって(
図5における矢印F2の方向に)引かれるチェーン40は、それ自体が時ばね19によってその読み取り位置まで(
図5における矢印F3の方向に)回転が戻され、プーリー38における巻きが戻される。
【0070】
時くちばし部11が時スネール6と接触している読み取り位置に到達すると、時ラック10は、止まり、このとき、該当する場合、クオーターラック22と分ラック24は、クオーターくちばし部23と分くちばし部25がそれぞれクオータースネール8と分スネール9と接触するまで、クオーターばね26及び分ばね27によってそれらの読み取り位置に戻されるように、回転を継続することができる。
【0071】
プッシャー60をリリースすると、メインばね35がリリースされる。このメインばね35の外側端37は、バレルドラムに固定され続け、内側端36は、バレルアーバー33を(矢印F1の反対方向に)回転駆動し、これとともにプーリー38を(同じ回転方向に)回転駆動する。メインばね35によってプーリーに与えられる戻しトルクが、時ばね19によって時ラック10に与えられる抵抗性トルクよりも大きい(又ははるかに大きい)ので、プーリー38は、このプーリー38のまわりに巻かれているチェーン40を(矢印F2とは反対方向に)引き、これとともに時ラック10をその軸A3のまわりに、時ラック10がその待機位置に到達するまで(矢印F3とは反対方向に)回転駆動する。これは、プーリー38が、中間ベアリング46に支持されることによって達成され、このことによって、リピーター5がロックされる。
【0072】
プッシャー60のリリースを伴う運動の間に、時ラック10及びクオーターラック22及び分ラック24は、(上で説明したように)表示時刻を鳴動させる。
【0073】
リピーター5には、レギュレーター13が設けられて、これによって、できるだけ規則的な周波数でストライク機能が実行される。
【0074】
しかし、レギュレーター13は十分ではない。なぜなら、メインばね35によってバレルアーバー33上に発生する駆動トルク(Cで表される)が、巻かれた位置(慣例的に、A=0である位置)を基準に測定されるプーリー38の角位置(Aで表される)の関数として一定ではないからである。以下の説明では、この角位置Aを「プーリー角」と呼ぶ。
【0075】
図2〜5に示しているように、チェーン40には、プーリー38と中間ベアリング46の間にある直線区間40.1と、この直線区間40.1の延長上にてプーリー38のまわり(より正確には、カムパス39のまわり)に巻かれる曲がり区画40.2とがある。
【0076】
プーリー38とチェーン40は一緒に、カムパス39上にて、接点Mを形成する。この接点Mは、チェーン38の巻きの境界に位置する。
【0077】
接点Mは、チェーン40がプーリー38に巻かれ始めるカムパス39上の点、すなわち、チェーン40がプーリー38を離れる点である。このことは、直線区間40.1と曲がり区画40.2の間の接合部に接点Mが位置することを意味する。プーリー38の角位置に応じて、カムパス39上の点Mの位置が変わる。
【0078】
駆動トルクCは、バレルアーバー33によってプーリー38に伝達され、このプーリー38は、バレル軸A4のまわりに回転可能に連結される。次に、プーリー38は、メインばね35が発生する駆動トルクCに起因する牽引力(Tで表される)をはたらかせる。この牽引力Tは、直線区間40.1の方向と同じ方向に接点Mに対して与えられる。接点Mからバレル軸A4までの距離は、Lで表され、「レバーアーム」を呼ばれる。
【0079】
これらの表記を前提に、以下の伝統的な式によって、牽引力TがトルクCから推定される。
【0081】
駆動トルクCがプーリー角Aに沿って一定ではなく、このことは、レバーアームLが一定ならば、プーリー角Aに沿って牽引力Tが一定ではないことを意味している。
【0082】
これは、カムパス39の機能である。すなわち、レバーアームLの長さを変えて、トルクCの変化をオフセットして、牽引力Tの変化を最小化することである。
【0083】
より詳細には、巻きが戻された位置(
図7に示している)から開始してプーリー角Aが増加するにしたがって駆動トルクCが次第に減少することが観測された。
【0084】
このために、カムパス39がバレル軸A4のまわりにてスパイラル状に延在している。具体的には、レバーアームLは、チェーン40の巻き込みにしたがって(すなわち、プーリー角Aが増加するにしたがって)減少する。すなわち、接点Mからバレル軸A4までの距離は、プーリー角Aの減少関数である。
【0085】
図8は、(図示した例において角度の目盛りが付けられている横軸上の)プーリー角Aの関数として(図示した例においてミリメートルの目盛りが付けられている縦軸上に)レバーアームLの変化を表している曲線を示している。(
図8のプーリー38の巻き込みの戻しに対応する巻きが戻された位置における)プーリー角Aがゼロであるときに測定される(「初期」)レバーアームは、Liと表され、(
図11のプーリー38の完全な巻きに対応する巻かれた位置における)角Aが最大であるときに測定される(「最終」)レバーアームは、Lfと表される。
【0086】
レバーアームLは、好ましくは、5〜20%の割合が変化する。この変化を小さいと思うかもしれないが、駆動トルクCの変化をオフセットし、メインばね35によって戻されるプーリー38によってチェーン40に与えられる牽引力Tを実質的に一定にするためには十分である。
【0090】
このように、レバーアームLの変化は、この例において、約14%あるが、この例には限定されない。ばね35の性能に依存するからである。
【0091】
既に言及したように、変形したばねは、変形によって一定のまま維持しない戻しトルクを発生することによって安定な平衡構成に戻る傾向がある。近くで調べてみると、概して、変形の関数としてばねによって発生する戻しトルクの変化は、全体として線形的ではなく、局所的であることがあることがわかる。
【0092】
したがって、発生するトルク変化が線形的であるような変形の範囲内にばね35を維持することができる場合、レバーアームLもプーリー角Aの関数として直線的に変化するようなプーリー39を設計することができることは明らかである。すなわち、カムパス39は、アルキメデススパイラル状である。
【0093】
したがって、
図8に示している例において、プーリー角Aの関数としてのレバーアームLの変化は、曲線で表されている。この例において、プーリー角Aの関数としてレバーアームLが線形的に変化することがわかる。これは、アルキメデススパイラル状のカムパス39に対応している。
【0094】
図面、特に、
図6に、カムパス39の構造の例を示している。この例において、カムパス39は、振幅が360°未満である角区画Sにわたって延在している(すなわち、カムパス39は、バレル軸A4のまわりのプーリー38の1回転未満の回転にてその機能を行うように構成している)。
【0095】
レバーアームLの変化を
図6に示しているプーリーに対応している
図7〜10に示している例において、プーリー38の角トラベルの振幅は約270°である。
【0096】
この構造の利点は既に言及されており、それは以下のとおりである。
― リピーター鳴動の周波数変動を最小化すること(すなわち、秒当たり又は分当たりの鳴動の数)
― チェーンにおける力の変化を最小化すること
なお、これには、チェーンにおける機械的疲労を抑えてその寿命を増加させる効果がある。
【0097】
なお、上記構造体には、本発明の範囲から逸脱せずに、他の実施形態があることができる。
【0098】
このようにして、バレル32を、同じ駆動機能を有する別のサブアセンブリーによって置き換えることを思い描くことができる。このようなサブアセンブリーには、例えば、曲がることによってはたらく細長材ばねがあり、この細長材ばねには、プーリー38が、細長材ばねの曲がる運動をプーリー38の回転運動に変換する一又は複数の連結部品によって連結される。このような細長材ばねの機能は、メインばね35の機能と同様である。すなわち、時ラック10をその待機位置の方にプーリー38とチェーン40を介して駆動することである。