(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6659906
(24)【登録日】2020年2月10日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】ピリング試験機
(51)【国際特許分類】
G01N 3/56 20060101AFI20200220BHJP
G01N 19/00 20060101ALI20200220BHJP
G01N 33/36 20060101ALI20200220BHJP
D06H 3/00 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
G01N3/56 A
G01N19/00 F
G01N33/36 B
D06H3/00
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-214044(P2019-214044)
(22)【出願日】2019年11月27日
【審査請求日】2019年12月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105154
【氏名又は名称】株式会社GSIクレオス
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】廣地 俊
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】井上 啓
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩志
【審査官】
山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−365192(JP,A)
【文献】
米国特許第4936135(US,A)
【文献】
米国特許第5557039(US,A)
【文献】
中国特許出願公開第103454213(CN,A)
【文献】
実開平05−019392(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00 − 3/62
G01N 19/00
G01N 33/36
D06H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造物の表面に摩擦作用を付加することによってピルを発生させるピリング試験機において、
表面に摩擦板が設けられた回転テーブルと、該回転テーブルに結合されるテーブル回転軸と、試験生地を前記摩擦板に摺接可能な状態で保持する試料ホルダと、該試料ホルダに結合されるホルダ回転軸と、前記テーブル回転軸及び前記ホルダ回転軸の互いの軸線を平行向きに偏心させた位置で、該ホルダ回転軸を回転可能に支持する軸受部材と、モータから動力を得て前記テーブル回転軸を連続回転駆動させる連続駆動機構と、前記テーブル回転軸の連続回転駆動に対応して、前記ホルダ回転軸を間欠回転駆動させる間欠駆動機構とを備えていることを特徴とするピリング試験機。
【請求項2】
前記連続駆動機構と前記間欠駆動機構との間には、単一の前記モータから得られる動力により回転されるとともに、該動力を両駆動機構に分配伝達可能な歯車軸が設けられていることを特徴とする請求項1記載のピリング試験機。
【請求項3】
前記間欠駆動機構は、前記モータから動力を得て回転駆動されるゼネバドライバと、前記ホルダ回転軸に結合され、前記ゼネバドライバに設けられたカムフォロアが係合可能な溝を有するゼネバホイールとからなるゼネバ機構であり、前記ゼネバドライバを一定方向に連続回転駆動させた状態で、前記ホルダ回転軸は、前記カムフォロアが前記ゼネバホイールの溝に係合している間だけ従動回転して、あらかじめ設定された回転角度ずつ間欠的に回転可能に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のピリング試験機。
【請求項4】
前記テーブル回転軸及び前記ホルダ回転軸の軸線はそれぞれ鉛直向きであり、前記試料ホルダの自重の作用によって前記摩擦板の表面を押圧可能に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のピリング試験機。
【請求項5】
前記回転テーブルの表面には凸状部が設けられ、前記回転テーブルを一定方向に連続回転駆動させた状態で、前記ホルダ回転軸は、前記試料ホルダが前記摩擦板を介して前記凸状部を乗り越えるたびに、前記軸受部材に対して軸方向に移動可能に組み込まれていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のピリング試験機。
【請求項6】
前記モータの駆動を制御する制御回路を備え、該制御回路は、前記回転テーブルを一方向にのみ回転させる一方向運転と、正転と逆転とを交互に繰り返して回転させる正逆運転とを選択的に切り替え可能な回転条件切替スイッチを備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のピリング試験機。
【請求項7】
複数の前記試料ホルダと、該複数の試料ホルダにそれぞれ結合される複数の前記ホルダ回転軸と、該複数のホルダ回転軸をそれぞれ支持する複数の前記軸受部材とを備え、前記間欠駆動機構は、前記複数のホルダ回転軸の相互間で同一の回転角度を伝達させる間欠回転伝達部を有して構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のピリング試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリング試験機に関し、詳しくは、繊維構造物の表面に生じるピルの発生状態を調べるためのピリング試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、織物や編物などの繊維構造物において、表面にピルがどの程度発生するかを確認する様々な試験が行われており、日本工業規格(JIS L1076)においても、ピリング試験方法として、A〜D法などの各種試験方法が規定されている。例えば、ICI形試験機を用いたA法では、試験布をゴム管に巻き付け、これをコルク板を内張りした回転箱に収容して、一定時間回転操作する。これにより、試験布相互又はコルク面とのランダムな接触によって摩擦作用が得られ、試験布にピルを発生させることができる。このようなピリング試験方法に用いられる試験機では、繊維強度が大きい生地であってもピルの発生を可能にすべく、回転箱の内壁面を粗粒の研磨材からなる研磨布で形成したピリング試験機が考案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−19392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のICI形試験機を用いたA法では、他の方法と比較して、実用に近い結果が得られるものの、試験時間が、例えば、編物では5時間、織物では10時間を必要とし、時間が長く、生地の調整にも手間がかかるという課題があった。これに加えて、試験機が大型で重量もあるため、使い勝手を低下させる要因にもなっていた。
【0005】
そこで本発明は、コンパクトな構成でありながら、短時間でピルを発生させ、生地のピリング性能を容易に評価することが可能なピリング試験機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のピリング試験機は、繊維構造物の表面に摩擦作用を付加することによってピルを発生させるピリング試験機において、表面に摩擦板が設けられた回転テーブルと、該回転テーブルに結合されるテーブル回転軸と、試験生地を前記摩擦板に摺接可能な状態で保持する試料ホルダと、該試料ホルダに結合されるホルダ回転軸と、前記テーブル回転軸及び前記ホルダ回転軸の互いの軸線を平行向きに偏心させた位置で、該ホルダ回転軸を回転可能に支持する軸受部材と、モータから動力を得て前記テーブル回転軸を連続回転駆動させる連続駆動機構と、前記テーブル回転軸の連続回転駆動に対応して、前記ホルダ回転軸を間欠回転駆動させる間欠駆動機構とを備えていることを特徴としている。
【0007】
また、前記連続駆動機構と前記間欠駆動機構との間には、単一の前記モータから得られる動力により回転されるとともに、該動力を両駆動機構に分配伝達可能な歯車軸が設けられていることを特徴としている。
【0008】
さらに、前記間欠駆動機構は、前記モータから動力を得て回転駆動されるゼネバドライバと、前記ホルダ回転軸に結合され、前記ゼネバドライバに設けられたカムフォロアが係合可能な溝を有するゼネバホイールとからなるゼネバ機構であり、前記ゼネバドライバを一定方向に連続回転駆動させた状態で、前記ホルダ回転軸は、前記カムフォロアが前記ゼネバホイールの溝に係合している間だけ従動回転して、あらかじめ設定された回転角度ずつ間欠的に回転可能に形成されていることを特徴としている。
【0009】
加えて、前記テーブル回転軸及び前記ホルダ回転軸の軸線はそれぞれ鉛直向きであり、前記試料ホルダの自重の作用によって前記摩擦板の表面を押圧可能に形成されていることを特徴としている。
【0010】
また、前記回転テーブルの表面には凸状部が設けられ、前記回転テーブルを一定方向に連続回転駆動させた状態で、前記ホルダ回転軸は、前記試料ホルダが前記摩擦板を介して前記凸状部を乗り越えるたびに、前記軸受部材に対して軸方向に移動可能に組み込まれていることを特徴としている。
【0011】
さらに、前記モータの駆動を制御する制御回路を備え、該制御回路は、前記回転テーブルを一方向にのみ回転させる一方向運転と、正転と逆転とを交互に繰り返して回転させる正逆運転とを選択的に切り替え可能な回転条件切替スイッチを備えていることを特徴としている。
【0012】
また、複数の前記試料ホルダと、該複数の試料ホルダにそれぞれ結合される複数の前記ホルダ回転軸と、該複数のホルダ回転軸をそれぞれ支持する複数の前記軸受部材とを備え、前記間欠駆動機構は、前記複数のホルダ回転軸の相互間で同一の回転角度を伝達させる間欠回転伝達部を有して構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明のピリング試験機によれば、試料ホルダに結合したホルダ回転軸を、テーブル回転軸に対して偏心位置に設けるとともに、テーブル回転軸の連続回転駆動に対応して、ホルダ回転軸を間欠回転駆動させる間欠駆動機構を備えているので、試験生地に複雑な摩擦作用を与えることが容易に行え、実用に近いとされるJIS L1076のA法とほぼ同等の判定結果を短時間で手間なく確認することができる。しかも、テーブル回転軸及びホルダ回転軸の互いの軸線を平行向きに偏心させるだけの簡単な構成であることから、本体の小型軽量化が容易となり、保管性や携帯性を向上させることができる。
【0014】
また、連続駆動機構と間欠駆動機構との間に、単一のモータから得られる動力により回転されるとともに、該動力を両駆動機構に分配伝達可能な歯車軸を設けているので、たとえ複数種類の駆動機構を組み合わせて構成する場合であっても、共通の入力軸(歯車軸)を用いてこれらの駆動機構を入力軸及びモータが収容される筐体の近傍にコンパクトにまとめることができる。
【0015】
さらに、間欠駆動機構について、運動特性に優れたゼネバ機構を採用することにより、連続した回転運動を周期的な回転運動に変換することが容易に行え、複雑な摩擦挙動であっても、安価に、かつ、安定して動作させることができる。これに加えて、テーブル回転軸及びホルダ回転軸の軸線を鉛直向きに構成することで、試料ホルダの自重の作用によって摩擦板への押圧力が簡単に得られ、ピリング試験機のより一層の簡素化に寄与することができる。
【0016】
また、回転テーブルの表面に凸状部を設けるとともに、試料ホルダが摩擦板を介して凸状部を乗り越えるたびに、ホルダ回転軸を軸受部材に対して軸方向に移動可能に組み込むので、試験生地の接圧を容易に変化させることができる。しかも、正逆運転を実行する制御がなされると、回転テーブルが正転と逆転とを交互に繰り返して回転するので、機能的な構造と相俟って、ピルを試験生地の表面全体に均一に発生させることができる。すなわち、着用時の人体と衣服、あるいは衣服と衣服との着圧摩擦挙動に近似した複合的な摩擦運動によるピルの生成が実現される。
【0017】
とりわけ、試験生地においては、素材や糸種・織・編の密度など様々であることから、この種のピリング試験機には、要求されるピリング性能に応じて、より効果的な運転が行われることが求められている。そこで、本体に備わる回転条件切替スイッチによって一方向運転に切り替える操作を行えば、回転テーブルを一方向(加撚方向)にのみ回転させて、より強いピルの生成が可能となる。これにより、単一作用であるが、JIS L1076のC法とほぼ同等の判定結果を短時間で確認することができる。すなわち、ピリング試験機が使用される多様な環境において、その適用の幅が広がり、生産現場(現地)の運用に最適化したピリング試験機が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一形態例を示すピリング試験機の正面図である。
【
図3】同じく正逆運転時の試験生地と摩擦板との摩擦状態を示す説明図である。
【
図4】ピリング試験機の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1乃至
図4は、本発明のピリング試験機の一形態例を示すものである。ピリング試験機11は、単一のモータ(動力源)で駆動される回転軸の回転運動を特性の異なる複数の回転運動に変換することが可能な機構を備え、設定条件に従って動作させることにより、織編物などの繊維構造物の表面に摩擦作用を付加してピルを発生させるものである。ピリング試験機11は、
図1及び
図2に示すように、ベース12上に設けられた連続駆動機構13と、複数の支柱14aにより該連続駆動機構13を跨ぐようにして組まれた架台14と、該架台14上に設けられた間欠駆動機構15と、これら連続駆動機構13と間欠駆動機構15との間を動力的に連結可能な、言い換えると、主動傘歯車16及び従動傘歯車17からなる歯車機構の噛合によってモータ(図示せず)の回転駆動力を両駆動機構13,15に分配伝達可能な歯車軸18とを備えている。また、モータの駆動及び制御を行うための制御回路は、操作部19が設けられた筐体20に収容され、装置全体として、両手で簡単に持ち運び可能な大きさに形成されている。
【0020】
前記連続駆動機構13は、伝達ケース13a内に変速機を備え、歯車軸(入力軸)18の回転を受けて、鉛直向きのテーブル回転軸(出力軸)21の上部に結合された円形の回転テーブル22を正転又は逆転方向に連続回転可能に構成されている。回転テーブル22を逆回転させる場合には、例えば、モータ電源の正極及び負極の接続を切り換える制御によって行われる。回転テーブル22の上面は、全体に亘って摩擦板(コルク板)23が取り付けられるとともに、回転中心から偏心位置に着脱可能な凸状部(平面カム)24が設けられている。これにより、凸状部24を取り付けた状態で、摩擦板23の表面には、凸状部24に対応する部分が上方に撓むことによって緩やかな傾斜面が形成されている。
【0021】
また、回転テーブル22の上面側には、回転中心から偏心した位置であって前記凸状部24の円軌道上に試料ホルダ25が配置されている。一方、回転テーブル22の下面側には、前記試料ホルダ25に対応する位置に支持ローラ(図示せず)が設けられ、動作時に回転テーブル22の水平が維持されるようになっている。試料ホルダ25には、その逆円錐台形状の下面及び周面を包むように試験生地26が装着されるとともに、固定バンド27を締め付け固定して試験生地26のずれや脱落の防止を図っている。
【0022】
試料ホルダ25は、試験生地26を装着した状態で、鉛直向きのホルダ回転軸28の下端部が試料ホルダ25の上部(ジョイント部)に設けられた係合溝25aに挿入されることにより、ホルダ回転軸28の回転に伴って一体的に回転可能に結合される。この結合状態で、ホルダ回転軸28は、テーブル回転軸21との関係において、互いの軸線を平行向きに偏心させた位置にあり、軸の中間部が架台14の天板14bに設けられた軸受部材29に内挿支持されることで、該軸受部材29に対して回転可能、かつ、軸方向に移動可能になっている。
【0023】
これにより、試料ホルダ25及びホルダ回転軸28の自重の作用を受けて、試験生地26が摩擦板23の表面に押圧される結果、摩擦板23及び試験生地26の互いの表面同士が摺動可能な状態となる。そして、回転テーブル22を一定方向に連続回転駆動させると、ホルダ回転軸28は、試料ホルダ25が摩擦板23を介して凸状部24を乗り越えるたびに、平面カムの運動によって作られる運動曲線に対応させながら軸受部材29に対して軸方向に上下移動される。
【0024】
前記間欠駆動機構15は、周知のゼネバ機構であって、一対のゼネバドライバ(原動車)30とゼネバホイール(従動車)31とによって構成されている。ゼネバドライバ30は、大径の円板30aの上面側において、円周の1/4を切除した円弧周壁30bと、該円弧周壁30bの欠け部30cと対応した外周部に設けられるピン型のカムフォロア30dとを有するとともに、下面側には前記歯車軸18に備わる小歯車32に噛合して回転駆動される大歯車30eを有し、各要素が支軸30fまわりに一体的に回転可能に形成されている。一方のゼネバホイール31には、ゼネバドライバ30のカムフォロア30dが係合可能な4本のスライド溝31aが、90度間隔をあけて外周から中心付近に向けて切り込み形成されており、各スライド溝31aの間に形成されたひれ状の板片31bの外周が、ゼネバドライバ30の円弧周壁30bに整合する円弧状に形成されている。
【0025】
ゼネバホイール31は、軸受部材29に内挿支持されたホルダ回転軸28に固定ネジ33で固定される。このとき、板片31bの円弧面をゼネバドライバ30の円弧周壁30bに合わせた位置で円板30a上に、例えば、上下方向に1mm程度の隙間をあけて固定される。これにより、ゼネバホイール31は、試料ホルダ25による適切な押圧力を確保した状態で、カムフォロア30dが所定のスライド溝31aに出入りしつつゼネバドライバ30が一回転する間に、90度ずつ間欠的に回転される。すなわち、ゼネバドライバ30を一定方向に連続回転駆動させた状態では、カムフォロア30dがゼネバホイール31のスライド溝31aに係合している間は、従動回転されるホルダ回転軸28に回転角度が付与され、カムフォロア30dがゼネバホイール31のスライド溝31aから抜け出て、板片31bの円弧面と円弧周壁30bとが互いに摺接している間は、ホルダ回転軸28に停止角度が付与され、回転状態と停止状態とが交互に繰り返される。
【0026】
このように形成されたピリング試験機11を運転する場合、筐体20に設けられた回転条件切替スイッチ(セレクタ)34を中立位置から右側位置に操作することにより、回転テーブル22に対し、正転と逆転とを交互に繰り返して回転させる正逆運転が行われる。一方、簡単な段取り替えを経て、回転条件切替スイッチ34を中立位置から左側位置に操作することにより、回転テーブル22を一方向にのみ回転させる一方向運転が行われる。
【0027】
ところで、ピリング試験機11を携帯して試験場所を移動させた場合、その時点で電源が異なれば稼働できなくなる、若しくは運転条件が変化するという問題が生じる。例えば、日本国内においては周知のように、電源周波数が東西地域により50Hzと60Hzとで異なっており、これにより、モータの回転数が変化してしまう。すなわち、同一条件による試験ができなくなり、異なる試験結果となってしまう。さらに、その他の国では、その地域の標準に準拠する必要もある。そこで、ピリング試験機11は、電源事情の異なる場所(地域)で使用する場合であっても、内蔵される整流回路によって商用電源から供給された交流電圧が直流電圧に変換され、該整流回路から供給される電力により、モータを一定の回転数で安定して駆動するように制御がなされる。
【0028】
ここで、以下では、ピリング評価に対するニーズの高い正逆運転の動作モードを選択した場合について具体的に説明する。まず、所定サイズの正方形に切り出した試験生地26を試料ホルダ25に装着し、ホルダ回転軸28と試料ホルダ25とを結合した状態で架台14に組み付ける(
図1及び
図2)。次に、回転条件切替スイッチ34が右側位置(正逆運転)にあることを確認した後、電源スイッチ19aをON状態にして装置に電力を供給する。これにより、表示灯19bが点灯するとともに、併せて運転ボタン19cも点灯するので、目視によってスタンバイ状態にあることを確認できる。
【0029】
運転ボタン19cの押下操作を行うと、設定時間が経過するまでの間、制御プログラムに基づいてモータが駆動され、試験生地26の表面に摩擦作用を付加するための自動運転が実行される。回転テーブル22は、例えば、60rpmの速度で14秒毎に回転方向を正転方向と逆転方向とに変えながら、編物では6分間、織物では12分間、動作する。このとき、各種駆動機構13,15の変速比に対応するように、回転テーブル22が5回転すると間欠駆動機構15が動作し、回転テーブル22の連続回転に伴って試験生地26が試料ホルダ25と一体に90度ずつ間欠的に回転される。また、回転テーブル22が一回転するたびに、凸状部24による上下方向のカム運動によって試料ホルダ25が上下動する。これにより、試験生地26は、凸状部24の上に乗るとその抵抗で摩擦板23に対して接圧が強まり、外れると接圧が弱まる。
【0030】
図3は、正逆運転時において、90度ずつ間欠的に回転される試験生地26と一定速度で連続的に回転される摩擦板23との摩擦角度の変化を示したもので、A〜Dの各領域は、試験生地26の円形表面を4等分割した領域を表し、各領域に重ねた三本の矢印は、摩擦板23を左回転(正転)又は右回転(逆転)させたときの回転中心まわりの円弧軌道を表している。
【0031】
摩擦板23の左回転での摩擦状態(表の上段)では、例えば、スタート時に上位置にあるA領域は、試験生地26の回転サイクル(一周期)の中で、スタートから90度回転(自転)すると左位置に移動し、180度回転すると下位置に移動し、270度回転すると右位置に移動し、360度回転すると一回転して元の上位置に戻る。ここで、180度移動時の状態は、スタート時の試験生地26が反時計回りに180度回転した状態であり、これら双方のA領域を比較すると、摩擦板23の回転中心からの距離の違いにより摩擦速度及び摩擦角度に差が生じ、さらには、上下位置の逆転に伴って摩擦方向が逆向きになることから、摩擦作用の付加条件に大きな違いが生じる。90度移動時と270度移動時との関係においても同様に、摩擦作用の付加条件に大きな違いが生じる。但し、摩擦板23の回転方向は一定であるため、糸の撚りに加わる方向は同一で、例えば、加撚方向に力が加わって撚りが強くなる。
【0032】
一方、摩擦板23の右回転での摩擦状態(表の下段)では、摩擦板23及び試験生地26の回転方向が上述の左回転に対してそれぞれ逆向きになることで、これに伴って摩擦作用の付加条件も反対になる。また、糸の撚りに加わる力の方向が逆向きとなることから、加撚された糸が解撚され、すなわち、逆撚り方向の力が加わることによって元の状態に戻される。こうして、設定時間が経過するまでの間、正逆運転が継続され、その結果、試験生地26の表面の繊維が複雑な摩擦軌道によって毛羽立ち、この毛羽が更に絡み合い、小さな玉状のピルが生成される。
【0033】
このように、ピリング試験機11が、試料ホルダ25に結合したホルダ回転軸28を、テーブル回転軸21に対して偏心位置に設けるとともに、テーブル回転軸21の連続回転駆動に対応して、ホルダ回転軸28を間欠回転駆動させる間欠駆動機構15を備えているので、試験生地26に複雑な摩擦作用を与えることが容易に行え、実用に近いとされるJIS L1076のA法とほぼ同等の判定結果を短時間で手間なく確認することができる。しかも、テーブル回転軸21及びホルダ回転軸28の互いの軸線を平行向きに偏心させるだけの簡単な構成であることから、本体の小型軽量化が容易となり、保管性や携帯性を向上させることができる。
【0034】
また、連続駆動機構13と間欠駆動機構15との間に、単一のモータから得られる動力により回転されるとともに、該動力を両駆動機構13,15に分配伝達可能な歯車軸18を設けているので、たとえ複数種類の駆動機構を組み合わせて構成する場合であっても、共通の入力軸(歯車軸18)を用いてこれらの駆動機構を入力軸及びモータが収容される筐体20の近傍にコンパクトにまとめることができる。
【0035】
さらに、間欠駆動機構15について、運動特性に優れたゼネバ機構を採用することにより、連続した回転運動を周期的な回転運動に変換することが容易に行え、複雑な摩擦挙動であっても、安価に、かつ、安定して動作させることができる。これに加えて、テーブル回転軸21及びホルダ回転軸28の軸線を鉛直向きに構成することで、試料ホルダ25の自重の作用によって摩擦板23への押圧力が簡単に得られ、ピリング試験機11のより一層の簡素化に寄与することができる。
【0036】
また、回転テーブル22の表面に凸状部24を設けるとともに、試料ホルダ25が摩擦板23を介して凸状部24を乗り越えるたびに、ホルダ回転軸28を軸受部材29に対して軸方向に移動可能に組み込むので、試験生地26の接圧を容易に変化させることができる。しかも、正逆運転を実行する制御がなされると、回転テーブル22が正転と逆転とを交互に繰り返して回転するので、機能的な構造と相俟って、ピルを試験生地26の表面全体に均一に発生させることができる。すなわち、着用時の人体と衣服、あるいは衣服と衣服との着圧摩擦挙動に近似した複合的な摩擦運動によるピルの生成が実現される。
【0037】
その上、現行のICI形試験機(JIS L1076のA法)では、試験時間が編物では5時間、織物では10時間を必要とする一方で、本発明のピリング試験機11では、試験時間が編物では6分間、織物では12分間と、大幅に短縮されている。ここで、ピリング試験機11とICI形試験機との間で、試験データの比較・分析を行い、この結果、強い相関が認められたことからも、精度の高い試験を迅速に行えたことが示される。
【0038】
とりわけ、試験生地26においては、素材や糸種・織・編の密度など様々であることから、この種のピリング試験機には、要求されるピリング性能に応じて、より効果的な運転が行われることが求められている。そこで、本体(制御回路)に備わる回転条件切替スイッチ34によって一方向運転に切り替える操作を行えば、回転テーブル22を一方向(加撚方向)にのみ回転させて、より強いピルの生成が可能となる。これにより、単一作用であるが、JIS L1076のC法とほぼ同等の判定結果を短時間で確認することができる。すなわち、ピリング試験機11が使用される多様な環境において、その適用の幅が広がり、生産現場(現地)の運用に最適化したピリング試験機11が実現される。
【0039】
図4は、本発明のピリング試験機の変形例を示している。なお、以下の説明において、前記形態例に示した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0040】
本形態例では、前記形態例によるピリング試験機11の構成をそのまま有しており、回転テーブル22上に前記試料ホルダ25と同じ構成の追加の試料ホルダ51を増設したものである。追加の試料ホルダ51は、回転テーブル22の回転軸線を挟んで試料ホルダ25の反対側に配置され、追加の軸受部材(図示せず)に内挿支持された追加のホルダ回転軸52と一体で回転可能に形成されている。また、両ホルダ回転軸28,52の上部には、前記間欠駆動機構15の一部として組み込まれ、これらの軸間で同一の回転角度を伝達させる間欠回転伝達部53が設けられている。
【0041】
間欠回転伝達部53は、両ホルダ回転軸28,52に対してそれぞれ同軸に設けられた一対の同径の、つまり回転比が1:1に設定された主動プーリ54及び従動プーリ55と、両プーリ間54,55に掛け回されたベルト56とによって構成されている。また、ベルト56にはタイミングベルトが用いられ、主動プーリ54及び従動プーリ55にはタイミングプーリが用いられている。これにより、回転伝達時のベルト56と各プーリ54,55との噛み合いが適切になされ、ホルダ回転軸28の回転角度が追加のホルダ回転軸52に正確に伝達される。
【0042】
そして、このように構成された本形態例においても、上述のピリング試験器11と同様の作用、効果が発揮でき、さらに、本形態例の場合には、試料ホルダ25が偏心配置された回転テーブル22上(スペース)に追加の試料ホルダ51を増設するとともに、両ホルダ回転軸28,52間にタイミングベルト式の間欠回転伝達部53を介在させるだけの簡単な構成で、複数の試料ホルダ25,51に対して同一の回転角度を付与できる。すなわち、複数種類の試験生地に対して同時に試験が行えることから、ピリング試験器11の効率的な運用が可能になる。
【0043】
なお、本発明は、前記形態例に限定されるものではなく、ピリング試験機の構造は、生地の特性や試験の目的に応じて適宜変更することができ、例えば、テーブル回転軸及びホルダ回転軸の互いの軸線を斜め方向や水平方向に構成してもよい。この場合、摩擦板への押圧力をばねなどの弾性体の反発力によって付与することができる。また、摩擦板は柔軟性のあるコルク板が好適であるが、これに限られず、樹脂成形品のような硬質材のシートやテーブル上に研磨布を貼り付けた構成であってもよい。
【0044】
さらに、制御プログラムについても実施例に限定されず、例えば、運転時間は、内蔵されるタイマーのボタンで任意に設定することができ、長い時間を設定すれば、より厳しい条件で試験が行える。加えて、正逆運転と一方向運転との間の選択的な仕様変更以外にも様々な試験に適用可能である。例えば、同じ生地同士のピリング試験を行う場合は、試験生地を別途に用意した生地固定台及び生地押さえ枠間に挟持させて、仮組立状態とし、これを摩擦板及び凸状部を取り除いた回転テーブル上に固定した状態で、装置を動作させる。これにより、試料ホルダに装着した同種の試験生地との間で摩擦作用を付加することができる。
【0045】
また、摩擦堅牢度試験を行う場合は、試料ホルダに試験白布を装着することにより、回転テーブル上に固定した試験生地との間で摩擦作用を付加することができる。これにより、生地から白布に汚染する色の度合いを確認し、所定の評価基準に従って合否を判定することが可能となる。つまり、JIS L0849に準じた摩擦堅牢度試験を行うことができる。このように、簡単な組み替えを行うだけで構造的な仕様変更が可能となる。
【0046】
さらに、間欠駆動機構には、ゼネバ機構の他、周知のインデックスカム機構や特殊カム機構などを採用できるのは勿論、専用のモータを組み込んで達成する構成としてもよい。とりわけ、ゼネバ機構は、安価に構成でき、調整も容易であることから、例えば、動作時にゼネバホイールを90度ずつ回転(1/4回転)させる以外にも、60度ずつ回転(1/6回転)させるなど、ゼネバホイールの溝の数(割数)に応じて、種々の設定が可能である。
【0047】
加えて、2個以上の試料ホルダを設ける場合には、必要に応じて回転テーブルの径を大きくすることができる。この場合、間欠回転伝達部は、回転角度を正確に伝達できるものであれば、タイミングベルト式以外の構成、例えば、複数の歯車を有するギヤトレイン(ギヤ列)などを採用することができる。
【符号の説明】
【0048】
11…ピリング試験機、12…ベース、13…連続駆動機構、13a…伝達ケース、14…架台、14a…支柱、14b…天板、15…間欠駆動機構、16…主動傘歯車、17…従動傘歯車、18…歯車軸、19…操作部、19a…電源スイッチ、19b…表示灯、19c…運転ボタン、20…筐体、21…テーブル回転軸、22…回転テーブル、23…摩擦板、24…凸状部、25…試料ホルダ、25a…係合溝、26…試験生地、27…固定バンド、28…ホルダ回転軸、29…軸受部材、30…ゼネバドライバ、30a…円板、30b…円弧周壁、30c…欠け部、30d…カムフォロア、30e…大歯車、30f…支軸、31…ゼネバホイール、31a…スライド溝、31b…板片、32…小歯車、33…固定ネジ、34…回転条件切替スイッチ、51…試料ホルダ、52…ホルダ回転軸、53…間欠回転伝達部、54…主動プーリ、55…従動プーリ、56…ベルト
【要約】
【課題】コンパクトな構成でありながら、短時間でピルを発生させ、生地のピリング性能を容易に評価することが可能なピリング試験機を提供する。
【解決手段】ピリング試験機11は、表面に摩擦板23が設けられた回転テーブル22と、該回転テーブルに結合されるテーブル回転軸21と、試験生地26を摩擦板に摺接可能な状態で保持する試料ホルダ25と、該試料ホルダに結合されるホルダ回転軸28と、テーブル回転軸及びホルダ回転軸の互いの軸線を平行向きに偏心させた位置で、該ホルダ回転軸を回転可能に支持する軸受部材29と、モータから動力を得てテーブル回転軸を連続回転駆動させる連続駆動機構13と、テーブル回転軸の連続回転駆動に対応して、ホルダ回転軸を間欠回転駆動させる間欠駆動機構(ゼネバ機構)15とを備えている。
【選択図】
図1