(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6659932
(24)【登録日】2020年2月12日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 125/02 20060101AFI20200220BHJP
C10M 127/04 20060101ALI20200220BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20200220BHJP
C10N 40/18 20060101ALN20200220BHJP
C10N 50/02 20060101ALN20200220BHJP
【FI】
C10M125/02
C10M127/04
C10N30:06
C10N40:18
C10N50:02
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-236514(P2015-236514)
(22)【出願日】2015年12月3日
(65)【公開番号】特開2017-101169(P2017-101169A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(73)【特許権者】
【識別番号】000005979
【氏名又は名称】三菱商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢太郎
【審査官】
松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−250664(JP,A)
【文献】
特開2015−135710(JP,A)
【文献】
特開2015−109129(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/125940(WO,A1)
【文献】
特開2006−131874(JP,A)
【文献】
特開2015−135716(JP,A)
【文献】
特開2015−109130(JP,A)
【文献】
特開2015−129219(JP,A)
【文献】
特開2006−045350(JP,A)
【文献】
特開2004−231739(JP,A)
【文献】
特表2011−508716(JP,A)
【文献】
特開2014−169287(JP,A)
【文献】
特開2011−068899(JP,A)
【文献】
特開平06−044556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレン誘導体及び基油を含み、
前記フラーレン誘導体が
前記基油に溶解して
おり、
前記フラーレン誘導体が式(1)
【化1】
(式(1)中、FLNはフラーレン骨格を示し、nは1以上の整数を示し、Rは水素原子または有機基を示す。)
で表される潤滑油組成物。
【請求項2】
前記フラーレン誘導体は、前記nが異なる混合物である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記有機基は、炭素数1〜24の、アルキル基、ビニル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、エーテル結合を有する基、エステル結合を有する基、及びアミド結合を有する基からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記FLNは、炭素数60〜120のフラーレン、あるいは、これらの2量体または3量体である請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記フラーレン誘導体は、前記FLNが異なる混合物である請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記フラーレン誘導体は、前記基油100質量部に対し、0.001〜5質量部含まれる請求項1〜5のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記基油は、鉱物油、油脂、及び合成潤滑油からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体を含む潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フラーレンの一種であるC
60は潤滑剤として有用であることが知られている。BhushanらはC
60の蒸着膜を形成したシリコン基板で、摩擦係数の低下を確認している(非特許文献1参照)。
【0003】
さらにC
60は従来の潤滑油への添加剤として優れた特性と示すことが知られている。Ginzburgらは銅箔の表面に一般の潤滑オイルを塗ったものとそのオイルにC
60を5%添加したものを塗ったものとで鋼のローラーを荷重のもとにこすり付け、その時の摩擦抵抗を測定した。その結果、C
60添加した場合には、添加しない場合と比較して耐摩耗性が向上することを確認している(非特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1にはフラーレンを含む潤滑油に関して、耐熱性、および潤滑寿命が改善することが記載されている。しかし、フラーレンは潤滑油には溶解しないため分散性が悪いという問題があった。
【0005】
特許文献2には、フラーレン包摂体、または水酸基等の極性基をフラーレンに導入することにより、水系潤滑剤への分散性を高めることにより、フラーレンが溶解した水系潤滑剤組成物が開示されている。しかし、これは一般の潤滑油へ適用されるものではない。
【0006】
一方、フラーレン誘導体として、ディールスアルダー反応を用いてジエン化合物をフラーレンに付加する反応が知られており(非特許文献3参照)、合成自体は簡便な方法である。しかし、この化合物の用途としては、有機太陽電池のみに限られており、潤滑油への適用を想定する例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−068899号公報
【特許文献2】特開2009−173814号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett. 62, 3253 (1993)
【非特許文献2】Russian Journal of Applied Chemistry 75, 1330 (2002)
【非特許文献3】Tetrahedron Letters, 1997, 38, 285
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、潤滑性能に優れた潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は以下に示す構成を含むものである。
【0011】
[1]フラーレン誘導体及び基油を含み、前記フラーレン誘導体が
前記基油に溶解して
おり、前記フラーレン誘導体
が式(1)
【化1】
(式(1)中、FLNはフラーレン骨格を示し、nは1以上の整数を示し、Rは水素原子または有機基を示す。)
で表され
る潤滑油組成物。
[
2]前記フラーレン誘導体は、前記nが異なる混合物である前項[
1]に記載の潤滑油組成物。
[
3]前記有機基は、炭素数1〜24の、アルキル基、ビニル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、エーテル結合を有する基、エステル結合を有する基、
及びアミド結合を有する基から
なる群より選ばれる少なくとも1種である前項[
1]または[
2]に記載の潤滑油組成物。
[
4]前記FLNは、炭素数60〜120のフラーレン、あるいは、これらの2量体または3量体である前項[
1]〜[
3]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[
5]前記フラーレン誘導体は、前記FLNが異なる混合物である前項[
1]〜[
4]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[
6]前記フラーレン誘導体は、
前記基油100質量部に対し
、0.001〜5質量部含
まれる前項[1]〜[5]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[
7]前記基油は、鉱物油、油脂、及び合成潤滑油から
なる群より選ばれる少なくとも1種である前項[1]〜[
6]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、摩擦係数が小さく、潤滑寿命が良好な潤滑油組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態についてその構成を説明する。本発明は、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0014】
本発明の潤滑油組成物は、フラーレン誘導体及び基油を含み、前記フラーレン誘導体は基油に溶解している。
【0015】
前記フラーレン誘導体としては、基油に溶解しやすいものであればよく、フラーレンインデン付加体、フラーレン酪酸メチルエステル、等が挙げられ、特に、下記式(1)で表されるフラーレン誘導体が基油に溶解しやすく好ましい。
【0016】
【化2】
(式(1)中のFLNはフラーレン骨格を示し、nは1以上の整数を示し、Rは水素または有機基を示す。)
【0017】
以下、フラーレン誘導体として上記式(1)で表されるフラーレン誘導体を例に本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
前記式(1)のフラーレン誘導体は、例えば、インデン骨格をもつ化合物をディールスアルダー反応を用いてフラーレンに付加することにより合成することができる。この場合、前記nの異なる混合物が得られるが、それらを分離することなく本発明に用いてもよく、経済的である。すなわち、潤滑油組成物中の前記フラーレン誘導体は、前記nの異なる混合物となる。
【0019】
ただし、前記混合物中の主成分となるフラーレン誘導体は、nが、基油に対する溶解性を得るために、2以上が好ましく、3以上がより好ましい。なお、nの上限は、前記式(1)のフラーレン骨格FLNの大きさが大きいほど大きくなる。nの最大値は、FLNとして最も小さいC
60の場合10程度であり、より大きなFLNでは20〜60となりうる。
【0020】
前記Rは、水素または有機基である。基油と親和性のある有機基を用いると基油に対する溶解性を得やすく好ましい。このような有機基としては、例えば、炭素数1〜24の、アルキル基、ビニル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、エーテル結合を有する基、エステル結合を有する基、アミド結合を有する基から選ばれる少なくとも1種等が挙げられる。
【0021】
前記式(1)のフラーレン骨格FLNは、本発明の目的を満たす限り限定されないが、炭素数60〜120のフラーレン、あるいは、これらの2量体または3量体等を挙げることができる。より具体的には、C
60、C
70、C
76、C
78、C
82、C
84、C
90、C
94、C
96及びより高次の炭素クラスター等が挙げられる。
【0022】
潤滑油組成物中の前記フラーレン誘導体は、フラーレン骨格FLNとしてC
60またはC
70を有する誘導体を主成分とし、その他のフラーレン骨格を有する誘導体も含まれる混合物であると、溶解性に優れており好ましい。
【0023】
なお、このようなラーレン誘導体の混合物を得るには、例えば、原料として、C
60またはC
70を主成分とする炭素数の異なるフラーレンの混合物を用い、前記合成を行えばよい。
【0024】
前記フラーレン誘導体は、前記基油100質量部に対し、0.001〜5質量部の範囲で含有されるのが好ましい。前記範囲の下限は、0.01質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上がさらに好ましい。一方、前記範囲の上限は、0.5質量部以下がより好ましく、0.2質量部以下がさらに好ましい。上記範囲内とすることにより、フラーレン誘導体を基油中に凝集させることなく溶解させることが可能となり、潤滑油組成物の特性向上の効果を得ることができる。
【0025】
なお、本発明におけるフラーレン誘導体が溶解しているとは、多数のフラーレン誘導体の粒子が凝集のない状態で溶媒に均一に存在することをいう。フラーレン誘導体の凝集のない状態とは、動的光散乱法による粒度分布測定において、10nm以上の粒子が存在していないことをいう。また、均一に存在することは、紫外可視吸収スペクトルにおいて、フラーレン誘導体の吸収が見られることにより確認できる。
【0026】
前記基油は、特に限定されないが、例えば、鉱物油、油脂、及び合成潤滑油から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。前記鉱物油としては、例えば、灯油、軽油、スピンドル油、マシン油、ニュートラル油、タービン油、シリンダー油、及び流動パラフィンが挙げられる。また、前記油脂としては、牛脂、豚脂、ナタネ油、ヤシ油、パーム油、及びヌカ油、並びにこれらの水素添加油等が挙げられる。更に、上記合成潤滑油としては、前記油脂から得られる脂肪酸、脂肪酸とアルコールのエステル、ポリブテン等のポリαオレフィン、ポリエチレングリコール、ポリオールエステル等のポリオール類、ポリエーテル若しくはポリエステル、及び高級アルコール等が挙げられる。前記基油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。さらに、通常の潤滑剤に使用される鉱油、合成油あるいはこれらの混合油を使用してもよい。具体的には、鉱油としてはパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油を挙げることができ、合成油としては合成炭化水素油、エーテル油、エステル油を挙げることができる。
【0027】
本発明の潤滑油組成物は、前記基油に、前記フラーレン誘導体を溶解し、必要であれば、通常、潤滑剤に用いる添加剤を添加し、得ることができる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0029】
(摩擦摺動試験)
潤滑剤塗膜の表面の耐摩耗性は、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機(RHESCA社製、FRICTION PLAYER FPR−2000)を用いて測定した。接触子としては直径2mmのAlTiCの球を用い、荷重0.39N、しゅう動速度0.25m/sにて試験を行ない、摩擦係数が急激に変動するまでの時間とそれ以前の摩擦係数を測定した。潤滑剤の摩耗が進行し、潤滑剤膜が無くなると接触子と基板が直接接触するために摩擦係数が大きく変動する。その時点を耐摩耗の判断基準とした。それぞれの潤滑剤塗膜について4回ずつ測定し、摩擦係数と摩擦係数上昇までの時間について、それぞれ平均値を得た。
【0030】
実施例1:
102mmφのアルミニウム基板を模擬ディスクとして使用した。フラーレン誘導体として、フロンティアカーボン株式会社製フラーレンインデン付加体MMI(前記式(1)において、Rが水素原子であり、FLNはC
60,C
70またはより高次のフラーレン骨格であり、nが1〜10 である、誘導体の混合物。ただし、FLNがC
60,nが3である誘導体が主成分。)を用意した。添加物として前記フラーレン誘導体を0.1質量部をマシン油(株式会社エーゼット製 AZマシンオイル)100質量部に添加し溶解した。添加物を溶解したマシン油1mLをトルエン100mLに溶解し、潤滑油組成物を得た。スピンコート法で前記アルミニウム基板に前記潤滑剤組成物を塗布し、100℃で10分間加熱し、潤滑層を成膜した。このようにして得られた潤滑層の膜厚および、摩擦摺動試験の結果を表1に示す。
【0031】
比較例1:
添加物を溶解させていないマシン油を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0032】
比較例2:
添加物として、フラーレン誘導体の代わりに、フラーレン(フロンティアカーボン社 NM−ST−F。C
60を主成分とし、C
70及びより高次のフラーレンを含む混合物。)を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。前記フラーレンはマシン油に溶解せず、分散液で成膜を行ったところ、フラーレンの固体が析出した不均一な膜になった。そのため、平均膜厚は得られなかった。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
摩擦摺動試験の結果、摩擦係数上昇までの時間は実施例1、および比較例2の双方が長くなっており、潤滑寿命の改善が確認できた。一方、摩擦係数は実施例1のみが小さくなっており、本発明の潤滑油組成物により、潤滑寿命の改善とともに、潤滑性能の改善の効果も得られた。
【0035】
このように高い潤滑性能が得られたのは、以下のように推定される。
一般に、同農度であれば、フラーレン誘導体よりもフラーレンの方が潤滑性能に優れる。また、実施例などで用いたフラーレン誘導体は、フラーレン骨格とインデン骨格を有し、加熱すると、フラーレンとインデンとに分解することが知られている。このようなフラーレン誘導体を用いることにより、極圧時にフラーレン誘導体が分解して局部的に高濃度のフラーレンを生成したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のフラーレン誘導体は、潤滑剤に好ましく用いることができる。