(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0014】
本実施形態に係る飲料の製造方法(以下、「本方法」という。)は、所定量の硬度調整剤を使用することと、ホップ成分を含む原料液を煮沸することと、煮沸後の当該原料液を使用して飲料を製造することと、を含む飲料の製造方法であって、当該所定量の少なくとも一部の量の当該硬度調整剤を当該原料液の煮沸の開始以後に添加することをさらに含む。
【0015】
本方法では、硬度調整剤を使用して飲料を製造する。硬度調整剤は、醸造用水の硬度を調整するために使用される成分であれば特に限られないが、例えば、好ましくはカルシウム塩又はマグネシウム塩であり、特に好ましくはカルシウム塩である。なお、硬度調整剤としてカルシウム塩を使用する場合、さらにマグネシウム塩を使用してもよい。また、硬度調整剤としてマグネシウム塩を使用する場合、さらにカルシウム塩を使用してもよい。
【0016】
カルシウム塩は、硬度調整剤として使用されるものであれば特に限られないが、例えば、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム及び炭酸水素カルシウムからなる群より選択される1以上であることとしてもよく、特に好ましくは塩化カルシウムである。
【0017】
マグネシウム塩は、特に限られないが、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム及び炭酸水素マグネシウムからなる群より選択される1以上であることとしてもよく、特に好ましくは塩化マグネシウムである。
【0018】
なお、本方法においては、主にpH調整剤として乳酸等の有機酸を添加してもよい。すなわち、本方法においては、原料液の煮沸開始前に有機酸を添加することとしてもよい。また、本方法においては、原料液の煮沸開始以後に有機酸を添加することとしてもよい。
【0019】
本方法では、ホップ成分を含む原料液を煮沸する。ここで、原料液を煮沸する目的の一つは、ホップ苦味成分の生成である。すなわち、原料液に含まれるホップ成分は、煮沸によりホップ苦味成分を生成する成分である。
【0020】
具体的に、原料液は、ホップ成分として、α酸を含む。α酸は、例えば、フムロンを含む。すなわち、α酸を含む原料液を煮沸することにより、イソα酸が生成され、当該イソα酸を含む原料液が得られる。イソα酸は、代表的なホップ苦味成分である。
【0021】
なお、ホップ成分を含む原料液は、原料液にホップ原料を添加することにより調製される。ホップ原料は、ホップ成分を含む原料であれば特に限られず、例えば、生ホップ、プレスホップ、ホップパウダー、ホップペレット、ホップエキス、イソ化ホップ、ローホップ、テトラホップ及びヘキサホップからなる群より選択される1以上が好ましく使用される。
【0022】
プレスホップは、乾燥させたホップの球果を圧縮して得られる。ホップパウダーは、乾燥させたホップの球果を粉砕して得られる。ホップペレットは、ホップパウダーをペレット状に圧縮成形して得られる。ホップエキスは、ホップを抽出して得られる。より具体的に、ホップエキスは、例えば、ホップをエタノール又は炭酸ガスで抽出して得られる。
【0023】
原料液は、飲料の製造に使用されるものであれば特に限られないが、例えば、ホップ成分に加えて、植物成分をさらに含むこととしてもよい。植物成分は、植物原料に由来する。すなわち、植物成分を含む原料液は、植物原料を使用して調製される。具体的に、植物原料と水とを混合し、さらにホップ原料を添加することにより、ホップ成分及び植物成分を含む原料液が調製される。
【0024】
植物原料は、飲料の製造に使用されるものであれば特に限られないが、例えば、穀類(例えば、麦類、米類及びトウモロコシからなる群より選択される1以上)、豆類及びイモ類からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。これら穀類、豆類及びイモ類は、発芽させたものであってもよく、発芽させていないものであってもよい。
【0025】
植物原料としては、麦類が好ましく使用される。麦類を使用して調製された原料液は、麦類成分を含む。麦類は、例えば、大麦、小麦、燕麦及びライ麦からなる群より選択される1以上であってもよく、大麦、小麦及び燕麦からなる群より選択される1以上であることが好ましく、大麦及び小麦からなる群より選択される1以上であることが特に好ましい。
【0026】
麦類として、発芽させたもの、すなわち麦芽を使用する場合、当該麦芽は、例えば、大麦、小麦、燕麦及びライ麦からなる群より選択される1以上の麦芽であってもよく、大麦、小麦及び燕麦からなる群より選択される1以上の麦芽であることが好ましく、大麦及び小麦からなる群より選択される1以上の麦芽であることが特に好ましい。麦芽を使用して調製された原料液は、麦芽成分を含む。麦芽を使用する場合、発芽させていない麦類をさらに使用することとしてもよい。
【0027】
麦芽を使用して原料液を調製する場合、糖化を行って当該原料液を調製することとしてもよい。糖化は、例えば、少なくとも麦芽と水とを混合して調製された原料液を、当該麦芽に含まれる消化酵素(例えば、デンプン分解酵素、タンパク質分解酵素)が働く温度(例えば、30〜80℃)に維持することにより行う。
【0028】
本方法が後述のとおりアルコール発酵を行うことを含む場合、原料液は、ホップ成分に加えて、当該アルコール発酵に使用される酵母が資化できる成分をさらに含むこととしてもよい。酵母が資化できる成分は、例えば、酵母が資化できる炭素源及び窒素源である。
【0029】
炭素源は、炭素原子を含む化合物であって酵母が資化できるものであれば特に限られず、例えば、酵母が資化できる糖類である。具体的に、この糖類は、例えば、グルコース、フルクトース、シュクロース(ショ糖)、マルトース(麦芽糖)及びマルトトリオースからなる群より選択される1以上である。
【0030】
窒素源は、窒素原子を含む化合物であって酵母が資化できるものであれば特に限られず、例えば、アミノ酸及び/又はペプチドである。窒素源は、例えば、タンパク質酵素分解物であってもよい。タンパク質酵素分解物は、タンパク質をタンパク質分解酵素により分解することにより得られた、アミノ酸及び/又はペプチドを含む。
【0031】
原料液は、ホップ成分に加えて、シュウ酸をさらに含むこととしてもよい。シュウ酸を含む原料液は、例えば、シュウ酸を含む植物原料(例えば、穀類(例えば、麦類、米類及びトウモロコシからなる群より選択される1以上)、豆類、イモ類からなる群より選択される1以上)及び/又は植物由来原料(例えば、穀類(例えば、麦、米類及びトウモロコシからなる群より選択される1以上)、豆類、イモ類からなる群より選択される1以上の植物原料の抽出物及び/又は分解物)を使用して調製される。植物原料の抽出物としては、例えば、上記1以上の植物原料のデンプン抽出物及び/又はタンパク抽出物を使用することとしてもよい。植物原料の分解物としては、例えば、上記1以上の植物原料の酵素分解物を使用することとしてもよい。
【0032】
原料液及び飲料がシュウ酸を含む場合、当該原料液及び飲料において、混濁が発生することがある。この点、本方法によれば、後述のとおり、原料液及び飲料に含まれるシュウ酸の量を効果的に低減することもできる。すなわち、本方法においては、ホップ成分及びシュウ酸を含む原料液を煮沸する場合であっても、煮沸後の原料液、及び最終的に製造される飲料に含まれるシュウ酸の量を効果的に低減することができる。
【0033】
なお、煮沸開始時の原料液のpHは、特に限られないが、例えば、3.5以上であってもよく、4.5以上であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましい。また、煮沸開始時の原料液のpHは、例えば、8.0以下であってもよく、7.4以下であることが好ましい。すなわち、煮沸開始時の原料液のpHは、3.5以上、8.0以下の範囲内であることとしてもよく、4.5以上、7.4以下の範囲内であることが好ましく、5.0以上、7.4以下であることがより好ましい。
【0034】
本方法では、煮沸後の原料液を使用して飲料を製造する。すなわち、本方法においては、煮沸後の原料液のアルコール発酵を行って飲料を製造することとしてもよい。アルコール発酵は、原料液に酵母を添加することにより開始する。アルコール発酵開始時の原料液における酵母の密度は、例えば、1×10
6個/mL〜3×10
9個/mLである。アルコール発酵は、例えば、酵母を含む原料液を所定の温度(例えば、0℃〜40℃)で所定の時間(例えば、1日〜14日)維持することにより行う。酵母は、アルコール発酵を行う酵母であれば特に限られず、例えば、ビール酵母、ワイン酵母、焼酎酵母及び清酒酵母からなる群より選択される1以上である。また、本方法においては、アルコール発酵を行い、さらに貯酒を行って、飲料を製造することとしてもよい。
【0035】
本方法においては、アルコール発酵を行うことなく飲料を製造することとしてもよい。この場合、例えば、煮沸後の原料液を他の原料(例えば、糖類、食物繊維、酸味料、色素、香料、甘味料及び苦味料からなる群より選択される1以上)と混合して飲料を製造してもよい。
【0036】
本方法により製造される飲料は特に限られないが、例えば、本方法は、アルコール飲料の製造方法であってもよい。アルコール飲料は、アルコール含有量が1体積%以上(アルコール分1度以上)の飲料である。アルコール飲料のアルコール含有量は、1体積%以上であれば特に限られないが、例えば、1〜20体積%であってもよい。
【0037】
本方法においては、煮沸後の原料液のアルコール発酵を行ってアルコール飲料を製造してもよい。また、本方法においては、アルコール発酵を行うことなくアルコール飲料を製造してもよい。この場合、例えば、煮沸後の原料液を他の原料(例えば、糖類、食物繊維、酸味料、色素、香料、甘味料及び苦味料からなる群より選択される1以上)及びエタノールと混合してアルコール飲料を製造してもよい。
【0038】
本方法は、発泡性アルコール飲料の製造方法であってもよい。発泡性飲料は、泡立ち特性及び泡持ち特性を含む泡特性を有する飲料である。すなわち、発泡性飲料は、例えば、炭酸ガスを含有する飲料であって、グラス等の容器に注いだ際に液面上部に泡の層が形成される泡立ち特性と、その形成された泡が一定時間以上保たれる泡持ち特性とを有する飲料である。
【0039】
本方法においては、煮沸後の原料液のアルコール発酵を行って発泡性アルコール飲料を製造してもよい。また、本方法においては、アルコール発酵を行うことなく発泡性アルコール飲料を製造してもよい。この場合、例えば、煮沸後の原料液を他の原料(例えば、糖類、食物繊維、酸味料、色素、香料、甘味料及び苦味料からなる群より選択される1以上)及びエタノールと混合し、さらに炭酸水の使用及び/又は炭酸ガスの使用により、当該原料液に発泡性を付与して、発泡性アルコール飲料を製造してもよい。
【0040】
本方法は、ノンアルコール飲料の製造方法であってもよい。ノンアルコール飲料は、アルコール含有量が1体積%未満の飲料である。ノンアルコール飲料のアルコール含有量は、1体積%未満であれば特に限られないが、例えば、0.5体積%未満であってもよく、0.05体積%未満であってもよく、0.005体積%未満であってもよい。
【0041】
本方法においては、煮沸後の原料液のアルコール発酵を行ってノンアルコール飲料を製造してもよい。この場合、例えば、酵母によるアルコールの生成が抑制される条件でアルコール発酵を行い、及び/又はアルコール発酵後の原料液に対して、そのアルコール含有量を低減する処理を施して、ノンアルコール飲料を製造することとしてもよい。
【0042】
また、本方法においては、アルコール発酵を行うことなくノンアルコール飲料を製造する方法であってもよい。この場合、例えば、煮沸後の原料液を他の原料(例えば、糖類、食物繊維、酸味料、色素、香料、甘味料及び苦味料からなる群より選択される1以上)と混合してノンアルコール飲料を製造してもよい。
【0043】
本方法は、発泡性ノンアルコール飲料の製造方法であってもよい。本方法においては、煮沸後の原料液のアルコール発酵を行って発泡性ノンアルコール飲料を製造してもよい。また、本方法においては、アルコール発酵を行うことなく発泡性ノンアルコール飲料を製造する方法であってもよい。この場合、例えば、煮沸後の原料液を他の原料(例えば、糖類、食物繊維、酸味料、色素、香料、甘味料及び苦味料からなる群より選択される1以上)と混合し、さらに炭酸水の使用及び/又は炭酸ガスの使用により、当該原料液に発泡性を付与して、発泡性ノンアルコール飲料を製造してもよい。
【0044】
そして、本方法において特徴的なことの一つは、所定量の少なくとも一部の量の硬度調整剤を、ホップ成分を含む原料液の煮沸の開始以後に添加することである。すなわち、本方法においては、所定量の全部又は一部の硬度調整剤を、原料液の煮沸の開始時又はその後に添加する。
【0045】
煮沸の開始後に硬度調整剤を添加する場合、当該硬度調整剤を添加するタイミングは、当該煮沸中、又は当該煮沸の終了後であれば特に限られない。煮沸中に硬度調整剤を添加する場合、当該硬度調整剤を添加するタイミングは、本発明による効果が得られる範囲内であれば特に限られないが、例えば、煮沸開始から、1分、10分、20分、又は30分が経過した時点又はその後に当該硬度調整剤を添加することとしてもよい。
【0046】
また、例えば、煮沸開始から、煮沸時間(煮沸の開始から終了までの時間)の1%、10%、20%、又は30%の時間が経過した時点又はその後に硬度調整剤を添加することとしてもよい。
【0047】
具体的に、例えば、煮沸時間が90分の場合、煮沸開始から0.9分(1%)、9分(10%)、18分(20%)、又は27分(30%)が経過した時点又はその後に硬度調整剤を添加することとしてもよい。
【0048】
なお、煮沸時間は、原料液中でホップ苦味成分が生成されるために必要な範囲内であれば特に限られないが、例えば、1分以上、300分以下の範囲内であることとしてもよく、10分以上、180分以下の範囲内であることとしてもよい。また、本方法において、原料液の煮沸を煮沸釜内で行う場合、煮沸開始以後に、当該煮沸釜内の原料液に硬度調整剤を添加することとしてもよい。
【0049】
本方法がアルコール発酵を行うことを含む場合、所定量の少なくとも一部の量の硬度調整剤を、原料液の煮沸開始以後、当該アルコール発酵の開始前に添加することとしてもよい。すなわち、この場合、原料液の煮沸開始以後、煮沸開始後、又は煮沸終了後であって、且つアルコール発酵の開始前に硬度調整剤を添加する。
【0050】
これらの場合、例えば、煮沸後の原料液に酵母を添加する前に硬度調整剤を添加することとしてもよい。また、例えば、煮沸後の原料液に所定量の酵母を添加してアルコール発酵を行う場合、当該原料液に当該所定量の酵母を添加し終える前(例えば、当該所定量の一部の酵母を添加した後であって、当該所定量の酵母を添加し終える前)に硬度調整剤を添加することとしてもよい。
【0051】
また、例えば、煮沸釜における原料液の煮沸終了後、発酵槽におけるアルコール発酵の開始前に硬度調整剤を添加する場合、当該煮沸後の原料液の全量を、当該煮沸釜から当該発酵槽に移送し終える前に当該硬度調整剤を添加することとしてもよい。
【0052】
より具体的に、例えば、まず煮沸後の原料液を煮沸釜からワールプールに移送し、次いで、当該原料液を当該ワールプールから発酵槽に移送する場合、当該煮沸釜から当該ワールプールへの当該原料液の移送中、当該ワールプールにおける当該原料液の処理中、及び当該ワールプールから当該発酵槽への当該原料液の移送中からなる群より選択される1以上のタイミングで硬度調整剤を添加することとしてもよい。
【0053】
また、例えば、煮沸終了後の煮沸釜中の原料液、煮沸釜からワールプールに移送中の原料液、当該ワールプール中の当該原料液、及び当該ワールプールから当該発酵槽に移送中の当該原料液、及び当該移送終了後の当該発酵槽中の原料液からなる群より選択される1以上の原料液に硬度調整剤を添加することとしてもよい。
【0054】
所定量の硬度調整剤を添加する本方法において、原料液の煮沸開始以後に添加する当該硬度調整剤の量は、当該所定量(すなわち、本方法において添加する硬度調整剤の総量)の少なくとも一部であれば特に限られないが、例えば、当該所定量の5%以上であってもよく、10%以上であってもよく、20%以上であってもよく、30%以上であってもよく、40%以上であってもよく、50%以上であってもよい。
【0055】
また、原料液の煮沸開始以後に添加する硬度調整剤の量は、所定量の一部であることとしてもよい。この場合、原料液の煮沸開始以後に添加する硬度調整剤の量は、当該所定量の5%以上、95%以下の範囲内であってもよく、10%以上、90%以下の範囲内であってもよく、20%以上、80%以下の範囲内であってもよく、30%以上、70%以下の範囲内であってもよく、40%以上、60%以下の範囲内であってもよく、50%以上、55%以下の範囲内であってもよい。なお、所定量の一部の量の硬度調整剤を原料液の煮沸の開始以後に添加する場合、当該所定量の残りの量の硬度調整剤は、当該原料液の煮沸の開始前に添加する。
【0056】
また、硬度調整剤の所定量(すなわち、本方法において添加する総量)は、本発明による効果が得られる範囲内であれば特に限られないが、例えば、当該硬度調整剤がカルシウム塩又はマグネシウム塩である場合、当該所定量は、煮沸後の原料液1Lあたり塩化カルシウム無水物又は塩化マグネシウム無水物に換算して10mg以上、1000mg以下の範囲内の量であることとしてもよい。
【0057】
この場合、カルシウム塩又はマグネシウム塩の所定量は、例えば、煮沸後の原料液1Lあたり塩化カルシウム無水物又は塩化マグネシウム無水物に換算して、50mg以上、700mg以下の範囲内の量であることが好ましく、100mg以上、700mg以下の範囲内の量であることがより好ましい。
【0058】
本方法によれば、硬度調整剤を使用しつつ、ホップ苦味成分を飲料に効果的に移行させることができる。すなわち、本方法では、所定量の少なくとも一部の量の硬度調整剤を原料液の煮沸の開始以後に添加することにより、当該所定量(全量)の硬度調整剤を原料液の煮沸開始前に添加する場合に比べて、ホップ苦味成分の飲料への移行率を効果的に向上させることができる。
【0059】
このため、本実施形態は、所定量の硬度調整剤を使用することと、ホップ成分を含む原料液を煮沸することと、煮沸後の当該原料液を使用して飲料を製造することと、を含む飲料の製造方法において、当該所定量の少なくとも一部の量の当該硬度調整剤を当該原料液の煮沸の開始以後に添加することにより、当該所定量の当該硬度調整剤を当該原料液の煮沸前に添加する場合に比べて、当該飲料へのホップ苦味成分の移行率を向上させる方法を含む。
【0060】
ここで、苦味成分の移行率は、例えば、苦味価(BU:Bitter Unit)の移行率(BU移行率)として評価される。すなわち、例えば、所定量の少なくとも一部の量の硬度調整剤を原料液の煮沸の開始以後に添加する本方法により製造された飲料のBUは、当該所定量(全量)の硬度調整剤を原料液の煮沸開始前に添加する以外は同一の方法により製造された飲料のそれよりも大きくなる。
【0061】
原料液及び飲料のBUは、次のようにして測定される(文献「改訂 BCOJビール分析法 2013年増補改訂、ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編、公益財団法人日本醸造協会発行」の「7.12 苦味価」及び「8.15 苦味価(IM)」参照)。まず、原料液又は飲料である試料液をろ過する。ろ過後の試料液に含まれる苦味成分(主にイソα酸)をイソオクタン(2,2,4−トリメチルペンタン)で抽出する。苦味成分を含むイソオクタン層の波長275nmにおける吸光度を、純粋なイソオクタンを対照として、分光光度計で測定する。測定された吸光度に係数50を乗じて得られた値を、試料液の苦味価として得る。なお、分光光度計としては、紫外部測定が可能で、スリット幅を2mm以下にできるものを使用し、光路長10mmの石英セルを使用する。
【0062】
また、原料として使用されるホップについては、例えば、単位重量(例えば、1g)のホップを含む溶液(例えば、ホップを水と混合して得られる溶液)を煮沸して、当該溶液のBUを、上述の原料液及び飲料と同様に測定することで、当該単位重量あたりのホップによって飲料に付与されると推定されるBU(以下、「ホップあたり推定BU」という。)が求められる。
【0063】
飲料についてのBU移行率は、例えば、アルコール発酵開始直前の原料液(ビール製造における冷麦汁に相当)のBUに対する、当該飲料のBUの割合(%)として算出される。飲料についてのBU移行率は、例えば、ホップあたり推定BUに対する、当該飲料のBUの割合(%)として算出してもよい。また、このアルコール発酵開始直前の原料液(ビール製造における冷麦汁に相当)についてのBU移行率は、例えば、ホップあたり推定BUに対する、当該原料液のBUの割合(%)として算出される。
【0064】
また、本方法においては、BU移行率が向上することにより、飲料の製造に必要なコストを効果的に低減することもできる。すなわち、例えば、所望のBUを有する飲料を製造する場合において、BU移行率が向上することにより、ホップ原料の使用量を低減することができ、その結果、当該飲料の製造に必要なコストを効果的に低減することができる。
【0065】
また、本方法においては、硬度調整剤としてカルシウム塩を使用することにより、原料液及び飲料に含まれるシュウ酸の量を効果的に低減することができる。すなわち、所定量の少なくとも一部の量のカルシウム塩を原料液の煮沸の開始以後に添加する本方法により得られる原料液及び飲料のシュウ酸含有量は、当該カルシウム塩を添加しないこと以外は同一の方法、又は当該カルシウム塩に代えて当該カルシウム塩以外の硬度調整剤(例えば、マグネシウム塩)を使用すること以外は同一の方法により得られる原料液及び飲料のそれよりも低減される。
【0066】
ここで、上述のとおり、原料液及び飲料中のシュウ酸イオンは、カルシウムイオンと結合してシュウ酸カルシウム塩を形成し、混濁を発生させる。したがって、カルシウム塩を原料液の煮沸の開始以後に添加する本方法により得られる原料液及び飲料においては、当該カルシウム塩を添加しないこと以外は同一の方法、又は当該カルシウム塩に代えて当該カルシウム塩以外の硬度調整剤(例えば、マグネシウム塩)を使用すること以外は同一の方法により得られる原料液及び飲料に比べて、シュウ酸による混濁の発生を効果的に回避することができる。
【0067】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0068】
400Lパイロットスケールにて、飲料を製造した。硬度調整剤としては、塩化カルシウム(塩化カルシウム二水和物(CaCl
2・2H
2O)、株式会社トクヤマ製)を使用した。すなわち、塩化カルシウム無水物(CaCl
2)に換算して冷麦汁(アルコール発酵開始直前の冷却された原料液)に対し500ppm(当該冷麦汁1Lあたり塩化カルシウム無水物(CaCl
2)に換算して500mg)の量の塩化カルシウムを所定のタイミングで添加した。
【0069】
実施例1−1では、まず仕込槽において、大麦麦芽、大麦(発芽していない大麦)及び250ppm(半量)の塩化カルシウムを湯と混合して原料液を調製し、さらに、当該原料液の糖化を行った。次いで、糖化後の原料液をロイター槽でろ過した。その後、煮沸釜において、ろ過された原料液にホップを添加し、90分間煮沸した。
【0070】
煮沸後、原料液をワールプールに移送した。このワールプールへの移送の際、残りの250ppmの塩化カルシウムを原料液に添加した。ワールプールから回収された原料液を冷却し、冷麦汁を得た。冷麦汁にビール酵母を1重量%添加して、アルコール発酵を開始した。アルコール発酵後、さらに貯酒を行った。貯酒後の発酵液を珪藻土でろ過し、約5体積%のアルコールを含む発泡性アルコール飲料を得た。
【0071】
実施例1−2では、仕込槽では塩化カルシウムを添加せず、ワールプールへの移送の際に、500ppm(全量)の塩化カルシウムを原料液に添加したこと以外は上述の実施例1−1と同様にして、約5体積%のアルコールを含む発泡性アルコール飲料を得た。
【0072】
比較例1−1では、仕込槽で500ppm(全量)の塩化カルシウムを添加し、その後は塩化カルシウムを添加しなかったこと以外は上述の実施例1−1と同様にして、約5体積%のアルコールを含む発泡性アルコール飲料を得た。
【0073】
そして、上述の各例において、冷麦汁及び発泡性アルコール飲料のpH、BU及び成分(カルシウムイオン(Ca
2+)、マグネシウムイオン(Mg
2+)、塩素イオン(Cl
−)、リン酸イオン(PO
42−)及びシュウ酸((COOH)
2))の濃度を測定した。成分濃度は、イオンクロマトグラフィーにより測定した。
【0074】
図1Aには、冷麦汁についての結果を示す。なお、
図1Aには示していないが、煮沸直前の原料液のpHは、比較例1−1において5.17であり、実施例1−1において5.30であり、実施例1−2において5.50であった。
【0075】
図1Aに示すように、実施例1−1及び実施例1−2において、冷麦汁のシュウ酸濃度は、比較例1−1のそれより顕著に低かった。
【0076】
図1Bには、発泡性アルコール飲料についての結果を示す。
図1Bにおいて、発泡性アルコール飲料の「BU移行率(%)」は、ホップあたり推定BUに対する発泡性アルコール飲料のBUの割合(%)として算出した。
【0077】
図1Bに示すように、実施例1−1及び実施例1−2において、BU移行率は、比較例1−1のそれより高かった。また、実施例1−1及び実施例1−2において、発泡性アルコール飲料のシュウ酸濃度は、比較例1−1のそれより顕著に低かった。
【実施例2】
【0078】
500kLスケールにて、飲料を製造した。硬度調整剤としては、塩化カルシウム(CaCl
2・2H
2O、株式会社トクヤマ製)を使用した。すなわち、冷麦汁1Lに対し、無水物(CaCl
2)に換算して444ppmの量の塩化カルシウムを所定のタイミングで添加した。
【0079】
実施例2−1では、まず仕込槽において、大麦麦芽、大麦及び222ppm(半量)の塩化カルシウムを湯と混合して原料液を調製し、さらに、当該原料液の糖化を行った。次いで、糖化後の原料液をロイター槽でろ過した。その後、煮沸釜において、ろ過された原料液にホップを添加し、90分間煮沸した。
【0080】
煮沸後、原料液をワールプールに移送した。このワールプールへの移送の際、残りの222ppmの塩化カルシウムを原料液に添加した。ワールプールから回収された原料液を冷却し、冷麦汁を得た。冷麦汁にビール酵母を1重量%添加して、アルコール発酵を開始した。アルコール発酵後、さらに貯酒を行った。貯酒後の発酵液を珪藻土でろ過し、約5体積%のアルコールを含む発泡性アルコール飲料を得た。
【0081】
比較例2−1では、仕込槽で444ppm(全量)の塩化カルシウムを添加し、その後は塩化カルシウムを添加しなかったこと以外は上述の実施例2−1と同様にして、約5体積%のアルコールを含む発泡性アルコール飲料を得た。そして、上述の各例において、冷麦汁及び発泡性アルコール飲料のpH、BU及び成分濃度を測定した。
【0082】
図2Aには、冷麦汁についての結果を示す。
図2Aに示すように、実施例2−1において、ホップあたり推定BUに対する冷麦汁のBUの割合(%)として算出されたBU移行率は、比較例2−1のそれより高かった。また、実施例2−1において、冷麦汁のシュウ酸濃度は、比較例2−1のそれより顕著に低かった。
【0083】
図2Bには、発泡性アルコール飲料についての結果を示す。
図2Bに示すように、実施例2−1において、冷麦汁のBUに対する発泡性アルコール飲料のBUの割合(%)として算出されたBU移行率は、比較例2−1のそれより高かった。その結果、実施例2−1においては、比較例2−1より少ない量のホップを使用して、当該比較例2−1と同等のBUを有する発泡性アルコール飲料を製造することができた。すなわち、実施例2−1では、ホップの使用量を低減することにより、発泡性アルコール飲料を製造するコストを効果的に低減することができた。また、実施例2−1において、発泡性アルコール飲料のシュウ酸濃度は、比較例2−1のそれより顕著に低かった。
【実施例3】
【0084】
300kLスケールにて、飲料を製造した。硬度調整剤としては、塩化カルシウム(CaCl
2・2H
2O、株式会社トクヤマ製)を使用した。
【0085】
実施例3−1では、まず仕込槽において、大麦麦芽及び大麦を湯と混合して原料液を調製し、さらに当該原料液の糖化を行った。次いで、糖化後の原料液をロイター槽でろ過した。その後、煮沸釜において、ろ過された原料液にホップを添加し、90分間煮沸した。
【0086】
煮沸後、原料液をワールプールに移送した。このワールプールへの移送の際、冷麦汁1Lに対し無水物(CaCl
2)に換算して453ppmの量(全量)の塩化カルシウムを、原料液に添加した。ワールプールから回収された原料液を冷却し、冷麦汁を得た。冷麦汁にビール酵母を1重量%添加して、アルコール発酵を開始した。アルコール発酵後、さらに貯酒を行った。貯酒後の発酵液を珪藻土でろ過し、約5体積%のアルコールを含む発泡性アルコール飲料を得た。
【0087】
比較例3−1では、仕込槽で、冷麦汁1Lに対し無水物(CaCl
2)に換算して447ppmの量(全量)の塩化カルシウムを添加し、その後は塩化カルシウムを添加しなかったこと以外は上述の実施例3−1と同様にして、約5体積%のアルコールを含む発泡性アルコール飲料を得た。そして、上述の各例において、冷麦汁及び発泡性アルコール飲料のBU及び成分濃度を測定した。
【0088】
図3Aには、冷麦汁についての結果を示す。
図3Aに示すように、実施例3−1において、ホップあたり推定BUに対する冷麦汁のBUの割合(%)として算出されたBU移行率は、比較例3−1のそれより高かった。また、実施例3−1において、冷麦汁のシュウ酸濃度は、比較例3−1のそれより顕著に低かった。
【0089】
図3Bには、発泡性アルコール飲料についての結果を示す。
図3Bに示すように、実施例3−1において、冷麦汁のBUに対する発泡性アルコール飲料のBUの割合(%)として算出されたBU移行率は、比較例3−1のそれより高かった。また、実施例3−1において、発泡性アルコール飲料のシュウ酸濃度は比較例3−1のそれより顕著に低かった。
【実施例4】
【0090】
100Lスケールにて、飲料を製造した。硬度調整剤としては、塩化カルシウム(CaCl
2・2H
2O、株式会社トクヤマ製)を使用した。すなわち、冷麦汁1Lに対し、無水物(CaCl
2)に換算して500ppmの量の塩化カルシウムを所定のタイミングで添加した。
【0091】
実施例4−1では、まず仕込槽において、大麦麦芽及び大麦を湯と混合して原料液を調製し、さらに、当該原料液の糖化を行った。次いで、糖化後の原料液をロイター槽でろ過した。その後、煮沸釜において、ろ過された原料液にホップを添加し、煮沸を開始した。
【0092】
煮沸を開始してから30分経過した時点で、煮沸中の原料液に、500ppm(全量)の塩化カルシウムを添加した。塩化カルシウムの添加後、さらに原料液の煮沸を60分間続けた。すなわち、原料液の煮沸時間は90分であった。煮沸後、原料液をワールプールに移送した。ワールプールから回収された原料液を冷却し、冷麦汁を得た。冷麦汁にビール酵母を1重量%添加して、アルコール発酵を開始した。アルコール発酵後、さらに貯酒を行った。貯酒後の発酵液を珪藻土でろ過し、約5体積%のアルコールを含む発泡性アルコール飲料を得た。
【0093】
比較例4−1では、仕込槽で500ppm(全量)の塩化カルシウムを添加し、その後は塩化カルシウムを添加しなかったこと以外は上述の実施例4−1と同様にして、約5体積%のアルコールを含む発泡性アルコール飲料を得た。そして、上述の各例において、冷麦汁のpH,BU及び成分濃度を測定した。
【0094】
図4には、その結果を示す。
図4に示すように、実施例4−1において、ホップあたり推定BUに対する冷麦汁のBUの割合(%)として算出されたBU移行率は、比較例4−1のそれより高かった。また、実施例4−1において、冷麦汁のシュウ酸濃度は、比較例4−1のそれより顕著に低かった。すなわち、原料液の煮沸開始後であって、煮沸終了前(すなわち、煮沸中)に塩化カルシウムを添加することによっても、BU移行率が向上し、シュウ酸濃度が低減された。
【実施例5】
【0095】
上述の実施例4−1において、ホップを添加して煮沸が開始された直後(塩化カルシウムが添加される前)の原料液の一部を採取し、当該採取された原料液を使用して試験を行った。硬度調整剤としては、塩化マグネシウム(MgCl
2・6H
2O、関東化学株式会社製)を使用した。すなわち、冷麦汁1Lに対し、無水物(MgCl
2)に換算して500ppmの量の塩化カルシウムを所定のタイミングで添加した。
【0096】
実施例5−1においては、まず原料液に500ppm(全量)の塩化マグネシウムを添加した。次いで、原料液をオートクレーブで煮沸した(105℃、60分)。煮沸後の原料液をろ紙でろ過して冷却し、冷麦汁を得た。
【0097】
実施例5−2においては、まず原料液をオートクレーブで煮沸した(105℃、60分)。次いで、煮沸後の原料液に500ppm(全量)の塩化マグネシウムを添加した。煮沸後の原料液をろ紙でろ過して冷却し、冷麦汁を得た。
【0098】
比較例5−1においては、原料液に塩化マグネシウムを添加せず、当該原料液の煮沸も行わず、採取された原料液をそのままろ紙でろ過して、冷麦汁を得た。そして、上述の各例において、冷麦汁の成分濃度を測定した。
【0099】
図5には、その結果を示す。
図5に示すように、実施例5−1及び実施例5−2において、冷麦汁のシュウ酸濃度は、比較例5−1のそれより高かった。すなわち、硬度調整剤として塩化マグネシウムを使用した場合には、冷麦汁のシュウ酸濃度を低減する効果は得られなかった。
【0100】
なお、本実施例5では、塩化マグネシウムを使用した場合のBU移行率について評価しなかったが、マグネシウム塩を使用した場合においても、カルシウム塩を使用した場合と同様、BU移行率の向上は達成されると考えられる。すなわち、BU移行率は、原料液のアルカリ度に影響される。飲料の製造に使用される天然水に含まれる陽イオンのほとんどはカルシウムイオン(Ca
2+)及びマグネシウムイオン(Mg
2+)であり、これらの陽イオンと、HCO
3−やCO
32−等の陰イオンとによって当該天然水のアルカリ度が調整される。そして、マグネシウムイオン(Mg
2+)は、カルシウムイオン(Ca
2+)と同様のアルカリ度調整作用を示す。したがって、マグネシウム塩を使用した場合においても、カルシウム塩を使用した場合と同様、BU移行率の向上は達成されると考えられる。