特許第6660181号(P6660181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6660181トリコデルマリーセイQM6aおよびその誘導体中の交配障害と関連する遺伝子/遺伝要素ならびにその同定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6660181
(24)【登録日】2020年2月12日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】トリコデルマリーセイQM6aおよびその誘導体中の交配障害と関連する遺伝子/遺伝要素ならびにその同定方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/15 20060101AFI20200227BHJP
   C12N 15/80 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   C12N1/15
   C12N15/80 Z
【請求項の数】11
【全頁数】119
(21)【出願番号】特願2015-550064(P2015-550064)
(86)(22)【出願日】2013年12月23日
(65)【公表番号】特表2016-501549(P2016-501549A)
(43)【公表日】2016年1月21日
(86)【国際出願番号】EP2013077910
(87)【国際公開番号】WO2014102241
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2016年10月4日
【審判番号】不服2018-10154(P2018-10154/J1)
【審判請求日】2018年7月25日
(31)【優先権主張番号】12199606.0
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/746,861
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512110525
【氏名又は名称】アーベー・エンザイムス・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ピー・クビチェック
(72)【発明者】
【氏名】リタ・リンケ
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルド・セイボス
(72)【発明者】
【氏名】トマス・ハールマン
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・ロレンツ
【合議体】
【審判長】 長井 啓子
【審判官】 中島 庸子
【審判官】 高堀 栄二
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
BIOSIS/CAPLUS/EMBASE/MEDLINE/WPIDS(STN)
GenBank/DDBJ/GeneSeq
Uniprot/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MAT1−2座を有するトリコデルマ リーセイ QM6a菌株またはその誘導菌株と交配する能力のないMAT1−1座を有するトリコデルマ リーセイ QM6a菌株またはその誘導菌株の交配障害を矯正するための方法であって、配列番号134の配列を持つ変異された遺伝子を、相当する機能的遺伝子を挿入することによって、補完することからなり、そして上記機能的遺伝子が配列番号:216、配列番号:226またはそれらの機能的に等しい配列よりなる群から選ばれ、上記機能的に等しい配列は配列番号:216または配列番号226の配列に対して少なくとも95%の相同性を有し且つトリコデルマ リーセイ QM6a株またはその誘導株の交配障害を矯正する、上記方法。
【請求項2】
請求項1の方法によって得られた、トリコデルマ リーセイ QM6aの真菌性自己交配能力のある菌株。
【請求項3】
対象製品の工業的生産に使用するのに適したトリコデルマ(ハイポクレア)属の真菌株であって、請求項1の方法によって得られ且つ対象製品をエンコードする遺伝子によって形質転換されている真菌株。
【請求項4】
対象製品の工業的生産のためへの請求項3による真菌株の使用。
【請求項5】
対象製品が食品用酵素、飼料用酵素、技術用酵素、ホルモン、免疫グロブリン、ワクチン、抗菌性蛋白質または抗ウイルス性蛋白質から選ばれる請求項3に記載の真菌株。
【請求項6】
対象製品が食品用酵素、飼料用酵素、技術用酵素、ホルモン、免疫グロブリン、ワクチン、抗菌性蛋白質または抗ウイルス性蛋白質から選ばれる請求項4の使用。
【請求項7】
配列番号:216、配列番号:226の配列またはそれから誘導される機能的に等しい配列を有する、トリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導菌株中の交配能力のために必須の遺伝子であって、上記機能的に等しい配列は、配列番号:216または配列番号226の配列に対して少なくとも95%の相同性を有し且つトリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導株における交配障害と関連している、上記遺伝子。
【請求項8】
リコデルマ リーセイQM6aの誘導菌株はQM9123、QM9136、QM9414、MG4、MG5、RUT−C30、RUT−D4、RUT−NG14、MCG80、M5、M6、MHC15、MHC22、Kyowa X−31、Kyowa PC−1−4、Kyowa PC−3−7、または、TU−6である、請求項1による方法。
【請求項9】
リコデルマ リーセイQM6aの誘導菌株は、QM9123、QM9136、QM9414、MG4、MG5、RUT−C30、RUT−D4、RUT−NG14、MCG80、M5、M6、MHC15、MHC22、Kyowa X−31、Kyowa PC−1−4、Kyowa PC−3−7、または、TU−6である、請求項2、3または5による菌株。
【請求項10】
リコデルマ リーセイQM6aの誘導菌株は、QM9123、QM9136、QM9414、MG4、MG5、RUT−C30、RUT−D4、RUT−NG14、MCG80、M5、M6、MHC15、MHC22、Kyowa X−31、Kyowa PC−1−4、Kyowa PC−3−7、または、TU−6である、請求項4による使用。
【請求項11】
リコデルマ リーセイQM6aの誘導菌株はQM9123、QM9136、QM9414、MG4、MG5、RUT−C30、RUT−D4、RUT−NG14、MCG80、M5、M6、MHC15、MHC22、Kyowa X−31、Kyowa PC−1−4、Kyowa PC−3−7、または、TU−6である、請求項7による遺伝子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は菌株トリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導菌株の交配障害と関連する遺伝子/遺伝要素に関する。本発明は、さらにトリコデルマ リーセイ QM6aおよびその誘導菌株中の交配障害と関連する遺伝子/遺伝要素を同定するための方法に関する。該方法は交配障害と関連する遺伝子/遺伝要素の速やかな且つ効率的な同定を可能とする。それ故、本発明は古典的な遺伝的手法による工業的生産者菌株を改良することを可能とするように、トリコデルマ リーセイを、改良され且つ平易化された菌株育成へ向けて処理するためのツールを開発するためのアプローチに関する。これは、菌株育成および維持におけるもう1つのツールを付加するに止まらず、トリコデルマ リーセイ(ハイポクレア ジェコリナ)の他の菌株から遺伝的形質を生産することおよび遺伝子の望ましくない実態変異および/または望ましくない遺伝子例えば抗生物質への抵抗性を与える遺伝子、マーカー遺伝子、副次的代謝、色素形成、望ましくない酵素等のための遺伝子から菌株を精澄にすることを可能とする。
【背景技術】
【0002】
糸状菌は細胞外蛋白質を高生産量で製造することができる。また、天然菌株中での有用な蛋白質の生産レベルは商業的開発のためにはあまりにも低すぎ、実質的な菌株改良計画を必要とすることになる(プント2002)。工業的な糸状菌では、これは古典的な変異誘発および/または目標とする遺伝子操作によって、蛋白質エンジニアリングと組合せて、伝統的になされている。基本的に、このアプローチは菌を変異誘発源の半致死量に付し(よく用いられる:例えばUV光による照射またはイオン化照射、ニトロソメチルグアニジン、エチルメタンスルホナートまたはエチジウム ブロマイドの如き化学的変異誘発物質の付加)そして続いて所望の製品を改良生産する生産菌をスクリーニングすることからなる。明らかに、このアプローチは選択された方法と同様なだけである。
トリコデルマ リーセイ(テレオモルフ ハイポクレア ジェコリナ)は酵素の工業的生産のための、便利で耐用性のある有機体である。ランダム突然変異源を用いて、学術的且つ工業的研究プログラムは、数10年間に亘り、ソロモン島で1944年に米国軍テントキャンバス地から単離された“最初の”ティー リーセイ株QM6aの酵素活性よりも数倍酵素活性が高いティー リーセイの菌株を製造していた(レクロムら2009)。
【0003】
しかしながら、菌株改良のためにランダム突然変異源を用いる主な抑制は、明らかに、それが明確な目標とする遺伝子に作用するように方向付けできないという事実を生じるものである。突然変異はこのように利益をもたらしそして目標とする遺伝子を改良しあるいは崩壊させるだけでなく、他の遺伝子にも影響を与え、例えば菌株安定性、低減された生長速度あるいはアミノ酸および/またはビタミンへの栄養要求性に制限を起す、望まない二次的損失に導くことにもなる。組換え技術はねらう目標を導入することによってこれらの問題を解消するものの、それは未知のもしくは多様な遺伝子または大きなゲノムフラグメントにより引き起こされる複雑な遺伝的形質のためには不適当である。
セイル(Seidl)ら(2009)は、性的再生産を行う、トリコデルマ リーセイの能力を記載した最初であった。分類学的に、ティー.リーセイ(およびそのテレオモルフ エイチ、ジェコリナ)はアスコマイセテス(Ascomycetes)の族(ソルダリロマイセテス(Sordariomycetes)綱)に属しそしてこの族内の雌雄異型である真菌類に属する。性的異質接合性とは異なる株や自家受精において成功裡の性的再生産が起るために必要な2つの交配型座MAT1−1とMAT1−2が可能でないことを意味している。
【0004】
性的再生産の過程中に、ティー.リーセイは造のう器を含有する渦巻状あるいは種々の特色のある構造によって開始される子のう殻を製造する。造のう器は交配中に核を受け取りそして二核性菌糸系を製造する細胞である。渦巻き内の細胞の1つが造のう器として作用しそして残りが不活性のままであるかあるいは全構造を取り囲むように分岐し且つ増殖する菌糸を生み出す。多くの場合、隣り合う菌糸は、同様に渦巻を包み込むように携わる。これらの取り囲んでいる菌糸は子のう殻の壁すなわち殻壁を形成するようにいずれ統合する(http://website.nbm−mnb.ca/mycologywebpages/NaturalHistoryOfFungi/SordariomycetesDiscussion.html)(図3)。
ティー.リーセイにおける子のう殻の形成が起り、子のう果形成が造のう器の受精とともに始まるという子のう処女膜的意味である。始原体は引き続き生殖力のある、子のう遺伝子の多い菌糸から直接真の子実層へと分化する。処女膜的発育は、このように、生殖力のある菌糸の受精と分化で始まり、子のう果の発育に続く。子座(子実体)は、それ故、性的再生中雌として作用するパートナーによって形成される。
【0005】
今日、産業で用いられるティー.リーセイの全株は、全て、QM6aの株が有しているのと同じように、MAT1−2座を有しているQM6aに戻って追跡することができる。異なる産業的株を好ましい特性を導入することによりさらに改良するために、あるいは例えば抗生物質への抵抗性を生み出す遺伝子や規定された要求にその存在が邪魔になる望ましくない生成物をコードする遺伝子の如き遺伝子や望ましくない遺伝子との交雑からの株を取り除くために、お互いと交配することは現在のところ可能ではない。
異なるティー.リーセイ突然変異体株を交配する非可能性を解消しうる可能性は、交配型座を同じゲノム座における反対の座によって交換することであろう。ティー.リーセイ QM6aの場合、これはMAT1−2座をMAT1−1座と交換することを意味する。
【0006】
カン(Kang)ら(1994)は、MAT座が交換されたマグナポルテ グリシア(Magnaporthe grisea)の株は、反対の交配型の株(すなわち、MAT1−2座がMAT1−1座で交換された株は元のMAT1−2保持株と交配するとき結実能力があった)と交配するとき結実能力があったことを示している。交配型座の成功裡の交換はニューロスポラ クラサ(Neurospora crassa)(チャン(Chang)、1994)についても記載されている。
特許文献1は糸状真菌株の性的挙動を改善するために交配型スウィッチングを使用することに関する。アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)を、雌雄異型真菌すなわち2つの反対の交配型を持つ1つまたはそれ以上の株の組合せをもたらす反対の交配型を持つ糸状真菌体への形質転換するように、アスペルギルス ニガーとアスペルギルス トゥビジェンシス(Aspergillus tubigensis)の交配型の同定を開示している。
【0007】
セイル(Seidl)ら(2009)は、ティー.リーセイ株QM6a中に補完的交配型座(MAT1−1)を異所的に導入しそれによって交配型座(MAT1−1とMAT1−2)の両方を保持する株を作成した。この株はMAT1−1またはMAT1−2のいずれかを保持するティー.リーセイ テレモルフ エイチ.ジェコリナの天然型株と交配して結実する能力があった。しかしながら、株QM6aおよびその誘導体(全てMAT1−2)との交配ではこの菌株は結実する能力がないことが見い出された。
これらの結果−両方の交配型を保持するQM6a株はエイチ.ジェコリナのMAT1−1とMAT1−2株と子実体を形成することができるがQM6aとはそうではない−から、ティー.リーセイ QM6aは雄性パートナーとして作用しうるが子実体を製造することができず、それ故雌性結実能力を有さないと結論される。恐らく、交配能力を維持するための選択的加圧操作なしに、60年間以上も実験室で保持されたことが、性的再結合に必要な遺伝子の1つまたはそれ以上に突然変異をもたらしたものと思われる。
【0008】
このように、トリコデルマ リーセイ QM6a株の該交配障害に関連する遺伝子の速やかな且つ効率的な同定を可能とする方法の必要性が従来技術には存在している。これまで、トリコデルマ リーセイ QM6aのゲノム中の交配障害と関連する遺伝子は今まで同定されたことも、特徴づけられたこともなかった。この理由は、主に性的交配を用いる古典的遺伝子的アプローチはその自家不妊性によりトリコデルマ リーセイ QM6aについては確立されなかったという事実によるものである。さらに、どの遺伝子がQM6aの自家不妊性に寄与あるいは原因となっているのかは知られていなかった。これまで、QM6aのゲノム(34.1Mbp)中の9143のアノテートされた(annotated)遺伝子のどれがその自家不妊性と関連するのかは全く知られていない。ティー.リーセイ QM6aの遺伝子はマルチネス(Martinez)ら(2008)に発表されている。ティー.リーセイ核酸配列および注釈データはアクセションナンバーAAIL 00000000で遺伝子バンク(GenBank)に寄託されている。
本発明者は、最近、QM6aのMAT1−2座を、同じゲノム位置で、反対の交配型(MAT1−1)で局所的に置き換えたが、ティー.リーセイ QM6a誘導MAT1−2株で、得られたMAT1−1株を交配することは、自家不妊性を実験で明らかにすることでは成功しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2011/095374号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それ故、本発明の目的は、ティー.リーセイ QM6a株およびその誘導体の交配障害に関連する遺伝子/遺伝要素を同定し且つ提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、ティー.リーセイ QM6aの交配障害と関連する遺伝子の速やかな且つ効率的な同定をするための方法を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、トリコデルマ リーセイ QM6aおよびその誘導体の交配能力を回復するための方法を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、ティー.リーセイ QM6aおよびその誘導体の交配能力のある形態を提供することにある。本発明の他の目的は、トリコデルマ リーセイ QM6aおよびその誘導体の遺伝子情報を性的に組み換える方法を提供することにある。本発明のさらに他の目的は性的サイクルを有するトリコデルマ リーセイ QM6a株またはその誘導株を製造することにある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは驚くべきことにトリコデルマ リーセイ株QM6aまたはその誘導株の交配障害は当該有機体の限定された遺伝子/遺伝要素および限定された遺伝子/遺伝要素における変異によって起こされそして該変異を修正もしくは除去することによって、すなわち該当する遺伝子/遺伝要素を機能的相対物で置き換えるかあるいは完全にもしくは部分的に欠如している遺伝子/遺伝要素を挿入することによって、修正されることを見い出した。該遺伝子/遺伝要素の機能的相対物はトリコデルマ リーセイ QM6aの交配能力を回復する遺伝子または遺伝要素である。該能力は、第3表に記載されているとおり、遺伝子または遺伝要素が交配過程でその機能を発揮するような程度にまで変異を修正することによって該遺伝子/遺伝要素に付与される。好ましくは、それぞれの遺伝子/遺伝要素の全ての変異が修正される。
【0013】
さらに、トリコデルマ リーセイ QM6a株またはその誘導株に対し、戻し交配の技術がトリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導株における交配障害(雌性不妊遺伝子)と関連する遺伝子または遺伝要素を同定するために有利に用いられることも見い出された。加えて、ある遺伝子における変異はトリコデルマ リーセイ QM6aにおける交配障害と関連していることが判った。変異は単純ポイント変異、挿入もしくは除去であり、それによって除去は存在する遺伝子内の除去あるいは遺伝子/遺伝要素それ自体の完全なもしくは部分的な除去であることができる。
上記遺伝子もしくは遺伝要素情報はトリコデルマ リーセイ QM6aの交配障害に役に立つかあるいは交配障害を−単独でまたは組合せで−引き起す理由となる。このように、該遺伝子/遺伝要素/遺伝情報は該有機体の交配障害と直接あるいは間接的に関連している。
【0014】
トリコデルマ リーセイ QM6aおよびその誘導株の交配障害と直接関連する遺伝子/遺伝情報は、一般に、機能性の完全なもしくは部分的欠如が該当する有機体と交配したとき子実体の生成を低減もしくは完全に喪失させる遺伝子である。用語“交配障害(mating impairment)”は、損なわれたあるいは低減された交配能力の全ての度合に関係するものである。低減された交配能力は、生存可能な子のう胞子を持つ成熟した子実体が見られるまで、実質的に延長された時間見られる。該当する遺伝子および/または遺伝要素は、例えば成功裡の交配のために必要なフェロモン受容体をエンコードする遺伝子あるいは器官をエンコードする遺伝子の如き、トリコデルマ リーセイ QM6aおよびその誘導体の交配能力に直接影響する器官または代謝機序に直接影響を与える。遺伝要素は、蛋白質に翻訳されないが、トリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導株の交配挙動に直接あるいは間接的に関連する遺伝情報を包含してなる。該遺伝情報は蛋白質の表現の制御または統制のために必要である。遺伝要素はプロモーター、エンハンサー、アクティベーター、レギュレーターもしくは表現制御配列であることができる。
【0015】
トリコデルマ リーセイ QM6aおよびその誘導株の交配障害と間接的に関連する遺伝子/遺伝要素は、該有機株の交配障害と直接関連しないが、トリコデルマ リーセイ QM6aおよびその誘導体が該当する有機体と交配する能力に間接的に影響する形態学的構造や代謝機序に関係する遺伝子である。例えば菌糸細胞壁構造や菌糸分岐と関連する遺伝子の変異はトリコデルマ リーセイ QM6aおよびその誘導株の交配能力に間接的に影響を与える。該遺伝子の機能は該遺伝子によってエンコードされる蛋白質によって遂行される。該遺伝子/遺伝要素は相当する蛋白質の表現や制御のためにも必要である(例えばプロモーター、エンハンサー、アクティベーター、レギュレーター、イニシエーター、表現制御配列の蛋白質)。
【0016】
<発明の要旨>
それ故、本発明は、トリコデルマ リーセイ(Trichoderma reesei)QM6aの菌株またはその誘導菌株の交配障害に関連する遺伝子/遺伝要素を同定するための方法であって、下記工程
a)MAT1−2座を有するトリコデルマ リーセイ QM6a菌株またはその誘導菌株である第1菌株を用意し、
b)該菌株を、相補的MAT1−1座を有するトリコデルマ リーセイ(ハイポクレア ジェコリナ(Hypocrea jecorina))菌株の交配能力のある菌株である第2菌株と、性的に交配させ、
c)b)の交配からのMAT1−1子孫またはその戻し交配体を、第1トリコデルマ リーセイ QM6a菌株またはその誘導菌株と実質的に同じであるが、MAT1−1座を有しそしてトリコデルマ リーセイ QM6aまたはそのMAT1−2子孫と交配するための交配能力のある菌株が得られるまで、a)の第1菌株と繰返し戻し交配させ、
d)MAT1−2座を有するトリコデルマ リーセイ(ハイポクレア ジェコリナ)と交配するための交配能力のある、工程c)からの子孫を選択し、そして
e)工程d)で選択された子孫のゲノムをa)の第1菌株のゲノム配列と比較することにより交配障害と関連する遺伝子/遺伝要素を同定し、それによって該遺伝子/遺伝要素が変異形態中にあるいは第1菌株に削除および/または挿入のある形態中に完全にもしくは部分的に欠損するかあるいは存在しかくしてトリコデルマ リーセイ QM6aの菌株またはその誘導菌株中の交配障害と直接または間接的に関連する遺伝子または遺伝要素であることを同定する、
からなる上記方法に関する。
【0017】
本発明は、さらに、上記特徴e)により同定される交配障害と関連する遺伝子/遺伝要素に相当する交配能力のある菌株の機能的遺伝子および/または遺伝要素を、MAT1−1座を有するトリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導菌株中に挿入しそして該菌株を、MAT1−2座を有するトリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導菌株と交配する工程をさらに含み、それによってMAT1−1座を有し且つ上記のとおり同定された遺伝子/遺伝要素を挿入されたトリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導株による子実体の形成が該遺伝子/遺伝要素の該交配障害との直接関連を示している、上記に記載の方法に関する。
【0018】
本発明は、さらに、上記特徴e)により同定された交配障害と関連する遺伝子/遺伝要素に相当する機能的遺伝子および/または遺伝要素と関連する交配能力のある表現型(フェノタイプ)を同定するための方法であって、
a)交配能力のあるトリコデルマ リーセイ QM6a MAT1−1株を準備し、b)上記機能的遺伝子または遺伝要素を非機能的とし、そしてc)該トリコデルマ リーセイ QM6a MAT1−1菌株の交配能力を測定する、
ここで、該トリコデルマ リーセイ QM6a MAT1−1菌株の陽性交配能力は交配能力のある表現型にとって、該遺伝子または遺伝要素が必須でないことを示しており、そして該トリコデルマ リーセイ QM6a MAT1−1菌株の陰性交配能力は交配能力のある表現型にとって該遺伝子または遺伝要素が必須であることを示している、上記方法に関する。
【0019】
さらに、本発明は、交配能力のないトリコデルマ リーセイ QM6a株またはその誘導株の自己交配能力を回復する方法であって、交配障害と関連する、1つまたはそれ以上の変異されたあるいは完全にもしくは部分的に欠如している遺伝子が相当する機能的遺伝子によって置換されるかあるいは補完される、上記方法に関する。本発明は、上記の方法によって得られたまたは得られ得るトリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導菌株の自己交配能力のある菌株に関するものでもある。
本発明は、さらに、対象製品の工業的生産に使用するのに適したトリコデルマ(ハイポクレア)属の真菌株であって、上記株はトリコデルマ リーセイ QM6aおよびその誘導株であり、そして交配能力が上記のようにして修正され且つ対象製品をエンコードする標的遺伝子および/または遺伝子によって形質転換されている真菌株に関する。
さらに、本発明は、上記方法によって得られた、トリコデルマ リーセイ QM6aの株中の交配障害と関連し、同封したシーケェスリスティングの配列の配列番号:8〜155および配列番号:163〜174の配列を有する遺伝子/遺伝要素ならびに同じ機能が遂行される限り、遺伝コードの縮退、相同性および/または同一性による該配列に関連する配列に関する。
【0020】
本発明は、同様に、交配能力に関して機能的遺伝子であり且つトリコデルマ リーセイ QM6aの雌性不妊性を回復するに好適な、天然型有機体ハイポクレア ジェコリナに相当する遺伝子に関する。
特に、本発明は、配列番号:8〜155および配列番号:163〜174の機能的対応物すなわち第3表に記載された変異株の少なくとも1つおよび好ましくは全てが修正された配列番号:8〜155の配列に関する。本発明は、さらに、該修正された遺伝子の変異体および変異株ならびに交配能力が維持される限りにおいて、配列番号:163〜174の欠損遺伝子の変異体および変異株に関する。変異体および変異株は沈黙および非沈黙変異、挿入、削除または配列付加を包含する。変異は好ましくは保守的変異である。
本発明は、同様に、ハイポクレア ジェコリナの該遺伝子の機能的対応物に関する。但し、該遺伝子はトリコデルマ リーセイ QM6aの雌性不妊性を回復する能力をまだ有しているものとする。該機能的対応物は、不妊性を授ける変異のみが修正された遺伝子である。
本発明は、特に配列番号:40、配列番号:110、配列番号:112および配列番号:134を有する遺伝子の機能的対応物すなわち配列番号:216、配列番号:218、配列番号:220および配列番号:222またはこれから誘導される機能的に等価の配列に関する。
【0021】
<本発明の説明>
該遺伝子の配列および推定的にエンコードされる蛋白質自体は知られておりそしてマルチネス(Martinez)ら(2008)により発表されているが、それらのいずれの交配障害に関する機能もこれまでに説明されてはいない。さらに、該遺伝子の配列は配列リストおよび相当する遺伝子へのさらなるリンクに特定されているとおりのアクセス番号でNCBIデータベースから取り出すことができる。配列番号:26、72、82、84、94、96、100、70、106、120、130、140および154が新たにアノテートされた。さらに、該遺伝子の変異は該有機体の交配障害特に雌性不妊性と関連していることは今まで知られていなかった。しかしながら、該データベースから、該配列はトリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導株における変異された配列であり、該有機体の交配能力の部分的もしくは完全な欠損と関連しておりそしてその遺伝子を機能的遺伝子によってどうのようにして置換するかとういことは明らかではない。
【0022】
しかしながら、同定された遺伝子がトリコデルマ リーセイ QM6aにおける交配障害と関連していることは知られていなかった。変異、挿入および削除により、該遺伝子がトリコデルマ リーセイ QM6aの交配障害と関連することがさらに見い出された。該遺伝子を非変異のおよび/または完全な形態で置き換えることはトリコデルマ リーセイ QM6aの交配不能性を修正して性的交配によってQM6aの工業的に重要な株の生産を可能にすることになる。かくして、本発明者は、ティー.リーセイ QM6a MAT1−1の不能性をティー.リーセイ QM6a MAT1−2と交配して修正する遺伝子を見い出した。本発明者は、変異された形態であると考えられている現在存在する形態では、該有機体の交配障害と関連している、トリコデルマ リーセイ QM6aにおける遺伝子の位置を突き止めることを可能とした。本発明者は、さらにトリコデルマ リーセイ QM6aは、その存在が交配能力と関連しそしてその完全なあるいは部分的欠損が交配障害と関連する、幾つかの遺伝子を欠損していることを見い出した。該交配障害は、トリコデルマ リーセイ QM6aがティー.リーセイMAT1−1有機体と交配する能力の完全なあるいは部分的な欠損の形態と関係し、特に該有機体の雌性不妊性と関係する。このように、該遺伝子はトリコデルマ リーセイ QM6aの株における雌性不妊性と関連する遺伝子として考えられている。該遺伝子を、上記方法の最終的交配能力子孫の相当する遺伝子と比較すると、相当する機能的遺伝子を取り出すことができる。該比較は、どの遺伝子の違いまたは遺伝子の欠損が該有機体の観察された交配障害と関連しているかを明らかにする。このように、交配能力、特に雌性交配能力と関連する遺伝子は、それぞれ交配障害および雌性不妊性と関連する、ティー.リーセイ QM6aの相当する遺伝子を修正するためのテンプレートとして用いられる。
【0023】
用語“交配障害”はトリコデルマ リーセイ QM6aおよびその誘導体の相当する有機体と交配する能力障害のいかなる形態とも関連している。交配障害はトリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導体の完全なもしくは部分的な交配障害である。好ましくは、交配障害は、トリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導株の雌性不妊性に関係する。交配障害は、図3に示されているように子のう菌類の性的サイクルの部分もしくは構造、例えば受精、精子形成あるいは性決定における欠損に関連する。
上記同定した遺伝子および/または遺伝要素はトリコデルマ リーセイ QM6aの株またはその誘導株における交配障害と直接あるいは間接的に関連している。これは、該遺伝子および/または遺伝要素がそれぞれの交配障害のタイプについて寄与しているかあるいは原因となっていることを意味している。同じことが遺伝子の変異型における変異、挿入または削除についてもいえる。機能的型からの該違いは交配障害の原因となっているかあるいはそれに寄与しているかのいずれかである。
このように、本発明は、トリコデルマ リーセイ QM6a株における交配障害と関連していると同定された遺伝子/遺伝要素配列番号:8〜155および配列番号:163〜174に関する。掲載配列表の配列番号:8〜155の配列は変異された配列と考えられそして第3表に示された該配列の変化、挿入およびまたは削除は改良された交配能力と関係している。
【0024】
本発明は、さらにハイポクレア ジェコリナに存在するだけであり、トリコデルマ リーセイ QM6aにその対応物を持たない、配列番号:163〜174の遺伝子/遺伝要素に関する。該配列およびトリコデルマ リーセイ QM6aの交配障害に対するそれらの寄与は以前は知られていなかった。該遺伝子配列に関する本発明によるさらなる機能的内包は第4表に示されている。
上記遺伝子はトリコデルマ リーセイ QM6aの全交配能力を回復するために相当する機能的遺伝子によって修正されあるいは単独でもしくは組合せで置換される。相当する完全に機能的な対応物は天然型ハイポクレア ジェコリナMAT1−1に存在し、そしてトリコデルマ リーセイ QM6a MAT1−2の同定された遺伝子および/または遺伝要素の配列を、それぞれトリコデルマ リーセイCBS 1/A8 02、MAT1−1、トリコデルマ リーセイCBS2/A8−11または天然型ハイポクレア ジェコリナMAT1−1の相当する遺伝子および/または遺伝要素の配列と比較することによって知られる。配列は、それ自体公知の方法によって遺伝子を配列させることで提供される。配列番号:163〜174によるトリコデルマ リーセイ QM6aに欠如している遺伝子は、トリコデルマ リーセイ QM6aの交配能力を回復するために単独であるいは組合せで挿入される。該遺伝子の挿入は、変異、挿入または削除の上記修正と組合せてもよい。
【0025】
好ましくは、下記遺伝子が相当する非変異/完全遺伝子で置換され/補完される:配列番号:16、配列番号:50、配列番号:70、配列番号:86、配列番号:94、配列番号:96、配列番号:106、配列番号:120、配列番号:128、配列番号:163、配列番号:165、配列番号:169、配列番号:171。修正され/補完されるべき遺伝子のためのさらに好ましい群は配列番号:8、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:132、配列番号:134、配列番号:150、配列番号:152、配列番号:18、配列番号:14、配列番号:126、配列番号:130、配列番号:154、配列番号:167、配列番号:168、配列番号:173および配列番号:174である。
さらに、好ましくは、下記遺伝子が相当する非変異/完全遺伝子で置換され/補完される:配列番号:36、配列番号:40、配列番号:56、配列番号:58、配列番号:60、配列番号:66、配列番号:68、配列番号:72、配列番号:82、配列番号:92、配列番号:100、配列番号:110、配列番号:112、配列番号:118、配列番号:120、配列番号:122、配列番号:124、配列番号:134、配列番号:138、配列番号:144、配列番号:146、配列番号:148および配列番号:152。
もっと好ましくは、下記遺伝子が相当する非変異/完全遺伝子で置換され/補足される:配列番号:40、配列番号:110、配列番号:112および配列番号:134。
交配能力と関連するさらに好ましい配列は、配列番号:224、配列番号:226、配列番号:228または配列番号:230である。
【0026】
本発明は、特に、トリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導体の交配能力に必要とされる下記遺伝子に関する:配列番号:216、配列番号:218、配列番号:220および配列番号:222。
本発明は、同様に、該配列の機能的等価配列例えば遺伝コードの縮退による関連した配列または該配列にある程度の相同性例えば80%、好ましくは90%、さらに好ましくは95%〜98%の相同性を有する配列に関する。
本発明は、さらに、トリコデルマ リーセイ QM6aの株またはその誘導株における交配障害と関連すると同定された修正遺伝子/遺伝要素によってエンコードされるポリペプチドに関する。
特に、本発明は、配列番号:220の核酸888〜2790、配列番号:218の核酸1263〜2726、配列番号:222の核酸990〜3107または配列番号:216の核酸919〜6039によってエンコードされるポリペプチドに関する。該ポリペプチドは、交配能力と関連しておりそして配列番号:221、219、223および217に相当している。本発明は、同様に、交配能力と関連しそして配列番号:220のコード配列、配列番号:218のコード配列、配列番号:222のコード配列または配列番号:216のコード配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも98%の配列同一性程度を有するポリペプチドに関する。但し、この場合変異の修正が維持され且つ配列は交配能力と関連しているものとする。
【0027】
配列同一性程度は、好ましくは比較と関係し且つ他の配列の“相当する”対応物を有する、より短い配列の残りの数が決定されるようなやり方で決められる。本発明の目的のためには、同一性は好ましくは通常の計算法を用いて通常のやり方で決定される。本発明によれば、それぞれの感熟蛋白質のcDNA類またはアミノ酸のみが比較のために用いられる。同様に、好ましい同一配列対応物は公知のコンピュータープログラムによる同一配列として本発明により決定される。そのようなプログラムの例は、プログラム パート アライン プラス(Align Plus)を包含しそして米国ノースカロライナ州、ダラム(Durham)のサイエンティフィック アンド エデュケーショナル ソフトウェア社から配布されているクローン マネージャー スイート(Clone Manager Suite)がある。上記したような2つのDNA配列またはアミノ酸配列の比較は、それ故、FastScan−MaxScore法によるかまたはNeedleman−Wunsh法によって、デフォルト値を維持しつつ、選択局所整列化(option local alignment)の下で実施される。“2つの配列の比較/局所迅速走査−マックススコア/DNA配列の比較(Compare Two Sequences/Local Fast Scan−MaxScore/compare DNA sequences)”またはアミノ酸については“2つの配列の比較/グローバル/アミノ酸としての配列の比較(Compare Two Sequences/Global/Compare sequences as Amino Acids)”機能を備えた、プログラム・バージョン“クローン マネージャー 7アライン プラス5(Clone Manager 7 Align Plus 5)”が本発明による同一性を計算するのに特に使用された。次の文献から入手できる計算法がここでは用いられた:ヒルシュバーグ、ディー.エス(Hirschberg,D.S.)1975、最大の共通サブ配列を計算するための線形空間計算法(A linear space algorithm for computing maximal common snbsequences)、Commun Assoc Comput March 18:341−343;メイヤー,イー.ダブル(Mayer,E.W.)およびダブル.ミラー(W.Miller)1988、線形空間における最適な整列化(Optional alignments in linenr space)CABIOS 4:1、11−17;チャオ.ケーエム(Chao,K−M)、ダブル.アール.パーソン(W.R.Pearson)およびダブル.ミラー(W.Miller)1992、特定の対角帯内の2つの配列の整列化(Aligning two sequences within a specified diagonal band)CABIOS 8:5、481−487。
【0028】
本発明はさらに、交配能力と関連する上記したポリペプチドの付加分子および/または削除分子に関する。このように、本発明による交配能力と関連されるポリペプチドはN−末端および/またはC−末端にさらなる配列を付加することによって長鎖とされる。かくして得られたアミノ酸配列は、依然として交配能力を有している。
交配能力と関連されるポリペプチドの配列セグメントは修正された変異が維持される限りにおいて本発明により削除されてもよい。変異・長鎖化および短鎖化はそれ自体公知の方法でおよび当該技術分野で周知の方法の助けを借りて実施される。
このような変化体の製造は当該技術分野で一般に知られている。例えばポリペプチドのアミノ酸配列変化体はDNAにおける変異によって製造することができる。核酸配列における変異や変化のための方法は当該技術分野において周知である(例えばトミック(Tomic)ら、NAR、18;1656(1990)、ギーベル(Giebel)とスプルティス(Sprtiz)NAR、18:4947(1990)参照)。
【0029】
対象としている蛋白質の生物活性に負の影響を与えない適切なアミノ酸置換体の詳細は、デイホフ(Dayhoff)ら、蛋白質配列と構造の地図(Atlas of Protein Sequence and Structure)Natl,Biomed,Res.Found.,ワシントン ディー.シー.(1978)によるモデル中に見つけられる。アミノ酸を同様の性質を持つ他の1つで置換するような保存的置換が好ましい。これらの置換は同時に4つのサブグループを備えた2つの主グループに分割されてもよく、各サブグループにおける置換は、蛋白質の活性あるいは折りたたみに好ましくは影響を与えない保存的置換といわれる。
【0030】
【表1】
【0031】
本発明は、さらに、トリコデルマ リーセイ QM6a株またはその誘導株における交配障害と関連するとして同定された遺伝子/遺伝要素の修正されたDNA配列に関する。特に、本発明は核酸888〜2790、または配列番号:220のコード用配列、核酸1263〜1476または配列番号:218のコード用配列、核酸990〜3107または配列番号:222のコード用配列あるいは核酸919〜6039または配列番号:216のコード用配列を有するかまたは含有してなる。
【0032】
さらに、特許請求された核酸配列および特許請求されたその部分と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%の相同性を含むこれらの配列が開示されている。但し、相当する配列が交配能力と関連しておりしかも変異の修正が維持されているものとする。好ましくは、相同性は70〜100%、さらに好ましくは80〜100%、最も好ましくは90〜100%である。相同性は同一性の程度として定義される。この目的のために、同一性の程度は、好ましくはこの比較に加わり且つ他の配列中に“相当する”補体を有する比較的短い配列の残りの数が決定されるやり方で定義される。相同性は、好ましくは、通常の計算法を用いる通常の方法によって決定される。相当する成熟蛋白質のcDNAのみがこの比較のために考慮される。同様に、好ましくは、同一配列補体が公知のコンピュータープログラムによって相同配列として決定される。そのようなプログラムの例は、プログラム パート アライン プラス(program part Align Plus)を含みそして米国ノースカロライナ州、ダラムのサイエンティフィック アンド エデュケーショナル ソフトウェア社によって配布されている、クローン マネージャー スイートである。この目的のために、上記定義されたとおり、2つのDNA配列の比較が、デフォルト値を維持しつつ、FastScan−MaxScore法を介するかまたはNeedleman−Wunsh法を介する選択局所整列化の下で、引き起こされる。本発明によれば、“2つの配列の比較/局所迅速走査−マックススコア/DNA配列の比較”機能を備えたプログラムバージョン“クローン マネージャー 7 アライン プラス 5”が相同性の決定のために特に用いられた。この目的のために、次の文献で入手可能な計算法が用いられた:ヒルシュバーグ,ディー.エス.(1975)最長の共通サブ配列を計算するための線形空間計算法、Commun Assoc Comput Mach 18:341−343;メイヤー,イー.ダブルとダブル.ミラー(1988)線形空間における最適な整列化、CABIOS4:1、11−17;チャオ、ケーエム、ダブル.アール、ピーソンとダブル.ミラー(1992)特定の対角帯内の2つの配列の整列化、CABIOS8:5、481−487。
【0033】
本発明は、さらに、遺伝コードの縮退のために、本発明による配列およびその対立遺伝子変異に関係するDNA配列に関する。遺伝コードの縮退は自然縮退により起るあるいは特に選ばれたコドンの使用による。自然対立遺伝子変異は、例えばポリメラーゼ チェイン リアクション(PCR)やハイブリッド形成法の如き分子生物学のよく知られた方法を用いて同定される。
【0034】
本発明は、また交配能力と関連しておりそして配列の変異、改質又は変化を包含する交配障害性変異の修正を維持するDNA配列に関する。さらに、本発明は、上記した配列とリラックスしたまたは厳しい条件下でハイブリダイズする配列に関するものでもある。次の条件は厳しいと考えられる:デキストランサルフェート溶液(ジーンスクリーンプラス、デュポン社)中65℃、18時間ハイブリッド化、続いて、フィルターの洗滌30分間、それぞれ65℃で最初に6×SSC、2度2×SSC、2度2×SSC、0.1%SDSそして最後に0.2×SSC(薄膜移動と検出法、アメルシャム(Amersham))
トリコデルマ リーセイ QM6aから誘導される株は、例えば、ティー.リーセイ QM6aから1つまたは引き続く複数の工程で慣用の突然変異誘発(UV、ガンマ線照射、ニトログアニジン処理およびその他)の如きそれ自体公知の技術あるいは組み換え技術によって誘導された株であり、例えば当業者に知られているQM9123、QM9136、QM9414、MG4、MG5、RUT−C30、RUT−D4、RUT−M−7、RUT−NG14、MCG77、MCG80、M5、M6、MHC15、MHC22、Kyowa X−31、Kyowa PC−1−4、Kyowa PC−3−7、TU−6およびその他である。該株はCBS、ATCC,DSMZの如き公知の微生物保存機関から得ることができる。
【0035】
支配障害と関連する遺伝子を同定するための本発明の方法では、MAT1−2座を持つトリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導株である最初の親株が準備される。該株は相補MAT1−1座を有するトリコデルマ リーセイ(ハイポクレア ジェコリナ)の交配能力のある株である第2株と交配される。該株はCBS(微生物培養中央局)あるいはATCC(アメリカンタイプカルチャーコレクション)の如き国際的培養物集積機関から、MAT1−1対立因子を持ちそしてティー.リーセイ QM6aおよびその誘導体と、またはMAT1−2対立因子を持つ他のエイチ.ジェコリナ株と交配されたとき、繁殖力のある子実体を形成するためのハイポクレア ジェコリナ(ティー.リーセイのテレオモルフ)天然形単離体を選択することによって得られた。繁殖力のある子実体の形成は、このようにして得られた子のう胞子が発芽するかどうかをチェックするなどの簡単なテストによってチェックすることができる。該株の好ましい例はCBS999.97 MAT1−1株またはドルチニナ(Druzhinina)らにより2010にリストされたものの如き他の交配能力のあるMAT1−1トリコデルマ リーセイ(ハイポクレア ジェコリナ)株である。
【0036】
交配用パートナーとしてQM6a/MAT1−2を用いて成功裡に性的再生産を行うことが可能なQM6a/MAT1−1株を得るために、QM6a/MAT1−1株は、ティー.リーセイ QM6a/MAT1−2株の交配障害と関連して同定された遺伝子の機能的変異物を含有するプラスミドを用いて形質転換される。陽性形質転換体はティー.リーセイ QM6a MAT1−2との交配用試験に付される。交配は、繁殖力のある子実体の形成によって証明された。それらの繁殖力は子のう胞子を単離しそしてそれが発芽しそして菌糸体に生育することで、対立する交配用パートナーと交配することが可能であることを示すことによって試験された。
特に、修正された候補遺伝子およびティー.リーセイ QM6a/MAT1−2株(ATCC13631)で補完されたティー.リーセイ QM6a/MAT1−1の陽性形質転換体は、トリコデルマ リーセイにとって好適な交配条件下で共培養される。実施例3に実施計画の例が示されている。繁殖力は子実体から子のう胞子を単離し、それを発芽させそして得られるコロニーが交配可能であることを示すことによって試験された。陽性の交配結果は、可視可能な形態変化、細胞−細胞融合および二核体の形成によって証明される。
【0037】
天然エイチ.ジェコリナMAT1−1株はティー.リーセイ QM6aおよびその誘導株と交配されそして繁殖力のある子実体を作り、一方これはMAT1−2がMAT1−1に対し交換されたティー.リーセイ株では起らないので、本発明者はティー.リーセイ QM6aの遺伝子はこの不成功の理由となる遺伝的特徴を含んでいるに違いないと結論した。すなわち、原因となる遺伝的特徴と相当する遺伝子は、理論的には、エイチ.ジェコリナMAT1−1株の1つの遺伝子を配列させることによって同定される。しかしながら、この戦略には重大な障害がある:ティー.リーセイとエイチ.ジェコリナの天然型株はそれらの染色体に平均して0.5〜1.5%の核酸変異を示す。染色体が仮に34.1Mbpであるとすると、これはティー.リーセイおよび/またはエイチ.ジェコリナの2つの天然型株は170500〜511500の核酸の違いがあることを意味している。それらの大部分が遺伝子に起らないとしても、そして仮にそうだとしても、沈黙変異をもたらすことになり、非沈黙核酸交換を示す遺伝子の数は雌体繁殖力と関連した遺伝子を同定するに用いるにはあまりにも多すぎるようである。
【0038】
それ故、この核酸の違いの背景を、まずエイチ.ジェコリナ MAT1−1に対して、続いて得られる子孫からの株に対して、ティー.リーセイ QM6aの幾つかの繰返し交配によって低減させることに決定した。遺伝学の法則により、性的交配の子孫はMAT1−1親株の遺伝子50%とMAT1−2親株の遺伝子50%を有する。MAT1−1を持つこれらの子孫の1つが再び交配すると、MAT1−1株に由来する遺伝子量を50%だけさらに低減し交配2回目の後には元の25%となる。さらに繰返すと元のMAT1−1遺伝子の量の12.5%(3回目)、6.25%(4回目)、3.125%(5回目)、1.56%(6回目)、0.78%(7回目)および0.39%(8回目)となる。ティー.リーセイ/エイチ.ジェコリナが9143のアノートされた遺伝子を有している事実からすると、これは験べる候補遺伝子の数を、8回目の交配世代では、その全てがティー.リーセイとMAT1−1株の間の核酸の違いを有しているわけではないが、357に低減することになる。しかしながら、これをさらに低減させるために、3回目の交配で生じる子孫が8回目の世代まで別々に交配される2つの株群に分けられた。各工程において生じるMAT1−1子孫が依然としてQM6aと繁殖性子実体を生成しうる能力が証明された。
【0039】
戻し交配が数学的計算により親株すなわち最初の株と実質的に同じ株が得られるまで繰返される;戻し交配は、もし正しい遺伝子で生じる可能性が比較的高いことを望むなら、8回よりも多く繰返される。理論的には、全部で19回の戻し交配が0.00014%(=1/9143;ティー.リーセイ遺伝子の中のアノートされた遺伝子の数は9143である)のMAT1−1遺伝子パーセンテージに到達するのに必要となる。戻し交配は通常5〜19回、好ましくは6〜12回、より好ましくは7〜10回、さらに好ましくは8〜9回そして最も好ましくは8回繰返される。このように、親株と実質的に同じである株は該株が経験した戻し交配の数に関連して定義される。これは、戻し交配された株と親株との間の実質的な同一性は、交配の数に基づいて数学的に計算されるとおり、交配障害と関連する遺伝子と交配障害と関連しない遺伝子との間の関係と関係していることを意味する。
【0040】
MAT1−2座を有するトリコデルマ リーセイ(ハイポクレア ジェコリナ)と交配する交配能力があり且つ交配障害/雌性不妊のための遺伝子および/またはトリコデルマ リーセイ QM6a中に存在しない遺伝子/遺伝情報の未変異形態を含有する、上記戻し交配の子孫は、先ず、MAT1−1座を含有する子孫からこれらの株を同定し、次いでそれ自体公知の方法でティー.リーセイ QM6a(MAT1−2)と繁殖力のある子実体を生成できることを証明することによって選ばれる。
上記で概観した戻し交配に引き続き、MAT1−1バッククランドからトリコデルマ リーセイ QM6aの系統へ移される望ましい遺伝子(同様に雌性妊性遺伝子)の組合せを得ることは基本的に可能性のあることであるが、戻し交配戦略の使用は、下記に本発明に従って得られるように、補完し且つ限定された雌性妊性遺伝子の最小限のセットのみを保有する、交配能力のあるQM6a株またはその誘導株に到達するように、ノックアウト戦略と組合せられるべきである。
【0041】
遺伝子再結合の偶然性のために、MAT1−1バックグランドから望ましい遺伝子の限定されたセットを保有ししかも同時に全ての望ましくないバックグランド遺伝子を喪失することは次第に起こりそうもないようになる。それ故、ある進歩した戻し交配世代の後、交配における雌性妊性遺伝子を喪失する可能性は非交配と関連する遺伝子を喪失する可能性よりも大きくなり、必要とされる雌性妊性遺伝子の最小セットを持つ交配能力のある子孫を得るチャンスは非常に小さくなる。それ故、得られる交配能力のある子孫中に保持される交配と関係のない、MAT1−1雌性妊性遺伝子ドナーからの多くの遺伝子を未だ持っているうちに、戻し交配の連鎖を早い時点で停止することは望ましいことである。
【0042】
戻し交配戦略によってのみ交配能力のあるトリコデルマ株を生成することを試みることの別の欠点は、全ての雌性妊性遺伝子がMAT1−1ドナー遺伝子からの多くのランダムな非交配関連遺伝子とともに遺伝子中に集められた段階で停止することが必要であるために、それぞれのラインはこれらの非交配関連遺伝子に関して同じようにして生成された他のラインと異なり、望ましくない異成分を製造する。戻し交配戦略の使用は、交配障害と関連する候補遺伝子のプールに至る。該候補遺伝子のプールは、トリコデルマ リーセイの交配能力のあるQM6a MAT1−1株中のそれぞれの同定された遺伝子を目標としたノックアウトおよびかくして得られたトリコデルマ リーセイ QM6a MAT1−1株の交配能力の決定によってさらに純粋なものとされる。
【0043】
交配と関連する単一遺伝子よりも多くのものがティー.リーセイ QM6a中で非機能性となることが可能であるので、その結果、単一遺伝子での補完は交配機能性の獲得には至らず、交配能力のあるティー.リーセイ QM6a誘導株中の全候補遺伝子のためのノックアウト株が調製された。このようにして交配のための必須遺伝子が、QM6aの交配性欠如の専らの原因であるのかあるいは一群の不活性化された必須交配遺伝子の一部であるのかが同定される。この目的のために、好ましくはCBS1/A8 02(MAT1−1)株のtku70除去変異体が製造される。tku70遺伝子はトリコデルマ リーセイおよび他の糸状菌中に存在する非相同性末端結合性(NHEJ)経過の一部分である。tku70遺伝子のノックアウトはトリコデルマ リーセイの増加した相同的再結合効果を生み出し(ガンタオ(Guangtao)ら、2008)、かくして交配における関連性のために試験されるべき遺伝子ノックアウトを保有する株の数を増加させることとなる。
【0044】
tku70遺伝子およびそれぞれの候補遺伝子のノックアウトは該遺伝子を作動不能とするのに適切な技術例えば部分的、実質的あるいは機能的な除去、沈黙化、不活性化あるいは下方制御によって達成される。好ましくは、相当するノックアウト有機体を同定するために、相当する作成物中にマーカーが挿入される。相当する技術は当該技術分野で知られている。ノックアウト有機体はノックアウト遺伝子の機能すなわち該有機体の交配挙動を研究することを可能とする。
このようにして、ノックアウトされたとき、交配能力のある株CBS1/A8 02Δtku70(MAT1−1)中の交配能力を消していない遺伝子が交配に必須でないものとして同定され、その結果トリコデルマ リーセイ中の雌性妊性の候補遺伝子のリストから除去される。
ノックアウト戦略は、上記同定された遺伝子/遺伝要素と関連する交配能力のないフェノタイプを同定するのにも用いられる。交配能力のないノックアウトトリコデルマリーセイ QM6a株は、例えば、上記同定されたそれぞれの遺伝子/遺伝要素が、例えば部分的、実質的あるいは機能的な除去、沈黙化、不活性化または下方制御によって非機能的とされた、天然型ハイポクレア ジェコリナ株である。相当する方法はそれ自体知られている。
【0045】
交配障害と関連する遺伝子は、上記したとおり選択された子孫の遺伝子を配列させそしてそれをティー.リーセイ QM6aの親株(上記で用いられた第1株)の遺伝子配列と比較することによって同定される。この目的のために、CLCゲノミック ワークベンチ(Genomic Workbench)(バージョン5.1、CLCbio.Arhus、デンマーク)およびニューブレア(newbler)で組みたてられたデノボ(de novo)(バージョン2.60、ロッシェ/454、ブランドホルド CT、米国)およびCLCゲノミック ワークベンチが、BLAST(アルツル(Altschul)ら、1990)とr2cat(フスマンとストエ(Husemann and Stoye)、2010)を備えたティー.リーセイ QM6a配列スカホールドのスカホールドに対し得られた配列をマップ化するのに用いられた。QM6aの参照配列と2つの戻し交配されたラインの整列された配列との間の単一核酸多形(SNP)および挿入と削除(挿入欠失)はマウブ(Mauve)のカスタム化されたバージョンを用いて同定された(リスマン(Rissman)ら、2009)。SNPと挿入欠失とはカスタムRスクリプトを用いるQM6aのコード用配列に対しマップ化された。候補遺伝子は、沈黙変異について手作業で検査され、そして推定蛋白質の機能と関与しない保存アミノ酸交換(例えばE対D、V対Iなど)を導く変異は廃棄された。変異のそれぞれの性質は戻し交配のために用いられるハイポクレア株のタイプにもちろん依存している。このように、それぞれの遺伝子中の異なる変異は、異なるハイポクレア株を用いることによって得られる。ティー.リーセイ QM6aおよび誘導株の交配不能性を修正する遺伝子中に同定される全変異カットに共通なことは、それぞれのQM6a遺伝子の変異において交配不能性変異を修正する変異であるということである。
【0046】
公表されたティー.リーセイ QM6a遺伝子配列中に存在しない、バックグランド中の大きなDNA挿入は次のようにして同定される。戻し交配されたラインとQM6aの異なる遺伝子配列の間の、BLAST プログラムによる核酸対比の結果は、これらの遺伝子の同定のためのカスタムRスクリプトを用いることによって、QM6aの遺伝子配列中に存在しない領域を同定して分析された。この方で同定された配列が、抽出されそして翻訳された核酸配列がこれらの配列の間の類似性を見つけるため、BLASTX調査によるNCBIの蛋白質データベースを調査するのに用いられた。
それぞれの変異の証明は、MAT1−1座を有するトリコデルマ リーセイ QM6aを、戻し交配に用いられた同じタイプの相当するMAT1−2株と交配したとき生存可能な子のう胞子を持つ成熟した子実体の形成によって証明される、有機体の交配能力の回復である。
【0047】
交配障害と直接関連する遺伝子を得るために、上記同定された遺伝子がMAT1−1座を有するトリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導株中に挿入されそして該株をMAT1−2座を有するトリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導株と交配する。それにより、挿入された該遺伝子を持つMAT1−1座を持つトリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導株による子実体の形成が該交配障害を持つ該遺伝子と該直接関連があることを示している。同様にして遺伝子要素と交配挙動の寄与的影響が証明される。
上記技術により、もちろん、交配障害/雌性妊性と関連する遺伝子が同定されるだけでなく、1つまたはそれ以上の機能的に試験可能なフェノタイプ特性と関連する他の目標遺伝子も同様に同定される。さらに、例えば微生物や植物の如き他の有機体が、該有機体が交配能力を有する限り、上記システム中のトリコデルマ リーセイ株の代りに用いられる。
【0048】
従来技術に基づいて、ティー.リーセイ QM6a(MAT1−2)中でそれらの機能を喪失した、交配障害または雌性妊性と関連する非変異且つこのような機能的遺伝子をMAT1−2座がMAT1−1座によって置換されたティー.リーセイ QM6a中に再導入することによって、ティー.リーセイ QM6a(MAT1−2)またはその他のMAT1−2誘導体と交配する能力を回復することは期待されなかった。MAT1−2座をMAT1−1座で置き換えるとともに、工業的トリコデルマ株中へ上記同定した遺伝子を導入することによって、これらの株は他のティー.リーセイ(MAT1−2)株と交配することができるようになり、かくして雄性または雌性妊性遺伝子および基本的に対象となるいかなる目標遺伝子を同定する迅速な方法を可能とする。
第3表および第4表に示された配列相違の修正についての知識と、トリコデルマ リーセイ QM6aの交配能力の改善に関するそれらの機能的意味は、妊性と関係のある遺伝子について他の微生物を検査するための特定のプローブまたは特定のプローブを含有する配列を構築するために用いることができる。第3表と第4表の情報に基づいて、ベクターキットが交配可能性と関連する遺伝子の回復または修復を可能とする。
【0049】
本発明は、さらに対象となる製品の工業的生産に用いるために好適なトリコデルマ(ハイポクレア)属の真菌株に関するものでもある。ここで、上記株は上記したとおりにして得られたものであり且つ対象とする製品をエンコードする遺伝子で形質転換されたものとする。
対象とする製品は、工業的用途のある製品である。例えば、研究目的、診断目的、例えばホルモン、免疫グロブリン、ワクチン、抗菌性蛋白質、抗ウイルス性蛋白質、酵素等の治療目的、栄養目的あるいは技術的応用のために用いられる蛋白質あるいはポリペプチドである。蛋白質あるいはポリペプチドの好ましい例は、例えばポリガラクトウロニダーゼ類、ペクチン、メチルエステラーゼ類、キシロガラクトウロノイダーゼ類/ラムノガラクトウロニダーゼ類、アラビノフラノシターゼ類、アラバナーゼ類/アラビナナーゼ類、アミラーゼ類、フィターゼ類、キシラナーゼ類、セルラーゼ類、プロテアーゼ類、マンナナーゼ類、トランスグルタミナーゼ類などの食品酵素、例えばフィターゼ類、キシラナーゼ類、エンドグルカナーゼ類、マンナナーゼ類およびプテアーゼ類などの動物飼料酵素、さらに例えばセルラーゼ類、プロテアーゼ類、アミラーゼ類、ラッカーセ類、オキシドレダクターゼ類などの技術的酵素である。対象とする製品はバイオポリマーであってもよい。
【0050】
上記トリコデルマによる対象とする製品の工業的製品は当業者に知られており、トリコデルマ属の真菌株について確立された発酵法により実施される。対象とする製品を表現し且つ分泌するためにトリコデルマ株は対象とする製品の表現と分泌のため慣用の条件下で培養される。そのために菌が寒天板上に植え付けられあるいはそれぞれ、寒天板上での最初の生長および胞子サスペンジョンまたは菌糸サスペンジョンが水中発酵用の接種源として用いられる。発酵は必要なC源とN源および僅かな元素と鉱物塩を含有する媒体中で実施される。もし誘導性プロモーターが用いられるなら、媒体はインデューサーまたはそれらの前駆体も含むべきである。発酵は温度とpHはもちろん、レドックス電位、部分酵素含量などの発酵条件の制御の下で実施される。さらなるC源とN源および媒体中の他の成分の制御された管理は効果的である(フェドバッチ法)。発酵の最後に、対象とする製品を含む培養液体は公知の物理的方法でバイオマスと分離されそして対象とする製品がこの方法中に単離される。
【0051】
トリコデルマ リーセイ QM6aの交配能力の上記修復は幾つかのユニークな利益と関連している。該方法はトリコデルマ リーセイ QM6aを天然型とさらに緊密に類似する有機体へと形質転換することを可能とする。この方法はトリコデルマ リーセイ QM6aまたはその誘導体中の2つまたはそれ以上の有利な遺伝特性を組合せることを可能とする。該特性は、次いでトリコデルマ リーセイ QM6aおよびその誘導体の子孫中に移される。従って、工業的に興味のある化合物の既に存在する、高度に効率的な生産体をさらに改善することができる。ティー.リーセイ株を交配する能力は、それらのフェノタイプによって検査され得るマーカー遺伝子または他の望ましくない遺伝子例えば二次代謝、顔料形成、望ましくない酵素(例えばプロチアーゼ類)、モルホロジー、無性発達などのための遺伝子を除去するのに用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】ティー.リーセイ QM6a株中のMAT1−2座をMAT1−1座によって直接置換するためのベクターの概略図である。選択マーカーとしてhph遺伝子(ハイグロマイシン抵抗性)が用いられた。hphカセットはmat1−1−3遺伝子と転写ID59147を持つ遺伝子(DNAリアーゼ)の間の遺伝子間域に挿入された。
図2】CBS/MAT1−1株とQM6a株の交配のスキームである。各交配の子孫(MAT1−1座を有する)が親株QM6aと戻し交配される。これらの株のCBS1/A8−2とCBS2/A8−11DNAが抽出されそして全ゲノム配列化に付された。
図3】子のう菌類中の性的および無性的発達の概略図である(ファゼンダ(Fazenda)ら、2008)。
図4】交配障害と関連する遺伝子を移すための主なベクター構築の概略図である。5’インサートまたは挿入物は交配障害と関連する異なる遺伝子−ここでは転写ID Trire2 59740を持つ遺伝子に相当する。略語:Ptrpc−trpCプロモーター;nptll−ジェネティシンサルフェートG418に抵抗性を与える遺伝子;Ttrpc−trpCターミネーター。
図5図5a、6a、7aおよび8aはトリコデルマ リーセイ QM6aの交配能力に必須なものとして同定された機能的遺伝子の相補ベクターである。図5b(配列番号:220/221)、6b(配列番号:216/217)、7b(配列番号:218/219)および8b(配列番号:222/223)は、機能的プロモーターおよびターミネーターと一緒にそれぞれの相補遺伝子自体に関する。プロモーターとターミネーター配列は他の同等に機能的なプロモーターおよび/またはターミネーター配列で交換されていてもよい。
【0053】
下記実施例は本発明の主題を例証もしくは説明するものである。
【実施例】
【0054】
実施例1
1.材料と方法
セイル(Seidl)らにより記載された株(2009)はMAT1−2座の他に、MAT1−1座も宿している。この株は、異なったMAT1−1およびMAT1−2保有天然型株を用いて性的に再生産することができるが、親株ティー.リーセイ QM6a(MAT1−2)を用いてはできない。まだ存在するMAT1−2座(これは遺伝子内の元の座に存在する)がこの株中に性的再生産の機能不全をもたらしていることを排除するため、ティー.リーセイ QM6aのMAT1−2座が天然型株エイチ.ジェコリナ C.P.K、1282から増幅されたMAT1−1座によって直接的に且つ相同的に交換される(G.J.S、85〜249)。
ベクター構築のために、上流および下流の相同体領域を含むMAT1−1座がエイチ.ジェコリナ1282から増幅されそしてベクターpCRブラント(blant)(ライフ テクノロジー/インビトロゲンから入手可能)中でクローン化された。次のステップでハイグロマイシンに抵抗性を与えるhph遺伝子(ハイグロマイシンBフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子)が、遺伝子mat1−1−3と転写ID59147を持つ遺伝子(エンドヌクレアーゼ/DNAリアーゼ)との間の遺伝子内領域に位置されるAvrll制御サイトを用いるベクター中でサブクローン化された。図1はベクター構築の概略的概観であり、第1表は用いられたプライマー類の配列を与えている。第2表はMAT1−2置換ベクター内の遺伝子の正確な位置を記載している。このベクターの完全配列は配列番号7として記載されている配列内に見ることができる。
【0055】
【表2】
【0056】
ティー.リーセイ QM6aの形質転換のために、置換カセットがプライマー1−2置換カセットfwと1−2置換カセットrvを用いてPCRによるベクターから増幅された。形質転換反応当り置換カセット10μgが用いられた。
【0057】
【数1】
【0058】
と名付けられた得られた株は、MAT1−2天然型株(例えばCBS999.97)に対し交配性パートナーとして成功裡に作用することができるが、親株ティー.リーセイ QM6aとの交配はできない。
【0059】
【表3】
【0060】
2.変異されそして欠落する遺伝子
ティー.リーセイ MAT1−2と交配することが可能なエイチ.ジェコリナ天然型MAT1−1単離体と比較してティー.リーセイ中で変異される遺伝子を同定するために、ゲノム配列アプローチが用いられた。最初の試みは天然型単離体はQM6a(その配列は公に入手可能である:http://genome.jgi−psf.org/Trire2/Trire2.home.html)と>60,000SNP異なっていたことを示していたので、このバックグランドの大部分は、QM6aをMAT1−1株と性的交配させ次いでMAT1−1子孫のQM6aとの戻し交配のサイクルを繰返すことによって除去された。この目的のために、QM6a(MAT1−2)株が2つの独立したラインでCBS999.97(MAT1−1)株と交配されてMAT1−1座を有する性的に能力のある株を得た。MAT1−1座を有する単一子のう胞子の培養体は親株QM6aと数度戻し交配されて雌性妊性(FS)をもたらす候補遺伝子のより容易な同定を可能とするCBS999.97特定遺伝子の数を低減した。この工程を数世代にわたって繰返すことによって、QM6aとほぼ同じ(それらのゲノムの>99%)であるが、MAT1−1座を有しそして性的能力のある2つの株が生成された。2つの独立したラインからの8世代目の子孫のゲノムが次いで配列されそしてゲノム比較により、FSをもたらすかまたは妊性に必要な候補遺伝子(例えば両ライン中に存在するCBS999.97)特定遺伝子が同定された。
【0061】
それぞれのラインについて、それぞれ320bpと8kbp挿入サイズを持つ2つのライブラリーを製造した。DNAはコバリス(Covaris)S2システム(コバリス社、ウォバーン、マサチューセッツ)を用いて断片化されそして断片(フラグメント)はQ1Aクイック PCR精製キット(クアゲン;ヒルデン、ドイツ)を用いて精製された。一対の末端ライブラリーが製造者の指示に従ってNEBネクスト DNAサンプル製造モジュール(ニュー イングランド バイオラボ、イスヴィッチ(Ipswich)、マサチューセッツ)を用いて製造された。まとめると、断片はクレノウ(klenow)とT4 DNAポリメラーゼを用いて末端修復されそしてT4ポリヌクレオチド キナーゼを用いてホスホリル化された。断片は、次いで、クレノウ エクソ DNAポリメラーゼを用いて3’−アデニル化され、そしてイルミナ(Illumina)調節剤がDNAリガーゼを用いて付加された。〜400bpの結紮生成物(Ligation product)がクアゲン ゲル抽出キット(クアゲン;ヒルデン、ドイツ)を用いてゲル精製された。標準イルミナ ライブラリー調製実施要綱でゲル精製工程中に導入されるグアニン−シトシン(GC)バイアスを回避するために、ゲルスライスは加熱の代りに室温で溶解された。大きさが選択され、調節剤で改質されたDNA断片がプージョン(Phusion)DNA ポリメラーゼ(ニュー イングランド バイオラボ、イスヴィッチ、マサチューセッツ)と実施要綱:ポリメラーゼ活性化(98℃ 30秒)、次いで10サイクル(98℃で10秒間保持、65℃で30秒間アニールそして72℃で50秒間延長)、最後に72℃で5分間延長、を用いて、PE PCRプライマー1.0と2.0(イルミナ、サンディエゴ、カルホルニア)を用いてPCR増幅された。ライブラリーはクビット(Qubit)HSアッセイキット(インビトロゲン、カールスバッド、カリフォルニア、米国)を用いて精製され且つ定量化された。
【0062】
クラスター(cluster)増幅がトルセック(TruSeq)PE クラスターキットv5を用いてクラスターステーションで実施され、そして全てのライブラリーが2×107bpの対の末端実施要綱を用いて、トルセック SBS36サイクルキットv5(イルミナ、サンディエゴ、カリフォルニア)を用いて1つのイルミナHiSeq2000レーン上に配列された。配列用イメージファイルが配列用コントロール ソフトウェア(SCS)リアルタイム分析(RTA)v2.6およびCASAVA v1.7を用いて処理されてベースコールとフレッド様(Phred−like)ベース資質スコアを生成し且つ誤読を除去した。
【0063】
2つのラインの配列はCLCゲノミック ワークベンチ(Genomic Workbench、バージョン5.1、CLCバイオ、アーウス、デンマーク)および初めから組立てられたニューブレア(newbler、バージョン2.60、ロッシェ/454、ブランドホルドCT、米国)とCLCゲノミック ワークベンチを用いて資質濾過された。得られるスカフォールド(scaffolds)およびシングルトン(singleton)連結断片(contigs)は、ブラスト(BLAST、Altschul et al.,1990)とr2cat(HusemannとStoye、2010)によるティー.リーセイ QM6a配列スカフォールドのスカフォールドに対してマップ化された。QM6a参照配列と2つの戻り交配されたラインの整列された配列との間の単一ヌクレオチド ポリモルフィズム(SNPs)および挿入および除去(インデル)は、マウブ(Mauve、リスマンら、2009)のカスタム化バージョンを用いて同定された。SNPとインデルはカスタム R スクリプトを用いてQM6aコーディング配列に対しマップ化された。結果として、ティー.リーセイ QM6aに対し雌性妊性を保証する下記遺伝子が得られた(第3表)。さらに、ティー.リーセイ QM6aの観察された交配障害と関連する該遺伝子中の変異が示された。第4表はトリコデルマ リーセイ QM6a中に欠落していることが見つかった遺伝子を示している。第5表はノックアウト戦略によって同定された、ティー.リーセイ QM6a中の交配障害と関連する遺伝子を示している。
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
【表7】
【0068】
【表8】
【0069】
【表9】
【0070】
【表10】
【0071】
【表11】
【0072】
【表12】
【0073】
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【0074】
【表14】
【0075】
【表15】
【0076】
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【0077】
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【0078】
【表18】
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【表19】
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【表20】
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【0083】
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【表25】
【0086】
【表26】
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【0088】
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【0089】
【表29】
【0090】
【表30】
【0091】
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【0092】
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【0093】
【表33】
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【0100】
【表40】
【0101】
【表41】
【0102】
【表42】
【0103】
【表43】
【0104】
【表44】
【0105】
【表45】
【0106】
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【表49】
【0110】
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【0111】
【表51】
【0112】
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【0113】
【表53】
【0114】
【表54】
【0115】
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【表58】
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【0120】
【表60】
【0121】
【表61】
【0122】
【表62】
【0123】
【表63】
【0124】
【表64】
【0125】
【表65】
【0126】
【表66】
【0127】
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【0128】
【表68】
【0129】
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【0130】
【表70】
【0131】
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【表74】
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【0136】
【表76】
【0137】
【表77】
【0138】
【表78】
【0139】
【表79】
【0140】
【表80】
【0141】
【表81】
【0142】
実施例2
トリコデルマ リーセイ QM6a株またはその誘導株中の交配障害と直接または間接的に関連する変異遺伝子の同定
【0143】
1.概説
上記交配障害と直接または間接的に関連し且つQM6aおよびその子孫中で非機能的な遺伝子を同定するために、これらの遺伝子はMAT1−2座がMAT1−1座によって置換されたティー.リーセイ QM6a株中へ個別にあるいは幾つかの遺伝子の集まりで形質転換された。テストされるべき遺伝子はジェネテシン(geneticin)、耐性マーカーを含有するプラスミド中でクローン化されそしてプロトプラスト(protoplast)形質転換によって上記該ティー.リーセイ QM6a MAT1−1株中で形質転換された。有糸分裂的に安定な形質転換体は、次いで、PCR分析によって、染色体DNA中でそれぞれの遺伝子の集積のためにテストされた。陽性形質転換体は次いで、ティー.リーセイ QM6a MAT1−2と可能性のある交配に付されそして繁殖性結実体の形成によって証明された(それらの繁殖性は子のう胞子を単離し、そしてそれらが対の交配パートナーと交配し得たことを実証することによってテストされた)。次の実験要綱は交配障害と関連すると同定されたいかなる遺伝子に対しても使用することができる。
【0144】
2.交配障害と関連する遺伝子に機能欠落を有する株の調製
雌性妊性遺伝子候補が古典的遺伝学(交配、戻し交配)と比較ゲノム配列法の組合せによって先ず同定された。戻し交配後に得られた交配能力のある株(CBS1/A8 02、MAT1−1)と交配能力のない最初の株(QM6a、MAT1−2)との間のゲノム差は、定義によれば、交配の機能的補完のために必要とされる遺伝子を完全に含有していなければならない。加えて、必要とされるFS遺伝子は、2つの戻し交配ライン(CBS1/A8 02、MAT1−1とCBS2/A8 11、MAT1−1)の終了点で共有されなければならない。さらに、交配能力バックグランド中のFS遺伝子の不活性化は、機能的交配を衰弱させるに違いない。全てのこれらの方策は、トリコデルマ リーセイ QM6a(MAT1−1)中に単独でまたは組合わせて導入されたときに、交配能力を再構築する遺伝子のリストに到達するように行われた。
【0145】
交配と関連する単一の遺伝子よりも多くの遺伝子がティー.リーセイ QM6a中で非機能的となり、そしてその結果単一遺伝子での補完が交配機能の獲得に至らないことが可能であるので、全ての候補遺伝子についてのノックアウト株が交配能力のあるティー.リーセイ QM6a誘導株に製造された。このようにして、交配に必須の如何なる遺伝子が、QM6a中の交配性欠落の専らの原因となっているのかあるいは不活性化された必須の交配性遺伝子の一群の一部であるのかが同定される。この目的のために、CBS1/A8 02(MAT1−1)株のtku70削除変異体が製造された。tku70遺伝子のノックアウトは、CBS1/A8 02(MAT1−1)株を、選択マーカーとしてピリチアミン ハイドロブロマイド(ptrA)への抵抗性を持つQM9414株(ティー.リーセイ QM6aの交配不可能な子孫)のtku70削除変異体と、交配することによって達成された。この交配の子孫はMAT1−1座の存在とtku70削除についてスクリーンされた。得られた株は、以下においてCBS1/A8 02△tku70と呼ばれる。
【0146】
ティー.リーセイgpdプロモーターおよびターミネーターの下でハイグロマイシン(hph)抵抗性を与える遺伝子によって中断された遺伝子特定フランキング(flanking)域の1.0〜1.5kb断片からなる削除カセットがイースト再構成クローニング(コロ(colot)ら、2006)によって集積された。候補遺伝子の個々のフランキング域は、プージョン(Phusion)ポリメラーゼを持つCBS999.97/MAT1−1株の染色体DNAからのオリゴヌクレオチド(10μM)5F+5Rおよび3F+3Rを用いて増幅された(サーモ フィッシャー)。gpdプロモーターとターミネーター配列を含むphp遺伝子(2.7kb)はプライマーhphFおよびhphR(hphF:GGATCCGAGAGCTACCTTAC(配列番号:175))、hphR(CTCGAGGGTACTATGGCTTA(配列番号:176))を用いるプラスミドpLHhph(ハートル(Hartl)ら、2007)からPCRによって増幅された。PCRによって、約19bp配列がフランキング域に導入されて相同的組換を可能とする、イースト シャトルベクターpRS426(URA+)またはhphメーカー遺伝子のいずれかと重なる。全ての断片の増幅のために、62℃〜58℃の範囲の徐冷温度でタッチダウンRCRプログラムが用いられた。用いられたオリゴヌクレオチドの配列は第6表に示されている。
【0147】
このようにして、ノックアウトされたとき、交配能力のあるCBS1/A8 02△tku70(MAT1−1)株中の交配能力を消滅させなかった遺伝子が交配には必須でないものとして同定されそしてその結果トリコデルマ リーセイ中の雌性妊性についての候補遺伝子のリストから除去された。この目的のために、4つの遺伝子が同定され、その削除は交配不可能性をもたらした。これらの遺伝子は配列番号:40、110、112および134を持つ遺伝子の機能的同族体である。配列番号:40、配列番号110、配列番号112および配列番号:134の遺伝子に相当する機能的遺伝子のノックアウトのある形質転換体については、交配は見い出せなかった。
【0148】
【表82】
【0149】
【表83】
【0150】
実施例3:交配障害と関連する遺伝子で補完された株の調製
交配パートナーとしてQM6a/MAT1−2を用いる成功裡の性的再生産を行い得るQM6a/MAT1−1を得るために、QM6a/MAT1−1株が、ティー.リーセイ QM6a/MAT1−2株中の交配障害と関連するものとして同定された遺伝子の機能的変異体を含有するプラスミドで形質転換された。
【0151】
同定された候補遺伝子トリレ2 67350、トリレ2 76887、トリレ2 105832およびトリレ2 59270で遺伝子補完するために用いられたQM6a/MAT1−1株がティー.リーセイ QM6a/MAT1−2株中の同質組込みについて、MAT1−1座、マーカー遺伝子および3’−フランキング域からなる遺伝子置換カセットを形質転換することによって構築された。3’域を包含するMAT1−1座は、プージョン ポリメラーゼ(サーモ フィッシャー)を持つCBS999.97(MAT1−1株)から、プライマーMAT1−1 インフュージョンfw(GTGCTGGAATTCAGGCCTGGCTTGATGCTGCTAACCTCC(配列番号:193))とMAT1−1インフュージョンrv(TCTGCAGAATTCAGGCCTACTCCGCAAGATCAAATCCG(配列番号:194))を用いることによって増幅された。増幅サンプル(アンプリコン)はインフュージョンHDクローニングシステム(インフュージョンHDクローニングシステムCE、クロンテック社)を用いるPCRブラントベクター(pCRブラント、インビトロゲン)中でクローン化された。選択マーカーとして、ティー.リーセイ gpdプロモーターとターミネーターの下でハイグロマイシン(hph)抵抗性をもたらす遺伝子が用いられた。hphカセットが、プライマーhph Avrll fw(GTCCACAGAAGAGCCTAGGACCTCTTCGGCGATACATACTC(配列番号:195))とhph Avrll rv(GGCTTTCACGGACCCTAGGTTGGAATCGACCTTGCATG(配列番号:196))を用いるプラスミドpLHhph(ハートルら、2007)からPCRによって増幅された。3’−フランキング域を包含するMAT1−1座を有するプラスミドは次いで、Avrll(サーモ フィッシャー)によって温浸されたMAT1−1座のmat1−1−3遺伝子と3’フランキング域の間に、インフュージョン クローニングシステム(インフュージョンHDクローニングシステムCE、クロンテック社)を用いて、hphカセットが挿入された。ティー.リーセイ QM6a/MAT1−2株中の交配型交換のために、遺伝子置換カセットが、プライマー1−2置換カセットfw(TGGAACGACTTTGTACGCAC(配列番号:197))と1−2置換カセットrv(GGCACAAGAGGACAGACGAC(配列番号:198))を用いるPCRによって上記プラスミドから増幅された。遺伝子置換カセットは、次いでプロトプラスト(protoplast)形質転換(グルーバー(Gruber)ら、1990)によって形質転換された。それぞれの形質転換について10μgのDNAが用いられた。得られた株は、以下において、QM6a/MAT1−1と呼ばれる。
QM6a株の交配性欠落を補完するために、新たに同定された候補遺伝子、トリレ2 67350、トリレ2 76887およびトリレ2 105832の天然型(CBS999.97)対立遺伝子がQM6a/MAT1−1株中に異所的に導入された。
【0152】
異所的遺伝子組込みのために、候補遺伝子の天然型(CBS999.97)対立遺伝子続いてジェネチシンジサルフェート G418(nptll)抵抗性をもたらす遺伝子を含有するプラスミドが構築された。形質転換のためのベクターとして、ウィーン工科大学、化学工学研究所、研究領域遺伝子技術および応用生化学のベクターコレクション(未発表)で入手できたプラスミドpPki−Genが選択された。このプラスミドはpRLMex30(マッハ(Mach)ら、1994)から誘導された。プラスミドpRLMex30は、XbalとHindlll(サーモ フィッシャー サイエンティフィック/ファーメンタス、st、レオン−ロット、ドイツ国)を用いて温浸され、hphコード用域とcbh2ターミネーター用域(2066bp)を除去し、それによってpki1プロモーターを残留させた。次に、〜800bpのtrpCプロモーター、nptllコード用域および〜700bpのtrpCターミネーターを含む2.4kb断片がプライマーGen FW(CCTCTTAACCTCTAGACGGCTTTGATTTCCTTCAGG)(配列番号:156)とGenRV(TGATTACGCCAAGCTTGGATTACCTCTAAACAAGTGTACCTGTG)(配列番号157)を用いるpll99(ナミキら、2001)から増幅された。2つの断片インフュージョン組換え(クロンテック、米国)によって結合されてプラスイミドpRki−Genを生成した。nptll遺伝子はジェネチシン ジサルフェートG418に抵抗性をもたらし、それは次いで真菌形質転換体を選択するために用いられた。
【0153】
さらなる工程において、プラスミド pPki−GenはEcoRIおよびXbal(サーモ フィッシャー サイエンティフィック/ファーメンタス St.レオンロート、ドイツ国)と温浸されてpKi1プロモーター(〜740bp)を除去した。交配障害の原因となると同定された遺伝子(すなわちトリレ2 67350、トリレ2 76887、トリレ2 105832および59270)は、PCRによってCBS999.97/MAT1−1株から増幅されそしてインフュージョン組み換え(クロンテック 米国)により上記切断ベクター中に導入された。それぞれの遺伝子の増幅のために用いられたオリゴヌクレオチドは第7表に示されている。得られたプラスミドの完全な配列は配列番号212〜215および図5〜8に示されている。
【0154】
【表84】
【0155】
QM6a/MAT1−1株は、次いで、それぞれの候補遺伝子を含有する円形プラスミドでプロトプラスト形質転換(グルーバーら、1990)により形質転換された。それぞれの候補遺伝子のうちの単一遺伝子または組合せのどちらが交配欠陥の原因であるのか判っていないので、候補遺伝子は単独でおよび組合せでも形質転換された。形質転換反応につき10μgの円形プラスミドが用いられた。全部で6mlのプロトプラスト懸濁液のうち、それぞれ1mlのプロトプラスト懸濁液が100μg/mlの濃度でジェネチシンサルフェートG418を含むオーバレイ媒体4mlに添加された。それぞれの溶液は、次いで、ジェネチシンサルフェートG418が添加されたモルト抽出寒天(2% w/v)を含有する寒天プレート上に真菌形質転換体を選択するために100μg/mlの濃度まで注がれた。プレートは暗所で28℃で7日間培養された。可能性のある形質転換体が、次いで真菌形質転換体を選択するために、ジェネチシンサルフェートG418 100μg/mlを含むポテトテキストローズ寒天(ディフコ、米国)を含有する新しいプレートに移した。
【0156】
有糸分裂的に安定な形質転換体が、次いでPCR分析により染色体DNA中でそれぞれの遺伝子の組込みのためにテストされた。染色体DNAは、リウ(Liu)ら(2000)に従って抽出された。遺伝子の陽性組込みについてテストするために、遺伝子特定プライマーおよびnptllカセット内に結合しているプライマーが用いられた。それらの配列は第8表に示されている。
【0157】
【表85】
【0158】
陽性形質転換体は、次いで、ティー.リーセイ QM6a MAT1−2を用いる交配性アッセイに付された。交配性は繁殖性結実体の形成によって証明される。それらの妊性は子のう胞子を単離しそしてそれらが、発芽しそして菌糸体に成長して、対の交配性パートナーと交配することができることを実証することによってテストされる。
【0159】
交配可能性の修復を証明するために、陽性形質転換体は交配アッセイでテストされる。交配アッセイは、ティー.リーセイ天然型QM6a/MAT1−2株(ATCC 13631)が、修復された候補遺伝子で補完されたティー.リーセイ QM6a/MAT1−1の陽性形質転換体と共に培養されているPDA(Difco(登録商標)、ポテト デキストロース寒天)プレート上で、行われる。プレートは、天然の日周光サイクルに暴露して室温(20〜23℃)に保持して結実体形成を促進した。それらの妊性は、結実体から子のう胞子を単離しそしてそれから成長したコロニーが対の交配性パートナーと交配できることを実証することによってテストされた。
【0160】
【表86】
参考文献
【0161】
【表87】
【0162】
【表88】
【0163】
【表89】

図1
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]