特許第6660206号(P6660206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6660206-変速機及び変速機を備える駆動装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6660206
(24)【登録日】2020年2月12日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】変速機及び変速機を備える駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20200227BHJP
   F16H 57/029 20120101ALI20200227BHJP
【FI】
   F16J15/10 T
   F16H57/029
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-31249(P2016-31249)
(22)【出願日】2016年2月22日
(65)【公開番号】特開2017-150508(P2017-150508A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2018年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100137604
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100185487
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 哲生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健司
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−199968(JP,A)
【文献】 特開昭54−138944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/10
F16H 57/029
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の出力回転を変速する変速機構と、
前記変速機構を収容し、変速された前記出力回転が伝達されて回転する円筒状の回転ハウジングと、
前記回転ハウジングの開口端の内周に嵌装され、前記開口端を閉塞する開口端カバーと、
前記開口端カバーの外周に形成されたOリング溝に嵌装され、前記回転ハウジングと前記開口端カバーとの間を封止するOリングと、
を備え、
前記Oリング溝は、前記Oリング溝と前記Oリングとによって形成される前記Oリングのシール部よりも外部側に設けられた凹溝を有する、
ことを特徴とする変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の変速機であって、
前記凹溝は、前記Oリング溝の底面に設けられる、
ことを特徴とする変速機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の変速機であって、
前記回転ハウジングの内周と前記開口端カバーの外周との間に形成された隙間を有し、
前記Oリングは、前記回転ハウジングの内部の潤滑油が前記隙間から外部に漏れることを防止し、且つ、異物が外部から前記回転ハウジングの内部に進入することを防止する、
ことを特徴とする変速機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の変速機と、前記駆動源と、を備える駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機及び変速機を備える駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の無限軌道車両では、無限軌道帯(クローラベルト)の車軸部に走行モータが設けられる。
【0003】
特許文献1には、クローラベルトに噛み合うスプロケットが連結される円筒状の回転ハウジングを有する変速機を備え、当該変速機とスプロケットとが共に回転してクローラベルトを駆動する走行モータが開示されている。
【0004】
上記の変速機は、回転ハウジングの開口端を閉塞する円盤状の開口端カバーを備える。回転ハウジング及び開口端カバーの内部には、油圧モータの出力回転を減速して回転ハウジングに伝達する変速機構が収容されるとともに、変速機構を潤滑する潤滑油が充填される。
【0005】
このため、回転ハウジングの内周と開口端カバーの外周との間には、潤滑油が回転ハウジングの外部に漏れることを防止するためのOリングが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−199968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、回転ハウジングの内周面と開口端カバーの外周面との間には隙間があるので、外部から土砂等の異物が侵入することがある。上述したように、回転ハウジングと開口端カバーとの間にはOリングが設けられるので、異物がそれ以上変速機の内部に入ることは防止できる。
【0008】
しかしながら、隙間に侵入した異物がOリング近傍に堆積してしまうと、Oリングと回転ハウジングとによって形成されるOリングのシール部及びOリングと開口端カバーとによって形成されるOリングのシール部に異物が入り込み、Oリングのシール性に影響を及ぼすことが考えられる。
【0009】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、Oリングのシール部への異物の侵入を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、変速機であって、駆動源の出力回転を変速する変速機構と、変速機構を収容し、変速された出力回転が伝達されて回転する円筒状の回転ハウジングと、回転ハウジングの開口端の内周に嵌装され、開口端を閉塞する開口端カバーと、開口端カバーの外周に形成されたOリング溝に嵌装され、回転ハウジングと開口端カバーとの間を封止するOリングと、を備え、Oリング溝は、Oリング溝とOリングとによって形成されるOリングのシール部よりも外部側に設けられた凹溝を有することを特徴とする。
【0011】
第1の発明では、回転ハウジングと開口端カバーとの間の隙間に侵入した異物が凹溝に貯留される。このため、Oリング近傍に異物が堆積し難くなる。
【0012】
第2の発明は、凹溝は、Oリング溝の底面に設けられることを特徴とする。
【0013】
第2の発明では、開口端カバーにOリング溝を機械加工する際に、特殊なバイト等を用いることなく凹溝を容易に形成できる。
【0014】
第3の発明は、変速機は、回転ハウジングの内周と開口端カバーの外周との間に形成された隙間を有し、Oリングは、回転ハウジングの内部の潤滑油が隙間から外部に漏れることを防止し、且つ、異物が外部から回転ハウジングの内部に進入することを防止することを特徴とする。
の発明は、駆動装置であって、第1又は第2の発明に係る変速機と、駆動源と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Oリングのシール部への異物の侵入を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る変速機の側面図である。
図2図1のII−II線に沿う断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る変速機の要部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1図3を参照しながら本発明の実施形態に係る変速機100について説明する。
【0018】
変速機100は、例えば、油圧ショベル等のクローラ式車両の車軸部に設けられてクローラベルトを駆動する走行モータに用いられる。駆動装置としての走行モータは、駆動源としての油圧モータ1と、油圧モータ1のシャフト21の出力回転を減速する変速機100と、を備える。
【0019】
変速機100は、固定ハウジング(図示せず)に対して回転作動する円筒状の回転ハウジング10を備える。回転ハウジング10の外周面にはスプロケット(図示せず)が連結される。回転ハウジング10とスプロケットとが共に回転することで、スプロケットに噛み合うクローラベルト(図示せず)が循環して車両が走行する。
【0020】
固定ハウジング及び回転ハウジング10は、クローラベルトが循環する経路の内側に配置される。回転ハウジング10は、車両のフレームに連結される固定ハウジングに対してベアリング(図示せず)を介して回転自在に支持され、回転軸Oを中心として回転作動する。
【0021】
固定ハウジングの内部には、駆動源としての油圧モータ1が設けられる。油圧モータ1は、例えば、斜板式ピストンモータである。なお、駆動源は油圧モータ以外であってもよく、例えば、電動モータ等を用いてもよい。
【0022】
図2に示すように、回転ハウジング10の内部には、変速機構20が収容される。変速機構20は、油圧モータ1のシャフト21に設けられるサンギヤ22、回転ハウジング10の内壁に設けられるリングギヤであるインナーギヤ23、サンギヤ22とインナーギヤ23との双方に噛み合う複数のプラネタリギヤ24、及び各プラネタリギヤ24を支持するプラネタリキャリア25等によって構成される。
【0023】
変速機構20は、油圧モータ1のシャフト21の出力回転を減速して回転ハウジング10に伝達する。これにより、回転ハウジング10と共にスプロケットが回転作動する。
【0024】
回転ハウジング10の開口端10aの内周には、開口端10aを閉塞する円盤状の開口端カバー30が嵌装される。
【0025】
開口端カバー30は、図2図3に示すように、回転ハウジング10の内周に形成された内周溝10bと開口端カバー30の外周に形成された外周溝30aとの間に形成される円筒状の空間に配設されたワイヤ40を介して回転ハウジング10に係止される。
【0026】
回転ハウジング10の内周溝10bの位置と開口端カバー30の外周溝30aの位置とは、開口端カバー30を回転ハウジング10の内周に嵌装してインナーギヤ23の端面に当接させた状態で、内周溝10bと外周溝30aとが対向して円筒状の空間を形成するように設定される。
【0027】
ワイヤ40の外径は、内周溝10bと外周溝30aとによって形成される円筒状の空間の内径より小さく形成される。ワイヤ40は、1本の金属製線材からなるものを使用してもよいし、複数の細い金属製線材をまとめた撚線を使用してもよい。
【0028】
ワイヤ40は、回転ハウジング10の内周に開口端カバー30を嵌装した状態で、内周溝10bと外周溝30aとで形成された空間に貫通孔10cから挿入される。このようにして、ワイヤ40は、開口端カバー30の周囲を略一周して内周溝10bと外周溝30aとの間の空間に配設される。
【0029】
これにより、開口端カバー30がワイヤ40を介して回転ハウジング10に係止され、変速機構20を収容するギヤ室110が回転ハウジング10の内部に画成される。
【0030】
なお、貫通孔10cは、ワイヤ40挿入後にプラグ(図示せず)で封止される。開口端カバー30を回転ハウジング10から取り外す場合は、貫通孔10cからワイヤ40を抜き取ればよい。
【0031】
ギヤ室110には、変速機構20を潤滑する潤滑油が充填される。このため、回転ハウジング10と開口端カバー30との間には、潤滑油がギヤ室110から外部に漏れることを防止するシール部材としてOリング50が設けられる。
【0032】
具体的には、Oリング50は、開口端カバー30の外周溝30aよりも開口端10a側に形成されたOリング溝30bに嵌装される。
【0033】
開口端カバー30及びOリング50を回転ハウジング10に組み付けると、Oリング50が、Oリング溝30bの底面30cと回転ハウジング10の内周面との間で圧縮される(図3参照)。
【0034】
これにより、Oリング溝30bの底面30cとOリング50とによってOリング50のシール部51が形成されるとともに、回転ハウジング10の内周面とOリング50とによってOリング50のシール部52が形成され、ギヤ室110が封止される。
【0035】
また、Oリング溝30bにおけるOリング50のシール部51よりも変速機100の外部側には、開口端カバー30の周方向に延びる凹溝30dが設けられる。凹溝30dについては後で詳しく述べる。
【0036】
続いて、図1図2を参照しながら開口端カバー30に設けられた3つのポート31〜33について説明する。
【0037】
ポート31〜33の内周にはねじ部が形成され、ボルト型のプラグ34が螺合してそれぞれ取り付けられる。
【0038】
ポート31は検油ポートであって、開口端カバー30の中央に配置される。ポート31からプラグ34を外すことによって、ギヤ室110内に充填された潤滑油量をポート31を通じて確認することができる。
【0039】
ポート32は図1における開口端カバー30の下部に配置される。ポート32からプラグ34を外すことによって、ギヤ室110内の潤滑油をポート32を通じて外部に排出することができる。
【0040】
ポート33は図1における開口端カバー30の右上部に配置される。ポート33からプラグ34を外すことによって、潤滑油をポート33を通じてギヤ室110内に充填することができる。
【0041】
続いて、変速機100を上記のように構成することの作用効果について説明する。
【0042】
変速機100は、油圧ショベル等の走行モータに用いられるので、土砂等の異物がかかりやすい環境下で使用されることが多い。このため、回転ハウジング10と開口端カバー30との間の隙間120には、外部から土砂等の異物が侵入することがある。
【0043】
上述したように、回転ハウジング10と開口端カバー30との間にはOリング50が設けられるので、異物がそれ以上変速機100の内部に入ることは防止できる。
【0044】
しかしながら、隙間120に侵入した異物がOリング50近傍に堆積してしまうと、Oリング50のシール部51、52に異物が入り込み、Oリング50のシール性に影響を及ぼすことが考えられる。
【0045】
これに対して、本実施形態では、上述したように、Oリング溝30bが、Oリング50のシール部51よりも外部側に設けられた凹溝30dを有する。
【0046】
これによれば、回転ハウジング10と開口端カバー30との間の隙間120に侵入した異物が凹溝30dに貯留される。このため、Oリング50近傍に異物が堆積し難くなる。よって、Oリング50のシール部51、52への異物の侵入を抑制できる。
【0047】
なお、本実施形態では、凹溝30dが、Oリング溝30bの底面30cに設けられているが、凹溝30dは、Oリング溝30bの側面に設けてもよい。
【0048】
凹溝30dをOリング溝30bの底面30cに設けた場合は、開口端カバー30にOリング溝30bを機械加工する際に、特殊なバイト等を用いることなく凹溝30dを容易に形成できる。
【0049】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0050】
変速機100は、油圧モータ1の出力回転を変速する変速機構20と、変速機構20を収容し、変速された出力回転が伝達されて回転する円筒状の回転ハウジング10と、回転ハウジング10の開口端10aの内周に嵌装され、開口端10aを閉塞する開口端カバー30と、開口端カバー30の外周に形成されたOリング溝30bに嵌装され、回転ハウジング10と開口端カバー30との間を封止するOリング50と、を備え、Oリング溝30bは、Oリング溝30bとOリング50とによって形成されるOリング50のシール部51よりも外部側に設けられた凹溝30dを有することを特徴とする。
【0051】
この構成では、回転ハウジング10と開口端カバー30との間の隙間120に侵入した異物が凹溝30dに貯留される。このため、Oリング50近傍に異物が堆積し難くなる。よって、Oリング50のシール部51、52への異物の侵入を抑制できる。
【0052】
また、凹溝30dは、Oリング溝30bの底面30cに設けられることを特徴とする。
【0053】
この構成では、開口端カバー30にOリング溝30bを機械加工する際に、特殊なバイト等を用いることなく凹溝30dを容易に形成できる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体例に限定する趣旨ではない。
【0055】
例えば、上記実施形態では、油圧モータ1の出力回転を減速して回転ハウジング10に伝達しているが、出力回転を増速して回転ハウジング10に伝達するものであってもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、ワイヤ40を用いて開口端カバー30を回転ハウジング10に取り付けているが、開口端カバー30を回転ハウジング10に取り付ける構造はこれに限られない。例えば、ボルト締結により開口端カバー30を回転ハウジング10に固定してもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、駆動装置として、走行モータを例に説明したが、旋回モータやウィンチなどを駆動するモータなどにも適用できる。
【符号の説明】
【0058】
100・・・変速機、1・・・油圧モータ(駆動源)、10・・・回転ハウジング、10a・・・開口端、20・・・変速機構、30・・・開口端カバー、30b・・・Oリング溝、30c・・・底面、30d・・・凹溝、50・・・Oリング、51・・・シール部
図1
図2
図3