特許第6660213号(P6660213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 酒井重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6660213-転圧ローラ 図000002
  • 特許6660213-転圧ローラ 図000003
  • 特許6660213-転圧ローラ 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6660213
(24)【登録日】2020年2月12日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】転圧ローラ
(51)【国際特許分類】
   E01C 19/28 20060101AFI20200227BHJP
【FI】
   E01C19/28
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-49138(P2016-49138)
(22)【出願日】2016年3月14日
(65)【公開番号】特開2017-166119(P2017-166119A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000182384
【氏名又は名称】酒井重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 定芳
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0060821(US,A1)
【文献】 特開2014−095226(JP,A)
【文献】 特開平09−221710(JP,A)
【文献】 実開平07−038205(JP,U)
【文献】 特開2003−184022(JP,A)
【文献】 特開2007−023766(JP,A)
【文献】 特開平09−031912(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00754802(EP,A1)
【文献】 中国実用新案第200971466(CN,Y)
【文献】 特開2005−336879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 19/00−19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に配置された複数のタイヤがステアリングヨークに軸支された転圧ローラであって、
左右一対の振動用モータにより振動を発生する左右一対の起振装置と、
タイヤを走行駆動しつつ、前記起振装置の振動をタイヤに伝達する左右一対の走行駆動軸と、
各前記走行駆動軸をそれぞれ駆動する左右一対の走行用モータと、
防振手段を介して前記ステアリングヨークに取り付けられてタイヤの間に位置し、軸受を介して前記走行駆動軸を支持する左右一対の第1支持ブラケットと、
前記防振手段よりもばね下質量側において前記左右一対の第1支持ブラケットの双方に接続し、前記走行用モータを支持する第2支持ブラケットと、を備え、
前記起振装置は、その振動源が前記走行駆動軸の内部にそれぞれ配置されており、
前記第2支持ブラケットは、並設された全ての前記タイヤを囲うように平面視矩形枠状に形成されていることを特徴とする転圧ローラ。
【請求項2】
前記振動用モータは、前記タイヤの回転軸上において、前記第2支持ブラケットの内側に支持され、
前記走行用モータは貫通孔を有した中空構造のモータからなり、
前記貫通孔を介して前記振動用モータと前記振動源とが軸部材により連結されていることを特徴とする請求項1に記載の転圧ローラ。
【請求項3】
前記第2支持ブラケットは、前板と、後板と、左板と、右板とを有し、
左側の前記振動用モータは、最も左側に位置する前記タイヤと前記左板との間に配置され、
右側の前記振動用モータは、最も右側に位置する前記タイヤと前記右板との間に配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の転圧ローラ。
【請求項4】
前記転圧ローラは、内部に液剤タンクが形成されたリジッドフレームの車体を備え、前輪の3つのタイヤが前記ステアリングヨークに軸支された振動タイヤローラであり、
一方の外側のタイヤと中央のタイヤとが同期回転するように一方の前記走行駆動軸に取り付けられ、
他方の外側のタイヤが他方の前記走行駆動軸に取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の転圧ローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤおよび振動機構を備えた自走型の転圧ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
前記転圧ローラの一つとして前輪および後輪が共にタイヤからなる自走搭乗型の振動タイヤローラがあり、その従来例として特許文献1,2に記載のものが挙げられる。特許文献1に記載の振動タイヤローラは、走行に関して左右のタイヤが差動回転できる構造ではないため、カーブでの転圧作業で被転圧面(主に加熱アスファルト合材)をひきずってしまい、アスファルト合材の表層をこじってしまうおそれがある。
【0003】
一方、特許文献2には、タイヤ支持部材を隣接するタイヤ間に配設し、このタイヤ支持部材にタイヤ駆動用の走行用モータを取り付ける技術が記載されている。特許文献2の技術によれば、左右のタイヤを差動回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−31912号公報
【特許文献2】特開2003−184022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の技術は、4つのタイヤの内で外側のタイヤとこれに隣接する内側のタイヤとの間にタイヤ支持部材を左右一対として配置し、この一対のタイヤ支持部材間に起振装置を掛け渡した構造である。しかしながら、この構造では、内側中央の2つのタイヤには振動が効率良く伝達されるが、外側の2つのタイヤには振動が伝わりにくい。そのため、4つのタイヤの振動にばらつきが生じやすいという問題がある。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するために創作されたものであり、各タイヤに均一な振動を加えることができる転圧ローラを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、同軸上に配置された複数のタイヤがステアリングヨークに軸支された転圧ローラであって、左右一対の振動用モータにより振動を発生する左右一対の起振装置と、タイヤを走行駆動しつつ、前記起振装置の振動をタイヤに伝達する左右一対の走行駆動軸と、各前記走行駆動軸をそれぞれ駆動する左右一対の走行用モータと、防振手段を介して前記ステアリングヨークに取り付けられてタイヤの間に位置し、軸受を介して前記走行駆動軸を支持する左右一対の第1支持ブラケットと、前記防振手段よりもばね下質量側において前記左右一対の第1支持ブラケットの双方に接続し、前記走行用モータを支持する第2支持ブラケットと、を備え、前記起振装置は、その振動源が前記走行駆動軸の内部にそれぞれ配置されており、前記第2支持ブラケットは、並設された全ての前記タイヤを囲うように平面視矩形枠状に形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、振動源がそれぞれ左右一対の走行駆動軸の内部に配置されることとなるので、複数のタイヤ全てに効率良く振動を伝達することができる。そして、右寄りのタイヤと左寄りのタイヤとを互いに差動回転駆動させることができる。また、仮に第1支持ブラケットを挟んで位置する2つのタイヤの質量バランスがとれており、振動源による振動が実質的に2つのタイヤの中央位置に加わっているならば、起振装置の振動が両タイヤに伝達されると両タイヤは略同じ動きで正常に振動することとなる。しかしながら実際は、第1支持ブラケットを挟んで位置する2つのタイヤ間には、走行駆動軸、起振装置、走行用モータ、振動用モータ等のレイアウト構造の設計上、車幅方向に質量バランスの違いが生じてしまうことがある。この場合、起振装置の振動が両タイヤに伝達されると、2つのタイヤが互いに車体前後方向の水平軸回りの異常な揺動を伴って振動する。この問題に対し、第2支持ブラケットを左右一対の第1支持ブラケットの双方に接続させることで、前記した車体前後方向の水平軸回りのタイヤの異常な揺動を伴う振動を抑制できる。
【0009】
また、本発明は、各前記振動用モータは、前記タイヤの回転軸上において、前記第2支持ブラケットの内側に支持され、前記走行用モータは貫通孔を有した中空構造のモータからなり、前記貫通孔を介して前記振動用モータと前記振動源とが軸部材により連結されていることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、走行用モータとして中空構造のモータを使用することで、走行用モータと振動用モータのレイアウト構造を簡単なものにできる。
【0011】
また、本発明は、前記第2支持ブラケットは、前板と、後板と、左板と、右板とを有し、左側の前記振動用モータは、最も左側に位置する前記タイヤと前記左板との間に配置され、右側の前記振動用モータは、最も右側に位置する前記タイヤと前記右板との間に配置されていることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記転圧ローラは、内部に液剤タンクが形成されたリジッドフレームの車体を備え、前輪の3つのタイヤが前記ステアリングヨークに軸支された振動タイヤローラであり、一方の外側のタイヤと中央のタイヤとが同期回転するように一方の前記走行駆動軸に取り付けられ、他方の外側のタイヤが他方の前記走行駆動軸に取り付けられていることを特徴とする。
【0014】
内部に液剤タンクが形成されたリジッドフレームの車体を備え、前輪の3つのタイヤがステアリングヨークに軸支されたタイヤローラは、比較的コンパクトな車体でありながら大容量の液剤タンクを搭載できる。これにより、長時間にわたって路面やタイヤ等に液剤を供給し続けることができるという特徴がある。しかし、従来、ステアリングヨークに軸支されたタイヤに起振装置を設けることは困難であるため、リジッドフレームの車体を備えた振動タイヤローラは存在しなかった。また、リジッドフレームの車体を備えたタイヤローラにあっては、ステアリングヨークに軸支された車輪は全て従動輪であり、車輪の全てを駆動輪としたものはなかった。タイヤは、従動輪であると加熱アスファルト合材を押し出すおそれがあるため、全て駆動輪とすることが望ましい。本発明は、一方の外側のタイヤと中央のタイヤとを同期回転するように一方の走行駆動軸に取り付け、他方の外側のタイヤを他方の走行駆動軸に取り付ける構造としたことで、各タイヤに均一な振動を加えることができるうえで、タイヤを全て駆動輪にできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、各タイヤに均一な振動を加えることができ、被転圧面に対するタイヤの振動締固め機能の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】振動タイヤローラの側面図(運転席等は省略)である。
図2】タイヤ周りの平断面図である。
図3】走行用モータに関する概略油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を振動タイヤローラに適用した形態について説明する。図1において、振動タイヤローラRは、上部に運転席(図示せず)が配置されたリジッドフレームの車体1を備えるとともに、前輪の複数のタイヤを同軸に軸支するステアリングヨーク72を備えたステアリングヨークタイプと呼ばれる形式の振動タイヤローラである。車体を前後に分割してアーティキュレート式に連結した構造に比して、単体のリジッドフレームからなる車体1は車体内部に大容量の液剤タンク71を搭載することが可能である。したがって、長時間にわたって路面やタイヤ等に液剤を供給し続けることができる。また、リジッドフレームの車体1は、アーティキュレート式の車体に比して、車体強度が高く、車体重量も大きくとれるので、被転圧面の締固め効率に優れるという利点がある。
【0018】
ステアリングヨーク72は、車両前後方向に延設される車体取付板部72Aと、車体取付板部72Aの前後から傾斜状に下方に延びたうえで鉛直状に延設される前後一対のタイヤ取付板部72Bとを備えた形状からなる。ステアリングヨーク72は、車体取付板部72Aが旋回ベアリング73を介して車体1に対し鉛直軸回りに旋回自在に取り付けられている。運転席の操舵ハンドルの操作でシリンダ(図示せず)が伸縮することにより、ステアリングヨーク72は旋回ベアリング73を中心に旋回する。
【0019】
以下、ステアリングヨーク72に3つのタイヤが軸支されている形態について説明する。図2に示すように、3つのタイヤには、一方の外側のタイヤから順にT1,T2,T3の符号を付す。振動タイヤローラRは、振動用モータ2A,2Bにより振動を発生する起振装置3,3(起振機ケース16,16)と、タイヤT1〜T3を走行駆動しつつ、起振装置3の振動をタイヤT1〜T3に伝達する左右一対の走行駆動軸4A,4Bと、各走行駆動軸4A,4Bをそれぞれ駆動する左右一対の走行用モータ5A,5Bと、防振ゴム(防振手段)6を介してステアリングヨーク72に取り付けられてタイヤT1とタイヤT2との間およびタイヤT2とタイヤT3との間に位置し、軸受7を介して走行駆動軸4A,4Bを支持する左右一対の第1支持ブラケット8A,8Bとを備えている。
【0020】
また、本実施形態では、振動タイヤローラRは、防振ゴム6よりもばね下質量側において左右一対の第1支持ブラケット8A,8Bの双方に接続し、走行用モータ5A,5Bを支持する第2支持ブラケット9(9A〜9E)を備えている。「ばね下質量」とは、防振ゴム6よりもタイヤT1〜T3側の振動タイヤローラRの質量を意味している。
【0021】
前後のタイヤ取付板部72Bにはそれぞれ、車幅方向に延設された連結片74が連結ピン75を介して車体前後方向の軸回りに揺動自在に連結されている。連結ピン75の代わりに旋回ベアリングを用いてもよい。各連結片74の両端には防振ゴム取付板76,76が車体前後方向に沿って取り付けられており、各防振ゴム取付板76の車幅方向外方寄りの側面に、短円柱形状を呈した防振ゴム6の一面がボルトにより取り付けられている。
【0022】
第1支持ブラケット8A,8Bは、前記したように防振ゴム6を介してステアリングヨーク72に取り付けられる部材である。本実施形態では、第1支持ブラケット8A,8Bは、第2支持ブラケット9を介したうえで、防振ゴム6を介しステアリングヨーク72に取り付けられている。第2支持ブラケット9は、平面視でタイヤT1〜T3を囲う矩形枠状の部材である。第2支持ブラケット9は、車幅方向に沿う鉛直板状の前板9A,後板9Bと、車体前後方向に沿う鉛直板状の左板9C、右板9Dとがコーナー連結部材9Eを介してボルト77およびナット78で矩形枠状に組み付けられている。前板9Aの前面および後板9Bの後面にはそれぞれ一対の防振ゴム取付座79が溶接等により左右に間隔を空けて取り付けられており、各防振ゴム取付座79が防振ゴム6の他面にボルトおよびナットにより取り付けられている。なお、第2支持ブラケット9は、前板9A,後板9B,左板9C,右板9Dの全てが一体成形であってもよいし、いずれかの一部が一体成形されたものであってもよい。
【0023】
前板9Aと後板9Bとには、車体前後方向に沿う鉛直板状の第1支持ブラケット8A,8Bが着脱自在に掛け渡されている。第1支持ブラケット8AはタイヤT1とタイヤT2との間に位置し、第1支持ブラケット8BはタイヤT2とタイヤT3との間に位置している。第1支持ブラケット8A,8Bの前後端には、平面視L字形状の連結部材80の一面がボルト81およびナット82により取り付けられている。連結部材80の他面はボルト83およびナット84により前板9Aおよび後板9Bに取り付けられている。
【0024】
以上のように、連結ピン75により,ステアリングヨーク72に対して第1支持ブラケット8A,8Bを車体前後方向の軸回りに揺動自在に取り付ければ、被転圧面の凹凸に合わせて振動タイヤローラRが揺動するため、各タイヤT1〜T3から均一な静圧力および動圧力を被転圧面に加えることができる。
【0025】
以下、第1支持ブラケット8A周りの構造について説明する。第1支持ブラケット8Aは、左板9C,右板9Dと略同じ大きさの横長矩形状を呈しており、前後方向略中央部には、軸受ホルダ12を通すための貫通孔8Cが形成されている。軸受ホルダ12は、タイヤT1〜T3と同軸状に配され、両端が開口形成された円筒部12Aと、円筒部12Aの外周に一体に突設されたフランジ部12Bとを備えて構成されている。軸受ホルダ12は、円筒部12Aが第1支持ブラケット8Aの貫通孔8C内を通った状態で、フランジ部12Bにてボルト14およびナット15により第1支持ブラケット8Aに締結固定されている。円筒部12Aの内周面には一対の軸受7,7の各外輪が内嵌されている。
【0026】
起振装置3は、起振機ケース16と、起振機ケース16の内部に配置される振動源17とを備えて構成されている。起振機ケース16は走行駆動軸4Aを構成する。したがって走行駆動軸4Aの内部に振動源17が配置されることとなる。起振機ケース16はタイヤT1〜T3と同軸に配され、両端が開口形成された円筒形状の部材であり、軸受7,7の各内輪に内嵌されることで、軸受7および軸受ホルダ12を介し第1支持ブラケット8Aに回転自在に支持される。起振機ケース16の両端の開口部周りは肉厚に形成されており、タイヤT1寄りの開口部の肉厚部にリング板状のハブ18がボルト19で締結固定され、タイヤT2寄りの開口部の肉厚部にリング板状のハブ20がボルト21で締結固定されている。
【0027】
タイヤT1のディスクホイールDW1は、そのタイヤ幅中心よりもタイヤT2寄りに位置し、タイヤT2のディスクホイールDW2は、そのタイヤ幅中心よりもタイヤT1寄りに位置している。ハブ18は、ディスクホイールDW1のディスク部にボルト24で締結固定され、ハブ20は、ディスクホイールDW2のディスク部にボルト25で締結固定される。これにより、タイヤT1とタイヤT2とは起振機ケース16を介して一体に同期回転する。
【0028】
振動源17は、起振軸22と偏心錘23とを備えて構成される。起振軸22はタイヤT1〜T3と同軸に配され、タイヤT1寄りの一端がテーパーローラベアリング26を介してハブ18に支承され、タイヤT2寄りの他端がテーパーローラベアリング27を介してハブ20に支承されている。起振軸22は振動用モータ2Aの双方向の回転により、仮に一方向の回転方向を正転とすると、正転または逆転するように構成されている。ハブ20には、起振軸22の他端およびテーパーローラベアリング27を覆うためのエンドカバー28がボルト29で締結固定されている。起振軸22の一端側は後記するように振動用モータ2Aに接続されている。
【0029】
偏心錘23は、例えば可変振幅可能な偏心錘である。起振軸22は正逆回転が可能であり、この起振軸22に一対の固定偏心錘23Aが固設されているとともに、この一対の固定偏心錘23A間において可動偏心錘23Bが起振軸22に対して回転可能に軸装されている。固定偏心錘23A,23A間には可動偏心錘23Bに当接して可動偏心錘23Bの回転を規制するストッパ23Cが固設されている。起振軸22が正転するとストッパ23Cが可動偏心錘23Bの一方の端部側を押圧しながら回転し、この状態では固定偏心錘23Aと可動偏心錘23Bの偏位の方向が一致して振動力が合成されるように作用するので大きな振動力となる。また偏心モーメントも大きくなるので高い振幅の振動となる。起振軸22が逆転するとストッパ23Cが可動偏心錘23Bの他方の端部側を押圧しながら回転し、この状態では固定偏心錘23Aと可動偏心錘23Bの偏位の方向が逆となり、振動力が互いに打ち消されるように作用するので小さな振動力となり、低い振幅の振動となる
【0030】
第2支持ブラケット9の左板9Cの車幅方向内方寄りの側面には、スペーサ板30,30を介して、車体前後方向に沿う鉛直板状のモータ取付板31が取り付けられている。このモータ取付板31には走行用モータ5Aおよび振動用モータ2Aが取り付けられる。走行用モータ5Aおよび振動用モータ2Aはたとえば油圧モータからなる。走行用モータ5Aは、貫通孔32を有した中空の構造からなるモータである。走行用モータ5Aは、その貫通孔32がタイヤT1〜T3と同軸となるようにタイヤT1の内部空間に配置されて、その固定部5Cがモータ取付板31の車幅方向内方寄りの側面にあてがわれてボルト33で締結固定されている。走行用モータ5Aの出力部側に形成されたフランジ部34はボルト35でハブ18に締結固定されている。
【0031】
振動用モータ2Aは、モータ取付板31の車幅方向外方寄りの側面にあてがわれてボルト36で締結固定されている。モータ取付板31には振動用モータ2Aの出力軸を通すための貫通孔37が形成されている。起振軸22の一端は、走行用モータ5Aの貫通孔32内に挿通させたスプラインスリーブ(軸部材)38を介して、振動用モータ2Aの出力軸に一体回転可能に連結されている。なお、左板9Cには、ボルト33,36の着脱作業を行うための貫通孔39が形成されている。
【0032】
第1支持ブラケット8A周りの構造は以上の通りであり、第1支持ブラケット8B周りの構造は、ハブ20がタイヤT2に連結されていない点を除けば、第1支持ブラケット8A周りの構造と左右対称なので説明は省略する。
起振装置3,3、振動用モータ2A,2B、走行用モータ5A,5B等を左右対称にレイアウトしたことにより、左右方向の重量バランスが良くなるため、タイヤT1〜T3に伝達される振動が略均等となり、また、部品も共用できるため、製造コストを抑えることができる。
【0033】
タイヤT1,T2とタイヤT3とを互いに独立に回転可能とする、つまり差動させるための走行用モータ5A,5Bに関する概略油圧回路を図3に示す。たとえば4つのタイヤTからなる後輪側においても差動可能に構成されており、右側2つのタイヤTと左側2つのタイヤTとがそれぞれ走行用モータ53,54により独立して回転するようになっている。この後輪側における一対の走行用モータ53,54および前輪側における一対の走行用モータ5A,5Bは、車体に搭載されたエンジンEに連結された油圧ポンプPに対して並列に接続されている。油圧ポンプPは閉回路における圧油の流れ方向を切り換える機能を有したポンプからなり、圧油の流れをU1方向或いはU2方向に切り換えることで各走行用モータ5A,5B,53,54の回転方向を変えて振動タイヤローラRを前進或いは後進させる。
【0034】
油圧ポンプPの一方のポートPaに接続する流路111には、分岐部112を介して走行用モータ53のポートP1と、走行用モータ54のポートP3と、さらに分岐部113を介して走行用モータ5BのポートP5および走行用モータ5AのポートP7と、が接続している。油圧ポンプPの他方のポートPbに接続する流路114には、分岐部115を介して走行用モータ53のポートP2と、走行用モータ54のポートP4と、さらに分岐部116を介して走行用モータ5BのポートP6および走行用モータ5AのポートP8と、が接続している。
【0035】
以上のように、前輪側における左右一対の走行用モータ5A,5Bおよび後輪側における左右一対の走行用モータ53,54が油圧ポンプPに対して並列に接続されているので、たとえば振動タイヤローラRの操舵に伴って前輪のタイヤT1,T2とタイヤT3との間で、または後輪の右側2つのタイヤTと左側2つのタイヤTとの間で回転差が生じても、その回転差に見合った圧油量が各走行用モータ5A,5B,53,54に供給され、各タイヤが差動して回転する。
【0036】
「作用」
走行用モータ5A,5Bが駆動すると、出力部のフランジ部34とボルト35によって連結した一対の起振機ケース16(走行駆動軸4A,4B)が、軸受7,7を介して第1支持ブラケット8A,8Bに支承されつつ回転する。これにより、走行駆動軸4AによってタイヤT1とタイヤT2とが一体に走行回転し、走行駆動軸4BによってタイヤT3が走行回転する。第1支持ブラケット8A,8Bは、ばね上質量側からの荷重をタイヤT1〜T3側に伝達する機能を担う。
【0037】
左右の振動用モータ2A,2Bが駆動すると、スプラインスリーブ38を介して起振軸22が正転または逆転し、偏心錘23の偏心作用により起振軸22に振動が発生する。その振動力はテーパーローラベアリング26,27,起振機ケース16を通してタイヤT1〜T3に伝達される。これにより、防振ゴム6よりもばね下質量側においてタイヤT1〜T3が振動する。
【0038】
ここでタイヤT1,T2の走行駆動軸4Aは第1支持ブラケット8Aに支持され、タイヤT3の走行駆動軸4BはタイヤT2,T3間に位置する第1支持ブラケット8Bに支持されているものの、走行用モータ5A,5B(および本実施形態では振動用モータ2A,2Bも)は第2支持ブラケット9に支持されている。第2支持ブラケット9は、走行用モータ5A,5Bおよび振動用モータ2A,2Bの駆動回転反力を受ける機能を担う。この構造において、仮に第2支持ブラケット9を左右に分割し(例えば、前板9A,後板9Bを車幅方向中央で分割する等)、分割した内の左側の第2支持ブラケット9で走行用モータ5Aおよび振動用モータ2Aを支持させ、右側の第2支持ブラケット9で走行用モータ5Bおよび振動用モータ2Bを支持させることもできる。しかし、この場合、各起振装置3の振動がタイヤT1〜T3に伝達されると、モータ類の質量バランスや設計誤差、製造誤差等によって、タイヤT1とタイヤT2とタイヤT3とが互いに車体前後方向の水平軸回りの異常な揺動を伴って振動するおそれがある。
【0039】
この問題に対して本実施形態では、防振ゴム6よりもばね下質量側において第1支持ブラケット8A,8Bの双方に接続し、走行用モータ5A,5Bを支持する矩形枠状の第2支持ブラケット9を備えているので、各第1支持ブラケット8A,8Bの実質的な剛性を高め、前記異常な揺動を伴う振動を抑制することができる。
【0040】
また、起振装置3の振動源17を走行駆動軸4A,4Bの内部に配置することで、2つのタイヤT1,T2からなるタイヤアッシィに近い位置から振動を加えて、タイヤT1,T2に効率良く振動を伝達できる。同様に、タイヤT3についても近い位置から振動を加えてタイヤT3に効率良く振動を伝達できる。
また、タイヤT1,T2とタイヤT3とを互いに差動回転駆動させることができる。
【0041】
後輪のタイヤTも全て差動可能な駆動輪とすれば、前後輪共に差動可能な駆動輪となるので、前輪側、後輪側のどちらから振動タイヤローラRを被転圧面に進入させてもアスファルト合材の押出しや操舵ハンドルによる操舵時のアスファルト合材の表層のこじれ等が起きるのを防ぐことができる。
【0042】
さらに、振動用モータ2A,2Bを第2支持ブラケット9に支持させ、走行用モータ5A,5Bを貫通孔37を有した中空構造のモータとし、貫通孔37を介して振動用モータ2A,2Bと振動源17,17とをスプラインスリーブ38により連結する構造とすれば、振動用モータ2A,2Bと走行用モータ5A,5Bのレイアウト構造を簡単なものにできる。
【0043】
以上、本発明の好適な実施形態を説明した。説明した実施形態では、第1支持ブラケット8A,8Bをステアリングヨーク72に取り付けるにあたり第2支持ブラケット9を介しているが、第2支持ブラケット9を介さずに、たとえば第1支持ブラケット8A,8Bを直接に防振ゴム6の他面側に取り付けることで、第1支持ブラケット8A,8Bをステアリングヨーク72に取り付ける構造としてもよい。そして、このように取り付けた第1支持ブラケット8A,8Bに掛け渡すように第2支持ブラケット9を取り付けることができる。
【0044】
また、タイヤは2つまたは4つであってもよい。
また、本発明は、前輪、後輪が全てタイヤからなる振動タイヤローラ以外にも、前輪、後輪のどちらか一方がタイヤで他方が鉄輪からなるコンバインド型の転圧ローラ等にも適用可能である。
さらに、走行駆動軸4と第1支持ブラケット8との間に介設される軸受7としては、例えば旋回ベアリングを用いることもできる。
【符号の説明】
【0045】
1 車体
2A,2B 振動用モータ
3 起振装置
4A,4B 走行駆動軸
5A,5B 走行用モータ
6 防振ゴム(防振手段)
7 軸受
8A,8B 第1支持ブラケット
9 第2支持ブラケット
16 起振機ケース
17 振動源
22 起振軸
23 偏心錘
72 ステアリングヨーク
T1〜T3 タイヤ
図1
図2
図3