特許第6660229号(P6660229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6660229急結性物質およびセメント組成物用急結材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6660229
(24)【登録日】2020年2月12日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】急結性物質およびセメント組成物用急結材
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/08 20060101AFI20200227BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20200227BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   C04B22/08 Z
   C04B22/10
   C04B22/14 B
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-73221(P2016-73221)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-178758(P2017-178758A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】羽根井 誉久
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋朗
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−014495(JP,A)
【文献】 特開平08−104556(JP,A)
【文献】 特開平08−119698(JP,A)
【文献】 特開平08−026797(JP,A)
【文献】 特開2014−218405(JP,A)
【文献】 特開平09−169557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 − 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分としてのCaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)が2.0〜2.6であって、前記CaOとAl23を合計で90 〜94質量%含み、かつ珪素とカリウムを酸化物換算した含有質量比(SiO2/K2O)が24.3〜34.3であって、前記酸化物換算したSiO2とK2Oを合計で4〜5質量%含むCaO−Al23−SiO2−K2O系非晶質体からなる急結性物質。
【請求項2】
請求項1記載の急結性物質、アルミン酸ナトリウムおよびアルカリ金属炭酸塩を含有するセメント組成物用急結材。
【請求項3】
さらに石膏を含有する請求項2記載のセメント組成物用急結材。
【請求項4】
請求項1記載の急結性物質100質量部、アルミン酸ナトリウム3〜11質量部およびアルカリ金属炭酸塩8〜13質量部を含有するセメント組成物用急結材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタル、コンクリート等のセメント組成物に対し、急結性を付与するための急結性物質およびセメント組成物用急結材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、山岳や地下トンネルの掘削、地中構造物や法面等の建設工事に対し、地山や構築物補強のために、壁面、天井面又は傾斜面にセメントスラリー、スラリー状のセメントモルタル又はコンクリートを吹付けることが行われている。
【0003】
吹付工法として汎用されている湿式吹付施工では、セメントに骨材と水、必要により混和剤(材)を配合したベースモルタルやベースコンクリートに、吹付直前に急結剤(材)を添加してモルタルやコンクリート等の吹付材とし、短時間にセメントの凝結を完了させることで付着性を得ている。吹付材は良好な付着性を具備することが不可欠である。
【0004】
また、トンネル、地下空間、法面等の建設工事では、しばしば壁面、天井面又は斜面等から漏水や湧水を伴うことがあり、吹付施工によるモルタルまたはコンクリート吹付材で、漏水や湧水箇所周辺を止水補強することも行われている。通常の吹付施工では、吹付けられたモルタルやコンクリートが自重による垂れや剥落を起こさない程度の強度を具備することが要求されるが、漏水防止目的に用いる吹付材では、これに加えて、吹付直後から溢れ出る漏水に耐えて付着がなされなければならない。そのため、施工作業に大きな支障を及ぼさない範囲で一刻も早く凝結が終結するように、特に高い急結性が必要とされる。このような要求性能を得易い粉末状の急結剤として、カリウムをK2O換算で1重量%以上含むカルシウムアルミネートと、アルミン酸ナトリウムおよびアルカリ金属炭酸塩等の無機塩とを含有する急結剤を使用した吹付材(例えば、特許文献1参照。)が知られている。この急結材に用いるカリウム含有カルシウムアルミネートは急結性に優れる反面、十分高い急結性を発現するにはカルシウムアルミネート中にカリウムを酸化物換算で5〜12重量%は必要とされており、高価なK2O源原料を相当量使用せねばならずコスト的に高騰する。K2O源原料の使用を減らす為、含有するK2Oの一部をNa2Oで置換させたカルシウムアルミネートを使用することも知られている。(例えば、特許文献2参照。)しかし、Na2Oへの置換量を増やすに連れて、製造コストは低減するものの、可溶性のナトリウム量が増えるため、アルカリ骨材反応による吹付けた施工物の耐久性劣化が避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−26797号公報
【特許文献2】特開平8−119698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のようにカリウムを含有させたカルシウムアルミネートを使用した急結剤は非常に高い急結性を発現できる可能性がある。本発明では、カリウムの含有により最も高い急結性が発現できたときのカリウム含有量よりも、カリウム含有量を大幅に減らしても、急結助剤類の増量併用を行わなくても、カリウムの含有により最も高い急結性が発現できたときと概ね同等の急結性を、他の性状を阻害することなく発現させることができる、コストパフォーマンスと急結性に格段に優れたカルシウムアルミネート系の急結性物質とこれを用いたセメント組成物用急結材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題の解決のため検討を重ねた結果、特定の含有モル比でCaOとAl23を主成分として含有し、残部に特定の酸化物換算含有量の関係で珪素とカリウムを含有するCaO−Al23−SiO2−K2O系非晶質体が、非常に高い急結性を得るに適した物質であることがわかり、これと特定の急結助剤等を組み合わせたセメント組成物用急結材が、非常に高い急結性と高い初期強度発現性を具備し、しかも、これをモルタルやコンクリート等のセメント系組成物に混和しても、性状が阻害され難いことから、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、次の(1)で表す急結性物質、及び(2)〜(5)で表すセメント組成物用急結材である。(1)化学成分としてのCaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)が2.0〜2.6であって、前記CaOとAl23を合計で90 〜94質量%含み、かつ珪素とカリウムを酸化物換算した含有質量比(SiO2/K2O)が24.3〜34.3であって、前記酸化物換算したSiO2とK2Oを合計で4〜5質量%含むCaO−Al23−SiO2−K2O系非晶質体からなる急結性物質。(2)前記(1)の急結性物質、アルミン酸ナトリウムおよびアルカリ金属炭酸塩を含有するセメント組成物用急結材。(3)さらに石膏を含有する前記(2)のセメント組成物用急結材。(4)前記(1)の急結性物質100質量部、アルミン酸ナトリウム3〜11質量部およびアルカリ金属炭酸塩8〜13質量部を含有するセメント組成物用急結材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高価な原料を多く使用せずとも非常に高い急結性を具備した急結性物質が得られるため、前記急結性物質を有効成分とするセメント組成物用急結材は、併用する急結助剤類の使用量を従来より大幅に減らしても、高い急結性と初期強度発現性をセメント組成物に付与することができる。この面からもコスト的に優れたセメント組成物用急結材を得ることができる。しかも、前記セメント組成物用急結材は、耐久性を初めとするセメント組成物の性状を阻害し難いものであるため、吹付材を始め、特に高い急結性や急硬性を必要とする広範囲な用途に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の急結性物質であるCaO−Al23−SiO2−K2O系非晶質体は、化学成分としてのCaOとAl23を、含有モル比(CaO/Al23)で2.0〜2.6、好ましくは2.2〜2.5、前記CaOとAl23を合計で90〜94質量%含み、かつ珪素とカリウムを酸化物換算した含有質量比(SiO2/K2O)が24.3〜34.3、好ましくは28.0〜32.5、前記酸化物換算したSiO2とK2Oを合計で4〜5質量%含むものである。化学成分としてのCaOとAl23を前記のように含むことで、瞬結化に近い高い急結性を付与できる。化学成分としてのCaOとAl23の合計含有量が、90質量%未満では、水に対する反応活性が低過ぎて、所望の急結性や速硬性が得られ難くなるため好ましくない。また、94質量%を超えると瞬結性が強まり過ぎて、例えば吹付コンクリートに使用すると対象面に到達前に凝結が終結して付着できない虞があるので好ましくない。また、化学成分としてのCaOとAl23は含有モル比(CaO/Al23)が2.0未満だと急結性が低下するため好ましくなく、前記含有モル比(CaO/Al23)が2.6を超えると瞬結性が強まり過ぎるため好ましくない。さらに、珪素とカリウムを酸化物換算による質量比(SiO2/K2O)で24.3〜34.3となるよう含むことで、より高い急結性の発現が達成できる。前記含有質量比(SiO2/K2O)が34.3を超えると、高い急結性が発現され難くなるので好ましくなく、24.3未満では原料コストの高騰に繋がる虞がある他、強度発現性が低下することがあるので好ましくない。また、前記酸化物換算としてのSiO2とK2Oの含有量は、前記の質量比であることに加え、高い初期強度発現性がより得易くなることから、酸化物換算によるSiO2とK2Oの合計量で前記本非晶質体中に4.0〜5.0質量%含むものとする。好ましくは、4.1〜4.8質量%含むものとする。酸化物換算したSiO2とK2Oの含有量が、4質量%未満では、高い急結性が得られ難くなるため好ましくない。また、5質量%を超えると瞬結性が強まり過ぎて、例えばコンクリート吹付材に使用すると対象面に到達前に凝結が終結して付着できない虞があるので好ましくない。前記CaO−Al23−SiO2−K2O系非晶質体中でケイ素とカリウムは、化学成分的には実質的に、SiO2、K2Oとして含まれる。また、前記CaO−Al23−SiO2−K2O系非晶質体は、前記以外の成分を含むことは、本発明の効果を阻害しない限り、制限はされない。
【0011】
また、前記CaO−Al23−SiO2−K2O系非晶質体は、例えば水和反応の如く常温で水と反応を起こすものであることを要す。また、前記CaO−Al23−SiO2−K2O系非晶質体は、完全に非晶質である必要はなく、概ねガラス化率75%以上、好ましくはガラス化率90%以上であれば良い。ガラス化が進んだ構造であることによって高い反応活性が得られ、急結性の向上に寄与する。ここで、ガラス化率は、粉末エックス線回折装置を用い、質量がM1のCaO−Al23−SiO2−Fe23系非晶質水和活性物質に含まれる各鉱物の質量を内部標準法等で定量し、定量できた含有鉱物相の総和質量;M2を算出し、残部が純ガラス相と見なし、次式でガラス化率を算出した。
ガラス化率(%)=(1−M2/M1)×100
【0012】
本発明の急結性物質は、前記CaO−Al23−SiO2−K2O系非晶質体からなるものである。本発明の急結性物質は粉体で使用するのが望ましいが、その粉末度は特に制限されない。好ましくは、所定の反応活性を確保する上で、ブレーン比表面積が4000〜10000cm2/gに調整したものが良い。
【0013】
また、前記CaO−Al23−SiO2−K2O系非晶質体を製造する方法は、特に限定されるものではない。一例を示すと、CaO源、Al23源、SiO2源、K2O源となる天然鉱物や市販工業用薬品等の各原料(複数の化学成分を含む原料でも良い。)を所定の配合で混合し、原料混合物を作製する。この混合物を加熱装置で概ね1200〜1400℃で溶融するまで加熱し、加熱温度から溶融物を水中急冷以外の手段で急冷することで得ることができる。
【0014】
また、本発明のセメント組成物用急結材は、前記急結性物質、アルミン酸ナトリウム及びアルカリ金属炭酸塩を含むものである。使用するアルミン酸ナトリウム(二酸化ナトリウムアルミニウム)は粉体状のものであれば限定されない。例えば市販の工業用薬品や理化学用試薬等の何れも使用できる。但し、潮解性があるため、できるだけ変質の進んでいないものを使用することが望ましい。アルミン酸ナトリウムを含むことで凝結始発時間をより確実に早めることができる。本発明のセメント組成物用急結材中に含まれるアルミン酸ナトリウムの量は、含有効果が過不足無く発現させる上で、前記急結性物質の含有量100質量部に対し、3〜11質量部、好ましくは4〜9質量部とする。また、使用するアルミン酸ナトリウムの粉末度は特に制限されるものではないが、適度な反応活性を確保し、且つ経済性も考慮すると、ブレーン比表面積で概ね4000〜90000cm2/gのものが好ましい。
【0015】
また、本発明のセメント組成物用急結材に含有使用するアルカリ金属炭酸塩は、具体的には炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムを挙げることができ、その何れでも良く、またこのうち任意の2種以上を使用しても良い。アルカリ金属炭酸塩を含むことで凝結反応が促進され、その結果凝結の終結時間がより早まる。本発明のセメント組成物用急結材中のアルカリ金属炭酸塩の含有量は、かような作用を確実に発現させる上で、前記急結性物質の含有量100質量部に対し、8〜13質量部、好ましくは、9〜12質量部とする。
【0016】
また、本発明のセメント組成物用急結材は、好ましくは、さらに石膏を含有するものとする。石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏又は硫酸カルシウムの何れでも良く、このうち二種以上を併用しても良い。より好ましくは、無水石膏を使用する。石膏の含有により、セメント水和後におけるエトリンガイトの生成が促進され、良好な強度発現性が得られる。また、中長期に亘り安定した強度値が維持される。セメント組成物用急結材に石膏を含有させる場合の含有量は、前記含有作用を十分発現させ、また含有による急結性低下や過膨張を避ける上で、好ましくは、前記急結性物質の含有量100質量部に対し、11.0〜17.5質量部、より好ましくは12.5〜16質量部とする。また、使用する石膏の粉末度は特に制限されないが、適度な反応活性を確保し、且つ経済性も考慮すると、ブレーン比表面積で概ね6000〜10000cm2/gのものが好ましい。尚、本発明のセメント組成物用急結材は、ポルトランドセメント等を含むセメント組成物に混和使用されるが、セメント組成物中のポルトランドセメントに由来する石膏分は、本発明のセメント組成物用急結材に含有される石膏量の一部として見なさないものとする。
【0017】
また、本発明のセメント組成物用急結材は、前記以外の成分も本発明の効果を阻害しない範囲で含有することができる。含有可能な成分は、例えばモルタルやコンクリート用の凝結遅延剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の重炭酸塩、亜硝酸塩又は硝酸塩等を挙げることができるが、記載例に限定されるものではない。
【0018】
また、本発明のセメント組成物用急結材のセメント組成物に対する使用量は、特に制限されるものではなく、目的、用途、セメント組成物の配合内容及び施工環境等に応じて適宜定めれば良い。ここで、セメント組成物としては、セメントペースト、モルタル、コンクリートの何れでも良く、その配合も何等制限されない。具体的な一例として、湿式吹付工法で施工する吹付コンクリートへの急結材に使用する場合の添加量は、吹付コンクリート中のポルトランドセメント含有量100質量部に対し、4〜10質量部が好ましく、より好ましくは6〜9質量部とする。
【0019】
本発明のセメント組成物用急結材は、好適には、地山や地下構造物等の補強用としての吹付コンクリートや吹付モルタルに混和使用でき、漏水や湧水等の止水材にも混和使用できる他、高い急硬性や初期強度発現性を具備するため、このような性状を必要とするものなら吹付用以外のセメント組成物にも使用できる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は記載した実施例に限定されるものではない。また、施工試験や各種特性測定は常温(20±1℃)環境下で行った。
【0021】
[急結性物質の作製]
何れも市販薬品の炭酸カルシウム、酸化珪素、酸化アルミニウム及び炭酸カリウムを用い、所望の化学組成の急結性物質が得られるよう秤量し、ヘンシェル型ミキサで乾式混合した。乾式混合した混合物を電気炉を使用し、温度約1500℃(±50℃)で60分間加熱し、加熱時間経過後は直ちに被加熱物を炉外に取出した。取出した被加熱物表面に冷却用の窒素ガスを流速約30ml/秒で吹付けて急冷し、主な含有成分の酸化物換算による含有割合(質量%)が表1に表す急結性物質を得た。また、表1には得られた急結性物質のガラス化率も記した。尚、一部の被加熱物については炉外への取出しまでは前記に準じるものの、その後の冷却用の窒素ガスは流速や吹付け時間を減らして吹付け、ガラス化率を調製した。得られた急結性物質は粉砕・分級操作により整粒し、ブレーン比表面積約5000cm2/gの粉末にした。
【0022】
【表1】
【0023】
[セメント組成物用急結材の作製]
前記作製の急結性物質粉末、何れも市販薬品のアルミン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウムおよびII型無水石膏から選定される材料を、前記非晶質粉末100質量部あたりの配合量で表した表2の配合となるようヘンシェルミキサに一括投入した。このミキサで約2分間混合することで、セメント組成物用急結材を作製した。
【0024】
【表2】
【0025】
[ベースモルタル(セメント組成物)の作製]
普通ポルトランドセメント(市販品、比重3.16)493g、混練水295g、及び細骨材(掛川産陸砂(F.M.=2.7、表乾密度;2.58))1422gを混合機に一括投入し、約90秒間混練し、ベースモルタルを得た。混合機は市販の卓上モルタルミキサを使用した。
【0026】
[急結性の評価]
前記ベースモルタルを、底付の円筒容器に入れ、ハンドミキサで1分間混合した後、屋内に30分静置した。この静置後、ハンドミキサで1分間再混合し、前記セメント組成物用急結材をベースモルタル中のポルトランドセメント含有量100質量部あたり表3に記載した量で加え、さらに5秒間攪拌して急結性評価用のモルタルを作製した。前記セメント組成物用急結材の添加30秒経過時点、60秒経過時点、120秒経過時点及び180秒経過時点のモルタルに対し、プロクター貫入抵抗値を測定することで急結性の評価を行った。プロクター貫入抵抗値の測定方法は、土木学会コンクリート標準指方書「吹付コンクリート用急結剤品質規格」付属書「貫入抵抗によるモルタルの瞬結時間測定方法」に準拠し、断面積0.125cm2のプロクター針を使用した。この貫入抵抗値の測定結果を表4に表す。
【0027】
【表3】
【0028】
【表4】
【0029】
[モルタル吹付材の作製]
また、前記のベースモルタルを湿式吹付装置(市販品)に圧送し、湿式吹付装置内で輸送中のベースモルタルに前記セメント組成物用急結材を連続的に添加した。前記添加により実質的な混合がなされ、各ベースモルタルと前記セメント組成物用急結材からなるモルタル吹付材を得た。ベースモルタルへ添加するセメント組成物用急結材の種類と添加量は、表3に表した前記の急結性評価用のモルタルと同一とした。
【0030】
[吹付特性の評価]
前記のように作製したモルタル吹付材を、前記湿式吹付装置の噴射用ノズルから約100cm離れた地点に垂直に設置された3m四方のコンクリート製平滑壁面に向かって、前記噴射用ノズルから160ml/分の流量で吹付けた。吹付性の評価は、何れも目視観察で、前記壁面からの吹付材の跳ね返り(リバウンド)を調べ、跳ね返りが見られなかったものをリバウンド「無」と判断し、跳ね返りが見られたものをリバウンド「有」と判断した。また、壁面に吹付けた吹付物に垂れが見られたり剥落が起こったりすることなく、付着し続けたものを付着性が「良好」と判断し、それ以外の状態になったものは全て付着性が「不良」と判断した。また、このような吹付けを3分間連続して行った直後に、湿式吹付装置のノズル孔に固結物による閉塞が部分的にでも塞ぐような状況となったものを閉塞発生「有」と判断し、このような閉塞が全く見られなかったもののみを閉塞発生「無」と判断した。この結果を表5に表す。
【0031】
[強度発現性の評価]
また、前記急結性評価用に作製したモルタルを、セメント組成物用急結材の添加から概ね1分以内に、内寸40×40×160mmの成形用型枠に流し込み、これを屋内の空気中に120分間静置し、静置後に脱型して所定時間20℃の湿空養生し、材齢3時間、1日及び28日の供試体を得た。この供試体の圧縮強度をJIS R 5201に準じた方法でアムスラー式強度試験機で測定した。この強度測定結果も表5に表す。
【0032】
【表5】
【0033】
表4の結果から、本発明のセメント組成物用急結材を用いたモルタルは、接水から15秒経過した時点で既に貫入抵抗値の急上昇が見られ120秒以内に概ね終結しており、しかも高い抵抗値を示したことから、強固な凝結体が早々と得られ、非常に高い急結作用を具備することがわかる。また、表5の結果から、本発明のセメント組成物用急結材を用いたモルタルは、良好な吹付性状を具備し、また、材齢28日の長期強度発現性も高い値であったことから、耐久性の劣化も起き難いことがわかる。