特許第6660421号(P6660421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6660421アルギニンとビスエポキシドとのコポリマーを含むニッケル電気めっき組成物及びニッケルを電気めっきする方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6660421
(24)【登録日】2020年2月12日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】アルギニンとビスエポキシドとのコポリマーを含むニッケル電気めっき組成物及びニッケルを電気めっきする方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/12 20060101AFI20200227BHJP
【FI】
   C25D3/12
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-114501(P2018-114501)
(22)【出願日】2018年6月15日
(65)【公開番号】特開2019-19405(P2019-19405A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2018年6月26日
(31)【優先権主張番号】62/532,542
(32)【優先日】2017年7月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591016862
【氏名又は名称】ローム アンド ハース エレクトロニック マテリアルズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Rohm and Haas Electronic Materials LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・リプスチャツ
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−155996(JP,A)
【文献】 特開2017−036501(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/157639(WO,A1)
【文献】 特開平03−120390(JP,A)
【文献】 特開2014−139336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/00−3/66
C25D 5/00−5/56
C25D 7/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上のニッケルイオン供給源と、サッカリン酸ナトリウム、ホウ酸、及びホウ酸塩から選択される1つ以上の化合物と、任意の1つ以上の酢酸イオン供給源と、アルギニンと1つ以上のビスエポキシドとの1つ以上のコポリマーとを含むニッケル電気めっき組成物であって、前記1つ以上のスエポキシドは、式:
【化1】
を有し、式中、Y及びYは独立して、H及び直鎖または分岐の(C−C)アルキルから選択され、AはORまたはRであり、Rは((CR)O)であり、R及びRは独立して、H、ヒドロキシル、及びメチルから選択され、Rは(CHであり、mは1〜6の数であり、nは1〜20の数であり、yは0〜6の数であり、yが0であるとき、Aは共有化学結合である、
クマリン、プロパルギルアルコール、ジエチルプロパルギルジオール、スルホン酸ナフタレン、及びアリルスルホン酸ナトリウムを含まず、サッカリン酸ナトリウム、硫酸ニッケル、スルホン酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、スルファミン酸、硫酸、ジ(1,3−ジメチルブチル)スルホコハク酸ナトリウム、2−エチルヘキシル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジアミルナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ジ−アルキルスルホコハク酸ナトリウム、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム以外の硫黄含有化合物を実質的に含まないニッケル電気めっき組成物。
【請求項2】
前記アルギニンと1つ以上のビスエポキシドとの1つ以上のコポリマーが少なくとも0.1ppmの量で存在する、請求項1に記載のニッケル電気めっき組成物。
【請求項3】
前記1つ以上の酢酸イオン供給源が、酢酸ニッケル、酢酸ニッケル四水和物、酢酸塩のアルカリ金属塩、及び酢酸から選択される、請求項1に記載のニッケル電気めっき組成物。
【請求項4】
1つ以上の塩化物供給源をさらに含む、請求項1に記載のニッケル電気めっき組成物。
【請求項5】
前記ニッケル電気めっき組成物のpHが2〜6である、請求項1に記載のニッケル電気めっき組成物。
【請求項6】
基材上にニッケル金属を電気めっきする方法であって、
a)前記基材を提供することと、
b)前記基材を、1つ以上のニッケルイオン供給源と、サッカリン酸ナトリウム、ホウ酸、及びホウ酸塩から選択される1つ以上の化合物と、任意の1つ以上の酢酸イオン供給源と、アルギニンと1つ以上のビスエポキシドとの1つ以上のコポリマーとを含むニッケル電気めっき組成物と接触させることであって、前記1つ以上のビスエポキシドは、式:
【化2】
を有し、式中、Y及びYは独立して、H及び直鎖または分岐の(C−C)アルキルから選択され、AはORまたはRであり、Rは((CR)O)であり、R及びRは独立して、H、ヒドロキシル、及びメチルから選択され、Rは(CHであり、mは1〜6の数であり、nは1〜20の数であり、yは0〜6の数であり、yが0であるとき、Aは共有化学結合であ
前記ニッケル電気めっき組成物は、クマリン、プロパルギルアルコール、ジエチルプロパルギルジオール、スルホン酸ナフタレン、及びアリルスルホン酸ナトリウムを含まず、前記ニッケル電気めっき組成物は、サッカリン酸ナトリウム、硫酸ニッケル、スルホン酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、スルファミン酸、硫酸、ジ(1,3−ジメチルブチル)スルホコハク酸ナトリウム、2−エチルヘキシル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジアミルナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ジ−アルキルスルホコハク酸ナトリウム、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム以外の硫黄含有化合物を実質的に含まない、ニッケル電気めっき組成物と接触させることと、
c)前記ニッケル電気めっき組成物及び前記基材に電流を印加して、前記基材に隣接する光沢性で均一なニッケルめっき層を電気めっきすることと、を含む、方法。
【請求項7】
電流密度が少なくとも0.1ASDである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ニッケル電気めっき組成物の前記1つ以上の酢酸イオン供給源が、酢酸ニッケル、酢酸ニッケル四水和物、酢酸塩のアルカリ金属塩、及び酢酸から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ニッケル電気めっき組成物が、1つ以上の塩化物供給源をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ニッケル電気めっき組成物が2〜6のpHを有する、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギニンとビスエポキシドとのコポリマーを含むニッケル電気めっき組成物及びニッケルを電気めっきする方法を対象とする。より具体的には、本発明は、アルギニンとビスエポキシドとのコポリマーを含む電気めっき組成物及びニッケルを電気めっきする方法を対象とし、ニッケルめっき層は、広い電流密度範囲にわたり、表面にわたって少なくとも均一な光沢性を有する。
【背景技術】
【0002】
光沢ニッケル電気めっき浴は、自動車、電気、電気器具、ハードウェア及び様々な他の産業において使用される。最も一般的に知られ、使用されているニッケル電気めっき浴の1つはワット浴である。典型的なワット浴は、硫酸ニッケル、塩化ニッケル及びホウ酸を含む。ワット浴は、典型的には、2〜5.2のpH範囲、30〜70℃のめっき温度範囲及び1〜6アンペア/dmの電流密度範囲で操作する。硫酸ニッケルは、所望のニッケルイオン濃度を提供するために浴中に比較的大量に含まれる。塩化ニッケルはアノードの腐食を改善し、導電性を高める。ホウ酸は、浴のpHを維持する弱い緩衝液として使用される。光沢と艶のあるめっき層を得るために、有機及び無機の光沢剤がしばしば浴に添加される。典型的な有機の光沢材の例としては、サッカリン酸ナトリウム、トリスルホン酸ナフタレン、アリルスルホン酸ナトリウム、クマリン、プロパルギルアルコール及びジエチルプロパルギルジオールが挙げられる。
【0003】
ニッケル電気めっき浴のための多くの従来の添加剤が、半光沢から光沢性のニッケルめっき層ならびに外観及びめっき速度の均一性を提供するのに十分であるが、一般に、所望のニッケルめっき性能を達成するために複数の添加剤が含まれる。いくつかのニッケル電気めっき組成物において、6種もの添加剤が、所望のニッケルめっき性能及びめっき層を達成するために含まれる。そのようなニッケル電気めっき浴の欠点は、浴の性能及びめっき層の外観を制御することの困難性である。所望の浴の性能及びめっき層の外観を達成するために、添加剤は適切なバランスでなければならず、そうでないと、劣勢で許容できないニッケルめっき層が得られ、めっき性能は非効率的である。浴を使用する作業者は、必然的に浴添加剤の濃度を監視しなければならず、浴中の添加剤の数が多いほど浴を監視することがより困難であり、より時間がかかる。めっきの間に、浴添加剤の多くがニッケルめっきを腐食する可能性のある化合物に分解する。いくつかの添加剤は、浴中に5g/Lもの濃度で含まれる。添加剤の濃度がより高いと、分解生成物はより多くなる。めっきプロセスの間、ある時点で分解生成物を除去しなければならず、めっき性能及びめっき層の品質を維持するために、ニッケル浴に新しい添加剤を補充して分解された添加剤を補わなければならない。添加剤の補充は、実質的に正確であるべきである。ニッケルめっき浴中の添加剤の高濃度と関連する別の問題は、添加剤はニッケルと共付着することができ、めっき層の特性に悪影響を及ぼし、脆化及び内部応力の増大を引き起こす。ニッケルめっき層の延性もまた損なわれる。硫黄含有添加剤は、特にそれらの延性への影響において有害である。
【0004】
混合性能を有する従来の非硫黄含有ニッケル浴添加剤の例はクマリンである。クマリンは、ワット浴からの高レベリングの、延性のある、半光沢で、硫黄を含まないニッケルめっき層を提供するためにニッケルめっき浴に含まれる。レベリングとは、ニッケルめっき層がスクラッチ及びポリッシュラインなどの表面欠陥を埋めて滑らかにする能力を指す。クマリンを含む典型的なニッケルめっき浴の例は、約150〜200mg/Lのクマリン及び約30mg/Lのホルムアルデヒドを含む。浴中の高濃度のクマリンは、非常に良好なレベリング性能を提供するが、そのような性能は短命である。そのような高いクマリン濃度は、有害な分解生成物の割合を高くする。分解生成物は、その後の光沢ニッケルめっき層によって容易には光沢の出ない、不均一でくすんだ灰色の領域をめっき層中に生じさせるので、望ましくない。それらは、ニッケル浴のレベリング性能を低下させ得ると共に、ニッケルめっき層の他の有益な物理的性質を低下させ得る。この問題を解決するために、産業界の作業者はクマリン濃度を減らし、ホルムアルデヒドと抱水クロラールを加えることを提案しているが、適度な濃度のこのような添加剤の使用は、ニッケルめっき層の引張応力を増加させるだけでなく、浴のレベリング性能を損なう。さらに、REAChなどの多くの政府の規制は、ホルムアルデヒド及びクマリン化合物を環境に有害であるとみなす。したがって、そのような化合物の使用は、めっき業界において、推奨されていない。
【0005】
めっき層の延性及び内部応力を犠牲にすることなく高度にレベリングされた、光沢性のニッケルめっき層を提供することが重要である。めっきしたニッケルめっき層の内部応力は、圧縮応力または引張応力であり得る。圧縮応力は、応力が緩和されるようにめっき層が膨張する場所である。対照的に、引張応力は、めっき層が収縮する場所である。高度に圧縮されためっき層は、ブリスター、ひずみ、またはめっき層を基材から分離させることがあり、引張応力の高いめっき層は、ひび割れ及び疲労強度の低下に加えて、ひずみを引き起こす可能性がある。
【0006】
上記で簡単に述べたように、ニッケル電気めっき浴は様々な産業で使用されている。ニッケル電気めっき浴は、電気コネクタ及びリードフレーム上にニッケル層を電気めっきする際に典型的に使用される。このような物品は、不規則な形状を有し、比較的粗い表面を有する銅及び銅合金のような金属で構成される。したがって、ニッケル電気めっきの間、電流密度は物品にわたって不均一であり、物品にわたって厚さ及び外観が容認できないほど不均一であるニッケルめっき層をもたらすことが多い。
【0007】
したがって、広い電流密度範囲にわたってでさえ光沢性で均一なニッケルめっき層、良好な延性を提供し、減少した数の添加剤を有するニッケル電気めっき組成物及び方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、1つ以上のニッケルイオン供給源と、サッカリン酸ナトリウム、ホウ酸及びホウ酸の塩から選択される1つ以上の化合物と、任意選択の1つ以上の酢酸イオン供給源と、アルギニンと1つ以上のビスエポキシドとの1つ以上のコポリマーとを含むニッケル電気めっき組成物を対象とし、1つ以上のビスエポキシドは、式:
【0009】
【化1】
【0010】
を有し、式中、Y及びYは独立して、H及び直鎖または分岐の(C−C)アルキルから選択され、AはORまたはRであり、Rは((CR)O)であり、R及びRは独立して、H、ヒドロキシル、及びメチルから選択され、Rは(CHであり、mは1〜6の数であり、nは1〜20の数であり、yは0〜6の数であり、yが0であるとき、Aは共有化学結合である。
【0011】
本発明はまた、基材上にニッケル金属を電気めっきする方法であって、
a)前記基材を提供することと、
b)基材を、1つ以上のニッケルイオン供給源と、サッカリン酸ナトリウム、ホウ酸、及びホウ酸塩から選択される1つ以上の化合物と、任意の1つ以上の酢酸イオン供給源と、アルギニンと1つ以上のビスエポキシドとの1つ以上のコポリマーとを含むニッケル電気めっき組成物と接触させることであって、前記1つ以上のビスエポキシドは、式:
【0012】
【化2】
【0013】
を有し、式中、Y及びYは独立して、H及び直鎖または分岐の(C−C)アルキルから選択され、AはORまたはRであり、Rは((CR)O)であり、R及びRは独立して、H、ヒドロキシル、及びメチルから選択され、Rは(CHであり、mは1〜6の数であり、nは1〜20の数であり、yは0〜6の数であり、yが0であるとき、Aは共有化学結合である、接触させることと、
c)前記ニッケル電気めっき組成物及び前記基材に電流を印加して、前記基材に隣接する光沢性で均一なニッケルめっき層を電気めっきすることと、を含む方法を対象とする。
【0014】
電気めっきされたニッケルめっき層は、光沢性で均一で、良好なレベリングを有する。本発明のニッケル電気めっき組成物は、電気コネクタ及びリードフレームなどの不規則な形状の物品であっても、広い電流密度範囲にわたって光沢性で均一なニッケルめっき層を電気めっきすることができる。本発明のニッケル電気めっき組成物は、より多い添加剤を使用し、ニッケルめっき層の延性に有害であり得る複数の硫黄含有添加剤を典型的に含む従来のニッケル電気めっき組成物と比較して同等以上の光沢性のニッケルめっき層のめっきを可能にする。より少ない添加剤または全体の添加剤のより低い濃度を使用することによって、ニッケルと共付着する添加剤の量が減少し、良好な延性を有する光沢性のニッケルめっき層の産生を可能にする。全体の添加剤の濃度を低下することは、添加剤消費に関連する費用を低下させる。
【0015】
本発明のニッケル電気めっき組成物の減少した添加剤は、多くの従来のニッケル電気めっき組成物よりも、ニッケル電気めっき組成物のより容易な維持を可能にし、組成物中のいくつかの添加剤の独立した分析を可能にし、組成物のより一層の制御を可能にする。本発明のニッケル電気めっき組成物はまた、さらにより高い電気密度において、多くの従来のニッケル電気めっき組成物と比較して、同等以上の光沢性のニッケルめっき層の付着を可能にする。これにより、めっきオペレータは、生産設備のより高い生産性を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書全体で使用されるとき、略語は、文脈が他を明確に示さない限り、次の意味を有する。℃=摂氏度;g=グラム;mg=ミリグラム;ppm=mg/L;L=リットル;mL=ミリリットル;m=メートル;cm=センチメートル;μm=ミクロン;DI=脱イオン;A=アンペア;ASD=アンペア/dm=電流密度またはめっき速度;DC=直流;wt%=重量%;H=水素;CCE=カソード電流効率;GU=グロス単位;及びASTM=米国標準試験方法。
【0017】
「隣接する」という用語は、2つの金属層が共通の界面を有するように直接接触していることを意味する。「水性」という用語は、水または水ベースであることを意味する。「レベリング」という用語は、電気めっきされためっき層がスクラッチまたはポリッシュラインなどの表面欠陥を埋めて滑らかにする能力を有することを意味する。「マット」という用語は、くすんだ外観を意味する。「カソード電流効率」という用語は、カソード反応に適用される電流効率を意味し、実際に付着した金属の重量の、全ての電流が付着に使用された場合に生じたであろう金属の重量に対する比である。「組成物」及び「浴」という用語は、明細書全体にわたって交換可能に使用される。「コポリマー」という用語は、アルギニンと1つ以上のビスエポキシドとの反応生成物を意味する。「モノマー」という用語は、ポリマーまたはコポリマーの基本単位を形成する分子を意味する。「アルギニン」という用語は、α−アミノ酸アルギニンを意味し、D及びLの異性体、ならびにラセミ体修飾を含む。「部分」という用語は、分子の一部分または分子の機能的部分を意味する。「共有化学結合」という用語は、原子間の電子対の共有を含む化学結合を意味する。「めっき層(deposit)」及び「層(layer)」という用語は、明細書全体にわたって交換可能に使用される。「電気めっき(electroplating)」、「めっき(plating)」及び「付着(depositing)」という用語は、明細書全体にわたって交換可能に使用される。「a」及び「an」という用語は、明細書全体にわたって単数及び複数の両方を指すことができる。そのような数値範囲が最大100%に制限されることが論理的である場合を除いて、全ての数値範囲は包括的で任意の順序で組み合わせ可能である。
【0018】
本発明は、不規則な形状の物品上でさえも、広い電流密度範囲にわたって少なくとも光沢性の及び均一なニッケルめっき層を提供する、基材上にニッケルを電気めっきするための水性ニッケル電気めっき組成物及び方法を対象とする。本発明のニッケル電気めっき組成物は、良好なレベリング性能及び良好な延性を有する。本発明のニッケル電気めっき組成物は、多くの従来の電気めっき組成物中のより少ない添加剤をめっき組成物中に有し、ニッケルの電気めっき中のより容易な維持とより一層の制御を可能にする。本発明の水性ニッケル電気めっき組成物は、アルギニンである第1のモノマーと、ビスエポキシド化合物である第2のモノマーとから構成されるコポリマーを含み、本発明のビスエポキシド化合物は、式:
【0019】
【化3】
【0020】
を有し、式中、Y及びYは独立して、H及び直鎖または分岐の(C−C)アルキルから選択され、AはORまたはRであり、Rは((CR)O)であり、Rは(CHであり、R及びRは独立して、H、ヒドロキシル、及びメチルから選択され、mは1〜6の数であり、nは1〜20の数であり、yは0〜6の数であり、yが0であるとき、Aは共有化学結合である。好ましくは、Y及びYは独立して、H及び(C−C)アルキルから選択され、AはRまたはRであり、R及びRは独立して、H及びメチルから選択され、mは1〜4の数であり、nは1〜10の数であり、yは0〜4の数であり、より好ましくは、Y及びYは独立して、H及びメチルから選択され、AはRまたはRであり、R及びRはHであり、mは2〜4の数であり、nは1〜5の数であり、yは0〜4の数である。さらにより好ましくは、Y及びYは独立して、H及びメチルから選択され、AはRであり、R及びRはHであり、mは1〜4の数であり、nは1〜4の数である。
【0021】
AがRであるビスエポキシド化合物は、以下の式:
【0022】
【化4】
【0023】
を有し、式中、Y及びYは上に定義されるとおりである。最も好ましくはY及びYはHであり、yが1〜4の数であるか、yが2〜4の数である。Y及びYがHであり、かつAがRである例示的なビスエポキシドは、1,5−ジエポキシヘキサン、1,7−ジエポキシオクタン、及び1,9−ジエポキシデカンである。
【0024】
AがORであり、かつRが((CR)O)であるビスエポキシド化合物は、以下の式:
【0025】
【化5】
【0026】
を有し、式中、Y、Y、R、R、m、及びnは上に定義されるとおりである。最も好ましくは、Y及びYがHであり、かつmが2であり、各々のRがHであり、かつRがH及びメチルから選択され、かつnが1〜10の数である。mが3であるとき、少なくとも1つのRがメチル及びヒドロキシルから選択され、かつnが1であることが最も好ましい。mが4であるとき、RとRの両方がHであり、かつnが1であることが最も好ましい。
【0027】
式(III)の例示的な化合物は、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル化合物、グリセロールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル、及びポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル化合物である。
【0028】
本発明において有用なアルギニン及びビスエポキシド化合物(モノマー)は、Sigma−Aldrichのような様々な供給源より市販されるか、または当技術分野に公知の様々な文献の方法によって調製できる。本発明のアルギニンは、DまたはLの異性体、ならびにラセミ混合物であり得、好ましくは異性体L−アルギニンが本発明のコポリマーの調製に使用される。
【0029】
本発明のコポリマーは、アルギニン、好ましくはL−アルギニンである第1のモノマーと、1つ以上のビスエポキシドである第2のモノマーとの反応生成物であり、上述の式を有する。モノマーの反応容器への添加の順序は変動してもよいが、好ましくは、アルギニンを80℃で水に溶解し、1つ以上のビスエポキシドを滴下する。次いで、加熱浴の温度を80℃から95℃に上昇させる。攪拌を伴う加熱を2時間から4時間実施する。室温での6〜12時間の攪拌の後、生じる反応生成物を水で希釈する。反応生成物を、水溶液中でそのまま使用してもよく、精製してもよく、または所望により単離してもよい。典型的に、アルギニンの1つ以上のビスエポキシド化合物に対するモル比は、0.1:10〜10:0.1であり、好ましくは、モル比は、1:5〜5:1であり、より好ましくは1:2〜2:1である。アルギニンのビスエポキシド化合物に対する他の好適な比を、本発明のコポリマーを調製するために使用できる。アルギニンとのコポリマーを作製するのに使用される特定のビスエポキシドに関して、好ましいパラメータに到達するために、わずかな実験を行うことができる。
【0030】
一般的に、本発明のコポリマーは、200〜100,000、典型的には300〜50,000、好ましくは500〜30,000の数平均分子量(Mn)を有するが、他のMn値を有する反応生成物も使用できる。そのような反応生成物は、1000〜50,000、典型的には5000〜30,000の範囲の重量平均分子量(Mw)値を有することができるが、他のMw値も使用できる。
【0031】
一般的に、本発明のコポリマーは、少なくとも0.1ppmの量で、好ましくは0.1ppm〜20ppmの量で、さらにより好ましくは0.5ppm〜15ppmの量で、さらにより好ましくは0.5ppm〜15ppmの量で、さらにより好ましくは、1ppm〜10ppmの量で、そして最も好ましくは5ppm〜10ppmの量で、水性ニッケル電気めっき組成物中に含ませることができる。
【0032】
1つ以上のニッケルイオン供給源は、少なくとも25g/L、好ましくは30g/L〜150g/L、より好ましくは35g/L〜125g/L、さらにより好ましくは40g/L〜100g/L、さらにより好ましくは45g/L〜95g/L、さらにより好ましくは50g/L〜90g/L、最も好ましくは50g/L〜80g/Lのニッケルイオン濃度を提供するのに十分な量で水性ニッケル電気めっき組成物に含まれる。
【0033】
1つ以上のニッケルイオン供給源には、水に可溶なニッケル塩が含まれる。1つ以上のニッケルイオン供給源としては、硫酸ニッケル及びその水和形態の硫酸ニッケル六水和物及び硫酸ニッケル七水和物、スルファミン酸ニッケル及びその水和形態のスルファミン酸四水和物、塩化ニッケル及びその水和形態の塩化ニッケル六水和物、ならびに酢酸ニッケル及びその水和形態の酢酸ニッケル四水和物が挙げられるが、これらに限定されない。1つ以上のニッケルイオン供給源は、上記で開示された所望のニッケルイオン濃度を提供するのに十分な量で水性ニッケル電気めっき組成物に含まれる。酢酸ニッケルまたはその水和形態は、水性ニッケル電気めっき組成物中に、好ましくは15g/L〜45g/L、より好ましくは20g/L〜40g/Lの量で含まれ得る。硫酸ニッケルが水性ニッケル電気めっき組成物に含まれる場合、好ましくは、スルファミン酸ニッケルまたはその水和形態は排除される。硫酸ニッケルは、好ましくは100g/L〜550g/L、より好ましくは150g/L〜350g/Lの量で水性ニッケル電気めっき組成物中に含まれ得る。スルファミン酸ニッケルまたはその水和形態が水性ニッケル電気めっき組成物に含まれる場合、それらは、好ましくは120g/L〜675g/L、より好ましくは200g/L〜450g/Lの量で含まれ得る。塩化ニッケルまたはその水和形態は、水性ニッケル電気めっき組成物中に、好ましくは0g/L〜60g/L、より好ましくは1g/L〜22g/L、さらにより好ましくは5g/L〜20g/L、最も好ましくは5g/L〜15g/Lの量で含まれ得る。
【0034】
ホウ酸、ホウ酸塩及びサッカリン酸ナトリウムから選択される1つ以上の化合物がニッケル電気めっき組成物に含まれる。ホウ酸塩は、ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム及び四ホウ酸二ナトリウムを含む。好ましくは、水性ニッケル電気めっき組成物にサッカリン酸ナトリウムが含まれる。サッカリン酸ナトリウムがニッケル電気めっき組成物に含まれるとき、組成物からホウ酸及びその塩を排除し、かつ1つ以上の酢酸イオン供給源を含むことが最も好ましい。
【0035】
ホウ酸、またはその塩がニッケル電気めっき組成物に含まれるとき、それらは、5g/L〜50g/L、好ましくは10g/L〜45g/L、より好ましくは20g/L〜35g/Lの量で含まれる。
【0036】
サッカリン酸ナトリウムがニッケル電気めっき組成物に含まれる場合、それは少なくとも100ppmの量で含まれる。好ましくは、サッカリン酸ナトリウムは、100ppm〜10,000ppm、より好ましくは100ppm〜5000ppm、最も好ましくは100ppm〜1000ppmの量で含まれる。
【0037】
任意選択的に、1つ以上の酢酸イオン供給源が水性ニッケル電気めっき組成物に含まれる。酢酸イオン供給源としては、酢酸ニッケル、四酢酸ニッケル四水和物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、及び酢酸カリウムのような酢酸アルカリ金属塩、ならびに酢酸が挙げられるが、これらに限定されない。アルカリ金属塩がニッケル電気めっき組成物に含まれるとき、好ましくは、1つ以上の酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムが選択され、より好ましくは、酢酸カリウムが選択される。1つ以上の酢酸イオン供給源がニッケル電気めっき組成物に含まれるとき、ニッケル電気めっき組成物からホウ酸及びその塩を排除することが好ましい。好ましくは、少なくとも5g/L、好ましくは5g/L〜30g/L、より好ましくは10g/L〜25g/Lでの酢酸イオン濃度を提供するのに十分な量の1つ以上の酢酸イオン供給源をニッケル電気めっき組成物に添加する。
【0038】
任意選択的に、1つ以上の塩化物イオン供給源を水性ニッケル電気めっき組成物に含めることができる。0〜20g/L、好ましくは0.5〜20g/L、より好ましくは1g/L〜15g/L、さらにより好ましくは2g/L〜10g/Lの塩化物イオン濃度を提供するのに十分な量の1つ以上の塩化物イオン供給源を水性ニッケル電気めっき組成物に添加することができる。白金または白金チタンを含有する不溶性アノードのような不溶性アノードを使用してニッケル電気めっきを行う場合、好ましくは、ニッケル電気めっき組成物は塩化物を含まない。塩化物の供給源としては、塩化ニッケル、塩化ニッケル六水和物、塩化水素、塩化ナトリウム及び塩化カリウムのようなアルカリ金属塩が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、塩化物の供給源は塩化ニッケル及び塩化ニッケル六水和物である。好ましくは、塩化物は水性ニッケル電気めっき組成物に含まれる。
【0039】
水性ニッケル電気めっき組成物は酸性であり、pHは好ましくは2〜6、より好ましくは3〜5、さらにより好ましくは4〜5の範囲である。無機酸、有機酸、無機塩基または有機塩基は、水性ニッケル電気めっき組成物を緩衝するために使用することができる。そのような酸としては、硫酸、塩酸、及びスルファミン酸などの無機酸が挙げられるが、これらに限定されない。酢酸、アミノ酢酸、アスコルビン酸などの有機酸を用いることができる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、各種アミン等の有機塩基を用いることができる。好ましくは、緩衝液は、酢酸及びアミノ酢酸から選択される。最も好ましくは、緩衝液は酢酸である。ホウ酸がニッケル電気めっき組成物中に含まれるとき、それは緩衝液として作用する。緩衝液は、所望のpH範囲を維持するのに必要な量で添加することができる。本発明のニッケル電気めっき組成物の弱酸性環境は、本発明の反応生成物を部分的または完全にプロトン化するように維持し、反応生成物のイミダゾール部分の窒素原子の少なくとも1個が、ニッケル電気めっき組成物中の正電荷を維持することを可能にし、したがって、本発明の反応生成物はカチオン性ポリマーである。
【0040】
任意選択的に、水性ニッケル電気めっき組成物中に1つ以上の従来の光沢剤を含めることができる。任意の光沢剤としては、2−ブチン−1,4−ジオール、1−ブチン−1,4−ジオールエトキシレート、及び1−エチニルシクロヘキシルアミンが挙げられるが、これらに限定されない。そのような光沢剤は、0.5g/L〜10g/Lの量で含まれ得る。好ましくは、このような任意の光沢剤は、水性ニッケル電気めっき組成物から排除される。
【0041】
クマリン、プロパルギルアルコール、ジエチルプロパルギルジオール、スルホン酸ナフタレン、アリルスルホン酸ナトリウムのようなニッケル電気めっき浴中で典型的に使用される従来の光沢材は、本発明のニッケル電気めっき組成物から排除される。サッカリン酸ナトリウム、スルホン酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、スルファミン酸、及び特定の硫黄含有界面活性剤を除いて、本発明のニッケル電気めっき組成物は、好ましくは硫黄含有化合物を実質的に含まない。
【0042】
任意選択的に、本発明の水性ニッケル電気めっき組成物には、1つ以上の界面活性剤を含めることができる。このような界面活性剤としては、カチオン性及びアニオン性界面活性剤などのイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。界面活性剤は、0.05g/L〜30g/Lのような従来の量で使用することができる。
【0043】
使用できる界面活性剤の例は、ジ(1,3−ジメチルブチル)スルホコハク酸ナトリウム、2−エチルヘキシル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジアミルナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ジ−アルキルスルホコハク酸ナトリウム及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びカチオン性界面活性剤、例えば過フッ素化第四級アミンのような第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0044】
他の任意の添加剤としては、レベラー、キレート剤、錯化剤及び殺生物剤が挙げられるが、これらに限定されない。そのような任意の添加剤は、従来の量で含めることができる。
【0045】
不可避的な金属汚染物を除いて、本発明の水性ニッケル電気めっき組成物は、金属めっき浴に通常含まれる合金化金属または金属を含まず、金属めっき層の光沢を輝かせるかまたは改善する。本発明の水性ニッケル電気めっき組成物は、この電気めっき組成物中に最小数の成分を用いる実質的に平滑な表面を有する光沢性で均一なニッケル金属層を付着させる。
【0046】
本発明の水性ニッケル電気めっき組成物は、任意の順序で成分を混合することによって調製してもよい。ニッケルイオン供給源、水、ホウ酸及びその塩ならびに任意の塩化物イオン供給源のような無機成分を最初に組成容器へと添加し、サッカリン酸ナトリウム、酢酸イオン供給源、酢酸及び任意の他の任意の有機成分のような有機成分が後に続くことが好ましい。
【0047】
好ましくは、本発明の水性ニッケル電気めっき組成物は、1つ以上のニッケルイオン供給源であって、この1つ以上のニッケルイオン供給源は溶液中にニッケルをめっきするのに十分な量のニッケルイオンを提供する、1つ以上のニッケルイオン供給源及びこの1つ以上のニッケルイオン供給源からの対応する対アニオンと、アルギニンと1つ以上のビスエポキシドとの1つ以上のコポリマーと、任意選択的に1つ以上の酢酸イオン供給源及び対応する対カチオンと、サッカリン酸ナトリウム、ホウ酸、及びホウ酸塩の1つ以上と、任意選択的に1つ以上の塩化物イオン供給源及び対応するカチオンと、任意選択的に1つ以上の界面活性剤と、水と、から構成される。
【0048】
より好ましくは、本発明の水性ニッケル電気めっき組成物は、1つ以上のニッケルイオン供給源であって、この1つ以上のニッケルイオン供給源は溶液中にニッケルをめっきするのに十分な量のニッケルイオンを提供する、1つ以上のニッケルイオン供給源及びこの1つ以上のニッケルイオン供給源からの対応する対アニオンと、アルギニンと1つ以上のビスエポキシドとの1つ以上のコポリマーと、サッカリン酸ナトリウムと、1つ以上の酢酸イオン供給源及び対応する対カチオンと、任意選択的に1つ以上の塩化物イオン供給源及び対応するカチオンと、任意選択的に1つ以上の界面活性剤と、水と、から構成される。
【0049】
さらにより好ましくは、本発明の水性ニッケル電気めっき組成物は、1つ以上のニッケルイオン供給源であって、この1つ以上のニッケルイオン供給源は溶液中にニッケルをめっきするのに十分な量のニッケルイオンを提供する、1つ以上のニッケルイオン供給源及びこの1つ以上のニッケルイオン供給源からの対応する対アニオンと、アルギニンと1つ以上のビスエポキシドとの1つ以上のコポリマーと、サッカリン酸ナトリウムと、酢酸ニッケル、酢酸ニッケル四水和物、酢酸塩のアルカリ金属塩、及び酢酸の1つ以上から選択される1つ以上の酢酸イオン供給源と、1つ以上の塩化物イオン供給源及び対応するカチオンと、任意選択的に1つ以上の界面活性剤と、水と、から構成される。
【0050】
本発明の水性ニッケル電気めっき組成物は、より少ない添加剤、またはより低い全体の添加剤の濃度を使用し、したがって、ニッケルと共付着する添加剤の量が減少し、良好な延性を有する光沢性のニッケルめっき層の産生を可能にする。全体の添加剤の濃度を低下することはまた、電気めっきの間の添加剤消費に関連する費用を低下させる。
【0051】
本発明の水性環境に優しいニッケル電気めっき組成物を使用して、導電性基材と半導体基材の両方の様々な基材上にニッケル層を付着させることができる。好ましくは、ニッケル層が付着される基材は銅及び銅合金基材である。そのような銅合金基材には、黄銅及び青銅が含まれるが、これらに限定されない。めっき中の電気めっき組成物の温度は、室温〜70℃、好ましくは30℃〜60℃、より好ましくは40℃〜60℃の範囲であり得る。ニッケル電気めっき組成物は、好ましくは、電気めっき中に連続的に撹拌されている。
【0052】
一般に、ニッケル金属電気めっき方法は、本発明の水性ニッケル電気めっき組成物を提供することと、基材を組成物に浸漬することまたは基材に組成物を噴霧することなどによって、基材を水性ニッケル電気めっき組成物と接触させることと、を含む。基材がカソードとして機能し、対極またはアノードが存在する従来の整流器に電流を印加する。アノードは、基材の表面に隣接してニッケル金属を電気めっきするために使用される任意の従来の可溶性または不溶性アノードであり得る。本発明の水性ニッケル電気めっき組成物は、広い電流密度範囲にわたって光沢性で均一なニッケル金属層の付着を可能にする。多くの基材は不規則な形状であり、典型的には不連続な金属表面を有する。したがって、電流密度は、そのような基材の表面にわたって変化し得、典型的には、めっきの間に不均一な金属めっき層をもたらす。また、ニッケルが従来のニッケルめっき浴からめっきされるとき、表面の明るさは、通常、くすんだめっき層と光沢性のめっき層の組み合わせを有し、不規則である。本発明のニッケル電気めっき組成物からめっきされたニッケル金属は、広い電流密度範囲にわたって、不規則な形状の基材を含む基材の表面にわたって実質的に滑らかで均一で光沢性のニッケルめっき層を可能にする。さらに、本発明のニッケル電気めっき組成物は、金属基材上のスクラッチ及び研磨目を覆うように実質的に均一で光沢性のニッケルめっき層のめっきを可能にする。
【0053】
電流密度は、0.1ASD以上であることができる。好ましくは、電流密度は0.5ASD〜70ASD、より好ましくは1ASD〜40ASD、さらにより好ましくは5ASD〜30ASDの範囲である。ニッケル電気めっき組成物がリールツーリール電気めっきに使用される場合、電流密度は5ASD〜70ASD、より好ましくは5ASD〜50ASD、さらにより好ましくは5ASD〜30ASDの範囲であり得る。ニッケル電気めっきが60ASD〜70ASDの電流密度で行われる場合、好ましくは、1つ以上のニッケルイオン供給源は、ニッケル電気めっき組成物中に、90g/L以上、より好ましくは90g/L〜150g/L、さらにより好ましくは90g/L〜125g/L、最も好ましくは90g/L〜100g/Lの量で含まれる。
【0054】
一般に、ニッケル金属層の厚さは、1μm以上の範囲であり得る。好ましくは、ニッケル層は、1μm〜100μm、より好ましくは1μm〜50μm、さらに好ましくは1μm〜10μmの厚さ範囲を有する。
【0055】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するために含まれているが、その範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0056】
L−アルギニンと1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルのコポリマーの合成
コンデンサと温度計を備える250mlの丸底3口フラスコ中に、100mmolのL−アルギニンと20mLのDI水とを添加し、約80℃における100mmolの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルの添加が後に続く。95℃に設定した油浴を用いて生じる混合物を約5時間加熱し、次いでさらなる6時間室温で攪拌し続けた。琥珀色−赤色の粘性反応生成物を容器に移し、すすぎ、DI水で調整する。反応生成物溶液をさらなる精製なしに使用する。
【実施例2】
【0057】
ハルセルめっき−ニッケルめっき層の光沢
以下の表に開示された成分を有する次の3種の水性ニッケル電気めっき浴を調製する。
【0058】
【表1】
【0059】
浴1及び比較例の浴1を、様々な電流密度またはめっき速度の較正を用いて、ハルセルの基部に沿って、1.5cm×10cmの領域を露出するようにパネルの中心にテープを貼った黄銅パネル及び定規と共に個別のハルセルに配置する。アノードは硫化ニッケル電極である。ニッケル電気めっきを各浴に対して2分間行う。浴を、全めっき時間の間、1.5L/mで空気攪拌によって撹拌する。浴のpHは4.7であり、浴の温度は約55℃である。電流は2.5Aである。直流電流を印加して、黄銅パネル上に0〜30ASDの連続電流密度範囲により付着されるニッケル層を生成する。めっき後、パネルをハルセルから取り出し、脱イオン水ですすぎ、風乾させる。
【0060】
両方の浴からのパネルは、電流密度範囲全体にわたって均一で光沢性に見える。パネルの光沢性を用いて、ASTM D523標準試験法を用いて定量的に評価する。測定は、BYK Gardnerから入手可能な光沢計であるmicro−TRI−glossで行う。測定は20°の反射角において、70GUよりも大きなグロスを有する表面に対してそのような角度を推奨するASTM D523に従って実施する。光沢性が30ASDで測定されるのは、それが、ニッケルめっき層が最も厚く、光沢性を示す最大の機会を提供するものであるためである。比較例の浴1からのニッケルめっき層の光沢性は1381グロス単位である。対照的に、浴1からのニッケルめっき層の光沢性は1432グロス単位であると測定する。結果は、アルギニンと1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルのコポリマーを含み、比較例の浴1と比較して有機成分を約94重量%減少させた浴1からの黄銅パネル上にめっきされるニッケル層が、より大きな光沢性の均一なニッケルめっき層を有することを示す。
【0061】
比較例の浴1と比較して減少したサッカリン酸ナトリウムのレベルを有し、翌1と実質的に同一のサッカリン酸ナトリウムのレベルである比較例の浴2を用いて、同一のニッケルめっきプロセスを繰り返す。0〜30ASDの連続的な電流密度範囲においてニッケル電気めっきを実施したのち、光沢性の均一性についてニッケルめっきパネルを観察する。30ASDにおいて、光沢性を1268グロス単位であると測定する。これは、浴1よりも約11.5%低下した光沢性レベルである。
【実施例3】
【0062】
ニッケルめっき層の延性
ニッケル電気めっき浴を以下の表に示されるように調製する。
【0063】
【表2】
【0064】
pH4.6の上記の浴2のニッケル電気めっき組成物と実施例2からの比較例の浴2から電気めっきされたニッケルめっき層について伸び試験を行い、ニッケルめっき層の延性を測定する。延性試験を、工業規格ASTM B489−85に実質的に従って実施する:金属上に電着及び自己触媒的に付着した金属コーティングの延性のための曲げ試験。
【0065】
複数の黄銅パネルを提供する。黄銅パネルと、1分間めっきして1.3μmの目的の厚さとする。電気めっきを約60℃、10ASDで行う。めっきされたパネルを、0.32cm〜1.3cmの範囲の様々な直径のマンドレルの上で180°曲げ、次いで、めっき層の亀裂について50X顕微鏡下で検査する。亀裂が観察されない試験された最小直径を使用して、めっき層の伸びの程度を計算する。比較例の浴2からめっきされるニッケルめっき層の平均伸びは3.5%であると見出した。浴2からのニッケルめっき層の平均伸びは5.2%であると見出した。浴2からのニッケルめっき層の伸びの1.7%増加は、本発明のコポリマーを含まない比較例の浴2と比べて、浴2からのめっき層の延性における49%の向上を表す。
【実施例4】
【0066】
L−アルギニンと1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルのコポリマーを含み、ホウ酸を含まないpH>4のニッケル電気めっき組成物による光沢性ニッケルめっき層の電気めっき
以下の表に開示される成分を有する、本発明のニッケル電気めっき組成物を調製する。
【0067】
【表3】
【0068】
組成物を、様々な電流密度またはめっき速度の較正を用いて、ハルセルの基部に沿って黄銅パネル及び定規を備えたハルセルに配置する。アノードは硫化ニッケル電極である。ニッケル電気めっきを5分間行う。組成物を、全めっき時間の間、ハルセルパドル撹拌機で撹拌する。組成物のpHは4であり、浴の温度は約60℃である。電流は3Aである。直流電流を印加して、黄銅パネル上に0.1〜12ASDの連続電流密度範囲により付着されるニッケル層を生成する。めっき後、パネルをハルセルから取り出し、脱イオン水ですすぎ、風乾させる。ニッケルめっき層は電流密度範囲全体にわたって光沢性で均一に見える。
【0069】
上述の手順を、浴のpHを4.3及び4.6であること以外、2回繰り返す。めっきの時間及びパラメータは同一のままである。ニッケルめっきの完了後、黄銅パネル上のニッケルめっき層は、電流密度範囲全体にわたって光沢性で均一に見える。
【実施例5】
【0070】
比較例のpH>4のニッケル電気めっき組成物からの電気めっきニッケル
以下の表に開示される成分を有するニッケル電気めっき組成物を調製する。
【0071】
【表4】
【0072】
組成物を、様々な電流密度またはめっき速度の較正を用いて、ハルセルの基部に沿って黄銅パネル及び定規を備えたハルセルに配置する。アノードは硫化ニッケル電極である。ニッケル電気めっきを5分間行う。組成物を、全めっき時間の間、ハルセルパドル撹拌機で撹拌する。組成物のpHは4であり、浴の温度は約60℃である。電流は3Aである。直流電流を印加して、黄銅パネル上に0.1〜12ASDの連続電流密度範囲により付着されるニッケル層を生成する。めっき後、パネルをハルセルから取り出し、脱イオン水ですすぎ、風乾させる。4ASD未満の電流密度において、ニッケルめっき層は光沢性で均一であるように見えるが、10ASDまでにおいて、光沢性の領域と混ざったくすんだめっき層の領域を示しはじめる。10ASDより後において、ニッケルめっき層は外観において実質的にくすんでいる。
【0073】
上述の手順を、浴のpHを4.3及び4.6であること以外、2回繰り返す。めっきの時間及びパラメータは同一のままである。ニッケルめっきが完了した後、黄銅パネル上のニッケルめっき層は、4ASDまでは光沢性で均一であるように見えるが、その後、より高い電流密度において、実質的にくすんで見えはじめる。
【実施例6】
【0074】
グアニジンと1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルの比較例のコポリマーの合成
コンデンサ、温度計、及びスターラーバーを備える100mL丸底3口フラスコ中で、約80℃で、塩酸グアニジン(9.56g、0.1mol)を20mLのイソプロパノールに懸濁する。1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(12.13g、0.060mol)を溶液に滴下し、そして1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルを含むバイアルを2mLのイソプロパノールですすぐ。加熱浴の温度を約95℃まで上昇させた。生じる混合物を4時間加熱し、室温で一晩攪拌し続けた。反応混合物を水で、保存のためのポリエチレン瓶へとすすぎ、50%の硫酸(10.8g)を加えて反応生成物を可溶化する。グアニジン部分のエポキシド部分に対するモル比は、モノマーのモル比に基づいて約1:0.6である。反応生成物(比較例のコポリマー1)溶液をさらなる精製なしに使用する。
【実施例7】
【0075】
比較例のコポリマー、1−(4−アミノブチル)グアニジンの合成
コンデンサ、温度計、及びスターラーバーを備える100mL丸底3口フラスコ中で、約80℃で、1−(4−アミノブチル)グアニジン二塩酸塩(9.56g、0.1mol)を20mLのイソプロパノールに懸濁する。1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(12.13g、0.060mol)を溶液に滴下し、そして1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルを含むバイアルを2mLのイソプロパノールですすぐ。加熱浴の温度を約95℃まで上昇させた。生じる混合物を4時間加熱し、室温で一晩攪拌し続けた。反応混合物を水で、保存のためのポリエチレン瓶へとすすぎ、50%の硫酸(10.8g)を加えて反応生成物を可溶化する。グアニジン部分のエポキシド部分に対するモル比は、モノマーのモル比に基づいて約1:0.6である。反応生成物(比較例のコポリマー2)溶液をさらなる精製なしに使用する。
【実施例8】
【0076】
比較例のグアニジンと1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルのコポリマーを含む比較例のニッケル電気めっき組成物によるニッケルめっき層の電気めっき
以下の比較例のニッケル電気めっき浴を以下の表5に開示されるように調製する。
【0077】
【表5】
【0078】
比較例の浴を、様々な電流密度またはめっき速度の較正を用いて、ハルセルの基部に沿って黄銅パネル及び定規を備えたハルセルに配置する。アノードは硫化ニッケル電極である。ニッケル電気めっきを5分間行う。比較例の浴を、全めっき時間の間、Kocourパドルを備えるハルセル撹拌機で撹拌する。浴のpH値は4.7の範囲であり、比較例の浴の温度は約60℃である。電流は2.5Aである。直流電流を印加して、黄銅パネル上に0.1〜10ASDの連続電流密度範囲により付着されるニッケル層を生成する。めっき後、パネルをハルセルから取り出し、脱イオン水ですすぎ、風乾させる。
【0079】
黄銅パネルを横切るニッケルめっき層は、0.1ASD〜3ASDの低電流密度における光沢性の領域から、3ASDを超える電流密度におけるマットまたはくすんだものまでの範囲である。低い電流密度においてさえ、25ppm及び100ppmの濃度で比較例のコポリマーを含む比較例の浴からめっきされたニッケルめっき層は、いくつかのマットな領域を示し、したがって、25ppm及び100ppmの濃度において、連続的な光沢性の均一な領域は存在しないように見える。25ppmにおいて5ppmよりもはるかに多くのマットな領域が存在し、マットな領域は2つの低濃度よりも100ppmの濃度でさらにより顕著である。マットな外観は、不十分なレベリング性能を示す。
【実施例9】
【0080】
比較例の1−(4−アミノブチル)グアニジンと1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルのコポリマーを含む比較例のニッケル電気めっき組成物によるニッケルめっき層の電気めっき
以下の比較例のニッケル電気めっき浴を以下の表6に示されるように調製する。
【0081】
【表6】
【0082】
比較例の浴を、様々な電流密度またはめっき速度の較正を用いて、ハルセルの基部に沿って黄銅パネル及び定規を備えたハルセルに配置する。アノードは硫化ニッケル電極である。ニッケル電気めっきを5分間行う。比較例の浴を、全めっき時間の間、Kocourパドルを備えるハルセル撹拌機で撹拌する。浴のpH値は4.7の範囲であり、比較例の浴の温度は約60℃である。電流は2.5Aである。直流電流を印加して、黄銅パネル上に0.1〜10ASDの連続電流密度範囲により付着されるニッケル層を生成する。めっき後、パネルをハルセルから取り出し、脱イオン水ですすぎ、風乾させる。
【0083】
ニッケルめっきの結果は、実施例8におけるものと実質的に同一である。黄銅パネルを横切るニッケルめっき層は、0.1ASD〜3ASDの低電流密度における光沢性の領域から、3ASDを超える電流密度におけるマットまたはくすんだものまでの範囲である。低電流密度において光沢性の領域が存在する一方で、連続的な均一な光沢性の領域は存在しない。全てのニッケルめっき黄銅パネルは、低電流密度においてさえマットなニッケルの領域を有する。実施例8におけるように、マットなニッケルは、より高い比較例の反応生成物の濃度においてより顕著になる。